(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】超音波放射ユニット
(51)【国際特許分類】
B06B 1/06 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
B06B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2022542690
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017427
【審査請求日】2022-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 信長
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥博
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-058883(JP,A)
【文献】特開2012-125743(JP,A)
【文献】特開平10-071365(JP,A)
【文献】特公昭56-018267(JP,B2)
【文献】実公昭55-030633(JP,Y2)
【文献】韓国登録特許第10-2282608(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を放射する放射面、及び、前記放射面の反対側に位置する非放射面を有し、前記非放射面にボルトが突設された振動板と、
前記非放射面におけるボルト突設領域に接して配置され、前記ボルトが挿通されるボルト挿通孔が中心部に設けられた前面側共振部材と、
前面側共振部材と別体で構成されるとともに前記ボルトの先端部に設けられ、前記前面側共振部材を前記振動板との間に挟み込んだ状態で前記ボルトに締付固定される後面側共振部材と、
前記非放射面において前記ボルト突設領域に隣接するボルト非突設領域に振動子前面板が接して配置されたボルト締めランジュバン型の超音波振動子と
を備え、
一体となって振動可能な前記前面側共振部材と前記後面側共振部材とによって共振子が構成され、
前記振動子前面板及び前記前面側共振部材は平面視矩形状をなし、
前記振動子前面板の側面の一部と前記前面側共振部材の側面の一部とが結合子を介して連結され
るとともに、
前記結合子を介して互いに連結された前記前面側共振部材及び前記振動子前面板が、前記振動子前面板及び前記前面側共振部材と前記振動板の前記非放射面との間に介された接着剤の接着力と、前記ボルトに対する前記後面側共振部材の締付固定力とにより、前記振動板の前記非放射面に対して接合固定されている
ことを特徴とする超音波放射ユニット。
【請求項2】
一対の前記共振子間に少なくとも1つの前記超音波振動子を配置した振動子ユニットを1つ以上備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波放射ユニット。
【請求項3】
複数の前記振動子ユニットが前記結合子を介して連結された連結型振動子ユニットを備えることを特徴とする請求項2に記載の超音波放射ユニット。
【請求項4】
前記振動子前面板と前記前面側共振部材と前記結合子とが一体形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波放射ユニット。
【請求項5】
前記超音波振動子は、縦振動モードで振動する縦振動型の振動子であり、前記共振子は、前記超音波振動子と同じ周波数及び縦振動モードで共振する共振子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波放射ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子から超音波を放射する超音波放射ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄液中に超音波を照射することにより、被洗浄物の洗浄(超音波洗浄)を行う超音波洗浄装置が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。超音波洗浄は、超音波による物理的作用と洗浄液による化学的作用との組み合わせにより、複雑な形状をなす被洗浄物の細部にまで作用して効率良く洗浄できるため、精密機械部品、光学部品、液晶ディスプレイ、半導体等の製造には不可欠なものとなっている。
【0003】
また、
図18に示されるように、超音波洗浄装置100は、輻射板とも呼ばれる振動板101を備えている。振動板101は、多くの場合、洗浄槽102の底部を兼ねており、厚さ3mm程度のステンレス板によって形成されている。さらに、振動板101の非放射面103には、複数本の超音波振動子104が接合されている。なお、振動板101において非放射面103の反対側に位置する面は、超音波の放射面105となっている。そして、例えば数10kHzの超音波を照射する超音波洗浄装置100では、洗浄液106中の超音波が引き起こすキャビテーションの強い衝撃波を利用して、被洗浄物107の洗浄が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-058883号公報(
図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、超音波振動子104としては、一般的に、平面視円形状の前面板を備えた円型振動子が用いられている。円型振動子は、振動板101に溶接したスタッドボルトに対して接着剤を併用したねじ結合が行われるため、振動板101の非放射面103に強力に接合することができる。しかし、複数の円型振動子を振動板101に接合する場合、隣接する円型振動子間に隙間が生じてしまう。その結果、キャビテーションに起因する振動板101のダメージ(エロージョン108)が隙間に発生したり、音圧のバラツキに起因する洗浄ムラが発生したりするといった問題がある。
【0006】
そこで、超音波振動子104として、平面視矩形状の前面板を備えた四角型振動子を用いることも考えられる。このようにすれば、振動板101への四角型振動子の密接配置が可能となるため、振動板101でのエロージョン108の発生を防止することができる。また、四角型振動子の密接配置により、振動板101において一様な振動分布が得られるため、均一な音圧分布を実現することができ、洗浄ムラを少なくすることができる。
【0007】
しかしながら、従来の四角型振動子では、スタッドボルトを用いたねじ結合を採用できず、接着剤のみを用いた接合となるため、接合強度が弱い。特に、振動板101に圧力がかかった状態(減圧状態または加圧状態)においては、接着層(接着剤)に応力が集中するため、接着層の部分で剥離する可能性がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、振動板に発生するエロージョンや洗浄ムラを低減させることができ、かつ、振動板に対する超音波振動子の接合強度を高めることができる超音波放射ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を放射する放射面、及び、前記放射面の反対側に位置する非放射面を有し、前記非放射面にボルトが突設された振動板と、前記非放射面におけるボルト突設領域に接して配置され、前記ボルトが挿通されるボルト挿通孔が中心部に設けられた前面側共振部材と、前面側共振部材と別体で構成されるとともに前記ボルトの先端部に設けられ、前記前面側共振部材を前記振動板との間に挟み込んだ状態で前記ボルトに締付固定される後面側共振部材と、前記非放射面において前記ボルト突設領域に隣接するボルト非突設領域に振動子前面板が接して配置されたボルト締めランジュバン型の超音波振動子とを備え、一体となって振動可能な前記前面側共振部材と前記後面側共振部材とによって共振子が構成され、前記振動子前面板及び前記前面側共振部材は平面視矩形状をなし、前記振動子前面板の側面の一部と前記前面側共振部材の側面の一部とが結合子を介して連結されるとともに、前記結合子を介して互いに連結された前記前面側共振部材及び前記振動子前面板が、前記振動子前面板及び前記前面側共振部材と前記振動板の前記非放射面との間に介された接着剤の接着力と、前記ボルトに対する前記後面側共振部材の締付固定力とにより、前記振動板の前記非放射面に対して接合固定されていることを特徴とする超音波放射ユニットをその要旨とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の発明によると、超音波振動子を構成する振動子前面板と共振子を構成する前面側共振部材とが平面視矩形状をなすため、超音波振動子及び共振子を振動板に密接配置することが可能となる。この場合、振動板において超音波振動子や共振子が存在しない領域が少なくなるため、振動板に発生するエロージョンを低減させることができる。また、超音波振動子及び共振子の密接配置により、振動板において一様な振動分布が得られるため、均一な音圧分布を実現することができ、洗浄ムラを少なくすることができる。また、振動子前面板及び前面側共振部材が、ボルトだけでなく、接着剤によっても振動板に接合される。このため、振動子前面板及び前面側共振部材をボルトのみを用いて振動板に接合する場合に比べて、振動子前面板及び前面側共振部材の接合強度を高くすることができる。
【0011】
しかも、振動子前面板と前面側共振部材とが結合子を介して連結され、前面側共振部材に、振動板の非放射面に突設されたボルトが挿通されるボルト挿通孔が設けられている。このため、ボルト挿通孔を挿通したボルトの先端部に後面側共振部材を螺着させれば、前面側共振部材が振動板に締付固定されるだけでなく、前面側共振部材に結合子を介して連結された振動子前面板(及び超音波振動子)も、振動板に締付固定される。その結果、振動板に対する超音波振動子の接合強度が高くなる。
【0012】
また、共振子は、超音波振動子の振動に伴って共振現象により振動する。しかも、共振子は、複数の部品からなる超音波振動子よりも単純構造であるため、一般的に製造コストが低い。よって、振動板に超音波振動子のみを多数個配置する代わりに、超音波振動子とは別に共振子を配置することにより、超音波放射ユニットを低コストで実現することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、一対の前記共振子間に少なくとも1つの前記超音波振動子を配置した振動子ユニットを1つ以上備えることをその要旨とする。
【0014】
従って、請求項2に記載の発明によると、共振子と超音波振動子とからなる振動子ユニットを多数連結することにより、超音波放射ユニットの大面積化が容易になる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、複数の前記振動子ユニットが前記結合子を介して連結された連結型振動子ユニットを備えることをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項3に記載の発明によると、連結型振動子ユニット(及び振動子ユニット)が、前面側共振部材を挿通したボルトに後面側共振部材を螺着させることによって振動板に固定される。このため、振動板に対する連結型振動子ユニット(及び振動子ユニット)の固定強度を高めることができ、ひいては、振動板に対する超音波振動子の接合強度をいっそう高めることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記振動子前面板と前記前面側共振部材と前記結合子とが一体形成されていることをその要旨とする。
【0020】
従って、請求項4に記載の発明によると、振動子前面板と前面側共振部材と結合子とが一体形成されるため、前面側共振部材を振動板に固定した際に、振動子前面板は、振動板に対して動かないように固定される。その結果、振動板に対して超音波振動子を確実に接合することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記超音波振動子は、縦振動モードで振動する縦振動型の振動子であり、前記共振子は、前記超音波振動子と同じ周波数及び縦振動モードで共振する共振子であることをその要旨とする。
【0022】
従って、請求項5に記載の発明によると、共振子が、振動板や結合子を介して超音波振動子に機械的に結合(スティフネス結合)され、超音波振動子と同じ周波数及び縦振動モードで共振する共振子であるため、共振子は、超音波振動子の振動に伴って共振現象により振動するようになる。その結果、共振子が過度の質量負荷となって振動板の振動変位を抑制するという問題が生じにくくなるため、超音波放射ユニットを確実に機能させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上詳述したように、請求項1~5に記載の発明によると、振動板に発生するエロージョンや洗浄ムラを低減させることができ、かつ、振動板に対する超音波振動子の接合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態における超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【
図3】振動子ユニットの配置態様を模式的に示す下面図。
【
図4】(a)は
図3のA-A線断面図、(b)は振動子ユニットを示す下面図。
【
図8】スタッドボルトが接合された振動板を示す断面図。
【
図9】振動板のスタッドボルトに振動子ユニットを外挿した後の状態を示す断面図。
【
図10】比較例の超音波放射ユニットを示す斜視図。
【
図11】音圧分布の解析に用いられる超音波洗浄装置を示す概略斜視図。
【
図12】他の実施形態における振動子ユニットを示す断面図。
【
図13】他の実施形態において、超音波振動子及び共振子の配置態様を模式的に示す下面図。
【
図14】他の実施形態における振動子ユニットを示す断面図。
【
図15】他の実施形態における超音波放射ユニットを示す斜視図。
【
図18】従来技術における超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を超音波洗浄装置に具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1~
図3に示されるように、超音波洗浄装置10は、洗浄液W1を貯留する金属製の洗浄槽11と超音波放射ユニット21とを備えている。なお、洗浄槽11の下端部には、複数のボルト孔11aが設けられている。また、超音波放射ユニット21は、振動板12と、3つの振動子ユニット22とを備えている。振動板12は、洗浄槽11の底部を構成しており、縦220mm×横220mm×厚さ2.5mmの略矩形板状の金属板(本実施形態ではステンレス板)である。即ち、本実施形態の超音波放射ユニット21は、洗浄槽11の下端部にパッキン1を介して振動板12を配置し、振動板12をボルト2とナット3とでねじ固定する振動板タイプの超音波放射ユニットである。また、振動板12は、超音波を放射する放射面13、及び、放射面13の反対側に位置する非放射面14を有している。さらに、振動板12の非放射面14には、複数のスタッドボルト15(
図4(a)参照)が突設されている。また、振動板12の外周部には、複数の固定用孔16が設けられている。そして、振動板12の上に、パッキン1と洗浄槽11とを順番に配置した後、各ボルト孔11a、パッキン1及び各固定用孔16に対してボルト2を上方から挿通し、挿通した各ボルト2の先端部(下端部)にナット3を螺着させる。その結果、超音波放射ユニット21の振動板12の上にパッキン1を介して洗浄槽11が接合される。
【0027】
図3,
図4に示されるように、各振動子ユニット22は、振動板12に接合される複数(本実施形態では2本)の超音波振動子31と、同じく振動板12に接合される複数(本実施形態では3本)の共振子51とを備えている。なお、本実施形態の振動子ユニット22では、一対の共振子51間に1本の超音波振動子31が配置されている。また、本実施形態の超音波洗浄装置10は、各超音波振動子31から洗浄槽11内の洗浄液W1に超音波を照射することにより、洗浄槽11内に収容された被洗浄物17(
図1参照)の表面を洗浄する装置である。
【0028】
図1~
図5に示されるように、各超音波振動子31は、超音波を照射するための振動子である。各超音波振動子31は、振動子前面板32、振動子裏打板33、駆動部41及びボルト34によって構成されている。振動子前面板32は、アルミニウム合金を用いて形成されており、超音波振動子31における前端側に配置されている。また、振動子前面板32は、平面視正方形状をなしており、一辺の長さが45mmに設定されている。そして、振動子前面板32の放射面32bは、エポキシ樹脂系等の接着剤18を介して振動板12の非放射面14に接合されている。
【0029】
また、振動子裏打板33は、アルミニウム合金を用いて形成されており、超音波振動子31における後端側に配置されている。さらに、駆動部41は、2枚の圧電素子42と2枚の電極板43とを交互に積層してなり、振動子前面板32と振動子裏打板33との間に挟持されている。圧電素子42は円環状であり、電極板43は一部にタブ部を有する略円環状であることから、駆動部41は、自身の中心を貫通するボルト挿通孔44を有したものとなっている。各圧電素子42は、厚さ方向に分極している。
【0030】
なお、本実施形態の圧電素子42は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のようなPb(鉛)を含むセラミックス圧電材料を用いて形成されている。また、圧電素子42は、無鉛のセラミックス圧電材料、具体的には、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて形成されていてもよい。
【0031】
図4,
図5に示されるように、振動子前面板32の中心部には、雌ねじ穴35が形成されている。なお、雌ねじ穴35はボルト挿通孔44に連通している。一方、振動子裏打板33の中心部には、貫通孔36が形成されている。貫通孔36は、ボルト挿通孔44に連通するとともに後面37にて開口している。なお、外周面に雄ねじが形成されたボルト34は、振動子裏打板33側から挿入されており、その先端は貫通孔36及びボルト挿通孔44を介して振動子前面板32側の雌ねじ穴35に到っている。また、ボルト34は、雌ねじ穴35に螺合している。そして、振動子裏打板33を挿通したボルト34の突出部分に対してナット38を螺着させることにより、振動子前面板32、駆動部41及び振動子裏打板33が互いに締付固定されて一体化される。なお、ボルト34及びナット38を形成する金属材料は任意であるが、ここではステンレスが用いられている。
【0032】
図1~
図5に示されるように、本実施形態の各超音波振動子31は、軸方向の縦振動成分がλ/2(λ:縦振動波長)で共振する縦1次振動モード(単体での共振周波数28kHz)を有する縦振動型のボルト締めランジュバン型振動子である。各超音波振動子31は、互いに同じ周波数で振動する振動子である。
【0033】
また、
図1に示されるように、各超音波振動子31には超音波発振器19が接続されている。超音波発振器19は、各超音波振動子31を連続的に振動させる高周波電力を供給する。この高周波電力によって各超音波振動子31が駆動され、各超音波振動子31により、25kHz(超音波振動子31を振動板12に接合した状態での共振周波数)の超音波が洗浄槽11内の洗浄液W1に照射される。なお、本実施形態の超音波の出力は250Wである。
【0034】
図1~
図4,
図6に示されるように、本実施形態の各共振子51は、超音波振動子31と同じ周波数(単体での共振周波数28kHz)及び縦振動モードで共振する共振子である。各共振子51は、前面側共振部材52と後面側共振部材53とによって構成されている。前面側共振部材52は、超音波を放射する放射体としての機能を有している。前面側共振部材52は、アルミニウム合金を用いて形成されており、共振子51における前端側に配置されている。また、前面側共振部材52は、45mm×25mmの平面視矩形状をなしている。よって、前面側共振部材52の一辺の長さの最大値は、超音波振動子31の振動子前面板32の一辺の長さ(45mm)と等しくなる。さらに、前面側共振部材52には、スタッドボルト15が挿通されるボルト挿通孔54が設けられている。そして、前面側共振部材52は、接着剤18を介して振動板12の非放射面14に接合されている。
【0035】
図1,
図2,
図4,
図6に示されるように、後面側共振部材53は、アルミニウム合金を用いて形成されており、共振子51における後端側に配置されている。また、後面側共振部材53は、外径25mmの平面視円形状をなしており、ボルト挿通孔54を挿通したスタッドボルト15の先端部に設けられている。よって、この後面側共振部材53をスタッドボルト15の先端部に螺着させることにより、前面側共振部材52が振動板12との間に挟み込まれた状態で締付固定される。つまり、本実施形態の後面側共振部材53は、ナットとしての機能を有している。
【0036】
図3,
図4に示されるように、振動子前面板32の側面32aの一部及び前面側共振部材52の側面52aの一部は、結合子61を介して連結されている。結合子61とは、隣接する周囲の部材(振動子前面板32や前面側共振部材52)よりも肉薄に形成された連結部分のことを指している。具体的に言うと、結合子61は、振動子前面板32の側面32aの前端部(
図4(a)では上端部)に連結されるとともに、前面側共振部材52の側面52aの前端部(
図4(a)では上端部)に連結されている。そして、結合子61は、接着剤18を介して振動板12の非放射面14に接合されている。また、本実施形態の振動子ユニット22では、2つの振動子前面板32と3つの前面側共振部材52と4つの結合子61とが一体形成されている。従って、結合子61は、振動子前面板32及び前面板共振部材52と同じアルミニウム合金を用いて形成されている。
【0037】
次に、本実施形態の超音波洗浄装置10の動作について説明する。
【0038】
まず、超音波洗浄装置10を駆動して、超音波発振器19から複数の超音波振動子31に高周波電力を供給し、各超音波振動子31を連続的に振動させる。その結果、超音波振動子31から洗浄液W1中に超音波が照射される。このとき、超音波の照射に伴って洗浄液W1中にキャビテーションが発生するが、そのキャビテーションの破裂の衝撃によって被洗浄物17が洗浄される。
【0039】
次に、超音波放射ユニット21の組立方法を説明する。
【0040】
まず、アルミ合金ブロックを加工(溝加工、端面加工、ねじ加工など)した後、端面を研磨することにより、振動子前面板32、前面側共振部材52及び結合子61からなる前面板71を得る(
図7参照)。次に、振動子前面板32に設けられた雌ねじ穴35に対してボルト34を螺着する。さらに、ボルト34に対して、2枚の電極板43と2枚の圧電素子42とを交互に取り付けた後、振動子裏打板33を取り付ける。そして、振動子裏打板33を挿通したボルト34の突出部分に対してナット38を螺着させることにより、振動子前面板32、電極板43、圧電素子42及び振動子裏打板33が互いに締付固定されて超音波振動子31となる。この時点で、超音波振動子31が形成された前面板71からなる振動子ユニット22が完成する(
図7参照)。
【0041】
また、
図8に示されるように、振動板12の非放射面14に対して複数のスタッドボルト15を溶接した後、非放射面14に対して接着剤18を塗布する。そして、
図9に示されるように、振動板12のスタッドボルト15に対して複数(本実施形態では3つ)の振動子ユニット22を外挿する。さらに、前面板共振部材52を挿通したスタッドボルト15の突出部分(先端部)に対して後面側共振部材53を螺着させる(
図3参照)。これにより、超音波放射ユニット21が完成する。
【0042】
次に、超音波放射ユニットの評価方法及びその結果を説明する。
【0043】
まず、測定用サンプルを次のように準備した。本実施形態の超音波放射ユニット21(
図2参照)と同じ超音波放射ユニットを準備し、これを実施例とした。また、本実施形態の超音波放射ユニット21から共振子51を省略し、かつ超音波振動子31を、平面視円形状の振動子前面板を備えた超音波振動子81(円型振動子)に変更した超音波放射ユニット82を準備し、これを比較例(
図10参照)とした。
【0044】
次に、従来周知の有限要素法解析により、各測定用サンプル(実施例、比較例)の超音波放射ユニットが有する振動板において、水負荷状態での振動分布を解析した。
【0045】
その結果、比較例では、振動板の特定領域(超音波振動子81の裏側部分)の振動分布にムラが生じることが確認された。一方、実施例では、特定領域の振動分布にムラが生じないこと、換言すると、振動分布が均一になることが確認された。
【0046】
また、各測定用サンプル(実施例、比較例)の超音波放射ユニットを用いて超音波洗浄装置91(
図11参照)を製作し、製作した超音波洗浄装置91を用いて被洗浄物92の洗浄を行った。具体的に言うと、まず、洗浄槽93内に洗浄液94を貯留した後、洗浄槽93内に被洗浄物92を収容した。ここでは、被洗浄物92として、ステンレス板を用いた。次に、超音波放射ユニットの超音波振動子95から洗浄液94に対して周波数25kHz、出力250Wの超音波を照射し、洗浄液94中の被洗浄物92を洗浄した。そして、各測定用サンプルに対して、被洗浄物92の表面の音圧分布を解析した。
【0047】
その結果、比較例では、被洗浄物92の表面の音圧分布にムラが生じることが確認された。一方、実施例では、被洗浄物92の表面の音圧分布にムラが生じないこと、換言すると、音圧分布が均一になることが確認された。
【0048】
さらに、各測定用サンプル(実施例、比較例)において、超音波洗浄装置91の洗浄槽93内を100kPaだけ減圧した。そして、従来周知の有限要素法解析により、超音波放射ユニットが有する振動板の変形量を解析した。また、超音波振動子や共振子を振動板に接合するための接着剤にかかる応力も解析した。
【0049】
その結果、比較例では、洗浄槽93内を減圧した際に、振動板の最大変位(変形量の最大値)が約320μmに達することが確認された。一方、実施例では、洗浄槽93内を減圧したとしても、振動板の最大変位は約40μmに過ぎないことが確認された。即ち、実施例の変形量は、比較例の変形量の約8分の1となることが確認された。
【0050】
また、比較例では、洗浄槽93内を減圧した際に、接着剤にかかる最大応力が約26MPaに達することが確認された。この場合、接着剤の許容応力(23MPa)を超えているため、超音波振動子が接着剤の部分で剥離してしまうことが確認された。一方、実施例では、洗浄槽93内を減圧したとしても、接着剤にかかる最大応力は約11MPaに過ぎないことが確認された。この場合、接着剤の許容応力の約半分の応力であるため、接着剤の部分での剥離は生じないことが確認された。
【0051】
以上のことから、振動板に対して、超音波振動子及び共振子の両方を備えた振動子ユニットを接合すれば、振動板の放射面の振動分布が均一で曲げ振動成分がないため、エロージョン108(
図18参照)が発生しにくく、振動板が長寿命であることが証明された。また、被洗浄物92の表面の音圧分布が均一になるため、均一な洗浄が可能であることも証明された。さらに、超音波振動子自身が“共振型の補強板”として機能するため、減圧に対して耐圧性があり、減圧洗浄用の超音波振動子として最適であることも証明された。
【0052】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)本実施形態の超音波放射ユニット21では、超音波振動子31を構成する振動子前面板32と共振子51を構成する前面側共振部材52とが平面視矩形状をなすため、超音波振動子31及び共振子51を振動板12に密接配置することが可能となる。この場合、振動板12において超音波振動子31や共振子51が存在しない領域が少なくなるため、振動板12に発生するエロージョンを低減させることができる。ゆえに、エロージョンに起因する振動板12の摩耗が低減されるため、振動板12の長寿命化を図ることができる。また、超音波振動子31及び共振子51の密接配置により、振動板12において一様な振動分布が得られるため、均一な音圧分布を実現することができ、洗浄ムラを少なくすることができる。
【0054】
しかも、振動子前面板32と前面側共振部材52とが結合子61を介して連結され、前面側共振部材52に、振動板12の非放射面14に突設されたスタッドボルト15が挿通されるボルト挿通孔54が設けられている。このため、ボルト挿通孔54を挿通したスタッドボルト15に後面側共振部材53を螺着させれば、前面側共振部材52が振動板12に締付固定されるだけでなく、前面側共振部材52に結合子61を介して連結された振動子前面板32(及び超音波振動子31)も、振動板12に締付固定される。因みに、スタッドボルト15に後面側共振部材53を螺着させることによる接合強度は、469MPaであり、接着剤18の接合強度(23MPa)の約20倍であるため、振動板12に対する超音波振動子31の接合強度が大幅に高くなる。
【0055】
(2)本実施形態では、振動板12に対する超音波振動子31の接合強度が高くなることにより、超音波振動子31が接着剤18の部分で剥離しにくくなる。このため、振動板12の振動の影響を受けやすい超音波振動子、具体的には、一様な縦振動を行う断面寸法がλ/4(λ:縦振動波長)を超えた正方形状の放射面32bを有する超音波振動子を、本実施形態の超音波振動子31として採用することができる。この超音波振動子31は、放射面32bが比較的広いため、振動板12の非放射面14に取り付けられる超音波振動子31の本数(即ち、超音波放射ユニット21を構成する超音波振動子31の本数)の低減が可能である。よって、超音波放射ユニット21の製作コストを低減することができる。
【0056】
(3)本実施形態の共振子51は、超音波振動子31と同じ周波数及び縦振動モードで共振する共振子であるため、超音波振動子31の振動に伴って共振現象により振動する。しかも、共振子51は、アルミニウム合金を加工するだけで得られる金属加工部品であるため、複数の部品からなる超音波振動子31よりも製造コストが低い。よって、振動板12に超音波振動子31のみを多数個配置する代わりに、超音波振動子31とは別に共振子51を配置することにより、超音波放射ユニット21を低コストで実現することができる。
【0057】
(4)本実施形態では、振動板12の非放射面14から見た共振子51の機械インピーダンスが、共振周波数において十分小さくなるため、振動板12の負荷にはならない。このため、共振現象を利用した効率の良いねじ結合(スタッドボルト15と後面側共振部材53との結合)を実現することができる。
【0058】
(5)本実施形態の結合子61は、接着剤18を介して振動板12の非放射面14に接合されている。このため、結合子61は、金属弾性体であり、スティフネス結合により超音波振動子31から共振子51に機械振動を伝送する機能を有しているが、超音波を放射する機能も兼ねている。よって、本実施形態の超音波放射ユニット21では、超音波振動子31、共振子51及び結合子61から一様に超音波を放射するため、従来の超音波振動子81(
図10参照)よりも広い放射面積を実現することができる。
【0059】
(6)本実施形態では、振動板12の非放射面14に接着剤18を塗布した状態(
図8参照)で、振動板12に溶接されたスタッドボルト15に対して振動子ユニット22を外挿するだけで(
図9参照)、2つの超音波振動子31と3つの前面側共振部材52(共振子51)とを同時に接着することができる。従って、超音波放射ユニット21の組立時の作業性を向上させることができる。
【0060】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0061】
・上記実施形態の超音波放射ユニット21には、3つの振動子ユニット22が設けられていたが、振動子ユニット22は、4つ以上であってもよいし、2つ以下であってもよいし、設けられていなくてもよい。
【0062】
・上記実施形態の振動子ユニット22は、2本の超音波振動子31と3本の共振子51とを備えていた。しかし、振動子ユニット22は、3本以上の超音波振動子31を備えていてもよいし、1本の超音波振動子31を備えていてもよい。また、振動子ユニット22は、4本以上の共振子51を備えていてもよいし、2本の共振子51を備えていてもよい。
【0063】
・上記実施形態の振動子ユニット22は、一対の共振子51間に1本の超音波振動子31を配置した構造を有していた。しかし、例えば
図12に示されるように、振動子ユニット111は、一対の共振子112間に複数本(ここでは2本)の超音波振動子113を配置した構造を有していてもよい。
【0064】
・上記実施形態において、超音波放射ユニットにおける超音波振動子及び共振子の配置態様を変更してもよい。例えば、
図13の超音波放射ユニット121に示されるように、3本の超音波振動子122及び2本の共振子123を備える振動子ユニット124と、2本の超音波振動子122及び3本の共振子123を備える振動子ユニット125とを交互に配置してもよい。この場合、超音波振動子122及び共振子123は、それぞれ千鳥状に配置される。
【0065】
・
図14に示されるように、共振子131を構成する後面側共振部材132の外径A1を、共振子131を構成する前面側共振部材133の幅A2より大きくしてもよい。このようにすれば、共振子131に発生する曲げ振動を低減することができる。
【0066】
・上記実施形態では、結合子61が、振動子前面板32及び前面側共振部材52に一体形成されていたが、結合子61は、振動子前面板32及び前面側共振部材52とは別体に形成されたものであってもよい。
【0067】
・上記実施形態では、結合子61が、振動子前面板32の側面32aの前端部(
図4(a)では上端部)や、前面側共振部材52の側面52aの前端部(
図4(a)では上端部)に連結されていた。しかし、結合子61は、側面32aの後端部(
図4(a)では下端部)や側面52aの後端部(
図4(a)では下端部)に連結されていてもよいし、側面32a,52aの中央部に連結されていてもよい。
【0068】
・
図15~
図17に示されるように、複数の振動子ユニット22を結合子62を介して連結して一体化することにより、連結型振動子ユニット141を構成してもよい。ここで、結合子62とは、隣接する周囲の部材(振動子前面板32や前面側共振部材52)よりも肉薄に形成された連結部分のことを指している。具体的に言うと、
図16に示されるように、結合子62は、隣接する振動子前面板32(超音波振動子31)の側面32aの前端部(
図16では上端部)同士を連結している。これにより、隣接する超音波振動子31同士が結合子62を介して互いに連結される。また、
図17に示されるように、結合子62は、隣接する前面側共振部材52(共振子51)の側面52aの前端部(
図17では上端部)同士を連結している。これにより、隣接する共振子51同士が結合子62を介して互いに連結される。そして、結合子62は、接着剤18を介して振動板12の非放射面14に接合される。また、
図15~
図17では、結合子62に対して結合子61が一体形成されている。従って、結合子62は、振動子前面板32、前面板共振部材52及び結合子61と同じアルミニウム合金を用いて形成される。なお、振動子ユニット22を3列接合した上記実施形態の超音波放射ユニット21のほうが、コスト・製作上において、連結型振動子ユニット141よりも実用的であると考えられる。
【0069】
・上記実施形態では、頭部を有しないボルトであるスタッドボルト15が、振動板12の非放射面14に突設されるボルトとして用いられていた。しかし、六角ボルト、六角穴付ボルト、蝶ボルト等の頭部を有するボルトを、非放射面14に突設されるボルトとして用いてもよい。
【0070】
・上記実施形態の超音波洗浄装置10は、洗浄槽11の底部にパッキン1を介して超音波放射ユニット21を取り付け、ボルト2とナット3とによって固定したタイプであったが、これに限定される訳ではない。例えば、超音波洗浄装置は、洗浄槽の底板の非放射面に接着剤を塗布した後、非放射面に突設されたスタッドボルトに対して振動子ユニット22を外挿し、振動子ユニット22を挿通したスタッドボルトの突出部分に後面側共振部材53を螺着させることにより、振動子ユニット22を接合したタイプであってもよい。また、洗浄槽11の洗浄液W1中に投げ込んで使用する投げ込みタイプの超音波放射ユニットを用いて超音波洗浄装置を構成してもよい。この場合、投げ込みタイプの超音波放射ユニットは、水密構造のケースの内側の非放射面に接着剤を塗布するとともにスタッドボルトを突設し、スタッドボルトに対して振動子ユニット22を外挿した後、スタッドボルトに後面側共振部材53を螺着させることにより、振動子ユニット22を接合した構造を有している。
【0071】
・上記実施形態の超音波放射ユニット21は、超音波を利用して洗浄を行う超音波洗浄装置10に適用されていたが、洗浄以外に、抽出、乳化、分散、混合、攪拌、破砕、霧化等の処理を行う装置に適用してもよい。具体的には、例えば、超音波放射ユニットを超音波乳化装置に適用した場合、エマルジョンをナノ粒子まで高効率に微細化することができ、長期間安定化、界面活性剤の削減などの効果を期待することができる。また、超音波放射ユニットを超音波分散装置に適用した場合には、ナノ粒子(金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ、セラミックスナノ粒子、磁性ナノ粒子など)を高効率に分散化することができる。さらに、超音波放射ユニットを、化学的作用を利用した超音波処理装置として具体化してもよい。この場合、キャビテーションを均一かつ広範囲で効率良く発生させることができるため、気泡圧壊時の高温高圧場により生じるOHラジカル等のラジカル生成量を増大させることが可能となる。従って、ラジカル種に起因するソノケミカルの反応効率を高めることができ、有害物質の分解無害化、殺菌、高分子重合などの処理を効率良く行うことができる。
【0072】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0073】
(1)請求項1乃至6のいずれか1項において、隣接する前記振動子前面板同士が前記結合子を介して連結されていることを特徴とする超音波放射ユニット。
【0074】
(2)請求項1乃至6のいずれか1項において、隣接する前記前面側共振部材同士が前記結合子を介して連結されていることを特徴とする超音波放射ユニット。
【符号の説明】
【0075】
12…振動板
13…放射面
14…非放射面
15…ボルトとしてのスタッドボルト
18…接着剤
21,121…超音波放射ユニット
22,111,124,125…振動子ユニット
31,113,122…超音波振動子
32…振動子前面板
32a…振動子前面板の側面
51,112,123,131…共振子
52,133…前面側共振部材
52a…前面側共振部材の側面
53,132…後面側共振部材
54…ボルト挿通孔
61,62…結合子
141…連結型振動子ユニット
【要約】
振動板に発生するエロージョンや洗浄ムラを低減でき、振動板に対する超音波振動子の接合強度を向上できる超音波放射ユニットを提供する。本発明の超音波放射ユニットは、振動板12、超音波振動子31、前面側共振部材52及び後面側共振部材53を備える。振動板12の非放射面14にはボルト15が突設される。超音波振動子31の振動子前面板32は非放射面14に接合される。前面側共振部材52は、非放射面14に接合され、ボルト15が挿通される。後面側共振部材53は、ボルト15の先端部に設けられ、前面側共振部材52を締付固定する。前面側共振部材52と後面側共振部材53とによって共振子51が構成される。振動子前面板32の側面32aの一部と前面側共振部材52の側面52aの一部とが結合子61を介して連結される。選択図:
図4