(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】測量システムおよび測量方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
G01C15/00 104B
G01C15/00 103A
(21)【出願番号】P 2018117160
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】湊 康裕
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲敬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 靖彦
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-183587(JP,A)
【文献】特開2014-167413(JP,A)
【文献】特開2015-087319(JP,A)
【文献】特開2009-294128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事基準点を設置するための測量システムであって、
遠隔操作可能な飛行体と、
前記飛行体に設けられる再帰反射体と、
前記再帰反射体の位置を測定する第1の測定手段と、
目標までの距離および方向を測定する第2の測定手段と、
前記第1の測定手段により測定された前記再帰反射体の位置を仮基準点の位置とし、前記仮基準点の位置と、前記第2の測定手段により目標を前記再帰反射体として測定した第1の測定結果とを用いて前記第2の測定手段の位置を算出し、算出した前記第2の測定手段の位置と前記第2の測定手段により目標を工事基準点として測定した第2の測定結果とを用いて前記工事基準点の位置を算出する演算手段とを含
み、
前記第1の測定手段は、
既知点に配置され、前記再帰反射体までの距離および方向を測定する手段、または、
前記飛行体を前記工事基準点の真上に配置させるために、前記工事基準点から鉛直方向に向けて光を照射する手段と、前記飛行体に設けられ、自身の位置情報と時刻情報とを発信するシステムから該位置情報と時刻情報とを受信する手段と、前記飛行体を前記工事基準点の真上に配置させたときに受信した前記位置情報と前記時刻情報とに基づき、前記再帰反射体の位置を算出する手段の3つの手段
を含む、測量システム。
【請求項2】
前記飛行体に設けられる撮像手段と、前記撮像手段により撮像された画像を表示する表示手段とを含む、請求項
1に記載の測量システム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記第1の測定手段により前記再帰反射体を測定した時刻と、前記第2の測定手段により前記再帰反射体を測定した時刻との差が、所定の時間内である場合の前記仮基準点の位置および前記第1の測定結果のみを用いて前記第2の測定手段の位置を算出する、請求項1
または2に記載の測量システム。
【請求項4】
前記演算手段は、後方公会法または相似変換を使用して、前記第2の測定手段の位置を算出する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の測量システム。
【請求項5】
前記演算手段は、算出した前記第2の測定手段の位置と、
前記第2の測定手段により目標を前記再帰反射体として測定した第3の測定結果とを用いて、前記再帰反射体の位置を算出し、前記第1の測定手段により測定された前記再帰反射体の位置と、算出した前記再帰反射体の位置の距離を較差
として算出し、算出した前記較差に応じて、前記第2の測定手段の位置として採用するか否かを判断する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の測量システム。
【請求項6】
前記演算手段により採用しないと判断された場合、前記第1の測定手段および前記第2の測定手段により再測定を行う、請求項
5に記載の測量システム。
【請求項7】
工事基準点を設置する方法であって、
遠隔操作可能な飛行体に設けられる再帰反射体の位置を第1の測定手段により測定する工程と、
前記再帰反射体までの距離および方向を第2の測定手段により測定する工程と、
前記第1の測定手段により測定された前記再帰反射体の位置を仮基準点の位置とし、前記仮基準点の位置と、前記第2の測定手段により目標を前記再帰反射体として測定した第1の測定結果とを用いて、演算手段により前記第2の測定手段の位置を算出する工程と、
前記工事基準点までの距離および方向を前記第2の測定手段により測定する工程と、
算出された前記第2の測定手段の位置と、前記第2の測定手段により前記工事基準点を測定した第2の測定結果とを用いて、前記演算手段により前記工事基準点の位置を算出する工程とを含
み、
前記第1の測定手段により測定する工程は、
既知点に配置され、前記再帰反射体までの距離および方向を測定する工程、または、
前記飛行体を前記工事基準点の真上に配置させるために、前記工事基準点から鉛直方向に向けて光を照射する工程と、前記飛行体に設けられ、自身の位置情報と時刻情報とを発信するシステムから該位置情報と時刻情報とを受信する工程と、前記飛行体を前記工事基準点の真上に配置させたときに受信した前記位置情報と前記時刻情報とに基づき、前記再帰反射体の位置を算出する工程の3つの工程
を含む、測量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事基準点(測量標)を設置するための測量システムおよび測量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発進立坑等からのトンネルの施工においては、工事を着手する前に測量を行い、トンネルの発進立坑坑口付近にトンネルの中心線や施工の基準となる測量標(工事基準点で、仮ベンチマーク、仮BMやKBM等とも称される。以下、工事基準点と称す。)が設置される。工事基準点は、工事測量の基準とするために設置される測量標で、数値的な位置情報(三次元の位置座標)をもつものである。新しく設置される工事基準点の位置や標高を定める測量は、既に位置座標が与えられた基準点(既知点)に基づき、全球測位衛星システム(GNSS)やトータルステーション(TS)等を用いて実施される。
【0003】
基準点測量ではないが、空中写真測量の技術として、小型飛行体にカメラを設け、写真撮影および測量計算により地表の各点の位置座標を計算する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、小型飛行体に再帰反射体を設け、既知点に設置したTSにより再帰反射体を追尾し、再帰反射体の位置座標を測定することで、衛星からの電波を受信できない環境でも高精度に空中写真撮影位置を特定し、空中写真測量の精度向上・標定点数の削減を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術では、再帰反射体の位置座標を測定するが、測定した位置座標を航空写真の対地標定に使用するのみであるため、工事基準点を設置するために再帰反射体の位置座標を使用することを全く想定していない。
【0006】
TSにより直接視準ができない立坑内やオーバーハングした(岩盤の面が垂直を超えて傾斜している)崖・断崖等がある場所に工事基準点を設置する場合、迂回することにより設置することができる。しかしながら、これでは、多大な労力・時間を要するといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工事基準点を設置するための測量システムであって、
遠隔操作可能な飛行体と、
飛行体に設けられる再帰反射体と、
再帰反射体の位置を測定する第1の測定手段と、
目標までの距離および方向を測定する第2の測定手段と、
第1の測定手段により測定された再帰反射体の位置を仮基準点の位置とし、該仮基準点の位置と、第2の測定手段により目標を再帰反射体として測定した第1の測定結果とを用いて第2の測定手段の位置を算出し、算出した第2の測定手段の位置と第2の測定手段により目標を工事基準点として測定した第2の測定結果とを用いて工事基準点の位置を算出する演算手段とを含む、測量システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、直接視準ができない立坑内やオーバーハングした崖・断崖等がある場所に、迂回しなくても、効率的に工事基準点を設置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来のTSにより工事基準点を設置する例を示した図。
【
図2】従来のTSにより工事基準点を設置することが難しい例を示した図。
【
図4】飛行体に搭載される再帰反射体(プリズム)およびカメラの配置について説明する図。
【
図5】飛行体搭載カメラで撮像された画像の一例を示した図。
【
図6】飛行体を静止した状態にさせるための方法を説明する図。
【
図7】測量システムに用いられる飛行体のハードウェア構成の一例を示した図。
【
図8】
図3に示す測量システムを使用した測量の概念図。
【
図9】
図3に示す測量システムを用いた工事基準点の設置作業の流れを示したフローチャート。
【
図10】測定終了時刻の差によるデータ採否について説明する図。
【
図11】TSによる後方交会法による未知点の位置座標の計算の流れを示したフローチャート。
【
図12】未知点の位置座標を計算する方法の概念図。
【
図16】
図11に示す測量システムを用いた工事基準点の設置作業の流れを示したフローチャート。
【
図17】仮ベンチマークを用いた未知点の位置座標を決定する方法の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、従来のTSにより工事基準点を設置する例を示した図である。TSは、目標までの距離および方向を測定する装置で、距離を測定する光波測距儀および方向として角度を測定するセオドライトを備える。目標には、測定用の再帰反射体が設置される。再帰反射体としては、例えばプリズムが用いられる。
【0011】
光波測距儀は、プリズムに向けて発振した光を照射し、プリズムで反射した光を検知するまでに発振した回数から距離を算出する。セオドライトは、望遠鏡と、角度を測定するエンコーダとを含み、プリズムに向けて光を照射し、プリズムで反射した光が望遠鏡の中心に位置するように、望遠鏡を鉛直方向および水平方向へ回転させ、中心に位置したときの鉛直方向および水平方向の角度をエンコーダで測定する。
【0012】
図1(a)は、既知点に設置したTS10により、直接視準できる立坑11内の位置に工事基準点12を設置する例を示している。視準とは、望遠鏡の軸の方向を目標に合わせることをいい、直接視準できるとは、立坑11内の工事基準点12がTS10の望遠鏡で直接見える位置にあることをいう。TS10が設置される既知点の位置座標は、その点にTS10を設置し、TS10により基準点1、2を測量することにより決定されている。
【0013】
工事基準点12の位置座標は、工事基準点12にプリズムを配置し、既知点に設置したTS10から光を照射し、プリズムで反射した光を検知し、距離およびその方向を測定することで決定される。
【0014】
図1(b)は、既知点に設置したTS10により、直接視準できない立坑11内の位置に工事基準点12を設置する例を示している。この例では、立坑11上に、クレーンを使用して、また、仮設橋梁・片持架設・立坑内の足場活用等により、仮の工事基準点(仮ベンチマーク)13を設置している。
【0015】
鉛直を調べる装置として下げ振りを使用し、工事基準点12の真上であって、TS10により直接視準できる位置に仮ベンチマーク13を設置する。そして、TS10により上記と同様の方法で仮ベンチマーク13の位置座標を測定する。工事基準点12の水平方向の座標は、仮ベンチマーク13の水平方向の座標と同一である。
【0016】
工事基準点12の鉛直方向の座標、すなわち標高の座標を算出するために、スケールが使用される。仮ベンチマーク13から工事基準点12までの長さをスケール・光波測距儀等により測定し、仮ベンチマーク13の標高の座標から測定した長さを差し引くことで、工事基準点12の標高の座標を求めることができる。
【0017】
以上のようにして、立坑11内に工事基準点12を設置することができるが、立坑11が大口径・大深度の場合や、
図2に示すようなオーバーハングした崖・断崖等14がある場所であって、既知点に設置したTS10から工事基準点12を直接視準できない場合、仮ベンチマーク13を設置することが困難であるため、工事基準点12を設置することは難しい。
【0018】
立坑11が大口径・大深度の穴の径が大きい場合、工事基準点の設置のための仮設橋梁・片持架設・立坑内の足場活用等に多大な労力・負担が発生する場合がある。オーバーハングした崖・断崖等14がある場所も、片持架設の設置が難しい場合、立坑11が大口径の穴の径が大きい場合と同様、工事基準点の設置のための仮設橋梁・片持架設・立坑内の足場活用等に多大な労力・負担が発生する場合がある。
【0019】
そこで、本発明では、小型の飛行体に遠隔操作可能な再帰反射体を取り付けて、飛行体を空中浮揚で静止した状態にさせ、地上既知点に設置されたTSから再帰反射体の位置座標を求めて仮ベンチマーク13とする。また、工事基準点12を設置する立坑11内等であって、未知点に別のTSを設置し、仮ベンチマーク13の位置座標を用いて、当該別のTSの自己位置を求めたのち、工事基準点12までの距離および方向を測定し、工事基準点12の位置座標を算出するものとする。
【0020】
図3は、測量システムの第1の構成例を示した図である。測量システムは、遠隔操作可能な飛行体20と、飛行体20に設けられる再帰反射体としてのプリズム21と、プリズム21の位置を測定する測定手段としてのTS22(TS22は、既知点に設置されているものとする。以下、同じ。)とを備える。また、測量システムは、立坑11内等の未知点に設置され、プリズム21までの距離および方向を測定することで日本平面直角座標系(以下、平面直角座標系と称す。)の自己位置を算出して既知点とするTS23を備える。さらに、測量システムは、工事基準点12の位置座標を算出する演算手段を備える。
【0021】
演算手段は、飛行体20やTS22、23内に分散して搭載することができるが、1つの器機に搭載されていてもよい。また、PC、タブレット端末、スマートフォン等の無線通信および演算可能な他の機器を用い、演算の一部または全部を当該他の機器で行ってもよい。
【0022】
飛行体20は、無人航空機(UAV)で、3以上の回転翼を備え、回転翼の回転数により上昇および下降を行い、各回転翼の回転数に差を付けることで、前進、後進、旋回等を行うことができる回転翼機を採用することができる。なお、これは一例であるので、飛行体20は回転翼機に限定されるものではない。
【0023】
飛行体20は、作業員により無線操縦装置としての送信機24を使用して遠隔操作される。送信機24は、作業員の操作を受け付け、制御信号を生成し、制御信号を飛行体20へ無線送信する。飛行体20は、制御信号を受信し、回転翼の回転数等を制御する。送信機24は、表示手段としてのモニタまたはモニタを備える端末装置が接続可能な接続部と、制御信号を無線送信するためのアンテナと、作業員の操作を受け付けるスティックと、電源ボタンとを備える。
【0024】
プリズム21は、光の入射方向と同じ方向に光を反射させる。プリズム21は、入射角度が広い範囲とし、2つのTS22、23から同時に光を入射し、反射できることが望ましい。プリズム21としては、入射角度が大きく異なる複数の光が同時に入射され、反射させることができる、例えば180°~360°の広角のものを用いることができる。
【0025】
プリズム21は、飛行体20の下側に、回転機能を持たせた回転台(ジンバル)25を介して取り付けられる。ジンバル25は、自身の回転により、飛行体20の飛行に伴うプリズム21の揺れや傾き等を補正する。ジンバル25は、自身を回転させるため、モータを備える。ジンバル25は、作業員からの指示を受け、モータを駆動して、前後および左右に回転する。前後、左右への回転は、三次元空間における水平方向の2つの軸、すなわちX軸、Y軸を中心とした回転で、ロール、ピッチと呼ばれる。ちなみに、鉛直方向のZ軸を中心とした回転は、ヨーと呼ばれる。
【0026】
TS22は、少なくとも2つの基準点1、2までの距離および方向を測定する。TS22は、演算手段を搭載し、測定結果からTS22の位置座標を算出する。TS22の位置座標は、例えば後方公会法を用いて算出することができる。
【0027】
また、TS22は、飛行体20に搭載したプリズム21までの距離および方向を測定する。TS22は、プリズム21を自動追従する機能を有し、この自動追従により連続的に測量する。これにより、飛行体20が様々な位置に移動したときのプリズム21を測量することができる。
【0028】
TS23も、プリズム21を自動追従する機能を有し、TS22によりプリズム21を連続的に測量している間、同じプリズム21を測量する。
【0029】
TS22、23の測定結果は、TS22、23の各々において測定時刻と紐付けられる。演算手段は、測定時刻の同期を確認し、時刻同期できたTS22の測定結果に基づき、少なくとも3点のプリズム21の位置座標を算出し、これらの点を仮ベンチマークとする。仮ベンチマークの位置座標は、TS22の位置座標が既に算出され、既知であるため、TS22の位置座標と、測定した距離および方向とから算出することができる。なお、測定時刻が完全一致することは稀であることから、許容範囲を設け、許容範囲内であれば、時刻同期できたとする。
【0030】
演算手段は、少なくとも3点の仮ベンチマークの位置座標を用いて、未知点に設置したTS23の位置座標を算出する。TS23の位置座標は、時刻同期できたTS23の測定結果を使用し、上記の後方公会法により算出することができる。
【0031】
TS23の位置座標を算出したところで、TS23により工事基準点12を測量し、測定結果から工事基準点12の位置座標を算出する。
【0032】
飛行体20には、ジンバル25を介してプリズム21を取り付けるとともに、撮像手段としてのカメラ26を取り付けることができる。カメラ26は、レンズ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等の撮像素子を備える。撮像素子は、CCDイメージセンサに限られるものではなく、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等を用いてもよい。カメラ26は、ズーム機能を有し、例えば鉛直方向と2つの側方の計3方向を撮像するために3台設けることができる。これは一例であるので、3台に限られるものではない。
【0033】
カメラ26は、レンズと焦点とを通る光軸上にプリズム21の中心が位置するように設置される。具体的には、
図4に示すように、任意の点Aと点Bを設け、点Aと点Bとを繋ぐ直線上の任意の位置に点Cを設置する。点Bと設置した点Cとを用い、カメラ26の光軸とプリズム21の中心を直線配置する。
【0034】
カメラ26は、レンズが向く方向の映像を撮影し、画像データとして出力する。画像データは、出力されるたびに、飛行体20を操作する作業員が持つ送信機24、ジンバル25およびカメラ26を操作する作業員が持つ無線操縦装置としての送信機27へそれぞれ送られる。
【0035】
送信機24へ送信された画像データは、送信機24のモニタにリアルタイムに表示される。作業員は、モニタを見ながら画像の中心の移動を最小にするように送信機24を操作する。これにより、GNSSがなくても、飛行体20の移動を最小にし、飛行体20を空中浮揚で静止した状態にさせることができる。
【0036】
送信機27へ送信された画像データも、送信機27のモニタにリアルタイムに表示される。飛行体20を空中浮揚で静止した状態にさせるためには、飛行体20が移動しているかを確認するために目印が必要となる。その目印となる対象物をモニタに映し出すため、作業員は、モニタを見ながら、ジンバル25を駆動し、各カメラ26の焦点を各対象物に合わせる。
【0037】
このときのカメラ画像のイメージは、
図5に示すようなものである。各カメラ26の焦点が合った木等の各対象物28を含む画像が表示され、気圧センサを搭載する場合は、気圧センサが検知した気圧が数値で表示される。気圧は、高度を算出するために使用される。この気圧センサをカメラ26とともに用いることで、鉛直方向への飛行体20の移動も最小にすることができる。対象物28は、その位置に固定されていて目印となるものであれば、いかなるものであってもよい。
【0038】
送信機27は、モニタまたはモニタを備える端末装置が接続可能な接続部と、ジンバル25やカメラ26を制御するための制御信号を無線送信するためのアンテナと、作業員の操作を受け付けるスティックと、電源ボタンとを備える。送信機27は、カメラ26により取得された画像データを受信し、モニタまたは端末装置のモニタに表示する。作業員は、モニタを見ながらジンバル25の回転やカメラ26のズームの切り替え等の操作を行うことができる。
【0039】
飛行体20は、必要に応じて、GNSS、気圧センサ、超音波センサを搭載することができる。GNSSとしては、GPS(Global Positioning System)受信機を用いることができる。GPS受信機は、良く知られた位置座標を測定する装置であるため、ここでは詳述しない。気圧センサは、高度と速度を測定することができる。超音波センサは、超音波を対象に向けて発射し、反射波を受信して、対象の存在を検出する。これにより、高度の制御や障害物の検知を行うことができる。
【0040】
飛行体20は、別途、障害物を検知する障害物検知センサ等の光学センサや、磁気センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ等を搭載することができる。磁気センサは、磁場の向きを測定し、方位を検知することができる。ジャイロセンサは、回転速度を測定し、ロール、ピッチ、ヨーを制御するために用いることができる。加速度センサは、飛行体20の傾きを検出し、姿勢制御に用いることができる。
【0041】
飛行体20は、
図6に示すようなレーザ光を透過させるシリカエアロゲルの的30、もしくは煙や希薄コロイド溶液が封入された透明な箱が取り付けられていてもよい。的30には、光ファイバーで光を照射し、三次元方向(X軸、Y軸、Z軸)31a、31b、31cを表示することができる。煙や希薄コロイド溶液が封入された透明な箱の場合、煙やコロイドが均一に拡散した状態になるように、箱内に撹拌翼等の撹拌手段を備えることができる。
【0042】
図6に示す構成では、地上からレーザポインタ32等のレーザ光を照射する照射手段によりレーザ光を的30の中心(3軸が交差する点)に向けて照射し、レーザ光が照射された的30の中心を飛行体20の空中位置の目安とし、飛行体20を手動で操作し、空中の所定位置に空中浮揚で静止した状態にさせることができる。
【0043】
また、手動で操作するのではなく、自動制御を行うため、光ファイバーのX軸、Y軸、Z軸にフォトレジスタ(光検出器)33を設け、レーザ光に反応させ、レーザ光が中心にくるように後述するフライトコントローラを制御してもよい。
【0044】
図7を参照して、飛行体20のハードウェア構成について説明する。飛行体20は、送信機24からの上昇、下降、前進、後退等の指示を無線信号により受信する受信機40と、指示を受けて演算処理を行い、モータをどのように回転させるか等の命令を出力するフライトコントローラ41と、フライトコントローラ41等へ電源を供給するバッテリ42とを備える。
【0045】
飛行体20は、3以上の回転翼を備え、これら3以上の回転翼をそれぞれ回転させるための3以上のモータ43を備える。
図7に示す例では、4つのモータ43が設けられている。フライトコントローラ41は、各モータ43に対し、それぞれ異なる回転速度等で回転させるような命令を出力することができる。
【0046】
飛行体20は、フライトコントローラ41からの命令に基づき、3以上のモータ43のそれぞれの回転速度を調整する、モータ43の数に応じた数のESC(Electronic Speed Controller)44を備える。モータ43の数に応じたESC44を備えることにより、フライトコントローラ41から別個に異なる命令を受け付け、異なる回転速度等で各モータ43を制御することができる。
【0047】
バッテリ42が供給する電源の電圧と、フライトコントローラ41等が使用する電圧とが異なり、バッテリ42が供給する電源の電圧を下げる必要がある場合、電圧を降下させるUBEC(Universal Battery Elimination Circuit)45を設けることができる。
【0048】
飛行体20は、そのほか、バッテリ42の電源を管理する電源管理ユニット(PMU)、3次元の角速度と加速度を検出する慣性計測装置(IMU)、GNSS等を備えることができる。また、飛行体20は、上記のジンバル25、カメラ26を搭載している。
【0049】
図8および
図9を参照して、
図3に示した測量システムを使用して工事基準点12を設置する作業について説明する。
図8は、測量の概念図で、
図9は、工事基準点12の設置作業の流れを示したフローチャートである。工事基準点12の設置作業は、
図8に示すように、TS22、23により飛行体20の位置を複数変えてプリズム21を測量する。同時期に測定した既知点に設置したTS22の測定結果と未知点に設置したTS23の測定結果のうち、TS22の測定結果からプリズム21の位置を求め、求めたプリズム21の位置とTS23の測定結果を使用し、TS23の位置を求める。TS23は、はじめ現地座標系(0,0,0)に設置され、プリズム21の測量により平面直角座標系の位置が算出される。
【0050】
TS23の位置が決定されれば、TS23により工事基準点12を測量し、TS23の位置とTS23の測定結果から工事基準点12の位置を求めることができる。この工事基準点12の位置は、平面直角座標系の位置として算出される。
【0051】
概略は以上の通りであるが、
図9を参照して、具体的な作業について説明する。ステップ100から作業を開始し、ステップ101で飛行体20の準備を行う。飛行体20にジンバル25を介してプリズム21、カメラ26を取り付け、飛行体20、送信機24、27に電源を投入して、飛行体20を飛行させる準備を行う。
【0052】
ステップ102では、TS22、23をそれぞれ設置する。TS22は、地上の既知点に設置し、TS23は、工事基準点12を設置する立坑内等の未知点に設置する。なお、TS22は、既知点に限らず、未知点に設置し、2以上の基準点を測量し、後方公会法を使用して位置座標を算出したものであってもよい。なお、ステップ101、102の作業は、順序が逆であってもよいし、同時に実施されていてもよい。
【0053】
飛行体20の準備、TS22、23の設置が完了したところで、ステップ103へ進み、飛行体20を飛行させ、ステップ104で、TS22、23から、飛行体20に搭載したプリズム21の自動追尾による測量を行う。
【0054】
飛行体20の操作、飛行体20に搭載したジンバル25の操作は、それぞれ1人ずつの作業員(計2人)で行う。飛行体20を操作する作業員1は、機体のX、Y、Z方向の移動と、ヨーの操作を受け持ち、ジンバル25を操作する作業員2は、3つのカメラ26のズーム(フォーカスは自動)、ジンバル25のピッチ、ロールの操作を受け持つ。
【0055】
ジンバル25の操作では、回転の中心をプリズム21の中心と一致させ、かつプリズム21の中心にカメラ26の光軸を合わせる。
【0056】
作業員1は、飛行体20をTS22、23から視準しやすい所望の位置に移動させ、空中浮揚で静止した状態にさせる。作業員2は、ジンバル25を適宜回転させ、TS22、23から視準しやすい位置に移動させるとともに、カメラ画像を視準しやすい対象を選定し、ズームさせる。
【0057】
作業員1、2による操作により飛行体20の位置が決定したところで、TS22、23による測量を行う。その際、プリズム21の動きは、作業員1、2の連携により空中浮揚で静止に近づける。測量は、所定の時間間隔で距離および方向を測定することにより行われる。
【0058】
ステップ105で、TS22、23による測定結果のうち同期確認できたデータと、TS22の位置座標とを用いて、3点以上のプリズム21(仮ベンチマーク)の位置座標を算出する。そして、ステップ106で、同期確認できたデータと、算出した3点以上の仮ベンチマークの位置座標とを用いて、未知点のTS23の位置座標を算出する。未知点のTS23の位置座標は、上記の後方公会法を用いて算出することができる。
【0059】
ここで、
図10を参照して、同期確認の方法について説明する。
図10は、TS(U)-1で示される既知点に設置したTS22によりプリズム21を測量した時刻と、TS(D)-1で示される未知点に設置したTS23によりプリズム21を測量した時刻とを示した図である。
図10では、時刻として、TS22、23のデータ測定時刻を採用し、測定開始時刻から測定終了時刻までの範囲を楕円で示している。
【0060】
同期確認は、1回の測定のうちの測定終了時刻で行い、同期確認ができたか否かは、TS22とTS23の測定終了時刻の差(Δtn、nは自然数)が、許容範囲(ΔtP)内か否かによって行われる。ここで、ΔtPは、初回測定は2秒、その後1秒以下に設定することができる。これらの値は一例であり、測定結果の状況に応じて適切な値を設定することができる。
【0061】
図10に示す例では、Δtn、Δtn+2についてはΔtP以下であるため、同期できたと判定し、それらのデータを未知点TS23の位置座標を算出するために使用する。一方、Δtn+1、Δtn+3についてはΔtPを超えているため、同期できないと判定し、それらのデータは破棄する。
【0062】
この例では、TS22、23の測定時刻を使用して同期確認を行っているが、これに限られるものではなく、演算手段としてPCを使用する場合、PCのクロックを使用してもよい。GNSS50を用いる場合、NMEA(National Marine Electronics Association)の時刻情報を活用してもよい。ちなみに、TS22、23の自動追尾による1点の測量時間は、一般に0.4秒以下である。
【0063】
次に、
図11を参照して、TSによる後方交会法を用いた位置座標の計算方法について説明する。計算は、ステップ200から開始し、ステップ201で、仮定座標を求める。仮定座標は、TS23によりプリズム21までの距離および方向を測定し、測定結果から算出したTS23の平面直角座標系での座標値(x,y,z)である。
【0064】
ステップ202で、TS23の測定結果に基づき、角の観測方程式を作成する。また、ステップ203で、TS23の測定結果に基づき、距離の観測方程式を作成する。観測方程式は、測定された距離、方向(角度)と未知のTS22のXY座標との関係を表す条件方程式である。
【0065】
ステップ204では、角の観測方程式および距離の観測方程式を用いて、正規方程式を作成する。正規方程式は、観測方程式に測定データを代入し、最も残差(誤差)が少なくなる係数の組み合わせを求める連立方程式である。ステップ205で、最小二乗法を用いてTS23のXY座標、すなわち器械点のXY座標を算出する。そして、ステップ206で、算出した器械点座標と仮定座標とを比較し、その差が2mm未満であるかを確認する。その差が2mm以上である場合、ステップ207へ進み、算出した器械点座標を仮定座標とし、ステップ202へ戻る。この2mmという値も一例であり、測定結果の状況に応じて適切な値を設定することができる。
【0066】
一方、ステップ206で上記差が2mm未満である場合、ステップ208へ進み、TS22により算出されたプリズム21のZ座標から算出したTS23のZ座標を引き、平均値を求め、その平均値を器械点のZ座標とする。このようにして器械点座標を算出したところで、ステップ209で計算を終了する。
【0067】
TS22の位置座標は、平面直角座標系の座標をもつ少なくとも2つの基準点を測定し、測定結果から算出された座標で、TS22により測定されたプリズム21の位置座標は、TS22の位置座標(この段階では既知座標)を基に算出されることから、平面直角座標系の座標として算出される。
【0068】
一方、TS23の位置座標は、現地座標系の未知座標とされる。現地座標系は、
図12に示すように、直角座標系に対してxy軸が角度αほど回転し、原点が任意の距離だけ各軸から平行移動した関係を有している。
【0069】
このような関係から、未知座標は、以下の方法により求めることができる。ただし、上記の後方交会法と同様、簡単のため、Z方向の鉛直性は保たれているものと仮定し、座標は、測定したZ方向測定値より計算した値を平均した平均値を用いるものとする。
【0070】
図12を参照して、TS23が設置される未知座標をp
0(x
0,y
0,z
0)とし、TS23によりプリズム21を複数回測定したときの回数をiとし、回数iのときの測定結果、すなわち距離をl
1i、水平角をφ
1i、仰角をθ
1iとすると、これらを用いて、現地座標系でのプリズム21の位置座標(x
’
1i,y
’
1i,z
’
1i)を求める。平面直角座標系でのプリズム21の位置座標は、既知座標に設置されたTS22により(X
1i,Y
1i,Z
1i)として計測され、平面直角座標系の(X
1i,Y
1i,Z
1i)と現地座標系の(x
’
1i,y
’
1i,z
’
1i)との関係を用いて、未知座標p
0(x
0,y
0,z
0)と、現地座標系の平面直角座標系に対する回転角度αを求める。具体的には、下記式1を用いて算出することができる。式1中の添字iは、上記の測定回数である。
【0071】
【0072】
上記式1を分かりやすくするため、表記を単純にする。
【0073】
【0074】
上記式2中、(c,d)は、平行移動量で、未知座標(x0,y0)と等しい。回転角度αおよび伸縮率sは、a、bを使用して、下記式3、4のように表される。伸縮率sは、変換前後で図形の形は変わらないが、縮尺(スケール)が変わることがあり、変換前後でのスケールが変化した割合である。伸縮率sは本来、1となる。
【0075】
【0076】
【0077】
以上の条件を基に、測定回数の測定結果を用いて計算を繰り返し、未知座標(x0,y0)と回転角度αを最小二乗法により算出する。ちなみに、上記式1に、上記式2を適用すると、下記式5のようなものとなる。そして、行列式を計算すると、下記式6のようになる。
【0078】
【0079】
【0080】
最小二乗法は、誤差を伴う測定値を処理する際、その誤差の二乗和を最小にし、最も確からしい関係式を求める方法である。その式は、下記式7で表すことができる。式7中、f(a,b,c,d)は、誤差の合計である。
【0081】
【0082】
fをaの関数として偏微分したものを0とすると、下記式8のように表され、式8中の右辺は、下記式9のように表すことができる。
【0083】
【0084】
【0085】
同様にして、fをbの関数として偏微分したものを0とし、fをcの関数として偏微分したものを0とし、fをdの関数として偏微分したものを0とすると、下記式10~12のように表すことができる。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
以上のようにして導き出された、上記式9~12の4つの連立方程式を解くことで、a、b、c、dを算出することができる。未知座標(x0,y0)は、上記式2で示すように(c,d)に等しいものとして、また、回転角度αは、算出されたa、bを用いて上記式3により算出することができる。
【0090】
未知座標のz0については、距離l1iと仰角θ1iとから鉛直方向への距離が算出され、それを、直角座標系のプリズム21のZ1iから差し引き、その平均値を求めることで算出することができる。
【0091】
次に、
図13を参照して、TS23の平面直角座標系の妥当性を確認する方法について説明する。TS23の位置を決定するにあたって、飛行体20に搭載したプリズム21を改めて測量し、平面直角座標系においてTS22およびTS23の座標から求めたプリズム21の平面直角座標系の2つの位置(TS22からの測定値およびTSからの計算値)の距離が一定の較差レベル内にあるか否かを判断する。すなわち、既知点TS22からのプリズム21の平面直角座標系の測定値TS(U)-1(X、Y、Z座標)および上記の式により計算されたTS23の平面直角座標系の座標に対するプリズム21の平面直角座標系の計算値TS(D)-1(X、Y、Z座標)の距離を較差とし、その較差が一定の較差レベル内にあるか否かを判断する。
【0092】
較差レベルは、較差の許容範囲を示す。
図13では、2つの較差レベルを示し、較差レベル1は、較差が0~3mmの範囲を示し、較差レベル2は、較差が4~5mmの範囲を示している。これらの範囲も一例であり、測定結果の状況に応じて適切な範囲を設定することができる。
【0093】
図13に示す例では、再測定を行うことで、濃い色の丸から薄い色の丸で示される結果が得られている。最も薄い色の丸で示される結果は、較差レベル1の範囲内に入った例を示している。このような較差レベル内に入る測定値から算出された座標を求め、その座標をTS23の位置座標として決定する。
【0094】
再び
図9を参照して、ステップ107では、上記のように既知点TS22および平面直角座標系の位置を算出した元の未知点TS23から、改めて仮ベンチマークを測量し、ステップ108で、較差が一定の較差レベル内、すなわち設定値以下であるかを判断する。設定値以下の場合、ステップ109へ進み、設定値を超える場合は、ステップ103へ戻り、再度測量を行う。ステップ109では、位置座標が決定されたTS23により測量し、工事基準点12の位置座標を算出する。算出した位置座標に、標石、金属標、鋲等の標識を設置したところで、ステップ110で、工事基準点12の設置作業を終了する。
【0095】
これまでに説明してきた例では、飛行体20に搭載したプリズム21を仮ベンチマークとして用いる際、TS22の自動追尾による測量でプリズム21の位置座標を算出している。飛行体20にGNSS等の位置座標を測定することができるシステムを搭載していれば、GNSS等のシステムにより直接、プリズム21の位置座標を測定することができる。
【0096】
図14は、測量システムの第2の構成例を示した図である。測量システムは、第1の構成例のシステムと同様、遠隔操作可能な飛行体20と、飛行体20に設けられるプリズム21と、立坑11内等の未知点に設置され、目標までの距離および方向を測定するTS23と、工事基準点12の位置座標等を算出する演算手段とを備える。また、測量システムは、送信機24、ジンバル25、カメラ26、送信機27を備える。第2の構成例では、TS22に代えて、飛行体20に設けられる位置検出手段としてのGNSS50を備える。
【0097】
GNSS50は、衛星から送信される衛星の位置や時刻等の情報を受信し、衛星から電波が発信されてから自身の受信機に到達するまでに要した時間を計測し、距離に変換する。GNSS50は、ネットワーク型RTK法およびRTK法等のGNSSにより位置座標が既知の5以上の衛星からの距離を同時に求め、5以上衛星の位置座標と距離とからGNSS50の受信機の位置座標を算出する。
【0098】
測量システムは、GNSS50のほか、鉛直方向に光を照射する照射手段として、レーザ鉛直器51を備える。レーザ鉛直器51は、設置する工事基準点12上に配置され、工事基準点12の真上に向けてレーザ光を出射する。
【0099】
この測量システムで工事基準点12を設置する作業について、
図15および
図16を参照して詳細に説明する。
図15は、測量の概念図で、
図16は、工事基準点12の設置作業の流れを示したフローチャートである。工事基準点12の設置作業は、
図15に示すように、工事基準点12上にレーザ鉛直器51を設置し、工事基準点12の真上に向けてレーザ光を照射する。飛行体20に搭載したカメラ26の中心でレーザ光を捕捉するように飛行体20を移動させ、空中浮揚で静止した状態にする。
【0100】
静止した状態のまま、飛行体20に搭載したGNSS50により飛行体20の位置を測定する。また、未知点に設置したTS23によりプリズム21を測量する。
【0101】
工事基準点12の水平方向の位置座標(X、Y座標)は、レーザ鉛直器51の鉛直線上に再帰反射体が位置する時刻、GNSSの位置座標から求めることも可能である。Z座標は、GNSSの位置座標(Z座標)と、レーザ鉛直器51の測定距離および受信機40とプリズム21との距離とから算出することができる。
【0102】
概略は以上の通りであるが、
図16を参照して、作業の詳細について説明する。ステップ300から作業を開始し、ステップ301で飛行体20の準備を行う。飛行体20にジンバル25を介してプリズム21、カメラ26を取り付け、飛行体20、送信機24、27に電源を投入して、飛行体20を飛行させる準備を行う。
【0103】
ステップ302では、工事基準点12が設置される立坑内等にTS23を配置し、工事基準点12上にレーザ鉛直器51を配置する。なお、ステップ301、302の作業は、順序が逆であってもよいし、同時に実施されていてもよい。
【0104】
ステップ303では、飛行体20を工事基準点12が設置される位置の直上付近へ飛行させ、その位置で空中浮揚で静止した状態にする。
【0105】
ステップ304で、レーザ鉛直器51からレーザ光を出射させ、ステップ305で、レーザ光をカメラ26の中心で捕捉する位置に飛行体20を移動させ、その位置で空中浮揚で静止した状態にする。
【0106】
カメラ26の中心で捕捉する位置に停止させたときに、ステップ306で、GNSS50により受信機40の位置座標を計測する。受信機40とプリズム21との距離および方向は、オフセット量として予め決められており、プリズム21の位置座標は、計測された受信機40の位置座標とオフセット量とから算出することができる。
【0107】
ステップ307で、TS23により測量を行い、プリズム21までの距離および方向を測定し、ステップ308で、GNSS50で受信機の位置座標を計測している時刻と同期確認できたデータを用いて工事基準点12の位置座標を算出する。GNSS50を用いる場合、時刻同期は、TS22、23により測量したときの時刻やPCのクロックのほか、GNSS50のNMEAの時刻情報を活用してもよい。NMEAは、受信機が通信に使用するプロトコルで、時刻、緯度や経度等の位置座標の情報を含む。
【0108】
ステップ309では、既知点TS22および平面直角座標系の位置を算出した元の未知点TS23から、改めて仮ベンチマークを測量し、ステップ310で、較差が一定の較差レベル内、すなわち設定値以下であるかを判断する。設定値以下の場合、ステップ311へ進み、設定値を超える場合は、ステップ303へ戻り、再度測量を行う。ステップ311では、位置座標が決定されたTS23により測量し、工事基準点12の位置座標を算出する。算出した位置座標に、標石、金属標、鋲等の標識を設置したところで、ステップ312で、工事基準点12の設置作業を終了する。
【0109】
第1の例では、TS23によりプリズム21の測量を行い、後方公会法により未知点に設置したTS23の位置座標を算出している。しかしながら、飛行体20にプリズム21を取り付けているため、気象条件等により、空中での静止が難しく、静止した位置での連続データの取得が難しい場合がある。そこで、TS23の位置座標は、複数の離れた位置での測定結果を用いる方法でも算出することが可能である。当該他の方法の一例として、相似変換(ヘルマート変換)を利用する方法を用いることができる。
【0110】
図17を参照して、相似変換を利用したTS23の位置座標の算出方法について説明する。相似変換としては、2つの座標系の両方の値をもつ既知点の座標を基に、移動量や回転角等を計算し、一方の座標系から他方の座標系に変換するヘルマート変換を用いることができる。
【0111】
ここでは、一方の座標系を、TS23の位置座標を(0,0,0)とした現地座標とし、他方の座標系を平面直角座標系とする。TS22の位置座標は、平面直角座標系の座標である。
【0112】
TS22、23は、水平に設置されるため、平面の相似変換と、鉛直方向の移動とに分けて扱い、TS23の位置座標を算出する。
【0113】
相似変換は、実質的には後方交会法と類似の方法であり、回転量(a,b)、原点の平行移動量(c,d)とすると、Z軸の回転量αは、下記式13により、伸縮率sは、下記式14により表される。sは、1に近い値とされる。
【0114】
【0115】
【0116】
飛行体20を飛行させ、任意の位置で空中浮揚で静止した状態にして、プリズム21の位置をTS22、23により測定する。これを、飛行体20を移動させて複数の位置で測定する。
【0117】
TS22により測定されたプリズム21の測定結果から得られた平面直角座標系の位置座標を(XUi,YUi)とし、TS23により測定されたプリズム21の測定結果から得られた現地座標系の位置座標を(xDi,yDi)とすると、下記式15の関係が成立する。下記式15は、相似変換の一般式である。
【0118】
【0119】
上記式15を行列で表すと、下記式16のようになる。なお、変換前のn(4以上の自然数)個の座標(xD1,yD1)、(xD2,yD2)、…、(xDi,yDi)、…、(xDn,yDn)とし、変換後の座標を(XU1,YU1)、(XU2,YU2)、…、(XUi,YUi)、…、(XUn,YUn)とする。
【0120】
【0121】
上記式16を基に、最小二乗法を用いて、下記式17により計測値との残差を最小にする最確値Κを求める。
【0122】
【0123】
上記式17を使用することで、パラメータa~dを算出することができる。また、これらのパラメータa~dと上記式15とを使用して、未知点のTS23のX座標、Y座標を算出することができる。
【0124】
なお、鉛直方向のZ座標については、既知点のTS22により測定されたプリズム21の測定結果から得られたZ座標をZUiとし、未知点のTS23により測定されたプリズム21の測定結果から得られたZ座標をzDiとして、ZUiとzDiを用いて、Z方向の較差を求める。較差は、ZUi-zDiの値である。
【0125】
未知点のTS23のZ座標は、ZUiからzDi分の移動、例えばZUi-zDiの平均値として求めることができる。
【0126】
上記式13~式17を使用し、相似変換を行い、鉛直方向の移動を行うことで、平面直角座標系での三次元座標(X,Y,Z)を求めることができる。平面直角座標系では、緯度、経度を使用して、X座標、Y座標を表すため、どの方向が北方向であるかを求めることができる。
【0127】
ここで、未知点のTS23の計算した平面直角座標系の妥当性を確認する。確認の手法は、上記の手法と同様で、TS23の位置を決定するにあたって、飛行体20に搭載したプリズム21を改めて測量し、平面直角座標系においてTS22およびTS23の座標から求めたプリズム21の平面直角座標系の2つの位置(TS22からの測定値およびTS23からの計算値)の距離が一定の較差レベル内にあるか否かを判断する。
【0128】
較差が大きい値を確認し、必要に応じて、再測定を行う。較差が大きな値でも、
図11に示した較差レベル1または2内であれば、再測定を行うことなく、TS23の器械点座標および北方向を、求めた座標や北方向に設定することができる。
【0129】
上記の較差レベル1または2を超える場合には、再測定を行い、再度較差を確認し、較差レベル1または2内か否かを確認する。なお、再測定では、較差が大きい方向を拡大するプリズム21の配置とし、較差是正を図る。
【0130】
これまで本発明の測量システムおよび測量方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0131】
10…TS
11…立坑
12…工事基準点
13…仮ベンチマーク
14…崖・断崖等
20…飛行体
21…プリズム
22…TS
23…TS
24…送信機
25…ジンバル
26…カメラ
27…送信機
28…対象物
30…的
31a、31b、31c…三次元方向
32…レーザポインタ
33…フォトレジスタ
40…受信機
41…フライトコントローラ
42…バッテリ
43…モータ
44…ESC
45…UBEC
50…GNSS
51…レーザ鉛直器