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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20221108BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/04 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018127057
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020008033
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃久
(72)【発明者】
【氏名】飯田 将史
(72)【発明者】
【氏名】浮田 天志
(72)【発明者】
【氏名】金子 純一
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-96416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパン内のオイル溜まりのオイルを吸入するオイルポンプと、
前記オイル溜まりよりも上方に位置する回転体と、
前記回転体を収容するケース部材と、を有し、
前記回転体の回転側面に対向する前記ケース部材の内壁面には、複数の段差部が設けられ
前記ケース部材は、複数のボルト締結点を有し、前記複数の段差部は、隣合う2つのボルト締結点の間に設けられている、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数の段差部は、上方から前記段差部に流れてくるオイルを、前記回転体の軸線の周方向に対して斜め方向に流す傾斜部を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記傾斜部の傾きは、前記ケース部材の内壁面の傾きよりも緩やかに設定されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
前記複数の段差部は、くさび形状のリブであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記複数の段差部は、前記回転体の回転側面に対向する前記ケース部材の前記内壁面の中で最も傾斜角の小さい傾斜面に設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記複数の段差部は、前記複数の段差部を前記回転側面から視た場合において、左側から中央に向って傾斜する第1形状と、右側から中央に向って傾斜する第2形状と、が混在して構成されており、前記第1形状と前記第2形状とは中央において上下に互いに重なる部分を有することを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達装置は、変速機等を収容するケース部材を備え、ケース部材の内部には潤滑、冷却およびトルク伝達等に用いられる自動変速機作動油(ATF、以下単に「オイル」という)が蓄えられる。
【0003】
ケース部材の下部には開口部が設けられ、開口部の下にオイルパンが取り付けられる。オイルパンは、開口部から落ちてきたオイルを回収し、オイル溜まりを形成する。オイルは、オイル溜まりからオイルポンプによって吸い上げられ、再びケース部材の内部を流れる。
【0004】
動力伝達装置においては、オイルポンプがオイルに含まれるエアを吸い込む、いわゆるエア吸いが発生することがある。エア吸いによってオイルポンプから吐出されるオイルの圧力が一時的に低下するおそれがある。
【0005】
エア吸いは、例えば、オイルの低温時のオイル溜まりにおける油面低下によるものや、車両の加減速時の油面の変化によるものがある。これらの原因によるエア吸いを防止するには、オイル溜まりの油面をできるだけ高く保つことが望ましいが、オイルの高温時に油面が高いと、オイルが回転体に攪拌されて攪拌抵抗が増加しケース部材内の圧力が上昇してしまうことがある。
【0006】
そこで、変速機ケースの上部に第2のオイル溜まりを設け、2つのオイル溜まりに貯留する油量をコントロールすることで、エア吸いを抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。車両の加減速時の油面の変化は高速段よりも低速段で大きくなるため、オイルの低温時には低速段のみに限定した上で、オイルパンのオイル溜まりの油面を高く設定する。一方、オイルの高温時には高速段を許容して、第2のオイル溜まりにオイルの一部を誘導して、オイルパンのオイル溜まりの油面を低くし、攪拌抵抗の増加を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-205616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、オイルポンプのエア吸いは、前記した原因の他に、オイルの高温時に回転体の回転によりオイルが泡立ち、オイルにエアが大量に混入することによっても発生する。
【0009】
動力伝達装置において、オイルの高温時に回転体の回転によって泡立ったままのエアをオイルポンプが吸い込むこと防止して、エア吸いの発生を低減することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の動力伝達装置は、
オイルパン内のオイル溜まりのオイルを吸入するオイルポンプと、
前記オイル溜まりよりも上方に位置する回転体と、
前記回転体を収容するケース部材と、を有し、
前記回転体の回転側面に対向する前記ケース部材の内壁面には、複数の段差部が設けられ
前記ケース部材は、複数のボルト締結点を有し、前記複数の段差部は、隣合う2つのボルト締結点の間に設けられている
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、泡立ったオイルがオイルパンのオイル溜まりに戻るまでの時間が長くなるため、発生した泡が消えやすくなり、オイルポンプのエア吸いを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る動力伝達装置のケース部材を示す図である。
図2】ケース部材に収容される各要素の配置を示す図である。
図3図1のAの拡大図である。
図4】ケース部材の内部におけるオイルの流れを模式的に示す図である。
図5】変形例1に係る段差部を示す図である。
図6】変形例2に係る段差部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、実施の形態に係る動力伝達装置のケース部材1を示す図である。
図2は、ケース部材1に収容される各要素の配置を示す図である。
図1に示すように、ケース部材1は、動力伝達装置を構成する要素を収容する、回転体室2、ギヤ室4およびバルブ室6を備える。
図2に示すように、ケース部材1を車両に搭載した際、バルブ室6が車両の前方側、ギヤ室4が車両の後方側に配置され、回転体室2がバルブ室6およびギヤ室4に対して車両の上方側に配置される。以下、車両の前後方向および上下方向を基準として、ケース部材1を説明する。
【0014】
回転体室2、ギヤ室4およびバルブ室6は、それぞれ各要素を収容するための開口を備えている。
回転体室2は、図1に示した一側面側に開口21が設けられている。ギヤ室4およびバルブ室6は、図1に示した一側面とは反対の側面側に、開口(不図示)が設けられている。
図2において、回転体室2に収容される要素は実線で示し、ギヤ室4およびバルブ室6に収容される要素は破線で示している。
【0015】
図2に示すように、回転体室2は、変速機を構成するプライマリプーリPaとセカンダリプーリPbを収容する。プライマリプーリPaとセカンダリプーリPbは、それぞれ軸線X1、X2周りに回転する回転体であり、外周の回転側面RSに形成された溝にベルトVが掛け渡されている。
【0016】
回転体室2において、プライマリプーリPaはバルブ室6の上方に配置され、セカンダリプーリPbはプライマリプーリPaの斜め上方であって、ギヤ室4の上方に配置される。
【0017】
図1に示すように、回転体室2は、プライマリプーリPaとセカンダリプーリPbを支持する底壁部22を有する。底壁部22には貫通部23a、23bが形成され、プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転軸(不図示)の各一端部がこれらの貫通部23a、23bを貫通し、一側面と反対の側面側で不図示のベアリングを介して支持されている。
【0018】
図1に示すように、回転体室2の底壁部22の外周には、軸方向に紙面手前側に立ち上がった周壁部24が形成される。図2に示すように、周壁部24はプライマリプーリPaとセカンダリプーリPbを囲み、周壁部24の内壁面24aがプライマリプーリPaとセカンダリプーリPbの回転側面RSと対向する。ここで、プライマリプーリPaとセカンダリプーリPbの回転側面RSとは、それぞれの軸線X1、X2の径方向から視た側面を意味する。
【0019】
周壁部24の端面には、回転体室2の開口21を塞ぐサイドカバー(不図示)をボルトで締結するための複数のボルト穴25が形成されている。これらのボルト穴25が形成される個所は、周壁部24の肉厚が部分的に増大されている。
【0020】
図1に示すように、内壁面24aの下方側のバルブ室6と隣接する面に、回転体室2とバルブ室6を連通させる連通孔26が設けられている。プライマリプーリPaとセカンダリプーリPbを潤滑するオイルは、この連通孔26を介してバルブ室6と回転体室2の間を移動する。
【0021】
内壁面24aは、回転するプライマリプーリPaとセカンダリプーリPbから飛散して付着したオイルが、連通孔26に到達するまでの経路となる。
内壁面24aの側面は略垂直方向に延びる面であるが、ギヤ室4側の側面の一部には、垂直方向に対して斜めに傾いた傾斜面27、28が形成されている。
傾斜面は、隣り合うボルト穴25aと25bの間に形成された傾斜面27と、隣り合うボルト穴25bと25cに形成された傾斜面28が形成される。傾斜面28は傾斜面27よりも水平方向に対する傾斜角度が小さく、すなわち傾斜面27よりも緩やかな傾斜となっている。
【0022】
傾斜面27、28はセカンダリプーリPbを支持する貫通部23bの下方に形成されているため、以降、傾斜面27、28については軸線X2を基準として説明する。
【0023】
傾斜面27、28には、それぞれ段差部29が形成されている。
図3は、図1のAの拡大図である。
図1および図3に示すように、段差部29は、傾斜面27、28の面上から突出する複数のリブ29aで構成される。複数のリブ29aは、軸線X2の周方向に沿って互いに間隔を空けて配置されている。各リブ29aは、断面視で半円形状、上面視で長方形状であり、回転体室2の底壁部22側から開口21側に延びる。複数のリブ29aを形成することにより、傾斜面27、28は平坦面ではなく凹凸が付いた面となっている。
【0024】
段差部29は、例えば、ケース部材1と一体的に鋳ぬきで成形することができる。もちろん、段差部29の形成は特定の方法に限定されず、例えばリブ29aを別体で形成してケース部材1に接合しても良い。
【0025】
図2に示すように、ギヤ室4はファイナルギヤFを収容する。ファイナルギヤFは、不図示のデフケースと一体的に回転する。ギヤ室4内においてファイナルギヤFは、前記したプライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転軸(不図示)の軸線X1、X2に対して平行な軸線X3周りに回転可能に設けられており、ファイナルギヤFは、セカンダリプーリPbの出力回転が図示しないリダクションギヤを介して入力されると、図示しないデフケースと一体に回転するようになっている。詳細な説明および図示は省略するが、ギヤ室4とバルブ室6の間にはオイルの連通路が設けられており、ギヤ室4とバルブ室6の間でオイルの量を調整することが可能である。
【0026】
図2に示すように、バルブ室6は、コントロールバルブボディCを収容する。バルブ室6の下端は開口しており、この開口を覆うようにオイルパン8が取り付けられている。
コントロールバルブボディCの上部にオイルポンプPが取り付けられ、コントロールバルブボディCの下部にオイルを濾過するストレーナSが取り付けられている。ストレーナSは、バルブ室6の下端開口部から下方に突出し、オイルパン8内に収容されている。
【0027】
図4は、ケース部材1の内部におけるオイルOLの流れを模式的に示す図である。
実線の矢印はバルブ室6から回転体室2へのオイルOLの流れを示し、破線の矢印は回転体室2からバルブ室6へのオイルOLの流れを示す。
【0028】
図4に示すように、オイルパン8には、回転体室2の連通孔26から落下したオイルOLが滞留して、オイル溜まりOPが形成される。ストレーナSは、オイル溜まりOPの油面より下に位置するように配置される。
オイルポンプPを動作させると、オイル溜まりOPのオイルOLを、ストレーナSを通過させてオイルポンプP内に吸引する。オイルポンプPは、吸引したオイルOLを加圧してコントロールバルブボディCに供給する。
【0029】
詳細な説明および図示は省略するが、コントロールバルブボディCは、油溝が形成されたバルブボディの間にセパレートプレートを挟み込んで形成される。コントロールバルブボディCの内部には、後述するオイルポンプPの吐出圧を所定圧に調圧するレギュレータバルブ(調圧弁)、オイルOLが通流する油路、オイルOLが通流する油路を切り換えるスプール、回転体室2に供給されるオイルOLの圧力を調整する調圧弁、などを備える油圧制御回路が設けられている。コントロールバルブボディCが、オイルポンプPの動作によって供給されたオイルOLを調圧して、回転体室2のプライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbに供給する。これによって変速比が制御される。
【0030】
ここで、オイルポンプPがオイルOLを吸引する際に、オイルOLに含まれるエアを吸い込む、いわゆるエア吸いが発生することがある。エア吸いによってオイルポンプPから吐出されるオイルOLの圧力が一時的に低下するおそれがある。
【0031】
前記したように、ギヤ室4とバルブ室6の間にオイルOLの連通路(不図示)が設けられているため、オイルOLの低温時は、ギヤ室4からのバルブ室6へのオイルOLを増やして、オイル溜まりOPの油量を増加させて、エア吸いを低減する。
一方、オイルOLの高温時に、プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転によって攪拌されるとオイルOLが泡立つことがある。泡立ったオイルOLにはエアが混入している。オイルOLが泡立った状態のままオイルパン8に戻り、再びオイルポンプPに吸引されるとエア吸いが発生するおそれがある。
【0032】
プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転によってオイルOLは回転側面RS(図2参照)側に飛散して、回転体室2の内壁面24aに付着する。付着したオイルOLは重力に従って内壁面24aを下方に伝って、連通孔26まで流れる。図3に示すように、ギヤ室4側に飛散したオイルOLは傾斜面27と傾斜面28を通過するが、傾斜面27および傾斜面28には段差部29が形成されているため、平坦面ではなく凹凸の付いた面となっている。
【0033】
傾斜面27および傾斜面28において、オイルOLは段差部29による凹凸を乗り越えて流れるため、段差部29が無い状態よりも流れる距離が長くなり、結果としてオイルOLがオイルパン8に戻るまでの時間も長くなる。オイルOLに泡が発生していても、オイルパン8に戻るまでの時間が長くかかれば、泡が消えやすくなる。オイルOLの泡が消えやすくなることによって、オイルポンプPのエア吸いも低減される。
【0034】
なお、実施の形態では、段差部29を複数のリブ29aとする例を説明したが、オイルOLが流れる距離を長くできれば良いため、段差部29は傾斜面27および傾斜面28に形成した複数の溝としても良い。
【0035】
また、実施の形態では、傾斜面27および傾斜面28の両方に段差部29を設ける例を説明したが、製造コスト等の要請に応じて、いずれか一方の傾斜面のみに設けても良い。例えば、傾斜面27よりも傾斜の緩やかな傾斜面28は元々オイルOLの流れる速度が遅いため、傾斜面28に段差部29を設けるとオイルOLがオイル溜まりOPまでに戻る時間を長くすることができるようになり効果的である。
【0036】
以上の通り、実施の形態の動力伝達装置は、
(1)オイルパン8内のオイル溜まりOPのオイルOLを吸入するオイルポンプPと、
オイル溜まりOPよりも上方に位置するプライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPb(回転体)と、
プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbを収容するケース部材1と、を有し、
プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転側面RSに対向するケース部材1の内壁面24aには、複数の段差部29が設けられている。
【0037】
オイルOLの高温時に、プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転により、回転側面RS側に泡立ったオイルOLが飛散すると共に、泡立ったオイルOLは回転側面RSに対向するケース部材1の内壁面24aを伝いながらオイル溜まりOPに落ちていくことになる。
【0038】
プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転によって泡立ったオイルOLが、オイル溜まりOPに戻る時間を長くすれば自然に泡が減少するので、オイルOLがオイル溜まりOPに戻るまでの戻る距離を長くすることができれば良い。
【0039】
そこで、このオイルOLが戻る経路におけるオイルOLの移動距離を延ばして泡立った油がオイル溜まりOPまでに戻る時間を長くすべく、ケース部材1の内壁面24aに複数の段差部29を設けた。これによって、オイルポンプPがオイル溜まりOPから泡立ったままのオイルOLを吸い込んで、エア吸いが起きることを低減することができる。
【0040】
(2)段差部29は、プライマリプーリPaとセカンダリプーリPb(回転体)の軸線X1、X2方向に延びる平行に配置された複数のリブ29a(凸部)または溝(凹部)である。
段差部29を鋳ぬきでケース部材1と一体的に成形することができるため、段差部29の製造コストを抑えることができる。また、段差部29をリブ29aとすることによって、回転体室2の周壁部24の厚みが増すため、ケース部材1の強度を保ちやすい。
【0041】
(3)ケース部材1は、複数のボルト穴25(ボルト締結点)を有し、段差部29を構成する複数のリブ29a(凸部)又は複数の溝(凹部)は、複数のボルト穴25のうち隣合う2つのボルト穴25a、25bまたは25b、25cの間に設けられている。
内壁面24aの隣り合う2つのボルト穴25a、25bまたは25b、25cの間は平坦な面となり、オイルOLの流れが速くなりがちなので、この位置に段差部29を設けることでオイルOLの流れを遅くすることができる。
【0042】
(4)複数の段差部29は、プライマリプーリPaおよびセカンダリプーリPbの回転側面RSに対向するケース部材1の内壁面24aの中で最も傾斜角の小さい傾斜面28に設けられる。
回転側面RSに対向する内壁面24aは傾斜角の異なる複数の面を有しているが、段差部29をケース部材1の内壁面24aの中で最も傾斜角の小さい傾斜面28に設ける。もともとオイルOLの流れの最も遅い部分の距離を延ばすことになり、より泡立った油がオイル溜まりOPまでに戻る時間を長くすることができるようになり効果的である。
【0043】
[変形例1]
図5は、変形例1に係る段差部29を示す図である。
前記の実施の形態では、段差部29を、軸線X2の径方向から見て長方形状のリブ29aとしたが、段差部29はオイルOLの流れる距離を長くすることができれば良く、実施の形態の例に限られない。
【0044】
例えば、図5に示すように、段差部29を軸線X2(図1参照)の径方向から見てくさび形状のリブ29bとしても良い。
くさび形状のリブ29bは、軸線X2の周方向における幅(以下、単に「周方向幅」という)が、軸線X2の軸方向左端側(底壁部22側)から軸方向右端側(開口21側)に向かって先細りし、かつ傾斜面27、28からの突出高さが軸線X2の軸方向左端側(底壁部22側)から軸線X2の軸方向右端側(開口21側)に向かって低くなっている。
【0045】
このくさび形状のリブ29bの、軸線X2の周方向側の両端面のうち、上方側に位置する端面が、底壁部22側から開口21側に向かって下方に傾斜した傾斜面30を形成する。この傾斜面30の水平方向に対する傾斜角度は、傾斜面27、28の水平方向に対する傾斜角度よりも緩やかになるように設定する。
【0046】
傾斜面27、28にくさび形状のリブ29bが無かった場合、オイルOLは傾斜面27、28上を、軸線X2の周方向に沿って直線的に下方に流れる。
くさび形状のリブ29bがある場合、一部のオイルOLは実施の形態と同様にくさび形状のリブ29bを乗り越えるように流れるが、また一部のオイルOLはくさび形状のリブ29bが形成する傾斜面30を底壁部22側から開口21部側に向かって斜め方向に流れ、突出高さの低い開口21側でリブ29bを乗り越えて下方に向かって流れやすくなる。
【0047】
このように、くさび形状のリブ29bによってオイルOLが斜め方向に流れた後に下方に流れるため、直線的に下方に流れる場合に比べて、オイルOLが流れる距離がより長くなり、オイルOLがオイル溜まりOPに戻るまでの時間を長くすることができる。また、実施の形態と同様に、オイルOLがくさび形状のリブ29bを乗り越えて流れる場合もオイルOLの流れる距離を長くすることができる。
【0048】
以上、変形例1において、
(5)複数の段差部29は、上方から段差部29に流れてくるオイルOLを軸線X2の周方向に対して斜め方向(斜め方向)に流す傾斜面30を有する。
ケース部材1の内壁面24aにおいてオイルOLを斜め方向に流すことで、直線的にオイルOLが流れるよりも距離を長くすることができ泡立ちをより低減することができる。
【0049】
(6)傾斜面30の傾きは、傾斜面27、28(ケース部材1の内壁面24a)の傾きよりも緩やかに設定されている。
オイルOLが流れる傾斜面30の傾きを、ケース部材1の内壁面24aの傾きよりも緩やかにすることにより、斜め方向に流れるオイルOLの流速を遅くすることができ、オイルOLがオイル溜まりOPに戻るまでの時間を長くすることができる。
【0050】
(7)複数の段差部29は、くさび形状のリブ29bである。
段差部29を、ケース部材1の内壁面24aを削って溝をつくる場合や、事後的に内壁面24aにリブ29bを接合するのであればどのような形状でも作製することが可能であるが、このような場合は工数やコストが増加する。段差部29を、ケース部材1の開口21側に向って徐々に周方向幅が狭くなるくさび形状とすれば、ケース部材1を鋳抜きで作製するにあたり、段差部29も同時に作製が可能である。これによって、製造工数および製造コストを低減することができる。また、段差部29の高さを高くしようとする場合に溝を深くする場合は強度に影響が出る可能性があるが、リブ29bを高くするならば強度への影響を低減することができるので好ましい。
【0051】
[変形例2]
図6は、変形例2に係る段差部29を示す図である。
図6に示すように、変形例2では、複数の段差部29が、第1形状と第2形状の2種類のリブ29c、29dが混在した構成となっている。
第1形状と第2形状のリブ29c、29dは、実施の形態と同様に、上面視で長方形状であり、断面視で半円状である。
【0052】
第1形状のリブ29cは、セカンダリプーリPbの回転側面RSから視た場合において、軸線X2の軸方向左端側(底壁部22側)から軸方向中央に向かって下方に傾斜するように配置されている。
第2形状のリブ29dは、セカンダリプーリPbの回転側面RSから視た場合において、軸線X2の軸方向右端側(開口21側)から軸方向中央に向かって下方に傾斜するように配置されている。
第1形状と第2形状のリブ29c、29dは、傾斜面27、28の上端側から下端側に向かって交互に隙間を空けて配置されている。第1形状のリブ29cの右端部と第2形状のリブ29dの左端部は、上下方向(軸線X2の周方向)において重なるように配置されている。
【0053】
第1形状および第2形状のリブ29c、29dの、軸線X2の周方向の両端面のうち、上方側に位置する端面が、それぞれ軸方向左端側または右端側から軸方向中央に向かって下方に傾斜した傾斜面31、32を形成する。この傾斜面31、32の水平方向に対する傾斜角度は、傾斜面27、28の水平方向に対する傾斜角度よりも緩やかになるように設定する。
【0054】
オイルOLが傾斜面27、28を流れると、一部のオイルOLは実施の形態と同様に第1形状および第2形状のリブ29c、29dを乗り越えるように流れるが、一部のオイルOLは第1形状のリブ29cが形成する傾斜面31を、軸方向左端側から軸方向中央に向かって斜め下方に流れる。同様に、一部のオイルOLは第2形状のリブ29dが形成する傾斜面32を、軸方向右端側から軸方向中央に向かって斜め下方に流れる。
【0055】
傾斜面27、28を流れたオイルOLは、軸方向中央に到達すると、傾斜面31、32を離れて下方に向かって流れるが、前記したように、第1形状のリブ29cの右端部と第2形状のリブ29dの左端部は上下方向において重なるように配置している。そのため、第1形状のリブ29cの傾斜面31を離れて下方に流れたオイルOLは、第2形状のリブ29dの傾斜面32に接触して、再び斜め下方に流れる。同様に、第2形状のリブ29dの傾斜面32を離れて下方に流れたオイルOLは、第1形状のリブ29cの傾斜面31に接触して、再び斜め下方に流れる。
【0056】
このように、交互に配置した第1形状および第2形状のリブ29c、29dによってオイルOLが斜め方向と下方への流れを繰り返すため、直線的に下方に流れる場合に比べて、オイルOLが流れる距離がより長くなり、オイルOLがオイル溜まりOPに戻るまでの時間を長くすることができる。
【0057】
以上、変形例2において、
(8)複数の段差部29は、上方から段差部29に流れてくるオイルOLを軸線X2の周方向に対して斜め方向(斜め方向)に流す傾斜面31、32を有する。
ケース部材1の内壁面24aにおいてオイルOLを斜め方向に流すことで、直線的にオイルOLが流れるよりも距離を長くすることができ泡立ちをより低減することができる。
【0058】
(9)傾斜面31、32の傾きは、傾斜面27、28(ケース部材1の内壁面24a)の傾きよりも緩やかに設定されている。
オイルOLが流れる傾斜面31、32の傾きを、ケース部材1の内壁面24aの傾きよりも緩やかにすることにより、斜め方向に流れるオイルOLの流速を遅くすることができ、オイルOLがオイル溜まりOPに戻るまでの時間を長くすることができる。
【0059】
(10)複数の段差部29は、複数の段差部29を回転側面RSから視た場合において、軸線X2の軸方向左端側(左側)から軸方向中央(中央)に向って傾斜する第1形状のリブ29c(第1形状)と、軸線X2の軸方向右端側(右側)から軸線X2の軸方向中央(中央)に向って傾斜する第2形状のリブ29d(第2形状)と、が混在して構成されており、第1形状と第2形状とは中央において上下に互いに重なる部分を有する。
【0060】
段差部29をこのような形状とすることにより、オイルOLが斜め方向と下方への流れを繰り返すため、オイルOLの移動距離を長くすることができる。すなわち、オイルOLが実施の形態と同様にリブ29c、29dを乗り越えて流れる場合もオイルOLの移動距離を長くすることができ、オイルOLが第1形状および第2形状のリブ29c、29dの傾斜面31、32に沿って斜め方向に流れる場合は、より長い距離を移動することになるため、総合的に見て移動距離を更に増大させることができ、オイルOLの泡立ちを低減することができる。
【0061】
前記の実施の形態および変形例1、2において、本発明の動力伝達装置を変速機に適用する例を説明したが、これに限られず、例えば本発明は減速機等に適用しても良い。
【0062】
前記の実施の形態では、ケース部材1に複数の段差部29を設ける例を説明したが、複数の段差部29はオイルOLが飛散する箇所に設ければ良く、例えば回転体室2の開口21を塞ぐサイドカバー(不図示)に形成しても良い。また、前記の実施の形態では、ケース部材1、サイドカバー、ハウジングを別体として構成する例を説明したが、これらを単一の部材として構成し、そこに複数の段差部29を設けても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース部材
2 回転体室
4 ギヤ室
6 バルブ室
8 オイルパン
21 開口
22 底壁部
23a、23b 貫通部
24 周壁部
24a 内壁面
25、25a、25b、25c ボルト穴
26 連通孔
27、28 傾斜面
29 段差部
29a リブ
29b くさび形状のリブ
29c 第1形状のリブ
29d 第2形状のリブ
30、31、32 傾斜面
Pa プライマリプーリ
Pb セカンダリプーリ
V ベルト
RS 回転側面
F ファイナルギヤ
C コントロールバルブボディ
P オイルポンプ
S ストレーナ
OL オイル
OP オイル溜まり
X1、X2、X3 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6