(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】車両側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
B62D25/20 F
(21)【出願番号】P 2018220082
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智和
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131133(JP,A)
【文献】特開2014-184829(JP,A)
【文献】独国特許発明第102016220239(DE,B3)
【文献】独国特許発明第102014200598(DE,B3)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0038204(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0080980(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の側部下部に位置して車両前後方向に延びるロッカと、
このロッカの外面部または内部に設けられた側突検出用のブラケットと、
前記車両のフロアパネルの車幅方向中央部において車両前後方向に延びるフロアトンネル部と前記ロッカとを橋渡し接続するように設けられて車幅方向に延びるクロスメンバと、
前記フロアトンネル部に設けられた車両の衝突検知用センサと、
を備えている、車両側部構造であって、
前記側突検出用のブラケットは、上下高さ方向に離間した配置で前記ロッカに固定された2つの基端部から車幅方向外方側に突出する傾斜直状の上下2つの壁部を備えており、
これら2つの壁部は、これらの先端部どうしが直接繋がり、かつこの繋がった部分を頂部とする断面視横向きV字状のV字断面構造部を構成して
おり、
このV字断面構造部の前記頂部には、前記頂部から車幅方向外方側に延びる先端延設部が連設され、かつこの先端延設部の先端部には上下高さ方向に屈曲した屈曲壁部が形成されていることを特徴とする、車両側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両側部構造の具体例として、特許文献1に記載のものがある。
同文献に記載の構造を簡略化して
図4(a)に示す。同図に示す構造においては、車両の側部下部に設けられて車両前後方向に延びるロッカアウタパネル8の外面部に、側突検出用のブラケット9が取付けられている。このブラケット9は、ポール側突などの車両の側突があった際に、その側突初期の衝撃を、車両に別途搭載されているGセンサ(加速度センサ)に的確に感知させるためのものであり、断面略コ字状である(ロッカアウタパネル8を含めると中空矩形状である)。より具体的には、このブラケット9は、ロッカアウタパネル8に基端部が固定された上下2つの水平壁部9a,9bと、これらの先端部どうしを繋ぐ先端壁部9cとを有している。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地がある。
【0004】
すなわち、側突検出用のブラケット9の機能としては、車両が側突を生じた際に受けた衝撃をGセンサ側に適切に伝達する必要があることから、衝撃を受けた際に大きな変形が容易に生じないことが求められる。
その一方、従来技術における側突検出用のブラケット9は、断面略コ字状とされている。このため、車両の側突時において、
図4(b)に示すように、衝突荷重Faの方向が水平でない場合には、上下の水平壁部9a,9bがそれらの基端部の位置で屈曲する変形、つまりマッチ箱変形を生じ易い。また、同図(c)に示すように、衝突荷重Faの方向が水平であったとしても、上下の水平壁部9a,9bが上下に膨らむように変形する場合もある。
ブラケット9が前記したような変形を生じたのでは、車両の側突初期の衝撃をブラケット9を介してGセンサの設置箇所に効果的に伝達させることが困難となる。その結果、Gセンサの衝撃感知によるサイドエアバッグの展開動作が遅くなるといった不具合を生じる。
【0005】
車両が普通乗用車以上のサイズである場合には、サイドエアバッグの設定箇所と乗員との間の距離を比較的大きくとることができるために、サイドエアバッグの展開が少々遅れたとしても、サイドエアバッグを乗員の横で展開させることが可能であるが、小型車の場合には、それとは異なり、サイドエアバッグの設定箇所と乗員との間の距離が小さい。このため、Gセンサによる衝撃感知が早期に行なわれないと、サイドエアバッグの展開が間に合わなくなる虞がある。したがって、小型車の場合には、前記した不具合を解消する必要性が、より高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、車両の側突の発生時に、側突検出用のブラケットが不当に大きく、かつ容易に変形することを防止または抑制
し、側突検出用のブラケットの本来の機能を適切に発揮させることが可能な車両側部構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供される車両側部構造は、車両の側部下部に位置して車両前後方向に延びるロッカと、このロッカの外面部または内部に設けられた側突検出用のブラケットと、前記車両のフロアパネルの車幅方向中央部において車両前後方向に延びるフロアトンネル部と前記ロッカとを橋渡し接続するように設けられて車幅方向に延びるクロスメンバと、前記フロアトンネル部に設けられた車両の衝突検知用センサと、を備えている、車両側部構造であって、前記側突検出用のブラケットは、上下高さ方向に離間した配置で前記ロッカに固定された2つの基端部から車幅方向外方側に突出する傾斜直状の上下2つの壁部を備えており、これら2つの壁部は、これらの先端部どうしが直接繋がり、かつこの繋がった部分を頂部とする断面視横向きV字状のV字断面構造部を構成しており、このV字断面構造部の前記頂部には、前記頂部から車幅方向外方側に延びる先端延設部が連設され、かつこの先端延設部の先端部には上下高さ方向に屈曲した屈曲壁部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1に、側突検出用のブラケットは、前記したV字断面構造部を備えているため、車両の側突が発生し、V字断面構造部の頂部に車幅方向外方側から衝突荷重が入力した際には、断面コ字状、あるいは中空矩形状の断面構造とされていた従来のブラケットとは異なり、いわゆるマッチ箱変形のような形態の屈曲変形を生じ難く、またV字断面構造部を構成する2つの壁部が上下に膨らむような変形も生じ難いものとすることができる。このため、V字断面構造部の頂部に入力した荷重は、V字断面構造部の基端部からロッカに的確に入力することとなって、車両の側突発生初期の衝撃を、たとえばGセンサ設置箇所に効果的に伝達することができる。これは、車両の側突が発生した際に、サイドエアバックを早期に展開させる上で有利であり、サイドエアバッグと乗員との距離が近い小型車の場合には、より好ましい効果である。
第2に、本発明においては、車両の側突時の衝突荷重に対する側突検出用のブラケットの強度を高めるための手段として、側突検出用のブラケットにV字断面構造部を設けている。側突検出用のブラケットの各部を厚肉化したり、あるいは専用の補強部材を別途設ける必要はなく、側突検出用のブラケット自体の構成もシンプルかつ軽量なものとすることが可能である。したがって、製造コストの上昇や、重量の増加なども適切に防止または抑制することが可能である。
その他、側突検出用のブラケットを、ロッカリインフォースとして機能させることも可能である。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る車両側部構造が設けられた車両の一例を示す要部概略斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1のIIa-IIa要部断面図であり、(b)は、(a)の要部拡大図である。
【
図3】
車両側部構造の他の例を示す要部断面図である。
【
図4】(a)は、従来技術の一例を示す要部断面図であり、(b)および(c)は、(a)に示す構造の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1に示す車両1の車両側部構造Aは、車両1の側部下部に位置して車両前後方向に延
びるロッカ2と、このロッカ2の内部に設けられた側突検出用のブラケット3とを備えている。
【0015】
車両1のフロアパネル10の車幅方向中央部には、不図示の排気管などを通すためのフロアトンネル部11が設けられている。フロアパネル10上のうち、このフロアトンネル部11とロッカ2との相互間には、車幅方向に延びるたとえば断面ハット状のクロスメンバ12が橋渡し状に配されて連結されている。フロアトンネル部11の前部には、車両の衝突検知用センサとしてのGセンサ4が配設されている。
Gセンサ4が所定以上の大きさの衝突(加速度変化)を感知することにより、不図示の運転席・助手席用エアバッグ(デュアルSRSエアバッグ)や、サイドエアバッグなどの各種のエアバッグが展開するように構成されている。サイドエアバッグは、シートサイドエアバッグ、サイドドアエアバッグ、カーテンシールドエアバッグなどを含む概念である。
【0016】
図2において、ロッカ2自体は、従来既知のものと同様な構成であり、ロッカインナパネル20とロッカアウタパネル21とを、これらに形成されている上下のフランジ部20a,21aを利用して接合して組み合わせた中空形状である。ロッカリインフォース22も適宜設けられる。先に述べたフロアパネル10およびクロスメンバ12の一端部は、ロッカインナパネル20に溶接されている。
図2において、仮想線で示す符号5の部材は、サイドドアである。
【0017】
側突検出用のブラケット3は、上下2つの金属板3a,3bを用いて構成されており、断面横向きV字状の形態のV字断面構造部30、およびこのV字断面構造部30の後述する頂部Pcに連設された先端延設部31を備えている。
【0018】
V字断面構造部30は、2つの金属板3a,3bの一部である上下2つの壁部30a,30bが断面横向きV字状とされた部分である。より具体的に説明すると、上下2つの壁部30a,30bは、これらの基端部Pa,Pbが上下高さ方向に離間した配置でロッカインナパネル20の縦壁部に固定された傾斜直状の壁部である。ロッカインナパネル20への基端部Pa,Pbの固定は、基端部Pa,Pbに繋がっている屈曲壁部32a,32bをロッカインナパネル20に溶接することにより図られている。上側の壁部30aは、車幅方向外方側ほど高さが低くなる先下がり状であり、下側の壁部30bは、それとは逆に、車幅方向外方側ほど高さが高くなる先上がり状である。これら2つの壁部30a,30bの先端部どうしは、互いに重ね合わされて溶接され、直接(金属板3a,3bの他の部分を介することなく)繋がっている。このことにより、2つの壁部30a,30bは、前記先端部どうしが繋がった部分を頂部Pcとする断面横向きV字状の形態のV字断面構造部30を構成している。
【0019】
好ましくは、2つの壁部30a,30bの夾角としての頂部Pcの角度αは、鋭角である。また、2つの壁部30a,30b(先端延設部31は含まない)の長さは同一であって、V字断面構造部30とロッカインナパネル20の縦壁部とを組み合わせて構成される断面視の三角形は、横向きの二等辺三角形である。
【0020】
先端延設部31は、2つの壁部30a,30bの重ね合わせ部SaをV字断面構造部30の頂部Pcよりも車幅方向外方側に延設し、かつその先端部に屈曲壁部31aが設けられた構成である。屈曲壁部31aは、2つの金属板3a,3bの少なくとも一方の先端部を屈曲して形成されており、ロッカアウタパネル21の縦壁部に接近して対面している。
この屈曲壁部31aは、V字断面構造部30の頂部Pcがエッジになって車両1の組み立て作業員がこのエッジに触れることを防止するのに役立つ。また、この屈曲壁部31aは、V字断面構造部30の頂部Pcよりも車幅方向外方側に位置するため、車両1の側突
荷重をブラケット3に早期に入力させる上で有利となる。
【0021】
前記した側突検出用のブラケット3は、
図1に示すように、たとえばドア開口部13に対応する箇所、あるいは車両用シート(不図示)の設置場所に対応する箇所など、車両前後方向において乗員(とくに頭部)が位置すると考えられる範囲に設けられている。もちろん、ロッカ2の略全長域にわたって一連に、または断続的に設けた構成とすることもできる。
図1においては、側突検出用のブラケット3が、車両1の右サイド(手前側)に設けられた例を示しているが、車両1の左サイドにも設けられている。
【0022】
次に、前記した車両側部構造Aの作用について説明する。
【0023】
側突検出用のブラケット3は、前記した構成のV字断面構造部30を備えているため、たとえば車両1にポール側突が発生し、ポール状のバリア7から先端延設部31に衝突荷重Fが入力した際には、V字断面構造部30がいわゆるマッチ箱変形のような形態の屈曲変形を生じ難いものとなる。また、V字断面構造部30を構成する2つの壁部30a,30bが上下に膨らむような変形も生じ難い。このため、車両1の側突初期の衝撃は、側突検出用のブラケット3からクロスメンバ12およびフロアパネル10などを介してGセンサ4の設置箇所に的確に伝達されることとなる。その結果、車両1の側突の発生時において、サイドエアバックやその他のエアバッグを早期に展開させることが可能となる。これは、車両1が小型車であって、サイドエアバッグの設定箇所と乗員との距離が近く、サイドエアバッグの展開をできる限り早い時期に行なわせる必要がある場合に、より好ましい効果である。
【0024】
側突検出用のブラケット3は、V字断面構造部30を有していることにより、その強度が高められており、側突検出用のブラケット3の大幅な厚肉化を図ったり、あるいはブラケット3を補強するための専用部材を別途用いる必要はない。したがって、製造コストの上昇や、重量の増加なども適切に防止または抑制することが可能である。また、側突検出用のブラケット3は、ロッカ2の内部に配されているため、ロッカ2の外面部に突出させる場合とは異なり、車両1の車幅が大きくなることを回避することができるといった利点も得られる。
【0025】
図3は、
車両側部構造の他の実施形態を示している。同図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付すこととし、重複説明は省略する。
【0026】
図3に示す車両側部構造Aaにおいては、側突検出用のブラケット3Aは、ロッカインナパネル20およびロッカアウタパネル21の上下のフランジ部20a,21aの相互間に、上部および下部が挟まれて固定された屈曲状の1つの金属板3cを利用して構成されている。この金属板3cのうち、屈曲状に繋がった上下2つの壁部30a,30bが、断面横向きV字状の形態のV字断面構造部30を構成している。好ましくは、クロスメンバ12は、その一端部ができる限り、V字断面構造部30に接近した配置となるように、ロッカインナパネル20の上壁部に溶接されている。
【0027】
本実施形態においても、車両1の側突が発生した際には、先の実施形態と同様に、側突初期の衝撃が側突検出用のブラケット3Aからクロスメンバ12やフロアパネル10などに対して的確に伝達し、ひいてはGセンサ4によって車両1の側突を早期に感知させることができる。側突検出用のブラケット3Aは、1枚の金属板3cを用いて構成することができ、またロッカ2への取付けに際しては、ロッカインナパネル20とロッカアウタパネル21とを溶接する際に、これらに同時に溶接することが可能である。したがって、製造コストの低減化を一層促進することができる。
【0028】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両側部構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0029】
側突検出用のブラケットは、ロッカの内部に設けられた構成に代えて、特許文献1のように、ロッカの外面部に設けられた構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0030】
A,Aa 車両側部構造
Pa,Pb 基端部
Pc 頂部
1 車両
2 ロッカ
3,3A 側突検出用のブラケット
30 V字断面構造部
30a,30b 壁部