(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/348 20060101AFI20221108BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20221108BHJP
B60W 10/119 20120101ALI20221108BHJP
【FI】
B60K17/348 B
B60W40/068
B60W10/119
(21)【出願番号】P 2018246268
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】宮内 繁之
(72)【発明者】
【氏名】飯原 健司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 理
(72)【発明者】
【氏名】平尾 知之
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-101258(JP,A)
【文献】特開2005-7972(JP,A)
【文献】特開2003-136992(JP,A)
【文献】特開2004-338685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
B60W 40/068
B60W 10/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置であって、
前記主駆動輪または前記副駆動輪のタイヤスリップを検出する検出手段と、
前記検出手段によりタイヤスリップが検出されたことに応じて、路面摩擦係数を推定する推定手段と、
前記検出手段によりタイヤスリップが検出され続けている時間を計測する計時手段と、
駆動トルクの配分の決定に使用される路面摩擦係数を記憶する記憶手段とを含み、
前記推定手段により路面摩擦係数が推定されたことに応じて、その推定された路面摩擦係数を前記記憶手段に新たに記憶させ、
前記計時手段により計測された時間が一定未満である場合には、前記記憶手段に記憶される路面摩擦係数を新たに記憶させた路面摩擦係数から前記検出手段によるタイヤスリップの検出前に記憶されていた路面摩擦係数に戻す、車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪自動車などの車両の4WD(four-wheel-drive:四輪駆動)システムとして、アクティブトルクスプリット4WDシステムが広く知られている。アクティブトルクスプリット4WDシステムの一例では、通常時は、車両の走行のための駆動トルクが主駆動輪(たとえば、左右の前輪)に伝達される。車両の走行中にタイヤスリップが生じると、路面摩擦係数が推定されて、その推定された路面摩擦係数などからタイヤスリップが発生しないように、電子制御カップリングにより駆動トルクが主駆動輪と副駆動輪とに能動的に配分される。
【0003】
図5は、従来のアクティブトルクスプリット4WDシステムにおけるトルク配分について説明するための図である。
【0004】
従来のアクティブトルクスプリット4WDシステムでは、たとえば、車両に設けられているアクセルペダルの操作量であるアクセル開度が一定の状態で、主駆動輪のタイヤ回転数および副駆動輪のタイヤ回転数の一方よりも他方が一定以上大きくなると、主駆動輪または副駆動輪にタイヤスリップが生じていると判定される(時刻T51)。
【0005】
タイヤスリップが生じていると判定された場合、主駆動輪および副駆動輪の各駆動トルクなどから路面摩擦係数が推定され、その推定された路面摩擦係数(推定路面μ)から主駆動輪および副駆動輪に配分するトルクが決定される。そして、電子制御カップリングの係合状態が制御されて、その決定されたトルクが主駆動輪および副駆動輪に伝達される。その結果、主駆動輪が受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低下して、主駆動輪のタイヤがグリップを取り戻し(時刻T52)、主駆動輪での低下分のトルクを副駆動輪が受け持つことにより、アクセル開度に応じた加速度で車両が加速する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の制御では、実際には路面摩擦係数が高いにもかかわらず、主駆動輪または副駆動輪が路面の凹凸やスピードブレーカなどの段差を乗り越えたときに、その乗り越えた主駆動輪または副駆動輪のタイヤ回転数が揺れることにより、タイヤスリップが生じたと誤判定されて、路面摩擦係数が低く推定され、副駆動輪が不要に駆動されるという問題がある。副駆動輪の不要な駆動は、走行燃費の悪化を招く。
【0008】
この問題に対して、タイヤスリップの判定の閾値を上げることやタイヤ回転数の検出値をなますことが考えられるが、これらの対策では、タイヤスリップが実際に生じたときに、タイヤスリップの判定が遅くなるうえ、トルクの配分が適切に行えなくなるという背反を生じる。
【0009】
本発明の目的は、副駆動輪の不要な駆動を抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置であって、主駆動輪または副駆動輪のタイヤスリップを検出する検出手段と、検出手段によりタイヤスリップが検出されたことに応じて、路面摩擦係数を推定する推定手段と、検出手段によりタイヤスリップが検出され続けている時間を計測する計時手段と、駆動トルクの配分の決定に使用される路面摩擦係数を記憶する記憶手段とを含み、推定手段により路面摩擦係数が推定されたことに応じて、その推定された路面摩擦係数を記憶手段に新たに記憶させ、計時手段により計測された時間が一定未満である場合には、記憶手段に記憶される路面摩擦係数を新たに記憶させた路面摩擦係数から検出手段によるタイヤスリップの検出前に記憶されていた路面摩擦係数に戻す。
【0011】
この構成によれば、主駆動輪または副駆動輪のタイヤスリップが検出された場合、路面摩擦係数が推定され、路面摩擦係数が推定されたことに応じて、その推定された路面摩擦係数が記憶手段に新たに記憶される。そして、その路面摩擦係数を使用して、駆動トルクの主駆動輪と副駆動輪とへの配分が新たに決定される。これにより、主駆動輪または副駆動輪のタイヤがグリップを取り戻すことができる。
【0012】
また、主駆動輪または副駆動輪のタイヤスリップが検出されると、タイヤスリップが検出され続けている時間が計測される。タイヤスリップが検出されなくなった時点で、それまでに計測された時間が一定以上である場合、記憶手段に新たに記憶された路面摩擦係数が維持され、計測された時間が一定に満たない場合には、記憶手段に記憶される路面摩擦係数が新たに記憶された路面摩擦係数からタイヤスリップの検出前に記憶されていた路面摩擦係数に戻される。
【0013】
これにより、主駆動輪または副駆動輪のタイヤスリップの継続時間が短い場合には、記憶手段に記憶される路面摩擦係数がタイヤスリップの検出前の路面摩擦係数に戻されるので、駆動トルクの主駆動輪と副駆動輪とへの配分もタイヤスリップの検出前の配分に戻される。そのため、主駆動輪が路面の凹凸やスピードブレーカなどの段差を乗り越えた場合などに、副駆動輪が不要に駆動され続けることを抑制できる。
【0014】
一方、主駆動輪または副駆動輪のタイヤスリップが一定時間を超えて継続している場合には、駆動トルクの主駆動輪と副駆動輪とへの配分が新たに決定された配分が維持される。よって、車両が4WD状態での安定した走行を続けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、副駆動輪の不要な駆動を抑制することができ、副駆動輪の不要な駆動による走行燃費の低下を抑制することができながら、必要なときには、副駆動輪を良好に駆動して、車両を4WD状態で安定して走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るECUが搭載された車両の平面図である。
【
図2】ECUの機能的な構成を示すブロック図である。
【
図3】アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、スリップ継続時間計測値および推定路面μの時間変化の例を示す図である。
【
図4】アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、スリップ継続時間計測値および推定路面μの時間変化の他の例を示す図である。
【
図5】従来のアクティブトルクスプリット4WDシステムにおけるトルク配分について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<アクティブトルクスプリット4WDシステム>
図1は、本発明の一実施形態に係るECU31が搭載された車両1の平面図である。
【0019】
車両1は、アクティブトルクスプリット4WDシステムを採用している。車両1には、エンジン2、トランスミッション3、フロントデファレンシャルギヤ4、トランスファ5、プロペラシャフト6およびリヤデファレンシャルギヤ7が含まれる。
【0020】
エンジン2は、車両1の前後方向に対してクランクシャフトが横向きになるように、つまりクランクシャフトが車幅方向に延びるように、車両1の前部に横置きで搭載(マウント)されている。
【0021】
トランスミッション3は、たとえば、ラビニヨ型の遊星歯車機構を備える有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよいし、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)であってもよい。
【0022】
フロントデファレンシャルギヤ4のデフケース11には、リングギヤ12が固定されている。リングギヤ12には、エンジン2の回転がトランスミッション3で変速されて入力される。リングギヤ12に入力される回転により、デフケース11がリングギヤ12と一体に回転する。そして、デフケース11の回転がピニオンギヤ13を介して各サイドギヤ14の回転に変換されて、各サイドギヤと一体に左右のフロントドライブシャフト15L,15Rが回転し、フロントドライブシャフト15L,15Rの回転がそれぞれ主駆動輪である前輪16L,16Rに伝達される。
【0023】
トランスファ5は、たとえば、フロントデファレンシャルギヤ4のデフケース11と一体に回転する第1かさ歯車17と、この第1かさ歯車17と噛合する第2かさ歯車18とを含む。第2かさ歯車18の中心には、車両1の前後方向に延びるプロペラシャフト6の前端が接続されている。
【0024】
プロペラシャフト6は、フロント側部分6Fとリヤ側部分6Rとに分割して構成されており、フロント側部分6Fとリヤ側部分6Rとの間には、電子制御カップリング21が介装されている。電子制御カップリング21には、入力側クラッチプレートと出力側クラッチプレートを交互に複数配置した多板摩擦クラッチを有する公知のものが採用されている。
【0025】
プロペラシャフト6の後端は、リヤデファレンシャルギヤ7のドライブピニオンシャフトに連結されている。プロペラシャフト6からリヤデファレンシャルギヤ7に伝達されるトルクにより、リヤドライブシャフト22L,22Rが回転し、リヤドライブシャフト22L,22Rの回転がそれぞれ副駆動輪である後輪23L,23Rに伝達される。
【0026】
また、車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)31が備えられている。
【0027】
前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rのそれぞれに対応して、各タイヤの回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタイヤ回転センサ32が設けられている。ECU31には、各タイヤ回転センサ32が接続されている。また、ECU31には、プロペラシャフト6のフロント側部分6Fの回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するフロント回転センサ33Fと、プロペラシャフト6のリヤ側部分6Rの回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するリヤ回転センサ33Rとが接続されている。
【0028】
ECU31には、その他にも、制御に必要な各種センサが接続されている。各種センサには、たとえば、エンジン2の回転(クランクシャフトの回転)に同期したパルス信号を検出信号として出力するエンジン回転センサ34、車両1に設けられたアクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ35などが含まれる。
【0029】
ECU31は、各タイヤ回転センサ32の検出信号から前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rの各タイヤ回転数を求める。ECU31は、フロント回転センサ33Fの検出信号からプロペラシャフト6のフロント側部分6Fの回転数を求め、リヤ回転センサ33Rの検出信号からプロペラシャフト6のリヤ側部分6Rの回転数を求める。また、ECU31は、エンジン回転センサ34の検出信号からエンジン2の回転数であるエンジン回転数を求め、アクセルセンサ35の検出信号からアクセル開度を求める。アクセル開度は、アクセルペダルの操作量であり、たとえば、アクセルペダルが最大まで踏み込まれたときを100%とする百分率である。ECU31は、各種センサから入力される検出信号から求めた数値などに基づいて、電子制御カップリング21を制御する。
【0030】
なお、
図1には、1つのECU31のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU31と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU31を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0031】
また、ECU31には、ECU31による制御に必要な各種センサの一部のみが示されている。
【0032】
<機能処理部>
図2は、ECU31の機能的な構成を示すブロック図である。
【0033】
ECU31は、スリップ検出(判定)部311、路面摩擦係数推定部312、スリップ継続時間計測部313、路面摩擦係数記憶部314、トルク配分決定部315およびカップリング制御部316を実質的に備えている。これらの機能部は、プログラム処理によってソフトウエア的に実現されてもよいし、論理回路などのハードウェアにより実現されてもよいし、それらの組合せにより実現されてもよい。
【0034】
図3は、アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、スリップ継続時間計測値および推定路面μの時間変化の例を示す図である。
図4は、アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、スリップ継続時間計測値および推定路面μの時間変化の他の例を示す図である。
【0035】
スリップ検出部311、路面摩擦係数推定部312、スリップ継続時間計測部313、路面摩擦係数記憶部314、トルク配分決定部315およびカップリング制御部316は、一定の周期で以下に説明する動作を繰り返す。
【0036】
スリップ検出部311は、主駆動輪である前輪16L,16Rのタイヤスリップを検出する。具体的には、スリップ検出部311は、左前輪16Lの回転数と左後輪23Lの回転数とを比較し、それらの差回転(回転数の差)が第1閾値以上である場合、左前輪16Lにタイヤスリップが生じていると判定し、差回転が第2閾値未満である場合、左前輪16Lのタイヤスリップが生じていないと判定する。また、スリップ検出部311は、右前輪16Rの回転数と右後輪23Rの回転数とを比較し、それらの差回転が第1閾値以上である場合、右前輪16Rにタイヤスリップが生じていると判定し、差回転が第2閾値未満である場合、右前輪16Rのタイヤスリップが生じていないと判定する。
【0037】
なお、第1閾値と第2閾値とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。左前輪16Lの回転数と左右の後輪23R,23Lの回転数の平均値との比較により、左前輪16Lにタイヤスリップが生じているか否かが判定されてもよい。同様に、右前輪16Rの回転数と左右の後輪23R,23Lの回転数の平均値との比較により、右前輪16Rにタイヤスリップが生じているか否かが判定されてもよい。
【0038】
スリップ検出部311は、左前輪16Lまたは右前輪16Rの少なくとも一方のタイヤスリップを検出すると、ECU31の内蔵メモリに設けられるスリップ判定フラグに「1」をセットする(時刻T1)。一方、スリップ検出部311は、左前輪16Lおよび右前輪16Rの両方のタイヤスリップを検出しなくなると、言い換えれば、左前輪16Lおよび右前輪16Rの両方にタイヤスリップが生じていないと判定すると、スリップ判定フラグを「0」にリセットする(
図3の時刻T2。
図4の時刻T3)。
【0039】
路面摩擦係数推定部312は、公知の手法により、前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rの各回転数から路面摩擦係数(路面μ)を推定する。
【0040】
スリップ継続時間計測部313は、発振器からのクロックパルスの出力に応答してカウントアップするインクリメントカウンタで構成される。スリップ継続時間計測部313は、スリップ判定フラグに「1」がセットされたことを契機にカウント動作を開始し(時刻T1)、スリップ判定フラグに「0」がセットされたことを契機にカウント動作を停止する(
図3の時刻T2、
図4の時刻T3)。したがって、スリップ継続時間計測部313のカウント値は、スリップ検出部311によりタイヤスリップが検出され続けている時間に相当する。
【0041】
路面摩擦係数記憶部314は、路面摩擦係数推定部312によって路面μが推定されると、その推定された路面μ(推定路面μ)を記憶する。その後、路面摩擦係数記憶部314は、スリップ判定フラグの状態を監視し、スリップ判定フラグが「0」にリセットされたことに応じて、スリップ継続時間計測部313のカウント値が所定の継続閾値以上であるか否かを判定する。そして、路面摩擦係数記憶部314は、カウント値が継続閾値以上であると判定した場合、新たな推定路面μの記憶をその後も維持する。一方、路面摩擦係数記憶部314は、カウント値が継続閾値未満であると判定した場合、新たな推定路面μからスリップ判定フラグに「1」がセットされる前の推定路面μに記憶を戻す。
【0042】
トルク配分決定部315は、路面摩擦係数記憶部314に記憶されている推定路面μを使用して、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分を決定する。すなわち、トルク配分決定部315は、推定路面μから前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rがタイヤスリップを生じずに受け持つことができるトルクを求める。そして、そのトルクを前輪16L,16Rに配分されるトルクに決定し、車両1の走行のための駆動トルクから前輪16L,16Rに配分されるトルクを差し引き、その差し引いた残余のトルクを後輪23L,23Rに配分されるトルクに決定する。
【0043】
カップリング制御部316は、トルク配分決定部315によって決定された配分に従って、駆動トルクが前輪16L,16Rと後輪23L,23Rとに配分されるように、電子制御カップリング21の係合状態を制御する。
【0044】
<作用効果>
以上のように、前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出された場合、路面摩擦係数が推定され、路面摩擦係数が推定されたことに応じて、その推定された路面摩擦係数(推定路面μ)が路面摩擦係数記憶部314に新たに記憶される。トルク配分決定部315では、その路面摩擦係数記憶部314に記憶された路面摩擦係数を使用して、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分が新たに決定される。これにより、前輪16L,16Rのタイヤがグリップを取り戻すことができる。
【0045】
また、前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出されると、タイヤスリップが検出され続けている時間が計測される。タイヤスリップが検出されなくなった時点で、それまでに計測された時間が一定以上である場合、路面摩擦係数記憶部314に記憶された推定路面μがそのまま維持され、計測された時間が一定に満たない場合には、路面摩擦係数記憶部314に記憶される推定路面μが新たに記憶された推定路面μからタイヤスリップの検出前に記憶されていた推定路面μに戻される。
【0046】
これにより、前輪16L,16Rのタイヤスリップの継続時間が短い場合には、路面摩擦係数記憶部314に記憶される推定路面μがタイヤスリップの検出前の推定路面μに戻されるので、駆動トルクの前輪16L,16Rと後輪23L,23Rとへの配分もタイヤスリップの検出前の配分に戻される。そのため、前輪16L,16Rが路面の凹凸やスピードブレーカなどの段差を乗り越えた場合などに、後輪23L,23Rが不要に駆動され続けることを抑制できる。
【0047】
一方、前輪16L,16Rのタイヤスリップが一定時間を超えて継続している場合には、駆動トルクの前輪16L,16Rと後輪23L,23Rとへの配分が新たに決定された配分に維持される。よって、車両1が4WD状態での安定した走行を続けることができる。
【0048】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0049】
たとえば、前述の実施形態では、主駆動輪である前輪16L,16Rのタイヤスリップを検出する場合を例に挙げたが、副駆動輪である後輪23L,23Rのタイヤスリップについても同様の手法により検出されて、そのタイヤスリップが検出されたことに応じて、路面摩擦係数が推定されてもよい。
【0050】
動力の非分配時に動力が伝達される主駆動輪が前輪16L,16Rである構成を取り上げたが、本発明に係る車両用制御装置は、動力の非分配時に動力が伝達される主駆動輪が後輪23L,23Rである構成の車両に用いることもできる。
【0051】
また、トランスミッション3は、動力分割式無段変速機であってもよい。動力分割式無段変速機は、たとえば、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路に分岐して伝達可能な変速機である。
【0052】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1:車両
16L,16R:前輪
23L,23R:後輪
31:ECU
311:スリップ検出部(検出手段)
312:路面摩擦係数推定部(推定手段)
313:スリップ継続時間計測部(計時手段)
314:路面摩擦係数記憶部(記憶手段)