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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】構造物のリユース方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/342 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
E04B1/342 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092408
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021188301
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】向山 洋一
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-57967(JP,A)
【文献】特開2006-46023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/342
E04B 1/32
E04G 23/00 - 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の架構をリユースする場合において、規模縮小後の架構形状寸法が元の架構と相似形であって、前記元の架構を構成する各部材の規模縮小後の節点間長さが、前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記各部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されることを特徴とする、構造物のリユース方法。
【請求項2】
構造物の屋根架構をリユースする場合において、規模縮小後の屋根架構形状寸法が元の屋根架構と相似形であって、前記元の屋根架構を構成する各部材の規模縮小後の節点間長さが、前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記各部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されることを特徴とする、構造物のリユース方法。
【請求項3】
軸芯回りに捩られている部材が含まれる構造物の架構において、前記捩られている部材の節点間長さが前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記捩られている部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されると共に、規模縮小後の前記構造物の架構の形状に合わせた捩じれ角度になるように規模縮小後の前記捩られている部材がその軸芯回りに追加捩りを加えられることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の構造物のリユース方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、博覧会等で建設される短期間のみ使用される大規模展示場のような大空間構造物の屋根架構が、規模縮小されてリユースされる場合における、構造物のリユース方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、博覧会等で建設される大規模展示場等は、短期間使用の仮設建物として建設されることがあり、その場合、解体後にその架構部材を再利用することを前提として設計・施工されることがあった。
【0003】
全く同じ建物としてリユースされる場合は問題ないが、例えば、図1に図示の建物1において、そのトラス構造の屋根架構2(平面寸法AxB、梁せいDの平版形)を規模縮小して、図2に示すように、規模縮小された建物1aとしてリユースする場合に、屋根架構2の中央部架構2a(平面寸法A1xB1、梁せいDの平版形)の部分のみを残して、その他の架構部分を省いたとすると、平面寸法の比がA1/A=B1/Bであったとしても、リユース後の架構(中央部架構2a)は元の架構(屋根架構2)の相似形とはなり得ず、従って、応力分布も全く変わるため、再利用された部材の強度が必ずしも十分とは限らない。
【0004】
即ち、既存の部材がそのまま再利用できるとは限らず、部材強度の検討をし、強度不足の場合には改めて新たに部材の設計・製作をする必要があった。
【0005】
構造物のリユースに関連する先行技術として、例えば、特許文献1あるいは特許文献2がある。特許文献1では、スパン方向がH形鋼の強軸使いのラーメン構造、桁行方向がH形鋼の弱軸使いのラーメン構造とH形鋼を強軸使いとした耐震間柱とを組み合わせた構造を、一定寸法の三次元架構を独立した単位ブロックとする鉄骨造の建物構造の構築方法が開示されている。この構築方法によれば、桁行方向および張間方向に前記ブロックを連続して建物を拡張、もしくは縮小できるとしている。
【0006】
即ち、既設建物でも、必要な規模になるように、前記ブロックの数を減らしたり増やしたりすることができる。しかし、その規模(建物面積)が増減すれば、柱本数も比例して増減するだけなので、博覧会等で建設される大規模展示場等のように柱のない空間構造を規模縮小してリユースしようとする場合には、適用できない。
【0007】
特許文献2では、競技施設やイベント施設等の比較的大スパンの屋根に適する屋根架構として、下弦が緊張材である張弦梁と上弦が緊張材である張弦梁とを直交させ、その交差部に束材を介装して交差梁を構成することを基本とし、緊張材にプレストレスを導入した張弦梁構造が開示されている。これら各部材同士の接合部は簡易なピン接合であるので、架構の組立ておよび解体が容易であり、かつ、各部材を高度にリユースすることも可能としている。
【0008】
特許文献2の発明は、本発明が対象としている大空間構造物の屋根架構の分野に属するが、既存屋根架構をリユースするに際して、交差梁である前記張弦梁の形状寸法はそのままに再利用することになるので、リユース後の屋根架構の規模縮小(張弦梁の短縮)は不可能である。従って、本発明が想定する規模縮小されてリユースされる場合には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-46023号公報
【文献】特許第3918715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、博覧会等で建設される短期間のみ使用される大規模展示場のような大空間構造物の屋根架構が、規模縮小されてリユースされる場合において、サイズはそのままにほぼ全ての既存部材を再利用できる、構造物のリユース方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明の手段は、展示場等構造物の架構をリユースする場合において、規模縮小後の架構形状寸法が元の架構と相似形であって、元の前記架構を構成する各部材の規模縮小後の節点間長さが、前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されることを特徴とする、構造物のリユース方法である。
【0012】
また、展示場等構造物の屋根架構をリユースする場合において、規模縮小後の屋根架構形状寸法が元の屋根架構と相似形であって、元の前記屋根架構を構成する各部材の規模縮小後の節点間長さが、前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されることを特徴とする、構造物のリユース方法である。
【0013】
また、本発明は、例えば、屋根架構が複層もしくは単層のトラス構造であって、軸芯回りに捩られている部材が含まれる構造物の架構において、前記部材の節点間長さが前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記捩られている部材の一端もしくは両端の一部が切除加工されると共に、規模縮小後の前記屋根架構の形状に合わせた捩じり角度になるように、規模縮小後の前記捩られている部材がその軸芯回りに追加捩りを加えられることを特徴とする、前記の構造物のリユース方法である。
【0014】
本発明は、以上のような手段であるので、展示場等構造物の屋根架構をリユースする場合において、規模縮小後の架構形状寸法が元の架構と相似形であるようにすれば、架構を構成する全部材は相似比率に応じて短くなるが各部材の剛比はそのままなので、応力値は変わっても応力分布状態は変わらない。しかも、規模縮小により前記架構に作用する荷重効果は低減されるため、前記応力値が小さくなるので、それら前記部材の強度は元の架構の時よりも余裕度が増すことになる。即ち、部材長さを短くするだけで(即ち、部材断面サイズはそのままで)同じ部材が再利用できるので、改めて部材の設計・製作をする必要がない。
【0015】
また、部材同士が接続される節点の接合部については、元の接合方式がボルト接合であれば、前記部材の切除加工された端部の方を前記節点の節点接合部材に合うようにボルト孔加工すれば、そのまま再利用が可能となる。
【0016】
部材寸法(長さ、断面)と応力および変形の関係について説明する。例えば、極簡単な例(図7(a),(b)参照)として、1本の単純梁Gに載荷された単位長さ当りの鉛直等分布荷重wによる最大の曲げモーメントMと最大のたわみδは、次式のようになる。
【数1】
【数2】
但し、w:鉛直等分布荷重、L:梁の長さ(支点間寸法)
E:ヤング係数、I:梁の断面二次モーメント
【0017】
上記(式1)および(式2)から分かるように、部材(単純梁G)に作用する曲げモーメントMは長さLの2乗に比例し、たわみδは長さLの4乗に比例する。
【0018】
ここで、前記単純梁Gが下記の断面性能を有するトラス梁T(図8参照)であったとして、相似的に縮小された後のトラス梁T1の曲げ耐力M1とたわみδ1への影響を述べる。
【0019】
(トラス梁T)
断面係数Z=a・j、断面二次モーメントI=a・j2/2
但し、a:片側の弦材断面積(上下弦材とも同じとする)
j:上下弦材の重心間寸法
【数3】
但し、F:材料強度
【数4】
(トラス梁T1
相似比率をα(<1.0)として(式3)、(式4)のj、Lをαj、αLに置換えて、断面係数Z1=(a・j)・α、 断面二次モーメントI1=(a・j2/2)・α2
【数5】
【数6】
【0020】
上記(式3)および(式4)と(式5)および(式6)との比較で分かるように、(式3)および(式4)と(式5)および(式6)は、(式5)と(式6)においてそれぞれ、相似比率αと相似比率αの2乗が乗じられていることを除いて同じなので、トラス梁T1はトラス梁Tに比べて、元の曲げ耐力M0はα倍に低下し、元の断面二次モーメントI、つまり、たわみδ0はα2倍に減る。
【0021】
一方、部材(トラス梁)長さLがα倍になると、前述のように、曲げモーメントMは長さLの2乗に比例して減ってα2倍になるので、例えば、部材断面サイズがそのままで規模縮小後に形状寸法が元に対して相似形で、トラス梁の長さLと上下弦材の重心間寸法jが50%(=α)になったとすれば、曲げ耐力はα倍に低下するが作用する曲げモーメントMがα2倍に減少するので、規模縮小後のトラス梁の曲げ耐力の余裕度はα/α2=2.0倍になる。また、たわみはα2=0.25倍と大幅に改善される。
【0022】
以上は単純梁の場合であったが、より複雑な場合として、例えば、図9のような円筒形の立体トラス架構を、部材断面サイズはそのままで辺長A、Bおよび梁せいDを相似的に2/3に縮小して、図13のような縮小架構とした場合で検証する。これら図中の符号および設計条件は次の通りである。
【0023】
(共通)△印:支点、矢印:支点移動可能方向
図9図12:元架構)張間A×桁行B:60m×60m、トラス成D:3m、上下弦材:H-300x150x6.5x9および(一部に)H-294x200x8x12、ラチス材:φ-139x4.5および(支点近傍のみに)φ-165.2x5またはφ-190.7x5.3、固定荷重(鉛直等分布):1907N/m2
【0024】
図13図16:縮小架構)張間A1×桁行B1:40m×40m、トラスせいd:2m、上下弦材:H-300x150x6.5x9および(一部に)H-294x200x8x12、ラチス材:φ-139x4.5および(支点近傍のみに)φ-165.2x5またはφ-190.7x5.3、固定荷重:2293 N/m2
上記縮小架構は元架構の相似形なので、当然、各部材の配置も同じである。
【0025】
ここで、上記のような版状架構における応力・変形と架構寸法との関係について、コンクリートスラブのような連続体の正方形平版との類比にて述べる。四辺単純支持(前記立体トラス架構の支点条件と同様)の場合の最大曲げモーメントMsと最大たわみδsは、版の中央で生じ、次式のようになることが知られている。
【数7】
【数8】
但し、C1、C2、C2 :係数(無次元)、p0:鉛直等分布の単位荷重(kN/m2)、
L:辺長(m)、E:ヤング係数(kN/m2)、t:版厚(m)、
I:版の断面二次モーメント(m4/m)
即ち、最大曲げモーメントは長さの2乗に比例し、最大たわみは長さの4乗に比例しかつ版の断面二次モーメントに反比例する。
【0026】
上式は連続体の場合なので、連続体ではない前記のような立体トラス架構に当て嵌めると、既述ように、1台のトラス梁の断面二次モーメントI1は a・j2/2 であり、(式8)の断面二次モーメントIは版の単位幅当りの値であることを考慮すると、1台のトラス梁の支配幅をsとすれば、I=I1/sと置ける。よって、(式8)は、
【数9】
但し、s:1台のトラス梁の支配幅(m)
となる。
【0027】
次に、相似的に長さがα倍に縮小された場合は、次のようになる。
最大曲げモーメントは、(式7)のLをαLと置いて、
【数10】
最大たわみは、(式9)のL、j、sをそれぞれαL、αj、αsと置いて、
【数11】
となる。
【0028】
(式7)および(式9)と(式10)および(式11)との比較から分かるように、(式7)および(式9)と(式10)および(式11)は、(式10)と(式11)においてそれぞれ、相似比率αの2乗と相似比率αの3乗が乗じられていることを除いて同じなので、相似比率αの縮小架構は元架構に比べて最大曲げモーメントはα2倍に、最大たわみはα3倍になることが分かる。
【0029】
例題の前記立体トラス架構においてはα=2/3なので、最大曲げモーメントは(2/3)2=0.444倍、最大たわみは(2/3)3=0.296倍に相当する。但し、これらは(式10)および(式11)から分かるように、単位面積当りの鉛直等分布荷重p0に比例するので、鉛直等分布荷重p0が変わる場合は補正が必要である。
【0030】
一例として、図9および図13の円筒形立体トラス架構における固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果を、それぞれ図10図12および図14~16に示す。各図共、図10図14が上弦材、図11図15が下弦材、図12図16がラチス材の軸力を示し、線幅の広い程軸力が大きく、ハッチングありが圧縮力、ハッチングなしが引張力である。各図中に表記の大きな数字は、最大の引張および圧縮の軸力値(kN)である。
【0031】
軸力の最大値は、元架構である図9の架構では、図10上弦材(引張272.0kN、圧縮730.9kN)、図11下弦材(引張444.9kN、圧縮490.5kN)、図12ラチス材(引張185.5kN、圧縮223.6kN)となっている。一方、縮小後の図13の架構では、図14上弦材(引張140.4kN、圧縮381.5kN)、図15下弦材(引張235.4kN、圧縮259.1kN)、図16ラチス材(引張95.9kN、圧縮117.1kN)となっている。
【0032】
図10図12図14図16とを比較すると、それぞれの最大軸力発生部材は同じ位置であり、かつ、引張および圧縮の各軸力最大値の図10図12に対する図14図16の比率は、図10図14上弦材(引張0.517、圧縮0.522)、図11図15下弦材(引張0.529、圧縮0.528)、図12図16ラチス材(引張0.517、圧縮0.524)となっている。
【0033】
以上の結果と、(式10)および(式11)より推定される結果とを比較してみる。トラス梁の弦材軸力Nは、N=M/トラスせい(D=3m、d=2m)の関係があるので、(式10)および(式11)の関係は、そのまま弦材軸力にも当て嵌まる。
【0034】
よって、ここでは前記解析結果の弦材軸力との比較をする。図9図12の元架構に対する図13図16の縮小架構の相似比率αが2/3の場合の弦材軸力は、(式10)よりα2=(2/3)倍である。しかし、トラス部材の断面サイズが元のままなので、図9の元架構に対する図13の縮小架構の単位面積当り重量wの比が、2239/1907=1.20倍と重くなる点を考慮し補正すると、弦材軸力の相当倍率βは、β=(2/3)x1.2=0.533倍となる。
【0035】
前記解析結果による部材軸力最大値の図10図12に対する図14図16の比率は、前記の通り、0.52~0.53倍なのでβとよく一致している。即ち、図9のような立体トラス架構の場合においても、架構を相似的に縮小する方法によれば、応力分布状態はほぼ変わらず、かつ相似比率に応じて応力の絶対値が小さくなるため、各部材の耐力は元架構の時よりも一様に余裕度が増す。
【0036】
また、変形の解析結果(図示せず)については、最大たわみは中央節点で発生し、図9の元架構が9.8cm、図13の縮小架構が3.4cmであったので、その比率は3.4/9.8=0.347である。一方、(式11)のαを単位面積当り重量wの比(=1.2)により補正すれば、最大たわみの相当倍率βは、β=(2/3)x1.2=0.356倍なので、ほぼ一致している。
【0037】
以上より、構造物の屋根架構を相似的に縮小してリユースする場合において、部材長さを短くするだけで(即ち、部材断面サイズはそのままで)同じ部材を再利用しても、損傷が無い限り、応力および変形について構造的に問題はないと言える。
【0038】
前記大規模展示場等の屋根架構では、その屋根架構を構成する部材に生じる応力の大小に最も影響を与える曲げモーメントは、主に鉛直荷重により発生することから、構造物を相似形に規模縮小することによる上記のような効果は、前記大規模展示場等の屋根架構において、最も期待できる。
【発明の効果】
【0039】
本発明は、以上のような手段によるので、次のような効果が得られる。展示場等構造物の屋根架構を、規模縮小後の架構形状寸法が元の屋根架構と相似形であるようにリユースする方法によれば、
(1)屋根架構を構成する部材の規模縮小後の強度は、元の屋根架構の時よりも余裕度が増すことになるので、その部材長さを前記相似形の比率に合わせて短くするだけで、部材断面サイズはそのままに同じ部材のほぼ全てを再利用することができる。
【0040】
(2)従って、改めて部材の設計・製作をする必要がない。
(3)元の屋根架構の部材を短く加工することにより、ほぼ全ての部材をそのまま再利用できるので、資源の有効活用に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】トラス構造から成る元の屋根架構の1例を示し、(a)は屋根架構伏図、(b)は(a)のイ-イ断面矢視図である。
図2図1の屋根架構の中央部を残して規模縮小した場合の1例を示し、(a)は規模縮小後の屋根架構伏図、(b)は(a)のロ-ロ断面矢視図である。
図3】本発明の第1実施例であり、(a)は、図1の屋根架構を相似形に規模縮小した後の屋根架構伏図、(b)は(a)のハ-ハ断面矢視図である。
図4】本発明の第2実施例であって、屋根が円筒形の場合において、図3と同様に規模縮小した後の屋根架構であり、図3(a)のハ-ハ断面矢視に対応する図である(屋根架構伏図は省略)。
図5】本発明の実施例において、トラスの形状寸法を相似形に縮小する方法を説明した図であり、(a)は元のトラス、(b)は縮小後のトラスを示す。
図6図4に図示の屋根架構2c棟部付近のP部分拡大伏図(図3(a)のP部分に対応)であって、棟部付近のトラスの上弦材10と下弦材11との位置関係を説明した図である。
図7】図(a),(b)は、それぞれ部材寸法Lが曲げモーメントMとたわみδに及ぼす影響を、単純梁Gを例として説明した図である。
図8図7の単純梁Gをトラス梁Tとした場合の形状寸法を示す図である。
図9】立体トラス架構の一例であり、架構図を示す。
図10図9に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、上弦材の軸力図を示す。
図11図9に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、下弦材の軸力図を示す。
図12図9に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、ラチス材の軸力図を示す。
図13図9の立体トラス架構を相似的に2/3に縮小した場合であり、縮小後の立体トラス架構図を示す。
図14図13に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、上弦材の軸力図を示す。
図15図13に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、下弦材の軸力図を示す。
図16図13に図示する立体トラス架構の固定(鉛直)荷重時の三次元応力解析結果であって、ラチス材の軸力図を示す。
図17】ボールジョイント方式の立体トラスによる円形ドームを示す架構図であり、図(a)はその原型の斜視図、図(b)は原型の架構を相似的に規模縮小してリユースした架構の斜視図である。
図18】図(a)~(d)は、ボールジョイント方式の立体トラスの単位架構について、原型を相似的に規模縮小する場合の要領を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の第1実施例を図3乃至図5にて説明する。図3は、図1に示す元建物1の屋根架構2が相似的に規模縮小されて建物1aの屋根架構2bとなった場合を示す。屋根形状は平版であって、屋根架構2bは屋根架構2と相似形である。屋根架構寸法比A1/A(=B1/B)とトラス成寸法比d/Dは一致するので、屋根架構2bの全部材の長さは、相似比率に一致して短くなる。
【0043】
図4は、屋根形状が円筒形の場合で、図3と同様にして規模縮小された後の屋根架構2cの断面軸組図(図3のハ-ハ断面矢視に対応)である。
【0044】
縮小後の各部材10、11、12、13を短縮する仕方を説明する。図5に示すように、トラス上弦節点間寸法の比S1/Sに対応するように、元の各部材10、11、12、13の片端もしくは両端の一部(図5(a)の斜線部)が切除され、図5(b)のように、形状寸法が相似形のトラスに組み直される。
【0045】
縮小後の各部材10、11、12、13の切除側端部には、各節点接合部Jに接合するための新たなボルト孔(図示せず)が開けられる。この時、各節点接合部J、J、・・・は元のまま再利用するので、例えば、上弦材10の場合、トラス上弦節点から節点接合部J縁端までの寸法eは変わらないため、縮小後の上弦材10の寸法決定では、その点を考慮する必要がある。
【0046】
また、縮小後トラスの形状寸法が元トラスと相似形なので、ラチス材12の傾斜角度θは同じである。
【0047】
以上のように、本発明は、屋根架構2が相似形に縮小されてリユースされる方法であるので、屋根架構を構成する部材の長さを短くすることにより、部材断面サイズはそのままにほぼ全ての部材を再利用することが可能になる。
【0048】
図6は、本発明の第2実施例に関するトラス構造の屋根架構であって、上弦材と下弦材が平行ではない(捩れた位置関係にある)場合の、部分的なトラス伏図と断面軸組図である。図3(a)および図4のP部(棟部付近)に対応する。
【0049】
このように上弦材と下弦材が平行ではない複層トラス構造は、例えば、特許第6450707などにおいて知られており、その上弦材と下弦材は、それぞれ部材軸回りに捩られていることが特徴である。また、複層ではなく、部材軸回りに捩られた部材から成る単層トラス構造もあり、例えば、特許第3418660において知られている。
【0050】
本発明の第2実施例は、そのように部材軸回りに捩られている部材(弦材)を有する複層トラス構造もしくは単層トラス構造の屋根架構に対する場合である。
【0051】
屋根形状が円筒形や2方向曲率を有する複層(もしくは単層)トラス構造の屋根架構では、図6のように、上弦材と下弦材が平行ではなく(複層トラスの場合)、かつそれら部材が軸回りに捩られて構築される場合がある。
【0052】
元の屋根架構の形状寸法が縮小されて相似形になるように、トラスの各部材の片端もしくは両端を切除して短くするところまでは、実施例1と同じであるが、弦材10または11がその軸回りに捩られているので、その長さを短くすると単位長さ当りの捩れ角度は同じでも、部材端部での捩れ角度は、元の材長の時よりも少なくなるため、図5(b)に図示のように、元のまま再利用される節点接合部Jと接合する時、両者の接合面が一致せず、肌隙が生じることになる。
【0053】
それを回避するために、規模縮小後の屋根架構の形状寸法に合った部材端部の捩じれ角度になるように、弦材10または11を軸芯回りに追加捩りを加えることが必要となる。
【0054】
以上のように、第2実施例は、部材の節点間長さが相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の部材10、11、12,13の一端もしくは両端の一部が切除および穴明加工されると共に、規模縮小後の屋根架構の形状に合った部材端部の捩じり角度になるように、短くなったそれら弦材10または11に対して軸芯回りに追加捩りを加えることを特徴とする、構造物のリユース方法である。
【0055】
図17および図18は、本発明の第3実施例であって、鋼管部材を節点の鋼球に1本ボルトにて接合するボールジョイント方式の立体トラスで構成される屋根架構(円形ドームを例示)を相似的に規模縮小してリユースする場合の説明図である。
【0056】
この立体トラスの屋根架構は、図18(a)~(d)に図示のように、主に、8本の鋼管部材で構成される四角錐体の集合体となっており、規模縮小してリユースする場合は、同図に示すように、節点間長さが相似形の比率に合う長さになるように各部材を切除し、切除側の部材端部に、ねじ孔を有する端部金物を新たに溶接し、その端部金物のねじ孔と元の鋼球のねじ孔とに螺合される新しいボルトを用いて、各鋼管を再度組み立てればよい。
【0057】
従って、リユースに際して廃棄される材料は、部材の切除部分と抜き取ったボルトのみであり、新規部材は新たに溶接された端部金物とボルトのみである。部材サイズおよびボルトサイズは元のままなので、鋼球はそのまま再利用ができる。
【0058】
以上は、屋根架構を相似的に規模縮小するリユース方法について述べたが、これらのことは屋根架構に限定されるものではなく、一般の構造物(例えば、工場や倉庫等)の架構を相似的に規模縮小してリユースする場合においても同様である。
【0059】
即ち、規模縮小後の架構形状寸法が元の架構と相似形であって、元の前記架構を構成する部材の規模縮小後の節点間長さが、前記相似形の比率に合わせた長さになるように、規模縮小前の前記部材の一端もしくは両端の一部が切除加工される方法によれば、応力分布状態はほぼ変わらず、かつ相似比率に応じて応力の絶対値が小さくなるため、各部材の耐力は元架構の時よりも一様に余裕度が増し、かつ、最大変形も前記相似比率に応じて大幅に減少することは、例題の前記立体トラス架構についての応力、変形の検証からも明らかである。よって本発明は、屋根架構に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、特に、博覧会等で建設される短期間のみ使用される仮設の大空間構造物が、規模縮小されてリユースされる場合において、ほぼ全部の既存部材を再利用できるリユース方法であり、資源の有効活用に大いに寄与する。
【符号の説明】
【0061】
1:元建物
1a:規模縮小後の建物
2:元の屋根架構
2a、2b、2c:規模縮小後の屋根架構
10:上弦材
11:下弦材
12:ラチス材
13:束材
A、A1、B、B1:屋根架構寸法
D、d:トラス成寸法
G:梁
L:部材(梁)長さ(梁の支点間寸法)
M:曲げモーメント
δ:たわみ
S:元の屋根架構におけるトラスの上弦節点間寸法
1:規模縮小後の屋根架構におけるトラスの上弦節点間寸法
e:トラス節点から節点接合部縁端までの寸法
θ:ラチス材の傾斜角度
図1
図2
図3
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図18