(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】MEMSスピーカ及びスピーカの取付構造
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20221108BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20221108BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20221108BHJP
H04R 19/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H04R1/28 310B
H04R1/02 101B
H04R17/00
H04R19/02
(21)【出願番号】P 2022097126
(22)【出願日】2022-06-16
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】202111668046.7
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517409583
【氏名又は名称】エーエーシー マイクロテック(チャンヂョウ)カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】No.3 changcao road, Hi-TECH Industrial Zone, Wujin District, Changzhou City, Jiangsu Province, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】沈 宇
(72)【発明者】
【氏名】程 ▲詩▼▲陽▼
(72)【発明者】
【氏名】周 一▲ウェイ▼
(72)【発明者】
【氏名】但 ▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲揚▼
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112218220(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102938869(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106507253(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSスピーカであって、両端が開口状を呈しかつ中空を呈する基板と、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射するための振動発音部とを含み、
前記振動発音部は、前記基板の一方の開口端に固定されて被覆され、前記振動発音部の振動により生成された音波は、古典的な音波定理に合致し、
前記MEMSスピーカは、前記基板の他方の開口端に被覆されて固定されたバッフル板をさらに含み、前記バッフル板、前記基板及び前記振動発音部は、ともに囲んで発音キャビティを形成し、
前記発音キャビティの体積は、前記発音キャビティの共振周波数が前記MEMSスピーカの予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティの共振周波数を調整することに用いられ、
前記バッフル板には、それを貫通する貫通孔が設けられており、前記発音キャビティは、前記貫通孔により外部と連通し、前記貫通孔の体積は、前記MEMSスピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられ
、
前記発音キャビティの前記振動発音部の振動方向に垂直な断面積はS
1
であり、前記貫通孔の前記振動方向に垂直な断面積はS
2
であり、前記貫通孔の前記振動発音部の振動方向に垂直な長さはιであり、前記MEMSスピーカの音響強度透過係数はt
i
であり、P
t
は透過音圧であり、P
i
は入射波の音圧であり、以下の式(1)を満たすことを特徴とするMEMSスピーカ。
【数1】
(1)
ただし、kは、音響強度透過係数定数であり、
【数2】
【数3】
【請求項2】
前記貫通孔は、1つ又は複数ある、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスピーカ。
【請求項3】
前記貫通孔の振動方向に垂直な断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のうちのいずれか一方である、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスピーカ。
【請求項4】
前記MEMSスピーカは、微小電気機械システムプロセスで製造された圧電スピーカである、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスピーカ。
【請求項5】
前記振動発音部は、電磁駆動、圧電駆動又は静電駆動を用いたものである、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスピーカ。
【請求項6】
前記基板と前記バッフル板は、ボンディングプロセスを用いて接続される、ことを特徴とする請求項1に記載のMEMSスピーカ。
【請求項7】
スピーカの取付構造であって、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射し、スピーカ、固定部及びバッフル板を含み、前記固定部の一端が前記バッフル板に固定接続されて収容空間を形成し、前記スピーカが前記収容空間に収容され、
前記スピーカと前記バッフル板は、ともに囲んで発音キャビティを形成し、前記発音キャビティの体積は、前記発音キャビティの共振周波数が前記スピーカの予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティの共振周波数を調整するために用いられ、
前記バッフル板には、それを貫通する貫通孔が設けられ、前記発音キャビティは、前記貫通孔により外部と連通し、前記貫通孔の体積は、前記スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられ、
前記固定部は、前記スピーカに固定接続されて封止構造を形成
し、
前記発音キャビティの前記スピーカの振動方向に垂直な断面積はS
1
であり、前記貫通孔の前記スピーカの振動方向に垂直な断面積はS
2
であり、前記貫通孔の前記スピーカの振動方向に垂直な長さはιであり、前記スピーカの音響強度透過係数はt
i
であり、P
t
は透過音圧であり、P
i
は入射波の音圧であり、以下の式(1)を満たすことを特徴とするスピーカの取付構造。
【数4】
(1)
ただし、kは、音響強度透過係数定数であり、
【数5】
【数6】
【請求項8】
前記固定部は、粘性物質により前記スピーカに固定接続されて封止構造を形成する、ことを特徴とする請求項7に記載のスピーカの取付構造。
【請求項9】
前記粘性物質は、シリカゲルである、ことを特徴とする請求項8に記載のスピーカの取付構造。
【請求項10】
前記固定部と前記バッフル板は、一体成形プロセスで製造される、ことを特徴とする請求項7に記載のスピーカの取付構造。
【請求項11】
前記貫通孔は、1つ又は複数あり、前記貫通孔の振動方向に垂直な断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のうちのいずれか一方である、ことを特徴とする請求項7に記載のスピーカの取付構造。
【請求項12】
前記スピーカは、MEMSスピーカである、ことを特徴とする請求項7に記載のスピーカの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換の分野に関し、特に携帯型モバイル電子製品に適用されるMEMSスピーカ及びスピーカの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカは、例えば、携帯電話などの携帯型モバイル電子製品に広く適用され、オーディオ信号を音声に変換して再生することを実現し、携帯型モバイル電子製品の小型化は、スピーカの小型化がますます広がるように推進する。スピーカの音圧レベル(SPL)及び高調波歪み(THD)は、音響性能における重要な指標である。
【0003】
しかしながら、関連技術のスピーカは、小型化によって、振動発音部の発音面積が小さく、高い音圧レベル(SPL)を得ることが困難であり、かつ小型化されたスピーカの共振周波数(f0)が高い。小型化されたスピーカは、高い共振周波数(f0)の共振状態で、音圧レベル(SPL)の変化幅が大きく、それに応じて感度が高くなる。したがって、スピーカは、共振周波数(f0)に対応する1/2周波数における高調波歪み(THD)及び1/3周波数における高調波歪み(THD)が大きくなり、スピーカの音響効果が低い。小型化されたスピーカに対して、設計者は、一般的にスピーカに可撓膜を追加する方法を採用して周波数における共振ピークのピーク値を低下させて、高調波歪み(THD)を低下させるようにするが、この方法の効果が低く、設計要件を達成することが困難である。
【0004】
したがって、上記技術問題を解決するために、新たなスピーカ及び関連設計方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さいMEMSスピーカ及びスピーカの取付構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1局面において、本発明の実施例は、MEMSスピーカを提供し、それは、両端が開口状を呈しかつ中空を呈する基板と、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射するための振動発音部とを含み、前記振動発音部は、前記基板の一方の開口端に固定されて被覆され、前記振動発音部の振動により生成された音波は、古典的な音波定理に合致し、前記MEMSスピーカは、前記基板の他方の開口端に被覆されて固定されたバッフル板をさらに含み、前記バッフル板、前記基板及び前記振動発音部は、ともに囲んで発音キャビティを形成し、前記発音キャビティの体積は、前記発音キャビティの共振周波数が前記発音デバイスの予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティの共振周波数を調整することに用いられ、前記バッフル板には、それを貫通する貫通孔が設けられ、前記発音キャビティは、前記貫通孔により外部と連通し、前記貫通孔の体積は、前記発音デバイスの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整することに用いられ
、
前記発音キャビティの前記振動発音部の振動方向に垂直な断面積はS
1
であり、前記貫通孔の前記振動方向に垂直な断面積はS
2
であり、前記貫通孔の前記振動発音部の振動方向に垂直な長さはιであり、前記MEMSスピーカの音響強度透過係数はt
i
であり、P
t
は透過音圧であり、P
i
は入射波の音圧であり、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
【数1】
(1)
ただし、kは、音響強度透過係数定数であり、
【数2】
【数3】
【0007】
好ましくは、前記貫通孔は、1つ又は複数ある。
【0008】
好ましくは、前記貫通孔の振動方向に垂直な断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のうちのいずれか一方である。
【0009】
好ましくは、前記MEMSスピーカは、微小電気機械システムプロセスで製造された圧電スピーカである。
【0010】
好ましくは、前記振動発音部は、電磁駆動又は圧電駆動又は静電駆動を用いたものである。
【0011】
好ましくは、前記基板と前記バッフル板は、ボンディングプロセスを用いて接続される。
【0012】
第2局面において、本発明の実施例は、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射するスピーカの取付構造をさらに提供し、それは、スピーカと、固定部と、バッフル板とを含み、前記固定部の一端が前記バッフルに固定接続されて収容空間を形成し、前記スピーカが前記収容空間に収容され、前記スピーカ及び前記バッフルがともに囲んで発音キャビティを形成し、前記発音キャビティの体積は、前記発音キャビティの共振周波数が前記スピーカの予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティの共振周波数を調整することに用いられ、前記バッフルにはそれを貫通する貫通孔が設けられ、前記発音キャビティは、前記貫通孔により外部と連通し、前記貫通孔の体積は、前記スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられ、前記固定部は、前記スピーカに固定接続されて封止構造を形成
し、
前記発音キャビティの前記スピーカの振動方向に垂直な断面積はS
1
であり、前記貫通孔の前記スピーカの振動方向に垂直な断面積はS
2
であり、前記貫通孔の前記スピーカの振動方向に垂直な長さはιであり、前記スピーカの音響強度透過係数はt
i
であり、P
t
は透過音圧であり、P
i
は入射波の音圧であり、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
【数4】
(1)
ただし、kは、音響強度透過係数定数であり、
【数5】
【数6】
【0013】
好ましくは、前記固定部は、粘性物質により前記スピーカに固定接続されて封止構造を形成する。
【0014】
好ましくは、前記粘性物質は、シリカゲルである。
【0015】
好ましくは、前記固定部と前記バッフル板は、一体成形プロセスで製造される。
【0016】
好ましくは、前記貫通孔は、一つ又は複数あり、前記貫通孔の振動方向に垂直な断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のうちのいずれか一方である。
【0017】
好ましくは、前記スピーカは、MEMSスピーカである。
【発明の効果】
【0018】
関連技術に比べて、本発明に提供されるスピーカは、バッフル板、基板及び振動発音部によりともに発音キャビティが囲まれてなり、バッフル板に貫通孔を設け、さらに発音キャビティの体積によりキャビティの共振周波数を調整し、貫通孔の体積は、スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。当該構造によれば、設計者は、発音キャビティの体積及び貫通孔の体積を合理的に調整することができ、それによってスピーカの音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さくなる。本発明のスピーカ取付構造は、バッフル板に貫通孔を設けて、さらに発音キャビティの体積によりキャビティの共振周波数を調整し、貫通孔の体積が、スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。当該構造によれば、設計者は、発音キャビティの体積及び貫通孔の体積を合理的に調整することができ、それによってスピーカの音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の実施例における技術案をより明瞭に説明するために、以下、実施例に記載された使用が必要な図面を簡単に紹介し、明らかに、以下に記載される図面は、本発明の一部の実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的労力をかけない前提で、これらの図面より他の図面を得ることができる。
【
図1】本発明の第1実施例のMEMSスピーカの構造概略図である。
【
図2】関連技術のMEMSスピーカの適用構造概略図である。
【
図3】本発明の第1実施例のMEMSスピーカの適用構造概略図である。
【
図5】関連技術のMEMSスピーカ及び本発明の第1実施例のMEMSスピーカの音圧レベルと周波数の関係の曲線図である。
【
図6】関連技術のMEMSスピーカ及び本発明の第1実施例のMEMSスピーカの高調波歪みと周波数の関係の曲線図である。
【
図7】本発明の第2実施例のスピーカの取付構造の構造概略図である、
【
図8】本発明のスピーカ音響指標設計方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例における図面を参照しながら、本発明の実施例における技術案を明瞭に、完全に説明する。当然ながら、説明される実施例は、本発明の一部の実施例に過ぎす、全ての実施例ではない。本発明における実施例に基づき、当業者は、創造的労力をかけない前提で、得た全ての他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0021】
(第1実施例)
【0022】
本発明は、MEMSスピーカ100を提供する。
図1~6を併せて参照し、
図1は、本発明の第1実施例のMEMSスピーカの構造概略図である。
具体的には、前記MEMSスピーカ100は、振動発音部1と、両端が開口状を呈しかつ中空を呈する基板2と、バッフル板3とを含む。
【0023】
前記振動発音部1は、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射するために用いられる。ここで、前記振動発音部1が振動して生成した音波は、古典的な音波定理に合致する。前記振動発音部1は、電磁駆動又は圧電駆動又は静電駆動を用いたものである。
【0024】
前記振動発音部1は、前記基板2に接続されている。具体的には、前記振動発音部1は、前記基板2の一方の開口端に固定されて被覆される。
【0025】
本第1実施例において、前記MEMSスピーカ100は、微小電気機械システムプロセスを採用して製造される。微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical System、MEMSと略称する)は、微小電子機械システム、マイクロシステム、微小機械などとも呼ばれ、サイズが数ミリメートル乃至より小さい先端技術装置を指す。前記振動発音部1は、微小電気機械システムプロセスで製造された圧電スピーカである。微小電気機械システムプロセスを採用して製造された前記振動発音部1は、MEMSスピーカ100の小型化に有利である。当然のことながら、これに限定されず、従来のプロセスを採用して前記スピーカを製造することも可能であり、前記振動発音部1が従来の前記振動発音部1を採用することも可能である。例えば、本分野の一般的なスピーカ及び圧電セラミックシートである。
【0026】
前記基板2は、前記発音キャビティ4を形成するために用いられる。
【0027】
前記バッフル板3と前記基板2は、ボンディングプロセスを用いて接続される。前記バッフル板3は、前記基板2の他方の開口端に被覆されて固定される。前記バッフル板3、前記基板2及び前記振動発音部1は、ともに囲んで前記発音キャビティ4を形成する。前記発音キャビティ4の体積は、前記発音キャビティ4の共振周波数が前記MEMSスピーカ100の予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティ4の共振周波数を調整するために用いられる。
【0028】
前記バッフル板3には、それを貫通する貫通孔5が設けられている。前記発音キャビティ4は、前記貫通孔5により外部と連通する。前記貫通孔5の体積は、前記MEMSスピーカ100の動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。
【0029】
前記貫通孔5は、1つ又は複数ある。本第1実施例において、前記貫通孔5は、1つである。
【0030】
前記貫通孔5の前記振動発音部1の振動方向に垂直な横断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のいずれか一方である。本第1実施例において、前記貫通孔5の前記振動発音部1の振動方向に垂直な横断面は、円形である。
【0031】
前記発音キャビティ4の体積と前記貫通孔5の体積は、前記MEMSスピーカ100の音響指標を調整することができ、具体的には、以下のとおりである。前記発音キャビティ4の前記振動発音部1の振動方向に垂直な断面積はS
1であり、前記貫通孔5の前記振動方向に垂直な断面積はS
2であり、前記貫通孔5の前記振動発音部1の振動方向に垂直な長さはιであり、前記MEMSスピーカ100の音響強度透過係数はt
iであり、P
tは透過音圧であり、P
iは入射波の音圧であり、以下の式(1)を満たす。
【数7】
(1)
ただし、kは、音響強度透過係数定数である。
【数8】
【数9】
【0032】
図2~3を併せて参照し、
図2は、関連技術のMEMSスピーカ200から発した音声が外耳道により伝播する簡略化概略図であり、MEMSスピーカ200が従来のMEMSスピーカである。キャビティ20は、音声の伝播キャビティであり、すなわち人体の外耳道である。キャビティ20の開口部は、音声受信部であり、すなわち人体の鼓膜である。
【0033】
図3は、本発明の第1実施例に係るMEMSスピーカ100から発した音声が外耳道により伝播する簡略化概略図である。キャビティ30は、音声の伝播キャビティであり、すなわち人体の外耳道である。キャビティ30の開口部は、音声受信部であり、すなわち人体の鼓膜である。
【0034】
図4を参照し、
図4は、
図3の適用原理図である。
図3における音声伝播経路は、
図4の原理図に簡略化することができる。ここで、Aは前記発音キャビティ4を示し、その断面積はS
1である。Bは前記貫通孔5を示し、その横断面積はS
2である。Cはキャビティ30を示し、その断面積はS
3である。
【0035】
Aにおける入射波の音圧はPiであり、AとBの境界面において、音圧Piに対応する音波は、反射及び透過され、その反射波の音圧がP1rであり、その透過波の音圧がP2tである。
【0036】
Bにおける入射波の音圧はP2tであり、BとCの境界面において、音圧P2tに対応する音波は、反射及び透過され、その反射波の音圧がP2rである。
【0037】
CにおけるPtは、音圧P2tの透過音圧である。
【0038】
設計者は発音キャビティ4の断面積S
1、貫通孔5の断面積S
2及び貫通孔の長さιにより前記MEMSスピーカ100の音圧レベル及び高調波歪みを調整できる原理は、以下のとおりである。
音響強度透過係数はt
iであり、以下の式を満たす。
【数10】
(1)。
かつ、S
12及びS
21は、それぞれ下記の式を満たす。
【数11】
【数12】
【0039】
式(1)から分かるように、透過の音圧レベルの大きさは、断面積S
1及び断面積S
2に関連し、さらに前記貫通孔5の長さι及び予め定められた周波数の波長λ(又は周波数f)に関連し、ここで、以下に示す数式7又は数式8(nは正の整数)である場合にのみ、音波は、全て透過することができる。それによって、設計者は、式(1)に基づいて断面積S
1、断面積S
2及び長さιの数値を調整して、予め定められた周波数の波長λ(又は周波数f)の音波音圧をフィルタリングするか又は低減することができ、このようにすると、当該予め定められた周波数での1/2周波数の高調波歪み(THD)及び1/3周波数の高調波歪み(THD)も対応的に弱められるか又は低減される。
【数13】
【数14】
【0040】
本第1実施例において、前記振動発音部1の動作周波数範囲が周波数6000Hz~周波数20000Hzであることを例として、設計者は、式(1)の断面積S
1、断面積S
2及び長さιの数値の大きさにより、周波数20000Hzを超える音圧を低下させて、周波数6000Hz~周波数20000Hzの動作周波数範囲内の高調波歪み(THD)の大きさを低下させることができる。
図5を参照し、
図5は、関連技術のMEMSスピーカ及び本発明の第1実施例のMEMSスピーカの音圧レベルと周波数との関係の曲線図である。ここで、W2は、
図2における関連技術のMEMSスピーカ200の音圧レベルと周波数との関係の曲線である。ここで、W2に基づいてMEMSスピーカ200自体の共振周波数f
0’を取得することができる。同時に、W1からキャビティ20により生じる共振周波数f
1を取得することもできる。
【0041】
W1は、
図3における本発明のMEMSスピーカ100の音圧レベルと周波数との関係の曲線である。ここで、W1に基づいてMEMSスピーカ100自体の共振周波数f
0を取得することができる。同時に、W2からキャビティ30により生じる共振周波数f
3を取得するとともに、前記発音キャビティ4及び前記貫通孔5によって形成されたキャビティにより生じる共振周波数f
2を取得することもできる。式(1)により断面積S
1、貫通孔5の断面積S
2及び貫通孔5の長さをιに調整することにより、共振周波数f
2と共振周波数f
3の周波数を非常に近接させることができ、共振周波数f
2と共振周波数f
3の共同作用により、周波数6000Hz~周波数20000Hzの動作周波数内の音圧レベル(SPL)を効果的に向上させる。
【0042】
図6を参照し、
図6は、関連技術のMEMSスピーカ及び本発明の第1実施例のMEMSスピーカの高調波歪みと周波数との関係の曲線図である。ここで、W3は、
図2における関連技術のMEMSスピーカ200の高調波歪みと周波数との関係の曲線である。W4は、
図3における本発明のMEMSスピーカ100の高調波歪みと周波数との関係の曲線である。図から得られるように、貫通孔5は式(1)においてフィルタ作用を果たすことができ、それによって周波数20000Hzの外高周波の音圧が反射されて貫通孔5を通過する音圧が低下する。それによって、6000Hzから20000Hzまでの動作周波数内の高調波歪み(THD)が効果的に低減される。
【0043】
したがって、式(1)に基づいて断面積S1、貫通孔5の断面積S2及び貫通孔5の長さιを調整することによって、本発明のMEMSスピーカ100の音圧レベル(SPL)を効果的に向上させるとともに、高調波歪み(THD)を効果的に低減することができる。
【0044】
(第2実施例)
【0045】
本発明は、スピーカの取付構造400をさらに提供する。
【0046】
図7を参照し、
図7は、本発明の第2実施例のスピーカの取付構造400の構造概略図である。
【0047】
スピーカの取付構造400は、電気信号の励起で人の耳の聴覚周波数範囲内の音波を放射するものであり、スピーカの取付構造400は、スピーカ8と、固定部6と、バッフル板3’とを含み、固定部6の一端がバッフル板3’に固定接続されて収容空間を形成し、スピーカ8が収容空間内に収容され、スピーカ8及びバッフル板3’は、ともに囲んで発音キャビティ4’を形成し、発音キャビティ4’の体積は、発音キャビティ4’の共振周波数がスピーカ8の予め設定された周波数と共振するように、前記発音キャビティ4’の共振周波数を調整するために用いられる。
【0048】
固定部6は、スピーカ8に固定接続されて封止構造を形成し、固定部6は、粘性物質7によりスピーカ8に固定接続されて封止構造を形成する。当然のことながら、これに限定されず、他の実施例において、前記固定部6は、溶接方式によりスピーカ8に固定接続されて封止構造を形成することもできる。
【0049】
バッフル板3’には、それを貫通する貫通孔5’が設けられており、発音キャビティ4’は、貫通孔5’により外部と連通し、貫通孔5’の体積は、スピーカ8の動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。
【0050】
貫通孔5’は、1つ又は複数ある。貫通孔5’の振動方向に垂直な断面は、円形、楕円形、正方形、長方形及び三角形のうちのいずれか一方である。
【0051】
本実施例におけるスピーカの取付構造は、スピーカの種類を限定せず、スピーカは、MEMSスピーカであってもよく、他のプロセスで製造されたスピーカであってもよい。
【0052】
本第2実施例において、前記固定部6と前記バッフル板3’は、一体成形プロセスで製造される。当然のことながら、これに限定されず、前記固定部6と前記バッフル板3’は、分離してもよく、製造プロセスが異なってもよい。
【0053】
前記固定部6を設けることは、スピーカの取付構造400の組立及び適用に有利である。
【0054】
本第2実施例において、前記粘性物質7は、シリカゲルである。シリカゲルを前記粘性物質7とすることで、組み立ての封止効果が高くかつ操作プロセスが簡単になる。当然のことながら、これに限定されず、前記固定部6と前記スピーカ8を固定封止構造に形成する他の接着剤材料であってもよい。
【0055】
(第3実施例)
【0056】
第1実施例のMEMSスピーカ100の構造及び第2実施例のスピーカ取付構造400の構造によれば、設計者は、発音キャビティの体積及び貫通孔の体積を合理的に調整することができ、それによりスピーカの音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さい。具体的には、本発明は、さらにスピーカ音響指標の設計方法を提供する。
【0057】
図8を参照し、
図8は、本発明のスピーカ音響指標の設計方法のフローチャートである。前記スピーカ音響指標の設計方法は、前記MEMSスピーカ100又は前記スピーカ取付構造400に基づくものである。
【0058】
MEMSスピーカ100を例として、スピーカ音響指標の設計方法は、以下のステップを含む。
【0059】
ステップS1では、前記発音キャビティ4の共振周波数が前記発音デバイス100の前記予め設定された周波数と共振するまで、前記発音キャビティ4の体積を調整することによって、予め設定された周波数の音圧レベルを向上させる。
【0060】
ステップS2では、S1、S2及びιの大きさを調整することによって、前記発音デバイス100の前記動作周波数範囲内の高調波歪みを低減する。
【0061】
スピーカ取付構造400において、スピーカ音響指標の設計方法は、上記方法と基本的に同じであるため、説明を省略する。
【0062】
本発明のスピーカ音響指標の設計方法を採用することによって、本発明のスピーカの音圧レベル(SPL)を効果的に向上させるとともに、高調波歪み(THD)を効果的に低減することができる。
【0063】
関連技術に比べて、本発明によるスピーカでは、バッフル板、基板及び振動発音部によりともに発音キャビティが囲まれてなり、バッフル板に貫通孔を設け、さらに発音キャビティの体積によりキャビティの共振周波数を調整し、貫通孔の体積は、スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。当該構造によれば、設計者は、発音キャビティの体積及び貫通孔の体積を合理的に調整することができ、それによりスピーカの音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さくなる。本発明のスピーカ取付構造では、バッフル板により貫通孔を設けて、さらに発音キャビティの体積によりキャビティの共振周波数を調整し、貫通孔の体積は、スピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整するために用いられる。当該構造によれば、設計者は、発音キャビティの体積及び貫通孔の体積を合理的に調整することができ、それによりスピーカの音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さくなる。
【0064】
上述したのは、本発明の実施形態であり、当業者にとって、本発明の創造的構想を逸脱しない前提で、種々の改良も行ってもよいが、これらは、いずれも本発明の保護範囲に含まれると理解されるべきである。
【要約】
【課題】本発明は、MEMSスピーカを提供する。
【解決手段】MEMSスピーカは、基板、振動発音部、及び貫通孔が設けられたバッフル板を含み、バッフル板、基板及び振動発音部はともに囲んで発音キャビティを形成し、発音キャビティの体積は、発音キャビティの共振周波数がMEMSスピーカの予め設定された周波数と共振するように、発音キャビティの共振周波数を調整することに用いられ、貫通孔の体積はMEMSスピーカの動作周波数範囲内の音圧レベル及び高調波歪みを調整することに用いられる。本発明はさらにスピーカの取付構造を提供し、それは、スピーカ、固定部及びバッフル板を含み、スピーカ及び前記バッフル板はともに囲んで発音キャビティを形成し、固定部はスピーカに接続されてスピーカと固定封止構造を形成する。関連技術に比べて、本発明を用いた技術案では音圧レベルが高くかつ高調波歪みが小さい。
【選択図】
図1