(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】走査型レーザ印字装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20221108BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20221108BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20221108BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20221108BHJP
G02B 6/26 20060101ALI20221108BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20221108BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B23K26/064 A
B23K26/082
G02B6/02 421
G02B6/02 451
G02B6/26
H01S3/00 B
H01S3/067
(21)【出願番号】P 2018102113
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】若山 雄貴
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0024832(US,A1)
【文献】特開平07-333445(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181088(WO,A2)
【文献】米国特許第04940881(US,A)
【文献】特開2002-244060(JP,A)
【文献】特開2015-100808(JP,A)
【文献】特開2006-258838(JP,A)
【文献】特開2012-148314(JP,A)
【文献】特開2015-142937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/064
B23K 26/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が出力される光ファイバと、
前記光ファイバの光出力端を変位させる光ファイバ駆動機構と、
前記光ファイバからの出力光を集束するための第一のレンズと第二のレンズを有し、
前記第一のレンズは、その光軸が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの光軸と前記第二のレンズの光軸との相対的位置関係が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの倍率が1以下であり、前記光ファイバからの出力光をコア径以下の大きさで集束し、
前記第二のレンズの倍率が1以上であり、
前記第一のレンズは、前記光ファイバの光出力端と前記第二のレンズの間にあり、前記第一のレンズで集束された出力光が前記第二のレンズに入射され
、
前記第二のレンズから出射された出力光が印字対象物上で集束することを特徴とする走査型レーザ印字装置。
【請求項2】
前記光ファイバは、その光出力端部の先端に、前記第一のレンズが備えられたレンズ装荷型光ファイバであることを特徴とする請求項1記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項3】
前記第一のレンズは、入力される電気信号に依存して光軸が変化する液体レンズであることを特徴とする請求項1記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項4】
さらに、前記第一のレンズの光軸を変化させるレンズ駆動機構と、
前記レンズ駆動機構を駆動するための第一の駆動電圧制御回路と、
前記光ファイバ駆動機構を駆動するための第二の駆動電圧制御回路とを備え、
前記第一の駆動電圧制御回路と前記第二の駆動電圧制御回路とに入力される電気信号の繰り返し周波数がほぼ同一であることを特徴とする請求項1記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項5】
光が出力される光ファイバと、
前記光ファイバの光出力端を変位させる光ファイバ駆動機構と、
前記光ファイバからの出力光を集束するための第一のレンズと第二のレンズと第三のレンズを有し、
前記第一のレンズは、その光軸が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの光軸と前記第二のレンズの光軸との相対的位置関係が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの倍率が1以下であり、前記光ファイバからの出力光をコア径以下の大きさで集束し、
前記第二のレンズの倍率が1以上であり、
前記第一のレンズは、前記光ファイバの光出力端と前記第二のレンズの間にあり、前記第一のレンズで集束された出力光が前記第二のレンズに入射され、
前記第三のレンズは、レンズを透過する光線が光軸に対してほぼ平行であるテレセントリックレンズであり、
前記第三のレンズは、第二のレンズの出射した出力光が入射され
、
前記第三のレンズから出射された出力光が印字対象物上で集束することを特徴とする走査型レーザ印字装置。
【請求項6】
前記光ファイバから出力された光の一部を分岐するための光分岐器と、
前記光分岐器で分岐された一方の光を入力するための受光器と、
前記受光器と電気的に接続されたビーム位置検出回路とを備え、
前記ビーム位置検出回路により算出されたビーム位置情報に基づき前記光ファイバ駆動機構を駆動することを特徴とする請求項5記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項7】
前記光ファイバが、マルチモード光ファイバであることを特徴とする請求項1記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項8】
前記光ファイバが、フォトニック結晶ファイバであることを特徴とする請求項1記載の走査型レーザ印字装置。
【請求項9】
光が出力される光ファイバと、
前記光ファイバの光出力端を変位させる光ファイバ駆動機構と、
前記光ファイバからの出力光を集束するための第一のレンズと第二のレンズと第三のレンズと第四のレンズを有し、
前記第一のレンズは、その光軸が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの光軸と前記第二のレンズの光軸との相対的位置関係が前記光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、
前記第一のレンズの倍率が1以下であり、前記光ファイバからの出力光をコア径以下の大きさで集束し、
前記第二のレンズの倍率が1以上であり、
前記第一のレンズは、前記光ファイバの光出力端と前記第二のレンズの間にあり、前記第一のレンズで集束された出力光が前記第二のレンズに入射され、
前記第三のレンズは、レンズを透過する光線が光軸に対してほぼ平行であるテレセントリックレンズであり、
前記第三のレンズは、第二のレンズの出射した出力光が入射され、
前記第四のレンズは、その光軸の垂直方向に対し1方向のみに曲面を有する円柱レンズであり、
前記第四のレンズは、第三のレンズの出射した出力光が入射され
、
前記第四のレンズから出射された出力光が印字対象物上で集束することを特徴とする走査型レーザ印字装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型レーザ印字装置に係り、特に、光ファイバの先端を走査することにより、印字位置を定める走査型レーザ印字装置において、印字対象物に対して高精細かつ高速に印字するのに好適であり、安全性が高いレーザ印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、工業製品などに賞味期限やバーコード等を非接触で印字する方法として、レーザ光を照射することで表面を加工するレーザ印字方式が知られている。例えば、特許文献1には、レーザ印字装置の構成として、CO2レーザから出射された光を、ガルバノミラーを用い2次元面内で走査する構成が開示されている。また、CO2レーザなどのガスレーザに代わり、YAGレーザ、YVO4レーザ、ファイバレーザ、半導体レーザなどの固体レーザを用いたレーザ印字装置も知られている。特許文献2には、レーザ印字装置の構成として、半導体レーザから出射された光を、ガルバノミラーを用い2次元面内で走査する構成が開示されている。
【0003】
特許文献2に記載の半導体レーザを用いたレーザ印字装置は、CO2レーザと比較し、出射ビーム径が小型であるため、高精細な印字が可能であるという利点がある。
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載のレーザ印字装置においては、レーザ光を走査するために、ガルバノミラーを用いている。ガルバノミラーは、比較的大型であるという理由から、高速な駆動が難しく、ガルバノミラーの応答速度が印字速度を制限する要因となる。また、特許文献1および特許文献2に記載のレーザ印字装置においては、ともに、光を自由空間に取り出す必要があるため、レーザが高出力であるときには安全性に懸念がある。
【0005】
このような課題を解決するために、光ファイバ先端を直接走査するレーザ印字装置がある。光ファイバ先端を直接走査する技術に関しては、例えば、特許文献3がある。特許文献3には、光ファイバ先端を振動させる光ファイバスキャナが開示されており(
図4、段落番号0045)、その適用例として、医療用のファイバスコープ内視鏡が採り上げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-96797号公報
【文献】特開平11-156567号公報
【文献】特表2008-504557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光ファイバスキャナは小型、軽量であり、高速な駆動が可能であるため、光ファイバスキャナを用いたレーザ印字装置は、ガルバノミラーを用いたレーザ印字装置と比較して、高速印字の観点で有利である。また、光ファイバスキャナを用いたレーザ印字装置は、レーザ光源からスキャナ出射端部まで自由空間を介さないシームレスな接続により、高い安全性が期待される。
【0008】
しかしながら、光ファイバスキャナを用いたレーザ印字装置においては、高精細印字と高速印字がトレードオフの関係にあり、両者を両立させるのは難しいという課題がある。
【0009】
一般に、高速印字するにはレーザパワーを増大させる必要があるが、レーザパワーを大きくすると光ファイバ中のエネルギー密度が高くなるため、光ファイバを劣化させる懸念がある。そのため光ファイバのコア径を大きくし、エネルギー密度を低減する必要がある。コア径を大きくすることで光ファイバの劣化は抑制されるが、出射ビーム径が大型化することとなり、印字品質が劣化することとなる。光ファイバから出射された光を、レンズを用い集束することで、ビーム径を小さくすることが可能ではあるが、この場合はビームを走査できる領域が狭くなってしまう。よって、いずれにしてもレーザ高出力化による出射ビーム径の大型化は印字品質の劣化につながる。
【0010】
なお、光ファイバ先端を振動させて、レーザ光の出射方向を可変にする光ファイバスキャナは、特許文献3に示されるような医療用のファイバスコープ内視鏡などに応用されることが一般的に知られている。ファイバスコープ内視鏡は人体内部を観察することを目的としており、レーザの高出力化に対する要求がないため、出射ビームが大型化する課題自体がない。またファイバスコープ内視鏡は人体内部の極微小エリアを観察することが目的であるため、広範囲に光を走査する必要性が無く、仮に出射ビームが大型化する課題があったとしても、レンズで集束すればよく、そのときに発生する光の走査領域の縮小は、課題にはならない。そのため、光ファイバスキャナをレーザ印字装置に適用した場合の、印字品質、印字速度については考慮されていない。
【0011】
本発明の目的は、高精細かつ高速に印字が可能であり、また安全性が高い走査型レーザ印字装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の走査型レーザ印字装置の構成は、好ましくは、光が出力される光ファイバと、光ファイバの光出力端を変位させる光ファイバ駆動機構と、光ファイバからの出力光を集束するための第一のレンズと第二のレンズを有し、第一のレンズは、その光軸が光ファイバの光出力端変位量に依存して変化し、第一のレンズの光軸と第二のレンズの光軸との相対的位置関係が光ファイバの光出力端変位量に依存して変化するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高精細かつ高速に印字が可能であり、また安全性が高い走査型レーザ印字装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る走査型レーザ印字装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態1に係る走査型レーザ印字装置を用いたレーザ印字システムを示す図である。
【
図3】実施形態1に係る走査型レーザ印字装置の光ファイバとピエゾ素子の斜視図である。
【
図4】レーザの高出力化のために大口径光ファイバを用いたときの光ファイバ先端を走査する走査型レーザ印字装置の課題を説明する図である。
【
図5】実施形態1に係る大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系と、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光を説明する図である。
【
図6】光学系において、印字対象物上での走査振幅と集束ビーム径との関係を、従来技術と本実施形態で比較して示した図である。
【
図7】実施形態2に係る大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系と、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光を説明する図である。
【
図8】実施形態3に係る大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系と、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光を説明する図である。
【
図9】実施形態3に係る大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系が実装された光走査ヘッド部の断面図である。
【
図10】実施形態4に係る大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系と、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光を説明する図である。
【
図11】実施形態5に係る走査型レーザ印字装置の光走査ヘッド部の要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る各実施形態を、
図1ないし
図11を用いて説明する。
【0016】
〔実施形態1〕
以下、本発明に係る実施形態1を、
図1ないし
図6を用いて説明する。
【0017】
先ず、
図1ないし
図2を用いて実施形態1に係る走査型レーザ印字装置の構成と走査型レーザ印字装置のシステム形態について説明する。
走査型レーザ印字装置200は、
図1に示されるように、光走査ヘッド部204と制御装置本体201が、配線ケーブル203で接続され、制御装置本体201から光走査ヘッド部204に対して、配線ケーブル203の中を通る光ファイバ104により両者が接続されている形態である。光ファイバ104は、光源601から出射される光を導波させるためガラスやプラスチックからなる導波管である。
【0018】
なお、
図1には図示していないが、制御装置本体201には、設定情報や印字状態を表示するためのディスプレイも備わっている。
【0019】
光走査ヘッド部204は、光ファイバ104、走査領域拡大レンズ301、集光レンズ401、レンズ駆動機構602、ピエゾ素子103からなる。
【0020】
走査領域拡大レンズ301は、光ファイバ104から出射されたビームの走査領域を拡大するための凸レンズである。集光レンズ401は、光ファイバ104から出射されたビームを、走査領域拡大レンズ301に入力する前に集束してビーム径をしぼるためのレンズである。レンズ駆動機構602は、集光レンズ401の光軸を変化させる機構である。ピエゾ素子103は、光ファイバの一方の端近傍に接続されて、光ファイバの先端を振動させるための圧電素子である。
なお、走査領域拡大レンズ301と集光レンズ401に関する光学的挙動は後に詳説する。
【0021】
制御装置本体201は、光源601、光ファイバ104、駆動電流制御回路603、駆動電圧制御回路604、タイミング制御回路605、データ入力インターフェース606からなる。
【0022】
光源601は、レーザを生成する光源である。駆動電流制御回路603は、光源の駆動電流を制御する回路である。駆動電圧制御回路604と、ピエゾ素子103およびレンズ駆動機構602の駆動電圧を制御する回路である。タイミング制御回路605は、駆動電流と駆動電圧のタイミングを制御する回路である。データ入力インターフェース606は、データ入力用のインターフェース回路である。
ここで、光ファイバ端面と集光レンズの変位量の同期を取るには、両者を駆動するための電気信号の繰り返し周波数をほぼ同一とすればよい。
【0023】
次に、
図2を用いて、本実施形態に係る走査型レーザ印字装置を用いたレーザ印字システムの使用形態を説明する。
走査型レーザ印字装置を用いたレーザ印字システムは、
図2に示されるように、走査型レーザ印字装置200が設置されており、製造用ベルトコンベアなどの搬送装置206により、搬送される印字対象物207a、207ab、207cに対して、レーザにより、製造番号、製造年月日などのラベル205の印字をおこなう。
【0024】
走査型レーザ印字装置200は、
図1でも示したように、制御装置本体201と光走査ヘッド部204とが配線ケーブル203により接続された形態であり、作業員は、ディスプレイ202により、設定情報や印字状態を視認することができる。
【0025】
本実施形態における走査型レーザ印字装置は、ガルバノミラーを用いていないため光走査ヘッド部204が非常に小型であり、搬送装置206上を移動する印字対象物207a、207b、207cの所定の印字領域の近くに光走査ヘッド部204を近づけて印字することが可能である。また、本実施形態における走査型レーザ印字装置は、導光に光ファイバを用いているため、光走査ヘッド部204と制御装置本体201を配線ケーブル203で接続することで分離することが可能であり、製造ラインと物理的に干渉しない位置に制御装置本体201を配置するなど製造ラインの種類に対し柔軟に対応することができる。また、レーザ光を光ファイバで印字対象物直近まで導光することができるため、自由空間を伝搬する距離が短く、安全性が高いという特徴がある。
【0026】
次に、
図3を用いて本実施形態に係る走査型レーザ印字装置においてレーザ光の走査方法について説明する。
本実施形態における走査型レーザ印字装置では、レーザ光が導波し端面から出射させる光ファイバの出射端近傍位置を変位させることにより、光の出射方向を走査している。そして、出射端位置の変位には電圧を印加したときに歪が生じるピエゾ素子を用いている。
図3ではピエゾ素子103の周回に沿って四つのピエゾ素子電極101a、101b、101c、101dが配置されており、ピエゾ素子103の中心穴には光ファイバ104が通されている。ピエゾ素子電極101a、101bは、横方向(x方向)の変位量を調整し、またピエゾ素子電極101c、101dは、縦方向(y方向)の変位量を調整する。このように、走査型レーザ印字装置では、それぞれの電極に印加する電圧を制御することで光ファイバ出射端面105とほぼ水平な2次元面内において光を走査することが可能になる。
【0027】
なお、
図3中には図示していないが、光ファイバ出射端面105の逆側の端面には、光源601からのレーザ光を入力する。そのとき、光ファイバにレーザ光を高効率で入力し、導波させるには、レーザを半導体レーザやファイバレーザとすることが好適である。
【0028】
本実施形態における走査型レーザ印字装置では、出射ビーム径は、光ファイバのコア径に依存している。コア径は数μmから100μm程度と非常に小さくすることが可能であるため高精細な印字が可能である。また、本実施形態においてはレーザとして半導体レーザやファイバレーザを用いることができるため、CO2レーザよりも高出力化が可能である。よって高速印字が可能である。また、ガルバノミラーを用いていないためさらに高速な印字が可能である。本実施形態の光ファイバスキャナはガルバノミラーに対し質量が軽いため、数10kHzから数100kHz程度の高い周波数で駆動することが可能である。
【0029】
次に、
図4を用いて光ファイバの先端を走査する走査型レーザ印字装置の課題について説明する。
図4には、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光が概念的に示されている。光ファイバスキャナでは、光ファイバ出射端面105から出射された光は、ビームの走査領域を拡大するために倍率が1より十分大きな走査領域拡大レンズ301を介して印字対象物302に集束される。光ファイバ104は、出射端面の軌跡306にそって動かされ、光ファイバ出射端面105から出射された光は、走査領域拡大レンズ301までは、伝搬光の光軸305にそって進み、そして、走査領域拡大レンズ301で屈折し、印字対象物302上でレーザ光の集束位置303に集束する。ここで、光ファイバ出射端面での走査振幅307は、走査領域拡大レンズ301により、印字対象物上では走査振幅308に拡大される。
【0030】
走査領域拡大レンズの倍率については、仮に、出射端面での走査振幅が500μmであり、印字対象物上での走査振幅を5000μmとする場合は、倍率10倍のレンズを用いればよい。ここで重要なことは、高倍率のレンズを用いることにより、印字対象物上での走査振幅は拡大するが、集束ビーム径も倍率分だけ拡大することである。コア径が数μm程度と小さい光ファイバを用いる場合は、ビーム径が拡大してもなお十分無視できるほど小さいために問題とならないが、コア径が大きい場合はビーム径拡大が印字品質の劣化につながるとい課題がある。一例を挙げるならば、波長1μm、出力数10Wの半導体レーザを用いる場合、コア径100μm程度のマルチモード光ファイバを用いることが一般的であり、倍率10倍のレンズを用いた場合は、集束ビーム径が1mmと非常に大きくなってしまう。
【0031】
次に、
図5および
図6を用いて本実施形態の大口径光ファイバを用いた光ファイバスキャナに好適な光学系と、光ファイバ出射端面から印字対象物までの導光について説明する。
本実施形態の光ファイバスキャナの光学系では、光ファイバ出射端面105と走査領域拡大レンズ301を結ぶ伝搬光の光軸405上に光ファイバ出射端面105の位置に依存して光軸402が変位する集光レンズ401が備えられている。集光レンズ401の形状は両凸レンズであってもよいし、平凸レンズであってもよい。より好ましくは球面収差が小さい非球面の平凸レンズである。また、集光レンズ401の倍率が1以下であり、結像位置404におけるビーム径がコア径よりも小さいことが好ましい。さらに、光ファイバ出射端面の軌跡306と、集光レンズの軌跡406がほぼ平行であり、伝搬光の光軸405と集光レンズの光軸402がほぼ一致していることが好ましい。言い換えれば、集光レンズの光軸402が、光ファイバ104の光出射端変位量に依存して変化することで、走査領域拡大レンズの光軸304との相対的位置関係が、光ファイバ104の光出射端変位量に依存して変化すること意味する。
【0032】
このとき、光ファイバ端面から出射されるビームの結像位置における走査振幅407は、光ファイバ出射端面での走査振幅307と同程度であるが、結像位置におけるビーム径はコア径よりも小さい。よって、
図4と同様の高倍率な走査領域拡大レンズ301を介して印字対象物302上に集束させた場合においても、印字対象物上での走査振幅408を十分に大きく保ったまま、レーザ光の集束位置403におけるビーム径を小型化できる。その結果として印字品質の劣化を抑制でき、高精細な印字が可能となる。
【0033】
光学系において、印字対象物上での走査振幅と集束ビーム径との関係を、従来技術と本実施形態で比較して示すと、
図6のようになる。すなわち、例えば、走査振幅が2mm程度の場合、従来技術の光学系では、集束ビーム径が、1000μm以上になるが、本実施形態では、150μm程度である。このように本実施形態の構成により、同じ走査振幅で比較した場合、大幅に集束ビーム径を小さくすることが可能である。また、同じ集束ビーム径で比較した場合、大幅に走査振幅を拡大することが可能である。既に述べたように、本実施形態は、コア系が大きい大口径マルチモード光ファイバに有効である。
【0034】
以上のように、本実施形態の光学系を備えた走査型レーザ印字装置によれば、高精細で高速印字が可能になる。
【0035】
〔実施形態2〕
以下、本発明に係る実施形態2を、
図7を用いて説明する。
本実施形態での走査型レーザ印字装置の構成は、
図1に示した実施形態1の走査型レーザ印字装置とほぼ同様であるが、光走査ヘッド部204における光学系のみが異なっており、より簡易な構成で実現することができる。
【0036】
本実施形態の光学系において、光ファイバ702の出射端面に集光機能を有するレンズ部701が装荷されている。レンズの形状は、円錐形状やボール形状、球面形状、楔形形状であってもよい。また、屈折率分布型の円柱レンズが装荷されていてもよい。これらのレンズ装荷型の光ファイバは、通常の光ファイバの端面を研磨加工することでも形成でき、また小型なレンズを光ファイバの端面に接着固定することでも形成できる。装荷されたレンズ部701の倍率は1以下とし、結像位置704におけるビーム径がコア径よりも小さいことが好ましい。
【0037】
本実施形態の構成においては、光ファイバ端面から出射されるビームの結像位置における走査振幅707は、光ファイバ出射端面近傍での走査振幅709と同程度であるが、結像位置におけるビーム径はコア径よりも小さい。よって、
図4と同様の高倍率な走査領域拡大レンズ301を介して印字対象物302上に集束させた場合においても、印字対象物上での走査振幅708を十分に大きく保ったまま、レーザ光の集束位置703におけるビーム径を小型化できる。その結果として印字品質の劣化を抑制でき、高精細な印字が可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、実施形態1の一例として示した
図5の構成における集光レンズ401と同様の機能を、光ファイバ自身が有しているため、集光レンズ401が不要である。よって、光学部品の数が少なく、より簡易的に構成できる利点がある。また、光ファイバとレンズ機能が一体化していることにより、互いの位置関係が常に一致しているため、実施形態1よりも集光性能が高い。また、光学系の構成が簡素化されるのみではなく、レンズを制御するための制御回路が不要となるため、駆動系の構成も簡素化することができ、装置の低価格化と小型化に有利である。実施形態1と比較したデメリットは、レンズ曲率が大きいため、光ファイバの開口数が大きい場合にはレンズ部の球面収差の影響が大きいことである。球面収差の影響を小さくするには光ファイバの開口数を小さくすることが有効であり、これに対しては、フォトニック結晶ファイバが好適である。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、高精細で高速印字が可能であり、実施形態1と比較して、構成が簡易的で、より高品質な印字が可能な走査型レーザ印字装置を提供することができる。
【0040】
〔実施形態3〕
以下、本発明に係る実施形態3を、
図8および
図9を用いて説明する。
本実施形態の光学系は、実施形態2に示した光学系の別形態であり、より高品質に印字することができるものである。本実施形態の光学系では、走査領域拡大レンズ301と印字対象物302とを結ぶ光軸805上に、テレセントリックレンズ801が備えられている。ここで、テレセントリックレンズとは、透過する光線が光軸304(なお、走査領域拡大レンズ301の光軸とテレセントリックレンズ801の光軸は一致するため同じ符号で記した)に対してほぼ平行となるレンズのことである。テレセントリックレンズがない場合は、ビームが放射状に出射されるため、印字対象物上におけるビーム走査領域の外周付近では、ビームが斜めから入射されることとなり、集束ビーム形状が楕円形状になる。よって、印字物の中心付近と外周付近ではビーム形状が異なるため印字品質が劣化する。
【0041】
一方、テレセントリックレンズが備えられている場合には、印字物の中心付近と外周付近でビーム径状がほぼ同一であり、理想的な真円形状を保つことができるため、印字品質を高くすることができる。また、直接的な印字品質以外のテレセントリックレンズの効果としては、テレセントリックレンズと走査領域拡大レンズとの間の光をほぼ平行光(コリメート光)にすることができる点が挙げられる。コリメート光とすることにより、両レンズの間隔を変更しても倍率が変化しないため、光学設計の柔軟性を高めることができる。また、両レンズ間に平行平面板などの光学部品を挿入しても集束位置に変化が生じないため、例えば、ビームスプリッタを挿入することで一部の光をモニタすることができる。モニタした情報を用い、光ファイバ制御機構をフィードバック制御することにより、さらに印字品質の向上を図ることができる。
図8では、テレセントリックレンズを用いた構成の一例として、レンズ装荷型光ファイバを図示したが、それに限ったものではなく、実施形態1の
図5に示すように集光レンズが独立した構成であってもよい。
【0042】
本実施形態のテレセントリックレンズを用いた光学系が実装された光走査ヘッド部の一例を示すと、
図9のようになる。
【0043】
本実施形態の光走査ヘッド部900は、ビームスプリッタ903を設けて、ピエゾ素子901により走査されるレンズ装荷型光ファイバ902から出射される光をビームスプリッタ903により分岐させて、分岐光904として、位置検出用受光器905に入力する。ビームスプリッタ903における透過光907は、テレセントリックレンズ801に入力される。また、位置検出用受光器905は、受光器位置調整機構906により、その位置が調節される。このようにビームスプリッタを挿入し一部の光をモニタすることができる。
【0044】
そして、位置検出用受光器905に入力された光は、位置検出用受光器905と電気的に接続されたビーム位置検出回路(図示しない)に入力されて、ビーム位置検出回路がビーム位置情報を算出し、そのビーム位置情報に基づきピエゾ素子901を駆動する。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、テレセントリックレンズを利用することにより、実施形態1や実施形態2と比較して、光学設計の柔軟性が高く、より高品質な印字が可能な走査型レーザ印字装置を提供することができる。
また、ビームスプリッタを設けることより、一部の光をモニタすることで、さらに高品質な印字が可能となる。
【0046】
〔実施形態4〕
以下、本発明に係る実施形態4を、
図10を用いて説明する。
本実施形態の走査型レーザ印字装置は、実施形態1と類似の性能を有しつつ、より高速、小型化が可能になる。
【0047】
本実施形態では、光ファイバ出射端面105と走査領域拡大レンズ301を結ぶ光軸上に光ファイバ出射端面105の位置に依存して光軸が変位する液体レンズ1001が備えられている。液体レンズホルダには、伝導性の水溶液1011と非伝導性の油1012が封入されており、電極1013aと電極1013b間に所望の電圧差を印加することで光軸をずらすことが可能である。また、それらの電極に印加する電圧を変化させることにより、焦点距離を変更することも可能である。ここで、液体レンズ1001は、倍率が1以下であり、結像位置1004におけるビーム径がコア径よりも小さいことが好ましい。さらに、光ファイバ出射端面の軌跡306と、液体レンズ中心位置の軌跡1006がほぼ平行であり、伝搬光の光軸1005と液体レンズの光軸1002がほぼ一致していることが好ましい。このとき光ファイバ端面から出射されるビームの結像位置における走査振幅1007は、光ファイバ出射端面での走査振幅307と同程度であるが、結像位置におけるビーム径はコア径よりも小さい。よって、
図4と同様の高倍率な走査領域拡大レンズ301を介して、印字対象物302に集束させた場合においても、印字対象物上での走査振幅1008を十分に大きく保ったまま、レーザ光の集束位置1003におけるビーム径を小型化することができる。その結果として印字品質の劣化を抑制でき、高精細な印字が可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態においては、集光レンズの光軸を移動させるための機械的な機構が存在しないために、軽量であり小型である。また高速な光軸調整が可能である。さらに光軸の移動のみではなく、焦点距離も高速に変更することが可能であるため、より高精度に、光ファイバ出射端面の軌跡306に追従することが可能であり、実施形態1よりも集光性能を高くすることができる。
【0049】
なお、
図10には、テレセントリックレンズを用いない光学系を示したが、これに限ったことではなく、実施形態3と同様にテレセントリックレンズやビームスプリッタを用いてもよい。この場合には、より高品質な印字が可能である。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、液体レンズの特性を活かした光学系の構成にすることにより、高精細で高速印字が可能な走査型レーザ印字装置を提供することができる。実施形態1などと比較して、より軽量、小型であり、高速、高品質な印字が可能な走査型レーザ印字装置を提供することができる。
【0051】
〔実施形態5〕
以下、本発明に係る実施形態5を、
図11を用いて説明する。
本実施形態は、光走査軌跡の補正機能を有する走査型レーザ印字装置に関するものである。
【0052】
製造ラインにおいては一般的には印字対象物が高速に移動しているため、集束ビームの走査軌跡は、移動方向とほぼ垂直方向の直線状がより好ましい。しかしながら、実際には、光ファイバ駆動用のピエゾ素子の製造ばらつきや、光ファイバのピエゾ素子への実装誤差により、不要な方向、すなわち、印字対象物の移動方向にもわずかに振動する。すなわち、走査軌跡が厳密には直線状ではなく楕円状となる。楕円状で走査した場合は、印字対象物上でビーム照射位置が重なりあう場合があり、これが印字品質を劣化する要因となる。
【0053】
本実施形態の走査型レーザ印字装置は、光学系により不要な方向への光の広がりを抑え、理想的な直線状の走査軌跡を得るための構成である。
【0054】
本実施形態における光学系では、ピエゾ素子901により走査されるレンズ装荷型光ファイバ902から出射される光を受けるための走査領域拡大レンズ301、テレセントリックレンズ801、円柱レンズ1103が設けられている。走査軌跡1101は、レンズ装荷型光ファイバから出射されたビームの走査軌跡であり、走査軌跡1102は、印字対象物302上での走査軌跡である。
【0055】
本実施形態では、テレセントリックレンズ801と印字対象物302間に円柱レンズ1103が備えられていることが特徴である。円柱レンズ1103は、意図した走査方向である走査軌跡長軸方向に対しては平板として機能し、意図していない不要走査方向である走査軌跡短軸方向に対しては、集光レンズとして機能する配置にて備え付けられている。平板は、走査振幅を変更する作用が無いのに対し、集光レンズは、走査振幅を減少させる効果があるため、不要走査成分のみが除去される。よって、円柱レンズを用いることで光走査軌跡の補正が成され、より高品質な印字が可能となる。
【0056】
なお、
図11中での円柱レンズ1103とその他のレンズとの位置関係は、これに限られたものではなく、円柱レンズ1103が走査領域拡大レンズ301とテレセントリックレンズ801間に備えられていてもよい。また、実施形態3で説明したように、走査領域拡大レンズ301とテレセントリックレンズ801間にビームスプリッタが備えられていてもよい。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、円柱レンズを利用することにより、印字対象物上での光走査軌跡の補正機能を有し、より高品質な印字が可能な走査型レーザ印字装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
101…ピエゾ素子電極、103、901…ピエゾ素子、104…光ファイバ、105…光ファイバ出射端面、201…制御装置本体、202…ディスプレイ、203…配線ケーブル、204、900…光走査ヘッド部、205…ラベル、206…搬送装置、207…印字対象物、301…走査領域拡大レンズ、302…印字対象物、303、403、703、803、1003…集束位置、304…走査領域拡大レンズの光軸、306…光ファイバ出射端面の軌跡、307…光ファイバ出射端面での走査振幅、308、408、708、808、1008…印字対象物上での走査振幅、401…集光レンズ、402…集光レンズの光軸、404、704、1004…結像位置、305、405、705、805、1005…伝搬光の光軸、406…集光レンズの軌跡、407、707、1007…結像位置における走査振幅、601…光源、602…レンズ駆動機構、603…駆動電流制御回路、604…駆動電圧制御回路、605…タイミング制御回路、606…データ入力インターフェース、701…レンズ部、702、902…レンズ装荷型光ファイバ、709…光ファイバ出射端面近傍での走査振幅、801…テレセントリックレンズ、903…ビームスプリッタ、904…分岐光、905…位置検出用受光器、906…受光器位置調整機構、907…透過光、1001…液体レンズ、1002…液体レンズの光軸、1006…液体レンズ中心位置の軌跡、1011…伝導性の水溶液、1012…非伝導性の油、1013…電極、1101…出射されたビームの走査軌跡、1102…印字対象物上での走査軌跡、1103…円柱レンズ