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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】インクセット、印刷方法及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20221108BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20221108BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221108BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 134
B41J2/01 501
B41J2/01 123
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018145424
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020019906
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎本 悠人
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵介
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029033(JP,A)
【文献】特開昭60-072791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00 - 13/00
B41M 1/00 - 5/00
B41M 5/50 - 9/04
B41J 2/01
B41J 2/165 - 2/20
B41J 2/21 - 2/215
A61K 9/00 - 9/72
A61K 47/00 - 47/48
A61J 1/00 - 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の色材を含む水性インクと、
前記水性インクの乾燥皮膜に対し後処理を行うための非水性後処理インクと、
の組み合わせを含み、
前記水性インクに於ける前記色材が顔料であり、
さらに、前記水性インクには前記顔料を分散させる顔料分散剤が含まれており、
前記顔料分散剤は、水溶性又は水分散性であり、かつ、前記非水性後処理インクが前記水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に接触した場合に、当該皮膜又は乾燥皮膜に含まれる顔料を前記非水性後処理インクで再分散させないポリオキシエチレンアルキルエーテル類であり、
前記非水性後処理インクは、水不溶性又は水難溶性の高分子成分と、有機溶媒とを含み、かつ、水を含んでおらず、
前記水不溶性又は水難溶性の高分子成分がセラック樹脂であり、
前記有機溶媒がエタノール、ブタノール、イソブタノール、プロパノール、イソプロパノール又はペンチルアルコールであり、
さらに前記非水性後処理インクは、前記水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に接触した場合に、当該皮膜又は乾燥皮膜に含まれる前記顔料が不溶若しくは難溶であり、又は当該顔料が再分散しないものであるインクセット。
【請求項2】
請求項に記載のインクセットを用いた印刷方法であって、
記録媒体上に、前記水性インクを付着させてインク層を形成するインク層形成工程と、
前記インク層上の少なくとも一部に前記非水性後処理インクを付着させて後処理インク層を形成し、後処理を行う後処理工程とを含む印刷方法。
【請求項3】
前記インク層形成工程、及び前記後処理工程の少なくとも何れか一方は、インクジェット方式での印刷により行われる請求項に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記インク層形成工程と前記後処理工程は、一定時間内にインラインプロセスで行われる請求項又はに記載の印刷方法。
【請求項5】
記録媒体上に、請求項に記載の水性インクの乾燥皮膜からなるインク層が設けられ、
さらに、前記インク層上の少なくとも一部に、請求項に記載の非水性後処理インクの乾燥皮膜からなる後処理インク層が設けられた印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、印刷方法及び印刷物に関し、より詳細には、文字等の画像の滲みや転写の発生を抑制し、印刷画像の耐擦過性に優れたインクセット、印刷方法及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の固体製剤(例えば、錠剤やカプセル剤等)への印刷に用いるインクジェット用インクは、薬事法等で定められた原材料で構成される必要がある。固体製剤印刷用のインクジェット用インクは、水溶性の食用タール色素等を色材とする染料インク(例えば、特許文献1)と、可食性の酸化鉄顔料等を色材とする顔料インク(例えば、特許文献2)とに分類され、それぞれ販売等されている。
【0003】
しかし、錠剤の一種であるFC(フィルムコート)錠や糖衣錠等に対して、上述した固体製剤印刷用のインクジェット用インクを用いて印刷を行った際、固体製剤へのインク(印刷画像)の定着が十分でない場合があり、印刷画像が転写するという問題がある。
【0004】
このような印刷画像の転写の問題に対しては、印刷画像を形成するインク層上にオーバーコート層を形成して、これを保護するという方法がある。例えば、特許文献3には、そのようなオーバーコート層を形成するための顔料定着用組成物として、水溶性及び可食性を有する顔料定着成分と、主溶媒としての水とを少なくとも含み、かつ、非水溶性成分を実質的に含まないものが開示されている。この顔料定着用組成物によれば、印刷画像に対し、耐擦過性、耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することができ、印刷画像の転写等により画質が低下するのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-236279号
【文献】特開2015-140414号
【文献】特開2018-80117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記構成の顔料定着用組成物であると、オーバーコート層を形成する際の塗布量によっては、インク層中に含まれる顔料が、主溶媒である水に再分散し、印刷画像が滲むという問題がある。また、前記構成の顔料定着用組成物で形成されるオーバーコート層は水溶性であるため、例えば、指先で擦った場合に指先の水分がオーバーコート層を溶解し、印刷画像の保護が不十分になるという問題もある。さらに、染料インクの場合も、色材である染料が主溶媒である水に再溶解することで、同様の問題を発生させることが想定される。
【0007】
また、フィルムコーティング層がHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)からなるFC錠や、糖衣層がショ糖からなる糖衣錠など、固体製剤の種類によっては、その最表面層が主溶媒である水に溶解することがある。その場合、最表面層の溶解に伴い、印刷画像を形成する水性インクが広がるなどして、印刷画像の滲みが発生するという問題もある。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、印刷画像の滲みや転写を防止し、印刷画像の耐擦過性を向上させることが可能なインクセット、印刷方法及び印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記問題点を解決すべく、インクセット、印刷方法及び印刷物について検討した。その結果、下記構成を採用することにより前記の問題点を解決できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明に係るインクセットは、前記の課題を解決するために、少なくとも1種の色材を含む水性インクと、前記水性インクの乾燥皮膜に対し後処理を行うための非水性後処理インクと、の組み合わせを含み、前記非水性後処理インクは、前記水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に接触した場合に、当該皮膜又は乾燥皮膜に含まれる前記色材が不溶若しくは難溶であり、又は当該色材が再分散しないものである。
【0011】
前記構成に於ける水性インクは少なくとも1種の色材を含んでおり、これにより、水性インクの乾燥皮膜からなる印刷画像の形成を可能にする。また、非水性後処理インクは、水性インクの皮膜又は乾燥皮膜(以下、「皮膜等」という場合がある。)に対し後処理を行うためのものである。従って、例えば、水性インクの皮膜等に対する後処理として、当該皮膜等の表面を被覆するオーバーコート層を形成する場合には、印刷画像の保護を可能にし、印刷画像の転写等を抑制することができる。ここで、非水性後処理インクは、水性インクの皮膜等に接触したときに、当該皮膜等に含まれる色材が非水性後処理インクに不溶若しくは難溶であり、又は色材を再分散させないインクである。そのため、非水性後処理インクを用いて水性インクの皮膜等に後処理を施しても、印刷画像に滲みが発生するのを抑制することができる。さらに、後処理により形成されるオーバーコート層等は水溶性ではないため、例えば、指先で後処理インク層を擦った場合にも溶解するのを防止し、耐擦過性を向上させることができる。また、非水性後処理インクは非水性であるため、例えば、フィルムコーティング層がHPMCからなるFC錠や、糖衣層がショ糖からなる糖衣錠等の固体製剤に対して、非水性後処理インクを用いて印刷を行っても、非水性後処理インクの主溶媒が固体製剤の最表面層を溶解するのを防止する。その結果、印刷画像に滲みが発生するのを低減することができる。
【0012】
前記の構成に於いては、前記水性インクに於ける前記色材が顔料であり、さらに、前記水性インクには、前記顔料を分散させる顔料分散剤が含まれており、前記顔料分散剤は水溶性又は水分散性であり、かつ、前記非水性後処理インクが前記水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に接触した場合に、当該皮膜又は乾燥皮膜に含まれる顔料を前記非水性後処理インクで再分散させないものであることが好ましい。
【0013】
前記の構成によれば、水性インクは、色材としての顔料と、顔料を分散させるための顔料分散剤とを含んでおり、顔料分散剤は顔料の表面に吸着することで、水性インク中に於ける分散性を良好に維持している。ここで、前記構成に於いては、顔料分散剤として水溶性又は水分散性を示すものを用いる。従って、非水性後処理インクが水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に接触したときに、水性インクの皮膜等に含まれている、顔料分散剤が表面に吸着した顔料が、非水性後処理インク中で再分散するのを防止することができる。
【0014】
また、前記の構成に於いては、前記顔料分散剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム類、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート類、ショ糖脂肪酸エステル類、及び水溶性セルロース類からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
また、前記の構成に於いては、前記水性インクに於ける前記色材が染料であることが好ましい。前記構成に於ける色材としての染料は、非水性後処理インクに対し不溶又は難溶である。そのため、色材が染料の場合にも、印刷画像の滲みの発生を抑制しながら、水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に対する後処理を行うことができ、印刷画像の転写の防止及び耐擦過性の向上を図ることができる。
【0016】
また、前記の構成に於いては、前記非水性後処理インクが、水不溶性又は水難溶性の高分子成分と、有機溶媒とを含むことが好ましい。これにより、水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に非水性後処理インクが接触したときに、非水性後処理インクが色材を溶解するのを防止することができる。また、フィルムコーティング層がHPMCからなるFC錠や、糖衣層がショ糖からなる糖衣錠等の固体製剤に対しては、その最表面層を溶解するのを防止することができる。
【0017】
また、前記の構成に於いては、前記水不溶性又は水難溶性の高分子成分が、セラック樹脂、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、エチルセルロース、及び酢酸ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
また、前記の構成に於いては、前記有機溶媒が、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、ブタノール、イソブタノール、プロパノール、イソプロパノール、ペンチルアルコール、乳酸エチル、酢酸エチル、クエン酸トリエチル、及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る印刷方法は、前記の課題を解決するために、記録媒体上に、前記水性インクを付着させてインク層を形成するインク層形成工程と、前記インク層上の少なくとも一部に前記非水性後処理インクを付着させて後処理インク層を形成し、後処理を行う後処理工程とを含む。
【0020】
前記の構成によれば、水性インクを記録媒体上に付着させてインク層を形成し、これにより印刷画像を形成する。さらに、非水性後処理インクをインク層上の少なくとも一部に付着させて後処理インク層を形成する。ここで、インク層に含まれる色材は、非水性後処理インクに対し不溶若しくは難溶であり、又は再分散しない。そのため、非水性後処理インクがインク層に付着しても、色材が後処理インクに溶解したり、又は再分散するのを抑制することができる。その結果、インク層により形成される印刷画像に滲みが発生するのを防止することができる。また、非水性後処理インクにより形成される後処理インク層は水溶性ではないため、例えば、指先で後処理インク層を擦った場合にも溶解するのを防止することができる。即ち、前記の構成であると、印刷画像の滲みや転写を防止し、印刷画像の耐擦過性を向上させることが可能な印刷方法を提供することができる。
【0021】
前記の構成に於いて、前記インク層形成工程、及び前記後処理工程の少なくとも何れか一方は、インクジェット方式での印刷により行うことができる。前記の構成によれば、印刷画像の滲みや転写を防止し、耐擦過性を向上させた印刷画像を、インクジェット方式にて印刷することができる。
【0022】
また前記の構成に於いて、前記インク層形成工程と前記後処理工程は、一定時間内にインラインプロセスで行うことができる。
【0023】
本発明に係る印刷物は、前記の課題を解決するために、記録媒体上に、前記水性インクの乾燥皮膜からなるインク層が設けられ、さらに、前記インク層上の少なくとも一部に、前記非水性後処理インクの乾燥皮膜からなる後処理インク層が設けられたものである。
【0024】
水性インクの乾燥皮膜からなるインク層に含まれる色材は、非水性後処理インクに対し不溶若しくは難溶であり、又は再分散しない。これにより、インク層からなる印刷画像に滲みを発生させることなく後処理インク層を形成することができる。また、後処理インク層は非水性後処理インクの乾燥皮膜であることから水溶性ではない。そのため、例えば、指先で後処理インク層を擦った場合にも、当該後処理インク層が指先の水分で溶解するのを防止し、耐擦過性を維持することができる。また、非水性後処理インクは非水性であるため、例えば、フィルムコーティング層がHPMCからなるFC錠や、糖衣層がショ糖からなる糖衣錠等の固体製剤に対して、非水性後処理インクを用いて後処理層を形成する際、非水性後処理インクの主溶媒が固体製剤の最表面層を溶解することも防止する。その結果、インク層の乾燥皮膜からなる印刷画像に滲みが発生するのを低減することができる。即ち、前記の構成であると、印刷画像の滲みや転写を防止し、耐擦過性に優れた印刷物を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のインクセットは、水性インクと、当該水性インクの皮膜又は乾燥皮膜に対し後処理を行うための非水性後処理インクとの組み合わせを含むものである。そして、非水性後処理インクは、水性インクの皮膜等に接触したときに、当該皮膜等に含まれる色材が非水性後処理インクに不溶若しくは難溶であり、又は色材を再分散させないインクである。そのため、例えば、水性インクを用いて、当該水性インクの乾燥皮膜からなるインク層を記録媒体上に形成し、画像形成を行った後に、さらにインク層上の少なくとも一部に後処理インク層を形成した場合、インク層中の色材が非水性後処理インクに溶解したり、再分散するのを防止することができる。また、後処理インク層は非水性後処理インクの乾燥皮膜であることから、例えば、指先で後処理インク層を擦った場合にも、当該後処理インク層が溶解するのを防止することができる。また、非水性後処理インクは非水性であるため、例えば、記録媒体として、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)からなるFC錠やショ糖からなる糖衣錠等の固体製剤を用いた場合に、非水性後処理インクを用いて後処理層を形成する際、非水性後処理インクの主溶媒が固体製剤の最表面層を溶解することも防止する。その結果、印刷画像の滲みの発生を低減することができる。すなわち、本発明によれば、印刷画像の滲みや転写を抑制しながら印刷画像の保護を図ることができ、さらに耐擦過性も向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(インクセット)
本実施の形態に係るインクセットについて、以下に説明する。
本実施の形態に係るインクセットは、水性インクと、非水性後処理インクとの組み合わせを少なくとも含む。水性インクは、少なくとも1種の色材(詳細については後述する。)を含んでおり、当該水性インクの乾燥皮膜により印刷画像の形成を可能にする。非水性後処理インクは、水性インクの皮膜又は乾燥皮膜(以下、「皮膜等」という場合がある。)に対し後処理を行うためのインクであり、例えば、水性インクの乾燥皮膜上の少なくとも一部に非水性後処理インクの乾燥皮膜を形成することにより、当該乾燥皮膜をオーバーコート層とし、印刷画像の保護を可能にする。
【0027】
また、水性インク及び非水性後処理インクは、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有するものにすることができ、かつ、インクジェット方式での画像等の記録に好適に用いることができる。ここで、本明細書に於いて「可食性」とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められているものを意味する。また、本明細書に於いて「インクジェット方式」とは、水性インクや非水性後処理インクを微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出して、その液滴を固体製剤等の記録媒体に定着させ、画像等を形成させる印刷方式を意味する。尚、記録媒体の詳細については、後述する。
【0028】
[水性インク]
水性インクは、主溶媒としての水と、少なくとも1種の色材とを含む。
ここで、本明細書に於いて「水性インク」の「水性」とは、色材が、主溶媒としての水の中で溶解又は分散し、安定化していることを意味する。水の含有量は、水性インクの質量基準で、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0029】
色材としては、非水性後処理インクに対し再分散しない顔料や、不溶又は難溶の染料が挙げられる。ここで、本明細書に於いて色材が「再分散しない」とは、色材としての顔料が記録媒体上に定着している状態に於いて、非水性後処理インクの付着により、顔料が当該非水性後処理インクに再分散しないことを意味する。また、本明細書に於いて「不溶又は難溶」とは、色材としての染料が非水性後処理インクに対して溶解しないことを意味し、例えば、非水性後処理インクに含まれる有機溶媒(詳細については後述する。)がエタノールである場合に、当該エタノールに対する染料の溶解度が5g/100g未満であることを意味する。以下に、色材が顔料である場合と、染料である場合とに分けてさらに詳述する。
【0030】
1.色材が顔料である場合
色材が顔料である場合、その種類としては特に限定されないが、本実施の形態の水性インクを医薬品やサプリメント等の固体製剤表面への印刷用として用いる場合には、可食性を有するものが好ましい。具体的には、例えばカーボンブラック、赤色三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、四三酸化鉄(黒酸化鉄)、レーキ顔料等が挙げられる。
【0031】
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。また、本実施の形態のカーボンブラックとしては市販品を用いることも可能であり、そのような市販品としては、例えば、#900、#970、#100、#2200、#2300、#2350、#2600、MA-7、MA-8、MA-100、MA-11、MCF88、#45L、#50、#10、#33、#40、#4000、#52、CF9等(商品名、いずれも三菱化学株式会社製)、ニテロン、HTC(商品名、いずれも新日鉄住金化学社製)、旭#55、旭#51、旭#50U、旭#50、旭#35、旭#15、アサヒサーマル(商品名、いずれも旭カーボン社製)、Raven700、5750、5250、5000、3500、1255(商品名、いずれもコロンビア社製)、REGAL400R、330R、660R、MogulL、Monarch700、800、880、900、1000、1100、1300、Monarch1400(商品名、いずれもキャボット社製)、Color Black FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170(商品名、いずれもデグッサ社製)、PRINTEX35、U、V、140U、140V(商品名、いずれもデグッサ社製)、Special Black6、5、4A、4(商品名、いずれもデグッサ社製)、TOKABLACK #8500、#8300、#7550、#7400、#7350、#7240、#7100、#7050、#5500、#4500、#4400、#4300(商品名、いずれも東海カーボン社製)等を例示できる。
【0032】
レーキ顔料とは、主溶媒に可溶性の染料をレーキ化して得られる顔料を意味し、より詳細には、金属塩等の沈殿剤を加えることにより染料を沈殿剤に吸着させ、不溶性塩(不溶性の微粒子)として沈殿させた沈殿物である。主溶媒に可溶性を示す染料については特に限定されないが、好ましくは、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号及び青色2号からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
レーキ顔料のより具体的な例としては、赤色2号アルミニウムレーキ、赤色3号アルミニウムレーキ、赤色4号アルミニウムレーキ、赤色40号アルミニウムレーキ、赤色102号アルミニウムレーキ、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色4号バリウムレーキ、黄色4号ジルコニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、黄色5号バリウムレーキ、黄色5号ジルコニウムレーキ、緑色3号アルミニウムレーキ、青色1号アルミニウムレーキ、青色1号バリウムレーキ、青色1号ジルコニウムレーキ、青色2号アルミニウムレーキ等が挙げられる。
【0034】
例示した顔料は一種単独で、又は二種以上が混合して水性インク中に含まれる。顔料を二種以上混合して含有させることにより、水性インクの色相を調整することができる。
【0035】
尚、顔料がカーボンブラックである場合、その平均一次粒子径は10nm~40nmが好ましい。ここで、「平均一次粒子径」とは、溶媒中に添加して分散させる前の当該カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均粒子径を意味する。
【0036】
色材が顔料である場合、当該顔料は水性インク中に分散状態で存在する。分散状態にある顔料の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で50%の粒子径(D50)は、50nm~300nmの範囲内が好ましく、100nm~150nmの範囲内がより好ましい。また、顔料の体積基準積算粒度分布に於ける積算粒度で99%の粒子径(D99)は、100nm~500nmの範囲内が好ましい。D50を50nm以上にすることにより、分散安定性、耐光性及び吐出安定性の悪化を防止し、印刷濃度の低下も防止することができる。その一方、D50を300nm以下にすることにより、顔料の分離や沈降を防止し、分散安定性の維持が図れる。尚、顔料が水性インク中に複数種含まれる場合は、各々の顔料のD50及びD99が前記数値範囲に含まれていればよい。また、顔料の平均分散粒子径D50及びD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0037】
顔料の含有量は画像濃度に直接影響するものであり、水性インクの保存性や粘度、pH、錠剤等に印刷する場合はその印刷濃度等に影響を及ぼすものであることから、これらの点を考慮して適宜設定すればよい。例えば、顔料がカーボンブラックの場合、通常は、水性インクの全質量に対し0.3質量%~20質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~10質量%の範囲内がより好ましく、1質量%~5質量%の範囲内が特に好ましい。特に、カーボンブラックの含有量を1質量%以上にすることにより、画像濃度の低下を抑制することができる。その一方、カーボンブラックの含有量を5質量%以下にすることにより、光沢性の低下やノズルの目詰まり、吐出安定性の低下を防止することができる。また、顔料が赤色三二酸化鉄等の酸化鉄の場合、通常は、水性インクの全質量に対し0.5質量%~20質量%の範囲が好ましく、1質量%~15質量%の範囲内がより好ましく、2質量%~10質量%の範囲内が特に好ましい。特に、酸化鉄の含有量を2質量%以上にすることにより、画像濃度の低下を抑制することができる。その一方、酸化鉄の含有量を10質量%以下にすることにより、光沢性の低下やノズルの目詰まり、吐出安定性の低下を防止することができる。尚、顔料が水性インク中に複数種含まれる場合は、全ての顔料の含有量の合計がこれらの数値範囲に含まれていればよい。
【0038】
また、色材が顔料である場合、水性インク中には、顔料を良好に分散させるための顔料分散剤が含まれていることが好ましい。顔料分散剤は顔料の表面に吸着することで、立体障害による反発力や電気的斥力により顔料の分散を安定化することができる。
【0039】
本実施の形態に於いて、顔料分散剤は水溶性又は水分散性を有するものであることが好ましい。ここで、本明細書に於いて「水溶性」とは、常温常圧下に於いて、水100gに対し顔料分散剤が1g以上溶解することを目安とする。「常温」とは5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。「常圧」とは、大気の標準状態近傍に於ける圧力(標準大気圧)のことを意味し、大気の標準状態とは、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことを意味する。また、「常圧」には、標準大気圧に対し僅かに陽圧又は陰圧の場合も含み得る。また、本明細書に於いて「水分散性」とは、顔料分散剤が主溶媒である水の中で分散することを意味する。
【0040】
顔料分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム類、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート類、ショ糖脂肪酸エステル類、水溶性セルロース類等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。但し、本実施の形態の水性インクを医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷用として用いる場合、顔料分散剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0041】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル類としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。
【0042】
ポリグリセリン脂肪酸エステル類は、顔料がカーボンブラックである場合に、特にその分散性の向上を図ることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステル類としては、例えば、当該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が18~20の範囲内のものが挙げられる。より具体的には、例えば、パルミチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、オレイン酸デカグリセリル、アラキジン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、例示したポリグリセリン脂肪酸エステル類のうち、本実施の形態に於いては、モノステアリン酸デカグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル及びオレイン酸デカグリセリルがカーボンブラックの分散性と入手性の観点から好ましい。モノステアリン酸デカグリセリルとしては、例えば、NIKKOL MGS-150V(商品名、日光ケミカルズ(株)製)、NIKKOL DECAGLYN(登録商標)1-50SV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。モノイソステアリン酸デカグリセリルとしては、例えば、NIKKOL DECAGLYN(登録商標)1-ISV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。また、オレイン酸デカグリセリルとしては、例えば、DECAGLYN(登録商標)1-OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製)等が挙げられる。
【0043】
リン酸ナトリウム類は 顔料が四三酸化鉄である場合に、特にその分散性を好適に向上させることができる。四三酸化鉄の顔料は磁性を有しているため、粒子間での凝集力が強いが、リン酸ナトリウム類が、反発力等により四三酸化鉄の顔料同士の再凝集を防止することができる。その結果、分散性及び分散安定性に優れた水性インクを得ることができる。
【0044】
リン酸ナトリウム類としては、例えば、リン酸一ナトリウム(NaHPO・HO)、リン酸二ナトリウム(NaHPO・12HO)、リン酸三ナトリウム(NaPO・12HO)、無水リン酸一ナトリウム(NaHPO)、無水リン酸二ナトリウム(NaHPO)、無水リン酸三ナトリウム(NaPO)、ピロリン酸ナトリウム(Na・10HO)、無水ピロリン酸ナトリウム(Na)、酸性ピロリン酸ナトリウム(Na)、トリポリリン酸ナトリウム(Na10)、テトラポリリン酸ナトリウム(Na13)、ペンタポリリン酸ナトリウム(Na16)、ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO、但し、nは10~23である。)等が挙げられる。これらのリン酸ナトリウムは適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0045】
また、例示したリン酸ナトリウム類のうち、本実施の形態に於いては、1分子当たり平均して1~23個のリン酸基及び/又はリン酸塩基を含有するものが好ましい。ここで、本明細書に於いて「リン酸基」とは-OPO(OH)又は(-O)P(O)OHで表される官能基を意味し、「リン酸塩基」とは-OPO(OH)又は(-O)P(O)OHで表される官能基に於ける水素原子の少なくとも一つがNaイオンで置換された塩の状態で存在する官能基を意味する。そのようなリン酸ナトリウム類としては、具体的には、無水リン酸二ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのリン酸ナトリウム類であると、一定の分散時間以上で顔料を分散させることにより、顔料のD50を50nm~300nmの範囲とし、かつ、D99を500nm以下の範囲とすることができ、一層優れた分散性能を付与することができる。
【0046】
ポリソルベート類は、顔料がカーボンブラックである場合に、特にその分散性の向上を図ることができる。ポリソルベート類としては、例えば、ポリソルベート20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート40(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))等が挙げられる。
【0047】
ポリソルベート20の市販品としては、例えば、ニューカルゲンD-941(商品名、竹本油脂(株))、イオネットT-20-C(商品名、三洋化成工業(株))、オイムルギン SML20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、レオドール TW-L120(商品名、花王(株))、ニッコールTL-10(商品名、日光ケミカルズ(株))、アデカエストールT-2(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0048】
ポリソルベート40の市販品としては、例えば、ニッコール TP-10EX(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドールTW-P120(商品名、花王(株))、ニューカルゲン D-943-D(商品名、竹本油脂(株))を用いることができる。
【0049】
ポリソルベート60の市販品としては、例えば、ニッコール TS-10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、ノニオン(商品名、日本油脂(株))、レオドール TW-S120(商品名、花王株式会社)、オイムルギン SMS20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D-944(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T-62(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0050】
ポリソルベート80の市販品としては、例えば、ニッコール TO-10MV(商品名、日光ケミカルズ(株))、レオドール TW-0120(商品名、花王(株))、オイムルギン SMO20(商品名、ヘンケルジャパン(株))、ニューカルゲン D-945(商品名、竹本油脂(株))、アデカエストール T-82(商品名、旭電化工業(株))を用いることができる。
【0051】
ショ糖脂肪酸エステル類はショ糖と脂肪酸とのエステル化物である。脂肪酸は、炭素数8~24、好ましくは炭素数10~22、より好ましくは炭素数12~18の飽和又は不飽和脂肪酸である。脂肪酸は、より具体的には、ラウリン酸等が挙げられる。
【0052】
水溶性セルロース類としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0053】
顔料と顔料分散剤との含有比は、質量基準で1:0.01~1:5であることが好ましく、1:0.1~1:1であることがより好ましく、1:0.2~1:0.5であることが特に好ましい。特に、前記含有比が1:0.1以上であると、顔料の分散性の低下を防止することができる。その一方、前記含有比が1:1以下であると、例えば、インクジェット方式での印刷の際に、ノズルプレートの付着に起因する吐出安定性の低下を防止することができる。
【0054】
2.色材が染料である場合
色材が染料である場合、その種類としては特に限定されないが、本実施の形態の水性インクを医薬品やサプリメント等の固体製剤表面への印刷用として用いる場合には、可食性を有するものが好ましい。具体的には、例えば、食用合成色素(合成タール色素)、天然色素誘導体、天然系合成色素、食用天然色素等が挙げられる。
【0055】
食用合成色素としては、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料及びインジゴイド系染料からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。さらに、前記アゾ系染料としては特に限定されず、例えば、赤色2号、赤色102号、赤色40号、黄色4号、黄色5号等が挙げられる。前記トリフェニルメタン系染料としては特に限定されず、例えば、青色1号、緑色3号等が挙げられる。前記キサンテン系染料としては特に限定されず、例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号等が挙げられる。前記インジゴイド系染料としては、青色2号が挙げられる。
【0056】
天然色素誘導体としては特に限定されず、例えば、銅クロロフィリンナトリウム等が挙げられる。
【0057】
天然系合成色素としては特に限定されず、例えば、β-カロテン等が挙げられる。
【0058】
食用天然色素としては特に限定されず、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、フラボノイド系色素、コチニール色素、銅クロロフィリンナトリウム、カカオ色素、カラメル色素等が挙げられる。
【0059】
前記に例示した染料は、適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。また、これらの染料は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合したものである。
【0060】
前記染料の含有量は特に限定されないが、通常は、水性インクの全質量に対し、0.2質量%~20質量%の範囲内であり、好ましくは1質量%~10質量%である。染料の含有量を0.2質量%以上にすることにより、多くの染料で印刷画像の濃度の濃度が不十分となるのを防止することができる。その一方、染料の含有量を20質量%以下にすることにより、例えば、インクジェット方式での印刷の際に、インクジェットヘッドのノズルに於いて、染料成分が析出するのを防止することができる。
【0061】
3.溶媒及びその他の添加剤
本実施の形態の水性インクに於ける溶媒は水である。水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。尚、水の含有量については、前述の通りである。
【0062】
また、溶媒としては、水と水溶性有機溶剤の混合溶液を用いてもよい。水溶性有機溶剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-へキサントリオール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。また、前記に列挙した水溶性有機溶剤のうち、本実施の形態に於いては、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンが好ましい。水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0063】
また、本実施の形態の水性インクに於いては、その他の添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤、分散安定剤、還元防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。表面張力調整剤及び湿潤剤を除き、これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる(表面張力調整剤及び湿潤剤の含有量については、それぞれ後述する。)。尚、本実施の形態の水性インクを医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷用として用いる場合、添加剤は薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0064】
表面張力調整剤としては特に限定されず、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、モノラウリン酸ポリグリセリル、縮合リシノレイン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、ペンタイソステアリン酸ポリグリセリル、ペンタオレイン酸ポリグリセリル、ヘプタステアリン酸ポリグリセリル、デカオレイン酸ポリグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。尚、本実施の形態の水性インクを医薬品又は食品等の固体製剤表面への印刷用として用いる場合、表面張力調整剤は薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものを用いるのが好ましい。
【0065】
表面張力調整剤の含有量は、水性インクの全質量に対し、0.1質量%~5質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%~2質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行う際に、インクジェットヘッドに於けるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が5質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0066】
湿潤剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。尚、これらの湿潤剤は薬事法等の基準に適合するものであるので、固体製剤への印刷にも適用可能である。
【0067】
湿潤剤の添加量は、水性インク組成物の全質量に対し、1質量%~50質量%が好ましく、10質量%~40質量%がより好ましい。湿潤剤の含有量を1質量%以上にすることにより、インクジェット方式で印刷を行う際に、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の一層の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、水性インク組成物の粘度を適性に制御することができる。
【0068】
4.水性インクの製造方法
本実施の形態の水性インクが色材として顔料を用いる場合、水性インクは、先ず、顔料組成物の分散液を作製した後に、当該分散液と、適宜の添加剤等とを混合して作製する。
【0069】
顔料組成物の製造方法に於いて、顔料、顔料分散剤、分散媒及び必要に応じて配合するその他の添加剤の混合方法及び添加順序は特に限定されない。例えば、顔料、顔料分散剤及び分散媒としての水等を一度に混合し、この混合液に対し通常の分散機を用いて分散処理を施せばよい。このときの分散時間は特に限定されないが、分散状態にある顔料のD50及びD99が前記の数値範囲内となるように設定するのが好ましい。
【0070】
顔料の分散処理の際に使用される分散機としては、一般に使用される分散機であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0071】
続いて、水性インクは、前述の各成分を適宜な方法で混合することよって製造することができる。即ち、例えば、顔料組成物の分散液に、表面張力調整剤及び必要に応じて他の添加剤を加え、さらに水にて希釈する。その後、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒径及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、色材として顔料を用いた水性インクを得ることができる。
【0072】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、ディスパー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0073】
また、本実施の形態の水性インクが色材として染料を含む場合、当該水性インクは前述の各成分を適宜な方法で混合することよって製造することができる。混合方法及び添加順序は特に限定されない。混合後は、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、色材として染料を用いた水性インクを得ることができる。尚、各材料の混合方法や混合に用いる撹拌装置、濾過方法は、色材として顔料を用いる場合と同様にすることができる。
【0074】
[非水性後処理インク]
非水性後処理インクは、水不溶性又は水難溶性の高分子成分(以下、「高分子成分」という場合がある。)と、有機溶媒とを少なくとも含む。
【0075】
ここで、本明細書に於いて「非水性後処理インク」の「非水性」とは、後処理インクが水を含有しないか、又は少量だけ含むことを意味する。さらに、「少量だけ含む」とは、具体的には、非水性後処理インクの質量基準で30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下の水を含むことを意味する。また、本明細書に於いて「水不溶性又は水難溶性」とは、25℃の水に対する高分子成分の溶解性が、通常は100g/リットル以下であり、好ましくは50g/リットル以下、より好ましくは10g/リットル以下であることを意味する。
【0076】
非水性後処理インクは、例えば、オーバーコート層を形成するためのコーティング液として用いる場合には、可視光領域(400nm~760nm)に於いて光透過性を有していることが好ましい。これにより、可視光に対する光透過性を備えたオーバーコート層を形成することができる。すなわち、オーバーコート層の下層に形成された印刷画像が視認可能であることを意味する。
【0077】
尚、非水性後処理インクが有する光透過性は無色である場合の他、有色であってもよい。また、本明細書に於いて「光透過性」とは、入射した可視光の少なくとも一部を透過する性質を意味する。より具体的には、例えば、厚さ2μmのオーバーコート層に対し、波長域が400nm~800nmの可視光の透過率が、オーバーコート層が存在しない場合(透過率が100%の場合)に対し、50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の場合である。
【0078】
高分子成分としては、セラック樹脂、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、エチルセルロース、及び酢酸ビニル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0079】
高分子成分の含有量は、非水性後処理インクの全質量に対し、1質量%~30質量%の範囲内であることが好ましく、2質量%~20質量%の範囲内であることがより好ましく、3質量%~10質量%の範囲内であることが特に好ましい。特に、高分子成分の含有量を2質量%以上にすることにより、非水性インクの乾燥後に印刷画像を保護するための十分な膜厚の高分子膜を形成することができる。その一方、高分子成分の含有量を20質量%以下にすることにより、インク粘度の過剰な上昇や、それに伴う吐出性能の低下を防止することができる。
【0080】
本実施の形態の非水性後処理インクは、主溶媒として有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、ブタノール、イソブタノール、プロパノール、イソプロパノール、ペンチルアルコール、乳酸エチル、酢酸エチル、クエン酸トリエチル、及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0081】
また、本実施の形態の非水性後処理インクに於いては、その他の添加剤が配合されていてもよい。その他の添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等が挙げられる。本実施の形態の非水性後処理インクを食品製剤や医薬製剤等の固体製剤表面への印刷に用いる場合には、これらの他の添加剤は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであることが好ましい。
【0082】
表面張力調整剤としては特に限定されず、前述の水性インクで用いられるものが適用可能である。また、表面張力調整剤の含有量は、非水性後処理インクの全質量に対し、0.1質量%~5質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%~2質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行う場合に、インクジェットヘッドに於けるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が5質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0083】
湿潤剤としては特に限定されず、前述の水性インクで用いられるものが適用可能である。また、湿潤剤の添加量は、水性コーティング組成物の全質量に対し、1質量%~50質量%が好ましく、10質量%~40質量%がより好ましい。湿潤剤の含有量を1質量%以上にすることにより、インクジェット方式で印刷を行う場合に、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の一層の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、非水性後処理インクの粘度を適性に制御することができる。
【0084】
尚、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤等の添加剤に於いて、それぞれの非水性後処理インクに於ける含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0085】
本実施の形態の非水性後処理インクは、前述の各成分を適宜な方法で混合することよって製造することができる。混合方法及び添加順序は特に限定されない。混合後は、十分に撹拌し、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る非水性後処理インクを得ることができる。
【0086】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、ディスパー、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0087】
(インクセットを用いた印刷方法)
本実施の形態のインクセットを用いた印刷方法は、記録媒体上に、水性インクを付着させてインク層を形成するインク層形成工程と、インク層上の少なくとも一部に非水性後処理インクを付着させて後処理インク層を形成し、後処理を行う後処理工程とを少なくとも含む。
【0088】
インク層形成工程は、例えば、インクジェット方式により記録媒体上にインク層を形成して画像を印刷する工程である。より具体的には、微細なノズルより、水性インクを液滴として吐出し、その液滴を記録媒体上に付着させることにより行う。水性インクの吐出方法としては特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。また、水性インクの吐出条件についても特に限定されず、適宜設定することができる。
【0089】
後処理工程は、インク層上の少なくとも一部に後処理インク層を形成して後処理を行う工程である。後処理インク層の形成は、先ず、インク層上の少なくとも一部に非水性後処理インクを付着させることにより行われる。非水性後処理インクの付着方法としては特に限定されず、例えば、インクジェット方式により非水性後処理インクの液滴を吐出して行うことができる。ここで、水性インクにより形成されたインク層に含まれる色材は、非水性後処理インクに対し不溶若しくは難溶であり、又は再分散しないものである。そのため、非水性後処理インクがインク層に付着しても、色材が溶解したり、再分散したりする等して印刷画像に滲みが発生するのを抑制することができる。
【0090】
尚、非水性後処理インクの吐出方法としては特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。また、非水性後処理インクの付着量(吐出量、液滴量)は、好ましくは0.1mg/cm以上、より好ましくは0.25mg/cm以上、さらに好ましくは0.5mg/cm以上である。尚、非水性後処理インクの付着量の上限は、乾燥性の観点からは、2mg/cm以下であることが好ましい。尚、印刷方式はインクジェット方式に限定されるものではなく、スタンプ印刷やグラビア印刷等の公知の印刷方法を用いてよい。
【0091】
また、インク層形成工程と後処理工程とは、例えば、印刷装置内に於いてインラインプロセスで行ってもよい。ここで、インラインプロセスとは、一つの印刷装置内でインク形成工程と後処理工程の両方を行うことを意味する。この場合、インク層形成工程の終了後、後処理工程の開始までの時間は、0.1秒~20秒の範囲内であることが好ましく、0.5秒~10秒の範囲内であることがより好ましく、1秒~5秒の範囲内であることが特に好ましい。特に、後処理工程の開始までの時間を0.5秒以上とすることにより、後処理工程を行う前に水性インクが半乾燥するため、後処理工程で非水性後処理インクを塗布する際には、水性インクの滲みが抑制される。また、後処理工程の開始までの時間を10秒以下とすることにより、インク層形成工程用のインクジェットヘッドと、後処理工程用のインクジェットヘッドとの装置間距離を2メートル以下程度に抑えることができる。その結果、印刷装置の大型化を防ぐことができる。
【0092】
また、インク層形成工程及び後処理工程に於いては、それぞれ記録媒体上に付着した水性インクの皮膜、及びインク層上に付着した非水性後処理インクの皮膜に対し乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥や熱風乾燥等を行うことができる。また、乾燥時間や乾燥温度等の乾燥条件についても特に限定されず、水性インクや非水性後処理インクの付着量に応じて設定することができる。
【0093】
(印刷物)
本実施の形態の印刷物は、記録媒体上にインク層及び後処理インク層が順次設けられた構成である。インク層は、水性インクの乾燥皮膜からなり、少なくとも色材が含まれる。従って、インク層は記録媒体上に印刷画像を形成する。印刷画像の種類は特に限定されず、絵柄、文字、模様及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、記録媒体が固体製剤である場合には、印刷画像は当該文字等により表された製品情報として表される。
【0094】
インク層の厚さは特に限定されず、水性インクの組成や印刷速度、水性インクの液滴の定着性及び乾燥速度等を考慮して適宜設定することができる。
【0095】
後処理インク層は、非水性後処理インクの乾燥皮膜からなり、少なくとも高分子成分が含まれる。後処理インク層はインク層上の少なくとも一部を被覆するため、例えば、オーバーコート層としての機能を果たすことが可能である。オーバーコート層としての機能を果たす場合、記録媒体に印刷された印刷画像の保護が可能になる。その結果、印刷面が接触物に接触することにより印刷画像が当該接触物に転写し、画質が低下するのを防止することができる。また、後処理インク層が印刷画像を保護することで、例えば熱安定性や光安定性、耐擦過性、耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することもできる。さらに、後処理インク層は非水性後処理インクの乾燥皮膜からなるものであるため、水溶性ではない。そのため、後処理インク層は、例えば指先でこれを擦った場合にも、指先の水分により溶解することがない。その結果、耐擦過性に優れる。
【0096】
後処理インク層がオーバーコート層である場合、当該後処理インク層は可視光領域に於いて無色の光透過性を有していることが好ましい。これにより、後処理インク層を介して印刷画像を観察したときの視認性が低下するのを抑制することができる。但し、本発明は、印刷画像の視認性に悪影響を及ぼさない限り、後処理インク層が、色補正やその他の特別な目的等のために有色の光透過性を有することを妨げるものではない。
【0097】
後処理インク層の厚さは、非水性後処理インクの組成や要求される印刷画像の保護性能等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されない。通常、後処理インク層の厚さは0.1μm~5μmの範囲内であり、好ましくは0.5μm~3μm、より好ましくは1μm~2μmである。後処理インク層の厚さを0.1μm以上にすることにより、印刷画像の熱安定性や光安定性の確保が図れる。また、印刷画像に対する耐擦過性及び耐摩耗性(又は耐摩擦性)を付与することができ、これにより印刷画像の転写等を防止することができる。その一方、後処理インク層の厚さを5μm以下にすることにより、印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。
【0098】
記録媒体としては特に限定されず、従来公知のものを採用することができる。具体的には、例えば、アート紙、コート紙、及びマット紙等の印刷用紙が挙げられる。また、記録媒体として固体製剤に適用することもできる。尚、本明細書に於いて、「固体製剤」とは食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD錠(口腔内崩壊錠)、素錠、FC(フィルムコート)錠(例えば、フィルムコーティング層がHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)からなるもの)、糖衣錠(例えば、糖衣層がショ糖からなるもの)等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。また、固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。記録媒体として固体製剤に適用した場合には、製品情報等、使用者に対し識別性を向上させるために印刷した各種情報の印刷画像の劣化を防止することが可能になることから、長期にわたって良好な視認性を維持し、調剤ミスや誤飲の防止を可能にした固体製剤を提供することができる。
【実施例
【0099】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらに限定するものではない。また、水性インク及び非水性後処理インクの各材料は、何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0100】
(水性インクの調製)
先ず、顔料として25質量%のカーボンブラックと、顔料分散剤として7.5質量%のポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(商品名:NIKKOL(登録商標) BS-20、日光ケミカルズ(株)製)と、67.5質量%の水と、ジルコニアビーズとを容器中に入れて混合し、分散機(ペイントシェーカー、浅田鉄工株式会社製)にて常温で16時間(分散時間)分散した。これにより、カーボンブラック顔料濃度が25質量%の顔料組成物の分散液を得た。
【0101】
次に、表1に示す配合組成となる様に、水性インクを調製した。具体的には、顔料組成物の分散液に、表面張力調整剤としてのポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)と、湿潤剤としてのポリエチレングリコールと、水とを添加し、水性インクを作製した。
【0102】
【表1】
【0103】
(非水性後処理インクの調製)
表2に示す配合組成となる様に、水不溶性又は水難溶性の高分子成分として5質量%のセラック樹脂と、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)と、93質量%の水とを混合して、非水性後処理インクを作製した。
【0104】
【表2】
【0105】
(水性後処理インクの調製)
表3に示す配合組成となる様に、水溶性の高分子成分として5質量%のポリビニルピロリドンと、表面張力調整剤として2質量%のポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:SYグリスター、阪本薬品工業(株)製)と、93質量%の水とを混合して、水性後処理インクを作製した。
【0106】
【表3】
【0107】
(実施例1)
本実施例に於いては、水性インクと非水性後処理インクとの組み合わせによるインクセットを用いて、糖衣錠(糖衣層がショ糖)に対する印刷を行った。
【0108】
即ち、先ず水性インクを用いて、インクジェット方式により、糖衣錠の一方の面に印刷を行い、糖衣錠表面にインク層を形成した(インク層形成工程)。
【0109】
印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行い、水性インクの液滴量(吐出量)は、5pl(0.28mg/cm)とした。その後、自然乾燥にて印刷面を十分に乾燥させた。乾燥時間は5分間とした。
【0110】
続いて、前記非水性後処理インクを用いて、インクジェット方式により、糖衣錠の表面に印刷されたインク層の全面に印刷を行い、オーバーコート層(後処理インク層)を形成した(後処理工程)。
【0111】
印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度50%の環境下で行い、非水性後処理インクの液滴量(吐出量)は、7pl(0.39mg/cm)とした。その後、自然乾燥にて印刷面を十分に乾燥させた。乾燥時間は5分間とした。これにより、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0112】
(実施例2)
本実施例に於いては、非水性後処理インクを用いたインクジェット方式での印刷の際の非水性後処理インクの液滴量(吐出量)を18pl(0.5mg/cm)に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして、本実施例に係るサンプルを作製した。
【0113】
(比較例1)
本比較例に於いては、水性インクと水性後処理インクとの組み合わせによるインクセットを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、本比較例に係るサンプルを作製した。
【0114】
(比較例2)
本比較例に於いては、水性後処理インクを用いたインクジェット方式での印刷の際の水性後処理インクの液滴量(吐出量)を18pl(0.5mg/cm)に変更した。それ以外は、比較例1と同様にして、本比較例に係るサンプルを作製した。
【0115】
(結果1)
表4から分かる通り、水性インクと水性後処理インクの組み合わせからなるインクセットを用いた比較例1及び2に於いては、比較例1では印刷画像の滲みの発生が抑制されたものの、比較例2では印刷画像に滲みが発生した。これは、比較例2の方が、比較例1と比較して、水性後処理インクの液滴量が18plと多く、水性インクの乾燥皮膜からなるインク層に付着したときに、インク層に含まれるカーボンブラックが水性後処理インクで再分散したことに起因する。
【0116】
一方、水性インクと非水性後処理インクの組み合わせからなるインクセットを用いた実施例1及び2では、インク層上にオーバーコート層を印刷した際に、印刷画像での滲みの発生が抑制されていることが確認された。これは、非水性後処理インクの溶媒としてエタノールを用いたことにより、非水性後処理インクが水性インクの乾燥皮膜からなるインク層に付着しても、インク層中のカーボンブラックが非水性後処理インクで再分散しなかったことに起因する。
【0117】
【表4】
【0118】
尚、表4の印刷画像の滲み評価に於ける評価基準は以下の通りとした。
○:印刷画像に滲みあり
×:印刷画像に滲みなし
【0119】
(実施例3)
本実施例3に於いては、実施例1と同様にして、糖衣錠の表面にインク層及びオーバーコート層を順次印刷したサンプルを作製した。次いで、得られたサンプルの印刷面に対し10回の指擦過を行った。これにより、印刷画像を形成するインク層の剥がれ度合(耐擦過性)を評価した。結果を表5に示す。
【0120】
(比較例3)
本比較例3に於いては、比較例1と同様にして、糖衣錠の表面にインク層及びオーバーコート層を順次印刷したサンプルを作製した。次いで、得られたサンプルの印刷面に対し実施例3と同様にして10回の指擦過を行った。これにより、印刷画像を形成するインク層の剥がれ度合(耐擦過性)を評価した。結果を表5に示す。
【0121】
(結果2)
表5から分かる通り、比較例3のサンプルでは、印刷面の10回の指擦過によりインク層が剥がれ、印刷画像の画質が低下していることが確認された。これは、比較例3のオーバーコート層が水溶性のポリビニルピロリドンを含んで構成されており、このポリビニルピロリドンが、指擦過の際に手汗の水分で溶解した結果、印刷画像を形成するインク層が剥がれたことに起因する。
【0122】
一方、実施例3のサンプルでは、印刷面に10回の指擦過を行ってもインク層の剥がれが抑制され、印刷画像の画質の低下を防止できることが確認された。これは、実施例3のオーバーコート層が水不溶性又は水難溶性のセラック樹脂を含んで構成されており、このセラック樹脂が、指擦過の際に手汗の水分で溶解することなくインク層を保護したためである。
【0123】
【表5】
【0124】
尚、表5に於ける耐擦過性の評価基準は以下の通りとした。
○:印刷画像に剥がれあり
×:印刷画像に剥がれなし