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特許7171299複合材料および複合材料から基材部を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】複合材料および複合材料から基材部を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   B27D 1/04 20060101AFI20221108BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B27D1/04 K
B27M3/00 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018149036
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020023123
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 諭司
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226813(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106863495(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/04
B27M 3/00
E04C 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材である基材部と補強部とからなる複合材料であって、補強部は、基材部接合部材および補強部保護部材ならびにこれらの間に配置されて両者に接着された繊維強化樹脂部材からなり、基材部接合部材と補強部保護部材とは直接的に全く接着されておらず、両者の間に隙間があることを特徴とする、複合材料。
【請求項2】
曲げ強さが20~140MPaかつ曲げ弾性係数が5~40GPaである、請求項1記載の複合材料。
【請求項3】
基材部が、幅100~300mmかつ高さ100~1000mmの断面寸法をもつ、請求項1記載の複合材料。
【請求項4】
補強部において、基材部接合部材および補強部保護部材は、それぞれに切削されたそれぞれ少なくとも2つの凹部を備え、該凹部は補強部保護部材の幅方向の端部から5~45mmの位置に10~100mmの間隔で配置され、該凹部に繊維強化樹脂部材が接着され固定されている、請求項1記載の複合材料。
【請求項5】
凹部が、幅10~100mmの連続する凹部であり、基材部の長さ方向と平行に切削されている、請求項4記載の複合材料。
【請求項6】
繊維強化樹脂部材が、幅10~100mmかつ高さ2~60mmの矩形断面を有する棒形状であり、該繊維強化樹脂部材は連続繊維で補強され、該連続繊維は基材部の長さ方向に配向している、請求項4記載の複合材料。
【請求項7】
繊維強化樹脂部材の連続繊維が、炭素繊維、ガラス繊維または芳香族ポリアミド繊維である、請求項1記載の複合材料。
【請求項8】
建築材料である請求項1記載の複合材料。
【請求項9】
請求項1記載の複合材料から基材部を回収する方法であって、基材部から補強部を切り離すことにより基材部を回収する方法。
【請求項10】
基材部が、請求項9記載の方法で回収された基材部である請求項1記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料として用いる木質材の複合材料に関し、詳しくは繊維強化樹脂部材によって補強されて著しく曲げ性能が改善された複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
単一木材や、木材の繊維方向に長く切削加工した引き板(ラミナ)あるいは小角材をその繊維方向を互いに平行にして接着剤を用いて貼り合わせて得た集成材は、建築において柱や梁といった骨組材として用いられ、また、木橋や大型ドームの構造材として用いられている。
【0003】
集成材は、ひき板や小角材を集成するため、寸法や形状の自由度が高く、集成材としての製品強度のばらつきや干割れ、狂いなどが小さく、さらに、曲がり材を容易に製造できるという優れた特性を備える。
【0004】
ところが、集成材を大型建築物や構造物に用いる場合、集成材の剛性や強度を高くする必要があるため集成材の断面高さを大きくしなければならない。このため、建築物や構造物の天井高を低く設定せざるを得ないという問題や、意匠性が損なわれるという問題がある。この課題を解決するために、軽量で剛性や強度が高い強化繊維を、接着剤を介して集成材に接着した繊維補強集成材を用いることが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1では、木材素材の層間に、開繊処理で薄く拡げられた帯状の補強用の繊維を含む繊維強化集成材が開示されている。しかし、この発明は接着力を重視するために「開繊処理で薄く拡げられた繊維」を用いることを必須要件としており、具体的には繊維層の厚さを数十μmに抑えることを前提にした技術である。繊維層が厚くなる場合には、接着性が低下するものと考えられていたからである(特許文献1、第[0029]項)。しかし、特許文献1に記載の技術のように薄く広げられた繊維束では、繊維の絶対量が不足し、十分な補強強度を確保できない。
【0006】
また、繊維層を厚く用いる技術を開示する特許文献2では、炭素繊維などの高強度繊維または高剛性繊維を樹脂によって固めてなる繊維強化樹脂により、棒状あるいは板状に形成された曲げ補強材を、集成材の一部として挟み込む方法が提案されている。また、同様に集成材に繊維補強材を挟み込む方法に関して、特許文献3においても、凹凸を設けた木質部に繊維シートを挟み込む方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-245431号公報
【文献】実開平1-159018号公報
【文献】特許第5306008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの技術では、建築材料として使用した後に木質の集成材を再利用することができず、全体を廃棄物として処理することになる。
【0009】
近年、地球規模で問題視されている地球温暖化に関して、大気中の二酸化炭素を削減すべく、様々な技術が開発・研究されている。建築業界においては、二酸化炭素を吸収する木材の活用を見直し、中低層建物の木造化などが促進されている。上記技術により、木材の低強度・低剛性を改善することができれば、木材の利用範囲が広がる可能性がある。
【0010】
しかし、廃棄物として建築材料の全体を焼却することになれば、木質材の集成材に貯蔵されていた二酸化炭素を排出することになる。木質の集成材の部分が再利用できるように補強されていることが、現代社会において望ましいことであるが、そのような補強形態はまだ実用化に至っていない。
【0011】
本発明の課題は、繊維強化樹脂部材によって木質の集成材の曲げ性能を改善しつつ、かつ建築材料として使用した後には、基材である集成材を再利用することができる複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、木質材である基材部と補強部とからなる複合材料であって、補強部は、基材部接合部材および補強部保護部材ならびにこれらの間に配置されて両者に接着された繊維強化樹脂部材からなり、基材部接合部材と補強部保護部材とは実質的に直接接着されていないことを特徴とする、複合材料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維強化樹脂部材によって木質の集成材の曲げ性能を改善しつつ、かつ建築材料として使用した後には、基材である集成材を再利用することができる複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明における補強部の模式図である。
図2】本発明の複合材料の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<基材部>
本発明では基材部として集成材を用いる。この基材部は好ましくは幅100~300mmかつ高さ100~1000mm、さらに好ましくは幅105~180mmかつ高さ105~450mm、特に好ましくは幅120~150mmかつ高さ120~450mmの寸法の断面をもつ集成材である。この断面寸法の集成材は木造の低層大空間建築物や中層建築物において、梁が大きな荷重を受ける場合や柱間隔を広くした場合において起こる曲げ剛性の不足に対して、補強効果が特に期待される断面寸法である。
【0016】
低層大空間建築物や中層建築物において梁を極端に太くしないために必要な梁の性能は、建物設計により異なるものの、既存の建物の梁が曲げ強さ25~50MPaかつ曲げ弾性係数9~15GPaのマツ系の木材が使用されていることから、これと同程度あるいはこれ以上の曲げ強さおよび曲げ弾性係数であることが望ましい。この観点から、本発明の複合材料は、好ましくは20~140MPaの曲げ強さおよび5~40GPaの曲げ弾性係数を備える。
【0017】
曲げ強さは、さらに好ましくは35~140MPa、特に好ましくは60~110MPaである。この範囲の曲げ強さであることで、低層大空間建築物や中層建築物において、梁が大きな荷重を受ける場合や柱間隔を広くした場合においても梁断面を大きくせずに用いることができて好ましい。
【0018】
曲げ弾性係数は、さらに好ましくは10~40GPa、特に好ましくは20~30GPaである。曲げ弾性係数が40GPaを超えると、曲げ剛性が高くなりすぎ、曲げ破壊でなくせん断破壊が起こりやすくなり、せん断の補強を実施しなければならず、コストが高くなり好ましくはない。曲げ弾性率が5GPa未満であると補強効果が小さく、低層大空間建築物や中層建築物において、梁が大きな荷重を受ける場合や柱間隔を広くした場合において梁断面が大きくなり好ましくない。
【0019】
<補強部>
本発明において基材部は、その両側面に補強部を伴うことで優れた曲げ物性を備える。補強部は、基材部接合部材および補強部保護部材ならびにこれらの間に配置されて両者に接着された繊維強化樹脂部材からなる。補強部において、基材部接合部材と補強部保護部材とは実質的に直接接着されていない。すなわち、基材部接合部材と補強部保護部材とは、繊維強化樹脂部材によって接続され相互に固定され一体化されている(図2)。
繊維強化樹脂部材は、基材部接合部材を介して基材部の両側面に接着されて複合材料を構成する(図2)。以下に補強部を形成する部材ごとに説明する。
【0020】
<基材部接合部材と補強部保護部材>
補強部において基材部接合部材および補強部保護部材はいずれも、好ましくは少なくとも2つの凹部、さらに好ましくは2つの凹部を備える。これらの凹部は、それぞれに切削されていることが好ましく、補強部保護部材の端部から内側に好ましくは5~45mmの位置に、好ましくは10~100mmの間隔で配置される。これらの凹部に、繊維強化樹脂部材が接着され固定されている。
【0021】
2列の凹部が上記の位置以外の補強部保護部材の端部に配置されていると、補強部の側面に繊維強化樹脂部材が露出することになり、補強部の寸法調整や最終的に複合材料としたときの仕上げ加工において木材用研磨機を用いることができなくなる。この場合、もし強引に木材用研磨機を使用すれば、繊維強化樹脂部材によって木材用研磨機の歯を損傷する恐れがある。
【0022】
補強部保護部材の端部から凹部までの間の、端部から5~45mmの部分と凹部同士の間隔10~100mmの部分には繊維強化樹脂部材が存在しないため、本発明の複合部材を建築で用いる際に合板などの材料を固定する際のビス打ちや釘打ちをする部分となる。凹部を補強部保護部材の端部から5~45mmの位置に10~100mmの間隔で配置されることで、加工中に折れや欠けなど破損の原因となることがなく、ビスや釘を打つための幅を広くとることができ、他の部材を容易に固定することができる。
【0023】
凹部は、好ましくは幅が10~100mmの連続する凹部であり、好ましくは基材部の長さ方向と平行に切削されている。
【0024】
<繊維強化樹脂部材>
繊維強化樹脂部材として、基材部に用いる集成材の長さ方向と平行に配向した連続繊維を樹脂で固化された繊維強化樹脂部材を用いる。連続繊維として、木材の補強に適した強度を有する汎用的な強化繊維を用いることができる。強化繊維は無機繊維であるか、融点またはガラス転移温度が200℃以上、さらに250℃以上である有機繊維を用いることが好ましい。
【0025】
繊維強化樹脂部材の連続繊維として、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、四フッ化エチレン繊維を例示することができる。本発明の複合材料の主な用途が建物を成り立たせるための部材であるので、これを構成する繊維強化樹脂部材は、火災時においても強度の低下が起こりにくいことが好ましい。この観点から、炭素繊維、ガラス繊維または芳香族ポリアミド繊維が好ましく、炭素繊維または芳香族ポリアミド繊維が特に好ましい。これらの強化繊維はそれらの単独または2種類以上を複合して用いてもよい。
【0026】
炭素繊維を用いる場合、ポリアクリロニトリル系繊維を焼成して得られるアクリルニトリル系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維を用いる場合、炭素繊維は引張り強度2500~7000MPaかつ弾性率150~700GPaのものが好ましい。この範囲の引張強度と弾性率であると十分な補強効果を得ることができる。
【0027】
連続繊維は樹脂とともに繊維強化樹脂部材を構成する。繊維強化樹脂部材における連続繊維の形態は、一方向に繊維を引き揃えたUD基材やその2方向以上の組合せ、織物、不織布など様々な形態を採用することができ、必要とする強度に応じて設計することができる。実際の性能とコストとのバランスを加味すると、連続繊維は一方向に引き揃えたUD基材として用いることが特に好ましい。UD基材としては、引張強度や引張弾性率が高く、かつ耐熱性が高い炭素繊維を一方向に引き揃えたUD基材を用いることが好ましい。
【0028】
繊維強化樹脂部材に用いられる樹脂はマトリックス樹脂となるものを用い、好ましくは熱硬化性樹脂を用いる。熱硬化性樹脂として、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂を挙げることができる。なかでも、耐熱性の観点からフェノール樹脂が好ましい。
【0029】
連続繊維は、基材部の集成材の長さ方向に配向した態様になるように用いることが好ましい。この態様で用いることによって、繊維による補強効果を効果的に発揮することができる。本発明で用いる繊維強化樹脂部材における繊維と樹脂の体積分率は40/60~60/40の範囲であることが好ましい。
【0030】
繊維強化樹脂部材の物性は、曲げ強さが900~2000MPaかつ曲げ弾性係数が90~150GPaであることが好ましい。
【0031】
本発明の複合材料の主な用途は建築材料の軸材料であり、柱や床といった他の部材と接合して、建築構造を成す。例えば、梁に用いる場合には、その上部に合板などの床材料をビスや釘で固定するため、極力、補強材料である繊維強化樹脂部材に損傷を与えることなく、ビス止めや釘打ちを実施する必要がある。そのため、繊維強化樹脂部材はより細く、しかしながら補強に必要な十分な繊維量を確保する必要があるため、繊維材料の形状は矩形断面を有する棒状形状が望ましい。その補強性能と使用上のビス止めや釘打ちのスペースの確保を両立するための繊維強化樹脂部材は、例えば幅10~100mmかつ高さ2~60mmの矩形断面を有する棒形状であり、好ましくは幅20~50mmかつ高さ10~30mmの矩形断面を有する棒形状であることが好ましい。
【0032】
繊維強化樹脂部材の幅と高さがこれらの範囲にないと、補強性能が得られ難くなるか、ビス止めや釘打ちのスペースを設け難くなるばかりではなく、繊維強化樹脂部材を固定するための基材部接合部材と補強部保護部材に設ける凹部の加工が困難になり、最終的には補強効果の発現が期待できない。
【0033】
このような矩形断面を有する棒状の繊維強化樹脂部材は、一般的な繊維強化樹脂の成型方法で得られ、特には引抜成形法にて成形されることが棒形状の成形性の観点から好ましい。
【0034】
<基材部接合部材と補強部保護部材、繊維強化樹脂部材の接着>
基材部接合部材、補強部保護部材および繊維強化樹脂部材を用いて補強部が構成される。基材部接合部材と補強部保護部材とにそれぞれ設けられた、それぞれ少なくとも2列、好ましくは2列の凹部に接着剤を介して繊維強化樹脂部材を接着する。基材部接合部材と補強部保護部材との間に繊維強化樹脂部材が配置される。このとき、基材部接合部材と補強部保護部材とは実質的に直接接着されておらず、基材部接合部材と補強部保護部材のそれぞれが繊維強化樹脂部材との接着を介して一体化していることが重要である。基材部接合部材と補強部保護部材とは直接的に全く接着されておらず、両者の間に隙間があることが特に好ましい。
【0035】
なお、実質的に直接接着されていないことは、基材部接合部材と補強部保護部材とが、比較的弱い接着力で接着されていることを許容する意味であり、繊維強化樹脂部材との間の接着力の例えば10%以下、好ましくは5%以下の接着力で接着されていることを許容する意味である。
【0036】
本発明における繊維強化樹脂部材は、基材部の集成材の対向する両側面に基材部接合部材を接着し、その基材部接合部材と接着している繊維強化部材部材の補強効果を基材部の集成材に伝達することで補強効果を得る。
【0037】
したがって、基材部接合部材と基材部との接着はもちろんのこと、基材部接合部材と繊強化樹脂部材との接着も強固でなければならない。本発明におけるすべての接着は、接着剤として木質用の接着剤である水溶性高分子-イソシアネート系接着剤またはレゾルシノール系接着剤を使用して行うことができる。接着はプレス接着で行うことが好ましく、木質材料のプレス接着であるため、このプレス圧は、木質材料が破壊しない程度である1.0MPa前後で実施することが好ましい。
【0038】
基材部接合部材と繊維強化樹脂部材との接着において、効率よく圧力を接着界面に与える必要がある。このため、基材部接合部材および補強部保護部材に設ける少なくとも2列、好ましくは2例の凹部は、その深さの合計を繊維強化樹脂部材の高さ未満に設定する必要がある。例えば繊維強化樹脂部材の高さを30mmとするならば、基材部接合部材および補強部保護部材に設ける凹部に深さを14.5mmとし、その深さの合計が29.0mmとするなど、基材部接合部材と補強部保護部材との間に例えば1mm以上の隙間を設けて両者が直接接触しない、すなわち、直接接着しないことで、効率よくプレス圧力を基材部接合部材と補強部保護部材の接着界面に与えることができる。
【0039】
他方、両者の隙間が狭く、例えば1mm未満である場合、基材部接合部材と補強部保護部材とが接触することで、プレス圧力が十分に繊維強化樹脂部材に伝わらず、基材部接合部材と補強部保護部材との接着が不十分となり、その結果、複合材料の性能が十分に発揮されない可能性が高くなる。
【0040】
<基材部接合部材と補強部保護部材の役割>
本発明における補強部は、これまでに説明したように、繊維強化樹脂部材を基材部接合部材と補強部保護部材で挟んだ形態をとる。ここで、基材部接合部材と補強部保護部材の役割について説明する。
【0041】
基材部接合部材は、基材部の集成材と接着され、繊維強化樹脂部材の補強効果を基材部に伝達する役割をもつ部材である。基材部接合部材と基材部との接着は、通常の集成材と同様に、木質用の接着剤である水溶性高分子-イソシアネート系接着剤またはレゾルシノール系接着剤を使用したプレス接着により行うことができる。
【0042】
他方、補強部保護部材は、本発明の複合材料の最外層に位置する材料である。補強部保護部材の役割は、その内側に配置される繊維強化樹脂部材を保護すると同時に、建築構造材として本発明の複合材料を使用するときに、床材や内装材を複合材料に固定するための釘打ちやビス止めなどのスペースとしての役割を担う。したがって、基材部接合部材と同様に、補強部保護部材と繊維強化樹脂部材との接着は強固でなくてはならず、上述した補強部の作製方法をとることが重要となる。
【0043】
<基材部の再利用>
本発明の複合材料の特徴は、繊維強化樹脂部材によって基材部の木質集成材の曲げ性能を改善するのみならず、繊維強化樹脂部材と一体化された複合材料が建築材料として使用された後に、複合材料の体積の多くを占める基材部の集成材を再利用できることである。
【0044】
通常は、補強したい基材(集成材)の内部または外層に補強材料を接着し、その基材自体に合板などの床材料や天井材などの内装材をビス止めや釘打ちにより固定しているため、建築物の解体後は全ての材料を廃棄物として処分するより方法がない。しかし、本発明の複合材料は、基材部として用いる集成材に対して、基材部接合部材を介して繊維強化樹脂部材を接着し、かつ補強部保護部材を介して合板などの床材料や天井材などの内装材をビス止めや釘打ちにより固定しているため、建物の解体時に損傷を受けるのは補強部保護部材に留まり、基材部接合部材を通常の木材加工で切り取ることで基材部である集成材に戻して再利用することができる。
【0045】
繊維強化樹脂部材により補強をされた状態で建材として使用されている間は、主に繊維強化樹脂部材が力学的に重きを担っているため、基材部の集成材自体の物理的な劣化は通常の集成材よりも少ない可能性も考えられる。
【実施例
【0046】
本発明をさらに実施例により具体的に説明する。評価は下記の方法により行った。
(1)接着力
基材部節後部材や補強部保護部材の木質部材と繊維強化樹脂部材の接着界面を25mm×25mmとし、接着界面が中心となるように60mm(木質部材30mm+繊維部材30mm)を試験片として切り出し、繊維強化樹脂部材を治具に固定し、接着界面にせん断応力がかかるように木質部材に圧力をかけた。破壊した荷重を測定し、接着面積で除すことでせん断接着強さ(MPa)を算出した。5.4MPa以上のせん断接着強さで接着しているとの判定とした。
(2)曲げ物性
断面が幅120mmかつ高さ390mm、全長8000mmの試験体に対して、支点間距離を7020mm(断面高さの18倍)とし、全長8000mmの試験体を4等分する2点に加力を行う4点曲げ試験を実施した。得られた最大荷重および荷重-たわみ曲線から、以下の式を用いて曲げ強さと曲げ弾性係数を算出した。
(曲げ強さの計算式)
【数1】
(曲げ弾性係数の計算式)
【数2】
【0047】
実施例1
(基材と補強効果)
基材部として、幅120mm、高さ300mmの断面を持つスギの集成材(E65-F225)を用いた。この集成材の曲げ特性は、曲げ強さ22.5MPa、曲げ弾性係数6.5GPaである。
【0048】
(基材部接合部材と補強部保護部材)
基材部と同様に、基材部接合部材と補強部保護部材にもスギ材料を用いた。幅125mm、高さ22mm、長さ8000mmの製材ラミナを作製し、両端部より17.5mmの位置に幅30mm、深さ14.5mmの凹部を2列、ラミナ長さ方向と並行に切削した。2列の凹部間の間隔は30mmとした。このラミナを4枚作製した。
【0049】
(繊維強化樹脂部材)
繊維強化樹脂部材は、補強繊維として炭素繊維の連続繊維(東邦テナックス社製)を使用し、マトリックス樹脂にビニルエステル樹脂を用いた繊維強化樹脂を使用した。この繊維強化樹脂部材は引抜成形により成形され、断面が30mm×30mmの正方形であり、長さが8000mmとした。得られた繊維強化樹脂部材の曲げ特性は、曲げ強さが1300MPa、曲げ弾性係数が110GPaであった。
【0050】
(基材部接合部材と補強部保護部材、繊維強化樹脂部材の接着)
得られた基材部接合部材と補強部保護部材のラミナに設けた2列の凹部に、300g/mとなるように水溶性高分子-イソシアネート系接着剤を塗付し、繊維強化樹脂部材をそれぞれの凹部に挿入し、繊維強化樹脂部材を基材部保護部材と補強部保護部材とで挟み、0.8MPaのプレス圧で45分間プレス接着して補強部を成形した。得られた補強部は、基材部接合部材と補強部保護部材との間に1mmの隙間が生じており、繊維強化樹脂部材と基材部接合部材との接着および繊維強化樹脂部材と補強部保護部材との接着のみで一体化されていた。繊維強化樹脂部材と基材部接合部材とのせん断接着強さと、繊維強化樹脂部材と補強部保護部材とのせん断接着強さを測定したところ、いずれも7.8MPaであり十分に接着していることが確認できた。補強部の寸法は、幅125mm×高さ45mm×長さ8000mmであった。
【0051】
(複合材料)
得られた補強部2部それぞれの基材接合部材に、250g/mとなるように水溶性高分子-イソシアネート系接着剤を塗付し、基材部とする集成材(E65-F225)の対向する両側面に接置し、プレス接着を行った。プレス圧は0.8MPaとし、プレス時間は45分間とした。プレス後、得られた複合材料の周囲6面を削り、寸法調整を行い、幅120mm×高さ390mm×長さ8000mmとした。
【0052】
得られた複合材料の4点曲げ試験を実施したところ、曲げ強さが102.1MPa、曲げ弾性係数が25.8GPaであった。
【0053】
比較例1
実施例1において、基材部接合部材と補強部保護部材に設けた凹部の深さを15.5mmとした以外は実施例1と同様にして、補強部を作成し、同様に複合材料を作製した。その結果、補強部において繊維強化樹脂部材と基材部接合部材とのせん断接着強さと、繊維強化樹脂部材と補強部保護部材とのせん断接着強さを測定したところ、それぞれ0.6MPaであり、接着が不足していることを確認した。また、得られた複合材料の4点曲げ試験を実施したところ、曲げ強さが29.3MPa、曲げ弾性係数が8.4GPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の複合材料は、例えば柱や梁などの建築材料として用いることができる。使用された後に建物が解体されたときには、基材部を集成材に戻すことができるため、再度、通常の集成材とし用いることができる。また、新たに補強部を接着して、複合材料として用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
11 繊維強化樹脂部材
12 基材部接合部材
13 補強部保護部材
21 補強部
22 基材部である集成材
図1
図2