(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ラミネート用水性インクジェット用インク組成物、それを利用した印刷物、ラミネート加工物、及び、ラミネート加工方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20221108BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221108BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221108BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20221108BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 134
B41M5/00 100
B32B27/00 E
B32B27/40
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2018154169
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】森安 員揮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵理
(72)【発明者】
【氏名】佐野 孝明
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-250416(JP,A)
【文献】特表2011-502185(JP,A)
【文献】特開平04-178418(JP,A)
【文献】特開2017-088646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,B41M,B32B,B41J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件2を満足するプライマー組成物の塗工層上に塗布され、
着色剤、下記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂、及び、水性媒体を含有する
ことを特徴とするラミネート用水性インクジェット用インク組成物。
条件1
ヘキサメチレンジイソシアネート、下記の一般式1で表されるポリエステルジオール化合物の群から選択される少なくとも1種、及び、酸基含有ジオール化合物を含有する反応成分の反応物である。
【化1】
(ただし、Xは、それぞれ独立して、-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-、又は、-CH
2-CH
2-CH(CH
3)-CH
2-CH
2-で表わされる炭化水素基であり、nは2~20の整数である。)
条件2
水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する、又は、水溶性多価金属塩、少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
【請求項2】
アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の含有量は、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物の全質量に対して、1.0~10.0質量%である請求項1に記載のラミネート用水性インクジェット用インク組成物。
【請求項3】
アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、重量平均分子量が2,000~10万である請求項1又は2に記載のラミネート用水性インクジェット用インク組成物。
【請求項4】
アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、酸価が5~100mgKOH/gである請求項1~3のいずれか
一項に記載のラミネート用水性インクジェット用インク組成物。
【請求項5】
ベースフィルム、プライマー組成物の塗工層、及び、請求項1~4
のいずれか一項に記載のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷層がこの順に積層され、
前記プライマー組成物は、下記条件2を満足する
ことを特徴とする印刷物。
条件2
水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する、又は、水溶性多価金属塩、少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷物の印刷層の、塗工層を有する面と反対側の面上に、シーラントフィルムが積層されていることを特徴とするラミネート加工物。
【請求項7】
ベースフィルムの一方の面にプライマー組成物を塗工して塗工層を形成し、次いで、該塗工層の面上に請求項1~4のいずれか
一項に記載のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をインクジェット印刷方式で印刷して印刷層を形成し、次いで、該印刷層の面上にラミネート用接着剤を塗工した後、シーラントフィルムを積層することを特徴とするラミネート加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に小ロット・多品種化が進む軟包装容器の製造に適したラミネート用水性インクジェット用インク組成物、それを利用した印刷物、ラミネート加工物、及び、ラミネート加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ライフスタイルの多様化に伴い、人それぞれに異なる価値観を持つようになった。当然、物の選択基準においても自己の価値観が優先されるため、結果として、多様化は選択肢の幅を押し広げる役割を果たす。そして、物を提供する側では、それを、新たなニーズを掘り起こすビジネスチャンスととらえ、事業拡張の戦略に据える企業が増加している。
【0003】
例えば、スーパーやコンビニの食品売り場の陳列棚には、今まで無かったような珍しい商品が並べられている光景をよく目にする。特に、全国規模で店舗を展開しているところのプライベートブランドの中に、そうした商品が数多く見受けられる。これは、直接、消費者の動向を察知できる強みを生かして、客側の多様化のニーズに合った商品をいち早く取り揃え、他社と差別化して集客や販売量の増加に繋げようとする事業戦略の表れと考えられる。
【0004】
もちろん、食品専門メーカーとしても、客側の好みやニーズを把握しきれず、商品開発で後手に回ることに対して、いつも危機意識を持っている。定番商品だけに頼っていては、多様化の流れに乗り遅れることになりかねず、一種の冒険的な商品も含めて、次々に新しい商品を生み出そうという機運が高くなっている。
【0005】
このように、多様化は新たなカテゴリーの商品を生み出すばかりではなく、さらに細分化をもたらすことになる。例えば、同じ食品のカテゴリーであっても、カレー味、ソース味、わさび味等と味付けの種類が増加したり、名産地の食材を特別に選んで使用したりという風に、直接、食品の素材に関連するもの以外に、価格帯や男女向けで細分化されることもある。
【0006】
ただ、商品のカテゴリーが増え、また細分化されたからといって、全体の需要が増えるわけではない。したがって、流通する商品の種類の多さに反比例するように、一つひとつの商品の販売量は少なくなる。そうした理由から、食品用軟包装容器の製造現場では、小ロット・多品種化が急速に進んでいる。
【0007】
ところで、プラスチックフィルムを利用した食品用軟包装容器の分野では、印刷図柄の出来栄えが売り上げに直結するため、何にもまして印刷品質が重視される。この様な理由から、まずは、美粧印刷物(優れた印刷画質)を得るのに適するという観点でグラビア印刷方式が利用されてきた。
【0008】
グラビア印刷では、円筒形の金属ローラーの表面に、化学的な腐食、機械彫刻、レーザー彫刻等の方法を用いてインキを溜めるセルを設け、さらに耐摩耗性や耐腐食性を高めるために金属クロムメッキを施した印刷版を利用する。このような印刷版は、製版に非常に多くのコストと手間を要する代わりに、高い耐刷性を有している。そこで、できる限り大量の印刷物を製造して、印刷物一枚当たりの製版のコストや手間を削減することが、経済的に優れた印刷方法となる。
【0009】
食品包装容器の分野では、かつて、スナック菓子やラーメン袋に代表されるように、同じ印刷物を大量に印刷する仕事がたくさんあった。したがって、グラビア印刷方式が十分に経済的に優れた印刷方式となり得たことが、この分野で利用されたもう一つの大きな理由である。しかし、この印刷方式の優位性は、最近の小ロット・多品種化の流れに逆行するものとなった。今後、さらにライフスタイルの多様化が進むと予想されることを考えれば、食品用軟包装容器の印刷方式は転換期を迎えつつあると言える。
【0010】
以上のような背景の中、最近では、高価かつ製版に手間がかかる上に、印刷図柄が固定されるという印刷版を使用することなく、任意の図柄を印刷可能なインクジェット印刷方式が注目されている。そして、ラミネート加工された複合フィルムの食品包装容器でしばしば問題になる残留溶剤の低減、印刷作業環境の改善、大気汚染の防止、消防上の安全性等の多様な観点から、利用するインクとしては、水性タイプのインクの要望が高くなっている。
【0011】
そこで、特にラミネート加工された複合フィルムの食品包装容器で利用することを目的として、数々の水性インクジェット用インク組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-250416号公報
【文献】特開2013-001755号公報
【文献】特開2013-001775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
水性インクジェット用インク組成物は、プラスチックフィルムに対する接着性が乏しいという本質的な問題がある。その結果として、水性インクジェット用インク組成物では、ラミネート加工された複合フィルムを利用した包装容器において、特に以下のような不具合を生じさせる。
【0014】
まず、ラミネート加工では、印刷基材となる透明のプラスチックフィルム(以下、ベースフィルムともいう)側に、例えば、画像や文字を黄紅藍墨の色相を有する水性インクジェット用インク組成物でフルカラー印刷する。しかし、そのままの状態では、画像や文字と背景との間で十分なコントラスト感を得られず、また、多くの食品包装用途で高い遮光性が要求される。そこで、上記の印刷面の全面を覆うように、広範囲にわたって白インクによる白押え印刷を行う。次いで、白インクを印刷した側に、直接、又は他の各種機能層を積層した後、熱溶融性のシーラントフィルムを接着剤で貼り合わせるか、又は溶融させた樹脂を薄膜状に圧着して積層することにより複合フィルムを製造する。
【0015】
さらに、得られた複合フィルムを利用して包装容器を製袋するには、熱溶融性のシーラントフィルムを内側にして、袋の端部にあたる部分でフィルム同士を熱で溶封して袋状に加工する。包装容器の外側からみると、印刷面はベースフィルムの裏側に位置するため、裏刷り印刷と呼ばれている。
【0016】
ここで、ベースフィルムとシーラントフィルムとの間に位置する水性インクジェット用インク組成物が、例えば、ベースフィルムに対して、十分な接着力を有していないと、食品の充填、輸送、陳列等の際に、ベースフィルムと水性インクジェット用インク組成物との間で剥離が起こり、包装容器が破袋するといった問題が発生する。また、上記ベースフィルムに対する接着力がシーラントフィルムの破断強度より低くなると、包装容器を開封しようとしたときに、外側のベースフィルム側は開封されるが、内側のシーラントフィルム側は未開封のまま残る、いわゆる「二重袋の様な状態」になって開封できないという可能性が高くなる。
【0017】
また、包装容器の用途に応じて、ベースフィルムには、ポリオレフィン系(例えば、ポリプロビレン、PP)の非極性材料から、ポリエステル系(例えば、ポリエチレンテレフタレート、PET)やポリアミド系(例えば、ナイロン、Ny)の極性材料まで、種々のタイプのプラスチックフィルムが利用される。そのため、最近はベースフィルムのタイプごとに、印刷適性や水性インクジェット用インク組成物との接着性等を向上させることを目的として、表面処理剤(プライマー組成物)を塗工する方法が開発されている。
【0018】
しかし、ベースフィルムが変わるごとに、いちいち、プライマー組成物を変えて印刷しなければならないという状況は、小ロット・多品種化の印刷作業環境において煩雑さをもたらす。その一方で、水性インクジェット用インク組成物を接着させることが最も困難な部類に入る延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムに対して、分子の結晶構造が近似する塩素化ポリプロピレン(塩素化PP)を含有するプライマー組成物を用いると、より効果的であることが知られている。
【0019】
そうすると、塩素化ポリプロピレン等の材料を含有するプライマー組成物を利用して、さらにポリエステル系やポリアミド系のベースフィルムに対して良好な接着が得られる水性インクジェット用インク組成物があれば、食品用包装容器の主要なベースフィルムに対して、一種ずつのプライマー組成物と水性インクジェット用インク組成物の組み合わせで適用が可能になる。この様なプライマー組成物と印刷に用いる水性インクジェット用インク組成物との組み合わせは、高い汎用性を有する事になるが、そういった組み合わせは、未だ見当たらないというのが現状である。
【0020】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、食品包装等の包装容器の印刷にインクジェット印刷方式を利用することにより、最近の小ロット・多品種化に効率よく対応することを目的とした中で、下記のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を提供することである。
すなわち、上記ラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、水性化されていることにより、残留溶剤の低減、印刷作業環境の改善、大気汚染の防止、消防上の安全性等の多様な利点が得られ、塩素化ポリプロピレン等の材料を含有するプライマー組成物と組み合わせて利用したときに、種々のタイプのベースフィルムに適用できる高い汎用性を有する。さらに、少なくとも運搬や陳列等の際に破袋せず、開封の際は二重袋の様な状態にならずに難なく開封できる食品用包装容器の製造を可能にするラミネート用水性インクジェットインク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、まず、特定の反応成分から得られるポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として用いたインクジェット用インク組成物は、保存安定性や吐出安定性にも優れるとともに、軟包装容器で使用される様々なベースフィルムに対する適用性(美粧印刷性(印刷画質)や接着性といった基本的な性能)においても優れることを見出した。
そして、上記インクジェット用インク組成物は、水性のインク組成物の適用性を改善する目的で塗布されるプライマー組成物と併用した場合でも、上述した軟包装容器で使用される様々なベースフィルムに対する適用性の度合いは、維持されるという結果を示した。
【0022】
そこで、ベースフィルムがOPPフィルムであるとき、好適に塗布される塩素化PPを含有するプライマー組成物を、上記インクジェット用インク組成物と組み合わせることにした。これは、水性のインクジェット用インク組成物として上述した適用性を得ることが最も困難な部類に入るOPPフィルムに対しては、プライマー組成物の水性のインク組成物の適用性を改善する効果を活用する。その他のプラスチックフィルムに対しては、さらにインク組成物自体の有する適用性の高さと、プライマー組成物の有する水性のインク組成物の適用性を改善する効果との相乗効果を期待したものである。その結果、上記インクジェット用インク組成物は、OPPのみならず、PETやNy系のベースフィルムに対しても優れた適用性を有するという、従来に無い、しかし期待通りの効果が得られた。すなわち、一種類のプライマー組成物と上記インクジェット用インク組成物との組合せで、軟包装用容器で利用される主要なベースフィルムのほとんどに適用性を有することになる。
【0023】
さらに、これら三種のプラスチックフィルムをベースフィルムとして、上記のプライマー組成物と上記インクジェット用インク組成物とを組み合わせて塗工・印刷して得られる印刷物を、ラミネート加工及び製袋加工したとき、いずれのベースフィルムにおいても、高いラミネート強度(ベースフィルムとシーラントフィルムとの間の剥離強度)及びシール強度(袋のシーラントフィルムの溶封部分の剥離強度)が得られることを確認した。
【0024】
本発明者らは、これらの知見をもとに鋭意検討した結果、上記の課題をすべて解決し得るラミネート用水性インクジェット用インク組成物を開発し、本発明を完成させたものである。
【0025】
すなわち、本発明は、着色剤、下記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂、及び、水性媒体を含有することを特徴とするラミネート用水性インクジェット用インク組成物。
条件1
ヘキサメチレンジイソシアネート、下記の一般式1で表されるポリエステルジオール化合物の群から選択される少なくとも1種、及び、酸基含有ジオール化合物を含有する反応成分の反応物である。
【化1】
(ただし、Xは、それぞれ独立して、-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-、又は、-CH
2-CH
2-CH(CH
3)-CH
2-CH
2-で表わされる炭化水素基であり、nは2~20の整数である。)
上記アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の含有量は、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物の100質量部に対して、1.0~10.0質量部であることが好ましい。
また、上記アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、重量平均分子量が2,000~10万であることが好ましい。
また、上記アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、酸価が5~100mgKOH/gであることが好ましい。
また、本発明は、ベースフィルム、プライマー組成物の塗工層、及び、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷層がこの順に積層され、上記プライマー組成物は、下記条件2を満足することを特徴とする印刷物でもある。
条件2
水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する、又は、水溶性多価金属塩、少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
また、本発明は、本発明の印刷物の印刷層の、塗工層を有する面と反対側の面上に、シーラントフィルムが積層されていることを特徴とするラミネート加工物でもある。
また、本発明は、ベースフィルムの一方の面にプライマー組成物を塗工して塗工層を形成し、次いで、該塗工層の面上に本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をインクジェット印刷方式で印刷して印刷層を形成し、次いで、該印刷層の面上にラミネート用接着剤を塗工した後、シーラントフィルムを積層することを特徴とするラミネート加工方法でもある。
【発明の効果】
【0026】
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、着色剤、下記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂、及び、水性媒体を含有することを特徴とする。
条件1
ヘキサメチレンジイソシアネート、下記の一般式1で表されるポリエステルジオール化合物の群から選択される少なくとも1種、及び、酸基含有ジオール化合物を含有する反応成分の反応物である。
【化2】
(ただし、Xは、それぞれ独立して、-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-、又は、-CH
2-CH
2-CH(CH
3)-CH
2-CH
2-で表わされる炭化水素基であり、nは2~20の整数である。)
このため、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物では、水性化されていることにより、残留溶剤の低減、印刷作業環境の改善、大気汚染の防止、消防上の安全性等の多様な利点が得られる。そして、インクジェット印刷方式で、食品包装等の包装容器の印刷物の製造が可能になるため、最近の小ロット・多品種化に効率よく対応することができる。また、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を、例えば、塩素化ポリプロピレン等の材料を含有するプライマー組成物と組み合わせて利用したときに、種々のタイプのベースフィルムに適用できる高い汎用性を有し、さらに、少なくとも運搬や陳列等の際に破袋せず、開封の際は二重袋の様な状態にならずに難なく開封できる食品用包装容器の製造を可能にする。
以下、本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<着色剤>
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、着色剤を含有する。
上記着色剤としては、一般にインクジェットインクで使用される各種の無機顔料や有機顔料、染料が使用できる。
具体的には、無機顔料として、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミニウムイエロー、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料、及び、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料を挙げることができる。また、有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。また、染料としては、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
なお、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物が食品用包装容器の印刷で利用される場合、使用する着色剤としては顔料が好ましい。
【0028】
上記着色剤の中でも、直接、水性媒体中に分散することができない顔料を用いる場合には、低分子量又は高分子量の顔料分散成分を用いて水性媒体中に分散させて、インクベースとして利用することが好ましい。ここで、上記低分子量の顔料分散成分としては、公知の低分子量の顔料分散剤等を利用することができる。また、上記高分子量の顔料分散成分としては、公知の高分子量の顔料分散用樹脂等を利用することができるが、分子内にイオン性基(例えば、酸基)と、好ましくは顔料表面に対して吸着性を有する基とを導入した高分子化合物である。上記高分子量の顔料分散成分は、該高分子量の顔料分散成分が有するイオン性基とイオン対を発生させる化合物(例えば、塩基性化合物等)の存在下で、水性媒体中に溶解又は分散させて水性樹脂ワニスとして利用することが好ましい。
【0029】
上記高分子量の顔料分散成分として、例えば、アクリル酸系樹脂、スチレン-アクリル酸系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、スチレン-アクリル―マレイン酸系樹脂等の各種の共重合体樹脂を挙げることができる。なお、利用する顔料が、後述するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂により分散可能であるときは、後述するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を高分子量の顔料分散成分として利用しても良い。
上記に例示した共重合体樹脂を合成するための単量体成分の中で、カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等を使用できる。
また、上述した顔料との吸着性を向上させる観点から、炭素数6~20の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、なかでも、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等が好ましい。さらに、スチレン系単量体として、スチレン、α-スチレン、ビニルトルエン等を使用できる。
また、その他の単量体成分として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等を使用できる。
【0030】
上述した顔料の分散性及び分散安定性の観点から、上記共重合体樹脂の酸価としては、40~300mgKOH/gが好ましく、より好ましくは70~250mgKOH/gである。
また、上述した顔料の分散性及び分散安定性の観点や、適切な粘度を付与する観点から、上記共重合体樹脂の分子量としては、通常重量平均分子量が3,000~20万であるのが好ましく、より好ましくは10,000~50,000である。
上記共重合体樹脂の配合量は、上述した顔料100質量部に対して10~200質量部が好ましい。
上記共重合体樹脂を、塩基性化合物の存在下で後記する水と必要に応じて水混和性有機溶剤とからなる水性媒体中に溶解または分散させて、水性樹脂ワニスとして利用する。
なお、本明細書において、上記酸価は、上記共重合体樹脂(後述するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂)を合成するために用いる単量体の組成に基づいて、上記共重合体樹脂(後述するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂)1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。
また、本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置としてWater 2690(ウォーターズ社製)、カラムとしてPLgel 5μ MIXED-D(Agilent Technologies社製)を使用してクロマトグラフィーを行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0031】
上記インクベースに用いる水性媒体は、水と必要に応じて水混和性有機溶剤を含有する。
なお、上記水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水ないし蒸留水が好ましい。
また、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物に、保存安定性、吐出安定性、インクの飛翔性等を付与する観点から、水混和性有機溶剤、例えば、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等を含有してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記インクベースに用いる水性媒体の含有量は、上記インクベース100質量部に対して、10~60質量部が好ましく、15~45質量部がより好ましい。
【0032】
上記着色剤は、本発明のラミネート用水性インクジェットインク100質量部に対して、0.5~20質量部となる範囲で含有することが好ましく、1.0~15質量部となる範囲で含有することがより好ましい。
【0033】
<アルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂>
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、下記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を含有する。
ヘキサメチレンジイソシアネート、下記の一般式1で表されるポリエステルジオール化合物の群から選択される少なくとも1種、及び、酸基含有ジオール化合物を含有する反応成分の反応物である。
【化3】
(ただし、Xは、それぞれ独立して、-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-、又は、-CH
2-CH
2-CH(CH
3)-CH
2-CH
2-で表わされる炭化水素基であり、nは2~20の整数である。)
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を含有することにより、保存安定性や吐出安定性に優れ、様々なベースフィルムに対して適用性(印刷画質)にも優れる。更に、例えば、塩素化ポリプロピレン等の材料を含有するプライマー組成物と組み合わせて利用したときに、様々なベースフィルムに対して優れたラミネート強度を有することができる。
これは、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂が、(1)水性媒体中での溶解又は自己乳化安定性に優れていること、(2)後述するプライマー組成物の塗工層が形成され、次いで、本発明のラミネート用水性インクジェットインク組成物が印刷された際に、上記インク組成物中に含まれるプライマー組成物の塗工層を溶解させる作用を有する成分により、該塗工層が溶解されて、上記インク組成物の印刷層と混合され、一体化した一つの層が形成されると推測され、結果として、ベースフィルムに対して、上記塗工層と上記印刷層との両方に含まれるベースフィルムとの吸着部位(特に、上記プライマー組成物に含まれる塩素化ポリプロピレンや、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の分子中の吸着部位)が接着力の発現に寄与できると推測されること、及び、(3)従来のインク組成物に用いられてきた樹脂と比較して柔軟性に優れるため、本発明のラミネート用水性インクジェットインク組成物の印刷層が、ベースフィルムの形状の変化に追従することが可能であること、が要因にあると推測される。
【0034】
上記一般式1で表されるポリエステルジオール化合物は、例えば、ジオール成分であるヘキサメチレンジオール及び/又は3-メチル-1,5-ペンチレングリコールと、ジカルボン酸成分であるフタル酸とを縮重合させて得ることができる。
【0035】
上記酸基含有ジオール化合物としては、例えば、下記一般式2で表されるカルボキシル基含有ジオール化合物を挙げることができる。
【化4】
(式中、R
1は、水素原子、又は炭素数1~8の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を示す。)
【0036】
上記酸基含有ジオール化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸等と低級ポリオールとを分子内に水酸基二つとカルボキシル基一つ以上が残存するように反応させて得られるカルボキシル基含有脂肪族ポリオール類や、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸又はその無水物と低級ポリオールとを分子内に水酸基二つとカルボキシル基一つ以上が残存するように反応させて得られるカルボキシル基含有芳香族ポリオール類等を挙げることができる。
【0037】
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、上述したヘキサメチレンジイソシアネート、上記の一般式1で表されるポリエステルジオール化合物の群から選択される少なくとも1種、及び、上記酸基含有ジオール化合物のみの反応生成物であっても良いが、さらに必要に応じて、鎖伸長剤や反応停止剤を反応成分として使用することができる。
ここで、使用可能な鎖伸長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコール類、エチレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、イソホロンジアミン等の低分子量の脂肪族及び脂環式ジアミン類、ヒドラジン、アルキルジヒドラジン、アルキルジヒドラジド等のヒドラジン類等を挙げることができる。
【0038】
また、使用可能な反応停止剤とは、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、N,N-ジ-n-ブチルアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類、ヒドラジン、アルキルジヒドラジン、アルキルジヒドラジド等のヒドラジン類、メタノール、エタノール等のモノアルコール類を挙げることができる。
【0039】
なお、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の各反応成分については、それぞれ単独で使用してもよく、また、2種以上を併用しても良い。また、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物として、上記の反応成分から合成されたポリウレタン樹脂の1種のみを使用しても、また、異なる反応成分から合成されたポリウレタン樹脂の2種以上を併用しても良い。
【0040】
そして、上記の各反応成分を使用してポリウレタン樹脂を合成する方法としては、通常の方法を利用することができる。
例えば、反応成分が、ヘキサメチレンジイソシアネート、上記一般式1で表されるポリエステルジオール化合物、及び、酸基含有ジオール化合物のみの場合、これら三成分を一括して反応させる方法であっても、ヘキサメチレンジイソシアネートと上記一般式1で表されるポリエステルジオール化合物とを、イソシアネート基が過剰となる状態で反応させた後、上記酸基含有ジオール化合物を反応させる方法であっても良い。
さらに、反応成分に鎖伸長剤や反応停止剤を利用する場合、ヘキサメチレンジイソシアネートと上記一般式1で表されるポリエステルジオール化合物とを、イソシアネート基が過剰となる状態で反応させてウレタンプレポリマーを合成した後、当該ウレタンプレポリマーに、さらにイソシアネート基が過剰となる状態で上記酸基含有ジオール化合物と鎖伸長剤を反応させ、次いで、反応停止剤を反応させる方法であっても、上記酸基含有ジオール化合物、鎖伸長剤、反応停止剤を一括して反応させる方法であっても良い。
【0041】
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の分子量は、重量平均分子量(以下、特に断りのない限り、ポリウレタン樹脂の分子量は重量平均分子量とする)として、2,000~100,000の範囲が好ましく、3,000~50,000がより好ましく、5,000~30,000がさらに好ましい。
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の分子量が2,000未満であると、インク皮膜が脆弱になる可能性があり、一方、分子量が100,000を超えると、少ない含有量でもラミネート用水性インクジェット用インク組成物の粘度が高くなる傾向があり、インク皮膜の形成に支障をきたす可能性がある。
【0042】
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の酸価は、5~100mgKOH/gが好ましい。上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の酸価が5mgKOH/gより小さいと、後述する水性媒体中での分散性が低下する可能性があり、100mgKOH/gより大きいと、印刷時の乾燥性や得られた印刷物の耐水性等が低下する可能性がる。
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の酸価は、ラミネート強度(ベースフィルムとシーラントフィルムとの間の剥離強度)を好適に付与する観点から、5~50mgKOH/gがより好ましい。
なお、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂では、酸価が低くなると、アルカリ可溶型水性ポリウレタン樹脂から自己乳化型水性ポリウレタン樹脂に変化する。
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の粘度を低く維持できる観点からも、自己乳化型水性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
なお、自己乳化型水性ポリウレタン樹脂とは、分子内にイオン性基を有し、水性媒体中でイオン性基がイオン化することにより、安定的に分散し得る性状を有するポリウレタン樹脂をいうものである。
【0043】
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂は、塩基性化合物の存在下で水中に溶解又は乳化させて、水性樹脂ワニスとして使用することが好ましい。
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を後述する水性媒体中に溶解又は乳化する方法としては、まず、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂に対してほぼ中和量となる塩基性化合物を後述する水性媒体中に溶解させる。その後、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を添加し、高速撹拌装置で撹拌する方法が利用できる。
ここで、利用可能な上記塩基性化合物としては、特に限定されず、一般に使用されている塩基性化合物を使用できる。例えば、ブチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、アンモニア水、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。塩基性化合物の配合量は、使用するポリウレタン樹脂の物性や使用量等に応じて適宜設定され、単独又は2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の含合量は、使用する後述する水性媒体中での粘度挙動、併用する成分、所望のインク物性等に応じて適宜調整されるが、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の全質量に対して、1.0~10.0質量%とすることが好ましい。また、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の保存安定性と吐出安定性、ラミネート強度(ベースフィルムとシーラントフィルムとの間の剥離強度)を付与する観点から、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の全質量に対して、3~8質量%であることがより好ましい。
【0045】
<水性媒体>
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、水性媒体を含有する。
上記水性媒体は、水を含有し、必要に応じて水混和性有機溶剤等を含む水性媒体を利用することが好ましい。
上記水混和性有機溶剤は、上述した条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂の溶解性の他に、乾燥性や保湿性、印刷時のレベリング性といった所望の性能に応じて配合する。ここで、利用できる水混和性有機溶剤としては、本発明の作用効果を阻害せず、またインクジェットプリンターに損傷を与えないものであれば、特に限定されず、モノアルコール類、モノ及びポリアルキレングリコール類とそのアルキルエーテル化合物、モノ及びポリグリセリンとそのエチレンオキサイド付加物が好適である。
【0046】
上記モノアルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノニルアルコール、n-デカノール、又はこれらの異性体、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、好ましくはアルキル基の炭素数が1~6のアルコールである。
【0047】
上記モノ及びポリアルキレングリコール類の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0048】
上記モノ及びポリアルキレングリコール類のアルキルエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等である。
【0049】
上記水性媒体では、水と水混和性有機溶剤の混合割合も、目的とするラミネート用水性インクジェット用インク組成物の特性に応じて設定すれば良いが、通常、これら水混和性有機溶剤は、水性媒体中に2~30重量%含有するのが好ましい。
【0050】
<他の成分>
さらに、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物には、目的に応じて任意の成分を含有しても良く、例えば、公知の顔料分散剤、界面活性剤、防黴剤、防錆剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保存性向上剤、消泡剤、pH調整剤等の添加剤も添加することもできる。
【0051】
<本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の製造方法>
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、例えば、以下の方法等により好適に製造することができる。
(1)顔料、必要に応じて、顔料分散成分(低分子量の顔料分散成分、高分子量の顔料分散成分を水性媒体に溶解させた水性樹脂ワニス等)、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を水性媒体に溶解又は自己乳化させた水性樹脂ワニス、他の成分等を混合する。次いで、例えばボールミル、アトライター、ロールミル、サンドミル、アジテーターミル等の各種分散機を利用して顔料を分散させる。その後、必要に応じて、さらに残りの材料(上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を水性媒体に溶解又は自己乳化させた水性樹脂ワニス、水性媒体等)を添加して、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物を調製する方法。
(2)上記(1)の方法で、上記高分子量の顔料分散成分を水性媒体に溶解させた水性樹脂ワニスにより、顔料を分散した後、酸析法や再公表特許WO2005/116147号公報に記載のイオン交換手段等により、顔料表面に上記高分子量の顔料分散成分を析出させた樹脂被覆顔料を得る。次いで、得られた樹脂被覆顔料を塩基性化合物で中和し、各種分散機(高速攪拌装置等)を用いて水性媒体に再分散し、さらに残りの材料を添加して、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物を調製する方法。
(3)染料、上記条件1を満足するアルカリ可溶型又は自己乳化型水性ポリウレタン樹脂を水性媒体に溶解又は自己乳化させた水性樹脂ワニス、水性媒体、及び、必要に応じてその他の成分を、各種分散機(高速攪拌装置等)を用いて混合し、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物を調製する方法。
【0052】
なかでも、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物の保存安定性が更に良好になるという観点から、着色剤として顔料を利用するときは、製造方法(2)が好ましい。
このようにして得られた本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の製造後の初期粘度としては、2.0~20.0mPa・sが好適であり、3.0~10.0mPa・sがより好適である。
【0053】
<プライマー組成物>
良好な印刷適性と接着性を付与する観点から、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をベースフィルムに印刷する際に、予め、ベースフィルムの表面にプライマー組成物を塗工した塗工層を形成しておくことが好ましい。
ここで、好適なプライマー組成物として、例えば、下記のプライマー組成物1及びプライマー組成物2を挙げることができる。
【0054】
プライマー組成物1は、水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
【0055】
プライマー組成物2は、水溶性多価金属塩、少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
【0056】
上記水溶性多価金属塩としては、Ca、Mg等のアルカリ土類金属の解離性塩が例示される。具体的には、カルシウム塩として硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム等、マグネシウム塩として塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等が例示される。これらの中でも、カルシウム塩であることが好ましく、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム等であることがより好ましい。
【0057】
上記水溶性多価金属塩の含有量は、特に限定されないが、得られる印刷物が鮮明で滲まず、また、耐水性が良好であるという点から、プライマー組成物中に固形分換算で0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。上記水溶性多価金属塩は、2種以上を併用しても良い。
【0058】
上記塩素化ポリオレフィンエマルジョンとしては、ポリオレフィン樹脂を塩素化して塩素化ポリオレフィン樹脂とし、さらに乳化剤等を利用してエマルジョン化したものである。なお、水性樹脂エマルジョンとして、保存安定性等を高めるために、(無水)マレイン酸等で酸変性されたものであっても良く、その場合は、系中にさらに塩基性化合物を添加して使用する。
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が例示され、また、塩素化度(塩素含有量)としては、樹脂全体に対して1~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。
塩素化度が40重量%を超える場合、樹脂自体の極性が高くなって、プライマー組成物中に含有させたときに、ポリオレフィンのような非極性フィルムへの密着性が低下しやすくなることがある。
そして、これらの塩素化ポリオレフィンエマルジョンは、2種以上を併用しても良い。
【0059】
上記塩素化ポリオレフィンエマルジョンの含有量は、特に限定されないが、ポリオレフィンフィルムに対するインクの接着性と、プライマー組成物自体の保存安定性が良好であるという観点から、プライマー組成物中に固形分換算で0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
なお、塩素化ポリオレフィンエマルジョンは、水溶性多価金属塩の存在下でも安定性が良好なものが好ましい。
【0060】
上記少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体としては、下記の一般式3で表される化合物、下記一般式4で表される化合物、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等が挙げられ、これらの中でもアジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドがより好ましい。そして、これらのヒドラジン誘導体は、2種以上を併用しても良い。
【化5】
【化6】
(ここで、nは1~10の整数、mは1~4の整数を表す。)
【0061】
上記ヒドラジン誘導体の含有量は、特に限定されないが、プラスチックフィルムに対するインクの接着性向上とプライマー組成物の保存安定性の点から、プライマー組成物中に0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0062】
上記アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも1種としては、アクリル系共重合体、スチレン-アクリル系共重合体、アクリル-酢酸ビニル系共重合体、アクリル-塩化ビニル系共重合体を、塩基性化合物や乳化剤等を利用してエマルジョン化したものが例示できる。また、利用可能な酢酸ビニル系エマルジョンとしては、酢酸ビニル及びその一部をケン化して得られる酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、αオレフィン-酢酸ビニル共重合体等を、乳化剤等を利用してエマルジョン化したものが例示できる。これらのアクリル系エマルジョンや酢酸ビニル系エマルジョンは、プラスチックフィルムに対するプライマー組成物自体及びインクの接着性が良好であるという点から、ガラス転移温度が0~50℃であるものがより好ましい。
【0063】
上記アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも1種の含有量は、特に限定されないが、ポリエステルフィルムやナイロンフィルムに対するプライマー組成物自体の接着性、プライマー組成物自体の保存安定性の点から、プライマー組成物中に固形換算分で、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
なお、これらアクリル系エマルジョン又は酢酸ビニル系エマルジョンは、水溶性多価金属塩の存在下でも安定性が良好なものが好ましい。
【0064】
上記プライマー組成物は、必要に応じて、モノアルコール類、多価アルコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ケトン類、エーテル類、エステル類、窒素含有化合物類等の水溶性有機溶剤、アセチレンジオール及びその誘導体、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ヒンダートアミン系保存性向上剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤等の各種添加剤が任意成分として含んでいても良い。
【0065】
上記プライマー組成物の製造方法は特に限定されないが、水に、水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン(少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体)、及び、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種と、必要に応じて水溶性有機溶剤や各種添加剤を加え、ディスパー等の高速撹拌装置で攪拌混合する方法により製造することができる。
【0066】
<印刷物>
次に、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をベースフィルムに印刷して得られる印刷物とその利用方法について説明する。
【0067】
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をプラスチックフィルムに印刷して印刷物を得る方法としては、まず、ベースフィルムの表面にプライマー組成物を塗工し、塗工層を形成した後、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をインクジェットプリンターで印刷し、印刷層を形成する方法が好適に利用できる。
このような、ベースフィルム、プライマー組成物の塗工層、及び、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷層がこの順に積層され、上記プライマー組成物は、下記条件2を満足することを特徴とする印刷物もまた、本発明の一態様である。
条件2
水溶性多価金属塩、塩素化ポリオレフィンエマルジョン、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する、又は、水溶性多価金属塩、少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョンからなる群から選択される少なくとも一種、及び、水を含有する。
【0068】
ここで、上記ベースフィルムとしては、透明なフィルム形成能を有する熱可塑性樹脂等により形成されてなるもので、例えば、食品用包装容器の分野で利用される主要な材質には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を挙げることができる。
【0069】
上記ベースフィルムは、一軸又は二軸延伸処理されていることが好ましく、また、上記プライマー組成物の塗工される側の表面には、上記プライマー組成物との接着性や濡れ性を高めるために、プラズマ処理やコロナ放電処理等が施されていることが好ましい。
【0070】
また、上記プライマー組成物を塗工する方法としては、インクジェットプリンターの他、ロールコーター、バーコーター、スプレーコーター、グラビアコーター等の各種塗工装置を用いた塗工方法が利用でき、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷には、インクジェットプリンターを利用する。なお、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、ラミネート加工される分野で利用するものであり、多くの場合、黄、紅、藍、墨、その他の色相を有するインク組成物で印刷図柄を印刷した後、全面に白色のインクで白押えの印刷が行われる。
【0071】
本発明の印刷物に、さらにラミネート加工を行うが、例えば、その最も簡単な構成としては、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷層を有する面に、上記ラミネート用接着剤を用いて熱溶融性のシーラントフィルムを積層して、ラミネート加工物を製造する。
このような、本発明の印刷物の塗工層を有する面と反対側の面上に、シーラントフィルムが積層されていることを特徴とするラミネート加工物もまた、本発明の一態様である。
【0072】
上記ラミネート用接着剤としては、従来からラミネート加工で用いられているものが適宜選択でき、例えば、ウレタン樹脂系、イミノ基含有樹脂系、ブタジエン樹脂系等の接着剤を挙げることができる。その中でもウレタン樹脂系接着剤が好適であり、ポリオール成分と過剰の脂肪族系ポリイソシアネート成分とからなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、ポリオール成分との組み合わせからなる二液系の接着剤、又は、過剰のポリオール成分と脂肪族系ポリイソシアネート成分とからなる水酸基末端ウレタンプレポリマーと、ポリイソシアネート成分との組み合わせからなる二液系の接着剤が利用でき、必要に応じて、エポキシ化合物やシランカップリング剤を含有することもできる。
【0073】
上記シーラントフィルムの材質としては、無延伸ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等を挙げることができる。
【0074】
また、上記ラミネート用接着剤の塗工及びシーラントフィルムの積層は、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター等の各種塗工装置を備えた、既知のドライラミネート加工装置を利用して行うことができる。
【0075】
さらに、ラミネート加工を行う際、ガスバリア性の向上や強度補強等を目的として、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物の印刷層とシーラントフィルムとの間に、各種機能性層が1層以上設けられていてもよい。この様な機能性層として、例えば、ガスバリア性の向上を目的としたシリカ蒸着フィルム層やアルミナ蒸着フィルム層、強度補強の向上を目的とした延伸ナイロンフィルム層等を、上記ラミネート用接着剤を用いて積層しても良い。
【0076】
本発明のラミネート加工物は、ラミネート強度(ベースフィルムとシーラントフィルムとの間の剥離強度)が、50g/15mm以上であることが好ましく、100g/15mm以上であることがより好ましい。
上記ラミネート強度は、上記ラミネート加工物を40℃で3日経時後、15mm幅に裁断して試料片を作成し、剥離試験機((株)安田精機製作所製)でT型剥離したときの剥離強度(ドライラミネート強度)を測定した値である。
【0077】
上記ベースフィルムの一方の面にプライマー組成物を塗工して塗工層を形成し、次いで、該塗工層の面上に本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物をインクジェット印刷方式で印刷して印刷層を形成し、次いで、該印刷層の面上にラミネート用接着剤を塗工した後、シーラントフィルムを積層することを特徴とするラミネート加工方法もまた、本発明の一態様である。
【0078】
上記の方法で得られたラミネート加工物を製袋するには、シーラントフィルム側が容器の内側に向くように中折りするか、あるいは複合フィルムを重ね合わせ、ヒートシーラー等を利用して、端部を熱溶融させて圧着する方法が利用でき、三方シール、四方シール、封筒貼り、合掌貼り、ガセット貼り等の各種ヒートシールの形態の包装容器に適用可能である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0080】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスAの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸5.4部、ヘキサメチレンジイソシアネート21.9部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.9部と純水539.5部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量24000、理論酸価9.9mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスA(U-A)を得た。
【0081】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスBの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸5.4部、ヘキサメチレンジイソシアネート21.9部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.9部と純水539.5部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量24000、理論酸価9.9mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスB(U-B)を得た。
【0082】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスCの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオール、:3-メチル-1,5-ペンタンジオールの質量比率が1:1であるジオール成分とフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸5.4部、ヘキサメチレンジイソシアネート21.9部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.9部と純水539.5部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量25000、理論酸価9.9mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスC(U-C)を得た。
【0083】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスDの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸5.4部、ヘキサメチレンジイソシアネート22.7部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.9部と純水541.4部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量47000、理論酸価10.0mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスD(U-D)を得た。
【0084】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスEの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸2.7部、ヘキサメチレンジイソシアネート18.5部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.6部と純水516.4部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量約23000、理論酸価5.1mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスE(U-E)を得た。
【0085】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスFの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量1000のポリエステルジオール200.0部、ヘキサメチレンジイソシアネート67.2部及びメチルエチルケトン350.0部を仕込んで、75℃で7時間反応させ、無水ピロメリット酸とエチレングリコールとを1:2で反応させて得られるジオールジカルボン酸化合物62.8部、エタノール1.5部を加え、さらに3時間反応させた。その後、トリエチルアミン37.1部と純水516.4部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量22000、理論酸価55.8mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスF(U-F)を得た。
【0086】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスGの調製>
温度計及び攪拌機を装着した加圧重合器に、1,6-ヘキサンジオールとフタル酸とを脱水共重合して得られた重量平均分子量2000のポリエステルジオール200.0部、ジメチロールプロピオン酸5.4部、イソホロンジイソシアネート28.9部及びメチルエチルケトン265.5部を仕込んで、75℃で7時間反応させた。その後、トリエチルアミン3.9部と純水555.8部とを加え、メチルエチルケトンを減圧蒸留して、重量平均分子量25000、理論酸価9.6mgKOH/gの自己乳化型ポリウレタン樹脂を固形分として30%含有する水性ポリウレタン樹脂ワニスG(U-G)を得た。
【0087】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスH>
水性ポリウレタン樹脂ワニスH(U-H)として、NeoRez R-966 (椿本化成(株)製、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂、固形分33質量%)を用いた。
【0088】
<水性ポリウレタン樹脂ワニスI>
水性ポリウレタン樹脂ワニスI(U-I)として、スーパーフレックス420NS(第一工業製薬(株)製、ポリカーボネート型ポリウレタン樹脂、固形分32質量%)を用いた。
【0089】
<水性アクリル樹脂ワニス>
水性アクリル樹脂ワニスとして、ビニブラン2687(日信化学工業(株)製、アクリル樹脂エマルジョン、固形分30質量%)を用いた。
【0090】
なお、重量平均分子量は、GPC装置としてWater 2690(ウォーターズ社製)を用い、カラムとしてPLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社製)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。
また、理論酸価とは、ポリウレタン樹脂の合成成分として用いられるカルボキシル基含有化合物の分子量、配合比率、当該化合物の分子内に含まれるカルボキシル基の数等に基づいて算術的に求めた、ポリウレタン樹脂1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数をいう。
【0091】
<顔料分散用水性樹脂ワニスAの調製>
ガラス転移温度40℃、重量平均分子量30,000、酸価185mgKOH/gのアクリル酸/n-ブチルアクリレート/ベンジルメタアクリレート/スチレン共重合体20部を水酸化カリウム2.5部を溶解させた純水77.5部中に加熱・溶解させて、固形分20%の顔料分散用水性樹脂ワニスAを得た。
【0092】
<水性ブラックインクベースの調製>
顔料分散用水性樹脂ワニスA23.7部、純水64.3部、カーボンブラック(プリンテックス90、デグサ社製)12.0部を加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性ブラックインクベース(BASE-B)を得た。
【0093】
<水性イエローインクベースの調製>
顔料分散用水性樹脂ワニスA23.7部、純水64.3部、イエロー顔料(ノバパームイエロー4G01、クラリアント社製)12.0部を加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性イエローインクベース(BASE-Y)を得た。
【0094】
<水性マゼンタインクベースの調製>
顔料分散用水性樹脂ワニスA23.7部、純水64.3部、マゼンタ顔料(インクジェットマゼンタE5B02、クラリアント社製)12部を加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性マゼンタインクベース(BASE-M)を得た。
【0095】
<水性シアンインクベースの調製>
顔料分散用水性樹脂ワニスA23.7部、純水64.3部、シアン顔料(ヘリオゲンブルーL7101F、BASF社製)12.0部を加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性シアンインクベース(BASE-C)を得た。
【0096】
<水性ホワイトインクベースの調製>
顔料分散用水性樹脂ワニスA40.0部、純水20.0部、酸化チタン(R-960、デュポン社製)40.0部を加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性ホワイトインクベース(BASE-W)を得た。
【0097】
<界面活性剤>
サーフィノール440(エアープロダクツ社製)
【0098】
<ラミネート用水性インクジェット用インク組成物の調製>
上記方法により得られた水性ポリウレタン樹脂分散体、及び、インクベースを用いて表1に示す配合にて、ラミネート用水性インクジェット用インク組成物(実施例1~12、比較例1~5)を調製した。
【0099】
<プライマー組成物Aの調製>
酢酸カルシウム2部、塩素化ポリオレフィン樹脂エマルジョン(スーパークロンE-604、塩素化度21%、固形分30%、日本製紙(株)製)6.7部、アクリル系樹脂エマルジョン(ビニブラン2687、固形分30質量%、日信化学工業(株)製)16.7部、水74.6部を高速撹拌装置で撹拌混合して、プライマー組成物Aを調製した。
【0100】
<ラミネート用水性インクジェット用インク組成物の評価>
(保存安定性試験)
調製直後の実施例1~12、比較例1~5のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を、それぞれ、50mlをガラス瓶に採取し、25℃の粘度を粘度計(東機産業社製、RE100L型)を用いて測定した。そして、密栓して60℃で1ヶ月間保存した後、再び、25℃の粘度を粘度計で測定し、保存安定性を、60℃・1ヶ月保存後インク組成物の粘度/調製直後のインク組成物の粘度で評価した。
(評価基準)
〇:粘度変化が5%未満であるもの
△:粘度変化が5%以上、10%未満であるもの
×:粘度変化が10%以上であるもの
【0101】
(吐出安定性)
エプソン社製プリンターPX105を用いて、実施例1~12及び比較例1~5のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を、写真用紙(GL-101A450、キャノン(株)製)に印刷して吐出安定性を評価した。
(評価基準)
〇:印刷の乱れがなく、安定して吐出できるもの
△:多少印刷の乱れがあるものの、吐出できるもの
×:印刷の乱れがあり、安定して吐出できないもの
【0102】
(印刷画質)
エプソン社製プリンターPX105を用いて、0.1mmバーコーターでプライマー組成物Aを塗工したOPPフィルムに、実施例1~12及び比較例1~5のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を、約0.3mmの幅で細線状に印刷した。インク組成物の滲みによる細線の太りを目視観察して、印刷画質を評価した。
(評価基準)
〇:滲みがなく、細線がそのままの太さで印刷されているもの
△:部分的な太りがみられるが、2倍以上の太りは観察されないもの
×:全体的に2倍以上の太りが観察されるもの
【0103】
(ドライラミネート強度)
片面にコロナ放電処理した二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡(株)製、E-5102、厚さ12μm)及び片面にコロナ放電処理した二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(東洋紡(株)製、パイレンP-2161、厚さ25μm)のそれぞれの処理面にプライマー組成物Aを塗工し、エプソン社製プリンターPX105を用いて、実施例1~12、比較例1~5のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を印刷後、イソシアネート系接着剤(武田薬品工業(株)製、タケネートA-358/タケラックA-50酢酸エチル溶液)を塗布し、ドライラミネート機で無延伸ポリプロピレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。これらのラミネート加工物を40℃で3日経時後、15mm幅に裁断して試料片を作成し、剥離試験機((株)安田精機製作所製)でT型剥離したときの剥離強度(ドライラミネート強度)を測定した。
(評価基準)
〇:剥離強度が100g/15mm以上であるもの
△:剥離強度が50g/15mm以上、100g/15mm未満であるもの
×:剥離強度が50g/15mm未満であるもの
【0104】
【0105】
実施例と比較例の評価試験により説明した様に、実施例1~12の本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、インク組成物として必要な保存安定性、吐出安定性及び印刷画質を十分に有する。そして、極性の異なるOPPとPETの2種のプラスチックフィルムをベースフィルムとしたときに、双方とも優れたドライラミネート強度を有し、非極性・極性のどちらの基材フィルムにも好適に利用可能という結果となった。
【0106】
それに対して、顔料分散用以外の水性樹脂ワニスを含有しない比較例1、及び、水性アクリル水性樹脂ワニスを含有する比較例5のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、OPPとPETの2種のベースフィルムにおいて、双方ともドライラミネート強度は低くなった。また、異なる合成成分からなるポリエステル型水性ポリウレタン樹脂ワニスを含有する比較例2、ポリエーテル型水性ポリウレタン樹脂ワニスを含有する比較例3及びポリカーボネート型水性ポリウレタン樹脂ワニスを含有する比較例4のインク組成物では、ドライラミネート強度として、OPPフィルムでは優れた強度を有するが、PETフィルムにおいては低いという結果になった。
【0107】
これらの結果から、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を使用すると、食品包装容器等の印刷物の製造が十分に可能であり、水性タイプの利点の「残留溶剤の低減」、「印刷作業環境の改善」、「大気汚染の防止」、「消防上の安全性」の効果と、インクジェット印刷方式の利点の「小ロット・多品種化に効率よく対応できる」という効果の両方を享受することができる。
【0108】
さらに、塩素化ポリオレフィン樹脂エマルジョンを含有し、特にOPPフィルムに塗工したときに、インク組成物に優れた印刷画質と接着性を付与できるプライマー組成物と組み合わせると、包装容器の分野において主要なベースフィルムである、OPPとPETのどちらのフィルムでも、優れたドライラミネート強度を得ることができる。これは、小ロット・多品種化にますます効率よく対応できることを意味する。この様に、一種類のプライマー組成物とインク組成物との組み合わせにより、非極性・極性のどちらの基材フィルムにも好適に利用可能となるまで、高い汎用性を有することは、従来のラミネート用水性インクジェット用インク組成物になかった特長と言える。
【0109】
そして、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物を使用して得られる包装容器は、運搬や陳列等の際に破袋せず、また、開封の際は二重袋の様な状態にならずに難なく開封できるようになる。
【0110】
以上の通り、本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、上記の課題をすべて解決できるラミネート用水性インクジェッインク組成物である。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のラミネート用水性インクジェット用インク組成物は、残留溶剤の低減、印刷作業環境の改善、大気汚染の防止、消防上の安全性等の多様な利点が得られ、最近の小ロット・多品種化に効率よく対応することができ、種々のタイプのベースフィルムに適用できる高い汎用性を有し、少なくとも運搬や陳列等の際に破袋せず、開封の際は二重袋の様な状態にならずに難なく開封できる食品用包装容器の製造を可能にする。