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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20221108BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/02
C08K7/18
C08K3/34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018174724
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020045419
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘行
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279086(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0071592(KR,A)
【文献】特開2018-119082(JP,A)
【文献】特開2015-096569(JP,A)
【文献】特開2017-141347(JP,A)
【文献】特開2015-048465(JP,A)
【文献】特開2015-048464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、顆粒状タルク(B)3~20質量部、及びイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)1~10質量部を含有し、顆粒状タルク(B)がタルクと水溶性ポリエステル樹脂バインダからなる顆粒状タルクであって、顆粒状タルク(B)のバインダ含有量は、顆粒状タルク(B)100質量%中、0.01~5質量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)が、イソフタル酸を共重合成分として3モル%以上50モル%未満含有する共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、高い剛性を持ち、かつ、表面平滑性に優れ、さらには熱安定性、寸法安定性にも優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途があり、さらに、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、優れた耐光性を付与することにより、例えば、液晶表示装置の導光板、拡散板、反射板、保護フィルム、位相差フィルム、および、照明カバー、照明看板、透過形のスクリーン、各種ディスプレイなど耐光性を要求される用途に好適に使用できる。
【0003】
従来、ポリカーボネート樹脂の剛性を向上させる方法として、タルク等の無機フィラーを配合することも行われている(例えば、特許文献1)。
タルク等の珪酸塩化合物系の無機フィラーは、無機フィラーとして一般的に用いられるガラス繊維と比較して、1)良外観が得られる、2)剛性と衝撃のバランスが良い、3)成形機スクリューや金型の摩耗が少ない、といった利点がある一方で、タルク等の珪酸塩化合物はそれ自体アルカリ性の性質を持つため、ポリカーボネート樹脂に配合した場合、樹脂の分解に伴う滞留熱安定性等の熱安定性及び機械的物性の低下や、シルバーストリーク等の外観上の問題があった。
【0004】
従来、タルクによる上記の問題を解決するために、オルガノポリシロキサンで表面処理したタルクを用いる方法(特許文献2)や、水溶性ポリエステル樹脂バインダによりタルク等の無機フィラーを顆粒状に造粒して配合すること(特許文献3)が提案されているが、熱安定性の改良効果は不十分である。
また、ポリエステル成分を添加することにより、樹脂の分解に伴う滞留熱安定性等の熱安定性の低下を抑制する方法(特許文献4)が提案されているが、寸法安定性が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-126510号公報
【文献】特許第5108550号公報
【文献】特許第5168812号公報
【文献】特許第6252181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的(課題)は、上記事情に鑑み、高い剛性を持ち、かつ、表面平滑性に優れ、さらには熱安定性、寸法安定性にも優れたポリカーボネート樹脂材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、顆粒化されたタルクとイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを所定の割合で配合することにより、剛性を得つつ、極めて優れた表面平滑性、熱安定性、寸法安定性を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関する。
【0008】
[1]芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、顆粒状タルク(B)3~20質量部、及びイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)1~10質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[2]顆粒状タルク(B)が、タルクと水溶性ポリエステル樹脂バインダからなる顆粒状タルクである上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)が、イソフタル酸を共重合成分として3モル%以上50モル%未満含有する共重合ポリエチレンテレフタレートである上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性を持ち、かつ、表面平滑性に優れ、さらには熱安定性、寸法安定性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、顆粒状タルク(B)3~20質量部、及びイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)1~10質量部を含有することを特徴とする。
【0012】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を含有する。
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。上記芳香族ポリカーボネート重合体は分岐を有していてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0013】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0014】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物の中では、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が特に好ましい。
また、上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際に、上記芳香族ジヒドロキシ化合物に加えてさらに分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を少量添加してもよい。この場合、芳香族ポリカーボネート樹脂は分岐を有するものになる。
上記3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノールとしては、例えばフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-3、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(即ち、イサチンビスフェノール)、5-クロルイサチン、5,7-ジクロルイサチン、5-ブロムイサチン等が挙げられる。この中でも、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシルフェニル)エタン又は1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンが好ましい。上記多価フェノールの使用量は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物を基準(100モル%)として好ましくは0.01~10モル%となる量であり、より好ましくは0.1~2モル%となる量である。
【0016】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0017】
また上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル及びイソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで炭酸ジエステルの一部を置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0018】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記触媒をp-トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
【0019】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい分子量は、粘度平均分子量[Mv]で18,000~50,000である。粘度平均分子量が18,000未満では、機械的強度が十分ではなく、粘度平均分子量が50,000を超えると、流動性が悪く成形性が悪くなりやすい。粘度平均分子量は、より好ましくは19,000以上であり、さらに好ましくは20,000以上、特に好ましくは21,000以上であり、また、より好ましくは45,000以下、さらに好ましくは40,000以下、特に好ましくは36,000以下であり、最も好ましくは33,000以下である。
【0020】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出される値である。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0021】
[顆粒状タルク(B)]
本発明の樹脂組成物は顆粒状タルク(B)を使用する。顆粒状タルク(B)を用いることにより、樹脂組成物の剛性と成形品の表面平滑性を良好にすることができ、表面に蒸着を施す場合には平滑な蒸着面を形成できる。また溶融混練時にはフィードしやすくなる。
ここで、顆粒状とは、タルクが粒状または塊状物に集合したものをいい、その形状は問わず、タルクが互いに結着して粒状または塊状物となったものを意味する。
【0022】
顆粒状タルク(B)の顆粒化前の原料タルクの平均一次粒径は0.1~10μmであることが好ましく、0.3~8μmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.7~5μmである。
【0023】
なお、本発明において、原料タルク、顆粒状タルク等の平均一次粒径は、レーザー回折・散乱法(ISO 13320-1)により測定されるD50をいう。
【0024】
顆粒化する前の原料タルクは、共重合ポリエチレンテレフタレート(C)との親和性を高めるために、表面処理が施されていることが好ましい。
表面処理剤としては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコール類、トリエチルアミン等のアルカノールアミン、オルガノポリシロキサン等の有機シリコーン系化合物、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等の炭化水素系滑剤、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸、ポリグリセリン及びそれらの誘導体、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0025】
顆粒状タルク(B)の製造方法(造粒方法)は、従来公知の任意の造粒方法を使用できるが、原料タルクをバインダを用いて造粒したものが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性、耐衝撃性、剛性の点から好ましい。
【0026】
顆粒状タルク(B)を製造する際に用いるバインダとしては、原料タルクの造粒性が高く、無色又は白色に近く、不活性で安定な物質であり、樹脂組成物の物性を低下させないものが望ましい。具体的には、水溶性高分子が好ましい。
【0027】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、寒天、多糖類(メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロプルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系誘導体や澱粉等)、タンパク質(ゼラチン、膠等)、ジカルボン酸類またはその反応性誘導体からなるジカルボン酸成分と、ジオール類またはそのエステル誘導体からなるジオール成分と、水溶性付与成分とを原料主成分とし、これらを縮合反応させることにより得られる水溶性ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0028】
これらのなかでも樹脂への親和性が高く、タルクとの吸着性の高い水溶性ポリエステル樹脂バインダがより好ましい。
水溶性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸類またはその反応性誘導体からなるジカルボン酸成分と、ジオール類またはそのエステル誘導体からなるジオール成分と、水溶性付与成分とを原料主成分とし、これらを縮合反応させることにより得られる共重合体であり、水に対する溶解度を有するものを言う。水に対する溶解度は、適宜選択して決定すれば良く、水溶性付与成分の含有量で調整することができる。
【0029】
水溶性ポリエステル樹脂の原料であるジカルボン酸類としては、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸のいずれでもよいが、樹脂組成物の耐熱性等の点から、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、具体的には例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸等が挙げられ、これらの置換体(例えば、5-メチルイソフタル酸などのアルキル基置換体など)や反応性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチルなどのアルキルエステル誘導体など)等を用いることもできる。
【0030】
上記の中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及びこれらのアルキルエステル誘導体が、より好ましい。これら芳香族ジカルボン酸は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよく、該芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等の1種以上併用してもよい。
【0031】
水溶性ポリエステル樹脂の原料であるジオール類としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族ジオール類;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トランス-またはシス-2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等の脂環族ジオール類;p-キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)等の芳香族ジオール類等を挙げることができ、これらの置換体も使用することができる。
【0032】
上記の中でも、樹脂組成物の耐熱性の点から、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましく、更にはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。またジオール成分として、分子量400~6000の長鎖ジオール類、つまりポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の1種以上をジオール類と併用して共重合させてもよい。
【0033】
水溶性ポリエステル樹脂の原料である水溶性付与成分としては、例えば金属スルホネート基を有するジカルボン酸類、ポリエチレングリコール等が挙げられ、中でも耐熱性の点から金属スルホネート基を有するジカルボン酸類が好ましい。
【0034】
金属スルホネート基を有するジカルボン酸類としては、例えば5-スルホイソフタル酸、2-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホナフタレン-2,6-ジカルボン酸等のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩又はこれらのエステル形成性誘導体が挙げられ、水溶性の点から5-ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのエステル誘導体が好ましい。
【0035】
金属スルホネート基を有するジカルボン類の含有量としては、少なすぎると得られるポリエステル樹脂の水溶性が不十分となり、逆に多すぎても、水溶性ポリエステル樹脂の耐熱性が不十分となることがあるので、この含有量は、水溶性ポリエステル樹脂の原料である全カルボン酸成分に対して、1~40モル%であることが好ましく、中でも5~35モル%であることが好ましい。
【0036】
顆粒状タルク(B)のバインダである水溶性ポリエステル樹脂の特に好適な具体例としては、テレフタル酸、エチレングリコール、5-ナトリウムスルホイソフタル酸からなる共重合体が挙げられ、例えば、互応化学工業社製の商品名「プラスコートZ-221」、「プラスコートZ-561」、「プラスコートZ-446」等を挙げることができる。
【0037】
顆粒状タルク(B)のバインダ含有量は、顆粒状タルク(B)100質量%中、好ましくは0.01~5質量%であり、より好ましくは0.05~3.5質量%、特に好ましくは0.1~2質量%である。バインダ含有量を0.01質量%以上とすることで、顆粒状タルク(B)が崩れ難くなり、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性や耐衝撃性がより向上する傾向にあり、一方、バインダ含有量を5質量%以下とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物中への分散がより良好になり、樹脂組成物の成形品の表面平滑性や剛性がより向上しやすい。
【0038】
原料タルクの造粒方法は任意であり、特に制限はないが、原料タルクとバインダとの混練性を高めるとともに、顆粒製造時における混練物に可塑性を与え、造粒を容易にし、かつ、造粒機の摩耗を低減し、さらに顆粒状タルクの硬さを調整するために湿潤剤(水、有機溶剤等)を加えることが好ましく、通常、原料タルク及びバインダに潤滑剤を加え、また、必要に応じて分散剤やその他の添加剤を加えて、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で撹拌しながら混合物とする。
【0039】
顆粒状タルク(B)の平均一次粒径は0.1~10μmであることが好ましく、0.3~8μmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.7~5μmである。
【0040】
顆粒状タルク(B)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3~20質量部である。含有量が3質量部未満では十分な剛性が得られず、20質量部を超えると表面平滑性が低くなるので好ましくない。顆粒状タルク(B)の好ましい含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5~15質量部であり、さらに好ましくは7~13質量部である。
【0041】
[共重合ポリエチレンテレフタレート(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、イソフタル酸を共重合成分として含有するイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)を含有する。イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)は通常は非晶性で、顆粒状タルク(B)との親和性が大きく、樹脂組成部中で顆粒状タルク(B)を包み込むような形となり、タルクによるポリカーボネート樹脂の分解作用を抑えることが可能となり、成形品の表面粗さも小さくすることができる。ポリエチレンテレフタレートのホモポリマーは結晶性であるので、これを使用すると樹脂組成物の寸法安定性を悪くしやすくなる。
共重合ポリエチレンテレフタレート(C)は、テレフタル酸を有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分との重縮合物であり、上記ジカルボン酸成分の一部としてイソフタル酸を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0042】
上記ジカルボン酸成分中のイソフタル酸の共重合割合は、全ジカルボン酸成分の3モル%以上50モル%未満の範囲にあることが好ましく、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、中でも10モル%以上、とりわけ15モル%以上、特には20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは45モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、中でも35モル%以下、とりわけ30モル%以下である。
上記範囲を外れ、イソフタル酸の共重合割合が少な過ぎると、共重合ポリエチレンテレフタレート(C)の結晶性が高くなり、製品の寸法安定性が悪くなる。一方、イソフタル酸の共重合割合が多過ぎると耐熱性の低下を起こすため好ましくない。
【0043】
上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸およびイソフタル酸以外のジカルボン酸をさらに共重合成分として含有することも可能であり、例えば、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸、さらにトリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。これらは単独、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0044】
共重合ポリエチレンテレフタレート(C)は、ジオール成分としてエチレングリコールが主成分として用いられるが、エチレングリコールのみでジオール成分が構成されていてもよく、また、エチレングリコールと共に他のジオールを用いることもでき、例えば、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ボリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、さらにグリセリン、1,3-プロパンジオール、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらは単独、もしくは2種以上併せて用いられる。
【0045】
共重合ポリエチレンテレフタレート(C)は、基本的には、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とによるポリエチレンテレフタレート樹脂の慣用の製造方法により製造される。
【0046】
すなわち、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化し、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に移送し重縮合させる直接重合法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とをエステル交換反応槽でエステル交換反応し、得られたエステル交換反応生成物を重縮合反応槽に移送し重縮合させるエステル交換法がある。これらの反応は回分式でも連続式でも行える。また、テレフタル酸以外のイソフタル酸成分はエステル化反応、またはエステル交換反応終了までの任意の時点で添加することができるが、エチレングリコールとのスラリーとして添加するのが操作上好ましい。
【0047】
重縮合反応により得られた樹脂は、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。さらに、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重合させることにより、さらに高重合度化させ得ると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0048】
なお、上記した製造方法において、エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩、アルコラート等のエステル化触媒を使用して、200~270℃程度の温度、1×10~4×10Pa程度の圧力下でなされ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩等のエステル交換触媒を使用して、200~270℃程度の温度、1×10~4×10Pa程度の圧力下でなされる。
【0049】
本発明で用いる共重合ポリエチレンテレフタレート(C)は、非晶性であることが好ましく、そのガラス転移温度が、好ましくは50℃以上であり、60℃以上であることがより好ましい。
ここで、ガラス転移温度はJIS K7121に基づき、DSC法により測定される値である。
【0050】
また、共重合ポリエチレンテレフタレート(C)の固有粘度(IV)は、好ましくは0.3~1.5dl/g、より好ましくは0.4~1.2dl/gであることが好ましい。
なお、共重合ポリエチレンテレフタレート(C)の固有粘度(IV)は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0051】
共重合ポリエチレンテレフタレート(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1~10質量部である。含有量が1質量部未満では本発明による改良効果を発現しにくくなりとなり、10質量部を超えると耐熱性が大きく下がるため好ましくない。共重合ポリエチレンテレフタレート(C)の好ましい含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、3~7質量部である。
【0052】
[安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
【0053】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物や有機ホスフェート化合物が特に好ましい。
【0054】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0055】
有機ホスフェート化合物としては、有機ホスフェート金属塩も含め好適に使用できる。具体的にはジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、モノ、及び、ジ-ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
このような有機ホスフェート金属塩としては、具体的には、例えば、城北化学工業社製「JP-518Zn」、ADEKA社製「AX-71」等が挙げられる。
【0056】
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0057】
リン系安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0058】
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0059】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0060】
フェノール系安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0061】
[滑剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、滑剤を含有することができる。滑剤を含有することで、溶融混練時の熱劣化を抑制したり、成形時の離型性を向上させることができる。
【0062】
滑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル等の脂肪族カルボン酸誘導体、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物などが挙げられるが、なかでもエステル化脂肪族カルボン酸が、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性や、湿熱安定性を維持しやすい点で好ましい。
【0063】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。
これらのなかで好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0064】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0065】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0066】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0067】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0068】
これらの中では、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールテトラステアレート等の分子中にフリーの水酸基やカルボン酸基が実質的にないフルエステル系の脂肪族カルボン酸誘導体が好ましい。
【0069】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0070】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0071】
上述した滑剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0072】
滑剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.75質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。
【0073】
[着色剤(染顔料)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、着色剤(染顔料)を含有することも好ましい。着色剤(染顔料)としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、酸化チタン、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
【0074】
有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は黒色化することも好ましく、特にカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0075】
着色剤(染顔料)を含有する場合、着色剤(染顔料)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。着色剤(染顔料)の含有量が5質量部を超える場合は耐衝撃性が十分でない場合がある。
【0076】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のその他の樹脂、その他の樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0077】
<その他の樹脂>
その他の樹脂としては、例えば、脂肪族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0078】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)以外のその他の樹脂を含有する場合、その含有量は、芳香族100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【0079】
<樹脂添加剤>
その他の樹脂添加剤としては、例えば、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0080】
好ましい難燃剤としては、有機スルホン酸金属塩、芳香族縮合リン酸エステル、フェノキシホスファゼン等のホスファゼン化合物などが例示できる。特に有機スルホン酸金属塩が好ましく、例えばジフェニルスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸やパーフルオロメタンスルホン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、セシウム塩などが例示できる。有機スルホン酸金属塩の配合量としては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.001~0.5質量部の範囲内であることが好ましい。
更にフィブリル化したポリテトラフルオロエチレンを難燃助剤として配合すると、より高度な難燃性を発現させることもできる。ポリテトラフルオロエチレンの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~0.3質量部が好ましい。
【0081】
帯電防止剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸の塩、パーフルオロアルキルスルホニル誘導体の窒素オニウム塩等のイオン液体型帯電防止剤、ジグリセリンモノラウレートなどが好ましく使用できる。その配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましい。
【0082】
紫外線吸収剤として、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。紫外線吸収剤の好ましい配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.01~1質量部である。
【0083】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
具体例を挙げると、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、顆粒状タルク(B)及びイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(C)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0084】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0085】
[成形品]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して成形品(樹脂組成物成形品)として用いる。この成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればく塗装や蒸着によって表面に意匠や機能を付与してもよい。
【0086】
成形品の例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、特に車輌部品、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品へ用いて好適であり、特に、自動車のスイッチ、レバー、ハンドル、センタークラスター、コンソール、ドアフィニッシャー、カップホルダー、ルームミラー、車載カメラの筐体等の内装部品等に好適である。
【0087】
成形品の製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【実施例
【0088】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
なお、実施例及び比較例で用いた使用材料は、以下の表1の通りである。
【0089】
【表1】
【0090】
(実施例1~9、比較例1~10)
上記表1に示した各成分を、後記表2及び表3に記した割合(全て質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX25αIII)に供給し、スクリュー回転数250rpm、吐出量30kg/時間、バレル温度260℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
なお、比較例9~10は、上記表1に示した各成分のうち、B5のガラス繊維を除く成分を、後記表3に記した割合で配合し、タンブラーにて20分混合した後、B5のガラス繊維を後記表3に記した割合でサイドフィードにて添加した以外は上記と同様にして、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
次に、得られたペレットを、120℃で5時間以上乾燥した後、東洋機械金属社製射出成形機「Si-80」を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル49秒の条件で、ISO3167多目的試験片TypeA(厚さ4mm)を作成した。
また、住友重機械工業社製射出成形機「SE50DUZ」を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で、90mm×50mm、厚みが2mmと3mmの2段プレートを作成した。
さらに、日精樹脂工業社製「NEX80-9E」を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、成形サイクル50秒、保圧として射出ピーク圧の50%を10秒かけた条件で、100mm×100mm×3mm厚の成形品を作成した。
【0092】
[流れ値、滞留流れ値(単位:×10-2cm/sec)]
上記で得られたペレットを、120℃で5時間以上乾燥した後、JIS K7210-1付属書JAに基づき、高架式フローテスターを用いて、280℃の温度、荷重1.60kgf/cmの条件下で、単位時間あたりの流れ値(単位:×10-2cm/sec)を測定した。オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。
なお、流れ値では予熱時間を420秒とし、滞留流れ値では予熱時間を900秒とした。流れ値の値は大きくなり過ぎないことが望ましく、また、流れ値と滞留流れ値の数値が大きく変わらないことが望ましい。
【0093】
[荷重たわみ温度(単位:℃)、曲げ弾性率(単位:MPa)]
上記で得られた多目的試験片TypeA(厚さ4mm)を用い、荷重たわみ温度(単位:℃)および曲げ弾性率(単位:MPa)を、それぞれISO75-1及び2に基づき、荷重1.8MPaにて、ISO178に基づいて測定した。
【0094】
[成形収縮率(単位:%)]
上記で得られた100mm×100mm×3mm厚の成形品について、用いた金型のキャビティー寸法と成形品の寸法から金型のキャビティーに対する百分率(%)として、MD方向とTD方向の成形収縮率を算出した。
【0095】
[表面粗さ]
上記で得られた厚みが2mmと3mmの2段プレートの厚み2mm部分について、東京精密社製表面粗さ計「サーフコム3000A-STD-3DF」を用いて、JIS B0601に基き、表面粗さRaを測定した。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性と優れた表面平滑性、熱安定性、寸法安定性を有するポリカーボネート樹脂材料であるので、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、照明機器等の部品等に好適に利用できる。