IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナリス化粧品の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】メラニン分解促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20221108BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018190203
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059656
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田広之
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼浩子
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-529978(JP,A)
【文献】特開平03-193713(JP,A)
【文献】特開2017-101003(JP,A)
【文献】特表2014-532672(JP,A)
【文献】特開2015-051931(JP,A)
【文献】特開2015-010070(JP,A)
【文献】わかさの秘密 ペパーミント,[online],わかさ生活,2016年03月03日,[令和4年5月9日検索]、インターネットURL<https://himitsu.wakasa.jp/contents/peppermint/>
【文献】わかさの秘密 レモンバーム,[online],わかさ生活,2018年02月20日,[令和4年5月9日検索]、インターネットURL<http://web.archive.org/web/20210123033720/https://himitsu.wakasa.jp/contents/lemonbalm/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Google
PubMED
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペパーミント、レモンバームから選択される1種又は2種の抽出物を有効成分として含有するケラチノサイトにおけるメラニン分解促進剤。
【請求項2】
ケラチノサイト内に存在するメラニンの分解を促進する美容方法であって、ペパーミント、レモンバームから選択される1種又は2種の抽出物を含有する組成物を皮膚に塗布する美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や加齢などの様々な要因により生じる色素沈着の迅速な改善に有用なメラニン分解促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顔や腕などの紫外線に日常的に暴露されやすい部位では局所的な色素沈着、いわゆるシミやソバカスが形成、悪化しやすい。この原因は、長期にわたる紫外線暴露によって表皮に存在するメラノサイトが常時活性化され、表皮中にメラニンが過剰に存在した状態が継続しているからである。(非特許文献1)。
【0003】
そのため、色素沈着の改善が期待できる成分としてメラノサイトにおけるメラニン生合成に関与する酵素活性を阻害する成分(特許文献1)や、メラノサイトを活性化するエンドセリンやプロスタグランジンといったシグナル伝達物質を阻害する成分等が数多く開発されてきた(特許文献2、特許文献3)。
【0004】
これらの成分が配合された皮膚外用剤を日常的に使用することによって、色素沈着の形成が予防できることは明らかであるが、既に色素沈着した部位の表皮には多量のメラニンが蓄積されているため、色素沈着をすばやく改善するにはメラニン合成抑制効果を有する上記成分に加え、蓄積されたメラニンを取り除くことが重要である。
【0005】
メラニンを取り除く方法としては表皮の入れ替わり、すなわちターンオーバーを促進する方法等が提案されているが(特許文献4)、細胞内に存在するメラニンは細胞分裂能の低下を引き起こすため、十分にターンオーバーを促進するのは難しい。
【0006】
また、顕著にターンオーバーを促進する方法として、表皮をピーリングする方法(ケミカルピーリング)も色素斑の改善には有用であり、グリコール酸やサリチル酸などが知られているが、皮膚刺激などの問題があるため医師の管理下で行われることが望ましい(非特許文献2)。
【0007】
一方、色素沈着部の表皮に蓄積したメラニンを分解するという手段もあり、添加した成分が直接メラニンを分解する場合と細胞の機能を利用するなどして間接的にメラニンを分解する場合がある。前者としては、アスコルビン酸の還元作用によるメラニン分解が知られているが、アスコルビン酸自体が酸化されやすいため変色、変臭などの問題がある。一方、後者としては表皮細胞内の酵素の働きにより分解する方法が知られている。例えば、特許文献5ではツボクサエキスを用いたメラニン分解促進剤が提案されているが、そのような効果を有する成分はほとんど見つかっておらず、使用者の肌に応じた成分の選択性を狭めている。
【0008】
ペパーミントとレモンバームの抽出物に関してはそれぞれ抗酸化効果(特許文献6、7)が知られており、またポリフェノールなどの還元力を持つ成分を含むことが知られる。しかしながらペパーミント、レモンバームの抽出物におけるメラニン分解促進作用については全く知られていなかった。
【0009】
このような背景から、シミやソバカス等の色素沈着を迅速に改善するため、色素沈着部位の表皮に存在しているメラニンを分解することができる、新規のメラニン分解促進剤が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平6-305978号公報
【文献】特開平11-109766号公報
【文献】特開2006-143676号公報
【文献】特開2008-247783号公報
【文献】特開2015-51931号公報
【文献】特開2006-117612号公報
【文献】特開平08-119869号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】保湿・美白・抗シワ・抗酸化評価・実験法マニュアル 2012年2月1日、フレグランスジャーナル社
【文献】日本皮膚科学会誌118(3)347-355、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、シミやソバカスをはじめとする色素沈着症状の迅速な緩和・改善に有用な新規のメラニン分解促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、ペパーミント、レモンバームの抽出物に細胞のメラニン分解を促進し、メラニンを減少させる効果があることを発見し、これらの抽出物を用いることで前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ペパーミント、レモンバームの抽出物を用いた新規のメラニン分解促進剤を提供することができる。さらに本発明で見出したペパーミント、レモンバームの抽出物と、従来から用いられているメラニン合成を抑制するような成分と組み合わせることで、既に形成されたシミやソバカスなどの色素沈着を迅速に改善することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いるペパーミント(英名:Peppermint、学名:Mentha piperita L)は、シソ科の多年草であり、ヨーロッパ地中海沿岸原産のハーブである。別名、セイヨウハッカとも呼ばれており、清涼感のある香りが特徴である。精油として用いられることも多く、消化、強壮、殺菌効果等が知られている。
本発明で用いるレモンバーム(英名:Lemon balm、学名:Melissa officinalis)は、シソ科の多年草であり、ヨーロッパ地中海東岸原産のハーブである。別名 セイヨウヤマハッカ、メリッサとも呼ばれている。レモンのような爽やかな芳香が特徴である。沈静、強壮作用や、発汗を促進し発熱や頭痛への効能が知られている。
【0016】
本発明の表皮細胞におけるメラニン分解促進剤は、外用、内服のいずれの方法でも用いることができるが、皮膚外用剤の形態とすることが好ましい。その剤型は、目的に応じて任意に選択でき、クリーム状、軟膏状、乳液状、ローション状、溶液状、ゲル状、パック状、パウダー状、スティック状等にできる。また、本発明の表皮細胞に対するメラニン分解促進剤は、化粧料、医薬部外品、医薬品等として用いることができうる。
【0017】
本願発明で用いるペパーミントおよびレモンバーム抽出物の抽出部位は特に制限されず、全草、またはその一部(葉、花、果実、茎など)を用いることができる。また、その抽出溶媒は特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の低級アルコール或いは、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、等の多価アルコール等があげられるが、特に水、エタノール及び1,3-ブチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上を選択することが好ましい。
【0018】
本願発明で用いるペパーミント、レモンバームの抽出物の抽出法は、特に限定されない。例えば、乾燥植物1質量部に対して1~100質量部の水および1,3ブチレングリコールもしくはエタノールの混合液を用い、5~70℃の、好ましくは10~60℃の温度で、1~7日間、特に3~4日間抽出するのが好ましい。抽出後は、ろ過を行い、そのままの状態でも利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色などの精製処理を行うことも出来る。更には、凍結乾燥等をして粉末の状態で用いることも出来る。
【実施例
【0019】
以下、本願発明の実施例について具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、特記しない限り配合量は質量%で示す。
【0020】
[試験1]メラニン分解促進作用確認試験
本発明者は、ヒト表皮由来細胞におけるメラニン分解促進作用を評価することとした。
〔サンプルの調製〕
ペパーミント(葉)、レモンバーム(葉)および比較対照として高い抗酸化効果及びメラニン生成抑制効果が知られているバラ(花弁)を乾燥させ、乾燥原体とした。
乾燥原体1:抽出溶媒10の割合の質量比で混合し、抽出溶媒が50%エタノール水溶液の場合は室温、1週間、抽出溶媒が水の場合は60℃、5時間の条件で抽出物の抽出を行った。抽出後、凍結乾燥にて固形分を得た。
【0021】
〔メラニン溶液の調製〕
ヒト由来メラノーマ細胞HM3KOを5%CO下、37℃のインキュベーター内で、5%FBSを含むD-MEM培地(Invitrogen社製Gibco)を用いて培養した。
100%コンフルエント近くになり、メラニン産生が進んだ細胞を、トリプシンを用いて7.0×10cells/ tubeになるようにエッペンドルフチューブに回収、遠心(1000g、4℃、3分)によって細胞ペレットを作成した。その後ペレットをPBS(-)にて洗浄した。
【0022】
細胞ペレットに対し、1mLのcold lysis buffer(1% octylphenoxy poly(ethyleneoxy)ethanol(MPバイオメディカル)、0.01% SDS含有0.1M Tris-HCl溶液(pH7.5))を添加した。これを10分ごとに攪拌しながら、20分室温にて静置した。この分散溶液を遠心分離(1000g、4℃、3分)、不要物を沈殿させ、メラノソームを含む上清を回収した。回収した上清を再度、遠心分離し(1000g、4℃、3分)、上清を回収した。この上清を遠心分離し(20000g、4℃、3分)、得られた沈殿をメラノソームリッチ画分とした。上清を吸引除去し、メラノソームのペレットをPBS(-)にて2度洗浄した。(20000g、4℃、3分)これにPBS(-)を添加し、50回以上ピペッティングすることによってメラノソームを分散させた。この懸濁液をメラニン溶液とした。
【0023】
〔細胞の培養〕
ヒト表皮株化細胞(HaCaT)のトリプシン処理を行い、10%牛胎児血清を含有するD-MEM培地で細胞を分散させ、48well plateに1×10cells/wellになるように細胞を播種し、1日間、37℃で培養を行なった。1日間培養を行った後、前述の方法で調製したメラニン溶液を添加した。
ヒト表皮株化細胞にメラニンを取り込ませるため、さらに1日間培養を行った。その後、
培地を取り除きPBS(-)で洗浄することで細胞に取り込まれなかったメラニンを取り除いた。そこに2%牛胎児血清を含有するD-MEM培地および試料を添加した。
添加後4日間培養した。その後、培地を抜き取りPBS(-)で細胞を洗浄し、10分間マイルドホルム(Wako)で処理することで細胞を固定した。固定後、精製水で洗浄することで固定液を完全に取り除き、フォンタナアンモニア銀液(武藤化学)を添加した(フォンタナ・マッソン染色、メラニンを染色)。常温、オーバーナイト(18時間)処理した後、フォンタナアンモニア銀液を取り除き、精製水で洗浄した。TritonX-100(Wako)をPBS(-)で1000倍希釈した溶液を加え、15分処理したのち、PBS(-)で洗浄した。DAPI(DOJINDO)をPBS(-)で1000倍希釈し、400μLずつ加え、45分、37℃で反応させ、細胞の核を染色した。洗浄後、顕微鏡(キーエンス、倍率10倍)にて細胞の画像を取得した。
【0024】
〔メラニン残存量の定量〕
取得した画像はImageJ(オープンソース)にて、二値化することでメラニンの存在部を選択した。メラニン存在部の総面積を求めることで、画像中のメラニン量を算出した。同様にImageJを用いて画像中の細胞数を算出した。これらの結果から、細胞あたりのメラニン量を求めた。
【0025】
精製水を添加した場合の細胞あたりのメラニン量を100とし、試料の植物抽出物を添加時のメラニン量を以下の表に示す。100×(サンプルのメラニン量/細胞数)/(精製水のメラニン量/細胞数)の式から細胞あたりのメラニン量を求めた。
【0026】
[試験2]抗酸化能評価試験(DPPH試験)
抗酸化能を評価することで、抗酸化能を指標として細胞内メラニン分解効果を予測できるかを確認した。
〔DPPH溶液の調製〕
DPPH溶液は、以下に示す各成分を、(A):(B):(C)=1:4:3容量の割合で混合し調製した。
(A)MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)5.52gを水100mLに溶かし、1N-NaOHでPH6.1に調製した。
(B)DPPH(1,1-ジフェニルー2-ピクリルヒドラジル)15.7mgをエタノール100mlに溶解した。
(C)精製水
〔Trolox溶液の調製〕
Trolox25mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)10mlに溶解し、10mM溶液を作成した。
〔DPPH試験〕
測定は12.5倍希釈した試料10μLを96well plateの1well中に加え、次いでDPPH溶液190μlを迅速に加え混合した。30分後、各wellの吸光度を540nmで測定した。試験溶液のTrolox当量は、0.156mM、0.313mM、0.625mM、1.25mM、2.5mM、5.0mMのTrolox溶液10μlをとり、DPPH溶液190μlを加え混合し、30分後の540nmの吸光度を測定し、Trolox濃度と540nmの吸光度値の検量線を作成した。試験溶液の540nmの吸光度値から、検量線によりTrolox当量を算出した。標準物質として使用するTroloxは、トコフェロールと類似した構造を有する物質である。Troloxを1とした場合、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールは、それぞれ0.50、0.74、1.36を示すといわれているので、Trolox当量が0.5以上であれば、十分な抗酸化効果であると言える。
【0027】
[試験3]メラニン直接分解作用確認試験
レモンバーム、ペパーミントの抽出物によるメラニンの分解がエキスの直接的作用なのか、細胞を介した間接的作用かを確認した。
〔メラニン溶液の調製〕
メラニン溶液は〔0021〕に示す方法で調製した。
〔メラニン直接分解試験〕
30倍希釈したメラニン溶液285μLに対し、12.5倍希釈した試料15μLを添加した。この濃度は[試験1]での試料とメラニンの割合と同じになるように設定した。37℃で3日間インキュベートし96wellプレートに100μLずつ移したのち、450nmの吸光度を測定した。同時にメラニン溶液を段階希釈したサンプルでも測定を行った。段階希釈したサンプルから求めた吸光度とメラニン濃度をプロットし、検量線を作成した。この検量線に照らし合わせることで、試料添加3日後のメラニン量を求めた。精製水を添加した場合のメラニン量を100とし、試料を添加時のメラニン量を以下の表に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の試験1の結果より、ペパーミント、レモンバームの抽出物に細胞あたりのメラニン量を減少させる効果を確認した(それぞれ精製水と比較して68.9%、58.6%)。一方、バラ抽出物には高い抗酸化作用が良く知られているが、細胞あたりのメラニン量の減少は確認できず、試験1および試験2の結果から抗酸化作用は細胞あたりのメラニン量を推定する指標にはならないと考えられた。加えて試験3により、メラニンと試料を混合しただけではメラニン量が減少することはなく、このことから試料が直接メラニン分解をしているわけではなく、細胞に作用することで細胞内メラニン分解を促進していることが示された。
以上の結果から、ペパーミント、レモンバーム抽出物に細胞に対する高いメラニン分解促進作用を見出した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のペパーミント、レモンバームの抽出物は、表皮細胞における細胞内メラニン分解を促進する効果を有しており、紫外線、加齢に起因する色素沈着を迅速に改善することが期待できる。