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特許7171439ムコ多糖症II型を処置するための遺伝子療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ムコ多糖症II型を処置するための遺伝子療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20221108BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221108BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20221108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221108BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221108BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20221108BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20221108BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20221108BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALN20221108BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20221108BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K35/76
A61K38/46
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P25/28
C12N9/16 Z
C12N15/55
C12N7/01
C12Q1/44
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018554348
(86)(22)【出願日】2017-04-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 US2017027770
(87)【国際公開番号】W WO2017181113
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-14
(31)【優先権主張番号】62/323,194
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/337,163
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/330,938
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/367,780
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/452,494
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒンデラー,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/186579(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/193431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含む、ムコ多糖症II(MPS II)又はハンター症候群と診断されたヒト対象を処置するための薬学的組成物であって、
(a)前記rAAVは、AAV9キャプシド及びベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムは、AAV5’逆方向末端反復(ITR)、発現カセット及びAAV3’ITRを含み、前記発現カセットは、それの発現を指示する発現制御配列に作動可能に連結されたヒトイズロネート-2-スルファターゼ(hIDS)をコードする異種核酸を含み、前記発現制御配列は、CB7プロモーター、ニワトリベータアクチンイントロン及びウサギベータグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含み、前記hIDSをコードする配列は、配列番号1の核酸を有し、そして前記ベクターゲノムはAAV9キャプシドにパッケージされており;
(b)前記製剤緩衝液は、生理学的に適合する水性緩衝液、及びサーファクタント及び賦形剤を含むくも膜下腔内製剤緩衝液であり;かつ
(c)(i)前記組成物が、少なくとも1.0×1013GC/ml(+/-20%)のrAAVのゲノムコピー(GC)力価を含む;または
(ii)前記rAAVが、少なくとも4.0×108GC/g脳質量~4.0×1011GC/g脳質量の用量でヒト対象に投与される、前記薬学的組成物。
【請求項2】
くも膜下腔内に投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記懸濁液が、水性懸濁基剤を含む6~9の範囲のpHを有する水性液体懸濁液であり、前記rAAVが、配列番号3のヌクレオチド2~ヌクレオチド3967を含むベクターゲノムを含む、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
ムコ多糖症II(MPS II)と診断されたヒト対象の処置に用いるための、製剤緩衝液中における4.0×108GC/g脳質量~4.0×1011GC/g脳質量の間の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液であって、前記懸濁液が、それを必要とするヒト対象にくも膜下腔内注射によって投与され:
(a)前記rAAVは、AAV9キャプシド及びベクターゲノムを含み、前記ベクターゲノムは、AAV5’逆方向末端反復(ITR)、発現カセット及びAAV3’ITRを含み、前記発現カセットは、それの発現を指示する発現制御配列に作動可能に連結されたヒトイズロネート-2-スルファターゼ(hIDS)をコードする異種核酸を含み、前記発現制御配列は、CB7プロモーター、ニワトリベータアクチンイントロン及びウサギベータグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含み、前記hIDSをコードする配列は、配列番号1又は配列番号1の核酸を有し、そして前記ベクターゲノムはAAV9キャプシドにパッケージされており
(b)前記製剤緩衝液が、生理学的に適合性の水性緩衝液、サーファクタント及び賦形剤を含むくも膜下腔内製剤緩衝液であり;
(c)(i)前記懸濁液が、少なくとも1.0×1013GC/ml(+/-20%)のrAAVのゲノムコピー(GC)力価を含む;または
(ii)前記rAAVが、少なくとも4.0×108GC/g脳質量~4.0×1011GC/g脳質量の用量でヒト対象に投与される、前記懸濁液。
【請求項5】
前記ヒト対象が2歳以上であり、重篤なハンター症候群と診断されているか、または、
前記ヒト対象が神経認知障害を有するか、若しくは神経認知障害を発症するリスクがある、
請求項4に記載の懸濁液。
【請求項6】
前記投与が、Bayley Scales of Infant Developmentを用いて評価したとき、前記対象における神経認知発達指数(DQ)の増大をもたらすか、または、
前記投与が、ハンター症候群の患者における未処置/自然の履歴管理データと比較して、前記対象においてDQの低下が15ポイント以下になるか、または、
前記投与が、前記患者からの血清試料中で測定した場合、機能的hIDSレベルの増大をもたらす、請求項4または5に記載の懸濁液。
【請求項7】
前記投与が、患者の血清、尿及び/または脳脊髄液(CSF)の試料中で測定したとき、GAGレベルの低下をもたらす、請求項4~6のいずれか1項に記載の懸濁液。
【請求項8】
肝指向性注射によって前記患者にAAV.hIDSを投与することをさらに包含し、任意に、前記肝指向性AAV.hIDSが、AAV8、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh10、AAV3BまたはAAVdjから選択されるキャプシドを有する、請求項4~7のいずれか1項に記載の懸濁液。
【請求項9】
力価がインビトロアッセイによって測定され、任意に、前記インビトロアッセイが、1細胞あたり既知の多重度の前記rAAVGC力価を用いてHEK293細胞を形質導入すること、及び4MU-イズロニド-2-硫酸酵素アッセイを用いて形質導入の72時間後のhIDS活性について上清をアッセイすることを包含する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記AAV ITRがAAV9に対して異種であるか、または前記ITRがAAV2由来である、請求項1、2または9のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
懸濁液が6~9のpHを有し、任意に懸濁液が6.8~7.8のpHを有する、請求項1、2、9~10のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記懸濁液が、くも膜下腔内注射による送達のために製剤化される、請求項1、2、9~11のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記懸濁液が、新生児患者への送達のために製剤化され、3.8×1012ゲノムコピー(GC)~1.9×1014GCを含むか、または、
前記懸濁液が、3ヶ月~9ヶ月齢の患者への送達のために製剤化され、6×1012GC~3×1014GCを含むか、または、
前記懸濁液が、9ヶ月~36ヶ月齢の患者への送達のために製剤化され、1×1013GC~5×1014GCを含むか、または、
前記懸濁液が、3歳~12歳であり、かつ1.2×1013GC~6×1014GCを含む患者への送達のために製剤化されるか、または、
前記懸濁液が、12歳以上の患者に送達するために製剤化され、1.4×1013GC~7×1014GCを含む、
請求項1、2、9~12のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
MPS IIまたはハンター症候群を有するヒト患者を処置する方法に使用するための、hIDS遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV.hIDS)であって、
ここで、前記hIDS遺伝子は、それの発現を指示する発現制御配列に作動可能に連結され、前記発現制御配列は、CB7プロモーター、ニワトリベータアクチンイントロン及びウサギベータグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含み、前記hIDS遺伝子は、配列番号1又は機能的hIDSをコードする配列番号1と少なくとも80%同一である配列の核酸を含み、
前記方法は、
(a)導入遺伝子特異的寛容を誘導するのに十分な量のhIDS酵素を、MPS II若しくはハンター症候群を有する患者に投与すること;及び
(b)前記患者にrAAV.hIDSを投与し、rAAV.hIDSは前記患者において治療レベルのhIDSの発現を指示することを含む、
前記rAAV.hIDS。
【請求項15】
前記(a)のhIDSが組換えタンパク質として投与され、任意に前記患者が乳児である、請求項14に記載のrAAV.hIDS。
【請求項16】
前記(b)の投与が(a)の投薬後3日~14日で実施される、請求項14に記載のrAAV.hIDS。
【請求項17】
請求項4~8のいずれか1項に記載の懸濁液を含むくも膜下腔内投与のためのキットであり、任意に前記懸濁液を希釈するのに有用な希釈緩衝液をさらに含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究に関する声明
本発明は、National Institutes of Health(国立衛生研究所)からの助成金番号R01DK54481、P40OD010939、及びP30ES013508の下で政府支援によってなされた。連邦政府はこの発明において、一定の権利を有し得る。
【0002】
電子資料の参照による組み込み
出願人は、ファイル番号「UPN-16-7771PCT_ST.25」で本明細書とともに電子的に提出されている配列表を参照として組み込む。
【0003】
1.序文
本発明は、ハンター症候群としても公知のムコ多糖症II型(MPS II)を処置するための遺伝子治療アプローチに関する。
【背景技術】
【0004】
2.発明の背景
ハンター症候群としても公知のMPS IIは、主に男性、10万人に1人から17万人に1人が罹患する希なX連鎖劣性遺伝病である。この進行性でかつ悲惨な疾患は、IDS遺伝子の変異によって引き起こされ、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸のリソソーム異化に必要な酵素であるリソソーム酵素、イズロネート-2-スルファターゼの欠乏に至る。GAG(グリコサミノグリカン)と呼ばれるこれらの遍在性多糖類は、MPS II患者の組織及び器官に蓄積し、特徴的な蓄積病変及び多様な疾患の後遺症を生じる。この患者集団では罹患率及び死亡率が高く-重度の表現型(神経認知機能低下を特徴とする)の患者では、平均年齢11.7歳で死亡が報告されており;軽度または弱化した表現型の患者では、21.7歳で死亡が報告されている。
【0005】
MPS IIの患者は出生時には正常であるように見えるが、疾患の徴候及び症状は、典型的には18ヶ月~4歳の年齢の間に重度の形態で存在し、4~8年の間に弱化した形態で存在する。罹患した全ての患者に共通する徴候及び症状としては、低身長、粗い顔貌、大頭症、巨大舌、難聴、肝腫脹及び脾腫、多発異骨症、関節拘縮、脊髄狭窄及び手根管症候群が挙げられる。頻繁な上気道及び耳の感染症がほとんどの患者で起こり、進行性気道閉塞が一般的に見出され、睡眠時無呼吸及びしばしば死につながる。心臓病はこの集団における主要な死因であり、左右の心室肥大及び心不全をもたらす弁膜機能障害を特徴とする。死亡は、一般に、閉塞性気道疾患または心不全に起因する。
【0006】
重篤な形態の疾患では、早期発達のマイルストーンが達成される可能性があるが、発達遅延は18~24ヶ月で容易に明らかである。一部の患者は初年度にスクリーニング検査の聴取を受けず、サポートされずに座る能力、歩く能力、会話を含む他のマイルストーンが遅れる。発達の進行は約6.5年の間プラトーになり始める。MPS IIの小児の半数はトイレ訓練を受けているが、大部分の子どもたちは、全員ではないにしても、病気の進行とともにこの能力を失う。
【0007】
有意な神経学的関与を有する患者は、過活動、頑固さ及び攻撃を含む重度の行動障害を示し、これは生後2年目から始まり、神経変性がこの行動を減弱させる8~9歳まで続く。
【0008】
てんかん発作は、10歳に達した重症患者の半分超で報告され、死亡するまでにCNSの関与するほとんどの患者が重度の精神的な障害を有し、絶えずケアを必要とする。弱化した病気の患者は正常な知的機能を発揮するが、MRI画像では、白質病変、拡大した脳室及び脳萎縮を含む、MPS IIを有するすべての患者において全体的な脳の異常が明らかになる。
【0009】
組換えイデュルスルファーゼ(Elaprase(登録商標)、Shire Human Genetic Therapies)を用いた酵素補充療法(「ERT」)は、ハンター症候群の唯一承認された処置であり、毎週の輸液として投与される。しかし、現在投与されているERTは、血液脳関門(「BBB」)を通過しないため、重篤な疾患の患者、すなわちCNS/神経認知及び行動関与を伴うMPS IIの満たされていないニーズに対処し得ない。この問題に対処する現在の労力は、BBBを横切ることが可能なように酵素を改変することを目的としている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
3.発明の要旨
ハンター症候群としても公知のMPS IIと診断された患者(ヒト対象)のCNSにヒトイズロネート-2-スルファターゼ(human iduronate-2-sulfatase)(「hIDS」)遺伝子を送達するための複製欠損アデノ随伴ウイルス(「AAV」)の使用が、本明細書で提供される。hIDS遺伝子を送達するために使用される組換えAAV(「rAAV」)ベクター(「rAAV.hIDS」)は、CNS(例えば、AAV9キャプシドを保有するrAAV)に対して指向性を有するべきであり、hIDS導入遺伝子は、特定の発現制御エレメント、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)のハイブリッドによって制御されるべきである。くも膜下腔内/大槽内投与に適した薬学的組成物は、生理学的に適合性の水性緩衝液、サーファクタント及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDSベクターの懸濁液を含む。rAAV懸濁液は、さらに以下によって特徴付けられる:
(i)rAAVゲノムコピー(GC)力価が少なくとも1.0×1013GC/ml(+/-20%)である;
(ii)rAAVの空粒子/全粒子比が、SDS-PAGE分析(実施例5D参照)で決定して0.01~0.05である(95%~99%が空のキャプシドなし)か、または他の実施形態では、少なくとも約50%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%が空のキャプシドなし;及び/または(iii)少なくとも約2.5×1010GC/gの脳質量~約3.6×1011GC/g脳質量というrAAV懸濁液の用量が力価を有する。
【0011】
本明細書にはまた、それを必要とするヒト対象にくも膜下腔内注射によって投与可能な、本明細書で提供される薬学的組成物が提供される。特定の実施形態では、本明細書に記載のrAAV.hIDSを含む薬学的組成物の使用は、それを必要とするヒト対象にくも膜下腔内注射によって投与可能な医薬品の調製に使用される。ヒト対象(患者)は、以前にムコ多糖症II(MPS II)または重度のハンター症候群と診断されていてもよい。
【0012】
力価は、インビトロ細胞培養アッセイ、例えば、本明細書の実施例5Gに記載されているインビトロの力価アッセイで測定され得、ここで、HEK293またはHuh7細胞は、1細胞あたり既知の多重度のrAAVGCで形質導入され、この上清は4MU-イズロニド酵素アッセイを使用して形質導入72時間後にIDS活性についてアッセイされる。
【0013】
このようなrAAV.hIDSベクター調製物を、くも膜下腔内/大槽内注射によって小児または成人のヒト対象に投与して、CNSにおける治療レベルのhIDS発現を達成してもよい。処置の候補となる患者は、MPS II疾患が重度または弱化した小児及び成人患者である。重症疾患は、連続試験で1標準偏差を超える低下という、平均または記録された歴史的証拠よりも少なくとも1標準偏差低い発達指数(DQ)(BSID-III)を有する早期神経認知欠損として定義される。
【0014】
ハンター症候群患者のrAAV.hIDSの治療上有効なくも膜下腔内/大槽内用量は、患者の脳質量1gあたり1010~5×1010GCに等しい1.4×1013~7.0×1013GC(フラット用量)、または患者の脳質量1gあたり1010~5×1010GCに等しい3.8×1012~7.0×1013GC(フラット用量)におよぶ。あるいは、以下の治療上有効なフラット用量を、示された年齢群の患者に投与してもよい:
・新生児:約3.8×1012~約1.9×1014GC;
・3~9ヶ月:約6×1012~約3×1014GC;
・9~36ヶ月:約1013~約5×1014GC;
・3~12年:約1.2×1013~約6×1014GC;
・12+歳:約1.4×1013~約7.0×1014GC;
・18+歳(成人):約1.4×1013~約7.0×1014GC。
【0015】
いくつかの実施形態において、12+歳の年齢のMPS II患者(18+歳の年齢を含む)に投与される用量は、1.4×1013のゲノムコピー(GC)(1.1×1010GC/g脳質量)である。いくつかの実施形態では、12歳+のMPS II患者(18歳+の年齢を含む)に投与される用量は、7×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)である。なおさらなる実施形態において、MPS II患者に投与される用量は、少なくとも約4×10GC/g脳質量~約4×1011GC/g脳質量である。特定の実施形態において、MPS II新生児に投与される用量は、約1.4×1011~約1.4×1014GCの範囲であり;乳児3~9ヶ月に投与される用量は、約2.4×1011~約2.4×1014GCの範囲であり;MPS II小児9~36ヶ月に投与される用量は:約4×1011~約4×1014GCの範囲であり;3~12歳のMPS
II小児に投与される用量は:約4.8×1011~約4.8×1014GCの範囲であり;小児及び12+歳の成人に投与される用量は、約5.6×1011~約5.6×1014GCの範囲である。
【0016】
この処置の目的は、疾患を処置するための実行可能なアプローチとして、rAAVに基づくCNS指向性遺伝子治療を介して、患者の欠損イズロネート-2-スルファターゼを機能的に置き換えることである。治療の有効性は、(a)MPS II(ハンター症候群)患者の神経認知低下の予防;及び(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清及び/もしくは尿中、ならびに/または肝臓及び脾臓容積中のGAGレベル及び/または酵素活性(IDSまたはヘキソサミニダーゼ)の減少を評価することによって測定され得る。乳児の神経認知は、Bayley Scales of Infant and Toddler Development、第3版、BSID-IIIによって測定され得る。神経認知及び適応行動評価(例えば、それぞれ、Bayley Scale of Infant Development及びVineland Adaptive Behavior Scalesを使用して)を行ってもよい。
【0017】
処置前に、MPS II患者は、hIDS遺伝子を送達するために使用されるrAAVベクターのキャプシドに対する中和抗体(Nab)について評価してもよい。そのようなNabは、形質導入効率を妨げ、処置力価を低下し得る。ベースラインの血清Nab力価≦1:5を有するMPS II患者は、rAAV.hIDS遺伝子療法プロトコールでの
処置のための良好な候補である。血清Nab>1:5の力価を有するMPS II患者の処置は、rAAV.hIDSベクター送達での処置の前及び/または処置中に、免疫抑制剤を用いた一過性同時処置などの併用療法を必要とする場合がある。必要に応じて、免疫抑制剤併用療法は、AAVベクターキャプシド及び/または製剤の他の成分に対する中和抗体を事前に評価することなく、予防措置として使用してもよい。特定の実施形態では、特にIDS活性のレベルが実質的にない患者において、導入遺伝子産物が「外来」と見なされる可能性のあるhIDS導入遺伝子産物に対する潜在的な有害な免疫反応を予防するために、事前の免疫抑制療法が望ましい場合がある。動物で観察されるのと同様の反応は、ヒト対象には生じない場合があるが、rAAV-hIDSの全てのレシピエントに予防措置の免疫抑制療法が推奨されている。
【0018】
hIDSの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子治療送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、ERT(例えば、Elaprase(登録商標)(イデュルスルファーゼ)を用いる)、または肝臓の指向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8キャプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子治療を用いて達成してもよい。
【0019】
特定の実施形態において、患者は、hIDSに対して患者を寛容化させるために、肝臓特異的注射によってAAV.hIDSを投与され、この患者は引き続き、乳児、小児及び/または成人である場合にはくも膜下腔内注射によってAAV.hIDSを投与されて、CNSにおいて治療濃度のhIDSを発現される。
【0020】
特定の実施形態は、部分的に、(i)MPS IIのマウスモデル(以下の実施例2に記載)において生成された有望なデータ(このデータは、本発明のrAAV.hIDSベクターによる処置がIDS発現を正常化し;疾患のバイオマーカーを低下し;行動的な(CNS)症状を改善したことを示す);ならびに、(ii)以下の実施例3に記載の非ヒト霊長類(NHP)における安全性及び生体内分布に基づいている。本発明の特定の実施形態はまた、rAAV.hIDS薬学的組成物(以下の実施例4及び5)の製造及び特徴付けを記載する実施例によって例示される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「くも膜下腔内送達」または「くも膜下腔内投与」という用語は、薬物が脳脊髄液(CSF)に到達するような、脊髄管、より具体的にはくも膜下腔内への注射による薬物の投与経路を指す。くも膜下腔内送達には、腰椎穿刺、脳室内、後頭下/大槽内、及び/またはC1-2穿刺が含まれ得る。例えば、材料は、腰椎穿刺によってくも膜下腔全体に拡散のために導入されてもよい。別の例では、注射は大槽内であってもよい。
【0022】
本明細書で使用される「大槽内送達」または「大槽内投与」という用語は、大槽小脳の脳脊髄液中に直接的、より具体的には、後頭下穿刺を介するか、または大槽への直接注射により、または恒久的に配置されたチューブを介した、薬物の投与の経路を指す。
【0023】
本明細書で使用する「治療上有効な量」とは、MPS IIの1つ以上の症状を改善または処置するのに十分な量の酵素を標的細胞に送達して発現する、AAV.hIDS組成物の量を指す。「処置」は、MPS II症候群の1つの症状の悪化、及びおそらくその1つ以上の症状の逆転を予防することを包含し得る。例えば、治療上有効な量のrAAV.hIDSは、MPS IIを有する患者における神経認知機能を改善する量である。このような神経認知機能の改善は、Bayley Scales of Infant and Toddler Developmentを用いて、対象の神経認知発達指数(DQ)を評価することによって測定され得る。また、神経認知機能の改善は、限定するものではないが、例えば、Wechsler Abbreviated Scale of
Intelligence(WASI)(IQ)、Bayley’s Infantile Development Scale、the Hopkins Verbal Learning Test(memory)(ホプキンスの語学学習試験(記憶))、及び/またはTests of Variables of Attention(注意変数の試験)(TOVA)の使用を含む、当該分野で公知の方法を用いて、対象の知性の商(IQ)を評価することによって、測定され得る。別の実施形態において、治療上有効な量のrAAV.hIDSは、尿中及び/または脳脊髄液中、及び/または血清及び/または他の組織中における病原性GAG、ヘパラン硫酸及び/またはヘキソサミニダーゼ濃度を減少させる量である。さらに他の実施形態では、角膜混濁の是正が観察され得、中枢神経系(CNS)における病変の是正が観察されるか、並びに/または血管周囲及び/もしくは髄膜間隙蓄積の逆転が観察される。
【0024】
「治療上有効な量」は、ヒト患者ではなく、動物モデルに基づいて決定されてもよい。適切なマウスモデルの例を本明細書に記載する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「機能的ヒトイズロネート-2-スルファターゼ」とは、MPS IIまたは関連する症候群のないヒトにおいて通常機能するヒトイズロネート-2-スルファターゼ酵素を指す。逆に、MPS IIまたは関連する症候群を引き起こすヒトイズロネート-2-スルファターゼ酵素バリアントは、機能しないと考えられる。一実施形態では、機能的ヒトイズロネート-2-スルファターゼは、Wilson et
al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87(21):8531-8535(1990)に記載の野性型ヒトイズロネート-2-スルファターゼのアミノ酸配列、配列番号2(550アミノ酸)に再現されたNCBI参照配列NP_000193.1を有する;このプレプロタンパク質は、シグナルペプチド(アミノ酸1~25)、プロペプチド(アミノ酸26~33)、並びにアミノ酸34~455(42kDa鎖)及びアミノ酸456~550(14kDa鎖)から構成される成熟ペプチドを含む。UniProtKB/Swiss-Prot(P22304.1)も参照のこと。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「NAb力価」という用語は、その標的化エピトープ(例えば、AAV)の生理学的効果を中和する中和抗体(例えば、抗AAV Nab)がどれくらい生成されるかの尺度を指す。抗AAV NAb力価は、例えば、参照によって本明細書に組み込まれる、Calcedo、R.et al.、Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to
Adeno-Associated Viruses(アデノ随伴ウイルスに対する中和抗体の世界的疫学).Journal of Infectious Diseases、2009.199(3):p381-390に記載されているように測定され得る。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「発現カセット」とは、IDS遺伝子、プロモーターを含み、そのための他の調節配列を含み得る核酸分子を指し、このカセットは、遺伝子エレメント(例えば、プラスミド)を介してパッケージング宿主細胞に送達されてもよく、ウイルスベクター(例えば、ウイルス粒子)のキャプシドにパッケージングされてもよい。典型的には、ウイルスベクターを生成するためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナル及び本明細書に記載のものなどの他の発現制御配列に隣接する、本明細書に記載のIDSコード配列を含む。
【0028】
「sc」という略語は、自己相補的であることを意味する。「自己相補的AAV」とは、組換えAAV核酸配列によって保持されるコード領域が、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するようにデザインされた構築物を指す。感染後、第2鎖の細胞媒介合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補的な半分が会合して、即座の複製及び転写の準備ができている1本の二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成する。例えば、D M McCart
y et al.、「Self-complementary recombinant
adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis(自己相補的組み換えアデノ随伴ウイルス(scAAV)ベクターは、DNA合成とは独立して効率的な形質導入を促進する)」Gene Therapy(August 2001)、Vol.8、Number 16、Pages 1248~1254を参照のこと。自己相補的なAAVは、例えば、米国特許第6,596,535号;同第7,125,717号;及び同第7,456,683号に記載されており、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、目的の遺伝子と連続する発現制御配列、及び目的の遺伝子を制御するためにトランスまたは遠隔で作用する発現制御配列の両方を指す。
【0030】
タンパク質または核酸に関して使用される場合、「異種」という用語は、そのタンパク質または核酸が、性質上お互いに同じ関係では見出されない2つ以上の配列または部分配列を含むことを示す。例えば、典型的には、新しい機能的核酸を作製するように配置された無関係の遺伝子由来の2つ以上の配列を有する核酸は、組換え生産される。例えば、一実施形態では、核酸は、異なる遺伝子に由来するコード配列の発現を指示するように配置された1つの遺伝子由来のプロモーターを有する。従って、コード配列を参照すると、プロモーターは異種である。
【0031】
「複製欠損ウイルス」または「ウイルスベクター」とは、目的の遺伝子を含む発現カセットがウイルスキャプシドまたはエンベロープにパッケージングされた合成または人工のウイルス粒子を指し、ウイルスキャプシドまたはエンベロープ内にパッケージングもされる任意のウイルスゲノム配列は、複製欠損であり;すなわち、それらは、子孫ビリオンを生成し得ないが、標的細胞を感染させる能力を保持し得る。一実施形態において、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要な酵素をコードする遺伝子を含まない(このゲノムは、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要なシグナルに隣接する目的の導入遺伝子のみを含む「ガットレス」であるように操作されてもよい)が、これらの遺伝子は生成中に供給されてもよい。従って、複製のために必要なウイルス酵素の存在を除いて、子孫のビリオンによる複製及び感染は生じ得ないので、これは遺伝子治療での使用に安全であるとみなされる。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「組換えAAV9ウイルス粒子」とは、AAV9キャプシドを有するヌクレアーゼ耐性粒子(NRP)を指し、キャプシドは、所望の遺伝子産物の発現カセットを含む異種核酸分子を内部にパッケージングしている。そのような発現カセットは、典型的には、遺伝子配列が発現制御配列に作動可能に連結されている遺伝子配列に隣接するAAV5’及び/または3’の逆方向末端反復配列を含む。発現カセットのこれらの及び他の適切なエレメントは、以下により詳細に記載され、本明細書では、代わりに、導入遺伝子のゲノム配列と呼ばれる場合がある。これは、「完全な」AAVキャプシドとも呼ばれてもよい。このようなrAAVウイルス粒子は、発現カセットによって保持される所望の遺伝子産物を発現し得る宿主細胞に導入遺伝子を送達する場合、「薬理学的に活性」と呼ばれる。
【0033】
多くの場合、rAAV粒子は「DNase耐性」と呼ばれる。しかし、このエンドヌクレアーゼ(DNase)に加えて、他のエンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼも、汚染核酸を除去するために本明細書に記載の精製ステップで使用されてもよい。そのようなヌクレアーゼは、一本鎖DNA及び/または二本鎖DNA及びRNAを分解するように選択してもよい。そのようなステップは、単一のヌクレアーゼ、または異なる標的に向け
られたヌクレアーゼの混合物を含んでもよく、そしてエンドヌクレアーゼであってもエキソヌクレアーゼであってもよい。
【0034】
「ヌクレアーゼ耐性」という用語は、AAVキャプシドが、導入遺伝子を宿主細胞に送達するようにデザインされた発現カセットの周りに完全にアセンブルされ、産生過程から、存在し得る混入核酸を除去するようにデザインされたヌクレアーゼインキュベーションステップ中の分解(消化)から、これらのパッケージゲノム配列を保護することを示す。
【0035】
本明細書中で使用される場合、「AAV9キャプシド」とは、GenBankアクセッション:AAS99264のアミノ酸配列を有するAAV9を指し、参照によって本明細書に援用され、AAVvp1キャプシドタンパク質は配列番号13に再現される。このコードされた配列からのいくつかのバリエーションは、本発明によって包含され、これは、GenBankアクセッション:AAS99264、配列番号13及びUS7906111(またWO2005/033321)において参照アミノ酸配列と約99%の同一性を有する配列を含んでもよい(すなわち、参照配列から約1%未満のバリエーション)。そのようなAAVとしては、例えば、天然の単離物(例えば、hu31またはhu32)、またはアミノ酸の置換、欠失もしくは付加を有するAAV9のバリアント、例えばAAV9キャプシドと配列された任意の他のAAVキャプシド中の対応する位置から「補充された」代用残基から選択されるアミノ酸置換;例えば、米国特許第9,102,949号、米国特許第8,927,514号、米国特許出願公開第2015/349911号、及びWO2016/049230A1に記載の置換などが挙げられる。しかし、他の実施形態では、上記の配列と少なくとも約95%の同一性を有するAAV9またはAAV9キャプシドの他のバリアントを選択してもよい。例えば、米国特許出願公開第2015/0079038号を参照のこと。したがって、キャプシドを生成する方法、そのためのコード配列、及びrAAVウイルスベクターの作製方法が記載されている。例えば、Gao et
al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、100(10)、6081-6086(2003)及び米国特許出願公開第2013/0045186A1号を参照のこと。
【0036】
「AAV9中間体」または「AAV9ベクター中間体」という用語は、そこにパッケージングされた所望のゲノム配列を欠いているアセンブルされたrAAVキャプシドを指す。これらはまた、「空の」キャプシドと呼ばれてもよい。そのようなキャプシドは、発現カセットの検出可能なゲノム配列を含まない場合もあるし、または遺伝子産物の発現を達成するのに不十分な部分的にパッケージされたゲノム配列のみを含む場合もある。これらの空のキャプシドは目的の遺伝子を宿主細胞に移入させるようには機能しない。
【0037】
用語「a」または「an」は、1つ以上を指す。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0038】
「含む(comprise)」、「備える(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。「からなる(consist)」、「からなっている(consisting)」及びその変形の用語は、包括的ではなく、排他的に解釈されるべきである。本明細書の様々な実施形態は、「含む」という言葉を使用して提示されるが、他の状況下では、関連する実施形態はまた、「からなる(consisting of)」または「本質的にからなる(consisting essectially of)」という言葉を使用して解釈及び記載されるものとする。
【0039】
「約」という用語は、他に特定されない限り、±10%以内の変動を包含する。
【0040】
本明細書中で他に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、当業者によって及び刊行されたテキスト(本出願で用いられる用語の多くに対して当業者を一般的に導く)を参照して一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】AAV9.CB.hIDSベクターゲノムの概略図である。IDS発現カセットは、逆方向末端反復(ITR)によって隣接され、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)のハイブリッドによって駆動される。導入遺伝子は、ニワトリベータアクチンイントロン及びウサギベータグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。
図2図2A~2Cは、ITベクター処理後のMPS IIマウスのCNS及び血清におけるIDS発現を提供する。MPS IIマウスは、以下:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)の3つの用量のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を行って2~3月齢で処置した。注射の3週間後に動物を屠殺した。CSF(図2A)全脳ホモジネート(図2B)及び血清(図2C)中でIDS活性を測定した。野生型及び未処置のMPS IIマウスを対照として使用した。
図3】AAV9.CB.hIDSを投与したMPS IIマウスにおけるベクターDNAの生体内分布を提供する。MPS IIマウスを、3×1010GCのAAV9ベクターのICV注射で処置した。注射の3週間後、動物を屠殺し、ベクターゲノムをTaqman PCRによって組織DNA中で定量した。
図4図4A図4Dは、MPS IIマウスにおけるITベクター送達後の末梢GAGの是正を示す。MPS IIマウスを、以下の3つの用量:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射により、2~3ヶ月齢で処置した。注射後3ヵ月後に動物を屠殺した。肝臓(図4A)及び心臓(図4B)においてヘキソサミニダーゼ活性を測定した。蓄積の是正は、肝臓では全ての用量、並びに心臓では、中用量及び高用量で見られた。肝臓(図4C)及び心臓(図4D)においてGAG含量を測定した。野生型及び未処置のMPS IIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元配置ANOVA、続いてダネット検定。
図5図5A~5Lは、MPS IIマウスにおける脳蓄積病変の用量依存的解決を示す。MPS IIマウスを、以下:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)のうちの3つの用量のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射により、2~3ヶ月齢で処置した。注射の3ヶ月後に動物を屠殺し、脳を、リソソーム膜タンパク質LIMP2及びガングリオシドGM3について染色した。GM3(図5A図5C図5E図5G及び図5I)及びLIMP2(図5B図5D図5F図5H及び図5J)について陽性に染色された細胞を、各動物の4つの皮質脳切片中において盲検のレビューアによって定量した。代表的な皮質脳切片が示されている(GM3、図5K;LIMP2、図5L)。野生型及び未処置のMPS IIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元配置ANOVA、続いてダネット検定。
図6図6A~6Cは、ベクター処理されたMPS IIマウスにおける物体の識別の改善を示す。未処置のMPS IIマウス及びWT雄性同腹仔は、4~5月齢で行動試験を受けた。MPS IIマウスを、以下:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)の3つの用量のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を行って2~3月齢で処置した。注射2ヵ月後に動物は、行動試験を受けた。図6Aは、Y迷路の挙動を示し、図6Bは、文脈恐怖条件付けを示し、盲検のレビューアにより注射の2ヶ月後に評価した。「Pre」は、信号なしの1.5mAフット・ショックを受けてから24時間後に囲いに再暴露されたときのフリージング時間を示した。*p<0.05、二元配置ANOVA、続いてシダックの多重比較検定。図6Cは、長期記憶を評価するために使用される、新規物体認識タスクにおける新規物体または慣れた物体の探索に費やされた時間のパーセンテージを示す。野生型及び未処置のMPS IIマウスを対照として使用した。*p<0.05、多重比較のためのボンフェローニ補正によるt検定。
図7図7A~7Bは、IT AAV9で処置したMPS Iマウスにおける酵素発現及び脳蓄積病変の是正の比較を示す。MPS Iマウスを、以下:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)の3つの用量のうちの1つでのAAV9.CB.hIDUAのICV注射を行って2~3月齢で処置した。ベクター注射3週間後に動物の1つのコホートを屠殺し、脳をIDUA活性の測定のために採取した。これを図7Aに示す。図7Bは、注射の3ヶ月後に動物の第2コホートを屠殺し、リソソーム膜タンパク質LIMP2について脳を染色したことを示す。LIMP2について陽性に染色された細胞を、4つの皮質脳切片中の盲検レビューアによって定量化した。野生型及び未処置のMPS IIマウスを対照として使用した。*p<0.05、一元配置ANOVA、続いてダネット検定。
図8】ICV AAV9.CB.hIDSで処置したMPS IIマウスにおけるヒトIDSに対する抗体応答を示す。MPS IIマウスを、以下:3×10GC(低)、3×10GC(中)または3×1010GC(高)の3つの用量のうちの1つでのAAV9.CB.hIDSのICV注射を行って2~3月齢で処置した。ベクター投与後21日目または90日目に屠殺したマウスから剖検で血清を採取した。ヒトIDSに対する抗体を、間接ELISAによって評価した。破線は、未処置動物由来のナイーブ血清中の平均力価より2SD高いことを示す。ほとんどの動物には(ナイーブ血清のバックグラウンドレベルで)検出可能な抗体はなかった。
図9図9A~9Dは、MPS IIマウスにおける正常なオープンフィールド活動及びY迷路の能力を示す。未処置のMPS IIマウス及びWT雄性同腹仔は、4~5月齢で行動試験を受けた。オープンフィールド活動は、水平活動(図9A)についてのXY軸ビームブレイク、垂直活動に対するZ軸ビームブレイク(図9B)、及びセンター活動に対するセンタービームブレイクのパーセント(図9C)によって測定した。全アームエントリー(図9D)は、8分間のY迷路試験セッション中に記録した。
図10図10A図10Bは、製造プロセスの流れ図を示す。
図11】同軸挿入方法(28)のための任意選択の導入針を含む、薬学的組成物の大槽内送達のための装置(10)の画像であり、これには、10ccのベクターシリンジ(12)、10ccのプレフィルドフラッシュシリンジ(14)、Tコネクタ延長セット(チューブ(20)、チューブ(22)及びコネクタ(24)の端部のクリップを含む)、22G×5インチの脊髄針(26)及び任意の18G×3.5インチの導入器針(28)を備える。また、スイベルオスルアーロック(16)を備えた4方向ストップコックも示されている。
図12図12A~12Iは、ICV AAV9で処置したイヌにおける脳炎及び導入遺伝子特異的T細胞応答を示す。1歳齢のMPS Iイヌを、GFPを発現するAAV9ベクターの単一のICVまたはIC注射で処置した。注射の12日後に死亡したI-567を除いて、注射の14日後に全ての動物を屠殺した。脳を冠状切片に分け、ICV処置動物の注射部位付近の肉眼的損傷(矢頭)を明らかにした(図12A~12F)。肉眼的病変を取り囲む脳領域からの組織切片を、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した(図12G及び12H)。元の倍率=4×(左パネル)、及び20×(右パネル)。剖検時にICV処理した1匹のイヌ(I-565)から末梢血単核細胞を採取し、インターフェロン-γELISPOTにより、AAV9キャプシド及びヒトIDUAタンパク質に対するT細胞応答を測定した(図12I)。GFP導入遺伝子産物に対するT細胞応答は、完全なGFP配列をカバーする重複する15アミノ酸ペプチドの単一プールを用いて測定した。AAV9キャプシドタンパク質を含むペプチドを、3つのプールに分けた(プールA~Cと呼ぶ)。*=陽性応答、>3倍のバックグラウンド(刺激されていない細胞)及び百万細胞あたり55スポット超と定義される。フィトヘマグルチニン(PHA)及びイオノマイシンとホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)は、T細胞活性化の陽性対照として役立った。
図13】ICVまたはIC AAV9で処置したイヌにおけるベクターの生体内分布を示す棒グラフである。注射から12日後に剖検した動物I-567を除いて、イヌを、GFPを発現するAAV9ベクターの単一のICVまたはIC注射の14日後に屠殺した。ベクターゲノムは、定量的PCRによって組織試料中で検出された。値は、1個の二倍体細胞あたりのベクターゲノムコピー(GC/二倍体ゲノム)として表される。海馬または大脳皮質から採取した脳試料は、ICV処置イヌに関して注射半球または未注射半球として示す;IC処理動物の場合、これらはそれぞれ右半球及び左半球である。動物I-567の注射した大脳半球からのPCRのためには試料を採取しなかった。
図14図14A図14Hは、ICVまたはIC AAV9で処置したイヌの脳及び脊髄におけるGFP発現を示す。GFP発現は、GFPを発現するAAV9ベクターのICVまたはIC注射で処置したイヌから収集した脳及び脊髄試料の直接蛍光顕微鏡検査によって評価した。前頭皮質の試料について、ならびに頚部、胸部、及び腰部レベルで収集された脊髄の前角からの代表的な切片が示されている。もとの倍率は10×である。
図15図15A~15Qは、リソソーム酵素β-グルクロニダーゼ(GUSB)を発現するICV AAV9で処理したMPS VIIイヌにおける安定した導入遺伝子発現及び脳炎の非存在を示す。GUSB(MPS VIIのモデル)の遺伝的欠損を有する6週齢のイヌを、GUSBを発現するAAV9ベクターの単一のICV注射で処置した。GUSB酵素活性は、注射時及び注射後7日目及び21日目に採取したCSF試料で測定した(図15A)。イヌは、注射の3週間後に屠殺した。注射部位を取り囲む脳領域の肉眼的検査及び顕微鏡的評価を行った(図15B~15D)。元の倍率=4×(中央のパネル)、及び10×(右側のパネル)。GUSB活性は、活性GUSBによって切断された場合に赤色産物を産生する基質を用いて脳及び脊髄切片において検出された(図15E~15N)。頚部、胸部、及び腰部のレベルで収集された大脳皮質、小脳、及び脊髄の前角の試料についての代表的な切片が示されている。元の倍率=4×(皮質及び小脳)及び10×(脊髄)。未処置のMPS VIIイヌ、正常イヌ、及びICV AAV9で処置したMPS VIIイヌから採取した大脳皮質の切片を、病理学的にMPS VIIイヌの脳に蓄積するガングリオシドGM3について染色した(図15O図15Q)。元の倍率=4×である。
図16図16A~16Bは、非ヒト霊長類(NHP)における腰髄くも膜下腔内注射後の造影剤の分布を示す。成体のカニクイザルは、5mLのIohexol 180で希釈したAAV9ベクターの腰椎穿刺によるくも膜下腔内注射を受けた。脊髄に沿った造影剤の分布を、蛍光透視法で評価した。胸部及び頸部領域の代表的な画像を示す。造影料(矢頭)は、全ての動物において注射の10分以内に脊髄の全長に沿って見えた。
図17】くも膜下腔内AAV9で処置したNHPにおけるベクターの生体内分布を示す棒グラフである。NHPを、5mLのイオヘキソール180で希釈したAAV9ベクターの腰椎穿刺によるくも膜下腔内注射の14日後に屠殺した。2匹の動物を、注射後10分間、トレンデレンブルグ位に置いた。ベクターゲノムは、定量的PCRによって組織試料中で検出された。値は、1個の二倍体細胞あたりのベクターゲノムコピー(GC/二倍体ゲノム)として表される。
図18図18A~18Hは、くも膜下腔内AAV9で処置したNHPの脳及び脊髄におけるGFP発現を示す。GFP発現は、AAV9ベクターのくも膜下腔内注射で処置したNHPから採取した脳及び脊髄試料の直接蛍光顕微鏡検査によって評価した。このベクターは、腰椎穿刺によって投与された。2匹の動物を、注射後10分間、トレンデレンブルグ位に置いた。前頭皮質の試料について、ならびに頚部、胸部、及び腰部レベルで収集された脊髄の前角からの代表的な切片が示されている。いくつかのNHP組織に自己蛍光物質が存在するため、赤血球画像を捕捉して、自家蛍光とGFPシグナルとを区別した。自己蛍光画像をマゼンタの上に重ねる。元の倍率=4×(皮質)、及び10×(脊髄)である。
図19図19A図19Bは、MPSI中のCSFスペルミンの上昇を示す。MPS Iイヌ(n=15)及び正常対照(n=15)由来のCSF試料について、ハイスループットLC/MS及びGC/MS代謝産物スクリーニングを行った。示差的に検出された代謝産物(ANOVA)のトップ100のヒートマップが示されている(図19A)。MPS Iコホート(28日齢)の最年少動物は、アスタリスクで示す。スペルミン濃度は、MPS Iのある6例の乳児及び2例の正常乳児からのCSF試料における定量的同位体希釈LC/MSアッセイによって測定した(図19B)。
図20図20A~20Jは、MPS Iニューロンにおけるスペルミン依存性の異常な神経突起伸長を示す。E18野生型またはMPS Iマウス胚から採取した皮質ニューロンを、プレートした24時間後にスペルミン(50ng/mL)またはスペルミンシンターゼ阻害剤APCHAで処理した。プレートした96時間後に位相差画像を取得した(図20A~20D)。盲検のレビューアにより、処置条件ごとに重複培養物からの45~65個のランダムに選択されたニューロンについて、神経突起の数、長さ及び分岐を定量した(図20E及び20H、20G及び20J、ならびに20F及び20I)。***p<0.0001(ANOVA、続いてダネット検定)。
図21図21A図21Kは、遺伝子療法後のMPS IイヌにおけるCSFスペルミンレベル及び脳GAP43発現の正常化を示す。1ケ月齢のイヌIDUAを発現するAAV9ベクターのくも膜下腔内注射により、5匹のMPS1イヌを処置した。数匹のMPS IイヌでIDUAに誘発される抗体応答を防止するために、イヌ(I-549、I-552)のうち2匹を出生後1日で、IDNAに対して、肝臓特異的遺伝子治療によって寛容化した。くも膜下腔内ベクター注射から6ヶ月後、IDUA活性を脳組織で測定した(図21A)。脳蓄積病変を、リソソーム膜タンパク質LIMP2を染色することによって評価した(図21B~21H)。GAP43は、ウエスタンブロットにより皮質脳試料で測定し(図21I)、デンシトメトリーによってβ-アクチンに対して定量した(図21J)。同位体希釈LC/MSによる屠殺時にCSFスペルミンを測定した(図21K)。未処置のMPS1イヌ(n=3)及び正常イヌ(n=2)が対照として役立った。*p<0.05(クラスカル・ウォリス検定、続いてダン検定)。
図22図22A図22Bは、MPS IにおけるCNS指向性遺伝子治療の評価のためのCSFバイオマーカーとしてのスペルミンの使用を例示する。出生時にヒトIDUAに寛容化された6匹のMPS Iイヌを、1か月齢で、ヒトIDUAを発現するくも膜下腔内AAV9で処理した(1012GC/kg、n=2,1011GC/kg、n=2、1010GC/kg、n=2)。CSFスペルミンレベルを、処置の6ヵ月後に測定した(図22A)。3匹のMPS Iネコを、ネコIDUAを発現するくも膜下腔内AAV9(1012GC/kg)で処置した。CSFスペルミンを、処理後6ヶ月定量した(図22B)。未処置のMPS1イヌ(n=3)及び正常イヌ(n=2)が対照として役立った。
図23】ランダムフォレスト分析によって同定された代謝産物の平均減少精度を示す。
図24】MPS Iイヌ脳試料におけるポリアミン合成経路における酵素の発現を示す。
図25】MPS VIIイヌCSFにおけるスペルミン濃度を示す。
図26図26A~26Cは、WTニューロン増殖に対するAPCHA処置の影響がないことを示す。
図27】種々の用量(3e8、3×10GC;3e9、3×10GC;3e10、3×1010GC)を用いてICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで処理したMPS IIマウス(IDSγ/-)における、MPS II関連の病理所見の用量依存性の減少を示す。累積病理学スコアを評価し、y軸にプロットした。ヘテロ接合性マウス(IDSγ/+)を対照として用いた。結果によって、ICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで処置したMPS IIマウスにおけるMPS II関連病理所見の用量依存的な減少が示された。
図28】実施例9に記載のアカゲザルにおけるCSF髄液細胞増加症を示す。様々な日(x軸、0日目、7日目、14日目、21日目、30日目、45日目、60日目及び90日目)に収集したCSF試料中の白血球(白血球、y軸)をカウントした。ひし形は、AAV9.CB7.hIDSで処理していないRA 2198のデータに相当する。四角、三角形、及びxは、それぞれ5×1013GCのAAV9.CB7.hIDSで処置した、RA1399、RA2203及びRA2231からのデータに相当する。*、丸及び+はそれぞれ、1.7×1013GCのAAV9.CB7.hIDSで処置したRA 1358、RA 1356及びRA 2197からのデータに相当する。
図29】実施例9に記載のように、60日目にNHPの血清中に発生した抗hIDS抗体を測定したELISA結果を示す。希釈をx軸としてプロットし、一方で、光学密度(OD)をy軸としてプロットした。ひし形は、AAV9.CB7.hIDSでの処置なしのRA2198からのデータに相当する。四角は、1.7×1013GCのAAV9.CB7.hIDSで処置されたRA2197からのデータに相当し、一方、三角形及びxは、それぞれ、5×1013GCのAAV9.CB7.hIDSで処置されたRA 2203及びRA 2231のデータに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
5.発明の詳細な説明
MPS IIと診断された患者(ヒト対象)のCNSにhIDS遺伝子を送達するための複製欠損AAVの使用が提供される。hIDS遺伝子を送達するために使用される組換えAAV(「rAAV」)ベクター(「rAAV.hIDS」)は、CNS(例えば、AAV9キャプシドを有するrAAV)に対する向性を有し、hIDS導入遺伝子は、特定の発現制御エレメント、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーとニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)とのハイブリッドによって制御される。特定の実施形態では、生理学的に適合する水性緩衝液、サーファクタント及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDSベクターの懸濁液を含む、くも膜下腔内投与、大槽内投与及び全身投与に適した薬学的組成物が提供される。rAAV懸濁液は、さらに以下によって特徴付けられる:
(i)rAAVゲノムコピー(GC)力価が少なくとも1.0×1013GC/mLである;
(ii)SDS-PAGE分析により測定した場合、rAAVの空粒子/全粒子比は、0.01~0.05(空のキャプシドが95%~99%含まれない)である(実施例5Dを参照のこと);他の実施形態では、本明細書で提供されるrAAV9.hIDSは、空のキャプシドを少なくとも約80%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%含まないか;及び/または
(iii)rAAV懸濁液の少なくとも約4×10GC/g脳質量~約4×1011GC/g脳質量の用量が力価を有する。
【0043】
力価は、インビトロ細胞培養アッセイ、例えば、実施例5Gに記載のインビトロ力価アッセイで測定してもよく、ここで、HEK293細胞は、1細胞あたり既知の多重度のrAAVGCで形質導入され、上清は、形質導入72時間後にIDS活性についてアッセイされる。例えば、蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリルアルファ-L-イズロニド-2硫酸を切断するhIDSの能力を測定する4MU-イズロニド酵素アッセイを使用して、hIDSの機能(活性)及び/または力価を適切なインビトロアッセイで測定してもよい。記載された条件下で測定した比活性は、>7,500pmol/分/μgである。www.RnDSystems.comのActivity Assay Protocolを参照のこと。酵素活性を測定する他の適切な方法が記載されている[例えば、Kakkis、E.D.et al.(1994)、Protein Expression Purif.5:225-232;Rome、L.H.、et al(1979).Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:2331-2334を参照のこと]、これには、本明細書に記載の方法も含む。活性はまた、記載された方法、例えば、E.Oussoren et al.、Mol Genet Metab.2013 Aug
;109(4):377-81.doi:10.1016/j.ymgme.2013.05.016.Epub 2013 Jun 4を用いて評価してもよい。処置の候補となる患者は、MPS II(ハンター症候群)及び/またはMPS IIに関連する症状を有する小児及び成人患者である。
【0044】
指定された年齢群のMPS II患者には、以下の治療上有効なrAAV9.hIDSのフラット用量を投与してもよい:
・新生児:約3.8×1012~約1.9×1014GC;
・3~9ヶ月:約6×1012~約3×1014GC;
・9~36ヶ月:約1013~約5×1014GC;
・3~12年:約1.2×1013~約6×1014GC;
・12+歳:約1.4×1013~約7.0×1014GC;
・18+歳(成人):約1.4×1013~約7.0×1014GC。
【0045】
いくつかの実施形態において、12+歳の年齢のMPS II患者(18歳+を含む)に投与される用量は、1.4×1013のゲノムコピー(GC)(1.1×1010GC/g脳質量)である。いくつかの実施形態では、12+歳の年齢のMPS II患者(18+歳を含む)に投与される用量は、7×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)である。なおさらなる実施形態において、MPS II患者に投与される用量は、少なくとも約4×10GC/g脳質量~約4×1011GC/g脳質量である。特定の実施形態において、MPS II新生児に投与される用量は、約1.4×1011~約1.4×1014GCの範囲であり;乳児3~9ヶ月に投与される用量は、約2.4×1011~約2.4×1014GCの範囲であり;MPS II小児9~36ヶ月に投与される用量は:約4×1011~約4×1014GCの範囲であり;3~12歳のMPS II小児に投与される用量は:約4.8×1011~約4.8×1014GCの範囲であり;小児及び12+歳の成人に投与される用量は、約5.6×1011~約5.6×1014GCの範囲である。
【0046】
この処置の目的は、疾患を処置するための実行可能なアプローチとして、rAAVに基づくCNS指向性遺伝子治療を介して、患者の欠損イズロネート-2-スルファターゼを機能的に置き換えることである。本明細書中に記載されるrAAVベクターから発現される場合、CSF、血清、ニューロン、または他の組織において検出される少なくとも約2%の発現レベルは、治療効果を提供し得る。しかし、より高い発現レベルが達成される場合がある。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDSレベルの2%~約100%である場合がある。特定の実施形態では、正常より高い発現レベルが、CSF、血清、または他の組織において検出され得る。
【0047】
治療の有効性は、(a)MPS II(ハンター症候群)患者の神経認知低下の予防;及び(b)疾患のバイオマーカー、例えば、CSF、血清及び/もしくは尿中、ならびに/または肝臓及び脾臓容積中のGAGレベル及び/または酵素活性の減少を評価することによって測定され得る。乳児の神経認知は、Bayley Scales of Infant and Toddler Development、第3版、BSID-IIIによって測定され得る。神経認知及び適応行動評価(例えば、それぞれ、Bayley Scales of Infant Development及びVineland Adaptive Behavior Scalesを使用して)を行ってもよい。
【0048】
hIDSの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子治療送達の組み合わせは、特定の実施形態によって包含される。全身送達は、ERT(例えば、Elaprase(登録商標)を用いて)、または肝指向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8キャプシドを保有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子治療を用いて
達成してもよい。
【0049】
特定の実施形態はまた、rAAV.hIDS薬学的組成物(下記の実施例4)の製造及び特徴付けも提供する。
【0050】
5.1.AAV.hIDS構築物及び製剤
5.1.1.発現カセット
配列番号1(CCDS14685.1)のヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDS遺伝子を含む発現カセットを含むAAVベクターが提供される。この配列は、Genbank NP000193.1をコードする公表された遺伝子配列であり、また配列番号2としても本明細書中に含まれる。別の実施形態では、この発現カセットは、配列番号1と少なくとも約75%同一であるヌクレオチド配列を有することによって特徴付けられるhIDS遺伝子を含み、かつ機能的なヒトイズロネート-2-スルファターゼをコードする。別の実施形態では、この発現カセットは、配列番号1と少なくとも約80%同一であるヌクレオチド配列を有することによって特徴付られるhIDS遺伝子を含み、かつ機能性ヒトイズロネート-2-スルファターゼをコードする。別の実施形態において、配列は、配列番号1と少なくとも約85%同一であるか、または配列番号1と少なくとも約90%同一であり、かつ機能的ヒトイズロネート-2-スルファターゼをコードする。一実施形態では、配列は、配列番号1と少なくとも約95%同一であるか、配列番号1と少なくとも約97%同一であるか、または配列番号1と少なくとも約99%同一であり、機能的ヒトイズロネート-2-スルファターゼをコードする。一実施形態では、この配列は、配列番号1と少なくとも約77%同一である。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号8のnt1177~nt2829のhIDSコード配列を含み、配列番号11のnt1937~nt3589としても示される。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号8のnt1177~nt2829(配列番号11のnt1937~nt3589としても示される)と少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%または約99%同一のhIDSコード配列を含む。
【0051】
別の実施形態では、機能的ヒトイズロネート-2-スルファターゼは、合成アミノ酸配列を含んでもよく、ここでは、リーダー(シグナル)ペプチドに対応するプレプロタンパク質、配列番号2の最初の25アミノ酸の全部または一部が、異種リーダーペプチドで置換されている。このリーダーペプチド、例えば、インターロイキン-2(IL-2)またはオンコスタチン由来のリーダーペプチドなどは、循環系へのその分泌経路を通じて細胞外への酵素の輸送を改善し得る。適切なリーダーペプチドは、好ましくは、必ずしもヒト由来である必要はない。適切なリーダーペプチドは、本明細書中に参考として援用されるproline.bic.nus.edu.sg/spdb/zhang270.htmから選択されてもよく、または選択されたタンパク質中でリーダー(シグナル)ペプチドを決定するための様々なコンピュータプログラムを用いて、決定されてもよい。限定されないが、このような配列は、長さが約15~約50アミノ酸、もしくは長さが約19~約28アミノ酸であってもよく、または必要に応じてより大きくても小さくてもよい。さらに、少なくとも1つのインビトロアッセイが、IDS酵素の酵素活性を評価するために有用であると記載されている[例えば、Dean et al.、Clinical Chemistry、2006 Apr;52(4):643-649を参照のこと]。プレプロタンパク質の全部または一部(配列番号2のアミノ酸1~25)の除去に加えて、プロタンパク質の全部または一部(配列番号2のアミノ酸26~33)を除去してもよく、必要に応じて異種の成熟ペプチドで置換されていてもよい。
【0052】
別の実施形態では、配列番号5のnt3423~nt4547のヌクレオチド配列を有することを特徴とするSUMF1遺伝子をさらに含む発現カセットを含むAAVベクター(GenBank:AB448737.1のCDS)が提供される。この配列は、NCB
I参照配列:NP_877437.2をコードする公表された遺伝子配列であり、これもまた配列番号7及び配列番号10として本明細書中に包含される。いくつかの研究によって、IDSなどのスルファターゼの発現が、IDSの翻訳後修飾に必要とされるスルファターゼ改変因子SUMF1の利用可能性によって制限され得ることが示唆された(Fraldi et al.、Biochemical J、2007:403:305-312)。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号5のnt3423~nt4547と少なくとも約80%同一であるヌクレオチド配列を有することを特徴とするSUMF1遺伝子を含み、かつ機能的なヒトSUMF1をコードする。別の実施形態において、配列は、配列番号5のnt3423~nt4547と少なくとも約85%同一であるか、または配列番号5のnt3423~nt4547と少なくとも約90%同一であり、かつ機能的ヒトSUMF1をコードする。一実施形態では、配列は、配列番号5のnt3423~nt4547と少なくとも約95%、約97%、または約99%同一であり、かつ機能的なヒトSUMF1をコードする。一実施形態では、この配列は、配列番号5のnt3423~nt4547と少なくとも約76.6%同一である。別の実施形態において、発現カセットは、配列番号8のnt3423~nt4553のhSUMF1コード配列を含む。別の実施形態において、発現カセットは、配列番号8のnt3423~nt4553と少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約98%または約99%同一なhSUMF1コード配列を含む。
【0053】
一実施形態では、hIDSコード配列及びhSUMF1コード配列を含む発現カセットを含むAAVベクターが提供される。別の実施形態において、hIDSコード配列及びhSUMF1コード配列は、内部リボソーム侵入部位(IRES)によって連結された。さらなる実施形態において、IRESは、配列番号5のnt2830~nt3422または配列番号8のnt2830~nt3422の配列を有する。別の実施形態において、この発現カセットは、配列番号5のnt1177~nt4547、または配列番号8のnt1177~nt4553を含み、これは、hIDSコード配列、IRES及びhSUMF1コード配列を含む。
【0054】
配列に関する同一性または類似性とは、必要に応じて最大パーセントの配列同一性を達成するために配列を整列させギャップを導入した後に、本明細書に提供されるペプチド及びポリペプチド領域と同一である(すなわち、同じ残基)または類似の(すなわち、共通の側鎖特性に基づき同じ群由来のアミノ酸残基である、下を参照のこと)候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書において定義される。パーセント(%)同一性とは、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列をそれぞれ比較することによって決定される、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド間の関係の尺度である。一般に、比較される2つの配列は、配列間で最大の相関を与えるように整列される。2つの配列のアライメントを調べ、決定された2つの配列間の正確なアミノ酸またはヌクレオチド対応を与える位置の数を、アライメントの全長で割って100を掛けて同一性%の数字を得る。この同一性%の数字は、比較される配列の全長にわたって決定され得、これは、同じまたは非常に類似した長さ及び高度に相同的な配列に、またはより短い規定された長さにわたって特に適しており、長さが等しくないか、または相同性のレベルがより低い配列に関してはさらに適している。文献を使用するために利用可能であり、かつ/または、アライメント及びパーセント同一性を実施するために公的にもしくは商業的に利用可能である、多数のアルゴリズム及びそれに基づくコンピュータプログラムがある。アルゴリズムまたはプログラムの選択は、本発明の限定ではない。
【0055】
例えば、Unix上のソフトウェアCLUSTALWを含む適切なアライメントプログラムの例を、次にBioeditプログラム(Hall、T.A.1999、BioEdit:auser-friendlybiologicalsequencealignmenteditorandanalysisprogramforWindows95
/98/NT.(Windows 95/98/NT.用のユーザフレンドリーな生物学的配列アライメントエディタ及び解析プログラム)、Nucl.Acids.Symp.Ser.41:95-98);EMBL-EBIから入手可能なClustal Omega(Sievers、Fabian et al.、「Fast,scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega」Molecular systems Biology 7.1(2011):539 and Goujon、Mickael、et al「A new bioinformatics analysis tools framework at EMBL-EBI」Nucleic acids research 38.suppl 2(2010):W695-W699);Wisconsin Sequence Analysis Package、version 9.1(Devereux J.et al.、Nucleic Acids Res.、12:387-395,1984、Genetics Computer Group、Madison、Wis.,USAから入手可能)に組み込んでもよい。プログラムBESTFIT及びGAPは、2つのポリヌクレオチド間の同一性%及び2つのポリペプチド配列間の同一性%を決定するために使用され得る。配列間の同一性及び/または類似性を決定するための他のプログラムとしては、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCB),Bethesda,Md.,USAから入手可能で、NCBIのホームページ(www.ncbi.nlm.nih.govhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からアクセス可能なBLASTファミリーのプログラム、GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)が挙げられる。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重量残基表、ギャップ長ペナルティ12、及びギャップペナルティ4を用いてもよい;及びFASTA(Pearson W.R.及びLipman D.J.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:2444-2448,1988、Wisconsin Sequence Analysis Packageの一部として入手可能)を用いてもよい。SeqWeb Software(GCG Wisconsin Packageへのウェブベースのインターフェース:Gapプログラム)。
【0056】
いくつかの実施形態では、カセットは組換えアデノ随伴ウイルスから発現するようにデザインされ、ベクターゲノムはまたAAV逆方向末端反復(ITR)も含む。一実施形態では、rAAVはシュードタイプであり、すなわち、AAVキャプシドは、ITRを提供するAAVとは異なる供給源のAAV由来である。一実施形態では、AAV血清型2のITRが使用される。しかし、他の適切な供給源からのITRを選択してもよい。必要に応じて、AAVは自己相補的AAVであってもよい。
【0057】
本明細書に記載の発現カセットは、AAV5’逆方向末端反復(ITR)及びAAV3’ITRを利用した。しかし、これらのエレメントの他の構成も適切である場合がある。ΔITRと呼ばれる5’ITRの短縮版が記載されており、ここでは、D-配列及び末端解離部位(trs)が欠失している。他の実施形態では、全長AAV5’及び/または3’ITRが使用される。シュードタイプAAVが産生される場合、発現中のITRは、キャプシドのAAV供給源とは異なる供給源から選択される。例えば、AAV2 ITRは、CNSまたはCNS内の組織もしくは細胞を標的とするための特定の効率を有するAAVキャプシドと共に使用するために選択され得る。一実施形態では、AAV2由来のITR配列またはその欠失バージョン(ΔITR)は、便宜のために、及び規制当局の承認を加速するために使用される。しかし、他のAAV源由来のITRを選択してもよい。ITRの供給源がAAV2に由来し、AAVキャプシドが別のAAV供給源に由来する場合、得られるベクターをシュードタイプと称してもよい。しかし、他のAAV ITRの供給
源を利用してもよい。
【0058】
一実施形態では、発現カセットは、脳脊髄液及び脳を含む中枢神経系(CNS)における発現及び分泌のためにデザインされる。特に望ましい実施形態では、発現カセットは、CNS及び肝臓の両方での発現に有用であり、それによってMPS IIの全身及びCNS関連効果の両方の処置が可能になる。例えば、本発明者らは、特定の構成的プロモーター(例えば、CMV)が、くも膜下腔内に送達された場合に所望のレベルで発現を駆動せず、それにより準最適なhIDS発現レベルを提供することを観察した。しかし、ニワトリベータ-アクチンプロモーターは、くも膜下腔内送達及び全身送達の両方で発現を良好に駆動する。従って、これは特に望ましいプロモーターである。他のプロモーターを選択してもよいが、同じものを含む発現カセットは、ニワトリベータアクチンプロモーターを有するものの利点の全てを有するわけではない。様々なニワトリベータアクチンプロモーターが、単独で、または種々のエンハンサーエレメント(例えば、CB7は、サイトメガロウイルスエンハンサーエレメントを有するニワトリベータ-アクチンプロモーター、CAGプロモーターであり、これは、プロモーター、ニワトリベータアクチンの第1エキソン及び第1イントロン、ならびにウサギベータグロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む)、CBhプロモーターと組み合わせて記載されている[SJ Gray et al.、Hu Gene Ther、2011 Sep;22(9):1143-1153。
【0059】
組織特異的であるプロモーターの例は、とりわけ、肝臓及び他の組織(albumin,Miyatake et al.,(1997)J.Virol.,71:5124-32;B型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandig et al.,(1996)Gene Ther.,3:1002-9;アルファフェトプロテイン(AFP)、Arbuthnot et al.,(1996)Hum.Gene Ther.,7:1503-14)、骨オステオカルシン(Stein et al.,(1997)Mol.Biol.Rep.,24:185-96);骨シアロプロテイン(Chen et al.,(1996)J.Bone Miner.Res.,11:654-64)、リンパ球(CD2,Hansal et al.,(1998)J.Immunol.,161:1063-8;免疫グロブリン重鎖;T細胞受容体鎖)、ニューロン、例えば、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al.,(1993)Cell.Mol.Neurobiol.,13:503-15)、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子(Piccioli et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5611-5)、及びニューロン特異的vgf遺伝子(Piccioli et al.,(1995)Neuron,15:373-84)について周知である。あるいは、調節可能なプロモーターを選択してもよい。例えば、本明細書において参照によって援用される、WO 2011/126808B2を参照のこと。
【0060】
一実施形態では、発現カセットは、1つ以上の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは、2つ以上の発現エンハンサーを含む。これらのエンハンサーは同一であっても異なっていてもよい。例えば、エンハンサーは、アルファmic/bikエンハンサーまたはCMVエンハンサーを含んでもよい。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2つのコピーで存在してもよい。あるいは、エンハンサーの二重コピーは、1つ以上の配列によって分離されてもよい。さらに別の実施形態では、発現カセットはイントロン、例えばニワトリベータ-アクチンイントロン、ヒトβ-グロブリンイントロン、及び/または市販のPromega(登録商標)イントロンをさらに含む。他の適切なイントロンとしては、例えば国際公開第2011/126808号パンフレットに記載されているような当該分野で公知のイントロンが挙げられる。
【0061】
さらに、適切なポリアデニル化シグナルを有する発現カセットが提供される。一実施形態では、ポリA配列は、ウサギグロブリンポリAである。例えば、WO2014/151341号を参照のこと。あるいは、別のポリA、例えばヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列、SV40ポリA、SV50ポリA、または合成ポリA。さらに他の従来の調節エレメントは、発現カセットに追加してまたは必要に応じて含まれていてもよい。
【0062】
例示的なrAAV.hIDSベクターゲノムは、配列番号3のnt2~nt3967、配列番号5のnt11~nt4964、配列番号8のnt11~nt4964、配列番号11のnt2~nt3967、または配列番号14のnt2~nt3965に示される。
【0063】
5.1.2.rAAV.hIDSウイルス粒子の産生
一実施形態では、AAVキャプシドを有し、かつその発現を制御する調節配列の制御下でAAV逆方向末端反復配列、ヒトイズロネート-2-スルファターゼ(hIDS)遺伝子をその中にパッケージングしている、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子であって、ここで前記hIDS遺伝子が、機能性ヒトイズロネート-2-スルファターゼをコードする、配列番号1(図1)に示される配列またはそれと少なくとも約95%同一である配列を有する粒子が提供される。一実施形態では、hIDS発現カセットは、AAV5’ITR及びAAV3’ITRに隣接している。別の実施形態では、AAVは一本鎖AAVである。
【0064】
くも膜下腔内及び/または大槽内送達のために、AAV9が特に望ましい。必要に応じて、本明細書に記載のrAAV9.hIDSベクターは、肝臓を特異的に標的とするようにデザインされたベクターと同時投与されてもよい。肝指向性を有する多数のrAAVベクターのいずれを使用してもよい。rAAVのキャプシドの供給源として選択され得るAAVの例としては、例えば、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8が挙げられる[例えば、米国特許出願公開第2007-0036760-A1号;米国公開特許出願第2009-0197338-A1号;欧州特許第1310571号を参照のこと]。また、WO2003/042397(AAV7及び他のシミアンAAV)、米国特許第7790449号及び米国特許第7282199号(AAV8)、WO2005/033321及び米国特許第7,906,111号(AAV9)及びWO2006/110689]、及びrh10[WO2003/042397]、AAV3B;AAVdj[US2010/0047174]も参照のこと。1つの特に望ましいrAAVは、AAV2/8.TBG.hIDS.coである。
【0065】
多くの場合、rAAV粒子はDNase耐性と呼ばれる。しかし、このエンドヌクレアーゼ(DNase)に加えて、他のエンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼもまた、本明細書に記載の精製ステップにおいて、汚染核酸を除去するために使用されてもよい。そのようなヌクレアーゼは、一本鎖DNA及び/または二本鎖DNA及びRNAを分解するように選択されてもよい。そのようなステップは、単一のヌクレアーゼ、または異なる標的に向けられたヌクレアーゼの混合物を含んでもよく、そしてエンドヌクレアーゼであってもエキソヌクレアーゼであってもよい。
【0066】
AAVに基づくベクターを調製する方法は公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2007/0036760号(2007年2月15日)を参照のこと。AAV9のAAVキャプシドの使用は、本明細書に記載の組成物及び方法に特によく適している。AAV9の配列及びAAV9キャプシドに基づくベクターを生成する方法は、米国特許第7,906,111号;米国特許出願公開第2015/0315612号;WO2012/112832(これらは参照により本明細書に組み込まれる)に記載される。しかし、他のAAVキャプシドが選択されても、または生成されてもよい。例えば、AAV8の配列及びAAV8キャプシドに基づくベクターを生成する方法は、
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,282,199B2号、米国特許第7,790,449号及び米国特許第8,318,480号に記載されている。多数のそのようなAAVの配列は、上記の米国特許第7,282,199B2号、米国特許第7,790,449号、米国特許第8,318,480号、及び米国特許第7,906,111号に示されているか、及び/またはGenBankから入手可能である。任意のAAVキャプシドの配列は、合成的に、または種々の分子生物学及び遺伝子工学技術を用いて容易に生成され得る。適切な製造技術は、当業者に周知である。例えば、Sambrook et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press(Cold Spring Harbor、NY)を参照のこと。あるいは、ペプチド(例えば、CDR)をコードするオリゴヌクレオチドまたはペプチド自体は、例えば周知の固相ペプチド合成法(Merrifield、(1962)J.Am.Chem.Soc.、85:2149;Stewart及びYoung、Solid Phase Peptide Synthesis(Freeman、San Francisco、1969)pp.27-62)によって合成的に生成され得る。これら及び他の適切な製造方法は、当業者の知識の範囲内であり、本発明の限定ではない。
【0067】
本明細書に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、公知の技術を用いて作製され得る。例えば、WO2003/042397号;WO2005/033321、WO2006/110689;米国特許第7588772B2号を参照のこと。そのような方法は、AAVキャプシドをコードする核酸配列;機能的rep遺伝子;少なくともAAV逆方向末端反復配列(ITR)及び導入遺伝子から構成される発現カセット;AAVキャプシドタンパク質への発現カセットのパッケージングを可能にするのに十分なヘルパー機能を含有する宿主細胞を培養することを包含する。
【0068】
空の完全な粒子含有量を計算するために、選択された試料(例えば、本明細書の実施例では、GCの数=粒子の数であるイオジキサノール勾配精製調製物)のVP3バンド容積を、ロードされたGC粒子に対してプロットする。得られた一次方程式(y=mx+c)を用いて、試験品のピークのバンド容積中の粒子の数を計算する。次いで、ロードされた20μLあたりの粒子数(pt)に50を乗じて粒子(pt)/mLを得る。Pt/mLをGC/mLで割って、ゲノムコピーに対する粒子の比(pt/GC)を得る。Pt/mL-GC/mLによって、空のpt/mLを得る。空のpt/mLを、pt/mLで割って×100し、空の粒子のパーセンテージを得る。
【0069】
一般に、パッケージされたゲノムを有する空のキャプシド及びAAVベクター粒子についてアッセイするための方法は、当技術分野で公知である。例えば、Grimm et al.、Gene Therapy(1999)6:1322-1330;Sommer
et al.、Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照のこと。変性キャプシドを試験するために、この方法は、処理されたAAVストックを、3つのキャプシドタンパク質を分離し得る任意のゲル、例えば、緩衝液中の3~8%トリス-アセテートを含む勾配ゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供すること、次いで試料材料が分離されるまでゲルを泳動すること、ナイロンまたはニトロセルロース膜、好ましくはナイロン上にゲルをブロットすることを包含する。次いで、抗AAVキャプシド抗体を、変性キャプシドタンパク質に結合する一次抗体として、好ましくは抗AAVキャプシドモノクローナル抗体、最も好ましくはB1抗AAV-2モノクローナル抗体を使用する(Wobus et al.、J.Virol.2000)74:9281-9293)。次いで、二次抗体であって、一次抗体に結合し、かつ一次抗体、より好ましくはそれに共有結合した検出分子を含む抗IgG抗体、最も好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗マウスIgG抗体との結合を検出するための手段を含む二次抗体を使用する。結合を検出する方法を使用して、一次抗体と二次抗体との間の
結合を半定量的に決定し、これは好ましくは、放射性同位体放射、電磁照射、または比色変化を検出し得る検出方法、最も好ましくは化学発光検出キットである。例えば、SDS-PAGEでは、カラム画分由来の試料を採取し、還元剤(例えばDTT)を含有するSDS-PAGEローディング緩衝液中で加熱し、キャプシドタンパク質をプレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えばNovex)で分離した。銀染色は、SilverXpress(Invitrogen、CA)を使用して、製造業者の説明書または他の適切な染色方法、すなわちSYPROルビーまたはクーマシー染色により実施してもよい。一実施形態では、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は、定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)によって測定してもよい。試料を希釈し、DNase I(または別の適切なヌクレアーゼ)で消化して、外因性DNAを除去する。ヌクレアーゼの不活性化の後、プライマー及びプライマー間のDNA配列に特異的なTaqMan(商標)蛍光発生プローブを使用して、試料をさらに希釈し、増幅する。Applied Biosystems Prism 7700 Sequence Detection System上の各試料について、定義された蛍光レベル(閾値サイクル、Ct)に達するのに必要なサイクル数を測定する。AAVベクターに含まれるものと同一の配列を含むプラスミドDNAを使用して、Q-PCR反応において標準曲線を生成する。試料から得られたサイクル閾値(Ct)の値を使用して、それをプラスミド標準曲線のCt値に正常化することによってベクターゲノム力価を決定する。デジタルPCRに基づくエンドポイントアッセイも使用してもよい。
【0070】
一態様では、広域スペクトルのセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼK(Qiagenから市販されているものなど)を利用する最適化q-PCR法が使用される。より具体的には、最適化されたqPCRゲノム力価アッセイは、DNaseI消化後、試料をプロテイナーゼK緩衝液で希釈し、プロテイナーゼKで処理した後熱失活させることを除いて、標準アッセイと同様である。適切には、試料を、試料サイズに等しい量のプロテイナーゼK緩衝液で希釈する。プロテイナーゼK緩衝液は、2倍以上に濃縮してもよい。典型的には、プロテイナーゼK処理は、約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mL~約1mg/mLで変化させてもよい。処理ステップは、一般に、約55℃で約15分間行われるが、より長い時間(例えば、約20分~約30分)にわたってより低い温度(例えば、約37℃~約50℃)、またはより高い温度(例えば、約60℃まで)でより短い時間(例えば、約5~10分)行ってもよい。同様に、熱不活性化は、一般に、約95℃で約15分間であるが、温度を低下させてもよい(例えば、約70℃~約90℃)及び時間を延長してもよい(例えば、約20分~約30分間)。次いで、試料を希釈し(例えば、1000倍)、標準アッセイに記載されるようにTaqMan分析に供する。
【0071】
加えて、または代替的に、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を使用してもよい。例えば、ddPCRによる一本鎖及び自己相補的AAVベクターゲノム力価を決定するための方法が記載されている。例えば、M.Lock et al,Hu Gene
Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照のこと。
【0072】
要約すると、ゲノム欠損AAV9中間体からパッケージングされたゲノム配列を有するrAAV9粒子を分離する方法は、組換えAAV9ウイルス粒子及びAAV9キャプシド中間体を含む懸濁液を、高速液体クロマトグラフィーに供することを包含し、ここでAAV9ウイルス粒子及びAAV9中間体は、10.2のpHで平衡化された強力な陰イオン交換樹脂に結合され、約260及び約280の紫外線吸光度について溶離液をモニタリングしながら塩勾配に供する。rAAV9の最適性は低いが、pHは約10.0~10.4の範囲であり得る。この方法では、A260/A280の比が変曲点に達したときに溶出する画分からAAV9完全キャプシドを回収する。一例では、アフィニティークロマトグ
ラフィーステップについては、ダイアフィルトレーション産物を、AAV2/9血清型を効率的に捕捉するCapture Select(商標)Poros-AAV2/9親和性樹脂(Life Technologies)に適用してもよい。これらのイオン条件下では、有意なパーセンテージの残留細胞DNA及びタンパク質がカラムを通って流れ、一方でAAV粒子が効率的に捕捉される。
【0073】
rAAV.hIDSベクターは、図11に示すフロー図に示すように製造してもよく、これは下記のセクション5.4及び実施例4にさらに詳細に記載されている。
【0074】
5.1.3.rAAV.hIDSの薬学的製剤
rAAV9.hIDS製剤は、生理食塩水、サーファクタント、及び生理学的に適合する塩または塩の混合物を含有する水溶液中に懸濁した有効量のAAV.hIDSベクターを含有する懸濁液である。適切には、製剤は、生理的に許容されるpH、例えばpH6~9、またはpH6.5~7.5、pH7.0~7.7、またはpH7.2~7.8の範囲に調整される。脳脊髄液のpHが、約7.28~約7.32であるので、くも膜下腔内送達のためには、この範囲内のpHが望ましい場合がある;静脈内送達の場合、6.8~約7.2のpHが望ましい場合がある。しかし、最も広い範囲内の他のpH及びこれらの部分的範囲が、他の送達経路のために選択されてもよい。
【0075】
適切なサーファクタントまたはサーファクタントの組み合わせは、非毒性の非イオン性サーファクタントの中から選択してもよい。一実施形態では、例えば、中性pHを有するPoloxamer 188としても公知のPluronic(登録商標)F68[BASF]などの一級ヒドロキシル基で終結する二官能性ブロックコポリマーサーファクタントが選択され、平均分子量は8400である。他のサーファクタント及び他のPoloxamer(ポロキサマー類)、すなわち、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(Macrogol-15 Hydroxystearate)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールから構成される非イオン性トリブロックコポリマーが選択されてもよい。一実施形態では、製剤はポロキサマーを含む。これらのコポリマーは、一般に、文字「P」(ポロキサマー用)に続いて3桁の数字で名付けられ:最初の2桁×100は、ポリオキシプロピレンコアのおよその分子量を示し、最後の数字×10はポリオキシエチレン含有パーセンテージを示す。一実施形態では、ポロキサマー188が選択される。サーファクタントは、懸濁液の約0.0005%~約0.001%までの量で存在してもよい。
【0076】
一実施形態では、この製剤は、例えば、M.Lock et al.、Hu Gene
Therapy Methods、Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、oqPCRまたはデジタル液滴PCR(ddPCR)によって測定して、少なくとも約1×10GC/mL~3×1013GC/alの濃度を含んでもよい。
【0077】
一実施形態では、凍結形態で、本明細書に記載の緩衝液中に、rAAVを含む凍結成分が提供される。必要に応じて、この組成物には、1つ以上のサーファクタント(例えば、Pluronic F68)、安定剤または防腐剤が存在する。適切には、使用のために、組成物を解凍し、適切な希釈剤、例えば滅菌生理食塩水またはは緩衝生理食塩水で所望の用量に滴定する。
【0078】
一例では、この製剤は、例えば、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、デキストロース、硫酸マグネシウム(例えば、硫酸マグネシウム・7HO)、塩化カリウム、塩化カルシウム(例えば、塩化カルシウム・2HO)、リン酸二塩基性ナトリウム、及びそれからの混合物のうちの1つ以上を水の中に含む緩衝生理食塩水を含んでもよい。適切には、くも膜下腔内送達の場合、浸透圧は、脳脊髄液と適合する範囲内(例えば、約275~約290)である;例えば、http://emedicine.medscape.com/article/2093316-overviewを参照のこと。必要に応じて、くも膜下腔内送達のために、市販の希釈剤を懸濁剤として、また別の懸濁剤及び他の賦形剤と組合わせて、使用してもよい。例えば、Elliotts B(登録商標)溶液[Lukare Medical]を参照のこと。他の実施形態では、この製剤は、1つ以上透過促進剤を含んでもよい。適切な透過促進剤の例としては、例えば、マンニトール、グリコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテールまたはEDTAが挙げられる。
【0079】
特定の実施形態では、製剤(必要に応じて凍結された)中に懸濁された濃縮ベクター、任意の希釈緩衝液、ならびにくも膜下腔内投与に必要なデバイス及び他の構成要素を備えるキットが提供される。別の実施形態では、キットは、静脈内送達のための成分を追加してもよいし、代替的に含んでもよい。一実施形態では、キットは、注射を可能にするのに十分な緩衝液を提供する。そのような緩衝液は、濃縮ベクターの約1:1~1:5希釈以上を可能にし得る。他の実施形態では、処置する臨床家による用量滴定及び他の調整を可能にするために、より多量または少量の緩衝液または滅菌水を含む。さらに他の実施形態では、デバイスの1つ以上の構成要素がキットに含まれる。
【0080】
5.2.遺伝子療法プロトコール
5.2.1標的患者集団
本明細書に記載されるrAAV.hIDSの治療上有効な量を、それを必要とする患者に送達することを包含する、II型ムコ多糖症の処置方法が本明細書に提供される。具体的には、本明細書に記載のrAAV.hIDSの治療上有効な量を、それを必要とする患者に送達することを包含する、MPS IIと診断された患者における神経認知低下を予防、処置及び/または改善するための方法が本明細書において提供される。本明細書に記載のrAAV.hIDSベクターの「治療上有効な量」は、以下の段落のいずれか1つで同定された症状の1つ以上を是正し得る。
【0081】
処置の候補となる患者は、MPS II(ハンター症候群)及び/またはMPS IIに関連する症状を有する小児及び成人の患者である。MPS IIは、軽度/弱化表現型または重度の表現型として特徴付けられる。死亡は、重度の表現型(神経認知機能低下を特徴とする)の患者では11.7歳の平均年齢で、軽度または弱い表現型の患者では21.7歳で起こる。患者の大多数(3分の2)は、この病気の重症型を有する。MPS IIの患者は、出生時に正常に見えるが、典型的には、重症型で18ヶ月~4歳の年齢と弱化型で4~8歳の年齢との間に、疾患の兆候及び症状が存在する。罹患した全ての患者に共通の徴候及び症状としては、低身長、粗い顔貌、大頭症、巨大舌、難聴、肝腫脹及び脾腫、多発異骨症、関節拘縮、脊髄狭窄及び手根管症候群が挙げられる。頻繁な上気道及び耳の感染症がほとんどの患者で起こり、進行性気道閉塞が一般的に見出され、睡眠時無呼吸及びしばしば死につながる。心臓病はこの集団における主要な死因であり、左右の心室肥大及び心不全をもたらす弁膜機能障害を特徴とする。死亡は、一般に、閉塞性気道疾患または心不全に起因する。
【0082】
重症型のMPS IIでは、早期発達のマイルストーンが達成されるかもしれないが、
発生の遅延は、18~24ヶ月で容易に明らかである。一部の患者は、初年度に聴覚スクリーニング検査を受けられず、サポートされずに座る能力、歩く能力、及び会話を含む他のマイルストーンが遅れる。発達の進行は、3~5歳の間でプラトーになり始め、回帰はほぼ6.5年から始まると報告されている。トイレ訓練を受けたMPS IIの小児の約50%のうち、全てではないにしても大部分が病気の進行とともにこの能力を失う。
【0083】
有意な神経学的関与を有する患者は、生後2年目から始まり、神経変性がこの行動を減弱させる8~9歳まで継続する、多動性、頑固さ及び攻撃性を含む重度の行動障害を示す。
【0084】
てんかん発作は、10歳に達した重症患者の半分超で報告され、死亡するまでにCNSの関与するほとんどの患者が重度の精神的な障害を有し、絶えずケアを必要とする。弱化した病気の患者は、正常な知的機能を発揮するが、MRI画像によって、白質病変、拡大した脳室及び脳萎縮を含むMPS IIを有する、全ての患者における肉眼的異常が明らかになる。
【0085】
本発明の組成物は、軽度から完全なアナフィラキシーまでの範囲であり得る、組換え酵素に対する免疫応答に関連する長期酵素補充療法(ERT)の合併症、ならびに生涯にわたる末梢投与の合併症、例えば、局所及び全身の感染を回避する。ERTとは対照的に、本発明の組成物は、生涯にわたって毎週繰り返される注射を必要としない。理論に拘泥するものではないが、本明細書に記載の処置方法は、CNSコンパートメントの外に治療的レバレッジ効果をもたらす、連続的な循環IDSレベルの上昇をもたらすトランスダクション効率が高いベクターによってもたらされる効率的で長期間の遺伝子導入を提供することにより、MPS II障害に関連する少なくとも中枢神経系の表現型を是正するのに有用であると考えられる。さらに、CNSへのAAV媒介性送達の前に、タンパク質形態またはAAV-hIDSの形態での酵素の直接的な全身送達を含む、様々な経路による、能動寛容を提供し、酵素に対する抗体形成を防止するための方法が本明細書において提供される。
【0086】
いくつかの実施形態において、重度のMPS IIと診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って処置される。いくつかの実施形態において、弱化MPS IIと診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って処置される。いくつかの実施形態では、早期神経認知障害を有するMPS IIを有する小児対象は、本明細書に記載の方法に従って処置される。特定の実施形態において、ハンター症候群と診断され、神経認知障害を有するか、または神経認知障害を発症する危険性がある2歳以上の患者を、本明細書に記載の方法に従って処置する。特定の実施形態において、重度のハンター症候群と相関することが公知の主要な再編成または欠失突然変異の存在を伴う2歳以上の患者は、本明細書に記載の方法に従って処置される。
【0087】
特定の実施形態では、新生児(3カ月齢以下)を、本明細書に記載の方法に従って処置する。特定の実施形態において、3ヶ月齢~9ヶ月齢の新生児が、本明細書に記載の方法に従って処置される。特定の実施形態において、9ヶ月齢~36ヶ月齢の子供が、本明細書に記載の方法に従って処置される。特定の実施形態では、3歳~12歳の小児が、本明細書に記載の方法に従って処置される。特定の実施形態において、12歳~18歳の小児が、本明細書に記載の方法に従って処置される。特定の実施形態において、18歳以上の成人が、本明細書に記載の方法に従って処置される。
【0088】
適切には、処置のために選択される患者は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する患者が挙げられる:血清、血漿、線維芽細胞または白血球で測定されるIDS酵素活性の欠如または減少により確認されたMPS IIの確認された診断;他の神経学的または精神医
学的因子によって説明し得ない場合には、以下のいずれかとして定義されるMPS IIに起因する早期神経認知障害の確認された証拠:-平均よりも少なくとも1標準偏差低いかまたは逐次試験で1標準偏差を超える低下の確認された歴史的証拠であるDQ(BSID-III)。あるいは、尿、血清、CSF、または遺伝子検査におけるGAGの増大を使用してもよい。
【0089】
処置前に、対象、例えば、乳児は、好ましくはMPS II患者、すなわちhIDSをコードする遺伝子に変異を有する患者を同定するために遺伝子型決定を受ける。処置前に、MPS II患者は、hIDS遺伝子を送達するために使用されるAAV血清型に対する中和抗体(Nab)について評価してもよい。そのようなNabは、形質導入効率を妨げ、処置力価を低下し得る。ベースラインの血清Nab力価≦1:5を有するMPS II患者は、rAAV.hIDS遺伝子療法プロトコールでの処置のための良好な候補である。血清Nab>1:5の力価を有するMPS II患者の処置は、rAAV.hIDSベクター送達での処置の前及び/または処置中に、免疫抑制剤を用いた一過性同時処置などの併用療法を必要とする場合がある。必要に応じて、免疫抑制剤併用療法は、AAVベクターキャプシド及び/または製剤の他の成分に対する中和抗体を事前に評価することなく、予防措置として使用してもよい。以前の免疫抑制療法は、特に導入遺伝子産物が「外来」と見なされ得るIDUA活性のレベルが実質的にない患者において、hIDS導入遺伝子産物に対する潜在的な有害な免疫反応を予防するために望ましい場合がある。以下に記載のマウス、イヌ及びNHPでの非臨床的研究の結果は、hIDS及び神経炎症に対する免疫応答の発達と一致する。ヒト対象には同様の反応は起こらないかもしれないが、予防策として、免疫抑制療法がrAAV-hIDSの全てのレシピエントに対して推奨される。
【0090】
そのような併用療法のための免疫抑制剤としては、限定するものではないが、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド(例えば、ラパマイシンまたはラパログ)、及び細胞増殖抑制剤、例としては、アルキル化剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに作用する薬剤が挙げられる。免疫抑制剤としては、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキセート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25-)またはCD3特異的抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤が挙げられる。特定の実施形態において、免疫抑制療法は、遺伝子療法投与の0、1、2、7またはそれ以上の日前に開始され得る。そのような処置は、2つ以上の薬物(例えば、プレドニゾン、ミノフェノレートモフェチル(MMF)及び/またはシロリムス(すなわち、ラパマイシン))を同日に同時投与することを含んでもよい。これらの薬物のうち1つ以上は、遺伝子治療投与後、同じ用量または調整された用量で継続されてもよい。このような治療は、必要に応じて、約1週間(7日間)、約60日間、またはそれ以上長くてもよい。特定の実施形態では、タクロリムスを含まないレジメンが選択される。
【0091】
特定の実施形態では、以下の特徴の1つ以上を有する患者は、その介護医の裁量で処置から除外され得る:
・研究者または医療監視者のいずれかの意見で研究結果の解釈を混乱させる可能性がある、MPS IIに起因しない神経認知障害を有する
・治験責任医師の意見で、対象に過度のリスクを与えるか、あるいは治験結果の評価または対象の安全性もしくは治験結果の解釈を妨げるような状態(例えば、病歴、現在の病気の証拠、身体診察時の所見、または臨床検査値の異常など)を有する
・精神神経症状の診断
・蛍光透視撮影に対する禁忌を含む、くも膜下腔内/頭蓋内処置投与に対する禁忌を有する
・MRIに対する禁忌を有する
・登録時に急性水頭症を有する
・スクリーニングの前4週間以内またはその臨床試験で使用された治験薬の5半減期以内のいずれか長い方で治験薬を使用する他の臨床試験に現在登録されている
・造血幹細胞移植(HSCT)を受けている
・スクリーニング前の6ヶ月以内にくも膜下腔内投与によりイデュルスルファーゼを投与されている
・くも膜下腔内イデュルスルファーゼをいつでも受けており、治験責任医師及び/または医療監視者の意見では、対象に過度のリスクを与える、くも膜下腔内投与に関連して重大な副作用(AE)が認められた。
【0092】
他の実施形態では、介護の医師は、これらの身体的特徴(病歴)のうちの1つ以上の存在が、本明細書で提供される処置を排除すべきではないと決定する場合もある。
【0093】
5.2.2.投薬量及び投与様式
患者への投与に適した薬学的組成物は、生理学的に適合する水性緩衝液、サーファクタント及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDSベクターの懸濁液を含む。特定の実施形態において、本明細書に記載の薬学的組成物は、くも膜下腔内に投与される。他の実施形態において、本明細書に記載の薬学的組成物は、大槽内に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、静脈内投与される。特定の実施形態では、この薬学的組成物は、末梢静脈を介して20分(±5分)にわたる注入によって送達される。しかし、この時間は、必要に応じてまたは所望の場合調整されてもよい。しかし、さらに別の投与経路を選択してもよい。代替的または追加的に、所望であれば、投与経路を組み合わせてもよい。
【0094】
rAAVの単回投与が有効であると予想されるが、投与は繰り返してもよい(例えば、四半期ごと、年に2回、毎年、またはその他の必要な場合、特に新生児の処置において)。必要に応じて、治療上有効な量の最初の用量は、注入/注射を許容する対象の年齢及び能力を考慮して、分割注入/注射期間にわたって送達され得る。しかし、完全な治療用量の毎週の注射を繰り返す必要はなく、患者に快適性及び治療転帰の両方に関して利点がもたらされる。
【0095】
いくつかの実施形態では、rAAV懸濁液は、少なくとも1.0×1013GC/mLのrAAVゲノムコピー(GC)力価を有する。特定の実施形態では、rAAV懸濁液中のrAAVの空/完全粒子比は0.01~0.05(95%~99%は空のキャプシドがない)である。いくつかの実施形態において、それを必要とするMPS II患者は、少なくとも約4×10GC/g脳質量~約4×1011GC/g脳質量というrAAV懸濁液の用量を投与される。
【0096】
示された年齢群のMPS II患者には、以下の治療上有効なrAAV.hIDSのフラット用量が投与され得る:
・新生児:約3.8×1012~約1.9×1014GC;
・3~9ヶ月:約6×1012~約3×1014GC;
・9~36ヶ月:約1013~約5×1014GC;
・3~12年:約1.2×1013~約6×1014GC;
・12+歳:約1.4×1013~約7.0×1014GC;
・18+歳(成人):約1.4×1013~約7.0×1014GC。
【0097】
いくつかの実施形態において、12+歳の年齢のMPS II患者(18+歳の年齢を含む)に投与される用量は、1.4×1013のゲノムコピー(GC)(1.1×1010GC/g脳質量)である。いくつかの実施形態では、12歳+のMPS II患者(18歳+の年齢を含む)に投与される用量は、7×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)である。なおさらなる実施形態において、MPS II患者に投与される用量は、少なくとも約4×10GC/g脳質量~約4×1011GC/g脳質量である。特定の実施形態において、MPS II新生児に投与される用量は、約1.4×1011~約1.4×1014GCの範囲であり;乳児3~9ヶ月に投与される用量は、約2.4×1011~約2.4×1014GCの範囲であり;MPS II小児9~36ヶ月に投与される用量は:約4×1011~約4×1014GCの範囲であり;3~12歳のMPS
II小児に投与される用量は:約4.8×1011~約4.8×1014GCの範囲であり;小児及び12+歳の成人に投与される用量は、約5.6×1011~約5.6×1014GCの範囲である。
【0098】
これらの用量及び濃度の送達に適した容積は、当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの容積を選択してもよく、大容積のものは大人用に選択される。典型的には、新生児の場合、適切な容積は約0.5mLから約10mLであり、高齢の乳児では約0.5mLから約15mLが選択されてもよい。幼児に関しては、約0.5mL~約20mLの容積を選択してもよい。小児の場合、約30mLまでの容積を選択してもよい。10代前半及び10代では、最大約50mLまでの容積を選択してもよい。さらに他の実施形態では、患者は、約5mL~約15mLの容積、または約7.5mL~約10mLの容積を選択されて、くも膜下腔内投与を投与されてもよい。他の適切な容積及び用量を決定してもよい。投与量は、任意の副作用に対する治療効果のバランスを取るように調整され、そのような投与量は、組換えベクターが使用される治療用途に応じて変化し得る。
【0099】
5.2.3.有効性のモニタリング
本明細書に記載の処置の有効性は、(a)MPS II(ハンター症候群)患者における神経認知低下の予防;及び(b)CSF、血清及び/または尿中の、及び/または肝臓及び脾臓容積中のGAGレベル及び/または酵素活性などの疾患のバイオマーカーの減少を評価することによって測定され得る。神経認知は、例えば、Bayley’s Infantile Development Scale for Hurlerによって測定した場合、またはWechsler Abbreviated Scale of Intelligence(WASI)for Hurler-Scheie subjectによって測定した場合、知能指数(IQ)を測定することによって決定され得る。他の適切な神経認知発達及び機能の尺度、例えばBayley Scale of Infant Development(BSID-III)を用いた発達指数(DQ)の評価、Hopkins Verbal Learning Test(言語学習試験)を用いた記憶の評価、及び/またはTests of Variables of Attention(注意変数の試験)(TOVA)を用いた評価が利用されてもよい。他の神経心理学的機能、例えば、vineland適応行動スケール、視覚処理、微細運動、コミュニケーション、社会化、日常生活の技能、ならびに情動及び行動的健康がモニターされる。容量測定、拡散テンソル画像(DTI)、及び静止状態データ、超音波検査による正中神経断面積、脊髄圧迫の改善、安全性、肝臓サイズ及び脾臓サイズを獲得するための脳の磁気共鳴イメージング(MRI)も施される。
【0100】
必要に応じて、有効性の他の尺度としては、バイオマーカー(例えば、本明細書に記載のポリアミン)及び臨床転帰の評価が挙げられる。尿は、総GAG含有量、クレアチニンに対するGAGの濃度、ならびにMPS II特異的pGAGについて評価される。IDS活性、抗IDS抗体、pGAG、及びヘパリン補因子II-トロンビン複合体の濃度及
び炎症のマーカーについて、血清及び/または血漿を評価する。CSFは、IDUA活性、抗IDS抗体、ヘキソサミニダーゼ(hex)活性、及びpGAG(ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸など)について評価される。ベクターに対する中和抗体(例えば、AAV9)の存在及び抗IDS抗体に対する結合抗体の存在は、CSF及び血清中で評価され得る。ベクターキャプシド(例えば、AAV9)またはhIDS導入遺伝子産物に対するT細胞応答は、ELISPOTアッセイによって評価され得る。CSF、血清、及び尿中のIDS発現の薬物動態、ならびにベクター濃度(PCR対AAV9 DNA)もモニターしてもよい。
【0101】
hIDSの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子治療送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、ERT(例えば、Elaprase(登録商標)(イデュルスルファーゼ)を用いる)、または肝臓の指向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8キャプシドを有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子治療を用いて達成してもよい。
【0102】
全身送達に関連するさらなる臨床的有効性の尺度としては、例えば骨塩密度、骨ミネラル含有量、骨の幾何学的形状及び強度、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)によって測定される骨密度などの整形外科的測定値;高さ(立っている高さ/横になっている長さのZスコア);骨代謝のマーカー:血清オステオカルシン(OCN)及び骨特異的アルカリホスファターゼ(BSAP)の測定値、I型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチド(ICTP)及びI型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチドα1鎖(CTX)の測定;柔軟性及び筋力:Biodex及びPhysical Therapyの評価(6分間の歩行研究を含む)(Biodex III等速性強度試験システムは、各参加者の膝及び肘の強度を評価するために使用される);Active Joint Range of Motion(ROM);Child Health Assessment Questionnaire/Health Assessment Questionnaire(CHAQ/HAQ)Disability Index Score;Electromyographic(EMG)及び/またはOxygen Utilization to Monitor an individual’s cardiorespiratory fitness:運動試験の間の最大酸素摂取(VOピーク);無呼吸/呼吸低下指数(AHI);Forced Vital Capacity(FVC);左心室重量(LVM)が挙げられる。
【0103】
特定の実施形態では、患者におけるMPS IIの診断及び/または処置方法、または処置のモニタリング方法が提供される。この方法は、MPS IIを有すると疑われるヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を得ること;試料中のスペルミン濃度レベルを検出すること;1ng/mLを超えるスペルミン濃度を有する患者のMPS IIから選択されるムコ多糖症を有する患者を診断すること;及び本明細書に提供される診断された患者に有効量のヒトIDSを送達することを包含する。
【0104】
別の態様では、この方法は、MPS II療法をモニタリング及び調整することを包含する。
【0105】
そのような方法は、MPS IIの処置を受けているヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を得ること;質量スペクトル分析を行うことによって試料中のスペルミン濃度レベルを検出すること;MPS II治療剤の投与量を調節することを包含する。例えば、「正常な」ヒトスペルミン濃度は、脳脊髄液において約1ng/mL~2ng/mL以下である。しかし、未処置のMPS IIを有する患者は、2ng/mLより大きく最大約100ng/mLまでのスペルミン濃度レベルを有し得る。患者のレベルが正常レベルに近づいている場合、いずれかの対の一方の投与量を減らしてもよい。逆に、患者が所望のMP
S IIレベルよりも高いレベルを有する場合、より高い用量、または追加の治療、例えばERTを患者に提供してもよい。
【0106】
スペルミン濃度は、適切なアッセイを用いて決定され得る。例えば、以下で記載されるアッセイ、J Sanchez-Lopez et al.、「Underivatives polyamine analysis is plant samples by ion pair liquid chromatography coupled
with electrospray tandem mass spectrometry」Plant Physiology and Biochemistry、47(2009):592-598、avail online 28 Feb 2009;MR Hakkinen et al.、「Analysis of underivatized polyamines by reversed phase liquid chromatography with electrospray tandem mass spectrometry」J Pharm Biomec Analysis、44(2007):625-634、定量同位体希釈液体クロマトグラフィー(LC)/質量分析(MS)アッセイ。他の適切なアッセイを使用してもよい。
【0107】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、早期神経認知障害を有するMPS IIを有する小児対象において、投与後52週目の神経認知を評価することによって決定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPS II患者におけるCSFグリコサミノグリカン(GAG)と神経認知との関係を評価することによって決定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、磁気共鳴映像法(MRI)によって測定されるMPS II患者におけるCNSへの物理的変化に対する治療剤の効果を評価すること、例えば、灰白質物質及びCSF脳室の容積分析によって決定される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPS II患者の脳脊髄液(CSF)、血清及び尿中のバイオマーカー(例えば、GAG、HS)に対する治療剤の薬力学的効果を評価することによって決定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPS II患者のQOL(Quality of Life)に対する治療剤の影響を評価することによって決定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPS
II患者の運動機能に対する治療剤の影響を評価することによって決定される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSII患者の成長及び発達のマイルストーンに対する治療剤の効果を評価することによって決定される。
【0108】
本明細書に記載のrAAVベクターから発現される場合、CSF、血清または他の組織で検出される少なくとも約2%のhIDSの発現レベルは、治療効果を提供し得る。しかし、より高い発現レベルが達成される場合がある。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDSレベルの2%~約100%である場合がある。特定の実施形態では、正常より高い発現レベルが、CSF、血清、または他の組織において検出され得る。
【0109】
特定の実施形態では、本明細書に記載のMPS II及び/またはその症状を処置、予防、及び/または改善する方法は、Bayley Scales of InfantDevelopmentを用いて評価した、処置患者における神経認知発達指数(DQ)の有意な増大をもたらす。特定の実施形態では、本明細書に記載のMPS II及び/またはその症状を処置、予防、及び/または改善する方法では、ハンター症候群の患者における未処置/自然な病歴管理データに対して処置した患者における15ポイント以下のDQの低下が、生じる。
【0110】
特定の実施形態では、本明細書に記載のMPS II及び/またはその症状を処置、予防、及び/または改善する方法は、機能的なヒトIDSレベルの有意な増大をもたらす。
特定の実施形態では、本明細書に記載されるMPS II及び/またはその症状を処置、予防、及び/または改善する方法は、患者の血清、尿及び/または脳脊髄液(CSF)の試料において測定される、GAGレベルの有意な低下をもたらす。
【0111】
5.3.併用療法
hIDSの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDSの遺伝子治療送達の組み合わせは、本発明の特定の実施形態によって包含される。全身送達は、ERT(例えば、Elaprase(登録商標)を用いて)、または肝指向性を有するrAAV.hIDS(例えば、AAV8キャプシドを保有するrAAV.hIDS)を用いるさらなる遺伝子治療を用いて達成してもよい。
【0112】
特定の実施形態では、rAAV9.hIDSのくも膜下腔内投与は、例えば、肝臓に対する第2のAAV.hIDS注射と同時投与される。そのような場合、ベクターは同じであってもよい。例えば、ベクターは、同じキャプシドを有してもよいし、及び/または同じベクターゲノム配列を有してもよい。あるいは、ベクターは異なっていてもよい。例えば、ベクターストックのそれぞれは、肝臓特異的プロモーター及びCNS特異的プロモーターなどの異なる調節配列(例えば、それぞれ異なる組織特異的プロモーターを有する)でデザインしてもよい。さらに、または代替的に、ベクターストックのそれぞれは、異なるキャプシドを有してもよい。例えば、肝臓に指向されるベクターストックは、とりわけ、AAV8、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8、rh10、AAV3BまたはAAVdjから選択されるキャプシドを有し得る。そのようなレジメンでは、各ベクターストックの用量は、くも膜下腔内に送達される全ベクターが、約1×10GC~1×1014GCの範囲内になるように調節してもよく;他の実施形態では、両方の経路によって送達される組み合わされたベクターは、1×1011GC~1×1016GCの範囲内である。あるいは、各ベクターは、約10GC~約1012GC/ベクターの量で送達されてもよい。そのような用量は、実質的に同時に、または異なる時間、例えば約1日~約12週間、または約3日~約30日、または他の適切な時間で送達されてもよい。
【0113】
いくつかの実施形態では、処置方法は、以下を包含する:(a)導入遺伝子特異的寛容を誘導するのに十分な量のhIDS酵素または肝臓特異的rAAV-hIDUAを、MPS II及び/またはハンター症候群症状を有する患者に投与すること;ならびに(b)患者のCNSにrAAV.hIDSを投与することであって、rAAV.hIDSが患者の治療レベルのhIDSの発現を指示すること。
【0114】
さらなる実施形態では、MPS II及び/またはハンター症候群に関連する症状を有するヒト患者を処置する方法が提供され、この方法は、十分な量のhIDS酵素または肝指向性rAAV-hIDSを用いて、MPS II及び/またはハンター症候群に関連する症状を有する患者を寛容化して導入遺伝子特異的寛容を誘導し、続いて患者にhIDSのrAAV媒介性送達することを包含する。特定の実施形態では、患者に、hIDSへの患者の寛容化のために、例えば、患者が4週齢未満(新生児期)または幼児である場合に、肝指向性注射によって、rAAV.hIDSを投与し、引き続いて、その患者が乳児、小児及び/または成人である場合、くも膜下腔内注射によってrAAV.hIDSを投与してCNSにおいて治療濃度のhIDSを発現する。
【0115】
一実施例では、MPS II患者は、患者に生後2週間以内で、例えば、約0~約14日、または約1日~12日、または約3日~約10日、または約5日~約8日以内で、すなわち患者が新生児である患者にhIDSを送達することによって寛容化される。他の実施形態では、より年齢が上の乳児を選択してもよい。hIDSの寛容化用量は、rAAVを介して送達され得る。しかし、別の実施形態では、用量は、酵素の直接送達(酵素補充
療法)によって送達される。組換えhIDSを産生する方法は、文献に記載されている。
【0116】
さらに、Elaprase(登録商標)(イデュルスルファーゼ)として商業的に産生された組換えhIDSは、全身送達に有用であり得る。現時点ではあまり好ましくはないが、酵素は、「裸の」DNA、RNA、または別の適切なベクターを介して送達され得る。一実施形態では、酵素は、患者に、静脈内及び/またはくも膜下腔内に送達される。別の実施形態では、別の投与経路(例えば、筋肉内、皮下など)が使用される。一実施形態では、寛容化のために選択されたMPS II患者は、寛容化用量の開始前に検出可能な量のhIDSは発現し得ない。組換えヒトIDS酵素が送達される場合、静脈内rhIDS注射は、約0.5mg/kg体重からなる場合がある。あるいは、より高い用量またはより低い用量が選択される。同様に、ベクターから発現される場合、より低い発現タンパク質レベルが送達され得る。一実施形態では、寛容化のために送達されるhIDSの量は、治療上有効な量よりも低い。しかし、他の用量を選択してもよい。
【0117】
典型的には、寛容化用量の投与後、治療用量は、例えば、寛容化投与後約3日~約6ヶ月、より好ましくは寛容化投与後約7日~約1ヶ月以内に対象に送達される。しかし、これらの範囲内の他の時点を選択してもよく、より長い待機期間またはより短い待機期間も選択してもよい。
【0118】
代替として、ベクターに加えて、ベクター投与の前、最中及び/または後に免疫抑制療法を施してもよい。免疫抑制療法は、上記のように、プレドニゾロン、ミコフェノレートモフェチル(MMF)及びタクロリムスまたはシロリムスを含んでもよい。以下に記載するタクロリムスを含まないレジメンが好ましい場合がある。
【0119】
5.4.製造
一実施形態は、本明細書に記載のrAAV.hIDS薬学的組成物の製造を提供する(下記の実施例4)。例示的な製造プロセスを、図10A及び図10Bに示す。rAAV.hIDSベクターは、図10A及び図10Bに示すフロー図に示すように製造してもよい。要するに、細胞は、適切な細胞培養物(例えば、HEK 293)細胞中で製造される。本明細書に記載の遺伝子治療ベクターを製造する方法としては、遺伝子治療ベクターの製造に使用されるプラスミドDNAの生成、ベクターの生成、及びベクターの精製などの当該分野で周知の方法が挙げられる。いくつかの実施形態では、遺伝子治療ベクターは、AAVベクターであり、生成されるプラスミドは、AAVゲノム及び目的の遺伝子をコードするAAVシスプラスミド、AAV rep及びcap遺伝子を含むAAVトランスプラスミド、ならびにアデノウイルスヘルパープラスミドである。ベクター生成プロセスは、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAによる細胞のトランスフェクション、無血清培地へのトランスフェクション後の培地交換、ならびにベクター含有細胞及び培養培地の回収などの方法ステップを包含してもよい。収穫されたベクター含有細胞及び培養培地は、本明細書において粗細胞収穫物と呼ばれる。
【0120】
その後、この粗細胞収穫物は、ベクター収穫物の濃縮、ベクター収穫物のダイアフィルトレーション、ベクター収穫物のマイクロ流動化、ベクター収穫物のヌクレアーゼ消化、マイクロ流動化中間体の濾過、クロマトグラフィーによる粗精製、超遠心分離による粗精製、タンジェンシャルフロー濾過による緩衝液交換、及び/またはバルクベクターを調製するための製剤及び濾過などの方法ステップに供され得る。
【0121】
高塩濃度での2段階アフィニティークロマトグラフィー精製、続いて陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いて、ベクター医薬品を精製し、空のキャプシドを除去する。これらの方法は、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065970号及びその優先権書類、2016年4月13日に出願された米国特許出願
第62/322,071号及び本明細書において参照によって組み込まれる、2015年12月11日に出願され、「Scalable Purification Method for AAV9」という題の62/226,357号にさらに詳細に記載されている。2016年12月9日に出願されたAAV8の精製方法の国際特許出願第PCT/US2016/065976、及び2016年4月13日出願のその優先権書類、米国特許出願第62/322,098号及び2015年12月11日出願の62/266,341号、及びrh10、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US16/66013及びその優先権書類、2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,055号、及び「Scalable Purification Method for AAVrh10」と題された62/266,347号(これも2015年12月11日出願)、並びにAAV1については、2016年12月9日出願の、国際特許出願第PCT/US2016/065974号及び2016年4月13日出願の、その優先権書類である米国特許出願第62/322,083号、及び2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAV1」に関する第62/26,351号は、参照により全てが本明細書に組み込まれる。
【0122】
5.5.脳脊髄液への薬学的組成物の送達のための装置及び方法
一態様では、本明細書で提供されるベクターは、このセクションで提供される方法及び/またはデバイスを介してくも膜下腔内投与されてもよく、実施例及び図11にさらに記載されている。あるいは、他のデバイス及び方法が選択されてもよい。この方法は、脊髄針を患者の大槽内に前進させ、ある長さの可撓性チューブを脊髄針の近位ハブに接続し、バルブの出力ポートをこの可撓性チューブの近位端に接続するステップと、前記前進及び接続ステップの後、ならびにチューブに患者の脳脊髄液を自己プライミングさせた後、一定量の等張溶液を含む第1の容器をバルブのフラッシュ入口ポートに接続し、その後、ある量の薬学的組成物を含む第2の容器をバルブのベクター入口ポートに接続するステップとを包含する。第1及び第2の容器をバルブに接続した後、流体流のための通路がバルブのベクター入口ポートと出口ポートとの間に開かれ、薬学的組成物が脊髄針を通して患者に注射され、その薬学的組成物が注射された後、流体の流路がバルブのフラッシュ入口ポート及び出口ポートを介して開かれ、等張溶液が脊髄針に注射されて薬学的組成物を患者にフラッシュする。
【0123】
別の態様では、薬学的組成物の槽内送達のためのデバイスが提供される。このデバイスは、ある量の薬学的組成物を含む第1の容器、等張溶液を含む第2の容器、及び患者の大槽内の脳脊髄液中に薬学的組成物をこのデバイスから直接放出し得る脊髄針を備える。このデバイスはさらに、第1の容器に相互接続された第1の入口ポート、第2の容器に相互接続された第2の入口ポート、脊髄針に相互接続された出口ポート、及び脊髄針を通して薬学的組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロックを有するバルブ備える。
【0124】
本明細書で使用される場合、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography)(CT)という用語は、身体構造の3次元画像が、軸に沿って作られた一連の平面断面画像からコンピュータによって構築される、ラジオグラフィーを指す。
【0125】
図11に示す装置または医療デバイス10は、バルブ16を介して相互接続された1つ以上の容器12及び14を備える。容器12及び14は、薬学的組成物、薬物、ベクターなどの物質の新鮮な供給源、ならびに生理食塩水のような等張溶液の新鮮な供給源をそれぞれ提供する。容器12及び14は、患者への流体の注射を可能にする任意の形態の医療デバイスであってもよい。
【0126】
一例として、各容器12及び14は、シリンジ、カニューレなどの形態で提供されても
よい。例えば、図示された実施形態では、容器12は、ある量の薬学的組成物を含有する別個のシリンジとして提供され、本明細書では「ベクターシリンジ」と呼ばれる。単なる例にすぎないが、容器12は、約10ccの薬学的組成物などを含んでもよい。
【0127】
同様に、容器14は、ある量の生理食塩水を含む別個のシリンジ、カニューレなどの形態で提供されてもよく、「フラッシュシリンジ」と呼ばれてもよい。単に例として、容器14は約10ccの生理食塩水を含んでもよい。
【0128】
代替的に、容器12及び14は、シリンジ以外の形態で提供されてもよく、1つが薬学的組成物用及び1つが生理食塩水用の1対の別個のチャンバを有する一体化された医療用注射デバイスなどの単一のデバイスに統合されてもよい。また、チャンバまたは容器のサイズは、所望の量の流体を含むように必要に応じて提供されてもよい。
【0129】
図示された実施形態では、バルブ16は、スイベルオスルアーロック18を有する4方向ストップコックとして設けられている。バルブ16は、容器12及び14(すなわち、図示の実施形態ではベクターシリンジ及びフラッシュシリンジ)、及び、バルブ16を通る経路が、それぞれの容器12及び14に対して閉鎖または開放されることを可能にするスイベルオスルアーロックを相互接続する。このようにして、バルブ16を通る経路は、ベクターシリンジ及びフラッシュシリンジの両方に対して閉じられる場合があるし、またはベクターシリンジ及びフラッシュシリンジのうちの選択されたものに対して開放される場合もある。4方向ストップコックの代替として、バルブは3方向ストップコックであっても、または流体制御デバイスであってもよい。
【0130】
図示された実施形態では、バルブ16は、流体のための延長管20または同様の導管のある長さの一端に接続される。チューブ20は、所望の長さまたは内部容積に基づいて選択されてもよい。単なる例であるが、チューブは約6~7インチの長さであってもよい。
【0131】
例示の実施形態では、チューブ12の反対側の端部22は、T字型コネクタ延長セット24に接続され、次に脊髄針26に接続される。一例として、針26は、5インチの22または25ゲージの脊髄針であってもよい。加えて、オプションとして、脊髄針26は、3.5インチの18ゲージ導入針などの導入針28に接続してもよい。
【0132】
使用中、脊髄針26及び/または任意の導入針28は、大槽に向かって患者の中に前進されてもよい。針の前進の後、針26及び/または28ならびに関連軟部組織(例えば、傍脊髄筋、骨、脳幹、及び脊髄)の視覚化を可能にするコンピュータ断層撮影(CT)画像を得てもよい。正確な針の配置は、針ハブ内の脳脊髄液(CSF)の観察及び大槽内の針先の視覚化によって確認される。その後、比較的短い延長管20を挿入された脊柱針26に取り付けてもよく、次いで4方向ストップコック16をチューブ20の反対側の端部に取り付けてもよい。
【0133】
上記のアセンブリは、患者のCSFと共に「自己プライミング」になることが可能である。その後、プレフィルド生理食塩水フラッシュシリンジ14が、4方向ストップコック16のフラッシュ入口ポートに取り付けられ、次いで薬学的組成物を含むベクターシリンジ12が4方向ストップコック16のベクター入口に取り付けられる。その後、ストップコック16の出力ポートは、ベクターシリンジ12に対して開放され、ベクターシリンジの内容物は、バルブ16及びアセンブルされた装置を通じてゆっくりと一定時間にわたって患者に注射される。単なる例であるが、この期間は、約1~2分及び/または任意の他の所望の時間であってもよい。
【0134】
ベクターシリンジ12の内容物が注射された後、取り付けられたプレフィルドフラッシ
ュシリンジ14を用いてストップコック16及び針アセンブリが所望の量の生理食塩水でフラッシュされ得るように、ストップコック16のスイベルロック18が第2の位置に回される。単なる例であるが、1~2ccの生理食塩水を使用してもよい;しかし必要に応じて多い量を使用する場合も、少ない量を使用する場合もある。生理食塩水は、薬学的組成物の全てまたは大部分を、アセンブルされたデバイスを通って患者に強制的に注射して、アセンブルされたデバイス内に薬学的組成物が殆どまたは全く残らないようにする。
【0135】
アセンブルされた装置が生理食塩水で洗い流された後、針(複数可)、延長管、ストップコック、及びシリンジを含むその全体がアセンブルされたデバイスを、対象からゆっくりと取り除いて、バイオハザードの廃棄物レセプタクルまたは硬い容器(針(複数可)の場合)への廃棄のために外科用トレイに置く。
【0136】
スクリーニングプロセスは、治験責任医師によって行われてもよく、これは最終的に大槽内(IC)処置に至る場合もある。治験責任医師は、対象(または指定された介護者)に十分な情報を提供するために、プロセス、手順、管理手順そのもの、及び全ての潜在的な安全リスクを記述し得る。IC処置の対象適格性のスクリーニング評価に使用するために、病歴、併用薬、身体検査、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び検査室検査結果が得られ、実行され、神経放射線科医、神経外科医及び麻酔科医に提供される。
【0137】
適格性を審査するのに十分な時間を確保するために、最初のスクリーニング訪問と研究訪問の1週間前までとの間に、以下の手順をいつでも実施してもよい。例えば、「0日目」では、ガドリニウムの有無での頭部/頸部磁気共鳴映像法(MRI)(すなわち、eGFR>30mL/分/1.73m)を得てもよい。研究者は、頭部/頸部MRIに加えて、屈曲/伸長試験によって頚部のさらなる評価の必要性を判定し得る。MRIプロトコールは、T1、T2、DTI、FLAIR、及びCINEプロトコール画像を含んでもよい。
【0138】
さらに、頭部/頸部のMRA/MRVは、CSFの適切な評価、及びCSF空間の間の連絡の可能性のある遮断または欠如の識別を可能にする、施設内プロトコール(すなわち、硬膜内手術/経硬膜手術の履歴を有する対象が除外される場合もあるし、またはさらなる試験(例えば、放射性ヌクレオチドの大槽造影法)を必要とする場合もある)にしたがって得てもよい。
【0139】
神経放射線科医、神経外科医、及び麻酔科医は最終的に利用可能な全ての情報(スキャン、病歴、身体検査、検査値など)に基づいてIC手順の各対象の適格性について考察し、決定する。麻酔の術前評価は、「第-28日」から「第1日」まで得られてもよく、ここでは、MPS対象の特別な生理的必要性を念頭に置いて、気道、頸部(短縮/肥厚)及び頭部動作範囲(頸部屈曲)の詳細な評価を得る。
【0140】
IC手技に先立って、CT室は以下の機器及び医薬が存在することを確認する:
成人の腰椎穿刺(LP)キット(施設ごとに提供);
BD(Becton Dickinson)22または25ゲージ×3-7インチの脊髄針(Quincke bevel);
インターベンション医師の裁量で使用される同軸導入針(脊髄針の導入用);
スイベル(スピン)オスルアーロック付き4方向小口径ストップコック;
メスルアーロックアダプター付きのTコネクタ延長セット(チューブ)、およその長さ6.7インチ;
くも膜下腔内投与のためのOmnipaque 180(イオヘキソール);
静脈内(IV)投与のためのヨード化造影剤;
1%リドカイン注射液(成人用LPキットに含まれていない場合);
プレフィルド10ccの生理食塩水(無菌)フラッシュシリンジ;
放射線不透過性マーカー(複数可);
外科用準備器具/シェービング用かみそり;
挿管された対象の適切な位置決めを可能にする枕/支持具;
気管内挿管器具、全身麻酔機及び機械的人工呼吸器;
術中神経生理学的モニタリング(IONM)装置(及び要員);ならびに
ベクター含有の10ccシリンジ;別の薬局マニュアルに従って準備して、CT/手術室(OR)室に移送する。
【0141】
この処置のインフォームドコンセントは、医療記録及び/または研究ファイル内で確認され、文書化される。放射線科医及び麻酔科医による処置に関する別個の同意は、施設の要件に従って得る。対象は、施設ガイドライン(例えば、2つのIVアクセスサイト)に従って適切な病院ケアユニット内に静脈内アクセスを行う。静脈内の液体は、麻酔科医の裁量で投与される。麻酔科医及び施設ガイドラインの裁量により、対象は、適切な患者ケアユニット、保持領域または外科/CT処置室において、全身麻酔の投与によって誘導され、気管内挿管を受けてもよい。
【0142】
腰椎穿刺を行い、最初に脳脊髄液(CSF)を5cc除去し、その後、くも膜下腔内に造影剤(Omnipaque 180)を注射して大槽の視覚化を助ける。大槽内への造影剤の拡散を容易にするために、適切な対象の位置決め操作を行ってもよい。
【0143】
術中神経生理学的モニタリング(IONM)装置を対象に取り付ける。対象は、腹臥位または側臥位でCTスキャナテーブル上に置かれる。適切なスタッフが、移送中及び配置中の対象の安全を確保するために存在しなければならない。適切と考えられる場合、対象は、術前評価中に安全と判断された程度まで首の屈曲をもたらし、位置決め後に証明された正常な神経生理学的モニター信号があるような方式で位置決めされ得る。
【0144】
以下のスタッフがいることが確認され、その場で確認される場合がある:インターベンション医師/神経外科医が以下の手順を実行する;麻酔科医及び呼吸技師(複数可);看護師及び医師のアシスタント;CT(またはOR)技術者;神経生理学技術者;及びサイトコーディネーター。「タイムアウト」は、共同委員会/病院のプロトコールごとに完了して、正しい対象、手順、場所、位置決め、及び部屋の全ての必要な機器の存在を確認する場合がある。次いで、現場治験責任者は、スタッフと一緒に、その対象を準備し得ることを確認し得る。
【0145】
頭蓋骨基部の下の対象の皮膚を適宜剃毛する。CTスカウト画像を実行し、続いて、標的位置を定位させ、血管系を画像化するためにインターベンション医師が必要と考える場合、IV造影剤を用いた処置前の計画CTが続く。標的部位(大槽)が同定され、針の軌道が計画された後、皮膚は、施設ガイドラインに従って無菌技術を用いて準備して、ドレープする。放射線不透過性マーカーを、インターベンション医師によって指示された標的皮膚位置に配置する。マーカーの下の皮膚を1%リドカインによる浸潤により麻酔する。22Gまたは25Gの脊髄針は、同軸導入針を使用するオプションで、大槽に向かって前進される。
【0146】
ニードルの前進後、CT画像は、施設の設備(理想的には≦2.5mm)を使用して実現可能な最も薄いCTスライス厚さを用いて得られる。針及び関連する軟部組織(例えば、傍脊椎筋、骨、脳幹及び脊髄)の適切な視覚化を可能にするできる限り低い放射線線量を使用する連続CT画像を得る。正確な針の配置は、針ハブ内のCSFの観察及び大槽内の針先の可視化によって確認される。
【0147】
インターベンション医師は、ベクターシリンジが、滅菌野の近くにあるが、滅菌野の外に位置していることを確認する。ベクターシリンジ内で薬学的組成物を取り扱うか、または投与する前に、手袋、マスク、及び目の保護は、滅菌野内で手技を支援するスタッフによって行われる。
【0148】
延長チューブは、挿入された脊髄針に取り付けられ、その後、4方向ストップコックに取り付けられる。一旦、この装置が対象のCSFに「自己プライミング」されると、10ccのプレフィルド生理食塩水フラッシュシリンジが4方向ストップコックのフラッシュ入口ポートに取り付けられる。次いで、ベクターシリンジはインターベンション医師に提供され、4方向ストップコックのベクター入口ポートに取り付けられる。
【0149】
ストップコックのスイベルロックを第1の位置に配置することにより、ストップコックの出口ポートをベクターシリンジに開放した後、注射中にシリンジのプランジャーに過剰な力を加えないように注意深く、ベクターシリンジの内容物をゆっくりと(約1~2分にわたって)注射する。ベクターシリンジの内容物が注射された後、ストップコックのスイベルロックが第2の位置に回されるので、取り付けられたプレフィルドフラッシュシリンジを用いて、1~2ccの生理食塩水でストップコック及び針アセンブリをフラッシュし得る。
【0150】
準備ができたら、インターベンション医師は、対象から装置を取り外すことをスタッフに警告する。一回の動きで、針、拡張管、ストップコック、及びシリンジを対象からゆっくりと取り外し、バイオハザード廃棄レセプタクルまたは硬い容器(針用)に廃棄するために外科用トレイに置く。
【0151】
針挿入部位を出血またはCSF漏出の徴候について検査し、研究者の指示に従って処置する。サイトは、示されているように、ガーゼ、外科用テープ及び/またはTegaderm包帯を使用して手当する。次いで、対象をCTスキャナから出させて、ストレッチャー上に仰臥位で置く。適切なスタッフが、移送中及び配置中の対象の安全を確保するために存在する。
【0152】
麻酔を中止して、対象は麻酔後のケアのための施設のガイドラインに従ってケアする。神経生理学的モニターは対象から除かれる。対象が横たわるストレッチャーの頭部は、回復中にわずかに(約30度)持ち上げるべきである。対象は、施設ガイドラインに従って適切な麻酔後ケアユニットに移送される。対象は意識を十分に回復し、安定した状態になった後、プロトコールが命じるアセスメントのために適切なフロア/ユニットに収容される。プロトコールに従って神経学的評価が行われ、治験責任者は病院及び研究のスタッフと協力して対象のケアを監督する。
【0153】
一実施形態では、本明細書で提供される組成物の送達方法は、以下のステップを包含する:患者の大槽内に脊髄針を前進させるステップと;可撓性チューブの長さを脊髄針の近位ハブに接続し、バルブの出力ポートを可撓性チューブの近位端に接続するステップと;この全身及び接続ステップの後、ならびにこのチューブが患者の脳脊髄液を自己プライミングすることを可能にした後、一定量の等張溶液を含む第1の容器をバルブのフラッシュ入口ポートに接続し、その後、一定量の薬学的組成物を含む第2の容器を、バルブのベクター入口ポートへ接続するステップと;上記第1及び第2の容器を上記バルブに接続した後、上記バルブの上記ベクター入口ポートと上記出口ポートとの間の流体流路を開き、上記脊髄針を通して上記薬学的組成物を上記患者に注射するステップと;薬学的組成物を注射した後、バルブのフラッシュ入口ポート及び出口ポートを通る流体流のための通路を開き、そして脊髄針に等張溶液を注射して、薬学的組成物を患者にフラッシュするステップ。特定の実施形態では、本方法は、チューブ及びバルブを脊椎針のハブに接続する前に、
大槽内の脊髄針の遠位先端の適切な配置を確認することをさらに包含する。特定の実施形態では、確認ステップは、コンピュータ断層撮影(CT)画像を用いて大槽内の脊髄針の遠位先端を視覚化することを包含する。特定の実施形態では、この確認するステップは、脊髄針のハブ内の患者の脳脊髄液の存在を観察するステップを包含する。
【0154】
上記の方法において、バルブは、第1の位置に対してスイベルに適合されたスイベルのルアーロックを備えるストップコックであってもよく、ベクター入口ポートから出口ポートへの流れを可能にし、一方で、同時にフラッシュ入口ポートを通る第2の位置への流れを遮断し、フラッシュ入り口ポートから出口ポートへの流れを可能にし、一方で同時にベクター入り口ポートを通る流れをブロックし、ここでスイベルルアーロックが、上記薬学的組成物が患者に注射される時上記第1の位置に配置され、上記薬学的組成物が等張溶液によって上記患者にフラッシュされているとき、上記第2の位置に配置される。特定の実施形態では、等張溶液を脊髄針に注射して薬学的組成物を患者にフラッシュした後、脊髄針を、アセンブリとしてそこに接続されたチューブ、バルブ、ならびに第1及び第2の容器を用いて患者から引き出す。特定の実施形態では、バルブは、スイベルオスルアーロックを備えた4方向ストップコックである。特定の実施形態では、第1及び第2の容器は別々のシリンジである。特定の実施形態では、Tコネクタが、脊髄針のハブに位置し、チューブを脊髄針に相互接続する。必要に応じて、脊髄針は、脊髄針の遠位端に導入針を備える。脊髄針は、5インチ、22または24ゲージの脊髄針であってもよい。特定の実施形態では、導入針は、3.5インチ、18ゲージの導入針である。
【0155】
特定の態様では、この方法は、少なくとも以下から構成されるデバイスを利用する、ある量の薬学的組成物を収容するための第1の容器と;等張溶液を収容するための第2の容器と;薬学的組成物が、患者の大槽内の脳脊髄液中にデバイスから直接放出され得る脊髄針と;第1の容器に相互接続された第1の入口ポート、第2の容器に相互接続された第2の入口ポート、脊髄針に相互接続された出口ポート、及び脊髄を通る薬学的組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロック針を有するバルブと。特定の実施形態では、このバルブは、第一の位置に対してスイベルに適合されたスイベルルアーロックを有するストップコックであり、第1の入口ポートから出口ポートへの流れを可能にする一方、同時に第1の入口ポートを通り、第2の位置への流れを阻止し、第2の位置口ポートから出口ポートへの流れを可能にする一方、同時に第1の入口ポートを通る流れを遮断する。必要に応じて、バルブはスイベルのオスルアーロック付きの4方向ストップコックである。特定の実施形態では、第1及び第2の容器は、別々のシリンジである。特定の実施形態において、脊髄針は、ある長さの可撓性チューブを介してバルブに相互接続される。T字型コネクタは、チューブを脊髄針に相互接続し得る。特定の実施形態では、脊髄針は、5インチ、22または24ゲージの脊髄針である。特定の実施形態では、このデバイスは、脊髄針の遠位端に接続された導入針をさらに備える。必要に応じて、導入針は3.5インチ、18ゲージ導入針である。
【0156】
以下の実施例は、例示的なものに過ぎず、本明細書に記載の本発明を限定するものではない。
【実施例
【0157】
6.実施例
実施例1:ヒト対象の処置のためのプロトコール
この実施例は、MPS II、すなわちハンター症候群を有する患者のための遺伝子治療処置に関する。この例では、野生型hIDS酵素をコードする改変hIDS遺伝子を発現する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)である遺伝子治療ベクターAAV9.CB.hIDSを、MPS II患者の中枢神経系(CNS)に投与する。全身麻酔下で、AAVベクターの用量をCNSに直接注射する。本明細書に記載されているよ
うに、神経認知発達及び/または代用マーカー、例としては、バイオマーカー、例えば、対象のCSFまたは血清中の病原性GAG及び/またはヘパリン硫酸(HS)濃度の低下という臨床尺度を用いて処置の有効性を評価する。
【0158】
A.遺伝子治療ベクター
遺伝子治療ベクターは、ヒトイズロネート-2-スルファターゼ(IDS)を発現する血清型9の非複製組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、この実施例ではAAV9.CB.IDSと称する(図1を参照のこと)。AAV9血清型は、IC投与後のCNSにおけるhIDS産物の効率的な発現を可能にする。
【0159】
IDS発現カセットは、逆方向末端反復(ITR)によって隣接され、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)のハイブリッドによって駆動される。導入遺伝子は、ニワトリベータアクチンイントロン及びウサギベータグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。
【0160】
ベクターを製剤緩衝液(Elliots B Solution、0.001%Pluronic F68)に懸濁する。この構築物をAAV9キャプシドにパッケージし、M.Lock et al.、Human Gene Ther、21:1259-1271(2010)に以前に記載されているように精製して、力価測定した。製造プロセスは、以下の実施例4においてより詳細に記載される。
【0161】
ベクター生成:
一連のベクターを生成した。1つのプラスミドは、コドン最適化IDS配列(配列番号11のnt1177~nt2829)を含む。2つの他のものはCB7プロモーター(CB6)の短いバージョンを使用し、SUMF1と呼ばれる第2のタンパク質を発現した[配列番号7及び配列番号10]。産生されたベクターゲノムAAV.CB7.CI.hIDSco.RBGは、配列番号11のnt2~nt3967の配列を有するが、AAV.CB6.hIDSco.IRES.hSUMF1coは、配列番号8のnt11~nt4964の配列を有する。hIDS配列をコドン最適化及び合成することによってプラスミドを構築し、次いで得られた構築物を、プラスミドpENN.AAV.CB7.CI.RBGまたはpENN.AAV.CB6.CI.RBG、CB7またはCB6を含むAAV2 ITR隣接発現カセット、CI及びRBG発現エレメントにクローニングし、上記ベクターゲノムを得る。
【0162】
天然のヒトIDS cDNAを含むさらに別のプラスミドを作製した;これらのプラスミドは本明細書では、pAAV.CB7.CI.hIDS.RBG及びpAAV.CB6.CI.hIDS.IRES.SUMF1.RBGと称される。これらのプラスミドに由来するベクターゲノム[配列番号3のnt2~nt3967及び配列番号5のnt11~nt4964]は、hIDS発現カセットに隣接するAAV2由来ITRを有する一本鎖DNAゲノムである。導入遺伝子カセットからの発現は、CMV早初期エンハンサー(C4)とニワトリベータアクチンプロモーターとの間のハイブリッドであるCB7またはCB6プロモーターによって駆動されるが、このプロモーターからの転写は、ニワトリベータアクチンイントロン(CI)の存在によって増強される。発現カセットのポリAシグナルは、RBGポリAである。hIDS配列を合成することによってプラスミドを構築し、次いで、プラスミドpENN.AAV.CB7.CI.RBGまたはpENN.AAV.CB6.CI.RBG、CB7、CIを含むAAV2 ITRに隣接する発現カセット及びRBG発現エレメントにクローニングし、上記ベクターゲノムを得る。
【0163】
配列エレメントの説明:
逆方向末端反復(ITR):AAV ITR(GenBank#NC001401)は
、両端で同一であるが反対方向である配列である。AAV2 ITR配列は、AAV及びアデノウイルスヘルパー機能がトランスで提供される場合、ベクターDNA複製の起点及びベクターゲノムのパッケージングシグナルの両方として機能する。このように、ITR配列は、ベクターゲノム複製及びパッケージングに必要とされる唯一のシス配列に相当する。
【0164】
CMV早初期エンハンサー(382bp、C4;GenBank#K03104.1)。このエレメントは、ベクターゲノムプラスミド中に存在する。
【0165】
ニワトリベータ-アクチンプロモーター(282bp;CB;GenBank#X00182.1)を用いて高レベルのhIDS発現を駆動する。
【0166】
ニワトリベータ-アクチンイントロン:ニワトリベータアクチン遺伝子(GenBank#X00182.1)の973bpのイントロンがベクター発現カセットに存在する。イントロンは転写されるが、スプライシングによって成熟メッセンジャーRNA(mRNA)から取り除かれ、その両側に配列がまとめられる。発現カセット中のイントロンの存在は、核から細胞質へのmRNAの輸送を促進し、これによって翻訳のための安定したレベルのmRNAの蓄積を促進することが示されている。これは、遺伝子発現のレベルの増大を意図した遺伝子ベクターにおける共通の特徴である。このエレメントは、ベクターゲノム及びプラスミドの両方に存在する。
【0167】
イズロネート-2-スルファターゼコード配列:hIDS配列を合成した[配列番号1]。コードされたタンパク質は、本明細書のはじめの方に記載されている、550アミノ酸である[配列番号2;Genbank NP_000193、UnitProtKB/Swiss-Prot(P22304.1)]。配列番号1及び2を参照のこと。コドン最適化hIDSコード配列は、配列番号8のnt3423~nt4553ならびに配列番号11のnt1937~nt3589に示される。
【0168】
ポリアデニル化シグナル:127bpのウサギベータグロビンポリアデニル化シグナル(GenBank#V00882.1)は、抗体mRNAの効率的なポリアデニル化のためのシス配列を提供する。このエレメントは、転写終結、新生転写物の3’末端における特異的切断事象、及び長いポリアデニルテールの付加のためのシグナルとして機能する。このエレメントは、ベクターゲノム及びプラスミドの両方に存在する。
【0169】
B.投薬及び投与経路
患者は、患者の2.5×1010~3.6×1011GC/g脳質量に等価である1.0×1013~5.0×1014GC(フラット用量)の範囲内のrAAV9.CB7.hIDSの単一のくも膜下腔内/大槽内投与を受ける。あるいは、以下のフラット用量を、示された年齢群の患者に投与する:
・新生児:約3.8×1012~約1.9×1014GC;
・3~9ヶ月:約6×1012~約3×1014GC;
・9~36ヶ月:約1×1013~約5×1014GC;
・3~12年:約1.2×1013~約6×1014GC;
・12+歳:約1.4×1013~約7.0×1014GC;
・18+歳(成人):約1.4×1013~約7.0×1014GC。
【0170】
空のキャプシドが患者に投与されるrAAV9.CB7.hIDSの用量から確実に除去されるように、本明細書で考察されるとおり、ベクター精製プロセスの間の、塩化セシウム勾配超遠心分離またはイオン交換クロマトグラフィーによってベクター粒子から空のキャプシドを分離する。
【0171】
C.患者亜集団
適切な患者としては、以下の年齢の男性または女性対象が挙げられる:
・新生児;
・3~9ヶ月齢;
・9~36ヶ月齢;
・3~12歳;
・12+歳;
・18+歳(成人)。
【0172】
D.臨床目的の測定
主要な臨床目的としては、MPS II欠損に関連する神経認知低下を予防及び/または必要に応じて逆転させることが挙げられる。臨床目的は、例えば、Bayley Scales of Infant and Toddler Development(乳児及び幼児発達のBayley Scales),Third Edition,BSID-IIIによって測定されるような神経認知を測定することによって決定され得る。他の適切な尺度は、例えば、Vinantand Adaptive Behavior Scales(適応行動スケール),Second Edition(VABS-II)によって測定される適応行動アセスメント及び例えばInfant Toddler Quality of Life Questionnaire(商標)(ITQOL)によって測定されるクオリティーオブライフの尺度である。
【0173】
二次エンドポイントには、バイオマーカー及び臨床転帰の評価が含まれる。必要に応じて、ヒアリングを第2のエンドポイントとして評価してもよい。尿を、総GAG含有量及びヘパラン硫酸について評価する。IDS活性、抗IDS抗体、GAG、及びヘパリン補因子II-トロンビン複合体の濃度について血清を評価する。CSFは、GAG、IDS活性、抗IDS抗体及びヘパリン硫酸について評価する。CSF及び血清中のIDS発現の薬物動態と同様に、抗IDS抗体の存在を評価する。灰白質及びCSF脳室の容積分析もまたMRIによって行う。
【0174】
実施例2:ムコ多糖症II型のマウスモデルでの研究-アデノ随伴ウイルスベクターのCSFへの送達は、ムコ多糖症II型マウスにおいて中枢神経系疾患を減弱させる
A.脳脊髄液へのAAV9送達により中枢神経系疾患が是正される
ムコ多糖症II型(MPS II)は、骨及び関節の変形、心臓及び呼吸器疾患、及び発達遅延を伴う早期小児期に典型的に現れるX連鎖リソソーム蓄積障害である。欠損酵素であるイズロネート-2-スルファターゼ(IDS)の全身送達は、MPS IIの多くの症状を改善するが、その酵素が血液脳関門を通過しないため、現在、中枢神経系(CNS)疾患の進行を防止する効果的な方法はない。MPS IIのマウスモデルを用いて、IDS遺伝子のAAV血清型9ベクター媒介送達を、CNSにおける連続的なIDS発現を達成する手段として評価した。IDSノックアウトマウスは、3つのベクター用量(低-3×10、中-3×10または高-3×1010ゲノムコピー)のうちの1つの側脳室への単回注射を受け、ベクターの体内分布及びIDS発現の評価のためにベクター投与の3週間後に屠殺するか(n=7~8マウス/群)、またはベクター投与後3ヶ月で屠殺して、疾患進行に対する遺伝子移入の影響を評価した(n=7~8マウス/群)。IDS活性は、脳脊髄液中で検出可能であり、低用量コホートで野生型レベルの15%に達し、最高用量で正常の268%に達した。脳酵素活性は、低用量コホートの正常値の2.7%から高用量コホートの32%までの範囲であった。ガングリオシドGM3の染色による脳蓄積病変の定量化によって、それぞれ低、中、及び高用量コホートにおいて35%、46%、及び86%の減少を伴う、用量依存的な是正が示された。処置されたマウスはまた、新規の物体認識試験において、改善された認知機能を示した。これらの知見によって、
くも膜下腔内AAV媒介性遺伝子伝達が、CNSへの持続的な酵素送達のためのプラットフォームとして機能し、MPS IIを有する患者に対するこの重要な満たされていない必要性に対処することが示される。
【0175】
B.AAV9.CB.hIDSの薬理学的及び神経行動学的効果
IDS遺伝子のエキソン4及び5をネオマイシン耐性遺伝子で置換することにより、MPS IIのノックアウトマウスモデル(IDSノックアウト;IDSy/-)を作製した(Garcia et al.、2007、J Inherit Metab Dis、30:924-34を参照のこと)。このモデルは、検出可能な酵素活性を示さず、MPS II患者に見られるものと同様の組織学的蓄積病変を発症する。IDSノックアウトマウスは、骨格異常を含むMPS IIの多くの臨床的特徴を示す。マウスの神経行動表現型は、広範には評価されていないが、いくつかの研究では異常を示しており(Muenzer et al.、2001、Acta Paediatr Suppl、91(439):99-9)、したがって、MPS IIの処置としてAAV9.CB.hIDSの効果を研究するための関連モデルである。実際、これは、この集団の臨床試験を支援するMPS IIにおける酵素補充療法の効果を評価するために使用されているのと同じノックアウトマウスモデルである。このMPS IIマウスモデルで実施された以下の研究は、処置活性AAV9.CB.hIDSを確立した。
【0176】
C.材料及び方法
ベクター。ヒトIDUA及びIDS cDNAを、ニワトリベータアクチンプロモーター、CMVエンハンサー、イントロン、及びウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含む発現構築物にクローニングした。発現構築物は、AAV2逆方向末端反復に隣接していた。AAV9ベクターは、HEK293細胞の三重トランスフェクション及び以前に記載されているようなイオジキサノール精製(Lock et al.(2010).Hum Gene Ther 21:1259-71)によってこれらの構築物から生成した。
【0177】
動物での処置。全ての動物プロトコールは、University of Pennsylvania(ペンシルベニア大学)のInstitutional Animal Care and Use Committee(動物実験及び使用委員会)により承認された。IDSノックアウトマウスを、Jackson Laboratory(Stock no:024744)から入手し、社内で飼育した。コロニー由来の野生型雄性C57BL/6を対照として役立てた。2~3ヶ月齢で、動物をイソフルランで麻酔し、滅菌リン酸緩衝生理食塩水で希釈した5μLのベクターをICV注射した。CSFは、ポリエチレンチューブに接続された32ゲージの針を用いて、後頭下穿刺によって剖検時に採取した。末端血清試料を、心臓穿刺によって収集した。動物を、ケタミン/キシラジン麻酔下で放血により安楽死させた。死亡は、頚椎脱臼によって確立した。脳、心臓、肺、肝臓及び脾臓をドライアイス上に集めた。組織学的実験のために、脳をLIMP2免疫組織化学のために固定した前方半分と、GM3免疫組織化学のために固定した後方半分に分けた。2つのコホートのマウスを行動実験に使用した。野生型及びIDS KOマウスの初期コホートを、一連の手順で試験して、遺伝子欠失が学習及び記憶に影響を与えるか否かを判定した。低、中または高ベクター用量のAAV9.CB.hIDS(それぞれ3×10、3×10または3×1010個のゲノムコピー(GC))で処置した第2のコホートマウスを用いて、行動障害の救済ストラテジーとしてIT送達の実現可能性を調べた。
【0178】
行動手順:全ての行動手順は、遺伝子型及び処置群に対して盲検されたオペレーターが行った。
オープンフィールド活動:オープンフィールドにおける自発的活動は、Photobe
am Activity System(PAS)-Open Field(San Diego Instruments)を用いて測定した。マウスを個別に10分間の試行のためにアリーナに配置した。一般的な移動及び飼育活動を評価するために、水平及び垂直のビームブレイクを収集した。
【0179】
Y迷路:短期記憶は、標準的なY字型迷路(San Diego Instruments)で評価した。アームエントリーの配列及び数を、8分間のトライアル中に記録した。自発的交替行動(SA)は、前にエントリー(進入)したアームに直ちに戻ることなく、迷路の3つのアーム全てに連続エントリーするものとして定義した。運動の活動の尺度として、全アームエントリー(AE)を収集した。自発的交替行動は、%SA=(SA/(AE-2)*100)として計算した。
【0180】
文脈恐怖条件付け:条件付け実験は、Abel et al.Cell.1997 Mar 7;88(5):615-26によって記載のとおり行った。訓練の日に、マウスは、300秒間、固有の条件付けチャンバ(Med Associates)を探索することが可能であった。無信号、1.5mAの連続フット・ショックが、248~250秒の間に送達された。チャンバ内でさらに30秒後、マウスをそれらのホームケージに戻した。24時間後、訓練が行われた同じチャンバ内で、空間的状況の想起を5分間連続して評価した。フリージング行動をスコアリングするのに使用されたソフトウェア(Freezescan、CleverSystems)を用いて記憶を評価した。訓練セッションの2.5分の予備刺激期におけるフリージング率を、チャンバへの再暴露時のフリージング率と比較する。フリージングの増大は、学習が発生したことを示す。
【0181】
新規物体認識:実験装置は、白い床上の灰色の長方形のアリーナ(60cm×50cm×26cm)と、2つの固有の物体:3.8×3.8×15cmの金属バーと3.2cm直径×15cmのPVCパイプから構成された。装置に暴露する前に、マウスを5日間にわたり1日あたり1~2分間取り扱った。5日間の慣らし段階の間、マウスは空のアリーナを5分/日で探索することが可能であった。訓練段階の間、マウスは15分間同じ物体の2つを探索し、慣れを確立した。24時間後の想起段階では、マウスは、今では慣れた物体と新規物体とを備えるアリーナに戻された。マウスは新規物体を優先的に探索する。新規性に対する嗜好の低下は、慣れた物体を思い起こさせず、したがって学習不足を示唆する。全てのセッションを記録し、オープンソースの画像解析プログラム(Patel et al.、Front Behav Neurosci.2014 Oct 8;8:349)で対象を探索するのに費やした時間をスコア付けした。
【0182】
酵素及びGAGアッセイ。GAG、Hex及びIDUAアッセイは、以前に記載されたように行った(Hinderer et al.、2015)、Mol Ther 23:1298-307)。IDS活性は、0.1M酢酸ナトリウムに溶解した1.25mM
4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシイズロン酸2-硫酸塩(Santa
Cruz Biotechnology)の20μL(0.01M酢酸鉛含有)(pH5.0)を10μLの試料と共にインキュベートすることによって測定した。37℃で2時間インキュベートした後、45μLのMcIlvain緩衝液(0.4Mリン酸ナトリウム、0.2Mクエン酸ナトリウム、pH4.5)及び5μLの組換えヒトイズロニダーゼ(Aldurazyme、0.58mg/mL、Genzyme)を、反応混合物に加え37℃で一晩インキュベートした。混合物をグリシン緩衝液(pH 10.9)で希釈し、放出された4-MUを、遊離4-MUの標準希釈と比較した蛍光(励起365nm、発光450nm)によって定量した。
【0183】
組織学。脳を、LIMP2免疫組織化学のために固定された前方半分と、GM3免疫組織化学のために固定された後方半分に分けた。LIMP2及びGM3免疫組織化学を、以
前に記載されたように実施した(Hinderer et al.、2015)、Mol
Ther 23:1298-307)。LIMP2及びGM3について陽性に染色された細胞の数を、盲検のレビューアによって各動物の4つの脳切片において定量化した。
【0184】
ベクターの生体内分布。ベクターの体内分布分析のための組織を迅速に解剖し、ドライアイス上で凍結させた。分析の時点まで試料を-80℃で保存した。QIAmp DNA
Mini Kitを用いてDNAを組織から単離し、ベクターゲノムを、記載されているようにTaqMan PCRによって定量した(Wang et al.、2011)、Hum.Gene Ther.22:1389-1401)。
【0185】
抗hIDS抗体のELISA。ポリスチレンELISAプレートを、pH5.8に滴定したPBS中の組換えヒトIDS(R&D Systems)5μg/mLで一晩コーティングした。プレートを洗浄し、中性PBS中の2%ウシ血清アルブミン中で1時間ブロックした。次いで、プレートを、PBSで1:1000に希釈した血清試料とともにインキュベートした。結合した抗体を、2%BSAを含むPBS中で1:10,000に希釈したHRP結合ヤギ抗マウス抗体(Abcam)で検出した。アッセイは、テトラメチルベンジジン基質を用いて行い、2N硫酸で停止させた後に、450nmでの吸光度を測定した。力価は、1:10,000の力価で適宜割り当てられた陽性血清試料の連続希釈により生成された標準曲線から決定した。
【0186】
統計学。処置された及び未処置のマウスにおける、組織GAG含有量、Hex活性及び脳蓄積病変を、一方向ANOVAを用い、続いてダネットの多重比較試験を用いて比較した。オープンフィールド及びY迷路の日付を、Students t-testで分析した。二元配置ANOVA及びダネットのポストホック分析を、恐怖条件付けデータに適用して、トライアル及び遺伝子型の影響を評価した。新規物体の認識試験では、新規物体対慣れた物体を探索する時間を、各グループのt検定を使用して、次に多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して比較した。
【0187】
雄性IDSノックアウトマウスの4匹の年齢適合群及び野生型同腹仔の1群(1群あたり8匹のマウス(n=8))は、2~3月齢で以下の処置を受けた:
・1群:未処置
・第2群:脳室内AAV9.CB.hIDS低用量3×10GC(1.875×10GC/g脳質量)
・第3群:脳室内AAV9.CB.hIDS中用量3×10GC(1.875×1010GC/g脳質量)
・第4群:脳室内AAV9.CB.hIDS高用量3×1010GC(1.875×1011GC/g脳質量)
・第5群:未処置の野生型同腹仔。
【0188】
D.結果:
2~3月齢の雄性IDSy/-マウスを、サイトメガロウイルスエンハンサー(AAV9.CB.hIDS)を有するニワトリベータアクチンプロモーター由来の、ヒトIDSを発現するAAV9ベクターの脳室内(ICV)注射により処置した。ある最初のコホートでは、3種類のベクター用量[3×10、3×10または3×1010ゲノムコピー(GC)]のうちの1つでマウスを処置し、ベクターの生体内分布及びIDS発現の評価のためにベクター投与の3週間後に屠殺した。未処置のIDSy/-マウス及び野生型のオスの同腹仔が対照として役立った。生体内分布分析のために組織を収穫した。高用量群におけるベクター生体内分布の分析は、効率的な脳標的化を示し、宿主二倍体ゲノムあたり平均して1つのベクターゲノムを有した(図3)。CSFへのAAV送達の以前の研究と一致して、宿主二倍体ゲノムあたり2つ以上のベクターゲノムを有する、周辺へのベ
クター逃避及び効率的な肝標的化も存在した(図3)。脳組織、CSF、及び血清は全て、高用量群において野生型レベルに近づくか、またはそれを上回った、IDS活性の用量依存的増大を示した(図2A~2C)。中及び高用量コホートでは、ヒトIDSに対する抗体がいくつかの動物の血清で検出されたが、これは循環酵素活性に有意に影響しないようであった(図8)。
【0189】
IDS遺伝子のIT AAV9媒介性送達の治療可能性を評価するために、IDSy/-マウスのさらなるコホートを同等のベクター用量で処理し、その後の時点で評価して、疾患進行に対する遺伝子移入の影響を評価した。ベクター投与の2ヶ月後、マウスを行動及び神経認知試験に供した。処置から3ヶ月後、疾患活性の組織学的及び生化学的評価のために、動物を屠殺し、組織を採取した。
【0190】
高レベルの血清酵素活性と一致して、肝臓ではGAG蓄積が減少し、心臓におけるGAG蓄積の正常化に向かう有意な傾向はなかった(図4A~4B)。さらに、GAG蓄積の設定でアップレギュレートされたリソソーム酵素ヘキソサミニダーゼ(Hex)の活性は、両方の組織において正常化された(図4C~4D)。これらのデータによって、AAV9.CB.hIDSのくも膜下腔内投与後の全身治療の活性の可能性が示される。
【0191】
未処置のMPS IIマウスの脳は、リソソーム膜タンパク質LIMP2の蓄積を含むニューロンにおけるリソソーム蓄積、ならびにGM3を含むガングリオシドの二次蓄積の明らかな組織学的証拠を示した(図5L)。処置したマウスは、LIMP2及びGM3染色の両方によって明らかなニューロン蓄積病変における用量依存性の減少を示した(図5A~5L)。このデータに基づいて、1.875×10GC/gという低用量が、マウスがGM3及びLIMP2蓄積病変の両方において有意な(約50%)減少を示した最低用量であったため、マウスにおける最小有効用量(MED)であることが推定された。
【0192】
行動試験は、マウスがベクター投与の2ヶ月後、4~5ヶ月齢に達したときに実施した。一般的な行動、ならびに短期及び長期の記憶を評価するために、包括的な一連の試験を実施した。IDSy/-マウスは、オープンフィールドアリーナにおいて正常な探索的活動を示した(図9A~9C)。Y迷路における自発的交替行動(図9D)を用いて、短時間の作業記憶を評価した。IDSy/-マウスは、野生型同腹仔と同様の数のアームエントリー及び同等の自発的交替行動を有し、インタクトな短期記憶を示した。長期記憶は、古典的文脈恐怖条件付け(FC)及び新規物体認識(NOR)を用いて評価した。FCでは、嫌悪刺激と特定の文脈との関連は、その文脈への再露出時にフリージング行動を引き起こす。全てのマウスは、学習が起こったことを実証する試験の想起段階中のフリージング時間率の増大を示したが、IDSy/-マウスは野生型同腹仔と比較してフリージングの減少を示した(図6A)。処置された動物では、正常と未処置のIDSy/-マウスとの間の相違が小さいことに起因して処置効果を評価することは困難であったが、文脈的な恐怖条件付けの明確な改善はなかった(図6B)。NORでは、マウスは一対の同様の物体を探索することが許されている。訓練の24時間後に、今では慣れた1つの物体を新規物体に置き換える。マウスには、新規物体を探求する先天性がある;そうしなければ、慣れた物体の認識が欠けていることが示され、記憶不足が明らかになる。野生型マウスは、新規物体の選択を示したが、IDSy/-マウスは嗜好を示さなかった。注目すべきことに、くも膜下腔内AAV9遺伝子治療は、IDSy/-マウスで観察された長期NOR欠損を救済した(図6C)。全ての群が、慣れた物体と比較して新規物体を探索する時間の割合が大きい傾向を示す、全ての処置されたIDSy/-マウスにおいて、物体の識別が改善されるようであった。この研究では、投与群間の行動障害の相対的救済度を比較するのに十分なほどの力はなかったが(図6A~6C)、新規物体の嗜好は中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であった。
【0193】
マウス疾患モデルにおけるIT AAV送達を評価する1つの欠点は、わずかに0.4gの脳質量及び40μLのCSF容積を有する極めて小型のマウスCNSが、3,500倍も大きいヒト脳におけるベクター及び分泌酵素の拡散を正確にモデリングし得ないということである。関連するリソソーム蓄積症ムコ多糖症I型(MPSI)のこれまでの研究では、この問題に対処するために自然発生大型動物モデルを利用した。[Hinderer et al.、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2014:22:2018-2027;Hinderer et al.、Mol Therapy:Journal of the Am Soc Gen Therapy、2015:23:1298-1307]。平均脳質量がそれぞれ30g及び72gであるMPS Iのネコ及びイヌは、ヒトの脳における広範なベクター及び酵素送達を達成するという課題に対処するためにはるかに現実的なモデルを提供した。これらのモデルで実施された研究は、MPS Iに対するIT AAV9送達の有効性の重要な証拠を提供した[Hinderer et al.、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2014:22:2018-2027;Hinderer et al.、Mol Therapy:Journal of the Am Soc Gen Therapy、2015:23:1298-1307]。同様の有効性がMPS IIにおけるこの同じアプローチを使用して可能であるか否かを決定するために、本発明者らは、MPS IIにおける酵素発現及び交差是正の相対的効率を調べるために、MPS Iマウスにおいて平行用量範囲試験を行った。IDSの代わりのα-L-イズロニダーゼ(IDUA)導入遺伝子を除いて、MPS Iマウスを、IDSy/-マウスに使用したベクターと同一のベクターで処理した。MPS II研究と同様に、2~3月齢でMPS Iマウスを3×10、3×10、または3×1010GC(1群あたりn=8)の用量で処置し、脳酵素活性の測定のために処置後21日目に屠殺するか、または組織学的分析のために処置3ヶ月後に屠殺した。絶対酵素活性及び野生型発現レベルに対しての両方において、IDSと比較してIDUAの発現がいくらかより効率的に現れたが(図7A)、IDSy/-マウスで観察されたものと同様の用量応答の脳酵素発現があった。脳貯蔵病変の是正は、2つの疾患モデル間で類似していたが、最も低いベクター用量でMPS Iマウスにおいて処置が軽度にさらに有効であるように思われた(図7A~7B)。これらの結果によって、MPS IIのIT AAV9媒介性遺伝子移入が、MPS Iにおいて観察されるものとほぼ同じ効率で脳蓄積病変の是正をもたらすこと、及びこのアプローチがマウスからスケールアップされた場合でも有効なままであることが示唆される。しかし、脳における効率の低い酵素発現を克服するために、MPS Iと比較してMPS IIではわずかに高いベクター用量が必要な場合がある。
【0194】
本研究では、MPS IIマウスにおけるヒトIDS遺伝子を保有するAAV9ベクターのIT送達は、CNSにおける治療レベルの発現及び脳蓄積病変の解消をもたらした。機能改善は、未処置の対照と比較して、処置したマウスにおけるより大きな新規の対象の識別によって示された。神経認知障害は、IDSy/-マウスにおいて以前はよく特徴づけられていなかった。これらの知見によって、IDSy/-マウスが、野生型同腹仔と比較して、オープンフィールドで正常な探索活動、及びY迷路で同様のアームエントリーと同様の活動を有することが示される。これらの移動評価は、通常の探索を必要とする他のタイプの行動を検討する際に重要である。IDSy/-マウスは、対照と比較してY迷路における同様の自発的交替行動によって示されたインタクトな短期作業記憶を有することが見出されている。対照的に、Higuchi et al.[Mol Genet and Metabolism、2012:107:122-128]は、32週齢のIDSy/-マウスにおける自発的交替行動の減少及びアームの増大を報告した。種々のY迷路の結果は、試験時の年齢が異なることが原因であり、MPS IIの進行性を強調する。本発明者らは、IDSの欠損が長期記憶の2つの形態に及ぼす影響を評価した。軽度の欠損が、IDSy/-マウスにおける文脈恐怖条件付けにおいて同定された。DSy/-
マウスは、嫌悪刺激を受けた状況を想起することが可能であったが、野生型同腹仔と比較して、フリージング応答の有意な低下が示された。AAV9のIT送達を受けたIDSy/-マウスは、注射していないマウスと同様のフリージング応答を示した。したがって、回復は検出されなかった。長期記憶喪失は、新規物体認識においても見出された。NORでは、IDSy/-マウスは、慣れた物体と比較して新規物体を好まないことが示された。ベクター処理したマウスは、未処置のIDSy/-マウスに見られるNOR欠損の回復を示した。物体判別は、中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であったが、ただし群あたり8匹であって、この研究は行動エンドポイントの用量応答を評価するにはあまり強くなかった。2つのタイプの長期記憶の回復に示差的に影響するAAV9のIT送達能力は、各タスクに必要とされる異なる神経基質に起因する可能性がある。文脈恐怖条件付けは、視床周囲皮質を必要とするNORとは対照的な海馬依存性のタスクである[Oliveira、et al、Post-training reversible inactivation of the hippocampus enhances novel object recognition memory(海馬の訓練後の可逆的不活性化は、新規物体認識記憶を増強する)。Learning&memory(Cold
Spring Harbor、NY)2010;17:155-160;Abel et al.、Cell 1997;88:615-626]。
【0195】
MPS II及びMPS IマウスモデルにおけるIT AAV9送達の効率の比較によって、MPS IIのIT AAV送達が、以前はMPS Iの大きな動物モデルで示されていたように、かなり大きな脳の大きさ及びCSF量の状況では広範な疾患の是正を生じるのに十分に効率的であることを証明する、2つの疾患の間で酵素発現及び組織是正が類似していることが示された[Hinderer et al.、Mol Therapy:the Journal of the Am Soc Gen Therapy、2014:22:2018-2027;Hinderer et al.、Mol Therapy:Journal of the Am Soc Gen Therapy、2015:23:1298-1307]。興味深いことに、欠損酵素の発現は、MPS
Iと比較してMPS IIにおいていくらか効率が低かった。これは、単に、これらの特定のベクターの発現効率の産物であったが、発現構築物中の制御エレメントは同一であった。いくつかの研究では、IDSのようなスルファターゼの発現が、IDSの翻訳後修飾に必要とされるスルファターゼ改変因子SUMF1の利用可能性によって制限され得ることが示唆された[Fraldi et al.、Biochemical J、2007:403:305-312。しかし、IDS及びSUMF1の同時発現を評価するパイロット実験は、より活性なIDS発現を示さなかった(データは示さず)。それにもかかわらず、蓄積病変の是正は、MPS Iマウスの場合とほぼ同じくらいMPS IIマウスで効率的であり、遺伝子移入は、MPS I及びMPS II患者の両方に対して同様に効果があるはずであることが示されたが、後者の場合、適度に高いベクター用量が、最適な転帰には必須である場合がある。
【0196】
CNS遺伝子移入に加えて、処置したMPS IIマウスにおいて有意な肝形質導入及び末梢酵素発現があり、MPS IIにおけるIT AAV9送達の可能性のある全身的利益が示されている。これは、様々な他の種におけるIT AAV送達の研究と一致している[Passini et al.、Hu Gene Therapy、2014;25:619-630;Hinderer et al.、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development2014;1;;Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 2014;22:2018-2027;Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 2015;23:12
98-1307;Gurda et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 2015;Higuchi et al.、上記引用;Haurigot et al.、J Clin Invest、2013:123:3254-3271;Gray et al.、Gene Therapy、2013:20:450-459]。特に、IT AAVベクター送達後の肝形質導入は種間で実質的に変化するので、ヒトが有意な末梢発現を示すか否かはまだ明らかではない。
【0197】
この研究は、IT AAV9送達が、脳への効果的なIDS遺伝子移入を達成し、MPS IIのCNS兆候を解決し、このアプローチの臨床への進歩を支持することを実証する。
【0198】
これらのデータによって、AAV9.CB.hIDSがMPS IIマウスにおける神経認知障害を改善し得るという予備的証拠が得られる。
【0199】
実施例3:非ヒト霊長類研究
成体雄性アカゲザルにおけるAAV9.CB.hIDSの安全性及び効果を評価するために、非ヒト霊長類(NHP)における研究を実施する。この研究の目的は、くも膜下腔内(IT)AAV9.CB.hIDSの局所的、急性及び慢性の毒性を評価すること、ならびにベクターの生体内分布を定義することである。AAV9.CB.hIDS(5.6×1011または1.875×1011GC/g脳質量)の2つの用量のうちの1つまたはビヒクル対照希釈剤でのAAV9.CB.hIDSのIT注射で合計21匹の雄性マカクザルを処置する。低用量は、MPS IIマウス(MED=1.875×10GC/g)のMEDよりも約100倍大きく、MPSIIマウスにおける統計的に有意な組織学的改善及び認知機能を反映すると考えられる神経行動変化を生じる最低用量に対応する。より高い用量(MEDの約300倍)は、ベクターが製剤化され得る最大濃度であり、CSFに安全に投与され得る注射容積(<10%CSF容積)を維持する要件によって制限される。注射処置の間、動物は全身麻酔下に維持される。後頭下腔に脊髄針を入れる;配置は蛍光透視法を介して確認され、用量は1mLの総容積で投与される。注射後0日、3日、7日、14日、21日及び30日ならびにその後毎月に臨床病理評価のために血清及びCSFを収集する。注射後14、90、及び180日目に、各用量群の3匹の雄性マカクザル(各時間点につき合計6匹)を病理学及び生体内分布について屠殺する。ビヒクル処置動物は対照として役立つ。全ての動物由来の組織に対して完全な組織病理学を行い、高用量コホートについてベクターの生体内分布の分析を行う。DNA抽出及び定量的PCRによるベクターゲノムの検出は、以前に記載されたように(Chen et al.、2013、Hum Gene Ther Clin Dev、24(4):154-160を参照のこと)行われる。このアッセイは、1μgのDNAあたり20のベクターゲノムコピーを超える感度を有し、スパイク対照は、個々の試料の反応効率を検証するために含まれる。生体内分布、生化学及び免疫原性データを14日、3ヶ月及び6ヶ月で収集する。
【0200】
実施例4:rAAV9.CB7.hIDSベクターの作製
AAV9.CB7.hIDSは、ヒトHEK293 MCB細胞の以下のトリプルプラスミドのトランスフェクションで生成する:(i)hIDSベクターゲノムプラスミド、(ii)AAV rep2及びcap 9野生型遺伝子を含むpAAV29と呼ばれるAAVヘルパープラスミドならびに(iii)pAdΔF6(Kan)と呼ばれるヘルパーアデノウイルスプラスミド。
【0201】
プラスミドpAAV.CB7.CI.hIDS.RGBのクローニングは、上記の実施例1に記載のとおりである。このプラスミド由来のベクターゲノムは、hIDS発現カセ
ットに隣接するAAV2由来のITRを有する一本鎖DNAゲノムである。導入遺伝子カセットからの発現は、サイトメガロウイルス(CMV)早初期エンハンサー(C4)とニワトリベータアクチンプロモーターとの間のハイブリッドであるCB7プロモーターによって駆動されるが、このプロモーターからの転写は、ニワトリベータアクチンイントロン(CI)の存在によって増強される。発現カセットのポリAシグナルは、ウサギベータグロビン(RBG)ポリAである。hIDS配列[配列番号8のnt1177~nt2829、及び配列番号11のnt1937~nt3589]をコドン最適化すること及び合成することによってプラスミドを構築し、得られた構築物を、プラスミドpENN.CBV、CI.RBG(p1044)、CBV、CI及びRBG発現エレメントを含むAAV2
ITRに隣接発現カセットにクローニングしてpAAV.CB7.CI.hIDS.RBGを得た。
【0202】
cisプラスミドpAAV.CB7CIhIDS.RGB.KanRのクローニング:PacI制限酵素を用いてこのプラスミドからベクターゲノムを切り出し、カナマイシン耐性遺伝子を含むpKSSに基づくプラスミド骨格(p2017)にクローニングした。最終的なベクターゲノムプラスミドは、pAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRである。
【0203】
AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2:AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2は、AAV9由来の4つの野生型AAV2 repタンパク質及び3つの野生型AAV VPキャプシドタンパク質をコードする。キメラパッケージ構築物を作製するために、まず、野生型AAV2 rep及びcap遺伝子を含むプラスミドp5E18由来のAAV2 cap遺伝子を除去し、肝臓DNAから増幅されたAAV9 cap遺伝子のPCR断片と置換した。得られたプラスミドに識別子pAAV2-9(p0008)を与えた。通常、rep発現を促進するAAV
p5プロモーターは、この構築物において、キャップの5’末端からrepの3’末端に移されることに留意のこと。この配置は、プロモーターとrep遺伝子(すなわちプラスミド骨格)との間にスペーサーを導入し、repの発現をダウンンレギュレートし、ベクター産生を支持する能力を増大させるのに役立つ。p5E18中のプラスミド骨格は、pBluescript KS由来である。AAV2/9ヘルパープラスミドpAAV29KanRGXRep2は、4つの野生型AAV2 repタンパク質、AAV9由来の3つの野生型AAV VPキャプシドタンパク質、及びカナマイシン耐性をコードする。
【0204】
pAdDeltaF6(Kan)アデノウイルスヘルパープラスミドは、15,770bpのサイズである。このプラスミドは、AAV複製にとって重要なアデノウイルスゲノムの領域、すなわちE2A、E4及びVA RNA(293細胞によってアデノウイルスE1機能が提供される)を含むが、他のアデノウイルス複製または構造遺伝子を含まない。このプラスミドは、アデノウイルス逆方向末端反復のような複製にとって重要なシスエレメントを含まず、したがって、感染性アデノウイルスは生成されないと予想される。それはAd5のE1、E3欠失分子クローン(pBHG10、pBR322ベースのプラスミド)に由来した。欠失をAd5 DNAに導入して、不要なアデノウイルス遺伝子の発現を除去し、アデノウイルスDNAの量を32kbから12kbに減少させた。最後に、アンピシリン耐性遺伝子を、カナマイシン耐性遺伝子に置き換えて、pAdΔF6(Kan)を得た。AAVベクター産生に必要なE2、E4及びVAIアデノウイルス遺伝子の機能的エレメントは、このプラスミドに残っている。アデノウイルスE1必須遺伝子機能は、HEK293細胞によって供給される。DNAプラスミド配列決定を、Qiagen
Genomic Servicesにより行ったところ、参照配列pAdDeltaF6(Kan)p1707FH-Qの以下の重要な機能的エレメントと100%相同性が示された:E4 ORF6 3692-2808bp;E2A DNA結合タンパク質11784-10194bp;VA RNA領域12426-13378bp。
【0205】
製造プロセスを要約した流れ図を、図10A図10Bに示す。
【0206】
細胞播種:適格なヒト胚性腎臓293細胞株を、製造プロセスに使用する。Corning(コーニング)Tフラスコ及びCS-10を用いて細胞を5×10~5×1010細胞まで増殖すると、BDSの1ロットあたりのベクター産生に最大50のHS-36を播種するのに十分な細胞集団が生成される。細胞は、10%ガンマ線照射された米国産牛ウシ胎仔血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなる培地中で培養する。細胞は、足場依存性であり、細胞解離は、動物産物を含まない細胞解離試薬であるTrypLE Selectを使用して達成される。細胞の播種は、滅菌した使い捨てのバイオプロセスバッグ及びチュービングセットを使用して達成される。細胞を、37℃(±2℃)、5%(±0.5%)のCO雰囲気中で維持する。細胞培養培地を、新鮮な無血清DMEM培地と交換し、最適化されたPEIベースのトランスフェクション法を用いて3つの生産プラスミドでトランスフェクトする。製造プロセスで使用される全てのプラスミドは、cGMP製造:トレーサビリティ、文書管理、及び材料の分離の最も顕著な特徴を利用するCMO品質システム及びインフラストラクチャの状況で生成される。
【0207】
十分なDNAプラスミドトランスフェクション複合体をBSC中で調製し、最大50のHS-36(BDSバッチあたり)をトランスフェクトする。最初に、7.5mgのpAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRベクターゲノムプラスミド、150mgのpAdDeltaF6(Kan)、75mgのpAAV29KanRGXRep2 AAVヘルパープラスミド及びGMPグレードPEI(PEIPro、PolyPlus
Transfection SA)を含有するDNA/PEI混合物を調製する。このプラスミド比は、小規模最適化研究におけるAAV産生に最適であると判定された。よく混合した後、溶液を室温で25分間放置する。次いで無血清培地に添加して反応をクエンチさせ、次いでHS-36に添加した。トランスフェクション混合物を、HS-36の全36層の間で等しくし、細胞を5%(±0.5%)CO雰囲気中で、37℃(±2℃)で5日間インキュベートする。
【0208】
細胞培地採取:トランスフェクトされた細胞及び培地を、各HS-36から、そのユニットから培地を無菌的に排液することにより、使い捨てのバイオプロセスバッグを用いて採取する。培地の回収後、約80リットルの容積にMgClを補充して最終濃度2mM(ベンゾナーゼについては補因子)にし、ベンゾナーゼヌクレアーゼ(カタログ番号:1.016797.0001、Merck Group)を最終濃度が25単位/mlまで添加する。産物(使い捨てバイオプロセスバッグ中)を、インキュベーター中で、37℃で2時間インキュベートして、トランスフェクション手順の結果として、収集中に残存する細胞及びプラスミドDNAを酵素消化するのに十分な時間を与える。このステップを行って、最終ベクター中の残存DNAの量を最小にする。インキュベーション期間の後、NaClを500mMの最終濃度まで添加して、濾過及び下流タンジェンシャルフロー濾過の間の生成物の回収を助ける。
【0209】
清澄化:蠕動ポンプによって駆動される、滅菌された閉鎖チューブ及びバッグセットとして、直列に接続されたデプスフィルターカプセル(1.2μm/0.22μm)を使用して、細胞及び細胞破片を生成物から除去する。清澄化により、下流のフィルター及びクロマトグラフィーカラムが汚れから保護され、バイオバーデン還元濾過が確実に行われ、フィルタートレインの終わりに下流の精製の前に、上流の製造プロセス中に潜在的に導入されるバイオバーデンが除去される。収集物を、Sartorius Sartoguard PESカプセルフィルター(1.2/0.22μm)(Sartorius Stedim Biotech Inc.)に通す。
【0210】
大規模タンジェンシャルフロー濾過:清澄化された生成物の容積減少(10倍)は、カスタムの無菌閉鎖バイオプロセッシングチューブ、バッグ、及びメンブレンセットを使用したタンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって達成される。TFFの原理は、適切な多孔度(100kDa)の膜に平行な圧力下で溶液を流すことである。圧力差は、膜を通ってより小さいサイズの分子を駆動し、膜の孔よりも大きな分子を保持しながら廃棄ストリームに効果的に移動させる。溶液を再循環させることにより、平行流が膜表面を掃引し、膜孔の汚れを防止する。適切な膜の孔径及び表面積を選択することによって、液体試料は、所望の分子を保持及び濃縮しながら、容積は急速に減少し得る。TFFの適用におけるダイアフィルトレーションは、液体が膜を通って廃棄ストリームに通過するのと同じ速度で再循環試料に新しい緩衝液を添加することを包含する。ダイアフィルトレーションの量が増大するにつれて、再循環試料から漸増する量の小分子が除去される。これは、清澄化された生成物の中程度の精製をもたらすが、その後のアフィニティーカラムクロマトグラフィーステップと適合する緩衝液交換も達成する。従って、本発明者らは、濃縮用の100kDaのPES膜を利用し、次いで、以下から構成される4容積の緩衝液でダイアフィルトレーションする:20mMのトリスpH7.5及び400mMのNaCl。ダイアフィルトレーションした生成物を4℃で一晩保存し、次いで1.2μm/0.22μmのデプスフィルターカプセルでさらに清澄化し、沈殿した物質を除去する。
【0211】
アフィニティークロマトグラフィー:ダイアフィルトレーションした産物を、AAV2/9血清型を効率的に捕捉するCapture Select TM Poros-AAV2/9アフィニティー樹脂(Life Technologies)に加える。これらのイオン条件下では、有意なパーセンテージの残留細胞DNA及びタンパク質がカラムを通って流れ、一方でAAV粒子が効率的に捕捉される。加えた後、カラムを洗浄して追加の供給不純物を除去した後、低pHステップ溶出(400mM NaCl、20mMクエン酸ナトリウム;pH2.5)を行い、これは1/10容積の中和緩衝液(Bis Tris Propane、200mM、pH10.2)への収集によって直ちに中和する。
【0212】
陰イオン交換クロマトグラフィー:空のAAV粒子を含む製造過程の不純物のさらなる減少を達成するために、Poros-AAV2/9溶出プールを、50倍に希釈して(20mM Bis Trisプロパン、0.001%Pluronic F68;pH 10.2)イオン強度を低下させ、CIMultus Qモノリスマトリックス(BIA Separations)への結合を可能にする。低塩洗浄後、60CVのNaCl直線塩勾配(10-180mM NaCl)を用いてベクター産物を溶出する。この浅い塩勾配は、ベクターゲノムを含む粒子(完全な粒子)からベクターゲノムなしのキャプシド粒子(空の粒子)を効果的に分離し、完全なキャプシドに富む調製物をもたらす。チューブへの非特異的結合及び高pHへの曝露の長さを最小にするために、それぞれ、1/100倍の容積の0.1%プルロニックF68及び1/27倍の容積のBis Tris pH6.3を含むチューブに画分を集める。適切なピーク画分を収集し、ピーク面積を評価し、以前のデータと比較して、近似のベクター収量を決定する。
【0213】
BDSを得るための最終処方及び滅菌濾過:TFFを用いて、100kDaの膜を有するプールされたAEX画分の最終処方を達成する。これは、4倍量の処方緩衝液(エリオットB溶液、0.001%プルロニックF68)によるダイアフィルトレーションによって達成し、濃縮してBDSを得て、それによって陰イオン交換クロマトグラフィーからのピーク面積を以前のデータと比較して、5×1013GC/ml以上の力価を達成する濃縮係数を推定する。試料を、BDS試験のために取り出す(以下のセクションで記載)。濾過された精製バルクを、無菌ポリプロピレンチューブに保存し、最終充填まで放出されるまで隔離場所で、-60℃以下で凍結する。予備安定性研究によって、本発明者らが提案した製剤緩衝液中でDPが凍結及び解凍後の活性を失わないことが示される。-80℃
での長期保存後の安定性を評価するためのさらなる研究が進行中である。
【0214】
最後の充填:冷凍BDSを解凍し、プールし、最終製剤緩衝液を用いて標的力価まで希釈し、0.22μmフィルター(Millipore、Billerica、MA)で最終的に濾過し、West Pharmaceuticalの「Ready-to-Use」(プレフィルド)の2mlガラスバイアル及び13mmの栓及びシール中に、1バイアルあたり0.6ml以上2.0ml以下の充填容積で充填する。個々に標識されたバイアルは、以下の仕様に従って表示される。ラベル付きバイアルは、-60℃以下で保存する。
【0215】
ベクター(薬物製品)を、単一の固定濃度でバイアルし、唯一の変数は1バイアルあたりの容積である。より低い用量濃度を達成するために、薬剤製品をElliots B溶液、0.001%Pluronic F68で希釈する。高用量ベクターは、希釈せずに直接使用されるが、低ベクターは、投薬時に薬局によって行われる製剤緩衝液中で1:5希釈を必要とする。
【0216】
実施例5:ベクターの試験
血清型同一性、空の粒子含有量及び導入遺伝子産物の同一性を含む特徴付けアッセイを実施する。アッセイの説明を以下に示す。
【0217】
A.ベクターゲノムの同一性:DNA配列決定
ウイルスベクターゲノムDNAを単離し、プライマーウォーキングを用いて2倍の配列決定カバレッジによって配列を決定する。配列アライメントを行い、予想される配列と比較する。
【0218】
B.ベクターキャプシド同一性:VP3のAAVキャプシド質量分析
ベクターのAAV2/9血清型の確認は、質量分析(MS)によるVP3キャプシドタンパク質のペプチドの分析に基づくアッセイによって達成される。この方法は、SDS-PAGEゲルから切り出されたVP3タンパク質バンドのマルチ酵素消化(トリプシン、キモトリプシン及びエンドプロテイナーゼGlu-C)、続いてキャプシドタンパク質を配列決定するQ-Exactive Orbitrap質量分析計上のUPLC-MS/MSでの特徴付けを包含する。宿主タンパク質産物の差引き及び質量スペクトルからのキャプシドペプチド配列の導出を可能にする、タンデム質量スペクトル(MS)法が開発された。
【0219】
C.ゲノムコピー(GC)力価
oqPCRベースのゲノムコピー力価を、ある範囲の連続希釈にわたって決定し、同族プラスミド標準(pAAV.CB7.CI.hIDS.RBG.KanR)と比較する。oqPCRアッセイは、DNaseI及びプロテイナーゼKを用いた連続消化、続いてキャプシド化ベクターゲノムコピーを測定するためのqPCR分析を利用する。この同じ領域にハイブリダイズする蛍光標識されたプローブと組み合わせて、RBGポリA領域を標的とする配列特異的プライマーを用いてDNA検出を達成する。プラスミドDNA標準曲線との比較によって、PCR後の試料操作を必要とせずに、力価決定が可能になる。多数の標準、バリデーション試料及び対照(バックグラウンド及びDNA混入用)をアッセイに導入した。このアッセイは、感度、検出限界、適格性の範囲ならびに細胞内及び細胞間アッセイの精度を含むアッセイパラメータを確立し、定義することにより、定量される。内部AAV9参照ロットを確立し、資格試験を実施するために使用する。以前の経験から、本明細書に記載の最適化されたqPCRアッセイによって得られた力価は、一般に、前臨床データの生成に使用された本発明者らの標準qPCR技術により達成された力価の2.5倍であることが示唆される。
【0220】
D.空の粒子対全粒子の比
医薬品の総粒子含有量は、SDS-PAGE分析によって決定される。イオジキサノール勾配で精製された参照ベクター調製物を、様々な方法(分析的非遠心分離、電子顕微鏡及び260/280nmでの吸光度)によって分析して、その調製物が>95%のゲノム含有(完全)粒子を含有することを確立する。この参照物質は、既知のゲノムコピー数(したがって、拡張すれば粒子数)まで連続的に希釈され、各希釈物は、同様の希釈系列の薬物生成物とともにSDS PAGEゲル上で流される。参照物質及び医薬品VP3タンパク質バンドの両方のピーク領域容積をデンシトメトリーによって決定し、参照物質容積を、粒子数に対してプロットする。薬物生成物の全粒子濃度をこの曲線からの外挿により決定し、次いでゲノムコピー(GC)力価を差し引いて空の粒子力価を得る。空の粒子対全粒子の比は、空の粒子力価対GC力価の比である。
【0221】
E.感染性力価
感染性単位(IU)アッセイを使用して、RC32細胞(rep2発現HeLa細胞)におけるベクターの生産的取り込み及び複製を決定する。以前に発表されたものと同様に、96ウェルエンドポイントフォーマットが採用されている。簡潔には、RC32細胞を、rAAV9.CB.hIDSの連続希釈と、rAAVの各希釈で12回の反復でのAd5の均一希釈とによって同時感染させる。感染の72時間後、細胞を溶解し、qPCRを行って入力に対するrAAVベクターの増幅を検出する。終点希釈TCID50計算(Spearman-Karber)を実施して、IU/mlとして表される複製力価を決定する。「感染性」値は、細胞と接触する粒子、受容体結合、内在化、核への輸送及びゲノム複製に依存するので、アッセイ形状ならびに使用される細胞系における適切な受容体及び結合後の経路の存在によって影響される。受容体及び結合後の経路は、通常、不死化細胞株において維持されないため、感染性アッセイ力価は、存在する「感染性」粒子の数の絶対的な尺度ではない。しかし、キャプシド化されたGCと「感染性単位」(GC/IU比として記載)との比を、ロット間での製品一貫性の尺度として使用してもよい。
【0222】
GC/IU比は、製品の一貫性の尺度である。oqPCR力価(GC/ml)を感染性単位(IU/ml)で割って、算出されたGC/IU比を得る。
【0223】
F.複製コンピテントなAAV(rcAAV)アッセイ
ある試料を、生産プロセス中に潜在的に生じ得る複製コンピテントAAV2/9(rcAAV)の存在について分析する。細胞ベースの増幅及び継代とそれに続くリアルタイムqPCR(キャップ9標的)によるrcAAV DNAの検出からなる3継代アッセイが開発されている。細胞ベースの構成要素は、試験試料及び野生型ヒトアデノウイルスタイプ5(Ad5)の希釈液を用いてHEK293細胞(P1)の単層を接種することからなる。1010GCのベクター産物は、試験した生成物の最大量である。アデノウイルスの存在により、複製コンピテントAAVは、細胞培養において増幅する。2日後、細胞溶解物を生成して、Ad5を熱不活性化する。次いで、清澄化された溶解物を、第2ラウンドの細胞(P2)に継代して(再びAd5の存在下で)感受性を高める。2日後、細胞溶解物を生成して、Ad5を熱不活性化する。次いで、清澄化された溶解物を、細胞の第3ラウンド(P3)に継代して、(再度、Ad5の存在下で)感受性を最大にする。2日後、細胞を溶解してDNAを放出させ、次いでこれをqPCRに供してAAV9キャップ配列を検出する。Ad5依存的な様式でのAAV9キャップ配列の増幅は、rcAAVの存在を示す。AAV2 rep及びAAV9 cap遺伝子を含むAAV2/9代理陽性対照の使用により、アッセイの検出限界(LOD)を決定することが可能になり(0.1、1、10及び100IU)、rAAV9.CB.hIDSベクターの連続希釈(1×1010、1×10、1×10、1×10GC)を使用して、試験試料中に存在するrcAAVの近似レベルを定量してもよい。
【0224】
G.インビトロでの力価
qPCRGC力価を遺伝子発現と関連付けるために、1細胞あたり既知の多重度のGCを用いてHEK293(ヒト胎児腎臓)細胞を形質導入し、形質導入の72時間後のIDS活性について上清をアッセイすることによりインビトロバイオアッセイを実施する。IDS活性は、0.1mlの水に希釈した試料を100mmol/lの4MU-イズロニド-2-硫酸の0.1mlと37℃で1~3時間インキュベートすることによって測定する。反応を、2mlのグリシン290mmol/l、180mmol/lのクエン酸ナトリウム、pH10.9の添加により停止させ、遊離した4MUを、蛍光を4MUの標準希釈液と比較することによって定量する。高度に活性な前臨床及びtoxベクター調製物との比較は、生成物活性の解釈を可能にする。
【0225】
H.総タンパク質、キャプシドタンパク質、タンパク質純度決定及びキャプシドタンパク質比
ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いて、ウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質標準曲線に対する全タンパク質について、ベクター試料を総タンパク質についてまず定量する。決定は、等量の試料をキットに入っているMicro-BCA試薬と混合することによって行う。同じ手順を、BSA標準の希釈に適用する。混合物を60℃でインキュベートし、吸光度を562nmで測定する。標準曲線は、4パラメータ適合を用いて既知の濃度の標準吸光度から生成される。未知試料は、4パラメータ回帰に従って定量する。
【0226】
AAV純度の半定量的測定を得るために、試料をゲノム力価について正常化し、還元条件下でSDS-ポリアクリルアミド(SDS-PAGE)ゲル上で5×10GCで分離する。次いで、ゲルを、SYPRO Ruby染料で染色する。1レーンあたり25、50、及び100ngのタンパク質の共電気泳動されたBSA標準と比較することによって、あらゆる不純物バンドを、デンシトメトリーによって定量する。これらの量は、総AAVタンパク質試料の1%、2%及び4%に相当する。3つのAAV特異的タンパク質VP1、VP2及びVP3に加えて、現れる染色されたバンドは、タンパク質不純物と考えられる。全ての不純物バンドを参照タンパク質と比較し、不純物質量パーセント及びおよその分子量を報告する。SDS-PAGEゲルはまた、VP1、VP2及びVP3タンパク質を定量化し、それらの比を決定するためにも使用される。
【0227】
実施例6:MPS IIバイオマーカー
今回の研究では、MPS Iイヌ由来のCSF試料の代謝産物プロファイリングを行い、CSFメタボロームにおける実質的な疾患関連変化が明らかになった。最も顕著な相違は、正常対照と比較してスペルミンレベルの30倍以上の上昇であった。この知見は、MPS I患者試料ならびにMPS Iのネコモデルにおいて確認され、MPS IIにおいても見出されると予想される。スペルミンはHSに結合し、スペルミンの細胞取り込みは、この相互作用に依存する[M.Belting、S.Persson、L.-A.Fransson、Proteoglycan involvement in polyamine uptake(プロテオグリカンは、ポリアミン摂取に関与する)。Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Welch、P.Bengtson、K.Svensson、A.Wittrup、G.J.Jenniskens、G.B.Ten Dam、T.H.Van Kuppevelt、M.Belting、Single chain fragment anti-heparan sulfate antibody targets the polyamine transport system and attenuates polyamine-dependent cell proliferation(単鎖フラグメント抗ヘパラン硫酸抗体は、ポリアミン輸送系を標的とし、ポリアミン依存性細胞増殖を減弱させる).International journal of oncol
ogy 32,749-756(2008);オンライン公開EpubApr]。Cell surface proteoglycans such as glypican-1 can bind spermine through their HS moieties, and after endocytosis of the glypican protein, intracellular cleavage of
the HS chain releases bound spermine into the cell(グリピカン-1のような細胞表面プロテオグリカンは、そのHS部分を通じてスペルミンに結合し得、グリピカンタンパク質のエンドサイトーシス後、HS鎖の細胞内切断は、細胞に対して結合したスペルミンを遊離する)(Belting
et al.、K.Ding、S et al.、The Journal of biological Chemistry 276、46779-46791(2001);オンライン公開EpubDec 14)。従って、無傷のHSリサイクリングは、スペルミン摂取にとって必須である。MPS Iでは、細胞外スペルミンの蓄積は、非効率的なHSリサイクリングに起因するこの取り込み機構の阻害を通じて、またはMPSに蓄積する細胞外GAGへのスペルミンの単純な結合を通じて起こり得、スペルミン結合平衡をシフトさせて細胞外分布を促進する。今後の研究は、MPS I CSFにおけるスペルミン蓄積に対するこれらの機構の相対的な貢献に取り組むべきである。
【0228】
本発明者らは、スペルミン合成の阻害剤がMPSニューロンにおける過剰な神経突起伸長をブロックしたこと、及び患者のCSFに見られるものと同様のスペルミン濃度によってWTニューロンにおいて神経突起伸長が誘導され得ることを見出した。MPS Iのイヌモデルにおける遺伝子治療は、スペルミン蓄積を逆転させ、GAP43の発現を正常化し、同じ経路がインビボで影響を受けることを示唆した。本発明者らは、インビボでのスペルミン合成阻害の影響を直接評価し得なかった。なぜなら、利用可能な阻害剤は血液脳関門を通過せず、誕生から慢性の直接CNS投与は動物モデルでは実現不可能であるからである。本発明者らのインビトロでの知見は、MPS Iにおける異常な神経突起伸長におけるスペルミンの役割を支持しているが、スペルミン合成の阻害は、表現型を完全に逆転させず、正常なニューロンへのスペルミン添加はMPS Iニューロンのレベルに対して神経突起伸長を増大しなかったことに注目することが重要である。スペルミン調節の影響は、比較的短期の処置によって制限された可能性がある。スペルミンの蓄積は、MPS
Iにおける神経突起伸長に寄与する唯一のメディエーターではない可能性もある。特に、多くの神経栄養因子がHS修飾受容体を通じて結合し、細胞外マトリックス中のHSとの相互作用は、神経突起伸長に影響を及ぼし得る[D.Van Vactor、D.P.Wall、K.G.Johnson、Heparan sulfate proteoglycans and the emergence of neuronal connectivity(ヘパラン硫酸プロテオグリカン及びニューロン結合の出現).Current opinion in neurobiology16,40-51(2006);オンライン公開EpubFeb(10.1016/j.conb.2006.01.011)]。したがって、スペルミン蓄積は、MPS Iにおける異常な神経突起伸長を促進するいくつかの要因のうちの1つであり得る。
【0229】
15匹のMPS IイヌCSF試料をスクリーニングしたが、1匹だけが正常範囲のスペルミン濃度に収まった。28日齢で、これは研究に含まれた最も若い動物であった。この知見は、スペルミン蓄積が年齢に依存し得ることを示している。今後の研究では、MPS患者においてCSFスペルミンのレベルを長軸方向に評価すべきである。MPS患者の年齢とともにスペルミンが増大する場合、発達遅延の発症前に大部分の患者が1~2年という正常な発達を経験するので、認知低下の動態を説明し得る。
【0230】
HS代謝の障害がニューロンの成長を変化させる代謝産物の蓄積を誘発する可能性は、MPS Iにおける酵素欠損と異常な神経突起伸長表現型との間の新規な関連を指し示す
可能性があり、これらの障害に伴う認知機能不全を説明する可能性がある。これらの知見はまた、CSFスペルミンが、MPS Iのための新規なCNS指向性療法の薬力学を評価するための非侵襲的バイオマーカーとして有用であることを示す。
【0231】
材料及び方法:
実験的デザイン:この研究は、健康な対照由来の試料と比較して、MPS I患者のCSF試料において有意に異なるレベルで存在する代謝産物を検出するために最初にデザインした。MPS IHの小児及び健康な対照からのCSF試料の利用可能性が限られているため、その後、ヒト試料中の候補バイオマーカーを評価する目的で、より多数が入手可能であったMPS Iイヌ由来のCSF試料を用いて、最初のスクリーニングを行った。個々の未処置のMPS Iイヌからの合計15のCSF試料を分析に利用してもよく、さらに健康な対照から15の試料を得た。有望な代謝産物スクリーニングにおいてMPS IイヌCSFにおけるスペルミン上昇の同定に続いて、遺伝子治療で処置されたMPS Iイヌ及びネコの以前の研究由来のCSF試料ならびに患者試料においてスペルミンをレトロスペクティブに測定した。これらの分析のために各群に含まれた対象の数は、試料の入手可能性によって制限され、統計的考察に基づくものではなかった;したがって、ある場合には、統計的比較のための数は不十分であった。インビトロでの神経突起伸長の研究のために、各条件について定量された細胞の数は、1細胞あたりの分岐長、神経突起数または神経突起枝の20%の差異を検出するために、1条件あたり>30個の細胞が必要であることを示したパイロット実験に基づいた。細胞をプレートし、指定された薬物で処理した後、ウェルをコード化し、細胞画像の獲得及び神経突起の長さ及び分岐の手技的な定量化を、盲検のレビューアによって行った。類似の結果を有する異なる基質[チャンバスライド(Sigma S6815)ではなくポリ-L-リジン(Sigma)コーティングされた組織培養プレート]を用いて野生型マウスとMPSマウスニューロンの比較を繰り返した。スペルミン添加の有無にかかわらず両方の基質を用いて野生型ニューロンの比較を4回行って同様の結果を得た。
【0232】
CSF代謝産物プロファイリング:CSF代謝産物プロファイリングは、Metabolonによって実施した。
処理するまで試料を-80℃で保存した。試料は、MicroLab STAR(登録商標)システム(Hamilton Company)を用いて調製した。QC目的のための抽出プロセスの第1段階の前に、回収標準を加えた。タンパク質を、2分間激しく振盪しながらメタノールで沈殿させた後、遠心分離した。得られた抽出物を、以下の5つの画分に分けた:1つは、陽イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴う逆相(RP)UPLC-MS/MS分析用、1つは、陰イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴うRP/UPLC-MS/MS分析用、1つは、陰イオンモードエレクトロスプレーイオン化を伴う親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)/UPLC-MS/MSによる分析用、1つは、GC-MSによる分析用、そして1つの試料をバックアップのために確保した。試料をTurboVap(登録商標)(Zymark)上に短時間置いて、有機溶媒を除去した。LCについては、分析準備の前に試料を窒素下で一晩保存した。GCについては、分析の準備の前に各試料を一晩真空下で乾燥させた。
【0233】
プラットフォームのLC/MS部分は、加熱されたエレクトロスプレーイオン化(HESI-II)源及びOrbitrap 質量分析計とインターフェースされたWaters ACQUITY超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)及びThermo Scientific Q-Exactive高分解能/正確質量分析装置は、35,000質量分解能で作動した。試料抽出物を乾燥し、次いでLC/MS法の各々に適合する溶媒中で再構成した。各再構成溶媒は、注入及びクロマトグラフィーの一貫性を確保するために一定濃度の一連の標準物質を含んでいた。RPクロマトグラフィーでは、酸性陽イオン最適化条件及び他の塩基性の陰イオン最適化条件を用いて分析した。各方法は、別の専用
のカラム(Waters UPLC BEHC18-2.1×100mm、1.7μm)を利用した。酸性条件で再構成された抽出物は、0.1%ギ酸を含有する水及びメタノールを用いて勾配溶出した。塩基性抽出物は、メタノール及び水を用いて同様に、ただし6.5mM重炭酸アンモニウムを用いて溶出した。第3のアリコートを、10mMギ酸アンモニウムを含む水及びアセトニトリルからなる勾配を使用して、HILICカラム(Waters UPLC BEH Amide 2.1×150mm、1.7μm)からの溶出後の陰イオン化によって分析した。MS分析は、動的排除を使用して、MSとデータ依存MSnスキャンとの間で交互に行った。走査範囲は、方法によってわずかに異なるが、80-1000m/zをカバーした。
【0234】
GC-MSによる分析を目的とした試料を、最低18時間真空下で乾燥させた後、ビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミドを用いて乾燥窒素下で誘導化した。誘導化された試料を、キャリアガスとしてのヘリウム及び60分~340℃の温度上昇を17.5分の期間で5%ジフェニル/95%ジメチルポリシロキサン溶融シリカカラム(20m×0.18mm ID;0.18umフィルム厚)で分離した。電子衝撃イオン化(EI)を使用してThermo-Finnigan Trace DSQ高速走査単一四重極質量分析計で試料を分析し、単位質量分解能で操作した。走査範囲は、50~750m/zであった。
【0235】
数種類の対照を、実験試料と呼応して分析した:少量の各実験試料を採取することによって生成されたプールされたマトリックス試料は、データセット全体にわたって技術的複製物として役立った;抽出された水試料は、プロセスブランクとして役立った;内因性化合物の測定を妨害しないように慎重に選択されたQC標準のカクテルを、分析されたあらゆる試料にスパイクし、機器性能のモニタリングを可能にし、クロマトグラフィーアライメントを補助した。装置の変動性は、質量分析計への注射前に各試料に添加された標準の相対標準偏差(RSD)の中央値を算出することによって決定した。プールされたマトリックス試料の100%に存在する全ての内因性代謝産物(すなわち、非機器標準物質)の中央値RSDを計算することによって、全体のプロセス変動性を決定した。実験試料は、注射間で均等に間隔を置いて配置されたQC試料を用いて、プラットフォーム施行にまたがって無作為化した。
【0236】
代謝産物は、保持時間、分子量(m/z)、好ましい付加物、及びインソースフラグメントならびに付随するMSスペクトルを含む化学標準品目の参照ライブラリーへの実験試料中のイオン特徴の自動化比較により特定され、及びMetabolonで開発されたソフトウェアを用いた品質管理の目視検査によって監督された。既知の化学物質の同定は、精製された標準のメタボロミクスライブラリーエントリとの比較に基づいた。曲線下面積測定を用いてピークを定量した。各試料中の各代謝産物の生エリア数を正常化して、各実行日の中央値による器具の日中の調整の差異から生じる変動を校正し、それによって、各実行について中央値を1.0に設定した。試料間のこのような保存された変化は、類似したグラフィカルスケールで比較される広範に異なる生ピーク領域の代謝産物を許容した。欠落値は、正常化後に観察された最小値とみなした。
【0237】
定量的MSアッセイ:CSF試料(50μL)をスペルミン-d8内部標準(IsoSciences)と混合した。試料を、4倍過剰のメタノールと混合し、4℃で12,000×gで遠心分離することによって脱タンパク化した。上清を窒素の気流下で乾燥させた後、50μLの水に再懸濁した。5μLのアリコートを、LC-MS分析に供した。LC分離は、Xbridge(登録商標)C18カラム(3.5μm、150×2.1mm)を備えたWaters ACQUITY UPLCシステム(Waters Corp.、Milford、MA、USA)を用いて行った。流速は、0.15mL/分であり、溶媒Aは0.1%ギ酸であり、溶媒Bは0.1%ギ酸を含む98/2アセトニトリル/
O(v/v)であった。溶出条件は、以下のとおりであった:2%Bで0分、2%Bで2分、60%Bで5分、80%Bで10分、98%Bで11分、98%Bで16分、2%Bで17分、2%Bで22分であり、カラム温度は35℃であった。Finnigan
TSQ Quantum Ultra分光計(Thermo Fisher、San Jose、CA)を使用して、陽イオンモードで以下のパラメータでMS/MS分析を行った:4000Vの噴霧電圧、270℃のキャピラリー温度、35任意単位のシースガス圧、2任意単位でのイオン掃引ガス圧力、10任意単位での補助ガス圧力、200℃での気化器温度、50のチューブレンズオフセット、キャピラリーオフセットが35、及びスキマーオフセットが0であった。以下の遷移をモニターした:203.1/112.1(スペルミン);211.1/120.1(スペルミン-d8)、スキャン幅は0.002m/z、スキャン時間は0.15秒であった。
【0238】
動物手順:全ての動物プロトコールは、University of Pennsylvania(ペンシルベニア大学)のInstitutional Animal Care and Use Committee(動物実験及び使用委員会)により承認された。CSF代謝産物のスクリーニングのために、試料を3~26ヶ月齢の正常イヌ及び1~18ヶ月齢のMPS Iイヌの骨髄後穿刺により収集した。MPS Iイヌ及びネコにおける遺伝子導入研究は、以前に記載されたように行った(20、22)。CSF試料は、ベクター投与の6~8ヶ月後に収集した。マウス皮質ニューロン実験のために、初代皮質ニューロン培養物を、E18 IDUA-/-またはIDUA+/+胚から調製した。
【0239】
患者試料:各対象の親または法的保護者からインフォームドコンセントを得た。プロトコールは、ミネソタ大学のInstitutional Review Boardによって承認された。CSFは、腰椎穿刺により採取した。全てのMPS I患者は、ハーラー症候群の診断を有し、試料採取前に酵素補充療法または造血幹細胞移植を受けていなかった。MPS I患者は、6~26ヶ月齢であった。健常対照群は、36及び48ヶ月齢であった。
【0240】
統計解析:ランダムフォレスト分析及びヒートマップ生成は、MetaboAnalyst 3.0[R.G.Kalb、Development 120、3063-3071(1994);J.Zhong et al.、Journal of neurochemistry 64、531-539(1995)D.Van Vactor、D.P.W et al、Current opinion in neurobiology 16、40-51(2006);オンライン公開EpubFeb(10.1016/j.conb.2006.01.011)を用いて行った。生のピークデータを対数変換し、正常な試料値の平均値に正常化した。GraphPad Prism 6を用いて、他の全ての統計分析を行った。培養神経枝の長さ、神経突起の数、及び分岐を、ANOVAにより、続いてダネット検定により比較した。CSFスペルミン及び皮質GAP43を、クラスカル・ウォリス検定、続いてダネット検定によって比較した。
【0241】
GAP43ウエスタン:前頭皮質の試料を、Qiagen Tissuelyserを用いて30Hzで5分間、0.2%トリトンX-100中でホモジナイズした。試料を4℃での遠心分離により清澄化した。タンパク質濃度をBCAアッセイにより上清中で測定した。試料をDTT(Thermo Fisher Scientific)を含むNuPAGE LDS緩衝液中、70℃で1時間インキュベートし、MOPS緩衝液中のBis-Tris 4~12%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。タンパク質をPVDF膜に転写し、5%脱脂粉乳中で1時間ブロックした。この膜を、5%脱脂粉乳中で1μg/mLに希釈したウサギポリクローナル抗GAP43抗体(Abcam)、続いて5%脱脂粉乳中で1:10,000に希釈したHRP結合ポリクローナル抗ウサギ抗体(Thermo Fisher Scientific)を用いてプローブした。SuperSi
gnal West Pico基質(Thermo Fisher Scientific)を用いてバンドを検出した。デンシトメトリーは、Image Lab 5.1(Bio-Rad)を用いて行った。
【0242】
神経突起伸長アッセイ:18日目の胚性皮質ニューロンを、上記のように採取し、100,000細胞/mLの濃度で、B27(Gibco)によって補充された無血清Neurobasal 培地(Gibco)中で、チャンバスライド(Sigma S6815)またはポリ-L-リジン(Sigma)コーティング組織培養プレート上にプレートした。プレートの24時間後(1日目)に二重のウェルに処理を施した。定量化のための位相コントラスト画像を、Nikon Eclipse Tiで、20倍で、600msの手動露光及び高コントラストで1.70倍のゲインを用いて撮影した。個々のブラインドの処理条件は、1ウェルあたり10~20枚の画像をキャプチャし、それらをコード化した。画像は、ImageJ(NIH)で8ビットフォーマットに変換して、NeuronJ[E.Meijering,M.Jacob,J.C.Sarria,P.Steiner,H.Hirling,M.Unser,Design and validation of a tool for neurite tracing and analysis in fluorescence microscopy images.Cytometry.Part A:the journal of the International Society for Analytical Cytology 58,167-176(2004);オンライン公開EpubApr(10.1002/cyto.a.20022)]で、盲検によるレビューアがトレースした。Soma径、神経突起数、分岐点及び分岐長を手技的にトレースした。NeuronJでトレースされた画像は、画像サイズに基づく換算係数を使用してマイクロメータに変換した:2560×1920ピクセル画像を、0.17マイクロメートル/ピクセルの変換係数を用いてマイクロメータに変換した。
【0243】
組織学:脳組織処理及びLIMP2免疫蛍光を、以前に記載されたようにして行った[C.Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 22,2018-2027(2014);オンライ公開EpubDec(10.1038/mt.2014.135)]。
【0244】
RT-PCR:3匹の正常イヌ及び5匹のMPSイヌからの前頭皮質の試料を、剖検で、ドライアイス上で直ちに凍結させた。RNAをTRIzol試薬(Thermo Fisher Scientific)で抽出し、DNAse I(Roche)で、室温で、20分間処理し、RNeasyキット(Qiagen)を用いて製造業者の指示に従って精製した。ランダムヘキサマープライマーを用いるHigh Capacity cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems)を用いて、精製RNA(500ng)を逆転写した。アルギナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、スペルミンシンターゼ、スペルミジンシンターゼ、スペルミン-スペルミジンアセチルトランスフェラーゼ及びグリセルアルデヒドホスフェートデヒドロゲナーゼの転写産物を、Sybr green PCRによって、Applied Biosystems 7500を使用して定量した。
【0245】
リアルタイムPCRシステム。全ての個々の試料からなるプール標準の4倍希釈を用いて、各標的遺伝子について標準曲線を作成した。最高の標準に任意の転写物番号を割り当て、個々の試料のCt値を、標準曲線に基づいて転写物番号に変換した。値は、GAPDH対照に対して表す。
【0246】
統計解析:ランダムフォレスト分析及びヒートマップ生成は、MetaboAnaly
st3.0[J.Xia et al.、MetaboAnalyst2.0-メタボロームデータ分析のための包括的なサーバを使用して実施した。Nucleic Acids Research、(2012);オンライン公開EpubMay 2,2012(10.1093/nar/gks374);J.Xia、et al.、MetaboAnalyst:a web server for metabolomic data
analysis and interpretation(メタボロームデータ分析及び解釈のためのウェブサーバ)。Nucleic Acids Research 37、W652-W660(2009);オンライン公開EpubJuly 1、2009(10.1093/nar/gkp356)。J.Xia et al.、MetaboAnalyst 3.0-making metabolomics more meaningful.Nucleic Acids Research、(2015);オンライン公開EpubApril20,2015(10.1093/nar/gkv380)]。代謝産物スクリーニングの検出不可能な値は、データセットで観察された最小値とみなした。生のピークデータを正常試料値の平均値に正常化し、対数変換した。GraphPad Prism 6を用いて、他の全ての統計分析を行った。培養神経枝の長さ、神経突起の数、及び分岐を、ANOVAにより、続いてダネット検定により比較した。CSFスペルミン及び皮質GAP43を、クラスカル・ウォリス検定、続いてダネット検定によって比較した。
【0247】
結果
1.代謝産物プロファイリングによるCSFスペルミンの上昇の同定
CSF代謝産物の最初のスクリーニングは、MPS Iのイヌモデルを使用して行った。これらの動物は、IDUA遺伝子にスプライス部位突然変異を有し、その結果、酵素発現の完全な消失及びMPS I患者のものに類似した臨床的及び組織学的特徴の発達が生じた[K.P.Menon et al.、Genomics 14、763-768(1992);R.Shull、et al.、The American Journal of Pathology 114、487(1984)]。CSF試料を15匹の正常イヌ及び15匹のMPS Iイヌから採取した。CSF試料を、LC及びGC-MSによる代謝産物の相対量について評価した。全部で281の代謝産物がCSF試料において質量分析によって陽性と特定された。これらのうち47匹(17%)が対照と比較してMPS1イヌで有意に上昇し、88匹(31%)は対照と比較して減少した。群間で最も異なる50種類の代謝産物のヒートマップを、図19Aに示す。代謝産物プロファイリングによって、MPS Iと正常イヌとの間のポリアミン、スフィンゴリピド、アセチル化アミノ酸、及びヌクレオチド代謝における顕著な差異が同定された。ランダムフォレストクラスタリング分析によって、ポリアミンスペルミンがMPS Iと正常イヌとの間の代謝産物の相違の最大寄与因子であることが同定された(図23)。平均して、スペルミンは、試料採取時に1カ月齢未満の1匹のMPS1イヌを除いて、MPS1イヌにおいて30倍を超えて上昇した。CSF中のスペルミンを定量的に測定するために、安定同位体希釈(SID)-LC-MS/MSアッセイが開発された。ハーラー症候群(6~26ヵ月齢)の6人の子供、ならびに2匹の健常対照(36ヵ月及び48ヵ月)から試料をスクリーニングした。両方の健常対照は、アッセイの定量限界(1ng/mL)未満のCSFスペルミンレベルを有したが、MPS I患者のCSF試料は、定量限界より平均10倍高かった(図19B)。MPS IH患者におけるスペルミン上昇は、スペルミン結合及び取り込みにおけるHSの公知の役割と一致するように見えた[M.Belting et
al.、Journal of Biological Chemistry 278、47181-47189(2003);M.Belting et al.、Proteoglycan involvement in polyamine uptake.Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Wellch、et al、International journal of
oncology 32、749-756(2008))];増大した合成は、正常イ
ヌ及びMPS Iイヌ脳試料がポリアミン合成経路において転写調節された酵素について同様のmRNA発現レベルを有したので、上昇したCSFスペルミンの原因とは思われなかった(図24)。スペルミン上昇がヘパラン硫酸蓄積疾患の一般的な特性であるかMPS Iに特異的であるかを決定するために、類似の高さを示すMPS VIIのイヌモデル由来のCSF試料においてスペルミンを測定した(図25)。
【0248】
2.MPSに伴う異常な神経突起伸長におけるスペルミンの役割
軸索損傷後のニューロンは、神経突起伸長を促進するポリアミン合成をアップレギュレートする[D.Cai、et al.、Neuron 35、711-719(2002)。オンライン公開EpubAug 15;K.Deng、et al、The Journal of neuroscience:the official journal of the Society for Neuroscience 29、9545-9552(2009);オンライン公開EpubJul 29;Y.Gao、et al.、Neuron 44、609-621(2004)。オンライン公開EpubNov 18;R.C.Schreiber、et al.、Neuroscience 128、741-749(2004)]。したがって、本発明者らは、MPSニューロンに記載されている異常な神経突起過形成表現型におけるスペルミンの役割を評価した[Hocquemiller、S.et al.、Journal of neuroscience research 88、202-213(2010)]。MPS Iマウス由来のE18皮質ニューロンの培養物は、コロニーの野生型マウス由来のニューロンよりも、培養中で4日後により大きい神経突起数、分岐及び総分岐長を示した(図20A~20F)。スペルミン合成の阻害剤であるAPCHAによるMPSニューロンの処置は、神経突起の成長及び分岐を有意に減少させた。この効果は、スペルミンを置換することによって可逆的であった(図20A~20F)。同じAPCHA濃度は、正常なニューロンの増殖に影響しなかった(図26)。インビボで同定されたものと同様の濃度で野生型ニューロン培養物にスペルミンを添加すると、神経突起の成長及び分岐が有意に増大した(図20A~20F)。
【0249】
3.CSFスペルミン及びGAP43発現に対する遺伝子治療の影響
神経突起伸長の中心的調節因子であるGAP43は、インビトロ及びインビボの両方でMPS IIIマウスニューロンによって過剰発現され、このことは、ニューロン培養において異常に活性化される同じ神経突起伸長経路がインビボでも活性であることを示唆している。インビボでのGAP43発現及びスペルミン蓄積に対するIDUA欠損の効果を評価するために、本発明者らは、未処置のMPS Iイヌ及びCNS指向性遺伝子治療で処置したイヌにおけるCSFスペルミン及び脳GAP43レベルを測定した。本発明者らは、先に、イヌIDUA導入遺伝子を保有するアデノ随伴ウイルス血清型9ベクターのくも膜下腔内注射によって処置された5匹のMPS1イヌについて記載した[C.Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 23、1298-1307(2015);オンライン公開Epub Aug]。MPS Iイヌは、正常なIDUA酵素に対する抗体を産生し得るので、2匹のイヌを、肝臓IDUA遺伝子移入を受けた新生児として前処理してこのタンパク質に対する免疫寛容を誘導した。両方の寛容化イヌとも、AAV9処置後、正常よりもはるかに高い脳IDUA活性を示した。3匹の非寛容化イヌは、様々なレベルの発現を示し、1匹の動物が正常よりもレベルに達し、他の2匹が正常に近い発現を示した(図21A)。CSFスペルミン減少は、脳IDUA活性に反比例し、IDUA発現が最も低い2匹のイヌにおける未処置動物と比較して3倍低下し、最も高い発現を有する動物において20倍を超えて低下した(図21A図21B~21H及び21Kまで)。MPS1イヌの前頭皮質においてGAP43がアップレギュレートされ、発現は全てのベクター処理動物で正常化された(図21I~21J)。
【0250】
本発明者らはさらに、ある範囲のベクター用量で処置したMPS1イヌにおけるCSFスペルミンレベルとIDUA再構成との間の関係を評価した。新生児肝臓遺伝子移入によって以前にヒトIDUAに寛容化されたMPS Iイヌを、ヒトIDUAを発現するAAV9ベクターを3用量(1010、1011、1012GC/kg、1用量につきn=2)のうちの1つを用いて、くも膜下腔内注射によって処置した[(C.Hinderer、et al.、Neonatal tolerance induction enables accurate evaluation of gene therapy
for MPS I in a canine model(新生児寛容の誘導は、イヌのモデルでMPS Iに関する遺伝子治療の正確な評価を可能にする)。Molecular Genetics and Metabolism、dx.doi.org/10.1016/j.ymgme.2016.06.006]..CSFスペルミンを、注射6か月後に評価した(図22A)。CSFスペルミンの減少は、用量依存性であり、中及び高ベクター用量の動物は、正常範囲に達したが、低用量動物ではCSFスペルミンは部分的にしか減少しなかった。IDUA欠損症とCSFのスペルミンの蓄積との間の関係を独立して確認するために、本発明者らは、MPS IのネコモデルにおいてCSFスペルミンのレベルを評価した。以前に報告された遺伝子治療の研究由来のCSF試料を用いて、本発明者らは、未処置のMPS IネコがCSFスペルミンの上昇を示したことを見出した(図22B)[C.Hinderer、P.Bell、B.L.Gurda、Q.Wang、J.P.Louboutin、Y.Zhu、J.Bagel、P.O’Donnell、T.Sikora、T.Ruane、P.Wang、M.E.Haskins、J.M.Wilson、Intrathecal gene therapy corrects CNS pathology in a feline model of
mucopolysaccharidosis I.Molecular therapy(くも膜下腔内遺伝子治療は、ムコ多糖症IのネコモデルにおいてCNS病理を是正する):the journal of the American Society of Gene Therapy22、2018-2027(2014);オンライン公開EpubDec(10.1038/mt.2014.135)]。ネコIDUA正常化CSFスペルミンレベルを発現する高用量のAAV9ベクターのくも膜下腔内投与(図22B)。
【0251】
C.考察
今回の研究では、本発明者らは、MPS IイヌからのCSF試料の代謝産物プロファイリングを実施し、これによって、CSFメタボロームにおける実質的な疾患関連変化が明らかになった。最も顕著な相違は、正常対照と比較してスペルミンレベルの30倍以上の上昇であった。この知見は、MPS I患者の試料ならびにMPS Iのネコモデル及びMPS VIIのイヌモデルにおいて確認された。スペルミンは、高い親和性でHSに直接結合し、スペルミンの細胞取り込みは、この相互作用に依存する[M.Belting、S.PERSSON、L.-A.Fransson、Proteoglycaninvolvementinpolyamineuptake(プロテオグリカンは、ポリアミン摂取に関与する)。Biochemical Journal 338、317-323(1999);J.E.Welch、et al、International journal of oncology 32、749-756(2008)]。グリピカン-1のような細胞表面プロテオグリカンは、そのHS部分を通じてスペルミンに結合し得、グリピカンタンパク質のエンドサイトーシス後、HS鎖の細胞内切断は、結合したスペルミンを細胞に放出する[上記のBelting et al.;K.Ding et al.、The Journal of biological chemistry 276、46779-46791(2001);オンライン公開EpubDec 14号]。従って、無傷のHSリサイクリングは、スペルミン摂取にとって必須である。IDUA欠損による非効率的なHS再利用は、このスペルミン取り込み機構を阻害し得、細
胞外スペルミン蓄積を引き起こし得る。あるいは、細胞外GAGは、スペルミンを隔離し、平衡をシフトさせて細胞外分布を促進し得る。この研究におけるLC-MS試料調製に用いたメタノール脱タンパクステップはまた、可溶性HSを沈殿させ、CSF中に検出されたスペルミンは結合していないこと、従ってGAG結合ではなく取り込み阻害が細胞外スペルミン蓄積の原因であることを示唆する[N.Volpi、Journal of chromatography.B、Biomedical applications
685、27-34(1996);オンライン公開EpubOct 11]。機能的ニューラルネットワークの形成及び維持には、神経突起伸長及びシナプス形成の正確な制御が必要である。発達中、CNS環境は、神経突起形成に対してますます阻害的になり、ミエリン関連タンパク質が大人の脳における神経突起伸長を主にブロックする。減少した神経突起伸長へのこの発生的なシフトは、GAP43発現の減少と並行する[S.M.De
la Monte et al.、Developmental Brain Research 46,161-168(1989);オンライン公開Epub4/1/]。MPSニューロンによって示される持続的なGAP43発現及び誇張された神経突起伸長は、阻害及び成長促進シグナルのこの正常なバランスを妨げ、異常な接続性及び認知障害をもたらす。HS蓄積がどのようにしてこの神経成長の増大をもたらすかは確立されていない。多くの研究が、神経突起伸長におけるポリアミンの関与を示唆しており;軸索の損傷後、スペルミン及びその前駆体であるプトレシン及びスペルミジンの合成のための律速酵素が上昇し、ミエリンからの阻害シグナルの存在下でさえ神経突起伸長の増強を可能にする[全て上記で引用される、Cia(2002)、Deng(2009)、Gao(2004)。さらに、プトレシンによるニューロンの処理は、スペルミン合成の阻害剤によってブロックされる効果であって、CSFに直接注射した場合に神経突起伸長を誘導する(上記で引用される、Deng(2009))。ポリアミンが神経突起の成長に及ぼす機構は未知である。潜在的な標的の1つはNMDA受容体であり、その活性化はスペルミン結合によって増強される(J.Lerma、Neuron 8,343-352(1992);オンライン公開Epub2//(http://dx.doi.org/10.1016/0896-6273(92)90300-3))。NMDAシグナル伝達は、神経突起伸長を誘導し、受容体のスペルミン感受性サブユニットは、発生中に高度に発現される[D.Georgiev et al.、Experimental cell research 314,2603-2617(2008);オンライン公開EpubAug 15(10.1016/j.yexcr.2008.06.009);R.G.Kalb、Regulation of motor neuron dendrite growth by NMDA receptor activation(NMDA受容体活性化による運動ニューロンの樹状突起成長の調節).Development 120、3063-3071(1994);J.Zhong、et al.、Journal of neurochemistry 64、531-539(1995)。特に、多くの神経栄養因子が、HS修飾レセプターを介して結合し、細胞外マトリックス中のHSとの相互作用は、神経突起の成長に影響を及ぼし得る(D.Van Vactor et al.、Current opinion in neurobiology 16,40-51(2006);オンライン公開EpubFeb)。したがって、スペルミン蓄積は、MPS Iにおける異常な神経突起伸長を促進するいくつかの要因のうちの1つであり得る。15匹のMPS IイヌCSF試料をスクリーニングしたが、1匹だけが正常範囲のスペルミン濃度に収まった。28日齢で、これは研究に含まれた最も若い動物であった。この知見によって、スペルミンの蓄積が年齢に依存し得ることが示されるが、この研究では、ハーラー症候群の乳児ではスペルミンがすでに6ヶ月齢までに上昇していることが実証されている。将来の研究では、CSFスペルミンのレベルをMPS患者で長軸方向に評価する。スペルミンがMPS患者では年齢とともに増大するのであれば、ほとんどの患者が発達遅延の発症前に1~2年の正常な発達を経験するので、これによって認知低下の動態が説明される。MPSにおける酵素欠損と異常な神経突起伸長表現型との間の新規な関連性にニューロン成長点を変化させる代謝産物の蓄積を誘発することがHS代謝
障害の原因となり、これらの障害に関連する認知機能不全を説明し得る。将来の研究は、MPS IIのような他のMPSにおけるスペルミン上昇を確認する。これらの知見によってまた、CSFスペルミンが、MPSのための新規なCNS指向性療法の薬力学を評価するための非侵襲的バイオマーカーとして有用であることが示される。CNS指向性療法の将来のトライアルは、認知エンドポイントとCSFスペルミンの変化との間の相関を評価する。
【0252】
実施例7:CTガイドされたICV送達デバイス
A.処置前のスクリーニング評価
1.プロトコール訪問1:スクリーニング
治験責任医師は、対象(または指定された介護者)がインフォームドコンセントに署名した際に十分に情報を得るために、大槽内(IC)手順、投与手順そのもの、及び全ての潜在的な安全リスクに至るスクリーニングプロセスについて説明する。
【0253】
IC処置について対象の適格性のスクリーニング評価において、以下のことが実施され、神経放射線科医/神経外科医/麻酔科医に提供される:病歴;併用薬;身体検査;バイタルサイン;心電図(ECG);及び検査室の試験結果。
【0254】
2.インターバル:研究の第2訪問のスクリーニング
適格性を審査するのに十分な時間を与えるために、以下の手順を、最初のスクリーニング訪問と研究訪問2(0日目)の1週間前までの間、いつでも実施する:
・ガドリニウムの有無における頭部/頸部磁気共鳴イメージング(MRI)[注:対象はガドリニウムを受けるのに適した候補でなければならない(すなわち、eGFR>30mL/分/1.73m)]
・頭部/頚部MRIに加えて、研究者は、屈曲/伸長研究による頚部のさらなる評価の必要性を判定する
・MRIプロトコールには、T1、T2、DTI、FLAIR、及びCINEプロトコールのイメージを含む
・施設内プロトコールによる頭部/頸部MRA/MRV(注:内/経頭蓋手術の病歴を有する対象を除外する場合もあるし、またはCSFフローの適切な評価及びCSF腔の間の連絡の潜在的な遮断または欠如の特定を可能にするさらなる試験(例えば、放射性ヌクレオチドの超音波検査)を必要とする場合もある。
・神経放射線科医/神経外科医の対象手続き評価会議:3つのサイトからの代表者は、利用可能な全ての情報(スキャン、病歴、身体検査、臨床検査など)に基づいてIC手順の各対象の適格性について考察する電話会議(またはウェブ会議)を持つ。IC手順または対象をスクリーニングできずに進行することでコンセンサスを達成するための全ての試みを行うべきである(すなわち、各メンバーは、決定を受け入れる準備をすべきである)。・-28日目~1日目までの麻酔の術前評価であって、MPS対象の特別な生理的要件を念頭に置いて、気道、頸部(短縮/肥厚)及び頭部動作範囲(頸部屈曲度)の詳細な評価をともなう。
3. 1日目:コンピュータトモグラフィー室及び投与のためのベクター調製。IC手技に先立って、CT室は以下の機器と薬が存在することを確認する:
・成人の腰椎穿刺(LP)キット(施設ごとに提供)
・BD(Becton Dickinson)22または25ゲージ×3-7インチの脊髄針(Quincke bevel)
・インターベンション医師の裁量で使用される同軸導入針(例えば、18G×3.5インチ)(脊髄針の導入用)
・スイベル(スピン)オスルアーロック付き4方向小口径ストップコック
・メスルアーロックアダプター付きのTコネクタ延長セット(チューブ)、およその長さ6.7インチ
・くも膜下腔内投与のためのOmnipaque 180(イオヘキソール)
・静脈内(IV)投与のためのヨード化造影剤
・1%リドカイン注射液(成人用LPキットに含まれていない場合)
・プレフィルドの10ccの生理食塩水(無菌)フラッシュシリンジ
・放射線不透過性マーカー(複数可)
・手術用準備器具/シェービング用かみそり
・挿管された対象の適切な位置決めを可能にする枕/サポート
・気管内挿管器具、全身麻酔機及び人工呼吸器
・術中神経生理学的モニタリング(IONM)装置(及び要員)
・AAV9.hIDUAベクターを含む10ccシリンジ;個別の薬局マニュアルに従って、CT/手術室(OR)室を準備してそこに移動する。
4. 1日目:対象の準備及び投与
・研究及び手順のインフォームドコンセントは、医療記録及び/または研究ファイル内で確認され、文書化される。放射線科医及び麻酔科医による処置に関する別個の同意は、施設の要件に従って得る。
・研究の対象は、施設ガイドライン(例えば、2つのIVアクセス部位)に従って適切な病院ケアユニット内で静脈内アクセスを行う。静脈内の液体は、麻酔科医の裁量で投与される。
・麻酔科医の裁量で、施設ガイドラインに従って、適切な患者ケアユニット、保留エリアまたは外科/CT処置室で全身麻酔を施行して研究対象を導入し、気管内挿管を行う。
・腰椎穿刺を行い、まず脳脊髄液(CSF)5ccを除去し、その後、大槽の視覚化を助けるためにくも膜下腔内造影剤(Omnipaque 180)を注射する。大槽内への造影剤の拡散を容易にするために、適切な対象の位置決め操作を行う。
・まだ行われていない場合、術中神経生理学的モニタリング(IONM)装置を対象に取り付ける。
・対象は、腹臥位または側臥位でCTスキャナテーブル上に置かれる。
適切と考えられる場合、対象は、術前評価中に安全と判断された程度まで首の屈曲をもたらし、位置決め後に証明された正常な神経生理学的モニター信号があるような方式で位置決めされる。
・次の研究スタッフ及び研究者(複数可)が、現場に存在し特定されることが確認されている。
o手技を行うインターベンション医師/神経外科医
o麻酔科医及び呼吸技師(複数可)
o看護師及び医師の助手
oCT(またはOR)技術者
o神経生理学技術者
o現場研究コーディネーター
・頭蓋骨の下の対象の皮膚を適切に剃る。
・CTスカウト画像を実行した後、目標位置を特定し、血管系を画像化するために介入主任者が必要と考える場合には、IV造影剤による処置前計画CTを続ける。
・一旦、標的部位(大槽)が同定され、針の軌道が計画されれば、施設ガイドラインに従って無菌技術を用いて皮膚を準備し、ドレープする。
・放射線不透過性マーカーを、インターベンション医師が指示するように、標的皮膚の位置に配置する。
・マーカーの下の皮膚を、1%リドカインを用いる浸潤によって麻酔する。
・22Gまたは25Gの脊髄針を大槽に向かって前進させ、必要に応じて同軸導入針を使用する。
・針の前進後、CT画像は、施設機器(理想的には2.5mm以下)を使用して実現可能な最も薄いCTスライス厚を使用して取得する。連続CT画像は、針及び関連する軟部組織(例えば、傍脊髄筋、骨、脳幹、及び脊髄)の適切な視覚化を可能にする、可能な最低
線量を使用すべきである。
・正確な針の配置は、針ハブ内のCSFの観察及び大槽内の針先の可視化によって確認される。
・インターベンション医師は、ベクターを含むシリンジが滅菌野の近くにあるが、滅菌野の外に位置していることを確認する。ベクターを取り扱うか投与する前に、滅菌野内で処置を手助けするスタッフによって手袋、マスク、及び目の保護具が着用されていることを確認する(滅菌野の外にいる他のスタッフはこれらの処置を受ける必要はない)。
・短い(~6インチ)延長チューブを挿入された脊髄針に取り付け、次に4方向ストップコックに取り付ける。一旦、この装置が対象のCSFで「自己プライミング」されると、10ccのプレフィルド生理食塩水フラッシュシリンジを4方向ストップコックに取り付ける。
・ベクターを含むシリンジをインターベンション医師に渡し、4方向ストップコックのポートに取り付ける。
・一旦、ベクターを含むシリンジへのストップコックポートを開けたら、注射中にプランジャーに過度の力を加えないよう注意しながら、シリンジの内容物をゆっくりと注射する(約1~2分以上)。
・一旦、AAV9.hIDUAを含むシリンジの内容物を注射したら、ストップコックを回して、取り付けられたプレフィルドシリンジを使用して、1~2ccの生理食塩水でストップコックと針のアセンブリをフラッシュしてもよい。
・準備ができたら、インターベンション医師はスタッフに装置を対象から取り外すように警告する。
・一回の動きで、針、延長チューブ、ストップコック、及びシリンジを対象からゆっくりと取り外し、バイオハザード廃棄レセプタクルまたは硬い容器(針用)に廃棄するために外科用トレイに置く。
・針挿入部位を出血またはCSF漏出の徴候について検査し、研究者の指示に従って処置する。サイトは、示されているように、ガーゼ、外科用テープ及び/またはTegaderm包帯を使用して手当する。
・対象をCTスキャナから出させて、ストレッチャー上に仰臥位で置く。
・麻酔を中止して、麻酔後のケアのための施設のガイドラインに従って対象をケアする。神経生理学的モニターを、研究対象から外してもよい。
・対象が横たわるストレッチャーの頭部は、回復中にわずかに(約30度)持ち上げるべきである。
・対象は、施設のガイドラインに従って適切な麻酔後ケアユニットに移送される。
・対象は、意識を十分に回復し、安定した状態になった後、プロトコールに基づくアセスメントのために適切なフロア/ユニットに入室する。・プロトコールに従って神経学的アセスメントを行い、治験責任者は病院及び研究のスタッフと協力して対象のケアを監督する。
【0255】
実施例8:大型動物におけるくも膜下腔内投与経路の評価
この研究の目的は、脳室内(ICV)注射、及び腰椎穿刺による注射を含む、CSFへのより慣用的な投与方法を評価することであった。要するに、この研究では、ICV及びIC AAV投与をイヌで比較した。ベクターの投与は、非ヒト霊長類の腰椎穿刺によって評価し、動物の一部は、ベクターの頭蓋内分布を改善することが示唆された操作である、注射後、トレンデレンブルグ位に置いた。イヌの研究では、ICV及びICベクター投与は、脳及び脊髄全体にわたって同様に効率的な形質導入をもたらした。しかし、ICVコホートの動物は、導入遺伝子産物に対する重度のT細胞応答に明らかに起因して、脳炎を発症した。ICVコホートにおいてのみ、この導入遺伝子特異的免疫応答の発生は、導入遺伝子発現部位における注射手順からの局在性炎症の存在に関連すると疑われる。非ヒト霊長類(NHP)の研究では、非常に大きな注射量(全CSF量の約40%)を用いることにより、腰部槽へのベクター投与後の形質導入効率が以前の研究と比較して改善され
た。しかし、このアプローチはやはり、IC管理ほどは効率的ではなかった。注射後にトレンデレンブルグに動物を配置することは、さらなる利益をもたらさなかった。しかし、大きな注射量はベクターの頭蓋内分布を改善し得ることが判明した。
【0256】
くも膜下腔内AAV送達の有効性を最大にするためには、CSFへのベクター投与の最適経路を決定することが重要であろう。本発明者らは以前、後頭下穿刺による大槽(cerebellomedullary cistern)へのベクター注射は、非ヒト霊長類における有効なベクター分布を達成したが、腰椎穿刺による注射は、脊髄の形質導入を実質的に低下させ、脳への事実上の分布を生じず、投与経路の重要性を強調していることを報告した[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1]。他の研究者は、一般的な臨床的手順である側脳室へのベクター送達が有効なベクター分布をもたらすことを示唆している[Haurigot et al.、J Clin Invest.,123(8):3254-3271]。また、腰椎穿刺による送達は、頭蓋内ベクター分布を促進するために、注射後にトレンデレンブルグ位に動物を置くことによって改善され得ることも報告されている[Meyer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 31 2014]。この研究では、イヌにおける緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター遺伝子を発現するAAV9ベクターの脳室内投与及び大槽内投与を比較した。脳室内送達は、導入遺伝子特異的免疫応答のさらなるリスクを伴うことがあるが、両方の経路がCNS全体に有効な分布を達成することを本発明者らは、見出した。本発明者らはまた、NHPにおける腰椎穿刺によるベクター送達、及び注射後のトレンデレンブルグ位に動物を置くことの影響を評価した。注射後の位置決めの明確な効果はなかったが、本発明者らは、大きな注射量はベクターの頭蓋内分布を改善し得たことを見出した。
【0257】
A.材料及び方法:
1.ベクター生成:GFPベクターは、ニワトリベータアクチンプロモーターとともに、サイトメガロウイルス早初期エンハンサー、人工イントロン、増強緑色蛍光タンパク質cDNA、ウッドチャック型肝炎ウイルス転写後調節エレメント、及びウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含む発現カセットを保持するAAV血清型9キャプシドから構成された。GUSBベクターは、ニワトリベータアクチンプロモーターとともにサイトメガロウイルス早初期エンハンサー、人工イントロン、イヌGUSB cDNA、及びウサギベータグロビンポリアデニル化配列を含む発現カセットを保持するAAV血清型9キャプシドから構成された。ベクターは、HEK293細胞の三重トランスフェクションによって産生され、以前に記載されたように[Lock et al.、Human gene therapy.Oct 2010;21(10):1259-1271]]イオジキサノール勾配で精製された。
【0258】
2.動物実験:全てのイヌは、ペンシルバニア大学のthe National Referral Center for Animal Models of Human
Genetic Disease of the School of Veterinary Medicine(獣医学部のヒト遺伝病動物モデルの国立紹介センター)(NIH OD P40-010939)で、National Institutes of Health(国立衛生研究所)及びUSDAの実験動物の飼育及び使用に関するガイドラインに従って飼育した。
【0259】
3.NHP研究:この研究には、9~12歳のカニクイザル6匹が含まれていた。動物は注射時に4~8kgであった。ベクター(2×1013GC)を注射前に5mLのOmnipaque(Iohexol)180造影剤で希釈した。腰椎穿刺によるベクターの
注射は、以前に記載されているように行った[Hinderer,Molecular Therapy-Methods & Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1]。くも膜下腔内空間への正確な注射は、蛍光透視法によって確認した。トレンデレンブルグ群の動物では、注射直後にベッドの頭部を10分間30度下げた。安楽死及び組織収集は、以前に記載されているように実施した[Hinderer,Molecular Therapy-Methods & Clinical Development.12/10/online 2014;1]。
【0260】
4.イヌの研究:この研究には、6匹の1歳齢のMPS Iイヌと、2ヵ月齢のMPS
VIIイヌを含んだ。注射座標を計画するために、ベースラインMRIを、全てのICV処置イヌで行った。大槽内注射は、以前に記載されているように実施した[Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal
of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。ICV注射のために、イヌを静脈内プロポフォールで麻酔し、気管内挿管し、イソフルランで麻酔下に維持し、定位フレームに置いた。皮膚を無菌的に準備し、注射部位に切開を施した。単一の穿頭孔を注射部位に穿孔し、そこを通して26ゲージの針を所定の深さまで前進させた。配置はCSFの戻りによって確認された。ベクター(1mL中1.8×1013GC)を1~2分間かけてゆっくりと注入した。安楽死及び組織収集は、以前に記載されているように行った[Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。
【0261】
5.組織学:脳は、GFP発現の評価について記述されているように処理された[Hinderer、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1]。GUSB酵素染色及びGM3染色は、以前に記載されたように実施した[Gurda et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 8 2015]。
【0262】
6.ELISPOT:剖検の時点で、血液を、ベクター処理イヌからヘパリン処理したチューブ中に採取した。末梢血単核細胞を、Ficoll勾配遠心分離によって単離した。AAV9キャプシドペプチド及びGFPペプチドに対するT細胞応答を、インターフェロンガンマELISPOTによって評価した。AAV9及びGFPペプチドライブラリーは、10アミノ酸オーバーラップ(Mimotopes)を有する15マーとして合成した。AAV9ペプチドライブラリーを、以下の3つのプールにグループ分けした:ペプチド1~50のプールA、ペプチド51~100のプールB、ペプチド101~146のプールC。また、GFPペプチドライブラリーを3つのプールにグループ分けした。ホルボール12-ミリステート13-アセテートプラスイオノマイシン塩(PMA+ION)を、陽性対照として用いた。陰性対照としてDMSOを用いた。細胞をペプチドで刺激し、インターフェロンガンマ分泌が記載のように検出された。百万リンパ球あたり55スポット形成単位(SFU)を超え、かつDMSO陰性対照値の少なくとも3倍である場合、応答を陽性とみなした。
【0263】
7.生体内分布:剖検の時点で、生体内分布のための組織をドライアイス上で直ちに凍結させた。DNA単離及びTaqMan PCRによるベクターゲノムの定量は、記載のとおり行った[Wang et al,Human gene therapy.Nov
2011;22(11):1389-1401]。
【0264】
8.GUSB酵素アッセイ:GUSB活性を記載のとおり、CSFで測定した[Gurda et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 8 2015]。
【0265】
B.結果
1.イヌにおける脳室内及び大槽内ベクター送達の比較
リソソーム蓄積症ムコ多糖症I型(MPS I)のイヌモデルを用いた本発明者らの以前の研究は、大槽内へのAAV9注射が脳及び脊髄全体を効果的に標的し得ることを実証した[Hinderer et al.、Molecular therapy:journal of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。この研究では、成体MPS Iイヌの大槽または側脳室に投与したGFPレポーター遺伝子を発現するAAV9ベクターの分布を、本発明者らは、比較した。3匹のイヌを、1mLのベクター(1.8×1013ゲノムコピー)を大槽に1回注射して処置した。3匹の追加のイヌが、同じベクターを側脳室に1回だけベクター注射した。ICV注射によって処置されたイヌでは、注射のためのより大きな側脳室を選択し、標的座標を規定するためにベースラインMRIを実施した。指定された心室を正確に標的とするために、定位固定フレームを用いて注射を行った。
【0266】
ICベクター注射で処置した3匹のイヌは、この試験を通して健康に見えた。ベクターの生体内分布及び導入遺伝子発現の評価のために、ベクター注射の2週間後に安楽死させた。肉眼的または顕微鏡的脳病変は、いずれのIC処置イヌにおいても観察されなかった(図12A~12F)。定量的PCRによるベクターゲノムの測定により、脳及び脊髄の全ての採取領域にわたってベクター沈着が明らかになった(図13)。ベクターゲノムの分布と一致して、強力な導入遺伝子発現が、大脳皮質の大部分の領域ならびに脊髄全体で検出可能であった(図14A~14H)。脊髄組織学は、胸部及び腰部セグメントに有利な形質導入勾配を有するアルファ運動ニューロンの強力な形質導入に関して顕著であった。
【0267】
ベクターを注射したICVで処置した3匹のイヌは、当初、この手順の後、健常に見えた。しかし、1匹の動物(I-567)は注射12日後に死亡が判明した。他の2匹の動物は指定された14日の剖検時点まで生存したが、一匹の動物(I-565)は安楽死前に昏睡状態になり、もう一方の動物(I-568)は、顔面筋の衰弱を示し始めた。これらの臨床所見は、重大な肉眼的脳病変と相関していた(図12A~12F)。3匹全ての動物の脳は、針跡を囲む変色を示し、その動物での関連する出血は、死亡したと見なされた。組織学的評価では、注射部位周辺領域の重度のリンパ球性炎症が明らかになった。脈管周囲リンパ球浸潤はまた、各動物の脳全体を通して観察された(図12G及び12H)。この免疫学的毒性の証拠を考慮して、剖検時にICV処置イヌ(I-565)の1つから採取した末梢血試料において、AAV9キャプシドタンパク質及びGFP導入遺伝子の両方に対するT細胞応答を評価した。インターフェロンガンマELISPOTは、GFPに対する強いT細胞応答を示し、キャプシドペプチドに対する応答の証拠はなかった(図12I)。これは、観察された脳炎が、導入遺伝子産物に対する細胞媒介性免疫応答によって引き起こされたことを示唆している。
【0268】
ICV処置動物におけるベクター分布は、IC処置群で観察されたものと同様であったが、脊髄形質導入は、ICコホートにおいて幾分大きかった(図13)。ICV処置動物で検査したCNS領域全体にわたってGFP発現が観察された(図14A~14H)。
【0269】
2.NHPにおける腰椎穿刺によるAAV9投与後のCNS形質導入に対するトレンデ
レンブルグ位の影響
本発明者らは、以前に、NHPの大槽または腰部槽へのAAV9注射を比較したところ、腰椎経路は脊髄を標的化するのに効果が10倍少なく、脳を標的化するためには効果が100倍少ないことが分かった[C.Hinderer、et al、Molecular Therapy-Methods & Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1]。それ以来、他の研究者らは、腰椎穿刺によるAAV9投与を用いたより良好な形質導入を実証しており、ベクターの脳の分布の改善は、注射後にトレンデレンブルグ位に動物を置くことによって達成した[Myer et
al.、Molecular Therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Oct 31 2014]。このアプローチでは、ベクターを、過剰容積の造影剤に希釈して、溶液の密度を高め、トレンデレンブルグで重力駆動分布を促進した。6匹の成体カニクイザルを、L3-4隙間にGFPを発現するAAV9(2×1013ゲノムコピー)の単回注射で処置した。そのベクターは、Iohexol 180造影剤で5mLの最終容積まで希釈した。4匹の動物を、注射直後に処置台の頭部を-30°の角度で10分間配置した。10分後、透視画像を捕捉してCSFの造影剤分布を確認した。注目すべきことに、この大きな注射容積(動物の総CSF容積の約40%)[Reiselbach et al.、New England Journal of Medicine.1962;267(25):1273-1278]の造影剤は、トレンデレンブルグ位に配置されていない動物においてさえも、脊髄くも膜下腔全体に沿って、及び基底槽に迅速に分布した(図16A及び16B)。PCR(図17)及びGFP発現(図18A~18H)によるベクターゲノム分布の分析は、脳及び脊髄全体の形質導入を実証した。注射後の位置が形質導入細胞の数または分布に及ぼす明らかな影響はなかった。以前に報告されたように、くも膜下腔内AAV投与後の末梢へのベクターの逃避及び肝臓の形質導入があった[Hinderer et al.、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1;Haurigot et al.、Journal of Clinical Investigation.Aug 2013;123(8):3254-3271]。肝臓の形質導入の程度は、AAV9に対する既存の中和抗体(nAb)の存在に依存していた。6匹の動物のうち4匹は、検出可能なベースラインAAV9 nAb(力価<1:5)を有しておらず、2匹の動物(4051及び07-11)は、AAV9に対する検出可能な既存抗体を1:40の力価で有していた。以前の結果と一致して、既存の抗体は、肝臓の形質導入をブロックし、脾臓へのベクター分布の増大をもたらした[Wang et al,Human gene therapy.Nov 2011;22(11):1389-1401,が、CNS形質導入への影響はなかった;Haurigot et al,Journal of Clinical Investigation.Aug 2013;123(8):3254-3271]。
【0270】
C.考察
後頭下穿刺は、臨床診療において寛容的な手順ではないので、本発明者らは、側脳室及び腰部槽を含む、より一般的なCSFアクセス部位を評価した。ここでは、腰椎領域からのベクター分布を頭側で改善するために、より高密度によるベクター溶解及び注射後のトレンデレンブルグ位を使用する方法を評価した。
【0271】
イヌの研究では、ICとICVベクター注射の両方が同様に有効なベクター分布をもたらしたが、脳炎はICV群のみで生じた。GFP導入遺伝子に対するT細胞応答は、ICV処置イヌの1匹では検出可能であり、これによって、これらの動物で観察されたリンパ球性脳炎は導入遺伝子特異的免疫応答によるものであることが示唆された。新しい抗原に対するT細胞応答の誘導には、ナイーブT細胞によるタンパク質からのエピトープの認識、及びT細胞の活性化を促進する炎症性の「危険シグナル」という2つの要素が必要であ
る。AAVは、導入遺伝子産物に対する免疫を惹起することなく外来導入遺伝子を発現し得ると考えられる。なぜなら、AAVは、先天性免疫系を活性化することなく、それによって、ナイーブリンパ球が新しく発現した抗原に遭遇した場合に、免疫よりむしろ炎症性シグナルを回避し、寛容を促進するからである。外来の導入遺伝子産物が発現されるのと同じ位置で起こる脳実質を貫通する外傷によって引き起こされる局所的な炎症は、導入遺伝子産物に対する免疫応答を誘導するために必要な危険信号を提供し得る。これは、直接脳注射によって送達されるが、IC注射によっては送達されないAAVベクターから発現される酵素に対する細胞媒介性免疫応答を発達させる、MPS Iイヌにおける以前の研究によって裏付けられている[Ciron et al.、Annals of Neurology.Aug 2006;60(2):204-213;Hinderer et al.、Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy.Aug 2015;23(8):1298-1307]。そのような免疫応答の可能性は、注射によって引き起こされる炎症応答が、自己タンパク質に対する寛容を壊さない可能性がある場合でさえ、内因的にも産生されるタンパク質を発現するベクターを送達することに関して、導入遺伝子産物が、外来性と認識されるか否かに依存する。導入遺伝子産物と内因性タンパク質との類似性は、GFPに対して観察されたタイプのT細胞応答の不在の原因である可能性が高いので、MPS VIIイヌにおけるICVベクター送達の研究における結果、この概念が支持される。これは、導入遺伝子産物に類似のタンパク質の産生を可能にするミスセンス突然変異を有する劣性疾患の患者にも当てはまり得る。したがって、免疫の危険性は、患者集団及び導入遺伝子産物に応じて変化し得、場合によっては、導入遺伝子に対する破壊的T細胞応答を予防するために免疫抑制が必要であり得る。今回の知見によって、有害な免疫応答のリスクは、ICV投与経路ではなくICを用いることによって緩和される可能性が高いことが示唆される。
【0272】
NHPにおける腰椎穿刺によるAAV9投与の研究は、本発明者らが以前にこの投与経路で観察したよりも、CNS全体でより大きな形質導入を示した。この差は、ベクターを過剰量の造影剤に希釈するために必要であった、本研究での注射量が大きいためであると思われる。以前の研究では、このような大量の注射(CSF量の約40%)が、注射された物質を直接マカクの基底槽及び脳室CSFにさえ送達し得ることが示されている[Reiselbach、上記引用]。患者に日常的に投与されない極めて大きな注射量(>60mL)が必要であることを考えれば、ヒトに対してこのアプローチを変換する可能性は不明である。さらに、この大量のアプローチであっても、腰椎穿刺による注射は、IC送達での以前の結果よりも効率が悪かった。この以前の研究では、動物は体重によって投与されたので、1匹の動物にだけは、ここで使用したものと同等のICベクター用量を投与した[Hinderer et al.、Molecular Therapy-Methods&Clinical Development.12/10/オンライン 2014;1]。その動物は、脳及び脊髄における平均3倍のベクター分布を有し、これは、腰部槽への非常に大きな容積のベクター送達さえもIC送達よりも効率が低いことを示している。文献の報告とは対照的に、本発明者らは、腰椎のベクター注射後にトレンデレンブルグ位に動物を置くことには、さらなる利点はないことを見出した[Meyer et
al,Molecular therapy:the journal of the
American Society of Gene Therapy.Oct 31
2014]。
【0273】
これらの発見をまとめると、このアプローチは腰椎穿刺による投与よりも効率的なベクター分布を達成し、ICV投与よりも導入遺伝子産物に対する免疫の危険性がより少ないように見えるので、大槽のレベルでのベクター投与をサポートする。大槽脈へのベクター送達は、前臨床試験で用いられた後頭下穿刺アプローチを用いて臨床的に行うことができた。さらに、横方向アプローチ(C1-2穿刺)を用いた第1及び第2の頚椎間のくも膜
下腔への注射は、大槽への注射部位の近接性を考慮すれば、同様のベクター分布を生じる可能性がある。C1-2アプローチは、後頭下穿刺とは異なり、CSFアクセス、特にくも膜下腔内造影剤投与のために臨床的に広く使用されるというさらなる利点を有する。
【0274】
実施例9:アカゲザルでくも膜下腔内注射されたAAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBGの非臨床薬理学/毒物学研究
ヒト投与に関して最小有効用量(MED)よりも十分な安全マージンを得るために、アカゲザルにおけるヒトIDSをコードするベクターであるAAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBGの2つの用量のくも膜下腔内投与の安全性を評価するためにデザインされた研究を行う。
【0275】
対照品は、第1群に無作為化した単一のマカクに後頭下穿刺を介して投与する。試験品は、第2~3群に無作為化した6匹のアカゲザルに後頭下穿刺を介して投与する。2群のマカクは、5×1013のゲノムコピー(GC)(N=3)という高用量で試験品を与えられる;3群のマカクは、1.7×1013GC(N=3)という低用量で投与された試験品を与えられる。血液及び脳脊髄液は、一般的な安全パネルの一部として収集する。
【0276】
ベクター投与後90±3日でこれらの研究の生存段階が完了した後、マカクを剖検して、総合的な組織病理学的検査のために組織を採取する。リンパ球を肝臓、脾臓、及び骨髄から採取し、剖検時にこれらの器官における細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の存在を調べる。
【0277】
I.I.実験デザイン
A.材料
試験品-AAV9.CB7.hIDSは、AAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBGとしても公知であり、AAV2/9.CB7.CI.hIDS.RBG.KanRとも呼ばれる。これらの名称は同義語であり、互換的に使用してもよい。
【0278】
試験品は、ドロップレット(Droplet)デジタル(dd)PCRを用いることによって測定した5.72×1013GC/mlの濃度を有する単一ロットとして生成した。ベクターは、製造後、注射の日まで60℃以下で保存する。注射の日に、ベクターを対照品で希釈する。一旦希釈されると、ベクターは、注射の時間まで、冷蔵庫または湿った氷の中で2~4℃で保存される。ベクターの調製は注射の日に行う。
【0279】
対照群動物は、対照品Elliot’s Formulation Buffer(EFB)を投与され、及び試験品(EFB+0.001%Pluronic F68)は投与されない。対照品は、製造後及び注射の日まで室温で貯蔵する。
【0280】
B.試験システム
試験系選択の正当化:この研究は、CNS疾患の遺伝子治療ベクターのくも膜下腔内(IT)送達を含む。非ヒト霊長類(NHP)におけるCNSの様相は、本発明者らの臨床標的集団の最も代表的なモデルとして機能する。この研究によって、IT注射後のベクターの用量関連毒性に関するデータが得られる。
【0281】
Covance Research Products,Inc.(Alice,TX)によって供給された体重3~10kgの3~7歳の七(7)匹の雄性Macaca mulatta(アカゲザル)を使用する。
【0282】
II.一般的なデザイン手順
7匹のアカゲザル(雄性)を研究に使用する。動物を表1に記載した3つの研究グルー
プに分ける。7匹の動物全てに、後頭下穿刺を介してIT注射を与える。
【表1】
【0283】
動物を麻酔し、大槽内へ後頭下穿刺を介して試験品を投与する。
【0284】
麻酔したマカクを処置室で準備し、Fluoroscopy Suite(蛍光透視室)に移し、頭部をCSF採取及び大槽内への投与のために前方に屈曲させた側臥位でイメージングテーブル上に置く。注射部位を無菌的に準備する。無菌技術を使用して、21~27ゲージの1-1.5インチのQuincke脊髄針(Becton Dickinson)を、CSFの流れが観察されるまで、後頭下空間に前進させる。ベースライン分析のため、及び投与前に、最大1.0mLのCSFを収集する。横断される解剖学的構造には、皮膚、皮下脂肪、硬膜外腔、硬膜及び環椎-後頭部筋膜が含まれる。針は、血液汚染及び潜在的な脳幹損傷を避けるために、大槽のより広い上位ギャップに向けられる。針穿刺の正しい配置を、蛍光灯(OEC9800 C-Arm、GE)を使用して、脊髄造影法により確認する。蛍光透視装置は、製造業者の推奨に従って操作する。CSF収集後、Iohexal(商品名:Omnipaque 180mg/mL、General Electric Healthcare)造影媒体及び試験品または対照品の投与を容易にするために、脊髄針にルアーアクセス延長カテーテルを接続する。一(1)mLのIohexolをカテーテル及び脊髄針を介して投与する。針の配置を確認した後、試験品を含むシリンジ(1mLにシリンジの容積とリンカーのデッドスペースを加えたものに等しい容積)をフレキシブルリンカーに接続し、20~60秒かけてゆっくりと注射する。針を外し、穿刺部位に直接圧力を加える。注射装置内に残っている残留試験品を収集し、-60℃以下で保存する。
【0285】
動物が大槽にうまく投与できない場合、C1-C2くも膜下腔内空間(環椎関節)への投薬を、投薬の代替部位として使用してもよい。投薬手順は以下のとおりである。動物を側臥位に置き、頭部をCSF収集のために前方に屈曲させ、C1-C2くも膜下腔内空間に投与する。注射部位を無菌的に準備する。無菌技術を用いて、21~27ゲージの1~1.5インチのQuincke脊髄針(Becton Dickinson)を、CSFの流れが観察されるまでくも膜下腔内空間に進める。ベースライン分析のため、及び投与前に、最大1.0mLのCSFを収集する。横断される解剖学的構造としては、皮膚、皮下脂肪、硬膜外腔、硬膜及び筋膜が挙げられる。針は、血液汚染及び頚椎脊髄への潜在的な損傷を避けるために、C2椎骨よりも上で椎骨空間内に挿入される。残りの手順は、大
槽内投与について前記されたのと同様である。
【0286】
動物には、AAV9.CB7.hIDSまたは対照品のいずれかのくも膜下腔内注射を与える。投与頻度は表3に概説されている。高用量のAAV9.CB7.hIDSは5×1013GC及び低用量1.7×1013GCである。マカク1匹あたりに注射される希釈されたAAV9.CB7.hIDSまたは対照品の総容積は1mLである。
【0287】
III.結果
CSF髄液細胞増加症は、CSF中の白血球数として示した場合、高用量処置群(第2群)では3匹中2匹で、低用量投与群(第3群)では3匹中1匹で観察された(図28)。このような髄液細胞増加症は、90日目に高用量処置動物1匹(RA2203)を除く全ての動物において解決された。
【0288】
さらに、脊髄後索の軸索変性症が存在する(データは示されていない)。
【0289】
現在の低用量は1.9×1011GC/g脳重量に相当し、これは、提案された臨床的高用量、9.4×1010GC/g脳重量に近い。現在の高用量は、5.6×1011GC/g脳重量に相当し、これは臨床用量の約5倍である。
【0290】
抗hIDS抗体のELISAアッセイを、上記の動物から採取した血清試料に対して行った。60日目に得られた結果を、図29にプロットし、下の表2に示す。CSF試料を、抗hIDS抗体のELISAアッセイを介して評価のために20倍に希釈した。結果を表3に示す。低用量処置群(第2群)では、血清及びCSFの両方において、高用量群(第3群)と比較して免疫原性の低下が観察された。hIDSに対する免疫原性は、非処置対照では観察されなかった。
【表2】
【表3】
【0291】
実施例10:免疫抑制されたアカゲザルでくも膜下腔内注射されたAAV9.CB7.hIDSの非臨床の薬理学/毒物学研究
アカゲザルにおける、ヒトIDSをコードするベクターであるAAV9.CB7.hIDSの2用量のくも膜下腔内投与の安全性に対する化学誘発免疫抑制(IS)の影響を評価するためにデザインした研究を行う。この研究は、実施例2に記載のとおりであり、下に注記する改変を伴う。
【0292】
対照品投与動物を、実施例9と同様に繰り返す。試験品は、1~2群にランダム化されたアカゲザル6匹に後頭下穿刺によって投与する。第1群のマカクは、5×1013ゲノムコピー(GC)(N=3)という高用量で試験品を与えられる。第2群のマカクは、1.7×1013GC(N=3)という低用量で投与された試験品を与えられる。血液及び脳脊髄液は、一般的な安全パネルの一部として収集する。第1群及び第2群のサルは、ミコフェノレートモフェチル(MMF)を、AAV9.CB7.hIDS投薬の少なくとも2週間前、投薬後60日まで、及びラパマイシンを投薬の少なくとも2週間前、及び投薬後90日まで(+/-3日)与えられる。両方の免疫抑制剤の血漿トラフレベルをモニターし、用量は、ミコフェノラート酸(MPA、MMFの活性代謝産物)及びラパマイシンについては10-15μg/Lについて2~3,5mg/Lの範囲を維持するように調節する。
【0293】
ベクター投与後90±3日でこれらの研究の生存段階が完了した後、マカクを剖検して、総合的な組織病理学的検査のために組織を採取する。リンパ球を血液、脾臓、及び骨髄から採取し、剖検時にこれらの組織における細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の存在を調べる。
【0294】
A.材料
試験品、対照品、その調製は実施例9に記載されている。
【0295】
B.試験システム
Macaca mulatta(アカゲザル)を実施例9に記載したように利用し、維持する。6匹の動物(6匹の雄)のコホートをこの研究に使用する。動物には最低のIDから最高のIDまでの1-6の番号を割り当てる。番号1~6のランダムなリストを、random.orgによって生成し、一旦、無作為化された動物は次のように順番に割り当てる:第1群に3匹の動物を割り当てる。第2群には3匹の動物を割り当てる。
【0296】
C.一般的なデザイン手順
試料サイズと群の指定:
アカゲザル6匹を研究に使用する。動物を表4に列挙するように2つの研究群に分ける。6匹の動物全てに、後頭下穿刺によるIT注射を与える。
【表4】
【0297】
免疫抑制レジメンを、第1群及び2の全ての動物に投与する。動物の各群についての薬物の組合せ、用量及び投与スケジュールを表5に要約する。動物を、全身性抗生物質及び/または抗真菌剤を用いて処置して、免疫抑制が起こった場合、免疫抑制に伴う日和見感染を処置してもよい。
【0298】
動物には、ミコフェノレートモフェチル(MMF)とラパマイシンの併用療法を施す。両方の免疫抑制剤とも、麻酔をかけられたか、または意識下イス拘束のマカクに、経口摂食管または経鼻栄養チューブを通じて投与する。麻酔した動物は、絶食はさせず、チューブからの胃内容物の吸引を可能にする(正しい配置確認)。免疫抑制レジメンは、試験品のくも膜下腔内投与の少なくとも2週間前に開始する。IS薬物の開始投与量は、他の研究のために以前にGTPで使用された用量で、アカゲザルで以前に記載された有効性に基づいており、血漿トラフレベルのモニタリング時に調整される。
【0299】
免疫抑制の最初の日の動物の体重を用いて初期用量を計算する。動物は毎朝秤量し、体重変化が+/-10%を超えた場合、用量を再計算する。
【0300】
トラフレベルは、最初は週に2回、そして60日後には1週間に1回(ラパマイシンのみが投与される場合)モニターする。
【表5】
【0301】
c.IS薬物
ラパマイシンは、くも膜下腔内投与の少なくとも14日前、及び研究の90日目(それを含む)(+/-3日目)まで、0.5~4mg/kg PO、SIDの用量で投与される。開始用量は1mg/kgである。ラパマイシンの投与量は、試験期間中、可能な限り10~15μg/Lに近い目標トラフレベルを維持するように計算される。目標トラフの薬物レベルが1週間以内に達成されない場合、用量は0.25~2mg/kg用量間隔で滴定される。安定化期間の後、トラフレベルが2回の連続的な採血について低すぎる場合、調整が行われる。トラフレベルが高すぎる場合は、即座に調整を行う。
【0302】
MMFは、くも膜下腔内投与の少なくとも14日前、及び研究の第60日まで(それを含む)50mg/kg PO、BIDの開始用量で投与される。次いで、トラフレベルの結果を用いて、5~25mg/kgの用量間隔で滴定される用量を調整する。MPAのトラフレベルは、できるだけ2~3.5mg/Lに近い値に維持する。安定化期間の後、トラフレベルが2回の連続的な採血について低すぎる場合、調整が行われる。トラフレベルが高すぎる場合は、即座に調整を行う。
【0303】
d.IS薬物の処方
MMFは、200mg/mLの濃度で市販の経口溶液を用いて試験系に経口投与される。
【0304】
ラパマイシンは、以下の市販の製剤の1つ以上を用いて試験系に経口投与される:0.5mgのコーティング錠剤;1mgのコーティング錠剤;2mgのコーティング錠剤。
【0305】
丸剤製剤を投与する場合、錠剤は以下のように調製される:
各ラパマイシン丸剤は、室温または温水のいずれかの希釈剤(必要に応じて温水を使用して溶解を加速する)に入れて、錠剤の外側コーティングを溶解させる。約10mlの水を使用する。丸剤は黄色のコーティングの下は白い。外側のコーティングが溶解したら、各丸剤を乳鉢と乳棒を用いて細かい粉末になるまで粉砕し、均一な溶液を作る。錠剤(複数可)を溶解するために使用される希釈剤の全量を研究の記録に記録する。
【0306】
全混合物を投与シリンジに引き込み、本実施例に前に記載したとおりOGまたはNGチューブを通じて投与する。
【0307】
MMF及び/またはラパマイシンの投与に続いて、経口胃管または経鼻胃管を飲料水でフラッシュする。フラッシュ量は研究の記録に記録する。
【0308】
MPS IIマウスにおけるAAV9.CB7.CI.hIDSの脳室内(ICV)送達の有効性を評価し、最小有効用量を決定するために、以下の研究を行った。有効性は、ベクターに対する薬力学的応答(酵素的に活性なhIDSタンパク質の生成)の証拠及びMPS II疾患(IDS欠損)の行動及び組織学的発現に対する効果に基づく。
【0309】
実施例11:MPS IIのマウスモデルにおける脳室内AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの有効性
I.要約
ハンター症候群、ムコ多糖症II型(MPS II)は、グリコサミノグリカン(GAG)デルマタン及びヘパラン硫酸のリソソーム異化作用に関与する酵素であるイズロネート-2-スルファターゼ(IDS)の欠乏によって引き起こされるX連鎖遺伝性障害である。この欠損は、分解されていないGAGの細胞内蓄積をもたらし、最終的に進行性の重度の臨床表現型に至る。遺伝子治療及び体細胞治療を含む、障害の可能性のある治療戦略を特定するために、過去2~30年で多くの試みがなされてきた。ヒトIDSを発現するAAV9ベクターであるAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの単一の脳室内(ICV)投与の短期間(21日間)の生体内分布、発現及び活性を、MPS IIマウスモデルにおいて評価するために研究を行った。MPS IIのマウスモデルにおいて、3ヶ月の注射後(pi)観察期間を有する単回用量として、ICV経路を通じて投与されたAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの最小有効用量(MED)を決定するために、さらなる研究をデザインして、実施した。この研究にはまた、いくつかの安全性エンドポイント(導入遺伝子及び脳組織病理学に対する体液性免疫応答の評価)も含んでいた。
【0310】
AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGを、0日目に、3×10GCまたは3×10Cまたは3×1010GCの用量で、2~3月齢のC57BL/6IDSγ/-(MPS II)マウス(16匹の雄/群)に脳室内投与した。21日目に、群3~5(表6)からのマウスを安楽死させ、CNS IDS活性、生体内分布及び抗hIDS免疫原性の評価のために剖検した。60~89日の間に、野生型マウス及び未処置MPS IIマウスを、一連の神経行動アッセイ(オープンフィールド、Y迷路、文脈恐怖条件付け及び新規物体認識)で評価し、これらのエンドポイントにおける疾患状態の効果を特徴付けた。これらの初期アッセイの結果に基づいて、長期記憶(文脈恐怖条件付け及び新規物体認識)を評価した2つのアッセイにおいて、残りの処置マウスを評価した。AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投薬の約3ヶ月後、残りのマウスを全て安楽死させ、剖検した。血清及びCSFを、IDS活性及び抗IDS抗体の血清について評価した。肝臓及び心臓を、GAG組織含有量について評価した。脳全体のリソソーム蓄積(一次GAG蓄積及び二次ガングリオシド蓄積の両方)を、LIMP2及びGM3の免疫組織化学染色によって評価した。組織ヘキソサミニダーゼレベルは、MPS IIマウス及びMPS II患者においてより高く、リソソーム恒常性障害のバイオマーカーであることが示されている。組織のヘキソサミニダーゼの酵素活性を、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBG投与に対して二次的なリソソーム機能のバイオマーカーとして測定した。脳の組織病理学を評価して、有効性と安全性の両方を検討した。
【表6】
【0311】
最大3×1010GC(ddPCR法による5.2×1010GC)でのC57BL/6IDSγ/-(MPS II)マウスへのAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投与は、臨床的徴候も死亡もなしで良好に耐容され、CNSならびに末梢組織、特に肝臓に分布し、これによってCSFから末梢血への注射されたウイルス粒子の部分的再分布が実証された。
【0312】
ベクターの検出ならびに21日目及びCSF3ヶ月piの脳におけるIDS活性の用量依存的増大(最高用量(脳組織)では野生型レベルに近い酵素活性を有する)によって証明されたとおり、かつ中及び高用量(CSF)では野生型より高いことに匹敵する、脳のIDS遺伝子発現の証拠があった。3ヶ月piの全ての用量で、CNSにおけるLIMP2及びGM3染色の減少によって示されるように、リソソーム区画の用量依存性の正常化があった。H&E染色された脳切片では、グリア空胞化の量及び頻度、ならびにMPS II CNS表現型の指標である両親媒性物質のニューロン蓄積における用量依存的な減少も観察された。H&E染色切片におけるCNSリソソーム含有量の変化及び疾患関連形態の改善に対応して、長期記憶の1つの尺度(新規物体認識、NOR)では改善がみられたが、他の文脈恐怖条件付け(CFC)ではみられなかった。NORにおける改善において明らかになった明確な用量応答はなかった。
【0313】
血清IDS活性の用量依存的増大はまた3ヶ月piでも観察され、酵素活性は中用量及び高用量で野生型に匹敵するかまたはそれ以上であった。血清中のIDS活性の正常化を反映して、処理されたMPS IIマウスは、肝臓及び心臓におけるヘキソサミニダーゼ活性及びGAG含有量の用量依存的な減少を有した。肝臓及び心臓におけるヘキサミニダーゼ活性及びGAG含有量において、肝臓ヘキソサミニダーゼ及びGAGのレベルは、肝臓の全ての用量レベルで、ならびに心臓の中及び高用量で正常化した。高度に形質導入された肝臓(二倍体ゲノムあたり1~10個のGC)はおそらく、血清中のIDSの分泌及び高用量での心臓の交差是正のための蓄積臓器として機能した。
【0314】
ICV投与手順自体に関連する変化が数匹のマウスで観察されたが、脳内に試験品関連毒性の証拠はなかった。導入遺伝子に対する体液性免疫応答は軽微であり、これらの動物の健康または脳組織病理学に影響を及ぼさずに一部の中及び高用量動物においてのみ観察された。
【0315】
結論として、AAV9.CB7.CI.IDS.rBGは、全ての用量レベルでMPS
IIマウスにおいて十分に耐容され、MPS IIのCNS及び末梢パラメータの両方の改善に関連するIDSレベル(発現及び酵素活性)の用量依存的増大をもたらした。投与された最低用量3×10GC(5.2×10GC ddPCR法)が、この試験における最小有効用量であった。
【0316】
II.材料及び方法
A.AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGとして同定された試験品は、qPCRによって測定された1.18×1013GC/mL及びddPCRによって測定された2.057×1013GV/mLの力価を有する透明で無色の液体である。エンドトキシンは1.0EU/mL未満である。純度は、100%である。試験品は≦60℃で保存した。
【0317】
B.投与量の処方及び分析
1.試験品の調製:
試験品を、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、各用量群について適切な濃度にした。希釈したベクターを湿った氷上に保ち、希釈後4時間以内に動物に注射した。
【0318】
C.試験システム
Mus musculus C57BL/6J IDSγ/-(MPS II表現型、N=56雄)及びC57BL/6J IDSγ/+(野生型表現型、N=8雄)を、Jackson Laboratories(ストック番号024744)からもともと得られたストックからTranslational Research Laboratories(TRL)Vivariumで繁殖させた。動物は0日目(投薬日)に2~3ヶ月
齢であった。
【0319】
D.実験デザイン
1.研究W2356
0日目に、3~5群(16匹の雄/群、W2356及びW2301の研究を合わせた)の全ての動物に、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGをICV投与した。21日目に、3~5群のマウス/群(8匹の雄/群、W2356研究)を安楽死させ、剖検し、脳、心臓、肺、肝臓、及び脾臓を採取して、脳IDS活性及び組織ベクター生体内分布の評価のために、ドライアイス上で急速凍結した。
【表7】
【0320】
2.研究W2301
0日目に、群3~5(16匹の雄/群)の全ての動物に、AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGをICV投与した。2~3ヶ月pi:オープンフィールド活動、Y迷路活動、文脈恐怖条件付け、及び新規物体認識を含む一連の神経行動アッセイで、第1群及び2(8匹のマウス/群)の動物を評価して、これらのエンドポイントに対する疾患状態(MPS II遺伝子型)の影響があるか否かを決定した。明らかな疾患の効果が観察された場合、3-5群由来の8匹のマウス/群もそのアッセイで評価して、ベクターによる処置が応答に影響するか否かを判定した。
【0321】
1-5群(神経行動アッセイで評価した同じ動物、8匹のマウス/群)の動物を深く麻酔して(ケタミン-キシラジン)、血清及びCSF IDS活性及び血清抗hIDS抗体の評価のために、CSF(大槽穿刺)及び血液(心臓穿刺)を収集した。次いで、マウス
を安楽死させ、剖検し、脳組織病理学のために試料を収集した;脳リソソーム蓄積(免疫組織化学及び画像分析によって評価);肝臓及び心臓のヘキソサミニダーゼ活性;ならびに肝臓及び心臓のGAG含有量(組織含有量によって評価)。
【表8】
【0322】
3.試験品の投与
ICV経路は、侵襲が最小であり、(首の皮膚及び筋肉の切開を必要とする大槽の経路と比較して)マウスで外科手術を必要としないので選択した。この研究には、マウスの活動記録を含むいくつかの神経行動終点が含まれていたため、生存手術を伴わない非侵襲的注射が好まれた。マウス及び大型動物の両方において、AAV9の脳脊髄液(ICVまたは大槽)への単回注射は、CNS全体の中のニューロンを標的とすることが本発明者ら及び他者によって以前に実証された(Dirren at al.、Hum.Gene.Therapy 25、109-120(2014);Snyder et al.、Hum.Gene Ther 22,1129-1135(2011)、Federici et al.、Gene Therapy 19、852-859(2012)、Haurigot et al.J Clin Invest 123,3254-3271(2013)、Bucher et al.Gene Therapy 21,522-528(2014)、Hinderer et al.、Mol Ther:22,2018-2027(2014)及びMol Ther-Methods&Clin Dev 1、14051(2014)]。Haurigot et al.、(2013)によって発表されたデータは、別のリソソーム蓄積症の状況におけるICV注射と大槽内注射と
の間の比較に特に取り組んでおり、2つの投与経路が導入遺伝子の発現及び生体内分布に関して等価であることを示している。
【0323】
容積制限(成体マウスにおけるICV注射については5μL)に起因する最大実現可能用量は、マウス1匹あたり約6×1010GC(qPCR滴定方法)であった。他のMPSの処置のためのGTPで得られた以前の結果に起因して、及びより大きな動物への拡張性に関する懸念に起因して、ベクターを、マウス1匹あたり3×1010、3×10、または3×10GC(qPCR滴定方法)を注射するように希釈した。ddPCR法に基づいて、実際の用量はマウス1匹につき5.2×1010、5.2×10、及び5.2×10GCであった。若年成体のC57Bl6マウスの平均脳質量(0.4g)を考慮すると(Biology of the laboratory mouse by the staff of the Jackson laboratory(ジャクソン研究室のスタッフによる生物実験)、第2改訂版、Earl L.Green Editor)、これは最高用量では脳質量1グラムあたり1.31×1011GCと等価であり、最低投与量では、脳質量1グラムあたり1.31×10GCに等価である。
【0324】
ベクターを右側脳室にICV投与した。マウスをイソフルランで麻酔した。各麻酔されたマウスは、頭の後ろのたるんだ皮膚によってしっかりと把持され、3mmの深さまで挿入されるように調整された26ゲージの針をはめたハミルトンシリンジで十字縫合の前方及び外側にフリーハンドで注射された。注射方法は、染料またはサブスタンスPを右側脳室に注射することによって、マウスにおいて以前に確認された。成功は、青色染料の視覚化、または脳脊髄液への注射後のマウスのかゆみ行動(サブスタンスP投与後)として定義された。
【0325】
F.手順、観察及び測定
罹患率/死亡率について動物を毎日モニターした。動物は、一般的な外観、毒性の徴候、苦痛及び行動の変化について、毎日のケージ側視覚観察によってモニターした。これらのデータは、この非GLP研究では記録しなかった。
【0326】
60~90日目(ベクター投与後2~3ヶ月)に、研究W2356の第1群及び第2群の8匹の動物に行動及び神経認知試験を行い、これらのエンドポイントに対する遺伝子型の効果を判定した。遺伝子型の効果が確認された場合、研究W2356群3-5由来の8匹の動物を用いて追加の試験を行い、処置の効果があるか否かを判定した。全ての行動手順は、遺伝子型及び群に対して盲検であるオペレーターが実施した。
【0327】
a)一般的な移動(オープンフィールド活動):
オープンフィールドにおける自発的活動は、Photobeam Activity System(PAS)-オープンフィールド(San Diego Instruments)を用いて測定した。この評価では、マウスを単回の10分間のトライアルのためにアリーナに個別に配置した。一般的な移動及び飼育活動を評価するために、水平及び垂直のビームブレイクを収集した。
【0328】
b)短期記憶(Y迷路活動):
Y Maze Spontaneous Alternation(Y迷路自発的交替行動)は、新しい環境を探索するための齧歯類の意欲を測定するための行動試験である。試験は、互いに120°の角度をなす3つの白色の不透明なプラスチックアームを備えたY字型迷路で行われる。迷路の中心に導入された後、動物は3つのアームを自由に探索することが許される。げっ歯類は、典型的には、以前訪れたアームに戻るのではなく、迷路の新しいアームを調べることを好む。複数のアームのエントリーの経過にわたって、対象は、最近あまり訪れられなかったアームに入る傾向を示すはずである。交替行動のパーセ
ンテージを計算するために、アームエントリーの数及びトライアドの数を記録する。エントリーは、アーム内に存在する四肢全てとして定義する。この試験を使用して、マウスのトランスジェニック系統における認知障害を定量化し、認知に対するそれらの影響について新規化学物質を評価する。海馬、中隔、基底前脳及び前頭皮質を含む脳の多くの部分がこのタスクに関与する。この研究では、標準的なY字型迷路(サンディエゴ・インスツルメンツ)を使用し、アームエントリーの順序及び数を8分間のトライアル試験の間に記録した。自発的交替行動(SA)は、前に進入したアームに直ちに戻ることなく、迷路の3つのアーム全てに連続して入るものとして定義した。全アームエントリー(AE)は運動活動の尺度として収集された。自発的交替行動率は%SA=(SA/(AE-2)×100)として計算した。
【0329】
c)長期記憶(文脈恐怖条件付け):
これらのタスクでは、動物は、嫌な無条件刺激(US)通常はフット・ショックとの時間的関連のために、ある音調のような新しい環境または感情的に中立な条件付け刺激(CS)を恐れることを学習する。同じコンテクストまたは同じCSに曝露された場合、条件付けされた動物はフリージング行動を示す(Abel et al.、Cell 88:615-626,1997)。訓練の日に、マウスは、300秒間、ユニークな条件付けチャンバ(Med Associates Inc)を探索することが可能であった。300秒の期間のうち248~250秒の間に、信号なしの1.5mAの連続フット・ショックが送達された。チャンバ内でさらに30秒後、マウスをそれらのホームケージに戻した。24時間後、訓練が行われた同じチャンバ内で、空間的状況の想起を5分間連続して評価した。フリージング行動をスコアリングするために使用されたソフトウェア(Freezescan、CleverSys Inc)を用いて記憶を評価した。訓練セッションの2.5分の前刺激期(フット・ショックの投与前)におけるフリージング率を、チャンバへの再曝露時のフリージング率と比較する。フリージングの増大は、フット・ショックの想起を示す(すなわち、学習が起こり、動物はチャンバをフット・ショックと関連付ける)。
【0330】
d)長期記憶(新規物体認識):
新規物体認識(NOR)タスクを使用して、CNS障害のげっ歯類モデルにおける認知、特に認知記憶を評価する。この試験は、齧歯動物が慣れた物体よりも新規物体を探索するために多くの時間を費やすという自発的な傾向に基づいている。新しい対象を探究する選択は、学習と認識の記憶の使用を反映している。新規物体認識タスクは、一般に高さ及び容積は一貫しているが、形状及び外観が異なる2つの異なる種類の物体を有するオープンフィールドアリーナにおいて行われる。習慣化の間、動物は、空のアリーナを探索することが許される。慣れてから24時間後、動物は、同じ距離に置かれた2つの同一の物体のある、慣れたアリーナに曝される。翌日、マウスは、長期認識記憶を試験するために、慣れた物体及び新規物体の存在下でオープンフィールドを探索することを可能された。各物体を探索するのに費やされた時間及び識別指数パーセンテージを記録する。この研究では、実験装置は、白い床の灰色の長方形のアリーナ(60cm×50cm×26cm)で構成され、2つの独特の物体は、3.8×3.8×15cmの金属バーと3.2cmの直径×15cm長のPVCパイプであった。5日間の馴化段階の間に、マウスを1日あたり1~2分間取り扱い、空のアリーナを5分間/日で探索することを可能にした。訓練段階の間に、2つの同一の物体をアリーナに入れ、マウスが15分間、その物体を探索することを許可した。想起段階では、マウスを、1つの慣れた物体と1つの新規物体を有するアリーナに戻した。正常マウスは、新規物体を優先的に探索する。全てのセッションが記録され、物体を探索するのに費やされた時間は、オープンソースの画像解析プログラム[Patel et al FrontBehav Neurosci 8:349(2014)]によってスコア付けした。
【0331】
I.実験室の評価
1.血清及びCSFにおけるIDS活性
血清及びCSF IDS活性のための血液を、注射後約3ヶ月の剖検で収集した。血清を血液から分離し、血清及びCSFをドライアイスで凍結し、分析するまで-80℃で保存した。IDS活性は、10μLの試料を、0.01M酢酸鉛を含む、0.1M酢酸ナトリウムに溶解した1.25mMの4-メチルウンベリフェリル(MU)a-L-イドピラノシイズロン酸2-硫酸塩(Santa Cruz Biotechnology)20μL(pH5.0)と共にインキュベートすることによって測定した。37℃で2時間インキュベートした後、45μLのMcIlvain緩衝液(0.4Mリン酸ナトリウム、0.2Mクエン酸ナトリウム、pH4.5)及び5μLの組換えヒトイズロニダーゼ(Aldurazyme、0.58mg/mL、Genzyme)を反応混合物に添加し、37℃で一晩インキュベートした。混合物をグリシン緩衝液(pH 10.9)中で希釈し、放出された4-MUを、遊離4-MUの標準希釈と比較して蛍光(励起365nm、発光450nm)によって定量した。
【0332】
2.血清抗IDS抗体
心臓穿刺により、研究W2356(21日目)及び研究W2301(約3ヶ月)の終末検体終点で、血清抗hIDS抗体の測定のための血液を採取した。血清を分離し、ドライアイスで凍結し、分析するまで-80℃で保存した。ポリスチレンプレートを、PBSで5μg/mLの組換えヒトIDS(R&D Systems)で一晩コーティングし、pH5.8に滴定した。プレートを洗浄し、中性PBS中の2%ウシ血清アルブミン(BSA)中で1時間ブロックした。次いで、プレートを、PBSで1:1000に希釈した血清試料とともにインキュベートした。結合した抗体を、2%BSAを含むPBS中で1:10,000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウス抗体(Abcam)で検出した。アッセイは、テトラメチルベンジジン基質を用いて発色させ、2N硫酸で停止した後、450nmの吸光度を測定した。力価は、1:10,000の力価で適宜割り当てられた陽性血清試料の連続希釈により生成された標準曲線から決定した。
【0333】
QIAmp DNAミニキットを用いて高用量群の組織からDNAを単離し、以前に記載されているように(Bell et al.、2006)TaqMan PCRによってベクターゲノムを定量した。全細胞DNAを、QIAamp DNAミニキット(Qiagen、Valencia、CA、USA)を用いて組織から抽出した。抽出されたDNAにおけるベクターゲノムの検出及び定量は、rBGポリA配列を標的とするプライマー及びプローブセットを用いて、リアルタイムPCR(TaqMan Universal Master Mix、Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)によって行った。
フォワードプライマー:5V-TTCCCTCTGCCAAAAATTATGG-3V,配列番号16;
リバースプライマー:5V-CCTTTATTAGCCAGAAGTCAGATGCT-3V,配列番号17;
プローブ:6FAM-ACATCATGAAGCCCC-MGBNFQ,配列番号18。
【0334】
PCR条件は、鋳型として100ngの総細胞DNA、300nMのプライマー及び200nMのプローブを各々設定した。サイクルは、95℃で10分間、40サイクルの95℃で15秒間、及び60℃で1分であった。100ngのDNAあたり1×10のゲノムコピーの値を計算し、1細胞あたり1つのゲノムコピーに相当した。
【0335】
H&E染色は、標準プロトコールに従って、3ヶ月間pi剖検からのホルマリン固定パ
ラフィン包埋吻側脳切片で行った。脳のH&E切片を、有資格の獣医病理学者によって毒性の証拠について評価し、MPS II表現型に関連する所見の範囲を特徴付けた。その後、病理学者は、処置の知識なしにスライドを再検査し、グリア細胞質空胞形成、ニューロンの細胞質腫脹及び両親媒性物質の蓄積を含むMPS II表現型の組織学的発現をスコア付けした。LIMP2及びGM3について陽性に染色された細胞の数を、訓練されたGTP形態学コア要員によるW2356研究の各動物由来の2~4の脳切片において定量した。
【0336】
GM3(凍結切片):GM3免疫染色を、一次抗体としてモノクローナル抗体DH2(Glycotech、Gaithersburg、MD)を用い、続いてビオチン化二次抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch、West Grove、PA)を用いて、記載したように30μm厚の浮遊凍結切片に対して行い、Vectastain Elite ABCキット(Vector Labs、Burlingame、CA)で検出した。染色切片をガラススライド上に移し、FluoromountG(Electron Microscopy Sciences、Hatfield、PA)でマウントした。
【0337】
LIMP2(ホルマリン固定切片):ホルマリン固定パラフィン包埋脳組織からの6μm切片に対してLIMP2免疫染色を行った。切片をエタノール及びキシレンシリーズで脱パラフィンし、抗原回収のために10mmol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)中で、6分間マイクロ波で煮沸し、PBS+0.2%Triton中の1%ロバ血清で15分間ブロックした後、ブロッキング緩衝液で希釈した一次抗体(1時間)及び標識二次抗体(45分)と連続インキュベーションした。一次抗体は、ウサギ抗LIMP2(Novus Biologicals、リトルトン、CO、1:200)であり、二次抗体は、FITCまたはTRITC標識ロバ抗ウサギ(Jackson Immunoresearch)であった。
【0338】
上記で得られた組織試料(切片b)を、TissueLyser(Qiagen)を用いて溶解緩衝液(0.2%Triton-X100,0.9%NaCl、pH4.0)中でホモジナイズした。試料を凍結融解し、遠心分離により清澄化した。タンパク質をBCAアッセイによって定量した。IDS活性は、蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリルα-L-イドピラノシイズロン酸2-硫酸塩(Santa Cruz Biotechnology)を用いて測定した。ヘキソサミニダーゼ活性及びGAG濃度は、記載されている標準的な手順(Hinderer et al.2015)を用いて測定した。
【0339】
IV.コンピュータ化されたシステム
オープンフィールドについては、データをExcelに入力し、Graphpad Prismを用いて分析した。Y迷路については、データをExcelに入力し、Graphpad Prismを用いて分析した。CFCの場合、Freezescan、CleverSys Incを使用した。NORの場合、MATLAB実装及びユーザガイド:www.seas.upenn.edu/~molneuro/autotyping.htmlを利用した。
【0340】
V.統計分析
処置されたマウス及び未処置のマウスにおける組織GAG含有量、Hex活性及び脳蓄積病変を、一方向ANOVA、続いてダネットの多重比較試験を用いて比較した。オープンフィールド及びY迷路データを、スチューデントのt検定で分析した。二元配置ANOVA及びダネットのポストホック分析を、恐怖条件付けデータに適用して、トライアル及び遺伝子型の影響を評価した。新規物体の認識試験では、新規物体対慣れた物体を探索する時間を、各グループのt検定を使用して、次に多重比較のためのボンフェローニ補正を
使用して比較した。
【0341】
VI.結果
死亡は観察されなかった。ベクターによる処置に関連して考慮された臨床的観察はなかった。
【0342】
一般的な移動活動を評価するために、オープンフィールド試験を実施した。IDSγ/-マウスは、野生型同腹仔と比較してオープンフィールドアリーナで正常な探索活動を示した(図9A~9C)。
【0343】
オープンフィールドアリーナ(水平運動)における野生型及びIDSγ/-(MPS II)マウスの能力の比較を行った(図9A)。10分間のトライアル中の自発的活動は、水平運動を捕捉するXY軸ビームブレイクに基づいて自動的に記録された。WTマウスとMPS IIマウスとの間に差は見られなかった。
【0344】
オープンフィールドアリーナ(垂直運動または飼育)における野生型及びIDSγ/-(MPS II)マウスの能力の比較を行った(図9B)。10分のトライアル中の自発的活動は、マウスの後肢の立ち上がりをとらえるZ軸ビームブレイクに基づいて自動的に記録された。WTマウスとMPS IIマウスとの間に差は見られなかった。
【0345】
オープンフィールドアリーナ(センター活動)における野生型及びIDSγ/-(MPS II)マウスの能力の比較を行った(図9C)。10分間のトライアル中の自発的活動は、不安のマーカーとして、オープン領域で費やされた時間をとらえるセンタービームブレイクに基づいて自動的に記録した。WTマウスとMPS IIマウスとの間には有意差は認められなかった。
【0346】
短期記憶を評価するために、Y-Maze(Y迷路)活性を分析した。8分間のY迷路試験セッション中の野生型及びIDSのγ/-(MPS II)マウスの比較。WTマウスとMPS IIマウスとの間のアームエントリーの総数には差異は見られなかった。IDSγ/-マウスはまた、野生型同腹仔と比較してY迷路において同様の数のアームエントリー及び同等の自発的交替行動を有しており、疾患過程が短期記憶に影響しないことを示した(図9D)。
【0347】
長期記憶を評価するために、文脈恐怖条件付け(FC)を行った。文脈恐怖条件付けを用いた認知に対する処置効果の評価を、野生型、未処置及び処置MPS IIマウスで試験した。フリージングパーセントを、y軸上にプロットした(図6B)。学習前のフリージング行動(Pre)を、各群の条件付け後のフリージング行動(Probe)と比較する(図6B)。FCアッセイでは、全てのマウス(IDSγ/-及び野生型)は、試験の想起段階でのフリージング時間の割合の増大を示し、学習が起こったことを示したが、IDSγ/-マウスは、野生型同腹仔に対してフリージングの低下を示した(データは示されていない)。AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで処置したマウスでは、正常及び未処置のIDSγ/-マウスの差が小さいせいで、処置関連効果を評価することは困難であったが、文脈恐怖条件付けに応答して明らかな改善はなかった(図6B)。
【0348】
長期記憶をさらに評価するために、新規物体認識を行った。新規物体認識を用いた認知に対する処置効果の評価を、野生型、未処置及び処置されたMPS IIマウスで試験した。野生型、未処置及び処置されたIDSγ/-(MPS II)マウスについての新規な物体対慣れた物体を探索するのに費やされた時間の比較を行った。新規物体の探索に費やされた時間の増大(慣れた物体の記憶を示す)は、処置された全てのマウス群において見られたが、中用量群のみにおいて統計的に有意であった(図6C)。野生型マウスは、
期待されるように、新規物体を優先することを示したが、IDSγ/-は、慣れた物体の記憶の欠如(長期間の記憶障害)を示す傾向は示さなかった。くも膜下腔内AAV9遺伝子治療は、IDSγ/-(MPS II)マウスで観察されたNOR欠損の改善をもたらしたが、明確な用量反応はなかった。新規物体に関する優先は、投薬群間の行動障害の相対的救済度を比較するのに研究が十分なほど有効ではなかったが、中用量コホートにおいてのみ統計的に有意であった(図6C)。
【0349】
野生型の未処置及び処置MPS IIマウスにおける脳IDS活性(21日目)の用量依存的増大が観察された(図2B)。この初期の時点では、高用量群のみが野生型に類似したレベルを有していたが、その発現がまだ最大に達していないと予想された。
【0350】
野生型、未処置及び処置MPS IIマウスにおけるIDS活性の用量依存的増大(90日目)が、3ヶ月piの剖検で採取したCSFにおいて観察された(図2A)。本質的に、未処置のIDSγ/-(MPS II)マウスではIDS活性は検出されなかった。
【0351】
さらに、野生型、未処置及び処置MPS IIマウスにおける血清IDS活性(90日目)の用量依存的増大が、3ヶ月piの剖検で検出された(図2C)。本質的に、未処置のIDSγ/-(MPS II)マウスの血清において活性は検出されなかった。
【0352】
3ヵ月piの時点で、野生型、未処置及び処置されたMPS IIマウスの肝臓(図4C)及び心臓(図4D)の両方において、ヘキソサミニダーゼ活性(90日目)を用量依存的に正常化した。二次的に増大した酵素活性のこの正常化は、リソソームのホメオスタシスの回復を示した。野生型、未処置及び処置MPS IIマウスにおける肝臓及び心臓のGAG蓄積を検討した。3カ月piで、GAGの組織含有量は、心臓(図4B)及び肝臓(図4A)の両方で用量依存的に減少し、中及び高用量レベルでの野生型組織含有量に匹敵した。肝臓は全ての用量で是正され、心臓は中及び高用量で最も部分的改善を示した。
【0353】
さらに、ICV AAV9.CB7.CI.hIDS.rBGで処理したMPS IIマウスにおいて、ヒトIDSに対する抗体応答で示される体液性免疫原性を評価した。ヒトIDSに対する抗体は、21日目及び90日目の両方において、中及び高用量コホートにおいてのみ数匹の動物の血清において検出された(図8)。どちらの時点においても、大部分の動物は体液性免疫応答を検出できなかった(対照と同様)。中用量の動物の約3分の1及び動物群の約20%は、バックグラウンドより高い抗体レベルを有していた。応答は高用量群ではあまり顕著でなかった。図8は、両方の剖検エンドポイントデータを集計して示す。
【0354】
脳には処置関連の組織病理学的所見はなかった。この研究に存在する全ての顕微鏡所見は、この種の動物の正常な背景、年齢及び性別、疾患モデルに関連するか、またはベクター投与手順に関連すると考えられた。
【0355】
細胞質空胞化に基づくスコアリングシステムを確立し、処置または表現型の知識なしに全ての試験動物のその後の再評価に使用した。核の偏心または末梢変位を伴う大きな淡明な空胞を特徴とする、グリアにおける細胞質空胞化は、IDSγ/-遺伝子型の特徴的な特徴であった。評価された脳領域における空胞化の量には地域的なばらつきがあった。両親媒性物質の神経細胞蓄積は、あまり顕著ではなく、未処置のIDSγ/-マウスにおいてのみ観察された。AAV9.CB7.CI.hIDS.RBGを用いた処置は、検査した全ての脳領域において、グリア細胞の空胞化及び両親媒性物質のニューロン蓄積の量及び頻度を減少させた。累積病理学スコアは、グリア及びニューロン病変における処置関連改善を示す(図27)。
【0356】
野生型、未処置及び処置MPS IIマウスにおけるGM3及びLIMP2の免疫組織化学染色を行った。未処置のIDSγ/-マウスの脳は、リソソーム膜タンパク質LIMP2の蓄積、ならびにGM3を含むガングリオシドの二次蓄積を含む、ニューロンにおけるリソソーム蓄積の明らかな組織学的証拠を示した(図5A~5J)。画像は、全ての用量でリソソーム蓄積が減少したことを示し、高用量群動物は本質的にWT対照と類似していた(図5A~5J)。GM3及びLIMP2陽性細胞における用量依存的な減少の定量は、野生型、未処置及び処置MPS IIマウスで行った。全ての用量でリソソーム蓄積の有意な減少があり、高用量群動物は本質的にWT対照と類似していた。処理したマウスは、減少したLIMP2及びGM3染色によって証明される神経細胞蓄積病変における用量依存的減少を示した(図5K及び5L)。
【0357】
高用量群(21日目)からのMPS IIマウスにおけるAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGの生体内分布を分析した。生体内分布データは、脳組織が、評価された末梢組織、特に肝臓(図3)と同様に、形質導入されたことを示した(二倍体ゲノムあたり1~10GC)。肝臓及びCNSにおける濃度は、1~10個のGC/二倍体ゲノムの間であった;肺での濃度は、0.1~1GC/二倍体ゲノム間で、ならびに心臓及び脾臓の濃度は、0.1GC/二倍体ゲノム未満であった。
【0358】
VIII.結論
最大3×1010GC(5.2×1010GC ddPCR)までのC57BL/6IDSγ/-(MPS II)マウスへのAAV9.CB7.CI.hIDS.rBGのICV投与は、臨床的徴候も死亡もなしで良好な耐容性であり、CNSならびに末梢組織、特に肝臓への分布を生じ、CSFから末梢血へ注射されたウイルス粒子の部分的再分布を示している。
【0359】
脳のIDS遺伝子発現の証拠は、ベクターの検出、ならびに21日目及びCSF3ヶ月piでの脳におけるIDS活性の用量依存的増大(高用量(脳領域)で野生型レベルに近い酵素活性を有する)によって証明され、中及び高用量(CSF)では野生型より高いことに匹敵する。3ヶ月piの全ての用量で、CNSにおけるLIMP2及びGM3染色の減少によって示されるように、リソソーム区画の用量依存性の正常化があった。H&E染色された脳切片では、グリア空胞化の量及び頻度、ならびにMPS II CNS表現型の指標である両親媒性物質のニューロン蓄積における用量依存的な減少も観察された。H&E染色切片におけるCNSリソソーム含有量の変化及び疾患関連形態の改善に対応して、長期記憶(新規物体認識)の1つの尺度での改善があったが、長期記憶の他の尺度、文脈恐怖条件付けでは改善がなかった。NORにおける改善において明らかになった明確な用量応答はなかった。MPS IIマウスの他のCNS機能試験(オープンフィールド試験及びY迷路)における能力は、野生型マウスの能力に匹敵し、したがってベクターで処置したマウスはこれらのアッセイでは評価しなかった。
【0360】
血清IDS活性の用量依存的増大はまた、野生型に匹敵する(低用量)か、またはそれより高値(中用量/高用量)レベルで3ヶ月piでも観察された。血清中のIDS活性の正常化を反映して、MPS IIマウスは、肝臓及び心臓におけるヘキソサミニダーゼ活性及びGAG含有量の用量依存的な減少を有した;肝臓ヘキソサミニダーゼ及びGAGレベルを全ての用量レベルで正常化し、心臓ヘキソサミニダーゼ及びGAG活性を、中用量及び高用量でそれぞれ正常化した。高度に形質導入された肝臓(二倍体ゲノムあたり1~10個のGC)はおそらく、血清中のIDSの分泌及び高用量での心臓の交差是正のための蓄積臓器として機能した。
【0361】
ICV投与手順自体に関連する変化が数匹のマウスで観察されたが、脳内に試験品関連
毒性の証拠はなかった。導入遺伝子に対する体液性免疫応答は軽微であり、これらの動物の健康または脳組織病理学に影響を及ぼさずに一部の中及び高用量動物においてのみ観察された。
【0362】
結論として、AAV9.CB7.CI.IDS.rBGは、全ての用量レベルでMPS
IIマウスにおいて良好な耐容性を示し、MPS IIのCNS及び末梢パラメータの両方の改善に関連するIDSレベルの用量依存的増大をもたらした。
投与された最低用量3×10GC(5.2×10GC ddPCR)が、この試験における最小有効用量であった。
【0363】
(配列リストフリーテキスト)
数字の識別子<223>の下にフリーテキストを含む配列に対して、以下の情報を示す。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】
【表9-5】
【表9-6】
【0364】
本出願に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願、ならびに2017年1月31日に出願された米国仮特許出願第62/452,494号、2016年7月28日に出願された米国仮特許出願第62/367,780号、2016年5月16日に出願された米国特許仮出願第62/337,163号、2016年5月3日に出願された米国仮出願第62/330,938号、及び2016年4月15日に出願された米国仮出願第62/323,194号、ならびにこれとともに提出された配列表は、各々の個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれると示されるかのように、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。理解の明瞭化ために図示及び実施例を用いてある程度詳しく前述の発明を記載しているが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、特定の範囲及び改変をそれに対してなし得ることが、当業者には容易に明らかであろう。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図16
図17
図18
図19
図20-1】
図20-2】
図20-3】
図20-4】
図21-1】
図21-2】
図21-3】
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【配列表】
0007171439000001.app