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特許7171523アルミニウム-マグネシウム合金溶射層を有する積層体およびその金属溶射層の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】アルミニウム-マグネシウム合金溶射層を有する積層体およびその金属溶射層の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/08 20160101AFI20221108BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221108BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20221108BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20221108BHJP
   C23C 4/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C23C4/08
B32B15/08 A
B32B15/01 G
C23C28/00 A
C23C4/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019138600
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021114
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-04-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594001018
【氏名又は名称】日塗エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】増田 清人
(72)【発明者】
【氏名】新井 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸司
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059200(JP,A)
【文献】特開平02-025555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材、樹脂層と溶射層を有する積層体の作製方法であって、
前記溶射層が、アルミニウムとマグネシウムの質量比が90:10~99.5:0.5の範囲にあるアルミニウム-マグネシウム合金で作製され、
前記樹脂層が、粒子径が10~150μmの金属、あるいは合金もしくは酸化物、窒化物、炭化物の粒子を樹脂に対して25~400体積%含有する塗布組成物を10~400g/m の割合で塗布して、表面の粗さがRSm(凹凸の平均間隔)/RzJIS(十点平均粗さ)≦5.0に作製される、積層体の作製方法であって、
前記溶射層が、アルミニウム-マグネシウム合金の0.8~2.0mm径を有する線材を、1~5m/分の送り速度で送り、アーク電圧が15~45V、溶射距離100~300mmであり、溶射層の厚みを10~400μmで、溶射直後の基材表面温度が大気温以上70℃以下になるように溶射して作製される、積層体の作製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-マグネシウム合金溶射層を有する積層体およびその金属溶射層の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物の防食を目的とした金属溶射を行う際には、基材への密着性を確保するために基材表面の粗面化処理が必要である。粗面化処理方法の一つとしてブラスト処理が挙げられるが、基材上に直接アルミニウム溶射及びアルミニウム-マグネシウム合金溶射等を行うためには除錆度がSa3のブラスト処理(ISO8501-1)が必要となり、ブラスト処理に多額の費用や時間を要することや、生じる粉塵により作業の安全衛生面、および環境へ悪影響を及ぼすことが問題視されていた。そのため、Sa3のブラスト処理を必要としない粗面化処理方法が検討されている。
【0003】
Sa3のブラスト処理を必要としない方法として、粗面形成材を塗布する方法が挙げられる。この方法を適用することでブラスト処理のグレードをSa2 1/2以下に下げることが可能となり、ブラスト処理にかかる施工時間および費用を大幅に抑えることができる。例えば、無機粒子とバインダーからなる粗面形成材を基材上に塗布し、基材表面に凹凸樹脂層を形成することで密着力を確保することができる。
【0004】
ただし、粗面形成材を塗布する方法は、溶射直後の基材表面温度が70℃を越える場合では、熱による凹凸樹脂層の変質劣化や凹凸樹脂層に応力が蓄積することによる剥離が生じやすいため、溶射直後の基材表面温度が70℃以下で溶射(常温金属溶射)する場合に限られて用いられる。
【0005】
常温金属溶射の例として、純亜鉛線材と純アルミニウム線材を同時に基材上へ溶射し、亜鉛-アルミニウム擬合金(亜鉛:アルミニウム=50:50)の溶射皮膜を形成する方法が知られており、粗面形成材の適用が可能である。
【0006】
一方、塩水に対する防食性に優れた金属溶射材料として、アルミニウム-マグネシウム合金が知られており、防食性の観点から、アルミニウム:マグネシウムの質量比が90:10~99.5:0.5という範囲の合金が広く使用されている。しかし、亜鉛-アルミニウム擬合金のように常温金属溶射法が確立されておらず、溶射直後の基材表面温度が70℃を超えるような溶射方法が用いられている。そのため、アルミニウム-マグネシウム合金溶射では粗面形成材が使用できず、Sa3のブラスト処理が必要であることから、ブラスト処理のグレードをSa2 1/2以下に下げることが可能な常温金属溶射による溶射皮膜の作製方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平2-56424号公報
【文献】特公平3-28507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当初マグネシウムの含有量が質量比90:10~99.5:0.5であるアルミニウム-マグネシウム合金は、マグネシウムの含有量が少ないことから、融点、溶融潜熱等の金属溶射する際に考慮される金属の性質としては純アルミニウム(融点660℃、比熱917J/kg℃、溶融潜熱397kJ/kg、)に近く、溶射条件も近似し、純アルミニウムの知見がそのまま活かされることが期待された。
【0009】
ちなみに純マグネシウムは、融点649℃、比熱1038J/kg℃、溶融潜熱368kJ/kg(JWES接合溶接技術Q&A1000(社)日本溶接協会、2004データ)である。
【0010】
しかしながらアルミニウム-マグネシウム合金では、純アルミニウム溶射と同一の電圧条件では線材が溶融せず、溶射ができないことが判明した。そして線材を溶融するためにアーク電圧を上げたところ、溶融温度が高くなり線材を導入するためのリーダーチップまで溶融してしまい、30分を越える連続溶射をすることができなかった。
【0011】
本発明は、常温且つ連続溶射を可能とするアルミニウム-マグネシウム合金溶射の条件を見つけ出し、その合金によって防食された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、このようなアルミニウム-マグネシウム合金(質量比90:10~99.5:0.5)の減圧内アーク溶射が可能な条件を見出し、樹脂層を含む積層体を得る手法を見出した。
【0013】
1. 少なくとも基材、平均粒子径10~150μmの粒子を含有する樹脂層およびアルミニウム-マグネシウム合金(質量比90:10~99.5:0.5)溶射層をこの順で有する積層体。
2. アルミニウム-マグネシウム合金(質量比90:10~99.5:0.5)の金属溶射層を作製する方法であって、該合金を溶射直後の基材表面温度が大気温以上70℃以下で金属溶射することを特徴とする金属溶射層の作製方法。
3. 前記金属溶射において、同じ径を有する純アルミニウム線材が溶射可能となる線材送り速度を基準とし、該送り速度よりも遅い線材送り速度である溶射条件によって金属溶射することを特徴とする前記2記載の金属溶射層の作製方法。
4. 前記金属溶射において、前記金属が直径0.8~2.0mm径の範囲の線材であることを特徴とする前記2または3記載の金属溶射層の作製方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶射する装置が異なっても、その条件を適用することによってアルミニウム-マグネシウム合金を減圧内アーク溶射することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に記載する。
【0016】
<溶射条件>
本発明は、まず純アルミニウムを減圧内アーク溶射するための単位時間当たりの線材の送り量を基準とし、その送り速度よりも遅くすることを特徴とする。
【0017】
溶射条件は、溶射装置ごとに必ずしも同じではないことから、純アルミニウムの溶射条件を基準とすることで、アルミニウムーマグネシウム合金の適正な溶射条件を知ることができる。
【0018】
一般に、溶融しない金属を溶解するためには、より入熱量を増加し高温とすることが考えられ、その溶射条件としては、線材の送り速度、電圧の調整が挙げられる。しかしながら、電圧の調整では、当然ながら溶融金属の温度が上昇してしまい、溶射装置、溶射基材の制約が大きく、ブラスト処理に代わる凹凸樹脂層への溶射をすることはできない。
【0019】
一方で、線材の送り速度を純アルミニウム線材の送り速度よりも遅くする方法では、溶融金属の温度上昇が抑えられ、凹凸樹脂層への溶射が可能となった。本発明においては、上記条件で溶射することにより、溶射直後の基材表面温度が大気温(作業時の作業場所の気温をいう)以上70℃以下とすることができる。ここで溶射直後とは、基材に溶射後10秒後以内であることをいう。また常温とは大気温以上70℃以下をいう。
【0020】
本発明において、アルミニウム-マグネシウム合金が純アルミニウムと溶射条件の挙動が異なった原因は、熱伝導率が異なるためであると推測している。アルミニウム-マグネシウム合金線材はアルミニウム線材と比べて、熱伝導率が低いため、同程度の熱がかかった際に、アルミニウム-マグネシウム線材はアルミニウム線材より芯まで熱が伝わりにくいことが推察される。
【0021】
よって、送り速度を下げることで線材へかかる単位体積当たりの熱量を大きくした結果、アルミニウム-マグネシウム合金においても芯まで熱を伝えることができたと考えている。また、アルミニウム-マグネシウム合金においてマグネシウムが表面偏析することも知られており、それが原因となっている可能性も否定できない。
【0022】
アルミニウム-マグネシウム合金の溶射条件は、溶射装置によって異なるため、純アルミニウムの溶射条件を基準とすることが合理的である。線材は0.8~2.0mm径、好ましくは1.1~1.6mm径である。線材はほぼ円形であればよく、断面積が同じであれば、同じ径での効果を得ることができる。
【0023】
線材の送り速度は1~18m/分であり、陰極、陽極ともに同じ速度で送ることが好ましく、アーク電圧は15~45Vであることが好ましい。
溶射距離は、100~300mmであり、溶射層の厚みは10~400μmであることが好ましい。
【0024】
線材の送り速度は、例えば純アルミニウムが8m/分である場合は、0.5~5m/分、12m/分である場合は、1~10m/分を条件とすることが好ましく、純アルミニウム線材の送り速度に対し5~95%の分速の範囲で、溶射機種によって適宜定めることができる。
【0025】
<基材>
本発明において使用される基材とは、鋼板、非鉄金属、無機建材、木質系材料、プラスチックス、陶磁器類、ガラス、紙等溶射可能な全ての基材をいう。例えば、鋼板として黒皮鋼板、ダル鋼板、みがき鋼板、ステンレス鋼板、鋳物鋼板の他に、ブリキ板、亜鉛メッキ鋼板、塗装鋼板、ラミネート鋼板などの表面処理鋼板を含み、非金属としてアルミニウム、銅などとそれらの合金板を含む。無機建材としてはスレート板、ケイカル板、石膏スラグ板、押し出し成形セメント板、GRC板、石膏ボード、モルタル板、軽量気泡コンクリート板、ロックウール板、ガラス板、セラミック板に適用できる。
【0026】
木質系材料としてはブナ、ラワン、アガチスなどの天然木板の他にベニヤ合板、パーティクルボード、ハードボード、テップボード、化粧合板などを用いることができる。プラスチックスとしてはアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、ガラス繊維強化のエポキシ樹脂、ポリフェニレオキサイド(PPO)などを用いることができる。
【0027】
基材の形状としては平板の他にエンボス加工やスタッコ模様などの様に立体模様を有する方が、溶射層の凸部を研磨した際現出する溶射層の金属光沢部分と溶射層の凹部(非研磨部)に残存する着色塗料被膜の着色非金属光沢部分とのコントラストがついて意匠的な外観にすることができる。
【0028】
また、前記材料を複合化してなる基材、例えばプラスチック発泡体と化粧合板、あるいは無機質系基材に紙、プラスチック、布等を貼り合わせた基材も本発明の基材の範囲に含まれる。
【0029】
<樹脂層>
金属溶射層は基材とアンカー効果で密着するので、基材が平滑である場合は、基材表面に粗面形成材を塗布し樹脂層(以下凹凸樹脂層ともいう)を形成し、凹凸樹脂層のRSm(凹凸の平均間隔)/RzJIS(十点平均粗さ)≦5.0、好ましくはRSm/RzJIS≦3.5にする。
【0030】
ブラスト処理は、その作業自体、非常に熟練度が要求されるとともに、作業時間が長くかかり、さらにブラストより多量に発生する粉塵は作業の安全衛生上は勿論のこと環境汚染の問題があることから、凹凸樹脂層を形成することが好ましい。
【0031】
基材上に、粒子径が10~150μmの粒子を樹脂に対して25~400体積%含有する塗布組成物を10~400g/mの割合で塗布して凹凸樹脂層のRSm(凹凸の平均間隔)/RzJIS(十点平均粗さ)≦5.0の凹凸樹脂層を得ることができる。
【0032】
基材がスレート板の様なアルカリ性の強い無機建材である場合は金属溶射層がアルカリによって変色することがあるので、粗面形成材を塗布する前にアルカリ止めのためにエポキシ樹脂、ウレタン樹脂などのシーラーを塗装しておくことも可能であり、また基材が鋼板の場合、溶射層の種類によっては電気腐食が生じることがあり、そのような場合には基材上に塗装を施すことが好ましい。
【0033】
本発明の樹脂層は、平均粒子径10~150μmの粒子を含有するものであるが、該粒子としては、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉄、珪素などの金属、あるいは合金もしくは酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。具体的には、例えば酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化鉄、炭化珪素、窒化硼素等が挙げられる。
【0034】
また樹脂層を形成する塗布組成物の溶媒組成によっては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン等の粉末を使用してもよい。これらの粒子は1種もしくは2種以上の混合物として使用可能である。珪砂、アルミナ、炭化珪素等の使用が、特に好ましい。
【0035】
本発明において粒子の平均粒子径は、10~150μmの範囲、好ましくは30~100μmである。なお、本発明の平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定した体積粒子径である。
【0036】
本発明において、前記粒子は、後述する樹脂に対して25~400体積%〔顔料容積濃度(PVC)にして20~80%〕、好ましくは65~150体積%〔顔料容積濃度(PVC)にして40~60%〕の範囲で使用する。
【0037】
本発明において使用される樹脂とは、ある程度の乾燥性、硬度、密着性、耐水性及び耐久性があれば特に限定されない。 具体例としては、一液常温乾燥型樹脂である熱可塑性アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ゴム、アルキド樹脂、二液硬化型樹脂である不飽和ポリエステル樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、ポリエステル-ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性樹脂であるメラミン-アルキド樹脂、メラミン-アクリル樹脂、メラミン-ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル-ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上の混合物としても使用可能である。
【0038】
特に好ましくは、金属溶射時に熱可塑性で、溶射金属粒子が被膜に入り込み、溶射後に硬化するようなエポキシ樹脂(ポリアミド樹脂、アミンアダクト等の硬化剤併用)、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル樹脂等である。
【0039】
本発明の塗布組成物には前記樹脂以外の成分として、該樹脂を溶解または分散せしめるための有機溶剤、水等を必要により加える。染料、顔料や分散剤、発泡防止剤、ダレ防止剤(チキソトロピック性付与剤)等の添加剤等も併用できる。
【0040】
本発明において、塗布組成物は前記樹脂および粒子と、必要により溶媒もしくは分散媒や各種添加剤等を加えて、通常の分散、混合方法により混合して作製される。
【0041】
本発明の塗布組成物は、通常の方法により基材上に塗布される。特に不連続な膜形成が可能であることから、エアースプレー法の採用が好ましい。
【0042】
本発明において塗布組成物の塗布量は、10~400g/mの割合にすることが必要である。25~300g/mであることが好ましく、特に好ましくは20~150g/mである。
【0043】
本発明において、組成物塗布後の凹凸樹脂層のRsm(凹凸の平均間隔)/RzJIS(十点平均粗さ)≦5.0、好ましくはRsm/RzJIS≦3.5の範囲内にあることが必要である。なお、本発明においてRsm、およびRzJISとは、JIS B-0601(2001)にて定義されており、株式会社ミツトヨ製サーフテストSJ-301にて23℃50RH%雰囲気下で測定した。
【0044】
<オーバーコート層>
本発明においては金属溶射層上に、封孔のためさらに合成樹脂塗料を少なくとも一層塗布しオーバーコート層を作製することが好ましい。金属溶射層は、通常表面粗さがRzJISで100μm前後の凹凸を有し、また多くの気孔が存在(気孔は下地面に達するのも少なくない)することが知られている。
【0045】
したがって、本発明においては金属溶射層を保護するために、合成樹脂塗料により凹部や気孔部を塞ぐ必要があり、こうすることにより金属溶射層の保護効果が著しく改良される。また、使用条件によってはさらに表面塗装を行うことも可能である。
【0046】
本発明における合成樹脂塗料の塗布とは、金属溶射層を全面的に覆うことは勿論のこと、金属溶射層の凹部や気孔部のみを充填、塗布(封孔処理)することも含む。
【0047】
本発明の方法においては、金属溶射層表面にそのまま塗装することができるが、気孔内部迄の効果的な封孔とするため、微細な気孔内部まで浸透することができる低粘度の塗料(封孔処理材)を塗装し、さらに必要に応じて中塗り、上塗り塗装を行うことが好ましい。金属溶射層の凹凸をできるだけ少なくするために、塗装前に金属溶射層を研磨することも好ましい方法である。
【0048】
かかる処理により、金属溶射層表面の凸部がなくなり、表面塗装後、溶射金属が表面に露出することがなくなり、より薄い塗膜で表面を完全に保護出来、また塗装後の外観、光沢等も大巾に向上せしめることができる。研磨方法としては、研磨紙、研磨布、ワイヤーブラシ、ベルトサンダー、サンドグラインダー等通常金属表面の研磨に用いられる手段を使用することができる。
【0049】
本発明のオーバーコート層を作製する方法において使用される合成樹脂塗料としては、一般に市販されている公知の合成樹脂塗料がいずれも使用できる。
【0050】
例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を展色剤としたもの、あるいはこれらを歴青質変性もしくはウレタン変性したものに、アミンアダクト、ポリアミン、ポリアミド樹脂等のアミノ系硬化剤またはポリイソシアネート硬化剤を配合したエポキシ樹脂塗料;塩化ゴムあるいはこれとロジン、クマロン-インデン樹脂、フエノール樹脂、石油樹脂、可塑剤等を混合した塩化ゴム塗料;塩化ビニルのホモポリマーまたは、塩化ビニルと酢酸ビニル、塩化ビニリデン等との共重合体を展色剤とした塩化ビニル樹脂塗料;アクリル酸またはメタクリル酸、これらのアルキルエステル、スチレン、ビニルトルエン等のモノマーから選ばれた二種以上の共重合体を展色剤とするアクリル樹脂塗料;フタル酸等の多塩基酸、グリセリン等の多価アルコール及び脂肪酸を縮合反応して得られる反応生成物を展色剤とするアルキド樹脂塗料;多塩基酸と多価アルコールの縮合反応により得られる生成物を展色剤とするポリエステル樹脂塗料;ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール成分を主剤とし、ポリイソシアネートを硬化剤とするポリウレタン樹脂塗料(歴青質変性を含む);水酸基含有フツ素共重合体を主成分とし、ポリイソシアネートあるいはメラミン樹脂を硬化剤とする常温硬化もしくは加熱硬化型フツ素、フツ化ビニリデン樹脂等を展色剤とするフツ素樹脂塗料;其の他シリコーン樹脂、シリコーン変性アルキド樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂等を展色剤とするシリコーン樹脂塗料;其の他フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0051】
本発明の合成樹脂塗料には、必要により着色顔料、体質顔料、染料、其の他レベリング剤、紫外線吸収剤、分散安定剤等の各種添加剤などを添加混合し得る。また、本発明に使用される合成樹脂塗料は溶剤系、水溶性系、水分散系、無溶剤系のいずれであつてもよい。さらに、前記合成樹脂塗料は常温乾燥型もしくは強制乾燥(加熱を含む)型のいずれであつてもよい。
【実施例
【0052】
(実験例1-1)
300×300×3.2mmのSS400鋼板を除錆度がSa3のグリットブラスト処理をした後、減圧内アーク溶射装置A1(株式会社サンメタ製SX-200)を用いて、アルミニウム―マグネシウム合金層を以下のようにして作製した。
【0053】
まず、直径1.3mmの純亜鉛線材・純アルミニウム線材を用いて、上記装置によって溶射をおこなった(基準1-1)。30分間連続溶射できた条件は、送り速度8m/分、アーク電圧15V、アーク電流120A、空気圧7kg/cm、空気流量1m/分(溶射距離200mm)であった。
【0054】
この基準1-1の条件で、直径1.3mmの純亜鉛線材(Zn線材)・純アルミニウム線材(Al線材)およびアルミニウム-マグネシウム合金(95:5)線材(AlMg合金線材)を溶射した結果を表1に示す。溶射可否については下記の基準で判断した。
○:30分以上連続溶射可能
△:溶射可能だが、30分以上連続での溶射不可
×:溶射不可
また凹凸樹脂層への適用可能性についても評価した。
○:溶射直後の基材温度が70℃以下
×:溶射直後の基材温度が70℃を超える(熱による凹凸樹脂層の変質劣化や凹凸樹脂層に応力が蓄積することにより剥離が生じる可能性があるため、適用不可と評価)
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、純亜鉛線材と純アルミニウム線材の溶射条件に対して線材の送り速度を遅くした場合に、常温による溶射が可能となった。なお、単に電圧を高くするだけでは常温溶射が可能とならず、線材の送り速度の効果が明確となった。
【0057】
(実験例1-2)
実験例1-1の条件で、直径の異なるアルミニウム-マグネシウム合金(95:5)線材を溶射した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
直径2.0mmの線材を基準1-1及び実施例1の条件で溶射すると、線材に対する単位体積当たりの熱量が小さく線材を溶融できないため、表2に示すように電圧を17Vまで上げて溶射を行った。その結果、直径1.3mm線材の溶射条件の傾向と同様に、アルミニウム-マグネシウム合金線材において、純亜鉛線材と純アルミニウム線材の溶射条件に対して線材の送り速度を遅くした場合に、溶射直後の基材表面温度が常温となり、凹凸樹脂層への溶射が可能となった。
【0060】
(実験例2-1)
実験例2-1では、実験例1の除錆度Sa3の代わりにSa2 1/2でグリットブラスト処理をした後、下記樹脂層を設けた。
エポキシ樹脂(エピクロン4051 大日本インキ化学工業製 エポキシ当量950)100gにキシレン80g、メチルエチルケトン60g、ブタノール25gを加えて溶解し、ポリアミド樹脂(エピキュアー892セラニーズ製 活性水素当量 133)10gを添加して調整した加熱残分40%のエポキシ・ポリアミド樹脂B275g(樹脂固形分体積100cm)と平均粒子径48μmの炭化珪素(緑色炭化珪素CG320名古屋研磨機材工業製 比重3.16)221g(粒子体積70cm、PVC41%)とを充分に攪拌して、樹脂組成物Aを作製した。
【0061】
ついで300×300×3.2mmのSS400鋼板に、この樹脂組成物Aをエアースプレーで60g/m塗布し、その表面の凹凸の平均間隔(RSm)を280μm、十点平均粗さ(RzJIS)を120μmとした。このとき、表面粗さ(RSm/RzJIS)は2.3である。
【0062】
この凹凸樹脂層に、減圧内アーク溶射装置A2(株式会社ダイヘン製AS-400)を使用し、実験例1と同様に直径1.3mmの純亜鉛線材・純アルミニウム線材を用いて溶射を行った(基準2-1)。
この基準2-1の条件で、直径1.3mmの純亜鉛線材・純アルミニウム線材およびアルミニウム-マグネシウム合金(95:5)線材を溶射した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、純亜鉛と純アルミニウムの溶射条件に対して線材の送り速度を遅くした場合に、常温による樹脂層への溶射が可能となった。なお、単に電圧を高くするだけでは溶射が可能とならず、線材の送り速度の効果が明確となった。
【0065】
(実験例2-2)
実験例2-1の条件で、直径の異なるアルミニウム-マグネシウム合金(95:5)線材を溶射した。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
直径2.0mmの線材を基準2-1及び実施例3の条件で溶射すると、線材に対する単位体積当たりの熱量が小さく線材を溶融できないため、表4に示すように、電圧を30Vまで上げて溶射を行った。その結果、直径1.3mm線材の溶射条件の傾向と同様に、アルミニウム-マグネシウム合金線材において、純亜鉛と純アルミニウムの溶射条件に対して線材の送り速度を遅くした場合に、常温による凹凸樹脂層への溶射が可能となった。