(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】補助人工心臓
(51)【国際特許分類】
A61M 60/13 20210101AFI20221108BHJP
A61M 60/178 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/216 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/237 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/414 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/531 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/562 20210101ALI20221108BHJP
A61M 60/585 20210101ALI20221108BHJP
【FI】
A61M60/13
A61M60/178
A61M60/216
A61M60/237
A61M60/414
A61M60/531
A61M60/562
A61M60/585
(21)【出願番号】P 2019507901
(86)(22)【出願日】2017-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2017070953
(87)【国際公開番号】W WO2018036927
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-13
(32)【優先日】2016-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニックス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ルンツェ カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】アボウロースン ワリード
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-297174(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0323796(US,A1)
【文献】特表2004-515278(JP,A)
【文献】国際公開第2015/179921(WO,A1)
【文献】特表2003-500117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0178361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/178
A61M 60/216
A61M 60/237
A61M 60/531
A61M 60/562
A61M 60/585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非拍動型の補助人工心臓即ちVAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を制御する制御装置(100)であって、被補助心臓の心周期内で当該VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を変更するよう、且つその心周期内の少なくとも1個の所定特徴事象に関わる少なくとも1系列のトリガ信号(σ(t))により当該回転速度(n
VAD(t))の変更を心拍と同期させるよう、構成され、
上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を所定のパルス持続時間(τ
pulse(h))又は心拍数依存性パルス持続時間(τ
assist(h))に亘り変更し、所定所望最小拍動性(ΔAoP
~(h))を注目動脈にて上記心周期内で発生させるよう、構成されている制御装置。
【請求項2】
請求項1の制御装置(100)であって、上記少なくとも1系列のトリガ信号(σ(t))によ
り速度変更の開始及び/又は終了を同期させるよう、構成されている制御装置。
【請求項3】
請求項2の制御装置(100)であって、速度指令信号(n
VAD
set(t))を生成し上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))の変更に供することで上記所定所望最小拍動性(ΔAoP
~(h))を達成するよう、またそれを
開ループ制御による第1機構であり、上記速度指令信号(n
VAD
set(t))が指令信号発生器(120)を用い所定回転速度レベル間で変更されるもの、或いは
フィードバック系内閉ループ圧力制御による第2機構であり、上記速度指令信号(n
VAD
set(t))が心拍(h)毎に自動設定されるもの、
にて達成するよう、構成されている制御装置。
【請求項4】
請求項3の制御装置(100)であって、上記速度指令信号(n
VAD
set(t))を調整することで上記所定所望最小拍動性(ΔAoP
~(h))を上記第2機構にて達成するよう構成されている制御装置。
【請求項5】
請求項3または4の制御装置(100)であって、更に、上記速度指令信号(n
VAD
set(t))を調整することで心拍毎平均動脈血圧(AoP
-(h))を所定のしきい値(AoP
-
thr(h))より上に保つよう構成されている制御装置。
【請求項6】
請求項3から5のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、上記少なくとも1個の所定特徴事象のうち1個が生起するより所定の第1期間(τ
incr(h))前にて上記速度指令信号(n
VAD
set(t))の調整を開始するよう構成されている制御装置。
【請求項7】
請求項6の制御装置(100)であって、上記少なくとも1個の所定特徴事象が、心室収縮の開始と、被補助心臓が付された患者からもたらされる心電図信号即ちECG信号におけるR波(R)の生起と、のうちの少なくとも一方である制御装置。
【請求項8】
請求項3から7のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、上記所定のパルス持続時間(τ
pulse(h)
)の経過、適合化された心拍数依存性パルス持続時間(τ
assist(h))の経過、上記心周期における上記少なくとも1個の所定特徴事象のうち1個の生起、その心周期にてその所定特徴事象が生起する以前の所定の第2期間(τ
red(h))の経過、のうち少なくとも一つに従い上記速度指令信号(n
VAD
set(t))の調整を終了するよう構成されている制御装置。
【請求項9】
請求項8の制御装置であって、上記心周期における上記少なくとも1個の所定特徴事象が、被補助心臓の心室弛緩の開始と、大動脈弁の閉止と、のうち少なくとも一方である制御装置。
【請求項10】
請求項2から9のうちいずれか一項
の制御装置(100)であって、上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を変更することで、上記所定所望最小拍動性(ΔAoP
~(h))を相連続するx個の被補助心臓心周期のうちy個のみで発生させるよう、構成されており、xが2より大きい整数、yがy≦xを満たす整数である制御装置。
【請求項11】
請求項10
の制御装置(100)であって、相連続する他のx-y個の被補助心臓心周期のうち少なくともy個にて上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を設定することで、心拍毎平均動脈血圧(AoP
-(h))を所定のしきい値(AoP
-
thr(h))より上に保つよう、構成されている制御装置。
【請求項12】
請求項1から11のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、上記VAD(50)のアクチュエータに供給される電流から上記少なくとも1系列のトリガ信号(σ(t))のうち1個を導出するよう構成されている制御装置。
【請求項13】
請求項12の制御装置(100)であって、上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))の変更による電流変化を、被補助心臓がその心周期を経ることで引き起こされる電流変化から弁別するよう、構成されている制御装置。
【請求項14】
請求項1から13のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、被処理計測信号たる少なくとも1個の信号から上記少なくとも1系列のトリガ信号(σ(t))を導出するよう構成されており、その被処理計測信号が次の物理量、即ち上記VAD(50)の血液駆出用アウトレットとそのVAD(50)の血液吸入用インレットとの間の血圧差、被補助心臓の心室内血圧、被補助心臓近隣大動脈内血圧、被補助心臓近隣大静脈内血圧、被補助心臓近隣肺動脈内血圧、のうち少なくとも1個を表すものである制御装置。
【請求項15】
請求項1から14のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、上記少なくとも1個の被処理計測信号のうち少なくとも1個から循環器系についての特徴的情報を上記心周期内で導出するよう、且つ、先行する心周期中に求まった特徴情報に基づき後来心周期に関し上記少なくとも1個の所定特徴事象を導出又は予測するよう、構成されている制御装置。
【請求項16】
請求項15の制御装置(100)であって、上記少なくとも1個の所定特徴事象を導出又は予測する際に少なくとも2個の被処理計測信号から上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))の変更の影響を導出するよう、構成されている制御装置。
【請求項17】
請求項1から16のうちいずれか一項の制御装置(100)であって、(a)被補助心臓の心周期のうち拡張期には大動脈内又は肺動脈内へと駆出される血液の量が対応する心室における血液体積を保つものとなり、且つ、(b)収縮期にはVAD(50)及び心室の共同駆出により駆出される血液の量が所定最小総ピーク血流(Q
total|
max(h))となるように、上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を制御するよう、構成されている制御装置。
【請求項18】
請求項17の制御装置(100)であって、上記所定最小総ピーク血流(Q
total|
max(h))が少なくとも6L/minである制御装置。
【請求項19】
請求項17の制御装置(100)であって、上記所定最小総ピーク血流(Q
total|
max(h))が8L/minである制御装置。
【請求項20】
請求項1から19のうちいずれか一項
の制御装置(100)であって、心臓の収縮期にて上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を上昇させるよう、及び/又は、心臓の拡張期にてそのVAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を低下させるよう、構成されている制御装置。
【請求項21】
請求項20の制御装置(100)であって、基本速度レベル(n
VAD
set,basic(t))を基準として上記VAD(50)の回転速度(n
VAD(t))を上昇及び/又は低下させるよう構成されている制御装置。
【請求項22】
請求項1から20のうちいずれか一項
の制御装置(100)であって、被補助心臓で現在求められている最小血流需要より上に平均VAD誘起性血流を設定しうる場合に限り上記VAD(50)の回転速度を変更するよう構成されている制御装置。
【請求項23】
心補助用のVAD(50)であって、請求項1から22のうちいずれか一項の制御装置(100)を備えるVAD。
【請求項24】
請求項23のVAD(50)であり、非拍動ロータリ血液ポンプであるVAD。
【請求項25】
請求項24のVAD(50)であって、上記
非拍動ロータリ血液ポンプがカテーテル式である、VAD。
【請求項26】
請求項23から25のうちいずれか一項
の低慣性装置たるVAD(50)であって、その低慣性装置が以下の特性、即ちそのVADの可動部品又は回動部品が軽量素材により製作されていて低質量を有すること、駆動手段が、当該駆動手段により駆動される部品の近く、又は隣り合わせに配置されていること
、モータにより駆動される部品に対する上記モータの結合又は連結手段が短いこと、そのVADの全ての可動部品又は回動部品が小さな直径を有していること、という特性のうち1個又は複数個を有するVAD。
【請求項27】
請求項26のVAD(50)であって、上記可動部品又は上記回動部品と、モータにより駆動される上記部品と、のうち少なくとも一方はロータ又はインペラであるVAD。
【請求項28】
請求項26又は27のVAD(50)であって、上記軽量素材がプラスチックであるVAD。
【請求項29】
請求項26から28のうちいずれか一項
のVAD(50)であって、上記駆動手段が電動モータであるVAD。
【請求項30】
請求項26から29のうちいずれか一項
のVAD(50)であって、カテーテル式である場合に、上記駆動手段が回転駆動ケーブルまたは駆動ワイヤを有していないVAD。
【請求項31】
請求項26から30のうちいずれか一項
のVAD(50)であって、上記結合又は連結手段がシャフトであるVAD。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非拍動型の補助人工心臓(VAD)の分野に関する。特に、本発明は、非拍動型VAD例えば血管内ロータリ血液ポンプの拍内制御のための制御装置や、自VADを制御するためその制御装置を備えるVADに関する。
【背景技術】
【0002】
適切な医療措置にもかかわらず患者の心臓のポンプ機能が不十分な場合、VADにより循環器系を補助することができる。心臓の心室へと血液を並行供給することで、VADにより、不十分な心臓の心室ポンプ機能を補助し、はたまた代替することができる。この狙いを見据え、VADは、通常、インレットにて血液循環路から血液を採取しアウトレットにてその血液循環路に血液を返戻、駆出するよう、構成されている。これを行うには、VADがアウトレット・インレット間圧力差、即ちそのVADの負荷前後間圧力差に打ち克つ必要がある。
【0003】
VADの具体例の一つは、数時間又は数日に亘り心臓内に直に配置し又は埋入させ回復まで心機能を補助するよう工夫された、カテーテル式ロータリ血液ポンプである。特許文献1には血管内ロータリ血液ポンプの例が開示されている。但し他種VADも存在している。
【0004】
非拍動型血液ポンプによる心補助を受ける患者には出血傾向上昇が見られる。この出血傾向上昇は、出血に関わりフォンヴィルブランド因子(vWF)として知られる、ある特定の血液内糖蛋白質の不足に関係ありと見られている。
【0005】
本願中の用語「心周期」は心拍1回の間の動的心挙動、例えば血圧及び心室容積の経時変化を包摂している。本願における心拍の定義は、心房収縮の喚起で以て始まりそれに後続する心房収縮の直前に終わるというものであり、これは収縮期と拡張期とに分かれている。心臓の収縮期(心臓の駆出期とも呼ばれる)は僧帽弁閉止・大動脈弁閉止間のフェーズである。拡張期(心臓の充満期とも呼ばれる)は大動脈弁閉止・僧帽弁閉止間のフェーズである。心臓が心周期を経過する頻度は心拍数として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. D. Mosteller, “Simplified calculation of body-surface area”, N. Engl. J. Med. 317, No. 17, October 1987, p. 1098
【文献】Catanho et al., “Model of Aortic Blood Flow Using the Windkessel Effect”, Beng 221, Mathematical Methods in Bioengineering, Report, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、患者の循環器系に対する優れた補助であり、上掲のvWF不足を避けられるもの又は少なくとも減らせるものを、提供することにある。
【0009】
特に、本発明の目的は、VAD例えばロータリ血液ポンプ用の知的な制御装置であり、そのVADを、非拍動型VADの適用による副作用ひいてはvWF不足を避け又は少なくとも減らす狙いで動作させるものを、提供することにある。
【0010】
特に、本発明の更なる目的は、VAD用の知的な制御装置であり、非拍動型VADの適用による副作用を避け又は少なくとも減らしつつその患者の現在の灌流需要に関わる所要血圧が実現されるようそのVADを動作させるものを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者が見いだしたところによれば、血圧の最小残余拍動性が循環器系にて回復し及び/又は維持されているときには、上述の出血傾向上昇は小さい。加えて、十分な圧力拍動性でも、その循環器系の微小血管系の十分な灌流を支えられそうである。
【0012】
即ち、本発明の主着想は事象ベース拍内制御策、特に速度指令信号を生成する速度指令信号発生器によってVAD回転速度制御ループを拡張しVADの回転速度を変更しうるようにする策により、所定所望の最小拍動性を実現するというものであり、またそれを開ループ制御による第1機構、特に速度指令信号を所定回転速度レベル間で変更する機構か、フィードバック系内閉ループ圧力制御による第2機構、特に付加的な外側圧力制御ループにより心拍毎に速度指令信号を自動設定しカスケード制御を実行する機構に従い、実現することである。
【0013】
提案している事象ベース拍内血圧制御策は、ある具体的な実施形態によれば、VAD内血流を心臓の心周期内で変化させることで患者血圧の拍動性に影響を及ぼせるようにするものである。この事象ベース拍内血圧制御策の具体的用途の一つは、動脈血圧の所望最小拍動性を回復させ及び/又は維持することで、VAD適用の想定上の副作用のうちvWFリリースに対するものを避ける、というものであろう。これを支持する事実としては、多くの連続流VADで拍動性が減りひいてはvWF出現の減少が生じる、という事実が観測されている。
【0014】
このように、VADの回転速度に関し本願にて提案されている事象ベース拍内制御策は、非拍動型VADの生来的副作用のうちvWF不足関連のものを避けるのにひときわ有用である。言い換えれば、提案されているこの速度変更による血圧の所望最小拍動性の回復及び/又は維持は、療法としてではなく寧ろ、非拍動型VADの生来的副作用をなくす手段であると見なせる。
【0015】
更に、心周期(以下「心拍」又は「拍」とも称する)内でのポンプ速度の変更により、非拍動型心補助とは対照的で有益な別の効果、例えば循環器系の微小血管系の灌流改善が生じる。
【0016】
動脈血圧の所望最小拍動性を回復し及び/又は維持する、という文脈における本願中の用語「拍動性」は、大略、第h心周期における最高大動脈圧AoP|max(h)・最低大動脈圧AoP|min(h)間の差
ΔAoP(h)=AoP|max(h)-AoP|min(h)
のことであると理解される。
【0017】
以下、単純化のため、諸々の特徴的計測値及び計算値を、専ら個々別々の第(j-1)、第j、第(j+1)等々の心拍、より一般的には第h心拍で参照しており、またそれにより連続時間tに対する値の依存性や個々別々の計測点kに対するそれをも包摂している。例えば、
AoP|max(j)=maxk{AoP(tj,k)} 但しk=0,…,mj
では指数jにより第j心拍が指し示されており、第j心拍に係る信号AoPの最大値が、第j心拍の冒頭計測点k=0で始まり次の第(j+1)心拍の開始直前の最終計測点k=mjで終わるk=0,…,mj全てでの信号AoPの計測値を対象にして、計算されている。以後は
AoP|max(j+1)=maxk{AoP(tj+1,k)} 但しk=0,…,mj+1
等々となる。
【0018】
発明者が想定したところによれば、最小残余拍動性の回復及び/又は維持は望ましいことであり、とりわけVAD補助下の循環器系の場合はそうである。そのため、本発明の主着想は、心周期内で即ち心拍1回のうちにVADの回転速度n
VAD(t)が変更されるよう、また所望最小拍動性ΔAoP
~(h)であり注目動脈、例えば左心補助の場合は大動脈における最小残余拍動性を回復及び/又は維持することを狙いとするものが生じるよう、非拍動型VADの制御を改善することに置かれている。各種拍動性の定義は
生理学的(非補助時)拍動性:ΔAoP(h)=AoP|
max(h)-AoP|
min(h)
所望(補助時)最小拍動性:ΔAoP
~(h)=AoP
~|
max(h)-AoP
~|
min(h)
拍動性差:ΔAoP
pulse(h)=ΔAoP
~(h)-ΔAoP(h)
の通りである(
図3aも参照あれ;本願にて「
~」はAoPの上に波線の意)。
【0019】
このように、所望最小拍動性ΔAoP~(h)は、第h心周期における最高,最低それぞれの所望大動脈圧AoP~|max(h),AoP~|min(h)に依存している。拍動性差ΔAoPpulse(h)は、現在の生理学的(非補助時)拍動性ΔAoP(h)と、所望(補助時)最小拍動性ΔAoP~(h)と、の間の差になるよう定義されている。
【0020】
この点との関連で発明者が更に見いだしたところによれば、所望最小拍動性に係る所定値はΔAoP~(h)=[15,…,30]mmHgの範囲内であるが、所望最小拍動性ΔAoP~(h)がより高くてもかまわない。
【0021】
発明者が更に見いだした点の一つは、本願にて開示されている用途で用いられるVADにより好ましくは充足されるべき物理的必要条件が、有意な慣性の欠如であることである。即ち、VADが低慣性装置であるのが望ましい。現状では、ロータリ血液ポンプ例えば先に言及したカテーテル式ポンプであってその質量慣性モーメントが無視しうるほど小さいものが、拍内速度変更を伴う速度制御シナリオに申し分なく適しており、しかも高度にエネルギ効率的であり例えば放熱損失を避けることができる。小さい質量慣性モーメントを呈するVADを実現するのに適した特性としては、就中、即ちこれに限られるものではないが、そのVADの可動部品特に回動部品が小質量であること、例えばロータ又はインペラを例えばプラスチック素材、合成素材等といった軽量素材で製造しうることや、駆動手段例えば電動モータがロータ又はインペラの近く、好ましくはすぐ近く、最も好ましくは隣り合わせに配置されているため、そのモータをロータ又はインペラにつなぐシャフトを短めに保ち回転質量を小さめに保てること(例えば、ロータをモータにつなぐ回転駆動ケーブル又はワイヤを有する装置が知られているが、そのケーブル又はワイヤの質量分だけ加減速対象質量が増すので望ましくなかろう)や、諸々の可動部品例えば回動部品が小直径でありそれら部品の質量慣性モーメントを小さめに保てること、がある。
【0022】
本発明の第1態様では、非拍動型VADの回転速度(以下単に「速度」)nVAD(t)を事象ベース様式に従い生理学的条件を基準にして心周期内で変更する制御装置が、提供される。
【0023】
これを見据え、その制御装置を、被補助心臓の心周期内でVADの速度を変更するよう、且つ、トリガ信号発生器との連携で、その心周期内の少なくとも1個の所定特徴再発事象に関わる少なくとも1個の事象系列を用い速度に係る速度指令信号nVAD(t)の変更を心拍と同期させるよう、構成することができる。これにより、被補助心臓本来の心出力に、VAD誘起性血流QVAD(t)の影響を及ぼすことができる。
【0024】
ある具体的実施形態によれば、その制御装置を、所定のパルス持続時間τpulse(h)又は心拍数依存性パルス持続時間τassist(h)に亘り基本速度レベルnVAD
set,basic(h)を基準にして速度指令信号nVAD
set(t)を調整するよう、ひいては第h心周期にてVAD内にもたらされる血流により所望最小拍動性ΔAoP(h)=ΔAoP~(h)が注目動脈内で生じるよう、構成することができる。
【0025】
VADが左心補助向けに構成されているなら少なくとも大動脈が注目動脈とされよう。代わりに、VADが右心補助向けに構成されているなら少なくとも肺動脈が注目動脈とされよう。
【0026】
これを果たすには、その制御装置を、VADの速度指令信号nVAD
set(t)を調整するよう、且つ第1機構又は第2機構にてそのVADの速度nVAD(t)を制御し所望最小拍動性ΔAoP~(h)をかなえるよう、構成すればよい。
【0027】
第1機構の態をなす制御装置は、開ループ様式に従い例えば指令信号発生器により速度指令信号nVAD
set(t)を調整するよう、構成すればよい。第1機構によれば、事象ベース指令信号発生器を用い所定速度レベル間でVADの速度指令信号nVAD
set(t)を変更し、それにより所望最小拍動性ΔAoP~(h)を発生させることができる。
【0028】
第2機構の態をなす制御装置は、例えばVADの速度nVAD(t)に係る速度制御ループを付加的な圧力制御ループにより拡張しカスケード制御策に帰着させることで、閉ループフィードバック様式に従い速度指令信号nVAD
set(t)を調整するよう、構成すればよい。第2機構によれば、例えば外側ループによりフィードバック圧力制御策で以て、速度指令信号発生器にて速度指令信号nVAD
set(t)を自動設定することにより、生理誘起性境界条件を勘案しつつ第h心拍に関し所望最小拍動性ΔAoP~(h)を実現することができる。第1機構にて生理誘起性境界条件を勘案してもよい。
【0029】
そうした境界条件の例は、利用可能血液体積の限界、及び/又は、平均動脈血圧AoP-(h)の最高及び/又は最低レベルであろう(本願にて「-」はAoPの上に横線の意)。これら生理学的制約の枠内で作動する制御装置では、心室充満圧を(例.心室内の圧力センサで以て)監視することや、血液体積の不足により生じそうな諸々の吸引事象を(例.吸引関連の負流入圧を監視すべくVADインレットに又はその内部に配置された圧力センサで以て)監視することが、望ましい。
【0030】
速度指令信号nVAD
set(t)生成用の開ループ機構(第1機構)及び閉ループ機構(第2機構)はどちらも事象ベース様式にて動作するよう構成しうるものであり、且つ、どちらも、その狙いを、所定のパルス持続時間τpulse(h)に亘りVADの速度指令信号nVAD
set(t)を調整することによって第h心拍内で所望最小拍動性ΔAoP~(h)を生成することに置くことができる。
【0031】
制御装置は、VADの速度nVAD(t)を制御するための内側制御ループと、上述の第1又は第2機構に依る構造を有する外側ループとで、構成してもよい。内側(速度)制御ループでは一般的な高速フィードバック閉ループ制御を用いることができる。以下、VADの速度指令信号nVAD
set(t)の内側制御ループ向け生成に的を絞ることにする。
【0032】
好ましくは、この制御装置は、少なくとも1個の所定の心周期内特徴事象に関わる少なくとも1系列のトリガ信号(σ(t))を用いることで、速度指令信号nVAD
set(t)の調整、例えば指令信号パルスの開始及び/又は終了を心拍と同期させるよう、構成される。
【0033】
例えば、その制御装置を、速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで、注目動脈内血圧のうちVADによりもたらされる分を心周期のうちのある所定期間にて高めるよう、構成してもよい。一般に、制御装置は、VAD速度を調整するための速度指令信号nVAD
set(t)を、収縮期には高レベル、及び/又は、拡張期には低レベルに設定するよう、構成すればよい。
【0034】
例えば、被補助心臓の収縮期における速度変更のみで所望最小拍動性を生成してもよい。即ち、目標速度レベルを決める速度指令信号nVAD
set(t)を、被補助心臓の収縮期の開始前、開始時又は開始の僅か後に基本速度レベルnVAD
set(t)=nVAD
set,basic(h)から目標速度レベルnVAD
set(t)=nVAD
set,basic(h)+ΔnVAD
set(h)へと高めることで調整すればよく、またそれを収縮期の終了前、終了時又は終了の僅か後に基本速度レベルnVAD
set,basic(h)へと再び低めればよい。このように、基本速度レベルnVAD
set,basic(h)に速度差ΔnVAD
set(h)を加え高めると、被補助心臓の収縮期中に正の速度パルスが発生する。
【0035】
同様に、被補助心臓の拡張期における速度変更のみで所望最小拍動性を生成してもよい。即ち、速度指令信号nVAD
set(t)の調整を、被補助心臓の拡張期の開始前、開始時又は開始の僅か後に基本速度レベルnVAD
set,basic(h)から目標速度レベルnVAD
set(t)=nVAD
set,basic(h)-ΔnVAD
set(h)へと速度レベルを低め、拡張期の終了前、終了時又は終了の僅か後に基本速度レベルnVAD
set,basic(h)へと速度レベルを再び高める態のものとすればよい。このように、基本速度レベルnVAD
set,basic(h)から速度差ΔnVAD
set(h)を減じ低めると、被補助心臓の拡張期中に負の速度パルスが発生する。
【0036】
とはいえ、収縮期又は拡張期中の速度指令信号変更は、いずれも心拍に対する速度変動の同期化の一般例の一つである。お察し頂けるように、収縮期中の正速度パルスと拡張期中の負速度パルスの双方を組み合わせることで、所望最小拍動性ΔAoP~(h)を生成してもよい。
【0037】
速度指令信号変更を心周期と同期させる理由が、収縮期における本来の心収縮に由来する、虚弱心臓の残余拍動性の増強であることに、留意されたい。望ましいのは、速度指令信号変更により、心臓単独での本来の駆出への収縮期流寄与を発生させることであり、即ち心臓とVADとによる共同駆出が望ましい。
【0038】
そのため、第1実施形態では、所望最小拍動性の回復及び/又は維持を実現すべく、その制御装置を、速度指令信号nVAD
set(t)の変更によりVADの速度を調整することで、VAD誘起性血流QVAD(t)を心周期のうち拡張期にて実質的に減少させ及び/又は心周期のうち収縮期にて実質的に増加させるよう、構成している。これにより、動脈血圧の所望最小拍動性を回復させること及び維持することができる。VADの拡張期内速度低下により心室を適切に充満させること、ひいてはVAD及び生来の心臓からの収縮期内血液共同駆出が可能となろう。
【0039】
発明者が見いだしたところによれば、速度指令信号変更を目的として、生来の心臓とVADの双方により適切な収縮期ピーク流速を好適に発生させることで、心拍毎総ピーク流
Qtotal|max(h)=Qheart|max(h)+QVAD|max(h)
並びに心拍毎総駆出体積(EV)
EV(h)=EVheart(h)+EVVAD(h)
により、収縮期全身血圧の適切な上昇を引き起こすことができる。生来の心臓の共同駆出能は、心室性前負荷、心室充満レベル及び心収縮性のレベル、並びにVADの実現可能ピーク流により左右されうる。生来の心臓の共同駆出能は、その患者の肥満指数、或いは体表面積、或いは血管コンプライアンス、並びに末梢抵抗によっても左右されうる。
【0040】
例えば、身長が1.75m、体重が75kgなる一般的な患者では、その平均血流がおおよそ5L/minとなる。所要量は人間の体表面積(BSA)から推定することができる。この一般的な患者の体表面積は約1.9m2である(非特許文献1による公式に依拠)。通常血流をこのBSAにより正規化すると2.6L/m2にほぼ等しくなる。平均血流が5L/minで、健康な人間、安静時であれば血圧は約120mmHg~80mmHgとなる。
【0041】
収縮期総ピーク流Qtotal|max(h)が約8L/minあれば、通常サイズの人間(BSAが1.9m2)に約15mmHgの所望最小拍動性ΔAoP~(h)をもたらすのに、十分であると考えられる。従って、より一般的には、8L/minなる総ピーク流を1.9m2で除し、それにその患者の実際のBSAを乗ずることで、より患者適合的なピーク流値が得られよう。別例としては、BSA=1.6m2の患者では、互角な所望最小拍動性ΔAoP~(h)が、適正な収縮期総ピーク流Qtotal|max(h)=6.7L/minで以て得られよう。より一般にコンプライアンス及び末梢抵抗における諸々の変動を勘案しても、総ピーク流が6L/min~10L/minあれば、補助装置で以て処置されている患者の大半にとり、少なくともΔAoP~(h)≧15mmHgなる目標所望最小拍動性を得るのに十分であるとすべきである。従って、
Qtoal|max(h)=Qheart|max(h)+QVAD|max(h)>6L/min,…,10L/min
なる総ピーク流、ひいては
EV(h)=EVheart(h)+EVVAD(h)=40ml,…,70ml
なる総駆出体積をもたらす収縮期ピーク流速とするのが望ましく、それにより所望最小拍動性ΔAoP~(h)>[15,…,30]mmHgを達成することができる。
【0042】
所望最小拍動性ΔAoP~(h)は固定値ではなく、vWFの補充に基づき変化しうるものである。シミュレーション結果からは、指令信号発生器又は外側圧力制御ループを拍動性の上昇に集中させる一方で平均大動脈圧の低下を許容することも可能であるし、平均大動脈圧に集中させる一方で拍動性の低下を許容することも可能である、という事実が強く指し示されている。
【0043】
通常心拍数HR≒70bpm(拍毎分)での人間の収縮期持続時間は、通常、おおよそτSystole(h)=300msであり、心拍数により僅かばかり変化する。ショック状態の患者は、就中、その心拍数がHR≦120bpmにも達することで通常は特徴付けられる。即ち、心周期の最短持続時間はτ(h)=500msであると想定される。更に、より高い心拍数HR≧120bpmを呈している患者では、おおよそτSystole(h)=250msなる短い収縮期持続時間が想定される。
【0044】
従って、速度パルスの所定のパルス持続時間τpulse(h)を、τpulse(h)=[200,…,300]msの範囲内、好ましくはτpulse(h)=[225,…,275]msの範囲内、最も好ましくはおおよそτpulse(h)=250msとするとよい。
【0045】
或いは、速度パルスの所定のパルス持続時間τpulse(h)を、被補助心臓の収縮期持続時間τSystole(h)に対し±50%又は±100msの範囲内としてもよい。
【0046】
注目動脈における残余拍動性を踏まえつつ速度パルスのパルス持続時間を心拍数に適合化させることで期間τassist(h)、好ましくは従前の心拍数及び先行する収縮期の持続時間の観測結果等に依存するそれを、得るようにしてもよい。
【0047】
これに加え又は代え、速度指令信号nVAD
set(t)の調整を、その患者の心電図(ECG)信号におけるR波の出現に同期させてもよいし、及び/又は、心停止の場合等には一定の繰り返し速度に設定してもよい。
【0048】
ある潜在的実際的実現形態によれば、VAD例えばロータリ血液ポンプ形態のそれにアクチュエータ例えばロータリモータを具備させ、それにより血液ポンプを駆動してVAD誘起性血流QVAD(t)を発生させることができる。その上で、制御装置によって、速度指令信号nVAD
set(t)をそのロータリモータ向けの目標速度レベルへと調整し、フィードバック閉ループ制御によりVADの速度nVAD(t)を制御することで、そのVADの速度nVAD(t)を変更すればよい。それにより、拍動性の修正分即ち拍動性差ΔAoPpulse(h)を、速度指令信号nVAD
set(t)の相応な調整分に、例えば速度差ΔnVAD
set(h)によって関連付ければよく、ひいてはロータリモータの速度指令信号nVAD
set(t)が基本速度レベルnVAD
set,basic(h)から速度差ΔnVAD
set(h)分だけ増し、制御装置により設定された所望最小拍動性ΔAoP~(h)が発生する。このように、制御装置を、より高い相応な速度指令信号nVAD
set(t)=nVAD
set,basic(h)+ΔnVAD
set(h)へと変化させることで所望最小拍動性ΔAoP~(h)を達成するよう、構成してもよい。
【0049】
一般に、速度差ΔnVAD
set(h)を負にし、例えば負の速度パルスを生成することもできる。
【0050】
注目すべきことに、所望の速度差ΔnVAD
set(h)は実現された拍動性差ΔAoPpulse(h)に基づき定めうるものであり、それは、概ね、所与単位時間中に動脈系に送られる血液体積の多さの関数となっている。ご理解頂くべきことに、どのような動脈血圧ビルトアップであれ、生来的なコンプライアンス及び末梢抵抗を有する動脈系内へと単位時間中に駆出される血液体積の最終結果である。
【0051】
好ましくは、その制御装置を更に、速度変更インターバル外でも速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで、例えば基本速度レベルnVAD
set,basic(h)を調整して、VADにより所定の平均動脈血圧AoP-(h)を実現させるよう、或いは逆流性ポンプ流と呼ばれポンプを介し心室内に向かうあらゆる逆流が回避されるよう、構成する。
【0052】
更なる発展形態によれば、その制御装置特に第2閉ループ機構をなすそれを、速度変更インターバル内外双方で速度指令信号nVAD
set(t)を調整して所望最小拍動性ΔAoP~(h)を実現するよう、構成することができる。
【0053】
更なる発展形態によれば、その制御装置を、付加的に、心拍毎平均動脈血圧AoP-(h)を制御上の制約として勘案しつつ速度指令信号nVAD
set(t)を調整するよう、構成することができる。
【0054】
例えば、その制御装置を、速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで所定のしきい値AoP-
thr(h)未満への平均動脈血圧AoP-(h)の降下を避けるよう、構成してもよい。
【0055】
加えて、その制御装置を、速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで、所定の特徴事象が生起するより所定期間τincr(h)前に速度変更インターバル(又は速度パルス)を開始させるよう、構成することができる。これの意味するところは、速度変化を例えば被補助心臓の心室収縮の開始期待又は予測時、即ち心周期内の対応する特徴事象たりうるそれより期間τincr(h)前に引き起こせることである。これはひときわ重要たりうることであり、なぜかと言えば、ポンプ固有の機械的及び/又は流体的慣性があり、従って所望効果提供前に待ち時間が必要なため、個別的なVAD例えばある特定のポンプの動的応答に遅れが生じうるからである。
【0056】
例えば、心収縮の開始、即ち僧帽弁閉止時刻等によって定義されるそれを、対応する血圧信号に基づき検出すればよい。例えばそのVADが左心補助向けに構成される場合、当該対応する血圧信号が左心室圧とされうる。
【0057】
例えば、その心室収縮に先立つ心房収縮を検出してもよい。然るに、この事象は収縮期性収縮事象より早期に生起するので、心房収縮の開始を事象として用いていれば、そのポンプをスピードアップすることができる。
【0058】
これに代え又は加え、当該所定事象を被補助心臓のECG信号におけるR波の生起としてもよい。
【0059】
期間τincr(h)は、VADの駆動部に対する血液の流体的影響によりVADの速度上昇が低速化する、という事実を酌む上で有用たりうるものである。即ち、速度を上昇させるには、速度指令信号nVAD
set(t)を滑らかな軌跡に従い増大させるべきであり、それにより、溶血その他の望ましくない血行力学的副作用、例えば吸引又はVAD誘起性キャビテーションであり血液を過度に加速させそうなものを避けることができる。
【0060】
加えて、その制御装置を、所定のパルス持続時間τpulse(h)の後に速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを終了させるよう、構成してもよい。
【0061】
これに代え、その制御装置を、心拍数依存性パルス持続時間τassist(h)、即ちその制御装置により心拍数HR(h)に適合化されたパルス持続時間の後に、速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを終了させるよう、構成してもよい。特に、その制御装置を、その心周期の少なくとも1個の所定特徴事象が生起したとき速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを終了させるよう、構成してもよい。
【0062】
加えて、その制御装置を、その心周期の少なくとも1個の所定特徴事象が生起したとき又はそれに先立つ所定期間τred(h)にて速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを終了させるよう、構成してもよい。
【0063】
例えば、当該所定特徴事象を、被補助心臓の弛緩開始及び/又は大動脈弁の閉止としてもよい。
【0064】
例えば、少なくとも1個の事象を被補助心臓の弛緩開始としてもよい。これを受け、その制御装置を、特徴事象例えば弛緩開始についての情報を含む信号に基づき事象の生起を導出するよう、構成してもよい。結果として、速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを、例えば、被補助心臓の心室内圧力における最大降下の生起時と同期させることができる。なお、圧力の最大降下時は、先行する収縮期の後に来る心室弛緩の開始(弛緩の瞬間)を指し示している。
【0065】
これに代え又は加え、その制御装置を、自制御装置の少なくとも1個の内部信号に基づき少なくとも1個の心周期毎事象の生起時を導出するよう、構成してもよい。制御装置の「内部信号」とは、本願では、その信号が、その制御装置にとり分析向けに既に内部利用可能となっている信号、例えばその制御装置によってVADに供給される制御信号であることを、意味している。
【0066】
例えば、当該少なくとも1個の内部信号を、VADを作動させるため供給される電流、例えばVADに供給されるモータ電流としてもよい。即ち、その制御装置を、その電流信号及び/又はその処理済バージョン、例えば一次時間導関数等の時間導関数の分析を踏まえ、少なくとも1個の心周期毎事象の生起時を導出するよう、構成してもよい。
【0067】
例えば、VADを、先に言及したロータリ血液ポンプとしてもよい。その血液ポンプにアクチュエータ例えば回転式電動モータを具備させ、それにより回転式推進要素例えばインペラを駆動して相応な血流を発生させるようにしてもよい。その血液ポンプの動作時には、そのモータによるモータ電流の消費を通じ、それらモータ及び回転式推進要素の個別目標速度レベルを、設定されている速度指令信号nVAD
set(t)に従い実現することができる。目標速度達成に必要なモータ電流IVAD(t)は、その血液ポンプが打ち克つべき現在の血圧差Δp(t)、例えば大動脈内血圧AoP(t)・左心室内血圧LVP(t)間の差
Δp(t)=AoP(t)-LVP(t)
により左右される。
【0068】
言い換えれば、血液ポンプに供給される電流が、設定速度を達成するためその血液ポンプのモータで必要とされる電流に、直に対応するもの
IVAD(t)=f(nVAD
set(t),Δp(t))
となる。
【0069】
従って、制御装置によりVADに供給されるモータ電流、或いはその制御装置によって制御される電源ユニットにより供給されるそれを内部信号として用い、少なくとも1個の心周期毎事象の生起時を導出すればよい。
【0070】
更に、その制御装置を、電流信号に基づき、且つ所与速度でのモータ電流、ポンプ流及び圧力差の間のポンプ特性関連付けを伴う既知の計算仕様に基づき、現在のVAD誘起性血流QVAD(t)を推定するよう、構成してもよい。
【0071】
これに代え又は加え、その制御装置を、自制御装置に供給される少なくとも1個の外部信号から少なくとも1個の心周期毎事象の生起時を導出するよう、構成してもよい。「外部信号」とは、本願では、その信号が、VADの外部センサ例えば1個又は複数個の血圧センサから、及び/又は、外部装置例えば患者モニタリングユニット又は心電計(ECG)から、その制御装置が受け取った信号であることを、意味している。そうした外部信号を、対応するインタフェース又は入力端末を介し制御装置内に送り込むことで、その制御装置では、自制御装置による処理及び/又は分析にそれを利用することが可能となる。
【0072】
例えば、その計測信号を、これは幾つかの例を与えるものに過ぎないが、VADのアウトレットとそのVADのインレットとの間の血圧差Δp(t)、被補助心臓の心室内血圧LVP(t)、被補助心臓近隣大動脈内血圧AoP(t)、被補助心臓近隣大静脈内血圧CVP(t)、被補助心臓近隣肺動脈内血圧PAP(t)のうち、少なくとも一つを表すものにするとよい。これら計測信号のいずれでも、波形に、特定の心周期内特徴事象の生起時を記述する情報が含まれることとなろう。
【0073】
例えば、そのVADが先に論じたロータリ血液ポンプである場合、それに、心臓例えば心室内から血液を吸引するためのインレットと、そのVADの挿入先が心臓の左側か右側かにより大動脈又は肺動脈となりうる注目動脈等、心臓近隣血管へと血液を駆出するためのアウトレットとを、具備させてもよい。
【0074】
例えば、特許文献1等に掲載されているように、そのVADに、自VADのインレットにおける血圧例えば被補助心臓における心室圧を計測する圧力センサと、心臓近隣血管内血圧例えば被補助心臓近隣大動脈又は肺動脈内血圧を計測する圧力センサと、のうち少なくとも1個を具備させてもよい。これに代え又は加え、そのVADに、自VADのアウトレット・インレット間血圧差を計測する差圧センサを1個具備させてもよい。
【0075】
加えて、その制御装置を、心周期の特徴点についての情報を含む少なくとも1個の計測信号であって、それを用いその心周期における心臓の現在の動作フェーズを推定することができるものを受信、蓄積及び分析するよう、構成してもよい。その上で、その制御装置を、先行する心周期についての情報に基づき次の心周期における特定特徴の再生起時を予測するよう、構成してもよい。
【0076】
基本的には、いずれの実施形態でも、当該少なくとも1個の計測信号を、ECG信号、心臓の左心室又は右心室内血圧を表す計測信号、心臓近隣大静脈若しくは大動脈内血圧又は肺動脈内血圧の計測信号のうち、少なくとも1個とすることができる。
【0077】
即ち、少なくとも1個の事象の次の生起時を、先行する心周期についての情報に基づき予測するには、被選択信号に好ましくは心周期についての情報が含まれるようにすることで、少なくとも1個の心周期毎事象の生起時が、その被選択計測信号に基づき且つ先行する心周期にて検出された事象に基づき予測されるようにすればよい。
【0078】
これに加え又は代え、その制御装置を、VADによる能動的心補助が計測信号に及ぼす影響をそれら計測信号から取り除くよう、構成してもよい。特に、その制御装置を、心臓の動的挙動に対するVAD誘起性圧力変化によらず所定の心周期内事象を検出する狙いで以て、データ融合により少なくとも2個の好ましくは独立な計測信号を分析するよう、構成するとよい。
【0079】
具体的実施形態によれば、その制御装置を、被補助心臓の心周期のうち拡張期にてVADにより注目動脈例えば大動脈又は肺動脈内へと駆出される血液の量が十分少なくなるよう、VADの速度を設定する構成とすることで、対応する心室における血液体積を保つこと、並びに収縮期におけるVAD及び心室の共同駆出によって好適な最小ピーク血流をもたらすこと、即ち(先に論じた通り)好ましくは約6L/min、より好ましくは7L/min、最も好ましくは8L/min以上たる最小ピーク血流をもたらすことができる。
【0080】
収縮期ピーク流は生来の心臓の共同駆出能により大きく左右されるであろうし、それは具体的には心室前負荷、心室充満レベル及び心収縮性のレベルや、そのVADの実現可能ピーク流によって左右される。心拍毎総ピーク流Qtotal|max(h)及び心拍毎総駆出体積EV(h)により、上述の通り収縮期全身血圧の適切な上昇をもたらす必要があろう。とはいえ、これはその患者の肥満指数若しくは体表面積、血管コンプライアンス並びに末梢抵抗によっても左右される。言い換えれば、小柄な患者ではQtotal|max(h)=6L/minなる最小総ピーク流で十分であろうが、より大柄な患者では(先に論じた通り)より多くの総ピーク流が必要となろう。多めの総ピーク流がとりわけ求められうるのは、血管床が弛緩し又は広く開いている場合である。
【0081】
加えて、その制御装置を、もたらされる心拍毎平均動脈血圧AoP-(h)が所定のしきい値AoP-
thr(h)未満に下がらない場合にのみパルス形態の速度指令信号nVAD
set(t)を心周期内で調整するよう、構成してもよい。
【0082】
最小VAD誘起性血流QVAD(h)を、そのVADによって虚弱心臓に提供されるべき必要最低限の心補助に対応付けてもよい。その着想は、そのVADを、所望のvWF補充が得られ且つ所要最低限の血流供給が確保されるよう動作させればよい、という点にある。例えば、現在の所要血流を、強い補助が求められる期間、例えば日中活動、歩行、階段登り等々を勘案して患者の現在の灌流需要に関連付け、それら期間にてVADが相対的に高い平均速度にて稼働するようにすればよい。患者の灌流需要が少ない期間例えば安静時、睡眠中等々は、VADをより低い平均速度で稼働させるのに用いることができる。これは、ある程度の血流サポートを維持しながら拍動性を増しvWFの補充を助けるのに役立とう。無論、具体的例えば平均的なVAD誘起性血流QVAD(h)に対応する現在の心補助需要が連続様式にて勘案される高度な方式も可能である。このように、制御装置を、現在の所要最小血流と、本願にて提案されている残余拍動性の回復及び維持のためVADにより提供されうる最大血流と、の間の何らかの利用可能な余剰分を用いるよう、構成してもよい。
【0083】
ここに、速度変更を「x中のy」様式にて同期させること、即ち相連続するx個の心周期のうちy個のみで本願の速度パルスを発生させることが、更に賢明であろう。例えば、所望最小拍動性を回復又は維持することを狙いとする速度パルスを2中の1、3中の1又は4中の1様式にて、或いは3中の2、4中の2又は5中の2様式にて、即ち相連続する2、3又は4個の心周期毎に1個の心周期にて、或いは相連続する3、4又は5個の心周期毎に2個の心周期にてそれぞれ、誘起させればよい。これが特に有益なのは、心拍数が高すぎる場合や心臓に対するポンプ補助のレベルが適切でない場合であろう。そうした場合に、拍動性の補強を専ら間欠的に提供するのである。判明している通り、これはvWF補充という目的で問題なく役立ちうる。例えば、その制御装置を、相連続する他のx-y個の被補助心臓心周期のうち少なくともy個にてVADの回転速度nVAD(t)を設定するよう、ひいては心拍毎平均動脈血圧を所定のしきい値より上に保つよう(AoP-(h)≧AoP-
thr(h))、付加的に構成することができる。
【0084】
そして、制御装置に備わる先に論じた機能又は機能性を、その制御装置に備わりハードウェア、ソフトウェア又はその任意な組合せの態をなしている相応な情報処理ユニットによって、実現することができる。そうした情報処理ユニットは、個々の所要制御ステップをその情報処理ユニットに実行させるソフトウェアコードを有する相応なコンピュータプログラムにより、構成することができる。そうしたプログラマブル情報処理ユニットは本件技術分野にて、また本件技術分野に習熟した者(いわゆる当業者)にとり周知であるので、ここで詳述する必要はない。更に、その情報処理ユニットに、特定機能で役立つ特定の専用ハードウェア、例えば先に論じた計測信号を処理及び/又は分析するための1個又は複数個の信号プロセッサ等を、具備させてもよい。更に、VADの駆動部の速度を制御する個別のユニットを、同じく個別のソフトウェアモジュールにより実現してもよい。
【0085】
対応するコンピュータプログラムをデータキャリア上に保存しそこにそのコンピュータプログラムを組み入れることができる。これに代え、そのコンピュータプログラムを、例えばインターネットを介し、コンピュータプログラムを含むデータ流の形態で転送するようにして、データキャリアを不要にしてもよい。
【0086】
本発明の第2態様では、本発明の第1態様に係る制御装置のうち1個を備えるVADが提供される。例えば、そのVADをロータリ血液ポンプ、即ちロータリモータにより駆動される血液ポンプとしてもよい。
【0087】
例えば、そうした血液ポンプをカテーテル式のものとし、対応する血管を介し心臓内に直に埋入又は配置してもよい。
【0088】
例えば、そのVADを特許文献1等で公表された血液ポンプとし、患者の左心又は右心内への一時配置又は埋込向けに特化させてもよい。
【0089】
好ましくは、そのVADを、これに限られるものではないが以下の特性のうち1個又は複数個を有する低慣性装置とする:(1)そのVADの可動部品特に回動部品、例えばロータ又はインペラを、軽量素材例えばプラスチック、合成素材等により製作することで、低質量なものとしうること、(2)駆動手段例えば電動モータを、そのモータにより駆動される部品例えばロータ又はインペラのそば、好ましくはすぐ近く、最も好ましくは隣り合わせに配置しうることであり、カテーテル式の場合、好ましくは、電気配線以外のどのような回転駆動ケーブル又は駆動ワイヤも有しているべきではないこと、(3)そのモータにより駆動される部品例えばロータ又はインペラに対するモータの結合又は連結手段例えばシャフトを短くしうること、(4)そのVADの全可動部品特に回動部品の直径を小さくしうること。なお、上に掲げた特性リストが完全なものであると主張しているわけではないので、本装置を低慣性装置にしうる別の又は代わりの特性を本装置に持たせてもよい。
【0090】
以下、次の添付図面を参照し諸例を以て本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】VADの一例実施形態であり大動脈内に配置され大動脈弁を通り心臓の左心室内へと延伸されるものと、そのVAD用の制御装置の一例実施形態のブロック構成とを、示す図である。
【
図2】
図1のVAD例の側面をより詳細に示す図である。
【
図3】a)大動脈圧(AoP(t))、b)左心室圧(LVP(t))、c)ECG(ECG(t))及びd)速度指令信号軌跡(n
VAD
set(t))を表す信号波形例、並びにe)対応するトリガ信号系列(σ(t))を示すことで、
図1の制御装置の制御下で
図1及び
図2のVADにより血液の拍動性を回復させ及び/又は維持する拍動速度制御の原理を描出する図である。
【
図4】いわゆる大動脈内ウインドケッセル効果を近似する電気的モデルの電気的等価回路を示す図である。
【
図5】心臓の血流Q
heart(t)及びポンプの血流Q
pump(t)(上図)並びに大動脈圧AoP(t)(下図)に関し5種類のシミュレーションシナリオの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
図1の左手側に、本願にてVADの一例示的実施形態として記述されるカテーテル式ロータリ血液ポンプ(以下「血液ポンプ」と呼ぶ)を示す。
図2にはこの血液ポンプ例がより詳細に示されている。
【0093】
先に注記した通り、本願提案の用途で用いられるVADにて充足されるべきものとして発明者により見いだされた重要な物理的必要条件の一つは、何ら有意な慣性がないことである。ロータリ血液ポンプ、例えば
図2に示すカテーテル式ポンプ型の血液ポンプは、提唱されている拍内速度変調付速度制御シナリオの実施の支障になりかねないような、有意な慣性を何ら有していない。
【0094】
この血液ポンプは、カテーテル10をベースとし、それにより大動脈12及び大動脈弁15を介し心臓の左心室16内へと随時挿入される血液ポンプである(カテーテル式血液ポンプ)。
図2中に詳示の通り、この血液ポンプは、カテーテル10に加え、カテーテルチューブ20の端部に締結されたロータリポンピング装置50を備えている。ロータリポンピング装置50は、モータ部51と、そこから見てある軸方向距離の位置にあるポンプ部52とを備えている。フローカニューラ53は、その一端にてポンプ部52に連結されポンプ部52から延びており、その他端にはインフローケージ54が所在している。そのインフローケージ54には柔軟且つ可撓なチップ(端部)55が装着されている。ポンプ部52はアウトレット開口56付きのポンプハウジングを備えている。更に、ポンピング装置50は、モータ部51からポンプ部52のポンプハウジング内へと突出するドライブシャフト57を備えている。そのドライブシャフト57によって推進要素たるインペラ58を駆動することで、血液ポンプの動作中に、血液をインフローケージ54を介し吸い込みアウトレット開口56を介しはき出すことができる。
【0095】
然るべく適合化されていればポンピング装置50により逆方向にポンピングすることも可能であり、例えば血液ポンプを右心内に配置する際にそれが求められる。これに関し完全を期して言えば、
図1に示すロータリ血液ポンプはVADの一具体例であり、これは左心内に配置され左心補助に用いられている。右心補助の場合、血液を肺動脈内へと駆出しうるよう、本例のロータリ血液ポンプを大静脈から右心内へと随時導入して右心内に配置すればよい。その配置にする血液ポンプを、大静脈又は右心室から血液を吸引し肺動脈内へとその血液を駆出するよう構成すればよい。即ち、一具体的実施形態により記述される諸原理及び機能性を右心補助向けに相応に引き写せばよい。従って詳細な記述は必要でない。
【0096】
図1及び
図2では3本の線、即ち2本の信号線28A及び28Bとモータ部51に電流を供給するための給電線29とが、カテーテル10のカテーテルチューブ20内を通りポンピング装置50に通じている。それら2本の信号線28A,28B及び給電線29の基端は制御装置100につながっている。言うまでもないが、更なる線を設け他の機能を担わせてもよく、例えばパージ流体線を同様にカテーテル10のカテーテルチューブ20内に通しポンピング装置50に通じさせてもよい。更なる線を別のセンシングテクノロジに基づき付加してもよい。
【0097】
図2に示す通り、信号線28A,28Bは血圧センサの構成部品であり、対応するセンサヘッド30,60をめいめい有しており、それらセンサヘッドがポンプ部52のハウジング上に外付け配置されている。第1圧力センサのセンサヘッド60は信号線28Bと連携している。信号線28Aは第2血圧センサのセンサヘッド30と連携、接続されている。それら血圧センサの例は、特許文献1に記載の如くファブリペローの原理に従い機能する光学式圧力センサであり、その場合はそれら2本の信号線28A,28Bが光ファイバとなる。とはいえ他の圧力センサを代わりに用いてもよい。基本的には、圧力センサの信号、即ちそのセンサの所在個所での圧力についての個別的情報を運ぶ信号は、好適であればどのような物理的源泉によるものでもよく、例えば光学的、流体的又は電気的源泉等々のそれが、個々の信号線28A,28Bを介し、制御装置100のデータ処理ユニット110の相応する入力へと伝送されることになる。
図1に示す例では、圧力センサが、センサヘッド60により大動脈圧AoP(t)が計測され且つセンサヘッド30により左心室圧LVP(t)が計測されるように、配置されている。
【0098】
データ処理ユニット110は、全ての外部信号及び内部信号の捕捉、ポンプ流推定の基礎となる二種圧力信号間差の計算等を含む実信号処理、捕捉及び計算した信号に基づき心周期内特徴事象を検出するための信号分析、並びにトリガ信号発生器による速度指令信号発生器120トリガ用トリガ信号系列σ(t)の生成を目的として、構成されている(詳しくは以下を参照)。
【0099】
データ処理ユニット110は、対応する信号線を介し更なる計測装置300、例えば患者モニタリングユニット310及び心電計320に接続されているが、これらの装置は二例に過ぎず、他の計測装置により有用な信号を発生させひいてはそれを用いることもできる。心電計320はECG信号ECG(t)をデータ処理ユニット110に供給する。
【0100】
制御装置100は更にユーザインタフェース200を備えており、それにはディスプレイ210及び通信インタフェース220が備わっている。そのディスプレイ210上には、設定パラメタ、パラメタ監視結果例えば圧力信号計測結果、並びにその他の情報が表示される。更に、通信インタフェース220により制御装置100のユーザが制御装置100とやりとりし、例えばシステム全体の設定を変更することができる。
【0101】
データ処理ユニット110は、とりわけ、被補助心臓の心周期における1個又は複数個の所定特徴事象の生起時を現信号値のリアルタイム分析により導出又は予測し、トリガ信号発生器によるトリガ信号系列σ(t)の生成にそれを用いるよう、構成されている。得られたトリガ信号系列σ(t)は、速度指令信号の変化をトリガすべく速度指令信号発生器120に送られる。
【0102】
更に、データ処理ユニット110は、それら速度指令信号nVAD
set(t)の従来値をも分析するよう構成されている。即ち、データ処理ユニット110は、現及び/又は先行心周期内で生起する特徴事象についての格納済情報に基づき、後来心周期における少なくとも1個の所定特徴事象の生起時を予測するようにも、構成されている。
【0103】
心周期の具体的な特徴事象の一つは、収縮期開始時における心臓収縮の開始であろう。そうした特徴事象の生起が検出又は予測され、本願提案の如く速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを心周期と同期させるための事象として用いられる。
【0104】
速度指令信号発生器120は、ポンピング装置50の速度指令信号nVAD
set(t)を生成及び調整し、それを、事象ベース指令信号発生器たるフィードフォワード機構(第1機構)又は圧力制御用外側フィードバック閉ループ機構(第2機構)の態をなす速度制御ユニット130に供給するよう、構成されている。
【0105】
第1機構ではデータ処理ユニット110によって少なくとも1系列のトリガ信号σ(t)が供給され、それにより速度指令信号発生器120がトリガされる。第2機構では、(指令信号発生器120たる)圧力制御アルゴリズムであり外側フィードバックループの態で動作するものに、データ処理ユニット110により外部信号及び内部信号を供給し、更にデータ処理ユニット110により供給される少なくとも1系列のトリガ信号σ(t)によりその圧力制御アルゴリズムをトリガすることで、速度指令信号nVAD
set(t)を発生させ所望最小拍動性ΔAoP~(h)を達成する。
【0106】
これを受け、速度制御ユニット130は、カテーテルチューブ20内に導かれている給電線29を介しポンピング装置50のモータ部51へとモータ電流IVAD(t)を供給することで、その速度指令信号nVAD
set(t)に従いVADの速度nVAD(t)を制御する。供給されるモータ電流IVAD(t)の現レベルは、速度指令信号nVAD
set(t)により定まる目標速度レベルを確立するためポンピング装置50にて現在必要とされている電流に、相当している。給電線29を介しポンプは制御ユニット100との通信も行う。
【0107】
計測信号例えば供給されたモータ電流IVAD(t)は、制御装置100の内部信号を代表する信号として用いられ、更なる処理のためデータ処理ユニット110に供給される。
【0108】
本発明の第1態様に係る制御装置100は、心補助用VADの一例実施形態たる
図1及び
図2の血液ポンプの速度を変更するよう、構成されている。
【0109】
制御装置100は、とりわけ、被補助心臓の心周期内で血液ポンプ50の速度を変更することでポンプ内血流に変化をもたらすよう、またその速度変更を心周期内所定事象に関わる少なくとも1個の心周期毎事象によって心拍と同期させるよう、構成されている。即ち、データ処理ユニット110のトリガ信号発生器によって少なくとも1系列のトリガ信号σ(t)を供給し、それにより速度指令信号発生器120をトリガするに当たり、データ処理ユニットにより少なくとも1個の心周期内特定事象についての情報を取得し、その事象の生起を検出し、それに対応する信号情報を用いトリガ信号系列σ(t)を設定すればよい。
【0110】
しかし、トリガ信号系列σ(t)を供給するトリガ信号発生器を複数個の心周期内事象に依拠するものとし、それら事象を各心周期内で検出し、その分析により対応するトリガ信号系列σ(t)を導出し、それにより指令信号nVAD
set(t)を調整して血液ポンプ50の速度nVAD(t)を変更するようにしてもよいので、そのことに留意すべきである。
【0111】
先に論じた通り、この血液ポンプはロータリポンピング装置50を備えており、そのインペラの(回転)速度nVAD(t)が速度制御ユニット130によって制御されている。血液ポンプの速度指令信号nVAD
set(t)は指令信号発生器120により調整される。
【0112】
血液ポンプによって本提案の血流変化をもたらす第1実施形態によれば、制御装置100特にその速度指令信号発生器120が、ロータリポンピング装置50の速度指令信号nVAD
set(t)を調整すること、ひいてはそれによりもたらされるVADの速度nVAD(t)を変更することで、VAD誘起性血流QVAD(t)を発生させて各心周期にて圧力パルスを誘起させるよう、構成される。
【0113】
より良好な理解を期し、速度変更の潜在的効果の一例を
図3に示す。
図3は波形例を伴う図である。
【0114】
図3a)中の波形は大動脈圧信号を表しており、生理学的(非補助時)大動脈圧AoP(t)(破線)と、所望(補助時)大動脈圧AoP
~(t)(実線)との間に、違いが生じている。
【0115】
図3b)中の波形は、左心室圧LVP(t)に係る信号を、トリガ信号系列σ(t)の生成又は導出に用いうる特徴的圧力値及び/又は心周期内事象に係る例と共に、表している。
【0116】
【0117】
図3中の線図は、
図1中の制御装置100の制御下にある
図1及び
図2の血液ポンプを用いた拍動性血圧回復及び維持の原理を、一例を以て描いたものである。
【0118】
この目的を踏まえ、
図3d)には速度指令信号n
VAD
set(t)の具体例の一つが示されている。
【0119】
図3e)には、対応するトリガ信号系列σ(t)が描かれている。
【0120】
速度指令信号nVAD
set(t)はポンプ速度変更に用いられるものであり、速度指令信号発生器120の信号出力に対応しており、且つ速度制御ユニット130へと送られている。トリガ信号系列σ(t)を基礎とした事象ベース速度指令信号の生成、即ち事象ベース閉ループ圧力制御により、変更された速度指令信号nVAD
set(t)が生じ、その変更が心拍と同期化される。
【0121】
指令信号nVAD
set(t)は、基本速度レベル
nVAD
set(t)=nVAD
set,basic(j)
から、速度パルスの開始に際する増強速度レベル
nVAD
set(t)=nVAD
set,basic(j) +ΔnVAD
set(j)
への速度上昇を呈しており、ΔnVAD
set(j)により速度パルス内速度差が表されている。
【0122】
図3では速度パルスの開始を拡張期の終了と同期させている。更に、速度パルスの終了に際し速度が増強速度レベル
n
VAD
set(t)=n
VAD
set,basic(j) +Δn
VAD
set(j)
から基本速度レベル
n
VAD
set(t)=n
VAD
set,basic(j)
へと低下、復帰することも示されている。
【0123】
図3では速度パルスの終了を収縮期の終了と同期させている。これらの速度変更は、それぞれ、本願の概要欄で論じた通り、所望最小拍動性を達成するための速度変更の潜在的実現形態を表している。
【0124】
速度低下は、速度指令信号nVAD
set(t)のパルスが心拍数依存性パルス持続時間τassist(h)の後に終了するよう、即ちそのパルス持続時間が心拍数HR(h)に適合化されるよう、トリガされる。即ち、指令信号発生器120が、心拍数依存性のパルス持続時間を呈する速度パルスを生成するよう構成されている。
【0125】
これに代え、速度低下を、所定のパルス持続時間τpulse(j)が実現されるようトリガすることもできる。これを果たすには、指令信号発生器120を、所定のパルス持続時間τpulse(j)を呈する速度パルスを生成するよう構成すればよい。
【0126】
図示例では(
図3d)、速度パルスの開始に際する速度差Δn
VAD
set(j)分の速度上昇が、この例で言う時点t
LVP
j,EDにて終了しており、速度パルスの終了に際する速度低下が、この例で言う時点t
AoP
j,ESにて終了している。
【0127】
好ましくは、動作中に、速度指令信号発生器120を、速度差ΔnVAD
set(h)を然るべく調整することで拍動性ΔAoP(h)を制御するよう構成する。先に論じた通り、vWF不足が生じえないようにし及び/又は微小血管性灌流が改善されうるようにするには、所望最小拍動性をΔAoP~(h)=[15,…,30]mmHgの範囲内とすれば十分であると考えられる。
【0128】
更に、先に論じた通り、データ処理ユニット110は、現在の心拍毎平均動脈血圧AoP-(h)を計測及び/又は計算するよう、またその現在値を速度指令信号発生器120に供給するよう、構成されている。これを踏まえ、速度指令信号発生器120は、更に、速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで、好ましくは所定のしきい値未満への動脈血圧の降下を回避しAoP-(h)≧AoP-
thr(h)とするよう、構成されている。
【0129】
概要欄で論じた通り、十分な最小血圧拍動性の回復及び/又は維持を、ロータリポンピング装置50の速度を調整し、それによりVAD誘起性血流QVAD(t)を心周期のうち拡張期にて実質的に減少させ及び/又は心周期のうち収縮期にて実質的に増大させることで、達成することができる。そのため、具体的諸実施形態では、速度指令信号発生器120が、速度指令信号nVAD
set(t)を調整することで、被補助心臓の心周期のうち拡張期にて大動脈(又は肺動脈)へと駆出される血液体積を少なくし所定体積を左(右)心室内に残存させるよう、且つその左(右)心室並びにロータリポンピング装置50により適切な血液体積を収縮期にて共同駆出させるよう、構成されている。言い換えれば、拡張期内速度低下により心臓を適切に充満させることもでき、それによりロータリポンピング装置50及び生来の心臓からの血液の収縮期共同駆出が可能となる。この点に関し発明者が見いだしたところによれば、ポンプ及び生来の心臓により収縮期にて
Qtotal|max(h)=Qheart|max(h)+Qpump|max(h)>6L/min,…,10L/min
なる総ピーク流を誘起させ、
EV(h)=EVheart(h)+EVpump(h)=40,…,70ml
なる総駆出体積がもたらされるようにすべきであり、それにより所望最小拍動性ΔAoP~(h)≧15,…,30mmHgを達成することができる。とはいえ、目標となる所望最小拍動性ΔAoP~(h)は固定値ではなく、vWFの補充より変動しうる。更に、虚弱心臓の生来の拍動性だけでも所望最小拍動性を上回っている場合、無論のことその拍動性を低減させる必要はなかろう。
【0130】
発明者は、ポンプの心拍毎ピーク流記述値Q
pump|
max(h)及び心臓のそれQ
heart|
max(h)と、それらに対応するポンプの心拍毎総駆出体積EV
pump(h)及び心臓のそれEV
heart(h)を、電気的等価回路を構成する数学的モデルにより確認した。用いたモデルが
図4に描かれている。
【0131】
図4に、心臓により血液が駆出される際のいわゆる大動脈内ウインドケッセル効果の動態を近似する、電気的モデルの回路を示す。この電気的モデルは、大動脈弁の抵抗を表す抵抗器(R
1=0.05Ω)と、それに直列接続されており末梢動脈系の抵抗を表している別の抵抗器(R
2=1.32Ω)と、動脈コンプライアンスを表すキャパシタ(C
2=1.7F)とで、構成されている。更に、このモデルでは、(残存している)心出力Q
heart(h)及びポンプの血流Q
pump(h)が電流源と見なされている。ロータリ血液ポンプの代表としては標準的なポンプたるImpella(登録商標)5.0を用いた;更なる細部については非特許文献2を参照されたい。
【0132】
図5は5種類のシミュレーションシナリオの結果を表したものである。後掲の表に、それら5種類のシミュレーションシナリオの結果を、心拍jに係る総血流(Q
total(j))及び対応する拍動性(ΔAoP(j))についての付加的情報と共に示す。
【0133】
図5中、左から右にかけて考察されているシナリオ(1)~(5)は以下の通りである。
【0134】
シナリオ(1)-「健全心臓」:生来の心機能を想定したものであり、Qheart|max(j)=15L/minなる心臓のピーク流と、ΔAoP(j)=40mmHg(120/80mmHg)なる拍動性とが、ありふれた平均大動脈血圧AoP-(j)=105.4mmHgと共にもたらされている。
【0135】
シナリオ(2)-「虚弱心臓、補助無し」:心機能が生来機能の1/3に低下しているものであり、Qheart|max(j)=5.4L/minなる心臓のピーク流と、ΔAoP(j)=14.5mmHg(42/28mmHg)なる非常に低い拍動性とが、ポンプが埋め込まれていない状態で、AoP-(j)=36.8mmHgなる非生理的に低い平均大動脈血圧と共に得られている。
【0136】
シナリオ(3)-「フルアンローディング(P4)」:最大流の生成を狙い、虚弱心臓を速度レベルP4にてポンプにより補助するものであり、Qtotal|max(j)=Qheart|max(j)+Qpump|max(j)=8.5L/minなる総ピーク流と、ΔAoP(j)=17.2mmHg(96/79mmHg)なる中庸な拍動性とが、AoP-(j)=89.8mmHgなる生理的な平均大動脈血圧と共に生じている。
【0137】
シナリオ(4)-「低拍動性(P4/P2)」:虚弱心臓をポンプにより補助し、その速度を変更して収縮期ではシナリオ(3)の速度(P4)、拡張期では低い速度(P2)としたものであり、Qtotal|max(j)=Qheart|max(j)+Qpump|max(j)=8.5L/minなる総ピーク流と、シナリオ(3)に比べ高くΔAoP(j)=20.4mmHg(78/58mmHg)なる中庸な拍動性とが、AoP-(j)=70.6mmHgなる低めの平均大動脈圧にて得られている。
【0138】
シナリオ(5)-「高拍動性(P9/P2)」:虚弱心臓をポンプにより補助し、その速度を変更して収縮期では最高可能速度(P9)、拡張期では低い速度(P2)としたものであり、Qtotal|max(j)=Qheart|max(j)+Qpump|max(j)=10.3L/minなる強い総ピーク流と、ΔAoP(j)=27.4mmHg(95/69mmHg)なる最高可能拍動性とが、AoP-(j)=85.2mmHgなる中庸な平均大動脈圧にて得られている。
【0139】
注記すべきことに、シナリオ(3)~(5)では、ポンプによる拡張期アンローディングの度合の変化によらず同じ量を、収縮期にて心臓が駆出することが、想定されている。
【表1】
【0140】
総じて、これらシミュレーション結果によりはっきり示されているのは、その速度変更の焦点を、平均大動脈圧の低下を許容しつつ拍動性を高めることに置くことも、拍動性の低下を許容しつつ平均大動脈圧を高めることに置くことも可能である、という事実である。物理的及び生理学的制約条件、例えば慣性及び溶血が非常に少ないというそれをここでは勘案している。
【0141】
特に、データ処理ユニット110は、速度指令信号発生器120をトリガすることで、少なくとも1個の心周期内所定事象について検出又は予測された生起時刻にて速度指令信号nVAD
set(t)のパルスを開始及び/又は終了させるよう、構成されている。データ処理ユニット110のトリガ信号発生器により生成された少なくとも1系列のトリガ信号σ(t)が速度指令信号発生器120に供給されている。
【0142】
好適実施形態では、
図3に描かれているように、速度指令信号発生器120が、速度指令信号n
VAD
set(t)の増大を、その心周期の特徴事象即ちトリガ信号系列σ(t)を生成する基礎となる事象が生起するより所定期間τ
incr(h)前に開始させるよう、構成されている。このトリガ信号系列σ(t)を用いることで、ポンプ速度を中庸な様式で変化させて吸引、血液損傷等々を避けることができ、或いは時宜に適った様式でのポンプ速度上昇を可能にして収縮期共同駆出に係る速度変化とそれによりもたらされる圧力変化との間の位相差(脈管構造のコンプライアンス及び血液の慣性)に対処することができる。
【0143】
図3に描かれている例では、左心室の収縮開始時が特徴時として用いられ、それを勘案してトリガ信号発生器によりトリガ信号系列σ(t)が生成されている。左心室の収縮は、対応するECG信号中でR波が生起した直後に始まる。従って、速度指令信号発生器120を、データ処理ユニット110に供給されたECG信号に基づきトリガ信号系列σ(t)を導出するよう構成すればよい。データ処理ユニット110は、(外付けの)ECG装置320からECG信号を受け取り、トリガ信号発生器によりトリガ信号系列σ(t)を生成するよう、構成すればよい。
【0144】
先に言及した通り、例えば左心房収縮の開始のように、その生起時が収縮期内駆出期の開始に先行しており事象として使用可能なものを示す他の計測信号を、トリガ信号系列σ(t)を生成するためデータ処理ユニット110により用いてもよい。例えば
図3b)では、左心室圧LVP(t)に係る信号についての例として幾つかの特徴値及び特徴時、即ちその最低値LVP
min(j)、最高値LVP
min(j)、最大経時変化dLVP(j)/dt|
max及び最小経時変化dLVP(j)/dt|
minがマークされている。
【0145】
概して、速度指令信号発生器120は、データ処理ユニット110によってもたらされる少なくとも1系列のトリガ信号σ(t)により速度指令信号nVAD
set(t)の調整を心周期と同期させることで、心室収縮の開始及び/又はECG信号におけるR波の生起に先立ち速度パルスを開始させる。
【0146】
速度指令信号nVAD
set(t)の上昇開始に係る所定期間τincr(h)は、例えば、その心周期中の関連する特徴事象より、およそτincr(h)=150ms、好ましくはτincr(h)=100ms、最も好ましくはτincr(h)≦100msだけ前に設定すればよい。発明者が更に見いだしたところによれば、所定期間τincr(h)により、血液が過度に高速で加速されないようにし、血液損傷の蓋然性及び/又は不要な血行力学的効果の蓋然性を減らせるものと考えられる。そのため、速度指令信号発生器120は、速度指令信号nVAD
set(t)を調整してVADの速度nVAD(t)を円滑に変化させるよう構成される。
【0147】
具体例の一つとして、
図3d)には、VADの速度n
VAD(t)が直線的に増減する傾斜部付きの速度指令信号n
VAD
set(t)が示されているが、他の形態にすること、例えば指数的な速度上昇又は低下とすることも可能である。
【0148】
そして、速度指令信号発生器120は、上記所定のパルス持続時間τpulse(h)の後、VADの速度nVAD(t)を調整し当初の速度レベルnVAD
set,basic(t)に戻すことで現速度パルスを終了させるよう、構成されている。
【0149】
これに代え又は加え、速度指令信号発生器120を、その心周期の所定特徴事象が生起したとき速度指令信号nVAD
set(t)を調整してVADの速度nVAD(t)を変更し現速度パルスを終了させるよう、構成してもよい。
【0150】
好適実施形態では、その所定事象が、被補助心臓の弛緩開始及び/又は大動脈弁の閉止とされる。この場合、その所定の心周期内特徴事象の前、さなか又は後に速度指令信号nVAD
set(t)の低減を開始させるための所定期間τred(h)をも、勘案するとよい。好ましくは、速度パルスを終結させるためのトリガをトリガ信号系列σ(t)の一部とし、心室弛緩が始まるより期間τred(h)だけ前に、データ処理ユニット110により供給する。好ましくは、そのトリガ信号を、先行する心周期中に検出された心室弛緩開始の予測に基づくものとする。
【0151】
例えば、左心室圧LVP(t)が大動脈圧AoP(t)未満に降下したことを以て、或いは、これと同じことだが、フローカニューラ53のインレット54・アウトレット56間圧力差が0未満に低下したことを以て、大動脈弁の閉止と判別することができる。
【0152】
データ処理ユニット110は、更に、心周期内特徴事象たる被補助心臓大動脈弁閉止に関わる情報を含む少なくとも1個の信号からトリガ信号系列σ(t)を導出するよう、構成されている。
【0153】
例えば、被補助心臓の左心室圧LVP(t)及び/又は被補助心臓近隣大動脈圧AoP(t)を表す計測信号が有用な信号であろう。その血液ポンプが、心臓の右側の補助用及びそこへの配置向けに構成されているのなら、被補助心臓近隣大静脈内血圧CVP(t)及び/又は右心室圧RVP(t)及び/又は被補助心臓近隣肺動脈内血圧PAP(t)を表す信号が、そうした信号となろう。
【0154】
データ処理ユニット110は、速度制御ユニット130によりロータリポンピング装置50へと供給される所要モータ電流IVAD(t)からトリガ信号系列σ(t)を導出するよう、構成されている。本願中の別の個所で論じた通り、この所要モータ電流IVAD(t)は、設定されている速度値に追従するためロータリポンピング装置50にて必要とされるエネルギを反映している。こうして、指令信号発生器120を、データ処理ユニット110によりもたらされる対応系列のトリガ信号σ(t)によりトリガすればよい。
【0155】
好ましくは、データ処理ユニット110を、循環器系及び心周期の特徴情報を含む少なくとも1個の計測信号を受信、格納及び分析するよう、ひいては先行する心周期の分析結果に基づき少なくとも1個の心拍毎事象を予測するよう、構成する。最も好ましくは、そのデータ処理ユニット110を、少なくとも2個の計測信号を分析することでポンプ誘起性圧力変化の影響をフィルタリングするよう、ひいては心周期内特徴事象を信頼性よく検出しうるよう、構成する。