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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ラクターゼ原末及びラクターゼ製剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/38 20060101AFI20221108BHJP
   C12N 9/96 20060101ALI20221108BHJP
   A23L 33/195 20160101ALI20221108BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20221108BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20221108BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C12N9/38
C12N9/96
A23L33/195
A61K38/47
A61K9/14
A61P1/14
C12Q1/34
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019523495
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021025
(87)【国際公開番号】W WO2018225623
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2017112848
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 学
(72)【発明者】
【氏名】北條 真之
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060224(WO,A1)
【文献】特開2002-187854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00- 3/00
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクターゼと、ガラクトース及び/又はグルコースとを含み、
前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上50μmol以下である、ラクターゼ原末。
【請求項2】
前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上30μmol以下である、請求項1に記載のラクターゼ原末。
【請求項3】
前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上8μmol以下である、請求項1に記載のラクターゼ原末。
【請求項4】
105℃で4時間放置後の残存活性が10%以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
【請求項5】
105℃で4時間放置後の残存活性が50%以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
【請求項6】
105℃で4時間放置後の残存活性が75%以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
【請求項7】
前記ラクターゼが、Aspergillus oryzaeが産生するラクターゼである、請求項1から6のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末を含む、ラクターゼ製剤。
【請求項9】
105℃で4時間放置後の残存活性が10%以上である、請求項8に記載のラクターゼ製剤。
【請求項10】
糖賦形剤をさらに含む、請求項8又は9に記載のラクターゼ製剤。
【請求項11】
前記糖賦形剤の含有量が10質量%以上である、請求項10に記載のラクターゼ製剤。
【請求項12】
ラクターゼ製剤中のガラクトース及びグルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上である、請求項8から11のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
【請求項13】
医薬品である、請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
【請求項14】
サプリメントである、請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
【請求項15】
食品添加物である、請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
【請求項16】
以下の工程(1)及び(2)を含む、ラクターゼ原末の製造方法:
(1)グルコース及びガラクトースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上50μmol以下であるラクターゼ含有液を準備する工程;及び
(2)上記ラクターゼ含有液を乾燥する工程。
【請求項17】
以下の工程(1)~(3)を含む、ラクターゼ製剤の製造方法:
(1)グルコース及びガラクトースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり1.9μmol以上50μmol以下であるラクターゼ含有液を準備する工程;
(2)上記ラクターゼ含有液を乾燥する工程;及び
(3)ラクターゼ乾燥物を製剤化する工程。
【請求項18】
請求項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、医薬品の製造方法。
【請求項19】
請求項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、サプリメントの製造方法。
【請求項20】
請求項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は請求項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、食品添加物の製造方法。
【請求項21】
請求項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末、請求項8から12及び15のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を飲食材料に添加する工程を含む、飲食物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクターゼ原末及びラクターゼ製剤に関する。より具体的には、本発明は、工業的に製造可能でありながら保存安定性の高いラクターゼ原末及びラクターゼ製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクターゼは、ラクトース(すなわち乳糖)をグルコース及びガラクトースへ加水分解する酵素であり、βガラクトシダーゼとも呼ばれる。
【0003】
牛乳等の乳製品にはラクトースが含まれている。乳製品を摂取すると、多くのヒトの小腸に存在するラクターゼによって体内でラクトースが分解され、小腸から吸収される。しかしながら、一部のヒトにおいては小腸に十分なラクターゼが存在しないため乳製品を摂取しても小腸での適切な吸収が起こらず、消化不良、下痢、腹部膨満感などの症状を呈する。このような病態は乳糖不耐症と呼ばれる。
【0004】
乳糖不耐症の症状を抑えるため、ラクターゼ剤を服用することがよく知られている。このため、ラクターゼ剤は多くの国で製造販売されている。一方で、ラクターゼは、乳製品の摂取前に服用すると、その効果が低下したり無効化したりすることが知られている。そこで、特許文献1には、ラクターゼ剤に、ラクターゼとともに、制酸剤のクエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム又はリン酸水素カルシウムの中から選ばれる少なくとも1種を含有させることによって、ラクトースを含む飲食物の摂取前に服用してもラクターゼが失活することなく体内でラクトースを分解する技術が開示されている。
【0005】
一般に酵素剤のような生物製剤の製造においては、非特許文献1に記載のように、不安定な生物活性物質を安定な製品とするために、それをガラス化しやすい賦形剤とともに乾燥し、水溶性のガラス内に封じ込めることが推奨されている。非特許文献1には、賦形剤として炭水化物が重要であることが開示されており、ガラスを形成しやすい炭水化物として、グリセロール、リボース、キシロース、ソルビトール、マンニトール、フルクトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、マルトトリコース、ラフィノースが挙げられている。
【0006】
一方、特許文献2では、非晶質またはガラス様固体マトリックスを与えることで酵素を安定化させる炭水化物賦形剤の存在下で行われる生物物質の乾燥中及び乾燥後に、メイラード反応が起きることが指摘されている。そして、メイラード反応による着色の程度が、酵素活性の低下と相関するようであることが報告されている。そこで、炭水化物賦形剤によるメイラード反応を防止し、乾燥された生物物質の寿命を延長させる目的で、乾燥された生物物質を安定化するのに有効な量の炭水化物賦形剤の存在下で、かつメイラード反応を実質的に防止するのに有効な量のメイラード反応阻害剤の存在下で、生物物質を乾燥させる方法が開示されている。具体例として、炭水化物賦形剤としてグルコースの存在下で、メイラード反応阻害剤としてのリジンを含ませてアルカリホスファターゼを乾燥させることで、当該酵素の活性が向上したことが示されている。
【0007】
また、特許文献3では、酵素を用いた食品の調理製造において、食品の出発成分中に含まれる水がメイラード褐変をもたらすことが挙げられている。そして、水がより少ないとメイラード褐変の程度が低下することから、メイラード褐変を制御するための手段が食品の出発成分中の水分量を減らすことである旨が開示されている。一方で、食品の調理製造においては、メイラード褐変を制御するための手段である水の除去による乾燥が他の問題を引き起こすことも指摘されている。そこで、この問題を解決する手段として、食品の出発成分(全乳又は脱脂乳)中に、過剰な褐変を予防するのに有効な量のオキシドレダクターゼ酵素を加えた水性混合物を形成した後に、乾燥して食品(チーズ)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/037058号
【文献】特表平10-505591号公報
【文献】特開2016-129525号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】蛋白質核酸酵素Vol.41,No.6(1996)p.810-816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、ラクターゼ剤の服用時における体内での活性低下を課題とするものであり、ラクターゼ剤自体の保存時安定性に対する課題については開示していない。非特許文献1では、保存時安定性の観点から、酵素剤のような生物製剤の製造にグルコースやガラクトースなどの賦形剤が必要であることが記載されている。特許文献2は、炭水化物賦形剤によって引き起こされる別の問題として、酵素活性の低下と相関するようであるというところのメイラード反応を防止することを課題としている。しかしながらその解決手段は、非特許文献1と同様、グルコースのような炭水化物賦形剤の存在下で乾燥させることが前提となっている。特許文献3では、メイラード褐変の要因が水の存在であり、水の除去によりメイラード褐変を制御できることを開示する。
【0011】
しかしながら、いずれの文献も、保存時の酵素の安定性に影響を与える要因として、グルコースなどの炭水化物賦形剤以外の要因については何らの示唆もされていない。また、酵素活性の低下と相関するようであると開示されているメイラード反応に対して影響を与える要因としても、グルコースなどの炭水化物賦形剤や水以外の要因について何らの示唆もされていない。
【0012】
ここで、ラクターゼをはじめ工業用に生産される酵素は、製造効率及び製造コストに鑑み、微生物の発酵作用を利用して生産されることが通常である。微生物を用いた酵素の生産に用いられる方法としては、固体培養法や液体培養法が挙げられる。このような培養法には糖類を含む培地が用いられる。
【0013】
微生物発酵によって生産されたラクターゼやアミラーゼなどの糖加水分解酵素は、培地に含まれている糖類を分解する。このため、工業的に製造されるラクターゼには、培地に含まれていた糖類や工程中に添加した糖類の分解物等として、グルコースやガラクトースが不可避的に混在する。このように製造上不可避的に生じるグルコースやガラクトースは、賦形剤として後から添加されるグルコースやガラクトースに比べて極めて少ない量であると言える。したがって、このような製造上不可避的に混在するグルコースやガラクトースがラクトースに与える影響は、従来の技術常識上、特に考慮されることなく無視されてきた。さらに、ラクターゼが粉末状つまり乾燥状態であれば、特許文献3等が開示する水による影響もないため、製造上不可避的に混在するグルコースやガラクトースが考慮される動機付けはなおさら無い。
【0014】
しかしながら本発明者は、この製造上不可避的に混在するグルコースやガラクトースが、たとえ少量であってもラクターゼの保存安定性に大きく影響し、かつ、その影響は、たとえ乾燥状態のラクターゼであっても及ぶことを発見した。
【0015】
そこで本発明の目的は、保存安定性をより向上させたラクターゼ原末及びラクターゼ製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、ラクターゼの製造工程で不可避的に生じるグルコース及び/又はガラクトースの量の許容量を所定範囲内とすることで、ラクターゼ原末の安定性が向上することを見出した。さらに本発明者は、そのようにグルコース及び/又はガラクトースの量が規定されたラクターゼ原末であれば、乾燥状態で賦形剤と混合されラクターゼ剤へ製剤された場合であっても、賦形剤由来の還元糖によるラクターゼへの悪影響が抑制されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
本発明は以下の発明を含む。
【0017】
項1. ラクターゼと、ガラクトース及び/又はグルコースとを含み、
前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超50μmol以下である、ラクターゼ原末。
項2. 前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超30μmol以下である、項1に記載のラクターゼ原末。
項3. 前記ガラクトース及び前記グルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超8μmol以下である、項1に記載のラクターゼ原末。
項4. 105℃で4時間放置後の残存活性が10%以上である、項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
項5. 105℃で4時間放置後の残存活性が50%以上である、項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
項6. 105℃で4時間放置後の残存活性が75%以上である、項1から3のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
項7. 前記ラクターゼが、Aspergillus oryzaeが産生するラクターゼである、項1から6のいずれか1項に記載のラクターゼ原末。
項8. 項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末を含む、ラクターゼ製剤。
項9. 105℃で4時間放置後の残存活性が10%以上である、項8に記載のラクターゼ製剤。
項10. 糖賦形剤をさらに含む、項8又は9に記載のラクターゼ製剤。
項11. 前記糖賦形剤の含有量が10質量%以上である、項10に記載のラクターゼ製剤。
項12. ラクターゼ製剤中のガラクトース及びグルコースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超である、項8から11のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
項13. 医薬品である、項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
項14. サプリメントである、項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
項15. 食品添加物である、項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤。
項16. 以下の工程(1)及び(2)を含む、ラクターゼ原末の製造方法:
(1)グルコース及びガラクトースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超50μmol以下であるラクターゼ含有液を準備する工程;及び
(2)上記ラクターゼ含有液を乾燥する工程。
項17. 以下の工程(1)~(3)を含む、ラクターゼ製剤の製造方法:
(1)グルコース及びガラクトースの総量が、ラクターゼ10万単位当たり0μmol超50μmol以下であるラクターゼ含有液を準備する工程;
(2)上記ラクターゼ含有液を乾燥する工程;及び
(3)ラクターゼ乾燥物を製剤化する工程。
項18. 項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、医薬品の製造方法。
項19. 項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、サプリメントの製造方法。
項20. 項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末又は項8から12のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含む、食品添加物の製造方法。
項21. 項1から7のいずれか1項に記載のラクターゼ原末、項8から12及び15のいずれか1項に記載のラクターゼ製剤を飲食材料に添加する工程を含む、飲食物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、保存安定性をより向上させたラクターゼ原末及びラクターゼ製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1~9及び比較例1~6の乾燥ラクターゼ濃縮物の保存安定性について、ガラクトース及びグルコースの総量と残存活性との関係をプロットしたグラフである。
図2図1におけるガラクトース及びグルコースの総量が50μmol/10万単位である場合を横軸方向に拡大したグラフである。
図3】実施例10の乾燥ラクターゼ濃縮物及び実施例11のラクターゼ賦形品について、図1のグラフに重ねて円ドットでプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1.ラクターゼ原末(乾燥ラクターゼ濃縮物)]
本発明のラクターゼ原末は、ラクターゼ原末の製造工程の最終工程である乾燥工程後に何も添加されていない乾燥状態のラクターゼ濃縮物であり、所定量のグルコース及び/またはガラクトースの混在を許容する。
また、ラクターゼ原末の製造工程において発生する成分(培地成分や培養工程などで生成した夾雑タンパク質、製造工程にて添加した成分など)が混在していても良い。工業的製造の観点から、好ましくは、安定性低下に大きく影響しない程度に、上記成分を含んでいる。ラクターゼ原末の形態としては、特に限定されないが、例えば、粉末状、顆粒状等が挙げられ、好ましくは粉末状が挙げられる。
【0021】
[1-1.ラクターゼ]
ラクターゼ原末に含まれるラクターゼは、工業的に微生物の発酵作用を利用して生産されるものであれば、その由来としては特に限定されるものではない。具体的には、真菌、酵母、細菌等の微生物から単離されたものが挙げられる。これらの微生物のうち、真菌としては、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・キャンディダス(Aspergillus candidus)、クロコウジカビ(Aspergillus niger)等のアスペルギルス(Aspergillus)属のもの、及び、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)等のペニシリウム(Penicillium)属のものが挙げられる。酵母としては、クリプトコッカス・テレストリス(Cryptococcus terrestris)、クリプトコッカス・ローレンティ(Cryptococcus laurentii)等のクリプトコッカス(Cryptococcus)属、スポロボロマイセス・シングラリス(Sporobolomyces singularis)等のスポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)等のクルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、サッカロミセス・フラジリス(Saccharomyces fragilis)、トルラ・クレモリス(Torula cremoris)、およびトルラ・ユーティリス(Torula utilis)等が挙げられる。細菌としては、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミノリクファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)などのバチルス(Bacillus)属細菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)などのラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属等の乳酸菌が挙げられる。これらの微生物はそのままラクターゼの生産菌として使用しても良く、自らのラクターゼ遺伝子や他の微生物由来のラクターゼ遺伝子を遺伝子組み換えして生産する際の宿主として使用しても良い。また、上記微生物由来のラクターゼ遺伝子を上記微生物以外の宿主に遺伝子組み換えして使用しても良い。
【0022】
上述の微生物の中でも、安定性向上効果を良好に得る観点から、アスペルギルス(Aspergillus)属の真菌が好ましく、アスペルギルス(Aspergillus)属の真菌の中でもコウジカビ(Aspergillus oryzae)が最も好ましい。コウジカビ(Aspergillus oryzae)の具体例として、例えば、Aspergillus oryzae RIB40株などが挙げられる。さらに、上記微生物に対して紫外線処理などの変異処理を施した上で、ラクターゼ活性を指標にスクリーニングすることで得られるラクターゼ生産性を向上させた微生物、及び遺伝子組み換えによってラクターゼ遺伝子を導入することでラクターゼ生産性を向上させた微生物も挙げられる。
【0023】
ラクターゼ原末に含まれるラクターゼの量は、例えば1質量%以上99質量%以下、好ましくは10質量%以上95質量%以下、より好ましくは50質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは75質量%以上85質量%以下であってよい。
【0024】
また、ラクターゼ原末のラクターゼ活性は特に限定されないが、例えば1,000~200,000ALU/g、好ましくは2,000~150,000ALU/g、より好ましくは5,000~150,000ALU/g、さらに好ましくは10,000~150,000ALU/g、特に好ましくは50,000~150,000ALU/gが挙げられる。なお、1ALU(1 Acid Lactase Unit)は、o-ニトロフェニル-β-ガラクトピラノシド(ONPG)を基質として、反応温度37℃、反応pH4.5で15分間反応させたとき、1分間に1μmolのo-ニトロフェノールを遊離する酵素量をいう。
【0025】
[1-2.グルコース及びガラクトース]
ラクターゼ原末には、グルコース及びガラクトースのうち、グルコースのみが混在してよいし、ガラクトースのみが混在していてもよいし、その両方が混在していてもよいが、ガラクトースのみが混在していることが好ましい。
【0026】
グルコース及びガラクトースはいずれも、ラクターゼ原末の生産過程で不可避的に生じる還元糖であり、ラクターゼ原末の生産には無関係の添加物、たとえば粉末状のラクターゼ原末に添加した炭水化物賦形剤等の粉末状の糖類添加物から生じるものではない。ラクターゼ原末の生産過程で不可避的に生じる還元糖としては、具体的には、ラクターゼ原末の生産過程で用いられる培地の由来物、ラクターゼ原末の生産に用いる微生物が代謝する糖類の由来物、ラクターゼ原末の生産に用いる微生物が代謝するタンパク質に修飾された糖、ラクターゼ原末の製造工程の最終工程である乾燥工程前に添加された糖類やその由来物等が挙げられる。
【0027】
ラクターゼ原末に含まれるグルコース及びガラクトースの総量は、ラクターゼ10万単位当たりの量として、工業的生産効率の観点から0μmol超、好ましくは0.1μmol以上、より好ましくは1μmol以上、かつ、ラクターゼの安定性向上の観点から50μmol以下である。これらの効果をより良好に得る観点で、当該総量は、ラクターゼ10万単位当たり例えば0μmol超50μmol以下、好ましくは0.1μmol以上50μmol以下、より好ましくは1μmol以上50μmol以下であり、好ましくは0μmol超30μmol以下、より好ましくは0.1μmol以上30μmol以下、さらに好ましくは1μmol以上30μmol以下であり、より好ましくは0μmol超9μmol以下、一層好ましくは0.1μmol以上9μmol以下、より一層好ましくは1μmol以上9μmol以下であり、一層好ましくは0μmol超8μmol以下、より一層好ましくは0.1μmol以上8μmol以下、さらに一層好ましくは1μmol以上8μmol以下であり、より一層好ましくは0μmol超6μmol以下、さらに一層好ましくは0.1μmol以上6μmol以下、特に好ましくは1μmol以上6μmol以下であり、さらに一層好ましくは0μmol超2μmol以下、特に好ましくは、0.1μmol以上2μmol以下であり、最も好ましくは1μmol以上2μmol以下である。
【0028】
グルコース及びガラクトースの総量は、たとえば、限外ろ過膜による濃縮・脱塩、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることで調節することができる。また、培養完了後から乾燥までの工程においてラクターゼや夾雑の糖加水分解酵素によって残存する糖類からの生成を回避するために活性阻害剤を用いたり、反応が進みにくい条件などを適宜設定することでも調節することができる。
【0029】
グルコースとガラクトースとの含有比率については特に限定されず、グルコースがより高い比率であってもよいし、ガラクトースがより高い比率であってもよいし、同等の比率であってもよい。
【0030】
[1-3.他の成分]
ラクターゼ原末には、上述のグルコース及びガラクトース以外の他の糖類が含まれていてもよい。他の糖類としては、多糖、オリゴ糖、二糖、及びグルコース及びガラクトース以外の単糖が挙げられる。他の糖類が含まれる場合、他の糖類は、1種または複数種の混合状態で含まれていてよい。ラクターゼ原末中の他の糖類の含有量は、例えば0質量%以上50質量%以下、好ましくは0質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上10質量%以下であってよい。
【0031】
他の糖類は、還元糖及び非還元糖を問わないが、ラクターゼの安定性を良好に得る観点からは、上述のグルコース及びガラクトース以外の他の還元糖はできるだけ少ないことが好ましい。他の還元糖としては、例えば、フルクトース、マルトース、ラクトース等が挙げられる。他の還元糖の総量は、ラクターゼ原末全体における還元糖の総量(つまり、グルコース及びガラクトースの総量と他の還元糖の総量との和)が、DNS法によるグルコース量換算で例えばラクターゼ10万単位当たり15mg以下、好ましくは10mg以下、より好ましくは7mg以下となる量であってよい。また、デンプン、デキストリン、難消化性デキストリン、トレハロース、マンニトール、ショ糖、ソルビトールなどの多糖が含まれていても良い。ラクターゼの安定性を良好に得る観点からは、これらの多糖の添加によってもラクターゼ原末全体における還元糖の総量がラクターゼの安定性に影響を与えない前述の範囲であるのが好ましい。
【0032】
ラクターゼ原末には、上述の他、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール等の防腐剤等を含んでいてもよい。
【0033】
[1-4.保存安定性]
ラクターゼ原末の保存安定性は、105℃で4時間の超促進条件下で保存した場合に、当該保存前の活性を100%とした場合の残存活性が例えば10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、一層好ましくは80%以上、より一層好ましくは90%以上である。
【0034】
この保存安定性は、例えばラクターゼ原末中のグルコース及びガラクトースの総量によって調節することができる。当該残存活性を10%以上とする場合は当該総量を例えば50μmol以下としてよく、当該残存活性を50%以上とする場合は当該総量を例えば30μmol以下としてよく、当該残存活性を70%以上とする場合は当該総量を例えば9μmol以下としてよく、当該残存活性を75%以上とする場合は当該総量を例えば8μmol以下としてよく、当該残存活性を80%以上とする場合は当該総量を例えば6μmol以下としてよく、当該残存活性を90%以上とする場合は当該総量を例えば2μmol以下としてよい。
【0035】
ラクターゼ原末は、保存安定性の維持のため、温度制御及び/又は湿度制御された環境で保存されることが好ましい。保存温度は、室温以下、例えば40℃以下、好ましくは25℃以下であってよい。保存湿度は、例えば25℃での相対湿度80%RH以下、好ましくは65%RH以下であってよい。
【0036】
[1-5.製造方法]
ラクターゼ原末の製造方法は、グルコース及びガラクトースの総量がラクターゼ10万単位当たり0μmol超50μmol以下であるラクターゼ含有液を準備する工程(工程(1))と、前記ラクターゼ含有液を乾燥する工程(工程(2))とを含む。工程(1)及び工程(2)ともに、工業的に用いられる手法が特に限定されることなく用いられる。
【0037】
工程(1)においてラクターゼ含有液を準備する手法としては、上述の微生物を用いた、固体培養法及び液体培養法などの培養法が挙げられるが、好ましくは液体培養法が利用される。培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に限定されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、黄粉、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する形質転換体の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培養中に発泡する場合は、消泡剤を培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3~8、好ましくは約4~7程度に調整し、培養温度は通常約20~40℃、好ましくは約25~35℃程度で、1~10日間、好ましくは3~7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より目的の酵素を回収する。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮・脱塩、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより前記ラクターゼ含有液を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより前記ラクターゼ含有液を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行うことにより前記ラクターゼ含有液を得てもよい。
【0038】
工程(1)で得られるラクターゼ含有液に含まれるグルコース及びガラクトースの総量は、ラクターゼ10万単位当たりの量として、ラクターゼ原末の製造効率の観点から0μmol超、好ましくは0.1μmol以上、より好ましくは1μmol以上、かつ、ラクターゼの安定性向上の観点から50μmol以下である。これらの効果をより良好に得る観点で、当該総量は、ラクターゼ10万単位当たり例えば0μmol超50μmol以下、好ましくは0.1μmol以上50μmol以下、より好ましくは1μmol以上50μmol以下であり、好ましくは0μmol超30μmol以下、より好ましくは0.1μmol以上30μmol以下、さらに好ましくは1μmol以上30μmol以下であり、より好ましくは0μmol超9μmol以下、一層好ましくは0.1μmol以上9μmol以下、より一層好ましくは1μmol以上9μmol以下であり、一層好ましくは0μmol超8μmol以下、より一層好ましくは0.1μmol以上8μmol以下、さらに一層好ましくは1μmol以上8μmol以下であり、より一層好ましくは0μmol超6μmol以下、さらに一層好ましくは0.1μmol以上6μmol以下、特に好ましくは1μmol以上6μmol以下であり、さらに一層好ましくは0μmol超2μmol以下、特に好ましくは、0.1μmol以上2μmol以下であり、最も好ましくは1μmol以上2μmol以下である。
【0039】
工程(2)では、工程(1)で得られた、グルコース及びガラクトースの総量がラクターゼ10万単位当たり0μmol超50μmol以下の前記ラクターゼ含有液を、乾燥させる。乾燥の手法としては、例えば凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。これによって、ラクターゼ原末が得られる。なお、ラクターゼ原末の製造方法においては、工程(2)の後には何らの成分を添加する工程も含まない。
【0040】
[1-6.使用]
ラクターゼ原末は、そのままで所定の用途に用いられてよい。また、ラクターゼ原末は、当該所定の用途に供されうるラクターゼ製剤の製造における原料用途に用いられてもよい。
【0041】
ラクターゼ原末の上記所定の用途としては、産業用酵素剤としての用途及び酵素試薬としての用途などが挙げられる。
【0042】
産業用酵素剤としての用途には、例えば、医薬品、サプリメント、又は食品添加物(食品又は飲料への添加を目的とするものであり、業務用及び家庭用を問わない)としての用途が挙げられ、さらに、飲食物の製造用途等が挙げられる。
【0043】
医薬品の製造としては、乳糖不耐症者を対象とした医薬品であって、本発明のラクターゼ原末が混合されたものの製造が挙げられる。医薬品の製造では、本発明のラクターゼ原末を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含んでよい。他の成分としては、賦形剤、保存料、安定剤などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。あるいは、医薬品の製造では、後述のラクターゼ製剤の製造方法に記載する工程が行われてもよい。
【0044】
サプリメントの製造としては、ダイエタリーサプリメント(健康食品)であって、本発明のラクターゼ原末が混合されたものの製造が挙げられる。サプリメントの製造では、本発明のラクターゼ原末を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含んでよい。他の成分としては、賦形剤、乳酸菌、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。あるいは、サプリメントの製造では、後述のラクターゼ製剤の製造方法に記載する工程が行われてもよい。
【0045】
食品添加物の製造としては、乳糖を含む飲食物(たとえば、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、クリーム、粉ミルクなどの乳製品)やガラクトオリゴ糖の製造用原料に添加するための添加物の製造が挙げられる。食品添加物の製造では、本発明のラクターゼ原末を、他の成分と混合及び/又は成形する工程が挙げられる。他の成分としては、酵素(ラクターゼを除く)、保存料、安定剤、製造用剤、甘味料、調味料などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。あるいは、食品添加物の製造では、後述のラクターゼ製剤の製造方法に記載する工程が行われてもよい。
【0046】
飲食物の製造としては、乳糖が分解された飲食物(たとえば、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、クリーム、粉ミルクなどの乳製品)やガラクトースが糖転移された飲食物であって、本発明のラクターゼ原末で処理されたものの製造が挙げられる。飲食物の製造では、本発明のラクターゼ原末を、乳糖を含む飲食材料に添加する工程を含む。乳糖を含む飲食材料は、適宜ラクターゼ活性条件下に供して乳糖分解処理を進行させると、乳糖分解された飲食料となる。ラクターゼ原末を添加すべき乳糖を含む飲食材料としては、飲食物の態様として完成しているが乳糖がまだ分解されていない状態のものであってもよいし、飲食物の材料(原材料または中間材料)の態様であって乳糖もまだ分解されていない状態のものであってもよい。したがって、本発明のラクターゼ原末を添加するタイミングとしては、乳糖が含まれる飲食物の製造工程後であっても良いし、乳糖が含まれる飲食物の製造工程中であっても良い。
【0047】
酵素試薬としての用途には、例えば生化学診断における試薬としての用途等が含まれる。
【0048】
ラクターゼ製剤の製造では、後述のラクターゼ製剤の製造方法に記載する工程が行われる。
【0049】
[2.ラクターゼ製剤]
ラクターゼ製剤は、上述のラクターゼ原末を有効成分として製剤化されたものであればよく、ラクターゼ原末の成形物として製剤化されたもの、ラクターゼ原末と他の成分との混合物として製剤化されたもの、及びラクターゼ原末と他の成分との混合物の成形物として製剤化されたものが挙げられる。好ましくは、他の成分を含んで製剤化されたものである。ラクターゼ製剤の製剤形態としては、経口で摂取できれば特に限定されず、例えば粉末剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤などの形態が挙げられる。
【0050】
[2-1.ラクターゼ]
ラクターゼ製剤中のラクターゼの量は、例えば1質量%以上99質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは55質量%以上65質量%以下であってよい。
【0051】
[2-2.糖賦形剤]
本発明のラクターゼ製剤は、他の成分として糖賦形剤を含んでいても良い。つまり本発明のラクターゼ製剤に含まれていてよい糖賦形剤は、ラクターゼの濃縮の過程において濃縮すべきラクターゼ液中に加えられたものではなく、濃縮されて乾燥状態となったラクターゼ原末に対し乾燥状態で混合されたものである。
【0052】
糖賦形剤は、賦形剤として使用可能な糖類であって、室温で固体状態のものであればよい。さらに、糖賦形剤は、ガラクトース残基及び/又はグルコース残基を構成糖残基として有するものであってよい。糖賦形剤の例としては、デキストリン、難消化性デキストリン、デンプン、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、トレハロースが挙げられる。上述のラクターゼ原末の保存安定性が良好であるため、乾燥状態であれば、添加される糖賦形剤の量は特に制限されない。ラクターゼ製剤中の糖賦形剤の量は、賦形効果及び/又は保存安定性をより良好に得る観点から、ラクターゼ製剤中の糖賦形剤の量は、適宜設定できるが、例えば10質量%以上90質量%以下、より好ましくは15質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上70質量%以下であってよい。
【0053】
[2-3.グルコース及びガラクトース]
本発明のラクターゼ製剤が糖賦形剤を含んでいる場合、ラクターゼ製剤は、ラクターゼの作用により糖賦形剤から生じたガラクトース及び/又はグルコースを含んでよい。ラクターゼ製剤に含まれるガラクトース及びグルコースの総量は、ラクターゼの作用により糖賦形剤から生じた分と、ラクターゼ原末に含まれていた分とを合わせた総量として、賦形効果及び/又はラクターゼ製剤の保存安定性を良好に得る観点から、適宜設定できるが、ラクターゼ10万単位当たり例えば0μmol超、好ましくは0.1μmol以上1000μmol以下、より好ましくは1μmol以上500μmol以下、さらに好ましくは5μmol以上300μmol以下、一層好ましくは50μmol以上200μmol以下であってよい。
【0054】
[2-4.保存安定性]
本発明のラクターゼ製剤は、他の成分として糖賦形剤を含んでも良好な保存安定性を有する。具体的には、ラクターゼ製剤の保存安定性は、105℃で4時間の超促進条件下で保存した場合に、当該保存前の活性を100%とした場合の残存活性が例えば10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、一層好ましくは75%以上、であってよい。
【0055】
ラクターゼ製剤は、保存安定性の維持のため、温度制御及び/又は湿度制御された環境で保存されることが好ましい。保存温度は、室温以下、例えば40℃以下、好ましくは25℃以下であってよい。保存湿度は、例えば25℃での相対湿度80%RH以下、好ましくは65%RH以下であってよい。
【0056】
[2-5.さらなる他の成分]
本発明のラクターゼ製剤には、他の成分として、上述の糖賦形剤以外のさらなる他の成分を含んでよい。たとえば、糖賦形剤以外の賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、制酸剤などが挙げられる。糖賦形剤以外の賦形剤としては、例えばタルク等の無機賦形剤が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばカルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、トウモロコシデンプン等が挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。制酸剤としては、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素カルシウムが挙げられる。上述以外にも、他の成分としては、ラクターゼ製剤の用途(例えば、医薬品、サプリメント、食品添加物等)に応じた成分(添加剤)が適宜当業者によって選択されてよい。例えば、保存料、安定剤、乳酸菌、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、製造用剤、甘味料、調味料等が挙げられる。
【0057】
[2-6.製造方法]
ラクターゼ製剤は、例えば上述のラクターゼ原末を製剤化することで得られる。つまり、ラクターゼ製剤の製造方法は、上述の工程(1)及び工程(2)と、ラクターゼ原末を製剤化する工程(3)とを含む。工程(3)においては、ラクターゼ原末の成形及び/又は他の成分との混合が行われる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。他の成分は、上述の通りである。これによって、経口で摂取できる任意の製剤形態(例えば、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤)に製剤することができる。工程(3)は、終始乾燥状態で行われることが好ましい。糖賦形剤を用いて製剤化する場合は、ラクターゼ原末と糖賦形剤とはいずれも乾燥状態で混合する。ラクターゼ原末と糖賦形剤とを含む混合物は、液体化されることなくラクターゼ製剤として得る。
【0058】
[2-7.使用]
ラクターゼ製剤は、そのままで所定の用途に用いられてよい。ラクターゼ製剤の当該所定の用途としては、産業用酵素剤としての用途及び酵素試薬としての用途などが挙げられる。
【0059】
産業用酵素剤としての用途には、例えば、医薬品、サプリメント、又は食品添加物(食品又は飲料への添加を目的とするものであり、業務用及び家庭用を問わない)としての用途が挙げられ、さらに、飲食物の製造用途等が挙げられる。
【0060】
医薬品の製造としては、乳糖不耐症者を対象とした医薬品であって、本発明のラクターゼ製剤が混合されたものの製造が挙げられる。医薬品の製造では、本発明のラクターゼ製剤を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含んでよい。他の成分としては、賦形剤や保存料、安定剤などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。
【0061】
サプリメントの製造としては、ダイエタリーサプリメント(健康食品)であって、本発明のラクターゼ製剤が混合されたものの製造が挙げられる。サプリメントの製造では、本発明のラクターゼ粉末を、他の成分と混合及び/又は成形する工程を含んでよい。他の成分としては、賦形剤、乳酸菌、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。
【0062】
食品添加物の製造としては、乳糖を含む飲食物(たとえば、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、クリーム、粉ミルクなどの乳製品)やガラクトオリゴ糖の製造用原料に添加するための添加物の製造が挙げられる。食品添加物の製造では、本発明のラクターゼ粉末を、他の成分と混合及び/又は成形する工程が挙げられる。他の成分としては、酵素(ラクターゼを除く)、保存料、安定剤、製造用剤、甘味料、調味料などが挙げられる。成形としては、粉末化、顆粒化、打錠等が挙げられる。
【0063】
飲食物の製造としては、乳糖が分解された飲食物(たとえば、牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター、クリーム、粉ミルクなどの乳製品)やガラクトースが糖転移された飲食物であって、本発明のラクターゼ製剤で処理されたものの製造が挙げられる。飲食物の製造では、本発明のラクターゼ製剤を、乳糖を含む飲食材料に添加する工程を含む。乳糖含む飲食材料は、適宜ラクターゼ活性条件下に供して乳糖分解処理を進行させると、乳糖分解された飲食料となる。ラクターゼ製剤を添加すべき乳糖を含む飲食材料としては、飲食物の態様として完成しているが乳糖がまだ分解されていない状態のものであってもよいし、飲食物の材料(原材料または中間材料)の態様であって乳糖もまだ分解されていない状態のものであってもよい。したがって、本発明のラクターゼ製剤を添加するタイミングとしては、乳糖が含まれる飲食物の製造後であっても良いし、乳糖が含まれる飲食物の製造工程中であっても良い。
【0064】
酵素試薬としての用途には、例えば生化学診断における試薬としての用途等が含まれる。
【実施例
【0065】
[実施例1]
(A)ラクターゼ原末(乾燥ラクターゼ濃縮物)の調製
以下のようにして、ラクターゼ原末(乾燥ラクターゼ濃縮物)を調製した。
1.生産菌(Aspergillus oryzae)を液体培養で30℃、5日間培養した。小麦ふすま4w/v%、黄粉1w/v%、リン酸アンモニウム0.25w/v%、可溶性でんぷん3w/v%を含む培地を使用した。
2.ケイソウ土ろ過によって生産菌体を除去した。
3.限外ろ過膜によってラクターゼ原末の活性が10,000ALU/g以上になるよう濃縮した。
4.限外ろ過膜によって、等量加水し、元の液量まで濃縮する工程を5回以上繰り返すことで脱塩すると共にガラクトース及びグルコースの総量を調節した。
5.噴霧乾燥あるいは凍結乾燥で粉末化した。
【0066】
(B)ガラクトース含量及びグルコース含量の測定
乾燥ラクターゼ濃縮物中のガラクトース含量を、ガラクトース測定キットであるLactose/D-Galactose(R-Biopharm、catalog No.10 176 303 035)を用い、自動分析装置TBA-120FR(東芝メディカルシステムズ)にて測定した。
乾燥ラクターゼ濃縮物中のグルコース含量を、グルコース測定キットであるグルコースCII-テストワコー(和光純薬工業、Code 439-90901)を用いて測定した。
【0067】
(C)還元糖総量の測定
乾燥ラクターゼ濃縮物中の還元糖総量を、DNS法(ジニトロサリチル酸法)にて測定した。具体的には、DNS溶液(0.7w/v% 3,5-ジニトロサリチル酸、1.21w/v% 水酸化ナトリウム、0.02w/v% 酒石酸カリウムナトリウム、0.57w/v% フェノール、0.55w/v% 炭酸水素ナトリウム)0.6mLを試験管に分注し、さらに、乾燥ラクターゼ濃縮物を精製水で適当な濃度に希釈したラクターゼ溶液を0.2mL加えた。沸騰水中で5分間加熱発色させ、流水中で15分間冷却した後、4.2mLの精製水を添加し、分光光度計で波長550nmの吸光度を測定した。また、ラクターゼ溶液の代わりにグルコース溶液(0、0.5、1、2、3、4、5 mg/mL)で同様の操作を行いグルコース検量線を作成した。作成した検量線より乾燥ラクターゼ濃縮物中の還元糖量の総量をグルコースの量として算出した。
【0068】
(D)保存安定性
乾燥ラクターゼ濃縮物の保存安定性を、加速保存安定性試験により評価した。加速条件としては、乾燥ラクターゼ濃縮物を105℃で4時間保存とした。評価は、加速条件での保存前後におけるラクターゼ活性から以下に基づいて残存活性(%)を算出した。
残存活性(%)=保存後の活性(ALU/g)/保存前の活性(ALU/g)×100
ラクターゼ活性は、米国食品化学物質規格(FCC:Food Chemical Codex)第4版にLactase(Acid)(β-galactosidase)として収載されている方法に準じて測定した。具体的には、o-ニトロフェニル-β-ガラクトピラノシド(ONPG)を基質として、反応温度37℃、反応pH4.5で15分間反応させたとき、1分間に1μmolのo-ニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位(1ALU;1 Acid Lactase Unit)とした。
【0069】
[実施例2~5、比較例1~3]
実施例1で得られたラクターゼ原末(乾燥ラクターゼ濃縮物)を精製水に溶解し、ラクターゼ溶液を調製した。ラクターゼ溶液に異なる濃度でガラクトースを添加して溶解し、その後、凍結乾燥にて粉末化し、ガラクトース量の異なる乾燥ラクターゼ濃縮物を調製した。得られた乾燥ラクターゼ濃縮物について、実施例1と同様にガラクトース及びグルコースの含有量及び還元糖総量を測定し、かつ、保存安定性を評価した。
【0070】
[実施例6~9、比較例4~6]
実施例1で得られたラクターゼ原末(乾燥ラクターゼ濃縮物)を精製水に溶解し、ラクターゼ溶液を調製した。ラクターゼ溶液に異なる濃度でグルコースを添加して溶解し、その後、凍結乾燥にて粉末化し、グルコース量の異なる乾燥ラクターゼ濃縮物を調製した。得られた乾燥ラクターゼ濃縮物について、実施例1と同様にガラクトース及びグルコースの含有量及び還元糖総量を測定し、かつ、保存安定性を評価した。
【0071】
[結果]
実施例1~9及び比較例1~6の結果を表1に示す。このうち、保存安定性について、ガラクトース及びグルコースの総量と残存活性との関係をプロットしたグラフを図1に示す。さらに、図1におけるガラクトース及びグルコースの総量が50μmol/10万単位である場合を横軸方向に拡大したグラフを図2に示す。
【表1】
【0072】
上記表1並びに図1及び図2に示されるように、濃縮すべきラクターゼ溶液中に含まれていたガラクトース及びグルコースの総量が、乾燥後の含量として50μmol/10万単位以下である実施例1~9で、当該総量が乾燥後の含量として50μmol/10万単位を上回る比較例1~6に比べて残存活性の向上が認められた。残存活性の向上効果は、当該総量が30μmol/10万単位以下である実施例1~4及び6~8でより良好に認められ、当該総量が8μmol/10万単位以下である実施例1~2及び6でより一層良好に認められた。
【0073】
[実施例10]
実施例1と同様にして、ラクターゼ原末を調製し、ガラクトース及びグルコースの含有量及び還元糖総量を測定し、かつ、保存安定性を評価した。なお、ラクターゼ原末中のタンパク質の量は80±5質量%、多糖及びオリゴ糖の総量は5±10質量%であった。
【0074】
[実施例11]
実施例10で得られたラクターゼ原末に、賦形剤としてデキストリンを乾燥状態で混合してラクターゼ組成物とすることで、ラクターゼ製剤(賦形品)を調製した。得られた賦形品中におけるデキストリンの割合は、20質量%であった。この賦形品についても、実施例1と同様にして、ガラクトース及びグルコースの含有量及び還元糖総量を測定し、保存安定性を評価した。なお、ラクターゼ製剤中のタンパク質の量は60±5質量%、多糖及びオリゴ糖の総量は25±5質量%であった。
【0075】
[結果]
実施例10~11の結果を表2に示す。表2においては、比較参照用に、比較例1及び比較例4の結果も併せて示している。さらに、実施例10~11について、図1のグラフに重ねて円ドットでプロットしたグラフを図3に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例10のラクターゼ原末と賦形剤とを乾燥状態で混合して調製した実施例11のラクターゼ製剤(賦形品)では、賦形剤に由来する還元糖がさらに混入することでガラクトース及びグルコースの総量が増えているものの、良好な残存活性が維持されていることが認められた。なお、実施例11のラクターゼ製剤(賦形品)に含まれるガラクトース及びグルコースの総量は、比較例1と同等または比較例4より少し多い程度であるが、濃縮前の液体状態の時点からガラクトース及びグルコースの総量が相当量含まれていた比較例1及び比較例4と比べて、残存活性が大幅に向上したことが認められた。つまり、濃縮前の液体状態の時点でガラクトース及びグルコースの総量が少なくなるように調整すれば、乾燥後に糖賦形剤を加えたとしても、糖賦形剤が酵素に対して不所望の悪影響を及ぼさないことが示された。
【0078】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
図1
図2
図3