(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】クエンチ保護システムを含むトロイダル磁場コイル又はポロイダル磁場コイルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20221108BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20221108BHJP
G21B 1/11 20060101ALI20221108BHJP
G21B 1/05 20060101ALI20221108BHJP
H01L 39/14 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/06 110
G21B1/11 A
G21B1/05
H01L39/14 Z
(21)【出願番号】P 2019533210
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 GB2017053749
(87)【国際公開番号】W WO2018115818
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-30
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ヌーナン、 ポール
(72)【発明者】
【氏名】スレード、 ロバート
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-102808(JP,A)
【文献】特開平03-038890(JP,A)
【文献】実開昭62-070411(JP,U)
【文献】特開平07-235412(JP,A)
【文献】特開2005-353777(JP,A)
【文献】特開平05-072365(JP,A)
【文献】特開平06-347575(JP,A)
【文献】特開2009-246162(JP,A)
【文献】特開2017-168816(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0020396(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00-6/06
G21B 1/05-1/11
H01L 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超伝導(HTS)材料を含む中心柱と、複数のリターンリムとを含むトロイダル磁場コイルであって、
各リターンリムは、
超伝導材料を含むクエンチ可能部分であって、前記トロイダル磁場コイルの磁場に寄与するように構成されるクエンチ可能部分と、
HTS材料を含む2つの高温超伝導(HTS)部分であって、前記クエンチ可能部分を前記中心柱に電気的に接続し、かつ前記中心柱及び前記クエンチ可能部分と直列であるHTS部分と、
前記クエンチ可能部分に関連付けられ、前記クエンチ可能部分をクエンチするように構成されるクエンチシステムと
を含み、
前記トロイダル磁場コイルは、
前記トロイダル磁場コイルにおけるクエンチを検出し、前記クエンチの検出に応答して、前記トロイダル磁場コイルから1つ以上のクエンチ可能部分にエネルギーを放出するために、前記クエンチシステムに前記1つ以上のクエンチ可能部分の超伝導材料をクエンチさせるように構成されるクエンチ保護システムと、
各クエンチ可能部分を前記超伝導材料が超伝導である温度まで冷却するように構成される冷却システムと
をさらに含み、
各クエンチ可能部分は、前記トロイダル磁場コイルから前記クエンチ可能部分にエネルギーが放出されるときに前記クエンチ可能部分の温度を
700K未満に保つのに十分な熱容量と、前記HTS部分のクエンチされた部分の温度が
300K未満に留まるのに十分な速さで
前記トロイダル磁場コイルの電流の減衰を引き起こすのに十分な抵抗率とを有する、トロイダル磁場コイル。
【請求項2】
各クエンチ可能部分の熱容量は、前記トロイダル磁場コイルから前記クエンチ可能部分にエネルギーが放出されるときに前記クエンチ可能部分の温度を300K未満に保つのに十分である、請求項1に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項3】
各クエンチ可能部分の抵抗率は、前記HTS部分のクエンチされた部分の温度が100K未満に留まるのに十分な速さで前記トロイダル磁場コイルの電流の減衰を引き起こすのに十分である、請求項1又は2に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項4】
各クエンチ可能部分が、非超伝導安定化材をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項5】
前記非超伝導安定化材は、体積熱容量に対する抵抗率の比が銅よりも大き
い金属を含む、請求項4に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項6】
前記冷却システムは、前記HTS材料が超伝導性である温度まで前記中心柱を冷却するようにさらに構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項7】
前記HTS部分及び前記クエンチ可能部分のそれぞれが、前記HTS材料又は前記超伝導材料に電気的に接続された銅素子を有する接合部を含み、前記HTS部分及び前記クエンチ可能部分は前記銅素子を介して接続される、請求項1から
6のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項8】
前記クエンチ可能部分は
低温超伝導(LTS
)材料を含む、請求項1から
7のいずれか一項記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項9】
前記冷却システムは、前記クエンチ可能部分を4.2Kまで冷却するように構成される、請求項
8に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項10】
前記冷却システムは、前記2つのHTS部分がそれらに沿って温度勾配を有する電流リードとして働くように、前記トロイダル磁場コイルの動作中に前記クエンチ可能部分を前記中心柱の温度より低い温度まで冷却するように構成される、請求項
8又は
9に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項11】
各クエンチシステムは、前記LTS材料を加熱すること又は前記LTS材料内に交流損失を引き起こすことの一方によってクエンチを引き起こすように構成される、請求項
8から
10のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項12】
前記クエンチ可能部分は、HTS材料と、前記HTS材料に隣接して置かれたヒーターとを含み、前記
クエンチ保護システムは、前記ヒーターに前記HTS材料を加熱させることによって前記クエンチ可能部分内の前記超伝導材料をクエンチするように構成される、請求項1から
7のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項13】
前記クエンチ可能部分は、HTSテープのタイプ0対のスタックとして構成され、
各タイプ0対は2つのHTSテープを含み、前記2つのHTSテープは銅で分離されかつ前記2つのHTSテープのHTS層が前記2つのHTSテープの基板の間にあるように配置され、各タイプ0対は、前記HTSテープの間で前記銅に埋め込まれたヒーターストリップを有する、請求項
12に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項14】
前記ヒーターストリップは、隣接するヒーターストリップに沿って流れる電流が反対方向になるように接続される、請求項
13に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項15】
前記クエンチ
保護システムは、前記中心柱及び/又は前記HTS部分におけるクエンチを検出するように構成される、請求項1から
14のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル。
【請求項16】
中心柱と、高温超伝導(HTS)材料のターンを含む複数のリターンリムとを含むトロイダル磁場コイルであって、
前記中心柱は、
LTS材料を含む低温超伝導(LTS)コアであって、
前記中心柱の軸に沿って配置され、前記トロイダル磁場コイルの磁場に寄与するように構成されるLTSコアと、
前記LTSコアを囲み、HTS材料を含む高温超伝導(HTS)外層と
を含み、
前記LTSコアは、前記リターンリムの少なくともいくつかのターンと直列であり、前記LTSコアにクエンチを引き起こすように構成されたクエンチシステムを含み、
前記トロイダル磁場コイルは、
前記リターンリム又は前記HTS外層におけるクエンチを検出し、前記クエンチの検出に応答して、前記トロイダル磁場コイルから
前記LTSコアにエネルギーを放出するために、
前記クエンチシステムに
前記LTSコア内のLTS材料をクエンチさせるように構成されるクエンチ保護システムと、
前記LTS材料が超伝導である温度まで前記LTSコアを冷却するように構成される冷却システムと
をさらに含み、
前記LTSコアは、前記トロイダル磁場コイルから前記LTSコアにエネルギーが放出されるときに前記LTSの温度を
700K未満に保つのに十分な熱容量と、前記リターンリム又は前記HTS外層のクエンチされた部分の温度が
300K未満に留まるのに十分な速さで磁石の電流を減衰させるのに十分な抵抗率とを有する、トロイダル磁場コイル。
【請求項17】
球状トカマクに使用するためのポロイダル磁場コイルアセンブリであって、
高温超伝導(HTS)材料を含む第1ポロイダル磁場コイルと、
低温超伝導(LTS)材料を含み、前記第1ポロイダル磁場コイルと直列に接続された第2ポロイダル磁場コイルと、
前記第2ポロイダル磁場コイルに関連付けられ、前記第2ポロイダル磁場コイルをクエンチするように構成されるクエンチシステムと、
前記第1ポロイダル磁場コイルにおけるクエンチを検出し、前記クエンチの検出に応答して、前記第2ポロイダル磁場コイルに蓄積された磁気エネルギーを放出するために前記クエンチシステムに前記第2ポロイダル磁場コイルをクエンチさせるように構成されるクエンチ保護システムと、
前記第2ポロイダル磁場コイルを前記LTS材料が超伝導である温度まで冷却するための冷却システムと
を含み、
前記第2ポロイダル磁場コイルは、
前記第2ポロイダル磁場コイルにエネルギーが放出されるときに前記LTSの温度を
700K未満に保つのに十分な熱容量と、前記第1ポロイダル磁場コイルのクエンチされた部分の温度が
300K未満に留まるのに十分な速さで磁石の電流の減衰を引き起こすのに十分な抵抗率とを有する、ポロイダル磁場コイルアセンブリ。
【請求項18】
請求項1から
17のいずれか一項に記載のトロイダル磁場コイル及び/又はポロイダル磁場コイルアセンブリを含む核融合炉。
【請求項19】
前記
核融合炉は球状トカマク
核融合炉である、請求項
18に記載の核融合炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導磁石に関する。より詳細には、本発明は、このような磁石、特に核融合炉で使用される磁石におけるクエンチ保護のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導磁石は、超伝導材料のコイルから形成される電磁石である。磁石コイルは抵抗がゼロであるため、超伝導磁石はゼロ損失で高電流を流すことができ(非超伝導コンポーネントによるいくらかの損失は存在するが)、従来型の電磁石よりも低い損失で高磁場を達成することができる。
【0003】
超伝導は、特定の材料でのみ、かつ、低温でのみ起こる。超伝導材料は、超伝導体の臨界温度(材料が印加磁場ゼロで超伝導体となる最高温度)と超伝導体の臨界磁場(材料が0Kで超伝導体となる最高磁場)とによって定義される領域において超伝導体として振る舞う。超伝導体の温度及び存在する磁場は、超伝導体が抵抗性(又は「常伝導性」、本明細書では「超伝導ではない」という意味で使用される)になることなく超伝導体により搬送可能な電流を制限する。超伝導材料には2つのタイプが存在する。タイプIの超伝導体は、磁束侵入を完全に排除しかつ低い臨界磁場を有し、タイプIIの超伝導体は、磁束がフラックス渦と呼ばれる局所的な常伝導領域のより低い臨界磁場の上で超伝導体を貫通することを可能にする。それらは上部臨界磁場では超伝導しなくなる。この特徴は、それらを超伝導磁石の構造用のワイヤーに使用することを可能にする。フラックス渦部位を原子格子に固定するために多大な努力が払われており、それにより、より高い磁場及び温度において臨界電流が改善される。
【0004】
大まかに言って、タイプIIの超伝導体には2つのカテゴリーが存在する。低温超伝導体(LTS)は一般に(外部磁場なしで)20K未満の臨界温度を有し、高温超伝導体(HTS)は一般に40Kを超える臨界温度を有する。現在の多くのHTS材料は、77Kを超える臨界温度を有するので、冷却用の液体窒素の使用が許される。しかしながら、当業者には明らかなように、LTS及びHTSは臨界温度以外の基準によって区別され、HTS及びLTSは特定のクラスの材料に関する技術用語である。一般的に(排他的ではないが)、HTS材料はセラミックであり、LTS材料は金属である。
【0005】
超伝導磁石において起こり得る1つの問題はクエンチである。クエンチは、超伝導線又はコイルの一部が抵抗状態に入ると発生する。これは、温度若しくは磁場の変動、又は(例えば核融合炉で磁石を使用する場合の中性子照射による)超伝導体の物理的損傷若しくは欠陥が原因で起こり得る。磁石に存在する高電流により、超伝導体のごく一部でも抵抗になると、超伝導体は急速に発熱する。すべての超伝導線には、クエンチ保護用の銅安定化材が含まれている。超伝導体が常伝導性になると、銅は電流の代替経路を提供する。存在する銅が多いほど、クエンチした導体の領域の周囲に形成されるホットスポットにおける温度上昇が遅くなる。
【0006】
LTS磁石では、クエンチが発生すると、「常伝導ゾーン」は急速に、すなわち毎秒数メートルのオーダーで広がる。これは、低温でのすべての材料の低い熱容量と、LTS材料が一般にそれらの臨界温度に非常に近いところで操作されることが原因で起こる。これは、クエンチがLTS磁石内で急速に伝播し、クエンチ内で消散した蓄積磁場エネルギーが磁石全体に広がり、磁石を暖めることを意味する。
【0007】
高温で操作されるHTS材料は、より高い比熱容量を有するので、ワイヤーの一部分を常伝導状態にするのに必要とされるエネルギーははるかに大きい。これは、クエンチはLTS磁石よりHTS磁石の方がはるかに少ないことを意味する。しかしながら、それは、常伝導ゾーンの伝播速度も、LTS磁石の毎秒数メートルに比べてはるかに遅い、すなわち毎秒数ミリメートルのオーダーであることを意味する。クエンチが最初は少量の磁石にしか影響を及ぼさないので、その領域だけが抵抗性になる。したがって、クエンチ中に消散したエネルギーは、その少量に(すなわち、より具体的には、常伝導ゾーンからの電流が迂回する銅に)放出される。このエネルギー集中は、例えば溶融、アーク放電など、HTSテープへの永久的な損傷を引き起こす可能性がある。HTS磁石は一般に、冷却液の槽に浸されるのではなく間接的に冷却されるため、「スポット」冷却力はLTS磁石に比べて小さくなるので、これはさらに悪化する。
【0008】
磁場に蓄えられるエネルギーは、以下の式により与えられる。
【数1】
すなわち、磁束密度が大きいほど、かつ、体積が大きいほど、磁石の蓄積エネルギーは大きくなる。大きな磁石によって放出されるエネルギーは、1本のダイナマイトと同程度のオーダーになり得る。LTS磁石の場合、このエネルギーは、磁石全体を温めながら消散し得る。クエンチ保護のないHTS磁石の場合、このエネルギーは磁石の体積のごく一部で消散する可能性がある。一般に、大きなHTS磁石は、著しい加熱が起こる前に急冷が検出される検出段階を含み、続いてホットスポット温度が高くなりすぎる前に磁石電流が急激に減少する消散段階がある、能動的クエンチ保護システムを必要とする。
【0009】
現在までに(BSCCO及びReBCO被覆導体を用いて)構築されたほとんどのHTS磁石は、実際にはクエンチ保護を有していない。これは、それらがほとんど小型で低コストのプロトタイプで、蓄積エネルギーがほとんどないため、また前述のように、適切に設計されたHTS磁石のクエンチが非常に低い確率であるためである。したがって、HTS磁石をクエンチ保護するか否かの決定は、本質的に経済的なものである。小型のプロトタイプ磁石は、まれにクエンチした場合に比較的簡単に修理できる。結果として、HTS磁石のクエンチ保護技術は依然として未熟である。
【0010】
HTS磁石の1つの用途はトカマク核融合炉である。トカマクは、核融合が起こり得るように熱安定プラズマを提供するために、強いトロイダル磁場と、高いプラズマ電流と、通常、大きなプラズマ体積とかなりの補助加熱との組み合わせを特徴とする。補助加熱(例えば、数十メガワットの高エネルギーH、D又はTの中性ビーム入射による)は、核融合が起こるのに必要な十分に高い値まで温度を上昇させるため及び/又はプラズマ電流を維持するために必要である。
【0011】
問題は、一般に必要とされる大きなサイズ、大きな磁場、及び高いプラズマ電流のために、建設費及び維持費が高く、磁石システムとプラズマの両方に存在する大きな蓄積エネルギーに対処するために、エンジニアリングが頑強でなければならないことである。プラズマは、「ディスラプション」、すなわち、メガアンペア電流が激しい不安定性において数千分の1秒でゼロまで減少することを起こす性質がある。
【0012】
この状況は、従来のトカマクのドーナツ型トーラスをその極限まで収縮させ、芯のあるリンゴの外観を有する「球状」トカマク(ST)とすることによって改善することができる。CulhamのSTARTトカマクにおけるこの概念の最初の実現は、効率の大幅な向上、すなわち高温プラズマを閉じ込めるために必要な磁場を10分の1に減らすことができることを実証した。加えて、プラズマ安定性が改善され、建設コストが削減される。
【0013】
経済的な発電に必要とされる核融合反応(すなわち、電力入力よりもはるかに多くの電力出力)を得るために、従来のトカマクは、エネルギー閉じ込め時間(プラズマ体積におおよそ比例する)が十分大きくなり、熱溶融が起こるのに十分なほどプラズマが高温になることができるように大きくなければならない。
【0014】
特許文献1は、中性子源又はエネルギー源として使用するためのコンパクトな球状トカマクの使用を含む代替的なアプローチを記載している。球状トカマクにおける低アスペクト比のプラズマ形状は、粒子閉じ込め時間を改善し、はるかに小さい機械での正味の発電を可能にする。しかしながら、小さな直径の中心柱が必要であり、それはプラズマ閉じ込め磁石の設計に対する課題を提示する。
【0015】
トカマクにとってのHTSの主な魅力は、強磁場において高電流を搬送するHTSの能力である。これは、中心柱の表面の磁束密度が20Tを超えるようなコンパクトな球状トカマク(STs)において特に重要である。副次的な利点は、HTSがLTSよりも高い温度、例えば約20Kで高磁場において高電流を流すことができることである。これは、より薄い中性子シールドの使用を可能にし、その結果、中心柱のより高い中性子加熱をもたらし、これは液体ヘリウムを使用する(すなわち、4.2K以下での)操作を排除する。これは次に、約2m未満、例えば約1.4mの主プラズマ半径を有する球状トカマクの設計を検討することを可能にする。このような装置は、極低温冷却のためにその電力出力の数パーセントをリサイクルするであろう。
【0016】
それでもなお、このような磁石は、HTS材料を用いて以前に設計されたものよりはるかに大きい。比較的小さいトカマク用でさえもトロイダル磁場(TF)磁石は、今日までに作られた最大のHTS磁石であり、LTS規格によっても高い蓄積エネルギーを有する大型磁石を示す。導体の臨界電流低下に対処することができる徹底的に開発されたクエンチ保護システムが不可欠である。60cmの主半径で動作する球状トカマク用のTF磁石(約4.5T)の蓄積エネルギーは150~200MJであり、140cmのトカマク用のTF磁石(約3T)は1200MJを超えるであろう。
【0017】
クエンチ保護システムの役割は、超伝導体から銅安定化材への電流の移動を検出することによって、損傷を最小限に抑えるために開始後できるだけ早く又は開始前に、局所的なクエンチ、すなわち「ホットスポット」を検出すること、及び回路遮断器を開いて磁石の蓄積エネルギーを抵抗型負荷に放出することである。エネルギーダンプは、室温で磁石のクライオスタットの外側の抵抗器に電流を通すことによって、又は磁石の「コールドマス」を加熱して抵抗性にすること、任意選択的に磁石自身の蓄積エネルギーを使用して超伝導コイルを通してクエンチをより速く人為的に伝播させる(エネルギーが磁石全体を通して消散し、磁石がホットスポットにおいて急激な温度上昇を引き起こすのではなく、徐々に暖まる)ことによって達成することができる。磁石全体をクエンチするのに必要な熱はLTSにおけるよりもはるかに大きく、実際には実施するのが難しいので、HTS磁石では人為的な伝播は困難である。
【0018】
CERNで開発され、論文「E3SPreSSO:高磁場超伝導磁石用のクエンチ保護システム」(https://edms.cern.ch/ui/#!master/navigator/document?D:1052094071:1052094071:subDocs)に詳述されているE3SPreSSOシステムは、HTSコイルと直列に1つ以上の無誘導巻きLTSコイルを提供することによって、HTS磁石における人為的なクエンチ伝播に関する問題を回避する。HTS部分でクエンチ(ホットスポット)が検出されると、LTSコイルは、磁石の蓄積エネルギーをHTSではなくLTSに確実に放出するために、(ヒーター又はCERNが開発したCLIQ AC損失法などの他の手段を用いて)迅速にクエンチされる。上述のように、LTSコイルにおけるクエンチは、一般に非破壊的であり、無誘導巻きLTSコイルは、エネルギーダンプによって生じる温度上昇が損傷を引き起こすには小さすぎるように設計することができる。E3SPreSSOの方法は、ダンプ抵抗器と回路遮断器の機能を冷たいLTS部分にまとめて、それらを磁石のクライオスタットの内部に又は熱的にリンクされた別のクライオスタットの内部に移動する。
【0019】
このため、E3SPreSSOユニットは、磁気共鳴の用途に使用される持続モードLTS磁石において超伝導磁石回路を閉じるのに通常使用される超伝導スイッチと非常によく似た動作をする。しかしながら、このようなスイッチは、エネルギーダンプとして意図されていないので熱容量が低い。HTS磁石のエネルギーを既知のLTSスイッチに放出すると、スイッチが溶けてスイッチと近くのコンポーネントの両方に重大な損傷を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、トロイダル磁場コイルが提供される。トロイダル磁場コイルは、中心柱と、複数のリターンリムと、クエンチ保護システムと、冷却システムとを含む。中心柱はHTS材料を含む。各リターンリムは、クエンチ可能部分と、2つのHTS部分と、クエンチシステムとを含む。クエンチ可能部分は超伝導材料を含み、トロイダル磁場コイルの磁場に寄与するように構成される。HTS部分はHTS材料を含む。HTS部分は、クエンチ可能部分を中心柱に電気的に接続し、中心柱及びクエンチ可能部分と直列である。クエンチシステムは、クエンチ可能部分に関連付けられ、クエンチ可能部分をクエンチするように構成される。クエンチ保護システムは、トロイダル磁場コイルにおけるクエンチを検出し、クエンチの検出に応答して、トロイダル磁場コイルから1つ以上のクエンチ可能部分にエネルギーを放出するために、クエンチシステムに1つ以上のクエンチ可能部分において超伝導材料をクエンチさせるように構成される。冷却システムは、超伝導材料が超伝導である温度まで各クエンチ可能部分を冷却するように構成される。各クエンチ可能部分は、トロイダル磁場コイルからクエンチ可能部分にエネルギーが放出されるときにクエンチ可能部分の温度を第1の所定の温度より低いままにするのに十分な熱容量と、HTS部分のクエンチされた部分の温度が第2の所定の温度より低いままであるのに十分な速さで磁石の電流の減衰を引き起こすのに十分な抵抗率とを有する。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、トロイダル磁場コイルが提供される。トロイダル磁場コイルは、中心柱と、高温超伝導(HTS)材料の巻きを含む複数のリターンリムとを含む。中心柱は、LTSコアとHTS外層とを含む。LTSコアは、LTS材料を含み、トロイダル磁場コイルの磁場に寄与するように構成される。HTS外層は、LTSコアを囲み、HTS材料を含む。LTSコアは、リターンリムの少なくともいくつかのターン(巻き)と直列であり、LTSコアにおいてクエンチを引き起こすように構成されたクエンチシステムを含む。トロイダル磁場コイルは、クエンチ保護システムと冷却システムとをさらに含む。クエンチ保護システムは、クエンチを検出し、クエンチの検出に応答して、トロイダル磁場コイルからLTSコアにエネルギーを放出するためにクエンチシステムにLTSコアをクエンチさせるように構成される。冷却システムは、LTS材料が超伝導である温度までLTSコアを冷却するように構成される。LTSコアは、エネルギーがトロイダル磁場コイルからLTSコアに放出されるときにLTSの温度を第1の所定の温度より低いままにするのに十分な熱容量と、HTS部分のクエンチされた部分の温度が第2の所定の温度より低いままであるのに十分な速さで磁石の電流の減衰を引き起こすのに十分な抵抗率とを有する。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、球状トカマクに用いるためのポロイダル磁場コイルアセンブリが提供される。ポロイダル磁場コイルアセンブリは、第1ポロイダル磁場コイルと、第2ポロイダル磁場コイルと、クエンチシステムと、クエンチ保護システムと、冷却システムとを含む。第1ポロイダル磁場コイルは、高温超伝導(HTS)材料を含む。第2ポロイダル磁場コイルは低温超伝導(LTS)材料を含み、第1ポロイダル磁場コイルと直列に接続される。クエンチシステムは、第2ポロイダル磁場コイルと関連付けられ、第2ポロイダル磁場コイルをクエンチするように構成される。クエンチ保護システムは、第1ポロイダル磁場コイルにおけるクエンチを検出し、クエンチの検出に応答して、蓄積磁気エネルギーを第2ポロイダル磁場コイルに放出するために、クエンチシステムに第2ポロイダル磁場コイルにおいてLTS材料をクエンチさせるように構成される。冷却システムは、LTS材料が超伝導である温度まで第2ポロイダル磁場コイルを冷却するように構成される。第2ポロイダル磁場コイルは、エネルギーが第2ポロイダル磁場コイルに放出されるときにLTSの温度を第1の所定の温度より低いままにするのに十分な熱容量と、第1ポロイダル磁場コイルのクエンチされた部分の温度が第2の所定の温度より低いままであるのに十分な速さで磁石の電流の減衰を引き起こすのに十分な抵抗率とを有する。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、上記の態様のいずれかによるトロイダル磁場コイル及び/又はポロイダル磁場コイルアセンブリを含む核融合炉が提供される。
【0025】
本発明のさらなる実施形態は、請求項2以下に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態による例示的なトロイダル磁場コイルの概略図である。
【
図4】温度に対するステンレス鋼及び銅の熱容量のグラフである。
【
図5】温度に対するステンレス鋼及び銅の抵抗率のグラフである。
【
図6】クエンチ検出後の経時的な温度及び電流のグラフである。
【
図7】一実施形態によるリターンリムの温度のグラフである。
【
図9】一実施形態によるリターンリムの一部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
当初提案されたように、E3SPreSSOコイルは磁石の磁場に寄与せず、非誘導的に巻かれている。加速器磁石において、HTSコイルは、双極子磁石の磁場を増強するために、より大きなNb3SnLTSコイルの内側に入れ子にされた挿入コイルの形でしばしば使用される。この場合、それらは4.2K以下のLHe内で操作されるであろう。E3SPreSSOコイルは、クライオスタット及び/又は冷却手段をHTS磁石及びLTS磁石と共同使用することができる。
【0028】
トカマクに適用する場合、E3SPreSSOシステムにいくつかの改善を加えることができる。トカマクのトロイダル磁場コイルは、それらの磁場が重なり合っている中心柱に密集した直線部分と、その磁場が比較的分離されている別々のリターンリムとを有する特徴的な「D字形」を有する。これにより、中心柱での正味の磁場は、中心柱から離れたリターンリムでの磁場よりもはるかに高くなる。加えて、トカマクの中心柱はできる限り直径を小さくしておくことが不可欠であるため、中心柱内のスペースは非常に重要であるが、リターンリム内のスペースに対する制約はそれほど厳しくない。これにより、リターンリムの一部としてE3SPreSSOのようなクエンチ可能部分を含む可能性が広がる。以下に説明するように、このクエンチ可能部分は、LTS又はHTSであり得る。
【0029】
意図的にクエンチ可能なHTSの使用は、HTSがLTSよりも桁違いに高い最小クエンチエネルギーを有するので、これまで当業者によって実行可能であるとは考えられていなかった。このため、HTSコイルの大部分を意図的にクエンチすることは、コイル内のHTSテープに熱的に結合されているヒーターから大きなエネルギーパルスを注入することを必要とし、それによって温度は約数ミリ秒でコイルの大部分にわたって上昇し得る。コイル巻線内にヒーターが存在すると、工学的電流密度が減少する。これらのコイルが磁場に寄与する場合、磁石のテスラ/アンペア効率は著しく低下するであろう。しかしながら、トロイダル磁場コイルのリターンリムでは、リターンリムは効率的に中心柱のリターン電流経路を提供することのみを必要とし、主プラズマ半径における磁束密度に大きく寄与しないので、HTSの工学的電流密度はそれほど重要ではない。したがって、HTSテープをコイル内で離間させて、テープと密接に熱的に結合されているヒーター用のスペースをテープ間に挿入可能にすることが容認される。実のところ、リターンリムのピークB磁場を減少させるためにリムのHTSテープをある程度広げることが実際には有利である。
【0030】
代わりに、リターンリムの低磁場は、HTSを中心柱及びリターンリムの最も高い磁束密度を経験する部分に保持しながら、6K以下の安価なNbTi(又は適切な温度の他のLTS導体)をリターンリムの低磁場部分に使用することを可能にする。開示されたE3SPreSSO概念とは対照的に、リターンリムのLTS部分は磁石の磁場に寄与する。したがって、LTS部分はインダクタンスを有する。より大きな主半径(>約2~3m)を有するST装置では、同じ温度(NbTiでは6K以下)で磁石全体(HTS部分とLTS部分の両方)の動作を可能にするのに十分な厚さの中性子シールドのために超伝導中心柱とプラズマとの間に十分な半径方向空間がある。しかしながら、約1.4~2mのプラズマ半径を有するより小さな装置が最適なコスト/性能を提供すると考えられる。この場合、中性子シールドは薄すぎて、LTSリターンリムと同じ6K以下の温度でHTS中心柱を費用効果的に冷却することができない。したがって、HTS中心柱は、6Kから20Kの範囲内で、LTS部分よりも高い温度で作動することが好ましい。これは、今度は、リターンリムの水平HTS部分がそれらに沿って温度勾配を有し、電流リードとして動作することを必要とする。中心柱からリターンリム内のLTS部分への正味の熱流があり、これは、全体の極低温冷却力を生成される核融合電力の数パーセント未満に保つために最小化しなければならない。
【0031】
E3SPreSSOで使用されるCLIQヒーターなどの高速クエンチ保護方法は、リターンリムのLTS部分に直接統合され、HTS部分のいずれかでクエンチが検出された場合は同時にそれらをクエンチする。これから分かるように、この技術革新は他のいくつかの利点をもたらす。
【0032】
いずれの場合も、基本的な概念は同じである。リターンリムは超伝導材料を含み、磁石の蓄積エネルギーを吸収するのに十分な熱容量を有し、トロイダル磁場コイルにホットスポットが検出された場合に「要求に応じて」それらのリターンリムの超伝導材料をクエンチする手段を提供するように構成されることができる。
【0033】
2つのアプローチの主な違いは、ホットスポットが磁石のどこかで検出されたときにリターンリムを迅速にクエンチするのに必要な熱量である。HTSの最小クエンチエネルギーがLTSよりも桁違いに高いことは、HTSコイルがLTSコイルに比べて本質的に安定していることを意味する。確かに、LTSコイルは、特に磁石のランピング中に自発的なクエンチを起こしやすいことがよく知られている。これはHTS磁石では観察されない。クエンチ可能部分へのHTSの使用はこの理由で好ましいが、これはHTSの追加費用とクエンチ可能部分を要求に応じてクエンチするのに必要とされる実質的により高いヒーター電力と比較考量しなければならない。
【0034】
図1Aは、コンパクトな球状トカマクを通る断面の概略図(立面図、半断面)である。トカマクは、1.4mの範囲内で、主半径R
Pにおいて3~4テスラの静的トロイダル磁束密度B
Tを発生させることができるプラズマ閉じ込め磁石を含む。この磁界を発生させるためには、約20~30MAの電流がトロイダル磁場(TF)磁石100の中心柱101内で軸方向に流れなければならない。
図1Aは、TF磁石101の1つのコイルを示す。トカマクの周りに方位角方向に配置された多くのそのようなコイルがあることが理解されるであろう。
図1はまた、プラズマ電流の位置及び安定性を制御するのに使用される軸方向磁場を生成するTFコイルのリターンリム102及びポロイダル磁場コイル107を示す。
【0035】
パイロット磁石用の超伝導コア102の最小半径は、ピーク磁気応力及びHTSのクエンチ中のホットスポット温度の上昇速度を制限するのに十分な銅安定化材の提供によって約20~25cmに制限される。これにより、プラズマチャンバー104の断熱材103及び磁石クライオスタットに加えて中性子シールド105のために約40cmの半径方向空間が残る。この半径において、コアに要求される工学的電流密度Jeは約150~200A/mm2であり、コア表面のピーク磁束密度は20~25Tである。
【0036】
図1Bは、トロイダル磁場磁石のより概略的な断面図であり、2つのリターンリム102をより詳細に示している。リターンリムは
図1Bに実質的に矩形断面で示されているが、
図1AのD字形断面を含む他の多くの断面が可能であることが当業者には理解されるであろう。トロイダル磁場磁石は、中心柱101と複数のリターンリム102とを含む。リターンリムはそれぞれ、1つ以上のHTS部分112と「クエンチ可能」部分122とを含む(本明細書では「クエンチ可能」は「要求に応じてクエンチ可能」として理解されるべきである)。HTS部分とクエンチ可能部分とを接続するために接合部132が設けられている。クエンチ可能部分は、HTS部分と直列に設けられ、要求に応じて(例えば、当技術分野で知られているようなヒーター又は他の電磁/AC損失手段を用いて)クエンチされることができるように構成される。
【0037】
クエンチ可能部分122は、LTS材料を含むことができる。これにより、磁石のHTSの一部をLTSに置き換えることが可能になり、システムの線材コストが削減されるが、極低温冷却のコストが増加する。LTS材料は好ましくはNbTiであり、これは6K以下への冷却を必要とする。(
図1Aに示されるように)中性子シールドのための限られた半径方向空間を有するより小さなSTにおいて、HTSの中心柱は、LTS部分よりも高い温度で操作されるであろう。
【0038】
代わりに、クエンチ可能部分122は、HTS材料を含むことができる。これにより、LTS部分で望ましくないクエンチが発生する可能性が高まり、LTSの冷却力要求が高まる。HTSクエンチ可能部分は、トロイダル磁場コイルのより高い磁場部分(例えば、中心柱、及びリターンリムの他の部分)と同じ温度で動作させることができる。
【0039】
次に、LTSクエンチ可能部分を含む例示的なトロイダル磁場コイルについて説明する。トロイダル磁場コイルは、
図1Bに示される構造、すなわちリターンリムの垂直部分に設けられたLTSクエンチ可能部分122を有する矩形断面を有するが、同様の考察が任意の幾何学形状に当てはまることが理解されるであろう。このモデルのために、接合部132の影響は無視される。
【0040】
LTS部分は6K以下に冷却される。この実施例では、LTSを4.2Kに冷却することを想定しているが、大気圧で沸騰する液体ヘリウム槽への浸漬(4.2K)、直接的又は間接的なヘリウム蒸気冷却(>4.2K)、又はケーブルインコンジット法を用いた過冷却LHe(<=4.2K)などの様々な選択肢が可能である。クライオプラントによってヘリウム冷却剤から熱が除去される。HTSの中心柱の冷却が必要とされる場合、LTSと中心柱の両方を、より大きなトロイダル磁場コイルでは同じ温度まで、又はより小さなトロイダル磁場コイル、例えば球状トカマクでは好ましくは10~20Kなどのより高い温度まで冷却するように、同じクライオプラントを適合させることができる(すなわち、クライオプラントは、複数の温度への冷却を提供するように適合され得る)。リターンリムの水平コンポーネント112は、クエンチ安定化に必要な銅マトリックス内のHTSであり、HTSの中心柱とLTSとの間の熱電流リードとして働く。水平コンポーネントの温度は、LTSに接触する4.2Kから中心柱に接触する10~20Kまで様々である。4.2KでのHTSの中心柱からLTS部分への全熱漏洩は、電流リード部分の長さ、使用される銅及び他の安定化材の量に応じて100Wから数kWの間であろう。LTSを4.2Kに維持するのに必要とされるクライオプラント電力は、0.5MW未満から数MWまで様々であり、これは小さいSTの予測される核融合出力の5%未満である。
【0041】
ここで、HTSクエンチ可能部分を含む例示的なトロイダル磁場コイルについて説明する。トロイダル磁場コイルは、
図1Bに示される構造、すなわちリターンリムの垂直部分に設けられたHTSクエンチ可能部分122を有する矩形断面を有するが、同様の考察が任意の幾何学形状に当てはまることが理解されるであろう。このモデルのために、接合部132の影響は無視される。
【0042】
HTSクエンチ可能部分は、それらの部分のHTS材料を超伝導にするのに十分な温度でなければならない。各HTSのクエンチ可能部分は、すべてのHTSを一度にクエンチすることができるように、その部分の各HTSテープと並んで配置されたヒーターストリップを有する。任意選択的に、ヒーターが設けられていないHTSクエンチ可能部分の両端にいくらかのマージンが存在してもよい。ヒーターは、(所望のケーブル形状に従って配向された)一対のHTSテープの間に配置されたヒーターストリップ(例えば、カプトン被覆又は他の方法で絶縁されたステンレス鋼テープ)の形態であることができる。この実施例が
図2A及び
図2Bに示されており、ここで、基板202aとHTS層202bと含むHTSテープ202がタイプ0対200に置かれ、すなわち、隣接するストリップのHTS層202bは互いに面して置かれ、それらの間にある銅の厚い層204と両側への銅の張り出し部205(これは隣接するタイプ0対への電流経路を提供する)とを有する。絶縁コーティング203を有するヒーターストリップ201が、各タイプ0対のHTSテープ202間に配置され、厚い銅層に埋め込まれている。
図2Aは、その中にヒーター201が埋め込まれた単一のタイプ0対を示し、
図2Bは、このような層のスタックを示す。
【0043】
ヒーターストリップ201は、大きな電流パルスが短時間にそれらを通って駆動され得るように、非誘導的に接続されるべきである。
図3はこれを達成する配置を示す。各タイプ0対200は、(トロイダル磁場コイルの他の部分に接続するのに使用される)各端部に銅コネクタ301を有する。ヒーターストリップ201は、電流の方向が1つのヒーターストリップから次のヒーターストリップに互い違いになる(例えば、電流が第1及び第3のヒーターストリップでは上向きに、第2及び第4のヒーターストリップでは下向きに流れる)ように、銅から絶縁されたワイヤー302を介して接続される。第1及び最後のヒーターストリップは、必要な電流パルスを供給するコンデンサーバンク304にスイッチ303を介して接続される。
【0044】
HTSテープの各対の間にヒーターストリップを追加すると、各対のテープ間の抵抗率が増加し、これにより、クエンチ中又は磁石のランピング中にHTSテープ間で電流が移動するときの損失が増加する。これは、テープスタックの端における銅張り出し部205の厚さ(すなわち、テープに対して垂直な厚さ)を増大させることによって補償することができる。
【0045】
(例えば、NMR磁石インサートにおける)HTSコイルをクエンチするためのヒーターの既知の使用法では、工学的(正味)電流密度を著しく薄めることはできないので、HTSを加熱する能力と正味電流密度との間で妥協が必要である。トカマクの場合、工学的電流密度はリターンリムの重要な考慮事項ではないので、HTSクエンチ可能部分の各テープと近接して熱的に接触するヒーターが存在する最適なヒーター配置を使用することができる。
【0046】
クエンチ可能部分にあるHTS材料をクエンチするのに必要な熱はかなりのものになるであろう。トロイダル磁場コイルのどこかでクエンチが検出されると、エネルギーはコンデンサーバンク及び高速作動スイッチによって提供され、ヒータースイッチを通して大きな電流パルスを駆動することができる。
【0047】
この技術は、トロイダル磁場コイルのどこでクエンチが検出されてもクエンチ可能部分にあるHTS材料がクエンチされるという点でクエンチ伝播とは異なる。例えば、小さな局所的なホットスポットの形で中心柱において検出されたクエンチは、この最初に検出されたクエンチを伝播させようとするのではなく、クエンチ可能部分にあるHTS材料をクエンチすることによって応答される。
【0048】
磁石からエネルギーを効率的に放出するために、クエンチ可能部分122は、磁石内の電流を急速に減少させるために十分に高い超伝導でないときの抵抗(「常抵抗」)と、確実に溶融することなく、好ましくは室温をはるかに超えて上昇することなく、磁石の蓄積エネルギーを吸収するために十分に高い熱容量とを有さなければならない。HTSクエンチにおけるホットスポット温度は、(選択された材料の抵抗率によってある程度決まる)クエンチ可能部分の常抵抗によって決まり、クエンチ可能部分における超伝導体の最高温度は主にクエンチ可能部分の熱容量によって決まる。クエンチ可能部分の長さがこの実施例では制限されている(そして一般に、LTSを高磁場領域に配置するのを避けるため、又はスペースが限られた領域でヒーターを使用するのを避けるために幾分制限されている)ので、これらは相反する要求である。熱容量は、クエンチ可能部分の断面積を大きくすることによって(例えば、クエンチ可能部分にある非超伝導安定化材の断面積を大きくすることによって)増加させることができるが、これはまた常抵抗を低下させるであろう。非超伝導安定化材として銅以外の材料を使用すると、常抵抗を低くし過ぎずに熱容量を増加させることができる。例えば、
図4及び
図5に示されるように、ステンレス鋼の熱容量(401)は銅の熱容量(402)と同様であるが、ステンレス鋼の電気抵抗率(501)は銅の電気抵抗率(502)よりも高い。一般に、体積熱容量に対する抵抗率の比が銅のそれよりも大きい金属が適している。
【0049】
非銅安定化材は、銅安定化材に加えて、例えば、ステンレス鋼マトリックス内に1:1の比のCu:超伝導体、又は他の市販の銅安定化超伝導体を提供することによって組み込むことができる。コイルの全エネルギーがクエンチ可能部分に放出される場合、超伝導体の温度を特定の値、例えば300Kに制限するのに十分なステンレス鋼を加えるべきである。電流減衰は、クエンチ可能部分のインダクタンスと温度依存抵抗に依存する。1:1のCu:NbTi超伝導体(NbTiは一般的なLTS材料である)を使用するこのような構成は、模擬クエンチの電流(601)、ピークHTSホットスポット温度(602)及びピークNbTi温度(603)を示す
図6のシミュレーションに示されるように、クエンチ中のHTSホットスポット温度を約100Kに制限する可能性が高い。より低いCu:超伝導体超伝導体を使用する構造は、ピークHTSホットスポット温度をさらに、例えば0.1:1のCu:超伝導体で約50Kまで低下させることができるが、これはクエンチ可能部分の安定性を維持する必要性と比較考量しなければならない。
【0050】
従来のHTSコイルを使用するトロイダル磁場磁石は、それぞれが高電流を搬送する少ない巻き数で設計される(例えば、主半径1.4mの約3Tの磁場に対して、それぞれ約100kAを搬送する20ターン(巻き)の12個のコイル)。この方法はインダクタンスを最小にし、従って磁石電流が急速に消勢されるときに外部ダンプ抵抗器に発生する電圧を最小にする。ホットスポット温度を制限するためには急速なダンプが必要であるが、結果として高いdI/dt、従って高い電圧(=L.dI/dt)になる。100kAの動作電流でも、主半径1.4mのTF磁石のインダクタンスは約240mHであり、ダンプ抵抗器の両端のピーク電圧は約1秒のダンプ時間で約24kVになる。これは、単一のダンプ抵抗器をコイル部分間に分散されたいくつか(例えばTFコイルごとに1つ)の個別のより低い値の抵抗器に分割することによって低下させることができる。12個のコイルのTF磁石の場合、これにより、ピーク電圧は上記例から2kVに低下し、これは高いが許容できる。しかしながら、その場合、各個別のTFコイルは、一端が磁石の温度であり、他端が室温である、クライオスタットを貫通する一対の100kAの電流リードを必要とする。このようなリード線は非常にかさばって高価であり、中性ビーム加熱などに必要なトカマクの周りの貴重なスペースを占める。また、通常動作中、全磁石電流が非超伝導回路遮断器を通ってダンプ抵抗器を迂回しなければならない。これらの回路遮断器はかなりの電力損失を招く。それらはまた非常に信頼できるものでなければならない。
【0051】
提案された設計では、外部ダンプ抵抗器と回路遮断器はクエンチ可能な超伝導コイル部分によって置き換えられている。また、トロイダル磁場コイルと一体化されたクエンチ可能部分の使用は、必要に応じて各コイルの各ターンに切換可能なダンプ抵抗を提供することを可能にし、電流ダンピング中に発生する電圧をクエンチ可能部分に分散させることができる。これにより、「ダンプ抵抗」を提供する一体化されたクエンチ可能部分を有するHTSトロイダル磁場コイルが、より多くの巻き数で構成され、従来の外部ダンプクエンチ保護を有するHTSトロイダル磁場コイルに比べてより低い電流で動作することができる。最大巻き数の制限は、1ターン当たりに2つある、クエンチ可能部分と磁石の残りの部分との間の接合部の数になる。これらは本質的に損失が多く(実際にはHTS-銅-(HTS又はLTS))、そのため全体の極低温熱負荷が増加する。より低い輸送電流のコスト削減と追加の接合部及び接合部冷却のコストとのバランスをとる最適な巻き数を選択することで、最小のシステムコストが達成される。
【0052】
接合部は、例えば
図8に示されるように、銅ターミネータ803を有するHTS部分801を、銅ターミネータ803を有するHTS又はLTSクエンチ可能部分802に接合することによって、HTS-Cu-Cu-(HTS又はLTS)接合部として構成されることができる。断面は銅芯上のHTS/LTSテープの層として示されているが、他の構成も可能である。Cu-Cu接合部ははんだ付けされてもよく、又は(例えば、コイル内のコンポーネントにアクセスするためにトロイダル磁場コイルに対して取り外すため)クエンチ可能部分を容易に取り外すことができるように押し込まれてもよい。最適には、接合部は、個々のHTSテープと安定化材のスタックからターン導体を組み立てるのに使用されるものより低い融点のはんだを用いてはんだ付けされる。
【0053】
クエンチ可能部分にLTSが使用される場合、リターンリムのHTS素子は、LTS部分への熱負荷を低下させるように、及び/又はコストをさらに削減するように構成されることができる。例えば、HTS部分122のマトリックスとして銅の代わりに真鍮を使用することができる。真鍮は銅と同様の電気特性を有するが、より低い熱伝導率を有し、これにより中心柱からLTS部分へ伝導される熱が少なくなる。代わりに又は加えて、
図9に概略的に示されるように、温度勾配をうまく利用するために、HTS導体比率はHTS部分に沿って減らすことができる。使用されるHTSテープの数は、(20Kの)中心柱701に向かってより多く、(4.2Kの)LTS部分702に向かって減らされる。従来の銅マトリックスを用いたHTSリターンリムの温度勾配を
図7に示す。温度が下がるとHTSの臨界電流が増加するので、LTS部分に近いほど必要なHTSが少なくなり、中心柱に近いほど必要なHTSが多くなる。この減少は、中心柱から離れている減少した磁場強度をうまく利用するためのHTS導体比率の任意の減少に加えることができる。
【0054】
クエンチ可能部分をリターンリムと一体化することの代替案として又はそれに加えて、クエンチ可能なLTSを中心柱と一体化することができる。これは、中心柱の外側に比べて磁場が減少する中心柱の中心に(すなわち中心柱の軸に沿って)LTSを設けることによって行うことができる。クエンチのエネルギーを吸収するのに十分な熱容量を有することを確実にするために、十分なマトリックス材料をLTSに提供する必要があり、どのHTSもLTSに直列に接続されるように(ただし、必ずしも同じターンにではない)、トロイダル磁場コイルを巻く必要がある。
【0055】
LTSは、HTSを含むポロイダル磁場コイルと一体化されることもできる。しかしながら、ポロイダル磁場コイルは一般に(例えば高磁場が原因で)LTSが不適当である領域での使用のためにHTSで作られるだけなので、トロイダル磁場について上述した方法でコイルのLTS部分を設けることができる可能性は低い。代わりに、高磁場位置にあるポロイダル磁場コイルを低磁場位置にあるポロイダル磁場コイルと対にすることができる。高磁場位置のポロイダル磁場コイルはHTSを含み、低磁場位置のポロイダル磁場コイルはLTSを含む。高磁場及び低磁場のポロイダル磁場コイルは互いに直列である。HTSポロイダル磁場コイルにおいてクエンチが検出されると、LTSポロイダル磁場コイルが(上述のトロイダル磁場コイルのLTS部分をクエンチするのと同じ方法で)クエンチされる。事実上、LTSポロイダル磁場コイルは、HTSポロイダル磁場コイルに対する抵抗型負荷として作用する。
【0056】
一般に、トロイダル磁場コイルのLTSクエンチ可能部分に関して上述したのと同じ設計上の考慮事項、特に、冷却の必要性、及び、LTSの温度を所定の値より低く保つのに十分なLTSコイルの熱容量と、HTS部分のクエンチされた部分の温度が所定の値より低いままであるのに十分な速さで磁石の電流を減衰させるのに十分な抵抗率とがあることを確実にするための非超伝導安定剤のための材料の選択は、LTSポロイダル磁場コイルにも当てはまる。LTSポロイダル磁場コイルはほとんどの場合HTSコイルよりも大きいので、ポロイダル磁場コイルに対するこれらの相反する要求に対処することはトロイダル磁場コイルよりも容易である可能性が高い。