(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】サーモリシン液剤
(51)【国際特許分類】
C12N 9/54 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
C12N9/54 ZNA
(21)【出願番号】P 2019534489
(86)(22)【出願日】2018-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2018028409
(87)【国際公開番号】W WO2019026827
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017148221
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】古川 和寛
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-046844(JP,A)
【文献】特開2008-283976(JP,A)
【文献】特開2016-052306(JP,A)
【文献】特開2009-161623(JP,A)
【文献】特表2013-513717(JP,A)
【文献】特開2008-101196(JP,A)
【文献】特表2001-523227(JP,A)
【文献】特開2010-051314(JP,A)
【文献】Journal of Bioscience and Bioengineering,2000年,Vol.89, No.2,pp.188-192
【文献】発酵工学雑誌,1962年,Vol.40, No.7,pp.346-353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1mg/mL以上のサーモリシンと0.01mM~1Mの塩化ナトリウム及び/又は0.01mM~1Mの塩化カルシウムとを含み、且つpHが9.0超11.5以下に調整されているサーモリシン液剤を乾燥させる工程を含む、サーモリシン乾燥製剤の製造方法。
【請求項2】
前記サーモリシン液剤のpHが9.5~11.5である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
0.1mg/mL以上のサーモリシンと0.01mM~1Mの塩化ナトリウム及び/又は0.01mM~1Mの塩化カルシウムとを含むサーモリシン液剤の乾燥物であり、2.5w/v%濃度になるように水に溶解させた場合のpHが9.0超
11.5以下である、サーモリシン乾燥製剤。
【請求項4】
2.5w/v%濃度になるように水に溶解させた場合のpHが9.0超11.5以下であり、緩衝塩以外の塩を実質的に含まない、サーモリシン乾燥製剤。
【請求項5】
サーモリシン液剤の安定性向上方法であって、サーモリシン液剤に、サーモリシンを0.1mg/mL以上となる濃度で含有させ、且つ、pHを9.0超
11.5以下に調整する、安定性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモリシン液剤に関する。より具体的には、本発明は、安定性が向上したサーモリシン液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモリシンは、例えば高温細菌の一種Geobacillus stearothermophilus(Former: Bacillus stearothermophilus)由来のエンド型プロテアーゼ (EC 3.4.24.27)として知られている。サーモリシンは、金属プロテアーゼに分類され、タンパク質を基質とした加水分解反応を触媒する。サーモリシンは、優れた熱耐性を有しており、特にカルシウム塩存在下において80℃近くの高温でも活性を発揮する。
【0003】
サーモリシンは、pH5.0~8.0、又はpH6.0~9.0で安定であることが広く知られており(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)、pH6.0~9.0より高pH側では顕著に安定性が低下することも広く知られている(例えば、非特許文献1参照)。このため、サーモリシンを含む液体の調製においては、安定性を得るために通常pH5.0~9.0で調製される。
【0004】
例えば、特許文献1には、サーモリシンを含む液のpHを10.5以上に調整して結晶を溶解させた後、そこから終濃度で15~30%となる塩類を共存させてpHを5~8、好ましくは6~7、具体的には6.0まで下げて、サーモリシンの液状製品を製造することが開示されている。また、特許文献2には、pH4.5~9の範囲にpHを維持しうるバッファ塩の存在下、サーモリシンを、特定の塩と共存させることで安定化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-46844号公報
【文献】特開2010-051314号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】発酵工学雑誌、第40巻、第7号、p.346-353、1962年、Fig.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、サーモリシンはpH5.0~9.0で安定であるということが一般的な技術常識である。このため、サーモリシンを含む液体を安定な状態で得るためには、そのようなpH5.0~9.0で調製することが大前提となっていた。特許文献1及び2に開示されるように、サーモリシンを含む液体を安定なものとして得るため、製造工程の検討や、塩の条件の検討がなされるものの、最終物であるサーモリシンを含む液体のpHは、やはり5.0~9.0の範疇で調整されている。しかしながらこれらの技術では製造上及び組成上の制限事項が多く、工業的製造には適さない。
【0008】
そのうえ、サーモリシンは、pH5.0~9.0の溶液中で自己消化を起こす問題もある。仮に当該自己消化の問題を回避しようとしても、サーモリシンがpH5.0~9.0で安定化するという技術常識上の拘束が極めて強く、サーモリシンを含む液体の安定性は依然としてpH5.0~9.0で検討されるほかにない状況であった。つまり、当業者にとって、サーモリシンを含む液体のより高pHにおける安定性については検討の余地がなかった。
【0009】
そこで本発明の目的は、安定性をより向上させたサーモリシン液剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、高濃度のサーモリシンを含む液体の安定性の検討にあたり、これまで当業者にとって検討の余地がなかったpHに着目した。その結果、驚くべきことに、所定の高濃度のサーモリシンを含む液体であれば、これまで安定とされてきたpHよりも高いpHに調整することで安定性が向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
本発明は以下の発明を含む。
【0011】
項1. サーモリシンを、0.1mg/mL以上となる濃度で含み、且つpHが9.0超に調整されている、サーモリシン液剤。
項2. pHが9.5~11.5である、項1に記載のサーモリシン液剤。
項3. 塩化ナトリウムを0.01mM~1Mの濃度で含む、項1又は2に記載のサーモリシン液剤。
項4. 塩化カルシウムを0.01mM~1Mの濃度で含む、項1~3のいずれかに記載のサーモリシン液剤。
項5. 緩衝塩以外の塩を実質的に含まない、項1又は2に記載のサーモリシン液剤。
項6. 項1~5のいずれかに記載のサーモリシン液剤を乾燥させる工程を含む、サーモリシン粉末剤の製造方法。
項7. 2.5w/v%濃度になるように水に溶解させた場合のpHが9.0超である、サーモリシン乾燥製剤。
項8. サーモリシン液剤の安定性向上方法であって、サーモリシン液剤に、サーモリシンを0.1mg/mL以上となる濃度で含有させ、且つ、pHを9.0超に調整する、安定性向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定性をより向上させたサーモリシン液剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試験例1において得られた、サーモリシン液剤のpHに対する安定性(残存活性)の関係を示すグラフである。
【
図2】試験例2において得られた、サーモリシン液剤のpHに対する安定性(残存活性)の関係を示すグラフである。
【
図3】試験例3において得られた、各種濃度のサーモリシン液剤のpHに対する安定性(残存活性)の関係を示すグラフである。
【
図4】試験例4において得られた、各pHのサーモリシン液剤のHPLCクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.サーモリシン液剤]
本発明は、サーモリシン液剤を提供する。本発明のサーモリシン液剤は、サーモリシンを特定濃度で水中に含み、且つ、特定pHに調整されて安定化されたものである。
【0015】
[1-1.サーモリシン]
サーモリシンは、耐熱性の中性メタロプロテイナーゼであり、至適温度65~85℃、至適pH5.0~8.5でプロテアーゼ活性作用を示す。サーモリシンのプロテアーゼ活性作用時においては、疎水性アミノ酸残基のN末端を特異的に切断する。サーモリシンは、活性部位に酵素活性発現のための1個の亜鉛イオンと、構造内に構造維持のための4個のカルシウムイオンとを有する。サーモリシンは、EC番号3.4.24.27に分類され、CAS登録番号9073-78-3として登録されているものがよく知られている。
【0016】
本発明のサーモリシン液剤に含まれるサーモリシンの由来については、上述のプロテアーゼ活性を有するサーモリシンを産生可能である限り特に限定されない。サーモリシンの由来菌としては、たとえば、バチルス・サーモプロテオリティカス(Bacillus thermoproteolyticus)、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・サブチリス(Bacillus subtills)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)及びそれらの類似菌等が挙げられる。
【0017】
本発明のサーモリシン液剤に含まれるサーモリシンのアミノ酸配列は、上述のプロテアーゼ活性を有する限り特に限定されない。後述の高pHでの安定性をより好ましく得る観点から、好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、上述のプロテアーゼ活性を有するタンパク質が挙げられ、より好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。また、上述のプロテアーゼ活性を有する限り、サーモリシンのアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。なお、同一性とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。
【0018】
サーモリシンの分子量としては、たとえば34000~38000、好ましくは34300~37500が挙げられる。
【0019】
本発明において、サーモリシン液剤には、実質的に分解されていないサーモリシンに加え、サーモリシンの分解物も含む。しかしながら、本発明のサーモリシン液剤は自己消化が効果的に抑制されているため、サーモリシンの分解物の量が抑えられている。具体的には、サーモリシン全体(実質的に分解されていないサーモリシンとサーモリシンの分解物との和)に対する実質的に分解されていないサーモリシンの割合は、高速液体クロマトグラフィーによるUV280nmでの検出量(クロマトグラムにおける検出ピーク面積)として、例えば75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、一層好ましくは90%以上である。なお、サーモリシンの分解物には、上述のプロテアーゼ活性を有する分解物に加え、当該活性を有さない分解物が含まれることを許容する。サーモリシンの分解物のプロテアーゼ活性については活性が検出されていれば特に限定されるものではない。
【0020】
[1-2.サーモリシン濃度]
本発明のサーモリシン液剤は、サーモリシン(サーモリシン全体をいう。つまり実質的に分解されていないサーモリシンとサーモリシン分解物との和をいう。)を、0.1mg/mL以上となる高濃度で含む。サーモリシン液剤の高pHでの安定性をより好ましく得る観点から、サーモリシン全体は、好ましくは0.2mg/mL以上、より好ましくは0.4mg/mL以上、更に好ましくは0.8mg/mL以上、一層好ましくは1.6mg/mL以上、より一層好ましくは2.4mg/mL以上、更に一層好ましくは3.2mg/mL以上が挙げられる。また上限としては特に限定されず、サーモリシン液剤の保存温度における飽和濃度であってもよいが、サーモリシンの再結晶化抑制の観点から、例えば6.6mg/mL以下、好ましくは5.8mg/mL以下、より好ましくは5.0mg/mL以下、更に好ましくは4.2mg/mL以下が挙げられる。より具体的なサーモリシンの濃度としては、0.1~6.6mg/mL、0.2~6.6mg/mL、0.4~6.6mg/mL、0.8~6.6mg/mL、1.6~6.6mg/mL、2.4~6.6mg/mL、3.2~6.6mg/mL、0.1~5.8mg/mL、0.2~5.8mg/mL、0.4~5.8mg/mL、0.8~5.8mg/mL、1.6~5.8mg/mL、2.4~5.8mg/mL、3.2~5.8mg/mL、0.1~5.0mg/mL、0.2~5.0mg/mL、0.4~5.0mg/mL、0.8~5.0mg/mL、1.6~5.0mg/mL、2.4~5.0mg/mL、3.2~5.0mg/mL、0.1~4.2mg/mL、0.2~4.2mg/mL、0.4~4.2mg/mL、0.8~4.2mg/mL、1.6~4.2mg/mL、2.4~4.2mg/mL、3.2~4.2mg/mLが挙げられる。
【0021】
本発明のサーモリシン液剤におけるサーモリシン全体の濃度は、サーモリシン液剤のタンパク質量とサーモリシン純度とから導出することもできる。タンパク質量は公知の方法にて測定することができる。例えば、吸光光度法、BCA法、Biuret法等を用いて算出することができる。好ましくはBCA法が挙げられる。サーモリシン全体の純度は、公知の測定方法から導出することができる。例えば、サーモリシン全体の純度は、クロマトグラフィー法において、クロマトグラムにおける全ピーク面積に対する実質的に分解されていないサーモリシン及びサーモリシン分解物のピーク面積の割合の和から算定する方法が挙げられる。例えば、試験例4に記載の方法が挙げられるが、夾雑するタンパク質に応じて当業者であれば適宜使用するカラムや分離条件を設定できる。サーモリシン液剤が実質的にサーモリシン全体以外のタンパク質を含まない場合、サーモリシン全体の濃度の導出においては、1mg/mLのサーモリシン全体の水中(pH7.0)での280nmにおける吸光度を1.765と設定することができる。サーモリシン液剤のサーモリシン全体の純度は特に限定されないが、安定性及び/又は品質を一定に保つ観点から、高速液体クロマトグラフィーによるUV280nm検出の純度として、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、より一層好ましくは90%以上、更に一層好ましくは95%以上が挙げられる。
【0022】
[1-3.pH]
本発明のサーモリシン液剤は、pHが9.0超に調整されたものである。本発明においてpHは、25℃の温度条件下で測定される値である。本発明のサーモリシン液剤は、上述の高濃度で調製されることによりpH9.0超という高pH領域で安定化する。具体的なサーモリシン液剤のpHとしては、9.0超11.8以下、9.0超11.5以下、9.0超11.0以下、9.5~11.8(9.5以上11.8以下)、9.5~11.5、9.5~11.0、10.0~11.8、10.0~11.5、10.0~11.0、10.5~11.8、10.5~11.5、10.5~11.0が挙げられる。サーモリシン液剤の安定性をより良好に得る観点から、好ましいpHとして9.5~11.8、より好ましくは9.5~11.5、更に好ましくは10.0~11.5、一層好ましくは10.5~11.0が挙げられる。
【0023】
本発明のサーモリシン液剤は、pHが9.0超に調整されることで、それより低いpHにおける場合よりも自己消化が抑制される。さらに、より良好な安定性が得られるpH9.5以上では自己消化の抑制効果がより高く、より一層良好な安定性が得られるpH10.0以上では、殆ど自己消化が認められなくなる。
【0024】
[1-4.塩]
本発明のサーモリシン液剤には、塩を含んでよい。塩としては、緩衝塩、及び緩衝塩以外の塩が挙げられる。
【0025】
緩衝塩としては、サーモリシン液剤の製造過程において加えられ得るものであって、例えば、吸光度に基づくサーモリシン濃度を調整するために、濃度調整すべきサーモリシン液を所定pHに調整する目的で用いられたものが挙げられる。したがって、緩衝塩は、本発明のサーモリシン液のpH(9.0超)で緩衝作用を示すものである必要はない。具体的には、緩衝塩としては、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、ビストリス(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-トリス(ヒドロキシメチル)メタン)、ビストリスプロパン(1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン)、HEPES(N-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、MOPSO(3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸))、TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)、TES(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、TEA(トリエタノールアミン)およびトリシン(N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン)、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
緩衝塩以外の塩としては特に限定されない。例えば、サーモリシンの再結晶化抑制の観点から、緩衝塩以外の塩として塩化ナトリウムが好ましく挙げられる。本発明のサーモリシン液剤中の塩化ナトリウムの含有量は特に限定されないが、再結晶化抑制効果をより良好に得る観点から、例えば0.01mM~1M、好ましくは1mM~1M、より好ましくは5mM~500mM、更に好ましくは10mM~400mMが挙げられる。また例えば、サーモリシンの安定性を向上させる観点から、緩衝塩以外の塩として塩化カルシウムが好ましく挙げられる。本発明のサーモリシン液剤中の塩化カルシウムの含有量は特に限定されないが、サーモリシンの安定性向上効果をより良好に得る観点から、例えば0.01mM~1M、好ましくは0.01mM~200mM、より好ましくは0.05mM~100mM、更に好ましくは0.1mM~50mM、一層好ましくは0.1mM~30mM、より一層好ましくは0.1mM~20mM、特に好ましくは0.1~10mMが挙げられる。
【0027】
一方、本発明のサーモリシン液剤は高pHであるため、塩を実質的に含まなくとも安定である。従って、本発明のサーモリシン液剤は、塩を実質的に含まなくてもよい。実質的に含まなくてもよい塩としては、緩衝塩以外の塩が挙げられる。この場合における緩衝塩以外の塩としては、上述のとおり、塩化ナトリウム及び塩化カルシウムが挙げられる。なお、塩を実質的に含まないとは、当該塩の濃度が総量で例えば0.001mM以下、好ましくは0.0001mM以下、より好ましくは0.00001mM以下、特に好ましくは0mMであることをいう。
【0028】
[1-5.その他の成分]
本発明のサーモリシン液剤には、上述の成分以外に、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、安定化剤としてのアルブミン、マルトース、スクロース、トレハロース、グリセリンなどが挙げられる。これらの安定化剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、本発明のサーモリシン液剤は、特に再生医療分野で用いられる場合においては、エンドトキシンといったバクテリア由来の副次物が少ないことが好ましい。たとえば、公知のエンドトキシン試験(いわゆるリムルス法)によって測定されるエンドトキシン量が、例えば1EU/mg以下、好ましくは0.1EU/mg以下、より好ましくは0.01EU/mg以下、さらに好ましくは、検出限界である0.001EU/mg以下に抑えられていることが好ましい。
【0030】
[1-6.用途]
本発明のサーモリシン液剤の用途としては、そのプロテアーゼ活性を利用する限り特に限定されない。たとえば、タンパク質の一次構造の解析のために用いられてもよいし、再生医療分野における組織細胞の分散のために用いられてもよいし、食品加工(例えば、アミノ酸系調味料の製造、ペプチドの製造、蛋白質の物性改良、エキスの呈味性向上、低アレルゲン化など)のために用いられてもよい。
【0031】
[2.サーモリシン液剤の安定性向上方法]
上述のように、サーモリシン液剤において、サーモリシンを0.1mg/mL以上となる濃度で含有させ、且つ、pHを9.0超に調整することで、サーモリシン液剤の安定性を向上させることができる。従って、本発明は、更に、サーモリシン液剤の安定性向上方法であって、サーモリシン液剤に、サーモリシンを0.1mg/mL以上となる濃度で含有させ、且つ、pHを9.0超に調整する、安定性向上方法を提供する。この安定性向上方法において、サーモリシン液剤に使用する成分、使用量、活性、サーモリシン液剤の用途等については、上述の「1.サーモリシン液剤」の欄に示す通りである。
【0032】
[3.サーモリシン液剤の製造方法]
本発明のサーモリシン液剤の製造方法としては特に限定されない。本発明のサーモリシン液剤の調製方法に用いる出発原料のサーモリシンは、上述の「1-1.サーモリシン」に記載した由来生物から公知の方法で当業者によって適宜製造することができる。例えば、適当な培地(例えば、液化澱粉、大豆粕、カゼインを含む培地等)を用い、培地を加熱殺菌(例えば30分程度)した後冷却(たとえば55℃程度まで)した後、種菌を摂取し53~55℃で通気撹拌培養することによって製造する方法が挙げられる(具体的には、非特許文献1に記載の方法を参照することができる)。また、遺伝子組み換え技術を用い、上述の由来菌からクローニングしたサーモリシン遺伝子を組みこんだベクターをバチルス属又は大腸菌属に移入した後、サーモリシン遺伝子を発現させる方法も挙げられる(例えば、特開平3-232494号公報に記載の方法を参照することができる)。なお、ジオバチルス・ステアロサーモフィラス由来サーモリシンを得る場合は、寄託番号No.NBRC12550、No.NBRC12983、No.NBRC13737又はNo.NBRC100862等の寄託菌株を用いて製造することができる。また、市販のサーモリシン(例えば、天野エンザイム株式会社が提供するサーモリシン)を出発原料に用いてもよい。
【0033】
サーモリシンは、例えば、まず水性の懸濁用液中に懸濁し、サーモリシン懸濁液として調製することができる。水性の懸濁用液としては、水及び緩衝液が挙げられ、好ましくは緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、サーモリシン懸濁液の調整すべきpHに応じて当業者が適宜選択することができ、例えば、上述した緩衝塩の水溶液が挙げられる。懸濁液のpHは特に限定されないが、たとえば中性領域、具体的には7.0~8.0に調整されていてよい。サーモリシン懸濁液は、吸光度を測定し、所定の吸光度となるように液量及び/又はサーモリシンの量を調整することで、懸濁液中のサーモリシン量を調整することができる。より具体的には、例えば、1mg/mLのサーモリシン全体の水中(pH7.0)での280nmにおける吸光度を1.765に設定し、懸濁液のpHを7.0に調整することによって、上述の「1-2.サーモリシン濃度」に記載の本発明のサーモリシン濃度を与える所定の吸光度となるようにサーモリシン量を調整することができる。
【0034】
サーモリシン懸濁液は、塩基を用いてpHが上昇させられ、pH9.0超に調整される。具体的には上述の「1-3.pH」に記載のpH(好ましくは10.0~11.5、より好ましくは10.5~11.0)に調整される。塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カルシウムといった強塩基、並びに/若しくは、アンモニア等を水溶液状態で用いることができる。また、pHの最終調整のために、適宜酸を組み合わせて用いてもよい。酸としては、塩酸及び/又は硫酸等の無機酸、並びに/若しくは、酢酸及び/又はギ酸等の有機酸が挙げられる。これによって、調整されたpHを有するサーモリシン粗精製液を得る。
【0035】
或いは、水性の懸濁用液中に懸濁した後にpHを上昇させる代わりに、サーモリシンを、まず、pH9.0超、具体的には上述の「1-3.pH」に記載のpH(好ましくは10.0~11.5、より好ましくは10.5~11.0)に調整された塩基性水溶液に直接溶解してもよい。塩基性水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムといった強塩基、及び/又はアンモニア等の水溶液が挙げられる。また、塩基性水溶液のpHの最終調整のために、適宜酸を組み合わせて用いてもよい。酸としては、塩酸及び/又は硫酸等の無機酸、並びに/若しくは、酢酸及び/又はギ酸等の有機酸が挙げられる。これによって、調整されたpHを有するサーモリシン粗精製液を得る。
【0036】
上述の調整されたpHを有するサーモリシン粗精製液は、そのままサーモリシン液剤として得ることもできるが、必要に応じてろ過などにより不溶物や雑菌の除去を行う精製処理を行った後にサーモリシン液剤として得てもよい。ろ過のための具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、精密ろ過及び限外ろ過が挙げられる。
【0037】
[4.サーモリシン乾燥製剤の製造方法、及びサーモリシン乾燥製剤]
本発明は、サーモリシン乾燥製剤の製造方法も提供する。本発明のサーモリシン乾燥製剤の製造方法では、上述のサーモリシン液剤を乾燥工程に供することによって、サーモリシン乾燥製剤を製造する。本発明のサーモリシン液剤は液状で安定であるが、当該高pH(9.0超)の液体から直接乾燥させて一旦乾燥製剤の態様としても、使用時に再び水中に溶解させた時に優れた活性を奏することができることが判明した。つまり、本発明のサーモリシン液剤が乾燥工程中に、サーモリシンの活性に悪影響を受けないことが判明した。乾燥の方法としては特に限定されず、例えば、凍結乾燥法、スプレードライ法、減圧濃縮乾燥法等が挙げられる。得られたサーモリシン乾燥製剤は、容積や重量が減るため、運搬や保管の面で液剤よりも好ましい。サーモリシン乾燥製剤の形態は特に限定されないが、例えば、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤などの形態が挙げられる。
【0038】
つまり、本発明は、サーモリシン乾燥製剤も提供する。本発明のサーモリシン乾燥製剤は、上述のサーモリシン液剤を乾燥させることで得られるものである。具体的には、本発明のサーモリシン乾燥製剤は、当該サーモリシン乾燥製剤を2.5w/v%となるように水に溶解させたときに、水溶液のpHが9.0超;具体的には、9.0超11.8以下、9.0超11.5以下、9.0超11.0以下、9.5~11.8(9.5以上11.8以下)、9.5~11.5、9.5~11.0、10.0~11.8、10.0~11.5、10.0~11.0、10.5~11.8、10.5~11.5、10.5~11.0;好ましくは9.5~11.5、より好ましくは10.0~11.5、更に好ましくは10.5~11.0となるものである。
【0039】
本発明のサーモリシン乾燥製剤の活性値は、含有する塩類などによって異なるため、特に限定されないが、単位質量当たりの活性値として、例えば100PU/mg以上、好ましくは500PU/mg以上、より好ましくは、1000PU/mg以上、更に好ましくは2000PU/mg以上、一層好ましくは3000PU/mg以上が挙げられる。また上限としては特に限定されないが、例えば15000PU/mg以下、好ましくは12000PU/mg以下、より好ましくは10000PU/mg以下、更に好ましくは8000PU/mg以下が挙げられる。具体的なサーモリシン乾燥製剤の単位質量当たりの活性値としては、100~15000PU/mg、500~15000PU/mg、1000~15000PU/mg、2000~15000PU/mg、3000~15000PU/mg、100~12000PU/mg、500~12000PU/mg、1000~12000PU/mg、2000~12000PU/mg、3000~12000PU/mg、100~10000PU/mg、500~10000PU/mg、1000~10000PU/mg、2000~10000PU/mg、3000~10000PU/mg、100~8000PU/mg、500~8000PU/mg、1000~8000PU/mg、2000~8000PU/mg、3000~が挙げられる。当該活性値は、カゼイン分解法により測定することができる。カゼイン分解法では、カゼインを基質に、pH7.5、35℃で加水分解反応を行い、生成する非タンパク性物質をFolin呈色法で測定し、1分間にチロシン1μgに相当する非タンパク性物質を遊離させる酵素量を1PU(Protease Unit)として算出する。本発明のサーモリシン乾燥製剤は、乾燥工程でサーモリシン活性に悪影響されないサーモリシン液剤から得られているため、水に溶解させた後も優れた活性を示す。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、波長280nmにおける吸光度(A280)の測定には分光光度計(島津製作所製、型番UV-2500PC)を用いた。また、1mg/mLのサーモリシンの水中(pH7.0)での280nmにおける吸光度を1.765と設定した。
【0041】
[試験例1]
以下の方法でサーモリシン液剤を調製した。
1. 0.7gのサーモリシン(天野エンザイム株式会社)を、30mM HEPESと9mM塩化カルシウムと360mM塩化ナトリウムとを含むpH7.0の水溶液100mLに懸濁させた。
2. 得られた懸濁液を、A280=6.9となるように液量調整することでサーモリシン濃度を調整した。
3. 濃度調整したサーモリシン液を、25℃環境下で、1N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH11.3に調整した後、1N 酢酸水溶液を用いてpH7.0、8.0、9.0、10.0、11.0にそれぞれ調整した。これによって、pH7.0、8.0、9.0、10.0、11.0のサーモリシン液剤を得た。得られたサーモリシン液剤はサーモリシン以外のタンパク質を実質含まないため、280nmの吸光度からサーモリシン濃度を求めた結果、3.7mg/mLであった。
4. 各pHのサーモリシン液剤を、調整したpH環境下で25℃で7時間静置することで安定性を調べた。
5. 静置後の各pHのサーモリシン液剤の活性を、カゼイン分解法を用いて測定した。なお、静置後の各pHのサーモリシン液剤の活性は、得られた活性値を、予め測定しておいた静置前の活性値を100%とする相対値で導出し、当該相対値を残存活性(%)として導出した。
【0042】
なお、カゼイン分解法では、カゼインを基質に、pH7.5、35℃で加水分解反応を行い、生成する非タンパク性物質をFolin呈色法で測定し、1分間にチロシン1μgに相当する非タンパク性物質を遊離させる酵素量を1PU(Protease Unit)として算出した。
【0043】
結果を
図1に示す。pHが7.0、8.0、9.0のサーモリシン液剤では、pHが上がるにつれて活性が下がった。これに対し、pHが10.0、11.0のサーモリシン液剤では、顕著な安定性の向上が認められた。この中でも、より高pHであるpH11.0のサーモリシン液剤がより高い安定性を備えていた。
【0044】
[試験例2]
以下の方法でサーモリシン液剤を調製した。
1. 0.7gのサーモリシン(天野エンザイム株式会社)を、30mM HEPES緩衝液(pH7.0)100mLに懸濁した。
2. 得られた懸濁液を、A280=6.9となるように液量調整することでサーモリシン濃度を調整した。
3. 濃度調整したサーモリシン液を、25℃環境下で、1N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH11.3に調整した後、1N 水酸化ナトリウム水溶液又は1N 酢酸水溶液を用いて、pH9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5にそれぞれ調整した。これによって、pH9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5のサーモリシン液剤を得た。得られたサーモリシン液剤はサーモリシン以外のタンパク質を実質含まないため、280nmの吸光度からサーモリシン濃度を求めた結果、3.7mg/mLであった。
4. 各pHのサーモリシン液剤を、調整したpH環境下で25℃で3時間静置することで安定性を調べた。
5. 静置後の各pHのサーモリシン液剤の活性を、カゼイン分解法を用いて測定した。なお、静置後の各pHのサーモリシン液剤の活性は、得られた活性値を、予め測定しておいた静置前の活性値を100%とする相対値で導出し、当該相対値を残存活性(%)として導出した。
【0045】
結果を
図2に示す。pHが9.5、10.0、10.5、11.0のサーモリシン液剤では、試験例1の
図1と同様に、高pHほど安定性が向上する傾向が認められた。また、pH11.5のサーモリシン液剤でも、高い安定性を備えていた。一方、pH12.0、12.5のサーモリシン液剤では、安定性は備わっていなかった。
【0046】
[試験例3]
以下の方法でサーモリシン液剤を調製した。
1. 0.02g~1.0gのサーモリシン(天野エンザイム株式会社)を、30mM HEPES緩衝液(pH7.0)100mLに懸濁した。
2. 得られた懸濁液を、A280=0.2、0.8、3.0、6.9、9.3となるように液量調整することでサーモリシン濃度を調整した。
3. 濃度調整したサーモリシン液を、25℃環境下で、1N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH11.3に調整した後、1N 水酸化ナトリウム水溶液又は1N 酢酸水溶液を用いて、pH9.5、11.5にそれぞれ調整した。これによって、pH9.5、11.5のサーモリシン液剤を得た。得られたサーモリシン液剤はサーモリシン以外のタンパク質を実質含まないため、280nmの吸光度からサーモリシン濃度を求めた結果、それぞれ0.1mg/mL、0.4mg/mL、1.6mg/mL、3.7mg/mL、5.0mg/mLであった。
4. 各サーモリシン濃度、各pHのサーモリシン液剤を、調整したpH環境下で25℃で7時間静置することで安定性を調べた。
5. 静置後の各サーモリシン液剤の活性を、カゼイン分解法を用いて測定した。なお、静置後の各サーモリシン液剤の活性は、得られた活性値を、予め測定しておいた静置前の活性値を100%とする相対値で導出し、当該相対値を残存活性(%)として導出した。
【0047】
結果を
図3に示す。サーモリシン濃度が0.1mg/mL、0.4mg/mL、1.6mg/mL、3.7mg/mL、5.0mg/mLのいずれの場合でも、pHが9.5、11.5で、試験例2の
図2と同様に、高い安定性を備えていた。
【0048】
[試験例4]
試験例1で得られた各サーモリシン液剤について、以下の条件でHPLCに供し、自己消化の程度を測定した。
<HPLC条件>
カラム: YMC-triart C18 (150×4.6mm) (株式会社YMC)
Aバッファー:0.1% トリフルオロ酢酸in超純水
Bバッファー:0.1% トリフルオロ酢酸inアセトニトリル
グラジエント条件(Aバッファーに対するBバッファー比率): 0-60% (0-20分)、100% (20-25分)
流速: 1mL/min
検出器:紫外吸光光度計(280nm)
【0049】
結果を
図4に示す。
図4において、13~14分にあるピークが実質的に分解されていないサーモリシンで、12~13分にあるピークがサーモリシンの分解物である。実質的に分解されていないサーモリシン及びサーモリシン分解物それぞれの、サーモリシン全体(つまり、実質的に分解されていないサーモリシンとサーモリシン分解物との和)に対する割合を、UV280nmでの検出量(クロマトグラムにおける検出ピーク面積)に基づいて導出した結果を表1に示す。これらの結果から、サーモリシン液剤のpHを9.0超にすることで、実質的に分解されていないサーモリシンの割合を79%以上にすることができた。つまり、サーモリシンの自己消化を効果的に抑制することができた。
【0050】
【0051】
[試験例5]
以下の方法でサーモリシン乾燥製剤を調製した。
1. 0.7gのサーモリシン(天野エンザイム株式会社)を、30mM HEPESと9mM塩化カルシウムと360mM塩化ナトリウムとを含むpH7.0の水溶液100mLに懸濁させた。
2. 得られた懸濁液を、A280=6.9となるように液量調整することでサーモリシン濃度を調整した。
3. 濃度調整したサーモリシン液を、25℃環境下で、1N 水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH11.3に調整した後、1N 酢酸水溶液を用いてpH8.0、9.0、10.0、11.0にそれぞれ調整した。これによって、pH8.0、9.0、10.0、11.0のサーモリシン液剤を得た。
4. サーモリシン液を精密ろ過に供して不溶物を除去した。
5. 得られたサーモリシン液剤の活性を、カゼイン分解法を用いて測定した。
6. サーモリシン液剤を凍結乾燥させ、サーモリシン乾燥製剤を得た。
7. 得られたサーモリシン乾燥製剤の活性を、カゼイン分解法を用いて測定した。当該測定は、サーモリシン乾燥製剤を2.5w/v%濃度となるように水に溶解させたサーモリシン水溶液に対して行った。(なお、pH11のサーモリシン液剤から得られた乾燥製剤を上述の濃度で水に溶解させると、サーモリシン水溶液のpHは11となった。同様に、pH10、9、及び8それぞれのサーモリシン液剤から得られた乾燥製剤を上述の濃度で水に溶解させると、サーモリシン水溶液のpHはそれぞれ10、9、及び8となった。)
得られた活性値を、サーモリシン液剤の活性値を100%とする相対値で算出し、当該相対値を残存活性(%)として導出した。
【0052】
結果を表2に示す。このように、いずれのサーモリシン乾燥製剤についても、再び水中に溶解させた場合に良好な活性が得られた。したがって、本発明のサーモリシン液剤を一旦乾燥させてサーモリシン乾燥製剤としても、その後再び水中に溶解させた場合に良好な活性が得られることが確認できた。
【0053】
【配列表】