IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社北川鉄工所の特許一覧

<>
  • 特許-チャックの補正方法 図1
  • 特許-チャックの補正方法 図2
  • 特許-チャックの補正方法 図3
  • 特許-チャックの補正方法 図4
  • 特許-チャックの補正方法 図5
  • 特許-チャックの補正方法 図6
  • 特許-チャックの補正方法 図7
  • 特許-チャックの補正方法 図8
  • 特許-チャックの補正方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】チャックの補正方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/16 20060101AFI20221108BHJP
   B23B 31/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B23B31/16 Z
B23B31/02 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019535003
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022862
(87)【国際公開番号】W WO2019031059
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2017152215
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-001507(JP,A)
【文献】米国特許第03178192(US,A)
【文献】米国特許第03259394(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第01184111(EP,A1)
【文献】西独国特許出願公開第02057900(DE,A)
【文献】特開2015-58528(JP,A)
【文献】特開2009-184083(JP,A)
【文献】米国特許第3460849(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/02
B23B 31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補正工程を備える、チャックの補正方法であって、
前記チャックは、ボディと、プランジャと、ジョウとを備え、
前記ボディは、リアボディと該リアボディの前方側に配置されたフロントボディとを有し
前記プランジャは、該ボディ内に設けられ、前記ボディの軸線上を移動するように構成され、
前記ジョウは、前記プランジャの移動によって前記フロントボディにガイドされて前記軸線を中心とした径方向へ移動するように構成され、
前記チャックは、前記リアボディから前記フロントボディに向けて設けられたガイドバーをさらに備え、
前記ガイドバーは、前記フロントボディに設けられたガイド孔に挿入され、前記リアボディを工作機械のスピンドルに固定するよう構成されており、
前記ガイドバーと前記ガイド孔の間には微小な空間が設けられており、
前記補正工程では、
前記ジョウにワークを把握させたときにおいて、前記ワークの芯が前記軸線上の位置になるように、
前記軸線に対する前記リアボディの位置を維持しながら前記軸線を中心とした径方向に前記フロントボディを移動させる、又は、前記軸線に対する前記リアボディの位置を維持しながら前記フロントボディを前記軸線に対して傾けさせ
前記補正工程は、前記ジョウに前記ワークを実際に把握させた状態で行うか、又は、前記ジョウに前記ワークを把握させた時の前記ワークの振れを測定し、その後前記ワークを取り外してから行い、
前記補正工程は、前記ガイドバーにより前記リアボディを前記スピンドルに固定した状態で行う、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記チャックは、前記フロントボディを前記リアボディに固定するボルトを有し、
前記ボルトを緩めた状態で前記フロントボディを前記径方向に移動させ、移動が終わった段階で前記ボルトを締結する、方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法において、
前記フロントボディを前記リアボディに押しつけておく付勢手段を前記ガイドバーに装着する、方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の方法において、
調整ボルトを前記フロントボディに挿入することによって、前記調整ボルトを前記リアボディの側面若しくは前記ガイドバーの側面に押し付け、前記フロントボディを前記径方向に移動させる、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法において、
前記リアボディに傾斜状の摺動面が設けられ、
前記フロントボディの前面側からの回転操作により前記フロントボディの中を進退可能であって、テーパー状の頭部が前記摺動面を摺動する調整螺子を有し、
前記調整螺子を進退させることで、テーパー状の頭部が前記摺動面を摺動し、前記フロントボディを前記径方向に移動させる、方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の方法において、
前記リアボディは、間隔を開けて設けられた第1の座面の間をダンパーが橋渡し状に配置され、其々の座面に対して第1のボルトにより前記ダンパーが締結されており、
前記フロントボディは、その背面に設けられた第2の座面に対して、前記第1の座面の間で第2のボルトにより前記ダンパーが締結されて、かつ隣り合う前記第1の座面の間を橋渡し状に配置された前記ダンパーに対して、前記ダンパーの変形長を変更する摺動子が設けられており、
前記補正工程では、
前記ジョウにワークを把握させたときにおいて、前記摺動子の位置を変更して前記フロントボディを前記軸線に対して傾ける、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記ダンパーが橋渡し状に配置される位置を、等角度間隔に少なくとも3箇所以上配置する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に使用するチャックの補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークを高精度に把握するために、ジョウの機上成形が行われている。機上成形は成形プラグを把握した状態でジョウの把握面を加工して、チャックの回転中心とワーク中心とを高精度に一致させるのが一般的である。しかし、通常、ジョウのワーク把握面よりもチャックボディ側で成形プラグを把握した状態でジョウの把握面が加工されるため、把握面の位置と成形プラグを把握する位置は異なっている。このため、実際にワークを把握したときに、ワーク中心がチャックの回転中心から微妙にズレることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-110676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、ジョウを取り付けるドローバーに成形プラグを把握させ、ドローバーの先端を成形する例が示されている。この例によれば、ドローバーに成形プラグ把握部を設けると、ジョウがチャックボディからチャックの軸線前方に離れてしまう。ジョウがチャックボディからチャックの軸線前方に離れてしまうと、ワークの中心(芯)がチャックの回転中心(軸線)からズレやすくなる。本発明は、ワークの中心(芯)とチャックの回転中心(軸線)とを一致させる精度を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、補正工程を備える、チャックの補正方法であって、前記チャックは、ボディと、プランジャと、ジョウとを備え、前記ボディは、リアボディと該リアボディの前方側に配置されたフロントボディとを有し前記プランジャは、該ボディ内に設けられ、前記ボディの軸線上を移動するように構成され、前記ジョウは、前記プランジャの移動によって前記フロントボディにガイドされて前記軸線を中心とした径方向へ移動するように構成され、前記補正工程では、前記ジョウにワークを把握させたときにおいて、前記軸線に対する前記リアボディの位置を維持しながら前記軸線を中心とした径方向に前記フロントボディを移動させる、又は、前記軸線に対する前記リアボディの位置を維持しながら前記フロントボディを前記軸線に対して傾けさせる、方法が提供される。
【0006】
本発明によれば、軸線に対するリアボディの位置を維持しながら、軸線を中心とした径方向にフロントボディを移動させる、又は、軸線に対するリアボディの位置を維持しながら、フロントボディを軸線に対して傾けさせるので、ジョウに対して成形を加えなくても、ワークの中心(芯)とチャックの回転中心(軸線)とを一致させる精度を向上させることができる。
【0007】
好ましくは、前記チャックは、前記リアボディから前記フロントボディに向けて設けられたガイドバーを有し、前記ガイドバーは、前記フロントボディに設けられたガイド孔に挿入される。
好ましくは、前記チャックは、前記フロントボディを前記リアボディに固定するボルトを有し、前記ボルトを緩めた状態で前記フロントボディを前記径方向に移動させ、移動が終わった段階で前記ボルトを締結する。
好ましくは、前記フロントボディを前記リアボディに押しつけておく付勢手段を前記ガイドバーに装着する。
好ましくは、調整ボルトを前記フロントボディに挿入することによって、前記調整ボルトを前記リアボディの側面若しくは前記ガイドバーの側面に押し付け、前記フロントボディを前記径方向に移動させる。
好ましくは、前記リアボディに傾斜状の摺動面が設けられ、前記フロントボディの前面側からの回転操作により前記フロントボディの中を進退可能であって、テーパー状の頭部が前記摺動面を摺動する調整螺子を有し、前記調整螺子を進退させることで、テーパー状の頭部が前記摺動面を摺動し、前記フロントボディを前記径方向に移動させる。
好ましくは、前記リアボディは、間隔を開けて設けられた第1の座面の間をダンパーが橋渡し状に配置され、其々の座面に対して第1のボルトにより前記ダンパーが締結されており、前記フロントボディは、その背面に設けられた第2の座面に対して、前記第1の座面の間で第2のボルトにより前記ダンパーが締結されて、かつ隣り合う前記第1の座面の間を橋渡し状に配置された前記ダンパーに対して、前記ダンパーの変形長を変更する摺動子が設けられており、前記補正工程では、前記ジョウにワークを把握させたときにおいて、前記摺動子の位置を変更して前記フロントボディを前記軸線に対して傾ける。
好ましくは、前記ダンパーが橋渡し状に配置される位置を、等角度間隔に少なくとも3箇所以上配置する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1のチャックを示し、図1Aはその断面図であり、図1Bは一部変更した断面図である。
図2】実施形態1のチャックの斜視図である。
図3】実施形態1のチャックの部分拡大図であり、図3Aは組み立て図、図3Bは分解図である。
図4】実施形態2のチャックを示す図であり、図4Aは斜視図、図4Bは断面図である。
図5】実施形態2のチャックの一部分解図である。
図6】実施形態2のチャックの一部分解図であり、図6Aはフロントボディ、プランジャ、ジョウを示し、図6Bはフロントボディの背面を示している。
図7】把握精度の補正を行う構造を説明する図であり、図7AはX-X断面図、図7Bは原理説明図である。
図8】実施形態3のチャックを示す図であり、図8Aは斜視図、図8Bは断面図、図8Cはフロントボディの背面図、図8Dは調整子の斜視図である。
図9】実施形態4のチャックを示す図であり、図9Aは斜視図、図9BはY1-Y1断面図、図9Cは調整螺子を示す図、図9DはY2-Y2断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態1.
図1Aのチャック100の断面および、図2の斜視図を参照し、チャック100は、ボディ1の前方(図中右方向)の面に径方向に移動する3つのジョウ4を備えている。ボディ1は、リアボディ2と円筒状のフロントボディ3とからなっている。リアボディ2は、工作機械のスピンドル(図1において、リアボディ2の左側に配置される)により、チャック100の軸線C(図中一点破線で示す)を軸心(チャックの回転中心)として回転する。フロントボディ3はリアボディ2に対して軸線Cの長さ方向にバネ9により押しつけられている。一方、Z方向(図中右方向を前方とする軸線Cの長さ方向)に垂直な平面(図中、軸線Cに対する径方向、若しくは図2のX、Y方向)において、フロントボディ3はリアボディ2に対して微少移動可能なように、フロントボディ3のカラー部3cとリアボディ2の側面の間には、微少隙間が設けられている。ボディ1内には、軸線C上に前後移動するプランジャ8が挿入されている。また、ボディ1にはフロントボディ3のスロット3aにガイドされて径方向へ摺動するマスタジョウ6が設けられ、プランジャ8とマスタジョウ6が楔作用をなすべく係合されている。シリンダ50の推力Fによりプランジャ8が引き込まれると、プランジャ8及びマスタジョウ6の楔作用により、マスタジョウ6が径方向へ摺動する。
【0010】
ガイドバー7はリアボディ2から複数箇所で、フロントボディ3に向けてZ方向に平行に立設されている。ガイドバー7は、摺動リング7bが挿入される溝を有する拡大部7a、胴軸部7c、螺子軸部7dとからなり、胴軸部7cと螺子軸部7dとの間には、段差部7eを備えている。フロントボディ3には、複数のガイド孔5が設けられている。ガイド孔5は、拡大部7aを受ける受面部5aと、これに続く通し孔部5bと、受面部5aと通し孔部5bとの間の段差部5cからなっている。ガイドバー7の拡大部7aと段差部5cとの間にバネ9が装着されている。バネ9は、フロントボディ3をリアボディ2に押しつけておく付勢手段である。螺子軸部7dは、リアボディ2の通し孔2bを介して、工作機械のスピンドルの締結孔に対して直接的にあるいは、スピンドルに固定されたバックプレートに対して螺合されており、段差部7eにより、ガイドバー7はリアボディ2をスピンドルにしっかり固定している。フロントボディ3はバネ9によりリアボディ2に押しつけられているので、リアボディ2とフロントボディ3との相対位置は維持されるが、チャック100に対するワークの旋削負荷が加わった状態において、リアボディ2とフロントボディ3との相対位置が維持されることが保障されるわけではない。また、複数のボルト11が、フロントボディ3の通し孔15を介してリアボディ2の固定孔2aに螺合されることにより、フロントボディ3をリアボディ2に対して複数箇所にて締結状態にしている。フロントボディ3の周面部3bから、各ガイド孔5に向かって調整螺子孔12が穿孔されており、調整螺子孔12は通し孔部5bに貫通している。調整螺子孔12には、調整ボルト13が螺合されている。
【0011】
図3は、調整ボルト13の詳細を示すチャック100の部分拡大図である。調整ボルト13は二重になっていている。つまり、調整ボルト13は、外側ネジ13aと、外側ネジ13aの内側に配置される外側ネジ13aとを有する。外側ネジ13a及び内側ネジ13bは右ネジである。また、内側ネジ13bは外側ネジ13aよりピッチが少し小さい。調整螺子孔12の奥側の側面は平面12aになっており、内側ネジ13bの先部側面に設けられた平面13cと対向し、内側ネジ13bの回転を阻止する。外側ネジ13aを1回転時計回りに回すと内側ネジ13bはピッチの差だけ進む。内側ネジ13bの先端は、通し孔部5b内に存在するガイドバー7の胴軸部7cに当接する。このように、内側ネジ13bは外側ネジ13aよりピッチが小さいので、外側ネジ13aが回されたときにおいて、内側ネジ13bの軸方向の移動距離は、外側ネジ13aの軸方向の移動距離よりも小さくなる。このため、調整ボルト13はガイドバー7の位置を微小に調整することができる。
【0012】
次に、チャック100の把握精度の補正方法に係る補正工程を説明する。まず、固定孔2aに螺合されたボルト11を緩める。ガイドバー7がリアボディ2をスピンドルに締結しているので、軸線Cに対するリアボディ2の位置や姿勢は維持されている。また、ボルト11を緩めた状態でもフロントボディ3が抜けたり傾いたりしないように、バネ9はフロントボディ3をリアボディ2に押付けている。3個の調整ボルト13はガイドバー7の側面を三方から押す形でフロントボディ3に配置されている。
【0013】
まず、ジョウ4にワークを把握させ、前記ワークの芯が軸線C上の位置になるように、3個の調整ボルト13を互いに押し引きし、軸線Cを中心とした径方向(Z方向に対して垂直な平面内)にフロントボディ3を微少に移動させる。この状態で、ボルト11を締付けるとフロントボディ3はリアボディ2に正確な把握精度となる位置で固定され、チャック100の把握精度の補正ができる。また、調整ボルト13を全て緩めた状態でフロントボディ3の周面部3bを無反動ハンマーでたたくことにより、軸線Cを中心とした径方向においてフロントボディ3を微少に移動させて、ワークの芯を軸線C上の位置になるようにすることでも把握精度の補正ができる。フロントボディ3はリアボディ2の端面に沿って平行移動する。この際、フロントボディ3は、バネ9によりリアボディ2に押付けられているため、リアボディ2に対して傾かない。その後、ボルト11を締付ける。本実施形態によれば、ワークの芯が軸線C上に配置されるように、軸線Cを中心とした径方向にフロントボディ3を移動させることで、把握精度を確保することができる。上記実施形態においては、3個の調整ボルト13によりガイドバー7の側面を三方から押す形としていたが、図1Bに示すように、フロントボディ3のカラー部3cからリアボディ2の側面に対して等角度間隔に配置された3個の調整ボルト13 ' により押しつけて(図面では、1箇所のみ示した)、ワークの芯が軸線C上に配置されるように、フロントボディ3を軸線Cに対して径方向に移動させても良い。なお、フロントボディを移動させる行為は、ジョウにワークを実際に把握させた時に行っても良いし、ジョウにワークを把握させた時にワークの振れを測定し、その後ワークを取り外してから測定した振れに基づきワークの芯が軸線C上に配置されるようにしても良い。また、実施形態では、プランジャ8とマスタジョウ6が楔作用をなすべく係合されているチャックを示したが、他の態様でマスタジョウを移動させるチャックにも適用できる。例えば、特開平6-277910号に示されるようなレバー式チャックに対しても適用可能である。また、マスタジョウ6が直接的にプランジャ8と係合せず、プランジャ8との間に他の部材、例えば、楔形状の増力機構などを介してマスタジョウ6を駆動させるタイプのチャックに対しても同様に適用可能である。
【0014】
実施形態2.
図4は、実施形態2によるチャック200を示しており、図4Aはチャック200の斜視図および、図4Bは断面図である。チャック200は、ボディ20の前方(図中右方向)の面に径方向に移動する3つのジョウ24を備えている。ボディ20は、リアボディ22と円筒状のフロントボディ23とからなっている。リアボディ22は、工作機械のスピンドル(図4Bにおいて、リアボディ22の左側に配置される)により、チャック200の軸線Cを軸心として回転する。フロントボディ23はリアボディ22に対して軸線C上で微少移動可能である。ボディ20内で軸線C上に移動するプランジャ28が挿入され、フロントボディ23にはスロット23aを径方向へ摺動するマスタジョウ26が設けられ、プランジャ28とマスタジョウ26が楔作用をなすべく係合されている。シリンダ50の推力Fにより、プランジャ28が引き込まれると、マスタジョウ26への楔作用により、マスタジョウ26が径方向へ摺動する。この際、フロントボディ23は、軸線C上を移動させる力を受ける。ジョウ24は、マスタジョウ26に1対1に固定されワークを把握する。
【0015】
リアボディ22とフロントボディ23の間には板状部材によるダンパー31が設けられている。両者の固定についての詳細は、後述する。ダンパー31を挟んで、等角度間隔の複数のガイドバー17(実施形態では3つ)がボルト16によりリアボディ22に締結されている。
【0016】
図5は、リアボディ22とダンパー31の斜視図である。リアボディ22は、等角度間隔を開けて座面22a(第1の座面)を有している。座面22aは、ダンパー31を取り付けるもので、大小の貫通孔22c、22dが穿孔されている。貫通孔22dは、座面22aにガイドバー17を固定するために用いられる。隣り合う座面22aの間の扇状の部分は、後方(図中左方向)に向かって後退しており(以下、扇状部分22fと称す)、扇状部分22fの上を橋渡し状に跨いで隣り合う座面22aに渡されたダンパー31が後方に向けて弾性変形することを許容する空間を確保している。各扇状部分22fには、溝22bが設けられている。溝22bには、その長さ方向に、調整螺子41が設置されている。調整螺子41は、リアボディ22の外周側Pから、回転させることが可能である。調整螺子41には摺動子42が螺合されており、調整螺子41を回転されることにより移動する。溝22bの位置はジョウ24の後方の同一角度位置(軸線Cを中心とした)であり、座面22aの位置は後述のガイドバー17の後方の同一角度位置(軸線Cを中心とした)となっている。
【0017】
ダンパー31は、リング形状を有している。大小1つずつ貫通孔31c、31dが径方向に並んだ状態で、等角度間隔に配置されている。また、その間に1つの貫通孔31aが等角度間隔に配置されている。貫通孔31c、31dは、貫通孔22c、22dに対応するものである。貫通孔31aは、フロントボディ23をダンパー31に固定するために使用される。
【0018】
図6Aは、フロントボディ23、プランジャ28、マスタジョウ26及びガイドバー17の斜視図である。図6Bはフロントボディ23の背面を示している。プランジャ28とマスタジョウ26は、フロントボディ23に対して相対的にプランジャ28を後方に引き込むと、楔作用によりマスタジョウ26は径方向に移動する。複数のガイドバー17(例では3つ)は、頭部の側面に摺動面17aを有し、リング状シール17bを収容する溝が設けられている。17cはダンパー31にその端部が当接する胴部である。
【0019】
フロントボディ23には、等角度間隔に複数のガイド孔23b(例では3つ)が設けられており、ガイドバー17が収容されている。ガイド孔23bの前方側の内周面は、ガイドバー17の摺動面17aに沿って、フロントボディ23を軸線C上に摺動可能とする摺動面23dになっている。ガイドバー17の中央の貫通孔17dは、図示しない工作機械のスピンドルに対して直接的にあるいは、スピンドルに固定されたバックプレートに対してガイドバー17を固定するボルト16を収容する。ガイドバー17が摺動面23dを摺動するためには、摺動面17aと摺動面23dの間で少なくとも微少な空間が必要で有り、この微少な範囲において、軸線Cに対して傾くようにフロントボディ23は移動可能である。
【0020】
図6Bにおいて、フロントボディ23の背面には、等角度間隔に3つの座面23c(第2の座面)が設けられている。座面23cは、マスタジョウ26の背後であり、リアボディ22の座面22aの個数と同じく3箇所に設けられる(3個はマスタジョウ26の個数でもある)。座面23cは、同周上の他の箇所23fに比べて、後方側(図6Bにおいて紙面前側)に突出している。座面23c以外の箇所で平面状のダンパー31の変形を許容するための空間を確保するためである。座面23cには、ダンパー31の貫通孔31aを介してボルト36(第2のボルト)が締結される孔23eが設けられている。
【0021】
図4図5及び図6を参照すると、ダンパー31は貫通孔31aの位置で、当該貫通孔31aにボルト36が挿入され、フロントボディ23の座面23cに対してボルト36により締結されている。ボルト36の頭部は、リアボディ22に設けられた逃げ孔22eに余裕を持って収容されている。ダンパー31は、貫通孔31aを挟んでその両脇隣にある貫通孔31c、31dの位置で、貫通孔31dにはボルト29が挿入され、若しくは貫通孔31cにはボルト16が挿入され、図示しない工作機械のスピンドル或いはリアボディ22の座面22aに対してボルト29若しくはボルト16 ( 第1のボルト ) により締結されている。さらに、ガイドバー17が座面22aに対してボルト16 ( 第2のボルト ) により締結されている。
【0022】
ダンパー31はリング状であるので(図5参照)、リアボディ22、フロントボディ23、リアボディ22、フロントボディ23の順番に、円周方向に一周する円周上で互い違いに固定するようになっている。このように、間隔を開けて設けられた座面22aの間をダンパー31が橋渡し状に配置され、其々の座面22aに対してボルト16によりダンパー31が締結される。隣り合う座面22aの間でダンパー31が、フロントボディ23の座面23cに対してボルト36により締結される。ダンパー31が隣り合う座面22aにより橋渡しされる位置は、実施形態では3箇所であるが3箇所以上としても良い。
【0023】
図4Bを参照して固定状態を説明すると、まず、リアボディ22はスピンドル或いはバックプレートに対して、ボルト16により(ガイドバー17を挟んで)締結されている。ダンパー31はリアボディ22とガイドバー17に挟まれてボルト29により締結されている。フロントボディ23はダンパー31にボルト36により締結されている。よって、フロントボディ23はスピンドルに対して間接的に固定されている。ダンパー31は、各ボルト16、29、36によって締結された状態であるので、軸線Cを中心とした径方向にはガタ付きが無く、軸線C方向(後述のように軸線Cに対する微少な傾きを含む)にのみリアボディ22に対して相対的にフロントボディ23の揺動を許容する。ダンパー31は薄いので軸線Cに平行な方向には剛性が低く撓みやすい。しかし、ダンパー31の薄さは、軸線Cを中心とする径方向の変形(変位)に、影響しにくい。つまり、軸線Cを中心とする径方向におけるダンパー31の剛性は、軸線Cに平行な方向におけるダンパー31の剛性よりも、高くなっている。このため、ダンパー31は軸線Cに平行な方向には変形(変位)しやすいが、ダンパー31は軸線Cを中心とする径方向には変形(変位)しにくい。
【0024】
図7は、チャック200による把握精度の補正を行う構造を説明する図である。図7Aは、図4AにおけるX-X断面を示すものである。X-X断面は、溝22bに沿って切断して、リアボディ22の外周側から見た図である。ダンパー31は、隣合う座面22aの間で、1つの座面23cからの荷重を支えている。シリンダ50の推力Fにより、フロントボディ23を軸線C上で移動させる力が加わると、ダンパー31は、扇状部分22fの空間内に変形する。調整螺子41は、リアボディ22の外周面から回転させることが可能である。調整螺子41を回転させることにより、摺動子42の位置が変更される。その結果、ダンパー31が摺動子42に接触する位置が変更されることにより、ダンパー31のバネ定数を任意に変化させることが出来る。尚、摺動子42の背面側はリアボディ22に接触して、ダンパー31からの圧縮力をリアボディ22に移すようにしている。
【0025】
図7B図7Dは、3つの座面23cの位置におけるダンパー31の状態の変位を模式的に示している。図7Bは摺動子42が中央(座面23cの固定位置)に寄った状態、図7C図7Dは中央から離れた状態である。シリンダ50の推力Fにより、フロントボディ23を軸線C上で移動させる力が加わると、ダンパー31は、扇状部分22fの空間内に変形する。摺動子42は、その背面をリアボディ22がバックアップしているため、図7Bにおいてはダンパー31が変形する長さが短く、図7C図7Dでは長くなる。よって、ダンパー31は、座面23cの固定位置においてバネ定数が変更可能である。
【0026】
次に、チャック200の把握精度の補正方法に係る補正工程を説明する。
まず、シリンダ50の推力Fをかけるとフロントボディからの力でダンパー31は弾性変形してフロントボディ23は左方向に引き込まれる。ボルト16がガイドバー17を挟んでリアボディ22をスピンドルに締結しているので、リアボディ22のZ方向の姿勢は維持されている。3箇所の摺動子42の位置を夫々調整螺子41によって制御する。ダンパー31のバネ定数を小さくすると変形量は大きくなり同じシリンダ50の推力においてもフロントボディ23が軸線C上を移動する距離が大きくなる。一方、バネ定数を大きくすると変形量は小さくなり、同じシリンダ50の推力においてもフロントボディ23が軸線C上を移動する距離が小さくなる。したがって、箇所の摺動子42の位置を夫々調整螺子41により互いに変更することにより、図4Aの矢印Qにより示すように、フロントボディ23を軸線Cのまわり360度の方向に微妙に傾けることができる。ワークの芯が中心を向くように、調整螺子41、摺動子42により、ダンパー31の変形量に差をつけることでフロントボディ23を微小に傾かせる。これによりワークの芯調整ができる。このように、ワークを実際にジョウ24のワーク把握面に把握させた時のワークの芯を軸線Cに合わせるように、調整螺子41を用いて極めて微妙な調整をすることができる。本実施形態においては、摺動子42の位置を等角度間隔に設定したが、少なくとも3つの摺動子42を結ぶ直線で囲まれる図形の中に、軸線Cが入るような位置関係であれば良い。本実施形態によれば、ジョウ24にワークを保持した時のワークの芯が軸線C上に配置されるように、フロントボディ23を軸線Cに対して傾けることで、ジョウ24に対して成形を加える必要無く、把握精度を確保することができる。なお、フロントボディを傾ける行為は、ジョウにワークを実際に保持したまま行っても良いし、ジョウにワークを保持した状態でワークの振れを測定し、その後ワークを取り外してから行っても良い。
【0027】
実施形態3.
図8に実施形態3のチャック300を示す。実施形態1、2と同じ構成については、同一の引用符号が付されている。実施形態2においては、調整螺子41をリアボディ22の外周面から回転させることにより、摺動子42の位置を変更してダンパー31のバネ定数を変化させた。実施形態3では、フロントボディ43の前面側(図8Aの右側)から調整子51を操作することにより、摺動子51bの位置を変更してダンパー45のバネ定数を変化させる。
【0028】
図8Aにおいて、フロントボディ43の前面側に等角度間隔に設けられた複数(実施形態では3つ)のメンテナンス孔56が設けられている。メンテナンス孔56は、通常は封止ボルト52が調整子51の雌ネジ孔51dへ螺合されており、封止されている状態である。図8Bにおいて、メンテナンス孔56から、封止ボルト52を取り出すと、調整子51の操作端51aが現れる。封止ボルト52は、切削粉の侵入を防ぐものである。操作端51aは六角レンチ55を受ける雌溝であり、フロントボディ43とダンパー45の間に存在する調整子51を回転操作することができる。雌ネジ孔51dは、操作端51aの奥側に設けられている。調整子51は、フロントボディ43を貫通してダンパー45に正対している。調整子51は、図8Dに示すように、ダンパー45に正対する側に摺動子51bを有しており、ダンパー45が変形する過程で摺動子51bがダンパー45に接触する。フロントボディ43側には、摺動子51bが揺動するためのリセス53aが設けられている。調整子51を回転操作すると、摺動子51bがダンパー45に接触する位置が変わり、ダンパー45のバネ定数を変化させることができる。尚、摺動子51bの背面側はフロントボディ43に接触して、ダンパー45からの押付力をフロントボディ43に移すようにしている。
【0029】
調整子51の回転角度が離散的に変更しやすいように、リセス53a側には等角度間隔にラッチングノッチ53bが設けられ、調整子51にはラッチングノッチ53bに対して弾性的に進退する爪51cが設けられている。そして、六角レンチ55を用いて調整子51の回転角度を調整した後に、封止ボルト52を締め付けることで、調整子51の固定を行うことができる。また、前述の実施形態では、封止ボルト52を締め付けることで調整子51の固定をおこなっているが、調整子51を固定する他の実施形態として、フロントボディ43の側面から調整子51の側面に到る雌ネジ孔を設け、当該雌ネジ孔にボルトを螺入することにより固定しても良い。
【0030】
実施形態3によれば、殆どの工作機械において露出することが多いフロントボディ43の前面側から、摺動子51bの位置を変更してダンパー45のバネ定数を変化させることができるという効果がある。また、実施形態2のようにリアボディ22に調整螺子41と摺動子42を設けるよりも、部品点数が少なくでき、コストを下げることができるという効果もある。
【0031】
実施形態4.
実施形態4のチャック400を図9に示す。実施形態4は、実施形態1の変形例である。実施形態1では、リアボディ2の側面若しくはフロントボディ3の各ガイド孔に挿入されたガイドバー7の側面を、複数の調整ボルト13によりフロントボディ3の側面から押し付けることにより、軸線Cを中心とした径方向にフロントボディ3を移動したが、実施形態4ではフロントボディ63の前面側から調整螺子61を操作して、軸線Cを中心とした径方向にフロントボディ63を移動するものである。実施形態1と同様な構成については、同一の引用符号が付されている。
【0032】
調整螺子61は、チャック400に対して等角度間隔に複数(実施形態では3つ)設けられており、その操作端61aがフロントボディ63の前面側に露出している。操作端61aは六角レンチを受ける雌溝であり、調整螺子61を回転操作することができる。調整螺子61は、軸部61bに螺子を有しており、フロントボディ63の中を軸線Cの向きで進退可能である。調整螺子61の頭部61cはテーパー状になっており、リアボディ62側に設けられた傾斜状の摺動面62aを摺動する。頭部61cが軸線Cの向きで進退することで、摺動面62aを摺動し、軸線Cを中心とした径方向にフロントボディ63を移動させる。
【符号の説明】
【0033】
1、20:ボディ、2、22、62:リアボディ、3、23、43、63:フロントボディ、4、24:ジョウ、5、23b:ガイド孔、6、26:マスタジョウ、7、17:ガイドバー、8、28:プランジャ、9:バネ、11、16、29、36:ボルト、12:調整螺子孔、13:調整ボルト、22a、23c:座面、31、45:ダンパー、50:シリンダ、41:調整螺子、42:摺動子、51:調整子、61:調整螺子、100、200:チャック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9