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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】アッカーマンシア・ムシニフィラ増殖材
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/38 20060101AFI20221108BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221108BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20221108BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20221108BHJP
   A23K 20/111 20160101ALI20221108BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20221108BHJP
   A61P 3/04 20060101ALN20221108BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20221108BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20221108BHJP
【FI】
C12N1/38
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A23L33/135
A61K31/7048
A61K35/741
A23K20/111
A61P3/10
A61P3/04
A61P1/04
A23L33/105
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019551870
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2018009869
(87)【国際公開番号】W WO2019092896
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2017215558
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】市島 睦生
(72)【発明者】
【氏名】森田 寛人
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/175180(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/122889(WO,A1)
【文献】特表2016-503418(JP,A)
【文献】Food Research International (2013) Vol.53, pp.659-669
【文献】Diabetes (2015) Vol.64, pp.2847-2858
【文献】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004) Vol.54, pp.1469-1476
【文献】Anaerobe (2017) Vol.43, pp.56-60 (Available online 7 Dec. 2016)
【文献】Food Chemistry (2007) Vol.100, pp.203-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
A23K 10/00-20/00
A23L 33/00
A61K 31/00
A61K 35/00
A61P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、ペルタトシド、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を促すために利用される増殖材。
【請求項2】
ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、請求項1に記載の増殖材。
【請求項3】
飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、請求項1又は2に記載の増殖材。
【請求項4】
ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、ペルタトシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む増殖材とアッカーマンシア・ムシニフィラを含む、培養物。
【請求項5】
増殖材がケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、請求項4に記載の培養物。
【請求項6】
飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、請求項4又は5に記載の培養物。
【請求項7】
アッカーマンシア・ムシニフィラを、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、ペルタトシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む増殖材を用いて培養することを含む、アッカーマンシア・ムシニフィラ及び/又はその培養物の製造方法。
【請求項8】
増殖材がケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッカーマンシア・ムシニフィラを増殖させることが可能な増殖材に関する。
【背景技術】
【0002】
アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、0.6~1.0μm程度の大きさを有し、芽胞を作らず、運動性を有さない偏性嫌気性のグラム陰性細菌である(非特許文献1)。アッカーマンシア・ムシニフィラは、ヒトをはじめとする多くの哺乳動物の腸内に通常存在する真性細菌である。
【0003】
近年、アッカーマンシア・ムシニフィラは肥満や糖尿病の人の腸内においてはその量が減少していること、また、アッカーマンシア・ムシニフィラの投与によりマウスにおける脂肪増加の改善やインスリン抵抗性の改善が確認され(非特許文献2,3)、アッカーマンシア・ムシニフィラと肥満等の障害との関連性が指摘されている。さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラは、虫垂炎の重症度と反比例していること、また、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症を伴う疾患の患者腸内においては、その量が減少していることが報告されており(非特許文献4,5)、アッカーマンシア・ムシニフィラは抗炎症作用を有すると考えられている。
【0004】
このため、これらの疾患や障害を予防又は改善するための有望な手段として、アッカーマンシア・ムシニフィラに対する関心が高まっている。
【0005】
腸内におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの数を、プレバイオティクスの観点から増やそうとする試みが行われている。例えば、特許文献1には、ポリデキストロースを含む組成物を摂取したヒトの腸内菌叢において、アッカーマンシア属細菌の比率が増加したことが記載されている。特許文献2には、キシロースを投与したマウスの腸内において、アッカーマンシア属細菌が増殖したことが記載されている。特許文献3には、レプチン欠損肥満マウス及び高脂肪摂食マウスに認められるアッカーマンシア・ムシニフィラ量の減少が、フラクトオリゴ糖を摂取させることにより回復したことが記載されている。特許文献4には、水溶性酢酸セルロースを摂取したラットの盲腸内容物の細菌叢において、アッカーマンシア属細菌の比率が増加したことが記載されている。非特許文献5には、高分子プロシアニジンを摂取したマウスの腸内菌叢において、アッカーマンシア属細菌の比率が増加したことが記載されている。
【0006】
しかしながら、当該分野においては依然として、アッカーマンシア・ムシニフィラを増殖させるための新たな手段が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2014-532710号公報
【文献】WO2016/122889公報
【文献】特表2016-503418号公報
【文献】WO2015/146853公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Int J Syst and Evol Microbiol.54:1469-1476(2004)
【文献】Nature Medicine 23,107-113,2017
【文献】Proc Natl Acad Sci USA 110,9066-9071(2013)
【文献】Gut.2011 Jan;60(1):34-40
【文献】Am J Gastroenterol.2010 Nov;105(11):2420-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アッカーマンシア・ムシニフィラを増殖させることが可能な新たな増殖材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一部のポリフェノールにアッカーマンシア・ムシニフィラを増殖させる作用があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] ケルセチン配糖体、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖材。
[2] ケルセチン配糖体が、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、及びペルタトシドからなる群から選択される一以上を含む、[1]の増殖材。
[3] ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、[1]又は[2]の増殖材。
[4] 飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、[1]~[3]のいずれかの増殖材。
[5] ケルセチン配糖体、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む増殖材を用いて培養されたアッカーマンシア・ムシニフィラを含む、培養物。
[6] ケルセチン配糖体が、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、及びペルタトシドからなる群から選択される一以上を含む、[5]の培養物。
[7] 増殖材がケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、[5]又は[6]の培養物。
[8] 飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、[5]~[7]のいずれかの培養物。
[9] アッカーマンシア・ムシニフィラを、ケルセチン配糖体、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む増殖材を用いて培養することを含む、アッカーマンシア・ムシニフィラ及び/又はその培養物の製造方法。
[10] ケルセチン配糖体が、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、及びペルタトシドからなる群から選択される一以上を含む、[9]の製造方法。
[11] 増殖材がケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、又はタンニン酸を含む、[10]の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アッカーマンシア・ムシニフィラを増殖させることが可能な新たな増殖材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1-1】図1-1は、ケルセチン配糖体の培地への添加による、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖への影響を評価した結果を示すグラフ図である。結果は、対照の増殖量を100%とする相対値(増殖比率[%])にて示す。n=4。*:p<0.05、**:p<0.01(vs対照、Dunnett 多重比較検定)
図1-2】図1-2は、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、又はタンニン酸の培地への添加による、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖への影響を評価した結果を示すグラフ図である。結果は、対照の増殖量を100%とする相対値(増殖比率[%])にて示す。n=4。*:p<0.05、**:p<0.01(vs対照、Dunnett 多重比較検定)
図2図2は、ルチン、又はヘスペリジンの経口摂取による、生体内におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖への影響を評価した結果を示すグラフ図である。結果は、水投与群(対照)、ルチン投与群、ヘスペリジン投与群より採取した糞便中のアッカーマンシア・ムシニフィラDNAの定量結果を示す。n=4。**:p<0.05,*:p<0.1(vs対照、Mann-Whitney U検定)
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.増殖材
本発明は、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖材に関する。
【0015】
「アッカーマンシア・ムシニフィラ」は公知であり、Muriel Derrienら、Int J Syst and Evol Microbiol.54:1469-1476.(2004)等に記載される公知の菌学的性質に基づいて特徴付けられる。Muriel Derrienら(上掲)には、基準株(ATCC BAA-835株)について、グラム陰性、偏性嫌気性、非運動性、無芽胞、卵形、サイズ0.6~1.0μm、ムチン添加培地中にて増殖、及び莢膜形成あり等の特徴を有することが記載されている。
【0016】
また、アッカーマンシア・ムシニフィラの16S rRNA遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、GenBank等の公知のデータベースに開示されており、AY271254、NR_074436として登録されている。これらの配列情報を利用して、16S rRNA遺伝子の分析を行うことにより、アッカーマンシア・ムシニフィラを同定することができる。16S rRNA遺伝子の分析は、定量的PCR法、DGGE/TGGE法、FISH法、16S rDNAクローニングライブラリー法、T-RFLP法、FISH-FCM法、塩基配列決定法等の公知の手法に基づいて行うことができる。例えば、定量的PCR法によれば、アッカーマンシア・ムシニフィラの16S rRNA遺伝子の公知の塩基配列情報に基づいて、当該菌に特異的なプライマーを作製する。選択された菌より抽出されたDNAを鋳型として、当該プライマーを用いてPCR反応を行い、意図されたサイズのPCR増幅産物の有無に基づいて当該菌がアッカーマンシア・ムシニフィラであるか否かを判断することができる。特異的なプライマーの設計やPCR条件の決定は、定法に従って行うことができる(バイオ実験イラストレイテッド3 本当にふえるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ;中山広樹著 株式会社秀潤社)。
【0017】
本発明において「増殖材」とは、インビトロ又は哺乳動物の生体内におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援し、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることを可能とする増殖作用を有する組成物を意味する。
【0018】
本発明の増殖材は、ケルセチン配糖体、イソラムネチン(3’-О-メチルケルセチンとも称される)、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、及びタンニン酸、からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含む。「一以上のポリフェノール」とは、上記より選択される1種のポリフェノール、あるいは、上記より選択される2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種又は14種のポリフェノールの組み合わせを意味する。
【0019】
ケルセチン配糖体は、ケルセチンに糖(例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、ラムノース、フルクトース、グルクロン酸、キシロース、マルトース、ラクトース、ゲンチオビオース、ルチノース等)がグリコシド結合した構造を有する化合物であればよく、特に限定はされない。本発明に用い得るケルセチン配糖体としては、特に限定はされないが、例えば、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン(ケルセチン3-ルチノシドとも称される)、及びペルタトシド(ケルセチン3-О-α-アラビノピラノシル-β-グルコピラノシドとも称される)が挙げられる。好ましくは、ケルセチン配糖体は、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、及びペルタトシドからなる群から選択される一以上(例えば、1種、又は2種、3種、4種、もしくは5種の組み合わせ)を含む。ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、及びペルタトシドはそれぞれ、以下の構造式で表される。
【化1】
【0020】
イソラムネチンはケルセチンのメチル化体であり、以下の構造式で表される。
【化2】
【0021】
シアニジングルコシドは、シアニジン配糖体の一種であり、以下の構造式で表される。
【化3】
【0022】
ヘスペリジンは、フラバノン配糖体の一種であり、以下の構造式で表され、ヘスペレチンは、ヘスペリジンのアグリコンであり、以下の構造式で表される。
【化4】
【0023】
アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、及びノビレチンはそれぞれ、フラボン配糖体のアグリコンであり、以下の構造式で表される。
【化5】
【0024】
タンニン酸は、グルコースに複数の没食子酸が結合してなるガロタンニンの一種であり、以下の構造式で表される。
【化6】
【0025】
これらのうち特に、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、及びタンニン酸からなる群から選択される一以上のポリフェノールを含むことが好ましい。ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ルチン、シアニジングルコシド、ヘスペリジン、アピゲニン、及びタンニン酸は、上記の他のポリフェノールと比べて、高い増殖作用を有する。
【0026】
本発明において上記一以上のポリフェノールは、植物から抽出された天然物であってもよいし、化学合成されたものであってもよい。天然物である場合、その原料となる植物や抽出方法は特に限定されず、上記一以上のポリフェノールは植物から単離されたものや、抽出物の形態で用いることができる。
【0027】
増殖材には上記一以上のポリフェノールを、0.001~99重量%、好ましくは0.001~90重量%、より好ましくは0.001~80重量%、さらに好ましくは0.001~70重量%の範囲より選択される量にて含めることができるが、その量は特に限定されず、ポリフェノールの種類や数、増殖材の形態や使途に応じて変化し得る。増殖材に2種以上のポリフェノールの組み合わせが含まれる場合、各ポリフェノールは任意の割合で含めることができる。本発明の増殖材は、液体、半固体、固体(粉体、粒体等)等、使途に適した任意の形態とすることができるが、例えば、増殖材が液体の形態を有する場合、1種のポリフェノールにつき、5μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、より好ましくは20μg/mL以上、さらに好ましくは30μg/mL以上となる量を含めることができる。上限は、特に限定されないが、例えば、2000μg/mL以下、好ましくは1500μg/mL以下、より好ましくは1000μg/mL以下、さらに好ましくは500μg/mL以下とすることができる。
【0028】
増殖材に含まれる上記一以上のポリフェノールの量は、公知の質量分析法(例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法、高速液体クロマトグラフィー法等)を用いて定量することができる。
【0029】
本発明の増殖材には、上記一以上のポリフェノールに加えて、微生物培養に通常使用される炭素源、窒素源、無機塩類等を含めることができる。例えば、炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、スターチ、糖蜜等を利用することができ、窒素源としては、例えばペプトン、酵母エキス、トリプトン、カゼイン加水分解物、肉エキス、硫安等を利用することができ、無機塩類としては、燐酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、鉄、マンガン等の塩類を利用することができる。さらに、必要に応じて、寒天やゼラチン、ビタミン類、アミノ酸類、界面活性剤等を含めることができる。
【0030】
また、本発明の増殖材には、アッカーマンシア属菌の増殖又は腸内比率の増大に効果を有することが知られているその他の成分を含めることができる。このような成分としては、ムチン、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン(Muriel Derrienら(上掲))、ポリデキストロース(特表2014-532710)、キシロース(WO2016-122889)、フラクトオリゴ糖(特表2016-503418)、水溶性酢酸セルロース(WO2015/146853)、高分子プロシアニジン(Masumoto S et al.,Sci.Rep.,6,31208(2016))等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
本発明の増殖材は、アッカーマンシア・ムシニフィラを培養するための培地として、又は、基本培地に添加して利用することができ、インビトロにおけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援し、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることができる。
【0032】
あるいは、本発明の増殖材は、医薬や飲食品、あるいは飼料又は飼料添加物の形態とすることができ、哺乳動物に投与又は摂取させることができる。
【0033】
本発明の増殖材は、医薬や飲食品の製造において通常用いられている、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の添加剤を含めることができ、企図される投与経路や摂取方法に適した剤型又は形態を有する医薬や飲食品として製造、提供することができる。
【0034】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、ブドウ糖、コーンスターチ、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0035】
滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等のシュガーエステル類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルアルコール、粉末植物油脂等の硬化油、サラシミツロウ等のロウ類、タルク、ケイ酸、ケイ素等が挙げられる。
【0036】
結合剤としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0037】
崩壊剤としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0038】
また、本発明において利用可能な、医薬や飲食品の製造において通常用いられている添加剤の例としては、各種油脂(例えば、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油等の植物油、牛脂、イワシ油等の動物油脂)、生薬(例えばロイヤルゼリー、人参等)、アミノ酸(例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニン等)、多価アルコール(例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコール、例としてソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール等)、天然高分子(例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテン又はグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリン等)、ビタミン(例えばビタミンC、ビタミンB群等)、ミネラル(例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄等)、食物繊維(例えばマンナン、ペクチン、ヘミセルロース等)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、精製水、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調製剤、緩衝剤、湿潤剤、溶解補助剤、懸濁化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料等が挙げられる。
【0039】
医薬や飲食品の剤型又は形態は、特に制限されない。医薬としては例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤、坐剤等の剤型とすることができるが、好ましくは、経口剤である。液剤、懸濁剤等の液体製剤は、凍結乾燥化し保存し得る状態で提供され、用時、水や生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用されるものであってもよい。また錠剤等の固形の剤形を有するものは、必要に応じてコーティングを施されていてもよいし(例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠等)、公知の技術を使用して、徐放性製剤、遅延放出製剤又は即時放出製剤等の放出が制御された製剤としてもよい。
【0040】
飲食品としては例えば、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等の形態を有する健康飲食品(サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品等)、清涼飲料、茶飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、チューインガム、タブレット)、ゼリー等の形態とすることができる(これらに限定はされない)。
【0041】
飲食品は、保健機能食品(特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)、栄養機能食品、機能性表示食品や、健康食品、美容食品等とすることができる。
【0042】
また、本発明の増殖材は、ヒト用の飲食品だけでなく、家畜、競走馬、ペット等の飼料又は飼料添加物の形態とすることもできる。
【0043】
本発明の増殖材は飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物として、哺乳動物(例えばヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)、好ましくはヒトに投与又は摂取させることができ、投与又は摂取された哺乳動物の生体内におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援し、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることができる。
【0044】
本発明の増殖材の投与量又は摂取量は、対象の年齢及び体重、投与経路、投与・摂取回数、含まれるポリフェノールの種類や数等の要因に応じて変化し得、任意の投与量又は摂取量を採用し得る。例えば、経口的に投与又は摂取する場合には、含まれる1種のポリフェノールにつき、1日当たり0.01mg/kg~600mg/kgより選択される量を1回又は複数回(例えば、2~5回、好ましくは2~3回)に分けて投与又は摂取することができる。2種以上のポリフェノールの組み合わせが含まれる場合、各ポリフェノールが、1日当たり上記範囲より選択される量にて1回又は複数回に分けて投与又は摂取されればよい。
【0045】
本発明の増殖材は、微量かつ短期間で効果を奏することができるが、長期間にわたって投与又は摂取することができる。例えば、本発明の増殖材を、上記用法用量にしたがい、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、6ヶ月以上、1年以上、又はそれ以上の期間にわたって継続して投与又は摂取することができる。
【0046】
2.培養物
また、本発明は、アッカーマンシア・ムシニフィラの培養物及びその製造方法に関する。
【0047】
本発明において「培養物」とは、上記増殖材を用いて培養されたアッカーマンシア・ムシニフィラ、ならびに、培地成分及び代謝産物を含む組成物である。培地成分には、好ましくは、上記一以上のポリフェノールが含まれる。
【0048】
本発明において「アッカーマンシア・ムシニフィラ」は、哺乳動物(例えばヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)、好ましくはヒトの腸内より単離されたものを用いることができる。アッカーマンシア・ムシニフィラは公知の手法(Muriel Derrienら(上掲))に準じて、哺乳動物の糞便、糞便物、又は便を含むサンプルを、ムチンを添加した培地中嫌気条件下での培養し、生育した菌体より単離することができる。
【0049】
本発明においては、アッカーマンシア・ムシニフィラに分類される任意の菌株、又はその変異株もしくは育種株を利用することができる。本発明において利用可能なアッカーマンシア・ムシニフィラ株としては、ATCC BAA-835株、YL44株、JCM 30893株などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0050】
本発明の培養物は、アッカーマンシア・ムシニフィラを上記増殖材を用いて培養することにより得ることができる。増殖材はアッカーマンシア・ムシニフィラを培養するための培地として、又は、基本培地に添加して利用することができる。培地には、1種のポリフェノールにつき、5μg/mL以上、好ましくは10μg/mL以上、より好ましくは20μg/mL以上、さらに好ましくは30μg/mL以上となる量を含めることができる。上限は、特に限定されないが、例えば、2000μg/mL以下、好ましくは1500μg/mL以下、より好ましくは1000μg/mL以下、さらに好ましくは500μg/mL以下とすることができる。培地には、必要に応じてさらに、寒天やゼラチンを添加してもよい。
【0051】
培養は、pH5.5~8.0、好ましくはpH6.5、20℃~40℃、好ましくは37℃にて、嫌気条件下で行うことができる。「嫌気条件」とは、アッカーマンシア・ムシニフィラが増殖可能な程度に低酸素環境であればよく、例えば、嫌気チャンバー、嫌気ボックス、脱酸素剤を入れた密閉容器もしくは培養容器等を用いて、嫌気条件とすることができる。
【0052】
培養は、静置培養、振とう培養、タンク培養等の任意の形式で行うことが可能であり、また、培養時間は、特に制限されないが、例えば3時間~7日間とすることができる。培養は、バッチ式行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0053】
培養後、得られた培養物をそのまま本発明の培養物として使用してもよいし、あるいは培養物よりアッカーマンシア・ムシニフィラを濃縮又は粗精製したものを本発明の培養物として使用してもよい。培養物からの菌体の濃縮又は粗精製は任意の手段を用いて行うことができ、例えば、遠心分離や濾過等を用いて行うことができる。
【0054】
培養物は、低温殺菌に付してもよい。培養物の低温殺菌は、60℃~80℃、好ましくは70℃の温度にて、30分間程度加熱することにより行うことができる。
【0055】
上記培養法によれば、増殖材により、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援し、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることができ、アッカーマンシア・ムシニフィラの培養物を効率的に製造することができる。
【0056】
本発明の培養物は、医薬や飲食品の製造において通常用いられている、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の添加剤を含めることができ、企図される投与経路や摂取方法に適した剤型又は形態を有する医薬や飲食品として製造、提供することができる。賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の添加剤は上述のものを利用することができ、上述の剤型又は形態を有する飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物を得ることができる。
【0057】
本発明の培養物は飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物として、哺乳動物(例えばヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)、好ましくはヒトに投与又は摂取させることができ、投与又は摂取された哺乳動物の生体内における、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることができる。
【0058】
本発明の培養物の投与量又は摂取量は、対象の年齢及び体重、投与経路、投与・摂取回数等の要因に応じて変化し得、任意の投与量又は摂取量を採用し得る。例えば、経口的に投与又は摂取する場合には、アッカーマンシア・ムシニフィラの菌体の数にして、1日当たり1×10個/kg~1×1015個/kg、好ましくは1日当たり1×10個/kg~1×1014個/kg、より好ましくは1日当たり1×10個/kg~1×1013個/kgから選択される量を1回又は複数回(例えば、2~5回、好ましくは2~3回)に分けて投与又は摂取することができる。
【0059】
本発明の培養物は、微量かつ短期間で効果を奏することができるが、長期間にわたって投与又は摂取することができる。例えば、本発明の培養物を、上記用法用量にしたがい、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、6ヶ月以上、1年以上、又はそれ以上の期間にわたって継続して投与又は摂取することができる。
【0060】
本発明の培養物は、上記増殖材と一緒に投与又は摂取されてもよい。
【実施例
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
実施例1.ポリフェノール添加によるアッカーマンシア・ムシニフィラ増殖効果
1.方法
(1)菌株
アッカーマンシア・ムシニフィラ菌株は、Muriel Derrienら(上掲)に記載の手法に従って、健常なヒト(成人)の糞便試料より、ムチン添加培地を使用してクローニングを行い、得られた菌株について16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、GenBankに登録されたアッカーマンシア・ムシニフィラの16S rRNA遺伝子の塩基配列(AY271254)との配列比較に基づいて、アッカーマンシア・ムシニフィラであることが確認された菌株を用いた。
【0063】
(2)培地の調製
アッカーマンシア・ムシニフィラの培養培地(本培地)は、Nature Medicine 23,107-113,2017に記載の合成培地に、ジメチルスルホキシド(DMSO)で様々な濃度に希釈した各ポリフェノールを、培地全体の1質量%となる量にて添加した。
【0064】
前記合成培地は公知の手法に準じて、1Lあたり、0.4g KHPO、0.53g NaHPO、0.3g NHCl、0.3g NaCl、0.1g MgCl・6HO、0.11g CaCl、1ml アルカリ性微量元素溶液(アルカリ性微量元素溶液は以下の組成を有する:0.1mM NaSeO、0.1mM NaWO、0.1mM NaMoO、及び10mM NaOH)、1ml 酸性微量元素溶液(酸性微量元素溶液は以下の組成を有する:7.5mM FeCl、1mM HB0、0.5mM ZnCl、0.1mM CuCl、0.5mM MnCl、0.5mM CoCl、0.1mM NiCl、及び50mM HCl)、1ml ビタミン溶液(ビタミン溶液は以下の組成を有する:0.02g/L ビオチン、0.2g/L ナイアシン、0.5g/L ピリドキシン、0.1g/L リボフラビン、0.2g/L チアミン、0.1g/L シアノコバラミン、0.1g/L p-アミノ安息香酸、及び0.1g/L パントテン酸)、0.5mg レザズリン、4g NaHCO、0.25g Na2S・7-9HOを含む滅菌した基礎培地に、0.7%(v/v)の滅菌精製ルーメン液を添加し、さらに、16g/L大豆ペプトン、4g/Lトレオニン、ならびにグルコース及びN-アセチルグルコサミンの混合物(それぞれ25mM)を添加して調製した。
【0065】
このようにして、ケルセチン配糖体、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、タンニン酸のいずれかを、31.25μg/mL、62.5μg/mL、125μg/mL、250μg/mL、又は500μg/mLの量で含む培地を調製し、以下の本培養に用いた。
【0066】
ケルセチン配糖体としては、ケルセチン3-D-ガラクシド、ケルセチン3-О-グルコピラノシド、ケルセチン3,4ジグルコシド、ルチン、ペルタトシドを用いた。
【0067】
コントロール培地は、公知の合成培地にポリフェノールを含まない同量のDMSOを添加して調製した。
【0068】
(3)培養
菌株を、0.4%(v/v)のムチンを添加したGAM培地(Gifu Anaerobic Medium)に播種して、嫌気条件下、37℃で24時間、前培養した。
【0069】
前培養終了後、前培養液(10μL)を、上記本培地(200μL)に添加して、嫌気条件下、37℃で90時間、本培養した。
【0070】
対照は、本培地に代えてコントロール培地を用いて同様に培養した。
【0071】
(4)増殖比率の測定
本培養終了後、本培養液より菌体を回収し、腸内細菌学雑誌 20:245-258,2006に記載の手法に従ってガラスビーズ法により、菌体よりDNAを抽出した。
【0072】
次いで、得られたDNAを鋳型にして、Appl.Environ.Microbiol.December 2007 vol.73 no.23 7767-7770に記載の手法に従って、アッカーマンシア・ムシニフィラの16S rRNA遺伝子の配列に基づいて作製されたプライマーセットを用いて定量的PCRを行い、回収された菌体のDNA量を測定した。
【0073】
対照についても、同様に、菌体よりDNAを抽出し、回収された菌体のDNA量(対照DNA量)を測定した。
【0074】
得られたDNA量を、対照DNA量を100%とする相対値で示し(n=4)、各培地におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を評価した。
【0075】
2.結果
添加したポリフェノールの種類及び量に関し、対照を超えるアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖が認められたものを、図1-1、図1-2に示す。
【0076】
ケルセチン配糖体は、いずれの化合物についても、培地への添加により、対照を超えるアッカーマンシア・ムシニフィラのDNA量の増大が認められた(図1-1)。この結果は、ケルセチン配糖体はその化合物の種類を問わず、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を促すことが可能であることを示唆する。
【0077】
また、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、又はタンニン酸の培地への添加によっても、対照を超えるアッカーマンシア・ムシニフィラのDNA量の増大が認められ(図1-2)、各ポリフェノールの添加によりアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖が促されたことが確認された。
【0078】
特に、ケルセチン3-О-グルコピラノシド(31.25μg/mL、125μg/mL)、ルチン(62.5μg/mL)、シアニジングルコシド(62.5μg/mL、125μg/mL、250μg/mL)、ヘスペリジン(31.25μg/mL、62.5μg/mL、125μg/mL、250μg/mL)、アピゲニン(31.25μg/mL、62.5μg/mL)、タンニン酸(31.25μg/mL)において、良好な増殖が認められた(カッコ内の数値は、培地における含有量を示す)。
【0079】
以上の結果より、ケルセチン配糖体、イソラムネチン、シアニジングルコシド、ヘスペレチン、ヘスペリジン、アピゲニン、クリシン、タンゲレチン、ノビレチン、又はタンニン酸により、アッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援し、アッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることが可能であることが確認された。
【0080】
実施例2.アッカーマンシア・ムシニフィラ増殖効果の検討
マウスに高脂肪食を与えて、ルチン及びヘスペリジンを8週間投与した際のアッカーマンシア・ムシニフィラ増殖効果を検証した。
【0081】
1.方法
(1)使用動物
9週齢マウス(C57BL/6J)30匹に対し、高脂肪食飼料D12492(Research Diets,Inc)を摂取させた。それぞれ、水投与群(対照)、ルチン投与群、ヘスペリジン投与群に群分けし(1群10匹)、ルチン投与群、ヘスペリジン投与群では、600mg/kgとなる量を水に懸濁し、毎日経口投与した。この経口投与は、投与開始から8週間行った。
【0082】
(2)被験物質
ルチンは、αGルチンPS(東洋製糖)を使用した。ヘスペリジンは、αGヘスペリジンPA(東洋製糖)を使用した。
【0083】
(3)DNAの抽出
経口投与から8週間後の糞便を採取し、糞便およそ100mgから、腸内細菌学雑誌 20:245-258,2006に記載の手法に従ってガラスビーズ法により、DNAを抽出した。
【0084】
(4)アッカーマンシア・ムシニフィラの定量
得られたDNAを鋳型にして、Appl.Environ.Microbiol.December 2007 vol.73 no.23 7767-7770に記載の手法に従って、アッカーマンシア・ムシニフィラの16S rRNA遺伝子の配列に基づいて作製されたプライマーセットを用いて定量的PCRを行い、回収された糞便中の菌体のDNA量を測定した。
【0085】
2.結果
8週間経口投与を行ったマウスから採取した糞便中のアッカーマンシア・ムシニフィラのDNA定量値を図2に示す。
ルチン投与群、ヘスペリジン投与群においては、対照群と比べて、アッカーマンシア・ムシニフィラのDNA量が増大していることが確認された。
【0086】
以上の結果より、ルチンやヘスペリジンを経口摂取することにより、生体内のアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖を支援することが可能であり、生体内のアッカーマンシア・ムシニフィラの絶対数を増加させることが可能であることが確認された。
【0087】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2017-215558号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1-1】
図1-2】
図2