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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20221108BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20221108BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221108BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/22
C08K5/09
C08K3/04
C08K5/24
C08K3/36
B60C1/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019559660
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2018045503
(87)【国際公開番号】W WO2019117143
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2017238055
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井久田 明史
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-091715(JP,A)
【文献】特開2004-123926(JP,A)
【文献】特開2010-265431(JP,A)
【文献】特開2005-232407(JP,A)
【文献】特開2009-101920(JP,A)
【文献】特開2005-041975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08K 3/22
C08K 5/09
C08K 3/04
C08K 5/24
C08K 3/36
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して合計含有量が2質量部以上13質量部未満の、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つと、
カーボンブラックを含む充填材と、
カーボンブラック分散剤と、
を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物の加硫ゴムの、ASTM D7723に準拠した、ディスパーグレーダーによる断面の測定において、粒径32μm以上のWhite area積算値が、粒径3~57μmのWhite area積算値の15%以下であり、
前記脂肪酸亜鉛の含有量aに対する前記酸化亜鉛の含有量bの質量比b/aが、1.5~3.0である、タイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計含有量が、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上6質量部未満である、請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記加硫ゴムの断面の測定において、(White Area%)×(粒径32μm以上のWhite area積算値)/(粒径3~57μmのWhite area積算値)の値が、0.2%以下である請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記充填材の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して1~60質量部であり、
前記充填材中、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有する無機粒子を1~20質量%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記無機粒子が、シリカを含む請求項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸亜鉛の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上である請求項1~のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラック分散剤が、ヒドラジド化合物である請求項1~のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ヒドラジド化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~2.5質量部である請求項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
前記加硫ゴム中に含まれる、脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cが、1.1以上2.0以下である請求項1~8のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項10】
前記加硫ゴム中に含まれる、脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cが、1.3以上2.0以下である請求項1~9のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量が、70~95質量%である請求項1~10のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの部位において路面に接触する唯一の部位であるトレッドゴムを、重荷重用タイヤに適用する場合、耐摩耗性及び耐発熱性の一層の向上が重要課題とされている。この課題を克服するためにトレッドゴムの研究開発が進められ、その実用化が推進されている。
【0003】
特許文献1には、重荷重用タイヤを想定し、耐摩耗性と耐発熱性とを同時に向上させることを目的とし、酸化亜鉛、脂肪酸、及び/又は脂肪酸亜鉛とを含有するゴム組成物から成る、加硫ゴム中に含まれる脂肪酸亜鉛の融点が特定の温度以下(重量当たりの平均融点が105℃以下)となるタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-265431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、耐摩耗性及び耐発熱性の一層の向上が図られ、特に重荷重用タイヤのゴム組成物として優れたものである。しかしながら、重荷重用タイヤの中でも、特に、タイヤに負荷される荷重が一層高い航空機タイヤに適用する場合、耐摩耗性及び耐発熱性に加え、新たな課題を克服する必要がある。
【0006】
航空機タイヤにおいては、着陸時に、タイヤのトレッドゴムが滑走路上に排水用に設けられた溝に重荷重下で高速接触する。このことに起因し、タイヤのトレッドゴムに、松かさ状又はささくれ状のシェブロンカットと呼ばれるカット傷が発生することがあるため、高度な耐亀裂性が求められており、更なる改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れるタイヤ、及びこれが得られるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、タイヤトレッド用ゴム組成物から成る加硫ゴム中に、凝集塊が存在すると、凝集塊が破壊核となり、凝集塊を起点として加硫ゴムに亀裂が生じ易くなることを見出した。
また、本発明者は、タイヤトレッド用ゴム組成物中に、天然ゴムを特定量以上含有させ、且つ、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計量を特定量含有させ、且つ、カーボンブラック分散剤を含有させ、これによって凝集塊の生成を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対して合計含有量が2質量部以上13質量部未満の、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つと、カーボンブラックを含む充填材と、カーボンブラック分散剤と、を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物の加硫ゴムの、ASTM D7723に準拠した、ディスパーグレーダーによる断面の測定において、粒径32μm以上のWhite area積算値が、粒径3~57μmのWhite area積算値の15%以下である、タイヤトレッド用ゴム組成物。
[2]前記加硫ゴムの断面の測定において、(White Area%)×(粒径32μm以上のWhite area積算値)/(粒径3~57μmのWhite area積算値)の値が、0.2%以下である前記[1]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[3]前記充填材の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して1~60質量部であり、前記充填材中、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有する無機粒子を1~20質量%含む、前記[1]又は[2]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[4]前記無機粒子が、シリカを含む前記[3]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[5]前記脂肪酸亜鉛の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上である前記[1]~[4]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[6]前記カーボンブラック分散剤が、ヒドラジド化合物である前記[1]~[5]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[7]前記ヒドラジド化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~2.5質量部である前記[6]に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[8]前記脂肪酸亜鉛の含有量aに対する前記酸化亜鉛の含有量bの質量比b/aが、1.0~3.0である前記[1]~[7]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[9]前記加硫ゴム中に含まれる、脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cが、1.1以上2.0以下である前記[1]~[8]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[10]前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量が、70~95質量%である前記[1]~[9]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[11]前記[1]~[10]のいずれか1つに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れるタイヤ、及びこれが得られるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[タイヤトレッド用ゴム組成物]
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分と、当該ゴム成分100質量部に対して合計含有量が2質量部以上13質量部未満の、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛と、カーボンブラックを含む充填材と、カーボンブラック分散剤と、を含有する。
また、本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物の加硫ゴムは、ASTM D7723に準拠した、ディスパーグレーダーによる断面の測定において、粒径32μm以上のWhite area積算値が、粒径3~57μmのWhite area積算値の15%以下であり、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下である。
更に、本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物の加硫ゴムの断面の測定において、(White Area%)×(粒径32μm以上のWhite area積算値)/(粒径3~57μmのWhite area積算値)の値が、0.2%以下であることが好ましく、0.18%以下がより好ましく、0.15%以下が更に好ましい。
【0012】
[凝集塊]
本発明において凝集塊とは、加硫ゴム中に存在する3μm以上の粒子径を有する凝集物のことを指していう。
ここで「凝集物」とは、加硫ゴムを構成するゴム組成物の成分が、1種又は2種以上で凝集したものを指していい、具体的には、脂肪酸亜鉛の凝集物、カーボンブラック等の充填材の凝集物、架橋剤及びその他の成分等の凝集物などが挙げられる。
以下、本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物について説明する。
【0013】
[ゴム成分]
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴムを含むゴム成分を含有する。
ゴム成分中の天然ゴムの含有量は、70質量%以上である。
上記天然ゴムの含有量が、上記範囲未満である場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され難い場合がある。
また、ゴム成分中の天然ゴムの含有量は、タイヤの耐摩耗性の観点から、100質量%未満であることが好ましく、具体的には、70~95質量%であることが好ましく、80~95質量%がより好ましく、80質量%より多く95質量%以下がより好ましく、80質量85~93質量%が更に好ましい。
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)の他には、例えば、ブタジエンゴム(ポリブタジエン、BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン系共重合体ゴム(EPDM)、及びスチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)等が挙げられる。
【0014】
[充填材]
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、充填材を含有する。
ゴム組成物中の充填材の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~60質量部であることが好ましく、30~50質量部がより好ましく、40~50質量部が更に好ましい。
上記充填材の含有量が、上記範囲にある場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易い。
【0015】
<カーボンブラック>
充填材は、少なくともカーボンブラックを含有する。充填材中、カーボンブラックの含有量は、60~100質量%であることが好ましく、70~100質量%がより好ましく、80~100質量%が更に好ましい。
また、ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、40~60質量部であることが好ましく、40~55質量部がより好ましく、40~50質量部が更に好ましい。
上記カーボンブラックの含有量が、上記範囲にある場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易い。
カーボンブラックとしては、従来ゴムの補強用充填材として用いられるものであれば特に限定されず、GPF(N660)、FEF(N550)、SRF(N774)、HAF(N330)、ISAF(N220)、ISAF-HS(N234)、及びSAF(N110)等が挙げられる。
カーボンブラックは、市販品として入手することができ、例えば、Cabot社製の商品名「VULCAN 6 SHOBLACK」等が挙げられる。
【0016】
<無機粒子>
充填材は、更に、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有する無機粒子を含有することが好ましい。充填材中、当該無機粒子の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、5~20質量%がより好ましく、10~20質量%が更に好ましい。
また、ゴム組成物中の無機粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、1~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
上記無機粒子の含有量が、上記範囲にある場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易い。
【0017】
充填材中に含有させる無機粒子としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が、50~350m/gの範囲にあることが好ましく、70~330m/gの範囲がより好ましく、90~300m/gの範囲が更に好ましく、130~260m/gの範囲がより更に好ましく、140~200m/gの範囲が特に好ましい。
上記無機粒子のセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が、上記範囲にある場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易い。
CTABは、長期的な耐摩耗性の観点から、150~180m/gの範囲が好ましい。
【0018】
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有する無機粒子としては、特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等が挙げられる。これらの中でもシリカは、亀裂が進展することを抑制する耐亀裂進展性の効果が発揮され易いことから好ましく用いられる。
【0019】
また、充填材中に含有させる無機粒子としては、BET表面積が、40~350m/gの範囲にあることが好ましく、80~320m/gの範囲にあることがより好ましく、150~300m/gの範囲にあることが更に好ましく、170~290m/gの範囲にあることがより更に好ましく、190~280m/gの範囲にあることがより更に好ましく、190~250m/gの範囲にあることがより更に好ましく、190~230m/gの範囲にあることが特に好ましい。
上記無機粒子のBET表面積が、上記範囲にある場合には、タイヤの耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易い。
【0020】
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有するシリカは、市販品として入手することもでき、例えば、東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールKQ」、東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールAQ」、エボニック社製の商品名「ウルトラシール9000GR」等が挙げられる。
【0021】
<シランカップリング剤>
セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が50~350m/gの範囲を有する無機粒子としてシリカを用いた場合、ゴム組成物中でのシリカの分散性を高める観点から、シランカップリング剤を用いることができる。
ゴム組成物中のシランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、1~15質量部がより好ましく、5~15質量部が更に好ましい。
上記シランカップリング剤の含有量が、上記範囲にある場合には、シリカが有する耐亀裂進展性の効果が好適に発揮される。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
シランカップリング剤は、市販品として入手することもでき、例えば、信越化学工業社製の商品名「ABC-856」等が挙げられる。
【0022】
〔酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛〕
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つを含有する。
酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上13質量部未満であり、2質量部以上8質量部未満が好ましく、2質量部以上6質量部未満がより好ましい。
上記酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計含有量が、上記範囲未満である場合には、凝集塊の生成を抑制する効果が十分に発揮されず、タイヤの耐摩耗性及び耐亀裂性に劣るおそれがある。
一方、上記酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計含有量が、上記範囲を超える場合には、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つに起因する凝集物が生成され易く、タイヤの耐摩耗性及び耐亀裂性に劣るおそれがある。
【0023】
<酸化亜鉛>
タイヤトレッド用ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有する。
ここで「酸化亜鉛」とは、化学式ZnOで表される亜鉛の酸化物のことを指していう。
酸化亜鉛としては、特に限定されず、例えば、亜鉛華、活性酸化亜鉛(活性亜鉛華)等が挙げられる。
ゴム組成物中の酸化亜鉛の含有量は、加硫促進の観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.5~8質量部であることが好ましく、2~8質量部がより好ましく、2~6質量部が更に好ましい。
酸化亜鉛の比表面積は、凝集塊の生成を抑制する観点から、2~120m/g以上であることが好ましく、10~120m/g以上がより好ましく、20~120m/g以上が更に好ましい。
【0024】
<脂肪酸>
タイヤトレッド用ゴム組成物は、脂肪酸を含有する。
ここで「脂肪酸」とは、化学式R-COOHで表される化合物自体を指していい、後述する脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸成分を指すものではない。
脂肪酸としては、脂肪族基Rの炭素数Cが8以上の直鎖又は分岐鎖脂肪酸が好ましく、中でも炭素数Cが8~18の直鎖脂肪酸が好ましい。
脂肪酸は、脂肪族基Rに単結合のみ有する飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、及びステアリン酸(C18)等が挙げられる。
また、脂肪酸は、脂肪族基Rに二重結合又は三重結合を有する不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、及びネルボン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジエン酸、及びドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
ゴム組成物中の脂肪酸の含有量は、凝集塊の肥大化を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましい。
脂肪酸の平均分子量は、凝集塊の肥大化を抑制する観点から、280以下である事が好ましく、250以下がより好ましく、230以下が更に好ましい。
【0025】
<脂肪酸亜鉛>
タイヤトレッド用ゴム組成物は、脂肪酸亜鉛を含有する。
ここで「脂肪酸亜鉛」とは、化学式R-COOZnで表される化合物自体を指していう。
脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸成分としては、脂肪族基Rの炭素数Cが8以上の直鎖又は分岐鎖脂肪酸が好ましく、中でも炭素数Cが8~18の直鎖脂肪酸が好ましい。
また、脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸成分は、脂肪族基Rに単結合のみ有する飽和脂肪酸であってもよく、飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸(C8)、ペラルゴン酸(C9)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、パルミトレイン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、及びステアリン酸(C18)等が挙げられる。
また、脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸成分である脂肪族基Rに二重結合又は三重結合を有する不飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、及びネルボン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジエン酸、及びドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
ゴム組成物中の脂肪酸亜鉛の含有量は、凝集塊の肥大化を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。
脂肪酸亜鉛を構成する脂肪酸成分の平均分子量は、凝集塊の肥大化を抑制する観点から、280以下であることが好ましく、250以下がより好ましく、230以下が更に好ましい。
脂肪酸亜鉛の含有量aに対する酸化亜鉛の含有量bの質量比b/aは、凝集塊の肥大化を抑制する観点から、1.0~3.0であることが好ましく、1.0~2.0がより好ましく、1.5~2.0が更に好ましい。
【0026】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、所定の方法で調製し、調製したタイヤトレッド用ゴム組成物は、所定の加硫条件で加硫を行い、加硫ゴムを得る。
本発明において、加硫ゴム中に脂肪酸量cと亜鉛量dとが所定の質量比で含まれるとき、凝集塊の生成を抑制する効果が発揮され易く、耐摩耗性及び耐発熱性を向上させ、更に耐亀裂性にも優れる効果が発揮され易くなる。
加硫ゴム中に含まれる、脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cは、1.1以上2.0以下であることが好ましく、1.2以上1.9以下がより好ましく、1.3以上1.8以下が更に好ましい。
上記脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cが、上記範囲未満である場合には、脂肪酸量cが亜鉛量dに対して多過ぎ、凝集塊が生成され易く、生成した凝集塊が破壊核となり、凝集塊を起点として加硫ゴムに亀裂が生じ易くなるおそれがある。
一方、上記脂肪酸量cに対する亜鉛量dの質量比d/cが、上記範囲を超える場合には、脂肪酸量cが亜鉛量dに対して少な過ぎ、加硫反応が十分に進まず、加硫ゴムとして設計した諸物性が得られないおそれがある。
【0027】
ここで、加硫ゴム中に含まれる脂肪酸量c及び亜鉛量dは、以下に示す計算式1及び2により、それぞれ算出される値である。
計算式1:
脂肪酸量c=(脂肪酸の含有量)+(脂肪酸亜鉛の含有量)×0.87
計算式2:
亜鉛量d=(酸化亜鉛の含有量)×0.8+(脂肪酸亜鉛の含有量)×0.13
なお、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛のそれぞれの含有量は、タイヤトレッド用ゴム組成物に含有させる量のことを指していう。
【0028】
[カーボンブラック分散剤]
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラック分散剤を含有する。
カーボンブラック分散剤としては、ゴム組成物中のカーボンブラックの分散性を高める機能を有するものであれば特に制限されず、例えば、ヒドラジド化合物、不飽和脂肪酸エステル、及び不飽和アルコールエステル(特開平4-20579参照)等が挙げられる。これらの中でも、分子内官能基が、カーボンブラックとの高い親和性を有し、かつゴム成分とも高い親和性も有し、カーボンブラックを効率的に分散させる観点から、ヒドラジド化合物が好ましい。
カーボンブラック分散剤として用いるヒドラジド化合物は、特に限定されないが、下記式(I)又は式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
ここで、上記式(I)中、Aは、芳香族環、置換されているか置換されていないヒダントイン環、及び炭素数1~18の飽和又は不飽和直鎖状炭化水素からなる群より選択される少なくとも1種である。
Xは、下記式(I’)で表される基、ヒドロキシ基、及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0031】
【化2】
【0032】
また、上記式(I)及び上記式(I’)中、R~Rは、水素原子、炭素数1~18の直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、及び芳香族環からなる群より選択され、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0033】
【化3】
【0034】
ここで、上記式(II)中、R~Rは、炭素数1~18の直鎖状又は分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基からなる群より選択される少なくとも1種であり、これらの基は、O、S、又はN原子を含んでもよい。
【0035】
上記式(I)で表される化合物としては、具体的に、N,N-ジ(1-メチルエチリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N,N-ジ(1-メチルプロピリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N,N-ジ(1,3-ジメチルブチリデン)イソフタル酸ジヒドラジド、N′-(1-メチルエチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(1-メチルプロピリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(1-メチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(1,3-ジメチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、及びN′-(2-フリルメチレン)サリチル酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0036】
また、上記式(II)で表される化合物としては、具体的に、1-ヒドロキシ-N′-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(1-メチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(2-フリルメチレン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1-メチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、及び3-ヒドロキシ-N′-(2-フリルメチレン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0037】
上記式(I)又は式(II)で表される化学物は、原料となる3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸ヒドラジド等と、アセトン、メチルイソブチルケトン等とを加温して反応させることにより容易に合成することができる。
【0038】
上記式(I)又は式(II)で表される化学物は、合成の容易性及びコスト面とカーボンブラックを効率的に分散させる観点から、上述した式(I)の具体例の中でも、N′-(1-メチルエチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(1-メチルプロピリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(1,3-ジメチルブチリデン)サリチル酸ヒドラジド、N′-(2-フリルメチレン)サリチル酸ヒドラジドが好ましい。
また、上述した式(II)の具体例の中でも、1-ヒドロキシ-N′-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、1-ヒドロキシ-N′-(2-フリルメチレン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1-メチルエチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1-メチルプロピリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N′-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド、及び3-ヒドロキシ-N′-(2-フリルメチレン)-2-ナフトエ酸ヒドラジドが好ましい。
上記式(I)又は式(II)で表される化合物は、単独で用いてもよく、或いは2種以上を併用してもよい。
【0039】
ゴム組成物中のヒドラジド化合物の含有量は、分子内官能基が、カーボンブラックとの高い親和性を有し、かつゴム成分とも高い親和性も有し、カーボンブラックを効率的に分散させる観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.1~2.5質量部であることが好ましく、0.1~2質量部がより好ましく、0.5~2質量部が更に好ましい。
上記ヒドラジド化合物の含有量が、上記範囲にある場合には、カーボンブラックを効率的に分散させる効果が発揮され易い。
【0040】
[架橋剤]
タイヤトレッド用ゴム組成物中には、架橋剤を含有させることが好ましい。
架橋剤としては、例えば、硫黄系架橋剤(加硫剤)、有機過酸化物系架橋剤、無機架橋剤、ポリアミン架橋剤樹脂架橋剤、及びオキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、硫黄系架橋剤(加硫剤)が好ましく、硫黄がより好ましい。
架橋剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ゴム組成物中の架橋剤の含有量は、架橋が十分に進行すると共に、混練り中の架橋を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部が更に好ましい。
【0041】
[その他の成分]
タイヤトレッド用ゴム組成物は、上述した成分の他に、必要に応じて、加硫促進剤、ワックス、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、及び着色防止剤等を適宜用い、目的に応じた量を含有させることができる。
【0042】
[タイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤ]
上述したように、タイヤトレッド用ゴム組成物は、天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分と、当該ゴム成分100質量部に対して合計含有量が2質量部以上13質量部未満の、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される1つと、カーボンブラックを含む充填材と、カーボンブラック分散剤と、必要に応じてその他の成分とを含有する。
そして、タイヤトレッド用ゴム組成物を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー、及びニーダー等の混練機を用いて混練することにより、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製する。なお、混練機による、混練温度、及び混練時間等の混練条件は、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明のタイヤは、上述したように本発明で特定するタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッド部の構造に用いたものである他は、特に制限されず、トレッド部以外の構造については、既知の構造を採用することができる。
また、本発明のタイヤの製造方法についても特に制限されず、通常の方法で製造することができる。
一例としては、ドラムの上にインナーライナー、カーカス、ビード部、及びベルト等の通常タイヤの製造に用いられる部材を順次貼り重ね、更にその上に本発明で特定するタイヤトレッド用ゴム組成物を用いて構成されるトレッド部を貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。
次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱し、加硫することにより、所望のタイヤを製造することができる。
【実施例
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1~13、及び比較例1~9]
下記表1及び表2に示す配合処方に従い、バンバリーミキサーで混練して、実施例1~13、及び比較例1~9のゴム組成物をそれぞれ調製し、航空機用ラジアルタイヤ(サイズ:50×20.0R22_32PR)を製造する。
【0045】
[評価方法]
(1)凝集塊の測定
上記のようにして製造されるタイヤを、タイヤ円周方向に直交する方向に裁断し、ASTM D7723に準拠したディスパーグレーダーにより裁断面の凝集塊の存在量を測定する。
ディスパーグレーダーの解像度は3μmを選択するが、解像度以上の大きさの凝集塊が存在した部分は、凝集塊の大きさに応じた面積を有するWhite Areaとして観測する。
単位面積中、White Areaの占める面積の百分率による割合を、White Area%とする。
なお、32μm以上の凝集塊の占める面積の百分率による割合とは、(White Area%)×(粒径32μm以上のWhite area積算値)/(粒径3~57μmのWhite area積算値)を指していう。
【0046】
(2)耐摩耗性試験
上記のようにして製造される航空機用ラジアルタイヤのセンターリブから、厚さ5mmの板形状のゴム板を切り出して各試験片を作製する。
JIS K 6264-1993に準拠し、試験片表面の最高温度が220±10℃となる下記条件でランボーン摩耗試験を行い、各試験片の摩耗量をそれぞれ測定する。
試験片寸法:直径×厚さ=49.0mm×5.0mm
試験片回転速度:200rpm
試験路面回転速度:20rpm
試験荷重:7kgf
試験時間:16秒
雰囲気温度:25℃
比較例7の耐摩耗性指数を100とし、下記式により、各試験片の摩耗量および比較例7の試験片の摩耗量を代入し、各試験片の耐摩耗性指数をそれぞれ算出する。
耐摩耗性指数=(比較例7の試験片の摩耗量/その他試験片の摩耗量)×100
この耐摩耗性指数が大きいほど、タイヤは耐摩耗性に優れると評価できる。
【0047】
(3)耐亀裂性試験
上記のようにして製造される航空機用ラジアルタイヤのセンターリブから、厚さ2mmの板状のシートを切り出して各試験片を作製する。
試験片の中央部に0.5mmの傷を入れ、試験片の両端を掴み、下記条件下で破断試験を行い、各試験片が破断するまでの回数をそれぞれ測定する。
試験片の形状:JIS5号ダンベル状
標点間距離:30.0mm
試験応力:1.5N(最大)、0N(最小)
周波数:5Hz
雰囲気温度:80℃
比較例7の耐亀裂性指数を100とし、下記式により、各試験片の破断回数および比較例7の試験片の破断回数をそれぞれ代入し、各試験片の耐亀裂性指数をそれぞれ算出する。
耐亀裂性指数=(比較例7の試験片が破断するまでの回数/その他試験片が破断するまでの回数)×100
この耐亀裂性指数が小さいほど、タイヤは耐亀裂性に優れると評価できる。
【0048】
(4)耐発熱性試験
上記のようにして製造される航空機用ラジアルタイヤを、ホイールのリムに装着し、これをドラム試験機に取り付け、試験開始時の内圧を1530kPa、試験開始時の荷重を20870kgとし、下記に示す速度条件及び荷重条件を経た後の温度上昇量(℃)を測定する。
<速度条件>
速度条件を試験開始時0km/hから、65秒で360km/hとなるように加速させる。
<荷重条件>
荷重条件を航空機の離陸を想定し、試験開始から65秒後で荷重を0とする。
なお、温度上昇量(℃)の測定は、タイヤのショルダー部の幅方向の中央部にて深さ20mmの位置で行う。
この温度上昇量(℃)が小さいほど、タイヤは耐発熱性に優れると評価できる。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
上記表1及び表2中の*1~*15は下記のとおりである。
*1 天然ゴム:RSS#3
*2 ブタジエンゴム:宇部興産社製、商品名「UBE POL-150L」
*3 カーボンブラック:Cabot社製、商品名「VULCAN 6 SHOBLACK」
*4 シリカ1:エボニック社製、商品名「ULTRASIL 9500GR」、CTAB;220m/g
*5 シリカ2:以下に示す合成例1で得るシリカ、CTAB;191m/g、BET表面積;245m/g
*6 シリカ3:東ソー・シリカ社製、商品名「ニプシールAQ」、CTAB;165m/g、BET表面積;195m/g
*7 シリカ4:以下に示す合成例2で得るシリカ、CTAB;79m/g
*8 ヒドラジド化合物:3-ヒドロキシ-N’-(1,3-ジメチルブチリデン)-2-ナフトエ酸ヒドラジド
*9 シランカップリング剤:信越化学工業社製、商品名「ABC-856」、ビストリエトキシシリルプロピルポリスルフィド
*10 老化防止剤:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」
*11 老化防止剤(TMDQ):精工化学社製、商品名「ノンフレックスRD」
*12 ワックス:精工化学社製、商品名「サンタイトA」
*13 加硫促進剤(CBS):三新化学社製、商品名「サンセラーCM-G」
*14 脂肪酸量とは、脂肪酸亜鉛の脂肪酸成分も含む
*15 加硫促進助剤とは、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛の合計含有量
*16 脂肪酸亜鉛:ラインケミー社製、商品名「アクチプラストPP」(主成分はオレイン酸亜鉛塩、パルミチン酸亜鉛塩)
【0052】
(合成例1)シリカ2
撹拌機を備える180Lのジャケット付きステンレス反応槽に、水89L及びケイ酸ナトリウム水溶液(SiO160g/L、SiO/NaOモル比3.3)1.70Lを入れ、75℃に加熱する。生成される溶液中のNaO濃度は0.015mol/Lとなる。
この溶液の温度を75℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を流量520mL/分で、硫酸(18mol/L)を流量23mL/分で、同時に滴下する。流量を調整しつつ、反応溶液中のNaO濃度を0.005~0.035mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行う。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、46分経過時に粘度が上昇してゲル状溶液となる。さらに、添加を続けて100分で反応を停止した。生じた溶液中のシリカ濃度は60g/Lとなる。引き続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得る。得られるケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行って湿潤ケーキを得る。次いで湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し、シリカ2を得る。
【0053】
(合成例2)シリカ4
撹拌機を備える180Lのジャケット付きステンレス反応槽に、水65L及びケイ酸ナトリウム水溶液(SiO160g/L、SiO/NaOモル比3.3)1.25Lを入れ、96℃に加熱する。生成される溶液中のNaO濃度は0.015mol/Lとなる。
この溶液の温度を96℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を流量750mL/分で、硫酸(18mol/L)を流量33mL/分で、同時に滴下する。流量を調整しつつ、反応溶液中のNaO濃度を0.005~0.035mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行う。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、30分経過時に粘度が上昇してゲル状溶液となる。さらに、添加を続けて100分で反応を停止する。生じた溶液中のシリカ濃度は85g/Lとなる。引き続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得る。得られるケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行って湿潤ケーキを得る。次いで湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し、シリカ4を得る。
【0054】
(結果のまとめ)
表1及び表2に記載されている評価結果より、以下のことが分かる。
比較例1~4のタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物中の天然ゴムの含有量が、特定の範囲未満であることに起因し、耐亀裂性及び耐摩耗性に劣り、耐発熱性試験における温度上昇量が比較的高くなる傾向が示されている。
また、比較例5、6、8、9のタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物中の酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛の合計量が特定の範囲外であることに起因し、耐亀裂性及び耐摩耗性に劣り、耐発熱性試験における温度上昇量が比較的高くなる傾向が示されている。
また、比較例7のタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物にカーボンブラック分散剤を含有しないことに起因し、耐亀裂性及び耐摩耗性に劣ることが示されている。
【0055】
これに対して、実施例1~13のタイヤは、タイヤトレッド用ゴム組成物に天然ゴムを特定量以上含有し、且つ、酸化亜鉛、脂肪酸、及び脂肪酸亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの合計量を特定量含有し、且つ、カーボンブラック分散剤を含有することに起因し、耐亀裂性、耐摩耗性、及び耐発熱性に優れることが示されている。