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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】容量制御弁及び容量制御弁の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/18 20060101AFI20221108BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
F04B27/18 A
F04B27/18 B
F16K31/06 385A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019562060
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047693
(87)【国際公開番号】W WO2019131693
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017252351
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】葉山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 義博
(72)【発明者】
【氏名】白藤 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】江島 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大千
(72)【発明者】
【氏名】高橋 渉
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095463(JP,A)
【文献】特開2009-275550(JP,A)
【文献】特開2008-157031(JP,A)
【文献】特開2007-247512(JP,A)
【文献】特開2005-307817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/18
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ部の弁開度に応じて容量可変型圧縮機の流量又は圧力を制御する容量制御弁であって、
第1圧力の流体を通す第1連通路、前記第1連通路に隣接配置され第2圧力の流体を通す第2連通路、第3圧力の流体を通す第3連通路、及び、前記第2連通路と前記第3連通路とを連通する弁孔に配設される主弁座を有するバルブ本体と、
補助弁座を有するロッドを駆動するソレノイドと、
前記第1連通路と前記第3連通路とを連通する中間連通路、前記主弁座と離接し前記弁孔を開閉する主弁部、及び、前記補助弁座と離接して前記中間連通路を開閉する補助弁部を有する弁体と、
前記主弁部の閉弁方向に付勢する第1付勢部材と、を備え、
前記第1付勢部材は、前記ロッドの外周から前記弁体の内周にかけて配設され、前記第1付勢部材には、前記中間連通路を連通する連通路が形成されており、
前記第1付勢部材のバネ定数は、前記主弁部が開弁状態で大きく、閉弁状態で小さくなる特性を有することを特徴とする容量制御弁。
【請求項2】
前記第1付勢部材は前記ロッドと前記弁体との間に配設されることを特徴とする請求項1に記載の容量制御弁。
【請求項3】
前記ソレノイドは、前記ロッドに接続されるプランジャ、前記プランジャと前記バルブ本体の間に配置されるコア、電磁コイル、及び、前記プランジャと前記コアとの間に配設される第2付勢部材をさらに備えることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の容量制御弁。
【請求項4】
前記第1圧力は前記容量可変型圧縮機の吸入圧力、前記第2圧力は前記容量可変型圧縮機の吐出圧力、前記第3圧力は前記容量可変型圧縮機のクランク室の圧力であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の容量制御弁。
【請求項5】
前記第1圧力は前記容量可変型圧縮機のクランク室の圧力、前記第2圧力は前記容量可変型圧縮機の吐出圧力、前記第3圧力は前記容量可変型圧縮機の吸入圧力であることを特徴とする請求項1ないしいずれかに記載の容量制御弁。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかに記載の容量制御弁を使用して、
前記補助弁部が開状態のときに、前記主弁部を閉状態から開状態にすることを特徴とする容量制御弁の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量可変型圧縮機の流量又は圧力を制御するために使用される容量制御弁及び容量制御弁の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容量可変型圧縮機として、たとえば自動車等の空調システムに用いられる斜板式容量可変型圧縮機は、エンジンの回転力により回転駆動される回転軸、回転軸に対して傾斜角度を可変に連結された斜板、斜板に連結された圧縮用のピストン等を備え、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストロークを変化させて冷媒の吐出量を制御するものである。
【0003】
この斜板の傾斜角度は、冷媒を吸入する吸入室の吸入圧力、ピストンにより加圧した冷媒を吐出する吐出室の吐出圧力、斜板を収容した制御室(クランク室)の制御室圧力を利用しつつ、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、制御室内の圧力を適宜制御し、ピストンの両面に作用する圧力のバランス状態を調整することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0004】
このような容量制御弁の例を図6に示す。容量制御弁160は、圧縮機の吐出室と第2連通路173を介して連通する第2弁室182、吸入室と第1連通路171を介して連通する第1弁室183、制御室と第3連通路174を介して連通する第3弁室184を有するバルブ部170と、第3弁室内に配置されて周囲の圧力によって伸縮するとともに伸縮方向の自由端に設けられた弁座体180を有する感圧体178と、第2弁室182と第3弁室184を連通する弁孔177を開閉する第2弁部176、第1連通路171と流通溝172を開閉する第1弁部175、及び第3弁室184にて弁座体180との係合及び離脱により第3弁室184と流通溝172を開閉する第3弁部179を有する弁体181と、弁体181に電磁駆動力を及ぼすソレノイド部190等を備えている。
【0005】
そして、この容量制御弁160では、容量可変型圧縮機にクラッチ機構を設けなくても、制御室圧力を変更する必要が生じた場合には、吐出室と制御室とを連通させて制御室内の圧力(制御室圧力)Pc、吸入圧力Ps(吸入圧力)を制御できるようにしたものである(以下、「従来技術」という。例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5167121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、斜板式容量可変型圧縮機を長時間停止させた場合、制御室(クランク室)には液冷媒(放置中に冷却されて冷媒が液化したもの)が溜まるため、この状態で圧縮機を起動しても設定とおりの吐出量を確保することができない。このため、起動直後から所望の容量制御を行うには、制御室(クランク室)の液冷媒をできるだけ素早く排出させる必要がある。
【0008】
そこで、図7に示すように、従来の容量制御弁160においては起動時に制御室(クランク室)の液冷媒をできるだけ素早く排出させるために液冷媒排出機能を備えている。すなわち、容量可変型圧縮機を停止して、長時間放置した後に起動させようとした場合に、制御室(クランク室)に溜まった高圧の液冷媒が、第3連通路174から第3弁室184へ流入する。すると、感圧体178は収縮して第3弁部179と弁座体180との間が開弁して、第3弁室184から補助連通路185、連通路186及び流通溝172を通じて、液冷媒を制御室(クランク室)から吸入室を介して吐出室に排出して急速に気化させ、短時間で冷房運転状態とすることができるようになっている。
【0009】
しかしながら、上記の従来技術では、液冷媒排出過程の初期においては、制御室の圧力も高いため第3弁部179の開度も大きく液冷媒を効率良く排出できる。しかし、液冷媒の排出が進み制御室の圧力が低下するにつれて第3弁部の開度が小さくなるため、液冷媒の排出に時間を要してしまうという問題があった。
【0010】
また、従来、液冷媒排出運転時においては、いかに短時間で液冷媒の排出を完了する点にのみ着目されていたため、液冷媒排出運転時においてエンジン負荷を低減させる制御は行われていなかった。しかし、エンジン負荷が高いときに液冷媒排出運転を行うと、エンジン負荷がさらに高まり、自動車全体のエネルギー効率を低下させてしまうという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決するためになされたものであって、バルブ部の弁開度に応じて容量可変型圧縮機の流量又は圧力を制御する容量制御弁において、制御時において主弁部の開度を安定して制御し、吸入室の圧力に関わらず液冷媒を効率良く排出して短時間で冷房運転に移行でき、さらには液冷媒排出運転において圧縮機の駆動力を低下させることができる容量制御弁及び容量制御弁の制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の容量制御弁は
バルブ部の弁開度に応じて容量可変型圧縮機の流量又は圧力を制御する容量制御弁であって、
第1圧力の流体を通す第1連通路、前記第1連通路に隣接配置され第2圧力の流体を通す第2連通路、第3圧力の流体を通す第3連通路、及び、前記第2連通路と前記第3連通路とを連通する弁孔に配設される主弁座を有するバルブ本体と、
補助弁座を有するロッドを駆動するソレノイドと、
前記第1連通路と前記第3連通路とを連通する中間連通路、前記主弁座と離接し前記弁孔を開閉する主弁部、及び、前記補助弁座と離接して前記中間連通路を開閉する補助弁部を有する弁体と、
前記主弁部の閉弁方向に付勢する第1付勢部材と、を備え、
前記第1付勢部材のバネ定数は、前記主弁部が開弁状態で大きく、閉弁状態で小さくなる特性を有することを特徴としている。
この特徴によれば、第1付勢部材に作用する荷重が小さくなる主弁部の開弁状態では、バネ定数は大きくなるので、第1付勢部材はほとんど変形しない。このためロッドと弁体は相対位置を保った状態で一体的に変位するので、容量制御弁は安定して主弁部の開度を制御することができる。また、第1付勢部材に作用する荷重が大きくなる主弁部の閉弁状態では、第1付勢部材のバネ定数は小さくなるので、ソレノイド30の出力を過度に高めることなくロッドは第1付勢部材を容易に変形させて補助弁部を強制的に開弁できる。これにより、液冷媒排出において、補助弁部の開度を全開状態に維持して吸入室の圧力に関わらず液冷媒を効率良く排出できる。
【0013】
本発明の容量制御弁は、
前記第1付勢部材は前記ロッドと前記弁体との間に配設されることを特徴としている。
この特徴によれば、ロッドと弁体との間に配設される第1付勢部材を介してソレノイドの駆動力を主弁部の閉弁方向に伝達して確実に閉弁させることができる。
【0014】
本発明の容量制御弁は、
前記第1付勢部材は前記中間連通路を連通する連通部を有することを特徴としている。
この特徴によれば、中間連通路を流れる冷媒は連通路によって冷媒の流れが阻害されることがない。
【0015】
本発明の容量制御弁は、
前記ソレノイドは、前記ロッドに接続されるプランジャ、前記プランジャと前記バルブ本体の間に配置されるコア、電磁コイル、及び、前記プランジャと前記コアとの間に配設される第2付勢部材をさらに備えることを特徴としている。
この特徴によれば、プランジャとコアとの間に配設される第2付勢部材によって、弁体を主弁部の開弁方向に確実に付勢することができる。
【0016】
本発明の容量制御弁は、
前記第1圧力は前記容量可変型圧縮機の吸入圧力、前記第2圧力は前記容量可変型圧縮機の吐出圧力、前記第3圧力は前記容量可変型圧縮機のクランク室の圧力であり、また、
前記第1圧力は前記容量可変型圧縮機のクランク室の圧力、前記第2圧力は前記容量可変型圧縮機の吐出圧力、前記第3圧力は前記容量可変型圧縮機の吸入圧力であることを特徴としている。
この特徴によれば、様々な容量可変型圧縮機に対応することができる。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の容量制御弁の制御方法は、
前記補助弁部が開状態のときに、前記主弁部を閉状態から開状態にすることを特徴としている。
この特徴によれば、液冷媒排出時に弁体に感圧体の付勢力が作用しない状態で主弁部を開弁させ、吐出室から制御室への流量を増加させて圧縮機の負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る容量制御弁の正面断面図である。
図2図1のバルブ本体、弁体及びソレノイドの一部の拡大図で、ソレノイドOFF時の容量制御弁を示す。
図3図1のバルブ本体、弁体及びソレノイドの一部の拡大図で、容量制御弁の制御状態を示す。
図4図1のバルブ本体、弁体及びソレノイドの一部の拡大図で、容量制御弁の液冷媒排出時の状態を示す。
図5】第1付勢部材を示す図である。
図6】従来の容量制御弁示す正面断面図である。
図7】従来の容量制御弁で、液冷媒排出時の容量制御弁の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的な位置などは、特に明示的な記載がない限り、それらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
図1ないし図5を参照して、本発明に係る容量制御弁について説明する。図1において、1は容量制御弁である。容量制御弁1は、バルブ本体10、弁体20、感圧体24及びソレノイド30から主に構成される。
【0021】
以下、図1及び図2を参照して容量制御弁1のそれぞれの構成要素について説明する。バルブ本体10は、真鍮、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属又は合成樹脂材等で構成される。バルブ本体10は軸方向へ貫通する貫通孔を有する中空円筒状の部材で、貫通孔の区画には第1弁室14、第1弁室14に隣接する第2弁室15、第2弁室15に隣接する第3弁室16が連続して配設される。
【0022】
第2弁室15には第2連通路12が連設される。この第2連通路12は、容量可変型圧縮機の吐出室内(図示省略)に連通して吐出圧力Pd(本発明に係る第2圧力)の流体が容量制御弁1の開閉によって第2弁室15から第3弁室16に流入できるように構成される。
【0023】
第3弁室16には第3連通路13が連設される。第3連通路13には、容量可変型圧縮機の制御室(図示省略)と連通しており、容量制御弁1の開閉によって第2弁室15から第3弁室16へ流入した吐出圧力Pdの流体を容量可変型圧縮機の制御室(クランク室)へ流出させたり、第3弁室16へ流入した制御室圧力Pc(本発明に係る第3圧力)の流体を後述する中間連通路29を介して第1弁室14を経て容量可変型圧縮機の吸入室へ流出させる。
【0024】
さらに、第1弁室14には第1連通路11が連設される。この第1連通路11は、容量可変型圧縮機の吸入室からの吸入圧力Ps(本発明に係る第1圧力)の流体を後述する中間連通路29を介して感圧体24に導いて、圧縮機の吸入圧力を設定値に制御する。
【0025】
第1弁室14と第2弁室15との間にはこれらの室の径より小径の孔部18が連続して形成され、この孔部18には後述するラビリンス21fが形成され、第1弁室14と第2弁室15との間をシールするシール部を形成する。また、第2弁室15と第3弁室16との間にはこれらの室の径より小径の弁孔17が連設され、第2弁室15側の弁孔17の周りには主弁座15aが形成される。この主弁座15aは後述する主弁部21cと離接して第2連通路12と第3連通路13とを連通するPd-Pc流路を開閉制御する。
【0026】
第3弁室16内には感圧体24が配設される。この感圧体24は、金属製のベローズ24aの一端部が仕切調整部24fに密封状に結合される。このベローズ24aは、リン青銅、ステンレス等により製作するが、そのばね定数は所定の値に設計されている。感圧体24の内部空間は真空又は空気が内在している。そして、この感圧体24のベローズ24aの有効受圧面積に対し、圧力が作用して感圧体24を伸縮作動させるように構成されている。感圧体24の自由端部側にはフランジ部24dが配設される。このフランジ部24dは後述するロッド36の係止部26によって直接押圧されることによって感圧体24は伸縮する。すなわち、感圧体24は、後述するように、中間連通路29を介して感圧体24に導かれた吸入圧力Psに応じて伸縮するとともに、ロッド36の押圧力によって伸縮する。
【0027】
感圧体24の仕切調整部24fは、バルブ本体10の第3弁室16を塞ぐように密封嵌着、固定される。なお、仕切調整部24fはねじ込みにして止めねじ(図示省略)により固定すれば、ベローズ24a内に並列に配置した圧縮ばね又はベローズ24aのばね力を軸方向へ移動調整できるようになる。
【0028】
なお、第1連通路11、第2連通路12、第3連通路13は、バルブ本体10の周面に各々、例えば、2等配から6等配に貫通している。さらに、バルブ本体10の外周面にはOリング用の取付溝が軸方向に離間して3カ所に設けられる。そして、この各取付溝には、バルブ本体10と、バルブ本体10と嵌合するケーシングの装着孔(図示省略)との間をシールするOリング47、48、49が取り付けられ、第1連通路11、第2連通路12、第3連通路13の各流路は独立した流路として構成される。
【0029】
つぎに弁体20について説明する。弁体20は中空円筒状の部材からなる主弁体21及びアダプタ23から主に構成される。最初に主弁体21について説明する。主弁体21は中空の円筒部材で、その外周部の軸方向の略中央部にはラビリンス21fが形成される。主弁体21はバルブ本体10内に挿入され、ラビリンス21fは第1弁室14側と第2弁室15側との間の孔部18と摺動して第1弁室14と第2弁室15とをシールするシール部を形成する。これにより、第1連通路11に連通する第1弁室14と第2連通路12に連通する第2弁室15とは独立した弁室として構成される。
【0030】
主弁体21は、ラビリンス21fを挟んで第1連通路11側と第2連通路12側に配置される。第2連通路12側に配置される主弁体21の端部には主弁部21cが形成され、主弁部21cは主弁座15aと離接して第2弁室15と第3弁室16とを連通する弁孔17を開閉制御する。主弁部21cと主弁座15aが主弁27bを構成する。ここで、主弁部21cと主弁座15aが接触状態から離間状態になることを主弁27bが開弁する又は主弁部21cが開弁するといい、主弁部21cと主弁座15aが離間状態から接触状態になることを主弁27bが閉弁する又は主弁部21cが閉弁するという。また、第1弁室14に配置される主弁体21の端部には遮断弁部21aが形成される。遮断弁部21aは後述するソレノイド30がOFFのときコア32の端部32cと接触して、中間連通路29と第1弁室14との連通を遮断する。遮断弁部21aとコア32の端部32cが遮断弁27aを構成する。弁体20の遮断弁部21aと主弁部21cは互いに逆向きに開閉動作を行うように形成されている。なお、遮断弁部21aとコア32の端部32cが接触状態から離間状態になることを遮断弁27aが開弁する又は遮断弁部21aが開弁するといい、遮断弁部21aとコア32の端部32cが離間状態から接触状態になることを遮断弁27aが閉弁する又は遮断弁部21aが閉弁するという。
【0031】
つぎに、弁体20を構成するアダプタ23について説明する。アダプタ23は中空の円筒部材で大径に形成された大径部23cと、大径部23cより小径に形成される筒部23eとから主に構成される。筒部23eは主弁体21の主弁部21c側の開放端部と嵌合され弁体20が構成される。これにより主弁体21とアダプタ23の内部、すなわち弁体20の内部には軸方向に貫通する中間連通路29が形成される。また、アダプタ23の大径部23cには補助弁部23dが形成され、補助弁部23dはロッド36の係止部26の補助弁座26cと接触、離間して、第1連通路11と第3連通路13を連通する中間連通路29を開閉する。補助弁部23dと補助弁座26cが補助弁27cを構成する。ここで、補助弁部23dと補助弁座26cが接触状態から離間状態になることを補助弁27cが開弁する又は補助弁部23dが開弁するといい、補助弁部23dと補助弁座26cが離間状態から接触状態になることを補助弁27cが閉弁する又は補助弁部23dが閉弁するという。
【0032】
つぎに、ソレノイド30について説明する。ソレノイド30は、ロッド36、プランジャケース38、電磁コイル31、センターポスト32aとベース部材32bとからなるコア32、プランジャ35、プレート34及びソレノイドケース33を備える。プランジャケース38は一方が開放された有底状の中空円筒部材である。プランジャ35は、プランジャケース38とプランジャケース38の内部に配置されるセンターポスト32aとの間でプランジャケース38に対して軸方向に移動自在に配置される。コア32はバルブ本体10と嵌合され、プランジャ35とバルブ本体10との間に配置される。ロッド36はコア32のセンターポスト32a及びバルブ本体10内に配置される弁体20を貫通して配置され、ロッド36はコア32のセンターポスト32aの貫通孔32e及び弁体20の中間連通路29と隙間を有し、コア32及び弁体20に対し相対移動できるようになっている。そして、ロッド36の一方の端部36eはプランジャ35に接続され、他方の端部の押圧部36hには係止部26が接続されている。
【0033】
ここで、ロッド36の一部を構成する係止部26について説明する、係止部26は円板状の部材で、基部26aと基部26aから軸方向の両側に鍔部が形成される。鍔部のうち一方はアダプタ23の補助弁部23dと離接する補助弁座26cとして機能し、他方は感圧体24のフランジ部24dと離接して感圧体24を伸縮させる押圧部26dとして機能する。また、係止部26の基部26aには冷媒が流通する流通孔26fが形成されている。なお、係止部26はロッド36と一体に構成してもよいし、係止部26をロッド36に嵌合、固定して一体に構成してもよい。
【0034】
また、コア32とプランジャ35との間には、プランジャ35をコア32から離間するように付勢するスプリング37(本発明係る第2付勢部材)が配置されている。これにより、スプリング37の付勢力は、弁体20の主弁部21cを開弁させる方向に作用する。
【0035】
また、コア32のベース部材32bの内周部にはプランジャケース38の開放端部が密封状に固定され、ベース部材32bの外周部にはソレノイドケース33が密封状に固定される。そして、電磁コイル31はプランジャケース38、コア32のベース部材32b及びソレノイドケース33によって囲まれる空間に配置され、冷媒と接触することがないので絶縁抵抗の低下を防止することができる。
【0036】
つぎに、サラバネ43(本発明に係る第1付勢部材)について説明する。図5の示すようにサラバネ43は円錐状の円板で、中心部にロッド36の外径より大きい孔43dを有し、孔43dはサラバネ43の中心に向かって延設される複数の凸部が形成されている。隣接する凸部の間は、冷媒が流れる連通路43cとして機能し、サラバネ43とロッド36が接触した状態であっても、冷媒は連通路43cを流れるので、流れが阻害されることがない。
【0037】
サラバネ43はソレノイド30と弁体20との間に配設される。具体的にはサラバネ43の一端は、コア32の端部32cとほぼ同じ位置に形成されたロッド36の段付き部36fに接触し、他端が弁体20の中間連通路29側に形成された内側段付き部21hに接触する。また、サラバネ43は、付与される荷重が小さいときはサラバネ43のバネ定数は大きく、荷重が大きいときはサラバネ43のバネ定数は小さくなる非線形のバネ定数を有している。
【0038】
以上説明した構成を有する容量制御弁1の動作を説明する。なお、第3連通路13から中間連通路29を通り第1連通路11へ至る流路を、以下「Pc-Ps流路」と記す。また、第2連通路12から弁孔17を通り第3連通路13へ至る流路を、以下「Pd-Pc流路」と記す。
【0039】
最初にロッド36の動きと弁体20の各弁部の動きについて説明する。まず、ソレノイド30の非通電状態においては、図1及び図2に示すように感圧体24の付勢力とスプリング37(図1)の付勢力によりロッド36は上方に押し上げられ、ロッド36の係止部26と接触するアダプタ23が上方に押圧されて主弁部21cが全開し、遮断弁部21aがコア32の端部32cに接触して遮断弁部21aは全閉となる。なお、ソレノイド30の非通電状態においては、サラバネ43に作用する荷重はほぼゼロであり、皿ばねのたわみ量もゼロである。
【0040】
つぎに、図3に示すように、ソレノイド30が非通電状態から通電を開始すると、ロッド36を進み方向(ロッド36がコア32の端部32cから外側へ飛び出す方向)に徐々に駆動される。このとき、弁体20はサラバネ43を介して図3の下方に押圧され、感圧体24はロッド36の係止部26に押圧される。これにより、遮断弁部21aはコア32の端部32cから離間して遮断弁27aは全閉状態から開弁し、主弁27bは全開状態から徐々に絞られる。なお、主弁27bが開弁状態では、サラバネ43に作用する荷重は小さく、サラバネ43のバネ定数は大きい。このため、サラバネ43はほとんど変形することがないので、ロッド36は弁体20に対して相対変位することなく、弁体20とロッド36は一体的に変位するので、容量制御弁1は安定して主弁27bの開度を制御することができる。
【0041】
さらにロッド36を進み方向に駆動すると、図4に示すように遮断弁27aは全開状態となり、主弁部21cは主弁座15aと接触して主弁27bは全閉状態となり、弁体20の動きは停止する。主弁27bは全閉状態、すなわち弁体20が停止して状態でロッド36を進み方向に駆動すると、サラバネ43に大きな荷重が作用し、サラバネ43のバネ定数が低下する。これにより、ソレノイド30は駆動力を出力することなく、サラバネ43を変形させることができるので、ロッド36は容易に弁体20(主弁体21及びアダプタ23)に対して相対移動し、アダプタ23の補助弁部23dから係止部26の補助弁座26cを離間させ補助弁27cを開弁することができる。さらにロッド36を駆動すると、サラバネ43がさらに変形して係止部26の押圧部26dがフランジ部24dを押圧して感圧体24を収縮させ、補助弁27cを全開状態にすることができる。そして、感圧体24が所定量縮むとフランジ部24dの凸部24hと仕切調整部24fに設けられた凸部(図示せず)とが接触して感圧体24の変形が停止するとともに、ロッド36の移動も停止する。
【0042】
つぎに容量制御弁1の制御状態について図3に基づいて説明する。制御状態は、補助弁27cが閉状態で、主弁27bの開度をあらかじめ決められた開度にセットし、容量可変型圧縮機の吸入室の圧力が設定値Psetになるように制御される状態である。この状態で、容量可変型圧縮機の吸入室から第1連通路11を通り第1弁室14へ流れた吸入圧力Psの流体は中間連通路29を通り、ロッド36の係止部26及び感圧体24によって囲まれた内部空間28に流れ、感圧体24に作用する。その結果、主弁部21cはサラバネ43による閉弁方向の力と、スプリング37の開弁方向の力と、ソレノイド30による力と、吸入圧力Psに応じて伸縮する感圧体24による力とが釣り合った位置で停止し、容量可変型圧縮機の吸入室の圧力が設定値Psetになるように制御される。しかし、主弁27bの開度をあらかじめ決められた開度にセットしても、吸入室の圧力Psが外乱などにより設定値Psetに対して変動する場合がある。たとえば、吸入室の圧力Psが外乱などにより設定値Psetより高くなると、感圧体24が縮み、主弁27b開度が小さくなる。これにより、Pd-Pc流路が絞られるので、吐出室からクランク室へ流れ込む吐出圧力Pdの冷媒量が減少してクランク室の圧力が低下する結果、圧縮機の斜板の傾斜角度が大きくなり、圧縮機の吐出容量が増加し、吐出圧力を低下させる。逆に、吸入室の圧力Psが設定値Psetより低くなると、感圧体24が伸び、主弁27b開度が大きくなる。これにより、Pd-Pc流路が大きくなるので、吐出室からクランク室へ流れ込む吐出圧力Pdの冷媒量が増加してクランク室の圧力が上昇する結果、圧縮機の斜板の傾斜角度が小さくなり、吐出容量を減少させ、吐出圧力を上昇させる。このように容量制御弁1によって、容量可変型圧縮機の吸入室の圧力を設定値Psetになるように制御することができる。
【0043】
つぎに、容量制御弁1の液冷媒排出状態について図4に基づいて説明する。圧縮機を長時間停止後にクランク室に液冷媒(放置中に冷却されて冷媒が液化したもの)が溜まるため、圧縮機を起動してから所定の吐出圧、吐出流量を確保するため、できるだけ早く液冷媒を排出する必要がある。液冷媒排出時においては、クランク室に連通する第3弁室16の圧力及び吸入室の圧力Psは高圧となるため感圧体24は縮むとともに、ソレノイド30を進み方向に駆動してロッド36の係止部26によって感圧体24を押圧することによって、補助弁27cを強制的に全開状態にする。これにより、補助弁部23dは全開状態を保つので、液冷媒排出開始から液冷媒排出完了まで補助弁部23dの開度は変化することなくクランク室からPc-Ps流路を経由して吸入室へ液冷媒を短時間で排出することができる。
【0044】
なお、従来、液冷媒排出運転時においては、いかに短時間で液冷媒の排出を完了する点にのみ着目されていたため、液冷媒排出運転の間はエンジン負荷が過大になってしまうこともあった。本発明に係る容量制御弁1は、液冷媒排出時においても弁体20を急速に駆動できるようになっている。液冷媒排出時において、エンジン負荷を低減させるときの容量制御弁1の動作を説明する。
【0045】
液冷媒排出時においてエンジン負荷を急速に低減させる場合には、ソレノイド30をOFFして、コア32とプランジャ35との間の磁気吸引力Fsolがゼロに操作される。弁体20に作用する上向きの圧力と下向きの圧力はキャンセルするよう設定されているので、液冷媒排出時において弁体20に作用する主な力は、主弁27bの開弁方向に作用するスプリング37の付勢力と、主弁27bの閉弁方向に作用するサラバネ43の付勢力及びソレノイド30の磁気吸引力Fsolの合力と、が釣り合っている。ここで、ソレノイド30の磁気吸引力Fsolがゼロになると、主弁27bの開弁方向に作用するスプリング37の付勢力が優勢となりロッド36が上方へ移動するとともに、サラバネ43が自然状態に戻る。この結果、ロッド36は急速に押し上げられ、係止部26がアダプタ23に接触して弁体20は主弁27bの開弁方向に駆動され、主弁27bが急速に全開となる。主弁27bが全開すると、圧縮機の吐出室からPd-Pc流路を通りクランク室へ流れる冷媒量が増加し、クランク室内の圧力Pcが高くなり、圧縮機は最小容量で運転されるようになる。このように、液冷媒排出時のように補助弁27cが開弁状態で、感圧体24から弁体20に力が作用しない状態であっても、圧縮機の負荷を低減でき、延いては液冷媒排出時においもエンジン負荷を低減させることができる。
【0046】
また、容量制御弁1により圧縮機の吸入室の圧力を設定値Psetになるように制御状態において、エンジンの負荷を低減させたい場合にも、上記と同じくソレノイド30を非通電状態とすることにより、主弁27bを全開状態として圧縮機の吐出室からPd-Pc流路を通りクランク室へ流れるPd圧の冷媒量を増加させ、圧縮機を最小容量で運転してエンジンの負荷を低減させる運転を行うことができる。
【0047】
サラバネ43は荷重の小さい状態ではバネ定数が大きく、荷重の大きい状態ではバネ定数が小さくなる非線形特性を有する。これにより、サラバネ43に作用する荷重が小さくい主弁27bの開弁状態では、バネ定数は大きくなるので、サラバネ43はほとんど変形しない。このためロッド36と弁体20は相対位置を保った状態で一体的に変位するので、容量制御弁1は安定して主弁27bの開度を制御することができる。また、サラバネ43に作用する荷重が大きい主弁27bの閉弁状態では、サラバネ43のバネ定数は小さくなるので、ソレノイド30の出力を過度に大きくすることなくロッド36はサラバネ43を大きく変形させて補助弁27cを強制的に開弁できる。これにより、液冷媒排出時において、第3弁室16の圧力及び吸入室の圧力Psに関係なく補助弁27cを全開状態に維持できるので、クランク室からPc-Ps流路を経由して吸入室へ液冷媒を短時間で排出することができる。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0049】
たとえば、上記実施例において、サラバネ43の一端は、ロッド36の段付き部36fに接触し、他端が弁体20の内側段付き部21hに接触していたが、これに限らない。たとえば、図5に示すようにスプリング44の一端をコア32の端部32cに接触させ、他端を弁体20の内側段付き部21hに接触させてもよい。
【0050】
また、上記実施例において、第1弁室14の第1圧力は容量可変型圧縮機の吸入圧力Ps、第2弁室15の第2圧力は容量可変型圧縮機の吐出圧力Pd、第3弁室16の第3圧力は容量可変型圧縮機のクランク室の圧力Pcとしたが、これに限らず、第1弁室14の第1圧力は容量可変型圧縮機のクランク室の圧力Pc、第2弁室15の第2圧力は容量可変型圧縮機の吐出圧力Pd、第3弁室16の第3圧力は容量可変型圧縮機の吸入圧力Psとして、様々な容量可変型圧縮機に対応させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 容量制御弁
10 バルブ本体
11 第1連通路
12 第2連通路
13 第3連通路
14 第1弁室
15 第2弁室
15a 主弁座
16 第3弁室
17 弁孔
20 弁体
21 主弁体
21a 遮断弁部
21c 主弁部
23 アダプタ
23d 補助弁部
24 感圧体
24a ベローズ
24d フランジ部
26 係止部
26c 補助弁座
26d 押圧部
27a 遮断弁
27b 主弁
27c 補助弁
29 中間連通路
30 ソレノイド部
31 電磁コイル
32 コア
35 プランジャ
36 ロッド
37 スプリング(第2付勢部材)
43 サラバネ(第1付勢部材)
Fsol 磁気吸引力
Ps 吸入圧力(第1圧力)(第3圧力)
Pd 吐出圧力
Pc 制御室圧力(第3圧力)(第1圧力)
Pset 吸入圧力設定値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7