(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】微小液滴操作装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20221108BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221108BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221108BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20221108BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
C12M1/00 A
B81B7/02
B01J19/12 C
(21)【出願番号】P 2019570947
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2018066573
(87)【国際公開番号】W WO2018234445
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-24
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521217482
【氏名又は名称】ライトキャスト ディスカバリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIGHTCAST DISCOVERY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヘンリー アイザック
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ クーニャ
(72)【発明者】
【氏名】エオイン シェリダン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ラブ
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ パーマー
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス ジェイ ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ガレス ポッド
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0043343(US,A1)
【文献】特表2005-531409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0044299(US,A1)
【文献】特開2016-153725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0160259(US,A1)
【文献】特表2010-503516(JP,A)
【文献】特開2006-300946(JP,A)
【文献】特表2009-534653(JP,A)
【文献】特開2005-030987(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095577(WO,A1)
【文献】特表2015-527061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/08-12
B81B 1/00
C12M 1/42
C12Q 1/00-70
G01N 35/00、37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1複合壁であり、
第1基板、
前記第1基板上の、70~250nmの厚さを有する第1透明導体層、
前記第1透明導体層上の、300~1000nmの厚さを有し、400~1000nmの波長範囲の電磁照射によって活性化される光活性層
、
前記光活性層上
の第1誘電体層
、及び
前記第1誘電体層上の第1防汚層
を含む第1複合壁と、
第2複合壁であり、
第2基板、
前記第2基板上の、70~250nmの厚さを有する第2導体層
、
前記第2導体層上
の第2誘電体層
、及び
前記第2誘電体層上の第2防汚層
を含む第2複合壁と、
前記第1複合壁及び前記第2複合壁を決められた量だけ離して保持して、微小液滴を含むように適合されるマイクロ流体空間を画定する、1つ以上のスペーサと、
前記第1複合壁及び第2複合壁にわたって、前記第1透明導体層及び第2導体層を接続する
10~50ボルトの電圧を供給する交流電源と、
前記光活性層に衝突させて、前記第1誘電体層の表面上の対応する一過性エレクトロウェッティング箇所を誘起するように適合される光励起層のバンドギャップより高いエネルギを有する少なくとも1つの電磁放射源と、
複数の一過性エレクトロウェッティング箇所の配置を
同時に変えることにより、
複数のエレクトロウェッティング経路を生成し、前記
複数のエレクトロウェッティング経路に沿って
複数の微小液滴
の移動
を同時に操作できるように、前記光活性層上での前記電磁照射の衝突点を操作するマイクロプロセッサと
、
を含み、
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作する装
置。
【請求項2】
前記第2誘電体層上の
前記第2防汚層が疎水性である、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記エレクトロウェッティング経路は、前記装置使用中のある時点において、それぞれ一過性エレクトロウェッティングが行われる、仮想的エレクトロウェッティング箇所の連続体からなる、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電磁放射源は
、ピクセル化されるアレイを含
み、光が、このようなアレイから反射され又はこのようなアレイを透過する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記
一過性エレクトロウェッティング箇所は、前記微小液滴の移動方向に三日月形状である、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記装置内又は前記装置の下流に配置される前記微小液滴の蛍光を刺激し検出する光検出器を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
不混和性キャリア流体の水性微小液滴のエマルションからなる媒体を生成する上流入口
の手段を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記マイクロ流体空間への入口を経て前記マイクロ流体空間を通る、不混和性キャリア流体の水性微小液滴のエマルションからなる媒体の流れを誘起する上流入口を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記第1複合壁及び第2複合壁は、第1複合シート及び第2複合シートであり、前記第1複合シート及び第2複合シートは、前記第1複合シート及び第2複合シートの間に前記マイクロ流体空間を画定し、カートリッジ又はチップの外周部を形成する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
互いに付随して走る複数の第1エレクトロウェッティング経路を更に備える、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記第1エレクトロウェッティング経路と交差して、少なくとも1つの微小液滴合流箇所を作るように適合される、複数の第2エレクトロウェッティング経路を更に備える、請求項
10に記載の装置。
【請求項12】
前記マイクロ流体空間に微小液滴を導入する上流入口を更に備え、
前記上流入口の直径は、前記マイクロ流体空間の幅よりも20%超大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記第2複合壁が、第2光励起性層を更に含み、
前記電磁放射源は、前記第2光励起性層にも衝突して、同様に変わり得る一過性エレクトロウェッティング箇所の第2パターンを作る、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記スペーサの物理的形状を用いて、前記装置の前記微小液滴の分離、統合及び伸長を助ける、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
第1複合壁であり、
第1基板、
前記第1基板上の、70~250nmの厚さを有する第1透明導体層、
前記第1透明導体層上の、300~1000nmの厚さを有し、400~1000nmの波長範囲の電磁照射によって活性化される光活性層、及び
前記光活性層上の第1誘電体層
を含む第1複合壁と、
第2複合壁であり、
第2基板、
前記第2基板上の、70~250nmの厚さを有する第2導体層、及び
前記第2導体層上の第2誘電体層
を含む第2複合壁と、
前記第1複合壁及び前記第2複合壁を決められた量だけ離して保持して、微小液滴を含むように適合されるマイクロ流体空間を画定する、1つ以上のスペーサと、
前記第1複合壁及び第2複合壁にわたって、前記第1透明導体層及び第2導体層を接続する電圧を供給する交流電源と、
前記光活性層に衝突させて、前記第1誘電体層の表面上の対応する一過性エレクトロウェッティング箇所を誘起するように適合される光励起層のバンドギャップより高いエネルギを有する少なくとも1つの電磁放射源と、
複数の一過性エレクトロウェッティング箇所の配置を同時に変えることにより、複数のエレクトロウェッティング経路を生成し、前記複数のエレクトロウェッティング経路に沿って複数の微小液滴の移動を同時に操作できるように、前記光活性層上での前記電磁照射の衝突点を操作するマイクロプロセッサと、
を含み、
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて生体試料の微小液滴を同時に操作する装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は例えば、高速処理化学反応及び/又は複数の分析物に対して同時に行われる化学分析において、微小液滴を操作するのに適した装置に関する。
【0002】
液滴又は磁気ビーズを操作するための装置は当該分野において以前に説明されている。例えば、特許文献1-3を参照のこと。液滴のケースでは、当該装置は典型的には液滴を、例えば、不混和性キャリア流体の存在下で、カートリッジ又はマイクロ流体チューブの2つの対向する壁によって画定されるマイクロ流体チャンネルを通って移動させることによって達成される。カートリッジ又はチューブの壁に埋め込まれているのは、誘電体層で覆われている電極であり、誘電体層の各々は層のエレクトロウェッティング電界特性を変更するために、間隔をおいて迅速にスイッチを入れたり切ったりすることができるように、A/Cバイアス回路に接続されている。このことは、所与の経路に沿って液滴を操縦するために使用することができる局所的な指向性毛管力を生じさせる。しかしながら、必要とされる大量の電極切換回路は多数の液滴を同時に操作しようとするときに、この手法を幾分非実際的する。さらに、スイッチングを行うのに要する時間は、装置自体に著しい性能制限を課す傾向がある。
【0003】
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングに基づくこのアプローチの変形例は例えば、引用文献4-6に開示されている。特に、これらの3つの特許出願のうちの第1のものは、第1及び第2の壁によって画定されるマイクロ流体キャビティを含み、第1の壁が複合体設計であり、基板、光導電及び絶縁(誘電体)層から構成される、各種マイクロ流体デバイスを開示する。光導電層と絶縁層との間には互いに電気的に絶縁され、光活性層に結合された導電性セルの配列が配置され、その機能は絶縁層上に対応する個別の液滴受信位置を生成することである。これらの箇所では、液滴の表面張力特性をエレクトロウェッティング分野の手段によって変更することができる。次に、光導電層に当たる光によって導電性セルを切り替えることができる。この手法は、その有用性が電極の配置によってある程度依然として制限されているが、切替えがはるかに容易かつ迅速になるという長所を有する。さらに、液滴を移動させることができる速度、及び実際の液滴経路を変化させることができる程度に関して制限がある。
【0004】
この後者のアプローチの二重壁の実施形態は、非特許文献1に開示されている。ここでは、パターン化されていない電気的にバイアスされたアモルファスシリコン上の光パターンを用いて誘電体層上に堆積されたテフロン(登録商標)AFの表面を横切る光学的エレクトロウェッティングを用いて、100~500μmの大きさの比較的大きな液滴の操作を可能にするセルについて説明する。しかしながら、例示された装置では、誘電体層は薄く(100nm)、光活性層を支持する壁上にのみ配置されている。この設計は、微小液滴の迅速な操作にはあまり適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第6,565,727号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0233425号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0027889号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0224528号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0298125号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0158748号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】University of California at Berkeley thesis UCB/EECS-2015-119 by Pei
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、今や、10μm未満の粒度範囲の数千の微小液滴を、これまで観察されてきたものよりも高い速度で同時に操作することを可能にする、このアプローチの改善されたバージョンを開発した。この装置の1つの特長は、絶縁層が最適範囲にあることである。別の利点は、導電性セルが省略され、したがって永久的な液滴受入箇所が放棄され、例えば画素化された光源を使用して光導電性層上の点の選択的かつ変化する照明によって液滴受入箇所が一過的に生成される、均一な誘電体面に有利になることである。これは、誘導された毛管タイプの力によって表面上の微小液滴を移動させることができる、高度に局所化されたエレクトロウェッティング領域が、任意選択で例えば乳化によって微小液滴が分散されるキャリア媒体の任意の方向性マイクロ流体流に関連して、誘電体層上の任意の場所に確立されることを可能にする。一実施形態では、本発明者らが以下に説明する構造の第2の壁面に高強度誘電体の任意の第2の層と、低誘電率防汚層を重ねることによって引き起こされるエレクトロウェッティング領域の不可避的な減少を打ち消す、非常に薄い防汚層とを追加した点で、Peiによって開示されたものよりも本発明者らのデザインをさらに改善した。したがって、本発明の一態様によれば、第1複合壁であり、第1透明基板、第1透明基板上の、70~250nmの厚さを有する第1透明導体層、第1透明導体層上の、300~1000nmの厚さを有し、400~1000nmの波長範囲の電磁照射によって活性化される光活性層、及び第1透明導体層上の、120~160nmの厚さを有する第1誘電体層からなる第1複合壁と、第2複合壁であり、第2基板、第2基板上の、70~250nmの厚さを有する第2導体層、及び任意に、第2導体層上の、25~50nmの厚さを有する第2誘電体層からなる第2複合壁と、第1複合壁及び第2複合壁にわたって、第1透明導体層及び第2導体層を接続する電圧を供給する交流電源と、光活性層に衝突させて、第1誘電体層の表面上の対応する一過性エレクトロウェッティング箇所を誘起するように適合される光励起層のバンドギャップより高いエネルギを有する少なくとも1つの電磁放射源と、一過性エレクトロウェッティング箇所の配置を変えることにより、少なくとも1つのエレクトロウェッティング経路を生成し、エレクトロウェッティング経路に沿って微小液滴を移動させることができるように、光活性層上での電磁照射の衝突点を操作する手段と、から本質的になり、第1誘電体層及び第2誘電体層の露出面は、10μm未満の間隔で配置されて、微小液滴を含むように適合されるマイクロ流体空間を画定する、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを用いて微小液滴を操作する装置が提供される。
【0008】
一実施形態では、装置の第1及び第2の壁が、間に挟まれたマイクロ流体空間を有する透明チップ又はカートリッジの壁を形成することができ、又は当該壁と一体である。別の実施形態では、第1の基板及び第1の導体層が透明であり、電磁波照射源(例えば、多重レーザービーム又はLEDダイオード)からの光が光活性層に当たることを可能にする。別の実施形態では、第2の基板、第2の導体層、及び第2の誘電体層は同じ目的を達成できるように透明である。さらに別の実施形態では、これらの層はすべて透明である。
【0009】
適切には、第1及び第2の基板が、機械的に強い材料、例えば、ガラス、金属又はエンジニアリングプラスティックから作られる。一実施形態では、基板がある程度の柔軟性を有することができる。さらに別の実施形態では、第1及び第2の基板が100~1000μmの厚さを有する。
【0010】
第1及び第2の導体層は、第1及び第2の基板の一方の表面に位置し、典型的には、70~250nm、好ましくは70~150nmの厚さを有する。一実施形態では、これらの層のうちの少なくとも1つは酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電材、銀などの導電性金属の非常に薄いフィルム、又はPEDOTなどの導電性高分子から作製される。これらの層は、連続シートとして、又はワイヤなどの一連の別個の構造として形成することができる。あるいは、導体層が、電磁波がメッシュの隙間の間に向けられる導電材のメッシュであってもよい。
【0011】
光活性層は、好適には、電磁放射線源による刺激に応答して、局所的な電荷領域を生成することができる半導体材料から構成される。例としては、300~1000nmの範囲の厚さを有する水素化アモルファスシリコン層が挙げられる。一実施形態では、光活性層が可視光の使用によって活性化される。
【0012】
第1の壁の場合には光活性層、任意に第2の壁の場合には導電層は、典型的には120~160nmの範囲の厚さの誘電体層で被覆される。この層の誘電特性は、107 V/m超の高誘電強度及び3超の誘電率を含むことが好ましい。好ましくは、それは絶縁破壊を回避することに則って、可能な限り薄い。一実施形態では、誘電体層が、高純度アルミナ又はシリカ、ハフニア又は薄い非導電性高分子膜から選択される。
【0013】
装置の別の実施形態では、少なくとも第1の誘電体層、好ましくは両誘電体層が防汚層でコーティングされて、各種エレクトロウェッティング箇所で所望の微小液滴/油/表面接触角度を確立するのを助け、さらに、液滴が装置にわたって移動するときに、液滴の中身が表面に付着し、減少することを防止する。第2の壁が第2の誘電体層を含まない場合、第2の防汚層は、第2の導体層上に直接的に適用されてもよい。最適な性能のためには、防汚層が、25℃で大気-液体-表面3点インタフェースとして測定した場合、50~70°の範囲にあるはずの微小液滴/キャリア/表面接触角度の確立を助けるべきである。キャリア相の選択に依存して、水性エマルションで満たされた装置における液滴の同じ接触角度はより高く、100°を超える高さになるであろう。一実施形態では、これらの層が50nm未満の厚さを有し、典型的には単分子層である。別の実施形態では、これらの層が、アルコキシシリル等の親水性基で置換されたメタクリル酸メチル又はその誘導体などのアクリル酸塩エステルの重合体から構成される。好ましくは、防汚層の一方又は両方が最適な性能を保証するために疎水性である。
【0014】
第1及び第2の誘電体層、したがって第1及び第2の壁は、幅が10μm未満であり、その中に微小液滴が含まれるマイクロ流体空間を画定する。好ましくは微小液滴がこの微小液滴空間に含まれる前に、微小液滴自体は微小液滴空間の幅よりも10%を超える、適切には20%を超える固有直径を有する。これは、例えば、装置に、所望の直径を有する微小液滴がキャリア媒体中に生成される、マイクロ流体オリフィスなどの上流入口を提供することによって達成され得る。この手段によって、微小液滴は、装置に入ると圧縮を受け、第1の誘電体層とのより大きな接触を通して、向上したエレクトロウェッティング性能をもたらす。
【0015】
別の実施形態では、マイクロ流体空間が、第1及び第2の壁を所定の長さだけ離して保持するための1つ又は複数のスペーサを含む。スペーサに対する選択肢には、光パターニングによって生成された中間レジスト層から生み出されたビード又はピラー、隆起部が含まれる。様々なスペーサ幾何学的形状を使用して、ピラーの線によって画定される、細いチャネル、先細りのチャネル、又は部分的に囲まれたチャネルを形成することができる。注意深いデザインによって、これらの構造を使用して、微小液滴の変形を助け、続いて液滴分割を行い、変形した液滴に作用させることができる。
【0016】
第1及び第2の壁は導体層に取り付けられたA/C電源を使用してバイアスされ、これらの間に、適切には10~50ボルトの電位差を提供する。
【0017】
本発明の装置は、400~1000nmの範囲の波長及び光励起可能層のバンドギャップよりも高いエネルギを有する電磁放射源をさらに含む。好適には、光活性層が、採用される放射線の入射強度が0.01~0.2 Wcm-2であるエレクトロウェッティング箇所で、活性化されるであろう。電磁放射源は、一実施形態では高度に減衰され、別の実施形態では画素化される光活性層上に対応する光励起領域を生成するように同様に画素化される。この手段によって、第1の誘電体層上の対応するエレクトロウェッティング箇所が誘起され、これも画素化される。米国特許出願公開第2003/0224528号明細書に教示された設計とは対照的に、これらの画素化エレクトロウェッティング点は、導電性セルが存在しないので、第1の壁の対応する永久構造とは関連しない。その結果、本発明の装置では照度がない場合、第1の誘電体層の表面上の全ての点は、エレクトロウェッティング箇所になる傾向が等しい。これは、装置を非常に柔軟にし、エレクトロウェッティング経路を高度にプログラム可能にする。この特性を、従来技術で教示された永久構造のタイプと区別するために、我々は我々の装置で生成されたエレクトロウェッティング箇所を「一過的」として特性付けることを選択し、我々の出願の特許請求の範囲は、それに応じて解釈されるべきである。
【0018】
ここで教示される最適化された構造デザインは、得られる複合体積層体が高誘電強度及び高誘電率を有するより厚い中間層(酸化アルミニウム又はハフニアなど)の性能と組み合わされた、コーティングされた単層(又は非常に薄い機能層)からの防汚及び接触角修正特性を有するという点で、特に好都合である。得られる積層構造は、10μm未満、例えば2~8、2~6又は2~4μmの径を有するような、非常に小さな体積の液滴の操作に非常に適している。これらの極めて小さな液滴では液滴寸法が誘電体積層の厚さに近づき始め、したがって、液滴を横切る場勾配(エレクトロウェッティング誘起運動の必要条件)がより厚い誘電体に関して低減されるので、光活性層の上に全非導電性積層を有することの性能上の利点は極めて好都合である。
【0019】
電磁放射源が画素化される場合、電磁放射源は、LEDからの光によって照明される反射スクリーンを使用して直接的又は間接的に適切に供給される。これは、一過的エレクトロウェッティング箇所の非常に複雑なパターンが迅速に生成され、第1の誘電体層において破壊されることを可能にし、それによって、厳密に制御されたエレクトロウェッティング力を使用して、任意の一過的経路に沿って微小液滴が正確に操縦されることを可能にする。これは、複数のエレクトロウェッティング経路に沿って数千のこのような微小液滴を同時に操作することを目的とする場合に特に有利である。このようなエレクトロウェッティング経路は、第1の誘電体層上の仮想的エレクトロウェッティング箇所の連続体から構成されると考えることができる。
【0020】
光活性層への電磁放射線源の衝突点は、従来の円形を含む任意の好都合な形状とすることができる。一実施形態では、これらの点の形態が対応する画素化の形態によって決定され、別の形態では、微小液滴がマイクロ流体空間に入ると、微小液滴の形態に完全に又は部分的に対応する。1つの好ましい実施形態では衝突点、したがってエレクトロウェッティング箇所は三日月形であってもよく、微小液滴の意図された移動方向に配向されてもよい。好適には、エレクトロウェッティング箇所自体が第1の壁に付着する微小液滴表面よりも小さく、液滴と表面誘電体との間に形成される接点線を横切る最大場強度勾配を与える。
【0021】
装置の一実施形態では、第2の壁も同じ又は異なる電磁波源の手段によって第2の誘電体層上に一過的エレクトロウェッティング箇所を誘起することも可能にする光活性層を含む。第2の誘電体層の付加は、エレクトロウェッティング装置の上面から下面へのウェッティングエッジの転移、及び各微小液滴へのより多くのエレクトロウェッティング力の適用を可能にする。
【0022】
本発明の装置は、装置自身の内部又はその下流の点のいずれかに配置された微小液滴の含有量を分析するための手段をさらに含んでもよい。一実施形態では、この分析手段が微小液滴に衝突するように配置された第2の電磁波源と、内部に含まれる化学成分によって放出される蛍光を検出するための光検出器とを含むことができる。別の実施形態では、装置が不混和性キャリア流体中の水性微小液滴のエマルションからなる媒体が生成され、その後、装置の上流側のマイクロ流体空間に導入される上流ゾーンを含んでもよい。一実施形態では、装置がその間にマイクロ流体空間を画定する第1及び第2の壁に対応する複合体シートから形成された本体と、少なくとも1つの入口及び出口とを有する平坦なチップを備えることができる。
【0023】
一実施形態では、光活性層上の電磁波放射の衝突点を操作するための手段が、第1の誘電体層及び任意選択で第2の誘電体層上に、複数の同時に流れる例えば並列の、第1のエレクトロウェッティング経路を生成するように適合又はプログラムされる。別の実施形態では、第1及び/又は任意選択で第2の誘電体層上に、第1のエレクトロウェッティング経路と交差する複数の第2のエレクトロウェッティング経路をさらに生成して、異なる経路に沿って移動する異なる微小液滴を合流させることができる少なくとも1つの微小液滴合流箇所を生成するように適合又はプログラムされる。第1及び第2のエレクトロウェッティング経路は互いに直角に、又は正面を含む任意の角度で交差してもよい。
【0024】
上記で特定されたタイプの装置は、新しい方法に従って微小液滴を操作するために使用され得る。したがって、(a)不混和性キャリア媒体の微小液滴のエマルションを、10μm未満の間隔で又は10μm未満離れて配置される2つの対向する壁により画定されるマイクロ流体空間に導入するステップと、(b)複数位置の電磁放射源を、光活性層に適用して、第1誘電体層において、複数の対応する一過性エレクトロウェッティング箇所を誘起するステップと、(c)光活性層の電磁放射源の適用位置を変えることで、エマルションの微小液滴の少なくとも1つを、一過性エレクトロウェッティング箇所によって生み出されるエレクトロウェッティング経路に沿って移動するステップと、を含む、水性微小液滴の操作方法であり、2つの対向する壁はそれぞれ、第1複合壁であり、第1透明基板、第1透明基板上の、70~250nmの厚さを有する第1透明導体層、第1透明導体層上の、300~1000nmの厚さを有し、400~1000nmの波長範囲の電磁照射によって活性化される光活性層、及び第1透明導体層上の、120~160nmの厚さを有する第1誘電体層からなる第1複合壁と、第2複合壁であり、第2基板、第2基板上の、70~250nmの厚さを有する第2導体層、及び任意に、第2導体層上の、120~160nmの厚さを有する第2誘電体層からなる第2複合壁と、を備える、水性微小液滴の操作方法も提供される。
【0025】
適切には、上に定義された方法において使用されるエマルションが、炭化水素、フルオロカーボン又はシリコーンオイル及び界面活性剤からなる不混和性キャリア溶剤媒体中の水性微小液滴のエマルションである。好適には、界面活性剤が、上述のように測定した場合、微小液滴/キャリア媒体/エレクトロウェッティング箇所接触角度が50~70°であることを確実にするように選択される。1つの実施形態において、キャリア媒体は例えば25℃で10センチストークス未満の低動粘度を有する。別の実施形態において、マイクロ流体空間内に配置された微小液滴は、圧縮された状態にある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を説明する。
【0028】
図1は25℃で5センチストークス以下の粘度を有し、かつ非閉じ込め状態の直径が10μm未満(例えば、4~8μm)の炭化水素油中に乳化された水性微小液滴1の迅速な操作に適した本発明の装置の断面図を示す。これは、各々が厚さ130nmの導電性酸化インジウムスズ(ITO)3の透明層で被覆された厚さ500μmの頂部及び底部ガラスプレート(2a及び2b)を含む。3の各々はA/C源4に接続され、2b上の酸化インジウムスズ層は接地されている。2bは厚さ800nmのアモルファスシリコン層5で被覆されている。2a及び5は、それぞれ、高純度アルミナ又はハフニア6の厚さ160nmの層でコーティングされ、これらは次に、ポリ(3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート)7の単層でコーティングされて、6の表面を疎水性にする。2a及び5はスペーサー(図示せず)を使用して8μm離間され、その結果、微小液滴は装置に導入されたときにある程度の圧縮を受ける。発光ダイオード光源 8によって照明された反射性の画素化されたスクリーンの画像は、一般に2bの下に配置され、0.01Wcm
2の水準の可視光(波長660又は830nm)がそれぞれのダイオード9から放射され、2b及び3を通る多数の上方向の矢印の方向に伝播することによって5に衝突させられる。種々の衝突点において、光励起された電荷領域10が5内に生成され、これは、対応するエレクトロウェッティング箇所11において、6内に変更された液体-固体接触角度を誘起する。これらの変更された特性は、微小液滴1をある点11から別の点へと推進するために必要な毛管力を提供する。8は、あらかじめプログラムされたアルゴリズムによって、9のアレイのどれが任意の時点で照明されるかを決定するマイクロプロセッサ12によって制御される。
【0029】
図2は、接触の程度を画定する点線輪郭1aを有する、微小液滴1を有する底面上の6の領域上に位置する微小液滴1の上面図を示す。この例では、11が1の移動方向に三日月形状である。