(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】イオンを空間的に圧縮しイオンモビリティの分解能を向上させる方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/622 20210101AFI20221108BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
G01N27/622
H01J49/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020042533
(22)【出願日】2020-03-12
(62)【分割の表示】P 2018560583の分割
【原出願日】2017-04-20
【審査請求日】2020-04-06
(32)【優先日】2016-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510300991
【氏名又は名称】バテル メモリアル インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ヤヒア・エム・イブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】サンディリヤ・ガリメラ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ディ・スミス
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/067366(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/013832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0031920(US,A1)
【文献】特許第6677826(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/70
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン操作装置であって:
複数のイオンを含むイオンパケットを受け取り、該複数のイオンを、各々のピーク幅を有する1つ以上の第1領域イオンサブパケットに分離する進行波電場を生成するよう構成された第1領域;
該第1領域とは別の第2領域であって、
該1つ以上の第1領域イオンサブパケットのうちの第1のイオンサブパケットであって、該イオンパケットの複数のイオンのうちの第1の部分を含む第1のイオンサブパケットを受け取り、
第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場であって、受け取った該第1のイオンサブパケットを該第1の伝播方向に沿って誘導し、該第1のイオンサブパケットから圧縮されたイオンサブパケットを生成するよう構成された、該第1の伝播方向に沿って変化する区間を有する進行波電場を生成する、
よう構成された第2領域、
を含む、装置。
【請求項2】
前記進行波電場は、前記第2領域の第1サブ領域から該第2領域の第2サブ領域に進行し、該進行波電場の変化するデューティサイクルが、該第1サブ領域における第1のデューティサイクルから該第2サブ領域における第2のデューティサイクルに変化する、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項3】
前記第1のデューティサイクルから前記第2のデューティサイクルへのデューティサイクルの変化が、前記第1サブ領域における前記第1のイオンサブパケットから前記第2サブ領域における前記圧縮されたイオンサブパケットを生成するよう構成される、請求項2に記載のイオン操作装置。
【請求項4】
前記第2領域がさらに、前記1つ以上の第1領域イオンサブパケットのうちの第2のイオンサブパケットであって、前記イオンパケットの複数のイオンのうちの第2の部分を含む第2のサブパケットを受け取り、該第2のイオンサブパケットを前記圧縮されたイオンサブパケットに併合するよう構成される、請求項2に記載のイオン操作装置。
【請求項5】
前記第1のイオンサブパケットが第1の時間的期間を有し、前記第2のイオンサブパケットが第2の時間的期間を有し、前記圧縮されたイオンサブパケットが第3の時間的期間を有する、請求項4に記載のイオン操作装置。
【請求項6】
前記第3の時間的期間が、前記第1の時間的期間よりも小さい、請求項5に記載のイオン操作装置。
【請求項7】
前記第1のイオンサブパケットが第1の空間的パルス長を有し、前記第2のイオンサブパケットが第2の空間的パルス長を有し、前記圧縮されたイオンサブパケットが第3の空間的パルス長を有する、請求項4に記載のイオン操作装置。
【請求項8】
前記第3の空間的パルス長が、前記第1の空間的パルス長よりも小さい、請求項7に記載のイオン操作装置。
【請求項9】
前記進行波電場が、前記第1サブ領域と第2サブ領域の間の境界で前記第1のデューティサイクルから第2のデューティサイクルに変化する、請求項2に記載のイオン操作装置。
【請求項10】
前記第1領域におけるイオンパケットの第2の伝播方向が、前記第2領域における前記受け取られた第1のイオンサブパケットの前記第1の伝播方向に対して直交する、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項11】
前記第1領域におけるイオンパケットの第2の伝播方向が、前記第2領域における前記受け取られた第1のイオンサブパケットの前記第1の伝播方向に対して平行である、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項12】
前記第1領域におけるイオンパケットの第2の伝播方向と、前記第2領域における前記受け取られた第1のイオンサブパケットの前記第1の伝播方向が、
互いに対して0度~359度の間の任意の角度で位置合わせされる、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項13】
前記第1のイオンサブパケットから生成された前記圧縮されたイオンサブパケットが、変化するデューティサイクルに基づき、該第1のイオンサブパケットよりも狭いピーク幅を有する、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項14】
前記第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場が、変化するデューティサイクルを有する、請求項1に記載のイオン操作装置。
【請求項15】
イオン操作装置の第1領域によって、複数のイオンを含むイオンパケットを受け取る工程、
該第1領域において、該複数のイオンを、各々のピーク幅を有する1つ以上の第1領域イオンサブパケットに分離するよう構成された進行波電場を生成する工程、
該イオン操作装置の第2領域によって、該1つ以上の第1領域イオンサブパケット
のうちの第1
のイオンサブパケットを受け取る工程であって、該第1のイオンサブパケットが、該イオンパケットの複数のイオンのうちの第1部分を含み、該第2領域が該第1領域と別である、工程、
該第2領域において、第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場を生成する工程であって、該進行波電場が、受け取った該第1のイオンサブパケットを該第1の伝播方向に沿って誘導し、該第1のイオンサブパケットから圧縮されたイオンサブパケットを生成するよう構成された、該第1の伝播方向に沿って変化する区間を有する、工程、
を含む、方法。
【請求項16】
前記進行波電場は、前記第2領域の第1サブ領域から該第2領域の第2サブ領域に進行し、該進行波電場の変化するデューティサイクルが、該第1サブ領域における第1のデューティサイクルから該第2サブ領域における第2のデューティサイクルに変化する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のデューティサイクルから前記第2のデューティサイクルへのデューティサイクルの変化が、前記第1サブ領域における前記第1のイオンサブパケットから前記第2サブ領域における前記圧縮されたイオンサブパケットを生成するよう構成される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2領域によって、前記1つ以上の第1領域イオンサブパケットのうちの第2のイオンサブパケットを受け取る工程であって、該第2のイオンサブパケットが、前記イオンパケットの複数のイオンのうちの第2の部分を含む工程、および
該第2のイオンサブパケットを前記圧縮されたイオンサブパケットに併合する工程、
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のイオンサブパケットが第1の時間的期間を有し、前記第2のイオンサブパケットが第2の時間的期間を有し、前記圧縮されたイオンサブパケットが第3の時間的期間を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のイオンサブパケットが第1の空間的パルス長を有し、前記第2のイオンサブパケットが第2の空間的パルス長を有し、前記圧縮されたイオンサブパケットが第3の空間的パルス長を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1領域におけるイオンパケットの第2の伝播方向が、前記第2領域における前記受け取られた第1のイオンサブパケットの前記第1の伝播方向に対して直交する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記第1領域におけるイオンパケットの第2の伝播方向が、前記第2領域における前記受け取られた第1のイオンサブパケットの前記第1の伝播方向に対して平行である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のイオンサブパケットから生成された前記圧縮されたイオンサブパケットが、変化するデューティサイクルに基づき、該第1のイオンサブパケットよりも狭いピーク幅を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場が、変化するデューティサイクルを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
イオン操作装置であって:
複数のイオンを含むイオンパケットを受け取るよう構成された、第1領域;
第1領域とは別の第2領域であって、
該イオンパケットの複数のイオンのうちの第1の部分を含む第1のイオンサブパケットを受け取り、
第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場であって、受け取った該第1のイオンサブパケットを該第1の伝播方向に沿って誘導し、該第1のイオンサブパケットから圧縮されたイオンサブパケットを生成するよう構成された、該第1の伝播方向に沿って変化する区間を有する進行波電場を生成する、
よう構成された第2領域、
を含み、
該進行波電場は、該第2領域の第1サブ領域から該第2領域の第2サブ領域に進行し、該進行波電場の変化するデューティサイクルが、該第1サブ領域における第1のデューティサイクルから該第2サブ領域における第2のデューティサイクルに変化し、
該第2領域がさらに、該イオンパケットの複数のイオンパケットのうちの第2の部分を含む第2のイオンサブパケットを受け取り、該第2のイオンサブパケットを該圧縮されたイオンサブパケットに併合するよう構成される、
イオン操作装置。
【請求項26】
前記第1の伝播方向に沿って進行する進行波電場が、変化するデューティサイクルを有する、請求項25に記載のイオン操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によって本明細書に組み入れられる、2016年5月17日出願の米国特許出願第15/157,217号の利益を主張するものである。
【0002】
連邦政府の資金援助を受けた研究または開発に関する申告
本発明は、エネルギー省により授与された協定DE-AC0576RL01830の政府支援により行われた。政府は発明に対して一定の権利を持つ。
【0003】
本発明は、イオンの空間的圧縮、蓄積およびイオン分離のモビリティの分解能の向上に関する。より詳細には、本発明は、断続的な進行波を印加することによって、イオンの分布をより狭いピークに圧縮するまたはイオンピークを再分布し、結果的に信号対ノイズ比およびピーク分解能を向上させることに関する。
【背景技術】
【0004】
進行波(TW)分離において、異なるモビリティのイオンは、典型的にはDC電圧の断続的な印加によって、動いている電場内におけるそれらの相対運動に基づいて分離される。このTWプロファイルは、イオン運動の所期方向に動く。TWは、周期的な山と谷を生み出し、イオンは、それらのモビリティに対して電場が非常にゆっくりと動く場合に谷にトラップされる。TWが前方に動くと、TWの運動の速度に応じて、イオンは、それらの谷に留まるか、波の上を転がって前の電位の谷に落ちるかのどちらかとなる。そのように転がる数は種のイオンモビリティに応じて決まり、これがモビリティに基づく分離につながり;より低いモビリティの種は、より頻繁に転がり、所与の距離を横切るのにより長い時間がかかる。
【0005】
従来のイオンモビリティ分離の場合、一定のドリフト電場を使用する従来のモビリティ分離におけるように分離距離が増大されるとより大きな電圧が必要となる。したがって、非常に長い経路長での分離は、実現不可能である。TWに基づく分離は、この制約を回避することに使用することができるが、依然として制約が残っている。TWイオンモビリティ分離の利点を実際に実現するには、進行波内でイオンが転がって拡散するのでピークが広幅になることを含む考察によって制限される。それによって、結果的に、非常に長い経路長を使用した場合にイオンモビリティ分離についてのピークが広幅になり、それによって検出が難しくなり信号対ノイズ(S/N)が低くなる。さらに、複数パス/環状経路(cyclical path)でのイオンモビリティ分離は、同様に、ピークの広幅化および多数パスでの信号希釈により、それらの程度は限られる。さらに、そうしたデバイスの場合、1つのピークが、経路全体を埋め尽くす(fill)ようにそのような影響を受けて拡大し、したがって非常に類似したモビリティの均一な(even)種の場合にはその手法が役立たない。TW分離についてのこの問題を解決することは、拡散/ピーク広幅化に関する問題の克服に有効であり、非常に高いイオンモビリティ分光分析(IMS)の分解能を提供する新奇な器械を可能にする。
【0006】
そのような用途における関連の課題は、検出時のS/Nを増大させるように、初期イオン集団を著しく増大させることであるが、空間電荷効果は、IMS分離について初期に注入可能なイオン集団のサイズを制限する。したがって、イオントラップがしばしばIMSへの注入のためのイオンの蓄積に使用されるが、鍵となる制限は、電荷の最大数を典型的には約106、または多くても107に制限する空間電荷容量である。初期注入パルスは
、それをより長い時間に延長することによってより大きくすることができる一方で、より長い注入パルスは、ピークをより広幅にしてしまい、所望のより高い分解能とは相いれない。この問題の解決法がないことは明らかであり、結果的に、しばしば、S/Nを増大させるために、分離を何度も繰り返し、次いでその結果を合計または平均することが必要となる。
【0007】
IMSにおいて、高い分解能の達成は、従来、1)長い経路長を構築することによってIMSセルの物理的なサイズを増大させる、2)圧力を増大させる、および3)少数であるが、環状経路または複数パスデバイス内でイオンパケットを循環させる;ことによって対処されてきた。IMSセルの物理的なサイズを増大させることは、そうしたシステムの作成の実現性によって妨げられ、一定場IMSの場合、物理的な長さの増大は、ドリフト電圧の比例的な増大を必要とする。最大ドリフト電圧は、電気的絶縁破壊現象によって制限される。あるいは、バッファガスの圧力を増大させることは可能であるが、それは、長時間にわたって高圧でイオンをトラップする能力が低いので、イオンの著しい損失を伴う。圧力を増大させることは、やはりまた、上述したように破壊電圧によって制限される一定場IMSにおけるドリフト電圧の比例的な増大を必要とする。最後に、経路長は、高い分解能を達成するために、サイクロトロンデバイスにおいてイオンパケットを多数回循環させることによって増大させることができる。しかし、通常適用可能なパスの数は、イオン同士の分離の増大およびピークサイズの増大の両方によって累進的に制限され、最終的に1つのピークとしてデバイス全体を埋め尽くす。環状または複数パス装置(arrangement)の長さは、同時に分離可能なモビリティの範囲を増大させるように、より長くすることができるが、そうしたデバイスは、扱いにくく、製作が難しい。したがって、上述した課題を解決するために新奇な手法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、イオンを空間的に圧縮し、IMSにおけるイオン分解能を向上させるまたは他の分離後のS/Nを増大させる、方法および装置を対象とする。本発明の一実施形態では、イオンピーク圧縮のための装置が開示される。装置は、実質的に連続的なイオンビームが導入されるデバイスを含む。装置は、さらに、イオンをより狭いイオンピーク分布に圧縮するようにデバイスに印加される断続的な進行波を含む。一実施形態では、イオンパケットは、断続的な進行波のデューティサイクルを変えることによって、より狭いピーク分布に圧縮される。
【0009】
一実施形態では、ピーク分布の幅を減少させることは、実質的に連続的な入射ビームがデバイスの通常(非断続的)進行波部分と断続的な進行波部分との間の境界で単一トラップ内に併合されることにより行われる。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、複数パス設計において、はるかに大きなイオン集団をトラップして蓄積し、次いで分離の間の異なった時期に空間的な圧縮を適用することに使用され、その結果、IMS分解能が大幅に向上するとともにS/Nが大幅に増大することになる。
【0011】
本発明の別の実施形態では、イオンピークを圧縮する方法が開示される。方法は、実質的に連続的なイオンビームをデバイスに導入することを含む。方法は、さらに、イオンをより狭いイオンピークに圧縮するように、デバイスに断続的な進行波を印加することを含む。
【0012】
本発明の別の実施形態では、イオンピークを圧縮する装置が開示される。装置は、イオンパケットが導入されるデバイスを含む。装置は、さらに、イオンパケットをそれらのモ
ビリティに従って時間的または空間的に分散させるための第1の電場を含む。装置は、さらに、分散されたイオンパケットを、より狭いピークのより少数のトラッピング領域内に再グループ化または併合するための第2の断続的な進行波を含む。一実施形態では、イオンパケットは、断続的な進行波のデューティサイクルを変えることによってより狭いピーク領域内に併合される。
【0013】
第1の電場は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、Method and Apparatus for Controlling Ions in a Gas Phaseという名称の2015年10月7日出願の米国特許出願第62/238,291号においてもたらされる記載に従って形成される連続的な進行波場とすることができる。
【0014】
一実施形態では、第1の電場は、第1のイオン運動領域に印加され、第2の断続的な進行波(または、「間欠的(stuttering)」な波)は、第2のイオン運動領域に印加される。第1の電場領域内のイオン運動の方向は、第2の断続的な進行波領域内のイオン運動の方向に対して直交して位置合わせすることができる、または同じ方向に位置合わせすることもできる。あるいは、第1の電場領域および第2の断続的な進行波領域は、互いに対して0°~359°の間の任意の角度に位置合わせしてもよい。
【0015】
一実施形態では、断続的な進行波は、イオンを2つ以上のトラッピング領域から1つに併合する。別の実施形態では、断続的な進行波は、イオンを4つ以上のトラッピング領域から1つに併合する。
【0016】
一実施形態では、断続的な進行波は、所定範囲のイオンパケットがより狭いピーク領域内に再グループ化または併合された後、かつ検出よりも前に、非断続的な進行波に置き換えられる。
【0017】
本発明の別の実施形態では、イオンピークを圧縮する方法が開示される。方法は、イオンパケットをデバイスに導入することを含む。方法は、さらに、イオンパケットを多数のトラッピング領域に分散させるように第1の電場を印加することを含む。方法は、さらに、分散されたイオンパケットを、より狭いピークのより少数のトラッピング領域内に再グループ化または併合するように第2の断続的な進行波を印加することを含む。
【0018】
本発明の別の実施形態では、IMSにおけるイオン分解能を向上させる方法が開示される。方法は、混合されたイオンのパケットをIMSデバイスに導入することを含む。方法は、さらに、一定または可変の電場をデバイスに印加することによってイオンをそれらのモビリティに従って分離することを含む。方法は、また、イオンパケットを、分離する工程よりも前の位置に戻すように電場を逆にすることと;所望の分解能が達成されるまで分離する工程と逆にする工程を繰り返すこととを含む。方法は、IMSデバイスを物理的に大きくさせることなく、IMS分離のために経路長を効果的に増大させる。
【0019】
逆にする工程の電場は、分離工程の電場とは異なる。
【0020】
一実施形態では、方法は、イオンを分離する工程および/または電場を逆にする工程の後に、イオンパケットを圧縮することをさらに含む。
【0021】
一実施形態では、逆にする工程の間にイオン分離は行われない。
【0022】
逆にする工程は、速度を低下させること、または電場の振幅を増大させることを含むことができる。
【0023】
本発明の別の実施形態では、IMSにおいてイオン分解能を向上させる装置が開示される。装置は、混合されたイオンのパケットが導入されるIMSデバイスを含む。装置は、さらに、イオンをそれらのモビリティに従って分離するようにデバイスに印加される一定または可変の電場を含む。装置は、また、イオンピークを狭化または圧縮するためのイオンコンプレッサ(compressor)と;イオン分離のために一定または可変の電場またはTWが印加される前の位置にイオンパケットを動かすように、例えばより高いTW振幅を用いた、分離が行われない状態下での逆方向のTWの印加とを含む。
【0024】
本発明の別の実施形態では、イオン化の前に任意の分離からのイオンの分解能を向上させる装置が開示される。これは、例えばGCまたはLC分離の後に形成されるイオンと、検出の間のS/Nのためになるように、ピーク圧縮のためのTWの印加とを含む。
【0025】
一実施形態では、液相分離に続いて、気相イオンへの変換が行われ、次いでそのイオンがピーク圧縮のために断続的/間欠的な進行波が適用される領域内に注入される。
【0026】
本発明の別の実施形態では、本明細書において以降、無損失イオン操作構造(Structures for Lossiess Ion Manipulations)(SLIM)デバイスと称される、米国特許第8,835,839号に記載されるデバイスのような、長い経路長および/または複数パス進行波IMSデバイスと併せて使用される装置が開示される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、IMSにおけるイオン分解能を向上させる装置が開示される。装置は、大きなイオンパケットまたは連続的なイオンビームが導入されるIMSデバイスを含む。装置は、さらに、イオンが内部にトラップされる体積を部分的に狭化または圧縮するためのイオンコンプレッサを含む。装置は、また、イオンをそれらのモビリティに従って部分的に分離するようにデバイスに印加されるTWまたは一定もしくは可変の電場を含む。装置は、また、はるかに大きなピーク強度およびS/Nの最終分離を生じさせるように、部分的な分離による空間電荷効果の減少後に適用される、イオンを狭化または圧縮する追加のコンプレッサの使用を含む。
【0028】
本発明の別の実施形態では、これらに限定されないが、GCまたはLCのような任意の分離デバイスの後の、イオンの分解能を向上させる装置が開示される。装置は、分離からのイオンパケットが導入されるデバイスを含む。装置は、検出よりも前に、分離からのイオンのピークの狭化または圧縮のために適用されるイオンコンプレッサも含む。
【0029】
本発明の別の実施形態では,SLIM IMSにおけるイオン分解能およびS/N検出を増大させる装置が開示される。装置は、大きなイオンパケットまたは連続的なイオンビームがある時間の間に導入されるSLIM IMSデバイスを含む。装置は、また、イオンの部分的な狭化または圧縮のために適用される初期イオンコンプレッサを含む。装置は、さらに、イオンをそれらのモビリティに従って部分的に分離するようにデバイスに印加される一定または可変の電場も含む。装置は、さらに、はるかに大きなピーク強度およびS/Nの最終分離を生じさせるように、部分的な分離による空間電荷効果の減少後に適用される、イオンを狭化または圧縮するための追加のイオンコンプレッサを含む。
【0030】
本発明の別の実施形態では、SLIM IMSにおける分離からのイオンの分解能およびS/N検出を増大させる装置が開示される。装置は、大きなイオンパケットが導入されるまたは連続的なイオンビームがある時間の間に導入されるSLIMデバイスを含む。装置は、また、イオンを部分的に狭化または圧縮するように適用される初期イオンコンプレッサを含む。装置は、また、イオンをそれらのモビリティに従って部分的に分離するよう
にデバイスに印加される一定または可変の電場を含む。装置は、さらに、はるかに大きなピーク強度およびS/Nの最終分離を生じさせるように、部分的な分離による空間電荷効果の減少後に適用される、イオンを狭化または圧縮するための追加のイオンコンプレッサを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態による、通常進行波および「間欠的」または断続的な進行波を含むイオンピーク圧縮のための装置の概略的な線図である。直線的な配置および他の配置も実用的である。
【
図2-1】
図2A~2Cは、
図1の装置を使用した空間的なピーク圧縮の結果を示す図である。
図2Aは、イオンピーク拡散の初期分布であり、
図2Bおよび
図2Cは、イオン分布に対する狭化効果を有する断続的な進行波の適用を含む。
【
図3】
図3Aおよび3Bは、非圧縮の場合の空間的なピーク圧縮(
図3A)、および断続的な進行波の付与後の2x圧縮の場合の空間的なピーク圧縮(
図3B)の図である。
【
図4】
図4Aは、本発明の一実施形態による、装置のコンプレッサ領域に対して直交して位置合わせされた分離領域を通るイオン運動の図である。
図4Bは、分離領域に印加された通常進行波についての経時的な周波数のグラフである。
図4Cは、装置のコンプレッサ領域に対して印加された断続的な進行波についての経時的な周波数のグラフである。
【
図5】2つの領域が同じまたは類似の方向に位置合わせされている、分離領域およびコンプレッサ領域の一変形形態の図である。
【
図6】コンプレッサ領域が分離領域よりも前にある、分離領域およびコンプレッサ領域の別の変形形態の図である。
【
図7】イオンを2つの領域のどちらかに動的にゲート制御(gating)することを含む、分離領域およびコンプレッサ領域の別の変形形態の図である。
【
図8】
図8A~8Cは、2つの領域の相対的なサイズおよび相対的な位置の任意の組み合わせの、分離領域およびコンプレッサ領域の変形形態の図である。
【
図9】
図9Aおよび9Bは、非圧縮のイオンパケット(
図9A)および圧縮されたイオンパケット(
図9B)の到達時間分布および強度の図である。
【
図10】
図10Aおよび10Bは、非圧縮の連続イオンビーム(
図10A)および圧縮された連続イオンビーム(
図10B)の到達時間分布および強度の図である。
【
図11】電圧が
図1のコンプレッサ電極のうちの1つに印加されたときのデューティサイクルの経時的な変化の図である。最初は、圧縮がなく、次いでデューティサイクルは圧縮を可能にするように変化し、そしてある時間経過後にデューティサイクルは初期のデューティサイクルと同様でも異なってもよい異なるデューティサイクルに変えられる。
【
図12】本発明の一実施形態による、IMSにおける分解能を向上させる装置の簡素化されたブロック線図である。
【
図13-1】
図13A~13Eは、イオン分離(
図13A)と、電場方向が逆にされるオプションのイオン圧縮(
図13B)と、分離段階の前の位置にイオンが戻ること(
図13C)と、オプションのイオン圧縮(
図13D)と、必要があるとみなされた場合、所望の分解能が得られるまでイオンの分離を繰り返す(
図13E)こととを含む、本発明の一実施形態による、IMSにおける分解能を向上させるための、いくつかはオプションである、異なる段階の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の説明は、本発明の具体例の好ましい実施形態を含む。本発明のこの説明から、本発明がこれらの例示の実施形態に限定されず、本発明が様々な変形形態およびその実施形
態も含むことが明らかとなろう。したがって、この説明は、例示的であり限定的ではないとみなされるべきである。本発明は、様々な変形形態および代替構造が可能であるが、開示された特定の形態に本発明を限定する意図はなく、逆に本発明は、特許請求の範囲において定められた本発明の趣旨および範囲に入る全ての変形形態、代替構造および均等物を包含すると理解されたい。
【0033】
進行波イオンモビリティ、およびイオン化の前を含む例えば電圧場である外力がイオンに付与されたときにイオンがそれらのモビリティに基づいて分離されるまたは他の手段で分離される他の適用例において、信号対ノイズ比を増大させる方法、デバイスおよび装置が開示される。本発明は、イオンをより少ないモビリティ「ビン(bin)」に選り分け、圧縮または再グループ化する、断続的または「間欠的」な進行波の付与を含む。ここで、ビンは、本明細書では、2つの波の間のトラッピング領域のうちの1つとして定義される。信号強度は、同じまたは非常によく似たモビリティのイオンのこのビンニング(binning)の結果、増大する。ピーク集束の結果としての分解能の任意の損失は、選り分け/再グループ化/圧縮工程の後の短い追加的なドリフトタイムによって回復される。この「再ビンニング」は、単に、2つ以上の隣接するビンを1つにそれぞれ結合することができ、すなわち2以上の整数値の圧縮比を与えることができるが、他のより複雑な再ビンニングも実現可能であり、その場合、圧縮比は、変化する、または例えば分離の間にピークがより幅広になるようにより大きな圧縮を適用するように特定のやり方でプログラムされる。
【0034】
本発明は、さらに、IMSデバイスまたはセルを物理的に増大させることなく、IMS分離を達成するために経路長を効果的に増大させることによって進行波イオンモビリティ分離の分解能を向上させる方法、デバイスおよび装置を開示する。したがって、高分解能を達成するために、同じ経路長が要望通りに複数回利用される。
【0035】
図1は、本発明の一実施形態による、イオンモビリティ分離のための装置の概略的な線図である。イオンが装置またはデバイスに導入されるとき、進行波電場がイオンパケットの分離のためにそれらのモビリティに応じて時間的または空間的に印加される。したがって、イオンは、多数の移動トラップまたはビンにわたって分散または拡散される。この「通常の」または連続的に動く進行波が、「間欠的」または断続的な進行波の - 動いている進行波が断続的に止まる - 第2の領域にインターフェース(interface)すると、通常進行波の複数のトラッピングビンにわたって広がったイオンが、狭いピークのより少数のトラッピング領域内に再導入される。こうして、多くの移動トラップの長い経路にわたって分散されたイオンは、より少数のビンを伴う、異なるより狭い分布に選り分けされる。
【0036】
そうした再導入の程度は、断続的な進行波のデューティサイクル、すなわち進行波の停止と移動の相対時間に応じて決まる。イオンモビリティのピークの選択されたまたは予め決められた範囲がそのようして再導入された後、断続的な進行波が通常進行波に置き換えられる。これは、検出前に行われる。
【0037】
より高い信号対ノイズ比は、類似するモビリティのイオンをより狭いモビリティのビンまたはトラップに再グループ化する結果として達成される。2つの電場- 通常進行波と断続的な進行波- を、繰り返し、例えば複数パス式の分離で、インターフェースすることによって、より多数のサイクルが有効となる。周波数およびそうしたピーク集束の順序を適切に選ぶことで、実質的に無限のピーク分解能が実現可能となり得る。
【0038】
図2A~
図2Cは、
図1の装置を用いた空間的ピーク圧縮の結果を示している。
図2Aは、この例では、48個の電極にわたるイオン拡散の初期の分布またはピークである。初
期分布についての半値全幅(FWHM)は、約16mmであった。
【0039】
図2Bおよび
図2Cは、断続的な進行波が印加されたときのイオンの分布に対する狭化効果を示している。
図2Bでは、2つのビンにおけるイオンは、1つに併合され、FWHMは、約9mmに減少している。
図2Cは、イオンの4つのビンを1つに併合する効果を示している。
図2CのFWHMは、約6.3mmにさらに減少し、それに伴い信号対ノイズ比が増大する。
【0040】
図3Aおよび
図3Bは、異なるモビリティ- K
o=1.17cm
2/V.sおよびK
o=1.00cm
2/V.sの2つのイオンについての、圧縮がない場合の空間的ピーク圧縮(
図3A)、および断続的な進行波の付与後の2x圧縮(
図3B)の場合の空間的ピーク圧縮を示している。
【0041】
図4Aは、本発明の一実施形態による、装置のコンプレッサ領域に対して直交して位置合わせされた分離領域を通るイオン運動を示している。分離領域と称される通常進行波領域は、
図4Bのグラフに示されるような一定進行波周波数を有し、この例では、断続的な進行波領域に対して垂直に向けられ、直交している。コンプレッサ領域と称される断続的な進行波領域は、
図4Cのグラフに示されるような断続的に非ゼロの進行波周波数を有し、この例では、水平方向に向けられている。矢印は、イオン軌道経路を示している。
【0042】
図5は、2つの領域が同じまたは類似の方向に位置合わせされている、
図4Aの分離領域およびコンプレッサ領域の一変形形態である。領域が互いに同じ方向に位置合わせされる場合、信号対ノイズ比および分解能における効果は、
図4Aの直交の向きと類似する。
【0043】
図6は、コンプレッサ領域が分離領域よりも前にある、
図4Aおよび
図5の分離領域およびコンプレッサ領域の別の変形形態である。
図6の構成は、例えば、イオン圧縮前のイオントラッピングまたは分離が必要なく;コンプレッサがその後の分離のための注入デバイスとして使用される場合に有用となり得る。
【0044】
図7は、2つの領域、すなわち分離領域と圧縮領域のどちらかにイオンを動的にゲート制御することを含むデバイスについての分離領域およびコンプレッサ領域の別の変形形態である。
【0045】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、2つの領域の相対的なサイズと相対的な位置の任意の組み合わせの、分離領域およびコンプレッサ領域の変形形態である。
図8Aは、コンプレッサ領域の後に分離領域があるという同じパターンの繰り返しを示している。
図8Bおよび
図8Cは、軌道運動によりまたは軌道運動で構成された領域を示している。
【0046】
図9Aおよび
図9Bは、非圧縮のイオンパケット(
図9A)および圧縮されたイオンパケット(
図9B)の到達時間分布および強度を示している。
【0047】
【0048】
図11は、電圧が
図1のコンプレッサ電極のうちの1つに印加されたときのデューティサイクルの経時的な変化を示している。最初は、圧縮がなく、次いでデューティサイクルは圧縮を可能にするように変わり、次いである時間経過後、デューティサイクルは、初期デューティサイクルと類似または異なってよい、異なるデューティサイクルに変えられる。
【0049】
図12は、本発明の一実施形態による、IMSにおける分解能を向上させる装置の簡素化されたブロック線図である。装置は、IMS分離デバイスに連結されるオプションのイオンコンプレッサを含む。IMS分離デバイスは、さらに、別のオプションのイオンコンプレッサに連結される。
【0050】
図13A~
図13Eは、本発明の一実施形態による、IMSにおける分解能を向上させる、いくつかはオプションである、異なる段階を示している。
図13Aにおいて、パルス化されたイオンは、IMSデバイスに導入され、そこで、デバイスへの一定または可変の電場の印加により、それらのモビリティに従って分離される。次いで、
図13Bにおいて、オプションのイオンコンプレッサがイオンを狭化または圧縮し、電場が逆にされる。電場が逆になることで、イオンは、
図13Cに示されるように、分離段階よりも前の位置に戻る。オプションの別のイオン圧縮段階は、
図13Dに示されている。
図13Bから
図13Dの間は、IMS分離は行われない。プロセスは、
図13Eに示されるように、所望の分解能が得られるまで繰り返すことができる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を示して説明したが、本発明から逸脱することなくそのより広範な態様において多くの変更および修正を行うことができることは当業者にとって明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨および範囲に入るそのような変更および修正の全てを包含するものとする。