(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】電界放出推進システムとその較正方法及び動作方法
(51)【国際特許分類】
F03H 99/00 20090101AFI20221108BHJP
H01J 27/02 20060101ALI20221108BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
F03H99/00 C
H01J27/02
H01J37/08
(21)【出願番号】P 2020505447
(86)(22)【出願日】2018-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018069251
(87)【国際公開番号】W WO2019025174
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】102017117316.1
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521299503
【氏名又は名称】モルフェウス スペース ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Morpheus Space GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ボック ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】タジマール マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ラウファー フィリップ
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-230024(JP,A)
【文献】特開昭59-044754(JP,A)
【文献】特開平11-082286(JP,A)
【文献】特開2006-321292(JP,A)
【文献】米国特許第5269131(US,A)
【文献】BOCK, Daniel,Highly miniaturized FEEP thrusters for CubeSat applications,Proceeding of the 4th Spacecraft Propulsion Conference,2014年05月19日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03H 99/00
H01J 27/02
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙機のための電界放出推進システム(1)であって、
制御ユニット(4)と、
複数の電界放出推進ユニット(23)を有する推進組立体(2)であって、前記電界放出推進ユニット(23)が、
共通の放出器電圧又は共通の放出器電位が割り当てられた 複数のイオン放出器(222)を有するイオン源と、前記イオン放出器(222)と関連付けられ電界装置内に配置され
、相互に電気的に絶縁された引出電極(24)と、を備える、推進組立体(2)と、
前記制御ユニット(4)によって前記引出電極(24)を
個別に調整可能な引出電極電圧で制御するために、前記引出電極(24)にそれぞれ割り当てられる、複数の引出電極電圧源(43)と、
を備える電界放出推進システム(1)。
【請求項2】
前記イオン放出器(222)から流れる電流、及び/又は前記引出電極(24)へと流れる電流を測定するように構成された電流測定ユニット(44)を有する、請求項1に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項3】
前記制御ユニット(4)が、前記イオン放出器(222)とそれぞれ関連付けられた前記引出電極(24)の間の電界の電界強度を、所定のイオン電流レベルに対応する決定済みの引出電極電圧となるよう制御するように構成され、
前記決定済みの引出電極電圧は、決定された電界放出推進ユニット(23)に対して、その電界放出推進ユニット(23)の電流-電圧特性を測定することによって決定され、
この電流-電圧特性の測定は、前記イオン放出器(222)を通過する放出器電流を、他の各電界放出推進ユニット(23)を同時に非作動にした状態、又は一定の電流で動作させた状態で、様々な電圧で測定することによって行われ、
前記電界放出推進ユニット(23)の放出器電流が、前記所定のイオン電流レベルに対応するように、前記引出電極電圧が設定される、請求項1又は2に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項4】
前記引出電極(24)のうちの少なくとも1つが、2つ、3つ、4つ又は5つ以上の互いに絶縁された引出電極セグメント(243)で形成され、
前記引出電極セグメント(243)は、まとまって特に環状の引出電極(24)を形成し、
前記引出電極電圧源(43)が、イオンビームの所定の方向が使用中に制御されるように、前記引出電極セグメント(243)に個々のセグメント電圧を提供するように構成され、並びに/或いは、
前記引出電極セグメント(243)に個々のセグメント電圧を提供する目的で、別個のセグメント電圧源が、イオンビームの所定の方向が使用中に調整されるように、複数の前記引出電極セグメント(243)に提供される、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項5】
各前記引出電極(24)に割り当てられた前記引出電極電圧、又は別の所定の電圧から、個々の前記セグメント電圧を生成するために、調整可能な直列抵抗器又は調整可能な分圧器が、前記引出電極セグメント(243)の各部分又は前記引出電極セグメント(243)の各々に割り当てられる、請求項4に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項6】
中和器(3)が、制御可能な強度の電子流を出力するために設けられる、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項7】
前記推進組立体(2)が、液体又は液化可能な導電性の燃料(223)のための燃料タンク(221)を有するイオン源を備え、
前記燃料(223)が、電界イオン化のため、各前記引出電極(24)に面する前記イオン放出器(222)の先端で放出され得る、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項8】
前記引出電極(24)が特に、前記イオン放出器(222)の延長方向に対して同心に配置された中央開口を備えた環状の形をなす、請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項9】
前記引出電極(24)が、引出プレート(25)によって支持され、互いに絶縁され、前記引出プレート(25)は特に非導電材料から形成される、請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項10】
各前記引出電極電圧源(43)が、調整可能な引出電極電圧を提供するために、調整可能な分圧器を備える、請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項11】
前記引出電極(24)のうちの1つ、少なくとも1つ又は各々が、全周囲又は部分的な周囲に沿って、前記イオン放出器(222)の方向に突出する導電性の第1の遮蔽構造(242)を備え、並びに/或いは、
前記引出電極(24)のうちの1つ、少なくとも1つ又は各々が、全周囲又は部分的な周囲に沿って、前記イオン放出器(222)とは反対側の方向に突出する導電性の第2の遮蔽構造(245)を備える、請求項1乃至10のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)。
【請求項12】
前記複数の電界放出推進ユニット(23)の各々ごとに、前記イオン放出器(222)と関連付けられた前記引出電極(24)との間の電界の電界強度が、調整すべき所定のイオン電流に対応する引出電極電圧となるよう調整可能であり、前記引出電極電圧は、前記複数の電界放出推進ユニット(23)のうちの対応する推進ユニットの電流-電圧特性及び前記調整すべき所定のイオン電流から得られる、請求項1乃至11のうちのいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)の較正方法であって、
前記電界放出推進ユニット(23)の各々ごとに、電流-電圧特性を測定するステップであって、前記電界放出推進ユニット(23)の前記イオン放出器(222)を通過する放出器電流を、残りの電界放出推進ユニット(23)を同時に非作動にした状態、又は一定の電流で動作させた状態で、様々な引出電極電圧で測定する、ステップと、
前記調整すべき所定のイオン電流に対応するそれぞれの前記電界放出推進ユニット(23)の放出器電流を生成するために、前記電界放出推進ユニット(23)の各々ごとに、それぞれ前記電流-電圧特性及び前記所定のイオン電流に応じて、前記引出電極電圧を制御するステップと、を含む
較正方法。
【請求項13】
前記複数の電界放出推進ユニット(23)の各々ごとに、前記イオン放出器(222)と関連付けられた前記引出電極(24)との間の電界の電界強度が、調整すべき所定のイオン電流に対応する引出電極電圧となるよう調整可能であり、前記引出電極電圧は、前記複数の電界放出推進ユニット(23)のうちの対応する推進ユニットの電流-電圧特性及び前記調整すべき所定のイオン電流から得られる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電界放出推進システム(1)の動作方法であって、
前記電界放出推進システム(1)の所定の推力ベクトルの調整が、その所定の推力ベクトルが前記電界放出推進ユニット(23)からの前記イオン電流の合算として生じるように各前記電界放出推進ユニット(23)を個々の引出電極電圧で駆動することによって行われる、
動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機のための電界放出推進に関する。更に、本発明は、電界放出推進の動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機のための推進技術は、例えば化学推進、冷ガス推進、ガスイオン推進、プラズマ推進など、複数の異なった技術が知られている。これらの推進技術は、物理上又は効率上の理由により、小型衛星に対して十分な小型化ができないという点で不利である。しかしながら、超小型衛星の使用が増加すると、高効率の適当な推進技術を提供する必要が生じる。具体的には、電界放出推進が、その数千秒という非常に高い比推力ゆえに、超小型衛星での使用に特に適している。
【0003】
一例として、非特許文献1に、複数の液体金属イオン放出器を備えた液体金属イオン源を使用する電界放出推進が開示されている。引出電極を、全液体金属イオン放出器に共通の1つしか使用していないため、個々の放出器を個別制御することができない。
【0004】
更に、製造公差に起因して、個々の放出器が同時に点火せず、無制御のシーケンスで点火する。更に各液体金属イオン放出器は個々の放出挙動を有しており、その結果、その液体金属イオン放出器の電界装置からは、通例、予測不能な推力ベクトルが発生する。
【0005】
この他に、非特許文献2により、超小型人工衛星のための電界放出推進システムが発表されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】AMRプロパルジョンズイノベーションズ(AMR Propulsions Innovations)、「IFMナノスラスタ(IFM Nano Thruster)」、データシート、2017年7月26日、http://www.propulsion.at
【文献】ボック、ディー(Bock, D.)、タージマー、エム(Tajmar, M.)、「キューブサットの姿勢と軌道制御のための超小型化FEEP推進システム(NanoFEEP)(Highly Miniaturized FEEP Propulsion System (NanoFEEP) for Attitude and Orbit Control of CubeSats)」、第67回国際宇宙会議(International Astronautical Congress)(IAC)の議事録、IAC-16-C4.6.5、2016年9月26~30日、メキシコ、グアダラハラ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、超小型衛星での使用に適し、高効率を実現し、低損失で動作する電界放出推進システム及びその動作方法を提供することである。それに加えて、推力の可変範囲が数桁に及ぶことが求められる。本発明の他の目的は、推進システムの制御された動作を可能にするために、点火シーケンスを制御し、ばらつきのある推力ベクトルを補償すること、あるいは、推力ベクトルの能動制御を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、請求項1に記載の電界放出推進システムの動作方法、電界放出推進システムの較正方法、及び従属請求項に記載の電界放出推進システムの動作方法により実現される。
【0009】
他の実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0010】
一実施形態によると、宇宙機のための電界放出推進システムが提供され、上記電界放出推進システムは、
制御ユニットと、
複数の電界放出推進ユニットを有する推進組立体であって、上記電界放出推進ユニットが、複数のイオン放出器を有するイオン源と、上記イオン放出器と関連付けられ電界装置内に配置された引出電極とを備える、推進組立体と、
上記制御ユニットによって上記引出電極を個々の引出電極電圧で制御するために、上記引出電極にそれぞれ割り当てられる、複数の引出電極電圧源と、を備える。
【0011】
上述の電界放出推進システムは、複数のイオン放出器からなる電界装置を含み、各イオン放出器には、1つの引出電極が割り当てられている。イオン放出器には、共通の放出器電圧又は共通の放出器電位が割り当てられ得る一方で、引出電極は互いに絶縁され、個々に調整可能な引出電極電圧及び個々に調整可能な引出電極電位を有する引出電極電圧源によって、それぞれ制御され得る。
【0012】
追加として、上記制御ユニットは、上記イオン放出器とそれに関連付けられた上記引出電極の間の電界の電界強度を、所定のイオン電流レベルに対応する特定の引出電極電圧となるよう調整するように構成され得る。この特定の引出電極電圧は、少なくとも1つの特定の推進ユニットに対して、その推進ユニットの電流-電圧特性を測定する較正方法によって決定される。この較正方法では、イオン放出器を通過する放出器電流を、他の各推進ユニットを同時に非作動にした状態で、引出電極とイオン放出器の間を様々な電圧差にして測定することによって、各推進ユニットの電流-電圧特性を測定し、所定のイオン電流レベルに対応する放出器電流が生成されるように、上記引出電極電圧又は引出電極電位を調整する。
【0013】
従って、上述の較正方法によって、電界放出推進ユニットの引出電極の個別制御が可能になる。この方法では、各引出電極とそのイオン放出器の間の電圧差を変化させ、それと同時に放出器電圧源からの電流を測定し、その目的は、対応するイオン放出器の特性の測定である。この結果、イオン放出器の各々ごとに、電圧に依存するイオン電流を決定できるようになるので、各引出電極電圧又は各引出電極電位をそれぞれ調整することによって、所望のイオン電流レベルを明確に設定することができる。従って、電界装置内にある各イオン放出器に、同一の放出器電圧(同一の放出器電位を有する)を割り当てることができ、個々のイオン放出器のイオン電流をそれぞれ調整するには、そのイオン放出器に割り当てられている引出電極が個々に制御され得る。各イオン放出器は同一の電位にあるため、同一の放出器電圧源又は共通の電位源で動作でき、それによって高電圧生成時の損失が低減され、システム全体の設置スペースと質量が低減される。代替として、各引出電極に対する引出電極電圧源の互いの接続と、イオン放出器に対する接続が、それらの正電位の端子によって行われ得る。やはり引出電極を個別制御することによって、推進組立体の推力及び推力方向を、より正確に調整することが可能になる。
【0014】
更に、上記イオン放出器のうちの1つ、幾つか又は全てから流れる電流、及び/又は上記引出電極へと流れる電流を測定するように構成された電流測定ユニットが、提供され得る。
【0015】
一実施形態によると、上記引出電極のうちの少なくとも1つは、2つ、3つ、4つ又は5つ以上の絶縁された引出電極セグメントで形成され得、これらの引出電極セグメントは、まとまって特に環状の引出電極を形成する。上記引出電極電圧源は、放出される上記イオンビームの所定の方向が動作中に調整されるように、上記引出電極セグメントに個々のセグメント電圧を提供するように構成され、並びに/或いは、上記引出電極セグメントに個々のセグメント電圧を提供する目的で、別個のセグメント電圧源が、上記イオンビームの所定の方向が動作中に調整されるように、複数の引出電極セグメントに提供される。
【0016】
好ましくは、各引出電極は、複数の絶縁された引出電極セグメントからなり、これらの引出電極セグメントは、異なるセグメント電圧で制御され得る。個々のセグメント電圧のレベルは、印加すべき引出電極電圧又は印加すべき引出電極電位をベースにしている。
【0017】
具体的には、セグメント電圧は、別個のセグメント電圧源か、各引出電極に割り当てられた引出電極電圧を分圧することによりセグメント電圧を生成する分圧器か、引出電極セグメントの調整可能な直列抵抗器かのいずれかによって、調整され得る。
【0018】
これにより、得られる推力ビームの、部品公差などに起因した動作中に生じ得る位置合わせ不良を、補償することが可能になる。互いに異なるセグメント電圧の選択が可能であるため、推進ユニットの部品公差の要件は大幅に緩和され得る。というのは、得られる推力ビームの位置合わせ誤差又は引出電極に対するイオン放出器の幾何学的な位置合わせ誤差が能動的に補償され得るからである。
【0019】
一定の間隔で上記較正プロセスを繰り返すことにより、長期動作中、個々のイオン放出器の望ましくないイオン放出挙動の変化を検出し、必要に応じて補償し得る。
【0020】
更に、中和器が、制御可能な強度の電子流を供給するために提供され得る。
【0021】
一実施形態によると、上記推進組立体の上記イオン源は、液体又は液化可能な導電性の燃料のための燃料タンクを備え得、上記燃料は、電界イオン化のため、各上記引出電極に面する上記イオン放出器の先端で放出され得る。
【0022】
好ましくは、上記引出電極は、上記イオン放出器の延長方向に対して同心に配置された中央開口を備えた環状の形をなす。
【0023】
一実施形態によると、上記引出電極は、引出プレートによって支持され、互いに絶縁され得る。上記引出プレートは、非導電材料でできていることが好ましい。
【0024】
更に、各上記引出電極電圧源は、調整可能な引出電極電圧を提供するために、調整可能な分圧器を有し得る。
【0025】
好ましくは、上記引出電極のうちの1つ、少なくとも1つ、幾つか又は各々が、全周囲又は部分的な周囲に沿って、上記イオン放出器の方向に突出する導電性の第1の遮蔽構造を備え、並びに/或いは、上記引出電極のうちの1つ、少なくとも1つ又は各々が、全周囲又は部分的な周囲に沿って、上記イオン放出器とは反対側の方向に突出する導電性の第2の遮蔽構造を備える。
【0026】
上述の方法は、共通の放出器電極と個別の引出電極とを備えた電界放出推進システムをベースにしており、個別の引出電極は、個々の引出電位により個別制御され得る。
【0027】
他の態様によると、上述の電界放出推進システムの較正方法が提供され、上記複数の電界放出推進ユニットの各々ごとに、上記イオン放出器とそれに関連付けられた上記引出電極との間の電界の電界強度が、調整すべき所定のイオン電流に対応する引出電極電圧となるよう設定され得、この引出電極電圧は、上記電界放出推進ユニットの電流-電圧特性と、上記複数の推進ユニットのうちの対応する推進ユニットの上記調整すべき所定のイオン電流とから得られ、上記方法は、
上記電界放出推進ユニットの各々ごとに、電流-電圧特性を測定するステップであって、上記電界放出推進ユニットの上記イオン放出器を通過する放出器電流を、残りの電界放出推進ユニットを同時に非作動にした状態、又は一定の電流で動作させた状態で、様々な引出電極電圧で測定する、ステップと、
上記調整すべき所定のイオン電流に対応するそれぞれの上記電界放出推進ユニットの放出器電流を生成するために、上記電界放出推進ユニットの各々ごとに、それぞれ上記電流-電圧特性及び上記所定のイオン電流に応じて、上記引出電極電圧を設定するステップと、を含む。
【0028】
他の態様によると、上述の電界放出推進システムの動作方法が提供され、上記複数の電界放出推進ユニットの各々ごとに、上記イオン放出器とそれに関連付けられた上記引出電極との間の電界の電界強度が、調整すべき所定のイオン電流に対応する引出電極電圧に調整可能であり、この引出電極電圧は、上記複数の電界放出推進ユニットのうちの対応する推進ユニットの電流-電圧特性及び上記調整すべき所定のイオン電流から得られ、上記電界放出推進システムの所定の推力ベクトルの設定が、その所定の推力ベクトルが上記電界放出推進ユニットからの上記イオン電流の合算として生じるように各上記電界放出推進ユニットを個々の引出電極電圧で制御することによって行われる。
【0029】
以下の図面は、様々な実施形態の詳細な説明を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】複数の推進ユニットを備える電界放出推進システムの概略図である。
【
図2】横並びに配置された推進ユニットの断面図である。
【
図4】
図1の推進システムの推進ユニットの可能な配置の図である。
【
図5】推進ユニットの較正方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7a~7cは、引出電極の分割の各変更形態の各種斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、電界放出推進システム1の構造を概略的に示している。電界放出推進システム1は、推進組立体2、中和器3、及び制御ユニット4を備える。
図2は、推進組立体2の詳細断面図である。
【0032】
図2の断面図に詳細に示されているように、推進組立体2はイオン源22のための加熱ユニット21を備え、イオン源22は、燃料223を有する燃料タンク221と、その燃料タンク221に電気的且つ流体的に接続されたイオン放出器222と、を備える。加熱ユニット21は、燃料タンク221内の燃料を液体状態にし、それを液体に保っておく働きをする。加熱ユニット21は、制御ユニット4の一部分としての加熱制御器41から電力が供給され、この加熱制御器41によって温度制御され得る。
【0033】
燃料タンク221は、例えばタンタル、レニウム、タングステン、グラファイト又はチタンなどの導電材料でできている。
図2及び
図3における推進ユニット23の詳細断面図に示されているが、イオン放出器222から電界イオン化を行うために、このイオン放出器222は、形状が特に針状、円錐又は角錐の先端を有するように構成され、導電性の液体燃料223を燃料タンク221から送り出す装置又は構成を備える。具体的には、先端まで内部に延びる流体管路224が設けられ得、この流体管路224が、イオン放出器222から電界イオン化を行うために、例えば毛細管効果などによって供給された導電性の液体燃料を、燃料タンク221から放出する。代替として、イオン放出器222は、複数の管路を有する多孔状のものであってもよく、この多孔が開口していることで、燃料223はイオン放出器222の先端まで供給され得る。イオン放出器222は、タンタル、タングステン、レニウム、チタン又はその他の耐熱性、即ち高融点の金属で形成され得る。
【0034】
上記燃料は、毛細管効果によって、イオン放出器222の流体管路224を通過する。燃料の材料としては、導電性の液体又は低融点金属、例えばガリウム、インジウム、ビスマス、鉛、金などが考慮され得る。
【0035】
各イオン放出器222の先端の上方には、それぞれの引出電極24が存在し、その引出電極24は、イオン放出器222の先端とほぼ同軸の中央開口241を有する。引出電極24は、好ましくは、引出プレート25によって支持され、例えば非導電材料で形成された引出プレート25によって、互いに絶縁される。
【0036】
燃料タンク221は、イオン放出器222に電気的に接続され、放出器電圧供給源42から高電位を得る。この放出器電圧供給源42は調整可能であり得、放出器電圧又は放出器電位を固定値に設定する。
【0037】
各引出電極24は、制御ユニット4の一部分である制御可能な引出電極電圧源43に、個々に接続される。これらの引出電極電圧源43は、個々に調整可能になっている。これは、個々の引出電極電圧を設定するため、従って、推進ユニット23の各々ごとに、イオン放出器222と引出電極24の間の個々の電界強度を設定するためである。引出電極24の各々ごとに引出電極電圧源43を分離する代替として、共通の1つの引出電極電圧源43が提供され得、引出電極24の互いに異なる電圧が、それぞれに対応して割り当てられた分圧器によって設定され得る。引出電極24ごとに個々の引出電極電圧を設定する他の選択肢も考案され得る。
【0038】
制御ユニット4の構成は特に、引出電極24に対応して割り当てられた個々のイオン放出器222からのイオン放出の点火タイミング及びレベルが制御され得るように、その引出電極24の引出電極電圧又は引出電極電位を、個々に制御するようになっている。従って、個々のイオン放出器222をオン/オフでき、イオン放出器222の各々ごとに異なった放出電流を制御することができる。放出器電位と引出電位の間の電位差は、通常+数1000ボルトである。
【0039】
動作中は、正に帯電した燃料イオンからの放出器イオン電流が推進ユニット23から放出され、そのイオン電流に起因して推進システム1が負に帯電するため、通常は中和器3によって電子流が生成、放出される。中和器3は、例えば、それ自体は周知の形で電界放出電子源又は熱電子源として構成され得る。このため、制御ユニット4は、例えば推進システム1全体の電荷を可能な限り中性に保つなどのために、それ自体は周知の形で電力を制御し中和器3に供給し得る中和器制御ユニット45を備える。
【0040】
図4は、引出電極24の配置を平面図で示している。引出電極24は、例えば、イオン放出器222の周りに同心に配置される。引出電極24の中心には、イオン放出器222からイオンビームを放出するために、イオン放出器222と同心に配置されたほぼ円形の開口241が存在する。引出電極24の配列は電界装置として提供され得、その配列では引出電極24は列状に配置され、配置密度を最大限にするために互いにずれている。
【0041】
引出電極24は、その引出電極24を定位置に保持する引出プレート25上で互いに連結されている。引出プレート25は非導電材料で形成され得、或いは引出電極24が引出プレート25上に絶縁されて取り付けられ得る。引出電極24のうちの1つ、少なくとも1つ、又は各々は、イオン放出器222に向かってその周囲に突出する導電性の第1の遮蔽構造242を備える。この第1の遮蔽構造242は、シェードの原理により、イオン放出器に面した引出プレート25の面に対する、燃料材料の堆積による連続的な被膜を防止する。これにより、動作中における、個々の引出電極24間、及び電極と燃料タンク221の間の、短絡を引き起こすことになる導電経路の形成を防止する。
【0042】
代替又は追加として、引出電極24のうちの1つ、少なくとも1つ、幾つか又は各々は、放出すべきイオンビームに向かってその周囲に突出する導電性の第2の遮蔽構造245を備え得る。この第2の遮蔽構造245は、シェードの原理により、イオン放出器222側とは反対側の引出プレート25の面に対する、燃料材料の堆積による連続的な付着物を防止する。第2の遮蔽構造245は、トーラス状に形成され得る。これにより、動作中における、個々の引出電極24間、及び電極と燃料タンク221の間の、短絡を引き起こすことになる導電経路の形成を防止する。
【0043】
更に、引出プレート25は、引出電極24と引出電極24の間に、迷路状又は蛇行状の構造、即ち引出プレート25の表面方向と直交して突出する構造及び/又は陥凹する構造を備え得、これらの構造は、引出プレート25の表面方向に沿って広がり、それによって、シェードの原理により、長期動作中における燃料材料の堆積による連続的な導電性の被膜を防止する。一例として、加熱ユニット21と引出プレート25の間の支持体が、それに対応して迷路状又は蛇行状になった形状又は段差を有し得、これらもやはり、シェードを設けることによって、連続的な被膜を防止する。
【0044】
追加として、導電性のカバープレート27が、イオン放出器側とは反対側の引出プレート25の面に、その引出プレート25と平行に任意選択で取り付けられ得る。具体的には、カバープレート27は、引出電極24の上方にあって、イオン放出器222と引出電極25の配列方向に位置する円形の開口271を備える。この円形の開口271は、具体的には、引出電極25と同じ又はそれより大きい寸法(例えば半径)を、引出プレート25の表面方向に有する。カバープレート27は、引出電極24から絶縁され得る。カバープレート27と引出電極24の間の絶縁は、絶縁スペーサ28によって確保され得、この絶縁スペーサ28は、やはり長期動作中における燃料材料の堆積による連続的な導電性の被膜を防止するために、迷路状又は蛇行状の構造を備える。カバープレート27を設けることは、電位を印加することにより環境中の粒子がイオン放出器222に到達するのを防止できることから有利である。追加として、長期動作中における、スパッタ粒子又は跳ね返ってきた燃料の、引出プレート25の上面への堆積が防止され得る。
【0045】
宇宙での動作中、カバープレート27は、推進ユニット23に対する局所的な環境プラズマの影響を防止し得る。これにより、例えば環境プラズマからの自由/熱電子がイオン放出器222へ引き寄せられることがなくなる。こういった電子は、イオン放出器に損傷を与える可能性がある。更に、カバープレート27の電位により、かかる副次的な電子流によって放出器電流が誤って測定されることがなくなる。
【0046】
制御ユニット4はまた、引出電極電圧源へと流れる電流、又は中和器3から流れてくる電流を測定するために、電流測定ユニット44を備える。
【0047】
推進システム1を動作させるには、イオン放出器222から出るイオンビームの推力ベクトルの設定を、均等な又は定義付けた推力ベクトルで行うことが望ましい。部品及び組立の公差があるため、同一の引出電極電圧を印加しても、様々に異なる推力ベクトルが発生する。
【0048】
従って、イオンビームの強度を定義付けた形で制御する方法が提供される。この方法は、引出電極電圧か、引出電極電位か、引出電極24とそれに関連付けられたイオン放出器222の間の電圧差か、のいずれかを変化させることによって、イオン放出器222とそれに割り当てられた引出電極24の間における電界の電界強度を、定義付けた形で個別調整することで実行される。引出電極電圧を設定するには、
図5のフローチャートに示されている方法が提供される。
【0049】
ステップS1で、推進ユニット23のうちの1つを選択する。ステップS2で、選択された推進ユニット23の電流-電圧特性グラフを測定する。この電流-電圧特性は、それぞれ対応する推進ユニット23の引出電極電位と放出器電位の間の電圧差を通過する電流の特性を表し、この電流は、引出電極電圧で設定されたその推進ユニット23の電界強度で発生するものである。電流-電圧特性の測定は、測定対象以外の推進ユニット23が非作動の状態で、或いはそれらの推進ユニット23が一定(既知)の電流で動作している状態(即ち作動状態)で、電流測定ユニット44が実行し、後者の状態で測定の場合、電流測定ユニット44が測定するイオン電流レベルは、作動状態にある全ての推進ユニット23のものになる。イオン電流レベルの測定は、放出器電圧供給源42から流れる電流、又はイオン源へと流れる電流を測定することによって行う。測定対象の推進ユニット23のイオン電流は、イオン源へと流れる測定電流から、他の推進ユニット23の既知のイオン電流を差し引いたものに、ほぼ対応する(即ち、測定対象外の推進ユニット23が作動状態の場合)。つまり、残りの推進ユニット23が既知の電流で動作しているならば、各推進ユニット23のイオン電流は、検出された電流から残りの推進ユニット23の電流を減算することにより決定され得る。測定ごとに、測定対象の推進ユニット23だけが作動状態にある場合は、測定電流は、放出器電位と引出電極電位の間の印加電界強度又は印加電圧差におけるイオン電流に対応する。従って、推進ユニット23の各々ごとに、電流-電圧特性が決定され得る。
図6は、かかる電流-電圧特性グラフの例を示す。
【0050】
ステップS3で、全ての推進ユニット23が測定完了したかどうかをチェックする。完了した場合は(選択肢:はい)引き続きステップS4を実行し、完了していない場合はステップS1に戻り、まだ測定していない次の推進ユニット23を測定する。このようにして、推進ユニット23の各々ごとに、電流-電圧特性を記録する。
【0051】
ステップS4で、推進ユニット23の各々ごとに、引出電極電圧を制御して、所望のイオン電流強度に対応する電界強度を設定する。
【0052】
更に、
図4を、
図7a~
図7cの様々な図と併せて参照すると、引出電極24がセグメントに分割され得る。これらの引出電極セグメント243は、例えば間隔を空けるなどによって互いに絶縁されており、組み立てられた状態で円形の引出電極24を形成する。引出電極セグメント243は、
図7a~7cの実施形態に従って配置することが可能であり、各実施形態では、引出電極24が、4つの同一の引出電極セグメント243に分割され(
図7a参照)、2つの同一の引出電極セグメント243に分割され(
図7b参照)、3つの引出電極セグメント243に分割される(
図7c参照)。引出電極24の個々の引出電極セグメント243のところでセグメント電圧を変化させることにより、イオン放出器222によって放出されるイオンビームの非対称性、即ち、イオン放出器222と引出電極24との位置合わせに対するイオンビームの経路の傾斜が、補償され得る。かかる非対称性は、推進ユニット23の部品公差及び製造公差に起因する。
【0053】
引出電極がセグメントに分割されている場合、上述の較正方法は、最初に、各引出電極セグメントに、測定に必要な引出電極電圧を印加することによって実行され得る。
【0054】
非対称性が、例えば上記の較正方法の間、又はそれとは別個の手順などで判定され得る。この目的のために、各引出電極セグメント243は、別個の電流測定機能を備え得る。各推進ユニット23が電流-電圧特性を決定するために次々に測定されて、イオンビームが形成される間、1つ又は複数の特定の引出電極電圧で、各引出電極セグメント243を通過する寄生電流が測定される。例えば、最も大きい電流が測定された引出電極セグメント243は、その方向にイオンビームを最も強く偏向する引出電極セグメント243に対応し、従ってこの引出電極セグメント243は、イオンビームの最も近くに配置されている。これで、所望の引出電極電圧(又は所望の電界強度)をベースにして、個々のセグメント電圧が制御され得るようになる。
【0055】
推進ユニット23の個々の引出電極セグメント243のうちの一部に印加するセグメント電圧を変化させることにより、それ以外の引出電極セグメント243に対して引出電極電圧を印加しながらも、イオンビームの方向を変化させることもできる。例えば、引出電極セグメント243のうちの一部でセグメント電圧を反復制御することにより、イオンビームの方向を、所望の方向、具体的にはイオン放出器222と引出電極24との配列方向に平行な方向となるよう調整することができる。事前に決定済みの設定引出電極電圧をベースにしてセグメント電圧の一部を反復制御することにより、イオンビームの強度を正確に制御することも、推進ユニット23の部品及び製造の公差を補償することもできる。
【0056】
代替として、個々のセグメント電圧の平均値が調整すべき引出電極電圧にほぼ一致するように、その調整すべき引出電極電圧によって全てのセグメント電圧が変更され得る。
【0057】
一例として、個々のセグメント電圧又はイオンビームの方向の制御は、具体的には分圧器を使用して実行され得、それぞれのセグメント電圧は、引出電極電圧から生成される。従って、分圧器、更には調整可能な分圧器によるセグメント電圧は、引出電極電圧源によって生成され得る。引出電極セグメントの各々ごとに個々の電圧源によって個別に制御することも可能である。
【0058】
一例として、
図7aの実施形態において、引出電極セグメントのうちの1つ243aで、他の引出電極セグメント243の電流と比較して高い電流が測定される場合、それに対応する、引出電極電圧からのセグメント電圧が低減され得る。この低減は、他の引出電極セグメント243によるイオンビームの燃料イオン引力の方を高めるように、調整可能な直列抵抗器を設定するか、又は調整可能な分圧器を設定することによって行う。その結果、イオンビームは、他の引出電極セグメント243の方に引きつけられるため、対応する引出電極セグメント243aから遠ざかるように偏向される。引出電極セグメント243に割り当てられた可変直列抵抗器、又は引出電極セグメント243に割り当てられた分圧器を適切に較正することにより、それに応じて推進ユニット23は較正され得る。以上のようにして、引出電極24の部品公差及び位置合わせ誤差を補償でき、引出電極セグメント243及びイオン放出器222の製造及び組み立ての精度を引き下げることができるようになる。
【0059】
上述の電界放出推進システムは、推進ユニット23を個別制御することにより動作し得る。推力ベクトルを指定する推力ベクトル制御によって、個々の推進ユニット23のイオン電流が決まる。この個々のイオン電流の制御は、各イオン電流に対応する引出電極電圧を指定することにより行われ、イオン電流に対応する引出電極電圧は、電流/電圧特性から得られる。これにより、総推力強度が各イオンビームの合算によって得られるというだけでなく、所定のモーメントが電界放出推進システムに印加される。このモーメントは、個々の推進ユニットからなる配列と、それぞれに対応するイオンビームによって生じる各推力の強度により得られる。
【符号の説明】
【0060】
1 電界放出推進システム
2 推進組立体
3 中和器
4 制御ユニット
21 加熱ユニット
22 イオン源
23 推進ユニット
24 引出電極
25 引出プレート
27 カバープレート
28 絶縁スペーサ
41 加熱制御器
42 放出器電圧供給源
43 引出電極電圧源
44 電流測定ユニット
45 中和器制御ユニット
221 燃料タンク
222 イオン放出器
223 燃料
224 流体管路
241 引出電極の中央開口
242 第1の遮蔽構造
243 引出電極セグメント
245 第2の遮蔽構造
271 カバープレートの開口