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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】標識化抗体分散液、SPFS用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20221108BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20221108BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20221108BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/543 595
G01N33/543 541B
G01N33/543 541Z
C07K16/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020507943
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012158
(87)【国際公開番号】W WO2019182130
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018056175
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】大谷 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】村山 貴紀
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-329765(JP,A)
【文献】特開平04-048266(JP,A)
【文献】特開2017-172975(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106872686(CN,A)
【文献】国際公開第2018/051863(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子の一部のジスルフィド結合を切断し、この切断により生じたチオール基に標識物質を結合させた標識化抗体と、非イオン性界面活性剤とを含む、標識化抗体分散液。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン系の界面活性剤である、請求項1に記載の標識化抗体分散液。
【請求項3】
前記非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類またはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類である、請求項1または2に記載の標識化抗体分散液。
【請求項4】
試料に含まれる抗原を、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)で検出するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の標識化抗体分散液。
【請求項5】
標識化抗体分散液100質量%中に、前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類またはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類を0.001~1質量%含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の標識化抗体分散液。
【請求項6】
前記標識物質が蛍光色素、蛍光ナノ粒子、凝集誘起発光性分子、酵素・補酵素、化学発光物質、または放射性物質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の標識化抗体分散液。
【請求項7】
前記抗体分子が抗トロポニンI(cTnI)抗体、抗トロポニンT(cTnT)抗体、抗BNP抗体、または、抗D-dimer抗体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の標識化抗体分散液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の標識化抗体分散液と、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)専用のセンサーチップとからなる、SPFS用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識化抗体分散液、およびSPFS用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療やバイオテクノロジー等の分野では、早期に疾患を発見するために、ヒトや動物の血液、尿、その他の生体試料(検体)に含まれるバイオマーカー(例えば、特定のタンパク質などの抗原)を検出、定量するための研究が広く行われている。
【0003】
一般的に、検体に含まれるバイオマーカーは極微量であり、臨床現場におけるその検出には精確性も要求される。そこで、バイオマーカーの精確な検出および定量を行うための免疫測定法が研究されている。
【0004】
免疫測定法は、抗原(バイオマーカー)を補足するための抗体、および抗原を検出するための標識物質と抗体を結合させた抗体(本発明では、標識化抗体とも記す)を用いるサンドイッチアッセイや、放射性物質による標識を用いるラジオアッセイなどが広く実施されており、特に、サンドイッチアッセイは極微量の抗原の検出に優れることから、バイオマーカーを検出、定量する上で、有用な方法となっている。
【0005】
サンドイッチアッセイを用いたバイオマーカー検出法の一つとして、リガンドとアナライトの結合を利用した表面プラズモン共鳴現象を応用し、高精度にアナライト検出を行える手法である、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS;Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)が挙げられる。
【0006】
SPFSは、リガンドを固定したセンサーチップを用いて、リガンドと結合する物質であるアナライトを定量する方法である。SPFSでは、光源より照射したレーザー光などの励起光が、センサーチップ上の金属薄膜表面で減衰全反射(ATR;attenuated total reflectance)する条件において、金属薄膜表面に表面プラズモン光(粗密波)を発生させ、励起光が有するフォトン量を数十倍~数百倍に増やすという表面プラズモン光(局在場光)の電場増強効果が利用されている。
【0007】
SPFSを用いたサンドイッチアッセイの一様態においては、アナライトに特異的に結合するリガンド(例えば抗体)を固定したセンサーチップ上の金属薄膜にアナライト(例えば抗原)を接触させることによりセンサーチップにアナライトを捕捉させる。さらに当該アナライトに特異的に結合する、蛍光物質で標識した抗体(標識化抗抗体であって該標識物質が蛍光物質であるもの。以下、蛍光標識化抗体とも称する)を接触させる。リガンドによりセンサーチップ上の金属薄膜に捕捉されたアナライトに結合した蛍光標識化物質の蛍光物質は、増強された局在場光により効率良く励起するため、この蛍光物質に由来する蛍光シグナルを検出することによって、極微量かつ極低濃度のアナライトを検出することができる。
【0008】
上述のようにSPFSを用いて、生体試料に含まれる極微量の抗原を定量するためには、アナライト(抗原)と、蛍光標識化抗体とを効率よく正確に反応させる必要がある。そのためには蛍光標識化抗体の品質が重要となり、特に一定の期間保存した後にも抗体活性が保たれる、保存安定性が高いものが求められている。
【0009】
これまで、ポリオキシエチレン(POE)ソルビタンおよびポリエチレングリコール(PEG)を用いて抗体等のタンパク質含有製剤中におけるタンパク質凝集を防ぐための研究がなされていた(例えば、特許文献1)が、当該文献で行われているのは標識化されていない通常の抗体についての研究であり、また、その凝集抑制効果は十分ではなかった。また、当該文献において標識化抗体についての研究はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2013-527832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは抗体分子に含まれるジスルフィド結合を切断することで生じたチオール基に標識物質を結合させた標識化抗体について鋭意検討を行った。その結果そのような標識化抗体は、抗体の立体構造の維持に重要なジスルフィド結合の切断によって立体構造が不安定となるため分散液とした場合に凝集や沈殿が起こりやすく、そのため通常の抗体を分散させた分散液と比べて保存安定性が低いことを見出した。
【0012】
本発明は、このような現状に鑑み、標識化抗体が好適に分散している標識化抗体分散液、および当該分散液を含むSPFS用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、例えば下記[1]~[8]に示される標識化抗体分散液およびSPFS用キットを提供する。
[1]抗体分子の一部のジスルフィド結合を切断し、この切断により生じたチオール基に標識物質を結合させた標識化抗体と、非イオン性界面活性剤とを含む、標識化抗体分散液。[2]前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン系の界面活性剤である、[1]に記載の標識化抗体分散液。
[3]前記非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、[1]または[2]に記載の標識化抗体分散液。
[4]試料に含まれる抗原を、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)で検出するための、[1]~[3]のいずれか1つに記載の標識化抗体分散液。
[5]標識化抗体分散液100質量%中に、前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類またはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類を0.001~1質量%含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の標識化抗体分散液。
[6]前記標識物質が蛍光色素、蛍光ナノ粒子、凝集誘起発光性分子、酵素・補酵素、化学発光物質、または放射性物質である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の標識化抗体分散液。
[7]前記抗体分子が抗トロポニンI(cTnI)抗体、抗トロポニンT(cTnT)抗体、抗BNP抗体、または、抗D-dimer抗体である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の標識化抗体分散液。
[8][1]~[7]のいずれか1つに記載の標識化抗体分散液と、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)専用のセンサーチップとからなる、SPFS用キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保存安定性の高い標識化抗体分散液およびSPFS用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、標識化抗体分散液中の界面活性剤の違いによる初期性能を比較した結果を示すグラフである。縦軸にS/N比を示し、横軸に界面活性剤の種類を示す。
図2図2は、標識化抗体分散液中の界面活性剤の違いによる保存性を比較した結果を示すグラフである。縦軸に30℃で5日間保存後のブランク上昇率(%)を示し、横軸に界面活性剤の種類を示す。
図3図3は、実施例3-1、比較例3-1における標識化抗体分散液を4℃で0~29日保存した場合のブランク値の変動率(%)を示した図である。縦軸にブランク値の変動率(%)を示し、横軸に保存日数を示す。
図4図4は、実施例3-2、比較例3-2における標識化抗体分散液を4℃で0~29日保存した場合のシグナル値の変動率(%)を示した図である。縦軸にシグナル値の変動率(%)を示し、横軸に保存日数を示す。
図5図5は、実施例3-3、比較例3-3における標識化抗体分散液を30℃で0~29日保存した場合のブランク値の変動率(%)を示した図である。縦軸にブランク値の変動率(%)を示し、横軸に保存日数を示す。
図6図6は、実施例3-4、比較例3-4における標識化抗体分散液を30℃で0~29日保存した場合のシグナル値の変動率(%)を示した図である。縦軸にシグナル値の変動率(%)を示し、横軸に保存日数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明について具体的に説明する。
≪標識化抗体分散液≫
本発明の標識化抗体分散液は、抗体分子の一部のジスルフィド結合(-S-S-)を切断し、この切断により生じたチオール基(-SH HS-)に標識物質を結合させた標識化抗体と、非イオン性界面活性剤とを含む、標識化抗体分散液である。
【0017】
本発明の標識化抗体分散液は、サンドイッチアッセイ等の免疫測定を行う際に用いることができる。
【0018】
サンドイッチアッセイとは、ウェルプレートやセンサーチップ等の測定領域に、あらかじめ検出対象物質に特異的に結合する物質を固相化しておき、検出対象物質を捕捉した後、続いて、検出対象物質に特異的に結合する物質に、標識物質を結合させた標識化物質を用いて検出する方法である。例えばサンドイッチアッセイの一様態として、検出対象物質としてタンパク質(抗原)、検出対象物質に特異的に結合する物質として当該検出対象物質に対する抗体、標識化物質として標識化抗体を用いて行うサンドイッチイムノアッセイが挙げられる。
【0019】
例えば前記サンドイッチイムノアッセイの具体例として、抗原が心筋トロポニンI(cTnI)である場合には、固相化しておく抗体としては、抗心筋トロポニンI抗体(抗cTnI抗体)を用いることができる。また、標識化抗体としては、抗cTnI抗体に標識物質を結合させた標識化抗体を用いることができる。この場合補足物質として用いる抗cTnI抗体と標識化抗体に用いる抗cTnI抗体とは、それぞれcTnI上の異なるエピトープを認識する抗体であることが好ましい。
【0020】
また、標識化抗体は、必ずしも一次抗体である必要は無く、二次抗体、三次抗体等のn次抗体であってもよい(nは2以上の整数、好ましくは2~4の整数である)。例えば標識化抗体として二次抗体を用いる場合においては、該標識化抗体は抗cTnI抗体を特異的に認識する坑IgG抗体であることが好ましい。
【0021】
上記サンドイッチアッセイの一様態として、例えば極微量の検出対象物質(抗原)を検出する場合によく行われる、SPFS法のような蛍光測定方法が挙げられる。SPFS法による測定の一様態としては、センサーチップの測定領域表面において補足物質により捕捉した検出対象物質を蛍光標識化して、その蛍光シグナルを検出することで抗原を測定する。このような蛍光標識化には、蛍光物質と抗体が結合した蛍光標識化抗体を用いることがある。このような蛍光標識化抗体の分散液を、本明細書では蛍光標識化抗体分散液と記す。
【0022】
本発明者らは、抗体分子の一部のジスルフィド結合を切断し、この切断により生じたチオール基に標識物質を結合させた標識化抗体は、非イオン性界面活性剤に分散させることで、標識化抗体からの標識物質の脱落、標識化抗体の断片化やその、凝集、沈殿、酸化、変性等が起こりにくくなり、その結果SPFS法による測定でのブランク値の上昇が抑制されることを見出した。
【0023】
本発明の標識化抗体分散液は、4℃で29日間保存、または30℃で14日間保存した際、保存の前後におけるSPFS法による測定におけるシグナル値の変動率が±20%以内となることが好ましい。
【0024】
ここで、シグナル値とは、例えば、SPFS法のような蛍光測定方法を行う際、検出対象物質(抗原)が含まれる検体を測定して得られる蛍光量の値である。一方、ブランク値とは、検出対象物質(抗原)が含まれない検体を測定して得られる蛍光量の値である。
【0025】
本発明の標識化抗体分散液の媒体は、緩衝液であることが、pH安定化の観点から好ましい。緩衝液である場合には、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液の中でも、体液とほぼ等張のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、HEPES緩衝生理食塩水が好ましい。
【0026】
本発明の標識化抗体分散液は、金属塩を含んでいてもよい。金属塩としては例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムが、測定対象となり得る血液等に含まれる成分であるため好ましい。
【0027】
本発明の標識化抗体分散液は、標識化抗体を0.5~10μg/mLで含むことが好ましく、1.0~5.0μg/mLで含むことがより好ましい。
【0028】
〈標識化抗体〉
本発明の標識化抗体分散液は、標識物質と抗体が結合した標識化抗体を含む。前記標識化抗体は、抗体分子の一部のジスルフィド結合を切断し、この切断により生じたチオール基に標識物質を結合させた標識化抗体を含む。
【0029】
本発明で用いられる標識化抗体は、抗体のジスルフィド結合のうち、抗体の立体構造を維持するために重要な一部のジスルフィド結合を切断することで生じたチオール基に標識物質を結合させた、標識化抗体を含む。本発明者らは、前記のような標識化抗体は立体構造が不安定なことから、断片化したり、軽鎖および標識物質が脱落したりすることで、凝集や沈殿を引き起こすことを見出した。本発明で用いられる標識化抗体は、通常は抗体のヒンジ部を構成するジスルフィド結合が切断されることにより生じたチオール基と、標識物質とが結合していることが好ましい。また、ヒンジ部以外のジスルフィド結合が切断されたチオール基と、標識物質とが結合したものであってもよい。
【0030】
なお、標識物質が後述する蛍光色素等、蛍光を発光する物質である場合、標識物質を蛍光標識物質と称することもある。
(標識物質)
本発明で用いられる標識物質は、上述するような抗体分子のジスルフィド結合に由来するチオール基に結合可能な官能基を有しているもの、または適宜公知の方法で官能基が導入されているものを、検出の目的にあわせて用いればよく、例えば、蛍光色素、蛍光ナノ粒子、凝集誘起発光性分子、酵素・補酵素、化学発光物質、もしくは放射性物質を用いることができる。
【0031】
本発明で用いられる標識物質は、反応ステップを少なくできる観点から、蛍光色素および蛍光ナノ粒子が好ましい。前記蛍光色素および蛍光ナノ粒子は、所定の励起光の照射または電界効果を利用して励起することによって蛍光を発光する物質を含むことが好ましい。ここで、蛍光は、広義的な意味を持ち、発光が持続する発光寿命の比較的長い燐光と、発光寿命が比較的短い狭義の蛍光とを包含する。
【0032】
前記蛍光色素等については、その種類に特に制限はない。
【0033】
例えば、蛍光色素としては、Alexa Fluor(登録商標)色素シリーズ(インビトロジェン(株))、フルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(Integrated DNA Technologies社)、ポリハロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株))、ヘキサクロロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株))、クマリン・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株))、ローダミン・ファミリーの蛍光色素(GEヘルスケア バイオサイエンス(株))、シアニン・ファミリーの蛍光色素、インドカルボシアニン・ファミリーの蛍光色素、オキサジン・ファミリーの蛍光色素、チアジン・ファミリーの蛍光色素、スクアライン・ファミリーの蛍光色素、キレート化ランタニド・ファミリーの蛍光色素、BODIPY(登録商標)・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株))、ナフタレンスルホン酸・ファミリーの蛍光色素、ピレン・ファミリーの蛍光色素、トリフェニルメタン・ファミリーの蛍光色素などの有機蛍光色素が挙げられる。
【0034】
また、蛍光色素は、上記有機蛍光色素に限られない。例えば、Eu、Tb等の希土類錯体系の蛍光体も用いることができる。希土類錯体は、一般的に励起波長(310~340nm程度)と発光波長(Eu錯体で615nm付近、Tb錯体で545nm付近)との波長差が大きく、蛍光寿命が通常数百マイクロ秒以上と比較的長いという特徴がある。市販されている希土類錯体系の蛍光体の一例としては、ATBTA-Eu3+が挙げられる。
【0035】
また、例えば、II-VI族化合物、III-V族化合物、またはIV族元素を成分として含有する半導体ナノ粒子や、半導体ナノ粒子をコアとし、その周囲にシェルを設けたコアシェル型の半導体ナノ粒子を用いることもできる。
【0036】
また、前記蛍光ナノ粒子は、ナノサイズの(直径が1μm以下の)粒子状の蛍光体で、1粒子で十分な輝度の蛍光を発することのできるものであれば特に制限なく用いることができる。典型的には、有機物または無機物でできた粒子を母体とし、複数の蛍光体(有機蛍光色素や半導体ナノ粒子)がその中に内包されているおよび/またはその表面に吸着している構造を有する、ナノサイズの粒子である。
【0037】
例えば、蛍光ナノ粒子としては、有機蛍光色素集積ナノ粒子および無機蛍光体(半導体)集積ナノ粒子等が挙げられる。
【0038】
また、前記凝集誘起発光性分子は、凝集して集合体を形成することで量子収率が上がることで強い蛍光を発する、または蛍光強度を増すという性質を有する蛍光物質であれば特に制限なく用いることができる。
【0039】
例えば、凝集誘起発光性分子としては、マレイミド系凝集誘起発光性分子、アミノベンゾピラノキサンテン(ABPX)系凝集誘起発光性分子、ベンゾフロ・オキサゾロ・カルバゾール系凝集誘起発光性分子、カルボラン系凝集誘起発光性分子、ローダミン系凝集誘起発光性分子、テトラフェニルエチレン系凝集誘起発光性分子、シロール系凝集誘起発光性分子、芳香環含有金属錯体系化合物、BODIPY系ホウ素イミン錯体凝集誘起発光性分子、その他のヘテロ化合物などが挙げられる。
【0040】
なお、例えば、血液(全血)を検体として分析に供する場合は、血液中の血球成分由来の鉄による吸光の影響を最小限に抑えるため、Alexa Fluor 647(インビトロジェン(株))など、近赤外領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素や蛍光ナノ粒子、凝集有機発光性分子等を用いることが望ましい。
(抗体)
本発明で用いられる抗体は、検体中に含有される抗原を特異的に認識して抗原に結合し得る抗体または抗体断片であればよく、用途に応じて適宜選択される。例えば、天然のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、遺伝子組換えにより得られるリコンビナント抗体、およびそれらの断片などが挙げられる。
【0041】
例えば、心筋梗塞等のバイオマーカーとして利用することができるトロポニンI(cTnI)、トロポニンT(cTnT)、CK-MB、ミオグロビン、H-FABP,BNP、NT-proBNP、D-dimer等を検出対象物質(抗原)とする場合は、それらを特異的に認識して結合する抗体を用いることができる。
(標識化抗体の作成方法)
本発明で用いられる標識化抗体は、標識物質と抗体とが結合している標識化抗体である。
【0042】
具体的には、例えば、前記抗体のいずれかに対して、通常は後述する還元処理により抗体分子の一部のジスルフィド結合(-S-S-)を切断し、切断されたジスルフィド結合から生じた二つのチオール基(-SH HS-)に標識物質を結合させて標識化抗体を作成することができる。
【0043】
抗体のジスルフィド結合を切断するために用いることが可能な還元剤としては、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、グルタチオン(γ-L-グルタミル-L-システイニルグリシン)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩およびシステイン、2-メルカプトエチルアミン等が挙げられる。
【0044】
前記還元処理された抗体と標識物質との結合は、緩衝液中で混合して行うことができる。その際に用いる緩衝液は、上述の標識化抗体分散液の媒体として用いられ得る緩衝液を使用することができる。
【0045】
また、本発明で用いられる標識化抗体は、一般的な免疫測定法でも用いられている蛍光物質と抗体との複合体(コンジュゲート)と同様に作製することもでき、例えば、市販のキット(例えば、Alexa Fluor タンパク質標識キット、インビトロゲン社)を用いて、添付のプロトコルに従い、蛍光物質に導入されている官能基と抗トロポニン抗体が有する官能基とを所定の試薬の存在下で反応させることにより、蛍光物質-抗トロポニン抗体の標識化抗体を作製することができる。
【0046】
(非イオン界面活性剤)
本発明の標識化抗体分散液は、前記標識化抗体を分散させた非イオン性界面活性剤を含む分散液である。
【0047】
本発明の標識化抗体分散液は、非イオン性界面活性剤を0.001~1質量%含むことが好ましく、0.05~0.5質量%含むことがより好ましく、0.1~0.3質量%含むことが特に好ましい。
【0048】
前記非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類またはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類がより好ましい。
【0049】
前記ポリオキシソルビタン脂肪酸エステルとしては、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)65、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)85等があり、特に、親水性が高いという特性からTween(登録商標)20が好ましい。
【0050】
前記ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルとしては、Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114、Triton(登録商標)X-405等があり、特に、従来から免疫反応を用いた各種アッセイにおいて一般的に用いられていることから、Triton(登録商標)X-100が好ましい。
【0051】
本発明者らは、標識化抗体分散液に非イオン性界面活性剤を含有させることにより、標識化抗体の周りに非イオン性界面活性剤が集まることで標識化抗体の酸化や変性が起こりにくくなり、保存安定性が高まると推察した。また、非イオン界面活性剤を前記範囲内の濃度で含有すると、標識化抗体の変性や断片化を抑制することが可能であり、凝集や沈殿等をより効果的に防止することができ、保存時の安定性が一層高まることを見出した。
【0052】
(検体)
本発明の標識化抗体分散液は、検出対象物質(抗原)を含む可能性のある検体についてサンドイッチイムノアッセイ等の免疫測定を行う際に用いることができる。
【0053】
前記検体は、現実に検出対象物質を含む検体であってもよいし、現実には検出対象物質を含まない検体であってもよい。また、検体を採取する対象は、典型的にはヒトであるが、ヒトの疾患のモデル動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ネコ、イヌ、ブタ、サルといったヒト以外の哺乳動物であってもよい。
【0054】
検体としては、例えば、血液、尿、髄液、唾液、細胞、組織、もしくは器官、またはそれらの調製物(例えば、生検標本)等の生体由来物質を挙げることができる。特に血液や尿は、診断マーカーとして利用できる糖タンパク質を含む可能性が高い検体であるため、本発明において用いられる検体として好ましい。
【0055】
血液、血清、血漿、尿、髄液、または唾液などの液性の検体は、そのまま検体として使用してもよく、適当な検体希釈用液により適宜希釈したものを検体として使用してもよい。また、細胞、組織、または器官などの固形または半固形の検体は、検体の体積の2~10倍程度の適当な緩衝液でホモジェナイズした懸濁液、またはその上清を、そのまま、またはさらに検体希釈用液で希釈したうえで、検体として使用することができる。
【0056】
実施形態の好適な一例では、血液を検体とする。ここで血液は、全血であってもよいし、全血から公知の手法で調製された血清または血漿であってもよい。例えば、測定を迅速に行うことを目的とする場合は全血を検体として用いることが好ましく、正確な定量を目的とする場合は、全血から遠心分離等により血球成分を除去し、血清、あるいは血漿を調製してから検体として用いることが好ましい。採血時には通常全血に抗凝固剤が添加されることが好ましく、また、全血、血清および血漿を検体として利用する際には、当該全血等を適切な濃度に希釈したり、必要な試薬等を添加したりすることが好ましい。そのため、本発明において用いる検体には必要に応じてそのような抗凝固剤、その他の試薬等が添加されていてもよい。
【0057】
(抗原)
本明細書においては、検体に含まれる検出対象物質であるタンパク質のことを抗原と記す。
【0058】
例えば、心筋梗塞等のバイオマーカーとして利用することができるトロポニンI(cTnI)、トロポニンT(cTnT)、CK-MB、ミオグロビン、H-FABP、BNP、NT-proBNP、D-dimer等が抗原として好ましく選択されることができる。これらを抗原として検出を行う場合は、それらを含み得る検体を用いることができ、また、検体中の抗原の量をより精確に測定する目的においては市販の標準抗原をコントロールとして用いることもできる。
【0059】
(表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS))
SPFSは、リガンドを固定したセンサーチップを用いて、リガンドと結合する物質であるアナライトを定量する方法である。
【0060】
SPFSを用いたサンドイッチアッセイにおいては、アナライトに特異的に結合するリガンド(例えば抗体)を固定したセンサーチップ上の金属薄膜にアナライト(抗原)を接触させることによりセンサーチップにアナライトを捕捉させ、さらに当該アナライトに特異的に結合する、蛍光物質で標識した抗体(標識化抗体であって該標識物質が蛍光物質であるもの。以下、蛍光標識化抗体とも称する)を接触させる。リガンドとして用いる抗体と蛍光標識化抗体に用いられる抗体とは共にアナライトに特異的に結合する抗体を選択する必要があるが、それぞれアナライトの異なるエピトープを認識する抗体を選択することが好ましい。
【0061】
本発明の実施形態の好適な一例としては、例えば、検体に含まれ得る検出対象物質(アナライト)として心筋梗塞等のバイオマーカー(例えばcTnI)を選択し、センサーチップ上に固定したリガンドとして当該バイオマーカーに特異的に結合する抗体(例えば坑cTnI抗体)を選択し、さらに蛍光標識化抗体として本発明の標識化抗体分散液に分散させた蛍光標識した坑cTnI抗体を用いてSPFSを行うことで検体中のアナライトの量を測定することが挙げられる。
【0062】
≪SPFS用キット≫
本発明のSPFS用キットは、標識化抗体分散液とSPFS専用のセンサーチップとからなる。本発明のSPFS用キットは、前述のサンドイッチイムノアッセイ等の免疫測定を行う際に用いることができる。
【0063】
キットを構成する標識化抗体分散液とセンサーチップの使用方法としては、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)専用のセンサーチップを、SPFS法による測定装置にセットし、標識化抗体分散液を用いて、目的の検出対象物質(抗原)を検出することができる。
【0064】
より具体的には、例えば、cTnIを検出対象物質(抗原)とする場合、測定領域にカルボキシメチルデキストラン(CMD)で親水性高分子層を形成し、そこに抗cTnI IgGモノクローナル抗体を固定した表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)専用のセンサーチップをSPFS測定装置にセットし、蛍光標識化抗体分散液を用いて、cTnIを検出することができる。
【0065】
(センサーチップ)
本発明で用いる、SPFS専用のセンサーチップは、透明支持体上の金属薄膜表面に抗体が固相化されたセンサーチップであることが好ましく、この場合、固相化された抗体を、固相化抗体とも称する。抗体を固相化する方法としては、金属薄膜表面に親水性高分子層を形成させ、その箇所に適当な濃度に調製した抗体を反応させる方法などが挙げられる。センサーチップ上に固相化する抗体は、検出対象物質である抗原に対して適宜選択する。
【実施例
【0066】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0067】
〔作製例1〕
≪SPFS用センサーチップの調製≫
屈折率〔nd〕1.72、厚さ1mmのガラス製の透明支持体(株式会社オハラ製:S-LAL 10)をプラズマ洗浄し、該支持体の片面にクロム薄膜をスパッタリング法により形成した後、その表面にさらにスパッタリング法により金属部材である金薄膜を形成した。クロム薄膜の厚さは1~3nm、金薄膜の厚さは42~47nmであった。
【0068】
こうして金薄膜が形成された支持体を、1mMに調製した10-アミノ-1-デカンチオールのエタノール溶液10mLに24時間浸漬し、金薄膜表面に測定領域を形成した。その後、当該支持体をエタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールでそれぞれ洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させた。
【0069】
≪抗体の固相化≫
分子量50万のカルボキシメチルデキストラン(CMD)を1mg/mL、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS) 0.5mM、水溶性カルボジイミド(WSC) 1mMを含むpH7.4のMES緩衝生理食塩水(MES)(イオン強度:10mM)に、前記測定領域を形成した支持体を1時間浸漬し、測定領域にCMDを固相化して親水性高分子層を形成した。その後1MのNaOH水溶液に30分間浸漬することでコハク酸エステルを加水分解させた。CMD層の平均膜厚は70nmであり、密度は5.0ng/mm2であった。
【0070】
続いて、前記支持体を、NHSを50mMと、WSCを100mMとを含むMESに1時間浸漬させた後に、抗cTnI IgG1モノクローナル抗体(560;2.5μg/mL、Hytest社製)溶液に30分間浸漬することで、支持体上の測定領域に抗体を固相化した。以下、当該抗体を固定化した測定領域も測定領域と称する。
【0071】
さらに、1質量%の牛血清アルブミン(BSA)および1Mのアミノエタノールを含むPBSにて30分間循環送液することで、測定領域への非特異的吸着防止処理を行なった。
【0072】
〔実験例1〕
実施例1および比較例1
≪標識化抗体分散液の調製≫
以下の手法で蛍光標識化抗体を作成した。
【0073】
室温で抗cTnI IgGモノクローナル抗体(19C7;Hytest社製)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に分散させて1mg/mLに調製し、抗体分散液を得た。
【0074】
蛍光色素であるCF(登録商標)660R(Biotium社製)が入ったバイアルを室温にしておき、そこに無水ジメチルスルホキシド(DMSO)を加えて軽く撹拌して分散させ、10mMに調製した。その後、短時間の遠心分離をして溶け残ったCF(登録商標)660Rをバイアル底に集め、上清を回収することで蛍光色素分散液を得た。
【0075】
続いて、前記抗体の還元処理を行った。PBSで10mMに調製したTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)塩酸塩溶液を前記抗体分散液に添加した。この際、モル比で前記抗体分散液1に対して、TCEP塩酸塩溶液10等量で混合し、室温で30分間撹拌して反応させた。
【0076】
その後、前記還元処理された抗体分散液1モルに対して、前記蛍光色素分散液10モル等量を混合し、室温で2時間攪拌して反応させた。その後、反応しなかった抗体およびCF(登録商標)660Rを限外濾過にて除去し、CF(登録商標)660R標識抗cTnI IgGモノクローナル抗体(蛍光標識化抗cTnI抗体)分散液を得た。標識率は、2.7であった。なお、標識率は、NanoDrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)の吸光光度計を用いて測定した、標識後の抗体濃度と色素濃度との比から算出した。また、SPFS法でも、標識率の確認を行った。
【0077】
上記の蛍光標識化抗cTnI抗体分散液の吸光度を測定して濃度を定量した後、異なった種類および濃度の界面活性剤を含むPBS溶液で希釈して、蛍光標識化抗cTnI抗体の濃度が5μg/mLになるように調製した。以下、蛍光標識化抗cTnI抗体分散液を蛍光標識化抗体分散液と称する。
【0078】
各実施例および比較例における、蛍光標識化抗体分散液中の界面活性剤の種類と濃度は以下のとおりである。
【0079】
実施例1-1、1-2ではそれぞれ、非イオン性界面活性剤である、Tween20(登録商標)(ナカライテスク株式会社製)が0.15質量%、TritonX-100(登録商標)(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)が0.15質量%含まれている蛍光標識化分散液を用いた。比較例1-1、1-2ではそれぞれ、両イオン性界面活性剤である、CHAPS(3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート、同仁化学研究所社製)が0.2質量%、CHAPSO(3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート、(株)同仁化学研究所社製)が0.2質量%であった。比較例1―3では、陰イオン性界面活性剤である、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)が0.1質量%含まれている蛍光標識化分散液を用いた。
【0080】
表1に、各実施例および比較例で用いた界面活性剤の種類と濃度を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
≪測定の実施≫
SPFS用センサーチップの測定領域に、市販のcTnIコントロール試薬(Biorad社製)を11ng/L含むPBS溶液を送液した。続いて、当該cTnI溶液を除去した後、Tween20を0.05質量%含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)を送液し、10分間循環させて洗浄した。その後、上記で調製した標識化抗体分散液5μg/mLを含むPBS溶液を送液し、測定領域から除去した後、Tween20を0.05質量%含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)を送液して洗浄した。
【0083】
測定領域をPBS溶液で満たしてから、レーザー光を照射して蛍光量を測定した。この測定値をシグナル値(S)とした。
【0084】
一方、cTnIを11ng/L含むPBS溶液の代わりに、cTnIを全く含まない(0ng/L)PBS溶液を送液し、それ以外は上記と同様の手順で蛍光量を測定した。この測定値をブランク値(N)とした。
≪S/N比の算出≫
各標識化抗体分散液の初期性能を示す指標として、上述のように得られたシグナル値(S)およびブランク値(N)から下記式(I)を用いてS/N比を算出した。
【0085】
(cTnI濃度 11ng/Lのシグナル値)/(cTnI濃度 0ng/Lのブランク値)・・・式(I)
≪ブランク上昇率(%)の算出≫
各標識化抗体分散液を30℃で5日間保存した場合の保存性の検討として、下記式(II)を用いて、ブランク上昇率(%)を算出した。
【0086】
{(標識化抗体分散液を30℃で5日間保存した場合のブランク値)/(標識化抗体分散液作成直後のブランク値)-1}×100・・・式(II)
表2に、それぞれの実施例および比較例で用いた標識化抗体分散液における各界面活性剤の分類、初期性能値(S/N比)および各分散液の30℃で5日間保存した場合の保存性についての結果を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
図1は、標識化抗体分散液中の界面活性剤の違いによる初期性能を比較した結果を示すグラフである。縦軸にS/N比、横軸に界面活性剤の種類を示す。
【0089】
図2は、標識化抗体分散液中の界面活性剤の違いによる保存性を比較した結果を示すグラフである。縦軸に30℃で5日間保存後のブランク上昇率、横軸に界面活性剤の種類を示す。
〔実験例2〕
実施例2および比較例2
≪標識化抗体分散液の調製≫
非イオン性界面活性剤である、Tween20とTritonX-100を、それぞれ表3に記載の量用いた以外は、実験例1と同様の手法にて標識化抗体分散液を調製した。
≪測定の実施・S/N比およびブランク上昇率(%)の算出≫
実験例1と同様に測定を行い、得られたシグナル値およびブランク値からS/N比およびブランク上昇率(%)を算出した。
【0090】
表3に、非イオン界面活性剤の種類と濃度、初期性能値(S/N比)および各分散液の30℃で5日間保存した場合の保存性についての結果を示す。
【0091】
【表3】
【0092】
〔実験例3〕
実施例3および比較例3
≪標識化抗体分散液の調製≫
還元処理された抗体分散液1モルに対して、前記蛍光色素分散液を20モル等量混合した以外は、実験例1と同様に蛍光標識化抗体分散液を調製した。なお、実施例においては蛍光標識化抗体分散液の濃度の調整において0.15%のTween20-PBSを用い、比較例においてはPBSを用いた。標識率は5.1であった。
【0093】
≪測定の実施・S/N比およびブランク上昇率(%)の算出≫
測定領域に、市販のcTnIコントロール試薬(Biorad社製)を9.5ng/L含むPBS溶液を送液したこと以外は、実験例1と同様の操作を行った。
【0094】
なお、実験例1および2と、実験例3とでは、標識率が異なるが、両者の保存性に差がないことは確認されている。この理由として、発明者は、抗体の還元条件が同じであるため、還元(標識)による抗体へのダメージが同程度であるからではないかと推察している。
【0095】
表4に、Tween20の濃度、および4℃または30℃で0~29日間保存した場合の各保存日数におけるブランク値(0ng/L)およびシグナル値(9.5ng/L)の測定結果を示す。
【0096】
【表4】
【0097】
前記ブランク値およびシグナル値を用いて、実験例1と同様にS/N比を算出した。表5に、Tween20の濃度、および4℃または30℃で0~29日間保存した場合の各保存日数におけるS/N比を示す。
【0098】
【表5】
【0099】
≪ブランク値およびシグナル値の変動率(%)の算出≫
標識化抗体分散液の保存日数が0日のブランク値を基準として、4℃または30℃で、0~29日間保存した場合の各保存日数におけるブランク値(%)を、下記式(III)を用いて、算出した。
【0100】
(標識化抗体分散液の保存日数が8~29日の各ブランク値)/(標識化抗体分散液の保存日数が0日のブランク値)×100・・・式(III)
シグナル値の変動率(%)は、上記式(III)のブランク値をシグナル値に変えて、同様に算出した。
【0101】
表6に、Tween20の濃度、および4℃または30℃で0~29日間保存した場合の各保存日数におけるブランク値およびシグナル値の変動率(%)を示す。
【0102】
【表6】
【0103】
図3~6に、上記表6に記載の、保存日数0日を基準とした場合のブランク値およびシグナル値の変動率(%)をグラフ化したものを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6