(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】導電膜形成用組成物及び導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20221108BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20221108BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/20 A
H01B13/00 503D
(21)【出願番号】P 2020510959
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2019012986
(87)【国際公開番号】W WO2019189251
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018061596
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴井 圭
(72)【発明者】
【氏名】福里 駿
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123253(JP,A)
【文献】特開2016-196705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 1/20
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物であって、
前記扁平状金属粒子は、その表面部に金属酸化物層を有しており、
前記扁平状金属粒子の厚みに対する、前記金属酸化物層の厚みの比が0.010以上0.300以下であり、
前記金属酸化物層の厚みが0.010μm以上2.000μm以下である、導電膜形成用組成物。
【請求項2】
前記扁平状金属粒子の厚みが0.20μm以上5.00μm以下である、請求項1に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項3】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における前記扁平状金属粒子の体積累積粒径D
50が0.50μm以上15.00μm以下である、請求項1又は2に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項4】
前記扁平状金属粒子の厚みに対する前記扁平状金属粒子の幅方向の長さの比が2.00以上10.00以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項5】
前記扁平状金属粒子よりも小径の小径金属粒子を更に含む、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項6】
前記扁平状金属粒子及び前記小径金属粒子の合計質量に対する前記小径金属粒子の含有量が1.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項5に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項7】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における前記小径金属粒子の体積累積粒径D
50が0.05μm以上0.50μm以下である、請求項5又は6に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項8】
前記小径金属粒子は球状である、請求項5ないし7のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項9】
前記小径金属粒子は、その表面部に金属酸化物層を有していない、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項10】
前記扁平状金属粒子及び前記小径金属粒子は銅粒子である、請求項5ないし9のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の導電膜形成用組成物を用いた導電膜の製造方法であって、
前記導電膜形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、然る後に、該塗膜に光を照射して焼成することによって導電膜を得る工程を有する、導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜形成用組成物及び導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に導電膜からなる導電パターンを形成する技術として、例えば金属粒子などの導電性粒子及び樹脂を含む組成物を用いて、基板上に所定パターンの塗膜を形成し、該塗膜中の導電性粒子を焼結させて導電膜を形成する方法が知られている。導電性粒子の焼結には、塗膜を加熱焼成する方法が一般的に用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、平均粒子径が10~100nmの微細銅粉と、体積累計粒子径D50が0.3~20.0μmの粗大銅粉と、D50が0.1~10.0μmの酸化銅粉(CuO)と、樹脂とを含有する導電膜形成用塗料が記載されている。同文献には、この導電膜形成用塗料を用いて塗膜を形成した後、光焼成を行うことによって導電膜を製造できることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の導電膜形成用塗料は、微細銅粉の含有量が多いので、光焼成時における微細銅粉の体積収縮の程度が大きく、平滑性の悪い導電膜が形成されてしまう。一方で、導電膜形成用塗料中の微細銅粉の含有量を少なくすると、銅粒子どうしの焼結が進行しづらく、結果として導電膜の抵抗率が高くなってしまう。
【0006】
したがって、本発明の課題は、平滑性に優れるとともに抵抗率が低い導電膜を形成するための導電膜形成用組成物、及び該導電膜の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明は、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物であって、
前記扁平状金属粒子は、その表面部に金属酸化物層を有しており、
前記扁平状金属粒子の厚みに対する、前記金属酸化物層の厚みの比が0.010以上0.300以下であり、
前記金属酸化物層の厚みは、0.010μm以上2.000μm以下である、導電膜形成用組成物を提供するものである。
【0008】
また本発明は、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物を用いた導電膜の製造方法であって、
前記扁平状金属粒子は、その表面部に金属酸化物層を有しており、
前記導電膜形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、然る後に、該塗膜に光を照射して焼成することによって導電膜を得る、導電膜の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、本発明に用いられる扁平状金属粒子の形態を示す概略斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)のI-I面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の導電膜形成用組成物は、扁平状金属粒子と樹脂とを含むものである。
【0011】
本発明の導電膜形成用組成物に含まれる扁平状金属粒子は、該組成物から形成された導電膜に導電性を付与するものである。扁平状金属粒子は、焼成前から導電性を有していてもよく、あるいは焼成によって化学変化して導電性を発現し得る物質でもよい。
【0012】
このような金属粒子としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、スズ、インジウム、ガリウム、アルミニウム、パラジウム、タンタル及びニオブ並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる合金の粒子が挙げられる。これらのうち、入手の容易さ及び高い導電率の観点から、金属粒子として銅粒子を用いることが好ましい。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、扁平状金属粒子が、不可避不純物を含有することは許容される。
【0013】
図1(a)に示すように、扁平状金属粒子1は、その形状が扁平な薄片状(プレート状)となっている。扁平状金属粒子1は、該粒子の主たる表面をなす一対の板面P1と、該板面P1に概ね直交する側面P2とを有する。そして、扁平状金属粒子1は、扁平状金属粒子1の幅方向の長さD1と、扁平状金属粒子の厚みT1とを有する。また、扁平状金属粒子1は、幅方向の長さD1よりも厚みT1が小さくなっている。板面P1及び側面P2は平面であることを要せず、曲面や凹凸面であってもよい。また、板面P1の平面視形状は円形であることを要せず、不定形を含む他の形状であってもよい。
【0014】
平滑性の高い導電膜を得る観点から、扁平状金属粒子の厚みT1は、0.20μm以上5.00μm以下であることが好ましく、0.30μm以上3.00μm以下であることが更に好ましい。扁平状金属粒子の厚みT1は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0015】
図1(b)に示すように、扁平状金属粒子1は、その粒子の表面部に該金属2の酸化物からなる層3(以下、これを「金属酸化物層3」ともいう。)を有している。金属酸化物層3は、扁平状金属粒子の表面の少なくとも一部を構成している。金属酸化物層3は、扁平状金属粒子の表面部に不連続に存在しているか、又は該表面部の全域に満遍なく連続して存在している。前者の場合、扁平状金属粒子1の表面部は、下地である金属2からなる部位と金属酸化物層3の部位とから構成される。後者の場合、扁平状金属粒子1の表面部は、該表面部の全域が金属酸化物層3からなり、該金属2は粒子の表面に露出していない状態になっている。言い換えると、後者の場合における扁平状金属粒子1は、金属2からなる芯部と、該芯部を完全に覆うように該芯部上に存在している金属酸化物層3とからなる。
【0016】
金属酸化物層は、扁平状金属粒子を構成する金属元素の酸化物から形成されている。金属酸化物層を形成する金属の酸化物は、扁平状金属粒子の構成金属元素に依存するが、例えば酸化金、酸化銀、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、酸化パラジウム、酸化タンタル及び酸化ニオブ、並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物の混合物及び複合酸化物が挙げられる。扁平状金属粒子として、例えば扁平状銅粒子を用いた場合、該粒子の表面部に存在する金属酸化物層は酸化銅からなることが好ましい。
【0017】
光焼成時に、金属酸化物層を構成する金属酸化物を還元して金属化させるとともに、扁平状金属粒子どうしの焼結を進行させて、低抵抗な導電膜を得る観点から、扁平状金属粒子の厚みT1に対する金属酸化物層の厚みT2の比(T2/T1)(
図1(b)参照)は、0.010以上0.300以下であることが好ましく、0.020以上0.270以下であることがより好ましく、0.030以上0.250以下であることが更に好ましい。
【0018】
同様の観点から、金属酸化物層の厚みT2は、T2/T1の比率を満たすことを条件として、0.010μm以上2.000μm以下であることが好ましく、0.020μm以上1.800μm以下であることがより好ましく、0.030μm以上1.500μm以下であることが更に好ましい。金属酸化物層の厚みは、例えば後述する実施例に記載の方法で測定することができる。また、当該方法における解析条件は対象とする金属に応じて適宜変更することができる。
【0019】
なお、本明細書における「金属酸化物層」は、例えば後述する製造方法又は実施例に記載の方法によって酸化処理等を行って、意図的に形成させるものである。したがって、自然酸化等の不可避的な酸化によって形成された金属酸化物層は、本明細書における「金属酸化物層」ではない。詳細には、扁平状金属粒子においては、扁平状金属粒子の厚みT1に対する金属酸化物層の厚みT2の比(T2/T1)が0.010未満であり、且つ扁平状金属粒子における金属酸化物層の厚みT2が0.010μm未満であるものは、自然酸化等の不可避的な酸化によって形成された金属酸化物層と定義する。
【0020】
金属酸化物層を有する扁平状金属粒子を用いることによって、平滑性が高く、低抵抗な導電膜が得られる理由を、本発明者は以下の(1)及び(2)のように推測している。
【0021】
(1)扁平状金属粒子は、その形状に起因して、光焼成時においては、粒子の板面方向にはさほど収縮しないが、粒子の厚み方向に主に収縮する。その結果、導電膜は、面方向にはさほど収縮せず、主に厚み方向に収縮するように形成される。そのため、導電膜の表面にうねりが生じ難く、平滑な導電膜を形成することができる。
【0022】
(2)また、本発明の扁平状金属粒子は、表面部に特定の厚みの金属酸化物層が設けられている。一般に、金属酸化物は、同種の金属と比較して光吸収率が高い。そのため、本発明の扁平状金属粒子は、金属酸化物層を有しない扁平状金属粒子と比較して、金属酸化物層が設けられていることによって、光焼成時における光吸収率が向上する。光吸収率が向上することによって、発生するエネルギーも増大し、またそれに伴って、粒子どうしの界面で焼結が首尾よく進行するため、低抵抗な導電膜を形成することができる。
【0023】
平滑性が高く、且つ低抵抗な導電膜を得る観点から、扁平状金属粒子は、その粒径が、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.50μm以上15.00μm以下であることが好ましく、0.60μm以上12.50μm以下であることが更に好ましく、0.80μm以上12.00μm以下であることが一層好ましい。同様の観点から、扁平状金属粒子は、その粒度分布曲線においてピークを1つ有するものであってもよく、あるいは2つ以上のピークを有するものであってもよい。体積累積粒径D50は、例えば日機装社製マイクロトラックMT-3000を用いて測定することができる。前処理としては、測定対象となる扁平状金属粒子と界面活性剤とを馴染ませて試料とした後、この試料と分散剤を含有する水溶液とをビーカーに加え、超音波にて分散させる方法が挙げられる。詳細には、0.1gの測定試料を、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20mg/L水溶液100mLと混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US-300T)で10分間分散させ、その後、上述したマイクロトラックMT-3000を用いて、体積累積粒径D50を測定する。
【0024】
扁平状金属粒子は、該粒子の幅方向の長さD1と該粒子の厚みT1との比(D1/T1)(
図1(a)参照)が2.00以上10.00以下であることが好ましく、2.20以上8.00以下であることがより好ましく、2.50以上5.00以下であることが更に好ましい。D1/T1がこの範囲にあることによって、平滑性が高く、且つ低抵抗な導電膜を形成させることができる。
【0025】
上述した粒子の幅方向の長さD1と厚みT1との比(D1/T1)は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)の観察像から測定することができる。具体的には、まず、エタノールなどの分散媒に扁平状金属粒子を添加し、超音波分散機にて分散させた後、所定の基材に塗布、乾燥させて、塗膜を形成する。次に、塗膜を樹脂で固定化した後、当該塗膜をその厚み方向に切断して、切断面をSEMで観察する。そして、任意の100個の扁平状金属粒子について、各粒子の幅方向の長さD1と厚みT1とを測定し、得られた測定値から個々の粒子のD1/T1比を計算した後、それらの算術平均値を算出することによって得ることができる。なお、粒子の幅方向の長さD1とは、当該切断面において観察された粒子に着目したときに、板面P1と水平な面を面方向として、側面P2の平面像(二次元像)における横方向(面方向)の最大長さのことであり、厚みT1とは、平面像における縦方向(厚み方向)の最大長さのことである。
【0026】
導電膜形成用組成物は、上述のとおり、樹脂が含まれている。本発明における樹脂は、扁平状金属粒子を分散させるためのビヒクルとして使用されるものであり、また塗膜の形成のために用いられるものである。この目的のために、樹脂として塗膜形成能を有する有機高分子化合物が好適に用いられる。有機高分子化合物としては、例えばポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;エチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース及びエチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系材料;アルキッド樹脂;メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体及びブチルメタクリレート樹脂等のアクリル酸若しくはメタクリル酸又はこれらのエステル類を主成分とするアクリル系の主鎖を備えた種々のアクリル系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール及びα-メチルスチレン重合体などのビニル系樹脂;テルペン樹脂及びテルペンフェノール系樹脂、芳香族系石油樹脂、水添石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂等の石油系樹脂、ポリブタジエン系樹脂;ポリイソプレン系樹脂;ポリエーテル系樹脂;エチレンオキサイド系ポリマーなどが挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
樹脂は、導電膜形成用組成物に含まれる金属粒子(扁平状金属粒子、又は後述するように扁平状金属粒子以外の金属粒子を含有する場合には全ての金属粒子をいう。以下同様とする。)の全量100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下配合されることが好ましく、0.5質量部以上15.0質量部以下配合されることがより好ましく、1.0質量部以上10.0質量部以下配合されることが更に好ましい。樹脂の配合量をこの範囲内にすることで、導電膜形成用組成物の塗膜の形成や、導電膜の形成を首尾よく行うことができる。
【0028】
前記の樹脂は、一般的に、有機溶媒に溶解させて使用される。有機溶媒としては、例えばエチルカルビトールアセテート、ターピネオール、エチルベンゼン、αテルピネン、ミルセン、ジヒドロターピニルアセテート単体又はジヒドロターピニルアセテートとジヒドロターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ペンタンジオール、リモネン、イソボルニルフェノール、イソボルニルシクロヘキサノールなどを用いることができる。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
有機溶媒は、導電膜形成用組成物に含まれる金属粒子の全量100質量部に対して、1.0質量部以上50.0質量部以下配合されることが好ましく、3.0質量部以上45.0質量部以下配合されることがより好ましく、5.0質量部以上40.0質量部以下配合されることが更に好ましい。有機溶媒の配合量をこの範囲内にすることで、導電膜形成用組成物の塗膜の形成や、導電膜の形成を首尾よく行うことができる。
【0030】
本発明の導電膜形成用組成物は、扁平状金属粒子に加えて、該粒子よりも小径の金属粒子(以下、この粒子を小径金属粒子ともいう。)を更に含むことが好ましい。小径金属粒子は小径であることに起因して、その体積は小さく、扁平状金属粒子と比較して焼結し易い。そのため、小径金属粒子が導電膜形成用組成物に含まれることによって、小径金属粒子が扁平状金属粒子どうしの間に入り込み、また扁平状金属粒子間に存在している小径金属粒子を介して扁平状金属粒子どうしが焼結することにより、より低抵抗な導電膜を焼結形成させることができる。
【0031】
なお、「小径」とは、粒子のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50を比較したときに、小径金属粒子の体積累積粒径D50が、扁平状金属粒子の体積累積粒径D50よりも小さいこと、又は、扁平状金属粒子及び小径金属粒子を含む導電膜形成用組成物を用いて上述と同様の方法で塗膜を形成した後に、当該塗膜をその厚み方向に切断して、切断面をSEMで観察した場合において、塗膜中の小径金属粒子の幅方向(面方向)の長さが、扁平状金属粒子の幅方向(面方向)の長さD1よりも小さいことのいずれかを指す。
【0032】
小径金属粒子は、扁平状金属粒子と同様に、該組成物から形成された導電膜に導電性を付与可能なものである。小径金属粒子は、焼成前から導電性を有していてもよく、あるいは焼成によって化学変化して導電性を発現し得る物質でもよい。
【0033】
このような小径金属粒子としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、スズ、インジウム、ガリウム、アルミニウム、パラジウム、タンタル及びニオブ並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる合金の粒子が挙げられる。小径金属粒子は、扁平状金属粒子と同種の又は異なる金属を用いることができる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、小径金属粒子が、不可避不純物を含有することは許容される。
【0034】
導電膜の導電率を高める観点から、小径金属粒子及び扁平状金属粒子は同種の金属を用いることが好ましく、小径金属粒子及び扁平状金属粒子はともに銅粒子を用いることが一層好ましい。
【0035】
小径金属粒子は、その形状が例えば球状、扁平状(プレート状やフレーク状)及び繊維状等であり得る。小径金属粒子は、これらの形状のうちの1種であってもよく、あるいは2種以上の組み合わせであってもよい。導電膜形成用組成物における小径金属粒子の混合性及び分散性を高める観点から、小径金属粒子は球状であることが好ましい。なお、「球状」とは、完全な球形状と、完全な球形状ではないが球として認識可能な形状(略球状)との少なくとも1種を包含する。
【0036】
焼結時の導電膜の主な収縮方向を膜の厚み方向とするとともに、光焼成時における小径金属粒子の飛散を防ぎ、平滑性が高い導電膜を得る観点と、低抵抗な導電膜を得る観点とから、扁平状金属粒子及び小径金属粒子の合計質量に対する小径金属粒子の含有量が、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上18.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
平滑性が高く、且つ低抵抗な導電膜を得る観点から、小径金属粒子は、その粒径が、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.05μm以上0.50μm以下であることが好ましく、0.06μm以上0.45μm以下であることが更に好ましく、0.07μm以上0.40μm以下であることが一層好ましい。同様の観点から、小径金属粒子は、その粒度分布曲線においてピークを1つ有するものであってもよく、あるいは2つ以上のピークを有するものであってもよい。小径金属粒子の体積累積粒径D50は、扁平状金属粒子と同様の前処理及び測定装置を用いて測定することができる。
【0038】
小径金属粒子の幅方向(面方向)の長さや厚み、又は小径金属粒子が球状の場合において、粒径をSEMによって測定する場合には、扁平状金属粒子及び小径金属粒子を含む導電膜形成用組成物を用いて上述と同様の方法で塗膜を形成した後に、当該塗膜をその厚み方向に切断して、切断面をSEMで観察する。そして、任意の100個の小径金属粒子について測定し、それらの算術平均値を算出することによって得ることができる。
【0039】
小径金属粒子は、その表面部に該金属の酸化物層(金属酸化物層)を有していてもよく、金属酸化物層を有していなくてもよい。小径金属粒子の表面部に金属酸化物層を有している場合、金属酸化物層によって光焼成時における光吸収率が向上し、発生するエネルギーが増大するため、小径金属粒子が飛散しやすくなり、結果として平滑性の高い導電膜が得られにくくなることがある。そのため、光焼成時における小径金属粒子の飛散を防ぎ、導電膜の平滑性を一層向上させる観点から、小径金属粒子は、その表面部に金属酸化物層を有しないことが好ましい。なお、表面部に金属酸化物層を有しない小径金属粒子とは、自然酸化等の不可避的な酸化によって形成された金属酸化物層を有する小径金属粒子を包含する。詳細には、小径金属粒子の体積累積粒径D50に対する該粒子の金属酸化物層の厚みT3の比(T3/D50)が0.020以下であり、且つ小径金属粒子における金属酸化物層の厚みT3が0.010μm以下であるものは、自然酸化等の不可避的酸化によって形成された金属酸化物層と定義する。つまり、表面部に金属酸化物層を有しない小径金属粒子とは、意図的な酸化処理を受けていないものを指す。
【0040】
導電膜形成用組成物には、上述の各成分に加えて、必要に応じ他の成分を配合することもできる。そのような成分としては例えば光重合開始剤、紫外線吸収剤、増感剤、増感助剤、重合禁止剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、消泡剤、有機又は無機の沈殿防止剤などが挙げられる。
【0041】
以上は本発明の導電膜形成用組成物に関する説明であったところ、以下に導電膜形成用組成物の製造方法を説明する。導電膜形成用組成物の製造方法は、原料金属粒子の表面部に金属酸化物層を形成して扁平状金属粒子を製造する工程(金属酸化物層形成工程)と、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物を調製する工程(調製工程)とに大別される。
【0042】
まず、原料金属粒子の表面部に金属酸化物層を形成する(金属酸化物層形成工程)。金属酸化物層を形成するためには、例えば原料金属粒子として扁平状のものを用いて、該原料金属粒子を酸化処理して該粒子表面部に金属酸化物層を直接形成させたり、該原料金属粒子の表面部に金属の酸化物をコーティングして層状に形成させたりすることができる。
【0043】
また、本工程では、上述の方法に代えて、球状の原料金属粒子の表面に、酸化処理又はコーティング処理によって金属酸化物層を形成した後、当該粒子をプレスして粒子の形状を扁平化させることで、金属酸化物層を有する扁平状金属粒子を製造することもできる。金属酸化物層の製造効率の向上の観点から、扁平状の原料金属粒子を酸化処理して該粒子の表面部に金属酸化物層を直接形成させることが好ましい。
【0044】
本工程に用いられる酸化処理の処理条件としては、例えば以下の条件で加熱することができる。詳細には、雰囲気として大気下で行うことができ、加熱温度は、好ましくは50℃以上300℃以下、更に好ましくは60℃以上250℃以下とすることができる。また加熱時間は、好ましくは0.05時間以上24時間以下、更に好ましくは0.1時間以上12時間以下で行うことができる。このような条件とすることで、金属酸化物層の厚みが特定の範囲であり、且つ原料金属粒子の表面の全域に金属酸化物層が満遍なく連続して存在する扁平状金属粒子を効率よく製造することができる。この場合、原料金属粒子に用いられる金属種と、金属酸化物層を形成する金属種は同一のものとなる。
【0045】
球状の原料金属粒子から金属酸化物層を有する扁平状金属粒子を製造する際におけるプレス圧は、好ましくは5MPa以上700MPa以下、更に好ましくは35MPa以上600MPaとすることができる。このようなプレスは、例えばレシプロカル方式のプレス機やロールプレス機等の装置を用いて行うことができる。
【0046】
次いで、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物を調製する(調製工程)。本工程で調製する導電膜形成用組成物は、扁平状金属粒子及び樹脂に加えて、必要に応じて有機溶媒や、小径金属粒子、他の成分等を含んでいてもよい。
【0047】
導電膜形成用組成物は、上述のとおり、扁平状金属粒子及び樹脂と、必要に応じて有機溶媒や小径金属粒子等とを混合して調製することができる。混合に用いられる混合装置としては、例えば、ロール混練装置、泡とり混練機、ミキサー等を用いることができる。このように調製された導電膜形成用組成物は、一般に、ペーストやインク等の流動性を有する状態で用いられる。
【0048】
小径金属粒子の表面部に金属酸化物層を形成する場合には、調製工程前に、小径の原料金属粒子に対して酸化処理を行うこともできる。酸化処理における処理条件(雰囲気、加熱温度及び加熱時間)は、例えば大気下、60℃以上250℃以下、及び0.1時間以上15時間以下でそれぞれ行うことができる。
【0049】
続いて、以下に本発明の導電膜の製造方法を説明する。本発明の導電膜の製造方法は、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)と、塗膜に光を照射して焼成する工程(光焼成工程)とに大別される。なお、以下の説明では、扁平状金属粒子と小径金属粒子とを総称して、単に「金属粒子類」ともいう。
【0050】
まず、扁平状金属粒子と樹脂とを含む導電膜形成用組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する(塗膜形成工程)。本工程で調製する導電膜形成用組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでいてもよい。導電膜形成用組成物は、一般に、ペーストやインク等の流動性を有する状態で用いられるので、基材上に塗布可能な形態となっている。
【0051】
塗膜の形成方法は、組成物の性状や塗膜のパターン等に応じて適切な方法が採用される。塗膜の形成方法としては、例えばスクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法、転写印刷法、レーザー印刷法、ゼログラフィー印刷法、パッド印刷法、スピンコート法、キャスト法、ディップコート法、スプレーコート法、ディスペンサー法等が挙げられる。
【0052】
導電膜形成用組成物が塗布される基材としては、例えば各種合成樹脂フィルム、ガラスエポキシ基板、フェノール樹脂基板、液晶ポリマー、グリーンシート、セラミックス、ガラス板及び紙などが挙げられる。合成樹脂としては、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート及びシクロオレフィンポリマーなどが挙げられる。
【0053】
基材の一面上に前記組成物の塗膜が形成されたら、該塗膜を予備乾燥させることが好ましい。予備乾燥は例えば大気中又は不活性ガス雰囲気中で行うことができる。乾燥条件は、塗膜の構成成分及び基材の耐熱性にもよるが、温度は一般に50℃以上250℃以下であることが好ましく、60℃以上230℃以下であることが更に好ましく、70℃以上200℃以下であることが一層好ましい。この温度範囲で予備乾燥を行うことにより塗膜の保形性を高めることができる。そのことに起因して、次の工程である圧縮工程の際に、塗膜が幅方向に拡がりにくくなり、主に厚み方向に圧縮することになるので、良質な導電膜を得ることができる。予備乾燥の時間は、予備乾燥の温度が上述の範囲であることを条件として、0.1時間以上5時間以下であることが好ましく、0.2時間以上3時間以下であることが更に好ましい。
【0054】
このようにして塗膜の予備乾燥が完了したら、該塗膜をその厚み方向に圧縮する工程を更に行うことが好ましい。塗膜を圧縮することによって塗膜の密度が上昇し、その結果、後述する光焼成工程において、金属粒子類の過剰な動きが抑制されるため、塗膜中からの金属粒子類の飛散が効果的に防止される。それによって、良質な導電膜を得ることができる。
【0055】
光焼成工程における塗膜中からの金属粒子類の飛散を一層効果的に抑制する観点から、塗膜の圧縮の程度は、厚み方向への圧縮率が好ましくは25%以上80%以下、更に好ましくは30%以上70%以下、一層好ましくは30%以上60%以下に設定する。圧縮率(%)は{(圧縮前の塗膜の厚み-圧縮後の塗膜の厚み)/圧縮前の塗膜の厚み}×100から算出される。圧縮前の塗膜の厚みとは、圧縮直前の塗膜の厚みのことであり、上述した予備乾燥を行うときは、予備乾燥後であって、圧縮直前の塗膜の厚みのことである。塗膜の厚みは、マイクロメータ又はノギス等によって測定される。
【0056】
塗膜を圧縮するための手段としては、基材の種類に応じ適切なものが用いられる。例えばレシプロカル方式のプレス機やロールプレス機などを用いることができる。圧縮時の圧力は、塗膜の圧縮率が上述の範囲となるように調整すればよく、一般に5MPa以上700MPa以下であることが好ましく、35MPa以上600MPa以下であることが更に好ましく、70MPa以上430MPa以下であることが一層好ましい。
【0057】
塗膜の圧縮は、該塗膜を構成する組成物に含まれる樹脂の貯蔵弾性率が100MPa以下となる温度で行うことが好ましい。このような温度条件で塗膜の圧縮を行うと、樹脂が適度に流動するため、塗膜中に存在する空隙を一層埋めることができる。その結果、光焼成工程において、該塗膜に含まれる金属粒子類の過剰な動きが一層抑制されるため、塗膜中からの金属粒子類の飛散が効果的に防止されることに加えて、金属粒子類の焼結性が向上し、得られる導電膜の低抵抗化を一層図ることができる。この観点から、塗膜の圧縮時の樹脂の貯蔵弾性率は、80MPa以下であることが更に好ましく、70MPa以下であることが一層好ましい。なお、塗膜の圧縮時の樹脂の貯蔵弾性率の下限に特に制限はないが、一般的には5MPa程度が好ましく、中でも10MPa程度であることが好ましい。
【0058】
樹脂の貯蔵弾性率が室温において100MPa以下である場合には、塗膜の圧縮は室温で行うことができる。樹脂の貯蔵弾性率が室温において100MPa超である場合には、塗膜の圧縮は、樹脂の貯蔵弾性率が100MPa以下になるまでに加温した状態で行うことが好ましい。樹脂の貯蔵弾性率は動的粘弾性測定(DMA)によって求めることができる。また、樹脂の貯蔵弾性率が室温において100MPa超である場合、樹脂の貯蔵弾性率が100MPa以下となる温度は、樹脂を加温しながら、樹脂の貯蔵弾性率を測定することによって求めることができる。
【0059】
最後に、塗膜に光を照射して焼成する(光焼成工程)。光焼成工程においては、塗膜に対して所定波長の光を照射する。光の照射は、パルス光の照射とすることが、温度制御を容易に行うことができるために好適である。パルス光とは、光照射期間が短時間の光であり、光照射を複数回繰り返す場合は第一の光照射期間と第二の光照射期間との間に光が照射されない期間を有する光照射のことである。1回の光照射期間内で光の強度が変化してもよい。
【0060】
パルス光のパルス幅は、5μs以上1s以下であることが好ましく、20μs以上10ms以下であることが更に好ましい。パルス光の照射は単発でもよく、あるいは複数回の繰り返しでもよい。複数回の繰り返し照射を行う場合、照射間隔は10μs以上30s以下であることが好ましく、20μs以上10s以下であることが更に好ましい。
【0061】
光焼成工程で用いられる光源としては、光の照射によって扁平状金属粒子が光吸収可能な波長の光を発するものが用いられる。例えばキセノンフラッシュランプなどの公知の光源を用いることができる。キセノン光は200nm以上800nm以下の波長範囲をカバーするスペクトルを有する。キセノンフラッシュランプを使用する場合、パルス幅は5μs以上1s以下の範囲で、且つパルス電圧は1600V以上3800V以下の範囲で最適な条件を設定することができる。
【0062】
光焼成によって生じた導電膜は、必要に応じて、更に後工程に付すことができる。後工程としては、例えば圧縮処理が挙げられる。光焼成後の導電膜の内部には、塗膜に含まれていた有機溶媒等が揮発することによって生じたボイドが多く存在する。このボイドを低減するように導電膜を圧縮すれば導電性が向上する。また、導電膜を圧縮処理することで、導電膜と基材との密着性が向上するという利点もある。導電膜の圧縮には例えばロールプレス機を用いることができる。
【0063】
このようにして得られた導電膜は、平滑性が高く、且つ金属粒子類どうしが緻密に焼結した低抵抗のものとなる。したがって、この導電膜は種々の電気回路や電子回路として好適に用いることができる。あるいはRFIDのタグやアンテナなどとしても用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0065】
〔実施例1〕
原料金属粒子としてプレート状銅粒子(体積累積粒径D50=3.90μm、粒子の幅方向の長さD1/厚みT1=3.54、粒子の厚みT1=1.27μm;三井金属鉱業(株)製)を用いた。このプレート状銅粒子を大気下、200℃で18時間にわたり酸化処理を行い、粒子表面の酸化を行って、プレート状銅粒子の表面に酸化銅層が形成された扁平状銅粒子を製造した。扁平状銅粒子の厚みT1(μm)に対する酸化銅層の厚みT2(μm)の比(T2/T1)は、0.230であった。
【0066】
次いで、上述した扁平状銅粒子90.0部、小径金属粒子として球状の小径銅粒子(体積累積粒径D50=0.20μm、SEM観察による粒径=0.20μm;三井金属鉱業(株)製)10.0部、樹脂としてポリアミド樹脂(T&K TOKA製、TPAE-826-5A)4部並びに有機溶媒としてターピネオール17.5部及びリモネン7.5部を、3本ロール混練機を用いて混練してペースト状の導電膜形成用組成物を得た。なお、小径銅粒子には酸化処理を行っておらず、小径銅粒子の体積累積粒径D50(μm)に対する該粒子の酸化銅層の厚みT3(μm)の比(T3/D50)は0.005であった。
【0067】
得られた導電膜形成用組成物を、基材である厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムの一面に、スクリーン印刷によって塗布し、厚さ50μmの塗膜を形成した。塗膜のサイズは1cm四方とした。この塗膜を大気下、110℃で30分間にわたり予備乾燥させた後、塗膜を25℃まで冷却させた。次いで、表面に離型フィルムを配して塗膜を保護し、同温度で215MPaの圧力にて、大気下で圧縮した。圧縮には油圧プレス機を用いた。その後、塗膜を光焼成工程に付した。光焼成にはキセノンフラッシュランプを用いた。パルス幅は1.25ms、パルス電圧は2500~3000Vに設定した。このようにして得られた導電膜の表面に離型フィルムを配して導電膜を保護し、油圧プレス機を用いて、215MPaの圧力で圧縮する後工程を施して、実施例1の導電膜を製造した。
【0068】
〔実施例2〕
プレート状銅粒子の酸化処理条件を、大気下、160℃、1時間に変更したほかは、実施例1と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。本実施例における扁平状銅粒子は、該粒子の厚みT1(μm)に対する酸化銅層の厚みT2(μm)の比(T2/T1)は、0.150であった。
【0069】
〔実施例3〕
プレート状銅粒子の酸化処理条件を、大気下、160℃、15分に変更したほかは、実施例1と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。本実施例における扁平状銅粒子は、該粒子の厚みT1(μm)に対する酸化銅層の厚みT2(μm)の比(T2/T1)は、0.030であった。
【0070】
〔実施例4〕
扁平状銅粒子を99.0部とし、球状の小径銅粒子を1.0部用いた以外は実施例2と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。
【0071】
〔実施例5〕
扁平状銅粒子を95.0部とし、球状の小径銅粒子を5.0部用いた以外は実施例2と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。
【0072】
〔実施例6〕
扁平状銅粒子を80.0部とし、球状の小径銅粒子を20.0部用いた以外は実施例2と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。
【0073】
〔実施例7〕
原料金属粒子としてプレート状銅粒子(体積累積粒径D50=0.89μm、粒子の幅方向の長さD1/厚みT1=2.58、粒子の厚みT1=0.42μm;三井金属鉱業(株)製)を用いた。このプレート状銅粒子を大気下、160℃で30分にわたり酸化処理を行い、粒子表面の酸化を行って、プレート状銅粒子の表面に酸化銅層が形成された扁平状銅粒子を製造した。当該扁平状銅粒子を100部とし、小径銅粒子を含有しなかった(0部)以外は実施例1と同様に導電膜を製造した。扁平状銅粒子の厚みT1(μm)に対する酸化銅層の厚みT2(μm)の比(T2/T1)は、0.180であった。
【0074】
〔実施例8〕
実施例4で用いた球状の小径銅粒子に対して大気下、110℃で30分にわたり酸化処理した以外は、実施例4と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。つまり、小径銅粒子として、酸化処理を行った球状の小径銅粒子を用いた。小径銅粒子の体積累積粒径D50(μm)に対する該粒子の酸化銅層の厚みT3(μm)の比(T3/D50)は0.040であった。
【0075】
〔実施例9〕
基材として紙を用いた以外は実施例2と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。
【0076】
〔比較例1〕
実施例1において、プレート状銅粒子に対して酸化処理を行わなかった以外は実施例1と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。つまり、扁平状銅粒子として、酸化処理をしていないプレート状銅粒子を用いた。扁平状銅粒子の厚み(μm)に対する酸化銅層の厚み(μm)の比(T2/T1)は、0.005であった。
【0077】
〔比較例2〕
プレート状銅粒子の酸化処理条件を、大気下、160℃、18時間とした以外は実施例1と同様に導電膜形成用組成物及び導電膜を製造した。扁平状銅粒子の厚み(μm)に対する酸化銅層の厚み(μm)の比(T2/T1)は、0.500であった。
【0078】
〔比較例3〕
プレート状銅粒子に対して酸化処理を行わず、実施例1で用いた球状の小径銅粒子に対して大気下、110℃、30分で酸化処理した以外は、実施例1と同様に導電膜を製造した。扁平状銅粒子の厚みT1(μm)に対する酸化銅層の厚みT2(μm)の比(T2/T1)は、0.005であり、小径銅粒子の体積累積粒径D50(μm)に対する該粒子の酸化銅層の厚みT3(μm)の比(T3/D50)は0.040であった。
【0079】
〔金属酸化物層の厚みの測定〕
金属酸化物層の厚みは、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、VersaProbeIII)を用いて、スパッタリングしながらX線光電子分光測定(XPS測定)することによって測定した。以下に測定方法の詳細を説明する。
【0080】
まず、測定に供する金属粒子をカーボンテープに散布した後、余剰の粒子をブロワーで吹き飛ばして、測定サンプルとした。この測定サンプルを、X線光電子分光装置を用いて、以下の分析条件で測定して、ピークを得た。
【0081】
<分析条件>
・励起X線:単色化されたAlKα線(1486.7eV)
・出力:50W
・X線径:200μm
・測定面積:200μm×1mm
・Pass Energy:26eV
・エネルギーステップ:0.1eV
・Take of Angle:45°
・帯電中和:低速イオン及び電子を使用
・深さ方向分析で用いたイオン種:モノマーArイオン
・モノマーArイオンの加速電圧:2kV
・スパッタエリア:2mm×2mm
・スパッタ速度:SiO2換算で8.0nm/min
【0082】
得られたピークを解析ソフト(アルバック・ファイ社製、MultiPack 9.0)を用いて、以下の解析を行って金属酸化物層の厚みを算出した。
【0083】
<解析条件>
前記解析ソフトの「Target Factor Analysis」を用いて、LMMピークの波形分離を行って、主成分を解析した。詳細には、金属粒子を銅粒子とした場合、560.0eV以上590.0eV以下に現れるピーク(Cu 2p LMMピーク)での波形分離を行った。使用したバックグラウンドモードは、Shirleyとした。また帯電補正は、Cu 2pの結合エネルギーを932.7eVとした。
【0084】
その後、主成分の解析データを用いて、金属酸化物層の厚み(μm)を算出した。詳細には、金属粒子の最表面から金属酸化物と金属との合計成分量に対する金属酸化物量の比が0.5になる位置までの長さを、金属酸化物層の厚み(μm)とした。この定義はJIS K 0146に基づくものである。
【0085】
〔平滑性の評価〕
実施例及び比較例で得られた導電膜の状態を目視観察し、以下の基準で評価した。結果を以下の表1に示す。
A:均一な表面状態。
B:粗れやうねりが一部見られる表面状態。
C:粗れやうねりが全面に見られる表面状態。
【0086】
〔体積抵抗率の評価〕
実施例及び比較例で得られた導電膜の体積抵抗率は、以下のように測定した。すなわち、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック株式会社製、Loresta-GP MCP-T610)を用いて、測定対象の導電膜について3回測定し、その平均値を体積抵抗率(Ω・cm)とした。結果を以下の表1に示す。
【0087】
【0088】
表1に示すとおり、金属酸化物層を有する扁平金属粒子を用いて製造された実施例の導電膜は、比較例の導電膜と比較して、高い平滑性と低い体積抵抗率とが両立できていることが判る。特に、金属酸化物層を有する扁平金属粒子と、金属酸化物層を有しない小径金属粒子とを含む実施例1ないし5は、平滑性が一層高く、且つ体積抵抗率が一層低い導電膜が製造できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、平滑性に優れるとともに抵抗率が低い導電膜を形成するのに適した導電膜形成用組成物が提供される。
【0090】
また、本発明によれば、平滑性に優れるとともに抵抗率が低い導電膜を光焼成によって形成することができる。