IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.の特許一覧

特許7171712プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p
<>
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図1
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図2
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図3
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図4
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図5
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図6
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図7
  • 特許-プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】プロスタグランジンE依存性腫瘍の層別化のためのバイオマーカーとしてのmiRNA-574-5p
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20221108BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221108BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20221108BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221108BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221108BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P
C12N15/113 110Z
C12M1/00 A ZNA
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020518576
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018065318
(87)【国際公開番号】W WO2018228978
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】17175535.8
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュタインヒルバー,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ソール,マイケ ユリア
(72)【発明者】
【氏名】スース,ベアトリクス
(72)【発明者】
【氏名】バウマン,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブソン,ペール-ヨハン
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/146937(WO,A1)
【文献】特表2015-508282(JP,A)
【文献】RUI Zhou et al.,Tumor invasion and metastasis regulated by microRNA-184 and microRNA-574-5p in small-cell lung cancer,Oncotarget,2015年,6,44609-44622
【文献】Kristen M Foss et al.,miR-1254 and miR-574-5p: serum-based microRNA biomarkers for early-stage non-small cell lung cancer,Journal of thoracic oncology,2011年,6,482-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
C12M
G01N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定することを補助する方法:
(a) 対象の試験サンプル中のmicroRNA-574-5pの量を測定するステップ;
(b) 測定量を参照と比較するステップ;及び
(c) 前記比較に基づいて、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定することを補助するステップ。
【請求項2】
前記参照は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試験サンプル中の、本質的に同量の、または増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示し、試験サンプル中の減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記参照は、(i) 非腫瘍組織サンプル、または、(ii) プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群、または、(iii) 健康体若しくは健康体群、に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
試験サンプル中の、本質的に同量の、または減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示し、試験サンプル中の増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記体液サンプルは、全血、血清、血漿、尿及びリンパ液からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、頭頸部癌、甲状腺乳頭癌、低及び高リスク神経膠腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、子宮頸癌、脳腫瘍及び胃癌からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象は、哺乳類又はヒトである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロスタグランジンE形成阻害剤は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び/またはミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1阻害剤(mPGES1阻害剤)である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記NSAIDが、選択的COX-2阻害剤、パレコキシブ、エトリコキシブ、セレコキシブ、COX1-選択的阻害剤、低用量のアスピリン、非選択的COX1/2阻害剤、ナプロキセン、イブプロフェンおよびジクロフェナク、からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記mPGES1阻害剤が、MK-886誘導体、フェナントレンまたはベンゾイミダゾール類、ビアリールイミダゾール類、ピリニキシン酸誘導体、2-メルカプトヘキサン酸、リコフェロン誘導体、ベンゾ(g)インドール-3-カルボン酸塩、オキシカム類、三置換尿素及びカルバゾールベンズアミド類からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
以下のa)及びb)を備える、請求項1~12に記載の方法を実施するために適合化された装置:
a) プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5P量を測定するために適合化された、microRNA-574-5Pに特異的に結合する検出試薬を備える分析ユニット;及び
b) 測定量と参照を比較して、それにより、対象が、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることを同定することができる、請求項2または4に記載の参照値のデータベースと、比較を実施するためのコンピューターに実装されたアルゴリズムと、を備える、評価ユニット。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実施するために適合化されたキットであって、microRNA-574-5pに特異的に結合する検出試薬と、前記方法を実施するための説明書とを備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断方法の分野に関連する。より具体的には、本発明は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるプロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定する方法に関連し、前記方法は、対象の試験サンプル中のmicroRNA-574-5p量を測定するステップ、測定量を参照と比較するステップ、及び、前記比較に基づいて、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるプロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定するステップを含む。さらに、本発明はまた、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある対象を同定するための、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmiRNA-574-5p、またはこれに特異的に結合する検出試薬の使用、並びに、本発明の方法を実施するための装置及びキットを包含する。
【背景技術】
【0002】
非小細胞肺癌(NSCLC)は、肺癌の最も一般的な形態であり、全症例の約80%を占める。NSCLCの管理と診断の近年の進歩にも関わらず、5年生存率は約18%である。しかしながら、標的療法に対する応答の多様性が報告されてきており、細胞増殖と生存の代償性シグナル伝達経路の活性化が関与している可能性がある。
【0003】
これらの代替的メカニズムの1つは、プロスタグランジン(PG)E2による上皮成長因子受容体のトランス活性化を伴う(Pai, 2002, 非特許文献1)。このプロスタノイドは、肺癌腫瘍を含むさまざまな種類の癌の発達と進行において、中心的な役割を果たす。炎症及び癌において、PGE2の生合成の促進に関与する主な経路は、アラキドン酸をプロスタグランジンH2(PGH2)に変換するシクロオキシゲナーゼ(COX)-2と、PGH2のPGE2への異性化を触媒するミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1(mPGES-1)との協調的な活性である(Jakobsson, 1999, 非特許文献2)。NSCLSにおいて、通常、COX-2とmPGES-1の両方がアップレギュレートされるが、これらの過剰発現の相対的な程度が多様であることから、異なる潜在的な制御メカニズムがあることが示唆される。
【0004】
PGE2の生合成は、選択的または非選択的COX阻害剤を含む、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)で阻害することができる(Patrignani, 2015, 非特許文献3)。しかしながら、COX-2を過剰発現した腫瘍または生体内(in vivo)でPGE2生合成の減少が見られた腫瘍を有する個体でのみ、生存率の有意な向上が見られた(Hughes, 2008, 非特許文献4)。
【0005】
PGE2生合成促進を防ぐための代替的なアプローチに、選択的mPGES-1阻害剤であるCompound III(CIII、ベンゾイミダゾール)等のmPGES-1の活性のみに作用する薬剤の使用が含まれ得る。CIIIは、他のプロスタノイドシンターゼに対してはほとんど阻害効果を有さないが、マウスとヒトの両方の組み換えmPGES-1を大幅に阻害する(Leclerc, 2013, 非特許文献5)。この薬剤は、LPSで刺激されたヒト全血、すなわち、血漿タンパク質の存在下でのPGE2の生合成と同様に、肺腺癌由来のヒト肺上皮細胞株であるA549細胞におけるPGE2の生合成も大幅に阻害する(Leclerc, 2013, 非特許文献5)。
【0006】
NSAIDsとPEGシンターゼ阻害剤の治療的価値については、すべての患者が前記治療に適しているわけではないことから、腫瘍学の分野では多くの論争とともに議論されている。
【0007】
小型非コードRNAに分類される、マイクロRNA(miRNA)の無制御な発現は、肺癌の発達と進行の中央ステージを占めてきた。その中で、miR-574-5pが同定され、早期NSCLCのバイオマーカーの代表とされている。さらに、このmiRNAは、ヒト肺癌におけるチェックポイント抑制遺伝子1をダウンレギュレートすることで、腫瘍の進行を促進する(Li, 2012, 非特許文献6)。miR-574-5pの過剰発現は、転移性肺癌の患者を識別し、NSCLC細胞の移動と浸潤を促進し得る(Zhou, 2016, 非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Pai, R., et al. Prostaglandin E2 transactivates EGF receptor: a novel mechanism for promoting colon cancer growth and gastrointestinal hypertrophy. Nat Med 8, 289-293 (2002)
【文献】Jakobsson, P.J., Thoren, S., Morgenstern, R. & Samuelsson, B. Identification of human prostaglandin E synthase: a microsomal, glutathione-dependent, inducible enzyme, constituting a potential novel drug target. Proc Natl Acad Sci U S A 96, 7220-7225 (1999)
【文献】Patrignani, P. & Patrono, C. Cyclooxygenase inhibitors: From pharmacology to clinical read-outs. Biochim Biophys Acta 1851, 422-432 (2015)
【文献】Hughes, D., et al. NAD+-dependent 15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase regulates levels of bioactive lipids in non-small cell lung cancer. Cancer Prev Res (Phila) 1, 241-249 (2008)
【文献】Leclerc, P., et al. Characterization of a new mPGES-1 inhibitor in rat models of inflammation. Prostaglandins Other Lipid Mediat 102-103, 1-12 (2013)
【文献】Li, Q., et al. MicroRNA-574-5p was pivotal for TLR9 signaling enhanced tumor progression via down-regulating checkpoint suppressor 1 in human lung cancer. PLoS One 7, e48278 (2012)
【文献】Zhou, R., et al. MicroRNA-574-5p promotes metastasis of non-small cell lung cancer by targeting PTPRU. Sci Rep 6, 35714 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまでのところ、NSAIDやPEGシンターゼ阻害剤等の治療薬による治療に応答する、または応答しないNSCLC等の腫瘍の層別化に利用可能な手段はない。それにもかかわらず、そのような層別化の手段は、非常に望まれるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、以下のステップを含む、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定する方法に関連する。
a) 対象の試験サンプル中のmicroRNA-574-5pの量を測定するステップ;
b) 測定量を参照と比較するステップ;及び
c) 前記比較に基づいて、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定するステップ。
【0011】
本発明の方法は、好ましくは、生体外(ex vivo)の方法である。さらに、上記に明確に示されたステップに、追加のステップを有し得る。例えば、追加のステップは、サンプルの前処理や、方法により得られた結果の評価であってもよい。方法は、手動で実施されても、自動化手段を使用して実施されてもよい。好ましくは、ステップ(a)、(b)及び/または(c)は、全体的に、または部分的に自動化手段が使用される。自動化手段は、例えば、ステップ(a)の測定における、適したロボット及びセンサー機器、ステップ(b)または(c)における、データ処理装置上で実行される、コンピューターに実装された比較及び/または診断のアルゴリズムである。
【0012】
本明細書で使用される場合、「対象」の用語は、動物、好ましくは、哺乳類を示し、例えば、マウス若しくはラット等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ若しくはヤギ等の畜産動物、または、ネコ若しくはイヌ等のペットを示す。より好ましくは、対象はヒトである。本発明に従って、対象は、本明細書の他の箇所に記載されている通り、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患しているものとする。
【0013】
本明細書で使用される場合、「プロスタグランジンE依存性腫瘍」の用語は、プロスタグランジンの形成に依存して、成長及び/または発達する腫瘍性の癌そのものを示す。好ましくは、前記腫瘍は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、頭頸部癌、甲状腺乳頭癌、低リスク及び高リスクの神経膠腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、子宮頸癌、脳腫瘍及び胃癌からなる群から選択される。より好ましくは、前記腫瘍は肺癌であり、最も好ましくは、非小細胞肺癌である。
【0014】
本明細書で使用される場合、「同定する」の用語は、対象に特徴を割り当てること、つまり、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるかどうか、特徴づけることを示す。当業者に理解される通り、このような割り当ては、検査を受ける対象の100%に対して、常に正しい結果であることを想定されていない。しかし、この用語は、対象のうち、統計的に有意な一群(コホート研究のコホート)に対する割り当て、つまり同定が正しいことを要する。一群が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定など、さまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者によってさらなる困難なく決定できる。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に開示されている。好ましくは、参照される信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または、少なくとも99%である。好ましくは、p値は、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
【0015】
本明細書で使用される場合、「治療に感受性がある」の用語は、本発明に従って示されるように、対象が治療に対して応答可能であることを示す。好ましくは、対象の応答は、治療的応答である。治療的応答とは、対象が、疾患若しくは状態、または前記疾患若しくは状態に関連する症状の、改善、治癒または他の改良を見せることを意味する。さらに、この用語は、治療用量を投与されている対象が、前記治療で不利な応答をしないことも意味し得る。通常、このような不利な応答は、治療に伴う有害な副作用を結果的にもたらす。
【0016】
「プロスタグランジンE形成阻害剤」の用語は、生体内(in vivo)のプロスタグランジンEの形成を予防する、または、減少させることが可能な化合物または組成物を示す。好ましくは、減少は、統計的に有意な減少である。プロスタグランジンE形成阻害剤は、多様な種類の化学的分子またはその組成物に由来し得る。人工的に合成された化合物または組成物でも、植物、植物の部分、または微生物等の自然由来でもよい。化合物または組成物が生体内でのプロスタグランジンEの形成を予防する、または、減少させることができるかどうかは、とりわけ、本明細書に添付された下記実施例に記載された、当業者に公知の試験で決定することができる。好ましくは、プロスタグランジンE形成阻害剤は、ミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1の阻害剤またはアンタゴニストである。また、非ステロイド系抗炎症薬も、プロスタグランジンEの形成を妨害することが報告されてきた。したがって、好ましくは、プロスタグランジンE形成阻害剤は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び/またはミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1阻害剤(mPGES1阻害剤)である。より好ましくは、前記NSAIDは選択的COX-2阻害剤、好ましくは、パレコキシブ、エトリコキシブまたはセレコキシブ、COX1-選択的阻害剤、好ましくは、低用量のアスピリン、及び、非選択的COX1/2阻害剤、好ましくは、ナプロキセン、イブプロフェンまたはジクロフェナク、からなる群から選択される。より好ましくは、前記mPGES1阻害剤は、MK-886誘導体、フェナントレンまたはベンゾイミダゾール、ビアリールイミダゾール、ピリニキシン酸誘導体、2-メルカプトヘキサン酸、リコフェロン誘導体、ベンゾ(g)インドール-3-カルボン酸塩、オキシカム、三置換尿素及びカルバゾールベンズアミドからなる群から選択される。
【0017】
本発明で使用される場合、「試験サンプル」の用語は、組織サンプルまたは体液サンプルを示す。好ましくは、組織サンプルは、プロスタグランジンE依存性腫瘍の腫瘍組織を含み、前記体液サンプルは、miRNA-574-5p(microRNA-574-5pとしても示される)を含む疑いがある。より好ましくは、前記体液サンプルは、全血、血清、血漿、尿及びリンパ液からなる群から選択される。
【0018】
「miRNA-574-5p」または「miR-574-5p」の用語は、下記の図3中の配列番号3に示される核酸配列を有するmiRNAを示す。マイクロRNAは、RNA遺伝子サイレンシング及び遺伝子発現の転写後調節が可能な、小型で非コードの一本鎖RNAである。通常は、これらの効果は、標的配列とmRNA分子との塩基ペアリングとそれに続くmRNAの切断によって、mRNAのポリAテイルの短縮とそれに伴う不安定化及び/またはリボゾームによるmRNA翻訳の非効率化として、引き起こされる。マイクロRNAは、細胞内で前駆体分子、いわゆるプレmiRNAから生成される。プレmiRNAは、ステムループ構造を持つ自己相補的な一本鎖RNAである。これらのプレmiRNAは、さらにその前駆体、プリmiRNAまたはプレmRNAから生成される。
【0019】
miRNA-574-5p量の測定は、量または濃度の、好ましくは、半定量的または定量的な測定に関連する。測定は、直接的に実施されても、間接的に実施されてもよい。直接的な測定は、miRNA-574-5pそのものから得られるシグナルに基づくmiRNA-574-5pの量または濃度の測定に関連し、その強度は、サンプル中に存在するmiRNA-574-5pの分子数に直接相関する。このようなシグナル(本明細書中では強度シグナルとも称する)は、例えば、miRNA-574-5pに特異的な、物理的または化学的な特性の強度値の測定により得られ得る。間接的な測定としては、二次成分(つまり、miRNA-574-5pそのものではない成分)より得られるシグナル、または、例えば、測定可能な細胞の応答、リガンド、標識、若しくは酵素反応生成物等の生物学的出力系の測定が挙げられる。
【0020】
本発明によれば、miRNA-574-5p量の測定は、サンプル中のmiRNA量を測定するためのすべての公知の手段により実現可能である。前記手段としては、多様なアッセイ様式でmiRNA-574-5pに特異的に結合可能な標識された分子を利用し得る、核酸分析装置及び方法が挙げられる。前記アッセイは、miRNA-574-5pの存在または不存在を示すシグナルを発生させるであろう。さらに、シグナルの強さは、好ましくは、直接的または間接的(例えば、逆比例的)に、サンプル中に存在するmiRNA-574-5pの量に相関し得る。通常は、核酸分析のハイブリダイゼーションまたはPCRに基づく手法が、miRNA量の定量的測定に適用される。前記手法は、好ましくは、標的となる核酸、つまりmiRNAに特異的にハイブリダイズする核酸分子を、特異的検出試薬として使用する。また、PCRに基づく手法は、標的となるmiRNAを特異的に増幅するためのプライマーとして核酸分子を使用するため、さらに特異的な検出試薬を使用する。標的となるmiRNAに特異的に結合する核酸分子は、miRNA-574-5pの核酸配列から、当業者によって、さらなる困難なく調製可能である。このような配列は、通常、標的となる配列と相補的な核酸配列を有する。さらに、プライマー核酸配列として適したオリゴヌクレオチドは、増幅すべきmiRNAの配列から、当業者によって、さらなる困難もなく調製可能である。
【0021】
さらに適した方法は、miRNA-574-5pの正確な分子量またはNMRスペクトル等の、miRNA-574-5pに特異的な物理的特性または化学的特性を測定する方法を含む。前記方法は、好ましくは、バイオセンサー、核酸分析機、バイオチップ、(特に核酸アレイ)、イムノアッセイに接続された光学装置、マススペクトロメーター、NMRアナライザー、またはクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。
【0022】
好ましくは、miRNA-574-5pの量は、核酸分析技術、及び、より好ましくは、PCRに基づく技術により測定できる。特に、miRNA-574-5pの量は、最も好ましくは、添付の下記実施例に記載した通りに実施された、リアルタイム定量逆転写PCR(qRT-PCR)により測定することができる。
【0023】
好ましくは、miRNA-574-5pの定量に、デジタルPCR技術も同様に使用され得る。この目的で、miRNAは逆転写され、次いでデジタルPCR技術により分析される。
【0024】
また、好ましくは、miRNA-574-5pの量は、組織サンプル中のmiRNA分子を測定するための標識プローブが使用されるin situハイブリダイゼーション技術により測定され得る。定量は、検出プローブと結合した、蛍光標識または化学発光標識等の標識を光学的に測定することにより実施され得る。
【0025】
さらに好ましくは、miRNA-574-5pの量は、RNAscope技術等のリンカー及びエンハンサープローブにも連続的に結合する標的特異的プローブを使用するハイブリダイゼーション手法によっても測定され得る。この技術は、組織サンプル上の組織内(in situ)
アプローチにも使用され得る。結合した標識プローブの量を評価するために、フローサイトメトリーが適用され得る。
【0026】
また、好ましくは、miRNA-574-5pの量の測定は、サンプル中のmiRNA-574-5pより得られる特異的な強度シグナルを測定するステップを含み得る。上記のように、このようなシグナルは、質量スペクトルで観察されるmiRNA-574-5pに特異的なm/z変数、または、特異的なNMRスペクトルで観察されるシグナル強度であり得る。
【0027】
本発明で使用される場合、「量(amount)」の用語は、miRNA-574-5pの絶対量、miRNA-574-5pの相対量または濃度、及び、これらに相関するか、これらに由来する、あらゆる値またはパラメーターを包含する。このような値またはパラメーターは、直接的な測定による、前記miRNA-574-5p分子から得られる、すべての特異的な物理的特性または化学的特性からの強度シグナルを含む。さらに、例えば、miRNA-574-5pへの応答で生化学的若しくは生物学的な出力系から測定される応答レベル、または、特異的に結合したリガンドから得られる強度シグナル等の、本明細書内の他の箇所で特定される間接的な測定で得られるすべての値またはパラメーターが包含される。前記の値またはパラメーターに相関する値は、すべての標準的な数学的操作によっても取得できることが理解されるであろう。
【0028】
本明細書で使用される場合、「比較する(comparing)」の用語は、試験サンプルに含まれるmiRNA-574-5pの量を、この明細書の他の箇所で特定される適した参照値と比較することを包含する。本明細書で使用される場合、比較とは、対応するパラメーターまたは値との比較を示すことが理解されるであろう。例えば、絶対量は参照される絶対量と比較され、濃度は参照される濃度と比較され、あるいは、試験サンプルから得られた強度シグナルは、参照されるサンプルの同種の強度シグナルと比較される。本発明の方法のステップ(b)に示される比較は、手動で実施されても、コンピューターを用いて実施されてもよい。コンピューターを用いた比較について、測定量の値は、コンピュータープログラムによってデータベースに保存されている、適した参照の対応する値と比較され得る。コンピュータープログラムは、さらに、比較結果を評価してもよく、つまり、適した出力形式で、所望の評価結果を自動的に提供し得る。参照値は、比較された値の差異または同等性から、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性のある対象群に属する試験対象を同定することができるように選択される。
【0029】
したがって、本明細書で使用される場合「参照値(参照)」の用語は、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性を有するかどうかを評価できる参照値を示す。したがって、参照値は、例えば、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象若しくは対象群に由来してもよく、非腫瘍組織サンプルであってもよく、または、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がないことが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象若しくは対象群に由来してもよく、あるいは、代替的に、健康体または健康体群であってもよい。参照値は、閾値を定義及び設定するために使用され得る。閾値は、好ましくは、ルールイン(rule-in)及び/またはルールアウト(rule-out)診断を可能にする。個別の対象に適用可能な参照値は、年齢、性別、またはサブ集団等の多様な生理学的なパラメーター、及び、本明細書に示されるmiRNAの測定に使用される手段に応じて変更させてもよい。適した参照値は、試験サンプルと共に(つまり、同時または連続的に)分析される参照サンプルから決定されてもよい。
【0030】
好ましくは、前記参照値は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象若しくは対象群に由来する。より好ましくは、本質的に同量の、または増量された試験サンプル中のmiRNA-574-5p量は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある対象を示し、減量された試験サンプル中のmiRNA-574-5p量は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性のない対象を示す。
【0031】
また、好ましくは、前記参照値は、(i) 非腫瘍組織サンプル、または、(ii) プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がないことが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群、または、(iii) 健康体若しくは健康体群、に由来する。より好ましくは、本質的に同量の、または減量された試験サンプル中のmicroRNA-574-5pは、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性のない対象を示し、増量された試験サンプル中のmicroRNA-574-5pは、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある対象を示す。
【0032】
有利なことに、本発明の基礎となる研究によれば、肺癌患者において、癌組織では、正常組織と比較してmiR-574発現が強くアップレギュレートされることが観察された。研究は、さらに、(i) 腫瘍細胞におけるmiR-574-5pの過剰発現がPGE2の生合成に影響を与えるか、及び関与する分子メカニズムの解明、(ii) 免疫不全マウスの異種移植腫瘍片の成長における腫瘍細胞でのmiR-574-5p過剰発現の機能的な結果、並びに(iii)PEGシンターゼ阻害剤によるmiRNA誘導性のmPGES-1の活性の阻害が、肺腫瘍細胞の成長にブレーキをかけるか、について調査することを目的とした。それにより、マイクロRNAとPEGにより媒介される肺癌の形成との間の潜在的なつながりが解明されるはずである。マイクロRNA(miR)は、遺伝子発現の重要な転写後調節因子である。そのよく特徴づけられる、mRNAの安定性と翻訳への阻害的影響は別として、miRは、遺伝子発現を活性化することもできる。本発明の基礎となる研究において、miR-574-5pの標準的でない機能が同定された。それは、CUG結合タンパク質1(CUGBP1)に対するRNAデコイとして作用し、その機能に拮抗する。ヒトの肺腫瘍におけるmiR-574-5pの強いアップレギュレーションが観察された。このアップレギュレーションは、mPGES-1依存性のPGE2の生合成が促進されたことに関連した。PGE2は、肺腫瘍の進行に主要な役割を果たす、生理活性を有する脂質メディエーターである。miR-574-5pは、mPGES-1の3'UTRに結合するCUGBP1を妨害することにより、mPGES-1の発現を誘発し、PGE2の形成を促進し、生体内での腫瘍の成長を引き起こした。この新たに発見された関連性により、miR-574-5pは、PGE2の薬理学的な阻害に対して応答する肺腫瘍患者の選別に有用なバイオマーカーであることが明らかにされた。特に、miR-574-5pは、肺癌組織において強くアップレギュレートされることが示された。A549細胞でmiR-574-5pが過剰発現すると、PGE2形成の強い増加が誘発される。miR-574-5pを過剰発現するA549細胞をヌードマウスに注入して形成した異種移植マウスモデルにおいて、選択的mPGES-1阻害剤でブロックされたA549コントロール細胞と比較して、腫瘍の成長と尿中のPGE-Mレベルの高度に有意な誘発が見られた。データは、miR-574-5pが腫瘍誘発性を示し、mPGES-1由来のPGE2合成を誘発することで、腫瘍の成長を促進することを示唆する。有利なことに、CUGBP1が、mPGES-1遺伝子の3'UTRにおいて、GREと結合することにより、選択的スプライシング及び翻訳抑制を介してmPGES-1の発現を阻害することがわかった。また、miR-574-5pは、CUGBP1に結合して、その制御機能を阻害することで、デコイとして作用できる。したがって、新規の標準的でないmiR-574-5pの機能、つまり、RNA結合性タンパク質CUGBP1を制御するデコイとしての機能が明らかになった。これによると、CUGBP1とmiR-574-5pのバランスが、細胞の増殖、腫瘍の成長、及び、mPGES-1依存性のPGE2合成を制御していることが示されたといえる。生体内でのこれらの結果に基づけば、miR-574-5pは、明らかに肺癌でのmPGES-1 依存性PGE2の放出の制御において主要な役割を果たしており、したがって、肺癌及び他のPGE依存性腫瘍の治療において、新規の治療の標的を提供するものである。興味深いことに、miR-574-5p によるPGE2合成のアップレギュレーションは、mPGES-1にのみに関連する。対して、COX-2は、CUGBP1及びmiR-574-5pによっては制御されない。新規に発見された、miR-574-5pの過剰発現とPGE-2により媒介された生体内の肺癌細胞の成長との間のつながりは、NSAIDまたはmPGES-1阻害剤によるPGE2形成の薬理学的な阻害が、高レベルのmiR-574-5pを示すNSCLCの患者において、有意な治療的価値を示し得ることを示唆する。
【0033】
上記及び下記の用語の定義及び説明は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されるすべての実施形態に、適宜適用されることは理解されるであろう。
【0034】
本発明は、さらに、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性を有する対象を同定するための、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している患者のサンプル中のmicroRNA-574-5pまたはこれに特異的に結合する検出試薬の使用に関する。
【0035】
本発明は、また、以下のa)及びb)を備える、本発明の方法を実施するために適合化された装置に関する。
a) プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5p量を測定するために適合化された、microRNA-574-5pに特異的に結合する検出試薬を備える分析ユニット;及び
b) 測定量と参照を比較して、それにより、対象が、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることを同定することができる評価ユニットであって、前記ユニットは、上記で定義した参照のデータベースと、比較を実施するためのコンピューターに実装されたアルゴリズムと、を備える、評価ユニット。
【0036】
本発明で使用される場合、「装置」の用語は、操作において互いに連動して本発明の方法の実施を可能とする、上記のユニットを備えるシステムに関する。分析ユニットに使用可能な好ましい検出試薬は、本明細書の他の箇所に開示されるプローブまたはプライマーとして使用される核酸分子である。分析ユニットは、好ましくは、前記検出試薬を、定量されるmicroRNA-574-5pを含むサンプルと接触する固相に、固定された形で含む。さらに、分析ユニットは、microRNA-574-5pを特異的に増幅するPCRプライマーを有する容器も備える。前記PCRプライマーは容器から反応エリアに提供され、反応エリアでは、PCR増幅とmiRNAの検出が可能な条件下で、試験サンプルとプライマーが接触する。さらに、分析ユニットは、miRNAまたはその増幅産物に特異的に結合する検出試薬の量を測定する検出器を有する。測定量は、評価ユニットに転送可能である。前記評価ユニットは、測定量と適した参照との間の比較を実施するためのアルゴリズムを実装する、コンピューター等のデータ処理要素を備える。適した参照とは、本発明の方法に関して、上記に定義されるものである。結果は、生データのパラメーター診断の出力として、好ましくは、絶対値または相対値で提供され得る。これらのデータが臨床医による解釈を必要とすることは、理解されるであろう。しかしながら、その解釈に専門の臨床医を必要としない、生データから診断用に処理されたデータを出力する、エキスパートシステム装置も想定される。
【0037】
さらに、本発明は、本発明の方法を実施するために適合化された、microRNA-574-5pに特異的に結合する検出試薬と、前記方法を実施するための説明書とを備えるキットに関連する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「キット」の用語は、上記のコンポーネントの集合体を示し、好ましくは、別々または一つの容器で提供される。容器は、本発明の方法を実施するための説明書も含む。これらの説明書は、マニュアルの形式であってもよく、また、コンピューターまたはデータ処理装置に実装された場合に、本発明の方法に示される比較を実施することができ、それに従って診断を成立させるための、コンピュータープログラムコードによって提供されてもよい。コンピュータープログラムコードは、光学的記録媒体(例えば、コンパクトディスク)等のデータ記憶媒体または装置上で提供されても、コンピューターまたはデータ処理装置上に直接提供されてもよい。また、キットは、明細書内の上記で定義した参照値のための少なくとも一つの標準品、つまり、参照を示す、予め設定されたmicroRNA-574-5p量の溶液を含み得る。このような標準品は、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように、参照値として有用なmicroRNA-574-5p量を示し得る。
【0039】
本発明は、対象のプロスタグランジンE依存性腫瘍の治療に使用するためのプロスタグランジンE形成阻害剤も企図し、前記対象は、(i)非腫瘍組織と比較して腫瘍組織内でmiRNA-574-5pの増量がみられるか、または(ii)健康体若しくは健康体群、または、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患していないことが分かっている対象若しくはその群からの参照値と比較して、対象の体液内にmiRNA-574-5pの増量がみられる。好ましくは、対象は、上記の本発明の方法により同定された対象である。
【0040】
本発明はまた、上記に示す本発明の方法により、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性を有する対象を同定し、前記同定された対象にプロスタグランジンE形成阻害剤を治療上許容される量で投与する、プロスタグランジンE形成阻害剤によるプロスタグランジンE依存性腫瘍の治療方法に関する。
【0041】
さらに、本発明によれば、以下の特定の実施形態が想定される。
1.以下のステップを含む、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定する方法:
(a) 対象の試験サンプル中のmicroRNA-574-5pの量を測定するステップ;
(b) 測定量を参照と比較するステップ;及び
(c) 前記比較に基づいて、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定するステップ。
2.前記参照は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群に由来する、実施形態1に記載の方法。
3.試験サンプル中の、本質的に同量の、または増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示し、試験サンプル中の減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示す、実施形態2に記載の方法。
4.前記参照は、(i) 非腫瘍組織サンプル、または、(ii) プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群、または、(iii) 健康体若しくは健康体群、に由来する、実施形態1に記載の方法。
5.試験サンプル中の、本質的に同量の、または減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示し、試験サンプル中の増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示す、実施形態4に記載の方法。
6.前記サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルである、1~5のいずれか1つの実施形態に記載の方法。
7.前記体液サンプルは、全血、血清、血漿、尿及びリンパ液からなる群から選択される、実施形態6に記載の方法。
8.前記腫瘍は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、頭頸部癌、甲状腺乳頭癌、低及び高リスク神経膠腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、子宮頸癌、脳腫瘍及び胃癌からなる群から選択される、1~7のいずれか1つの実施形態に記載の方法。
9.前記対象は、哺乳類、好ましくはヒトである、1~8のいずれか1つの実施形態に記載の方法。
10.前記プロスタグランジンE形成阻害剤は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び/またはミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1阻害剤(mPGES1阻害剤)である、1~9のいずれか1つの実施形態に記載の方法。
11.前記NSAIDが、選択的COX-2阻害剤、好ましくは、パレコキシブ、エトリコキシブまたはセレコキシブ、COX1-選択的阻害剤、好ましくは、低用量のアスピリン、及び、非選択的COX1/2阻害剤、好ましくは、ナプロキセン、イブプロフェンまたはジクロフェナク、からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
12.前記mPGES1阻害剤が、MK-886誘導体、フェナントレンまたはベンゾイミダゾール類、ビアリールイミダゾール類、ピリニキシン酸誘導体、2-メルカプトヘキサン酸、リコフェロン誘導体、ベンゾ(g)インドール-3-カルボン酸塩、オキシカム類、三置換尿素及びカルバゾールベンズアミド類からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
13.プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある対象を同定するための、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5p、またはこれに特異的に結合する検出試薬の使用。
14.以下のa)及びb)を備える、1~12のいずれか1つの実施形態に記載の方法を実施するために適合化された装置:
a) プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5P量の測定を実施するために適合化された、microRNA-574-5Pに特異的に結合する検出試薬を備える分析ユニット;及び
b) 測定量と参照を比較して、それにより、対象が、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることを同定することができる、請求項2または4に記載の参照値のデータベースと、比較を実施するためのコンピューターに実装されたアルゴリズムと、を備える、評価ユニット。
15.1~12のいずれか1つの実施形態に記載の方法を実施するために適合化されたキットであって、microRNA-574-5pに特異的に結合する検出試薬と、前記方法を実施するための説明書とを備える、キット。
【0042】
本明細書全体を通して引用されたすべての参考文献は、それらの具体的に言及された開示内容に関して、及び、全体として、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】miR-574-5pの過剰発現は、PGE2の生合成を促進する。(a) NSCLC患者(3例の腺癌と1例の扁平上皮癌)の非腫瘍組織(NT)及び腫瘍組織(T)におけるmiR-574-5pの発現量。発現量は、qRT-PCRで分析し、miRTCコントロールで補正した。データは、平均+SEMとして表示する。(b) miR 574-5p で安定的に形質転換したA549細胞(A549 miR-574-5p oe)またはレンチウィルスコントロールベクターで安定的に形質転換したA549細胞におけるmiR 574-5pの発現量を、qRT-PCRで分析し、内部標準としてのsnRNA U6レベルに対して補正した。データは、平均+SEMとして表示した。(c) IL-1βで刺激されたA549細胞において、miR-574-5pの過剰発現は、PGE2の生合成を増加させる。A549 miR-574-5p oe細胞及びコントロール細胞を、ビヒクル(vihicle)(PBS)またはIL-1β(5 ng/mL)を用いて24時間処理した。次いで、校正済みのラジオイムノアッセイにより、馴化培地中のPGE2レベルを測定し、全タンパク質濃度に対する補正を行った。データは、平均+SEMとして表示した。(d)mPGES-1及び(e)COX-1タンパク質の発現量は、IL-1βのある条件またはない条件で24時間インキュベートされた、A549コントロール細胞及びA549 miR-574-5p oe細胞のウェスタンブロットにより測定した。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。コントロールt0(1に設定する)に対する相対的な変化を、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01, ***p < 0.001として提示する。一つの代表的な実験から得られたブロットを示す。(f) NSCLC患者(10例の腺癌、1例の扁平上皮癌)の非腫瘍組織(NT, n = 6)及び腫瘍組織(T, n = 11)におけるmiR-574-5pの発現量。発現量は、qRT-PCRで分析し、miRTCに対して補正した。データは、平均+SEMとして表示する。
図2】A549細胞におけるmiR-574-5pの過剰発現及びmPGES-1阻害が、A549異種移植片ヌードマウスにおける腫瘍の成長及び全身のPGE2生合成に及ぼす効果。(a)実験計画の概略図。(b)A549コントロール細胞またはA549 miR-574-5p oe細胞を接種し、ビヒクルで処理したヌードマウスにおける、腫瘍の体積をデジタルノギスで測定した。データは、平均+SEMとして表示した。ANOVA分析及びNewman-Keus多重比較検定、*p<0.05, **p<0.01。28日目の(c)腫瘍の体積、及び(d)腫瘍の重量を評価した。データは、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01として表示した。(e) PGE-Mのレベルは、24時間蓄尿サンプルのLC-MS/MS分析によって測定した。PGE-Mのレベルは、尿クレアチニンのレベルで補正し、データは、平均+SEM、t検定、**p<0.01として表示した。(f)A549コントロール細胞、または(g) A549 miR-574-5p oe細胞を注入したマウスについて、CIII (50 mg/kg)、またはビヒクルで4週間処理し、腫瘍体積を評価した。データは、平均±SEMとして表示した。ANOVA分析及びNewman-Keus多重比較検定、§<0.05, *p<0.05, **p<0.01。(h)28日目の腫瘍の重量を評価した。データは、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01として表示した。(i)PGE-Mのレベルは、24時間蓄尿サンプルのLC-MS/MS分析で測定した。PGE-Mのレベルは、尿クレアチニンのレベルで補正し、データは、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01として表示した。
図3】CUGBP1は、mPGES-1の3´UTRのGUリッチエレメント、及び成熟したmiR-574-5pに結合する。(a) GRE1(配列番号1)、GRE2(配列番号2)、miR-574-5p(配列番号3)及び成熟したmGRE(配列番号4)の塩基配列。実際のCUGBP1結合部位を、グレーのボックスとして網掛けした。RefSeqアクセッション NM_004878.4: GRE1は406-445の位置、GRE2は1403-1449の位置。(b)指定された量のA549細胞質性溶解物の存在下でインキュベートした、放射性標識miR-574-5pプローブの電気泳動移動度シフトアッセイ(Electrophoretic mobility shift assay (EMSA))。(c) CUGBP1の過剰発現がない条件またはある条件におけるA549細胞の細胞質抽出物(50μgタンパク質)存在下での、放射線標識miR-574-5pプローブのEMSA。標識していないmiR-574-5p RNA(1000倍過剰)を、指定の通りにサンプルに添加した。(d) CUGBP1の過剰発現(10μgタンパク質)がない条件またはある条件における、A549細胞の細胞質性抽出物の存在下での、放射線標識したGRE1、GRE2及びmGREのEMSA。(e) CUGBP1の過剰発現(50μgタンパク質)のない条件またはある条件における、A549細胞の細胞質性抽出物の存在下での、放射線標識したGRE1、GRE2及びmGREのEMSA。標識していないmiR-574-5p RNA(1000倍過剰)を、指定の通りにサンプルに添加した。RNA-タンパク質複合体は、変性しない条件下での電気泳動(6%PAAゲル)で分離した。ゲルは、蛍光撮像装置上で分析した。それぞれのケースについて、3つの独立した実験のうち、1つの代表的なEMSAを示す。
図4】新規のmPGES-1 3´UTR mRNAアイソフォームの同定と特性評価。(a)関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞、A549及びHeLa細胞におけるmPGES-1 3´UTRをカバーするプライマー対を用いて得られたRT-PCR産物。PCR産物は、1%アガロースゲルで分離した。3つの独立した実験のうち、1つの代表的なゲルを示す。(b)同定されたmPGES-1 3'UTR mRNAアイソフォームの概略図。GUリッチエレメントを黒いボックスで示す。(c) HeLa細胞に、pCUGBP1またはpCMV-MS コントロールプラスミドを用いて、mPGES-1 3´UTR構成物を、48時間一過性に形質転換させた。黒いボックスがmPGES-1 3´UTR中のGRE、グレーのボックスが除去されたGREを示す。48時間後に、Dual-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステムを用いて、ルシフェラーゼ活性を測定し、形質転換の効率に関して補正を行った。相対的な変化を、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01として示す。(d) CUGBP1 oeのある条件またはない条件でmPGES-1 3´UTR構成物で形質転換したHeLa細胞中のmPGES-1 3´UTRをカバーするプライマー対を用いたRT-PCR分析。RT-PCR産物は、1%アガロースゲルで分離した。3つの独立した実験のうち、1つの代表的なゲルを示す。(e) qRT-PCRを用いたmPGES-1とmPGES-1 3´UTR mRNAアイソフォームの安定性の測定。A549細胞をアクチノマイシンD(2μg/mL)で処理し、mPGES-1及びmPGES-1 3´UTRアイソフォームのmRNAレベルを指定された時点で分析した。β-アクチンをコントロールとして使用した。0時点(1に設定する)に対する相対的な変化を、平均+SEM、2元ANOVA、Bonferroni post検定、*p<0.05, ***p<0.001として示す。
図5】mPGES-1及びCOX-2の発現におけるCUGBP1ノックダウンの効果。A549細胞を20 pmol/μL CUGBP1 siRNAまたはコントロールsiRNAで形質転換し、5 ng/mL IL-1βの存在下で24時間インキュベートした。次いで、細胞培養培地を、IL-1βのない培地に置き換えた。さらに24時間、細胞を培養した。培地変更後の指定された時点で、(a) mPGES-1と(b) mPGES-1 3`UTR アイソフォームのmRNA発現量のqRT-PCR分析を実施した。β-アクチンをコントロールとして使用した。(c) mPGES-1発現のウェスタンブロット分析。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。3つの独立した実験のうち、代表的なブロットを示す(右のパネル)。(d) PGE2レベルのLC-MS/MS分析。(e) COX-2 mRNA発現量のqRT-PCR分析。β-アクチンをコントロールとして使用した。(f) COX-2タンパク質発現のウェスタンブロット分析。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。3つの独立した実験のうち、代表的なブロットを示す(右のパネル)。-24時間(1に設定する)の時点に対する相対的な変化を、平均+SEM、2元ANOVA、Bonferroni post検定、*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001として示す。
図6】mPGES-1の発現におけるmiR-574-5pの過剰発現とノックダウンの効果。(a,b) miR-574-5p oeがない、またはあるA549細胞を、5 ng/mL IL-1βがない条件またはある条件で、指定された通り24時間培養した。(a) mPGES-1及びmPGES-1 3´UTR アイソフォームのmRNA発現量のqRT-PCR分析。β-アクチンをコントロールとして使用した。(b) mPGES-1タンパク質発現のウェスタンブロット分析。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。3つの独立した実験のうち、代表的なブロットを示す。(c, d) miR-574-5pノックダウンがない、またはあるA549細胞を、5 ng/mL IL-1βがない条件またはある条件で、指定された通り24時間培養した。(c) mPGES-1及びmPGES-1 3´UTR アイソフォームのmRNA発現量のqRT-PCR分析。β-アクチンをコントロールとして使用した。コントロールt0に対する相対的な変化を、平均+SEM、t検定、*p<0.05, **p<0.01として示す。(d) mPGES-1タンパク質発現のウェスタンブロット分析。GAPDHをローディングコントロールとして使用した。3つの独立した実験のうち、代表的なブロットを示す。
図7】CUGBP1はmPGES-1 3´UTRのGUリッチエレメントと成熟したmiR-574-5pに結合する。IgG-IPと比較したCUGBP1-IPにおける、mPGES-1 mRNA (a)及びmiR-574-5p (b)の富化を測定するためのRNA免疫沈降(RIP)アッセイ。COX-2及びmiR-16はネガティブコントロールとして使用した。A549細胞を5 ng/mL IL1-βで24時間処理し、CUGBP1に対する抗体または正常マウスIgGをそれぞれ用いて免疫沈降を実施した。CUGBP1に結合する共沈降したRNAを、次いで、qRT-PCRを介して定量した(n=4)。IgGに対して補正した相対的富化を、平均+ SEM、t検定 **p<0.01として示す。(c)ウェスタンブロットによるCUGBP1免疫沈降の評価。全CUGBP1の16.6% ± 7.7 (SEM)を免疫沈殿として回収した。4つの独立した実験のうち、代表的なブロットを示す。
図8】mPGES-1及びCUGBP1の発現のNSCLC患者の生存率への影響。(a) mPGES-1の高発現、及び(b) CUGBP1 mRNAの低発現は、NSCLC患者の短い生存率に相関する。Kaplan Meierグラフは、「Kaplan Meier plotter」メタ分析ツール(http://kmplot.com/analysis/; version 2015)に基づく、1926名の肺癌患者の全体を通した生存率を示す。全体の生存率分析を、1926名の肺癌患者からの遺伝子アレイデータ上で実行した。サンプルを2つのグループに分けた。赤:メジアン値を超える発現を示す患者、黒:メジアン値未満の発現を示す患者。
【実施例
【0044】
以下の実施例は、単に本発明を例示するものである。実施例は、発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0045】
実施例1:miR-574-5pはステージII-IIIのNSCLC 患者の腫瘍内でアップレギュレートされる
4人のNSCLC患者の腫瘍肺組織または非腫瘍肺組織におけるmiR-574-5pの発現量を分析した。4人中3人の腫瘍を組織学的に腺癌に分類し、1人の腫瘍は扁平上皮癌に分類した。qRT-PCRで評価した結果、非腫瘍組織と比較して、腫瘍内でmiR-574-5p発現量の強い増加が観察された(図1a)。データをさらに確認するために、NSCLC患者のサンプルを増やして、NSCLC患者の非腫瘍組織(NT, n = 6)及び腫瘍組織(T, n = 11、腺癌が10、扁平上皮癌が1)内のmiR-574-5p発現を測定した(図1f)。これらのデータは、予め推測された腫瘍の進行におけるmiR-574-5pの重要な役割を支持するものである。
【0046】
実施例2:A549細胞におけるmiR-574-5pの過剰発現は、PGE2生合成を促進する
miR-574-5pがPGE2合成に影響を与えるかを調査するために、miR-574-5pを安定的に過剰発現(約33倍までのアップレギュレーション)するA549細胞を使用した(図1b)。mPGES-1の発現は、IL-1βで誘導した。A549コントロールと比較して、miR-574-5p 過剰発現(oe)は、IL-1βによる誘導の後のみ、PGE2生合成を有意に増加させた(図1c)。この効果は、mPGES-1レベルの増加と関連したが、COX-2とは関連しなかった(図1d, e)。miR-574-5pの過剰発現により促進されたPGE2の生合成におけるmPGES-1のこの主要な役割は、PGFの生合成(COX-2に依存するがmPGES-1に依存しない)には影響が見られなかったことから支持される(データ示さず)。
【0047】
全体として、これらの結果は、miR-574-5p oeが、mPGES-1依存性PGE2生合成を促進することを示している。次に、異種移植マウスモデルで、A549細胞におけるmiR-574-5pによるmPGES-1の誘導により、肺腫瘍が早く成長するかを調査した。
【0048】
実施例3:A549細胞におけるmiR-574-5p過剰発現は、全身でのPGE2の生合成の促進と関連して、生体内での腫瘍の成長を増加させる
A549 miR-574-5p oe細胞またはA549コントロール細胞をヌードマウスの後部側面に注入し、注入後4週間まで腫瘍形成をモニターした(図2a)。デジタルノギスを使用して、腫瘍体積を週3回評価した。A549コントロール細胞を注入したマウス群では、11の腫瘍が発達した。一方で、miR-574-5p oeを注入したマウス群では12の腫瘍が発達し、時間依存的に成長した(図2a)。28日目に、腫瘍体積は、A549コントロールで処理した動物(n=11)では0.059+0.08 cm3、miR-574-5p oeで処理した動物(n=12)では0.138+0.096 cm3であった(図2c)。と殺時、腫瘍重量は、A549 miR-574-5p oeに由来する腫瘍で有意に高かった(図2d)。
【0049】
27日目に、全身のPGE2の生合成を、24時間尿中のPGE-Mレベルを測定することで評価した。図2eに示す通り、A549コントロール細胞を注入されたマウスに対して、A549 miR-574-5p oeを注入されたマウスにおける尿PGE-Mレベルの平均値は、有意に高かった。
【0050】
全体として、これらの結果は、miR-574-5pの過剰発現が、生体内でのPGE2の生合成の促進に関連して、肺癌細胞のより早い成長を促すことを示す。これらの結果は、異種移植ヌードマウスにおいて、mPGES-1依存性のPGE2生合成が、miR-574-5p oeによって生じる腫瘍成長の促進に応答するかを検証することを促した。
【0051】
実施例4:mPGES-1の阻害は、生体内でのA549細胞の腫瘍形成能を低下させる
生体内のmiR-574-5pによる腫瘍成長の刺激が、PGE2形成の増加に依存するかを評価するために、選択的mPGES-1阻害剤CIIIを使用した。この仮説を試験するために、A549コントロール細胞(n=11)及びA549 miR-574-5p oe細胞(n=11)を注入したマウスをCIIIで処置し、腫瘍の進行を評価した。結果を、ビヒクルのみで処理した、A549コントロール細胞(n=11)またはA549 miR-574-5p oe細胞(n=12)を注入したマウスから得られた結果と比較した(図2b)。CIIIの投与は、コントロールのマウスの基本的な腫瘍成長には影響を与えなかったが(図2f)、この化合物は、A549 miR-574-5p oe細胞を注入されたマウスの腫瘍成長の時間依存的な増加を有意に減少させ、腫瘍の進行をA549コントロールのマウスと同等とした(図2f,g)。28日目に、miR-574-5p oeマウスにおいてのみ、腫瘍重量はCIII投与によって有意に減少した(図2h)。PGE-Mの尿排泄の測定により、薬物が、miR-574-5p oeマウスでのみ、腫瘍細胞移植後に生じるPGE2生合成の促進を抑制することで、PGE-Mレベルに影響を与えることが明らかとなった(図2i)。他のプロスタノイドの全身での生合成に対するCIII投与の影響を評価した。尿中のPGI-M及びTX-Mのレベルは、コントロールのマウスと同様にmiR-574-5p oeマウスにおいても、薬物による有意な影響は見られなかった(データ示さず)。PGD-Mレベルは、A549コントロールのマウスに対して、miR-574-5p oeマウスにおいて高い傾向が見られたが、CIII投与によっては、両方のマウス群で尿中PGD-Mレベルに有意な変化は見られなかった(データ示さず)。
【0052】
データは、CIIIが、PGH2の他のプロスタノイドへの実質的な分岐を生じることなく、PGE2の生合成を選択的に阻害することによって、A549 miR-574-5p oe細胞を注入されたマウスにおいてのみ、腫瘍の発達を減少させることを示唆する。免疫組織化学分析は、CIIIによるmPGES-1の阻害が、細胞増殖と血管新生を減少させることを支持する(データ示さず)。
【0053】
実施例5:miR-574-5pは標準的でない方法でmPGES-1の発現を制御する
生体内でのデータは、腫瘍の成長が、miR-574-5pに誘導されたPGE2の生合成を介して促進されることを示す。しかしながら、mPGES-1 mRNAは、miR-574-5pの直接的な結合部位を持たないため、標準的なmiRNAサイレンシングの標的ではない。対照的に、miR-574-5pの過剰発現はPGE2生合成を増加させ、miRNAを介したmRNAサイレンシングに代替する別の制御機構が示唆される。
【0054】
近年、遺伝子発現を活性化する、新規のmiRNA機構が発見された。この場合、miR-328がRNA結合タンパク質hnRNP E2に対するデコイとして作用し、翻訳抑制因子としてのその機能を中和する。miR-574-5pの同様の機構を発見するために、mPGES1の3’ 非翻訳部位(3’ UTR)内、及び成熟形態のmiR-574-5p内のGUリッチ配列を見出した。このようなGUリッチ配列(GRE)は、CUGBP1の結合部位を示す(図3a)。したがって、miR-574-5pがCUGBP1の機能に拮抗することでPGE2合成を誘導し得るかを調査した。
【0055】
CUGBP1が成熟したmiR-574-5pに結合するかを測定するため、電気泳動移動度シフトアッセイを実施した。放射性標識miR-574-5pを、A549細胞からの、及びCUGBP1を3.5倍まで過剰発現するA549細胞(CUGBP1 oe)からの細胞質性抽出物とインキュベートした(データ示さず)。CUGBP1/miR-574-5p複合体の形成は、細胞質性抽出物量の増加とよく相関する(図3b)。CUGBP1の過剰発現はより強いRNAシフトを媒介するが、一方で、非標識RNAの添加は複合体形成を妨害する(図3c)。シフトアッセイは、mPGES-1の3´UTRに位置する2つのGUリッチエレメントについても実施した(図3a)。特定の複合体形成は、GRE1及びGRE2に見られたが、mGREには見られなかった(図3d)。シグナルは、過剰量の非標識RNAプローブの添加によって消失した(図3e)。これらの実験は、CUGBP1が成熟したmiRNAとmPGES-1の3´UTRの両方に特異的に結合することを実証する。
【0056】
実施例6:mPGES-1の3´UTRスプライシングは、CUGBP1によって制御される
CUGBP1のGUリッチエレメントへの直接的な結合は、CUGBP1がmPGES-1発現の制御に関与することを示す。mPGES-1 3´UTR配列のバイオインフォマティック分析により、2つのGREエレメント内に位置する、標準的でないGT-TGスプライシング部位を有する、イントロンと推定される箇所が示唆された。A549細胞、HeLa細胞及び関節リウマチ患者からの滑膜線維芽細胞における逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析により、3つのすべての細胞種において、スプライシングされた3´UTR変異体の存在が確認された(mPGES-1 3´UTRアイソフォーム、図4a)。配列分析により、mPGES-1 3'UTRアイソフォームが、2つのGREに隣接する3'UTRの中央部分をスプライシングすることによって生成されたことが明らかになった(図4b)。
【0057】
CUGBP1が2つのGREエレメントへの結合を介して3’UTR スプライシングに関与するかを明らかにするために、mPGES-1 3´UTRをホタルルシフェラーゼ遺伝子のオープンリーディングフレームにクローニングした(図4c)。ルシフェラーゼ活性を、CUGBP1 oe(8.5倍アップレギュレーション)のある、またはないHeLa細胞内で測定した。RT-PCR分析によって、GRE1、GRE2またはその両方を欠くことで、3´UTRスプライシングが完全に防がれるが(図4d)、CUGBP1の過剰発現により、スプライシング過程が増強されることが明らかになった(図4d)。2つのGREの機能を分析するために、レポーター遺伝子アッセイを実施し、これにより、両方のGREが存在する場合、CUGBP1 oeに応答して、ルシフェラーゼ活性の、微量ではあるが有意な減少がみられるが、1つまたは両方のGREが変異している場合はみられないことが明らかとなった(図4c)。
【0058】
さらに、両方のmRNA形態の安定性を測定した。A549細胞を転写阻害剤のアクチノマイシンDで処理した。RNAは、異なる時点で複数回抽出し、それぞれのアイソフォームを指定された時点でqRT-PCRにより分析した。図4eに示す通り、mPGES-1 3´UTRアイソフォームのmRNA安定性は、標準的な形態よりも有意に低い。
【0059】
実施例7:CUGBP1はmPGES-1発現を介してPGE2合成を制御する
CUGBP1のmPGES-1発現及びPGE2形成への影響を調査するために、A549細胞におけるCUGBP1の発現をsiRNA(ΔCUGBP1)によってノックダウンした(データ示さず)。CUGBP1依存性のmPGES-1の制御を評価するため、A549細胞をIL-1βで24時間処理してmPGES-1の発現を誘導し、次いで刺激要因のない培地中で24時間の追加の培養を行った。IL-1β刺激は、3´UTRアイソフォームと標準的な形態の両方を増加させた(図5a, b)。ΔCUGBP1により、mPGES-1 3´UTRアイソフォームの発現量がさらに増加し(図5a)、mPGES-1アイソフォームよりは低いものの、mPGES-1 mRNAの発現量も有意にアップレギュレートされた(図5b)。mPGES-1タンパク質の発現は、刺激要因のない培地中への変更後も、ΔCUGBP1に応答して強くアップレギュレートされた(図5c)。データは、炎症条件下で、CUGBP1がmPGES1の発現を阻害することを実証する。
【0060】
次いで、mPGES-1発現におけるこれらの変化が、PGE2の生合成を変化させるかを調査した。内因性CUGBP1を発現するA549細胞について、24時間IL-1βに曝すことで、PGE2レベルは24時間のIL-1βによる刺激で有意に促進され、刺激要因を取り除くと元のレベルに戻った(図5d)。注目すべきことに、PGE2の形成はmPGES-1と同様に、COX-2の活性に依存する。炎症性刺激要因を除去した後のA549細胞培地内のPGE2レベルの減少は、明らかに、mRNAレベルとタンパク質レベルの両方におけるCOX-2のダウンレギュレーションに起因する(図5e, f)。一方で、mPGES1レベルは一定で維持される(図5c)。
【0061】
A549 ΔCUGBP1細胞では、PGE2形成は、IL-1βの存在下で約50倍まで有意にアップレギュレートされた(図5d)。COX-2レベルはΔCUGBP1の影響を受けなかった(図5e.f)。結果は、CUGBP1が、mPGES-1の発現を制御することで(ただし、COX-2の発現は制御しない)(図5c)、A549細胞内のPGE2生成に影響を与えることを示す。
【0062】
実施例8:CUGBP1は、mPGES-1翻訳抑制因子として作用する
スプライシングを制御する作用とは別に、CUGBP1は翻訳抑制因子としても作用することが示されてきた。CUGBP1がタンパク質の翻訳に影響を与えることでmPGES-1の発現を制御するかを調査するために、A549細胞でのCUGBP1による過剰発現実験を実施した。CUGBP1 oeへの応答において、mPGES-1タンパク質レベルの有意なダウンレギュレーションが見られたが、mRNAレベルは変化しなかった(データ示さず)。これらのデータは、明確に、CUGBP1がmPGES-1の翻訳を抑制することを示す。
【0063】
近年、オクルディン(occludin)のmRNAの翻訳抑制が、CUGBP1とタグ付けされたmRNAとのプロセッシングボディ(P-ボディ)内での共存に起因することが示された。したがって、CUGBP1が、mPGES-1 mRNAのP-ボディへの取り込みにより、mPGES-1の翻訳を抑制する可能性がある、という仮説が立てられた。
【0064】
第一に、免疫蛍光染色による分布を調査して、CUGBP1と、P-ボディの主要成分であるDCP1a(Decapping mRNA 1A)との広範囲での共存を発見した。また、P-ボディの成分GW182(Trinucleotide Repeat Containing 6A)のノックダウンによって、P-ボディの形成を阻害できることが示されてきた。そのため、P-ボディの形成がmPGES-1タンパク質の翻訳抑制に関連するかを決定するために、GW182(ΔGW182)を使用した。成熟したmPGES-1 mRNAはΔGW182の影響を受けなかったが、A549細胞内のmPGES-1タンパク質の発現は有意にアップレギュレートされた。これらのデータは、P-ボディ形成と組み合わされる、CUGBP1のmPGES-1の翻訳抑制因子としての役割を示す。
【0065】
実施例9:miR-574-5pとCUGBP1の間のバランスがmPGES-1の発現を制御する
CUGBP1活性がいかに制御されるかを分析する。CUGBP1の発現レベル、局在性及びリン酸化状態がIL-1β刺激の影響を受けなかったことから、miR-574-5pのアップレギュレーションは、mPGES1の生合成におけるCUGBP1の機能に拮抗するという仮説が立てられた。
【0066】
CUGBP1がmiR-574-5pに結合することを発見したことから(図4B, C)、発明者らは、癌(図1A)及びA549細胞のIL-1β処理後(データ示さず)におけるmiR-574-5pの強いアップレギュレーションは、おそらく、mPGES1生合成へのCUGBP1の抑制的作用を中和することにより、mPGES-1発現のアップレギュレーションに関与している、という仮説を立てた。
【0067】
したがって、miR-574-5pは、miRNA模倣体を用いて、A549細胞内で過剰発現する(miR-574-5p oe)。miR-574-5p oeは、mPGES-1 3´UTRアイソフォームの発現を増加させるが、標準的なmPGES-1 mRNAには有意な変化を及ぼさなかった(図6a)。miR-574-5p oeに応答して、mPGES-1タンパク質レベルのアップレギュレーションが見られた(図6b)。これらの結果は、ΔCUGBP1により得られた結果と同等であった(図5c)。
【0068】
次に、miR-574-5p(ΔmiR-574-5p)発現レベルを、miR-574-5p に特異的なLNA(商標)を用いて減少させた。mPGES-1 mRNA発現は、ΔmiR-574-5pの影響を受けなかったが、mPGES-1 3´UTRアイソフォームは、ΔmiR-574-5pに応答して、有意に減少した(図6c)。mPGES-1タンパク質レベルはΔmiR-574-5pによって減少したが、統計学的に有意な減少ではなかった(p=0.066、t検定)。
【0069】
実施例10:CUGBP1とmiR-574-5pの変化は、A549細胞の増殖に反対の効果を生じる
細胞増殖におけるmiR-574-5pとCUGBP1の役割を明らかにするために、MTTアッセイを実施した。このアッセイでは、A549細胞のIL1β誘導性の細胞増殖が、miR-574-5p oeまたはCUGBP1減少により促進される一方、miR-574-5p減少またはCUGBP1 oeで減少した(データ示さず)。これらの結果は、miR-574-5p過剰発現がCUGBP1の作用を中和することにより、増殖の促進に変換する、という仮説を支持する。
【0070】
実施例11:一般的な方法
細胞株及び細胞培養条件
ヒト肺腺癌細胞株A549(ATCC Manassas, バージニア州、米国)及び子宮頸癌細胞株HeLa(DMSZ)を、10%(v/v) 熱不活性化ウシ胎児血清(FBS, Life Technologies, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)、100 U/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン、及び1 mM ピルビン酸ナトリウム(PAA, the Cell Culture Company, Coelbe, ドイツ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Life Technologies, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)で培養した。関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞を、既報の通りに培養した。この研究は、国際倫理委員会(Institutional Ethical Committee)(Solna、ストックホルム、スウェーデン、倫理番号2009/1262-31/3)によって承認され、ヘルシンキ宣言によるすべての倫理基準と、患者の同意に従っている。細胞培養は、37℃、5%CO2の加湿雰囲気下で実施した。A549細胞は、5 ng/mL の IL-1β(Sigma-Aldrich、ダルムシュタット、ドイツ)で24時間刺激した。
【0071】
肺腫瘍組織
肺の非腫瘍組織及び腫瘍組織は、4人のNSCLC患者(3人が腺癌、1人が扁平上皮癌)より取得した。これらのドナーの肺組織は、移植ドナーの非移植肺組織であった。組織提供の研究プロトコルは、国内法及び「医薬品の臨床試験の実施基準/医薬品規制調和国際会議(Good Clinical Practice/International Conference on Harmonisation)」ガイドラインにしたがって、Giesse大学病院(Giessen、ドイツ)の倫理委員会(「Ethik Kommission am Fachbereich Humanmedizin der Justus Liebig Universitaet Giessen」)で承認された。各患者または患者の近親者より、書面によるインフォームドコンセントを取得した(AZ 31/93)。更なる実験において、肺の非腫瘍組織及び腫瘍組織のサンプルを11人の別のNSCLC患者(10人の腺癌、1人の扁平上皮癌)より取得した。これらのドナーの肺組織は、移植ドナーの非移植肺組織であった。組織提供の研究プロトコルは、国内法及び「医薬品の臨床試験の実施基準/医薬品規制調和国際会議(Good Clinical Practice/International Conference on Harmonisation)」ガイドラインにしたがって、Giesse大学病院(Giessen、ドイツ)の倫理委員会(「Ethik Kommission am Fachbereich Humanmedizin der Justus Liebig Universitaet Giessen」)で承認された。各患者または患者の近親者より、書面によるインフォームドコンセントを取得した(AZ 31/93)。
【0072】
RNA干渉
CUGBP1 と GW182を、siRNAオリゴヌクレオチドを用いて一過性に減少させた。形質転換の24時間前に、A549細胞を6ウェルプレートに、5×105細胞/ウェルの密度で播種した。20 pmol/μLのsiRNAオリゴヌクレオチドをLipofectamine 2000(登録商標)(Invitrogen, Karlsruhe, ドイツ)を用いて、製造者の説明書に従って導入した。GW182ノックダウンについては、MISSION(登録商標)siRNA SASI_Hs01_00244664(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)をそれぞれ用いた。CUGBP1ノックダウンについては、既報のsiRNA(5´ - GCUGUUUAUUGGUAUGAUU - 3´; 配列番号5)を発明者の実験のために使用した。コントロールとして、非特異的な配列を有するsiRNA(5´ - UCUCUCACAACGGGCAUUU - 3´; 配列番号6)を使用した。細胞は、形質転換後、24時間及び48時間で回収した。CUGBP1及びGW182ノックダウンの効率を、qRT-PCR、ウェスタンブロット及び免疫蛍光染色で測定した。
【0073】
CUGBP1の過剰発現
形質転換の24時間前に、A549細胞を24ウェルプレートに、4×104細胞/ウェルの密度で播種した。500 ng/ウェルのpCUGBP1プラスミドまたは pCMV-MSコントロールプラスミド(ダルムシュタット工科大学のJulia WeigandとKatrin Kemmererからの提供)を、Lipofectamine 2000(登録商標)を用いて、製造者の説明書に従って導入した。同様に、HeLa細胞にも300 ng/ウェルのpCUGBP1またはpCMV-MSを導入した。過剰発現の効率は、ウェスタンブロットで分析した。
【0074】
miR-574-5p模倣体または阻害剤の形質転換
形質転換の24時間前に、A549細胞を6ウェルプレートに、5×105細胞/ウェルの密度で播種した。20 pmol/μL のmiRIDIAN miR-574-5p 模倣体(HMI0794, Sigma-Aldrich、ダルムシュタット、ドイツ)またはネガティブコントロール(HMC0002, Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を、Lipofectamine 2000(登録商標)を用いて、製造者の説明書に従って導入した。同様に、miR-574-5pノックダウンのために、A549細胞に40 pmol/μLのmiR-574-5p-LNA(商標)阻害剤(4101451-001)またはネガティブコントロール(199006-001, Exiqon, コペンハーゲン、デンマーク)を導入した。形質転換の効率は、qRT-PCRで測定した。
【0075】
A549肺癌細胞株におけるmiR-574-5pの安定的な過剰発現
レンチウィルス粒子Mission(登録商標)lenti miR-574-5p(HLMIR0794, Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)または、Mission(登録商標)lenti コントロール(NCLMIR002, Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を、miR-574-5pを安定的に過剰発現するA549細胞株(A549 miR-574-5p oe)と、コントロール細胞(A549コントロール)を形成するために使用した。形質転換の24時間前に、A549細胞を6ウェルプレートに、1×105細胞/ウェルの密度で播種した。レンチウィルス粒子を迅速に融解し、MOI 0.83でA549細胞に添加し、スピノキュレーション(supinoculation)を行った(875g、32℃で60分間)。形質導入した細胞を1日生育させたのち、1.5 μg/mLピューロマイシン(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を4日間添加して、形質導入クローンを選別した。形質導入効率は、qRT-PCRで評価した。
【0076】
RNA抽出及びRT-PCR
製造者の説明書に従って、RNA全量をTRIzol試薬(Invitrogen, Karlsruhe, ドイツ)を用いて抽出し、Turbo DNase(Ambion, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)で処理した。製造者の説明書に従って、DNaseで処理したRNA 1μgを、High-Capacity RNA-to-cDNA キット(Applied Biosystems, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)を用いた逆転写に使用した。最後に、第1の一本鎖cDNAをPCR反応のテンプレートとして使用した。プライマーmPGES-1 3´UTR_F及びmPGES-1 3´UTR_R(表1)を、mPGES-1 3´UTRの特異的増幅に使用した。RT-PCRは、製造者の説明書に従って、2.5U Taq ポリメラーゼ(New England Biolabs, Ipswish, 米国)を用いて、50 μM ベタイン(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を添加して実施した。RT-PCR反応を指数関数的増幅の段階に保ち、飽和の影響を避けるため、サイクル数を最小限に抑えた。各RT-PCRサンプルの1/10量を、エチジウムブロマイド染色アガロースゲル上のゲル電気泳動により分析した。QIAquick ゲル抽出キット (Qiagen, Hilden, ドイツ)を使用して、RT-PCR産物のゲルからの抽出を行った。PCR CloningPLUSキット(Qiagen, Hilden, ドイツ)を使用して、単離されたRT-PCR産物のクローニングを行った。次いで、選択したプラスミドの配列決定を行った。
【0077】
【表1】
【0078】
定量的逆転写PCR(qRT-PCR)
DNaseで処理したRNA 1μgを使用して、製造者の説明書に従って、High-Capacity RNA-to-cDNA キット(Applied Biosystems, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)を用いた逆転写を行った。Fast SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)を用いて、Applied Biosystems StepOne Plus(商標)Real-Time PCR System (Applied Biosystem, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)でのリアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)を実施した。1反応あたり1μLのcDNA(1:2 希釈したもの)を使用した。β-アクチンを、多様なサンプル中のcDNA量の変動を補正するための、内因性コントロールとして使用した。プライマーペアの配列一覧を表1に示す。
【0079】
qRT-PCRに基づくmiR-574-5pの定量は、miScript システム(Qiagen, Hilden, ドイツ)を用いて実施した。DNaseで消化したRNA 1μg を逆転写に使用した。miR-574-5pのqRT-PCRは、miR-574-5p特異的プライマー(MS00043617, Qiagen, Hilden, ドイツ)を用いて実施した。snRNA U6を内因性コントロールプライマーとして使用した(MS00033740, Qiagen, Hilden, ドイツ)。snRNA U6、hsa-miR-16及びSNORD72は、肺癌内で制御されるため、有効なコントロールではないことから、NSCLC 組織サンプルのmiR-574-5pの発現は、miRTC primer(MS00000001, Qiagen, Hilden, ドイツ)を用いたmiRNA逆転写コントロールに対して補正した。miR-574-5pの測定量を、miRTCコントロールのmiRTCの発現に対して補正した。qRT-PCRは製造者の説明書に従って実施した。倍数値は、2(-ΔΔCt)の値を用いて計算した。
【0080】
プラスミド構成物
mPGES-1 3´UTRのcDNAは、NotI-mPGES-1 3´UTR_F及びHindIII-mPGES-1 3´UTR_R(表S1)のプライマーを用いてA549細胞から増幅し、NotI及びHindIIIの切断部位を介してpDL Dual Luciferase プラスミドにクローニングして、mPGES-1 3´UTRプラスミドを得た。mPGES-1 3´UTRプラスミドをテンプレートとして使用した部位特異的変異導入PCRにより、2つのGUリッチ要素(GRE要素)の欠失を生じさせた。第1のGUリッチ要素の変異については、ΔGRE1_F及びΔGRE1_Rを使用して、 プラスミドΔGRE1_mPGES-1 3´UTRを作成した。第2のGUリッチ要素は、ΔGRE2_mPGES-1 3´UTRを生じるΔGRE2_F及びΔGRE2_Rを用いて生成した。すべてのプライマー配列の一覧を、表1に示す。プラスミドは、DNA配列決定により確認した。
【0081】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
形質転換の24時間前に、24ウェルプレートに、1ウェルあたり4×104のHeLa細胞を播種した。100ng/ウェルのmPGES-1 3´UTR構成物と、300ng/ウェルのpCUGBP1及びコントロールとしてpCMV-MSとを使用して、Lipofectamine 2000(登録商標)(Invitrogen, Karlsruhe, ドイツ)で、製造者の説明書に従って形質転換を行った。48時間後、TECAN infinite M200 リーダーで、Dual-Glo(商標)Stop and Glow Luciferase Assay System(Promega, Madison, 米国)を用いて、細胞のルシフェラーゼ活性のアッセイを行った。ウミシイタケのルシフェラーゼ活性を、形質転換効率に対するルシフェラーゼ活性の補正に使用した。
【0082】
ウェスタンブロッティング
細胞全体の溶解物を得るために、A549細胞をT-PER(商標)組織タンパク質抽出試薬(Life Technologies, ThermoFisher Scientific, Waltham, 米国)中で、4℃で30分間溶解した。核分画と細胞質分画を分離するため、10 mM HEPES pH 7.9(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1.5 mM MgCl2(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、10 mM KCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、プロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む細胞質抽出バッファー中で、細胞を5分間氷上で溶解させた。サンプルを3分間(6,500 rpm)遠心分離した。上清が細胞質分画であった。ペレットを、さらに20 mM HEPES pH 7.9、1.5 mM MgCl2、0.42 M NaCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.2 mM EDTA(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、25%グリセリン(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)及びプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む核抽出バッファー中で、-80℃で15分間再懸濁した。サンプルを37℃で3回凍結融解した。サンプルを、13,300 rpmで15分間遠心分離した。上清が核分画であった。タンパク質量を、Bradfordアッセイ(BioRad Laboratories, Hercules, 米国)で測定した。ウェスタンブロット分析を上記の通りに実施した。メンブレンを、mPGES-1(Cayman-Chemical, Ann Arbor, 米国)、GAPDH(2118, Cell signaling, Cambrige, 英国)、CUGBP1(ab9549, Abcam, Cambrige, 英国)、リン酸化CUGBP1(15903, Abnova, Heidelberg, ドイツ)、ラミンA/C(4777S, Cell signaling, Cambrige, 英国)及びCOX-2(sc-1745, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, 米国)を認識する一次抗体とともにインキュベートした。A549 miR-574-5p-5p oe及びA549コントロール細胞に関する実験では、細胞を溶解し、mPGES1、COX-2及びGAPDHの分析を、上記の通りに実施した。
【0083】
電気泳動移動度シフトアッセイ
0.2% Nonidet P-40(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、40 mM KCl(Sigma-Aldrich, St. Louis、米国), 10 mM HEPES(pH 7.9)(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、3 mM MgCl2(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1 mM DTT(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、5% グリセリン(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、及びプロテアーゼ阻害剤(Roche, Basel, スイス)を含むバッファー中で、10分間氷上で細胞を溶解して、細胞質抽出物を調製した。細胞質抽出物は、13,300 rpm、2分間遠心分離を行って核を除き、直ちにドライアイス上で凍結させ、-80℃で保存した。抽出物のタンパク質濃度を、Bradfordアッセイで測定した。GRE1及びGRE2のRNAを、in vitroで転写した。GRE1に特異的なプライマー(GRE1_F及びGRE1_R)並びにGRE2に特異的なプライマー(GRE2_F及びGRE2_R)(表1)をアニールし、高コピー数のプラスミドpHDVにクローニングした。このように、HDVリボザイムをGRE1及びGRE2の3′末端に付加することで、in vitroの転写後に相同的な3′末端を得た。T4 ポリヌクレオチドキナーゼ(Invitrogen, Karlsruhe, ドイツ)を用いて、RNAの末端を[γ32P] ATP(6,000 Ci/mmol, Hartmann, Braunschweig, ドイツ)で標識した。miR-574-5p及びmGRE1 RNAは、Sigma-Aldrichによって商業的に合成された。EMSAアッセイは、細胞質抽出物を、0.2% Nonidet P-40、40 mM KCl、10 mM HEPES(pH 7.9)、3 mM MgCl2、1 mM DTT、5% グリセリン及び5 mg/mLヘパリン硫酸(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を含むバッファー中で、32P標識RNAプローブをともにインキュベートすることで実行した。各反応は、10-70μgの細胞質タンパク質及び10fmolの放射線標識RNAプローブを全量15μL中に含む状態で20分間行った。各サンプルを、3μLの5×ネイティブローディングバッファー(50%、v/v、グリセリン、0.2%ブロモフェノールブルー、0.5×TRIS-ホウ酸EDTAバッファー, Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)と混合した。サンプルを、非変性条件下で、6%ポリアクリルアミドゲル(PAA)の電気泳動で分離した。ゲルをTyphoon Phosphorimager(Amersham Biosciences, Freiburg, ドイツ)上で分析した。
【0084】
MTT細胞増殖アッセイ
生細胞の検出のために、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)テトラゾリウム)(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)還元アッセイを実施した。形質転換の24時間前に、A549細胞を、96ウェルプレートに1ウェルあたり1×104細胞の密度で播種した。MTT還元アッセイのために、20μLの5 mg/mL MTT (PBS中)溶液を培養液中の細胞に添加し、4時間インキュベートした。培地を除去して、100 μL DMSO(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)を添加した。ホルマザンの量を、プレートリーダー分光光度計用いて、570nmの吸収の変化を記録することで測定した。参照として、630nm波長を、非特異的なバックグラウンドを補正するために使用した。
【0085】
免疫蛍光染色
A549細胞(5×105)を、6ウェルプレート内のカバースライド(18×18cm, Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)上に播種し、4%の冷パラホルムアルデヒド(PFA, Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)を用いて15分間固定した。次いで、PBSで2回洗浄し、その後、0.5%Triton X-100(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)で5分間透過処理を行った。細胞を、2% BSA PBS溶液(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)でブロック処理した。一次抗体DCP1a(ab70522, Abcam, Cambrige, 英国)は1:1000に、GW182(ab66009, Abcam, Cambrige, 英国)は1:100に、及びCUGBP1(ab9549, Abcam, Cambrige, 英国)は1:500になるように、ブロッキングバッファー内に希釈添加して、固定した細胞とともに4℃で一晩インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄して、二次抗体(Abcamからの、ヤギ抗マウスIgG(ab150116, Alexa Fluor(登録商標)594))、ヤギ抗ウサギIgG(Alexa Fluor(登録商標)488, ab150077)と、室温で2時間インキュベートした。細胞を、4′,6-ジアミジン-2′-フェニルインドールジヒドロクロライド(DAPI, Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)で染色した。Axio Observer顕微鏡(Zeiss, Jena, ドイツ)とLSM 510 Meta(Zeiss, Jena, ドイツ)画像処理ソフトウェアを使用して、20倍の大きさで画像を処理した。
【0086】
細胞培養上清中のプロスタノイドの測定
細胞培養上清からのプロスタノイドは、固相抽出により細胞培養液から抽出し、上記の通りに重水素化内部標準を利用して、標的LC-MS / MSにより分析した。
【0087】
A549 miR-574-5p oe及びA549 コントロール細胞株の実験では、馴化培地を培養細胞から回収し、10,000 gで2分間遠心分離して細胞片を廃棄した。上清のPGE2とPGF2αのレベルを、ラジオイムノアッセイで測定し、全タンパク質濃度に対して補正した。
【0088】
マウス実験
実験は、2010年9月22日の欧州共同体評議会(EEC)指令(2010/63/EU)及び国内倫理委員会に従って実施した。研究は、イタリア保健省(MOH)によって承認された(承認No. 190/2017-PR)。CD-1(登録商標)ヌードマウスをCharles River(ミラノ、イタリア)から入手した。実験を始める前に、マウスをそれぞれケージ毎に最大5匹収容し、温度(20±2°C)、湿度(55±10%)、照明(午前7時から午後7時)の条件下で1週間順応させた。特定の病原菌がなく、エサと水が不断給餌された条件下に動物を維持し、動物の健康状態を毎日モニターした。動物の苦痛を最小限に抑え、使用する動物の数を減らすために、あらゆる努力を行った。適した週齢(6週齢から8週齢)のメスを、すべての実験に使用した。A549コントロール細胞またはA549 miR-574-5p-5p oe細胞を、上記の標準的な条件下で培養し、トリプシンで回収し、PBSに再懸濁した(5x107/mL)。100μLの細胞懸濁液(5×106細胞を含む)をマウスの脇腹に皮下注入して、担癌マウスのモデルを構築した(図2A)。mPGES-1阻害剤(CIII, 28575, Novasaidストックホルム、スウェーデンより提供)をビヒクル(1%Tween 80(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.5% カルボキシメチルセルロース(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)を含む0.9% 塩化ナトリウム液)中に分散させた。
【0089】
A549コントロール細胞(n=11)またはA549 miR-574-5p-5p oe細胞(n=12)を受けたマウスに、1日1回、腫瘍細胞の移植からと殺(28日目、4週間後)までの期間の毎日、ビヒクルでの処理を行った(図2A)。A549コントロール細胞(n=11)またはA549 miR-574-5p-5p oe細胞(n=11)を接種したCIII処理マウスに、CIII化合物(50mg/kg)を毎日1回、腫瘍細胞の移植からと殺まで腹腔内注射により投与した。腫瘍の移植からと殺まで、週3回、デジタルノギスで直径を測定することで、腫瘍の成長をモニターした。腫瘍体積(TV)は、式 TV(cm3) = 長さ[D(cm)]×深さ [d(cm)2]×0.44 で計算した。と殺まで週3回体重をモニターし、解剖された腫瘍の腫瘍重量(gr)は、と殺時に評価した。マウスは腫瘍細胞の移植から4週間後、最後の薬剤投与の30分後にと殺した。28日目に、動物をと殺し、組織学のために、腫瘍及び肺を回収して、Tissue-Tek O.C.T. (Sakura, San Marcos, 米国)中に埋設し、イソペンタン中で冷却して液体窒素中で凍結した。腫瘍組織サンプルからの7mm厚のクリオスタット切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、隣接する切片を抗Ki67(Cell Signaling, Danvers, マサチューセッツ州)、抗VEGF(Bioss, SIAL srl, ローマ、イタリア)またはCD40(Santa Cruz, DBA, ミラノ、イタリア)抗体の免疫組織学的染色に使用した。クリオスタット切片は、まず氷冷アセトンで固定し、3%H2O2内で10分間インキュベートし、PBSで洗浄し(3×5分)、次いで3%ウシ血清アルブミン(BSA, Sigma Aldrich, ミラノ、イタリア)中でインキュベートした。切片を37℃で1時間、CD40(1:30)、Ki67(1:50)及びVEGF (1:50)の希釈溶液に曝し、洗浄した(3×5分、PBS中)。一次抗体の位置決定は、次の適した種特異的ビオチンコンジュゲート抗二次抗体(ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ(KIT Immunoperoxidase Secondary Detection System, Chemicon, Millipore, ミラノ、イタリア))を20分間適用することで達成された。洗浄(3×5分、TBS中)後、切片をストレプトアビジン-コンジュゲートHRP中で15分間インキュベートした。このインキュベーションの後、切片を10分間、3,3-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB, Sigma Aldrich, ミラノ、イタリア)に曝し、茶色い反応生成物を生成した。次いで、切片をヘマトキシリンで対比染色し、Aquatex(Merck, ミラノ、イタリア)に載置した。Nikon Eclypse T200を使用して、倍率60倍で画像を分析した。すべての動物で、ベースライン、細胞移植前、及び27日目、と殺前に、24時間尿サンプルを収集し、プロスタノイド尿中代謝産物レベルの評価に使用した。
【0090】
PGE-M、PGD-M、PGI-M及びTX-Mの尿中レベルの評価
テトラノールPGE-M、テトラノール PGD-M、2,3-ジノール-6-ケト-PGF1α(PG-IM)及び2,3-ジノール-TXB2 (TX-M)の同時定量を可能とするLC/MS法を適用した。尿サンプル(0.2mLアリコート)にテトラノール PGEM-d6(終濃度2ng/0.2mL)(Cayman Chemical, Ann Arbor, 米国)、テトラノールPGDM-d6(2ng/0.2mL)(Cayman Chemical, Ann Arbor, 米国)、2,3-ジノール-6-ケト-PGF1α-d9 (ナトリウム塩)(1ng/0.2mL)(Cayman Chemical, Ann Arbor, 米国)、2,3-ジノール-TXB2-d9(2ng/0.2mL)(Cayman Chemical, Ann Arbor, 米国)を内部標準として添加し、室温で15分間インキュベートした。次いで、葉酸(5μL)を添加した。15分のインキュベーション後に、メトキシアミン-HCl(1g/mL, 0.1mL)(Sigma-Aldrich, St Louis, 米国)を添加して、各ケトン基からO-メチルオキシムを生成した。室温での30分のインキュベーションの後、尿サンプルを水で1mLまで希釈し、HClでpH3に調整し、1 mLアセトニトリルと1mLの水で前処理しておいたNumber Strata X 33u 高分子逆相(30 mg/mL)(Phenomenex, Torrance, 米国)を用いて抽出した。Number Strata X 33u 高分子逆相カラムを1mLの水(5%アセトニトリル)で洗浄し、次いで1mLの酢酸エチルで溶出した。溶出液を蒸発させ、乾燥残渣を50μLの移動相(10%アセトニトリル水溶液)に再懸濁し、40μLをLC-MS / MSシステムに導入して分析した。
【0091】
統計
少なくとも3つの独立した実験の平均+SEMとして結果を示す。統計的分析を、スチューデントの、対応または非対応のt検定(両側)によってそれぞれ実施した。実験の時間経過については、GraphPad Prism 5.0を用いた2方向ANOVA(Bonferroni 事後検定)で行った。差異は、p<0.05(p<0.05については*、p<0.01については**、p<0.001については***として表示)を有意とした。マウス実験は、ANOVA 分析及びNewman-Keuls多重比較試験(§p<0.05, *p<0.01, **p<0.001)で分析した。
【0092】
RNA免疫沈降
5 ng/mL IL-1βによる24時間の刺激の前に、3×106のA549細胞を10cmのシャーレに播種して一晩培養した。次いで、細胞を5mLの氷冷PBSで洗浄して、EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤(Roche, Basel、スイス)を含む5mL PBS中で細胞スクレーパーを用いて回収した。細胞をプールして、4℃、400×gで5分間スピンダウンし、10 mM Tris-HCl(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)、pH 7.5、10 mM KCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1.5 mM MgCl2、0.5 mM DTT(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.9% Nonidet P-40(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、20μL リボヌクレアーゼ阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む溶解バッファー1mLに再懸濁した。懸濁液を氷上で10分間インキュベートして、その後、30%の振幅で、20秒間の休止を挟んで10秒間×4回の超音波処理を行った。その後、サンプルを10,000×g、4℃で10分間スピンダウンして、細胞片を除去した。上清を新しいチューブに移し、10%をインプット用のサンプルとした。
【0093】
GammaBind Plus Sepharoseビーズ(GE Healthcare, Freiburg, ドイツ)を0.2 mg/mL BSA(PBS中、Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.1mg/mL酵母tRNAを含むブロッキングバッファーで、4℃で90分間ブロックした。使用前に、ビーズを溶解バッファーで3回洗浄し、300×gで5分間遠心分離した。50μLのビーズ懸濁液と10μgのCUGBP1抗体(05-621 クローン3B1, Merck, ダルムシュタット、ドイツ)または正常マウスIgG抗体(12-371, Merck, ダルムシュタット、ドイツ)とを混合し、4℃で30~60分間インキュベーションして、ビーズと抗体とを結合させた。次に、溶解物をCUGBP1- / IgG-ビーズ混合物にそれぞれ等量添加して、4℃で2時間インキュベートすることにより、免疫沈降を実施した。その後、サンプルを、各洗浄バッファーB1-B3(組成は下記の通り)で、300×gの遠心ステップを挟んで、冷蔵室で5分間洗浄した。洗浄バッファー:B1バッファーは、20mM Tris-HCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、pH 7.5、150 mM NaCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、2 mM EDTA(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.1% SDS(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)、1% Triton(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)及びプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む。B2バッファーは、20 mM Tris-HCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)pH 7.5、500 mM NaCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、2 mM EDTA(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、0.1% SDS(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)、1% Triton(Carl Roth, Karlsruhe, ドイツ)及びプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む。B3バッファーは、10 mM Tris-HCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)pH 7.5、250 mM LiCl(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1 mM EDTA(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1% デオキシコール酸ナトリウム(Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、1% Nonidet P-40 (Sigma-Aldrich, ダルムシュタット、ドイツ)、及びプロテアーゼ阻害剤EDTAフリー(Roche, Basel, スイス)を含む。最後の洗浄ステップの後、各沈殿の10%を、免疫沈降の評価のためのウェスタンブロット分析に使用した。残りの沈殿を500μL TRIzol試薬(Invitrogen, Karlsruhe, ドイツ)に再懸濁し、上記の通りRNAを単離した。次いで、miR-574-5pに基づくqRT-PCRまたはmRNA定量を上記の通りに実施したプライマーは以下のものを使用した;mPGES-1 CDS(mPGES-1-cds_F: GAAGAAGGCCTTTGCCAAC; mPGES-1-cds_R: CCAGGAAAAGGAAGGGGTAG)、COX-2:(COX-2_F: CCGGGTACAATCGCACTTAT; COX-2_R: GGCGCTCAGCCATACAG)、miR-574-5p: (MS00043617, Qiagen, Hilden, ドイツ)、またはmiR-16:(MS00031493, Qiagen, Hilden, ドイツ)。
【0094】
実施例12:CUGBP1はmPGES-1 3’UTRのGREとmiR-574-5pに結合する
さらにmPGES1 mRNA及びmiR-574-5pのCUGBP1への結合を確認するために、CUGBP1に対する抗体を使用したRNA免疫沈降(RIP)アッセイを実施した(図7a,b)。それにより、CUGBP1に結合する共沈降したRNAをqRT-PCRを介して定量することができる。ウェスタンブロットによるCUGBP1免疫沈降の評価によって、全CUGBP1の16.6% ± 7.7(SEM)が免疫沈澱中から回収できたことが明らかになった(図7c)。4つの独立した実験のうち、1つの代表的なブロットを図Xcに示す。mPGES-1 mRNA及びmiR-574-5pが、CUGBP1-RIP中で高度に富化されていることが分かった(順に図7a及び7b)。それぞれネガティブコントロールとして使用したCOX-2 mRNA及びmiR-16については、富化は見られなかった。これは、CUGBP1のmiR-574-5p及びmPGES-1 mRNAとの特異的な相互作用をさらに裏付ける。mPGES-1 3´UTRとmiR-574-5p RNAの間の相互作用を確認するために、免疫沈降(RIP)アッセイを実施した。
【0095】
実施例13:mPGES-1及びCUGBP1の発現はNSCLCの生存率を決定づける
「Kaplan-Meier Plotter」メタ分析ツール(http://kmplot.com/analysis/; version 2015)を使用して、mPGES-1及びCUGBP1の発現について、肺炎患者の全体的な生存率に対する相関を分析した。全体的な生存率の分析は、1926名の肺炎患者からの遺伝子アレイデータについて実施した。mPGES-1及びCUGBP1を認識する最も特異的なプローブを、マイクロアレイの最適なプローブセットとして選択した。遺伝子発現のメジアン値を使用して、サンプルを2つのグループ(高発現及び低発現)に分け、Kaplan-Meier生存プロットを用いて比較した。Kaplan-Meierプロットは、高発現レベルのmPGES-1と低発現レベルのCUGBP1が、より短い生存率と関連することを示す(図8a,b)。
【0096】
参考文献
Pai, R., et al. Prostaglandin E2 transactivates EGF receptor: a novel mechanism for promoting colon cancer growth and gastrointestinal hypertrophy. Nat Med 8, 289-293 (2002).

Jakobsson, P.J., Thoren, S., Morgenstern, R. & Samuelsson, B. Identification of human prostaglandin E synthase: a microsomal, glutathione-dependent, inducible enzyme, constituting a potential novel drug target. Proc Natl Acad Sci U S A 96, 7220-7225 (1999).

Patrignani, P. & Patrono, C. Cyclooxygenase inhibitors: From pharmacology to clinical read-outs. Biochim Biophys Acta 1851, 422-432 (2015).

Hughes, D., et al. NAD+-dependent 15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase regulates levels of bioactive lipids in non-small cell lung cancer. Cancer Prev Res (Phila) 1, 241-249 (2008).

Leclerc, P., et al. Characterization of a new mPGES-1 inhibitor in rat models of inflammation. Prostaglandins Other Lipid Mediat 102-103, 1-12 (2013).

Li, Q., et al. MicroRNA-574-5p was pivotal for TLR9 signaling enhanced tumor progression via down-regulating checkpoint suppressor 1 in human lung cancer. PLoS One 7, e48278 (2012).

Zhou, R., et al. MicroRNA-574-5p promotes metastasis of non-small cell lung cancer by targeting PTPRU. Sci Rep 6, 35714 (2016).
本開示は以下の実施形態を包含する。
[1] 以下のステップを含む、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定する方法:
(a) 対象の試験サンプル中のmicroRNA-574-5pの量を測定するステップ;
(b) 測定量を参照と比較するステップ;及び
(c) 前記比較に基づいて、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があるものとして、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象を同定するステップ。
[2] 前記参照は、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群に由来する、実施形態1に記載の方法。
[3] 試験サンプル中の、本質的に同量の、または増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示し、試験サンプル中の減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示す、実施形態2に記載の方法。
[4] 前記参照は、(i) 非腫瘍組織サンプル、または、(ii) プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことが分かっている、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象または対象群、または、(iii) 健康体若しくは健康体群、に由来する、実施形態1に記載の方法。
[5] 試験サンプル中の、本質的に同量の、または減量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性ではないことを示し、試験サンプル中の増量されたmicroRNA-574-5pは、対象がプロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性であることを示す、実施形態4に記載の方法。
[6] 前記サンプルは、組織サンプルまたは体液サンプルである、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記体液サンプルは、全血、血清、血漿、尿及びリンパ液からなる群から選択される、実施形態6に記載の方法。
[8] 前記腫瘍は、肺癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、頭頸部癌、甲状腺乳頭癌、低及び高リスク神経膠腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、子宮頸癌、脳腫瘍及び胃癌からなる群から選択される、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記対象は、哺乳類、好ましくはヒトである、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 前記プロスタグランジンE形成阻害剤は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び/またはミクロソームプロスタグランジンEシンターゼ-1阻害剤(mPGES1阻害剤)である、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[11] 前記NSAIDが、選択的COX-2阻害剤、好ましくは、パレコキシブ、エトリコキシブまたはセレコキシブ、COX1-選択的阻害剤、好ましくは、低用量のアスピリン、及び、非選択的COX1/2阻害剤、好ましくは、ナプロキセン、イブプロフェンまたはジクロフェナク、からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
[12] 前記mPGES1阻害剤が、MK-886誘導体、フェナントレンまたはベンゾイミダゾール類、ビアリールイミダゾール類、ピリニキシン酸誘導体、2-メルカプトヘキサン酸、リコフェロン誘導体、ベンゾ(g)インドール-3-カルボン酸塩、オキシカム類、三置換尿素及びカルバゾールベンズアミド類からなる群から選択される、実施形態10に記載の方法。
[13] プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性がある対象を同定するための、プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5p、またはこれに特異的に結合する検出試薬の使用。
[14] 以下のa)及びb)を備える、実施形態1~12に記載の方法を実施するために適合化された装置:
a) プロスタグランジンE依存性腫瘍に罹患している対象のサンプル中のmicroRNA-574-5P量を測定するために適合化された、microRNA-574-5Pに特異的に結合する検出試薬を備える分析ユニット;及び
b) 測定量と参照を比較して、それにより、対象が、プロスタグランジンE形成阻害剤による治療に感受性があることを同定することができる、実施形態2または4に記載の参照値のデータベースと、比較を実施するためのコンピューターに実装されたアルゴリズムと、を備える、評価ユニット。
[15] 実施形態1~12のいずれかに記載の方法を実施するために適合化されたキットであって、microRNA-574-5pに特異的に結合する検出試薬と、前記方法を実施するための説明書とを備える、キット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
0007171712000001.app