(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】排気ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 29/70 20060101AFI20221108BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221108BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20221108BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B01J29/70 A ZAB
B01D53/94 222
F01N3/035 A
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2020519954
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019780
(87)【国際公開番号】W WO2019221292
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018095460
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220804
【氏名又は名称】東京濾器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 高行
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/100384(WO,A1)
【文献】特表2017-519627(JP,A)
【文献】特表2010-501326(JP,A)
【文献】特開2015-112559(JP,A)
【文献】特開2005-152774(JP,A)
【文献】特開2014-198654(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163984(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/134007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/035,3/08,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトが充填されたDPFを有する
排気ガス浄化触媒であって、
前記ゼオライトの付着量が、94g/L~101g/Lであることを特徴とする、排気ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排気ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した90%粒子径が2.5μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の排気ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記ゼオライトをスラリー化した状態における、前記ゼオライトの50%粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の排気ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記スラリーの粘度は、25℃で20mPa・s以下であることを特徴とする、請求項4に記載の排気ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化触媒に関し、詳細には、高いNOx浄化能力を有するSCR担持DPF触媒に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
排気ガス浄化システムは、自動車から排出される排気ガスを処理するために用いられる。排気ガス浄化システムの小型化にあたって、排気ガス中に含まれるPM(Particulate Matters:粒子状物質)の捕集能力とNOxの浄化能力とを両立可能なSCR担持DPF触媒(以下、「SCR/DPF触媒」と称する)の開発が進められている。
【0003】
SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的還元触媒)とは、尿素やその加水分解により生成するアンモニアを還元剤として、NOxを、N2やH2Oに還元する触媒である。DPF(Diesel Particulate Filter)とは、PMを除去するディーゼル微粒子捕集フィルターである。使用する際は、SCRで充填したDPF(SCR/DPF触媒)を、たとえば自動車の底部に配置する。
【0004】
ここで、SCRとして、現在主流となっているゼオライト系SCRがある(たとえば特許文献1参照)。ゼオライト系SCRは、通常のSCRに比べ、高いNOx浄化能力を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、SCR/DPF触媒の実用化にあたっては、SCRの担持に伴う圧損上昇が課題となっている。圧損上昇は、燃費の悪化につながる。具体的に、NOx浄化能力を向上させるためには、DPFに対して多量のSCRを充填する必要がある。一方、多量のSCRを充填した場合、DPFにより排気ガス中のPMが捕集される際に、PMの堆積により圧損が上昇しやすくなる。
【0007】
ここで、上述のゼオライト系SCRは、かさ比重が小さい。従って、DPFに対して多量のゼオライト系SCRを充填してSCR/DPF触媒を作製すると、DPFの細孔が閉塞してしまうため、PMが堆積し易くなる。すなわち、ゼオライト系SCRを使用する場合には、圧損が更に上昇しやすくなる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ゼオライト系SCRを多量に使用しても、圧損が上昇しにくい排気ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトが充填されたDPFを有する、排気ガス浄化触媒である。
【0010】
また、前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【0011】
また、前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した90%粒子径が2.5μm以下であることが好ましい。
【0012】
また、前記ゼオライトをスラリー化した状態における、前記ゼオライトの50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【0013】
また、前記スラリーは、25℃において粘度が20mPa・s以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ゼオライト系SCRを多量に使用しても、圧損が上昇しにくい排気ガス浄化触媒を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例および比較例における、DPFへのSCR充填量と圧損との関係を示すグラフ。
【
図2】実施例および比較例における、DPFへのSCR充填量と圧損との関係を示すグラフ。
【
図3A】一次粒子径が0.5μm以下のゼオライトの電子顕微鏡画像。
【
図3B】一次粒子径が1.0μmのゼオライトの電子顕微鏡画像。
【
図3C】一次粒子径が2.0μmのゼオライトの電子顕微鏡画像。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。また、「%」は、特にことわりのない限り、「重量%」を表すものとする。
【0017】
<排気ガス浄化触媒>
SCR/DPF触媒は、自動車のエンジンから排出された排気ガスに含まれるPMをDPFで捕集することにくわえ、SCRでNOxを無害なN2やH2Oに還元する触媒である。SCR/DPF触媒は、通常、自動車の底部に設けられる。
【0018】
<DPF>
DPFの基材としては、コージェライト、SiC、およびチタン酸アルミナなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
DPFに用いられる構造体としては、ウォールフロー型の構造体が挙げられる。その構造は、互いに平行して延びる複数個の排気流通路(ハニカムセル)を具備するものである。
【0020】
排気流通路は、下流端が栓により閉塞(目止め)された排気ガス流入通路と、上流端が栓により閉塞(目止め)された排気ガス流出通路と、多孔質の隔壁とで構成される。
【0021】
排気ガス流入通路と、排気ガス流出通路とは、隔壁により互いに隔てられている。
【0022】
DPFの隔壁の細孔には、SCRが充填される。DPFにSCRを充填することにより、SCR/DPF触媒が得られる。なお、複数ある細孔の一部の箇所にSCRを充填し、他の細孔をコートする形態も含む。SCRの詳細については後述する。
【0023】
このようなSCR/DPF触媒を用いることにより、排気ガス流入通路から流入した排気ガス成分は、隔壁を通過して排気ガス流出通路へ移動する。その際、隔壁に設けられた無数の細孔により、固体であるPMが捕集される。また、隔壁の細孔に充填されたSCR(或いは細孔にコートされたSCR)によりNOxが浄化される。
【0024】
このように、本実施形態に係るSCR/DPF触媒は、上記のようなPM捕集能力とNOx浄化能力とを併せ持つ。なお、SCR/DPF触媒を公知の尿素添加装置と組み合わせることによって、NOxの浄化能力をより高めることができる。
【0025】
<SCR>
本実施形態にかかるSCRは、一次粒子径が0.5μm以下のゼオライトである。ゼオライトは粉末状である。なお、ゼオライトを粉末化した状態においては、一次粒子は分散して存在していてよいし、一次粒子が凝集していわゆる二次粒子を形成していて一次粒子径より大きなサイズになっていても良い。
【0026】
ゼオライトは、NOx浄化能力を有するものであれば、種々のものを用いて良い。また、ゼオライトは、天然に産出されるものを用いても、任意の方法で合成して得られるものを用いても良い。
【0027】
好ましいゼオライトの一例として、CHA構造を有するゼオライトが用いられる。CHA構造を有するゼオライトとは、酸素8員環から構成される3次元細孔構造を有するゼオライトであり、主としてCa6
2+[Si24Al12O72]の組成を有するものである。
【0028】
一次粒子径が0.5μm以下の条件を満たすゼオライトを、DPFに充填してSCR/DPF触媒を作製することにより、DPFに多量のSCRを充填しても、圧損が上昇しにくい。
【0029】
また、ゼオライトは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましく、さらに、90%粒子径が2.5μm以下であることが好ましい。
【0030】
SCRをDPFに対して充填する際には、スラリー化したものを用いる。スラリーは、ゼオライトの粉末を水に分散させることによって作製される。
【0031】
なお、スラリー化した状態におけるゼオライトの50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、スラリーの粘度は、25℃において20mPa・s以下であることが好ましい。
【実施例】
【0033】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1-6、比較例1-5>
一次粒子径、動的光散乱法により測定した50%粒子径(D50)、および90%粒子径(D90)が異なるCHA構造を有するゼオライトの粉末を、イオン交換水に分散させ、実施例1-6、および比較例1-5にかかる、SCRとしてのスラリーを作製した。
【0035】
作製したスラリーを、イビデン社製 SiC-DPF(気孔率58%、セル厚11ミル、セル密度350cpi)に充填し、乾燥後、450℃以上で焼成した。サンプルのサイズはφ143.8mm×127mmである。
【0036】
<比較例6>
比較例6は、従来技術にかかる市販のSCR/DPF触媒である。このSCR/DPF触媒は、DPFとしてイビデン社製SiC-DPFが用いられ、SCRとしてゼオライトが用いられている。このSCR/DPF触媒を分析した結果、ゼオライトの充填量は約130g/Lであった。
【0037】
上記実施例1-6、および比較例1-6にかかるゼオライトの一次粒子径、動的光散乱法により測定した粒径(D50およびD90)、およびそれを用いて調整したスラリーの動的光散乱法により測定した粒径(D50およびD90)、粘度、DPF基材へのSCR付着量、および作製したSCR/DPF触媒の圧損(後述する)を、表1に示す。なお、比較例6については、DPF基材へのSCR充填量、および圧損のみ示す。
【0038】
【0039】
なお、一次粒子径は、以下のように測定した。
(1)FE-SEM装置を用い、ゼオライトの粉末を10,000倍で撮影した。
(2)撮影により得られた画像にて、CHA構造に特有な立方体形状を有している最小単位結晶について少なくとも20個以上を特定し、画像解析ソフトでそれぞれの結晶のサイズ(フェレー径)を測定した。測定した結晶サイズの平均径を一次粒子径として求めた。なお凝集状態にある場合は、表面に露出している面の対角線長さを計測してその値も使用した。
【0040】
動的光散乱法粒径(D50、D90)は、MT3300EX(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて測定した。また、スラリー粘度は円筒形回転粘度計VT-03F(リオン株式会社)を用いて測定した。
【0041】
一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライト(実施例4~6)の電子顕微鏡画像を
図3Aに、一次粒子径が1μmであるゼオライト(比較例1~3)の電子顕微鏡画像を
図3Bに、一次粒子径が2μmであるゼオライト(比較例4及び5)の電子顕微鏡画像を
図3Cに、それぞれ示す。
【0042】
圧損の測定は、以下のような方法でおこなった。
【0043】
上記のように作製したSCR/DPF触媒に対し、室温(25℃)にて、空気を2.5Nm3/minの速度で流通させながら、PMを添加速度2g/L・H(Hour)にて1時間供給し、SCR/DPF触媒で捕集した。捕集後の圧損を測定した。なお、PMとしては、東海カーボン社製カーボンブラック 7100Fを使用した。
【0044】
実施例1および6、比較例1~5にかかるSCR/DPF触媒のSCR充填量と、圧損との関係を
図1に、実施例2~5、比較例6にかかるSCR/DPF触媒のSCR充填量と、上記条件で測定した圧損との関係を
図2に、それぞれグラフとして示す。具体的には、
図1は横軸にSCR/DPF触媒のSCR充填量(レンジは90~102g/L)、縦軸に圧損を示す。
図2は横軸にSCR/DPF触媒のSCR充填量(レンジは120~160g/L)、縦軸に圧損を示す。
【0045】
図1から明らかな通り、一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトを用いて作製したスラリーを、DPFに充填して製造した実施例1および6のSCR/DPF触媒は、SCR充填量が90~102g/Lの範囲において、一次粒子径が1μmであるゼオライトや一次粒子径が2μmであるゼオライトを用いた比較例よりも、圧損の上昇を抑えられることがわかる。具体的には、実施例6のSCR/DPF触媒は、比較例1-5のSCR/DPF触媒よりもSCR充填量が多いにもかかわらず、圧損を低く抑えることができた。
【0046】
図2は、SCRを120~160g/Lと多量に充填した場合における、本発明にかかるSCR/DPF触媒と従来技術にかかるSCR/DPF触媒との差異等を示すものである。
図2から明らかな通り、一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトを用いて作製したスラリーを、DPF基材に充填して製造した実施例3-5のSCR/DPF触媒は、従来技術にかかる比較例6の市販のSCR/DPF触媒よりもSCR充填量が多いにもかかわらず、圧損を低く抑えることができた。
【0047】
さらに、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下、90%粒子径が2.5μm以下であるゼオライトであって、かつスラリー化したゼオライトの50%粒子径が2.0μm以下の条件を満たすゼオライトを用いた実施例2および3のSCR/DPF触媒は、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.6μm、90%粒子径が3.6μmであるゼオライトを用いた実施例4、5よりもさらに圧損が抑えられることがわかる。特に、共に146g/Lで同一のSCR充填量である実施例3と実施例5とを比較すると、その差異が明らかである。実施例3のSCR/DPF触媒は、比較例6の約130g/Lよりも10%以上SCR充填量が多いにもかかわらず、圧損の上昇が1.3kPaも低く抑えることができた。