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特許7171739マイクロ流体デバイスおよび該マイクロ流体デバイスを運転する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイスおよび該マイクロ流体デバイスを運転する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20221108BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221108BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20221108BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
G01N35/08 B
C12M1/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020538909
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2018085927
(87)【国際公開番号】W WO2019137775
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】102018200518.4
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティーノ フランク
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0096172(US,A1)
【文献】国際公開第2009/008236(WO,A1)
【文献】特開2007-083191(JP,A)
【文献】特開2004-025148(JP,A)
【文献】国際公開第2015/195051(WO,A1)
【文献】特表2013-518289(JP,A)
【文献】国際公開第2007/125642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02,14/00-19/32
G01N 35/00-37/00
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイス(1)を運転する方法であって、
a)チャンバ(4)、および前記チャンバ(4)に接続部(25、26)を介して接続されたチャンネル(5,6)が、少なくとも1つの第1の媒体(2,9)により貫流され、弁または圧力補償システムの使用による流体制御により流れが停止されることにより、前記チャンバ(4)および前記チャンネル(5,6)は前記第1の媒体(2,9)で満たされている、ステップと、
b)前記チャンネル(5,6)が、次いで少なくとも1つの第2の媒体(3)でフラッシングされることにより、前記チャンバ(4)は前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)で満たされており、前記チャンネル(5,6)は前記少なくとも1つの第2の媒体(3)で満たされており、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)と前記少なくとも1つの第2の媒体(3)とは互いに混合不能である、ステップと、
を少なくとも含んでいる、方法。
【請求項2】
前記チャンネル(5,6)は、第1のチャンネル(5)および第2のチャンネル(6)を含み、
前記接続部(25、26)は、第1の接続部(25)および第2の接続部(26)を含み、
前記第1のチャンネル(5)は、前記第1の接続部(25)を介して前記チャンバ(4)に接続されており、
前記第2のチャンネル(6)は、前記第2の接続部(26)を介して前記チャンバ(4)に接続されており、
ステップa)において、前記チャンバ(4)、前記第1のチャンネル(5)、および前記第2のチャンネル(6)が、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)により貫流され、弁または圧力補償システムの使用による流体制御により流れが停止されることにより、前記チャンバ(4)、前記第1のチャンネル(5)、および前記第2のチャンネル(6)は前記第1の媒体(2,9)で満たされており、
ステップb)において、前記第1のチャンネル(5)および前記第2のチャンネル(6)が、次いで前記少なくとも1つの第2の媒体(3)でフラッシングされることにより、前記チャンバ(4)は前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)で満たされており、前記第1のチャンネル(5)および前記第2のチャンネル(6)は前記少なくとも1つの第2の媒体(3)で満たされている、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップb)において、前記第2のチャンネル(6)から前記チャンバ(4)を通じて前記第1のチャンネル(5)へ流れる流れを形成することにより、前記第2のチャンネル(6)内の前記少なくとも1つの第2の媒体(3)、前記チャンバ(4)内の前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)および前記第1のチャンネル(5)内の前記少なくとも1つの第2の媒体(3)が、混合することなく層状に動く、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
マイクロ流体デバイス(1)を運転する方法であって、
a)少なくとも1つの第1の媒体(2,9)の所定の体積を前記マイクロ流体デバイス(1)のチャンバ(4,14,15)内に提供するステップであって、該チャンバ(4,14,15)は、第1のチャンネル(5)との第1の接続部(25)と、第2のチャンネル(6)との第2の接続部(26)とを有しており、前記第1のチャンネル(5)および前記第2のチャンネル(6)を少なくとも1つの第2の媒体(3)が流れることにより、前記チャンバ(4,14,15)内の前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)の所定の体積を分離しかつ測量し、かつ前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)と前記少なくとも1つの第2の媒体(3)とは互いに混合不能である、ステップと、
b)前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)を前記マイクロ流体デバイス(1)の前記チャンバ(4,14,15)から前記第1のチャンネル(5)へと搬送するステップであって、前記第2のチャンネル(6)から前記第1のチャンネル(5)内への前記少なくとも1つの第2の媒体(3)の流れにより、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)の一部が前記チャンバ(4,14,15)から取り出され、次いで、前記第1のチャンネル(5)は再び前記少なくとも1つの第2の媒体(3)により通流され、その後に、前記第2のチャンネル(6)から前記第1のチャンネル(5)内への前記少なくとも1つの第2の媒体(3)の流れにより、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)の残りの部分が前記チャンバ(4,14,15)から取り出される、ステップと
を少なくとも含んでいる、方法。
【請求項5】
前記チャンバ(4,14,15)の容積の一部を満たすように前記第1の媒体(2)を前記第2のチャンネル(6)から前記チャンバ(4,14,15)に提供し、次いで前記第2のチャンネル(6)を前記少なくとも1つの第2の媒体(3)が流れることにより、前記チャンバ(4,14,15)内の前記第1の媒体(2)の所定の体積を分離しかつ測量し、
前記チャンバ(4,14,15)の残りの容積を満たすように別の前記第1の媒体(9)を前記第1のチャンネル(5)から前記チャンバ(4,14,15)に提供し、次いで前記第1のチャンネル(5)を前記少なくとも1つの第2の媒体(3)が流れることにより、前記チャンバ(4,14,15)内の別の前記第1の媒体(9)の所定の体積を分離しかつ測量し、
これにより、前記第1の媒体(2)と別の前記第1の媒体(9)とが前記チャンバ(4,14,15)内で混合される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)の少なくとも一部および/または前記少なくとも1つの第2の媒体(3)の少なくとも一部を、少なくとも一時的に蠕動運動ポンプにより搬送する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
少なくとも、ステップb)の前に、ステップb)の間に、またはステップb)の後に実施される、
c)少なくとも1つの気体封入物(16)を除去する方法ステップ
をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記マイクロ流体デバイス(1)は、少なくともステップc)の一部の間に、前記少なくとも1つの気体封入物(16)が除去される区分の面(23)が水平面(21)に対して傾斜されているように、方向付けされている、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ステップc)において、前記少なくとも1つの気体封入物が封入されている流体の温度を変更する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの気体封入物(16)を、ステップc)において、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)および/または前記少なくとも1つの第2の媒体(3)の搬送により除去する、請求項7から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの気体封入物(16)を、準相抽出(Quasiphasenextraktion)によって除去する、請求項7から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
シャトルポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施し、前記少なくとも1つの第1の媒体(2,9)が、前記シャトルポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の反応媒体である、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
マイクロ流体システムは、小さな試料量の分析を高感度で可能にする。方法の自動化、小型化および並列化は、手動のステップの減少を可能にし、したがって、エラーを回避することに貢献することができる。さらにマイクロ流体システムの小型化は、実験室プロセスを直接に試料において実施することを可能にするので、一般的な実験室環境は必要とされない。その代わりに、プロセスは流体チップに限定することができる。したがって、マイクロ流体の使用は、「Lab-on-chip」と呼ぶこともできる。マイクロ流体のこの使用分野は、「Point-of-care(PoC)」とも呼ばれる。
【0002】
マイクロ流体システムにおける1つの課題は、特に、マイクロ流体環境内へのマクロ的な試料の移送である。
【0003】
発明の開示
本明細書では、マイクロ流体デバイスを運転する特に有利な方法ならびにこの方法のためのマイクロ流体デバイスが提案される。従属請求項は、方法の特に有利な変化形を記載している。
【0004】
記載された方法により、特にマイクロ流体的に制限されたサンプル溶液を、マイクロ流体チャンバシステムおよびマイクロ流体チャンネルシステムを備えたマイクロ流体デバイス内で損失なしに動かすことができる。特に、記載された方法により、制限されたサンプル(たとえば少ない細胞の細胞ライセート、cfDNA材料、サイトカイン濃度)を試料送入チャンバから検出法(たとえばPCR)を実施するためのチャンバ内に気泡なしにかつ損失なしに移送することができる。
【0005】
試料供給により、希少な材料(たとえばセルフリーDNA、循環がん細胞、分泌サイトカイン、少ない細胞のライセート)をマイクロ流体デバイスの小さな容積内で濃縮することができ、したがって高い濃度で提供することができる。この試料送入チャンバは、記載された方法では、マイクロ流体デバイスの、評価および/または別の処理も実施される箇所と同一の箇所である必要はない。その代わりに試料は、記載された方法によりマイクロ流体デバイス内で搬送することができる。このような搬送は、先行技術では、しばしば水溶液内で層状の流れにより生じる。しかしこのことは、材料がチャンネル壁に堆積するか、またはより多い液体または拡散により希釈されるということにつながる。さらに、外界に対する接触面により、かつ/またはチャンバの予備湿潤のための可能性がないことにより、空気がシステム内に達してしまい、このことは続くプロセスにとって妨害となる気泡をもたらしてしまう。
【0006】
「マイクロ流体」という概念は、本明細書では特に、マイクロ流体デバイスの大きさに関する。マイクロ流体デバイスは、当該マイクロ流体デバイス内に配置された複数の流体チャンネルおよびチャンバが、概してマイクロ技術に割り当てられる物理現象に関連することを特徴とする。この物理現象には、たとえば毛細管効果、流体の表面張力に関連する効果(特に機械的な効果)がある。さらには、テルモフォールおよびエレクトロフォールのような効果がある。これらの現象は、マイクロフルイディクスにおいて、重力のような効果に対して通常は優勢である。マイクロ流体デバイスは、当該マイクロ流体デバイスが、少なくとも部分的に層状の方法により製造されていて、層構造の複数の層の間にチャンネルが配置されていることを特徴としていてもよい。「マイクロ流体」という概念は、デバイス内の、流体をガイドするために働く横断面を介して特徴付けることもできる。通常は、横断面は、たとえば100μm(マイクロメートル)×100μm~800μm×800μmの範囲である。これよりも著しく小さな横断面、たとえば1μm~20μm(マイクロメートル)の範囲、特に3μm~10μmの範囲も可能である。
【0007】
マイクロ流体デバイスは、特にいわゆる「Lab on a chip」もしくは「Point-of-care(PoC)」であってもよい。このような「Lab on a chip」は、生化学プロセスを実施するために規定されかつ調整されている。つまり、マクロ的な実験室の機能性がプラスチック基板内に統合される。マイクロ流体デバイスは、たとえばチャンネル、反応チャンバ、提供された試薬、弁、ポンプおよび/またはアクチュエータユニット、検出ユニットおよび制御ユニットを有していてもよい。マイクロ流体デバイスは、生化学プロセスを全自動で処理することを可能にすることができる。これにより、たとえば液状の試料におけるテストを実施することができる。このようなテストは、たとえば医学において使用することができる。マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体カートリッジとも呼ぶことができる。特にマイクロ流体デバイス内への試料の送入により、マイクロ流体デバイス内で生化学プロセスを実施することができる。試料を、生化学的な反応を引き起こし、加速し、かつ/または可能にする添加物質と混合することもできる。
【0008】
記載された方法により、特に第1の媒体をマイクロ流体デバイスの第1の箇所からマイクロ流体デバイスの第2の箇所へと搬送することができる。
【0009】
記載された方法のステップa)において、少なくとも1つの第1の媒体がマイクロ流体デバイスの第1の箇所において提供される。
【0010】
第1の媒体は、好適には液体であり、特に水溶液である。特に第1の媒体は、検査すべき試料であってもよい。
【0011】
「提供」とは、本明細書では特に少なくとも1つの第1の媒体がマイクロ流体デバイスの第1の箇所に、たとえば少なくとも1つの第1の媒体を開口を通じてマイクロ流体デバイス内に注入することにより、もたらすことであると理解することができる。「提供」は、たとえば、マイクロ流体デバイスが、少なくとも1つの第1の媒体を記載された方法の開始前に既に含んでいることも含む。したがって、たとえば少なくとも1つの媒体が既に1つのチャンバ内に予め貯蔵されているマイクロ流体デバイスを供給事業者から受け取ることができる。少なくとも1つの媒体が、ステップa)において、複数の物質の混合により得られ、その限りで提供されることも可能である。したがって、たとえば1つの溶媒がマイクロ流体デバイス内に予め貯蔵されていてもよい。試料がマイクロ流体デバイス内に加えられると、試料は溶媒と混合され得る。溶媒における試料の溶解が第1の媒体であってもよい。
【0012】
記載された方法のステップb)において、少なくとも1つの媒体が、マイクロ流体デバイスの第1の箇所から第2の箇所へと搬送される。少なくとも1つの第1の媒体は、少なくとも1つの第1の媒体が少なくとも1つの第2の媒体およびマイクロ流体デバイスの流体規制部のみに接するか、または少なくとも1つの第2の媒体のみに接するように、少なくとも1つの第2の媒体により取り囲まれている。少なくとも1つの第1の媒体と、少なくとも1つの第2の媒体とは、互いに混合不能である。
【0013】
ステップb)において、マイクロ流体デバイスによる第1の媒体の搬送が行われる。その際に、少なくとも1つの第1の媒体を、特に良好に保護することができる。特にこのためには、少なくとも1つの第1の媒体は、好適には少なくとも1つの第1の媒体が少なくとも1つの第2の媒体のみに、かつ任意には付加的にマイクロ流体デバイスの流体規制部にのみ接するように、少なくとも1つの第2の媒体により取り囲まれている。
【0014】
流体規制部として、本明細書では特にマイクロ流体デバイスの、たとえばマイクロ流体デバイスのチャンネルまたはチャンバを画定する各壁部が考慮される。少なくとも1つの第1の媒体および少なくとも1つの第2の媒体のような媒体は、マイクロ流体デバイス内で特に流体規制部の内部に存在し、かつ移動することができる。流体規制部は、制限すべき流体に面した側において特にガラスおよび/またはプラスチックのような材料を有していてもよい。
【0015】
少なくとも1つの第1の媒体は、ステップb)において特に別の物質と接触を防止されていてもよい。これは、少なくとも1つの第1の媒体が、当該少なくとも1つの第1の媒体が流体規制部に接触していない限り、少なくとも1つの第2の媒体にしか接触していないことにより達成することができる。少なくとも1つの第1の媒体と少なくとも1つの第2の媒体とが互いに混合不能であることにより、少なくとも1つの第1の媒体を、第2の媒体との接触による変化なしに搬送することができる。少なくとも1つの第2の媒体は、特に少なくとも1つの第1の媒体を搬送するための補助手段と解釈することができる。搬送後に、少なくとも1つの第1の媒体と少なくとも1つの第2の媒体とは互いに分離することができる。
【0016】
少なくとも1つの第2の媒体は、好適には油である。少なくとも1つの第2の媒体が有機物質であっても好適である。特に、少なくとも1つの第1の媒体が極性であり、少なくとも1つの第2の媒体は非極性であると好適である。これはたとえば水が第1の媒体、油が第2の媒体である場合である。水溶液として、Tween、Triton-X、BSAおよび/またはカルシウムのような古典的な特性(Attribute)と混合された水を第1の媒体のために使用することができる。可能な第2の媒体として、特に不活性の鉱物油、シリコンオイルおよび/またはフッ化オイルを使用することができる。界面活性剤の使用は、好適には省略される。
【0017】
記載された方法では、特に(少なくとも1つの第1の媒体としての)水相の規定された体積を(少なくとも1つの第2の媒体としての)油相内に封入することができ、制御して移動させることができる。たとえば、水相内にある分析物は限られた小さな量で存在することができ、損失なしかつ希釈なしにマイクロ流体デバイス内で処理することができる。
【0018】
少なくとも1つの第2の媒体(特に有機相)の使用により、少なくとも1つの第1の媒体(特に水体積)を、たとえば限られた分析物が少なくとも1つの第1の媒体内で堆積または拡散により希釈されないように、封入することができる。したがって、特に(第1の媒体としての)限られた試料材料の損失のない搬送が可能である。したがって、たとえば局所的にマイクロ流体的に小さな体積で形成された、少ない細胞からのライセートを、生化学的に処理するために、送入チャンバからマイクロ流体デバイスの別の箇所に搬送することができる。
【0019】
DNA、蛋白質および/または個別の細胞のような限られた材料の損失のない搬送は、たとえばヒータまたは光学ユニットが試料送入部とは別の箇所に設けられているマイクロ流体プロセスユニットのデザインを可能にすることができる。これは、マイクロ流体デバイスの特別なユニバーサルデザインを可能にすることができる。
【0020】
さらに、少なくとも1つの第2の媒体でマイクロ流体デバイスを最初に充填することにより、流体規制部(つまりチャンネル壁および/またはチャンバ壁)の湿潤を行うことができる。その際に第2の媒体の薄い層が流体規制部に堆積することができる。この薄い層は、たとえば流体規制部の材料としてポリカーボネートが使用されている場合に、DNAがこのポリカーボネートに(もしくは第2の媒体から成る層に)結合されないという利点を有していてもよい。これは、少なくとも1つの第1の媒体内のDNAの損失のない搬送に寄与する。
【0021】
マイクロ流体デバイスは、好適には、Point-of-careの形式で診断を可能にする逆流防止システムを含んでいる。マイクロ流体デバイスの構成要素は、ポリカーボネート射出成形部材内に製造することができる。
【0022】
方法の好適な実施形態では、ステップa)において、少なくとも1つの第1の媒体の所定の体積がマイクロ流体デバイスのチャンバ内に提供される。チャンバは、少なくとも1つの接続部を有していて、チャンバの外側で少なくとも1つの接続部の周囲を少なくとも1つの第2の媒体が流れることにより、少なくとも1つの第1の媒体の所定の体積がチャンバ内で分離されかつ測量される。
【0023】
少なくとも1つの第1の媒体は、特に分析すべき試料であってもよい。これは、特に、たとえば分析のために少なくとも1つの第1の媒体の正確に規定された量(特に正確に規定された体積)を使用する場合に、有利であり得る。少なくとも1つの第1の媒体のこのような正確に規定された量を得るために、少なくとも1つの第1の媒体の所望の量を、この実施形態により分離しかつ測量することができる。したがって、特にこの実施形態で考察されるマイクロ流体デバイスのチャンバには、特に少なくとも1つの接続部を介して少なくとも1つの第1の媒体を充填することができる。チャンバに完全に第1の媒体が充填されると、少なくとも1つの媒体の体積は(有利には既知である)チャンバの容積に一致する。しかし、チャンバ内の容積と、特に少なくとも1つの接続部の領域におけるチャンバの外側との間を区切ることは困難である。なぜならば、チャンバの境界線が正確にはどこで少なくとも1つの接続部を通って延びているかは明瞭ではないからである。この実施形態では、この境界線は、少なくとも1つの第2の媒体により決定することができる。好適には、少なくとも1つの接続部は、(たとえば流れ速度のような好適には規定されたパラメータを備える)少なくとも1つの第2の媒体の流れが再現可能な形式で少なくとも1つの接続部の周囲を流れるように、形成されている。このような再現可能な周流では、特に少なくとも1つの接続部の領域に位置する、少なくとも1つの第1の媒体と少なくとも1つの第2の媒体との間の境界面が生じる。この境界線により、チャンバの容積を明確に規定することができる。
【0024】
方法の別の好適な実施形態では、複数の第1の媒体がステップa)において提供される。複数の第1の媒体はステップb)により、複数の第1の媒体がマイクロ流体デバイスの1つのチャンバ内で混合されるように、搬送される。
【0025】
特に、複数の第1の媒体は、分析すべき物質の成分であってもよい。複数の第1の媒体は、たとえば、分析が実施されるまで互いに分離されたままであってもよい。したがって、たとえば複数の第1の媒体間の反応を、分析の実施まで阻止することができる。
【0026】
(少なくとも1つの第1の媒体と少なくとも1つの第2の媒体とが使用される)2相技術は、特に、制限された(複数の第1の媒体としての)2つのサンプル体積または流体とを混合するために使用することができる。第1の媒体の好適には水性である両方の体積を、損失なしにチャンバへとガイドすることができ、チャンバ内で拡散により混合することができる。このような混合は、混合すべき体積が十分に小さい場合に、特に十分に迅速に行うことができる。
【0027】
方法の別の好適な実施形態では、少なくとも1つの第1の媒体の少なくとも一部および/または少なくとも1つの第2の媒体の少なくとも一部が、ステップb)において少なくとも一時的に蠕動運動ポンプにより搬送される。
【0028】
蠕動運動ポンプとは、本明細書では、液体を蠕動運動により送るポンプであると理解することができる。典型的なペリスタルティックポンプは、チューブポンプであり、蠕動型チューブポンプとも呼ばれる。ペリスタルティックポンプは、送るべき媒体を外的な機械的な変形によりチャンネルを通して押し通す押退けポンプである。マイクロ流体ペリスタルティックポンプは、複数の弁により構成されていてもよい。頻繁に使用されるマイクロ流体弁は、電気的な力または磁気的な力の結果としてのチャンネル壁の動きにより閉じることができるチャンネルを含んでいる。このような弁は、チャンネルの(内側の)容積変化を引き起こす。このような弁が直列にチャンネルに沿って配置されている場合、弁の適切な駆動により、液体の圧送を引き起こすチャンネルの蠕動運動が生じることを達成することができる。弁の開閉により、チャンネルの容積変化が生じる。この容積変化によりマイクロ流体デバイスのチャンネルを通った媒体の搬送が行われる。蠕動運動ポンプは、このために、弁の他の(別の)圧送エレメント(たとえば機械的または電気的に作動するポンプチャンバ)を必要としないという利点を有している。複数の弁が設けられていれば十分である。蠕動運動ポンプのために、弁が自動的に圧送のために適切な順序で駆動される(自動的な)弁切替えの可能性が生じると有利である。
【0029】
オンチップポンプ(on-chip Pumpen)と固定的なチャンネル幾何学形状との組み合わせにより、容積の動的な調節を可能にすることができる。これは特に、(少なくとも1つの第1の媒体および少なくとも1つの第2の媒体を含む)2相システムにおいて特に良好に可能である。これに対して例えば単に1つの水相(つまりたとえば単に少なくとも1つの第1の媒体)が設けられている場合、容積はチャンバの固定的な幾何学形状により規定されるだろう。これに対して2相システムでは、チャンバ幾何学形状が、可能な容積の上限のみを形成する。水相と油相とは混合しないので、不活性の油が水相により必要とされない容積を補償することができる。これは、マイクロ流体デバイス内の付加的に動的な要素および容積の調整を可能にする。
【0030】
別の好適な実施形態では、方法が、ステップb)の前に、ステップb)の間に、またはステップb)の後に実施される、
c)少なくとも1つの気体封入物を除去する、
方法ステップを少なくともさらに有していてもよい。
【0031】
気体封入物は、特に気泡の形でマイクロ流体デバイス内に存在することがある。気体封入物は、特にこの気体封入物により容積が不正確にしか特定することができず、かつ/または気体と、特に少なくとも1つの第1の媒体との間の反応が生じ得るので不都合であり得る。本実施形態では、気体封入物を除去することができる。気体は、特に空気であってもよい。気体は、化学反応からの産物であってもよい。
【0032】
少なくとも1つの気体封入物は、特に媒体の搬送により除去することができる。したがって、特に少なくとも1つの気体封入物を取り囲む媒体を、マイクロ流体デバイスを通って、少なくとも1つの気体封入物が、(重力方向とは反対方向に)上方に向けられた、気体が漏れ出るための流路に少なくとも1つの気体封入物がアクセス可能である、マイクロ流体デバイスの1つの箇所に到達するように、移動させることができる。
【0033】
少なくとも1つの気体封入物は、特に、気体がマイクロ流体デバイスから出るようにガイドされるか、または気体が少なくともマイクロ流体デバイスの一部からマイクロ流体デバイスの別の部分にガイドされるという点において、除去することができる。気体は、後者の部分においてあまり有害ではないか、または邪魔にならない。
【0034】
しかし、少なくとも1つの気体封入物は、少なくとも1つの第1の媒体内に溶解している気体(つまり通常の条件下では気体状に存在している物質)が、少なくとも1つの第1の媒体から除去されることにより除去することもできる。したがって、(少なくとも1つの第1の媒体および少なくとも1つの第2の媒体を含む)2相システムは、マイクロ流体デバイスの脱気を特に良好に可能にする。なぜならば、(好適には少なくとも1つの第2の媒体として使用される)大量の油は、(好適には少なくとも1つの第1の媒体の主な成分として使用される)水よりも高い気体可溶性を有しているからである。したがって、水のなかに溶解した気体が、気相に移行し、次いで再び油内に溶解することを達成することができる。その限りでは、気体封入物は、準相抽出(Quasiphasenextraktion)によっても除去することができる。
【0035】
少なくとも1つの気体封入物の除去は、少なくともステップc)の一部の間、少なくとも1つの気体封入物が除去される区分の面が水平面に対して傾斜されているように、方向付けされている方法の好適な実施形態において達成することができる。
【0036】
好適には、マイクロ流体デバイスは、ステップc)の間中、少なくとも1つの気体封入物が除去される区分の面が水平面に対して傾斜されているように、方向付けされている。好適には、マイクロ流体デバイスは、少なくとも1つの気体封入物が除去される区分の面が水平面に対して20°~45°の範囲の角度、特に30°の角度だけ傾斜されているように、方向付けされている。
【0037】
マイクロ流体デバイスの傾斜より、少なくとも1つの気体封入物からの気体が上方に向かって(つまり重力方向とは反対方向に)漏れ出ることができることを達成することができる。
【0038】
方法の別の好適な実施形態では、ステップc)において、少なくとも1つの気体封入物が封入されている流体の温度が変更される。
【0039】
温度変更により、流体内への気体の可溶性を減じることができるので、気体は気体封入物からより容易に漏れ出ることができる。
【0040】
方法の別の好適な実施形態では、少なくとも1つの気体封入物が、ステップc)において、少なくとも1つの第1の媒体および/または少なくとも1つの第2の媒体の搬送により除去される。
【0041】
少なくとも1つの気体封入物を除去するための少なくとも1つの第1の媒体および/または少なくとも1つの第2の媒体の使用は、特に、少なくとも1つの第1の媒体および/または少なくとも1つの第2の媒体がいずれにせよマイクロ流体デバイス内に存在している、もしくはこれらの媒体が記載された方法によりいずれにせよ移動されるという点で有利であり得る。
【0042】
方法の別の有利な実施形態では、シャトルポリメラーゼ連鎖反応(シャトルPCR)が実施される。少なくとも1つの第1の媒体は、シャトルポリメラーゼ連鎖反応の反応媒体である。
【0043】
PCRは、酵素、つまりDNAポリメラーゼが使用されるDNAを複製するための方法である。PCRは、特に反応媒体の温度変化のもとで行うことができる。シャトルPCRでは、この温度は、反応媒体が種々異なる温度を有する複数の箇所の間(特に種々異なる温度を有するチャンバ間)で搬送されることにより、変更される。したがって、温度変更を特に迅速に行うことができる。
【0044】
記載された方法では、特に、シャトルPCRを定義して、気泡なしに、かつ損失なしに実施することができるという利点を得ることができる。これに対して、1相システムでは、反応媒体の残りがチャンネル内に残る、かつ/または空気が反応チャンバ内に到達してしまう恐れが生じるだろう。
【0045】
別の態様として、記載された方法を実施するために規定されかつ調整されているマイクロ流体デバイスが提案される。
【0046】
方法の上述の特別な利点および構成の特徴は、上記のマイクロ流体デバイスにも使用可能かつ転用可能である。
【0047】
本発明の別の特徴および本発明を制限するものではない実施例を図面につきより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】a~dは、第1の媒体および第2の媒体を備えたマイクロ流体デバイスを示す4つの概略図である。
図2】a~cは、第1の媒体の体積が分離され測量される、連続する3つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図3】a~eは、第1の媒体が形成され、第1の媒体の体積が分離され、測量されかつ搬出される、連続する5つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図4】a~eは、第1の媒体が2つの部分体積に分離され、測量されかつ搬出される、連続する5つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図5】チャンバが部分的に第1の媒体で満たされているマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図6】a~fは、2つの第1の媒体が互いに混合される、連続する6つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図7】a~fは、複数の弁を備えたマイクロ流体デバイスを示す概略図であり、これらの弁は、蠕動運動式の圧送のために連続する6つの時点で種々異なって切り替えられている。
図8】aおよびbは、蠕動運動式の圧送のための2つの概略図である。
図9】a~dは、蠕動運動式の圧送が実施される、連続する4つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図10】a~dは、気体封入物が除去される、連続する4つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図11】傾斜して配向されているマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図12】a~cは、気体封入物が除去される、連続する3つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図13】a~dは、シャトルPCRが実施される、連続する4つの時点でマイクロ流体デバイスを示す概略図である。
図14】上記図面に示した複数の実施例のうちの1つの実施例によるマイクロ流体デバイスを運転する方法を示す概略図である。
【0049】
図1a~図1dには、マイクロ流体デバイス1内で第1の媒体2としての液相を第2の媒体3としての2つの油相の間にどのように封入することができるかが示される。第1の媒体2は、特に規定された体積で供給することができる。第1の媒体2の体積は、マイクロ流体デバイス1の正確に製造可能な固定的な幾何学形状により決定することができる。したがってこの形で、特に第1の媒体2が分析物である場合に、第1の媒体2の規定された濃度も提供することができる。
【0050】
第1の媒体2内の分析物が拡散によって希釈されることなしに第1の媒体2の体積を動かすために、第1の媒体2は、(ここでは2つの油相により示される)第2の媒体3の間に封入される。油と水は混ざらないので、拡散による第1の媒体2の希釈は行われない。このことは、第1のチャンネル5を通る、または第1のチャンバ4からの第1の媒体2の規定された体積の損失のないマイクロ流体的な搬送を可能にする。第1のチャンバ4は、第1の接続部25を介して第1のチャンネル5に接続され、第2の接続部26を介して第2のチャンネル6に接続されている。第1の媒体2と第2の媒体3とは、流体規制部24により取り囲まれている。
【0051】
特に、第1の媒体2は、第1のチャンバ4内に供給されていてもよく(図1a)、第1の接続部25を通ってこの第1のチャンバ4から第1のチャンネル5内に搬送することができる(図1b)。第1のチャンネル5の続く経過において、第1の媒体2は、第2の媒体3の間に封入されていてもよい(図1c)。図1dには、第1の媒体2がマイクロ流体デバイス1の第1のチャンバ4内に封入されている別の状況が示されている。
【0052】
図2a~図2cおよび図3a~図3eは、第1の媒体2としての水相の規定された体積を、第2の媒体3としての不活性な2つの油相の間にもたらすことができるマイクロ流体デバイスの2つの構成を示している。
【0053】
図2a~図2cに示した実施形態では、既知の容積を有する第1のチャンバ4が、第1のチャンネル5と、この第1のチャンネル5に対して平行な第2のチャンネル6との間に配置されている。第1のチャンバ4は、第1の接続部25を介して第1のチャンネル5に接続されていて、第2の接続部26を介して第2のチャンネル6に接続されている。(たとえば弁または圧力補償システムの使用による)適切な流体制御により、種々異なる方向かつ種々異なるチャンネル構成要素内への流れを(たとえば単にチャンネル5,6内への流れとして、または第2のチャンネル6から第1のチャンバ4を通じた第1のチャンネル5内への流れとして)形成することができる。第1のステップでは、当初は第2の媒体3で満たされた第1のチャンバ4(図2a)が第1の媒体2としての水相により貫流され、流れが停止されるので、第1のチャンバ4は完全に第1の媒体2で満たされている(図2b)。隣接するチャンネル5,6は、次いで第2の媒体3としての油でフラッシングされるが、第1のチャンバ4はフラッシングされないので、第1のチャンバ4は、油で満たされた2つのチャンネル5,6により取り囲まれている(図2c)。いま、第2のチャンネル6から第1のチャンバ4を通じて第1のチャンネル5へ流れる流れを形成することができる。この場合に、3つの相(つまり第2のチャンネル6内の第2の媒体3、第1のチャンバ4内の第1の媒体2および第1のチャンネル5内の第2の媒体3)は、混合することはなしに層状に動く。
【0054】
図3a~図3eに示した第2の実施形態では、第1のチャンバ4は、単に(第1の接続部25を介して)第1のチャンネル5のみに接しており、図2a~図2cに示した第1の実施例におけるように第1のチャンネル5および第2のチャンネル6に接しているのではない。第1のチャンバ4の一部は、開いているか、または(図示されているように)気体透過性の膜7によってマイクロ流体デバイス1の周囲から分離されているので、第1のチャンバ4と、周囲との間で空気を交換することができ、かつ/または圧力を補償することができる。気体透過性の膜7は、特に試料の単に小さな量をマイクロ流体デバイス内にもたらす用途のために、特に試料送入領域として使用することができる。
【0055】
図3aには、さらに、第1のチャンバ4内に(たとえば固体またはLyobeadとしての)試料8が存在していることを示している。試料8を溶解し、かつ/または第1のチャンバ4を満たすために、第1のチャンネル5がまず第2の媒体3としての油で満たされ、これによりシステム全体を脱気することができる。次いで第1のチャンバ4が、第1の媒体2としての液相で満たされる(図3b)。チャンバが完全に満たされると、第1のチャンネル5には再び第2の媒体3としての油が通流させられ、したがって第1のチャンバ4は、完全に閉じられる(図3c)。次いで、第1のチャンバ4が空になる(図3e)まで第1のチャンバ4が第1のチャンネル5を介して汲み出される(図3d)ことにより、第1の媒体2を再び第2の媒体3としての油相の間に封入することができる。
【0056】
図4a~図4eには、マイクロ流体デバイス1の別の実施例が示されている。このマイクロ流体デバイス1により、第1の媒体2としての水相の規定された体積を、第2の媒体3としての不活性の2つの油相の間にもたらすことができる。図2a~図2cに示した実施例とは異なり、この図4に示した実施例では、第1の媒体2の2つの部分体積が相前後して第1のチャンバ4から取り出される。図4aに示した送出点は、図2cに示した図面に十分に一致する。第2のチャンネル6から第1のチャンネル5内への第2の媒体3の流れにより、第1の媒体2の一部が第1のチャンバ4から取り出される(図4b)。次いで、第1のチャンネル5は再び第2の媒体3により通流される(図4c)。その後に、第1の媒体2の残りの部分が第1のチャンバ4から取り出される(図4d)。図4eにおいて確認することができるように、第1の媒体2は第1のチャンネル5の続く経過において2つの部分で存在している。これらの部分はそれぞれ第2の媒体3により封入されている。したがって、図4a~図4eは、(第1の媒体2および第2の媒体3を備えた)2相システムも、マイクロ流体チャンバを単に部分的に気泡なしに(第1の媒体2としての)水相で満たすために、利用することができることを示す。チャンバの残りの容積は、対応して(第2の媒体3としての)不活性の油相で補償することができる。これは、反応容積の動的な適合を可能にすることができる。
【0057】
図5には、図4a~図4eに示した実施例に基づく状態が示されている。この状態では、第1のチャンバ4は、部分的に第1の媒体2で満たされていて、部分的に第2の媒体3で満たされている。
【0058】
図6a~図6fは、(第1の媒体2および別の第1の媒体9としての)2つの水相流体が混合される、マイクロ流体デバイス1の実施例が示されている。第1の媒体2は、規定された容積を有する第1のチャンバ4の半分を満たす(図6a)。第1のチャンバ4は、第1の接続部25を介して第1のチャンネル5に接続し、第2の接続部26を介して第2のチャンネル6に接続している。次いで、供給する第1のチャンネル5は、第2の媒体3としての油で再び完全に満たされる(図6bおよび図6c)。次いで、第1のチャンネル5は、別の第1の媒体9で満たされる(図6d)。次いで、別の第1の媒体9で、第1のチャンバ4が(好適には緩慢に)充填されるので、第1のチャンバ4全体は両方の第1の媒体2,9で正しい比率で満たされている。第1のチャンネル5は、次いで再び第2の媒体3で満たされるので、両第1の媒体2,9は、第1のチャンバ4内で再びチャンネル5,6内の第2の媒体3により取り囲まれている(図6e)。特に、それぞれの体積が小さい場合に、両方の第1の媒体2,9は拡散によって第1のチャンバ4内で迅速に混合することができる。結果は、図6fに示されている。図6fでは、第1のチャンバ4内に両方の第1の媒体2,9から成る混合物10が存在している。混合プロセスは、温度変更により加速することができる。所望される限り、混合時には、(生)化学反応も実施することができる。規定された圧送プロセスと、規定されたチャンバ幾何学形状との組み合わせは、第1の媒体2,9間の種々異なる比率を有する混合を可能にすることができる。
【0059】
図7a~図7fには、マイクロ流体デバイスの線形または循環式のチャンネルシステム内で流体を複数の弁によって制御された速度でどのように動かすことができるかが示されている。マイクロ流体デバイス内の弁は、マイクロ流路を開閉するために利用することができるだけではなく、蠕動運動式ポンプとしても使用することができる。(線形または循環式であってもよく、図7では線形の第1のチャンネル5として示されている)所望のマイクロ流路に沿って、複数の弁が、その逐次の開閉により蠕動運動式ポンプを形成する。図7a~図7fは、相並んで位置する3つの弁11,12,13の例において原理を示している。丸は、開いた弁を示唆しているのに対して、×印は、閉じた弁を示している。弁ステータスは、たとえば、「1」が開放、「0」が閉鎖を示すことにより、デジタル式に図示することもできる。100(図7e)、110図(図7d)、010(図7c)、011(図7b)、001(図7a)、101(図7f)の弁ステータス順序は、示された図面において左側から右側に向かう動きfを形成する。001(図7a)、011(図7b)、010(図7c)、110(図7d)、100(図7e)、101(図7f)は、右側から左側に向かういわば層流の流れを形成する。
【0060】
さらに図8aおよび図8bには、弁11,12,13が、相並んで配置されている必要はなく、第1のチャンネル5に沿って任意に配置されていてもよいことを示している。このことは、特殊なポンプ弁を配置する必要がなく、いずれにせよ存在する弁11,12,13を使用することができるという利点を有している。流速は、連続する弁位置の間の休止の期間による規定された間隔で調節することができる。
【0061】
図9a~図9dには、図2a~図2cに示した実施形態を、蠕動運動ポンプによって(第1のチャンバ4、第2のチャンバ14および第3のチャンバ15を含む)マルチチャンバシステム(Mehrkammersystem)内でどのように実現することができるかが示されている。第1のステップでは、マイクロ流体デバイス1が、第2の媒体3としての油相で完全に満たされる(図9a)。これは、必ずしも蠕動運動ポンプにより行う必要はない。マイクロ流体デバイス1が満たされると、チャンバ4,14,15と、第1のチャンネル5との間の第5の弁18および第6の弁19が閉じられる(図9b)。次いで、チャンバ4,14,15に対して側方に配置されたチャンネル5は、少なくとも部分的に第1の媒体2で満たされる。この状態が達成されると、チャンバ4,14,15に対する第5の弁18および第6の弁19が開かれ、第1のチャンバ4が第1の媒体2で完全に満たされるまで、弁11,12,13により蠕動的に圧送が行われる(図9cおよび図9d)。ポンプは、光学的なフィードバックシステムに連結されていてもよく、完全な充填時に自動的に停止することができる。代替的には、チャンバ容積を有する挟み込まれた水プラグを、第1のチャンバ4内に導入することができる。第1のチャンバ4が完全に満たされると、第1のチャンバ4に対する第5の弁18が閉じられ、第1のチャンネル5は、(第4の弁17の開放により)再び完全に第2の媒体3で洗浄されるので、第1の媒体2だけが第1のチャンバ4内に残っている(図9d)。
【0062】
図10a~図10dには、(第1の媒体2と第2の媒体3とを備えた)2相システムを、第1の媒体2内の気体封入物16を除去するためにどのように使用することができるかを示している。邪魔な気泡のような気体封入物16は、この構造では、温度勾配により除去される。このためには、3つのマイクロ流体チャンバ4,14,15が相前後して配置されていて、それぞれ小さなチャンネルにより互いに接続されている。3つのチャンバ4,14,15はそれぞれ、個別に加熱可能である。その際に第1のチャンバ4は最も高い温度に調節され、第2のチャンバ14および第3のチャンバ15はより低い温度に調節される。加熱された気体封入物16は、第1の媒体2からより冷たい第2の媒体3へと移動する。(示されたような)チャンバ幾何学形状に沿ってさらに重力が作用すると、気体封入物16は、より小さい密度に基づいて完全に上方へと上昇する。したがって、第1の媒体2が第1のチャンバ4内に存在し、第2のチャンバ14および第3のチャンバ15が第2の媒体3で満たされている流体システムが形成される。第3のチャンバ15内には、気相を形成することができる。次いで第2の媒体3における温度をもう一度上昇させることができ、これにより、気体が完全に上方に定着することを確実にすることができる。この相システムは、それぞれ1つのチャンバだけ移動させることもでき、その際に第1の媒体2はたとえば第2のチャンバ14内に位置し、気泡のない第2の媒体3は、第3のチャンバ15内に位置する。次いで気泡を含む第1のチャンバ4は、次いでチャンバシステムから分離される。第1のチャンバ4は、閉じることができるか、第2の媒体3で後から満たすことができる。
【0063】
図11は、マイクロ流体デバイス1の勾配および図10a~図10dに示した気体封入物16を除去するための熱的に互いに異なる領域をどのように利用することができるかを示している。重力は、完全に作用する必要はない。その代わりに、(たとえば30°の)勾配も可能である。図11には、水平面21と、図10a~図10dに示したマイクロ流体デバイス1の1つの面23と水平面21との間の角度22とが示されている。図10a~図10dに示された3チャンバシステムは、第1の媒体2を有する第1のチャンバ4が下側に位置している(図11のc)ように、方向付けされていてもよい。各チャンバ4,14,15は、したがって固有の熱領域(T,T,T)に位置している。重力は、軽い気体が気体封入物16から加熱により第3のチャンバ15の上端へと移動する(図11のc)ことを引き起こすことができる。
【0064】
図12a~図12cは、図10a~図10dおよび図11の気体封入物16を除去することができる実施例を示している。図12a~図12cでは、気体封入物16が、図10a~図10dに示した方法により、図11に示した状態によって第1の媒体2から除去されている(図12a)ことを基点とする。いま、気体封入物16をマイクロ流体デバイス1から除去するために、第2の媒体3は、第1の媒体2が完全に第1のチャンバ4から第2のチャンバ14内に移動されるまで、下方から3つのチャンバ4,14,15を通って後から押される。気体封入物16は、第3のチャンバ15から第1のチャンネル5内に押し退けられる(図12b)。次いで、(チャンバ4,14,15によってではなく)第1のチャンネル5により第2の媒体3を押すことにより、気体は、マイクロ流体デバイス1から導出されるので、完全に気泡のないマイクロ流体デバイス1が残る(図12c)。
【0065】
図13a~図13dは、2相システムと、気体封入物16の上述の除去の組み合わせとにより、気泡のないシャトルPCRをどのように実施することができるかを示している。シャトルPCRでは、サーマルサイクラーとは異なり、温度が加熱器により動的に変更されるのではなく、反応混合物が、一定の温度を有する種々異なる加熱器間で移動させられる。シャトルPCRを実施するために、マイクロ流体デバイス1は、特に図7a~図7f、図10a~図10dおよび図11により形成されていてもよい。3つのチャンバ4,14,15および第1のチャンネル5の配置時に、好適には、3つの弁11,12,13が設けられている。これらの弁11,12,13は、蠕動運動ポンプを形成する。(第1の媒体2としての)PCR反応混合物は、好適には気泡なしに第1のチャンバ4内に提供される一方で、第2のチャンバ14および第3のチャンバ15ならびに第1のチャンネル5は、第2の媒体3で満たされている(図13a)。チャンバ4,14,15は、PCRのため必要となる対応する温度に調節される。次いで、PCR混合物としての第1の媒体2は、蠕動運動式にチャンバ4,14,15のうちの次のチャンバ内に圧送される前に、それぞれ所定の時間だけ対応するチャンバ4,14,15内に保持することができる(図13b~図13d)。特に、2つの温度間でどのように往復(揺動、英語では「shuttled」)させられるのかを示している。図7a~図7fにつき記載されたように、ポンプ周波数の反転により、両方向で圧送を行うことができる。
【0066】
図14は、上述の図面に示した実施例によるマイクロ流体デバイス1を運転する方法を示している。方法は、以下のステップ、すなわち
a)マイクロ流体デバイス1の第1の箇所において少なくとも1つの第1の媒体2,9を提供するステップと、
b)少なくとも第1の媒体2,9を、マイクロ流体デバイス1の第1の箇所から第2の箇所へと搬送するステップであって、少なくとも1つの第1の媒体2,9は、この少なくとも1つの第1の媒体2,9が少なくとも1つの第2の媒体3およびマイクロ流体デバイス1の流体規制部24のみに接するか、または少なくとも1つの第2の媒体3のみに接するように、少なくとも第2の媒体3により取り囲まれており、かつ少なくとも1つの第1の媒体2,9および少なくとも1つの第2の媒体3は互いに混合不能である、ステップと
を含んでいる。
【0067】
さらに、この方法は、好適には、ステップbの間に、またはステップb)の後に実施される以下の(破線で示された)方法ステップを含んでいる:
c)少なくとも1つの気体封入物16を除去する方法ステップ。
【0068】
図14の例では、ステップc)はステップb)の後に実施される。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図6f
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図8a
図8b
図9a
図9b
図9c
図9d
図10a
図10b
図10c
図10d
図11
図12a
図12b
図12c
図13a
図13b
図13c
図13d
図14