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特許7171759コリネ型細菌形質転換体およびそれを用いる2-フェニルエタノールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】コリネ型細菌形質転換体およびそれを用いる2-フェニルエタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20221108BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20221108BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20221108BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20221108BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/22
C12N15/52
C12N15/31
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020561519
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049921
(87)【国際公開番号】W WO2020130095
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018238497
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02830
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】乾 将行
(72)【発明者】
【氏名】平賀 和三
(72)【発明者】
【氏名】須田 雅子
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 正義
(72)【発明者】
【氏名】石田 純也
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/057288(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/217168(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/094604(WO,A1)
【文献】J. Agric. Food Chem.,2018年05月29日,Vol. 66,p. 5886-5891
【文献】J. Biol. Chem.,1992年,Vol. 267, No. 22,p. 15823-15828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12P 7/00 - 7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シキミ酸経路が活性化されたコリネ型細菌形質転換体であって、さらに、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されており、
前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、Enterobacter cloacae由来のipdC遺伝子であって、かつ、下記(a)及び(b)から選択される少なくとも1つの遺伝子である、コリネ型細菌形質転換体。
(a)配列番号3の塩基配列を有する遺伝子、
(b)配列番号3の塩基配列において1または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号3の塩基配列に対して95%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子
【請求項2】
シキミ酸経路が活性化されたコリネ型細菌形質転換体であって、さらに、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されており、
前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列からなるAzospirillum brasilense由来のpdc遺伝子、配列番号2に示される塩基配列からなるCorynebacterium aurimucosum由来のpdc遺伝子、及び配列番号4に示される塩基配列からなるRhodopseudomonas palustris由来のpdc遺伝子らなる群から選択され、
前記宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムである、コリネ型細菌形質転換体。
【請求項3】
シキミ酸経路の活性化は、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにシキミ酸キナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を宿主のコリネ型細菌に導入することを含む、請求項1または2に記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項4】
3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにコリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子が、フィードバック阻害耐性である、請求項3に記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項5】
3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにシキミ酸キナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、大腸菌由来である、請求項3または4に記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項6】
ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ遺伝子、ジヒドロキシアセトンホスファターゼ遺伝子およびフェニルアラニン取り込みトランスポーター遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子が破壊されている、請求項1から5のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項7】
宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムである、請求項1記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項8】
宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)、ATCC13032、またはATCC13869(DSM1412)である、請求項1から7のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
【請求項9】
コリネバクテリウム グルタミカム2PE97株(受託番号:NITE BP-02830)コリネ型細菌形質転換体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体を、糖類を含む水中で反応させることを含む、2-フェニルエタノールの製造方法。
【請求項11】
糖類が、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロビオース、トレハロース、およびマンニトールからなる群から選択される、請求項10に記載の2-フェニルエタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2-フェニルエタノール生産技術に関する。さらに詳しくは、2-フェニルエタノール生産機能を付与するために特定の遺伝子操作が施されたコリネバクテリウム グルタミカムの形質転換体、およびこの形質転換体を用いた効率的な2-フェニルエタノールの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2-フェニルエタノールは、バラ様の香りを有しており、化粧品、香料および芳香剤などに広く利用されている。
【0003】
現在、工業的に利用される2-フェニルエタノールは、主に原油を原料とした有機合成法によって製造されている。他方、バラの花など植物原料からの2-フェニルエタノールの抽出・製造は、原料の確保や抽出効率などの問題から非常に少ない。
【0004】
原油価格の高騰や、供給不安、地球環境からの温室効果ガス排出削減の観点から、原油からバイオマス原料にシフトし、微生物を用いた環境にやさしいバイオプロセスによる発酵生産に注目が集まっている。例えば酵母Kluyveromyces marxianusにはEhrlich経路が存在し、アミノ酸の一つであるフェニルアラニンから2-フェニルエタノールを生産可能である。
【0005】
しかし、原料となるフェニルアラニンは必須アミノ酸として食品添加物や飼料添加物として利用されており、グルコースなどの糖原料よりも高価であるため2-フェニルエタノール生産用の原料として産業利用するには不向きであった。
非特許文献1は、フェニルアラニンアナログ耐性を付与した酵母Kluyveromyces marxianusを宿主とし、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(aro10)とアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(adh2)とを高発現し、更に病原菌Klebsiella pneumoniae由来の3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼのフィードバック阻害型変異体をコードするaroG(fbr)を導入した酵母遺伝子組換え体を用いてグルコースから1.3g/L(約11mM)の2-フェニルエタノール生産を報告している。
非特許文献2は、酵母Saccharomyces cerevisiaeの2-ケト酸デカルボキシラーゼ(kdc)遺伝子が導入された大腸菌を用いてグルコースから2-フェニルエタノールを生産することを開示する。同文献は、グルコースから約8mMの2-フェニルエタノール生産を報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kim TY, Lee SW, Oh MK. Biosynthesis of 2-phenylethanol from glucose with genetically engineered Kluyveromyces marxianus. Enzyme Microb. Technol. 61-62: 44-47(2014).
【文献】Guo D, Zhang L, Kong S, Liu Z, Li X, Pan H. Metabolic engineering of Escherichia coli for production of 2-phenylethanol and 2-phenylethyl acetate from glucose. J Agric Food Chem. 66: 5886-5891(2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした背景のもと、グルコースなどの安価な糖原料から2-フェニルエタノールをより効率的に生産することが望まれている。しかし、グルコースなどの糖原料からの2-フェニルエタノール生合成経路は数十以上の多段階ステップから構成されており、また様々なフィードバック制御や転写制御を受けるという課題がある。更に、2-フェニルエタノールが示す強い細胞毒性がバイオ法による高生産を更に困難としている。
本開示は、2-フェニルエタノールを高濃度生産可能な微生物を提供すること、および糖類を原料として効率よく2-フェニルエタノールを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、シキミ酸経路が活性化されたコリネ型細菌形質転換体であって、さらに、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されているコリネ型細菌形質転換体に関する。
本開示は、その他の一態様において、糖類を含む水中で本開示に係るコリネ型細菌形質転換体を反応させることを含む2-フェニルエタノールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一または複数の実施形態において、コリネ型細菌を用いて糖類から2-フェニルエタノールを効率よく生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、好気培養条件下における2-フェニルエタノールの生産を示す図である。
図2図2は、好気反応条件下における樹脂吸着による2-フェニルエタノールの生産を示す図である。
図3図3は、2-フェニルエタノール生産宿主としての適性試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、コリネ型細菌が2-フェニルエタノールに対してKluyveromyces marxianusや大腸菌や溶媒耐性菌として知られるPseudomonas putida S12よりも耐性に優れることを見出した。そして、これを宿主としてシキミ酸経路の強化、および、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の導入を行うことで、糖原料から2-フェニルエタノールを高生産可能なコリネ型細菌形質転換体の創製と、これを用いた2-フェニルエタノールの高生産とに至った。
【0012】
以下、本開示を詳細に説明する。
(I) 2-フェニルエタノール生産能を有する形質転換体
本開示に係る形質転換体は、一態様において、シキミ酸経路が活性化されたコリネ型細菌形質転換体であって、さらに、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されているコリネ型細菌形質転換体である。本開示に係る形質転換体によれば、2-フェニルエタノールが生産できる。
なお、本開示において、コリネ型細菌への遺伝子導入方法としては、プラスミドの導入でもよく、ゲノムへの組み込みでもよい。
【0013】
宿主
宿主として用いられるコリネ型細菌は、一または複数の実施形態において、コリネバクテリウム グルタミカムである。コリネバクテリウム グルタミカムとは、バージーズ・マニュアル・デターミネイティブ・バクテリオロジー〔Bergey' s Manual of Determinative Bacteriology、Vol. 8、599(1974)〕に定義されている一群の微生物である。
具体的には、コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)R(FERM BP-18976)、ATCC13032、ATCC13869(DSM1412)、ATCC13058、ATCC13059、ATCC13060、ATCC13232、ATCC13286、ATCC13287、ATCC13655、ATCC13745、ATCC13746、ATCC13761、ATCC14020、ATCC31831、MJ-233(FERM BP-1497)またはMJ-233AB-41(FERM BP-1498)等の菌株が挙げられる。中でも、R(FERM BP-18976)株、ATCC13032株、およびATCC13869(DSM1412)が好ましく、R(FERM BP-18976)株がより好ましい。
なお、分子生物学的分類により、ブレビバクテリウム フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム ディバリカタム(Brevibacterium divaricatum)、およびコリネバクテリウム リリウム(Corynebacterium lilium)等のコリネ型細菌もコリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)に菌名が統一されているため、本開示に含まれる。
また、宿主のコリネ型細菌は、2-フェニルエタノール生産向上の観点から、2-フェニルエタノール生産経路の副生物生産経路を遮断することが好ましく、ldh(lactate dehydrogenase)遺伝子、qsuB(3-dehydroshikimate dehydratase)遺伝子、 hdpA(dihydroxyacetone phosphatase)遺伝子、およびcgR#1237遺伝子(フェニルアラニン取り込みトランスポーター)の全部または一部を破壊することがより好ましい。
更に宿主のコリネ型細菌は、同様の観点から、ホスホエノールピルビン酸(PEP)の消費を低減させることが好ましく、具体的には、グルコース取り込みトランスポーターのサブユニットの一つであるptsH(phosphoenolpyruvate-dependent sugar phosphotransferase system)遺伝子を破壊し、代わりにiolT1(Myo-inositol facilitator)遺伝子を発現させることがより好ましい。更に好ましくは、IolT1が、細胞内に取り込んだグルコースをリン酸化するグルコキナーゼ(ATP依存、ポリリン酸依存のどちらか一方、或いは両方)の酵素遺伝子を高発現することが望ましい。
【0014】
フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(pdc)遺伝子
フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.43)は、フェニルピルビン酸からフェニルアセトアルデヒドの生産反応を触媒する酵素である。インドール3-ピルビン酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.74)、または分岐鎖-2-オキソ酸デカルボキシラーゼ(EC4.1.1.72)であっても本反応を触媒可能であれば2-フェニルエタノールの生産に適用できる。
フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子の一または複数の実施形態として、ipd(Indole-3-pyruvate decarboxylase)C、kivd(α-ketoisovalerate decarboxylase)、kdc(alpha keto acid decarboxylase)A、aro10(phenylpyruvate decarboxylase)、およびpdc(pyruvate decarboxylase)などの遺伝子が挙げられる。
該遺伝子の由来は、微生物、バラを含む植物、または動物など特に限定されないが、2-フェニルエタノールの生産性の観点から、好ましくはipdC遺伝子、より好ましくはエンテロバクター属細菌のipdC遺伝子またはそのオーソログ、さらに好ましくはエンテロバクター クロアカエ(Enterobacter cloacae)のipdC遺伝子またはそのオーソログが挙げられる。酵母Saccharomyces cerevisiaeのaro10遺伝子またはそのオーソログも適用できる。フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性は公知の方法、例えば、〔Weiss, P., M., Characterization of phenylpyruvate decarboxylase, involved in auxin production of Azospirillum brasilense. J. Bacteriol. 189: 7626-7633(2007)〕により測定できる。
Enterobacter cloacaeのipdC遺伝子の一または複数の実施形態として、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子であり、かつ、(a)配列番号の塩基配列を有する遺伝子、(b)配列番号の塩基配列において1もしくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有し配列番号の塩基配列に対して45%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、または、(c)配列番号に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子が挙げられる。
前記同一性としては、一または複数の実施形態において、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または98%以上が挙げられる。
前記ストリンジェントな条件としては、一般的な条件、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, 1989, Vol2, p11.45に記載された条件を指す。具体的には、完全ハイブリッドの融解温度(Tm)より5~10℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合を指す。
【0015】
シキミ酸経路の活性化
宿主のコリネ型細菌は、2-フェニルエタノール生産向上の観点から、シキミ酸経路が活性化されていることが好ましい。本開示にシキミ酸経路の活性化は、一または複数の実施形態において、シキミ酸経路の強化であって、その他の一または複数の実施形態において、シキミ酸経路に関与する遺伝子の導入による異種発現および/または発現亢進を含む。
本開示において、シキミ酸経路の活性化は、一または複数の実施形態において、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにシキミ酸キナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を宿主のコリネ型細菌に導入することを含む。
なお、本開示において、シキミ酸経路に関する遺伝子は上記に限定されなくてもよく、その他のシキミ酸経路に関する遺伝子が導入されてもよい。
【0016】
3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ
DAHPシンターゼは、PEP(ホスホエノールピルビン酸)とE4P(エリスロース-4-リン酸)から、DAHPを生産する反応を触媒する酵素である。DAHPシンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子としては、その由来は微生物、バラを含む植物、動物など特に限定されないが、DAHPシンターゼaroF、aroGおよびaroHやそのオーソログなどが挙げられ、2-フェニルエタノールの生産性の観点から、好ましくはフィードバック阻害耐性変異型aroG遺伝子またはそのオーソログ、より好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)のようなエシェリヒア属細菌由来のフィードバック阻害耐性変異型aroG遺伝子またはそのオーソログが挙げられる。
DAHPシンターゼ活性は公知の方法、例えば、〔Liu YJ, Li PP, Zhao KX, Wang BJ, Jiang CY, Drake HL, Liu SJ. Corynebacterium glutamicum contains 3-deoxy-D-arabino-heptulosonate 7-phosphate synthases that display novel biochemical features. Appl Environ Microbiol. 74:5497-503(2008).〕により測定できる。
【0017】
コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ
コリスミ酸ムターゼ(EC 5.4.99.5)/プレフェン酸デヒドラターゼ(EC 4.2.1.51)は、コリスミ酸からフェニルピルビン酸を生産する反応を触媒する2機能酵素である。コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子としては、その由来は微生物、バラを含む植物、動物など特に限定されないが、2-フェニルエタノールの生産性の観点から、好ましくはフィードバック阻害耐性変異型pheA遺伝子、より好ましくは、大腸菌のようなエシェリヒア属細菌由来の遺伝子が挙げられる。
コリスミ酸ムターゼ、プレフェン酸デヒドラターゼ遺伝子はそれぞれ単独の遺伝子も適用でき、それぞれがフィードバック阻害耐性変異型であることがより好ましい。
コリスミ酸ムターゼ活性とプレフェン酸デヒドラターゼ活性は公知の方法、例えば、〔Zhou H, Liao X, Wang T, Du G, Chen J. Enhanced l-phenylalanine biosynthesis by co-expression of pheA(fbr) and aroF(wt). Bioresour Technol. 101:4151-4156(2010).〕により測定できる。
【0018】
シキミ酸キナーゼ
シキミ酸キナーゼ(EC 2.7.1.71)は、シキミ酸からシキミ酸-3-リン酸の生産反応を触媒する酵素である。
本酵素をコードする遺伝子としては、その由来は微生物、バラを含む植物、または動物など特に限定されないが、2-フェニルエタノールの生産性の観点から、好ましくはaroL(shikimate kinase)遺伝子、より好ましくは大腸菌のようなエシェリヒア属細菌のaroL遺伝子またはそのオーソログ、更に好ましくは大腸菌のaroL遺伝子またはそのオーソログが挙げられる。大腸菌由来のaroK(shikimate kinase)、コリネバクテリウム グルタミカム由来のaroK遺伝子またはそのオーソログであってもよい。シキミ酸キナーゼ活性は公知の方法、例えば、〔R C DeFeyter, Purification and properties of shikimate kinase II from Escherichia coli K-12., J. Bacteriol. 165: 331-333(1986)〕により測定できる。
【0019】
アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子
本開示に係るコリネ型細菌形質転換体は、2-フェニルエタノール生産向上の観点から、さらに、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されてもよい。
アルコールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.1)は、アルデヒドからアルコールの生産反応を触媒する酵素である。ここではフェニルアセトアルデヒドから2-フェニルエタノールの生産反応を触媒する酵素である。アルコールデヒドロゲナーゼの他、フェニルアセトアルデヒド レダクターゼ(EC1.1.1.-)、アリールアルコール デヒドロゲナーゼ(或いは別名ベンジルアルコール デヒドロゲナーゼ)(EC1.1.1.90)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、およびフェニルエタノール デヒドロゲナーゼなどであってもフェニルアセトアルデヒドから2-フェニルエタノールを生産可能なものであればよい。
本酵素遺伝子としては、その由来は、微生物、バラを含む植物、動物など特に限定されないが、2-フェニルエタノールの生産性の観点から、好ましくはyjgB(alcohol dehydrogenase)遺伝子、より好ましくはエシェリヒア属細菌のyjgB遺伝子またはそのオーソログ、更に好ましくは大腸菌のyjgB遺伝子またはそのオーソログが挙げられる。
大腸菌由来のyqhD(alcohol dehydrogenase)やyahK(aldehyde reductase)の他、Lactobacillus brevis由来のアリールアルコール デヒドロゲナーゼに類似したadhC(alcohol dehydrogenase)や、Saccharomyces cerevisiae由来のalcohol dehydrogenaseであるadh1やadh2またはそれらのオーソログであってもよい。
アルコールデヒドロゲナーゼ活性は公知の方法、例えば、〔Retno Indrati, Purification and properties of alcohol dehydrogenase from a mutant strain of Candida guilliermondii deficient in one form of the enzyme Can. J. Microbiol., 38: 953-957(1992)〕により測定できる。
【0020】
(II)2-フェニルエタノールの製造方法
上記説明した本開示に係る形質転換体を、炭素源を含む反応液中で反応させることにより2-フェニルエタノールを製造することができる。よって、本開示は、一態様において、糖類を含む水中で本開示に係る形質転換体を反応させることを含む2-フェニルエタノールの製造方法に関する。
【0021】
微生物の増殖
反応に先立ち、形質転換体を好気条件下で、温度約25~38℃で、約12~48時間培養して増殖させることが好ましい。
【0022】
培養用培地
反応に先立つ形質転換体の好気的培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類およびその他の栄養物質等を含有する天然培地または合成培地を用いることができる。
炭素源として、糖類(グルコース、フルク卜ース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラク卜ースのような単糖;スクロース、マル卜ース、ラク卜ース、セロビオース、キシロビオース、卜レハロースのような二糖;澱粉のような多糖;糖蜜等)、マンニ卜ール、ソルビ卜ール、キシリ卜ール、グリセリンのような糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸のような有機酸;エタノール、プロパノールのようなアルコール;ノルマルパラフィンのような炭化水素等も用いることができる。炭素源は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウムのような無機若しくは有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、または硝酸カリウム等を使用できる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZアミン、蛋白質加水分解物、またはアミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用できる。窒素源は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上を混合して使用してもよい。窒素源の培地中の濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、通常約0.1~10(w/v%)とすればよい。
無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、または炭酸カルシウム等が挙げられる。無機塩は、1種を単独で、または2種以上を混合して使用できる。無機塩類の培地中の濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常、約0.01~1(w/v%)とすればよい。
【0024】
栄養物質としては肉エキスペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物、動植物または微生物菌体のエキスやそれらの分解物等が挙げられる。栄養物質の培地中の濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、通常約0.1~10(w/v)%とすればよい。
さらに、必要に応じて、ビタミン類を添加することもできる。ビタミン類としては、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシ卜ール、またはニコチン酸等が挙げられる。培地のpHは約6~8が好ましい。
【0025】
具体的な好ましいコリネバクテリウム グルタミカム用培地としては、A培地〔Inui, M. et al.,Metabolic analysis of Corynebacterium glutamicum during lactate and succinate productions under oxygen deprivation conditions. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 7:182-196(2004)〕、およびBT培地〔Omumasaba, C.A. et al., Corynebacterium glutamicum glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase isoforms with opposite, ATP-dependent regulation. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:91-103(2004)〕等が挙げられる。これらの培地において、糖類濃度を上記範囲にして用いればよい。
【0026】
反応液は、糖類を含有する水、緩衝液、および無機塩培地などを用いることができる。
緩衝液としては、リン酸バッファー、卜リスバッファー、および炭酸バッファーなどが挙げられる。緩衝液の濃度は約10~150mMが好ましい。
形質転換体を実質的に増殖させないため、反応液に増殖因子としてのビオチンを含まないことが望ましい。
無機塩培地としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マネシウム、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、または炭酸カルシウム等の無機塩の1種または2種以上を含む培地が挙げられる。中でも、硫酸マグネシウムを含む培地が好ましい。無機塩培地として、具体的にはBT培地〔Omumasaba, C. A. et al, Corynebacterium glutamicum glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase isoforms with opposite, ATP-dependent regulation. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:91-103(2004)〕等が挙げられる。無機塩類の培地中の濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常、約0.01~1(w/v%)とすればよい。
反応液のpHは約6~8が好ましい。反応中は、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などを用いて、pHコントローラー(例えば、エイブル株式会社製、型式:DT-1023)で、反応液のpHを中性付近、特に約7にコントロールしながら反応させることが好ましい。
【0027】
反応条件
反応温度、即ち反応中の形質転換体の生存温度は、約20~50℃が好ましく、約25~47℃がより好ましい。上記温度範囲であれば効率良く2-フェニルエタノールを製造できる。
また、反応時間は約1~7日間が好ましく、約1~3日間がより好ましい。培養は、バッチ式、流加式、連続式の何れでもよい。中でもバッチ式が好ましい。
【0028】
通気条件
反応は、還元条件、あるいは微好気的条件で行ってもよい。いずれの条件においてもコリネバクテリウム グルタミカムは実質的に増殖しない反応で行われるため、一層効率的に2-フェニルエタノールを生産させることができる。
還元条件は、反応液の酸化還元電位で規定される。反応液の酸化還元電位は約-200mV~-500mVが好ましく、-250mV~-500mVがより好ましい。
反応液の還元状態は簡便にはレサズリン指示薬(還元状態であれば、青色から無色への脱色)で推定できるが、正確には酸化還元電位差計(例えば、BROADLEY JAMES社製、ORP Electrodes)を用いて測定できる。
還元条件にある反応液の調製方法は、公知の方法を制限なく使用できる。
例えば、反応液調製用の液体媒体として、蒸留水などの代わりに反応液用水溶液を使用してもよい。反応液用水溶液の調製方法は、例えば硫酸還元微生物などの絶対嫌気性微生物用の培養液調製方法(Pfennig, N. et al,(1981) : The dissimilatory sulfate-reducing bacteria, In The Prokaryotes, A Handbook on Habitats, Isolation and Identification of Bacteria Ed. By Starr, M. P. et al.,p.926-940, Berlin, Springer Verlag.)や「農芸化学実験書 第三巻、京都大学農学部 農芸化学教室編、1990年第26刷、産業図書株式会社出版」などが参考となり、所望する還元条件下の水溶液を得ることができる。
具体的には、蒸留水などを加熱処理や減圧処理して溶解ガスを除去することにより、還元条件の反応液用水溶液を得ることができる。この場合、約10mmHg以下、好ましくは約5mmHg以下、より好ましくは約3mmHg以下の減圧下で、約1~60分程度、好ましくは約5~40分程度、蒸留水などを処理することにより、溶解ガス、特に溶解酸素を除去して還元条件下の反応液用水溶液を作成することができる。
また、適当な還元剤(例えば、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メル力プ卜酢酸、チオール酢酸、グルタチオン、または硫化ソーダ等)を添加して還元条件の反応液用水溶液を調製することもできる。
これらの方法を適宜組み合わせることも有効な還元条件の反応液用水溶液の調製方法である。
反応途中での還元条件を維持する場合は、反応系外からの酸素の混入を可能な限り防止することが望ましく、具体的には、反応系を窒素ガス等の不活性ガスや炭酸ガス等で封入する方法が挙げられる。酸素混入をより効果的に防止する方法としては、反応途中において本開示のコリネ型細菌形質転換体の菌体内の代謝機能を効率よく機能させるために、反応系のpH維持調整液の添加や各種栄養素溶解液を適宜添加する必要が生じる場合もあるが、このような場合には添加溶液から酸素を予め除去しておくことが有効である。
反応途中で微好気条件を維持する場合は、通気量を0.5vvmなどの低値あるいはそれ以下とし、攪拌速度を500rpmなどの低値あるいはそれ以下の条件で反応させることができる。場合によっては、反応開始後、適当な時間で通気を遮断し、撹拌速度を100rpmあるいはそれ以下の条件で嫌気度を向上させた状態と組み合わせて反応することもできる。
【0029】
2-フェニルエタノールの回収
上記のようにして培養することにより、反応液中に2-フェニルエタノールが生産される。反応液を回収することにより2-フェニルエタノールを回収できるが、さらに、公知の方法で2-フェニルエタノールを反応液から分離することもできる。そのような公知の方法として、蒸留法、膜透過法、樹脂吸着法、有機溶媒抽法等が挙げられる。
【0030】
本開示は、一または複数の実施形態において、以下に関しうる;
<1> シキミ酸経路が活性化されたコリネ型細菌形質転換体であって、
さらに、フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、コリネ型細菌形質転換体。
<2> 前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、Enterobacter cloacaeのipdC遺伝子である、<1>に記載のコリネ型細菌形質転換体。
<3> 前記フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が、(a)配列番号1の塩基配列を有する遺伝子、(b)配列番号1の塩基配列において1または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子であって、配列番号1の塩基配列に対して45%以上の同一性の塩基配列を有する遺伝子、(c)配列番号1に記載の塩基配列を有する遺伝子と相補的な塩基配列を有する遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、のいずれかの遺伝子を含む、<1>または<2>に記載のコリネ型細菌形質転換体。
<4> シキミ酸経路の活性化は、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにシキミ酸キナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を宿主のコリネ型細菌に導入することを含む、<1>から<3>のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
<5> 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子がフィードバック阻害耐性である、<4>に記載のコリネ型細菌形質転換体。
<6> 3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソネート-7-ホスフェート(DAHP)シンターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、コリスミ酸ムターゼ活性およびプレフェン酸デヒドラターゼ活性の少なくとも一方を有する酵素をコードする遺伝子、ならびにシキミ酸キナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が大腸菌由来である、<4>または<5>に記載のコリネ型細菌形質転換体。
<7> ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ遺伝子、ジヒドロキシアセトンホスファターゼ遺伝子およびフェニルアラニン取り込みトランスポーター遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つが破壊されている、<1>から<6>のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
<8> 宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムである、<1>から<7>のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
<9> 宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムR(FERM BP-18976)、ATCC13032、またはATCC13869(DSM1412)である、<1>から<8>のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体。
<10> コリネバクテリウム グルタミカム2PE97株(受託番号:NITE BP-02830)コリネ型細菌形質転換体。
<11> <1>から<10>のいずれかに記載のコリネ型細菌形質転換体を、糖類を含む水中で反応させることを含む、2-フェニルエタノールの製造方法。
<12> 糖類がグルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロビオース、トレハロース、およびマンニトールからなる群より選択される、<11>に記載の2-フェニルエタノールの製造方法。
【実施例
【0031】
以下、本開示を実施例により詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
2-フェニルエタノール生産株の構築
(1) 染色体DNAの調製・入手
Corynebacterium glutamicum R(FERM BP-18976)、Azospirillum brasilense NBRC 102289、Beijerinckia indica subsp. indica DSM1715、Bifidobacterium animalis subsp. lactis JCM 10602、Bradyrhizobium diazoefficiens JCM 10833、Bradyrhizobium elkanii JCM 10832、Bradyrhizobium japonicum JCM 20679、Bradyrhizobium lablabi NBRC 108826、Burkholderia multivorans NBRC 102086、Caldilinea aerophila DSM 14535、Chromohalobacter salexigens ATCC BAA-138、Comamonas testosteroni NBRC 14951、Corynebacterium aurimucosum JCM 11766、Corynebacterium kroppenstedtii JCM 11950、Debaryomyces hansenii JCM 1990、Delftia acidovorans JCM 5833、Desulfovibrio magneticus DSM 13731、Enterobacter cloacae NBRC 13535、Enterobacter hormaechei ATCC 49162、Erwinia herbicola NBRC 102470、Escherichia coli K-12 MG1655、Kluyveromyces lactis JCM 22014、Komagataella phaffii ATCC 20864、Lachancea thermotolerans JCM 19085、Lactococcus lactis NBRC 100933、Mycobacterium smegmatis MC(2) 155 ATCC 700084、Nostoc sp.PCC 73102 ATCC29133、Pandoraea vervacti NBRC 106088、Polaromonas naphthalenivorans ATCC BAA-779、Providencia rustigianii JCM 3953、Providencia stuartii ATCC 25827、Pseudomonas putida NBRC 14164、Ralstonia eutropha IAM 12368、Rhodococcus jostii JCM 11615、Rhodopseudomonas palustris ATCC BAA-98、Rhodospirillum rubrum ATCC 11170、Saccharomyces cerevisiae NBRC 2376、Saccharopolyspora erythraea JCM 4748、Staphylococcus epidermidis NBRC 12993、Staphylococcus haemolyticus JCSC 1435、Staphylococcus saprophyticus ATCC 15305、およびStreptomyceslividans NBRC 15675の染色体DNAは、菌株入手機関の情報に従って培養した後、DNAゲノム抽出キット(商品名:illustra bacteria genomicPrep Mini Spin Kit、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて調製した。また、Prunus persicaおよびRosa hybrid cultivarのpdc遺伝子はGeneArt人工遺伝子合成(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により入手した。
【0033】
(2) 2-フェニルエタノール生産関連遺伝子発現プラスミドの構築
目的の酵素遺伝子を単離するために用いた遺伝子およびプライマー配列を表1に示す。PCRは、Veritiサーマルサイクラー(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用い、反応試薬としてPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いた。
得られたDNA断片を、PgapAプロモーターを含有するクローニングベクター(pCRB207[Appl Environ Microbiol. 78(3):865-875(2012)]、pCRB209[WO2012/033112]、pCRB210[WO2012/033112])に導入した。また、pheA遺伝子においては、リン酸化プライマーを用いて増幅したPCR断片を連結することにより遺伝子内への変異導入を行った。導入されたクローニングベクターと得られたプラスミド名を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
(3) 2-フェニルエタノール生産関連遺伝子染色体導入用プラスミドの構築
2-フェニルエタノール生産関連遺伝子をCorynebacterium glutamicum R株の染色体にマーカーレスで導入するために必要なDNA領域を、Corynebacterium glutamicum R株の増殖に必須でないと報告されている配列[Appl. Environ. Microbiol. 71:3369-3372(2005)](SSI領域)を基に決定した。このDNA領域をPCR法により増幅した。得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子導入用プラスミドpCRA725 [J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。なお、pCRG40は、インバースPCR法によりSSI領域に遺伝子を組み込むための制限酵素部位(ユニークサイト)を導入した。SSI領域の単離およびインバースPCRに用いたプライマー配列および得られた染色体導入用ベクターを表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
上述の染色体導入用プラスミドに、上記表2で構築した2-フェニルエタノール生産関連遺伝子発現プラスミドからPgapAプロモーター融合酵素遺伝子断片を取得し導入した。また、tkt-tal遺伝子発現プラスミドpSKM8[WO2016/027870]、SSI8-1領域導入用プラスミドpCRB278[WO2017/169399]、SSI5-1領域導入用プラスミドpCRB276[WO2017/169399]、およびSSI2-2領域導入用プラスミドpCRB259 [WO2017/146241]も使用した。得られた2-フェニルエタノール生産関連遺伝子染色体導入用プラスミドを表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
(4) Corynebacterium glutamicum R株染色体遺伝子破壊用プラスミドの構築
Corynebacterium glutamicum R株の染色体遺伝子をマーカーレスで破壊するために必要なDNA領域をPCR法により増幅した。各PCR断片はオーバーラップ領域により連結可能である。得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子破壊用プラスミドpCRA725 [J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:243-254(2004)、特開2007-295809]に導入した。得られた染色体遺伝子破壊用プラスミドを表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
(5) 染色体遺伝子組換えによる2-フェニルエタノール生産株の構築
マーカーレス染色体遺伝子導入用ベクターpCRA725は、Corynebacterium glutamicum R内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入した染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性を示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での増殖性を示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性およびスクロース含有培地増殖性を示す。
上記方法により、上述した2-フェニルエタノール生産関連遺伝子染色体導入用プラスミドおよび染色体遺伝子破壊用プラスミドを用いて遺伝子組換え株を構築した。宿主菌株としてCorynebacterium glutamicum R株およびldhA破壊株 CRZ1[Biotechnol Bioeng. Nov;110(11):2938-2948(2013)]を使用した。また、aroG(S180F)遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB285[WO2017/169399]、aroD遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB292[WO2017/169399]、aroE遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB294[WO2017/169399]、aroA伝子染色体導入用プラスミドpCRB289[WO2017/169399]、aroCKB遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB287[WO2017/169399]、gapA遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB294[Appl Environ Microbiol. 78(12):4447-4457(2012)]、iolT1遺伝子染色体導入用プラスミドpSKM14[WO2016/027870]、qsuB遺伝子破壊用プラスミドpSKM26[WO2016/027870]、hdpA遺伝子破壊用プラスミドpSKM28[WO2016/027870]およびptsH遺伝子破壊用プラスミドpCRC809[Microbiology. 155(Pt11):3652-3660(2009)]も使用した。尚、本染色体遺伝子組換えの概要は、表6および表7にまとめて示した。
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
(6) 2-フェニルエタノール生産遺伝子発現プラスミド導入株の構築
上述の染色体遺伝子組換え株にpdc遺伝子やipdC遺伝子を導入することにより2-フェニルエタノール生産株を構築した。本生産株の概要は、表8にまとめて示した。
【表8】
【0046】
これら菌株について試験管培養を行い、33℃で48時間後に38mM以上の2-フェニルエタノールを生産した2PE97および2PE143~2PE147株について以下のジャー培養による生産試験を行った。
[フェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子導入株によるグルコースから2-フェニルエタノール生産試験]
2-フェニルエタノール生産遺伝子導入株(2PE97、143-147株)を、カナマイシン50μg/mlを含むA寒天培地[(NH2)2CO 2g、(NH4)2SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、0.06%(w/v)FeSO4・7H2O+0.042%(w/v)、MnSO4・2H2O 1ml、0.02%(w/v)biotin solution 1ml、0.01%(w/v)thiamin solution 2ml、yeast extract 2g、vitamin assay casamino acid 7g、glucose 40g、寒天15gを蒸留水1Lに懸濁]に塗布し、33℃、18時間静置培養した。
上記のプレートで増殖した2-フェニルエタノール生産遺伝子導入株(2PE97、143-147株)を、カナマイシン50μg/mlを含むA液体培地[(NH2)2CO 2g、(NH4)2SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、0.06%(w/v)FeSO4・7H2O+0.042%(w/v)MnSO4・2H2O 1ml、0.02%(w/v)biotin solution 1ml、0.01%(w/v)thiamin solution 2ml、yeast extract 2g、vitamin assay casamino acid 7g、glucose 40gを蒸留水1Lに溶解]10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃で18時間、好気的に振盪培養を行った。
このようにして得た培養液は、初期のOD610が0.8となるように100mLのJarファーメンター装置に移し、A培地に基質としてグルコース(初濃度100g/L)を添加し、33℃、培養反応液のpHが7.0を下回らないように2.5Nのアンモニア水を用いて調節し、通気した条件で培養した。グルコースは濃度が低下した時点で適宜追加した。
サンプリングした培養液は遠心分離(4℃、10,000×g、5分)し、得られた上清液を用いて生産物の分析を行った。培養液中のグルコース濃度はグルコースセンサー(OSI BF-5D)により計測した。2-フェニルエタノールの濃度は島津製作所製のHPLCシステムを使用し、分離カラムにはナカライテスク社のコスモシールC18-AR-IIを用いた。HPLCによる分離条件は、移動相に40%メタノールおよび0.069%過塩素酸を使用し、流速は1.0ml/min、カラム温度は40℃とした。
上記のとおりフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子をクローニングしてコリネ型細菌2-フェニルエタノール生産宿主LHglc1449株に導入して検討した。表9に、今回の宿主、培養および、反応条件で培養48時間後、2-フェニルエタノール濃度25mM以上の生産性を示した組換え株を示す。2PE97株が最も高濃度の2-フェニルエタノールを生産した。
【0047】
【表9】
【0048】
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)2PE97株は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した(受託日:2018年11月22日、受託番号:NITE BP-02830)。
【0049】
[実施例2]
<2-フェニルエタノール生産遺伝子を導入したコリネバクテリウム グルタミカム株の2-フェニルエタノール生産実験>
コリネバクテリウム グルタミカム2-フェニルエタノール生産遺伝子導入株(2PE97株)を、カナマイシン50μg/mlを含むA寒天培地(同上)に塗布し、33℃、18時間静置培養した。
上記のプレートで増殖した2PE97株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地(同上)10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃で18時間、好気的に振盪培養を行った。
【0050】
このようにして得た培養液は、初期のOD610が0.8となるように100mLのJarファーメンター装置に移し、A培地に基質としてグルコース(初濃度100g/L)添加し、33℃、培養液のpHが7.0を下回らないように2.5Nのアンモニア水を用いて調節し、通気した条件で培養した。グルコースは濃度が低下した時点で適宜追加した。
【0051】
サンプリングした培養液を遠心分離(4℃、10,000×g、5分)し、得られた上清液を用いて生産物の分析を行った。培養液中のグルコース濃度はグルコースセンサー(OSI BF-5D)により計測した。2-フェニルエタノールの濃度は島津製作所製のHPLCシステムを使用し、分離カラムにはナカライテスク社のコスモシールC18-AR-IIを用いた。HPLCによる分離条件は、移動相に40%メタノールおよび0.069%過塩素酸を使用、流速は1.0ml/min、カラム温度は40℃とした。48時間反応させた結果、2-フェニルエタノールの収量は6.5g/Lであった(図1)。他方、対照として用いたフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子を導入しない遺伝子組換え体は、全く2-フェニルエタノールを生産しなかった。
【0052】
実施例1において作製した2PE97株を、カナマイシン50μg/mlを含むA寒天培地(同上)に塗布し、33℃、16時間静置した。
上記のプレートで増殖した2PE97株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地(同上)10mlの入った試験管に―白金耳植菌し、33℃で16時間、好気的に振盪培養を行った。
上記条件で増殖した2PE97株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地(同上)500mlの入った容量2Lの三角フラスコに植菌し、33℃で16時間、好気的に振盪培養を行った。
【0053】
このようにして培養増殖された菌体は、遠心分離(4℃、5,000×g、10分)により菌体を回収した。得られた菌体を、終菌体濃度5%となるようにBT(-尿素)液体培地[0.7%(NH4)2SO4、0.05% KH2PO4、0.05% K2HPO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.06%(w/v)FeSO4・7H2O+0.000042%(w/v)MnSO4・2H2O、0.00002%(w/v)thiamin solution]400mlに懸濁した。この菌体懸濁液を1LのJarファーメンター装置に移し、基質としてグルコース(初濃度100g/L)添加、33℃、反応液のpHが7.0を下回らないように5.0Nのアンモニア水を用いて調節し、菌体を増殖しない状態で、通気量を1.0vvm、攪拌速度を900rpmの条件で反応した。2-フェニルエタノールを吸着させる目的で、終濃度5%(w/v)となるように合成吸着樹脂XAD2(オルガノ株式会社)を添加した。
【0054】
サンプリングした反応液を遠心分離(4℃、10,000×g、5分)し、得られた上清液を用いて生産物の分析を行った。培養液中のグルコース濃度はグルコースセンサー(OSI BF-5D)により計測した。2-フェニルエタノールの濃度は島津製作所製のHPLCシステムを使用し、分離カラムにはナカライテスク社のコスモシールC18-AR-IIを用いた。HPLCによる分離条件は、移動相に40%メタノールおよび0.069%過塩素酸を使用、流速は1.0ml/min、カラム温度は40℃とした。XAD2に吸着した2-フェニルエタノールは、アセトンで溶出後に同様にHPLC分析を行った。
【0055】
形質転換体が実質的に増殖しない生産反応の結果、2-フェニルエタノールの蓄積が見られた(図2左:培養液に残存した2-フェニルエタノール濃度の経時変化を示す)。反応53.5時間で樹脂吸着分を併せて合計12.8g/L(105mM)の2-フェニルエタノールが生産され、その内訳は樹脂吸着分が78mM、培養液に残存分が27mMであった(図2右)。
【0056】
[実施例3]
2-フェニルエタノール生産宿主としての適性試験
2-フェニルエタノールによる好気増殖への影響
コリネバクテリウム グルタミカム、エシェリヒア コリ、シュードモナス プチダ、およびクルイベロマイセス マルシアヌスについて、好気培養における2-フェニルエタノールの増殖阻害試験を行った
コリネバクテリウム グルタミカムRをA寒天培地(同上)に塗布し、33℃、15時間暗所に静置した。
上記のプレートで増殖したコリネバクテリウム グルタミカムRを、A液体培地(同上)10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃にて13時間、好気的に振盪培養を行った。
上記条件で増殖したコリネバクテリウム グルタミカムRを、A液体培地(同上)100mlに初期菌体濃度OD610=0.05となるように植菌し、同時に2-フェニルエタノールが終濃度0、10、20、30、40、50mMとなるように添加し、33℃にて好気的に振盪培養を行った。菌体の増殖はOD610の吸光度を測定することにより行った。
【0057】
エシェリヒア コリMG1655をLB寒天培地〔1%ポリペフトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウム、および1.5%寒天〕に塗布し、37℃、15時間暗所に静置した。
上記プレートで増殖したエシェリヒア コリMG1655を、LB液体培地〔1%ポリペプトン、0.5%酵母エキスおよび0.5%塩化ナトリウム〕10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、37℃にて13時間、好気的に振盪培養を行った。
上記条件で増殖したエシェリヒア コリMG1655をLB液体培地100mlに初期菌体濃度OD610=0.05となるように植菌し、同時に2-フェニルエタノール濃度が終濃度で0、10、20、30、40、50mMとなるように添加し、33℃にて好気的に振盪培養を行った。菌体の増殖はOD610の吸光度を測定することにより行った。
【0058】
シュードモナス プチダS12をLB寒天培地〔1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウムおよび1.5%寒天〕に塗布し、30℃、15時間暗所に静置した。
上記プレートで増殖したシュードモナス プチダS12を、LB(+グルコース)液体培地〔1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%塩化ナトリウムおよび0.4%グルコース〕10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、33℃にて13時間、好気的に振盪培養を行った。
上記条件で増殖したシュードモナス プチダS12株をLB(+グルコース)液体培地100mlに初期菌体濃度OD610=0.05となるように植菌し、同時に2-フェニルエタノール濃度が終濃度0、10、20、30、40、50mMとなるように添加し、30℃にて好気的に振盪培養を行った。菌体の増殖はOD610の吸光度を測定することにより行った。
クルイベロマイセス マルシアヌスをYPD寒天培地[2%ポリペプトン、1%酵母エキス、2%グルコースおよび1.5%寒天]に塗布し、30℃、15時間暗所に静置した。
上記のプレートで増殖したクルイベロマイセス マルシアヌスを、YPD液体培地[2%ポリペプトン、1%酵母エキスおよび2%グルコース]10mlの入った試験管に一白金耳植菌し、40℃にて13時間、好気的に振盪培養を行った。
上記条件で増殖したクルイベロマイセス マルシアヌスを、YPD液体培地100mlに初期菌体濃度がOD610=0.05となるように植菌し、同時に2-フェニルエタノールが終濃度0、10、20、30、40、50mMとなるように添加し、40℃にて好気的に振盪培養を行った。菌体の増殖はOD610の吸光度を測定することにより行った。
【0059】
培地中への2-フェニルエタノール添加による好気増殖への影響の解析結果を図3に示す。エシェリヒア コリは、20mM 2-フェニルエタノール存在下で著しく増殖阻害を受け、30mM 2-フェニルエタノールではほぼ完全に増殖が阻害された。
溶剤耐性菌として報告されていたシュードモナス プチダS12は、類似した傾向を示し、30mM 2-フェニルエタノールでは完全に増殖が阻害された。
これに対して、コリネバクテリウム グルタミカムは、エシェリヒア コリやシュードモナス プチダやクルイベロマイセス マルシアヌスでは増殖が強く阻害された20mMにおいては全く増殖に影響はなかった。また、エシェリヒア コリやシュードモナス プチダやクルイベロマイセス マルシアヌスではほぼ完全に増殖を阻害された30mMの2-フェニルエタノール存在下においてもコリネバクテリウム グルタミカムの増殖は遅延するものの24時間後には良好な増殖を示した。
以上の結果から、コリネバクテリウム グルタミカムはエシェリヒア コリ、シュードモナス プチダ、およびクルイベロマイセス マルシアヌスと比較して、2-フェニルエタノールに対して高い耐性を有し、2-フェニルエタノール生産の宿主として高い適性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本開示によれば、実用的な効率で糖原料から2-フェニルエタノールを製造することができる。
【0061】
図1
図2
図3
【配列表】
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