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特許7171810卵加工品飲食品組成物、飲食品組成物の品質改善剤、飲食品組成物の品質改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】卵加工品飲食品組成物、飲食品組成物の品質改善剤、飲食品組成物の品質改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20221108BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20221108BHJP
   A23L 9/10 20160101ALI20221108BHJP
   A23L 27/60 20160101ALI20221108BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L15/00 D
A21D13/80
A23L9/10
A23L27/60 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021068415
(22)【出願日】2021-04-14
(62)【分割の表示】P 2017122532の分割
【原出願日】2017-06-22
(65)【公開番号】P2021101739
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】林 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】深見 健
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-052278(JP,A)
【文献】特開2010-035513(JP,A)
【文献】特公昭48-002340(JP,B1)
【文献】特開昭47-020372(JP,A)
【文献】七訂 食品成分表 2016 資料編,女子栄養大学出版部,2016年04月01日,p.6-7,182-183,190-191,214-215
【文献】Federal register,1964年,Vol.29, 14439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分からなり、
前記卵加工品飲食品組成物中の前記成分の含有量(A)と卵含量(B)との質量比(A/B)が0.0001~1.0、且つ、前記卵加工品飲食品組成物中の前記成分の含有量(A)と前記組成物中の鉄含有量(C)の質量比(A/C)が5~500となるように卵加工品飲食品組成物に添加される、
卵加工品飲食品組成物の硫化黒変の抑制、又は卵加工品飲食品組成物中の脂質酸化抑制に用いられる品質改善剤。
【請求項2】
卵加工品飲食品組成物において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分を、前記卵加工品飲食品組成物中の前記成分の含有量(A)と卵含量(B)との質量比(A/B)が0.0001~1.0、且つ、前記卵加工品飲食品組成物中の前記成分の含有量(A)と前記組成物中の鉄含有量(C)の質量比(A/C)が5~500となる量で用いる、卵加工品飲食品組成物の硫化黒変の抑制、又は卵加工品飲食品組成物中の脂質酸化抑制をする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵加工品飲食品組成物、飲食品組成物の品質改善剤、飲食品組成物の品質改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
卵は広く加工食品に用いられているが、加熱時に卵白中のタンパク質の分解から生じる硫化水素と卵黄に含まれる鉄イオンが反応して硫化鉄を生じ、色調が悪くなる硫化黒変を生じやすい。食品の見た目は消費者の購買意欲に働きかける重要な要素の一つであることから、硫化黒変を抑制することが求められている。また、マヨネーズ等の油を多く含む卵加工品においては、卵黄中に含まれる鉄イオンが脂質の酸化を促進し、食品の劣化が進むことが問題となっている。卵加工品においては、その食感も商品の価値を左右する重要な要素であり、より好ましい食感を付与することが望まれる。以上のように、卵加工品においては、さらなる品質の向上が望まれ、種々検討がなされている。
【0003】
卵加工品の品質を向上させる方法としては、例えば、グルコン酸等の有機酸またはこれらの塩を有効成分として含有する卵加工品の色調改良剤(特許文献1)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-174566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては色調改善剤としての効果が不十分である。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、飲食品の品質改善効果に優れた新規な品質改善剤、及び、このような品質改善剤により品質が改善された卵加工品飲食品組成物、及び、飲食品組成物の品質を改善する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、重合度2以上の澱粉分解物または転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸を用いることで、卵加工時の変色抑制、脂質酸化抑制、食感及び呈味改善等により、卵加工品飲食品組成物の品質を改善できることを見出し、本発明に至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) 重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分を含有する卵加工品飲食品組成物。
【0009】
(2) 前記組成物中の前記成分の含有量(A)と卵含量(B)の質量比(A/B)が0.0001~1.0である(1)に記載の組成物。
【0010】
(3) 前記組成物中の前記成分の含有量(A)と前記組成物中の鉄含有量(C)の質量比(A/C)が5~50000である(1)または(2)に記載の組成物。
【0011】
(4) 前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、及びラクトビオン酸からなる群から選択される少なくとも1つ以上を含む、(1)から(3)のいずれかに記載の組成物。
【0012】
(5) 前記糖カルボン酸が、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物又はデキストリン酸化物の形態で含まれる、(1)から(4)のいずれかに記載の組成物。
【0013】
(6) 重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分からなり、
卵加工品飲食品組成物の色調改良、飲食品組成物中の脂質酸化抑制、卵加工品飲食品組成物の卵臭マスキング、及び卵加工品飲食品組成物の食感改善からなる群より選ばれる1種以上の品質改善に用いられる品質改善剤。
【0014】
(7) 重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分を用いて、卵加工品飲食品組成物の色調改良、飲食品組成物中の脂質酸化抑制、卵加工品飲食品組成物の卵臭マスキング、及び卵加工品飲食品組成物の食感改善からなる群より選ばれる1種以上の品質改善をする方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、飲食品組成物の品質改善効果に優れた新規な品質改善剤、及び、このような品質改善剤により品質が改善された卵加工品飲食品組成物及び、飲食品組成物の品質を改善する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
<卵加工品飲食品組成物>
本発明の卵加工品飲食品組成物は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分(以下、単に「糖カルボン酸」と称する場合がある)を含む。
【0018】
本発明の卵加工品飲食品組成物によれば、糖カルボン酸を用いることにより、品質を改善することができる。卵は加熱工程にて、卵白中のタンパク質を構成するシステイン等が分解されることにより発生する硫化水素が卵黄中の鉄と反応して硫化鉄を生成し、硫化黒変が生じるが、糖カルボン酸を添加すると、糖カルボン酸が鉄イオンと結びつき、硫化鉄の生成を抑制するため、卵加工品飲食品組成物の色調を改良することができると考えられる。
【0019】
また、脂質の酸化は鉄等の遷移金属イオンの存在によって促進されることが知られているが、前述のように、糖カルボン酸が鉄イオンをはじめとするミネラルと結びつくことで、脂質の酸化が抑制されるものと考えられる。
【0020】
さらに、糖カルボン酸は、卵のエグ味成分等と結びつくことで卵臭のマスキングや、卵のゲル構造に結びついて維持することでより好ましい食感の付与などの効果も併せ持ち、卵加工品飲食品組成物において総合的な品質の向上が期待できる。
【0021】
本発明において、卵加工品飲食品組成物とは、卵を使用した飲食品組成物のことを指す。飲食品組成物の形状は特に限定されず、例えば、固体状(ゼリー等の半固体状態の物も含む)、ペースト状、液状等であってもよい。
【0022】
卵としては、鶏、烏骨鶏、アヒル、ウズラ、ダチョウ、カモ等のものが挙げられ、これらは単独で使用しても良く、2種類以上を使用しても良い。また、生卵ならびにこれを溶きほぐした全卵液、卵黄、卵白に分離された卵液及びこれらの混合物、ならびに乾燥卵を水戻ししたもの等でも良い。
【0023】
また、卵加工品としては、卵焼き、厚焼き玉子、だし巻卵、スクランブルエッグ、オムレツ、オムライス、茶わん蒸し、プリン、豆乳プリン、卵豆腐、マヨネーズ、ドレッシング、デザートソース、卵フィリング、ペースト、スポンジケーキ、クッキーなどの焼き菓子類、等が例示できる。色調改善の観点では卵焼き、厚焼き玉子、だし巻卵、スクランブルエッグ、オムレツ、オムライスが好ましく、脂質酸化抑制の観点ではマヨネーズ、ドレッシング、デザートソース、卵フィリング、ペースト、スポンジケーキ、クッキーなどの焼き菓子類が好ましく、卵臭抑制及び食感改善の観点では茶わん蒸し、プリン、豆乳プリン、卵豆腐が好ましい。
【0024】
(糖カルボン酸)
本発明の卵加工品飲食品組成物は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分を含有する。糖カルボン酸は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものであれば、特に限定されない。澱粉分解物又は転移反応物の重合度は、例えば、2~100等であってもよい。より具体的には、糖カルボン酸は、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、ラクトビオン酸、パノース酸化物等が挙げられる。これらのうち、卵加工品飲食品組成物の品質改善効果が高い点で、マルトビオン酸、マルトトリオン酸が好ましく、マルトビオン酸がより好ましい。これらは、単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。また、糖カルボン酸は、遊離の酸であってもよく、その塩類及びラクトンであってもよい。
【0025】
上記成分(重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分)の飲食品組成物中の含有量(A)と卵成分の含有量(B)の質量比(A/B)は、0.0001~1.0であることが好ましく、0.0002~0.5であることがより好ましく、0.001~0.5であることが更により好ましい。また、上記成分(重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分)の含有量は、卵加工品飲食品組成物の目的、用途に応じて適宜設定しても良く、例えば、飲食品組成物が、卵焼き、厚焼き玉子等であるときは、A/Bが0.0001~0.1(より具体的な下限は0.0005又は0.001であり、上限は0.5、0.1、0.05、又は0.01であってよい)であることが好ましく、茶わん蒸し、プリン等や菓子類等であるときは0.005~0.5(より具体的な下限は0.01、0.02、0.05又は0.1であり、上限は0.1又は0.05であってよい)であることが好ましく、ソース類等であるときは0.005~1.0(より具体的な下限は0.01、0.1、0.2又は0.3であり、上限は0.7又は0.5であってよい)であることが好ましい。
【0026】
上記成分(重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分)の飲食品組成物中の含有量(A)と飲食品組成物中の鉄含有量(C)の質量比(A/C)は、5~50000であることが好ましく、10~25000であることがより好ましく、50~25000であることが更により好ましい。また、上記成分(重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分)の含有量は、卵加工品飲食品組成物の目的、用途に応じて適宜設定しても良く、例えば、飲食品組成物が、卵焼き、厚焼き玉子等であるときは、A/Cが5~5000(より具体的な下限は25又は50であり、上限は25000、5000、2500、又は500であってよい)であることが好ましく、茶わん蒸し、プリン等や菓子類等であるときは250~25000(より具体的な下限は500、1000、2500又は5000であり、上限は20000、10000、5000又は2500であってよい)であることが好ましく、ソース類等であるときは250~50000(より具体的な下限は500、5000、10000又は15000であり、上限は35000又は25000であってよい)であることが好ましい。なお、飲食品組成物の鉄の含有量は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析法装置によって測定される。
【0027】
糖カルボン酸の含有量は、HPAED-PAD法(パルスドアンペロメトリー検出器、CarboPac PA1カラム)により測定する。測定は、溶出:35℃、1.0ml/min、水酸化ナトリウム濃度:100mM、酢酸ナトリウム濃度:0分-0mM、5分-0mM、55分-40mMの条件で行う。
【0028】
糖カルボン酸は、どのような形態で含まれてもよく、例えば、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物又はデキストリン酸化物の形態で含まれてもよい。また、液体であっても粉末であってもよい。
【0029】
糖カルボン酸は、常法に従って製造することができる。例えば、澱粉分解物又は転移反応物を化学的な酸化反応により酸化する方法や、澱粉分解物又は転移反応物にオリゴ糖酸化能を有する微生物、又は酸化酵素を作用させる反応により製造することができる。
【0030】
化学的な酸化反応としては、例えばパラジウム、白金、ビスマス等を活性炭に担持させた酸化触媒の存在下で、マルトース等の重合度2以上のアルドースと酸素をアルカリ雰囲気下で接触酸化させることにより、糖カルボン酸を製造することができる。以下に、化学的な酸化反応によるマルトビオン酸の製造方法について、より具体的な一例を説明する。
【0031】
まず、50℃に保持した20%マルトース溶液100mlに白金-活性炭触媒3gを加え、100mL/minで酸素を吹き込みながら600rpmで攪拌する。反応pHは、10N水酸化ナトリウム溶液を滴下することによって、pH9.0に維持する。そして、反応開始から5時間後、遠心分離とメンブレンフィルターろ過により触媒を取り除いて、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得ることができる。得られたマルトビオン酸ナトリウム溶液をカチオン交換樹脂又は電気透析により脱塩することで、マルトビオン酸を得ることができる。
【0032】
マルトビオン酸に塩類を添加することで、マルトビオン酸塩を調製可能である。例えば、マルトビオン酸カルシウムを製造するには、上記の方法で得られたマルトビオン酸溶液に炭酸カルシウム等のカルシウム源を2:1のモル比となるように添加し、溶解させることで、マルトビオン酸カルシウムを調製することができる。この際に使用されるカルシウム源は、可食性のカルシウムであれば特に限定されず、例えば、卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等の天然素材、或いは、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の化学合成品等が挙げられる。なお、塩類は、食品組成物中で許容される限り特に限定されないが、鉄よりもイオン化傾向の強い元素の塩が好ましく、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0033】
ラクトンを調製する方法は、特に限定されないが、脱水操作により調製することができ、例えばマルトビオン酸を脱水操作することで、マルトビオノラクトンを調製することができる。また、マルトビオノラクトン等のラクトンは、水に溶かすと速やかにマルトビオン酸等の糖カルボン酸となる。
【0034】
オリゴ糖酸化能を有する微生物を用いた方法としては、例えば、アシネトバクター属、ブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属等を用いた微生物変換・発酵法により糖カルボン酸を製造することができる。
【0035】
酵素反応による製造方法としては、例えば、Acremonium chrysogenum等の、オリゴ糖酸化能を有する微生物から酸化酵素を抽出し作用させる方法により製造することができる。
【0036】
(他の成分)
また、本発明の卵加工品は、上記以外の従来公知のいずれの成分を加えてもよく、加えなくてもよい。このような成分としては、例えば、香料、増粘剤、甘味料(砂糖、異性化糖、ぶどう糖、果糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、はちみつ、水飴、粉飴、マルトデキストリン、ソルビトール、マルチトール、還元水飴、マルトース、トレハロース、黒糖等)、酸味料(クエン酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸)、ミネラル類(カルシウム、マグネシウム、鉄、カリウム、亜鉛、銅等)、乳化剤、機能性成分、保存料、安定剤、酸化防止剤、ビタミン類、果汁または野菜汁等が挙げられる。これらの成分の添加量は、得ようとする効果に応じて適宜調整できる。
【0037】
本発明の卵加工品飲食品組成物の製法は、特に限定されないが、各飲食品組成物の製造工程の実状に適した添加方法を採用することができ、例えば、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分を、卵加工品の原料に対して初めから混合してもよく、卵の加熱前であれば製造工程中に添加してもよい。また、卵加工品飲食品組成物に対して、各種成分を混合する際、各種成分を加熱混合後に添加してもよいし、容器詰めした後加熱殺菌し、常温で長期保存可能なようにしてもよい。例えば、容器としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のレトルトパウチ容器、プラスチックボトル、スチールやアルミ等の金属缶、紙パック等が挙げられる。
【0038】
<飲食品組成物の品質改善剤>
本発明の飲食品組成物の品質改善剤は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分からなる、飲食品組成物における品質改善剤である。
【0039】
本発明の飲食品組成物の品質改善剤によれば、糖カルボン酸を用いることにより、卵加工品飲食品組成物の色調改良(例えば加熱時の硫化黒変の抑制)、飲食品組成物(卵加工品に限られない)中の脂質酸化の抑制、卵加工品飲食品組成物の食感改善、卵臭マスキングの1種以上の品質改善が可能であり、2種以上の品質改善により総合的な品質改善も可能とする。
【0040】
なお、上記飲食品組成物の品質改善剤の糖カルボン酸は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものであれば、特に限定されず、上述の卵加工品飲食品組成物における糖カルボン酸と同様のものを例示できるが、澱粉分解物又は転移反応物の重合度は、例えば、2~100等であってもよい。より具体的には、糖カルボン酸は、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、ラクトビオン酸、パノース酸化物等が挙げられる。これらは、単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。また、糖カルボン酸は、遊離の酸であってもよく、その塩類及びラクトンであってもよい。
【0041】
<飲食品組成物の品質を改善する方法>
本発明の飲食品組成物の品質を改善する方法は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸、その塩類及びそのラクトンからなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分を用いることによって、飲食品組成物の品質を改善する方法である。
【0042】
本発明の飲食品組成物の品質改善方法によれば、糖カルボン酸を用いることにより、卵加工品飲食品組成物の色調改良(例えば加熱時の硫化黒変の抑制)、脂質酸化の抑制、食感改善、卵臭マスキングの1種以上の品質改善が可能であり、2種以上の品質改善等により総合的な品質改善も可能とする。
【0043】
なお、上記飲食品組成物の品質改善方法の糖カルボン酸は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物或いはラクトースの還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものであれば、特に限定されず、上述の卵加工品における糖カルボン酸と同様のものを例示できるが、澱粉分解物又は転移反応物の重合度は、例えば、2~100等であってもよい。より具体的には、糖カルボン酸は、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、ラクトビオン酸、パノース酸化物等が挙げられる。これらは、単独で使用してよく、2種以上を併用してもよい。また、糖カルボン酸は、遊離の酸であってもよく、その塩類及びラクトンであってもよい。
【実施例
【0044】
実施例15~20は参考例と読み替えるものとする。
(糖カルボン酸試験物質)
以下の評価試験では、マルトオリゴ糖酸化物(Brix70%)、マルトオリゴ糖酸化カルシウム、マルトオリゴ糖酸化ナトリウム、マルトオリゴ糖酸化カリウム、DE19のデキストリン(サンエイ糖化製、商品名NSD700)酸化物、ラクトビオン酸を用いた。なお、マルトオリゴ糖酸化物中(HPLC法;固形分換算)には、マルトビオン酸 70.0wt%に加えて、グルコン酸 1.0wt%、マルトトリオン酸15.0wt%及びマルトテトラオン酸(重合度4)以上のマルトオリゴ糖酸14.0wt%を含む。マルトオリゴ糖酸化カルシウム、ナトリウム、カリウムは、前述のマルトオリゴ糖酸化物に対し、カルシウム4.1wt%、ナトリウム4.7wt%、カリウム7.6wt%をそれぞれ含む。
【0045】
<変色抑制試験1>
マルトオリゴ糖酸化物(サンエイ糖化製)、デキストリン酸化物(サンエイ糖化製)、ラクトビオン酸(和光純薬工業製)を用い、下記の表1に示すサンプル(比較例1、2および実施例1~6)を調製した。調製した試料30gを袋に入れ、沸騰水中で20分間加熱した後、室温で2時間放冷したものについて目視及び色彩計(小型色彩計・白色度計 NW-12 日本電色)による色の評価を行った。色彩計による評価では、各サンプルのL、a、b値を測定し、無添加区(比較例1)の測定値を差し引いたものをそれぞれΔL、Δa、Δbとした。ここで、Lは明度をaおよびbは色度を示す。それぞれLが大きいほど明るい、aが大きいほど赤が強く小さいほど緑が強い、bが大きいほど黄が強く小さいほど青が強い事を表しており、各値が大きいほど卵の色調が鮮やかであると考えられるため、ΔL、Δa、Δbの値が大きいほど、無添加区(比較例1)に対する色調改良効果が高いことを示す。また、式1よりΔEab値を算出し、5.0より小さい場合を効果なし(×)、5.~10.0を良好(○)、10.0より大きい場合を非常に良好(◎)として評価を行った。なお、比較例1は目視にて評価を行った。その結果を表1に示す。以下の表において、色差測定値は4回の試験の平均値を示す。
式1: ΔEab=((ΔL+(Δa+(Δb21/2
【0046】
【表1】
【0047】
マルトオリゴ糖酸化物およびデキストリン酸化物、ラクトビオン酸を添加することにより、ΔL、Δa、Δbともに無添加区(比較例1)よりも高い値を示したことから、明度が高く、黄、赤が強い、より鮮やかな色調への改良が認められた。また、目視による評価でも同様の評価であったことから、糖カルボン酸を添加することにより卵加熱時の硫化黒変を抑制できることが確認された。
【0048】
<変色抑制試験2 ミネラル塩>
マルトオリゴ糖酸化カルシウム(サンエイ糖化製)、マルトオリゴ糖酸化ナトリウム(サンエイ糖化製)、グルコン酸カルシウム(扶桑化学工業製)、グルコン酸ナトリウム(扶桑化学工業製)、乳酸カルシウム(扶桑化学工業製)を用い、下記の表2に示すサンプル(比較例1、3~5および実施例7~12)を調製した。調製した試料30gを袋に入れ、沸騰水中で20分間加熱した後、室温で2時間放冷したものについて目視及び色彩計(小型色彩計・白色度計 NW-12 日本電色)による色の評価を行った。色彩計による評価では、各サンプルのL、a、b値を測定し、無添加区(比較例1)の測定値を差し引いたものをそれぞれΔL、Δa、Δbとした。ここで、Lは明度をaおよびbは色度を表す。それぞれLが大きいほど明るい、aが大きいほど赤が強く小さいほど緑が強い、bが大きいほど黄が強く小さいほど青が強い事を表しており、各値が大きいほど卵の色調が鮮やかであると考えられることから、ΔL、Δa、Δbの値が大きいほど、無添加区(比較例1)に対する色調改良効果が高いことを示す。また、式1よりΔEab値を算出し、5.0より小さい場合を効果なし(×)、5.0~10.0を良好(○)、10.0より大きい場合を非常に良好(◎)として評価を行った。なお、比較例1は目視にて評価を行った。その結果を表2に示す。以下の表において、「Ca」はカルシウムを、「Na」はナトリウムを、「K」はカリウムを指し、色差測定値は4回の試験の平均値を示す。
【0049】
【表2】
【0050】
マルトオリゴ糖酸化カルシウム、マルトオリゴ糖酸化ナトリウム、マルトオリゴ糖酸カリウムを添加することで、より鮮やかな色調への改良が認められた。グルコン酸、乳酸の塩類においては、ΔL、Δa、Δbの値がマイナスとなっているものもあり、十分な色調改良効果は認められず、糖カルボン酸の塩類はその他の有機酸塩と比較しても高い効果を発揮することが確認された。また、目視による評価でも同様の評価であったことから、糖カルボン酸をミネラル塩として用いた場合においても、卵加熱時の硫化黒変を抑制できることが確認された。
【0051】
<脂質酸化抑制 マヨネーズドレッシングサンプルの調製>
マルトオリゴ糖酸化物(サンエイ糖化製)、マルトオリゴ糖酸化カルシウム(サンエイ糖化製)、クエン酸(和光純薬工業)、乳酸カルシウム(扶桑化学工業製)を用い、下表3に示すマヨネーズドレッシング(比較例6~8および実施例13、14)を調製した。なお、比較例7のクエン酸添加量は、実施例13と酸味の強さを等しくし、また、比較例8の乳酸カルシウム添加量は、実施例14とカルシウムとしての添加量を等しくした。調製方法は以下に従った。表3中の※1を10分間撹拌し、達温90℃で3分維持した後に5℃まで冷却。※2の材料を混合したものを撹拌しながら添加して3分撹拌。※3、※4、※5を添加後1分間撹拌して均一なペースト状とした。ここで調製したマヨネーズドレッシングを以降の過酸化物価測定に用いた。なお、以下の表において、「Ca」はカルシウム、「Na」はナトリウムを指す。
【0052】
【表3】
【0053】
<脂質酸化抑制 試験例1>
前記の通り調製した比較例5および実施例13、実施例14のマヨネーズドレシングを30℃で0、26、40、172日保管したものについて、過酸化物価測定を行った。過酸化物価とは食品劣化の指標であり、値が高くなるほど脂質が酸化して食品の劣化が進んでいることを表す。試験方法は以下に従った。マヨネーズドレッシング30gを精秤し、ジエチルエーテル50mlを加えて良く振り混ぜた後、1時間静置後にエーテル層を分取して、ロータリーエバポレーター(RE1-D IWAKI)によって減圧濃縮したものを測定用のサンプルとした。測定用サンプル1gを精秤し、クロロホルム:酢酸(2:3(v/v))溶液35mlを加えて振り混ぜ、飽和ヨウ化カリウム溶液1mlを加えて1分間撹拌。5分間放置後に蒸留水75mlを加えて振り混ぜ、澱粉溶液を呈色指示薬として1ml加えて、0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液で紫色が消失するまで滴定を行った。サンプルを加えないブランクおよび各サンプルの滴定値から次式2を用いて過酸化物価(POV)を算出し、その結果を表4に示す。
式2: POV[mg/kg]={(サンプル滴下量[ml])-(ブランク滴下量[ml])×f×10}/(サンプル採取量[g])
fは0.01Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクターを示す。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示す通り、マルトオリゴ糖酸化物またはマルトオリゴ糖酸化カルシウムを用いることにより、脂質の酸化が抑制され、過酸化物価の上昇が抑えられることが確認された。
【0056】
<脂質酸化抑制 試験例2>
上記の通り調製した比較例5、76および実施例13のマヨネーズドレシングを20℃で0、40日保管したものについて、試験例1同様に過酸化物価測定を行った。その結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
表5に示す通り、マルトオリゴ糖酸化物を用いたマヨネーズドレッシングは有機酸であるクエン酸と比較した場合においても過酸化物価上昇抑制効果が高いことが確認された。
【0059】
<脂質酸化抑制 試験例3>
上記の通り調製した比較例5、7および実施例14のマヨネーズドレシングを30℃で0、40日保管したものについて、試験例1、2同様に過酸化物価測定を行った。その結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6に示す通り、マルトオリゴ糖酸化Caを用いたマヨネーズドレッシングは、有機酸のCa塩である乳酸Caと比較した場合においても過酸化物価上昇抑制効果が高いことが確認された。
【0062】
<茶わん蒸し>
マルトオリゴ糖酸化カルシウム(サンエイ糖化製)を用い、下記の表7に示す処方にて、全ての材料を混合し、50mlビーカーに30gずつ分注したものを、スチームコンベクションオーブン(TSCO-4EBN3 tanico)スチームモードにて85℃20分間処理を行うことで、茶わん蒸しサンプル(比較例9および実施例15、16)を調製し、官能評価及びレオメーター(RE2-3305 YAMADEN)による硬さの評価を行った。レオメーター測定においては、φ40mm、H15mmのカップに充填したサンプルについて、φ20mmの円柱プランジャーを用い、10mm/sでクリアランス5mmまで圧縮した際の最大荷重を硬さとして評価した。なお、下の表において、「Ca」はカルシウムを指す。
【0063】
【表7】
【0064】
茶わん蒸し溶液にマルトオリゴ糖酸化カルシウムを添加することで、より好ましい食感を有し、卵臭が低減された茶わん蒸しを作成できることが確認された。
【0065】
<プリン>
マルトオリゴ糖酸化カルシウム(サンエイ糖化製)を用い、下記の表8に示す処方にて、全ての材料を混合し、50mlビーカーに30gずつ分注したものを、スチームコンベクションオーブン(TSCO-4EBN3 tanico)スチームモードにて85℃20分間処理を行うことで、プリンサンプル(比較例10および実施例17、18)を調製し、茶わん蒸し同様に官能評価及びレオメーター(RE2-3305 YAMADEN)による硬さの評価を行った。レオメーター測定においては、φ40mm、H15mmのカップに充填したサンプルについて、φ20mmの円柱プランジャーを用い、10mm/sでクリアランス5mmまで圧縮した際の最大荷重を硬さとして評価した。なお、下の表において、「Ca」はカルシウムを指す。
【0066】
【表8】
【0067】
マルトオリゴ糖酸化カルシウムを添加することにより、より好ましい食感を有し、卵臭が軽減され、ミルク感の向上したプリンを作成することができることが確認された。
【0068】
<スポンジケーキ>
マルトオリゴ糖酸化カルシウム(サンエイ糖化製)を用い、下記の表9に示す処方にて、※1を混合し比重約0.25g/mlまで泡立てた後、※2をふるい入れて混ぜ合わせ、※3を加えてさらに混ぜ合わせて生地を作成し、φ120mmの型に150g流し入れて、スチームコンベクションオーブン(TSCO-4EBN3 tanico)ホットエアーモードにて170℃25分間焼成を行うことで、スポンジケーキ(比較例11および実施例19、20)を調製し、官能評価及びレオメーター(RE2-3305 YAMADEN)による硬さの評価を行った。レオメーター測定においては、縦30mm横30mm高さ20mmにカットしたサンプルについて、楔型プランジャーを用い、1mm/sで圧縮した際の破断荷重を比較した。なお、下の表において、「Ca」はカルシウムを指す。
【0069】
【表9】
【0070】
マルトオリゴ糖酸化カルシウムを添加することで、より好ましい食感を有するスポンジケーキを作成することができることが確認された。