(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】融着方法および構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 65/34 20060101AFI20221108BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20221108BHJP
B29C 70/28 20060101ALI20221108BHJP
B29C 70/88 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B29C65/34
B29C70/10
B29C70/28
B29C70/88
(21)【出願番号】P 2021081629
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】乙部 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】津村 陽一郎
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特許第6358818(JP,B2)
【文献】特表2005-536583(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1557628(CN,A)
【文献】特開平6-157996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とを融着させる融着方法であって、
前記第1複合材の第1接合面と接触するように第1保護シートを配置し、前記第2複合材の第2接合面と接触するように第2保護シートを配置し、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように通電シートを配置するシート配置工程と、
前記通電シートの一対の端部に接触するように一対の電極部を配置する電極配置工程と、
一対の前記電極部に電圧を印加して、前記第1複合材と前記第2複合材とを融着させる融着工程と、を備え、
前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、
前記通電シートは、一対の前記電極部を結ぶ第1所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含み、
前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含む融着方法。
【請求項2】
前記第1接合面と前記第2接合面とを近づける方向に前記第1複合材および前記第2複合材を加圧する加圧工程を備え、
前記融着工程は、前記加圧工程により前記第1複合材および前記第2複合材が加圧された状態で、一対の前記電極部に電圧を印加して、前記第1複合材と前記第2複合材とを融着させる請求項1に記載の融着方法。
【請求項3】
前記第2所定方向が前記第1所定方向となす第1角度は、87度以上かつ93度以下である請求項1または請求項2に記載の融着方法。
【請求項4】
前記第1複合材および前記第2複合材は、前記第2所定方向に沿って延びる部材であり、
前記第1接合面に配置された前記炭素繊維基材の第1配向方向が前記第1所定方向となす第2角度、および前記第2接合面に配置された前記炭素繊維基材の第2配向方向が前記第1所定方向となす第3角度は、0より大きくかつ前記第1角度より小さい請求項3に記載の融着方法。
【請求項5】
前記第1複合材および前記第2複合材は、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む複数のシート材料を積層して形成されており、
前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む単一のシート材料により形成されている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の融着方法。
【請求項6】
それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とが融着された構造体であって、
前記第1複合材と、
前記第2複合材と、
前記第1複合材の第1接合面と接触するように配置された第1保護シートと、
前記第2複合材の第2接合面と接触するように配置された第2保護シートと、
前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように配置された通電シートと、を備え、
前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、
前記通電シートは、一対の端部を結ぶ第1所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含み、
前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含む構造体。
【請求項7】
前記第1複合材および前記第2複合材は、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む複数のシート材料を積層して形成されており、
前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む単一のシート材料により形成されている請求項6に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とを融着させる融着方法および構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性プラスチック(Fiber Reinforced Thermo Plastic)で構成された一対の複合材を融着させる方法として、一対の複合材の間に炭素繊維シートを配置して電流を流し、一対の複合材の炭素繊維シートとの接触部分を溶融させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、一対の複合材の間に、絶縁層を設けた抵抗発熱体を配置し、抵抗発熱体に通電をすることにより一対の複合材の絶縁層との接触部分を溶融させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6358818号公報
【文献】特許第5560121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、抵抗発熱体として用いられる炭素繊維シートの繊維方向を通電方向に対して平行にすることで接合強度が向上することが示されている。しかしながら、複合材の表面に配置される炭素繊維基材の繊維方向と通電方向との関係が適切でない場合、一対の複合材の接合状態が面内方向で均一とならない。
【0005】
これは、炭素繊維シートを介して接合される一対の複合材に炭素繊維基材が含まれているため、炭素繊維シートを流れる電流の一部が複合材に含まれる炭素繊維基材に流れ、炭素繊維シートの発熱量が面内方向で均一とならないからである。例えば、複合材の表面に配置される炭素繊維基材の繊維方向が通電方向に対して45度をなす場合、複合材の表面に配置される炭素繊維基材を流れやすくなり、局所的に過剰に発熱してしまう可能性が高い。
【0006】
一方、特許文献2では、一対の複合材の間に絶縁層を設けた抵抗発熱体が配置されるため、複合材の表面に配置される炭素繊維基材に電流が流れることはない。しかしながら、特許文献2では、抵抗発熱体として例示されるアルミニウム等の金属材料が接合部分に異物として残存してしまう。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とを融着させる際に、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域の全領域で第1複合材と第2複合材とを適切に融着させることを可能にした融着方法および構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る融着方法は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とを融着させる融着方法であって、前記第1複合材の第1接合面と接触するように第1保護シートを配置し、前記第2複合材の第2接合面と接触するように第2保護シートを配置し、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように通電シートを配置するシート配置工程と、前記通電シートの一対の端部に接触するように一対の電極部を配置する電極配置工程と、一対の前記電極部に電圧を印加して、前記第1複合材と前記第2複合材とを融着させる融着工程と、を備え、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、前記通電シートは、一対の前記電極部を結ぶ第1所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含み、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含む。
【0009】
本開示の一態様に係る構造体は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とが融着された構造体であって、前記第1複合材と、前記第2複合材と、前記第1複合材の第1接合面と接触するように配置された第1保護シートと、前記第2複合材の第2接合面と接触するように配置された第2保護シートと、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように配置された通電シートと、を備え、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、前記通電シートは、一対の端部を結ぶ第1所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含み、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とを融着させる際に、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域の全領域で第1複合材と第2複合材とを適切に融着させることを可能にした融着方法および構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る融着装置および構造体を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す融着装置および構造体のA-A矢視断面図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係る融着方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図2に示す通電シートおよび第1保護シートを上方からみた平面図である。
【
図7】比較例の通電シートおよび第1保護シートを上方からみた平面図である。
【
図8】本実施形態の構造体と比較例の構造体を融着させた際の複数の測定点における温度を示す図である。
【
図9】本開示の第2実施形態に係る融着装置および構造体を示す斜視図である。
【
図12】第2複合材に第1保護シート,第2保護シート,通電シートを接合した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示にかかる実施形態について説明する。以下で説明する各実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではない。以下で説明する各実施形態は、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、本開示の一実施形態に係る融着装置100、融着装置100を用いた融着方法、および融着装置100により製造される構造体200について、図面を参照して説明する。
図1は、本開示の第1実施形態に係る融着装置100および構造体200を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す融着装置100および構造体200のA-A矢視断面図である。
【0014】
本実施形態の融着装置100は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含むとともに導電性を有する第1複合材210と第2複合材220とが融着された構造体200を製造する装置である。
図1および
図2に示すように、本実施形態の融着装置100は、第1電極部11と、第2電極部12と、電源20と、加圧部30と、を備える。電源20は、電力供給ラインL1を介して第1電極部11に接続され、電力供給ラインL2を介して第2電極部12に接続されている。
【0015】
本実施形態の構造体200は、第1複合材210と、第2複合材220とを融着により接合したものである。
図1および
図2に示すように、構造体200は、第1複合材210と、第2複合材220と、第1保護シート230と、第2保護シート240と、通電シート250と、を備える。
【0016】
第1複合材210および第2複合材220は、軸線Xおよび軸線Yに沿って延びる板状かつ平坦状に形成される部材である。
図1に示す第1複合材210および第2複合材220は、軸線Yに沿った長さが軸線Xに沿った長さよりも長い長尺状に形成される部材である。
【0017】
図1に示す第1複合材210および第2複合材220は、平坦状に形成されるものとしたが、他の形状であってもよい。例えば、第1複合材210および第2複合材220は、軸線Yに直交するとともに鉛直方向に延びる軸線Zに沿って下方に向けて突出する円弧状の断面を有する形状としてもよい。また、第1複合材210および第2複合材220は、その他の任意の形状としてもよい。
【0018】
第1複合材210は、シート状の三層の複合材料210a,210b,210cを積層して板状に成形された積層体である。本実施形態では、三層の複合材料210a,210b,210cを積層した第1複合材210を用いることとしたが、2以上の任意の数の層を積層した第1複合材210としてもよい。
【0019】
第1複合材210に含まれる複合材料210a,210b,210cは、導電性を有する炭素繊維基材とマトリックス樹脂(樹脂材料)とを含む。複合材料210a,210b,210cに含まれるマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂材料であり、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)等である。
【0020】
第2複合材220は、シート状の三層の複合材料220a,220b,220cを積層して板状に成形された積層体である。本実施形態では、三層の複合材料220a,220b,220cを積層した第2複合材220を用いることとしたが、2以上の任意の数の層を積層した第2複合材220としてもよい。
【0021】
第2複合材220に含まれる複合材料220a,220b,220cは、導電性を有する炭素繊維基材とマトリックス樹脂(樹脂材料)とを含む。複合材料220a,220bに含まれるマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂材料である。熱可塑性樹脂材料の例は、第1複合材210と同様である。
【0022】
第1保護シート230、第2保護シート240、および通電シート250は、それぞれ単一方向に配向された炭素繊維基材とマトリックス樹脂(樹脂材料)とを含む単一のシート材料により形成されている。第1保護シート230、第2保護シート240、および通電シート250に含まれるマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂材料である。熱可塑性樹脂材料の例は、第1複合材210と同様である。
【0023】
図3に示すように、第1保護シート230は、第1複合材210の第1接合面211と接触するように、第1接合面211と通電シート250との間に配置される。第2保護シート240は、第2複合材220の第2接合面221と接触するように、第2接合面221と通電シート250との間に配置される。通電シート250は、第1保護シート230および第2保護シート240に接触するように配置される。
【0024】
次に、第1接合面211、第2接合面221、第1保護シート230、第2保護シート240、通電シート250に含まれる炭素繊維基材の配向方向について図面を参照して説明する。
図3は、
図1に示す構造体200の分解斜視図である。
図4は、炭素繊維基材の配向方向を示す図である。
【0025】
図3に示すように、通電シート250は、軸線Xに沿った端部251と端部252とを結ぶ第1所定方向PD1にのみ配向された炭素繊維基材を含む。第1保護シート230および第2保護シート240は、それぞれ第2所定方向PD2に配向された炭素繊維基材を含む。第1複合材210の第1接合面211は、第1配向方向OD1に配向された炭素繊維基材を含む。第2複合材220の第2接合面221は、第2配向方向OD2に配向された炭素繊維基材を含む。
【0026】
図4に示すように、XY平面において、第1所定方向PD1と第2所定方向PD2とがなす角(第1角度)はθ1であり、87度以上かつ93度以下に設定される。θ1は、90度に設定するのが特に好ましい。このように、第2所定方向PD2は、第1所定方向PD1に対して略直交する方向となっている。
【0027】
図4に示すように、XY平面において、第1接合面211に配置された炭素繊維基材の第1配向方向OD1が第1所定方向PD1となす角(第2角度)はθ2であり、0度より大きくかつθ1より小さい角度に設定される。
【0028】
図4に示すように、XY平面において、第2接合面221に配置された炭素繊維基材の第2配向方向OD2が第1所定方向PD1となす角(第3角度)はθ3であり、0度より大きくかつθ1より小さい角度に設定される。
【0029】
図4では、第1配向方向OD1は、第1所定方向PD1に対して反時計回り方向にθ2だけ回転した方向としたが、第1所定方向PD1に対して時計回り方向にθ2だけ回転した方向としてもよい。同様に、第2配向方向OD2は、第1所定方向PD1に対して反時計回り方向にθ3だけ回転した方向としたが、第1所定方向PD1に対して時計回り方向にθ3だけ回転した方向としてもよい。
【0030】
第1電極部11および第2電極部12からなる一対の電極部は、第1複合材210および第2複合材220が加圧部30により加圧された状態で、第1複合材210と第2複合材220との間に配置される通電シート250に電力を印加する装置である。第1電極部11および第2電極部12は、導電性を有する材料(例えば、金属材料)により形成されている。
【0031】
第1電極部11および第2電極部12は、軸線Yに沿って延びるように棒状に形成されている。第1電極部11は、通電シートの端部251に接触するように軸線Yに沿って配置される。第2電極部12は、通電シートの端部252に接触するように軸線Yに沿って配置される。
【0032】
第1電極部11は電力供給ラインL1を介して電源20に接続され、第2電極部12は電力供給ラインL2を介して電源20に接続される。第1電極部11と第2電極部12との間に電源20により電圧を印加すると、通電シート250の端部251と端部252との間に電流が流れる。
【0033】
加圧部30は、第1複合材210の第1接合面211と第2複合材220の第2接合面221とを近づける方向に第1複合材210および第2複合材220を加圧する機構である。
図2に示すように、加圧部30は、加圧板31と設置面Sに設置された加圧板32との間に構造体200を挟み、加圧板31に加圧板32へ近づける付勢力を与えることにより、構造体200を加圧する。
【0034】
次に、第1複合材210と第2複合材220とを融着させる融着方法について、図面を参照して説明する。本実施形態の融着方法は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材210と第2複合材220とを融着させる方法である。
図5は、本実施形態に係る融着方法を示すフローチャートである。
【0035】
図5に示すように、ステップS101(シート配置工程)において、第1複合材210の第1接合面211と接触するように第1保護シート230を配置し、第2複合材220の第2接合面221と接触するように第2保護シート240を配置し、第1保護シート230および第2保護シート240に接触するように通電シート250を配置する。
【0036】
ステップS102(電極配置工程)において、通電シート250の端部251に接触するように第1電極部11を配置し、通電シート250の端部252に接触するように第2電極部12を配置する。
【0037】
ステップS103(加圧工程)において、加圧部30により、第1複合材210の第1接合面211と第2複合材220の第2接合面221とを近づける方向に第1複合材210および第2複合材220を加圧する。加圧部30は、加圧板32の上面に対して、加圧板31に向けて下方に押し付ける付勢力を付与し、第1複合材210および第2複合材220を加圧する。
【0038】
ステップS104(融着工程)において、第1複合材210および第2複合材220が加圧工程により加圧された状態で、第1電極部11と、第2電極部12との間に電圧を印加する。第1電極部11と第2電極部12との間に電圧を印加すると、通電シート250に電流が流れ、通電シート250が発熱する。通電シート250に含まれるマトリックス樹脂が融点以上となり、かつ第1保護シート230および第2保護シート240に含まれるマトリックス樹脂が融点以上となると、通電シート250と第1保護シート230と第2保護シート240とが接合する。
【0039】
また、第1保護シート230を介して第1複合材210の第1接合面211が加熱されて第1接合面211に含まれるマトリックス樹脂が融点以上となると、第1保護シート230と第1接合面211とが接合する。また、第2保護シート240を介して第2複合材220の第2接合面221が加熱されて第2接合面221に含まれるマトリックス樹脂が融点以上となると、第2保護シート240と第2接合面221とが接合する。
【0040】
以上により、通電シート250が第1保護シート230および第2保護シート240と接合し、第1保護シート230が第1複合材210と接合し、第2保護シート240が第2複合材220と接合する。そして、第1複合材210の第1接合面211と第2複合材220の第2接合面221とが、第1保護シート230と第2保護シート240と通電シート250を介して一体に接合された状態となる。融着工程は、このようにして、第1複合材210と第2複合材220とを融着させる。
【0041】
ステップS105(冷却工程)において、加圧部30により第1複合材210および第2複合材220の加圧を行った状態で、第1電極部11および第2電極部12を介して、通電シート250に電流が流れない状態とする。例えば、電源20による電力供給を停止する。また、例えば、第1電極部11および第2電極部12を通電シート250から取り外す。そして、第1複合材210、第2複合材220、第1保護シート230、第2保護シート240、および通電シート250に含まれるマトリックス樹脂が融点よりも十分に低い温度が低下するまで待機する。
【0042】
構造体200に含まれるマトリックス樹脂が融点よりも十分に低い温度に冷却された場合、加圧部30による加圧を停止させる。その後、構造体200の上方に配置される加圧板32を取り外し、その下方に配置される構造体200を取り出す。以上により、本実施形態の融着方法による処理が終了する。
【0043】
なお、以上の融着方法においては、ステップS103(加圧工程)で加圧部30により第1複合材210および第2複合材220の加圧を開始し、加圧した状態でステップS104(融着工程)を実行するものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、ステップS105(冷却工程)において、通電シート250に電流が流れない状態とするタイミングに合わせて、加圧部30による第1複合材210および第2複合材220の加圧を開始するようにしてもよい。
【0044】
ここで、
図6-
図8を参照して、本実施形態の融着方法と、比較例の融着方法との差異について説明する。
図6は、
図2に示す通電シート250および第1保護シート230を上方からみた平面図である。
図7は、比較例の通電シート250および第1保護シート230Aを上方からみた平面図である。
図8は、本実施形態の構造体200と比較例の構造体200Aを融着させた際の複数の測定点における温度を示す図である。
【0045】
図6に示すように、本実施形態の融着方法で用いる構造体200は、通電シート250と第1複合材210の第1接合面211との間に配置される第1保護シート230の炭素繊維基材は、第2所定方向PD2に配向されている。第2所定方向PD2は、第1所定方向PD1に対して略直交する方向となっている。一方、比較例の融着方法で用いる構造体200は、通電シート250は本実施形態と同じであるが、第1保護シート230Aの炭素繊維基材は、所定方向PD2aに配向されている。第1所定方向PD1と所定方向PD2aとがなす角度θ1aは略45度である。
【0046】
そして、本実施形態の融着方法により
図2における測定点P1,P2,P3の全てにおけるマトリックス樹脂の温度が融点以上である310℃以上となるまで構造体200を加熱したところ、
図8に示す結果が得られた。
図8に示すように、比較例の融着方法(
図7に示す構造体200Aを用いた融着方法)では、測定点P2が311℃に到達した際に、測定点P1が344℃に到達しており、測定点P1,P2,P3の最大温度差が33℃となっている。
【0047】
一方、
図8に示すように、本実施形態の融着方法(
図6に示す構造体200を用いた融着方法)では、測定点P1が310℃に到達した際に、測定点P3が317℃に到達しているが、測定点P1,P2,P3の最大温度差は7℃となっている。以上のように、測定点P1,P2,P3の全てにおけるマトリックス樹脂の温度が融点以上となるように加熱する際に、比較例の融着方法よりも本実施形態の融着方法の方が測定点P1,P2,P3の最大温度差を小さくすることができる。
【0048】
図6および
図7に示すように、測定点P1,P2,P3の幅方向(XY平面において第1所定方向PD1に直交する方向)の位置は同一である。比較例の融着方法による測定点P1,P2,P3の最大温度差が、本実施形態の融着方法による測定点P1,P2,P3の最大温度差よりも大きいのは、比較例の第1保護シート230Aに含まれる炭素繊維基材により所定方向PD2aに沿って流れる電流の経路(パス)が形成され、測定点P1,P2,P3に流れる電流の大きさに差ができるためであると考えられる。
【0049】
以上説明した本実施形態の融着方法が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の融着方法によれば、シート配置工程(S101)により、第1複合材210の第1接合面211と接触するように第1保護シート230が配置され、第2複合材220の第2接合面221と接触するように第2保護シート240が配置され、第1保護シート230および第2保護シート240に接触するように通電シート250が配置される。融着工程(S104)において、第1複合材210および第2複合材220が加圧された状態で、通電シート250の一対の端部251,252に接触した一対の電極部11,12に電圧を印加することにより、通電シート250に含まれる炭素繊維基材に電流が流れる。
【0050】
通電シート250と第1複合材210との間に第1保護シート230が配置され、かつ通電シート250と第2複合材220との間に第2保護シート240が配置されるため、通電シート250を流れる電流が第1接合面211および第2接合面221に配置される炭素繊維基材に流れ、それにより第1接合面211および第2接合面221が局所的に過剰に発熱することを防止することができる。
【0051】
また、通電シート250に含まれる炭素繊維基材は一対の電極部11,12を結ぶ第1所定方向PD1に配向されており、第1保護シート230および第2保護シート240に含まれる炭素繊維基材は第1所定方向PD1に略直交する第2所定方向PD2に配向されている。そのため、第1保護シート230および第2保護シート240に含まれる炭素繊維基材を第2所定方向PD2とは異なる他の方向に配向する場合に比べ、第1複合材210と第2複合材220とが接触する接合領域における温度分布の偏りを抑制し、第1複合材210と第2複合材220とが接触する接合領域の全領域で第1複合材210と第2複合材220とを適切に融着させることができる。
【0052】
第1保護シート230および第2保護シート240に含まれる炭素繊維基材を第2所定方向PD2に配向することにより接合領域における温度分布の偏りが抑制されるのは、通電シート250における電流の通電方向に対して略直交する方向に炭素繊維基材が配向されるため、第1保護シート230および第2保護シート240に含まれる炭素繊維基材に流れる電流が通電方向に殆ど移動せず、局所的に電流が流れ易い領域が発生しないからである。
【0053】
また、第1保護シート230および第2保護シート240に含まれる炭素繊維基材を第2所定方向PD2に配向することにより通電シート250における電流の通電方向の複数の位置において、通電シートに含まれる第1所定方向PD1に配向された炭素繊維基材が導通した状態となる。これにより、通電シート250における電流の通電方向の複数の位置において、通電シート250に含まれる炭素繊維基材の第2所定方向PD2の各位置における電圧差が抑制され、電圧差により発生する温度分布の偏りを抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態の融着方法によれば、第2所定方向PD2が第1所定方向PD1となす角度θ1を87度以上かつ93度以下とすることで、第1複合材210と第2複合材220とが接触する接合領域における温度分布の偏りを抑制し、第1複合材210と第2複合材220とが接触する接合領域の全領域で第1複合材210と第2複合材220とを適切に融着させることができる。
【0055】
また、本実施形態の融着方法によれば、第2所定方向PD2に沿って延びる第1複合材210の第1接合面211に配置された炭素繊維基材の第1配向方向OD1が第1所定方向PD1となす角度θ2を0より大きく角度θ1より小さくすることにより、第1接合面211の強度を高めることができる。同様に、第2所定方向PD2に沿って延びる第2複合材220の第2接合面221に配置された炭素繊維基材の第2配向方向OD2が第1所定方向PD1となす角度θ3を0より大きく角度θ1より小さくすることにより、第2接合面221の強度を高めることができる。
【0056】
また、本実施形態の融着方法によれば、第1保護シート230、第2保護シート240、通電シート250をそれぞれ単一のシート材料により形成することにより、第1複合材210の第1接合面211と第2複合材220の第2接合面221とを接合するために用いる部材を最小限にとどめ、最終製品である構造体200の形状を所望のものとすることができる。
【0057】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る融着方法について説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。
【0058】
第1実施形態の融着方法は、第1複合材210と第2複合材220との間に、第1保護シート230,第2保護シート240,通電シート250を配置する際に、これらを第1複合材210および第2複合材220のいずれにも予め接合はしないものであった。
【0059】
それに対して、本実施形態は、第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを予め接合しておき、その後に第1複合材210Bを配置してから通電シート250Bに電流を流すものである。
【0060】
本実施形態の構造体200Bは、第1複合材210Bと、第2複合材220Bとを融着により接合したものである。
図9および
図10に示すように、構造体200Bは、第1複合材210Bと、第2複合材220Bと、第1保護シート230Bと、第2保護シート240Bと、通電シート250Bと、を備える。
【0061】
第1複合材210Bおよび第2複合材220Bは、軸線Xおよび軸線Yに沿って延びる板状かつ平坦状に形成される部材である。
図9に示すように、第1複合材210Bは、第2複合材220Bよりも、軸線Xに沿った長さおよび軸線Yに沿った長さがいずれも長い。第2複合材220Bは、第1複合材210Bよりも、軸線Xに沿った長さおよび軸線Yに沿った長さがいずれも短い。
【0062】
図9に示す第1複合材210Bおよび第2複合材220Bは、平坦状に形成されるものとしたが、他の形状であってもよい。例えば、第1複合材210Bおよび第2複合材220Bは、軸線Yに直交するとともに鉛直方向に延びる軸線Zに沿って下方に向けて突出する円弧状の断面を有する形状としてもよい。また、第1複合材210Bおよび第2複合材220Bは、その他の任意の形状としてもよい。
【0063】
次に、第1接合面211B、第2接合面221B、第1保護シート230B、第2保護シート240B、通電シート250Bに含まれる炭素繊維基材の配向方向について図面を参照して説明する。
図10は、
図9に示す構造体200Bの分解斜視図である。
図11は、炭素繊維基材の配向方向を示す図である。
図12は、第2複合材220Bに第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを接合した状態を示す斜視図である。
【0064】
図10に示すように、通電シート250Bは、軸線Xに沿った端部251Bと端部252Bとを結ぶ第1所定方向PD1にのみ配向された炭素繊維基材を含む。第1保護シート230Bおよび第2保護シート240Bは、それぞれ第2所定方向PD2に配向された炭素繊維基材を含む。第1複合材210Bの第1接合面211Bは、第1配向方向OD1に配向された炭素繊維基材を含む。第2複合材220Bの第2接合面221Bは、第2配向方向OD2に配向された炭素繊維基材を含む。
【0065】
図11に示すように、XY平面において、第1所定方向PD1と第2所定方向PD2とがなす角(第1角度)はθ1であり、87度以上かつ93度以下に設定される。θ1は、90度に設定するのが特に好ましい。このように、第2所定方向PD2は、第1所定方向PD1に対して略直交する方向となっている。
【0066】
図11に示すように、XY平面において、第1接合面211Bに配置された炭素繊維基材の第1配向方向OD1が第1所定方向PD1となす角(第2角度)はθ2であり、0度より大きくかつθ1より小さい角度に設定される。
【0067】
図11に示すように、XY平面において、第2接合面221Bに配置された炭素繊維基材の第2配向方向OD2が第1所定方向PD1となす角(第3角度)はθ3であり、0度より大きくかつθ1より小さい角度に設定される。
【0068】
図11では、第1配向方向OD1は、第1所定方向PD1に対して反時計回り方向にθ2だけ回転した方向としたが、第1所定方向PD1に対して時計回り方向にθ2だけ回転した方向としてもよい。同様に、第2配向方向OD2は、第1所定方向PD1に対して反時計回り方向にθ3だけ回転した方向としたが、第1所定方向PD1に対して時計回り方向にθ3だけ回転した方向としてもよい。
【0069】
本実施形態の融着方法は、第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを予め接合しておく点が第1実施形態の融着方法と異なる。本実施形態の融着方法では、
図5のステップS101(シート配置工程)において、第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを予め接合する。
【0070】
第2複合材220Bに対する第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bの接合は、第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bの一部または全面を加熱してこれらに含まれるマトリックス樹脂を融点以上に加熱することにより行われる。第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bが接合されると、
図12に示す状態となる。
【0071】
第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを加熱する方法としては、任意の方法を利用することができる。例えば、加熱された板状部材(図示略)をこれらに接触させる方法や、赤外線や超音波をこれらに照射して加熱する方法や、電磁誘導加熱によりこれらに含まれる炭素繊維基材に電流を流して加熱する方法である。
【0072】
図12に示す状態となった後に、第2複合材220Bに接合すべき第1複合材210Bを第1保護シート230Bの上に設置し、
図9に示す状態とする。第1複合材210Bを第1保護シート230Bの上に設置する動作は、作業者が行っても良いし、ロボットハンド(図示略)により第1複合材210Bを把持することにより行っても良い。
図9に示す状態となった後は、
図5に示す各工程を実行し、第1複合材210Bを第2複合材220Bに融着させる。
【0073】
本実施形態の融着方法によれば、第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bを予め接合しておくことにより、これらを予め接合しない場合に比べ、第1複合材210を第2複合材220に設置する作業が容易となる。すなわち、第2複合材220Bに対して第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bが予め接合されているため、第1複合材210を第2複合材220に設置する際に、第1保護シート230B,第2保護シート240B,通電シート250Bの第2複合材220Bに対する位置がずれることを防止することができる。
【0074】
以上説明した実施形態に記載の融着方法は、例えば以下のように把握される。
本開示に係る融着方法は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材(210)と第2複合材(220)とを融着させる融着方法であって、前記第1複合材(210)の第1接合面(211)と接触するように第1保護シート(230)を配置し、前記第2複合材(220)の第2接合面(221)と接触するように第2保護シート(240)を配置し、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように通電シート(250)を配置するシート配置工程(S101)と、前記通電シートの一対の端部(251,252)に接触するように一対の電極部(11,12)を配置する電極配置工程(S102)と、一対の前記電極部に電圧を印加して、前記第1複合材と前記第2複合材とを融着させる融着工程(S104)と、を備え、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、前記通電シートは、一対の前記電極部を結ぶ第1所定方向(PD1)に配向された前記炭素繊維基材を含み、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向(PD2)に配向された前記炭素繊維基材を含む。
【0075】
本開示に係る融着方法によれば、シート配置工程により、第1複合材の第1接合面と接触するように第1保護シートが配置され、第2複合材の第2接合面と接触するように第2保護シートが配置され、第1保護シートおよび第2保護シートに接触するように通電シートが配置される。融着工程において、通電シートの一対の端部に接触した一対の電極部に電圧を印加することにより、通電シートに含まれる炭素繊維基材に電流が流れる。
【0076】
通電シートと第1複合材との間に第1保護シートが配置され、かつ通電シートと第2複合材との間に第2保護シートが配置されるため、通電シートを流れる電流が第1接合面および第2接合面に配置される炭素繊維基材に流れ、それにより第1接合面および第2接合面が局所的に過剰に発熱することを防止することができる。
【0077】
また、通電シートに含まれる炭素繊維基材は一対の電極部を結ぶ第1所定方向に配向されており、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材は第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向されている。そのため、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向とは異なる他の方向に配向する場合に比べ、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域における温度分布の偏りを抑制し、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域の全領域で第1複合材と第2複合材とを適切に融着させることができる。
【0078】
第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向に配向することにより接合領域における温度分布の偏りが抑制されるのは、通電シートにおける電流の通電方向に対して略直交する方向に炭素繊維基材が配向されるため、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材に流れる電流が通電方向に殆ど移動せず、局所的に電流が流れ易い領域が発生しないからである。
【0079】
また、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向に配向することにより通電シートにおける電流の通電方向の複数の位置において、通電シートに含まれる第1所定方向に配向された炭素繊維基材が導通した状態となる。これにより、通電シートにおける電流の通電方向の複数の位置において、通電シートに含まれる炭素繊維基材の第2所定方向の各位置における電圧差が抑制され、電圧差により発生する温度分布の偏りを抑制することができる。
【0080】
本開示の融着方法において、前記第1接合面と前記第2接合面とを近づける方向に前記第1複合材および前記第2複合材を加圧する加圧工程(S103)を備え、前記融着工程は、前記加圧工程により前記第1複合材および前記第2複合材が加圧された状態で、一対の前記電極部に電圧を印加して、前記第1複合材と前記第2複合材とを融着させる構成とするのが好ましい。
本構成の融着方法によれば、第1複合材および第2複合材が加圧された状態で、一対の電極部に電圧が印加されるため、第1複合材および第2複合材が熱の影響により変形することを防止しながら第1複合材と第2複合材とを融着させることができる。
【0081】
本開示の融着方法において、前記第2所定方向が前記第1所定方向となす第1角度(θ1)は、87度以上かつ93度以下である構成とするのが好ましい。
本構成の融着方法によれば、第2所定方向が第1所定方向となす第1角度を87度以上かつ93度以下とすることで、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域における温度分布の偏りを抑制し、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域の全領域で第1複合材と第2複合材とを適切に融着させることができる。
【0082】
本開示の融着方法において、前記第1複合材および前記第2複合材は、前記第2所定方向に沿って延びる部材であり、前記第1接合面に配置された前記炭素繊維基材の第1配向方向が前記第1所定方向となす第2角度(θ2)、および前記第2接合面に配置された前記炭素繊維基材の第2配向方向が前記第1所定方向となす第3角度(θ3)は、0より大きくかつ前記第1角度より小さい構成とするのが好ましい。
【0083】
本構成の融着方法によれば、第2所定方向に沿って延びる第1複合材の第1接合面に配置された炭素繊維基材の第1配向方向が第1所定方向となす第2角度を0より大きく第1角度より小さくすることにより、第1接合面の強度を高めることができる。同様に、第2所定方向に沿って延びる第2複合材の第2接合面に配置された炭素繊維基材の第2配向方向が第1所定方向となす第3角度を0より大きく第1角度より小さくすることにより、第2接合面の強度を高めることができる。
【0084】
本開示の融着方法において、前記第1複合材および前記第2複合材は、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む複数のシート材料を積層して形成されており、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む単一のシート材料により形成されている構成とするのが好ましい。
第1保護シート、第2保護シート、通電シートをそれぞれ単一のシート材料により形成することにより、第1複合材の第1接合面と第2複合材の第2接合面とを接合するために用いる部材を最小限にとどめ、最終製品である構造体の形状を所望のものとすることができる。
【0085】
以上説明した実施形態に記載の構造体は、例えば以下のように把握される。
本開示に係る構造体は、それぞれ炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含む第1複合材と第2複合材とが融着された構造体であって、前記第1複合材と、前記第2複合材と、前記第1複合材の第1接合面と接触するように配置された第1保護シートと、前記第2複合材の第2接合面と接触するように配置された第2保護シートと、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートに接触するように配置された通電シートと、を備え、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ単一方向に配向された前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含み、前記通電シートは、一対の端部を結ぶ第1所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含み、前記第1保護シートおよび前記第2保護シートは、前記第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された前記炭素繊維基材を含む。
【0086】
本開示に係る構造体によれば、第1複合材の第1接合面と接触するように第1保護シートが配置され、第2複合材の第2接合面と接触するように第2保護シートが配置され、第1保護シートおよび第2保護シートに接触するように通電シートを配置される。第1複合材および第2複合材が加圧された状態で、通電シートの一対の端部に一対の電極部を接触させて電圧を印加することにより、通電シートに含まれる炭素繊維基材に電流が流れる。
【0087】
通電シートと第1複合材との間に第1保護シートが配置され、かつ通電シートと第2複合材との間に第2保護シートが配置されるため、通電シートを流れる電流が第1接合面および第2接合面に配置される炭素繊維基材に流れ、それにより第1接合面および第2接合面が局所的に過剰に発熱することを防止することができる。
【0088】
また、通電シートに含まれる炭素繊維基材は一対の電極部を結ぶ第1所定方向に配向されており、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材は第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向されている。そのため、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向とは異なる他の方向に配向する場合に比べ、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域における温度分布の偏りを抑制し、第1複合材と第2複合材とが接触する接合領域の全領域で第1複合材と第2複合材とを適切に融着させることができる。
【0089】
第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向に配向することにより接合領域における温度分布の偏りが抑制されるのは、通電シートにおける電流の通電方向に対して略直交する方向に炭素繊維基材が配向されるため、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材に流れる電流が通電方向に殆ど移動せず、局所的に電流が流れ易い領域が発生しないからである。
【0090】
また、第1保護シートおよび第2保護シートに含まれる炭素繊維基材を第2所定方向に配向することにより通電シートにおける電流の通電方向の複数の位置において、通電シートに含まれる第1所定方向に配向された炭素繊維基材が導通した状態となる。これにより、通電シートにおける電流の通電方向の複数の位置において、通電シートに含まれる炭素繊維基材の第2所定方向の各位置における電圧差が抑制され、電圧差により発生する温度分布の偏りを抑制することができる。
【0091】
本開示の構造体において、前記第1複合材および前記第2複合材は、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む複数のシート材料を積層して形成されており、前記第1保護シート、前記第2保護シート、および前記通電シートは、それぞれ前記炭素繊維基材と前記熱可塑性樹脂とを含む単一のシート材料により形成されている構成とするのが好ましい。
第1保護シート、第2保護シート、通電シートをそれぞれ単一のシート材料により形成することにより、第1複合材の第1接合面と第2複合材の第2接合面とを接合するために用いる部材を最小限にとどめ、最終製品である構造体の形状を所望のものとすることができる。
【符号の説明】
【0092】
6 ナイロン
11 第1電極部
12 第2電極部
20 電源
30 加圧部
31,32 加圧板
100 融着装置
200,200A,200B 構造体
210,210B 第1複合材
210a,210b,210c 複合材料
211,211B 第1接合面
220,220B 第2複合材
220a,220b,220c 複合材料
221,221B 第2接合面
230,230A,230B 第1保護シート
240,240B 第2保護シート
250,250B 通電シート
251,251B,252,252B 端部
L1,L2 電力供給ライン
OD1 第1配向方向
OD2 第2配向方向
P1,P2,P3 測定点
PD1 第1所定方向
PD2 第2所定方向
S 設置面
X,Y,Z 軸線
【要約】
【課題】第1複合材と第2複合材とを適切に融着させる。
【解決手段】第1複合材、第2複合材と接触するように第1保護シート、第2保護シートを配置し、第1保護シートおよび第2保護シートに接触するように通電シートを配置するシート配置工程S101と、通電シートの一対の端部に一対の電極部を配置する電極配置工程S102と、第1複合材および第2複合材を加圧する加圧工程S103と、一対の電極部に電圧を印加して第1複合材と第2複合材とを融着させる融着工程S104と、を備え、第1保護シート、第2保護シート、および通電シートは、それぞれ単一方向に配向された炭素繊維基材と熱可塑性樹脂とを含み、通電シートは、一対の電極部を結ぶ第1所定方向に配向された炭素繊維基材を含み、第1保護シートおよび第2保護シートは、第1所定方向に略直交する第2所定方向に配向された炭素繊維基材を含む融着方法を提供する。
【選択図】
図5