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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20221108BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20221108BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
B66B5/02 P
B66B3/00 U
B66B5/00 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021109839
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昇平
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200178(JP,A)
【文献】特開2013-103817(JP,A)
【文献】特開2020-001888(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111924678(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00;5/00-5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに設置され、その設置場所での揺れを検出するセンサと、このセンサで検出された揺れの強さを示す計測データをエレベータ制御装置に無線により送信する通信端末とを備えたエレベータシステムにおいて、
上記通信端末は、
上記センサによって得られた計測データを記憶する記憶手段と、
通信距離が長い第1の伝送レートと、上記第1の伝送レートよりも通信距離が短く、単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートを有し、通常運転時は上記第1の伝送レートで通常運転に必要な小容量のデータを上記エレベータ制御装置に送信し、地震発生後の保守点検時に上記第2の伝送レートに切り替え、上記記憶手段に記憶された計測データを上記エレベータ制御装置に送信する通信制御手段と
を具備したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記通信制御手段は、
上記乗りかごまたは上記カウンタウェイトの位置調整により、上記通信端末と上記エレベータ制御装置との間の無線強度が一定値以上の状態で安定した場合に、上記第2の伝送レートで上記計測データを上記エレベータ制御装置に送信することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに設置され、その設置場所での揺れを検出するセンサと、このセンサで検出された揺れの強さを示す計測データをエレベータ制御装置に無線により送信する通信端末とを備えたエレベータシステムにおいて、
上記通信端末は、
上記センサによって得られた計測データを記憶する記憶手段と、
通信距離が長い第1の伝送レートと、上記第1の伝送レートよりも通信距離が短く、単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートを有し、地震が発生していない平常時は上記第1の伝送レートで通常運転に必要な小容量のデータを上記エレベータ制御装置に送信し、地震発生時に上記第2の伝送レートに切り替え、上記記憶手段に記憶された計測データを上記エレベータ制御装置に送信する通信制御手段と
を具備したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項4】
上記通信制御手段は、
上記通信端末と上記エレベータ制御装置との間の無線強度に基づいて、上記第2の伝送レートに切り替えることを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記通信制御手段は、
上記無線強度が一定値以上の状態で安定している場合に、上記第2の伝送レートで上記計測データを上記エレベータ制御装置に送信することを特徴とする請求項4記載のエレベータシステム。
【請求項6】
上記通信制御手段は、
上記乗りかごまたは上記カウンタウェイトの位置情報に基づいて、上記第2の伝送レートに切り替えることを特徴とする請求項3記載のエレベータシステム。
【請求項7】
上記通信制御手段は、
上記通信端末と上記エレベータ制御装置との間の無線強度が一定値以上の範囲内に上記乗りかごまたは上記カウンタウェイトが位置しているときに、上記第2の伝送レートで上記計測データを上記エレベータ制御装置に送信することを特徴とする請求項6記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等によって建物が揺れると、地震時管制運転装置によって、乗りかごが最寄り階に誘導され、ドアが開放された状態となり、乗客の積み下ろしを行う。このような地震時管制運転装置を備えたエレベータシステムは、S波センサやP波センサを備えている。S波センサやP波センサは、例えば、建物の上部に位置する機械室や昇降路内のピット等に設けられる。
【0003】
上記エレベータシステムでは、必要に応じて自動診断運転が行われ、各種機器に損傷や不具合がないかが診断される。自動診断運転は、安全上の観点から、地震が発生した時のS波センサやP波センサからの出力(ガル値)が所定の基準値未満であった時にのみ行われる。S波センサやP波センサからの出力が一度でも基準値を超えた場合には、保守員による点検作業が行われる。
【0004】
ここで、自動診断運転によるS波センサやP波センサに加えて、例えば乗りかごやカウンタウェイトに加速度センサを設けておき、個々のエレベータ耐震能力に応じた揺れを検知し、自動診断運転の稼働率向上を目的とするシステムが考えられている。上記加速度センサはバッテリ駆動され、通信端末を介してエレベータ制御装置に無線接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-93485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したシステムにおいて、子機である通信端末は、乗りかごやカウンタウェイトの移動体に設置されている。通常、エレベータ制御装置は、昇降路の最上部に設置されているため、例えば乗りかごが最下階近くにある場合、乗りかご側の通信端末(子機)とエレベータ制御装置側の通信端末(親機)との距離が長くなり、無線によるデータ伝送に影響が生じる。カウンタウェイトについても同様である。このため、必要に応じて中継器を介してデータ伝送を行う必要がある。しかしながら、中継器を用いると、その分、コストもかかるため、中継器を介さずにデータ伝送を行うことが望まれる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、昇降路が長くても、中継器を介さずに親機と子機との間で信頼性の高いデータ伝送を行うことのできるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るエレベータシステムは、少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに設置され、その設置場所での揺れを検出するセンサと、このセンサで検出された揺れの強さを示す計測データをエレベータ制御装置に無線により送信する通信端末とを備える。上記通信端末は、上記センサによって得られた計測データを記憶する記憶手段と、通信距離が長い第1の伝送レートと、上記第1の伝送レートよりも通信距離が短く、単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートを有し、通常運転時は上記第1の伝送レートで通常運転に必要な小容量のデータを上記エレベータ制御装置に送信し、地震発生後の保守点検時に上記第2の伝送レートに切り替え、上記記憶手段に記憶された計測データを上記エレベータ制御装置に送信する通信制御手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は第1の実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。
図2図2は同実施形態における子機(スレーブ)として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は同実施形態における第1の伝送レートと第2の伝送レートとの関係を示す図である。
図4図4は同実施形態における親機(マスター)として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は同実施形態における通信端末の揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。
図6図6は第2の実施形態における通信端末の揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。
図7図7は第3の実施形態における無線強度と位置情報との関係を説明するための図である。
図8図8は第3の実施形態における通信端末の揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。図1の例では、エレベータ全体の制御を行うエレベータ制御装置10と巻上機17が上部機械室1に設けられている。なお、機械室を持たないマシンルームタイプのエレベータでは、エレベータ制御装置10と巻上機17が昇降路2内の上部に配置される。
【0012】
エレベータ制御装置10には、エレベータ全体の制御を行うための制御基板11と、マスター(親機)として機能する通信端末CMとが含まれる。昇降路2内には、図1に示すように、乗りかご12及びカウンタウェイト13が設けられており、それぞれガイドレール14a~14dに昇降動作可能に支持されている。
【0013】
ガイドレール14a,14bは乗りかご12用のガイドレールであり、ガイドレール14c,14dはカウンタウェイト13用のガイドレールである。乗りかご12は、ガイドシュー15a,15bを介してガイドレール14a,14bに摺動可能に取り付けられている。カウンタウェイト13は、ガイドシュー15c,15dを介してガイドレール14c,14dに摺動可能に設けられている。
【0014】
乗りかご12には、乗りかご12の揺れを検出(計測)するための加速度センサS1と、スレーブ(子機)として機能する通信端末CS1とが設けられている。加速度センサS1と通信端末CS1とは有線にて接続されており、無線通信機能を備えたセンサ装置(センサ端末とも呼ぶ)として用いられる。
【0015】
同様に、カウンタウェイト13には、カウンタウェイト13の揺れを検出(計測)するための加速度センサS2と、スレーブとして機能する通信端末CS2とが設けられている。加速度センサS2と通信端末CS2とは有線にて接続されており、無線通信機能を備えたセンサ装置として用いられる。通信端末CS1,CS2は、マスター(親機)である通信端末CMと通信可能に接続される。通信端末CS1と加速度センサS1とは同一筐体に格納されていてもよい。通信端末CS2と加速度センサS2とは同一筐体に格納されていてもよい。
【0016】
また、地震発生時の揺れを検出(計測)するために、上部機械室1にはS波センサSSが設けられ、ピット3にはP波センサPSが設けられている。S波センサSS及びP波センサPSは、エレベータ制御装置10と有線にて接続されている。
【0017】
メインロープ16の一端に乗りかご12が連結され、メインロープ16の他端にカウンタウェイト13が連結されている。メインロープ16は、巻上機17の回転軸に取り付けられたメインシーブ18aに巻回されている。18bはそらせシーブである。
【0018】
巻上機17は、メインシーブ18aを回転させるためのモータ19を含んでいる。エレベータ制御装置10からの駆動指示により巻上機17のモータ19が駆動されると、メインシーブ18aが所定方向に回転し、メインロープ16を介して乗りかご12がカウンタウェイト13と共につるべ式に昇降動作する。メインシーブ18aには位置検出器(パルスジェネレータ)20が設置されている。位置検出器20は、メインシーブ18aがどの方向にどれだけ回転したかを検出することで、昇降動作に伴う乗りかご12の移動量を検出する。
【0019】
乗りかご12には、かご制御装置21とドア制御装置22とが設けられている。かご制御装置21及びドア制御装置22は、エレベータ制御装置10(制御基板11)に接続されている。
【0020】
かご制御装置21は、エレベータ制御装置10からの指示にしたがって、乗りかご12内の照明機器の駆動制御や空調制御を行う。また、かご制御装置21は、かご内に設けられた操作パネル4に関する情報、具体的には、乗客によって押下された行先階ボタンやドア開閉ボタン等に関する情報をエレベータ制御装置10やドア制御装置22に出力する。
【0021】
ドア制御装置22は、エレベータ制御装置10やかご制御装置21からの指示にしたがって乗りかご12のドアの開閉制御を行う。ドア制御装置22は、乗りかご12のドアを開閉するためのモータ23と接続し、このモータ23を駆動することでドアの開閉制御を行う。
【0022】
乗りかご12が着床する各階の乗場5には、乗場呼びボタン6と乗場制御装置30とが設けられている。乗場呼びボタン6は、乗客が乗りかご12に乗車する乗場の位置(階床)と行先方向(上方向/下方向)を登録するためのボタンである。乗場制御装置30は、エレベータ制御装置10(制御基板11)に接続され、乗場呼びボタン6によって登録された情報をエレベータ制御装置10に出力する。
【0023】
次に、図2の機能ブロック図を参照して、子機(スレーブ)として用いられる通信端末CSの構成について説明する。なお、乗りかご12に設置された通信端末CS1、カウンタウェイト13に設置された通信端末CS2とは同様な機能部を有している。ここでは、カウンタウェイト13に設置された通信端末CS2を代表例にとって説明し、通信端末CS1の説明は省略するものとする。以降の説明においても、基本的に通信端末CS2を代表例にとって説明し、通信端末CS1に関する説明は省略するものとする。
【0024】
通信端末CS2は、加速度センサS2に接続される。通信端末CS2は、加速度センサS2によって検出されたカウンタウェイト13の揺れの強さを示す加速度データ(計測データ)を入力すると共に、所定のタイミングでマスター(親機)である通信端末CMに無線により送信する機能を備えている。
【0025】
なお、加速度センサS2は、少なくとも横揺れ(水平方向の揺れ)を検出可能な2軸加速度センサであれば良いが、横揺れに加えて縦揺れ(鉛直方向の揺れ)も検出可能な3軸加速度センサであっても良い。水平方向の軸をx軸,y軸、鉛直方向の軸をz軸と呼ぶ。
【0026】
図2に示すように、通信端末CS2は、バッテリ100、電力供給制御部101、入力部103、記憶部104、無線強度測定部105、通信制御部106を備える。
【0027】
バッテリ100は、充電式あるいは交換可能であり、通信端末CS2および加速度センサS2の電源として用いられる。電力供給制御部101は、バッテリ100の電力を通信端末CS2内の通信制御部106を含む各機能部に供給すると共に加速度センサS2に供給する。
【0028】
入力部103は、予めカウンタウェイト13の揺れを検出するための時間間隔を定めた検出周期Tで、加速度センサS2からの加速度データの入力を受け付ける。記憶部104は、入力部103を通じて入力された加速度データを時系列順に保存する。省電力の観点から平常運転モード時には、検出周期Tは、通常測定用の長周期T1に設定されている。一方、ある一定の揺れ(第1の閾値TH1以上の揺れ)が検知された場合には、加速度データをサンプリングする数を増やすため、検出周期Tは、長周期T1よりも時間間隔が短く設定された詳細測定用の短周期T2に切り替えられる。
【0029】
無線強度測定部105は、子機である通信端末CS2と、親機である通信端末CMとの間の無線強度(電波強度)を測定する。具体的には、無線強度測定部105は、通信端末CMから発信される無線信号を通信端末CMで受信したときの電力から無線強度(dBm)を求める。
【0030】
通信制御部106は、子機である通信端末CS2と、親機である通信端末CMとの間の通信制御を行う。通信制御部106は、標準の伝送レートである第1の伝送レートR1と、第1の伝送レートR1よりも単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートR2とを有する。通常運転時は第1の伝送レートR1に設定され、地震発生後の保守点検時に第2の伝送レートR2に切り替えられる。「通常運転時」とは、乗りかご12が乗客を乗せて各階を運転しているときである。「保守点検時」とは、例えば地震発生によってエレベータの運転が止まり、保守員が乗りかご12やカウンタウェイト13を点検しているときである。
【0031】
図3に第1の伝送レートR1と第2の伝送レートR2との関係を示す。
本実施形態では、例えばサブギガヘルツの周波数帯(920MHz帯)の無線電波を使用して、親機と子機との間で無線通信を行う。第1の伝送レートR1は、例えば50kbpsの伝送速度を有し、単位時間当たりのデータ量が少ないが、通信距離が長く、消費電流も少ない。一方、第2の伝送レートR2は、例えば200kbpsの伝送速度を有し、単位時間当たりのデータ量が多いが、通信距離が短く、消費電流も大きい。サブギガヘルツの周波数帯の無線電波を使えば、論理的には数kmの無線通信が可能であるが、昇降路2の中は障害物が多く、電波環境が悪い。このため、親機と子機が一定距離以上離れていると、パケットエラーが発生しやすい。
【0032】
親機子機間の通信内容は、「異常故障信号などの数bit単位の小容量のデータ」と「地震発生時に測定された加速度データなどの大容量のデータ」の2つに大別される。無線通信では、伝送レートを下げた方が長距離通信できるが、加速度データのように大容量のデータを送信対象とした場合に時間を要してしまう。
【0033】
ここで、本システムにおいては、地震が発生していない時は、親機と子機との間で異常故障信号などの小容量のデータしか授受していない。したがって、地震が発生していない通常運転時には、伝送レートを下げておけば、通信距離を確保でき、昇降路が長くても、中継器を介さずにデータ送信できる。また、伝送レートを下げると、子機の消費電流を抑制できるので、子機の電源である電池の交換サイクルが長くなり、保守性が向上する。
【0034】
一方、地震が発生した場合、そのときに測定された加速度データを早く解析して、エレベータの運転を復旧させる必要がある。したがって、地震発生後の保守点検時において、伝送レートを通常運転時よりも上げる。これにより、大容量の加速度データを短時間で送ることができる。また、保守点検時であれば、子機の位置を任意に調整できるので、無線強度が一定値以上で安定した状態で加速度データを確実に送ることができる。
【0035】
続いて、図4の機能ブロック図を参照して、親機(マスター)として用いられる通信端末CMの構成について説明する。
【0036】
通信端末CMは、スレーブとして機能する通信端末CS1,CS2と無線接続される。また、通信端末CMは、有線にて制御基板11と接続される。通信端末CMは、図4に示すように、電力供給制御部201、通信制御部202、返信制御部203及び出力部204等を備えている。
【0037】
電力供給制御部201は、制御基板11から供給される電力を各機能部に供給する。なお、電力供給制御部201は、制御基板11から電力供給を受けているため、通信端末CS1,CS2内の電力供給制御部101とは異なり、通信端末CMに含まれる全ての機能部に対して所要の電力を常時供給する。
【0038】
通信制御部202は、スレーブとして機能する通信端末CS1,CS2によって送信された各種信号を受信する。具体的には、通信制御部202は、通信端末CS1,CS2から送信される加速度データや、バッテリ不足のときに送信されるバッテリ交換要求等を受信し、これらの信号に付随していた識別コードと共に返信制御部203及び出力部204に出力する。返信制御部203は、信号を正常に受信したことを通知するためのアクノレッジ(肯定応答)を通信制御部202を介して通信端末CS1,CS2に送信する。出力部204は、通信制御部202を介して各種信号と識別コードとともに受け付けると、制御基板11に出力する。
【0039】
制御基板11には、エレベータの運転制御に関わる各種機能が備えられている。以下では説明を簡単にするため、エレベータ制御装置10が各種機能を実行するものとして説明する。
【0040】
エレベータ制御装置10は、例えば地震感知器(S波センサSSやP波センサPS)によって高ガルの地震が検知された場合に、その高ガルの検知信号を保持(ラッチ)し、外部からの解除操作があるまで、エレベータの運転を停止しておく機能を備える。また、エレベータ制御装置10は、地震発生時に加速度センサS1,S2で検出された加速度データを通信端末CS1,CS2から取得し、その加速度データを解析用として図示せぬ監視センタに送るなどの処理を行う。
【0041】
次に、本システムの動作について説明する。
図5は第1の実施形態における通信端末CS2の揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。なお、乗りかご12に設けられた通信端末CS1の処理動作についても同様である。
【0042】
通信端末CS2において、入力部103は、予め設定された検出周期T毎に、加速度センサS2によって検出された揺れの強さを示す加速度データを入力する。入力された加速度データは、記憶部104に順次保存される。通常運転時は、通信端末CS2に備えられた通信制御部106によって第1の伝送レートR1が設定されている(ステップST11-ST12)。
【0043】
図3に示したように、第1の伝送レートR1は、単位時間当たりのデータ量が少ないが、通信距離が長いといった特性を有する。通常運転時は、親機子機間で異常故障信号などの小容量のデータを送るだけである。したがって、例えばカウンタウェイト13が最下階近くにあって、エレベータ制御装置10から離れていても、小容量のデータであれば、第1の伝送レートR1によってエレベータ制御装置10(詳しくはエレベータ制御装置10に設置された親機の通信端末CM)に確実に送ることができる。
【0044】
地震が発生すると、加速度センサS2によってカウンタウェイト13の揺れが検出され、その揺れの強さを示す加速度データが記憶部104に保存される(ステップST13)。このときに検出された加速度データは、地震によるエレベータの状態を点検する上で重要であり、できるだけ早くエレベータ制御装置10に送る必要がある。しかし、データ容量が大きいため、第1の伝送レートR1では送信に時間を要し、また、送信中にパケットエラーが発生する可能性もある。
【0045】
地震発生後の保守点検時において、通信制御部106は、第1の伝送レートR1から第2の伝送レートR2に切り替える。具体的には、地震感知器(S波センサSSやP波センサPS)によって、一定値以上の揺れが検知されると、エレベータ制御装置10は、エレベータの運転を停止すると共に、通信ネットワークを介して図示せぬ監視センタに異常を発報する。監視センタでは、この発報を受けて保守員を現場に派遣する。また、エレベータ制御装置10は、親機の通信端末CMを通じて子機の通信端末CS1,CS2に保守点検モードをセットする。保守点検モードがセットされると(ステップST14のYes)、通信制御部106は、第1の伝送レートR1から第2の伝送レートR2に切り替えて(ステップST15)、以下のようにして地震発生時に測定された加速度データをエレベータ制御装置10に送る。なお、乗りかご12に設置された通信端末CS1でも同様の処理が実行される。
【0046】
図3に示したように、第2の伝送レートR2は、単位時間当たりのデータ量が多いが、通信距離が短いといった特性を有する。したがって、できるだけ親機の通信端末CMの近くで無線通信を行うことが好ましい。そこで、データ送信に際し、通信制御部106は、無線強度測定部105で測定される無線強度を確認する(ステップST16)。無線強度が一定値以上で安定している状態であれば(ステップST16のYes)、通信制御部106は、親機の通信端末CMの近くで安定して無線通信を行うことができるものと判断し、記憶部104に記憶されている加速度データを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST17)。
【0047】
データ送信が完了しなかった場合には(ステップST18のNo)、通信制御部106は、再び無線強度が一定値以上になったときのタイミングで、残りのデータを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST16-ST19)。
【0048】
一方、無線強度が一定値に満たない場合には(ステップST16のNo)、通信制御部106は、通信端末CSに設けられた図示せぬランプを点灯するなどして、無線強度が弱いことを警告する(ステップST19)。この警告を受けて、保守員が所定の運転操作により、カウンタウェイト13をエレベータ制御装置10に近づけるように位置調整を行う(ステップST20)。
【0049】
上記「所定の運転操作」とは、例えば保守員がエレベータ制御装置10を操作して乗りかご12およびカウンタウェイト13の昇降動作させることや、図示せぬ携帯端末からエレベータ制御装置10にアクセスして、無線操作により乗りかご12およびカウンタウェイト13の昇降動作させることを含む。この位置調整により、無線強度が一定値以上になれば(ステップST16のYes)、通信制御部106は、記憶部104に記憶されている加速度データを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST17-ST18)。
【0050】
このように第1の実施形態によれば、通常運転時と地震発生後の保守点検時とで伝送レートを切り替えることで、通常運転時には通信距離を優先した第1の伝送レートを用いて、通常運転に必要なデータを中継器を介さずにエレベータ制御装置を確実に送ることができる。一方、地震発生後の保守点検時には、データ量を優先した第2の伝送レートを用いて、地震発生時に検出された加速度データをエレベータ制御装置に短時間で送ることができる。その際、位置調整により、無線強度が一定値以上で安定した状態で加速度データを送ることで、パケットエラーを防いで、信頼性の高いデータ送信を実現できる。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
上記第1の実施形態では、通常運転時と保守点検時とで伝送レートを切り替えた。これに対し、第2の実施形態では、地震が発生していない平常時と地震発生時とで伝送レートを切り替える構成としたものである。
【0052】
なお、通信端末CS2の基本的な構成については図2と同様であるため、ここでは図6を用いて通信端末CS2の処理動作について説明する。
【0053】
図6は第2の実施形態における通信端末CS2による揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。なお、乗りかご12に設けられた通信端末CS1の処理動作についても同様である。
【0054】
地震が発生していない平常時において、通信端末CS2に備えられた通信制御部106によって第1の伝送レートR1が設定されている(ステップST21-ST22)。上記「平常時」には、地震が発生していない状況でエレベータを通常運転している場合あるいは復旧運転している場合を含む。
【0055】
地震が発生すると、加速度センサS2によってカウンタウェイト13の揺れが検出され、その揺れの強さを示す加速度データが記憶部104に保存される(ステップST23)。上述したように、地震発生時に検出された加速度データは、地震によるエレベータの状態を点検する上で重要であり、できるだけ早くエレベータ制御装置10に送る必要がある。
【0056】
ここで、エレベータの運転中、乗りかご12とカウンタウェイト13の位置によって無線強度が違ってくる。そこで、データ送信する際に、通信制御部106は、無線強度測定部105で測定される無線強度を確認する(ステップST24)。無線強度が一定値以上で安定している状態であれば(ステップST24のYes)、通信制御部106は、親機の通信端末CMの近くで安定して無線通信を行うことができるものと判断し、第2の伝送レートR2に切り替える(ステップST25)。第2の伝送レートR2への切り替え後、通信制御部106は、記憶部104に記憶されている加速度データをエレベータ制御装置10に送信する(ステップST26)。
【0057】
データ送信が完了しなかった場合には(ステップST27のNo)、通信制御部106は、再び無線強度が一定値以上になったときのタイミングで、残りのデータを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST24-ST26)。
【0058】
一方、無線強度が一定値に満たない場合には(ステップST23のNo)、通信制御部106は、エレベータの運転によってカウンタウェイト13がエレベータ制御装置10の近くに来るまでの間、データ送信を待機する(ステップST28)。カウンタウェイト13がエレベータ制御装置10に近づき、無線強度が一定値以上で安定している状態になれば(ステップST24のYes)、通信制御部106は、記憶部104に記憶されている加速度データを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST25-ST27)。
【0059】
このように第2の実施形態によれば、地震が発生していない平常時と地震発生時とで伝送レートを切り替えると共に、地震発生時には無線強度が一定値以上で安定している状態のときに第2の伝送レートで加速度データを送ることで、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
上記第2の実施形態では、地震発生時に無線強度に基づいて第2の伝送レートR2に切り替えた。これに対し、第3の実施形態では、地震発生時に乗りかご12またはカウンタウェイト13の位置情報に基づいて第2の伝送レートR2に切り替える構成としたものである。
【0061】
図7は第3の実施形態における無線強度と位置情報との関係を説明するための図である。親機である通信端末CMはエレベータ制御装置10に設置されている。子機である通信端末CS1,CS2は、それぞれに乗りかご12とカウンタウェイト13に設置されている。
【0062】
親機と子機との間の無線強度は、子機が親機に近づくほど強くなり、子機が親機から離れるほど弱くなる。したがって、予め実験等により、乗りかご12とカウンタウェイト13を昇降動作させて、無線強度が一定値以上となる範囲を定めておけば、乗りかご12またはカウンタウェイト13が当該範囲内に入っているときに、第2の伝送レートR2に切り替えることでも良い。図7の例では、親機の設置位置から下降方向にh1の範囲が定められている。この範囲h1内に乗りかご12またはカウンタウェイト13が位置していれば、一定値以上の無線強度が得られる。
【0063】
図8は第3の実施形態における通信端末CS2の揺れ検出時の処理動作を示すフローチャートである。なお、乗りかご12に設けられた通信端末CS1の処理動作についても同様である。
【0064】
地震が発生していない平常時において、通信端末CS2に備えられた通信制御部106によって第1の伝送レートR1が設定されている(ステップST31-ST32)。上記「平常時」には、地震が発生していない状況でエレベータを通常運転している場合あるいは復旧運転している場合を含む。
【0065】
地震が発生すると、加速度センサS2によってカウンタウェイト13の揺れが検出され、その揺れの強さを示す加速度データが記憶部104に保存される(ステップST33)。上述したように、地震発生時に検出された加速度データは、地震によるエレベータの状態を点検する上で重要であり、できるだけ早くエレベータ制御装置10に送る必要がある。
【0066】
ここで、エレベータの運転中、乗りかご12とカウンタウェイト13の位置によって無線強度が違ってくる。そこで、データ送信する際に、通信制御部106は、エレベータ制御装置10からカウンタウェイト13の昇降路上の位置を示す位置情報を取得し(ステップST34)、この位置情報に基づいてカウンタウェイト13が図7に示した範囲h1内に位置しているか否かを判断する(ステップST35)。
【0067】
上述したように、親機と子機との間で無線強度が一定値以上となる範囲としてh1が定められている。したがって、カウンタウェイト13が範囲h1内に位置していれば(ステップST35のYes)、通信制御部106は、親機の通信端末CMの近くで安定して無線通信を行うことができるものと判断し、第2の伝送レートR2に切り替える(ステップST36)。第2の伝送レートR2への切り替え後、通信制御部106は、第2の伝送レートR2で記憶部104に記憶されている加速度データをエレベータ制御装置10に送信する(ステップST37)。
【0068】
データ送信が完了しなかった場合には(ステップST38のNo)、通信制御部106は、再び位置情報を取得し、カウンタウェイト13が範囲h1内に入ったときのタイミングで、残りのデータを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST34-ST38)。
【0069】
一方、カウンタウェイト13が範囲h1から外れている場合には(ステップST35のNo)、通信制御部106は、エレベータの運転によってカウンタウェイト13がエレベータ制御装置10の近くに来るまでの間、データ送信を待機する(ステップST39)。カウンタウェイト13がエレベータ制御装置10に近づき、無線強度が一定値以上で安定している状態になれば(ステップST35のYes)、通信制御部106は、記憶部104に記憶されている加速度データを第2の伝送レートR2でエレベータ制御装置10に送信する(ステップST36-ST38)。
【0070】
このように第3の実施形態によれば、地震が発生していない平常時と地震発生時とで伝送レートを切り替えると共に、地震発生時には子機を搭載した移動体(乗りかごまたはカウンタウェイト)が親機に近いときに第2の伝送レートで加速度データを送ることで、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、昇降路が長くても、中継器を介さずに親機と子機との間で信頼性の高いデータ伝送を行うことのできるエレベータシステムを提供することができる。
【0072】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1…上部機械室、2…昇降路、3…ピット、4…操作パネル、5…乗場、6…乗場呼びボタン、10…エレベータ制御装置、11…制御基板、12…乗りかご、13…カウンタウェイト、14a~14d…ガイドレール、15a~15d…ガイドシュー、16…メインロープ、17…巻上機、18a…メインシーブ、18b…そらせシーブ、19…モータ、20…位置検出器、21…かご制御装置、22…ドア制御装置、23…モータ、30…乗場制御装置、100…バッテリ、101…電力供給制御部、103…入力部、104…記憶部、105…無線強度測定部、106…通信制御部、CM,CS1,CS2…通信端末、PS…P波センサ、SS…S波センサ、S1,S2…加速度センサ。
【要約】
【課題】昇降路が長くても、中継器を介さずに親機と子機との間で信頼性の高いデータ伝送を行う。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータシステムは、少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに設置され、その設置場所での揺れを検出するセンサと、このセンサで検出された揺れの強さを示す計測データをエレベータ制御装置に無線により送信する通信端末とを備える。上記通信端末は、上記センサによって得られた計測データを記憶する記憶手段と、第1の伝送レートと、上記第1の伝送レートよりも単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートを有し、通常運転時は上記第1の伝送レートで通常運転に必要な小容量のデータを上記エレベータ制御装置に送信し、地震発生後の保守点検時に上記第2の伝送レートに切り替え、上記記憶手段に記憶された計測データを上記エレベータ制御装置に送信する通信制御手段とを具備する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8