(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】免疫グロブリン産生の増強
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20221108BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221108BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221108BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221108BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221108BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221108BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221108BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221108BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N15/11 Z
C12N5/10
C07K16/00
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N15/13 ZNA
C12N15/85 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021131120
(22)【出願日】2021-08-11
(62)【分割の表示】P 2018560448の分割
【原出願日】2017-02-03
【審査請求日】2021-08-11
(32)【優先日】2016-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518278007
【氏名又は名称】トリアニ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Trianni, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】ナイジェル・キリーン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ハーゼンヒンドル
(72)【発明者】
【氏名】バオ・ドゥオン
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-525627(JP,A)
【文献】特表2004-520037(JP,A)
【文献】特表2011-527576(JP,A)
【文献】J Immunol Methods,2009年,343,28-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/85
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面に、内因的に産生された免疫グロブリン分子を、結合、保持、および提示し得る膜結合型免疫グロブリン捕捉分子を発現することができる遺伝子組換えマウスを生成する方法:
ここで該方法は、マウスの形質細胞、または、マウスの形質細胞の前駆細胞に、シグナルペプチドならびに細胞表面テザー部分および免疫グロブリン結合部分を含む免疫グロブリン捕捉分子をコードする核酸配列に作動可能に連結しているプロモーターを含む核酸ベクターを導入することを含み、プロモーターは形質細胞において免疫グロブリン捕捉分子の発現を駆動するが、未熟B細胞、成熟B細胞または活性化B細胞においては駆動しない;および
細胞表面テザー部分は膜貫通ドメインまたはグリコシルフォスファチジルイノシトールにより翻訳後修飾され得るC末端ペプチド配列を含み、免疫グロブリン結合部分は、プロテインA、プロテインG、プロテインH、プロテインLもしくはそれらの組合せから選択される細菌タンパク質由来の1以上の免疫グロブリン結合ドメイン、または免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖定常領域の保存されたエピトープに特異的に結合する免疫グロブリンの可変ドメインを含む。
【請求項2】
プロモーターが、Bリンパ球誘導成熟タンパク質1、シンデカン1、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17、またはフコシルトランスフェラーゼ1から選択される遺伝子の発現を駆動するプロモーターから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロモーターが、誘導性プロモーターである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
誘導性プロモーターが、テトラサイクリン応答性プロモーター、または、タモキシフェン応答性プロモーターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞表面テザー部分が、ヒトリンパ球活性化遺伝子3、ヒトCD58、ラットCD2、または、ヒトCD7由来の膜貫通ドメインを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細胞表面テザー部分が、グリコシルフォスファチジルイノシトールにより翻訳後修飾され得るC末端ペプチド配列を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞表面テザー部分が、膜貫通ドメインを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
核酸ベクターが、ストーク構造をコードする核酸配列をさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
核酸ベクターが、レポーターペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
レポーターペプチドが蛍光ペプチドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
核酸ベクターが、IRES配列、または、ピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
核酸ベクターが、IRES配列またはピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列に連結したストーク構造およびレポーターペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
遺伝子組み換えマウスが、抗体の大規模産生に用いられる、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年2月4日に出願された、USSN62/291,217の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、モノクローナル抗体を生成するための抗原特異的抗体分泌細胞の迅速なスクリーニング方法を含む、免疫グロブリン分子の産生に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
以下の説明では、いくつかの文献および方法が、背景および導入目的のために記載されている。本明細書に含まれるものは、先行技術の「承認」と解釈されるものではない。出願人は、本明細書で参照されている文献および方法が、該当する法律の規定に基づく先行技術を構成していないことを、必要に応じて証明する権利を明示的に留保する。
【0004】
モノクローナル抗体は、多様な分子形態の抗原に結合するその精巧な能力のために、生物医学研究において、臨床診断において、および治療薬として広く使用されている重要な生物製剤である。医薬品開発において、モノクローナル抗体は、感染性病原体を排除するのに通常関与する強力な免疫学的機能に関連する所望の薬物動態を示すので、しばしば選択される分子である。さらに、実験動物は、体内に本来存在しない標的分子に対して特異的な抗体応答を容易に開始することができ、よって、代替的な戦略と比較して、抗体生成が比較的低リスクかつ費用効率の高い手法になり得る。
【0005】
ハイブリドーマ技術は、40年よりも前に開発されたが、今日、依然として、抗原特異的モノクローナル抗体を生成するために最も広く用いられている技術である。本手法では、動物(典型的には、げっ歯類またはウサギ)を、目的の抗原で最初に免疫化する。抗原に対して特異性のある受容体を有する免疫化した動物のBリンパ球は、次に活性化され、クローン的に増殖し、抗体分泌細胞(ASC)に分化する。免疫化した動物は屠殺され、そして、これらの動物から単離したASCは培養において永久に生存することができないために、しばしば悪性の形質細胞(骨髄腫、または、形質細胞腫の細胞など)との融合により不死化され、ハイブリドーマと呼ばれるハイブリッド細胞を生成する。次いで、ハイブリドーマ細胞を、目的の抗原に対する反応性を有する抗体を分泌する能力についてスクリーニングおよび選択し、これはしばしば、複数回の限界希釈および培養での増殖を含む。
【0006】
あるいは、ASCを個別に選別し、インビトロでASCを増殖させる必要なく、重鎖および軽鎖可変ドメイン(それぞれ、VHおよびVL)をコードする遺伝子を直接クローン化させることができる。次に、VHおよびVLをコードするDNAフラグメントを、所望の重鎖および軽鎖定常領域のエクソン配列を含有する発現ベクターに、それぞれサブクローニングする。次いで、VHおよびVLの一対の発現ベクターを細胞株にトランスフェクトしてモノクローナル抗体を発現させ、続いて目的の抗原を認識する能力についてスクリーニングする。
【0007】
ハイブリドーマまたは単一細胞クローニング技術のいずれかを使用して、目的の抗原に対するモノクローナル抗体を産生することにおける最終的な成功にもかかわらず、両技術の効率は、スクリーニングおよび選択という多大な労力を必要とするプロセスによって妨げられる。これは、骨髄腫細胞との融合のために、または、単一細胞のクローニングのために、抗原特異的ASCのみを予め選択することが実現可能ではなかったからである。Bリンパ球が抗原との遭遇に応答してASCに分化する際に、抗原受容体の膜結合型形態は、分泌型形態を支持してダウンレギュレートされる。従って、抗原受容体の細胞表面発現に基づく選択方法、例えば、磁気による選別、または、フローサイトメトリーによる選別は、抗原特異的ASCを選択するツールとしてはうまく機能しない。ASCを予め選択することができないために、ハイブドーマおよび単一細胞クローニング技術の両方でスクリーニングされた細胞のほんの一部しか、目的の抗原に対して特異性を有するモノクローナル抗体を産生しない。
【0008】
米国特許第7,148,040B2号は、抗原受容体の細胞表面発現に基づく選択技術によるハイブリドーマスクリーニングの効率を改善するために、ハイブリドーマ細胞上の抗原受容体の膜結合型形態を発現させる方法を提供する。本手法において、骨髄腫細胞に、それぞれIgαおよびIgβとしても知られる、CD79AおよびCD79Bをコードする発現構築物をトランスフェクトする。CD79AおよびCD79Bは、B細胞上の抗原受容体の細胞表面発現およびシグナル伝達機能の両方に必要なヘテロ二量体として発現される。Bリンパ球がASCに分化すると、それらはCD79AおよびCD79Bの発現をダウンレギュレートさせ、細胞表面上での抗原受容体の発現の喪失に寄与する。従って、CD79AおよびCD79Bの発現を再導入すると、ハイブリドーマ上の抗原受容体の膜結合型形態の提示を増加させることができる。この戦略は、ハイブリドーマスクリーニングおよび選択の労力を軽減するのに役立つが、骨髄腫細胞との融合のために抗原特異的ASCのみを予め選択することが実現可能であれば、その効率を大幅に改善することができるであろう。さらに、選別された単一細胞からの直接のVHおよびVLのクローニング技術を用いた、モノクローナル抗体生成の効率を高めるための戦略を提供する特定の方法はない。
【0009】
インビボでのASCによるCD79AおよびCD79B発現の再導入はいずれも、細胞表面上の抗原受容体の発現を増加させる実行可能な戦略を提供しない可能性がある。CD79AおよびCD79Bの発現はBリンパ球発生中に厳密に調節されるので、インビボでのそれらの発現レベルの変化は、Bリンパ球の生存、機能および/または抗原受容体の選択に大きな影響を及ぼし得る。さらに、ASC上の抗原受容体は、マウスを安楽死させたときに免疫応答がまだ進行しているので、免疫原との積極的結合のためにASC単離時に内在化される可能性がある。代わりにシグナル伝達欠損変異体CD79AおよびCD79BがASC上で発現されて抗原受容体の内在化を防止する場合、これらの分子の変異形態が、インビボでのASCの生存および機能に悪影響を与えるドミナントネガティブ効果を示すか否かは未だ解明されていない。最後に、インビボでのそれらの強制発現に関連する前述の問題を回避するために、ASC上のCD79AおよびCD79Bをエクスビボで発現させることは、現時点で利用可能なほとんどの方法による遺伝子導入をASCが受け入れられないため、実用的な戦略ではない。
【0010】
したがって、抗原特異的ASCのためのより効率的なスクリーニングの方法は、満たされていない重要なニーズである。本明細書によって提供される方法および組成物は、この重要なニーズを満たす。
【発明の概要】
【0011】
本発明の概要
本概要は、以下の詳細な説明でさらに説明する概念のうち選択したものを簡略化した形で紹介するために提供される。本概要は、特許請求された主題の鍵となる特徴、または、本質的な特徴を特定することを意図するものではなく、特許請求された主題の範囲を限定するために使用されることも意図していない。特許請求された主題の他の特徴、詳細、有用性、および利点は、添付の図面に例示された局面および添付の請求項に規定された局面を含む、以下に記載された詳細な説明から明らかであろう。
【0012】
本発明は、免疫グロブリン分子の産生を増強するための方法および組成物を提供する。特に、本発明は、ASCの表面で、分泌型免疫グロブリン分子(IgG、IgA、IgEおよびIgMアイソタイプのものを含む)を捕捉するための方法および組成物を提供する。本発明はまた、ASC内から内因的に産生された免疫グロブリン分子を、その細胞表面上に捕捉して表示することができる操作されたASCを含む、トランスジェニック哺乳動物を含むトランスジェニック動物を含む。
【0013】
ある実施形態において、本発明は、ASC上に免疫グロブリン捕捉分子を優先的に発現し、抗原誘発性の分化前のB細胞発生の段階では最小限の発現である発現系を使用して、プロテインAおよび/またはプロテインGなどの細菌タンパク質に由来する1つ以上の免疫グロブリン結合部分またはドメインを含む、操作された免疫グロブリン捕捉分子の制限された構成的発現を提供する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、ASC上に免疫グロブリン捕捉分子を優先的に発現し、抗原誘発性の分化前のB細胞発生の段階では最小限の発現である発現系を使用して、免疫グロブリンに特異性を有する単鎖抗体を含む、操作された免疫グロブリン捕捉分子の制限された構成的発現を提供する。
【0015】
操作されたASCは、細胞表面につなぎ止められ、かつ、細胞膜に免疫グロブリン分子を固定化するのに十分な親和性で免疫グロブリン分子に(本明細書で用いられる「免疫グロブリン」または「抗体」にもまた)選択的に結合する能力を有する、免疫グロブリン捕捉分子を発現する。ASCは毎秒何千もの免疫グロブリン分子を分泌するので、所与のASC上の免疫グロブリン捕捉分子は、他のASCによって分泌される免疫グロブリンではなく、そのASCによって分泌される免疫グロブリン分子によって主に飽和される。細胞表面免疫グロブリン捕捉分子をコードする遺伝子の発現は、発現される特定のモノクローナル免疫グロブリン分子に基づくASCの同定手段を提供する。
【0016】
特定の局面において、免疫グロブリン捕捉分子は、限定されるものではないがヒトリンパ球活性化遺伝子3(LAG3)などの膜貫通タンパク質由来のペプチド配列により、細胞膜につなぎ止められている。他の局面において、免疫グロブリン捕捉分子は、例えばグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)による翻訳後修飾を介して、細胞につなぎ止められている。これらの局面のいくつかにおいて、免疫グロブリン捕捉分子はさらに、支持、可動性、および細胞外空間への突出の延長のための長いストーク(stalk)を含む。
【0017】
特定の局面において、免疫グロブリン捕捉分子の発現は、インビボまたはインビトロで発生させたASCにおいて高度に発現されるヒトまたはマウス遺伝子に由来するプロモーターによって駆動される。他の局面において、免疫グロブリン捕捉分子は、インビボまたはインビトロで、テトラサイクリン系などの誘導系により発現される。いくつかの局面において、免疫グロブリン捕捉分子の発現は、発現ベクター中の内部リボソーム導入部位(IRES)またはピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列を介した、緑色蛍光蛋白質(GFP)などのレポーター遺伝子の発現と連結される。
【0018】
本発明はまた、免疫グロブリン捕捉分子をASC上に発現する非ヒトのトランスジェニック動物を生成する方法を提供する。該方法は、非ヒト脊椎動物のゲノムに免疫グロブリン捕捉分子をコードする遺伝子を導入することを含み、導入された遺伝子は宿主のASC上の免疫グロブリン捕捉分子の構成的発現または誘導性発現を提供する。いくつかの局面において、トランスジェニック動物はげっ歯類であり、好ましくはマウスである。他の局面において、トランスジェニック動物はトリであり、好ましくはニワトリである。特に好ましい局面において、トランスジェニック動物は、重鎖および軽鎖の可変ドメインをコードするヒト遺伝子を発現し、これらの遺伝子のマウスバージョンを欠いているマウスである;例えば、米国出願公開第2013/0219535号に記載されており、その全体が参照により組み込まれる。
【0019】
本発明はさらに、ASCの表面上に捕捉された特定の免疫グロブリンを提示するASCから、特定の特異性を有する免疫グロブリンをコードする遺伝子を単離するためのプロセスを提供する。
【0020】
本発明はまた、本発明の操作された細胞から目的の抗体を同定するためのライブラリーを提供する。本発明の方法および組成物を用いて作製された抗体ライブラリーは、目的の標的に選択的に結合する抗体のスクリーニングおよび産生を促進させる手段を提供する。したがって、これらのライブラリーは、臨床、診断、および研究の場において使用するためのモノクローナル抗体の単離を向上させる。
【0021】
本発明の利点は、免疫グロブリン特異性の測定を、蛍光標識抗原への結合およびフローサイトメトリーまたは顕微鏡による手順などの、確立された技術を用いて行うことができることである。これらの手順は、数の少ない抗原特異的細胞の同定および単離における効率の向上、および単離された細胞由来の再編成された免疫グロブリン遺伝子のクローニングにおける効率の向上を可能にする。
【0022】
これらの、および他の、局面、対象、および特徴が、以下に、より詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、細胞表面上に免疫グロブリン捕捉分子を有さない分泌型ASC(
図1A)、免疫グロブリン捕捉分子を有するASCと、ASCの表面上に捕捉された免疫グロブリン分子(すなわち、抗体)(
図1B)、および、ASC上に発現した免疫グロブリン捕捉分子によって保持された抗体と、標識された抗原との結合(
図1C)の図である。
【0024】
【
図2】
図2Aは、免疫グロブリン捕捉分子の一実施形態をコードするDNAベクターの一部を示す模式図である。
図2Bは、ASC表面上に免疫グロブリン捕捉分子として発現した、
図2Aの実施形態の簡略図である。
【0025】
【
図3】
図3Aは、免疫グロブリン捕捉分子の別の実施形態をコードするDNAベクターの一部を示す模式図である。
図3Bは、ASC表面上に免疫グロブリン捕捉分子として発現した、
図3Aの実施形態の簡略図である。
【0026】
【
図4】
図4A、
図4B、および
図4Cは、細胞表面上に免疫グロブリン捕捉分子を有さない分泌型ASC(
図1A)、免疫グロブリン捕捉分子を有するASCと、ASCの表面上の免疫グロブリン(すなわち、抗体)(
図4B:
図3Bにもまた詳細を示す)、および、ASC上に発現した免疫グロブリン捕捉分子と、標識された抗原との結合(
図4C)の図である。
【0027】
【
図5】
図5Aは、免疫グロブリン捕捉分子の例示的な実施形態をコードするDNAベクターの一部を示す模式図である。
図5Bは、本発明の方法によりトランスフェクトされたRPMI8226(ATCC
(登録商標)CCL-155TM)ヒト細胞の、細胞表面上の分泌型免疫グロブリン分子の保持の結果を示す2つのフローサイトメトリー散布図を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本明細書で用いられる用語は、当業者によって理解される、平易で通常の意味を有することが意図されている。以下の定義は、読み手が本発明を理解することを助けることを意図するものであるが、具体的に示されていない限り、それらの用語の意味を変更または限定することを意図するものではない。
【0029】
「抗体分泌細胞」または「ASC」は、抗原経験のあるB細胞から分化し、大量の免疫グロブリン分子を発現、並びに、分泌する能力を獲得した細胞を指す。ASCには、動物の体内の形質芽細胞および短命または長命の形質細胞、並びに、B細胞培養物からインビトロで発生した形質芽細胞および形質細胞が含まれる。
【0030】
「捕捉分子」は、目的の分子の一部または全体に、選択的に結合する領域を含有する任意の部分である。
【0031】
「捕捉」は、ある分子と膜結合型捕捉分子との間の耐久性のある相互作用による、細胞表面における分子の選択的結合および固定化を指す。
【0032】
「細胞表面」は、細胞の細胞膜、すなわち、細胞外空間に最も直接的に曝され、細胞外(細胞間を含む)空間において細胞およびタンパク質の両方と接触することが可能な細胞の部分を指す。
【0033】
「未熟B細胞」は、造血幹細胞が、成熟しているが抗原経験のないB細胞になるように遺伝的プログラミングを受ける、B細胞分化の中間期にある細胞を指す。「成熟」B細胞は、抗原による活性化の際に、クローン増殖並びに免疫記憶細胞または抗体分泌細胞への分化が可能な、抗原経験のないB細胞を指す。
【0034】
「免疫グロブリン」は、抗体分子の一部または全部を問わず、抗体を指す。ヒトを含むたいていの脊椎動物において、抗体は、通常、それぞれが同一の軽鎖(L)と対になっている、2つの同一の重鎖(H)の二量体として存在する。H鎖およびL鎖の両方のN末端は、特有の抗原結合特異性を有するH-L対を共に提供する可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)からなる。H鎖の定常領域は、アイソタイプ(または抗体クラス)により、ヒンジの有無を問わず、3~4個の免疫グロブリンドメイン(CH1~CH4と呼ばれる)から成る。マウスにおいて、アイソタイプは、IgM、IgD、IgG3、IgG1、IgG2b、IgG2aまたはIgG2c、IgE、およびIgAである。軽鎖定常領域は、κ免疫グロブリンドメインまたはλ免疫グロブリンドメイン(CκまたはCλと呼ばれる)のいずれかから成る。マウスおよびヒトの両方において、個体内の免疫グロブリンの全プール中のλ軽鎖の存在よりもκ軽鎖の存在が優勢である。ラクダ科の動物または軽鎖発現が欠損した動物などの特定の哺乳動物では、免疫グロブリンは重鎖のみから成ることがある。軽鎖の欠如にもかかわらず、これらの免疫グロブリンはまた、本発明に記載の免疫グロブリン重鎖に結合するように設計された免疫グロブリン捕捉分子によって、細胞表面上に効率的に保持される。さらに、免疫グロブリンは、2つ以上のVHおよび/またはVLドメインからなる二重特異性抗体などの特殊な抗体を、部分的または全体的であるかどうかに関わらず指すことができ、これは、例えば、2016年8月24日に出願されたUSSN15/246,181に記載されており、その全体が参照により組み込まれる。最後に、免疫グロブリンはまた、抗体の一部(特に抗体の定常領域)および、別のタンパク質から成る、ハイブリッド分子を指す。本発明に記載される免疫グロブリン捕捉分子はまた、細胞表面に提示するハイブリッド免疫グロブリン分子を保持するように、設計および操作されてもよい。
【0035】
「免疫グロブリン捕捉分子」は、免疫グロブリン分子(すなわち、免疫グロブリンまたは抗体)を、細胞表面に結合、保持、および提示できる、原形質膜結合型分子を指す。
【0036】
「免疫グロブリンスーパーファミリー」または「IgSF」分子は、抗体分子中に見出される免疫グロブリンドメインと構造的に類似する免疫グロブリンフォールド(Igフォールド)を有する分子を指す。
【0037】
「トランスジーン」という用語は、本明細書において、細胞のゲノムに人工的に挿入されている、または挿入しようとしている遺伝物質を説明するために使用される。
【0038】
「トランスジェニック動物」は、他の動物も想定されているが、通常はげっ歯類などの哺乳動物、特にマウスまたはラットである非ヒト動物であって、一部の細胞に染色体因子または染色体外因子として存在するか、あるいは、生殖細胞系DNA(すなわち、大部分または全部の細胞のゲノム配列)に安定して組み込まれている、外因性の核酸配列を有する非ヒト動物を指す。
【0039】
「ベクター」または「発現構築物」は、細胞の形質転換、形質導入、またはトランスフェクトに使用することができる、プラスミドおよびウイルスおよび任意のDNAまたはRNA分子を含み、それらが自己複製であるかどうかは問わない。
【0040】
本発明の詳細な説明
本明細書に記載される技術の実施は、特に断りのない限り、当業者の技能の範囲内である、有機化学、ポリマー技術、分子生物学(組換え技術を含む)、細胞生物学、生化学および配列決定技術の従来の技術および説明を利用することができる。これらの従来の技術には、ポリマーアレイ合成、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよびライゲーション、および標識を用いたハイブリダイゼーションの検出が含まれる。好適な技術の特定の例は、本明細書の実施例を参照することにより得ることができる。しかしながら、他の同等の従来の手順を使用することも、当然可能である。これらの従来の技術および説明は、Green, et al., Eds. (1999) Genome Analysis: A Laboratory Manual Series (Vols. I-IV); Weiner, Gabriel, Stephens, Eds. (2007), Genetic Variation: A Laboratory Manual; Dieffenbach, Dveksler, Eds. (2007), PCR Primer: A Laboratory Manual; Sambrook and Russell (2006), Condensed Protocols from Molecular Cloning: A Laboratory Manual; and Green and Sambrook (2012), Molecular Cloning: A Laboratory Manual (全て Cold Spring Harbor Laboratory Pressによる); Stryer, L. (1995) Biochemistry (4th Ed.) W.H. Freeman, New York N.Y.; Lehninger, Principles of Biochemistry 3rd Ed., W. H. Freeman Pub., New York, N.Y.; and Berg et al. (2002) Biochemistry, 5th Ed., W.H. Freeman Pub., New York, N.Y.; Nagy, et al., Eds. (2003) Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual (3rd Ed.) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., Immunology Methods Manual (Lefkovits ed., Academic Press 1997); Gene Therapy Techniques, Applications and Regulations From Laboratory to Clinic (Meager, ed., John Wiley & Sons 1999); M. Giacca, Gene Therapy (Springer 2010); Gene Therapy Protocols (LeDoux, ed., Springer 2008); Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, eds., John Wiley & Sons 1998); およびMammalian Chromosome Engineering - Methods and Protocols (G. Hadlaczky, ed., Humana Press 2011)などの標準的な実験室マニュアルで見つけることができ、これらは全て、全ての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0041】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。従って、例えば、「ある免疫グロブリン(an immunoglobulin)」の言及は、1つ以上のこれらの免疫グロブリンを指し、「一方法(the method)」の言及は、当業者に周知の同等の複数のステップおよび方法の言及を含む。
【0042】
他に規定されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で言及される全ての刊行物は、本発明に関連して使用され得るデバイス、処方および方法論を記載および開示する目的で、参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
ある値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間に介在する各値、および、記載された範囲内の、任意の他の記載された値または介在する値は、本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立してより小さい範囲に含まれてもよく、また本発明に包含され、記載された範囲内の特定的に除外された任意の限界値を対象とする。記載された範囲が該限界値の一方または両方を含む場合、含まれる限界値の一方または両方を除く範囲もまた本発明に含まれる。
【0044】
以下の説明では、本発明のより完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が述べられている。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細の1つ以上が無くとも実施できることは、当業者には明らかであろう。他の例では、当業者によく知られた、周知の特徴および手順は、本発明を不明瞭にすることを避けるために記載されていない。
【0045】
一般的な本発明
抗体分泌細胞(ASC)は、通常、発現して分泌する免疫グロブリンを、細胞膜上に提示しないため、磁気選別およびフローサイトメトリー選別などの細胞表面標識に基づく高度な技術を、抗原特異的ASCを選択する方法としては適用できない。本発明は、分泌型免疫グロブリン分子(本明細書では「免疫グロブリン」または「抗体」とも呼ばれる)の細胞表面提示に基づくASCの効率的なスクリーニングを可能にする系の必要性から生まれた。具体的には、本発明は、通常、高レベルの膜結合型免疫グロブリンを発現しない、あるいは、天然に、細胞表面上に免疫グロブリンを保持する能力を有さない、ASCまたはハイブリドーマなどの分泌細胞の表面に、免疫グロブリンを保持および固定することができる免疫グロブリン捕捉分子を発現させるための手段を提供する。ASCは、大量の免疫グロブリン(毎秒数千個の分子)を発現して放出する(例えば、Mitchell, Advances in Immunology 28:451-511 (1979)参照)。それゆえ、これらの細胞上に発現する免疫グロブリン捕捉分子は、他の細胞から分泌される免疫グロブリンよりも、該細胞内から産生される免疫グロブリンによって主に飽和される。従って、免疫グロブリン捕捉分子は、それらが捕捉する免疫グロブリン分子に対して、高い親和性および低い解離速度を有さなければならない。本発明は、これらの、低い解離速度を有し、高い親和性を持つ免疫グロブリン捕捉分子を発現する方法および組成物を提供する。
【0046】
内因的に産生された免疫グロブリンをその細胞表面上に捕捉するためにASCを操作することは、各ASCが産生する抗体の抗原特異性を識別し、所望の免疫グロブリンを分泌するASCを分泌しないASCから分離するための容易な手段を提供する。識別は、例えば、当業界で知られる十分に確立された手順により、細胞の同定および精製を容易にする物質(例えば、磁気、ビオチン化、蛍光、放射性、または酵素分子)で標識された抗原を使用することによって達成することができる。
【0047】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、1つの例示的実施形態における、本発明の原理を図示する。
図1Aに示されるように、抗体分泌細胞(ASC)(101)は、通常、免疫グロブリン分子の膜結合型形態を発現せず、また、細胞表面上に免疫グロブリン分子(すなわち、抗体)の分泌型形態(102)も保持しない。本発明は、ASCの細胞表面上に、免疫グロブリン捕捉分子(103)を発現するための、方法および組成物を提供する。本発明によれば、小胞体中の免疫グロブリン分子の合成およびその後の分泌のためのベシクルへのパッケージングの間に、またはそれらの分泌の直後に、
図1Bに示されるように、いくつかの免疫グロブリン分子(102)が、免疫グロブリン捕捉分子(103)によって細胞表面上に保持される。次いで、
図1Cに示されるように、ASCの細胞表面上の免疫グロブリン捕捉分子(103)の免疫グロブリン結合部分に結合した免疫グロブリン分子(抗体)(102)に、標識された抗原(104)(例えば、蛍光標識された抗原)を結合させる。次いで、細胞表面上に捕捉された免疫グロブリン捕捉分子(102)の免疫グロブリン結合部分に結合した標識された抗原(104)によって、抗原特異的ASCが特定される。ASC上の抗原結合の検出は、例えば、フルオロフォアまたは他のレポーター分子で直接標識された抗原を使用することによって達成される。次いで、標識された抗原に結合するASCは、例えば当業界で知られる細胞選別技術により、精製される。
【0048】
特定の抗原に特異的な抗体を発現する精製されたASCは、その後、免疫グロブリンをコードする配列のライブラリーの作製のために、骨髄腫または形質細胞腫細胞との融合によって不死化され得るか、または核酸源(DNAまたはmRNA)として直接用いられ得る。
【0049】
精製されたASC由来のライブラリーは、規定の特異性(すなわち、精製プロセスで使用される抗原に対する特異性)を有する抗体をコードする再編成された免疫グロブリン遺伝子を含有する。VHおよびVL遺伝子は、バイオインフォマティクスデータマイニングと組み合わせたディープシーケンシングによって、抗原特異的ASCから特定することができる(例えば、Haessler and Reddy, Methods in Molecular Biology 1131:191-203 (2014)参照)。あるいは、抗原特異的ASCを、個別に選別することができる。次いで、各ASCに固有のVHおよびVLドメインを、単一細胞クローニングに適合した、確立されたRT-PCRまたはcDNA末端の5’迅速増幅(5’RACE)技術を介してクローニングする(概観するために、例えば、Tiller, et al., New Biotechnology 5:453-7 (2011)を参照されたい)。さらに別の選択肢では、VHおよびVL配列は、米国特許第9,328,172号;第8,309,035号;および第8,309,317号に記載される方法および材料を用いて、特定することができる。
【0050】
免疫グロブリン捕捉分子
細胞表面で発現された、本発明の免疫捕捉分子は、以下に詳細に記載されている通り、少なくとも2つの構成成分を含み、また、好ましい実施形態において、さらなる構成成分を含んでよい。シンプルな形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、細胞表面テザー構成成分と、免疫グロブリン結合構成成分とを含む。細胞表面テザー構成成分は、発現された免疫グロブリン結合構成成分を細胞表面膜につなぎ止めるか、または固定する膜貫通ペプチドドメインを含んでよく、あるいは、細胞表面テザー構成成分は、免疫グロブリン結合構成成分が細胞表面膜に化学結合を介してつなぎ止められることを可能にする化学的部分(例えば、グリコシルフォスファチジルイノシトール)を含んでもよい。これらの構成成分に加えて、本発明の免疫グロブリン捕捉分子は、ストーク構成成分、1つ以上のリンカー構成成分、および/またはレポーターペプチドを含んでよい。
【0051】
ある実施形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の定常領域に天然に親和性を有する1つ以上の免疫グロブリン結合ドメインまたは部分から成る。これらの免疫グロブリン結合タンパク質には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインA、C群およびG群連鎖球菌(group C and G Streptococci)由来のプロテインG、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のプロテインH、または、ペプトストレプトコッカス・マグヌス(Peptostreptococcus magnus)由来のプロテインLが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、2つ以上の異なる細菌タンパク質由来の2つ以上の免疫グロブリン結合ドメインを含む、ハイブリッド分子として発現される。一例として、該捕捉分子は、プロテインG由来の2つの免疫グロブリン結合ドメインと、プロテインA由来の2つの免疫グロブリン結合ドメインとを含有する、融合タンパク質として発現されてよい。この実施形態のいくつかの局面において、細菌の免疫グロブリン結合タンパク質ドメインの1つ以上が、例えば、真核細胞でのグリコシル化もしくは他の翻訳後修飾を受ける可能性のある部位を除去するように、またはある種の免疫グロブリンアイソタイプに対する親和性を改善するために、またはコドン最適化によって哺乳類細胞での翻訳効率を改善するために、改変される。
【0052】
別の実施形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、単鎖可変領域フラグメント(scFv)から成る。scFvは、別の免疫グロブリン分子の重鎖または軽鎖定常領域(例えば、全てのマウスIgGアイソタイプに存在する共通のエピトープ)に対してモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株由来の、VHおよびVLドメインの融合タンパク質として発現される。いくつかの局面において、scFv捕捉分子は、グリシン/セリンリッチリンカー配列によって、いずれかの順序でVLドメインにタンデムに連結されたVHドメインを含む。グリシン/セリンリッチリンカー配列には、[配列番号29に示す](Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)nまたは[配列番号28に示す](Gly-Ser)nの繰り返しが含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインをコードするポリペプチド配列は、免疫グロブリン捕捉分子を細胞表面につなぎ止めるために、免疫グロブリン結合ドメインに融合している。この実施形態において、好ましくは、膜貫通ドメインは不活性であり(細胞シグナル伝達機能を欠く)、内在化されにくい。この膜貫通ドメインは、人工配列、または主要組織適合クラスI(MHC I)由来のモチーフ、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3またはCD223)などのIgSF分子、または任意の種の任意の他の膜貫通タンパク質であることができ、タンパク質翻訳時に細胞膜に天然に挿入される。
【0054】
他の実施形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、免疫グロブリン結合ドメインに加えて、グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)などによる翻訳後修飾のためのC末端ペプチド配列を含み、ここでGPIは免疫グロブリン捕捉分子のテザー部分として機能する。GPIは、ホスホエタノールアミン基、トリマンノシル-非アセチル化グルコサミン(Man3-GlcN)コア、およびタンパク質を細胞膜につなぐホスファチジルイノシトール基を含む正常な翻訳後部分である。GPIのホスホエタノールアミン基は、ホスホジエステル結合を介して、タンパク質C末端に連結している。GPIテザー配列は、この翻訳後プロセスによって天然にASC細胞膜に固定されるタンパク質のC末端から構成され得る。表3は、免疫グロブリン捕捉分子を構築するのに用いられ得る、例示的なGPIテザー配列またはGPIアンカー配列を列挙している。
【0055】
特定の実施形態において、免疫グロブリン捕捉分子は、構造的可動性および支持のために、並びに細胞外空間への曝露を増加させるために、「ストーク」構造を含有する。細胞表面は様々な分子が遍在しているため、免疫グロブリンの捕捉分子上に捕捉された免疫グロブリンは、ASC表面上の他の分子によって、細胞外空間内のそれらの同種抗原へのアクセスが妨げられ得る。従って、免疫グロブリン捕捉分子内に長いストークを含むことにより、提示された免疫グロブリンによる抗原結合を損なう立体障害を緩和することができる。本発明の好ましい局面において、免疫グロブリン捕捉分子のストークは、1つ以上のIgSFタンパク質由来の1つ以上の免疫グロブリンドメインを含む。これらのドメインの実施例には、CD2、CD4またはCD22の免疫グロブリンドメインが含まれるが、これらに限定されない。さらに、免疫グロブリン捕捉分子のストークは、2つ以上のサブユニットの巨大分子複合体として発現されてよい。例えば、ScFv含有捕捉分子のストークは、IgG分子のCH2およびCH3ドメイン、並びにヒンジ領域から成ってよい;従って、免疫グロブリン捕捉分子はホモダイマーとして発現される。
【0056】
免疫グロブリン捕捉分子の発現
本発明のいくつかの局面において、免疫グロブリン捕捉分子の発現は、ASCにおいて高度に発現されるが、未熟B細胞または抗原未経験の成熟B細胞においては発現されない遺伝子由来のプロモーターにより、駆動される。これらの遺伝子には、Bリンパ球誘導成熟タンパク質1(Blimp1)、シンデカン1(Sdc1)、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17(Tnfrsf17)、およびフコシルトランスフェラーゼ1(Fut1)が含まれるが、これらに限定されない。ASC発現のために選ばれる遺伝子は、マウス起源であってもよく、あるいは、遺伝子が適切に保存された発現パターンを示す別の種由来であってもよい。
【0057】
いくつかの他の局面において、免疫グロブリン捕捉分子の発現は、テトラサイクリン誘導系またはタモキシフェン誘導系などの、誘導性プロモーターによって駆動される。誘導性プロモーターは、Creなどのリコンビナーゼの発現を介して、直接的または間接的に免疫グロブリン捕捉分子の発現を駆動するために用いられる(例えば、Albanese, et al., Seminars in Cell & Developmental Biology, 13:129-141 (2002); Sakai, Methods in Molecular Biology, 1142:33-40 (2014)参照)。ASCにおけるこの誘導性発現は、トラスジェニック動物において、またはASCの培養中、並びにハイブリドーマ培養の段階においてインビトロで達成される。
【0058】
細胞表面で免疫グロブリン捕捉分子を発現するために、小胞体におけるタンパク質翻訳のためのシグナルペプチドが含まれる。シグナルペプチドは、コンセンサス配列であってよく、あるいは、細胞表面タンパク質または分泌タンパク質の一部として天然に存在する配列であってもよい。本発明の好ましい局面において、シグナルペプチドは、免疫グロブリン重鎖タンパク質[配列番号5~7に示す]または軽鎖タンパク質[配列番号1~3に示す]のものに由来する。
【0059】
いくつかの局面において、免疫グロブリン捕捉分子に加えて、発現ベクターには、GFP、赤色蛍光タンパク質(RFP)などのレポータータンパク質のためのオープンリーディングフレームが含まれていてもよい。発現構築物中のレポーター遺伝子は、例えば、IRES配列またはピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列を介して、免疫グロブリン捕捉分子に連結している。レポーター遺伝子の発現は、抗原特異的ASCの選別のために、抗原選択と組み合わせて使用すると、純度を向上させることができる。
【0060】
免疫グロブリン捕捉分子のコード配列を、ASCにおいて高度に発現される遺伝子(例えば、Blimp1またはTnfrsf17)を含有するゲノムDNAの大きな断片に挿入することにより、免疫グロブリン捕捉分子の発現を提供するトランスジーンが生成される。該挿入は、コードフラグメントの末端に付加された配列によって媒介される相同組換えによって、または他の標準的な分子生物学的手法によって達成することができる。ゲノムDNAの大きな断片は、細菌性の人工染色体ベクターに含有され得、例えば商業的または公的に入手可能なゲノムDNAライブラリーから得ることができるこれらのベクター中のDNA断片などが挙げられる。
【0061】
免疫グロブリン捕捉分子を発現するトランスジェニックマウス(または他の動物)は、本開示を読むことにより当業者に理解されるように、必要な技能を有する任意の施設によって、既知の技術を使用して生成され得る。トランスジーンを保有する動物の分析は、免疫蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリーおよび/またはイムノブロッティングなどの標準的方法を用いて行う。
【0062】
図2Aおよび
図2Bには、1つの実施形態による免疫グロブリン捕捉分子のトランスジーン(201)および発現構造(202)が図示されている。トランスジーン(201)は、1つの介在イントロンを有する2つのエクソン(203)[配列番号5~7]を含む。第1エクソンと、第2エクソンの始まりは、リーダーペプチド(例えば、V
Hリーダーペプチド)をコードする。リーダーペプチドコード配列と隣接して、以下の構成成分をコードする配列が存在する:1つ以上の細菌タンパク質に由来する1つ以上の免疫グロブリン結合ドメイン(204)[例えば、配列番号8~11から選択される配列]、グリシン/セリンリッチリンカー(205)[例えば、配列番号12または13から選択される配列]、「ストーク」構造または領域(206)[例えば、配列番号14~16から選択される配列]、および膜貫通ドメイン(207)[例えば、配列番号17~20から選択される配列]。タンパク質翻訳に続いて、リーダーペプチドは、細胞膜(212)につなぎ止められた細胞表面タンパク質として発現される、免疫グロブリン捕捉分子(202)から切除される。図示されている、免疫グロブリン捕捉分子(202)のそれぞれの構成成分(208~211)は、免疫グロブリン結合ドメイン(208)[例えば、配列番号24~27から選択される配列]、グリシン/セリンリッチリンカー(209)[例えば、配列番号28または29から選択される配列]、ストーク(210)[例えば、配列番号30~32から選択される配列]、および膜貫通ドメイン(211)[例えば、配列番号33~35から選択される配列]である。
【0063】
図2Aに図示されている(発現構造は
図2Bに図示されている)、免疫グロブリン捕捉分子の構成成分の例示的な核酸配列が、表1に列挙されている。免疫グロブリン捕捉分子は、
図2Aに示す順序で(すなわち、N末端からC末端に)、表1からの各構成成分についてのいくつかの可能なオプションの1つの配列を一緒に組み合わせることによって組み立てることができる。例えば、小さな免疫グロブリン捕捉分子は、たった2つのプロテインG免疫グロブリン結合ドメイン、(グリシン-セリン)
3リンカー、およびストークを有さない膜貫通ドメインから成り得る;一方、大きな免疫グロブリン捕捉分子は、5つのプロテインA免疫グロブリン結合ドメイン、並びに、4つのプロテインG免疫グロブリン結合ドメイン、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)
3リンカー、6つの免疫グロブリンフォールドで構成されるヒトCD22ストーク、および長いヒトCD7膜貫通ドメインを含有し得る。
【0064】
免疫グロブリン捕捉分子の別の実施形態の、発現構築物および分子構造が、
図3Aおよび
図3Bに図示されている。本発明の該実施形態において、トランスジーン(301)は同様に、1つの介在イントロンを有する2つのエクソンによりコードされたリーダー配列(303)、続いて、免疫グロブリン分子の一部に対して特異性を有するscFvの構成成分をコードする配列(例えば、重鎖または軽鎖定常領域の保存部分):V
H(304)、グリシン/セリンリッチリンカー(305)、およびV
L(306)を含む。免疫グロブリン捕捉分子を細胞外空間に延長して突出させるために、scFvをコードする配列に、免疫グロブリン分子のヒンジ(307)およびFcフラグメント(308)を含むストークをコードする配列が付加されている。最後に、1つの膜貫通ドメインをコードする1つ以上のエクソン(309)もまた、発現構築物(301)に含まれる。
図3Bに示すのは、免疫グロブリン分子のヒンジ(313)およびFc(314)に結合する、それぞれscFvのV
L(310)ドメイン、グリシン/セリンリッチリンカー(311)、およびV
H(312)ドメインからなる2つのサブユニットのホモダイマーとして発現される、免疫グロブリン捕捉分子(302)である。免疫グロブリン捕捉分子の免疫グロブリン結合部分の2つのサブユニットは、各鎖のヒンジ領域(313)におけるジスルフィド結合を介して共有結合している。発現された免疫グロブリン捕捉分子は、膜貫通ドメイン(315)によって、細胞膜(316)につなぎ止められるか、あるいは、固定されている。
【0065】
図4は、免疫グロブリン捕捉分子のscFVの実施形態による細胞表面上の免疫グロブリン捕捉分子の提示を図示している。すでに実証されたように、抗体分泌細胞(401)は、通常、抗原受容体の膜結合型形態を発現せず、それらが分泌する免疫グロブリン分子(402)を細胞表面に提示する能力を欠いている。免疫グロブリン捕捉分子(403)のscFvバージョンの発現は、免疫グロブリン分子(402)のいくつかが小胞体中で合成され、続いて分泌のためにベシクルにパッケージングされるときに、あるいは、それらの分泌の直後に、細胞表面上に保持されることを可能にする。次いで、細胞表面上の捕捉された免疫グロブリン分子(402)への抗原(404)の結合によって、抗原特異的ASCが特定される。ASC上の抗原結合の検出は、フルオロフォアまたは他の任意のレポーター分子で直接標識された抗原を用いて、達成される。
【0066】
トランスジェニック細胞ライブラリー
本発明のトランスジェニック細胞はまた、ASC表面上の目的の抗体を特定するための発現ライブラリー、好ましくは低複雑性のライブラリーを作製するために用いられる。従って、本発明はまた、ASC上に発現された抗原特異的抗体を特定するための、本発明の細胞技術を用いて作製された抗体ライブラリーを含む。
【0067】
トランスジェニック動物
本発明はまた、ASCの細胞表面上に免疫グロブリン捕捉分子を発現するように遺伝子組換えしたトランスジェニック動物を提供する。
【0068】
好ましい局面において、本発明のトランスジェニック動物はさらに、ヒト免疫グロブリン領域を含む。内因性マウス免疫グロブリン領域をヒト免疫グロブリン配列と置換して、創薬目的のために部分的または完全なヒト抗体を作製するための多くの方法が開発されている。これらのマウスの例には、例えば、米国特許番号第7,145,056号;第7,064,244号;第7,041,871号;第6,673,986号;第6,596,541号;第6,570,061号;第6,162,963号;第6,130,364号;第6,091,001号;第6,023,010号;第5,593,598号;第5,877,397号;第5,874,299号;第5,814,318号;第5,789,650号;第5,661,016号;第5,612,205号;第および5,591,669号に記載されるものが含まれる。
【0069】
抗体のVHおよびVLドメインをコードするエクソンは、生殖細胞系DNAに存在しない。代わりに、各VHまたはVLエクソンは、H鎖遺伝子座に存在するランダムに選択されるV、DおよびJ遺伝子の組換えによって、または軽鎖遺伝子座におけるランダムに選択されるVおよびJ遺伝子の組換えによって、それぞれ生成される。H鎖遺伝子座には複数のV、D、およびJ遺伝子が存在し、並びに、各L鎖遺伝子座には複数のVおよびJ遺伝子が存在し、よって、H鎖VDJ再編成の順列が、L鎖VJ遺伝子再配列の順列と組み合わせられた場合に、個体ごとに広範な抗体多様性レパートリーを生成することが可能である。
【0070】
特に好ましい局面において、本発明のトランスジェニック動物は、同時係属出願である米国出願公開第2013/0219535号に記載されており、本明細書にその全体が参照により組み込まれる。これらのトランスジェニック動物は、内因性非コード配列を変更することなく、内因性非ヒトV、D、およびJ遺伝子コード配列がヒト起源のものに置換された、部分的に導入されたヒト免疫グロブリン領域を含むゲノムを有する。好ましくは、本発明のトランスジェニック細胞および動物は、内因性免疫グロブリン遺伝子の一部または全部が除去されたゲノムを有する。
【0071】
他の局面において、本発明のトランスジェニック動物はトリであり、好ましくはニワトリである。
【0072】
抗体産生における使用
インビトロで細胞を培養することは、多数の治療用バイオテクノロジー産物の産生の基礎となっており、細胞中のタンパク質産物の産生および支持培地への放出を伴う。培養中の増殖する細胞からの経時的なタンパク質産生の量および質は、例えば細胞密度、細胞周期、タンパク質の細胞生合成速度、細胞の生存率および増殖を支持するために用いられる培地の条件、並びに、培養中の細胞の寿命などの、多くの因子に依存する(例えば、Fresney, Culture of Animal Cells, Wiley, Blackwell (2010);および Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, Ozturk and Ha, Eds., CRC Press, (2006) 参照)。
【0073】
モノクローナル抗体などの特定の産物では、実際に該産物を産生する細胞の存在およびタンパク質発現効率を増強することが、効率的なタンパク質産生の重要な局面である。抗体を分泌するASCの表面上でそれらの抗体を捕捉することは、それらの免疫グロブリン特異性に基づいてASCを識別する機会を提供し、このことは次に、様々な用途のための抗体の産生を最適化および増強する機会を提供する。
したがって、本発明は例えば以下の実施形態を提供する。
[1]
細胞表面に、内因的に産生された免疫グロブリン分子を、結合、保持、および提示し得る膜結合型免疫グロブリン捕捉分子を発現することができる抗体分泌細胞を生成する方法であって、抗体分泌細胞、または、抗体分泌細胞の前駆細胞に、プロモーター、免疫グロブリン結合ペプチドをコードする核酸配列、および細胞表面テザーペプチドをコードする核酸配列を含む核酸ベクターを導入するステップを含む方法。
[2]
免疫グロブリン結合ペプチドが、免疫グロブリンに対して天然に親和性を有する1つ以上の細菌タンパク質に由来する、前記[1]に記載の方法。
[3]
細菌タンパク質が、プロテインAまたはプロテインGである、前記[2]に記載の方法。
[4]
前記[2]に記載の方法によって生成された抗体分泌細胞に由来する、免疫グロブリン分子の一部または全部。
[5]
免疫グロブリン結合ペプチドが、別の免疫グロブリンの任意の部分に親和性を有する免疫グロブリンの、1つ以上の可変ドメインに由来する、前記[1]に記載の方法。
[6]
前記[5]に記載の方法によって生成された抗体分泌細胞に由来する、免疫グロブリン分子の一部または全部。
[7]
抗体分泌細胞が、ハイブリドーマ細胞、または、Bリンパ球系の細胞である、前記[1]に記載の方法。
[8]
前記[7]に記載の方法によって生成された細胞に由来する、免疫グロブリン分子の一部または全部。
[9]
プロモーターが、構成的プロモーターである、前記[1]に記載の方法。
[10]
プロモーターが、抗体分泌細胞において免疫グロブリン捕捉分子を優先的に発現し、抗原遭遇前のB細胞発生中は最小限の発現である、前記[9]に記載の方法。
[11]
プロモーターが、Bリンパ球誘導成熟タンパク質1、シンデカン1、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17、またはフコシルトランスフェラーゼ1遺伝子から選択される、前記[10]に記載の方法。
[12]
プロモーターが、誘導性プロモーターである、前記[1]に記載の方法。
[13]
誘導性プロモーターが、テトラサイクリン応答性プロモーター、または、タモキシフェン応答性プロモーターである、前記[12]に記載の方法。
[14]
細胞表面テザーペプチドが、膜貫通ペプチドである、前記[1]に記載の方法。
[15]
膜貫通ペプチドが、ヒトリンパ球活性化遺伝子3、ヒトCD58、ラットCD2、または、ヒトCD7である、前記[14]に記載の方法。
[16]
細胞表面テザーペプチドが、免疫グロブリン結合ペプチドを抗体分泌細胞の細胞表面につなぎ止めるために翻訳後修飾され得るペプチド配列である、前記[1]に記載の方法。
[17]
C末端ペプチド配列が、細胞膜へのグリコシルフォスファチジルイノシトール結合を媒介する、前記[16]に記載の方法。
[18]
核酸ベクターが、ストーク構造をコードする核酸配列をさらに含む、前記[1]に記載の方法。
[19]
核酸ベクターが、レポーターペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、前記[1]に記載の方法。
[20]
レポーターペプチドが蛍光ペプチドである、前記[19]に記載の方法。
[21]
核酸ベクターが、IRES配列、または、ピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列をさらに含む、前記[19]に記載の方法。
[22]
核酸ベクターが、シグナルペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、前記[1]に記載の方法。
[23]
核酸ベクターが、IRES配列またはピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列に連結したストーク構造およびレポーターペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、前記[22]に記載の方法。
[24]
前記[1]に記載の方法によって産生される抗体分泌細胞。
[25]
前記[24]に記載の抗体分泌細胞由来の、免疫グロブリン分子の一部または全部。
[26]
抗体分泌細胞が、抗体の大規模産生に用いられる、前記[1]に記載の方法。
[27]
細胞表面テザー部分および免疫グロブリン結合部分を含む免疫グロブリン捕捉分子をコードする遺伝子を含む抗体分泌細胞を含む遺伝子組換え動物であって、免疫グロブリン捕捉分子が、抗体分泌細胞の細胞表面で、内因的に産生された免疫グロブリン分子を、結合、保持、および提示し得る、遺伝子組換え動物。
[28]
抗体分泌細胞が、免疫グロブリン捕捉分子を構成的に発現する、前記[27]に記載の遺伝子組換え動物。
[29]
抗体分泌細胞が、インビボ、インビトロ、またはエクスビボで免疫グロブリン捕捉分子を発現するように誘導され得る、前記[27]に記載の遺伝子組換え動物。
[30]
動物が哺乳動物である、前記[27]に記載の遺伝子組換え動物。
[31]
動物がげっ歯類である、前記[30]に記載の遺伝子組換え動物。
[32]
げっ歯類が、マウスまたはラットである、前記[30]に記載の遺伝子組換え動物。
[33]
抗体分泌細胞の細部表面に免疫グロブリン分子を、結合、保持、および提示し得る膜結合型免疫グロブリン捕捉分子を発現させるためのベクターであって、プロモーター、免疫グロブリン結合ペプチドをコードする核酸配列、および、細胞表面テザーペプチドをコードする核酸配列を含むベクター。
[34]
IRES配列またはピコルナウイルス2Aリボソームスキップ配列に連結したシグナルペプチド、ストーク構造、および、レポーターペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、前記[33]に記載のベクター。
【実施例】
【0074】
以下の実施例は、当業者に、本発明の実施方法および使用方法の完全な開示および説明を提供するために提示されるものであり、発明者が発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また、以下の実験が実施された実験の全てであるか、または、実施された唯一の実験であることを、表すか、または、示唆することを意図したものではない。当業者であれば、特定の実施形態に示されるように、広範に記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、本発明に対して多くの変形および/または修正を行うことができることは理解されるであろう。本実施形態は、従って、全ての点で例示的であって、限定的ではないと考えられるべきである。
【0075】
使用される用語および数字(例えば、ベクター、量、温度など)に関する正確さを保証するための努力がなされているが、いくらかの実験誤差および偏差が考慮されるべきである。他に示さない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧またはそれに近い。
【0076】
実施例1:最小プロテインG含有膜結合型免疫グロブリン捕捉分子の発現
ストークを有さない免疫グロブリン捕捉分子の小さな膜結合型形態をコードする発現ベクターは、直接的なDNA合成、または、標準的な分子クローニング技術によって生成される。このベクターのタンパク質コード部分(501)の図が、
図5Aに示されている。該発現ベクターは、ヒトLAG3(またはCD223)タンパク質由来の膜貫通ドメイン(506)[配列番号17]によって細胞表面につなぎ止められる、連鎖球菌のプロテインGの2つの免疫グロブリン結合ドメイン(504)[配列番号8]をコードする。Gly-Ser-Gly-Ser-Gly-Ser配列からなる短いリンカー(505)(配列番号28)をコードするDNAのフラグメントは、発現されたタンパク質に構造的可動性を提供するために、プロテインG免疫グロブリン結合ドメイン(504)をコードするDNAフラグメントと、膜貫通ドメイン(506)をコードするDNAフラグメントとの間に配置されている。最後に、シグナルペプチド(リーダーペプチド)(503)をコードする配列が該構築物に含まれ、生合成中の小胞体の内腔への免疫グロブリン捕捉分子の押し出しを可能にする。本実施例におけるシグナルペプチド配列は、免疫グロブリン軽鎖可変(V
L)遺伝子セグメントに由来し、その天然のイントロン(503)[配列番号1~3]を含む。プロモーターは、(502)で示されている。本実施例の免疫グロブリン捕捉分子を含む様々な構成成分のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、表1および表2に明記されている。
【0077】
発現ベクターを、エレクトロポレーションのなどの通常の利用可能な方法を用いて、様々な骨髄腫、ハイブリドーマまたは他の細胞株にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトされた細胞を、免疫蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、および/または膜タンパク質画分のイムノブロッティングなどの手順を用いて、免疫グロブリン捕捉分子の表面発現について調べる。細胞表面免疫グロブリン捕捉分子が、トランスフェクトされた細胞によって産生された免疫グロブリン、またはそれらに加えられた免疫グロブリンを保持する能力について、これらの手順のサブセットを用いて、細胞をさらに分析する。
【0078】
図5Bは、形状細胞腫細胞株における小さな免疫グロブリン捕捉分子の発現、および、該細胞株が細胞表面上に免疫グロブリン分子を保持する能力を図示する。ヒトRPMI 8226(ATCC(登録商標) CCL-155
(商標))細胞を、Blimp1プロモーター(502)の制御下で免疫グロブリン捕捉分子(501)をコードするDNAプラスミドでトランスフェクトした。該細胞を、マウスIgGをコードするプラスミドで、同時トランスフェクトした。トランスフェクトされていない細胞(上図、507)と比較して、トランスフェクトされた細胞(下図、508)は、細胞表面上に捕捉された免疫グロブリンを示す。
【0079】
次いで、トランスジェニック動物を生成して、ASC上にプロテインGを含有する膜結合型免疫グロブリン捕捉分子を発現させ、トランスジーンによりコードされた分子がASC上で免疫グロブリンを捕捉する能力を、トランスジェニックマウスより取得したASC上で、標準的なフローサイトメトリーにより直接決定した。
【0080】
実施例2:ストークを含有する、プロテインG含有膜結合型免疫グロブリン捕捉分子の発現
長いストークを含有する免疫グロブリン捕捉分子の膜結合型形態をコードする発現ベクターを、直接的なDNA合成、または、標準的な分子クローニング技術によって生成する。該発現ベクターは、連鎖球菌のプロテインGのC末端側半分に由来する3つの免疫グロブリン結合ドメイン[配列番号9]をコードする。Gly-Ser-Gly-Ser-Gly-Ser[配列番号28]配列からなる短いリンカーをコードするDNAフラグメント、ヒトCD22タンパク質由来の6つの免疫グロブリンドメインからなるストーク[配列番号16]、およびヒトCD58に由来する膜貫通ドメイン[配列番号18]を、該ベクターの免疫グロブリン結合ドメインをコードするDNA断片に付加する。最後に、免疫グロブリン捕捉分子のオープンリーディングフレーム全体の前に、シグナルペプチド(リーダーペプチド)をコードする配列を配置して、生合成中の小胞体の内腔への翻訳タンパク質の押し出しを可能にする。本実施例のシグナルペプチドをコードする配列は、免疫グロブリン重鎖可変(VH)遺伝子セグメントに由来し、天然のイントロンを含む[配列番号5~7]。本実施例の免疫グロブリン捕捉分子を含む構成成分の、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、表1および表2に明記されている。
【0081】
発現ベクターを、エレクトロポレーションのなどの通常の利用可能な方法を用いて、様々な骨髄腫、ハイブリドーマまたは他の細胞株にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトされた細胞を、免疫蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、および細胞膜タンパク質画分のイムノブロッティングなどの手順を用いて、プロテインG分子の表面発現について調べる。細胞表面免疫プロテインGが、トランスフェクトされた細胞によって産生された免疫グロブリン、またはそれらに加えられた免疫グロブリンを保持する能力について、これらの手順のサブセットを用いて、細胞をさらに分析する。
【0082】
次いで、トランスジェニック動物を生成して、ASC内でプロテインG、CD22およびCD58融合体から成る膜結合型免疫グロブリン捕捉分子を発現させ、トランスジーンによりコードされた分子がASC上で免疫グロブリンを捕捉する能力を、トランスジェニックマウスより取得したASC上で、標準的なフローサイトメトリーにより直接決定する。
【0083】
実施例3:GPI翻訳後修飾により細胞膜に固定されたプロテインG含有免疫グロブリン捕捉分子の発現
連鎖球菌のプロテインGに由来する2つの免疫グロブリン結合ドメインをコードする発現ベクターを合成する。該発現ベクターのプロテインGをコードする配列の下流には、以下をコードするDNAフラグメントが含まれる:グリシン/セリンリッチリンカー配列、ヒトCD4の2つの免疫グロブリンドメインから成るストーク、およびGPIアンカー配列。最後に、シグナルペプチド配列(リーダー配列)が該構築物に含まれ、生合成中の小胞体の内腔への翻訳タンパク質の押し出しを可能にする。本実施例のシグナルペプチドをコードする配列は、免疫グロブリン軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントに由来し、天然のイントロンを含む。本実施例の免疫グロブリン捕捉分子を含む構成成分の、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、表1および表2に明記されている。GPIアンカー配列は、表3に明記されている。
【0084】
発現ベクターを、エレクトロポレーションのなどの通常の利用可能な方法を用いて、様々な骨髄腫、ハイブリドーマまたは他の細胞株にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトされた細胞を、免疫蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、および細胞膜タンパク質画分のイムノブロッティングなどの手順を用いて、プロテインG分子の表面発現について調べる。細胞表面プロテインGが、トランスフェクトされた細胞によって産生された免疫グロブリン、またはそれらに加えられた免疫グロブリンを保持する能力について、これらの手順のサブセットを用いて、細胞をさらに分析する。
【0085】
次いで、トランスジェニック動物を生成して、ASC内でGPIアンカー免疫グロブリン捕捉分子を発現させ、トランスジーンによりコードされた分子がASC表面上で免疫グロブリンを捕捉する能力をトランスジェニックマウスより取得したASC上で、標準的なフローサイトメトリーにより直接決定する。
【0086】
実施例4:免疫グロブリン定常領域に特異的な抗体由来の膜結合型scFvの発現
免疫グロブリンの定常ドメインに特異的なscFVをコードする発現ベクターを、標準的な分子クローニングまたは、直接的なDNA合成によって生成する。本実施例において、単鎖抗体は、正常マウスに見られる抗体のうち90%を超える抗体に存在する、マウスκ軽鎖の定常ドメインに特異的である。VL、リンカー、およびVH配列を含むscFvをコードするエクソンは、それぞれ、[配列番号43~48]に明記されている。該発現ベクターのscFvをコードする配列の下流には、以下から成るラットIgG1のFc部分をコードする連続した配列が含まれる:分泌型形態のヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン。ラットIgG1のFcをコードする配列は、[配列番号49]に明記されている。該ベクターはまた、マウスの主要組織適合抗原クラスIタンパク質(ハプロタイプb由来のマウスK分子)の膜貫通ドメインをコードする配列を含み、これらは[配列番号50~54]に明記されている。
【0087】
発現ベクターを、エレクトロポレーションのなどの通常の利用可能な方法を用いて、様々な骨髄腫、ハイブリドーマ、および他の細胞株にトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を、免疫蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、および細胞膜タンパク質画分のイムノブロッティングなどの手順を用いて、単鎖抗体分子の表面発現について調べる。細胞表面単鎖抗体分子が、トランスフェクトされた細胞によって産生された免疫グロブリン、またはそれらに加えられた免疫グロブリンを保持する能力について、これらの手順のサブセットを用いて、細胞をさらに分析する。
【0088】
次いで、トランスジェニック動物を生成して、ASC上にscFv含有免疫グロブリン捕捉分子を発現させ、トランスジーンによりコードされた分子がASC表面上で免疫グロブリンを捕捉する能力を、該マウスより取得したASC上で、標準的なフローサイトメトリーにより直接決定する。
【0089】
実施例5:目的の抗原に対してモノクローナル抗体を産生するASCを単離するための、免疫グロブリン捕捉分子を発現するトランスジェニック動物の使用
トランスジェニックマウスは、ヒトTNFRSF17遺伝子のプロモーター、例えば実施例1~4に示す免疫グロブリン捕捉分子のコード配列、IRES配列、およびGFPを含有する細菌性の人工染色体ベクターを用いて生成される。いくつかのトランスジェニック樹立系統(transgenic founder line)由来の、脾臓、リンパ節、および骨髄を採取して処理し、GFP並びに免疫グロブリン捕捉分子の発現を標準的なフローサイトメトリーで解析する。その後、トランスジェニックマウス由来のGFP陽性細胞をプールし、選別し、免疫グロブリンを分泌する能力について、酵素結合免疫スポット(ELISPOT)によって確認する。検出可能なレベルのGFPおよび免疫グロブリン捕捉分子を安定的に発現するトランスジェニック系統を増殖のために選択する。
【0090】
成体トランスジェニックマウスを、目的の抗原で免疫化する。脾臓並びに関連するリンパ節を、免疫化したマウスから単離し、処理して、フローサイトメトリー解析のために染色する。さらに、単離した細胞を、フローサイトメトリー染色の間に抗原結合に供する。抗原を、標識されたアビジン、ストレプトアビジンまたは類似の系と一緒に使用するために、フルオロフォアまたはビオチンのいずれかで直接標識する。ASCを、GFP陽性染色並びに抗原陽性染色に基づいて選別する。
【0091】
次いで、当業者によく知られている確立された方法を用いて、精製したASCを骨髄腫細胞に融合させて、ハイブリドーマ細胞を生成する。本発明において、免疫グロブリン捕捉分子を発現させるために提供される方法はまた、GFP発現に基づく、並びに、細胞表面上に捕捉された抗原の陽性染色に基づく、ハイブリドーマ細胞のスクリーニングを可能にする。
【0092】
あるいは、精製したASCを個々に選別し、それらのV
HおよびV
Lドメインをコードする遺伝子を、単一細胞に適合したRT-PCRまたは5’RACE技術によってクローニングする。クローニングされたV
HおよびV
Lコード配列は、重鎖および軽鎖の所望の定常領域をコードする配列を含有する発現ベクターに、それぞれサブクローニングする。V
HおよびV
L発現ベクターを、HEK-293TまたはCHO細胞株にトランスフェクトし、分泌されたモノクローナル抗体をさらに、抗原結合およびその他の機能について試験する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表2-1】
【表2-2】
【表3】
【表4-1】
【表4-2】
【0093】
以上の記載は単に本発明の原理を例示するにすぎない。当業者であれば、本明細書に明示的に記載または図示していないが、本発明の原理を具体化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案できることが理解されるであろう。さらに、本明細書に記載されているすべての例および条件の言い回しは、主として、本発明の原理および発明者が当該技術を促進することに貢献する概念を理解する上で読み手を助けることを意図しているものであり、これらの具体的に記載された例および条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。その上、本発明の原理、局面、および実施形態ならびにそれらの具体例を記載する本明細書におけるすべての記述は、それらの構造的および機能的等価物の両方を包含することが意図されている。加えて、これらの等価物には、現在知られている等価物と将来開発される等価物の両方、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を実行する任意の開発される要素が含まれることが意図されている。従って、本発明の範囲は、本明細書で示された、および、記載された例示的実施形態に限定されることを意図していない。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。以下の特許請求の範囲において、「手段」という用語が使用されていない限り、そこに列挙された特徴または要素のいずれも、米国特許法第112条第6項に基づくミーンズ・プラス・ファンクションの限定として解釈されるべきではない。
【配列表】