(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】IL13Rα2を標的とする共刺激性キメラ抗原受容体T細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20221108BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221108BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221108BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221108BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221108BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221108BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
A61K35/17
A61K38/16
A61P35/00
C07K19/00
C12N5/0783
C12N5/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021169396
(22)【出願日】2021-10-15
(62)【分割の表示】P 2020017583の分割
【原出願日】2015-09-18
【審査請求日】2021-11-15
(32)【優先日】2014-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598004424
【氏名又は名称】シティ・オブ・ホープ
【氏名又は名称原語表記】City of Hope
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,クリスティン イー
(72)【発明者】
【氏名】フォーマン,スティーブン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】アーメン,マルディロス
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501180(JP,A)
【文献】特表2009-515555(JP,A)
【文献】国際公開第2014/031687(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/065818(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/079000(WO,A1)
【文献】Journal for ImmunoTherapy of Cancer,2013年,Vol.1, No.Suppl.1,P18
【文献】Clin. Cancer Res.,2012年,Vol.18,pp.5949-5960
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 19/00
A61K 35/17
A61K 38/16
A61P 35/00
C12N 5/0783
C12N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10で表されるアミノ酸配列を含む、キメラ抗原受容体
分子。
【請求項2】
さらに、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む、GMCSFaシグナルペプチドを含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体分子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体分子を発現するヒトT細胞の集団。
【請求項4】
T細胞は、セントラルメモリーT細胞を含む、請求項3に記載のヒトT細胞の集団。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のヒトT細胞の集団を含む、患者のがんの治療に用いるための医薬組成物。
【請求項6】
ヒトT細胞は患者の自己由来である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ヒトT細胞は患者の同種異系である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
がんが、膠芽細胞腫である、請求項5~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
組換えT細胞を用いる治療を含む、腫瘍特異的T細胞に基づく免疫療法は、抗腫瘍治療のために研究されている。当該治療に用いられるT細胞は、生体内で十分な期間、活性を維持しない場合がある。T細胞の腫瘍特異性が比較的低い場合がある。したがって、本技術分野では、抗腫瘍作用(functioning)がより長期に及ぶ腫瘍特異的がん治療に対する要望がある。
【背景技術】
【0002】
未分化星状細胞腫(AA-グレードIII)、及び膠芽細胞腫(GBMグレードIV)を含む、悪性神経膠腫(Malignant gliomas, MG)の発生率は、米国では毎年約2万例が新たに診断されている。米国脳腫瘍協会によると、米国の2010年の国勢調査データに基づく悪性脳腫瘍がある個人の総有病者数は約14万人である。MGは希少疾患であるが、その悪性度は非常に高く、異質かつ不均一であり、かつ、ほぼ一様に致死的である。高悪性度MGに対する現在の標準的な治療法では、短期的な効果しか得られず、かつ、これらの脳腫瘍は事実上不治の病である。実際、最新の外科的、及び放射線治療技術をもってしても、病巣が中枢神経系(CNS)に存在するため、すでに重度である病的状態を悪化させることが多く、5年生存率はかなり低い。さらに、疾患が再発した患者の大部分には、治療選択肢はほとんどない。そのため、より効果的な治療法に対する要望があり、特に、初期(frontline)療法後に、再発/進行した患者の臨床試験における患者集団としての参加に対する要望がある。
【0003】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞は、抗原特異的な腫瘍集団を特異的に認識するように設計することができ(非特許文献1~5)、かつ、T細胞は脳実質を通過して移動し、浸潤性悪性細胞を標的として殺傷できるため(非特許文献6~8)、CAR組換えT細胞を利用する養子T細胞療法(adoptive T cell therapy;ACT)は、MGの再発率を低下させる、安全かつ有効な方法を提供することができる。前臨床試験では、IL13Rα2標的化CAR+T細胞が、幹細胞様(stem-like)、及び分化した神経膠腫(glioma)細胞に対して、主要組織適合複合体(MHC)に依存しない強力なIL13Rα2特異的細胞溶解活性を呈し、かつ、生体内で確立された神経膠腫異種移植の退縮を誘発することが実証されている(非特許文献4、及び9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Cartellieri et al. 2010 JBiomed Biotechnol 2010:956304
【文献】Ahmed et al. 2010 Clin Cancer Res 16:474
【文献】Sampson et al. 2014 Clin Cancer Res 20:972
【文献】Brown et al. 2013 Clin Cancer Res 2012 18:2199
【文献】Chow et al. 2013 Mol Ther 21 :629
【文献】Hong et al. 2010 Clin Cancer Res 16:4892
【文献】Brown et al. 2007 J Immunol 179:3332
【文献】Yaghoubi 2009 Nat Clin PRact Oncol 6:53
【文献】Kahlon et al. 2004 Cancer Res 64:9160
【発明の概要】
【0005】
本明細書は、細胞外ドメイン、膜貫通領域、及び細胞内シグナル伝達ドメイン、を含むキメラ膜貫通免疫受容体(キメラ抗原受容体、又はCAR)に関する。細胞外ドメインは、インターロイキン-13Rα2(IL13Rα2)に結合するIL-13リガンド、及び場合によっては、例えばヒトFcドメインの一部を含む、スペーサーで構成される。膜貫通部分としては、CD4膜貫通ドメイン、CD8膜貫通ドメイン、CD28膜貫通ドメイン、CD3膜貫通ドメイン、又は4-IBB膜貫通ドメインがあげられる。細胞内シグナル伝達ドメインとしては、ヒトCD3複合体のゼータ鎖由来のシグナル伝達ドメイン(CD3ζ)、及び1又はそれ以上の共刺激ドメイン、例えば、4-1BB共刺激ドメインがあげられる。この細胞外ドメインにより、CARが、T細胞の表面上に発現した場合、T細胞の活性を、神経膠腫を含む腫瘍細胞の表面上に発現される受容体である、IL13Rα2を発現させることができるようにする。重要なのは、CARのIL13Rα2結合部分は、結合特異性を高めるアミノ酸修飾、例えばE13Y変異を含むことである。細胞内領域に、CD3ζと直列の4-1BB(CD137)共刺激ドメイン等の共刺激ドメインを含まれると、T細胞は共刺激シグナルを受け取ることができる。T細胞、例えば患者特異的な自己T細胞は、本明細書に関するCARを発現するように設計でき、かつ、設計された細胞を培養して、ACTに用いることができる。様々なT細胞サブセットを用いることができる。さらに、CARは、NK細胞等の他の免疫細胞でも発現させることができる。本明細書に関するCARを発現する免疫細胞で患者を治療する場合、当該細胞は、自己由来(autologous)、又は同種異系の(allogenic)T細胞でありうる。場合によっては、CD45RO+CD62L+である、CD4+、及びCD8+セントラルメモリーT細胞(TCM)であり、当該細胞を用いると、他の患者特異的T細胞と比較して、養子移入(adoptive transfer)後の細胞の長期持続性を改善することができる。
【0006】
本明細書は、キメラ抗原受容体(CAR)rをコードする核酸分子であって、前記キメラ抗原受容体が、以下の:ヒトIL-13、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体;CD4膜貫通ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、CD8膜貫通ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、CD28膜貫通ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、及びCD3ζ膜貫通ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、から選択される膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン;及び、CD3ζシグナル伝達ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体;を含む、核酸分子に関する。
【0007】
様々な実施形態では、共刺激ドメインは、CD28共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、4-IBB共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、及びOX40共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、からなる群から選択される。特定の実施形態では、4-IBB共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体が存在する。
【0008】
さらなる実施形態では、前記CARは、以下の:IL13Rα2とIL13Rα1の結合特異性を高める、1~10個のアミノ酸修飾がある、ヒトIL13の変異体;前記ヒトIL-13、又はその変異体が、配列番号3の第11位のアミノ酸がE以外であり、1~5個のアミノ酸修飾がある、配列番号3のアミノ酸配列を含む、IL-13変異体であり;CD28共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、4-IBB共刺激ドメイン、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、及びOX40共刺激ドメイ、又は1~10個(例えば、1又は2)のアミノ酸修飾があるその変異体、からなる群から選択される、異なる2つの共刺激ドメイン;CD28共刺激ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、4-IBB共刺激ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、及びOX40共刺激ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、からなる群から選択される、異なる2つの共刺激ドメイン;ヒトIL-13、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体;CD4膜貫通ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、CD8膜貫通ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、CD28膜貫通ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、CD3ζ膜貫通ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体、からなる群から選択される、膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン;かつ、CD3ζシグナル伝達ドメイン、又は1~2個のアミノ酸修飾があるその変異体;前記IL-13、又はその変異体と、前記膜貫通ドメインとの間に位置するスペーサー領域(例えば、前記スペーサー領域が、配列番号4,14~20,50、及び52からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む);前記スペーサーが、IgGヒンジ領域を含み;前記スペーサー領域が10~150のアミノ酸を含み;前記4-1BBシグナル伝達ドメインが、配列番号6のアミノ酸配列を含み;前記CD3ζシグナル伝達ドメインが、配列番号7のアミノ酸配列を含み;及び、3~15個のアミノ酸のリンカーが、前記共刺激ドメインと前記CD3ζシグナル伝達ドメイン、又はその変異体との間に位置する;を含む。2つの共刺激ドメインが存在する特定の実施形態では、一方は4-IBB共刺激ドメインであり、他方はCD28、及びCD28ggから選択される、共刺激ドメインである。
【0009】
いくつかの実施形態では、核酸分子は、配列番号10,31~48、及び52から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドを発現し;前記キメラ抗原受容体は、配列番号11のアミノ酸を含む、IL-13/IgG4/CD4t/41-BB領域、及び配列番号7のアミノ酸配列を含む、CD3ζシグナル伝達ドメインを含み;前記キメラ抗原受容体は、配列番号10,31~48、及び52のアミノ酸配列を含む。
【0010】
また、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入されたヒトT細胞集団であって、キメラ抗原受容体が、以下の:ヒトIL-13、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体;CD4膜貫通ドメイン、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体、CD8膜貫通ドメイン、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体、CD28膜貫通ドメイン、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体、及びCD3ζ膜貫通ドメイン、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体、から選択される膜貫通ドメイン;共刺激ドメイン;及び、CD3ζシグナル伝達ドメイン、又は1~10個のアミノ酸修飾があるその変異体;を含む、T細胞集団が開示される。様々な実施形態では、ヒトT細胞集団は、配列番号10,31~48、及び52から選択されるアミノ酸配列を含むキメラ抗原受容体を発現するベクターを含み;前記T細胞集団が、セントラルメモリーT細胞(Tcm細胞)を含み(例えば、前記細胞の少なくとも、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%は、Tcm細胞であり;前記Tcm細胞の少なくとも、15%、20%、25%、30%、35%は、CD4+であり、前記Tcm細胞の少なくとも、15%、20%、25%、30%、35%が、CD8+細胞である)。
【0011】
また、患者のがんを治療する方法であって、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むベクターによって形質導入された自己、又は同種異系のヒトT細胞集団(例えば、Tcm細胞を含む、自己又は同種異系のヒトT細胞、例えば細胞の少なくとも、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%は、Tcm細胞であり;Tcm細胞の少なくとも、15%、20%、25%、30%、35%は、CD4+であり、Tcm細胞の少なくとも、15%、20%、25%、30%、35%は、CD8+である)を投与することを含み、ここで、キメラ抗原受容体が、配列番号10,31~48、及び52から選択されるアミノ酸配列を含む、方法に関する。様々な実施形態では、ヒトT細胞集団は、セントラルメモリーT細胞を含み;がんは膠芽腫(glioblastoma)であり;かつ、形質導入されたヒトT細胞は、前記患者からT細胞を得る工程と、前記T細胞を処理してセントラルメモリーT細胞を単離する工程と、及び前記セントラルメモリー細胞の少なくとも一部分を、キメラ抗原受容体をコードする発現カセットを含むウイルスベクターで形質変換する工程と、を含む方法により作製され;ここで、前記キメラ抗原受容体は、配列番号10,31~48、及び52から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
配列番号10、並びに配列番号10,31~48、及び52、から選択されるアミノ酸配列と、少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドをコードする核酸分子;5個以下のアミノ酸置換、欠失、又は挿入の存在を除き、配列番号10,31~48、及び52、から選択されるアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドをコードする核酸分子;5個以下のアミノ酸置換の存在を除き、配列番号10、並びに配列番号10,31~48、及び52、から選択されるアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドをコードする核酸分子;及び、2個以下のアミノ酸置換の存在を除き、配列番号10、並びに配列番号10,31~48、及び52、から選択されるアミノ酸配列を含む、ポリペプチドをコードする核酸分子;もまた、本明細書に関する。
【0013】
本明細書に関する、あるCAR、例えばIL13(EQ)BBζCAR、及びIL13(EQ)CD28-BBζCARには、特定の他のIL13標的化CARと比較して、特定の有利な特徴がある。例えば、これらのIL13Rαに対する選択性は向上されており、Th2サイトカイン産生、特に、IL13産生をより抑制させる。
【0014】
IL13Rα2を標的とする、CARを発現するT細胞は、膠芽細胞腫等のがん、並びに髄芽細胞腫、乳がん、頭頸部がん、腎がん、卵巣がん、及びカポジ肉腫を含むが、これらに限定されない、IL13Rα2を発現する他のがんの治療に有用でありうる。したがって、本開示は、本明細書に関するCARを発現するT細胞を用いて、がんを治療するための方法を含む。
【0015】
本開示はまた、本明細書に関するCARのいずれかをコードする核酸分子(例えば、CARのうちの1つをコードする核酸配列を含むベクター)、及び本明細書に関するCARのいずれかを発現する、単離されたTリンパ球を開示する。
【0016】
本明細書に関するCARは、IL13ドメインと、膜貫通ドメインとの間に位置する、スペーサー領域を含むことができる。様々な、異なるスペーサーを用いることができる。それらのいくつかは、ヒトFc領域の少なくとも一部、例えばヒトFc領域のヒンジ部分、又はCH3ドメイン、又はその変異体を含む。以下の表1は、本明細書に関するCARに用いられることができる、様々なスペーサーを提供する。
【0017】
表1:スペーサーの例示
【0018】
【0019】
【表2】
いくつかのスペーサー領域は、免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)ヒンジ領域、すなわち免疫グロブリンのCH1ドメイン、とCH2ドメインとの間にある配列の全部、又は一部、例えばIgG4 Fcヒンジ、又はCD8ヒンジ、を含む。いくつかのスペーサー領域は、免疫グロブリンCH3ドメイン、又はCH3ドメイン、及びCH2ドメインをともに含む。免疫グロブリン由来の配列は、1又はそれ以上のアミノ酸修飾、例えば、1,2,3,4又は5個の置換、例えば、オフターゲット結合を低下させる置換、を含むことができる。
【0020】
「アミノ酸修飾」とは、タンパク質、又はペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失をいう。「アミノ酸置換」、又は「置換」とは、親ペプチド、又は親タンパク質配列の特定の位置のアミノ酸を、別のアミノ酸で置換することをいう。置換は、得られるタンパク質中のアミノ酸を非保存的に(すなわち、特定の大きさ、又は特徴があるアミノ酸のグループに属するアミノ酸から、他のグループに属するアミノ酸に、コドンを変化させて)、又は保存的に(すなわち、特定の大きさ、又は特徴があるアミノ酸のグループに属するアミノ酸から、同じグループに属するアミノ酸へ、コドンを変化させて)、変える置換をすることができる。このような保存的変化では、一般に、得られるタンパク質の構造、及び機能の変化はより小さい。以下はアミノ酸の様々なグループの例である:
1)非極性R基があるアミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン;
2)極性R基が非荷電であるアミノ酸:グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン;
3)荷電した極性R基があるアミノ酸(pH6.0で負に荷電):アスパラギン酸、グルタミン酸;
4)塩基性アミノ酸(pH6.0で正に帯電):リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0)。他のグループとしては、フェニル基がある、フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシン、のアミノ酸であってよい。
【0021】
[0017] ある実施形態では、スペーサーは、非修飾スペーサー中に存在するアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基で置換された、1又はそれ以上のアミノ酸残基を含むIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4に由来する。1又はそれ以上の置換されたアミノ酸残基は、限定されないが、220,226,228,229,230,233,234,235,234,237,238,239,243,247,267,268,280,290,292,297,298,299,300,305,309,218,326,330,331,332,333,334,336,339位における、1以上のアミノ酸残基、又はそれらの組み合わせから選択される。以下でより詳細に説明するこの番号付けスキームでは、表1のIgG4(L235E、N297Q)スペーサーの最初のアミノ酸は219であり、かつ表1のIgG4(HL-CH3)スペーサーの最初のアミノ酸は219であり、表1のIgGヒンジ配列の最初のアミノ酸、かつIgG4ヒンジリンカー(HL)配列の最初のアミノ酸である。
【0022】
[0018] いくつかの実施形態では、修飾スペーサーは、以下のアミノ酸残基置換:C220S,C226S,S228P,C229S,P230S,E233P,V234A,L234V,L234F,L234A,L235A,L235E,G236A,G237A,P238S,S239D,F243L,P247I,S267E,H268Q,S280H,K290S,K290E,K290N,R292P,N297A,N297Q,S298A,S298G,S298D,S298V,T299A,Y300L,V305I,V309L,E318A,K326A,K326W,K326E,L328F,A330L,A330S,A331S,P331S,I332E,E333A,E333S,E333S,K334A,A339D,A339Q,P396L、又はそれらの組み合わせ、を含むが、これらに限定されない、IgG1,IgG2,IgG3,又はIgG4由来である。
【0023】
[0019] ある実施形態では、当該修飾スペーサーは、未修飾領域に存在するアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基で置換された、1又はそれ以上のアミノ酸残基を含む、IgG4領域由来である。1又はそれ以上の置換アミノ酸残基は、位置220,226,228,229,230,233,234,235,234,237,238,239,243,247,267,268,280,290,292,297,298,299,300,305,309,218,326,330,331,332,333,334,336,339の1又はそれ以上のアミノ酸残基、又はそれらの組合せ、から選択されるが、それらに限定されない。
【0024】
[0020] いくつかの実施形態では、当該修飾スペーサーは、以下のアミノ酸残基置換:220S,226S,228P,229S,230S,233P,234A,234V,234F,234A,235A,235E,236A,237A,238S,239D,243L,247I,267E,268Q,280H,290S,290E,290N,292P,297A,297Q,298A,298G,298D,298V,299A,300L,305I,309L,318A,326A,326W,326E,328F,330L,330S,331S,331S,332E,333A,333S,333S,334A,339D,339Q,396L、又はそれらの組み合わせのうちの1又はそれ以上を含むが、これらに限定されない、IgG4領域由来であり、未修飾スペーサーのアミノ酸は、示された位置で上記の同定されたアミノ酸で置換される。
【0025】
[0021] 本明細書に関する免疫グロブリンのアミノ酸位置について、番号付けは、EU指標、又はEU番号付けスキームによる(本明細書にその全体が参考として援用されるKabat et al.1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health, Bethesda, hereby entirely incorporated by reference)。EU指標、又はKabat、若しくはEU番号付けスキーム等のEU指標は、EU抗体の番号付けをいう(Edelman et al.1969 Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85)。
【0026】
[0022] 様々な膜貫通ドメインを、IL13Ra2に対するCARに用いることができる。表2は、適当な膜貫通ドメインの例を含む。スペーサードメインが存在する場合、膜貫通ドメインはスペーサードメインに対するカルボキシ末端に位置する。
【0027】
表2: 膜貫通ドメインの例示
【0028】
【0029】
【表4】
本明細書に関するCARの多くは、1又はそれ以上(例えば、2つ)の共刺激ドメインを含む。共刺激ドメイン(複数可)は、膜貫通ドメインと、CD3ζシグナル伝達ドメインとの間に位置する。表3は、CD3ζシグナル伝達ドメインの配列、及び適当な共刺激ドメインの例示である。
【0030】
表3:共刺激ドメインの例示
【0031】
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】IL13Rα2特異的ヒトIL-13変異体(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4 Fcスペーサー(huγ
4Fc)、ヒトCD4膜貫通(huCD4tm)、ヒトCD3ζ鎖の細胞質(huCD3ζcyt)部分から構成される、IL13(E13Y)-ゼータカインCAR(左)の概略図である。さらに、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異L235E、及びN297Q(赤で表示)を除いて、IL13(E13Y)-ゼータカインと同じ、IL13(EQ)BBζCAR、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)の挿入も示される。
【
図2】
図2A~Cは、オープンリーディングフレームのいくつかのベクターを示す。Aは、2670ヌクレオチドIL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物のcDNAオープンリーディングフレームの図であり、ここで、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fcヒンジ、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達、3つのグリシンリンカー、及びIL13(EQ)BBZ CARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ、及び切断型CD19配列が示される。IL13(EQ)BBζCAR、及びCD19tの表面発現を駆動するヒトGM-CSF受容体α、及びCD19シグナル配列もまた示される。Bは、宿主ゲノムに組み込まれるであろう長い末端反復(「R」で示される)の隣接(flanked)配列の図である。Cは、IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドのマップである。
【
図5】IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMの作製スキームを示す。
【
図6】
図6A~Cは、表面導入遺伝子、及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。IL-13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を、抗IL-13-PE、及び抗CD8-FITCで同時染色して、CD8+CAR+、及びCD4+(すなわちCD8陰性)CAR+細胞(A)を検出するか、抗CD19-PE、及び抗CD4-FITCで、CD4+CD19t+、及びCD8+(すなわちCD4陰性)CAR+細胞(B)を検出する。蛍光色素結合抗CD3、TCR、CD4、CD8、CD62L、及びCD28(灰色ヒストグラム)、又はアイソタイプ対照(黒色ヒストグラム)で染色した、IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1(C)。すべて、上記アイソタイプを染色した生存リンパ球に基づく比率(DAPI陰性)。
【
図7】
図7A~Bは、IL13(EQ)BBZ+T
CMのIL13Rα2特異的エフェクター機能の生体外機能的特徴付けを示す。IL19(EQ)BBZ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を、CD19t発現に基づく10:1のE:T比を用いた、6時間
51Cr放出アッセイにおいて、エフェクターとして用いた。IL13Rα2陽性腫瘍標的は、IL13Rα2(K562-IL13Rα2)、及び一次神経膠腫系統PBT030-2を発現するように修飾されたK562であり、IL13Rα2陰性腫瘍標的対照は、K562親系統であった(A)。IL13Rα2陽性、及び陰性標的との10:1のE:T比での一晩の同時培養後、IL13(EQ)BBZ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を抗原依存性サイトカイン産生について評価した。サイトカインレベルは、Bio-PlexProヒトサイトカインTH1/TH2アッセイキットを用いて測定し、INF-γを報告した(B)。
【
図8】
図8A~Cは、IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMの養子移入後の、確立された神経膠腫腫瘍異種移植片の退縮を実証する実験結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2腫瘍細胞(1×10
5)を、NSGマウスの右前脳に定位固定した。5日目に、マウスに、2×10
6のIL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CM(1.1×10
6のCAR+;n=6)、2×10
6モック(mock)TCM(CARなし、n=6)、又はPBS(n=6)のいずれかを注入した。Xenogen Living Imageを用いて、各群の代表的なマウスの相対的な腫瘍負荷を示した(A)。ffLucフラックス(フォトン/秒)の定量化は、モック(mock)形質導入TCM、及びPBSと比較してIL13BQζ/CD19t+T
CMが腫瘍退縮を誘導することを示す(#p<0.02、*p<0.001、反復測定ANOVA)(B)。カプランマイヤー生存曲線(n=6/グループ)によれば、IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMで処置したマウスの生存率(p=0.0008;対数ランク検定)が有意に改善されたことが示された(C)。
【
図9】
図9A~Cは、IL13(EQ)BBZT
CM、及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗腫瘍効果を比較する実験結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目に、マウスに、1.6×10
6モックTCM(CARなし)か、1.0×10
6CAR+IL13(EQ)BBζT
CM(1.6×10
6総T細胞、63%CAR)か、1.0×10
6IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+)かを注入するか、又は処置なしとした(1群当たりn=6)。Xenogen Living Imageを用いて、各グループの代表的なマウスの、相対的な腫瘍負荷を示した(A)。経時的なffLucフラックス(flux)(フォトン/秒)の自然対数の線形回帰線であり、P値は、時間ごとの相互作用比較である(B)。カプランマイヤー生存分析(1群あたりn=6)では、IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7と比較して、IL13(EQ)BBζT
CMで処置したマウスの生存が、有意に改善された(p=0.02;対数ランク検定)(C)。
【
図10】
図10A~Cは、IL13(EQ)BBζT
CM、及びIL13-ゼータカインCTLクローンの抗腫瘍効果を比較する実験結果を示す。EGFP-ffLuc+PBT030-2 TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に定位固定的に移植した。8日目、マウスに、1.3×10
6モックTCM(CARなし;n=6)、1.0、0.3か、0.1×10
6CAR+IL13(EQ)BBζT
CM(78%CAR+;n=6)、1.0、0.3か、0.1×10
6のIL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7(クローナルCAR+;n=6~7)を注入するか、又は処置なしとした(n=5)。Xenogen Living Imageを用いて、各グループの代表的なマウスの相対的な腫瘍負荷を示した(A)。ffLucフラックス(flux)(フォトン/秒)の自然対数の線形回帰線では、IL-13(EQ)BBζT
CMは、第1世代のIL13-ゼータカインCTL cl.2D7、モック(mock)T
CM、及び腫瘍のみと比較して、優れた腫瘍退縮を達成することが示される(B)。腫瘍注射後27日の一群あたりの平均フラックス(flux)は、0.1×10
6のIL13(EQ)BBζT
CM用量が、IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7の1.0×10
6用量よりも10倍優れていることを実証する(p=0.043;ウェルチ2サンプルt-検定)(C)。
【
図11】
図11は、IL13-ゼータカインCTLクローンと比較して、持続性が改善されたIL13(EQ)BBζTcmディスプレイを実証する実験結果を示す。CD3免疫組織化学は、T細胞注入後7日目の腫瘍部位におけるT細胞持続性を評価する。有意数のT細胞がIL13(EQ)BBζTcmについて検出される(上パネル)。対照的に、検出された、生存可能なCD3+IL13-ゼータカインT細胞はごくわずかであった(下パネル)。
【
図12】
図12A~Dは、大きな確立された腫瘍のCAR+T細胞送達(頭蓋内注射、対静脈内注射)の経路を比較する実験の結果を示す。EGFP-ffLuc+ PBT030-2TSs(1×10
5)をNSGマウスの右前脳内に移植した。19、及び26日目に、マウスに5×10
6CAR+IL13(EQ)BBζ+Tcm(11.8×10
6全細胞;n=4)か、又はモックTcm(11.8×10
6細胞;n=4)のいずれかを、尾静脈を介して静脈内注入した。あるいは、19、22、26、及び29日目に、マウスに、1×10
6CAR+IL13(EQ)BBζ+Tcm(2.4×10
6個の全細胞;n=4)か、又はモックTcm(2.4×10
6細胞;n=5)のいずれかを、頭蓋内注入した。経時的な平均ffLucフラックス(flux)(フォトン/秒)によれば、頭蓋内送達されたIL13(EQ)BBζTcmは、19日目の腫瘍退縮を介在する。静脈内送達されたT細胞は、未処理、又はモックTcm対照と比較して、腫瘍負荷が低下しなかった(A)。カプランマイヤー生存曲線から、静脈内投与したCAR+Tcmで処置したマウスと比較して、IL13(EQ)BBZTcmで頭蓋内処置したマウスの生存率が改善したことが示される(p=0.0003対数ランク検定)(B)。IL13(EQ)BBZTcmで静脈内処置したマウス(C)、対頭蓋内処置したマウス(D)の代表的なH&E、及びCD3 IHCにおいて、CD3+T細胞は、頭蓋内処置した群においてのみ検出され、静脈内処置したマウスの場合、腫瘍、又は周囲の脳実質ではCD3+細胞は検出されなかった。
【
図13】
図13A~Bは、頭蓋内、腫瘍内(i.c.t)か、又は脳室内(i.c.v.)に注入されたCAR+T細胞が、半球上の反対側のある腫瘍に移動できることを示す実験結果を示す図である。EGFP-ffLuc+PBT030-2 TSs(1×10
5)を、NSGマウスの左右の前脳部に定位移植した。6日目に、マウスの右腫瘍部位に、1.0×10
6IL13(EQ)BBζ+Tcmを、頭蓋内注入した(1.6×10
6総細胞;63%CAR;n=4)。多巣性神経膠腫実験モデルの模式図(A)。CD3IHCは、左右の腫瘍部位ともに浸潤するT細胞を示す(B)。
【
図14】
図14A~Cは、IL13Rα2特異的CARの共刺激ドメインを評価する一連の実験結果を示す。CD28、及び41BBの両方を含む第3世代のCARに対して、4-1BB、又はCD28のいずれかを組み込んだ第2世代のCARに対して、補助刺激がない第1世代のCD3zCARを含む、様々な細胞内エンド/シグナル伝達ドメインを比較する、IL13Ra2特異的CAR構築物の概略図である。すべてのCARカセットはまた、形質導入された細胞のマーカーとして、T2Aリボソームスキップ、及び切断型CD19(CD19t)配列を含む(A)。CD4、及びCD8TCMをレンチウイルスで形質導入し、CAR発現T細胞を、抗CD19を介して、免疫学的に濃縮した。CD19、及びIL13(すなわち、CAR)発現レベルをフローサイトメトリーで測定した(B)。各CAR構築物の安定性は、CAR(IL13)平均蛍光強度(MFI)を形質導入マーカー(CD19t)のそれで除することにより、決定した(C)。CARを含む4-1BBの発現レベルは、CD19t形質導入マーカーと比較して、最も低かった。
【
図15】
図15A~Bは、4-1BB補助刺激ドメインを含む、IL13Rα2特異的CARがより少ないTh1、及びTh2サイトカインを産生することを実証する実験結果を示す。L13Rα2発現PBT030-2腫瘍細胞標的を殺傷する指示されたモック形質導入、又はCAR発現T細胞の能力を、示されたエフェクター:標的比で、4時間
51Cr放出アッセイで測定した。3重の(triplicate)ウェルの平均%クロム放出+S.D.を示す(A)。予想通り、モック形質導入T細胞は、標的を効率的に溶解しなかった。対照的に、CAR発現T細胞はすべて、同様に腫瘍細胞を溶解した。指示されたモック形質導入、又はCAR発現T細胞を、IL13Rα2発現PBT030-2腫瘍細胞と10:1の比で一晩共培養し、サイトメトリービーズアレイで、上清のIL-13、及びIFN-γレベルについて分析した(B)。3重のウェルの平均+S.D.を示す。興味深いことに、ζ、41BB-ζ、又はCD28-41BB-ζCARを発現するT細胞の抗原刺激性サイトカイン産生は、CD28-ζCARを発現するT細胞の抗原刺激性サイトカイン産生よりも、低かった。
【
図16】
図16A~Cは、IL13Rα2特異的CARの生体内有効性の一連の実験結果を示す。NSGマウスに、0日目にffLuc+PBT030-2腫瘍細胞を頭蓋内注射し、8日目に、頭蓋内処置して、PBS(腫瘍のみ)か、モック形質導入T細胞か、又は指定されたIL13Rα2特異的CARを発現するT細胞のいずれか(n=9~10マウス/群)で、6群に無作為に分けた。次いで、定量的生物発光イメージングを行って、経時的に、腫瘍増殖をモニターした。
図16Aは、各グループの代表的なマウスの生物発光画像である。
図16Bは、各群の経時的なルシフェラーゼ活性の総フラックスレベルの平均+S.E.を示す。27日目の、各マウスのフラックスレベルでは、CD27-CARを発現するT細胞で処置したもの以外の、IL13Rα2特異的CAR T細胞で処置した全ての群の腫瘍体積は、模擬形質導入T細胞で処置したマウスと比較して、統計的に有意に減少した(C)。
【
図17】
図17は、IL13(EQ)BBζ/CD19t+(配列番号10)のアミノ酸配列を示す。
【
図18】
図18は、IL13(EQ)41BBζ[IL13(EQ)41BBζT2A-CD19t_epHIV7;pF02630](配列番号12)、及びCD19Rop_epHIV7(pJ01683)(配列番号13)の配列比較を示す。黄色の強調表示は、GMCSFシグナル配列(IL13op)を含む、IL-13最適化コドン領域を示す。強調表示は、IgG4最適化コドン領域(IgG4op[L235E、N297Q])を示す。強調表示は、IgG4ヒンジ領域(L235E、及びN297Q)内の予想される2つのアミノ酸変化を示す。強調表示は、CD4膜貫通型の最適化コドン領域を示す。強調表示は41BB細胞質シグナル伝達領域(41BBcyto)を示す。灰強調表示は、3つのグリシンリンカー(g3)を示す。灰色の強調表示は、CD3ゼータ最適化コドン領域(zeta op)を示す。強調表示はT2A配列(T2A)を示す。強調表示は、切断型CD19配列(CD19t)を示す。
【
図19】
図19は、IL13(EmY)-CD8h3-CD8tm2-41BBゼータ(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号31;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号39)のアミノ酸配列を示す。
【
図20】
図20は、IL13(EmY)-CD8h3-CD28tm-CD28gg-41BB-ゼータ(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号32;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号40)のアミノ酸配列を示す。
【
図21】
図21は、IL13(EmY)-IgG4(HL-CH3)-CD4tm-41BB-ゼータ(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号33;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号41)のアミノ酸配列を示す。
【
図22】
図22は、IL13(EmY)-IgG4(L235E、N297Q)-CD8tm-41BB-ゼータ(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号34;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号42)のアミノ酸配列を示す。
【
図23】
図23は、IL13(EmY)-リンカー-CD28tm-CD28gg-41BB-ゼータのアミノ酸配列を示す(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号35;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号43を示す。
【
図24】
図24は、IL13(EmY)-HL-CD28m-CD28gg-41BB-ゼータのアミノ酸配列を示す(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号36;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号44)を示す。
【
図25】
図25は、IL13(EmY)-IgG4(HL-CH3)-CD28tm-CD28gg-41BB-ゼータのアミノ酸配列を示す(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号37;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号45)を示す。
【
図26】
図26は、IL13(EmY)IgG4を示す(L235E、N297Q)-CD28tm-CD28gg-41BB-ゼータのアミノ酸配列(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号38;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号46)を示す。
【
図27】
図27は、IL13(EmY)-CD8h3-CD8tm-41BBゼータのアミノ酸配列を示す(GMSCFRaシグナルペプチドがある配列番号47;GMSCFRaシグナルペプチドを含まない配列番号48)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[0051] 以下に、様々なIL13Rα2特異的キメラ抗原受容体の構造、構築、及び特徴付けについて説明する。キメラ抗原(CAR)は、少なくとも細胞外認識ドメイン、膜貫通領域、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、組換え生体分子である。したがって、用語「抗原」は、抗体に結合する分子に限定されず、標的に特異的に結合することができるいかなる分子をいう。例えば、CARは、細胞表面受容体に特異的に結合するリガンドを含むことができる。細胞外認識ドメイン(細胞外ドメインともいい、又は単に含まれる認識要素でよばれる)は、標的細胞の細胞表面上に存在する分子に特異的に結合する、認識要素を含む。膜貫通領域は、膜にCARを固定する。細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3複合体のζ鎖由来のシグナル伝達ドメインを含み、かつ、場合によっては、1又はそれ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含む。CARは、MHCによる制限を受けずに、抗原を結合し、かつ、T細胞を活性化させることができる。したがって、CARは、HLA遺伝子型に関係なく、抗原陽性の腫瘍患者を治療することができる「ユニバーサルな(普遍の)」免疫受容体である。腫瘍特異的CARを発現するTリンパ球を用いる養子免疫療法は、がんの治療の強力な治療戦略となりうる。
【0034】
[0052] 本明細書に関する、1つのIL13Rα2特異的CARは、IL13(EQ)BBζという。このCARには、様々な重要な機能があり、IL13α2への結合特異性を改善するようにアミノ酸が変化した、IL13α2リガンド;有益な共刺激を提供するCD3ζと直列に配置されたCD137(4-1BB)のドメイン;Fc受容体(FcR)による結合を低減させるように、CH2領域内の2つの部位(L235E;N297Q)で変異したIgG4Fc領域があげられる。本明細書に関する他のCARは、第2の共刺激ドメインを含む。
【0035】
[0053] いくつかの態様では、本明細書に関するCARはIL13(EQ)BBζCARを含み、CARオープンリーディングフレーム後に、T2Aリボソームスキップ配列、及び切断型CD19(CD19t)(細胞質シグナル伝達テイルが欠損した(アミノ酸323切断型))が配置されるベクターを用いて作製することができる。この配置により、CD19tの共発現により、遺伝子修飾細胞を正確に測定することができ、かつ、遺伝子修飾細胞をポジティブに選択できる、不活性で非免疫原性の表面マーカーを提供するだけでなく、細胞を効率的に追跡でき、及び/又は養子移入後の生体内での治療用T細胞を画像化できるようになる。CD19tの共発現により、臨床的に利用可能な抗体、及び/又は免疫毒素試薬を用いて、生体内で形質導入した細胞のを免疫学的に標的化するマーカーを提供することにより、治療細胞を選択的に削除することができ、自殺スイッチとして機能する。
【0036】
[0054] 神経膠腫は、IL13受容体、及び、特に、高親和性IL13受容体を発現する。しかし、IL13受容体とは異なり、神経膠腫細胞は、IL4Rβ、又はγc44の必要条件に関係なく、IL13に結合できるユニークなIL13Rα2鎖を過剰発現する。IL13には、そのホモログであるIL4と同様、CNS以外の場所でも多面的な(pleotropic)免疫調節活性がある。IL13及びIL4はともに、Bリンパ球によるIgE産生を刺激し、かつ、マクロファージによる前炎症性サイトカイン産生を抑制する。
【0037】
[0055] 放射性標識IL13によるオートラジオグラフィーを用いた詳細な実験では、試験された概ねすべての悪性神経膠腫組織において、十分なIL13結合性が呈示された。この結合は、腫瘍切片内及び単一細胞分析できわめて均一である。しかしながら、IL13Rα2mRNAに特異的な分子プローブ分析では、正常な脳要素による神経膠腫特異的受容体の発現は検出されず、かつ、放射性標識IL13によるオートラジオグラフィーにおいても、正常なCNSでの特異的IL13結合が検出できなかった。これらの研究から、IL13Rα1/IL4β/γcという共通の受容体は、正常なCNSでは、検出可能な程度には発現されないことが示唆された。したがって、IL13Rα2は、神経膠腫のきわめて特異的な細胞表面標的であり、かつ、神経膠腫治療用に設計されたCARの適当な標的である。
【0038】
[0056] しかし、IL13に基づく治療分子が、広く発現されるIL13Rα1/IL4β/γc受容体複合体へ結合する場合、CNS以外の正常組織に不要な毒性を媒介する可能性があり、したがって、当該薬剤の全身投与は制限される。IL13アルファヘリックスAにおけるアミノ酸13位での天然グルタミン酸からチロシンへのアミノ酸置換により、IL13Rα1/IL4β/γc受容体に対するIL13の親和性が選択的に低下する。しかしながら、この変異体(IL13(E13Y))のIL13Rα2への結合は、野生型IL13と比較して、高まった。したがって、この最小限に修飾されたIL13類似体は、神経膠腫細胞に対するIL13の特異性、及び親和性を同時に高める。したがって、本明細書に関するCARは、アミノ酸13位が変異(EからY、又はEから他のアミノ酸、例えばK、又はR、又はL、又はV等)したIL13を含む(Debinski et al.1999 Clin Cancer Res5:3143sのナンバリングによる)。しかしながら、天然の配列であるIL13も用いることができ、かつ、特に、修飾T細胞を腫瘍塊に直接注射する等の局所的投与の場合には有用でありうる。
【0039】
[0057] 本明細書に関するCARは、当技術分野で公知のいかなる手段でも作製することができるが、好ましくは、組換えDNA技術を用いて作製される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸は、当該分野で公知の標準的な分子クローニング技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマーアシストライゲーション、部位特異的突然変異誘発等)によって作製され、完全なコード配列に構成することができる。得られたコード領域は、好ましくは発現ベクターに挿入され、適当な発現宿主細胞株、好ましくは、Tリンパ球細胞株、及び最も好ましくは、自己Tリンパ球細胞株を形質転換するのに用いられる。
【0040】
[0058] 非選択性PBMC、又は富化CD3T細胞、又は富化CD3又はメモリーT細胞サブセットを含む、患者から単離された、様々なT細胞サブセットは、CAR発現用ベクターで形質導入されることができる。セントラルメモリーT細胞は、1つの有用なT細胞サブセットである。セントラルメモリーT細胞は、所望の受容体を発現する細胞を免疫学的に選択するため、例えば、CliniMACS(登録商標)装置を用いて、CD45RO+/CD62L+細胞を選択して、末梢血単核細胞(PBMC)から単離することができる。セントラルメモリーT細胞用に富化された細胞は、例えば、IL13Rα2特異的CAR(例えば、IL13(EQ)BBζ)の発現を導くSINレンチウイルスベクターで形質導入された、抗CD3/CD28、並びに、生体内検出、及び潜在的な生体外選択用の非免疫原性表面マーカーである、切断型ヒトCD19(CD19t)で活性化することができる。活性化/遺伝子修飾されたセントラルメモリーT細胞は、IL-2/IL-15で、生体外で増殖後、凍結保存することができる。
【実施例1】
【0041】
IL13Rα2特異的CARの構築及び構造
[0059] 有用なIL13Rα2特異的CARの構造を、以下に記載する。コドン最適化されたCAR配列には、IL13Rα1への結合可能性を軽減するように、1つの部位で変異した膜結合(membrane-tethered)IL-13リガンド(E13Y)、Fc受容体媒介認識モデルを大幅に低下させる2つの変異(L235E;N297Q)を含むIgG4Fcスペーサー、CD4膜貫通ドメイン、共刺激4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインが含まれる。T2Aリボソームスキップ配列により、このIL13(EQ)BBζCAR配列は、不活性な非免疫原性細胞表面検出/選択マーカーである、CD19tから分離される。このT2A結合により、1つの転写産物由来のIL13(EQ)BBζ、及びCD19tがともに強調して発現される。
図1Aは、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物をコードする2670ヌクレオチドのオープンリーディングフレームの概略図である。
図1では、IL13Rα2特異的リガンドIL13(E13Y)、IgG4(EQ)Fc、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達、3-グリシンリンカー、及びIL13(EQ)BBZ CARのCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン、並びにT2Aリボソームスキップ、及びIL13(EQ)BBZ CARの切断型CD19配列が、すべて示されている。また、IL13(EQ)BBZ CAR、及びCD19tの表面発現を促進するヒトGM-CSF受容体α、及びCD19シグナル配列も示される。したがって、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t構築物は、IL13Rα2特異的ヒンジ最適化、共刺激性キメラ免疫受容体配列(IL13(EQ)BBZ)、リボソームスキップT2A配列、及びCD19t配列を含む。
【0042】
[0060] ヒトGM-CSF受容体αリーダーペプチドとIL13(E13Y)リガンド5L235E/N297Q修飾IgG4Fcヒンジ(二重変異がFcR認識を妨げる)、CD4膜貫通、4-1BB細胞質シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメイン配列との融合により、IL13(EQ)BBZ配列を生成した。この配列は、コドン最適化の後、新規にデノボ合成された。T2A配列は、T2A含有プラスミドの消化から得られた。CD19t配列は、CD19含有プラスミドのリーダーペプチド配列との膜貫通成分(すなわち、塩基対1~972)との間の配列から得られた。1)IL13(EQ)BBZ、2)T2A、及び3)CD19tの全3つの断片を、epHIV7レンチウイルスベクターのマルチクローニング部位にクローニングした。当該ベクターを適当な細胞へ形質転換すると、当該ベクターは
図1Bに模式的に示された配列を、宿主細胞ゲノムに組み込む。
図1Cは、9515塩基対のIL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7プラスミドそれ自体の模式図である。
【0043】
[0061]
図2に概略的に示すように、IL13(EQ)BBZ CARは、IL13(E13Y)R-ゼータカインである、上記IL13Rα2特異的CARとはいくつかの重要な点で異なる(非特許文献4)。IL13(E13Y)-ゼータカインは、示されるように、IL13Rα2特異的ヒトIL-13ムテイン(huIL-13(E13Y))、ヒトIgG4Fcスペーサー(huγ4Fc)、ヒトCD4膜貫通(huCD4tm)、及びヒトCD3ζ鎖細胞質huCD3ζcyt)部分から構成される。対照的に、IL13(EQ)BBζ)には、IgG4スペーサーのCH2ドメインに位置する2つの点変異、L235E、及びN297Q、及び共刺激4-1BB細胞質ドメイン(4-1BB細胞)がある。
【実施例2】
【0044】
IL13Rα2特異的CARの発現用epHIV7の構築及び構造
[0062] pHIV7プラスミドは、CityofHope(COH)のT細胞治療研究所(TCTRL)で得られた、臨床ベクターIL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7が、親プラスミドである。CARの発現に用いたepHIV7ベクターは、pHIV7ベクターから作製した。重要なのは、このベクターは、ヒトEF1プロモーターを用いてCARの発現を促進することである。ベクターの5’、及び3’配列はいずれも、以前にHXBc2プロウイルスから得られたように、pv653RSN由来であった。ポリプリン領域のDNAフラップ配列(cPPT)は、NIH AIDS Reagent RepositoryのHIV-1株pNL4-3由来であった。ウッドチャック転写後調節エレメント(WPRE)配列はすでに説明した。
【0045】
[0063] pHIV7の構築物を
図3に概略的に示す。簡潔には、SL3-ネオマイシンリン酸転移酵素遺伝子(Neo)で介在されたgag-polプラス5’、及び3’長末端反復配列(LTR)由来の653bpを含むpv653RSNを、以下のようにpBluescriptにサブクローニングした:工程1では、5’LTRからrev-応答要素(RRE)までの配列がp5’HIV-1 51となり、次に5’LTRのTATAボックスの上流の配列が除去されて修飾され、その後、CMVエンハンサーに連結された後、SV40複製起点に連結された(p5’HIV-2)。工程2では、3’LTRをpBluescriptにクローニングして、p3’HIV-1を作製後、3’LTRエンハンサー/プロモーターの400bpを欠失させて、HIV U3のシス調節要素を除去し、p3’HIV-2を生成した。工程3では、p5’HIV-3、及びp3’HIV-2から単離した断片をライゲーションして、pHIV-3を作製した。工程4では、余分な上流のHIV配列を除去してp3’HIV-2をさらに修飾して、p3’HIV-3を生成し、p3’HIV-3にWPREを含む600bpのBamHI-SalI断片を挿入して、p3’HIV-4を作製した。工程5では、PCRでpHIV-3 RREの大きさを小さくし、pHIV-3(示さず)由来の5’断片にp3’HIV-4をライゲーションして、pHIV-6を作製した。工程6では、HIV-1 pNL4-3(55)由来のcPPT DNAフラップ配列を含む、190bpのBglII-BamHI断片をpNL4-3から増幅し、pHIV6のRRE配列とWPRE配列の間に配置して、pHIV-7を作製した。この親プラスミドpHIV7-GFP(GFP、緑色蛍光タンパク質)を用いた、4-プラスミド系を用いて、親ベクターをパッケージングした。
【0046】
[0064] パッケージングシグナル、psiΨは、ウイルスゲノムをベクターに効率的にパッケージングするのに必要である。RRE、及びWPREは、RNA転写物の輸送、及び導入遺伝子の発現を高める。フラップ配列は、WPREと組み合わせて、哺乳類細胞におけるレンチウイルスベクターの形質導入効率を高めることが実証された。
【0047】
[0065] ウイルスベクター作製に必要なヘルパー機能は、組換えによる複製コンピテントレンチウイルス生成の可能性を低減させるために、以下の3つの異なるプラスミド:
1)pCgpは、ウイルスベクター構築に必要なgag/polタンパク質をコードする;
2)pCMV-Rev2は、効率的なパッケージングのため、ウイルスゲノムの輸送を補助するRRE配列に作用するRevタンパク質をコードする;
3)pCMV-Gは、ウイルスベクターの感染に必要な、水疱性口炎ウイルス(VSV)の糖タンパク質をコードする;
に分割される。
【0048】
[0066] pHIV7にコードされたベクターゲノムとヘルパープラスミドとの間には最小限のDNA配列相同性がある。相同性のある領域としては、pCgpヘルパープラスミドのgag/pol配列にある約600ヌクレオチドのパッケージングシグナル領域;3種のヘルパープラスミド全てのCMVプロモーター配列;及び、ヘルパープラスミドpCgpのRRE配列、があげられる。当該領域の相同性に起因した、複製コンピテント組換えウイルスが生成される可能性はきわめて低いが、それには複数の組換えイベントが必要であるからである。さらに、得られたいずれの組換え体にも、レンチウイルス複製に必要な機能的LTR、及びtat配列が欠損しているであろう。
【0049】
[0067] CMVプロモーターを、EF1α-HTLVプロモーター(EF1p)で置換し、新しいプラスミドをepHIV7とした(
図4)。EF1pの長さは563bpであり、CMVプロモーターを切除後、NruI、及びNheIを用いてepHIV7に導入した。
【0050】
[0068] 野生型ウイルスの病原性に必須で、かつ、標的細胞の生産的感染に必須のgag/pol、及びrevを欠損するレンチウイルスゲノムは、当該系から除かれた。さらに、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7ベクター構築物には、完全3’LTRプロモーターがないため、標的細胞での発現、及び逆転写DNAプロウイルスゲノムのLTRは、不活性である。このような設計のため、HIV-1由来の配列はプロウイルスから転写されず、各プロモーターが発現するのは治療的配列のみである。SINベクターでのLTRプロモーター活性が除かれると、宿主遺伝子の意図せぬ活性化の可能性が有意に軽減されることが期待される(56)。表4は、IL13(EQ)BBZ-T2ACD19t_epHIV7に存在する様々な調節因子要素をまとめたものである。
【0051】
表4: IL13(EQ)41BBZ-T2A-CD19t_epHIV7の機能的要素
【0052】
【実施例3】
【0053】
患者T細胞への形質導入用ベクターの作製
[0069] 各プラスミド(IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7;pCgp;pCMV-G;及びpCMV-Rev2)について、シードバンクを生成し、これを用いて発酵槽へ接種し、十分量のプラスミドDNAを作製する。プラスミドDNAの同一性、無菌性、及びエンドトキシンを試験した後、レンチウイルスベクターの作製に用いる。
【0054】
[0070] 簡潔には、293T機能細胞(WCB)から細胞を増殖させ、無菌性、及びウイルス汚染の存在の確認試験を行った。293T WCB由来の293T細胞のバイアルを解凍した。ベクター作製、及び細胞株培養の維持用の適当数の10層細胞ファクトリー(CF)の平板培地に存在する細胞が十分数になるまで、細胞を培養して、増殖させた。作製には、単一の細胞株を用いることができる。
【0055】
[0071] レンチウイルスベクターを、10CFまでのサブバッチで作製した。同一週に2つのサブバッチを作製して、約20Lのレンチウイルス上清/週を作製することができる。全サブバッチで作製された材料を下流の処理段階でプールして、1つのロットの製品とした。293T細胞を293T培地(10%FBS含DMEM)のCFに播種した。ファクトリーを37℃のインキュベーターに放置し、水平かつ平らにして、CFの全層上に細胞を均一に分布させた。2日後、Tris:EDTA、2MCaCl2、2XHBS、及び4つのDNAプラスミドを混合した、CaPO4法を用いて、上記4つのレンチウイルスプラスミドを細胞に形質転換した。形質転換後3日目に、分泌されたレンチウイルスベクターを含む上清を回収し、精製し、濃縮した。上清をCFから除去した後、各CFからEnd-of-Production Cellsを回収した。各ファクトリーの細胞をトリプシン処理し、遠心分離により収集した。細胞を凍結培地に再懸濁し、凍結保存した。当該細胞を、その後、複製コンピテント(replication-competent)レンチウイルス(RCL)試験に用いた。
【0056】
[0072] 膜濾過を行って細胞の破片を除去し、粗上清を清澄化し、ベクターを精製、及び調製した。宿主細胞DNA、及び残存プラスミドDNAを、エンドヌクレアーゼ消化(Benzonase(登録商標))により、分解した。0.45μmのフィルターを用いて、ウイルス上清中の細胞破片を清澄化した。清澄化された上清を予め秤量した容器に採取し、そこにBenzonase(登録商標)を加えた(最終濃度50U/mL)。残存プラスミドDNA、及び宿主ゲノムDNAのエンドヌクレアーゼ消化を、37℃で6時間行った。エンドヌクレアーゼ処理された上清の初期接線流限外濾過(TFF)濃度を用いて、粗上清から、残留低分子成分を除去し、ウイルスを約20倍濃縮した。清澄化エンドヌクレアーゼ処理ウイルス上清を、500kDのNMWCOを備える中空繊維カートリッジに、最大流速で、剪断速度を約4,000/秒以下に維持するように設計された流速で循環させた。ヌクレアーゼ処理された上清の透析ろ過は、カートリッジの性能を維持するための濃縮プロセス中に開始した。透析ろ過緩衝液として4%ラクトース含PBSを用いて、80%透過物置換率を確立した。ウイルス上清を、20倍濃度の粗上清に相当する標的体積にして、透析液交換率を100%として、4回の追加交換容量の透析ろ過を続けた。
【0057】
[0073] 高速遠心分離技術を用いて、ウイルス産物をさらに濃縮した。レンチウイルスの各サブバッチを、Sorvall RC-26plusを用いて、6000RPM(6,088RCF)、6℃で16-20時間遠心分離して、ペレット化した。その後、各サブバッチのウイルスペレットを、50mL容量の4%ラクトース含PBSで再構成した。当該緩衝液の再構成ペレットを、ウイルス調製用最終製剤とした。ベクター濃縮プロセス全体で、体積は約200分の一に減少した。全てのサブバッチ完了後、材料を-80℃に放置し、各サブバッチの試料の無菌性を試験した。試料の無菌性を確認後、サブバッチを37℃で頻繁に撹拌しながら、急速解凍した。その後、この物質をプールし、ウイルスベクタースイートのクラスII型A/B3バイオセーフティキャビネット内に、手動で分注した。滅菌USPクラス6での濃縮レンチウイルス1mLの充填構成には、外ネジ付Oリングクリオバイアルを用いた。COHの応用技術開発センター(CATD)の品質システム(QS)は、CBGのポリシーと標準的な運用手順に従い、現在の適正製造基準(cGMP)に準拠してすべての材料をリリースした。
【0058】
[0074] 残留宿主DNA混入物、並びに残留宿主、及びプラスミドDNAの移入について試験して、レンチウイルスベクター製造物の純度を確保した。他の試験でも、RT-PCRにより、ベクター同一性を評価して、正確なベクターの存在を確実にした。本試験での利用が意図されたベクターは、すべてのリリース基準を満たしていた。
【実施例4】
【0059】
ACT用に適するT細胞の作製
[0075] 患者の白血球除去輸血により、Tリンパ球を獲得し、適当な同種異系、又は自己T細胞サブセット、例えばセントラルメモリーT細胞(TCM)を遺伝的に修飾して、CARを発現させた後、いずれかの臨床上許容される手段で患者に投与して、抗がん治療を達成する。
【0060】
[0076] T
CMの作製戦略の概要を
図8(IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMの製造スキーム)に示す。具体的には、同意を得た研究参加者から得た、アフェレーシス(apheresis)産物を、フィコール化し、洗浄し、一晩インキュベートする。GMPグレードの抗CD14、抗CD25、及び抗CD45RA試薬(Miltenyi Biotec)、及びCliniMACS(登録商標)分離装置を用いて、単球、調節性T細胞、及びナイーブT細胞集団を細胞から除去する。除去後、CliniMACS(登録商標)分離装置で、DREG56-ビオチン(COH臨床グレード)、及び抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて、CD62L+TCM細胞の陰性画分細胞を濃縮する。
【0061】
[0077] 濃縮後、TCM細胞を、完全X-Vivo15プラス50IU/mLのIL-2、及び0.5ng/mLのIL-15に配合し、テフロン(登録商標)細胞培養バッグに移し、DynalClinEx(登録商標)VivoCD3/CD28ビーズで刺激した。刺激後5日目まで、IL13(EQ)BBZ-T2A-CD19t_epHIV7レンチウイルスベクターを用いて、感染多重度(MOI)1.0~0.3で細胞に形質導入する。細胞増殖に必要な完全X-Vivo15、並びにIL-2、及びIL-15サイトカインを添加して、培養を42日目まで続ける(細胞密度は3×105~2×106生存細胞/mL、培養中、毎週月、水、及び金曜日にサイトカインの補充を続けた)。細胞は、通常、21日以内に、当該条件下で約109細胞に増殖する。培養終期に、細胞を採取し、2回洗浄し、臨床グレードでの凍結保存培地(Cryostore CS5, BioLife Solutions)で製剤化する。
【0062】
[0078] T細胞注入日(複数可)に、低温保存、及び放出された生成物を解凍し、洗浄し、再注入用に処方する。放出された細胞産物を含有する低温保存バイアルを液体窒素貯蔵から取り出し、解凍し、冷却し、PBS/2%ヒト血清アルブミン(HSA)洗浄緩衝液で洗浄する。遠心分離後、上清を除去し、細胞を防腐剤非含有通常生理食塩水(PFNS)/2%HSA輸液希釈液に再懸濁する。試料を、品質管理試験用に取り分ける。
【0063】
[0079] 上記製造プラットフォームを用いて、健常人ドナーから入手した細胞の、2つの認定試験を実施した。各前臨床試験に供した製品として、ヒトドナー(HD)番号HD006.5、及びHD187.1が、割り当てられた。重要なことに、表5に示すように、当該認定試験では、28日以内に80倍より多く増殖し、当該増殖細胞は、IL13(EQ)BBγ/CD19t導入遺伝子を発現した。
【0064】
表5: 前臨床試験に供した製品の発現データの概要
【0065】
【実施例5】
【0066】
IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CM
の表面導入遺伝子、及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析
[0080] 実施例4に記載の2つの前臨床試験製品を、以下に記載する前臨床試験で用いた。
図6A~Cは、表面導入遺伝子、及びT細胞マーカー発現のフローサイトメトリー分析の結果を示す。IL-13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を、抗IL-13-PE、及び抗CD8-FITCで共染色してCD8+CAR+、及びCD4+(すなわちCD8陰性)CAR+細胞を検出した(
図6A)。あるいは、抗CD19-PE、及び抗CD4-FITCを用いて、CD4+CD19t+、及びCD8+(すなわちCD4陰性)CAR+細胞を検出した(
図6B)。TCR、CD4、CD8、CD62L、及びCD28(灰色ヒストグラム)、又はアイソタイプ対照(黒色ヒストグラム)で、IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を染色した。(
図6C)。
図6A~Cで示された比率は各々、アイソタイプ上に染色された生存リンパ球(DAPI陰性)に基づく。
【実施例6】
【0067】
IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CM
のエフェクター活性
[0081] IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMのエフェクター活性を評価し、当該分析の結果を、
図7A~Bに示す。簡単に説明すると、IL19(EQ)BBγ/CD19t+T
CMのHD006.5、及びHD187.1を、CD19t発現に基づく10E:1T比を用いる、6時間
51Cr放出アッセイにおいてエフェクターとして用いた。IL13Rα2陽性腫瘍標的は、IL13Rα2(K562-IL13Rα2)、及び一次神経膠腫系統PBT030-2を発現するように修飾されたK562であり、IL13Rα2陰性腫瘍標的対照はK562親系統であった(
図7A)。IL13(EQ)BBγ/CD19t+のHD006.5、及びHD187.1を、上記のように、同じIL13Rα2陽性、及び陰性標的を用いて、10E:1T比で一晩の共培養後の、抗原依存性サイトカイン産生について、評価した。サイトカインレベルは、Bio-PlexProヒトサイトカインTH1/TH2アッセイキットを用いて測定した、INF-γレベルを示す(
図7B)。
【実施例7】
【0068】
IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CM
の生体内抗腫瘍活性
[0082] 以下に記載の実験は、IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMが生体内マウスモデルで抗腫瘍効果を示すことを実証する。具体的には、我々は、EGFP、及びホタルルシフェラーゼ(ffLuc)レポーター遺伝子をともに発現するように修飾したIL13Rα2+初代低-継代膠芽細胞腫腫瘍球系PBT030-2(PBT030-2 EGFP:ffLuc)に対する、IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMの抗腫瘍効力を評価した(6)。患者の神経膠芽細胞腫標本由来の一次系統(PBT)のパネルは、無血清培地中で、腫瘍球(TS)として増殖した。当該増殖TS系は、幹細胞マーカーの発現、多細胞分化、及び少細胞数での免疫無防備マウス(NSG)の同所性腫瘍の開始能を含む、幹細胞様の特徴を示す。以前、PBT030-2EGFP:ffLucTS開始異種移植片モデル(0.1×10
6細胞;5日生着)を用いて評価した、IL-13Rα2特異的CAR発現T細胞の、NSGマウスでの生体内抗腫瘍活性から、2×10
6細胞溶解性Tリンパ球(CTL)を2週間で3回注入すると、腫瘍増殖が低下することが示されている。しかし、当該実験では、PBT030-2腫瘍の大部分が、最終的に再発した。対照的に、IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CM(1.1×10
6CAR+T
CM;2×10
6全TCM)の単一回注射は、PBT030-2EGFP:ffLucTS開始腫瘍(0.1×10
6細胞;5日生着)に対して、
図8A~Cに示すように、安定した抗腫瘍活性を示した。IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMは、PBS、又はモック(mock)形質導入TCM(CAR無し)で処置したNSGマウスと比較して、ffLucフラックス(flux)を有意に減少させ(p<0.001、>18日)、生存率が有意に改善された(p=0.0008)。
【0069】
[0083] 簡潔には、EGFP-ffLuc+ PBT030-2腫瘍細胞(1×10
5)を、NSGマウスの右前脳内に、定位固定的に移植した。5日目、マウスに、2×10
6IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CM(1.1×10
6CAR+;n=6)、2×10
6モックTCM(CAR無し、n=6)又はPBS(n=6)のいずれかを注入した。
図8Aは、各群の代表的なマウスを示し、Xenogen Living Imageを用いた、相対腫瘍負荷を示す。ffLucフラックス(フォトン/秒)の定量化によれば、モック形質導入TCM、及びPBSと比較して、IL13(EQ)BBζ/CD19t+T
CMは、腫瘍退縮を誘導することが示された(#p<0.02、*p<0.001、反復測定ANOVA)(
図8B)。
図8Cに示すように、IL13(EQ)BBγ/CD19t+T
CMで処置したマウスの生存率は、カプランマイヤー生存曲線(1群につきn=6)によれば、有意に改善された(p=0.0008;対数ランク検定)。
【実施例8】
【0070】
IL13(EQ)BBζ+Tcm及び非TcmIL13-ゼータカインCD8+CTLクローンの抗腫瘍効力及びT細胞持続性の比較
[0084] 以下に記載の試験では、IL13(EQ)BBζ+Tcmと、以前作製された、IL13Rα2特異的ヒトCD8+CTL(IL13-ゼータカインCD8+CTL(非特許文献4、及び9に記載))を比較した。IL13-ゼータカインは、CD3ζ刺激ドメインを用いるが、共刺激ドメインが欠損し、IL13(EQ)BBζ+と同じIL13変異体を用いる。IL13-ゼータカインは、CD3ζ刺激ドメインを用いるが、共刺激ドメインを欠き、IL13(EQ)BBζ+と同じIL13変異体を用いる。
【0071】
[0085] 無血清培地中で腫瘍球(TS)として増殖させた患者の神経膠芽細胞腫検体由来の一次系統(PBT)のパネルを作製した(非特許文献4;Brown et al.2009Cancer Res69:8886)。当該増殖TS系は、幹細胞マーカーの発現、多系統分化、及び少細胞数での免疫無防備マウス(NSG)の同所性腫瘍の開始能を含む、幹細胞様の特徴を示す。EGFP、及びホタルルシフェラーゼ(ffLuc)レポーター遺伝子(PBT030-2EGFP:ffLuc)(非特許文献4)をともに発現するように修飾された、IL13Rα2+初代低-継代膠芽細胞腫TS系PBT030-2を、以下に概説する実験に用いた。
【0072】
[0086] 最初に、IL13(EQ)BBζ+Tcm産物の単一回投与(1×10
6CART細胞)後8日目に、PBT030-2EGFP:ffucTS開始異種移植片(0.1×10
6細胞)に対して評価した、IL13-ゼータカインCD8+CTLクローンと比較した。IL13Rα2特異的CAR T細胞(IL13-ゼータカインCTL、及びIL13(EQ)BBζTcm)は、未処理、及びモックTcm(CAR陰性)コントロールと比較して、確立されたPBT030-2腫瘍に対する抗腫瘍活性を示した(
図9A、及び9B)が、発明者らの第1世代IL13-ゼータカインCD8+CTLクローンと比較して、IL13(EQ)BBZ+Tcmは、150日以上生存するマウスで有意に改善された生存率、及び耐性腫瘍寛解を介在した(
図9C)。
【0073】
[0087] さらに、当該2つのIL13Rα2-CAR T細胞産物の治療有効性を比較するため、8日目に、PBT030-2EGFP:ffLucTS開始腫瘍に対して、1.0,0.3、及び0.1×10
6で、CAR T細胞の用量滴定を行った(
図10A~C)。6匹中3匹の動物における、IL13-ゼータカインCD8+CTL cl.2D7の最高用量(1×10
6)媒介性抗腫瘍応答を、Xenogen Fluxによって測定したが(
図10C)、CAR T細胞用量が低い場合には、有意な抗腫瘍応答は観察されなかった。比較すると、ILx(EQ)BBζ+Tcm製品の注入により、0.1×10
6といった少量でのCAR T細胞処置を含む、全ての用量レベルで、大部分のマウスで完全腫瘍退縮が導かれた。当該データは、IL13(EQ)BBζ+Tcmの、抗腫瘍効力が、IL13-ゼータカインCD8+CTLクローンより少なくとも10倍強力であることを実証する。抗腫瘍効果が改善されたのは、腫瘍微小環境でのT細胞持続性が改善されたためである。頭蓋内注入後7日目のCD3+T細胞の評価では、腫瘍微小環境での有意数のIL13(EQ)BBζ+Tcmが示されたが、第1世代IL13-ゼータCTLはほとんど存在しなかった(
図11)。
【実施例9】
【0074】
大TS開始PBT腫瘍治療用CAR T細胞送達経路の比較
[0088] 以下は、侵襲性原発性PBT系統に対する抗腫瘍活性について、静脈内(i.v.)、又は頭蓋内(i.c.)の送達経路を比較する試験である。パイロット実験(データ示さず)では、予想外に、静脈内PBT030-2EGFP:ffLuc腫瘍治療用PBSと比較して、IL13(EQ)BBζ+Tcm投与の治療効果は得られなかった。これは、頭蓋内投与したCAR+T細胞で観察された、頑強な治療効果とは対照的である。5日目のPBT030-2腫瘍の大きさでは小さすぎて、末梢から治療用T細胞を補充できないと推論し、19日目のより大きいPBT030-2EGFP:ffLuc腫瘍に対する、静脈内送達対頭蓋内送達を、比較した。当該実験のため、PBT030-2移植マウスを、IL13(EQ)BBZ+Tcm、又はモックTcm(CAR無し)について、2回の静脈内注入(5×10
6CAR+Tcm;19、及び26日目)、又は4回の頭蓋内注入(1×10
6CAR+Tcm;19、22、26、及び29日目)で処置した。ここでも、静脈内投与されたCAR+T細胞に対する、Xenogenイメージング、又はカプランマイヤー生存分析によって治療上の利益はモニターされなかった(
図12A、及び12B)。対照的に、頭蓋内投与したIL13(EQ)BBζ+Tcmでは、強力な抗腫瘍活性が観察された(
図12A~B)。次に、T細胞注入後7日目のマウス集団から脳を採取し、IHCでCD3+ヒトT細胞について評価した。驚くべきことに、モックTcm、又はIL13(EQ)BBζTcmのいずれかで静脈内処置したマウスでは、腫瘍、又はヒトT細胞が通常存在するマウス脳領域(すなわち、軟髄膜)では、検出可能なCD3+ヒトT細胞は存在せず(
図12C)、これより、腫瘍親和性(tropism)の欠損が示唆された。これは、頭蓋内処置したマウスで検出された、有意数のT細胞とは対照的である(
図12D)。
【0075】
[0089] 腫瘍由来サイトカイン、特にMCP-1/CCL2は、腫瘍へのT細胞の補充に重要である。そこで、PBT030-2腫瘍細胞を評価したところ、これまでに頭蓋内移植腫瘍に静脈内投与されたエフェクターCD8+T細胞を誘引することが示されている神経膠腫系統、U251T細胞に匹敵する、高レベルのMCP-1/CCL2を産生することが見出された(データ非表示)。悪性神経膠腫は、高度に浸潤性の腫瘍であり、多発性の症状を呈することが多い。上記実験は、IL13BBZ TCMが浸潤したPBT030-2等の腫瘍を排除し、長期耐久性抗腫瘍活性を媒介しうることを立証する。頭蓋内送達CART細胞の多巣性疾患への移動能もまた試験した。当該実験のため、PBT030-2EGFP:ffLucTSを左半球、及び右半球に移植し(
図13A)、CAR+T細胞を腫瘍右部位にのみ注射した。発明者らは、評価した全てのマウス(n=3)について、T細胞注入後7日目、CD3 IHCにより、注射部位(右腫瘍)、及び左半球の腫瘍内の両部位で、T細胞を検出した(
図13B)。当該知見は、CAR+T細胞が遠隔部位からでも、腫瘍病巣に移動し、かつ、浸潤しうる証拠となる。同様の知見は、U251T神経膠腫細胞系を用いた第2腫瘍モデルにおいても、観察された(データ非表示)。
【実施例10】
【0076】
共刺激ドメインの比較
[0090] 様々な共刺激ドメインを評価するために、一連の実験を行った。共刺激ドメインがない第1世代CD3ζCAR、4-1BB共刺激ドメイン、又はCD28共刺激ドメインのいずれかを組み込んだ2つの第2世代CAR、及びCD28共刺激ドメイン、及び41BB共刺激ドメインをともに含有する第3世代CARを含む、評価した様々なCARを、
図14Aに模式的に示した。全てのCAR構築物はまた、形質導入細胞のマーカーとして、T2Aリボソームスキップ配列、及び切断型CD19(CD19t)配列を含む。
【0077】
[0091] CD4、及びCD8 TCMをレンチウイルスで形質導入し、CAR発現T細胞を、抗CD19を介して免疫学的に濃縮した。CD19、及びIL13(すなわち、CAR)の発現レベルを、フローサイトメトリーで測定した。結果を、
図14Bに示す。各CAR構築物の安定性は、CAR(IL13)平均蛍光強度(MFI)を形質導入マーカー(CD19t)で除することで、決定した(
図14C)。4-1BB共刺激ドメインを含む2つのCARの発現レベルは、CD19t形質導入マーカーと比較して、最も低かった。
【0078】
[0092] 指示されたモック形質導入、又はCAR発現T細胞の、IL13Rα2発現PBT030-2腫瘍細胞標的の殺傷能を、指示されたエフェクター:標的比で、4時間
51Cr放出アッセイで、決定した。当該実験結果を、
図15Aに示す(3重(triplicate)ウェルの平均クロム放出%±S.D.が示される)。予想通り、モック形質導入T細胞は、標的を効率的には溶解しなかった。対照的に、全てのCAR発現T細胞は同様の方法で、腫瘍細胞を溶解した。
図15Bは、示されたモック形質導入、又はCAR発現T細胞を、IL13Rα2発現PBT030-2腫瘍細胞と10:1の比で一晩共培養し、上清をサイトメトリービーズアレイによる、IL-13、及びIFN-γレベルについて分析した実験結果を示す。興味深いことに、ζ、41BB-ζ又はCD28-41BB-ζCARを発現するT細胞で産生される抗原刺激性サイトカインは、CD28-ζCARを発現するT細胞よりもその産生は低かった。
【0079】
[0093] 様々なCARの生体内効能を、以下のように試験した。簡潔には、NSGマウスは、0日目のffLuc+PBT030-2腫瘍細胞を頭蓋内注射後8日目に、PBS(腫瘍のみ)、模擬形質導入T細胞、又は指定されたIL13Rα2特異的CARを発現するT細胞、のいずれかで頭蓋内処置した6群に(6~10マウス/群)に、無作為に分けた。その後、定量的生物発光イメージングを行い、腫瘍増殖を経時的にモニターした。
図16Aは、各群における代表的なマウスの生物発光画像を示す。
図16Bは、27日目の各マウスについてのフラックスレベルを示す。CD28-CARを発現するT細胞で処置した群以外の、IL13Rα2特異的CAR T細胞で処置した全ての群の腫瘍体積は、モック形質導入T細胞で処置したマウスと比較して、統計的に有意に減少した(
図16C)。
【実施例11】
【0080】
IL13(EQ)BBζ/CD19tのアミノ酸配列
[0094] IL13(EQ)BBζ/CD19tの完全アミノ酸配列を
図17に示す。全配列(配列番号1)は、22アミノ酸のGMCSFシグナルペプチド(配列番号2)、112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;アミノ酸置換E13Yを太字で示す);229アミノ酸のIgG4配列(配列番号4;太字で示す、アミノ酸置換L235E、及びN297Qがある);22アミノ酸のCD4膜貫通配列(配列番号5);42アミノ酸4-1BB配列(配列番号6);3アミノ酸のGlyリンカー;112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7);24アミノ酸T2A配列(配列番号8);及び、323アミノ酸のCD19t配列(配列番号9);を含む。
【0081】
[0095] 成熟キメラ抗原受容体配列(配列番号10)は、112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;アミノ酸置換E13Yを太字で示す);229アミノ酸のIgG4配列(太字で示す、アミノ酸置換L235E、及びN297Qがある);22アミノ酸のCD4配列(配列番号5);42アミノ酸4-1BB配列(配列番号6);3アミノ酸のGlyリンカー;及び、112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7);を含む。このCAR配列(配列番号10)内には、IL-13/IgG4/CD4t/41-BB配列(配列番号11)が含まれるが、これには、112アミノ酸のIL-13配列(配列番号3;アミノ酸置換E13Yを太字で示す);229アミノ酸のIgG4配列(配列番号4;太字で示す、アミノ酸置換L235E、及びN297Qがある);22アミノ酸のCD4配列(配列番号5);及び、42アミノ酸の4-1BB配列(配列番号6);を含む。IL13/IgG4/CD4t/4-1BB配列(配列番号11)は、GlyGlyGlyリンカー等のリンカーにより、112アミノ酸のCD3ζ配列(配列番号7)に連結できる。CAR配列(配列番号10)の前に、22アミノ酸のGMCSFシグナルペプチド(配列番号2)を配置することができる。
【0082】
[0096]
図18は、IL13(EQ)41BBζ[IL13(EQ)41BBζT2A-CD19t_epHIV7;pF02630](配列番号12)、及びCD19Rop_epHIV7(pJ01683)(配列番号13)の配列の比較を示す。
【実施例12】
【0083】
IL13(EQ)BBζ/CD19tのアミノ酸配列
[0097]
図19~26は、特定の細胞内ドメインの間に位置するGlyGlyGlyスペーサーを除き、様々なドメインが各々標識される場合の、IL13Rα2に対するさらなるCARのアミノ酸配列を示す。各々、GluがTyrに置換された、ヒトIL13(配列番号3;アミノ酸置換E13Yが強調される)が含まれる。当該CAR発現用の発現ベクターでは、発現されるアミノ酸配列は、24アミノ酸T2A配列(配列番号8);及び323アミノ酸のCD19t配列(配列番号9)、を含むことができ、これにより、CAR発現細胞の表面上で、切断型CD19配列の協調的発現が可能となる。
【0084】
[0098] ヒトIL13(E13Y)ドメイン、CD28tmドメイン、CD28gg共刺激ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン、及びCD3ζドメインCAR骨格を含み、かつ、HL(22アミノ酸)スペーサー、CD8ヒンジ(48アミノ酸)スペーサー、IgG4-HL-CH3(129アミノ酸)スペーサーか、又はIgG4(EQ)(229アミノ酸)スペーサーを含む、CARのパネルを、IL-13Ra2特異的殺傷介在能について、72時間共培養アッセイで評価されるように、試験した。この系では、CAR発現が低いらしいHL(22個のアミノ酸)を除き、全て活性があった。
【配列表】