(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ヌクレオチド配列決定素子、チップ及び配列決定分析の方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221108BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20221108BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6869 Z
G01N27/00 J
(21)【出願番号】P 2021514618
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 CN2018105428
(87)【国際公開番号】W WO2020051824
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521104643
【氏名又は名称】連 俊龍
【氏名又は名称原語表記】Chun-Lung LIEN
【住所又は居所原語表記】No.22, Ln. 99, Aidisheng Rd., Baoshan Township, Hsinchu County 308, Taiwan.
(73)【特許権者】
【識別番号】521104654
【氏名又は名称】蕭 正輝
【氏名又は名称原語表記】Jeng-Huei SHIAU
【住所又は居所原語表記】3F.,No.56,Chenggong 12th St.,Zhubei City,Hsinchu Country 302,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】連 俊龍
(72)【発明者】
【氏名】蕭 正輝
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/026830(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021918(US,A1)
【文献】国際公開第2014/112199(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/153919(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/68
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられるトランジスタと、
前記トランジスタを覆う誘電体層と、
少なくとも1つの第1の環状電極と、前記第1の環状電極の上に位置する第2の環状電極と、前記第2の環状電極の上に位置する第3の環状電極と、を含み、前記誘電体層の上に位置し、前記誘電体層を露出させる開口を有し、前記誘電体層と共に穴溝を形成する環状電極群と、
前記誘電体層の中に配置され、一端が前記トランジスタのソース又はドレインに接続され、他端が前記環状電極群の前記第1の環状電極又は前記第2の環状電極に接続される導体と、
を備えるヌクレオチド配列決定素子
であり、
(1)前記第1の環状電極は作用電極であり、前記第2の環状電極は参照電極であるか、又は(2)前記第1の環状電極は参照電極であり、前記第2の環状電極は作用電極であり、
前記第3の環状電極は補助電極である
ヌクレオチド配列決定素子。
【請求項2】
各前記した第1の環状電極、第2の環状電極、及び第3の環状電極は、リング状の輪郭を有し、且つ互いに整列している請求項1に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項3】
各前記した第1の環状電極、第2の環状電極、及び第3の環状電極は、多角形の輪郭を有し、且つ互いに整列している請求項1に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項4】
前記環状電極群は、更に、
前記誘電体層と前記第1の環状電極との間に位置する少なくとも1つの第1の環状隔壁層と、
前記第1の環状電極と前記第2の環状電極との間に位置する第2の環状隔壁層と、
前記第2の環状電極と前記第3の環状電極との間に位置する第3の環状隔壁層と、
を含む請求項1に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項5】
前記第1の環状電極は複数であり、前記第1の環状隔壁層も複数であり、
前記第1の環状電極と前記第1の環状隔壁層は交互に積み重ねられ、且つ前記第1の環状電極は前記導体に電気的に接続される請求項4に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項6】
前記穴溝の中に位置し、前記誘電体層から突出して前記導体に電気的に接続される突出部を有する少なくとも1つのバンプ電極を更に含む請求項1に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項7】
前記突出部は、約0.125~約7.5のアスペクト比を有する請求項6に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項8】
前記突出部は、前記誘電体層の上面から約0.01マイクロメートル~約0.5マイクロメートル突出している請求項6に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項9】
前記バンプ電極は、2~20個である請求項6に記載のヌクレオチド配列決定素子。
【請求項10】
請求項1に記載の複数のヌクレオチド配列決定素子と、
各前記トランジスタの前記ソース又は前記ドレインに接続されるセンス増幅器と、
を含むヌクレオチド配列決定チップ。
【請求項11】
複数の前記ヌクレオチド配列決定素子は、少なくとも1つの第1のヌクレオチド配列決定素子及び少なくとも1つの第2のヌクレオチド配列決定素子を含み、前記第1のヌクレオチド配列決定素子は、被試験ヌクレオチドの配列決定に使用され、前記第2のヌクレオチド配列決定素子は、既知のヌクレオチド配列の配列決定に使用される請求項10に記載のヌクレオチド配列決定チップ。
【請求項12】
少なくとも1つの第1のヌクレオチド配列決定素子及び少なくとも1つの第2のヌクレオチド配列決定素子を含む請求項10に記載のヌクレオチド配列決定チップを提供する工程と、
前記第1及び前記第2のヌクレオチド配列決定素子の前記環状電極群に電流を印加する工程と、
少なくとも1つの第1のプライマーを含む少なくとも1つの第1のベクター、及び少なくとも1つの被試験ヌクレオチド配列フラグメントを混合して、更に、前記被試験ヌクレオチド配列フラグメントを前記第1のプライマーに接着させる工程と、
接着された前記第1のベクターと前記被試験ヌクレオチド配列フラグメントを前記第1のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内に配置する工程と、
少なくとも1つの第2のプライマーを含む第2のベクターを前記第2のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内に配置する工程と、
ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む溶液を、前記第1及び前記第2のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内に加え、前記デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、前記第1のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内の前記被試験ヌクレオチド配列フラグメントと重合して、水素イオン及び第1の電気信号を生成し、また、前記デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、前記第2のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内の前記第2のプライマーと重合して、水素イオン及び第2の電気信号を生成し、前記環状電極群を通過する前記電流は、前記水素イオンを水素分子に変換する工程と、
前記第1及び前記第2のヌクレオチド配列決定素子の前記トランジスタによって、前記第1の電気信号及び前記第2の電気信号を読み取って、配列決定結果を得る工程と、
を備える配列決定分析の方法。
【請求項13】
前記溶液は、水酸化ナトリウム、硫酸二ナトリウム、フェリシアン化カリウム、又はそれらの組み合わせを更に含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各前記第1のベクターは、磁気ビーズ及び前記第1のプライマーを含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
各前記第2のベクターは、磁気ビーズ及び前記第2のプライマーを含み、前記第2のプライマーは、既知のヌクレオチド配列である請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列決定素子、チップ及び配列決定分析の方法に関し、特に、ヌクレオチド配列決定素子、チップ及び配列決定分析の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid;DNA)の配列決定とは、特定のDNAフラグメントの塩基配列、つまり、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、及びグアニン(G)の配列形態を分析することである。DNA配列決定は広く使用されており、その範囲が基礎研究(遺伝子構造、遺伝子機能)、ゲノムの研究、生命の起源、人種や種の違い、特定の遺伝子変更と疾患、検査試薬や新薬の開発の6つの主要プロジェクトに大別される。
【0003】
現在、DNA配列決定は、既に次世代の配列決定に改良されており、その1つとして、集積回路チップによって化学信号をデジタル信号に直接変換する、Ion Torrent社に基づく配列決定方法がある。Ion Torrent社の設計は、蓄積電荷の電界効果トランジスタ(field-effect transistor;FET)のカットオフ電圧(threshold voltage)に対する変化に基づいた検出である。ただし、配列決定処理中に電荷(水素イオン)が発生するので、チップ穴溝を緩衝液で定期的に洗浄しても、完全に除去することはできない。チップ穴溝における電荷の蓄積によりノイズが増加するので、DNA配列は、約200塩基対(base pair;bp)の長さしか読み取ることができない。また、技術上、チッププロセスの短縮化に直面する場合、チップ穴溝に電荷が残っていると、ノイズの影響が更に発生しやすくなる。
【0004】
これに鑑みて、より迅速且つ正確なDNA配列決定チップ及び方法を如何に提供するかについて、従来の技術としては、確かに改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示内容の目的は、配列決定時に発生した電荷を除去し、電荷の蓄積によるノイズの増加を回避するためのヌクレオチド配列決定素子、チップ、及び配列決定分析の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、半導体基板と、半導体基板上に設けられるトランジスタと、トランジスタを覆う誘電体層と、少なくとも1つの第1の環状電極と、第1の環状電極上に位置する第2の環状電極と、第2の環状電極上に位置する第3の環状電極と、を含み、誘電体層の上に位置し、誘電体層を露出させる開口を有し、誘電体層と共に穴溝を形成する環状電極群と、誘電体層の中に配置され、一端がトランジスタのソース又はドレインに接続され、他端が環状電極群の第1の環状電極又は第2の環状電極に接続される導体と、を備えるヌクレオチド配列決定素子を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、各第1の環状電極、第2の環状電極、及び第3の環状電極は、リング状の輪郭を有し、且つ互いに整列している。
【0008】
いくつかの実施形態において、各第1の環状電極、第2の環状電極、及び第3の環状電極は、多角形の輪郭を有し、且つ互いに整列している。
【0009】
いくつかの実施形態において、環状電極群は、誘電体層と第1の環状電極との間に位置する少なくとも1つの第1の環状隔壁層と、第1の環状電極と第2の環状電極との間に位置する第2の環状隔壁層と、第2の環状電極と第3の環状電極との間に位置する第3の環状隔壁層と、を更に含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1の環状電極は複数であり、第1の環状隔壁層も複数であり、第1の環状電極と第1の環状隔壁層は交互に積み重ねられ、且つ第1の環状電極は導体に電気的に接続される。
【0011】
いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列決定素子は、穴溝の中に位置し、誘電体層から突出して導体に電気的に接続される突出部を有する少なくとも1つのバンプ電極を更に含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、突出部は、約0.125~約7.5のアスペクト比を有する。
【0013】
いくつかの実施形態において、突出部は、誘電体層の上面から約0.01マイクロメートル~約0.5マイクロメートル突出している。
【0014】
いくつかの実施形態において、バンプ電極は、2~20個である。
【0015】
本開示内容は、更に、上記のような複数のヌクレオチド配列決定素子と、各トランジスタのソース又はドレインに接続されるセンス増幅器と、を含むヌクレオチド配列決定チップを提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、複数のヌクレオチド配列決定素子は、少なくとも1つの第1のヌクレオチド配列決定素子及び少なくとも1つの第2のヌクレオチド配列決定素子を含み、第1のヌクレオチド配列決定素子は、被試験ヌクレオチドの配列決定に使用され、第2のヌクレオチド配列決定素子は、参照値としての既知のヌクレオチド配列の配列決定に使用される。
【0017】
本開示内容は、更に、配列決定分析のための方法を提供する。配列決定分析のための方法は、下記の工程を備える。少なくとも1つの第1のヌクレオチド配列決定素子及び少なくとも1つの第2のヌクレオチド配列決定素子を含む上記のようなヌクレオチド配列決定チップを提供する。第1及び第2のヌクレオチド配列決定素子の前記環状電極群に電流を印加する。次に、少なくとも1つの第1のプライマーを含む少なくとも1つの第1のベクター、及び少なくとも1つの被試験ヌクレオチド配列フラグメントを混合して、更に、被試験ヌクレオチド配列フラグメントを第1のプライマーに接着させる。次に、接着された第1のベクターと被試験ヌクレオチド配列フラグメントを第1のヌクレオチド配列決定素子の穴溝内に配置する。次に、少なくとも1つの第2のプライマーを含む第2のベクターを、第2のヌクレオチド配列決定素子の穴溝内に配置する。更に、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む溶液を、第1及び第2のヌクレオチド配列決定素子の前記穴溝内に加え、デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、第1のヌクレオチド配列決定素子の穴溝内の被試験ヌクレオチド配列フラグメントと重合して、水素イオン及び第1の電気信号を生成する。同時に、デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、第2のヌクレオチド配列決定素子の穴溝内の第2のプライマーと重合して、水素イオン及び第2の電気信号を生成し、前記環状電極群を通過する電流は、前記水素イオンを水素分子に変換する。最後に、第1及び第2のヌクレオチド配列決定素子の前記トランジスタによって、第1の電気信号及び第2の電気信号を読み取って、配列決定結果を取得する。
【0018】
いくつかの実施形態において、溶液は、水酸化ナトリウム、硫酸二ナトリウム、フェリシアン化カリウム、又はそれらの組み合わせを更に含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、各第1のベクターは、磁気ビーズ及び前記第1のプライマーを含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、各第2のベクターは、磁気ビーズ及び前記第2のプライマーを含み、前記第2のプライマーは、既知のヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の上記及び他の態様、特徴及び他の利点については、添付図面に合わせて明細書の内容を参照すると、より明確に理解される。
【0022】
【
図1】本開示内容に係るヌクレオチド配列決定素子の環状電極群を示す部分斜視図である。
【
図2】本開示内容に係るヌクレオチド配列決定素子の環状電極群を示す断面図である。
【
図3】本開示内容に係るヌクレオチド配列決定素子の別の実施形態の環状電極群を示す断面図である。
【
図4】本開示内容の
図2のヌクレオチド配列決定素子を示す部分回路図である。
【
図5】本開示内容に係るヌクレオチド配列決定チップを示す部分回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示内容の説明をより詳細且つ完全にするために、以下、本発明の実施形態及び具体的な実施形態を、添付図面に合わせて説明するが、これは、本開示内容の具体的な実施形態を実施又は使用する唯一の方法ではない。下記で開示された各実施例は、有益の場合、互いに組み合わせ又は取って代わってもよく、更なる記載又は説明もなしに、1つの実施例に他の実施例を加えてもよい。
【0024】
また、「下」、「上」等の空間の相対的な用語は、ある素子又は特徴と、他の素子又は他の特徴との添付図面における相対的関係を記述しやすくするためのものである。これらの空間上の相対的な用語は、図面に示す方位以外の、使用又は操作の時の異なる方位を含むことを目指す。装置は、別に位置決めされる(例えば、90°又は他方向に回転される)されてもよく、ここで用いられる空間に関連する記述は、適宜解釈される。
【0025】
本明細書において、本文で冠詞について特に限定しない限り、「一」と「前記」は、単一又は複数のものを指してよい。更に理解すべきなのは、本明細書に用いる「備える」、「含む」、「有する」及び類似な語彙は、記載される特徴、領域、整数、工程、操作、素子及び/又はアセンブリを明らかに示すが、他の特徴、領域、整数、工程、操作、素子及び/又はアセンブリを排除しない。
【0026】
図1は、本開示内容の一実施形態に係るヌクレオチド配列決定素子100を示す部分斜視図である。
図2は、半導体基板110、トランジスタ120、誘電体層130、環状電極群140、導体150、及びバンプ電極160を含むヌクレオチド配列決定素子100を示す断面図である。一実施形態において、ヌクレオチド配列決定素子100は、順位の分析に使用される。
【0027】
半導体基板110は、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、ゲルマニウム、又はそれらの組み合わせ等の半導体材料を含むが、それらに限定されず、他の半導体材料を含んでもよい。技術分野における設計要件に応じて、半導体基板110は、様々な異なるドープ構成を含んでよい。
【0028】
トランジスタ120は、半導体基板110上に配置され、ゲート121、ソース122、及びドレイン123を含む。ソース122及びドレイン123は半導体基板110上に配置され、ゲート121はソース122とドレイン123との間に介在する。一実施形態において、ソース122及びドレイン123の位置は交換可能である。
【0029】
誘電体層130は、トランジスタ120を覆い、対向する上面131及び下面132を有する。誘電体層130の材料は、酸化物、窒化物、酸窒化物、又はそれらの組み合わせ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素を含むが、それらに限定されない。誘電体層130としては、低誘電率(low-K)材料を選用して、ヌクレオチド配列決定素子100に優れた絶縁特性を持たせる。いくつかの実施形態において、誘電体層130の高さは、約0.02マイクロメートル(μm)~約0.25マイクロメートル、例えば、約0.10マイクロメートル、約0.15マイクロメートル、又は約0.20マイクロメートルである。
【0030】
環状電極群140は、誘電体層130の上面131上に配置され、誘電体層130を露出させる開口を有する。環状電極群140及び誘電体層130は、被試験サンプル溶液を収容するように配置される穴溝141を形成する。一実施形態において、環状電極群140は、円形、楕円形等のリング状の輪郭、又は三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、十角形、十一角形、十二角形、又は円形に近い多角形等の多角形の輪郭を有する。一実施形態において、環状電極群140の幅D1は、約0.1マイクロメートル~約0.5マイクロメートル、例えば、約0.2マイクロメートル、約0.3マイクロメートル、又は約0.4マイクロメートルであり、好ましくは約0.2マイクロメートルである。
【0031】
環状電極群140は、少なくとも1つの第1の環状隔壁層142、少なくとも1つの第1の環状電極143、第2の環状隔壁層144、第2の環状電極145、第3の環状隔壁層146及び第3の環状電極147を含む。一実施形態において、環状電極群140は、下から上へ順に第1の環状隔壁層142、第1の環状電極143、第2の環状隔壁層144、第2の環状電極145、第3の環状隔壁層146、及び第3の環状電極147である。第1の環状電極143、第2の環状電極145、及び第3の環状電極147は、互いに同じ形状であり、互いに整列している。第1の環状隔壁層142は、誘電体層130上に配置される。第1の環状電極143の高さは、0.1マイクロメートル未満であり、好ましくは、約0.001ミクロン~約0.1マイクロメートル、例えば、約0.002マイクロメートル、約0.005マイクロメートル、約0.01マイクロメートル、約0.03マイクロメートル、約0.05マイクロメートル、約0.07マイクロメートル、又は約0.09マイクロメートルである。
【0032】
一実施形態において、第1の環状隔壁層142、第2の環状隔壁層144、及び第3の環状隔壁層146の材料は、酸化物、窒化物、酸窒化物、又はそれらの組み合わせ、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、好ましくは窒化ケイ素を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、第1の環状隔壁層142、第2の環状隔壁層144、及び第3の環状隔壁層146の高さは、約0.02マイクロメートル(μm)~約1マイクロメートル、例えば、約0.10マイクロメートル、約0.15マイクロメートル、約0.20マイクロメートル、約0.50マイクロメートル、又は約0.75マイクロメートルである。
【0033】
一実施形態において、第1の環状電極143、第2の環状電極145、及び第3の環状電極147の材料は、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、銅(Cu)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅アルミニウム合金(AlCu)、銅アルミニウムシリコン合金(AlSiCu)、又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。好ましい実施形態において、第1の環状電極143、第2の環状電極145、及び第3の環状電極147の材料は、窒化チタン(TiN)である。一実施形態において、第1の環状電極143は作用電極(working electrode;WE)であり、第2の環状電極145は参照電極(reference electrode;RE)であり、第3の環状電極147は補助電極(counter electrode;CE)である。別の実施形態において、第1の環状電極143及び第2の環状電極145は交換可能であり、すなわち、第1の環状電極143は参照電極であり、第2の環状電極145は作用電極である。
【0034】
図3は、本開示内容の別の実施形態によるヌクレオチド配列決定素子100’’を示す断面図であり、第1の環状隔壁層142は3つであり、第1の環状電極143は3つであり、第1の環状電極143と第1の環状隔壁層142とは交互に積み重ねられ、最下位の第1の環状隔壁層142は誘電体層130上に配置され、第2の環状隔壁層144は最上層の第1の環状電極143上に配置され、これらの第1の環状電極143は導体150に電気的に接続される。一実施形態において、これらの第1の環状電極143は作用電極である。
【0035】
再び
図2を参照すると、導体150は誘電体層130の中に配置され、その一端がトランジスタ120のソース122に接続され、その他端が環状電極群140の第1の環状電極143に接続される。
図2は、導体150の一端がトランジスタ120のソース122に接続される様子のみを示すが、他の実施形態では、導体150の一端がトランジスタ120のドレイン123に接続される。
図2は、導体150が第1の環状電極143に接続される様子のみ示すが、他の実施形態では、導体150が第2の環状電極145に接続されてよい。一実施形態において、導体150の材料は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅アルミニウム合金(AlCu)、銅アルミニウムシリコン合金(AlSiCu)又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されず、銅アルミニウム合金は好ましい。
【0036】
バンプ電極160は、穴溝141の中に位置し、立体的電極を形成するように、誘電体層130の上面131から突出する突出部を有する。バンプ電極160が導体150及び第1の環状電極143に等電位で電気的に接続されるため、バンプ電極160と第1の環状電極143とは、同じ電圧を有することができる。一実施形態において、第1の環状電極143及びバンプ電極160は、作用電極である。バンプ電極160は、誘電体層130から突出する突出部を有する。いくつかの実施形態において、突出部の高さH1は、約0.05マイクロメートル~約0.6マイクロメートル、例えば、約0.05マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.2マイクロメートル、約0.3マイクロメートル、又は約0.4マイクロメートルである。いくつかの実施形態において、突出部の幅D2は、約0.08マイクロメートル~約0.4マイクロメートル、例えば、約0.08マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.2マイクロメートル、又は約0.3マイクロメートルである。別の実施形態において、突出部のアスペクト比は、約0.125~約7.5、例えば約0.2又は約0.3である。また別の実施形態において、突出部の形状は、円柱、正三角柱、正四角柱、正五角柱、正六角柱、又は正八角柱であってよい。いくつかの実施形態において、バンプ電極160の材料は、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、銅(Cu)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、銅アルミニウム合金(AlCu)、銅アルミニウムシリコン合金(AlSiCu)、又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。好ましい実施形態において、バンプ電極160の材料は窒化チタン(TiN)である。いくつかの実施形態において、バンプ電極160は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、20、50、又は100個等の複数のバンプ電極160であり、好ましくは、6つのバンプ電極160が等距離でリング形状に配列される。
【0037】
具体的には、バンプ電極160に電圧が印加されると、バンプ電極160にバンプ電極160の突出部を取り囲む電界が発生する。電界の被覆範囲が突出部の頂上面に限定されず、突出部の側壁まで延びるため、電気化学反応が大幅に増加し、更に、信号の強度が増加する。同じ電圧の印加下で、立体構造を有するバンプ電極160は、従来の平面作用電極よりも優れた感度を提供する。なお、突出部のアスペクト比は約0.125~約7.5である。突出部のアスペクト比が7.5を超えると、作用電極の構造に欠陥が生じやすく、装置全体の信頼性が低下する。
【0038】
図4は、
図2のヌクレオチド配列決定素子100に対応する部分回路図であり、
図2及び
図4を同時に参照すると、第1の環状電極143は作用電極であり、第2の環状電極145は参照電極であり、第3の環状電極147は補助電極である。第1の環状電極143に定電流が印加され、第1の環状電極143と穴溝141内のサンプル溶液との間に第1の電気二重層コンデンサ210及び第1の環状電極電荷移動抵抗器220が形成され、第3の環状電極147と穴溝141内のサンプル溶液との間に第3の電気二重層コンデンサ240及び第3の環状電極電荷移動抵抗器250が形成される。第2の環状電極145は接地され、第2の環状電極145と穴溝141内のサンプル溶液との間に第2の環状電極電荷移動抵抗器230が形成される。電流が第1の環状電極143から穴溝141内のサンプル溶液を介して第3の環状電極147へ流れる場合、第1の環状電極143に近
いサンプル溶液は第1の溶液抵抗260を形成し、第3の環状電極147に近
い溶液は、第2の溶液抵抗270を形成する。ワード線280は、電流信号がセンス増幅器300に流れるように制御するために、要求に応じて、トランジスタ120の導通の有無を制御する電圧を提供する。
【0039】
いくつかの実施形態において、本開示内容に係るヌクレオチド配列決定素子100において、誘電体層130及び環状電極群140によって囲まれる穴溝141のサイズは、製造プロセスに応じて任意のサイズに縮小されてよいが、ここで限定されない。一実施形態において、穴溝141のサイズは、約0.5×0.5×1.6立方ミクロン(μm3)~5.0×5.0×1.6立方ミクロン、例えば、1.2×1.2×1.6立方ミクロン、1.5×1.5×1.6立方ミクロン、2.0×2.0×1.6立方ミクロン、3.0×3.0×1.6立方ミクロンである。
【0040】
本開示は、更に、ヌクレオチド配列決定チップ400を提供する。
図5は、ヌクレオチド配列決定チップ400を示す部分回路図であり、ヌクレオチド配列決定チップ400は、少なくとも1つの第1のヌクレオチド配列決定素子100A、少なくとも1つの第2のヌクレオチド配列決定素子100B、及び少なくとも1つの第3のヌクレオチド配列決定素子100Cに分けることができる複数のヌクレオチド配列決定素子と、トランジスタ120A、120B、及び120Cに接続されるセンス増幅器300と、を含む。第1のヌクレオチド配列決定素子100Aは、被試験ヌクレオチドの配列決定に使用され、第2のヌクレオチド配列決定素子100B及び第3のヌクレオチド配列決定素子100Cは対照群であり、配列決定時の基準電圧値として既知のヌクレオチド配列を提供する。
図1及び
図2を参照すると、一実施形態において、ヌクレオチド配列決定素子100の各第1の環状電極143(作用電極)同士は互いに導通せず、各第2の環状電極145(参照電極)同士は互いに導通し、各第3の環状電極147(補助電極)同士は互いに導通する。
図5を参照すると、一実施形態において、ヌクレオチド配列決定チップ400の複数のヌクレオチド配列決定素子の配置及びアドレス指定方法は、従来のメモリチップの関連技術を使用することができる。配列重合反応の時に、小信号(すなわち、少量の被試験ヌクレオチド)のみを発生すればよく、センス増幅器300によって増幅されると、判断に十分な信号を得ることができる。
【0041】
センス増幅器300は、電流モードにあり、電流信号を増幅する。一実施形態において、ヌクレオチド配列決定チップ400は、複数のヌクレオチド配列決定素子100によって検出マトリックス(detection matrix)を形成し、検出される遺伝子の数に従って検出マトリックスのサイズを調整し、一実施形態において、マトリックスのサイズは、0.1K×0.1K~100K×100K、例えば、1K×1K、3K×3K、5K×5K、8K×8K、10K×10K、又は50K×50K等である。一実施形態において、ヌクレオチド配列決定素子100のアドレス信号は、13行、9列、及び16個の出力装置によって制御される。行選択レジスタ(row select register)は、信号電圧を列に駆動するように、ヌクレオチド配列決定素子100の1行を同時に読み取ってよい。列選択レジスタ(column select register)は、その中の1列を選択してセンス増幅器300に信号を出力し、ワード線280にパルスを与えて列を検出し、ワード線280がオフになる前にISO信号を生成する。
【0042】
センス増幅器300は、各ヌクレオチド配列決定素子100によって出力された信号を増幅し、異なるヌクレオチド配列決定素子100における電気化学反応の電圧差を比較する。一実施形態において、バイオセンシングチップは、2つの差動型センス増幅器310(differential sense amplifier)、1つのラッチ型センス増幅器320(latch type sense amplifier)、3つのpチャネル金属酸化物半導体イコライゼーション(p-channel metal-oxide-semiconductor equalization;PMOS equalization)と第1のヌクレオチド配列決定素子100A、第2のヌクレオチド配列決定素子100B及び第3のヌクレオチド配列決定素子100Cを有する。
【0043】
本開示内容は、更に、配列決定分析の方法を提供する。
【0044】
以下、一連の操作又はステップによって、本明細書で開示される方法を説明するが、これらの操作又はステップの示す順序は、本発明の限定として解釈されるべきではない。例えば、ある操作又はステップは、異なる順序で行われ、及び/又は他のステップと同時に行われてよい。また、本発明の実施形態を実現するために、図示されたすべての操作、ステップ及び/又は特徴を実行する必要はない。また、本明細書で説明される各操作又はステップは、いくつかのサブステップ又は動作を含んでよい。
【0045】
本開示内容は、更に、以下の操作ステップを含む配列決定分析の方法を提供する。
【0046】
(1)複数の第1のヌクレオチド配列決定素子100Aと、複数の第2のヌクレオチド配列決定素子100Bと、を含むヌクレオチド配列決定チップ400を提供する。
【0047】
(2)第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの環状電極群140A及び第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの環状電極群140Bに電流を印加する。
【0048】
(3)複数の第1のベクター及び複数の被試験ヌクレオチド配列フラグメントを提供する。例えば、複数の第1のベクターは第1のベクターX1、第1のベクターX2等を含み、第1のベクターX1は磁気ビーズ及び複数の第1のプライマーA1を含み、第1のベクターX2は磁気ビーズ及び複数の第1のプライマーA2を含み、その他についてはこのように類推すればよい。複数の被試験ヌクレオチド配列フラグメントは、被試験ヌクレオチド配列から2000K bp以下、例えば、1900K bp、1700K bp、1600K bp、1500K bp、1300K bp、1000K bp、500K bp、100K bp、50K bp、10K bp、5K bp、3K bp、1K bp、0.1K bp、又は0.01K bpに断片化される。これらの被試験ヌクレオチド配列フラグメントは、更に、例えば、被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1、被試験ヌクレオチド配列フラグメントP2等に分けられてよい。被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1の両端にアダプタU1(adaptor)が接続され、被試験ヌクレオチド配列フラグメントP2の両端にアダプタU2が接続され、その他についてはこのように類推すればよい。
【0049】
(4)これらの第1のベクターとこれらの被試験ヌクレオチド配列フラグメントを混合する場合、第1のベクターX1上の第1のプライマーA1は被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1の両端のアダプタU1を特異的に同定して接着し、第1のベクターX2上の第1のプライマーA2は被試験ヌクレオチド配列フラグメントP2の両端のアダプタU2を特異的に同定して接着する。本明細書では、「アダプタ」とは、サイズが約10bp~100bpである、第1のプライマーに相補的に対応して接続することができる特定のヌクレオチド配列を指す。好ましい実施形態において、第1のプライマーA1と被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1とが接着された後、被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1に対してポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)を行って増幅及び複製して、複数の被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1を得る。次に、各被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1を第1のベクターX1上の他の第1のプライマーA1に接着して、第1のベクターX1に複数の同一の被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1を持たせ、その他についてはこのように類推すればよい。
【0050】
(5)接着された第1のベクターX1及び被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1を、第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A内に配置する。接着された第1のベクターX2及び被試験ヌクレオチド配列フラグメントP2を、別の第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A内に配置し、その他についてはこのように類推すればよい。すなわち、第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A内には、1つの第1のベクターしか存在しない。
【0051】
(6)複数の第2のベクターを提供し、上記の複数の第2のベクターは、例えば、第2のベクターY1、第2のベクターY2等を含む。第2のベクターY1は、磁気ビーズ及び複数の第2のプライマーB1を含み、各第2のプライマーB1は、単一のアデニンを含む。第2のベクターY2は、磁気ビーズ及び複数の第2のプライマーB2を含み、これらの第2のプライマーB2は、3つの連続するアデニンを含む。つまり、同じ第2のベクター上のこれらの第2のプライマーの配列は、すべて同じである。一実施形態において、第2のプライマーは、人工的に合成された既知のヌクレオチド配列であり、単一のアデニン(A)、単一のチミン(T)、単一のシトシン(C)、単一のグアニン(G)、単一のウラシル(U)、又は、AAA、TTT、CCC、GGG、UUUのような複数の繰り返されるアデニン(A)、複数の繰り返されるチミン(T)、複数の繰り返されるシトシン(C)、複数の繰り返されるグアニン(G)、複数の繰り返されるウラシル(U)を含むが、それらに限定されない。
【0052】
(7)各第2のベクターを各第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内に配置し、すなわち、1つの第2のベクターは1つの第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内に配置される。
【0053】
(8)ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含む溶液を、各第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A及び各第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内に加える。デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A内の被試験ヌクレオチド配列フラグメントと重合して、水素イオン及び第1の電気信号を生成する。例えば、第1のベクターX1及び被試験ヌクレオチド配列フラグメントP1が搭載された第1のヌクレオチド配列決定素子100Aは第1の電気信号E1を生成し、第1のベクターX2及び被試験ヌクレオチド配列フラグメントP2が搭載された第1のヌクレオチド配列決定素子100Aは第1の電気信号E2を生成する。他方、デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内の第2のプライマーと重合して、水素イオン及び第2の電気信号を生成する。例えば、第2のベクターY1が搭載された第2のヌクレオチド配列決定素子100Bは第2の電気信号F1を生成し、第2のベクターY2が搭載された第2のヌクレオチド配列決定素子100Bは第2の電気信号F2を生成する。上記の重合反応において、これらの環状電極群140A及び140Bに印加される電流によって、生成された水素イオンを水素分子に変換する。
【0054】
一実施形態において、溶液は、純水、水酸化ナトリウム、ポリメラーゼ、マグネシウム塩、硫酸二ナトリウム、及びフェリシアン化カリウムを含み、酸塩基値(pH)は、重合反応に必要な物質を提供するように、アルカリ性である。その中で、硫酸二ナトリウム及びフェリシアン化カリウムは、電気化学反応の酸化及び還元を助ける媒体であり、電流の変化量を増やし、信号を検出しやすくする。
【0055】
(9)これらの第1のヌクレオチド配列決定素子100Aのトランジスタ120A及びこれらの第2の塩基配列決定素子100Bのトランジスタ120Bを使用して、第1の電気信号及び第2の電気信号を読み取って、配列決定結果を取得する。
【0056】
一実施形態において、デオキシリボヌクレオシド三リン酸は順次に添加され、例えば、デオキシアデノシン三リン酸(deoxyadenosine triphosphate;dATP)、デオキシチミジン三リン酸(deoxythymidine triphosphate;dTTP)、デオキシシチジン三リン酸(deoxycytidine triphosphate;dCTP)、及びデオキシグアノシン三リン酸(deoxyguanosine triphosphate;dGTP)を、これらの第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A及びこれらの第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内に順次添加し、次のデオキシリボヌクレオシド三リン酸を添加する前に予め洗浄される。具体的には、デオキシリボヌクレオシド三リン酸は、これらの被試験ヌクレオチド配列フラグメント又はこれらの第2のプライマーと相補的に結合する場合、水素イオン(H
+)を放出し、酸塩基値(pH)が低下し、更に、インピーダンス値が低下する。インピーダンス値が低下するので、これらの環状電極群140A及び140Bを流れる電流が増加し、トランジスタ120A及び120Bを流れる電流が減少し、更に、電気信号を生成する。このとき、水素イオンは、作用電極から放出された電子と迅速に中和して水素ガスを形成して放出するため、これらの穴溝141A、141Bに後の解釈に影響を与えるような残留水素イオンは存在しない。
図2を参照すると、第3の環状電極147(補助電極)が環状電極群140の最上層に配置されてバリアを形成するため、重合時に発生した水素イオンは、第3の環状電極147を越えて隣の穴溝141に至ることがないため、配列決定プロセスはより正確になる。
【0057】
一実施形態において、
図5を参照すると、一回重合反応された第1のヌクレオチド配列決定素子100Aを洗浄し、再び溶液に加えて混合して重合反応を行い、これらの被試験ヌクレオチド配列フラグメントの配列が完了するまでこのステップを繰り返す。別の実施形態において、一回重合反応された第1のヌクレオチド配列決定素子100Aを洗浄しなくもてよく、再び溶液に加えて混合して重合反応を行い、これらの被試験ヌクレオチド配列フラグメントの配列が完了するまでこのステップを繰り返す。
【0058】
もう一度
図5を参照すると、第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの第1の電気信号は、2つの差動型センス増幅器310を介して、それぞれ第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの第2の電気信号及び第3のヌクレオチド配列決定素子100Cの第3の電気信号と比較し、2つの差動型センス増幅器310は、またそれぞれの発生した信号をラッチ型センス増幅器320に出力して比較及び分析を行う。
【0059】
一実施形態において、第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの環状電極群140Bの穴溝141B内に1つの第2のベクターが配置され、第2のベクターの第2のプライマーは単一のチミン(T)を含む。第3のヌクレオチド配列決定素子100Cの環状電極群140Cの穴溝141C内に第3のベクターが配置され、第3のベクターの第3のプライマーは3つのチミン(TTT)を含む。第1のヌクレオチド配列決定素子100Aの穴溝141A、第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B、及び第3のヌクレオチド配列決定素子100Cの穴溝141C内にdATPが添加される場合、第2のヌクレオチド配列決定素子100Bの穴溝141B内に単一ヌクレオチドの重合反応(A-Tペアリング)が実行され、第2の電気信号(例えば、0.3V)を生成する。第3のヌクレオチド配列決定素子100Cの穴溝141C内に3つのヌクレオチドの重合反応(3つのA?Tペアリング)が実行され、第3の電気信号(例えば、1V)を生成する。第1のヌクレオチド配列決定素子100Aは、電気信号が0Vである場合に重合が発生しないことを意味し、電気信号が0.3Vである場合に単一のヌクレオチド(A)の重合が発生することを意味し、電気信号が0.6Vである場合に2つのヌクレオチド(AA)の重合が発生することを意味し、電気信号が1Vである場合に3つのヌクレオチド(AAA)の重合が発生すること意味する。具体的には、第2の電気信号と第3の電気信号との何れも基準電圧である。
【0060】
一実施形態において、複数のヌクレオチド配列決定素子は、異なる種類のヌクレオチド(A、T、C、G)の基準電圧値を提供する以外、更に、同じヌクレオチドであるが異なるヌクレオチド数の基準電圧値を提供し、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、又は20個を含むが、それらに限定されない。配列決定の最初に、チップの環境及び温度等の条件に応じて、人工的に合成された既知のヌクレオチド配列のプライマーから相対基準電圧を取得する。従って、異なるバッチであるが同じヌクレオチド及び同じヌクレオチド数の基準電圧値は、被試験ヌクレオチドの配列をより正確に決定するように、現在の環境によって僅かに異なる。
【0061】
本開示内容の利点は次のとおりである。
【0062】
作用電極が電気化学反応中に電子を提供することで、重合反応によって生成された水素イオンを中和して水素ガスを生成するので、配列決定時に発生した電荷を効果的に除去し、電荷の蓄積によるノイズの増加を回避する。
【0063】
電気化学反応が速いため、水素イオンを除去した直後に次のヌクレオチドの配列決定を行うことができるので、全体の配列決定時間を短縮することができる。
【0064】
穴溝内の水素イオンを効果的に除去できるため、同じ穴溝から最大2000KbpのDNAフラグメントを読み取ることができる。
【0065】
金属酸化物半導体技術によって配列決定の装置コストを削減し、大量生産及びプロセスの短縮により、より高密度でより大きなアレイサイズを得る。
【0066】
プロセスが短縮されると、ヌクレオチド配列素子における穴溝の体積がより小さくなり、重合反応及び電気化学反応が発生すると、pH値が更に変化して、検出時間が短縮され、被試験ヌクレオチド配列フラグメントの数が減らされ、試薬の消費量が減らされ、更に、コストが削減される。
【0067】
各バッチの基準電圧値が当時の環境によって僅かに異なることを考慮すると、人工的に合成された既知のヌクレオチド配列プライマーから相対基準電圧を取得することで、被試験ヌクレオチド配列フラグメントの配列をより正確に判断することができる。
【0068】
本開示内容は実施形態を前述の通りに開示したが、これは本開示内容を限定するものではなく、当業者であれば、本開示内容の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えることができる。従って、本開示内容の保護範囲は、下記特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
【符号の説明】
【0069】
100、100’’ ヌクレオチド配列決定素子
100A 第1のヌクレオチド配列決定素子
100B 第2のヌクレオチド配列決定素子
100C 第3のヌクレオチド配列決定素子
110 半導体基板
120、120A、120B、120C トランジスタ
121 グリッド
122 ソース
123 ドレイン
130 誘電体層
131 上面
132 下面
140、140A、140B、140C 環状電極群
141、141A、141B、141C 穴溝
142 第1の環状隔壁層
143 第1の環状電極
144 第2の環状隔壁層
145 第2の環状電極
146 第3の環状隔壁層
147 第3の環状電極
150 導体
160 バンプ電極
210 第1の電気二重層コンデンサ
220 第1の環状電極電荷移動抵抗器
230 第2の環状電極電荷移動抵抗器
240 第3の電気二重層コンデンサ
250 第3の環状電極電荷移動抵抗器
260 第1の溶液抵抗
270 第2の溶液抵抗
280 ワード線
300 センス増幅器
310 差動型センス増幅器
320 ラッチ型センス増幅器
400 ヌクレオチド配列決定チップ
A1、A2 第1のプライマー
B1、B2 第2のプライマー
D1、D2 幅
E1、E2 第1の電気信号
F1、F2 第2の電気信号
H1 高さ
P1、P2 被試験ヌクレオチド配列フラグメント
U1、U2 アダプタ
X1、X2 第1のベクター
Y1、Y2 第2のベクター