(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ステアリングシステムを動作させるための方法、ステアリングシステムのための制御装置及びステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20221108BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20221108BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20221108BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P25/024
H02P27/08
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2021533714
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2019083936
(87)【国際公開番号】W WO2020120302
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】102018221548.0
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オイゲン スヴォロフスキ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス シュラム
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-066947(JP,A)
【文献】特開2011-147272(JP,A)
【文献】特開2004-023843(JP,A)
【文献】特開2009-017715(JP,A)
【文献】特開2004-328814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0298405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/05
H02P 25/024
H02P 27/08
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のステアリングシステム(2)を動作させるための方法であって、
第2の動作電圧(u
→
23)のための補償軌跡(u
αβ,comp)と、変調リミット(U
mod)とに依存して、余裕電圧(U
res)を求めるステップと、
前記余裕電圧(U
res)に依存して、基本周波数を有する第1の動作電圧(u
→
dq)を求めるステップと、
前記第1の動作電圧(u
→
dq)の基本周波数に対し6次の高調波周波数を有する補償電圧(u
→
dq,comp)を求めるステップと、
前記第1の動作電圧(u
→
dq)と前記補償電圧(u
→
dq,comp)とに依存して、インバータ(23)のために前記第2の動作電圧(u
→
23)を求めるステップと、
を含
み、
角度依存の前記補償軌跡(u
αβ,comp
)の絶対値から前記変調リミット(U
mod
)の絶対値を減算することにより、角度依存の前記余裕電圧(U
res
)を求める、
自動車のステアリングシステム(2)を動作させるための方法。
【請求項2】
前記変調リミット(U
mod)は、1つの円に沿った電圧平面内において推移する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変調リミット(U
mod)は、1つの六角形に沿った電圧平面内において推移する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
高調波機械モデルを用いて前記補償電圧(u
→
dq,comp)を求める、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
永久磁石同期機(22)の実際ロータポジション(θ)と、前記第1の動作電圧(u
→
dq)とに依存して、前記補償電圧(u
→
dq,comp)を求める、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の動作電圧(u
→
dq)と前記補償電圧(u
→
dq,comp)とを加算することにより、前記インバータ(23)のために前記第2の動作電圧(u
→
23)を求める、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
自動車のステアリングシステム(2)のための制御装置(26)であって、
少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを有する少なくとも1つの記憶装置とを含む制御装置(26)において、
前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサを用いて、
第2の動作電圧(u
→
23)のための補償軌跡(u
αβ,comp)と、変調リミット(U
mod)とに依存して、余裕電圧(U
res)を求め、
前記余裕電圧(U
res)に依存して、基本周波数を有する第1の動作電圧(u
→
dq)を求め、
前記第1の動作電圧(u
→
dq)の基本周波数に対し6次の高調波周波数を有する補償電圧(u
→
dq,comp)を求め、
前記第1の動作電圧(u
→
dq)と前記補償電圧(u
→
dq,comp)とに依存して、インバータのために第2の動作電圧(u
→
23)を求める、
ことを当該制御装置(26)に行わせるように構成されて
おり、
角度依存の前記補償軌跡(u
αβ,comp
)の絶対値から前記変調リミット(U
mod
)の絶対値を減算することにより、角度依存の前記余裕電圧(U
res
)を求める、
自動車のステアリングシステム(2)のための制御装置(26)。
【請求項8】
自動車のステアリングシステム(2)であって、
インバータ(23)と、永久磁石同期機(22)と、請求項
7に記載の制御装置(26)とを含む、
自動車のステアリングシステム(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシステムを動作させるための方法、ステアリングシステムのための制御装置及びステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングシステムにおいて使用される電気機械には、数多くの要求が課されている。パッケージングの理由から、この機械を可能な限りコンパクトに構成しなければならない。出力密度が高いことから、永久磁石同期機(PMSM)が特に適していることが判明している。さらに、音響特性に対する要求を満たすために、出力されるトルクのリプル及びモータハウジングの振動を、許容限界値よりも低くしなければならない。
【0003】
独国特許出願公開第102011004384号明細書には、車両のためのパワーステアリングの同期モータの制御装置について開示されており、この制御装置は、終段を制御するためにPWM計算を行う装置と、同期モータのステータ巻線をスイッチングするための終段と、フィールド指向制御部とを含み、フィールド指向制御部は、出力量として目標角度を有しており、制御装置は、補償装置を有しており、これによって、目標角度に補償角度を加えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第102011004384号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の開示
第1の態様によれば、自動車のステアリングシステムを動作させるための方法が提供され、この方法は、制御装置が、第2の動作電圧のための補償軌跡と変調リミットとに依存して余裕電圧を求め、この余裕電圧に依存して、基本周波数を有する第1の動作電圧を求め、この第1の動作電圧の基本周波数に対し6次の高調波周波数を有する補償電圧を求め、さらに、第1の動作電圧と補償電圧とに依存して、インバータのために、第2の動作電圧を求める、ことを含む。
【0006】
永久磁石同期機の寄生作用の結果として、ロータ位置に依存するトルクリプルが発生する。特に、磁界が弱い領域において、優勢な電気6次が前面に現れる。このトルク次数を補償するために、電圧リミット近傍における永久磁石同期機の動作時に、余裕電圧が予め保持される。このため、例えば、高調波補償電圧を第1の動作電圧に印加するなどして、電流制御回路への介入が行われる。この場合、音響的に目立つ原因としてトルクリプルに重点が置かれる。高調波機械モデルが動作点に依存して補償電圧を計算し、妨害を及ぼすトルク次数がこの補償電圧によって消去される。付加的なd成分又はq成分を出力電圧空間ベクトルに印加するためには、付加的な余裕電圧が常に必要とされる。ここで提案する制御装置によれば、永久磁石同期機を可能な限り電圧リミット近傍において動作させることができ、それらの動作点における補償が保証される。
【0007】
永久磁石同期機は、例えば駐車プロセスのときなどように、しばしば電圧リミットにおいて動作させられるという背景から、ここで提供される解決手段は、運転者のために快適さをもたらすだけのものではない。同期機から発せられるノイズを運転者が故障と捉える頻度が少なくなり、従って、工場を訪れる頻度が少なくなることから、ノイズ低減は、むしろクレームの減少をも意味する。
【0008】
よって、磁界が弱い領域に至るまで電気6次の形態のトルクリプルを完全に補償するために、総合的な方法論が提供される。これと同時に最大トルク発生量を達成する目的で、例えば過変調領域を利用してトルクリプルを可能な限り良好に補償し得るように、使用可能な変調電圧を最大限に利用することに重点が置かれる。
【0009】
1つの有利な実施形態は、変調リミットが1つの円に沿った電圧平面内において推移することを特徴としている。これによれば、変調リミットは、角度には依存しない。有利には、この変調リミット内において推移する第2の動作電圧が発生し、この第2の電圧によって、永久磁石同期機が電圧リミット近傍において動作するときのトルクリプルが完全に補償されるようになる。
【0010】
1つの有利な実施形態は、変調リミットが1つの六角形に沿った電圧平面内において推移することを特徴としている。これによれば、変調リミットは、角度に依存する。このようにすれば、有利には、インバータの動作領域が完全に利用され、トルクリプルを同時に補償しながらトルク発生量が高められる。
【0011】
1つの有利な実施形態は、角度依存の補償軌跡の絶対値から変調リミットの絶対値を減算することにより、角度依存の余裕電圧が求められることを特徴としている。このようにすれば、余裕電圧によって、補償電圧の印加によるトルクリプルの補償が可能となる。
【0012】
1つの有利な実施形態は、高調波機械モデルを用いて補償電圧が求められることを特徴としている。
【0013】
1つの有利な実施形態は、永久磁石同期機の実際ロータポジションと、第1の動作電圧とに依存して、補償電圧が求められることを特徴としている。
【0014】
1つの有利な実施形態は、第1の動作電圧と補償電圧とを加算することにより、インバータのために、第2の動作電圧が求められることを特徴としている。
【0015】
本明細書の第2の態様は、自動車のステアリングシステムのための制御装置に関する。当該制御装置は、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを有する少なくとも1つの記憶装置とを含み、当該コンピュータプログラムコードは、少なくとも1つのプロセッサを用いて、第2の動作電圧のための補償軌跡と、変調リミットとに依存して、余裕電圧を求め、この余裕電圧に依存して、基本周波数を有する第1の動作電圧を求め、この第1の動作電圧の基本周波数に対し6次の高調波周波数を有する補償電圧を求め、さらに、第1の動作電圧と補償電圧とに依存して、インバータのために、第2の動作電圧を求める、ことを当該制御装置に行わせるように構成されている。
【0016】
本明細書の第3の態様は、自動車のステアリングシステムに関し、当該ステアリングシステムは、インバータと、永久磁石同期機と、第2の態様による制御装置とを含む。
【0017】
さらなる特徴及び利点は、以下の実施例の説明に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】自動車のためのステアリングシステムを概略的な形態において示す図である。
【
図2b】概略的に描かれた制御装置を示す図である。
【
図3a】個々の概略的な電圧ダイアグラムをdq座標系において示す図である。
【
図3b】個々の概略的な電圧ダイアグラムをαβ座標系において示す図である。
【
図4a】個々の概略的な電圧ダイアグラムをdq座標系において示す図である。
【
図4b】個々の概略的な電圧ダイアグラムをαβ座標系において示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、アシストステアリング4を備えたステアリングシステム2が概略的な形態において示されている。さらに、ステアリングシステム2は、図示されているように、重畳ステアリング6も含み得る。ステアリングシステム2は、例えばラックピニオン式ステアリングギアとして構成されたステアリングギア8を有する。本明細書においては、主としてラックピニオン式ステアリングを前提とし、この場合、ステアリングギア24は、ピニオン10及びラック12を含む。ステアリングギア8は、ピニオン10及びラック12を介して車両の各側において、それぞれ1つの車輪16と共働するステアリングロッド14と接続されている。基本的にステアリングシステム2は、本発明に係る方法を実施するために適した装置の多数の可能な実施形態のうちの1つを表している。従って、他のステアリングギアにより、又は、他の駆動装置により、他の実施形態を構成することができる。特にステアリングシステム2は、1つの実施形態の場合、ステア・バイ・ワイヤステアリングシステムである。しかも、このステアリングシステムには、さらに他のセンサを配置することができ、ここでは、それらの配置及び構成については立ち入らない。
【0020】
ステアリングシステム2の回転ロッド18に、ステアリングシステムのステアリング手段20、例えばステアリングホイールが配置されている。重畳ステアリング6を用いることにより、車両運転者によりもたらされるステアリング手段角度を、ステアリングシステム2の通常動作中に、ステアリングギア8に向けて増加又は減少させることができる。重畳ステアリング6からステアリングギア8へともたらされるこのステアリング角度差を、補助ステアリング角度とも称する。自明のとおり、回転ロッド18の代わりに、ステアリング手段20と重畳ステアリング6との間に、ステアリングコラムを配置するものとしてもよい。この実施形態の場合、重畳ステアリング6とアシストステアリング4との間に、回転ロッド18が配置されている。
【0021】
ステアリングシステム2のアシストステアリング4は、永久磁石同期機22と、この駆動ユニット22に配属されたインバータ23と、伝動装置24とを含む。インバータ23は、永久磁石同期機22を動作させるために、変調された動作電圧u→
uvwを生成する。ステアリングシステムの制御装置26が、永久磁石同期機22に配属されている。永久磁石同期機22は、伝動装置24を介してラック12に作用する。
【0022】
制御装置26のブロック102へ、ステアリングシステム2のセンサ32により求められた回転ロッドトルク34が供給される。ステアリングシステム2は、ポジションセンサ38を含み、このセンサは、実際ラックポジション40を求め、これは、制御装置26のブロック102へ供給される。さらに、自動車は、速度センサ42を含み、このセンサは、実際車両速度44を求めて、それを制御装置26へ供給する。他の選択肢として、実際車両速度44を、さらに他の制御装置から制御装置26へ供給することもできる。
【0023】
供給された回転ロッドトルク34と、供給された実際ラックポジション40と、自動車の実際速度44とに依存して、制御装置26は、アシストトルクMrefを求め、これは、永久磁石同期機22を用いてステアリングシステム2にもたらされるべきアシストトルクに対する目標値を表し、例えば、相応に変換されて永久磁石同期機22の動作量として変調された動作電圧u→
uvwの形態において供給される。
【0024】
ステアリングシステム2のセンサ46は、永久磁石同期機22の実際ステータ電流i→
dqを求める。実際ステータ電流i→
dqは、例えばベクトル量であり、iq座標系における成分id及びiqを含む。ステアリングシステム2のセンサ48は、永久磁石同期機22の実際ロータポジションθを求める。ブロック104は、変調リミットUmodを求める。ブロック106は、供給された補償電圧u→
dq,compの補償軌跡を、ステータ固定の補償軌跡uαβ,compに変換する。上述の補償軌跡のような1つの軌跡によって、補償電圧が時間軸上において推移する個々の座標系における軌道曲線が規定される。従って、例えば補償軌跡uαβ,compのような軌跡は、例えば補償電圧u→
αβ,compのようなベクトル量を用いて追従される。
【0025】
ブロック108は、変調リミットU
modと補償軌跡u
αβ,compとに依存して、余裕電圧U
resを求める。ブロック110は、第1の動作電圧u
→
dqと実際ロータポジションθとに依存して、補償電圧u
→
dq,compを求める。ブロック110は、例えば高調波機械モデルを含み、このブロックをそのようなモデルと称することができる。この機械モデルに由来する補償電圧u
→
dq,compが、式(1)及び(2)に従ってdq座標系において規定される。
【数1】
ここで、u
d,compは、d方向における角度依存の補償電圧である。U
d,6は、補償電圧u
→
dq,compの振幅である。θ
eiは、電気的なロータ位置である。φ
d,6は、補償電圧u
d,compの位相角である。同様に、このことはu
q,compについても、ただし、q方向において当てはまる。
【0026】
ブロック112は、予め定められたアシストトルクMrefと、余裕電圧Uresと、実際ロータポジションθとに依存して、成分id,ref及びiq,refを有する目標ステータ電流i→
dq,refを求める。加算部において、目標ステータ電流i→
dq,refと、実際ステータ電流i→
dqとに依存して、制御差dが求められる。ブロック116は、この制御差dに依存して第1の動作電圧u→
dqを求める制御器を成している。加算部118において、第1の動作電圧u→
dqと、補償電圧u→
dq,compとに依存して、第2の動作電圧u→
23が求められる。インバータ23は、永久磁石同期機22のステータ巻線において第2の動作電圧u→
23に相当する有効電圧が設定されるように、変調された動作電圧uuvwを発生させる目的で、設定可能な電圧を変調する。第1の動作電圧u→
dqは、制御器116により算出される。第2の動作電圧u→
23は、インバータ23へ供給され、それにより、インバータ23は、変調によってこの動作電圧u→
23を永久磁石同期機22において設定する。従って、制御装置26は、第2の動作電圧u→
23を供給し、さらに、この電圧をインバータ23へと導いて、インバータ23は、第2の動作電圧を用いて永久磁石同期機22を制御する。
【0027】
トルク形成に使用可能な電圧U
effは、式(3)に従って求められ、ここで、U
modは変調リミットであり、R
sは、ステータ抵抗であり、I
maxは、ステータ巻線における最大電流絶対値であり、U
resは、余裕電圧である。
【数2】
【0028】
目標ステータ電流i
→
dq,refの計算は、式(4)乃至式(7)に従って行われ、ここで、Z
pは、極のペア数であり、ψ
pm,dは、d方向における永久磁石の鎖交磁束であり、L
d,L
qは、d方向又はq方向における個々のインダクタンスであり、ωは、電気角速度であり、λは、ラグランジュ乗数である。
【数3】
【0029】
目標ステータ電流i→
dq,refは、トルク方程式(4)及び使用可能な電圧Ueffを用いて計算される。電圧リミットは、鎖交磁束ψ0を用いて式(5)によって表される。その結果から、式(6)に従って付帯条件として最大化すべきトルクと電圧リミットとを有する最適化問題が生じる。負のトルク方程式とこの付帯条とを用いることにより、最小化すべきラグランジュ関数(7)を展開することができ、そこから、個々のd方向又はq方向における成分id,ref及びiq,refを有する、動作最適化された目標ステータ電流i→
dq,refが計算される。
【0030】
目標ステータ電流i
→
dq,refによる基準値計算を用いることによって、第2の動作電圧u
→
23の基本周波数振幅u
dqが、補償電圧u
→
dq,compの印加が常に保証されるように制限される。この目的で、補償電圧u
→
dq,compは、式(8)に従って、補償電圧u
→
dq,compによるステータ固定のαβ座標系に変換される。
【数4】
【0031】
印加されるべき補償電圧u→
dq,compの形態は、そのd成分及びq成分によって特徴づけられる。個々の成分の振幅及び位相に依存して、対応する補償軌跡ud,compが生じる。一般に補償軌跡は、電圧平面における可変の伸長及び配向を伴い楕円によって描かれる。極端な事例においては、楕円は、円に至るまで又は直線に至るまで縮小される。
【0032】
目標ステータ電流i→
dq,refの計算への介入(MMPA/MMPVストラテジ)によって、必要とされる補償軌跡udq,compの電圧印加を可能にする適当な余裕電圧Uresが予め保持されるようになる。
【0033】
図2aには、概略的なブロック図が示されている。ブロック202によれば、第2の動作電圧u
→
23のための補償軌跡u
αβ,compと、変調リミットU
modとに依存して、余裕電圧U
resが求められる。ブロック204は、この余裕電圧U
resに依存して、基本周波数を有する第1の動作電圧u
→
dqを求める。ブロック206によれば、第1の動作電圧u
→
dqの基本周波数に対し6次の高調波周波数を有するフィールド指向補償電圧u
→
dq,compが求められる。ブロック208によれば、第1の動作電圧u
→
dqと、補償電圧u
→
dq,compとに依存して、インバータのために第2の動作電圧u
→
23が求められる。
【0034】
図2bには、概略的に描かれた制御装置26が示されている。この制御装置26は、プロセッサPを有しており、これは、データラインを介して記憶素子Memと接続されている。プロセッサPをディジタル計算機と称することもでき、そこにおいて本明細書で説明する方法を実施することができる。記憶素子Memを記憶媒体と称することもできる。プロセッサPにおいて実行可能なコンピュータプログラムは、コンピュータプログラムコードとして記憶素子Memに記憶されている。
【0035】
図3aは、フィールド指向dq座標系として描かれている。
図3a及び
図3bによれば、最大直径を有する空間ベクトル平面の内接円が変調リミットU
modとして規定されており、これを角度非依存電圧リミットと称することもできる。この変調リミットU
modは、式(9)により規定され、これは、線形の変調領域において空間ベクトル変調を適用することによって達成される。U
dcは、バッテリ電圧又は中間回路電圧を表す。
図3b(ステータ指向の座標系)の場合、変調リミットU
modは、六角形内に書き入れることが可能な最大内接円である。
【数5】
【0036】
設定可能な変調電圧は、ステータ巻線におけるオーミックな電圧降下により低減される。最終的には、予め保持しておくべき余裕電圧Uresを介して補償が保証される。
【0037】
基本周波数成分と、補償電圧u→
αβ,compの形態の補償成分とが重畳された結果、第2の動作電圧u→
23に対し角度依存の出力軌跡uαβが生じ、この場合、ステータ固定の動作電圧u→
αβが、角度依存の出力軌跡uαβに沿って推移する。ステータ固定の動作電圧u→
αβは、式(8)と同様に第2のフィールド指向動作電圧u→
23に対応する。
【0038】
対称性の理由から、以下においては、
図3bにおけるθ=0°~60°の空間ベクトル平面の一部分を考察すれば十分であり、ここで、θは、ステータ固定の動作電圧u
→
αβの電気角を表す。この領域において、規定された個数の角度値について補償軌跡u
αβと変調リミットU
modとの差が、式(10)に従って予め計算される。ステータ固定の動作電圧u
→
αβの電気角θは、電気的なロータ位置θ
eiとはオフセット
【数6】
だけ異なる。
【0039】
最大電圧差max(ures(θ))から最終的に、必要とされる余裕電圧Uresが得られ、これにより、基本周波数振幅の制限がもたらされる。基本周波数振幅の制限によって、出力軌跡uαβは、常に変調リミットUmod内に位置するようになる。かくして、出力軌跡uαβの外側にある点が単に変調リミットUmod上に位置するように、六角形Hの外側にある要求された出力軌跡uαβ,anが設定可能な電圧範囲内にスケーリングされる。六角形Hの内側領域は、インバータ23により設定可能な領域に相当する。
【0040】
図4a及び
図4bには、インバータ23の動作領域が完全に活用され、それにより、トルク発生量が高められるようにした、さらに他の実施例が示されている。非線形の変調領域におけるインバータ23の変調によって、完全な六角形の電圧平面を設定することができる。空間ベクトル平面の角におけるそれらのいわゆる過変調領域を、トルクにおける電気6次の補償のために利用することができる。この場合には、要求された楕円の出力軌跡u
αβ,anを、
図4aに従い線形の動作領域を越えて設定することができる。これによれば、六角形に沿って推移する式(11)による角度依存関数によって、変調リミットU
modが規定される。
【数7】
【0041】
次いで、ここでは、トルクリプルの補償に必要とされる第2の動作電圧u
→
23のための出力軌跡u
αβが、変調平面の6分の1にわたり規定された角度値において、角度依存の変調リミットU
modと比較される。式(12)による最大絶対値差から、必要とされる余裕電圧U
resが予測され又は求められる。
【数8】
【0042】
図4bから分かるように、余裕電圧U
resを付加的に予め保持しておく必要があるのは、高調波の補償電圧u
→
dq,compの角度に依存して、出力軌跡u
αβが変調リミットU
modにより予め定められた変調平面の外側に位置している場合だけである。これ以外の場合には、この方法論によって、トルクにおける電気6次を、余計なトルク損失を伴わずに補償することができる。ここで提案した方法論によって、三相パルスインバータの非線形変調領域(過変調)を利用して、トルクリプルを補償することができる。