(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】鉄道車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20221108BHJP
F24F 8/22 20210101ALI20221108BHJP
【FI】
B61D27/00 M
B61D27/00 V
F24F8/22
(21)【出願番号】P 2022505522
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002343
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 広
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田口 翔一
(72)【発明者】
【氏名】川崎 彰徳
(72)【発明者】
【氏名】田口 友章
(72)【発明者】
【氏名】明丸 大祐
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192942(JP,A)
【文献】実開昭61-169814(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0028820(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3369595(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第101987568(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 27/00
F24F 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に向けて凸状に湾曲した上面カバーと、底板と、の間に、少なくとも室内空気が通過する熱交換器と、紫外線照射装置と、を備えた屋根上設置型の鉄道車両用空調装置において、
前記熱交換器の空気吸込面は、前記紫外線照射装置で発生した紫外線が照射されるように配置されており、
前記紫外線照射装置と車室空間とを結ぶ直線上には、紫外線を透過しない部材が配置されている、
鉄道車両用空調装置。
【請求項2】
前記紫外線を透過しない部材として、
室内空気吸込口には複数の羽根を略同一方向に配列することにより構成されたグリルが設置されており、
前記グリルの羽根の大きさ及び角度は、前記紫外線照射装置と、吸込口とを直線で結んだときに、その直線が必ず羽根面と交差する、
請求項1に記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項3】
前記熱交換器はフィンチューブ式熱交換であり、かつ熱交換器の風下側にシロッコ式又は遠心式の送風機が設置されており、
前記送風機の吸込方向が、熱交換器の管軸方向と略同一方向である、
請求項1に記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項4】
前記グリルの羽根の表面は、蛍光物質が塗布されている、
請求項2に記載の鉄道車両用空調装置。
【請求項5】
前記上面カバーの内面は、少なくとも熱交換器の風上側に対面する面が紫外線を反射するように構成されている、
請求項1に記載の鉄道車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車内空気に浮遊する塵埃のほか細菌やウイルス等は、換気装置によって多くが車外に強制排出されるほか、ドア等の開口部からも自然排出されるが、その一部は車内の壁面や床面、空調装置の内部に付着する。これに対し、壁面や床面については、定期的な消毒作業により衛生が保たれている。
【0003】
しかし、空調装置の内部の清掃作業や消毒作業が行われるのは、そのメンテナンスを行う場合に限られている。近年、たびたび発生する新型感染症等への関心の高まりから、特に公共の輸送手段である鉄道車両では、車内に残留する細菌やウイルス等を従来以上に低減することが必要になってきている。
【0004】
このような社会からの要請に応えるための技術として、例えば特許文献1に示す鉄道車両用空調装置がある。この例では、光触媒を使用して空気中を浮遊する細菌を殺菌する技術が開示されている。しかしながら、既に細菌やウイルス等が付着した空調装置内部の消毒等については必ずしも十分な効果があるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塵埃のほか細菌やウイルス等が付着しやすい空調装置内の熱交換器の表面を安全な方法で清潔に保ち、清潔性に優れた鉄道車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、上方に向けて凸状に湾曲した上面カバーと、底板と、の間に、少なくとも室内空気が通過する熱交換器と、紫外線照射装置と、を備えた屋根上設置型の鉄道車両用空調装置において、熱交換器の空気吸込面は、紫外線照射装置で発生した紫外線が照射されるように配置されており、紫外線照射装置と車室空間とを結ぶ直線上には、紫外線を透過しない部材が配置されることにより達成される。
【本発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塵埃のほか細菌やウイルス等が付着しやすい空調装置内の熱交換器の表面を安全な方法で清潔に保ち、清潔性に優れた鉄道車両用空調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係る鉄道車両用空調装置の内部構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の鉄道車両用空調装置で用いられているフィンチューブ熱交換器の構成要素を示す図である。
【
図3】本発明の実施例2に係る鉄道車両用空調装置の内部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の実施例1を、
図1と
図2を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る鉄道車両用空調装置(以下、「空調装置」ともいう)1の内部構成を示す断面図であり、空調装置1の主要部を、車両の車体長手方向と垂直な断面で切断した断面図である。また、
図2は、
図1の鉄道車両用空調装置1で用いられているフィンチューブ熱交換器(以下、「熱交換器」ともいう)2の構成要素7を示す図である。
図1に示すように、車体6の屋根上に、空調装置1が搭載されている。空調装置1は、その上面カバー13と略平板状の底板14で囲まれた内部に主要な機器を収めた構造となっている。
【0012】
外形が厚板状の熱交換器2は、所定間隔かつ平行に1対が対面するように配置され、両者の中間に紫外線照射装置5が設置されている。紫外線照射装置5は、熱交換器2に対面するように、熱交換器2の風上側に設置されている。空調装置1が作動すると、送風機3が発生する空気流により、車室空気は吸込グリル4が設置された空気吸込口11を通って空調装置1の内部に導かれ、熱交換器2により冷却又は加熱され、送風機3を通って空気吹出口12から車内に戻ることになる。
【0013】
実施例1では、この紫外線照射装置5には、直管式の紫外線ランプを用いているが、例えばLED式の紫外線源を用いても良い。
図2に示す通り、熱交換器2は、フィンチューブ式と呼ばれる形式のものである。前記熱交換器2の構成要素7は、多数の平板状のフィン8を、ヘアピン状に成形された伝熱管9が貫いている構造となっている。伝熱管の端部はリターンパイプ10のような接手で接続され、冷(熱)媒流路を構成している。
【0014】
実施例1における熱交換器2は、その伝熱管9の長手方向が車体の長手方向と一致した方向になるように設置されている。なお、熱交換器2は、伝熱管9に対して直角方向に通風する構造であるため、車体の長手方向に対する直角方向に通風する。また、送風機3には、遠心ファンが用いられている。一般に、遠心ファンやシロッコファンは、その回転軸の方向に空気を吸い込み、回転軸と垂直な方向に空気を吹き出す形式である。この送風機3の内部の通風路は、概ね直角に屈曲しているため、吸い込み口から吹き出し口への透光性は極めて少ない。
【0015】
しかも、
図1に示す実施例1における送風機3は、車体の長手方向と一致する空気の吸込方向を得るように吸い込み口が開口している。その吸込方向に対する垂直方向から入射する紫外線の程度は極めて少ない。吸込グリル4は、複数の略平板状の羽根の長手方向を略同一方向に配列することにより構成されている。また、この羽根の角度及び流れ方向の長さは、羽根面が紫外線照射装置と車室内を結ぶ直線に交差するように設定されている。また、羽根表面には蛍光物質が塗布されている。
【0016】
紫外線照射装置5から照射された紫外線は、塵埃のほか細菌やウイルス等が付着しやすい熱交換器2の吸込面を照射し、塵埃を脆化させるほか、細菌やウイルス等を消毒する効果を発揮する。紫外線照射装置5から照射された紫外線のうち、熱交換器2以外の方向に向かう紫外線は、空調装置1の上面カバー1や吸込グリル4に照射される。
【0017】
紫外線は、有益な殺菌作用があると同時に、人体に対して、特に目や皮膚に悪影響をもたらすことも一般に知られている。これに対し、吸込グリル4は、前記の通り、それを構成する羽根の角度及び流れ方向の長さが、羽根面が紫外線照射装置と車室内を結ぶ直線に交差するように配置されている。このため、紫外線照射装置5から照射された紫外線は、車内への直接漏洩が阻止され、車室内の乗客へ悪影響を及ぼさない。
【0018】
さらに、羽根面に照射された紫外線は、羽根面に塗布された蛍光物質を発光させる。この発光を見た車内にいる人は、紫外線照射装置が作動中であることを確認することができる。このような発光による動作確認の機能には、乗客への安心感や清潔感をアピールする効果がある。熱交換器2は、前記の通り多数の平板上のフィン8で構成されたフィンチューブ式であり、通気性の良好な方向には透光性も高い構造である。
【0019】
このような構造の熱交換器2の吸込面に紫外線が照射された場合、その一部がフィン間の隙間を通じて熱交換器2の風下側に漏洩する可能性がある。これに対し、実施例1においては、熱交換器2の風下側にある送風機3の空気吸込方向が、車両の長手方向となっているため、車両の長手方向と垂直なフィン8の隙間、すなわち通風方向から漏洩した紫外線が送風機3を通過して車室内に漏洩することは無い。
【0020】
このように、本構成によれば熱交換器2の表面に確実に紫外線を照射し、塵埃を脆化させるほか、細菌やウイルス等を消毒する効果を発揮できるとともに、車内への紫外線の漏洩も防止できる。すなわち、空調装置内の熱交換器2の表面を安全な方法で清潔に保ち、清潔性に優れた鉄道車両用空調装置を提供することができる。
【実施例2】
【0021】
次に、本発明の実施例2を、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例2に係る鉄道車両用空調装置(空調装置)1Aの内部構成を示す断面図であり、空調装置1の主要部を、車両の車体長手方向と垂直な断面で切断した断面図である。
図2に示すように、車体6の屋根上に、空調装置1が搭載されている。空調装置1は、その上面カバー13と略平板状の底板14で囲まれた内部に主要な機器を収めた構造となっている。
【0022】
空調装置1Aが作動すると、送風機3が発生する空気流により、車室空気は空気吸込口11を通って空調装置1の内部に導かれ、送風機3を通ったのちに熱交換器2により冷却又は加熱され、空気吹出口12から車内に戻ることになる。送風機3の上部には熱交換器2と上面カバー13に対面するように紫外線照射装置5が設置されている。
【0023】
実施例2の空調装置1Aにおいて、この紫外線照射装置5は、直管式の紫外線ランプを用いたが、例えばLED式の紫外線源を用いても良い。なお、熱交換器2がフィンチューブ式で、送風機3には、遠心ファンやシロッコファンを採用した点は、実施例1と同様である。
【0024】
なお、空調装置上面カバーの内面の一部には、紫外線を反射させる加工が施されており、上面カバー内面の反射面13aを構成している。具体的には、上面カバー内面の反射面13aは、紫外線を反射するシートを上面カバー内面に貼り付けることで構成されている。
【0025】
紫外線照射装置5から照射された紫外線は、塵埃のほか細菌やウイルス等が付着しやすい熱交換器2の吸込面を直接照射するとともに、上面カバー内面の反射面13aにより反射して熱交換器2の吸込面を間接照射する。すなわち、直接光のみを用いて照射する場合よりもより効果的に熱交換器2の吸込面を照射することができる。
【0026】
これにより、実施例2の空調装置1Aは、紫外線照射装置5の数や照射強度を小さくしても、実施例1の空調装置1と同等の消毒効果が期待できる。また、紫外線照射装置5から下方に照射された紫外線は、その一部が送風機3の吹出口3bから送風機内に入り込むが、送風機3の吸込方向と吹出方向が垂直になっているため、車室内に紫外線が漏洩することは無い。
【0027】
このように、実施例2に係る空調装置1Aの構成によれば、熱交換器2の表面へより確実に紫外線を照射できることにより、塵埃を脆化させるほか、細菌やウイルス等を消毒する効果を発揮できるとともに、車内への紫外線の漏洩も防止できる。すなわち、空調装置内の熱交換器2の表面を安全な方法で清潔に保ち、清潔性に優れた鉄道車両用空調装置1Aを提供することができる。
【0028】
本発明の実施形態に係る鉄道車両用空調装置(以下、「本装置」という)1は、以下のように総括できる。
[1]本装置1は、上方に向けて凸状に湾曲した上面カバー13と、底板14と、の間に、少なくとも室内空気が通過する熱交換器2と、紫外線照射装置5と、を備えた屋根上設置型の鉄道車両用空調装置1である。熱交換器2は、外観が厚板状又は扁平箱型であり、最も広い面積を有する主面として対向する第1面から第2面へと通風する際に熱交換することにより、室温を調整する。
【0029】
ここで、主面をなす第1面、及び第2面は、熱交換器2における何れかの部位を外観に基づいて特定するために「面」と称しているに過ぎず、巨視的には「面」であっても、微視的には多数の隙間を連ねた格子状である。これら第1面、及び第2面は、それらの垂直方向に空気抵抗が少なく、通気性良好な構造であるため、そのような格子状の第1面により空気吸込面が形成され、同様の第2面により空気吐出面が形成される。
【0030】
熱交換器2の空気吸込面は、紫外線照射装置5で発生した紫外線が照射されるように配置されている。そのため、格子状に開口して隙間を空けた空気吸込面に対し、垂直に多数が配置されたフィン8の面に沿って、紫外線がある程度の深部まで射し込まれる。したがって、紫外線照射装置5から照射された紫外線により、空調装置内の熱交換器2の表面、及びフィン8の面に付着した塵埃が脆化されるほか、細菌やウイルス等を消毒する効果が発揮される。
【0031】
紫外線照射装置5と車室空間とを結ぶ直線上には、紫外線を透過しない部材が配置されている。したがって、紫外線照射装置5による紫外線照射を遮蔽された車室空間内に所在する乗客は、安全が確保される。すなわち、本装置1は、塵埃のほか細菌やウイルス等が付着しやすい空調装置内の熱交換器2の表面を安全な方法で清潔に保ち、清潔性に優れている。
【0032】
[2]上記[1]において、紫外線を透過しない部材として、室内空気吸込口11には複数の羽根を略同一方向に配列することにより構成されたグリル4が設置されている。グリル4の羽根の大きさ及び角度は、紫外線照射装置5と、吸込口とを結んだ直線方向に対し、羽根面が交差して直線方向の透光性を妨げるように構成されている。したがって、紫外線が直接車内に漏洩し、車室内にいる乗客に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0033】
[3]上記[1]において、熱交換器2はフィンチューブ式熱交換構造であり、かつ熱交換器2の風下側にシロッコ式又は遠心式の送風機3が設置されている。遠心ファンやシロッコファンは、その回転軸を車体の長手方向、つまり進行方向に一致する方向に空気を吸い込むが、回転軸と垂直な方向に空気を吹き出す形式である。
【0034】
その吸込方向は、熱交換器2の伝熱管9の管軸方向と略同一方向である。つまり、送風機3は、吸込方向と吹出方向が直角になっているため、紫外線照射装置5から下方に照射された紫外線は、その一部が送風機3の吹出口3bから送風機3内に入り込むが、屈曲した内部通風路を直進できず、車室内に紫外線が漏洩することは無い。
【0035】
[4]上記[1]において、グリル4の羽根の表面(羽根面)は、蛍光物質が塗布されている。羽根面に照射された紫外線は、羽根面に塗布された蛍光物質を発光させるため、車内から紫外線照射装置の作動を確認することができるので、乗客への安心感や清潔感をアピールする効果がある。
【0036】
[5]上記[1]において、上面カバー13の内面は、少なくとも熱交換器2の風上側に対面する面が紫外線を反射するように構成されている。例えば、紫外線照射装置5から照射された紫外線は、熱交換器2の吸込面を直接照射するとともに、上面カバー内面の反射面13aにより反射して熱交換器2の吸込面を間接照射する。その結果、直接光のみを用いて照射する場合よりも、より効果的に熱交換器2の吸込面を照射することができるので、同等の消毒効果を得るために、紫外線照射装置5の数や照射強度を小さくして節約できる。
【符号の説明】
【0037】
1,1A 鉄道車両用空調装置、2 熱交換器2、3 送風機、4 (吸込)グリル、5 紫外線照射装置、6 車体、7 熱交換器2の要素、8 フィン、9 伝熱管、10 リターンパイプ、11 (室内)空気吸込口、12 空気吹出口、13 上面カバー、14 底板
【要約】
上方に向けて凸状に湾曲した上面カバーと、底板と、の間に、少なくとも室内空気が通過する熱交換器と、紫外線照射装置と、を備えた屋根上設置型の鉄道車両用空調装置において、熱交換器の空気吸込面は、紫外線照射装置で発生した紫外線が照射されるように配置されており、紫外線照射装置と車室空間とを結ぶ直線上には、紫外線を透過しない部材が配置されている。