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特許7171973窒化ケイ素粉末、スラリー、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法
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  • 特許-窒化ケイ素粉末、スラリー、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末、スラリー、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20221108BHJP
   C04B 35/584 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C01B21/068 D
C04B35/584
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022533452
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013725
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021057700
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐三
(72)【発明者】
【氏名】宮下 敏行
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003157(JP,A)
【文献】特開2002-265276(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102206082(CN,A)
【文献】特開2013-203613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/068
C04B 35/584
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素の一次粒子と、複数の前記一次粒子が凝集している凝集粒子と、を含み、
ーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Aが、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークとを有する、窒化ケイ素粉末。
[但し、前記粒子径分布Aは、500mLの容器に60mgの前記窒化ケイ素粉末を計り取り、これに、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20%水溶液(2mL)と水(200g)を配合して調製される測定試料をそのまま用いて前記レーザー回折・散乱法によって測定される。]
【請求項2】
前記粒子径分布Aの全体に対する前記第2ピークの面積比率が80%以下である、請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項3】
前記第1ピークの頂点における粒子径に対する、前記第2ピークの頂点における粒子径の比が4以下である、請求項1又は2に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
前記測定試料に対して超音波による分散処理を3分間行って調製される測定試料を用いて前記レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Bが、1μm未満の粒子径範囲に第3ピークと、1μm以上の粒子径範囲に第4ピークと、を有し、
前記粒子径分布Aの全体に対する前記第2ピークの面積比率から、前記粒子径分布Bの全体に対する前記第4ピークの面積比率を差し引いたときの差が22%以下となる、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項5】
前記粒子径分布Aより求められる平均粒子径は1.0~2.5μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項6】
1:1の質量比で水と混合して得られるスラリーの25℃における粘度(30rpm)が10Pa・s以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末と水とを含むスラリー。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ケイ素粉末、スラリー、及び窒化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素は、強度、硬度、靭性、耐熱性、耐食性、耐熱衝撃性等に優れた材料である。このため、窒化ケイ素焼結体は、ダイカストマシン及び溶解炉等の各種産業用の部品、及び自動車部品等に利用されている。また、窒化ケイ素焼結体は、高温における機械的特性にも優れることから、高温強度、高温クリープ特性が求められるガスタービン部品に用いることが検討されている。特許文献1では、常温における熱伝導率が100~300W/(m・K)であり、常温における3点曲げ強度が600~1500MPaであることを特徴とする窒化珪素質焼結体が提案されている。
【0003】
一方、窒化ケイ素粉末は、上述の窒化ケイ素焼結体の原料として用いられたり、離型剤として用いられたりしている。特許文献2では、多結晶シリコンインゴットの製造の際に用いる離型剤用の窒化ケイ素粉末の粒子径分布を調整することによって、多結晶シリコンインゴットへの不純物の混入を抑制する技術が提案されている。粒子径測定の試料調製に際し、JIS Z 8825:2013の「7.2 試料の検査、調製、分散、及び濃度」の項、及び、JIS Z 8824:2004の「9.分散方法の最適化」の項では、超音波処理等によって凝集体を解砕することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-262756号公報
【文献】特開2014-9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ケイ素焼結体を製造する際、サブミクロンオーダーの窒化ケイ素粒子を含む窒化ケイ素粉末を溶媒と混合してスラリーを調製し、ドクターブレード法等によって成形体を作製する。このようなスラリーは、成形体及びこれを焼成して得られる窒化ケイ素焼結体の性状のばらつきを抑制するため、流動性に優れることが好ましい。
【0006】
本開示は、優れた流動性を有するスラリーを安定的に調整することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供する。本開示は、このような窒化ケイ素粉末を含有することによって、優れた流動性を有するスラリーを提供する。本開示は、このような窒化ケイ素粉末を用いることによって、熱伝導率及び機械的特性に優れるとともに、性状のばらつきが低減された窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、窒化ケイ素の一次粒子と、複数の一次粒子が凝集している凝集粒子と、を含み、分散処理を行わずにレーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Aが、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークとを有する、窒化ケイ素粉末を提供する。
【0008】
窒化ケイ素粉末のスラリーの流動性は、固形分の濃度のみならず、粒子径によっても変動すると考えられる。窒化ケイ素粉末の粒子径分布の評価手法としては、レーザー回折・散乱法による方法が一般的に用いられている。レーザー回折・散乱法によって窒化ケイ素粉末の粒子径分布を測定する場合、特許文献2、JIS Z 8824:2004及びJIS Z 8825:2013等に記載されるように、通常は、超音波処理等によって溶媒中で凝集粒子を解砕するための分散処理を行う。このような分散処理を行うことによって凝集粒子を解砕した後、粒子径分布が評価されている。ところが、そのような分散処理を行ってしまうと、凝集粒子がスラリーの流動性に与える影響を評価することは困難である。このため、粒子径分布が互いに同等である窒化ケイ素粉末を用いた場合であっても、スラリーの粘度が大きく変動する事象が生じていた。
【0009】
一方、本開示の窒化ケイ素粉末の場合、分散処理を行わずにレーザー回折・散乱法による粒子径分布Aが測定されている。この粒子径分布Aは、凝集粒子の凝集を維持した状態で測定されるため、スラリーの流動性との相関性が十分に高くすることができる。そして、この窒化ケイ素粉末の粒子径分布Aは、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークの他に、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピークを有する。このような窒化ケイ素粉末は、凝集粒子の比率が低く、凝集していない一次粒子の比率が高い。したがって、本開示の窒化ケイ素粉末は、優れた流動性を有するスラリーを安定的に得ることができる。
【0010】
上記粒子径分布Aの全体に対する上記第2ピークの面積比率は80%以下であってよい。これによって、凝集粒子の比率が十分に小さくなり、一層優れた流動性を有するスラリーを安定的に調製することができる。
【0011】
第1ピークの頂点における粒子径に対する、第2ピークの頂点における粒子径の比が4以下であってよい。これによって、凝集粒子に含まれる一次粒子の数を少なくして、凝集粒子のサイズを小さくすることができる。したがって、スラリーの流動性を一層高くすることができる。また、粗大粒子が低減できるため、窒化ケイ素焼結体の原料に用いると微細組織の均一性が向上し、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率及び機械的特性を十分に高水準にすることができる。
【0012】
上記窒化ケイ素粉末は、分散処理を行った後に、レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Bが、1μm未満の粒子径範囲に第3ピークと、1μm以上の粒子径範囲に第4ピークとを有し、
粒子径分布Aの全体に対する第2ピークの面積比率から、粒子径分布Bの全体に対する第4ピークの面積比率を差し引いたときの差が22%以下となってよい。分散処理を行うと、凝集粒子が解砕されて一次粒子となる。このため、分散処理を行う前に含まれる凝集粒子の比率が高い場合には、分散処理を行うことによって、凝集粒子の比率が大きく低下する。上記窒化ケイ素粉末は、分散処理を行うと、第4ピークの面積比率から第2ピークの面積比率を差し引いたときの差が所定値以下となる。このため、分散処理前の窒化ケイ素粉末に含まれる元々の凝集粒子の含有量が十分に低い。このような窒化ケイ素粉末は、一層優れた流動性を有するスラリーを安定的に調製することができる。
【0013】
上記窒化ケイ素粉末の平均粒子径は1.0~2.5μmであってよい。これによって、一層優れた流動性を有するスラリーを安定的に調製することができる。また、このような窒化ケイ素粉末を窒化ケイ素焼結体の原料に用いると、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率及び機械的特性を一層高水準にすることができる。
【0014】
上記窒化ケイ素粉末と水とを1:1の質量比で混合して得られるスラリーの25℃における粘度(30rpm)が10Pa・s以下であってよい。このような窒化ケイ素粉末は、一次粒子の凝集が抑制されているため、例えば、窒化ケイ素焼結体を製造したときに十分に緻密化することができる。したがって、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率及び機械的特性を十分に高水準にすることができる。
【0015】
本開示は、一つの側面において、上述の窒化ケイ素粉末を含むスラリーを提供する。上記スラリーは、安定的に優れた流動性を有する。したがって、例えば、窒化ケイ素焼結体の製造に用いると、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率及び機械的特性を安定的に高水準にすることができる。
【0016】
本開示は、一つの側面において、窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する、窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。この製造方法で得られる窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素粒子の凝集粒子の比率が低く一次粒子の比率が高い窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を用いる。このため、窒化ケイ素焼結体を製造したときに十分に緻密化することができる。また、窒化ケイ素焼結体の微細組織の均一性を向上することができる。これによって、熱伝導率及び機械的特性に優れるとともに、性状のばらつきが低減された窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
優れた流動性を有するスラリーを安定的に調整することが可能な窒化ケイ素粉末及びその製造方法を提供することができる。このような窒化ケイ素粉末を含有することによって、優れた流動性を有するスラリーを提供することができる。このような窒化ケイ素粉末を用いることによって、熱伝導率及び機械的特性に優れるとともに、性状のばらつきが低減された窒化ケイ素焼結体を製造することが可能な製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】レーザー回折・散乱法を用いた粒子径分布測定装置で測定される窒化ケイ素粉末の体積基準の粒子径分布の一例を示す図である。
図2】実施例1の粒子径分布の測定結果を示す図である。
図3】実施例2の粒子径分布の測定結果を示す図である。
図4】比較例1の粒子径分布の測定結果を示す図である。
図5】比較例2の粒子径分布の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0020】
窒化ケイ素粉末は、窒化ケイ素の一次粒子と、複数の一次粒子が凝集している凝集粒子と、を含み、分散処理を行わずにレーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Aが、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークとを有する。窒化ケイ素の一次粒子及び凝集粒子は、表面に二酸化ケイ素等の酸化物を有していてよい。窒化ケイ素粉末における窒化ケイ素の純度は98質量%以上であってよく、99質量%以上であってもよい。
【0021】
図1は、レーザー回折・散乱法を用いた粒子径分布測定装置で測定される窒化ケイ素粉末の体積基準の粒子径分布の一例を示す図である。横軸は、対数目盛の粒子径[μm]であり、縦軸は頻度[体積%]である。本開示における粒子径分布は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定される。本開示において、粒子径分布の測定の前に、分散処理を行わずに測定される粒子径分布を「粒子径分布A」と称する。粒子径分布Aは、凝集粒子を維持した状態で測定される。分散処理としては、通常の粒子径分布の前処理として行われるものが挙げられる。例えば、超音波による分散、スターラー、撹拌翼、又はスパチュラ等を用いる混合が挙げられる。
【0022】
粒子径分布Aの測定にあたっては、まず、500mLの容器に60mgの窒化ケイ素粉末を測り取る。これに、分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20%水溶液(2mL)と水(200g)を配合して測定試料を得る。この測定試料を用いて、粒子径分布Aの測定を行う。粒子径分布Aの測定には、ベックマンコールター社製のLS-13 320(商品名)を用いる。測定条件としては、粒子屈折率を2.2、溶媒の屈折率を1.33とする。
【0023】
上述の条件で測定される粒子径分布Aは、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピーク10と、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピーク20とを有する。すなわち、粒子径分布Aは、第1ピーク10と第2ピーク20との間に谷を有する。粒子径分布Aは2つのピークとその間の谷で構成されている。第1ピーク10は、窒化ケイ素の一次粒子の粒子径を示している。第1ピーク10の頂点における粒子径d1は、0.2~0.95μmであってよい。粒子径d1の下限は、製造の容易性の観点から、0.3μmであってよく、0.4μmであってよく、0.5μmであってもよい。粒子径d1の上限は、焼結性向上の観点から、0.9μmであってよく、0.8μmであってよく、0.7μmであってもよい。
【0024】
第2ピーク20は、一次粒子が凝集して構成される凝集粒子の粒子径を示している。ここでいう凝集粒子は、上述の分散剤を配合しても凝集が解かれない粒子である。第2ピーク20の頂点における粒子径d2は1.5μmを超え且つ4.0μm未満であってよい。粒子径d2の下限は、焼結性向上の観点から、1.6μmであってよく、1.7μmであってよく、1.8μmであってもよい。粒子径d2の上限は、焼結性向上の観点から、3.5μmであってよく、3.0μmであってよく、2.5μmであってもよい。
【0025】
粒子径d1に対する粒子径d2の比(d2/d1)は、4以下であってよく、3.5以下であってよく。3以下であってもよい。これによって、凝集粒子に含まれる一次粒子の数を少なくして、凝集粒子のサイズを小さくすることができる。したがって、窒化ケイ素粉末を含むスラリーを調製したとき、スラリーの流動性を一層高くすることができる。粒子径d1に対する粒子径d2の比(d2/d1)は、十分に小さい一次粒子とする観点から1以上であってよく、2以上であってもよい。
【0026】
粒子径分布Aの全体に対する第1ピーク10の面積比率は10%以上であってよく、15%以上であってよく、20%以上であってよい。また、粒子径分布Aの全体に対する第1ピーク10の面積比率は45%以下であってよく、40%以下であってよく、30%以下であってよい。
【0027】
粒子径分布Aの全体に対する第2ピーク20の面積比率は80%以下であってよく、78%以下であってよく、76%以下であってもよい。これによって、窒化ケイ素粉末における凝集粒子の割合を低くしてスラリーにしたときの流動性を一層高くすることができる。同様の観点から、粒子径分布Aの全体に対する第1ピーク10の面積比率は20%以上であってよく、22%以上であってよく、24%以上であってもよい。本開示において、第1ピークの面積比率は、1μm未満の粒子径範囲における頻度の累積値であり、第2ピークの面積比率は、1μm以上の粒子径範囲における頻度の累積値である。第1ピーク10と第2ピーク20の面積比率の合計値は100%である。粒子径分布Aの全体に対する第2ピーク20の面積比率は、円滑に製造できるようにする観点から、40%以上であってよく、50%以上であってもよい。
【0028】
第1ピーク10の頂点における頻度は1.00体積%以上であってよく、1.50体積%以上であってよく、1.75体積%以上であってよく、2.00体積%以上であってよく、2.25体積%以上であってよい。第1ピーク10の頂点における頻度は5.00体積%以下であってよく、4.50体積%以下であってよく、4.00体積%以下であってよく、3.50体積%以下であってよく、3.00体積%以下であってよい。
【0029】
第2ピーク20の頂点における頻度は4.00体積%以上であってよく、4.50体積%以上であってよく、5.00体積%以上であってよく、5.25体積%以上であってよい。第2ピーク20の頂点における頻度は8.00体積%以下であってよく、7.50体積%以下であってよく、7.00体積%以下であってよく、6.50体積%以下であってよく、6.25体積%以下であってよい。
【0030】
粒子径分布Aより求められる窒化ケイ素粉末の平均粒子径(D50、メディアン径)は、1.0~2.5μmであってよい。平均粒子径は、粒子径分布Aの累積分布において、小粒径からの積算値が全体の50%に達したときの粒子径である。平均粒子径は1.2~1.9μmであってよく、1.4~1.8μmであってもよい。これによって、一層優れた流動性を有するスラリーを安定的に調製することができる。また、このような窒化ケイ素粉末を窒化ケイ素焼結体の原料に用いると、窒化ケイ素焼結体の熱伝導率及び機械的特性を一層高水準にすることができる。
【0031】
粒子径分布Aの累積分布において、小粒径からの積算値が全体の10%に達したときの粒子径をD10としたとき、D10は、0.8μm以下であってよく、0.7μm以下であってもよい。これによって、窒化ケイ素粉末の焼結性を十分に高くすることができる。D10の下限は、製造の容易性の観点から、0.2μm以上であってよい。
【0032】
粒子径分布Aの累積分布において、小粒径からの積算値が全体の90%に達したときの粒子径をD90としたとき、D90は、5.8μm以下であってよく、5.0μm以下であってもよい。これによって、スラリーの流動性を一層高くすることができる。D90の下限は、製造の容易性の観点から、3.0μm以上であってよい。
【0033】
図1の粒子径分布Bは、窒化ケイ素粉末の分散処理を行って測定される。粒子径分布Bの測定にあたっては、まず、500mLの容器に60mgの窒化ケイ素粉末を測り取る。これに、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムの20%水溶液(2mL)と水(200g)を配合して測定試料を得る。その後、水及び窒化ケイ素粉末が収容された容器を、シャープ株式会社製の超音波分散機にセットし、3分間の超音波分散を行う。これによって、窒化ケイ素粉末に含まれる凝集粒子が一次粒子に解砕される。このような分散処理を行った後、粒子径分布Aの測定で用いた粒子径分布測定装置を用いて粒子径分布を測定する。上述の分散処理を行うこと以外は、粒子径分布Bは、粒子径分布Aと同じ測定条件で測定される。
【0034】
上述の条件で測定される粒子径分布Bは、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第3ピーク30と、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第4ピーク40とを有する。すなわち、粒子径分布Bは、第3ピーク30と第4ピーク40との間に谷を有する。第2ピーク20と第4ピーク40の差が、超音波処理前に存在していた凝集粒子のうち、凝集が解かれた粒子の頻度となる。第4ピーク40を有することは必須ではなく、第4ピーク40はなくてもよい。この場合、窒化ケイ素粉末に含まれる殆ど又は全ての凝集粒子が一次粒子に解砕されたことを意味する。
【0035】
粒子径分布Bは2つのピークとその間の谷で構成されている。第3ピーク30は、窒化ケイ素の一次粒子の粒子径を示している。第3ピーク30の頂点における粒子径d3は、0.2~0.95μmであってよい。粒子径d3の下限は、製造の容易性の観点から、0.3μmであってよく、0.4μmであってよく、0.5μmであってもよい。粒子径d1の上限は、焼結性向上の観点から、0.9μmであってよく、0.8μmであってよく、0.7μmであってもよい。
【0036】
第4ピーク40は、分散処理では解砕されない粗大粒子の粒子径を示している。第4ピーク40の頂点における粒子径d4は1.5μmを超え且つ4.0μm未満であってよい。粒子径d4の下限は、焼結性向上の観点から、1.6μmであってよく、1.7μmであってよく、1.8μmであってもよい。粒子径d4の上限は、焼結性向上の観点から、3.5μmであってよく、3.0μmであってよく、2.5μmであってもよい。
【0037】
粒子径分布Bの全体に対する第4ピーク40の面積比率は、例えば、60%以下であってよい。粒子径分布Bの全体に対する第3ピーク30の面積比率は、例えば、40%以上であってよい。本開示において、第3ピークの面積比率は、1μm未満の粒子径範囲における頻度の累積値であり、第4ピークの面積比率は、1μm以上の粒子径範囲における頻度の累積値である。第3ピーク30と第4ピーク40の面積比率の合計値は100%である。
【0038】
粒子径分布Aの全体に対する第2ピークの面積比率から、粒子径分布Bの全体に対する第4ピークの面積比率を差し引いたときの差(Δ1)は、22%以下であってよく、20%以下であってもよい。当該差が小さいことは、分散処理前の窒化ケイ素粉末に含まれる凝集粒子の比率が低いことを意味する。このような窒化ケイ素粉末は、一層優れた流動性を有するスラリーを安定的に調製することができる。同様の観点から、粒子径分布Bの全体に対する第3ピークの面積比率から、粒子径分布Aの全体に対する第1ピークの面積比率を差し引いたときの差(Δ2)は、22%以下であってよく、20%以下であってもよい。差(Δ1)は、製造の容易性の観点から、5%以上であってよく、10%以上であってもよい。同様の観点から、差(Δ2)は、5%以上であってよく、10%以上であってもよい。
【0039】
一実施形態に係るスラリーは、窒化ケイ素粉末と水とを含有する。窒化ケイ素粉末と水とを、1:1の質量比で含むスラリーの25℃における粘度(30rpm)は、10Pa・s以下であってよく、8Pa・s以下であってよく、6Pa・s以下であってよく、5Pa・s以下であってもよい。このように低い粘度を有するスラリーは、固形分である窒化ケイ素粉末の分散性に優れる。このため、湿式成形プロセスで窒化ケイ素焼結体を製造したときに、窒化ケイ素焼結体の性状のばらつきを十分に低減することができる。したがって、高い熱伝導率及び機械的特性を有する窒化ケイ素焼結体を、円滑且つ安定的に製造することができる。
【0040】
同様の理由により、窒化ケイ素粉末と水とを、1:1の質量比で含むスラリーの25℃における粘度(60rpm)は、6Pa・s以下であってよく、5Pa・s以下であってよく、4Pa・s以下であってよく、3Pa・s以下であってもよい。
【0041】
製造コスト低減の観点から、上記スラリーの25℃における粘度(30rpm)は、1Pa・s以上であってよく、2Pa・s以上であってもよい。同様の観点から、上記スラリーの25℃における粘度(60rpm)は、0.5Pa・s以上であってよく、1Pa・s以上であってもよい。
【0042】
スラリーの粘度は、窒化ケイ素の一次粒子の凝集状態によって変化する。すなわち、窒化ケイ素の一次粒子が凝集して形成される凝集粒子の含有量が低減された窒化ケイ素粉末であれば、スラリーの粘度を低くすることができる。このため、成形体を円滑に製造することができる。なお、スラリーの粘度を低くすることが可能な窒化ケイ素粉末を用いれば、乾式成形プロセスであっても、窒化ケイ素焼結体の性状のばらつきを十分に低減することができる。したがって、湿式及び乾式のどちらのプロセスであっても、高い熱伝導率及び機械的特性を有する窒化ケイ素焼結体を安定的に製造することができる。
【0043】
本開示における「スラリーの粘度」は、以下の手順で測定される。水と窒化ケイ素粉末とを1:1の質量比で配合し、スターラーで粘度が一定になるまで攪拌する。これによって、水中に窒化ケイ素粉末を十分均一に分散させる。調製したスラリーの粘度を、市販のB型粘度計を用いて測定する。粘度の測定は、25℃において、所定の回転速度(30rpm、及び60rpm等)で行う。B型粘度計としては、東機産業株式会社製のTVB-10(商品名)を用いることができる。
【0044】
上述の窒化ケイ素粉末の製造方法の一例を以下に説明する。本例の窒化ケイ素粉末の製造方法は、ケイ素粉末を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種と、を含む雰囲気下で焼成して焼成物を得る焼成工程と、上記焼成物を乾式粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、上記粉砕物を乾式分級する分級工程と、を有する。
【0045】
ケイ素粉末としては、酸素濃度の低いケイ素粉末を用いてもよい。ケイ素粉末の酸素濃度は、例えば、0.40質量%以下であってよく、0.30質量%以下であってよく、0.20質量%以下であってもよい。ケイ素粉末の酸素濃度を上記範囲内とすることで、得られる窒化ケイ素粉末の内部における酸素量をより低減できる。ケイ素粉末の酸素濃度の下限値は、例えば、0.10質量%であってよく、0.15質量%であってもよい。ケイ素粉末の酸素濃度は、例えば、0.10~0.40質量%であってよい。なお、ケイ素粉末の酸素濃度は、赤外線吸収法によって測定することができる。
【0046】
焼成工程では、ケイ素粉末を、窒素と、水素及びアンモニアからなる群より選択される少なくも一種と、を含む混合雰囲気下で焼成して窒化ケイ素を含む焼成物を得る。混合雰囲気における水素及びアンモニアの合計の含有量は、混合雰囲気全体を基準として、例えば、10~40体積%であってよい。焼成温度は、例えば、1100~1450℃であってよく、1200~1400℃であってもよい。焼成時間は、例えば、30~100時間であってよい。
【0047】
粉砕工程では、焼成工程で得られた上記焼成物を乾式で粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程は、粗粉砕と微粉砕というように複数段階に分けて行ってもよい。例えば、粉砕工程は、ボールミル粉砕工程及び振動ミル粉砕工程の2つの工程を含んでよい。焼成物を粉砕し、粒度を調整することによって、後の分級工程を円滑に行うことができる。
【0048】
ボールミル粉砕工程における容器へのボールの充填率は、30~70体積%であってよい。容器へのボールの充填率の下限は、容器の容積を基準として、例えば、50体積%であってよく、60体積%であってもよい。容器へのボールの充填率の上限は、容器の容積を基準として、例えば、65体積%であってもよい。
【0049】
ボールミル粉砕工程における粉砕処理の時間(粉砕時間)は、5~15時間であってよく、8~12時間であってもよい。これによって、過剰な粉砕を抑制しつつ、凝集粒子を十分に細かくすることができる。
【0050】
ボールミル粉砕工程で得られた粉砕物を、振動ミル粉砕工程によってさらに粉砕してよい。振動ミル粉砕工程における容器へのボールの充填率は、50~80体積%であってよく、60~75体積%であってもよい。振動ミル粉砕工程における粉砕処理の時間(粉砕時間)は、8~20時間であってよく、12~17時間であってもよい。これによって、過剰な粉砕を抑制しつつ、凝集粒子を十分に細かくして、粒子径d1に対する粒子径d2の比(d2/d1)を調整することができる。また、第2ピークの面積比率から第4ピークの面積比率を差し引いたときの差(Δ1)を調整することができる。例えば、時間を長くすることによって、比(d2/d1)を小さくすること、及び差(Δ1)を小さくすることができる。
【0051】
分級工程では、粉砕工程によって得られた上記粉砕物を乾式で分級して、所望の粒子径分布を有する窒化ケイ素粉末を得る。例えば、凝集粒子の少なくとも一部を排除して一次粒子の比率を高くし、第1ピークの面積比率を大きくすることができる。乾式分級は、気流分級等によって行うことができる。気流分級器は、二次空気を用いる旋回気流式のものを用いて分級することができる。このような気流分級器としては、例えば、日本ニューマチック工業株式会社製のDS-10(商品名)を用いてよい。
【0052】
気流分級器の運転条件の一例は以下のとおりである。一次空気圧力(入口圧力)は、例えば、0.2~0.8MPaであってよく、0.3~0.7MPaであってもよい。一次空気量は、1~5m/minであってよく、2~4m/minであってもよい。二次空気取り込み口のクリアランスは、25~45mmであってよく、30~40mmであってもよい。このような条件で分級することによって、粉砕工程で十分に粉砕されない凝集粒子を、粗粒として除去することができる。
【0053】
上述の範囲で、一次空気圧力を大きくすれば、微粉側の凝集粒子の比率を小さくすることができる。すなわち、微粉の粒子径分布Aにおける第2ピークの面積比率を低くすることができる。また、上述の範囲で、二次空気取り込み口のクリアランスを大きくして空気量を増やすと混合比(粉体/空気量)が小さくなって、微粉側の凝集粒子の比率を小さくすることができる。すなわち、微粉の粒子径分布Aにおける第2ピークの面積比率を低くすることができる。
【0054】
分級工程前の粉砕物の全量に対する、分級後(粗粒除去後の微粉)の窒化ケイ素粉末の比率は、40~60質量%であってよく、44~56質量%であってよい。この比率を低くすれば、微粉における凝集粒子の含有割合を一層低くすることができる。すなわち、第2ピークの面積比率を小さくして、第1ピークの面積比率を大きくすることができる。一方、上記比率を高くすれば、第2ピークの面積比率が大きくなるものの、窒化ケイ素粉末の製造コストを低減できる。
【0055】
以上の工程によって、本実施形態の窒化ケイ素粉末を製造することができる。ただし、上述の製造方法は一例であり、これに限定されない。本実施形態の窒化ケイ素粉末は、凝集粒子が低減されていることから、焼結性に優れる。このため、窒化ケイ素粉末は焼結原料に用いてもよい。
【0056】
窒化ケイ素焼結体の製造方法の一実施形態は、上述の窒化ケイ素粉末を含む焼結原料を成形して焼成する工程を有する。
【0057】
焼結原料は、窒化ケイ素粉末の他に、酸化物系焼結助剤を含んでもよい。酸化物系焼結助剤としては、例えば、Y3、MgO及びAl等が挙げられる。焼結原料における酸化物系焼結助剤の含有量は、例えば、3~10質量%であってよい。
【0058】
上記工程では、上述の焼結原料を例えば3.0~30MPaの成形圧力で加圧して成形体を得る。成形体は一軸加圧して作製してもよいし、CIPによって作製してもよい。また、ホットプレスによって成形しながら焼成してもよい。成形体の焼成は、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってよい。焼成時の圧力は、0.7~1MPaであってよい。焼成温度は1860~2100℃であってよく、1880~2000℃であってもよい。当該焼成温度における焼成時間は6~20時間であってよく、8~16時間であってよい。焼成温度までの昇温速度は、例えば1.0~10.0℃/時間であってよい。
【0059】
得られる窒化ケイ素焼結体は、粗粒が低減されており、均一性に優れる微細組織を有する。また、十分に緻密な組織を有するため、熱伝導率及び機械的特性に優れる。また、粒子の大きさの変動が低減されているため、窒化ケイ素焼結体の性状のばらつきを低減することができる。
【0060】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した各実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
ケイ素粉末を用いて成形体(嵩密度:1.4g/cm)を作製した。得られた成形体を電気炉内に静置し、1400℃で60時間焼成し、窒化ケイ素を含む焼成体を作製した。焼成時の雰囲気として、窒素と水素との混合ガス(NとHとを標準状態における体積比で80:20となるように混合した混合ガス)を供給した。得られた焼成体を粗粉砕した後、ボールミルで乾式粉砕した。ボールミルによる粉砕では、容器に対するボールの充填率を60体積%とし、粉砕時間を8時間とした。更に振動ミルにて乾式粉砕した、容器に対するボールの充填率を70体積%とし、粉砕時間を15時間とした。
【0063】
乾式粉砕して得られた窒化ケイ素粉末を、分級器(日本ニューマチック工業株式会社製、商品名:DS-10)を用いて分級した。分級条件は、以下のとおりとした。
一次空気圧力:0.6MPa
一次空気量:4m/min
二次空気取り込み口のクリアランス:30mm
【0064】
分級によって、窒化ケイ素粉末から粗粒(凝集粒子)を除去した。分級前の窒化ケイ素粉末の全質量を基準とする、分級後の窒化ケイ素粉末の質量比率は、44質量%であった。この分級後の窒化ケイ素粉末とは、粗粒(凝集粒子)を除去して得られた窒化ケイ素粉末を意味する。以下の実施例及び比較例でも同様である。
【0065】
(実施例2)
分級条件を、以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素粉末を調製した。分級前の窒化ケイ素粉末の全質量を基準とする、分級後の窒化ケイ素粉末の質量比率は、56質量%であった。
一次空気圧力:0.4MPa
一次空気量:3m/min
二次空気取り込み口のクリアランス:40mm
【0066】
(比較例1)
分級条件を、以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素粉末を調製した。分級前の窒化ケイ素粉末の全質量を基準とする、分級後の窒化ケイ素粉末の質量比率は、65質量%であった。
一次空気圧力:0.1MPa
一次空気量:0.5m/min
二次空気取り込み口のクリアランス:30mm
【0067】
(比較例2)
分級条件を、以下のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ケイ素粉末を調製した。分級前の窒化ケイ素粉末の全質量を基準とする、分級後の窒化ケイ素粉末の質量比率は、62質量%であった。
一次空気圧力:0.2MPa
一次空気量:1m/min
二次空気取り込み口のクリアランス:20mm
【0068】
<粒子径分布Aの測定>
レーザー回折・散乱法によって、各実施例及び各比較例の窒化ケイ素粉末の粒子径分布を測定した。測定は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して行った。まずは、窒化ケイ素粉末に含まれている凝集粒子を検出するため、凝集粒子を解砕するための分散処理を行わずに測定を行った。具体的には、500mLの容器に60mgの窒化ケイ素粉末を計り取った。これに、分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20%水溶液(2mL)と水(200g)を配合して測定試料を調製した。そして、超音波による分散操作を行うことなく、測定試料を粒子径分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)にセットした。この測定装置を用いて、体積基準の粒子径分布を測定した。このような測定で得られた粒子径分布Aは、図2図5に示すとおりであった。
【0069】
図2は、実施例1の粒子径分布Aを示している。図3は、実施例2の粒子径分布Aを示している。図4は、比較例1の粒子径分布Aを示している。図5は、比較例2の粒子径分布Aを示している。各粒子径分布Aの累積分布において、小粒径からの積算値が全体の10%、50%及び90%に達したときの粒子径を測定した。それぞれの粒子径を、D10、D50及びD90として表1に示す。
【0070】
図2及び図3に示すとおり、実施例1,2の粒子径分布Aは、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークとを有していた。第1ピークの頂点における粒子径d1、第2ピークの頂点における粒子径d2、粒子径の比(d2/d1)、並びに、粒子径d1及び粒子径d2における頻度は表2に示すとおりであった。また、粒子径分布Aの全体に対する第1ピーク及び第2ピークの面積比率は、それぞれ表2に示すとおりであった。
【0071】
一方、図4及び図5に示すとおり、比較例1,2の粒子径分布Aは、1μm未満の粒子径範囲にピークを有していなかった。比較例1,2の粒子径分布Aは、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピークのみを有していた。表2の第1ピークの面積比率の欄には、粒子径が1μm未満の頻度の累積値を示した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
<粒子径分布Bの測定>
500mLの容器に60mgの窒化ケイ素粉末を計り取った。これに、分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20%水溶液(2mL)と水(200g)を配合して測定試料を調製した。窒化ケイ素粉末に含まれている凝集粒子を解砕するため、測定試料の分散処理を行った。具体的には、シャープ株式会社製の超音波分散機に、容器の分散液の収容部分が全て浸漬されるようにセットし、超音波による分散処理を3分間行った。このように測定試料に含まれる凝集粒子を一次粒子に解砕したこと以外は、「粒子径分布Aの測定」と同じ手順で粒子径分布測定を行った。粒子径分布Bの累積分布において、小粒径からの積算値が全体の10%、50%及び90%に達したときの粒子径を測定した。それぞれの粒子径を、D10、D50及びD90として表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表1と表3の対比から、分散処理によって、粒子径が小さくなっていることが確認された。実施例1,2の粒子径分布Bは、粒子径分布Aと同様に、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第3ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第4ピークとを有していた。粒子径分布Aと粒子径分布Bとを比べると、実施例1,2ともに、第3ピークは第1ピークよりも大きくなっており、第4ピークは第2ピークよりも小さくなっていた。このことから、分散処理によって、凝集粒子が解砕されて一次粒子となっていることが確認された。また、比較例1,2の粒子径分布Bも、凝集粒子が解砕されたことに伴って、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第3ピークと、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第4ピークとを有していた。
【0077】
各実施例及び各比較例において、粒子径分布Aにおける第2ピークの面積比率から、第4ピークの面積比率を差し引いたときの差(Δ1)は、表4に示すとおりであった。この差は、粒子径分布Bにおける第3ピークの面積比率から、第1ピークの面積比率(比較例1,2では、粒子径1μm未満の頻度の累積値)を差し引いたときの差(Δ2)と同じであった。これらの差は、分散処理によって解砕される凝集粒子の比率を示している。この結果から、実施例1,2の方が、比較例1,2よりも、分散処理によって解砕される凝集粒子の割合が小さいことが確認された。
【0078】
【表4】
【0079】
<スラリー粘度の測定>
水と窒化ケイ素粉末とを1:1の質量比で配合し、スターラーで十分に均一になるまで攪拌してスラリーを調製した。調製したスラリーの25℃における粘度を、B型粘度計(東機産業株式会社製、商品名:TVB-10)を用いて測定した。測定は30rpmと60rpmで行った。結果は、表5に示すとおりであった。
【0080】
【表5】
【0081】
各実施例の窒化ケイ素粉末は、各比較例の窒化ケイ素粉末よりも、スラリーの粘度を低減することができた。各実施例のような窒化ケイ素粉末を用いることによって、熱伝導率及び機械的特性に優れるとともに、性状のばらつきが低減された窒化ケイ素焼結体を円滑に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示によれば、窒化ケイ素の一次粒子の凝集が十分に抑制されている窒化ケイ素粉末が提供される。また、このような窒化ケイ素粉末を含有することによって、優れた流動性を有するスラリーが提供される。また、このような窒化ケイ素粉末を用いることによって、熱伝導率及び機械的特性に優れるとともに、性状のばらつきを低減することが可能な窒化ケイ素焼結体の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0083】
A,B…粒子径分布、10…第1ピーク、20…第2ピーク、30…第3ピーク、40…第4ピーク。

【要約】
窒化ケイ素の一次粒子と、複数の一次粒子が凝集している凝集粒子と、を含み、分散処理を行わずにレーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒子径分布Aが、1μm未満の粒子径範囲に頂点を有する第1ピーク10と、1μm以上の粒子径範囲に頂点を有する第2ピーク20とを有する、窒化ケイ素粉末を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5