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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】転動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/08 20060101AFI20221109BHJP
   F16C 29/04 20060101ALI20221109BHJP
   F16C 33/72 20060101ALI20221109BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
F16C29/08
F16C29/04
F16C33/72
F16J15/16 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021081449
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2022-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】安藤 良寛
(72)【発明者】
【氏名】青柳 仁
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 祐丘
【審査官】田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-121723(JP,A)
【文献】実開平05-058946(JP,U)
【文献】実開平02-116056(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/08
F16C 29/04
F16C 33/72
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、
前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、
前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、
を備える転動案内装置において、
前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成され、
前記移動部材には、前記転動体転動面を押圧する押圧部を備えたスクレーパが回動自在に設置され、
前記スクレーパは、
前記移動部材に形成された取付軸に対して回動自在に取り付けられる取付部と、
前記転動体転動面を押圧する押圧部と、
を少なくとも備え、
前記押圧部の前記転動体転動面に対する摩擦力が、前記取付部の前記移動部材に形成された取付軸に対する摩擦力よりも小さいことを特徴とする転動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転動案内装置であって、
前記スクレーパは、弾性体により構成されることを特徴とする転動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の転動案内装置であって、
前記移動部材に回動自在に設置される前記スクレーパの回動中心が、当該回動中心を軸方向で見たときに前記空間の内部に位置するように構成されることを特徴とする転動案内装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の転動案内装置であって、
前記転動体転動面の形状と、前記押圧部における前記転動体転動面との接触部位の形状とが、略同一の曲率を持った曲面形状であることを特徴とする転動案内装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の転動案内装置であって、
前記スクレーパは、
前記移動部材に形成された取付軸に対して回動自在に取り付けられる取付部と、
前記転動体転動面を押圧する押圧部と、
前記取付部と前記押圧部との間で弾性力を及ぼしながら前記取付部と前記押圧部とを接続する接続部と、
を備え、
前記接続部の弾性力は、常に前記押圧部が前記転動体転動面を押圧する方向に及ぼされることを特徴とする転動案内装置。
【請求項6】
請求項5に記載の転動案内装置であって、
前記取付部は、外観形状が略C字形もしくは略O字形となるように形成されていることを特徴とする転動案内装置。
【請求項7】
請求項5に記載の転動案内装置であって、
前記スクレーパは、外観形状が略M字形、略T字形もしくは略8の字形となるように形成されていることを特徴とする転動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、長手方向に延びる断面略C字形をした軌道部材と、この軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、軌道部材と移動部材の間であって軌道部材を構成する略C字形の内部空間に転動自在に配置されることで、軌道部材に対する移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、を備えて構成される転動案内装置が公知である。
【0003】
この種の転動案内装置の具体例としては、例えば、下記特許文献1に開示されるリニアベアリングが存在する。このリニアベアリングは、断面C字形の直線レールを左右2本平行に向き合わせて設け、各レールに2条の内部軌道を上下に対向して形成し、これらの上下の内部軌道に対し交互に接触する3個以上のローラを有するスライダを設け、ローラの外周面の輪郭は断面を半径rの円弧状に形成し、そして上下の内部軌道の一方は、断面がV字形で、他方の内部軌道は、断面を半径Rの円弧状に形成すると共に、この半径Rの長さをローラの輪郭の半径rより長く形成する、という構成を有するものである。そして、このような構成を有することで、下記特許文献1に開示されるリニアベアリングでは、たとえ熱による膨脹や荷重によりレールが変形して左右の平行が狂ったとしてもスライダが円滑に動ける、とされている。
【0004】
ところで、この種の転動案内装置をあらゆる環境下で安定して使用する場合には、ローラ等の転動体の転動動作を阻害する外部からの塵芥等を軌道レール等の軌道部材内に侵入させないようにしたり、転動体に供給されるグリース等の潤滑油が外部に漏れることの無いようにしたりするために、スライダ等の移動部材にスクレーパを設置することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3292459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上掲した特許文献1に開示されたスライダに対して単にスクレーパを設置した場合には、問題が生じることとなる。すなわち、特許文献1のリニアベアリングを構成するスライダにスクレーパを固定した場合、直線レールに対してスライダがローリング方向に傾くと、直線レールの内部軌道とスクレーパの接触力が歪んでしまうので、隙間が生じてスクレーパの機能が発揮できなくなったり、直線レールに対するスライダの安定した往復直線運動を阻害したりするといった課題が生じてしまうこととなる。
【0007】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであって、たとえ軌道部材に対して移動部材がローリング方向に傾いた場合であっても、軌道部材に対する移動部材の往復直線運動を阻害することなくスクレーパの機能を発揮できる転動案内装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る転動案内装置は、長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、を備える転動案内装置であって、前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成され、前記移動部材には、前記転動体転動面を押圧する押圧部を備えたスクレーパが回動自在に設置され、前記スクレーパは、前記移動部材に形成された取付軸に対して回動自在に取り付けられる取付部と、前記転動体転動面を押圧する押圧部と、を少なくとも備え、前記押圧部の前記転動体転動面に対する摩擦力が、前記取付部の前記移動部材に形成された取付軸に対する摩擦力よりも小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軌道部材に対して移動部材がローリング方向に傾いた場合であっても、軌道部材に対する移動部材の往復直線運動を阻害することなくスクレーパの機能を発揮できる転動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る転動案内装置を前方右斜め上から見た場合の斜視図である。
図2】本実施形態に係る転動案内装置を構成する移動スライダを後方右斜め上から見た場合の斜視図である。
図3】本実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図である。
図4】本実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。
図5】本実施形態において、ホイール上方転動面およびホイール下方転動面に対するホイールの転動動作状態を説明するための模式図である。
図6】本実施形態に係る転動案内装置が備えるスクレーパを説明するための左側面図であり、図中の分図(a)は移動スライダにローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態を示しており、分図(b)は移動スライダにローリング方向のMcモーメントが加わった状態を示している。
図7】本実施形態に係る転動案内装置が備えるスクレーパの取付状態を説明するための要部透視図である。
図8】本発明のスクレーパが取り得る多様な形状の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
まず、図1図5を用いて、本実施形態に係る転動案内装置10の基本構成を説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る転動案内装置を前方右斜め上から見た場合の斜視図であり、図2は、本実施形態に係る転動案内装置を構成する移動スライダを後方右斜め上から見た場合の斜視図である。また、図3は、本実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図であり、図4は、本実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。さらに、図5は、本実施形態において、ホイール上方転動面およびホイール下方転動面に対するホイールの転動動作状態を説明するための模式図である。なお、図5において、図中の分図(a)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態を示しており、分図(b)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わった状態を示しており、分図(c)は分図(b)中の符号αで示された破線領域を拡大した図である。また、本明細書では、説明の便宜のために、図1図4で示すように転動案内装置10の方向を定義した。ただし、この方向は、本実施形態に係る転動案内装置10の使用時の方向を示すものではなく、本実施形態に係る転動案内装置10は、あらゆる姿勢で使用することができる。つまり、図1図4で示した「前、後、上、下、左、右」の方向は、あくまで説明の便宜のために決定したものである。
【0013】
図1図4に示されるように、本実施形態に係る転動案内装置10は、軌道部材としての軌道レール11と、軌道レール11の長手方向(すなわち、図1図3における左右方向)に沿って往復移動可能に設置される移動部材としての移動スライダ21と、軌道レール11と移動スライダ21の間に転動自在な状態で配置される転動体としてのホイール31と、を有して構成されている。
【0014】
軌道レール11は、長手方向に延びる断面略C字形をした長尺の部材である。図4に示されるように、本実施形態の軌道レール11は、側面視において、上下方向に延びて形成される取付面部12と、この取付面部12の上方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての上方壁部13と、取付面部12の下方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての下方壁部14と、を有している。
【0015】
上方壁部13の下面側には、ホイール31のホイール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としてのホイール上方転動面13aが形成されている。同様に、下方壁部14の上面側には、ホイール31のホイール外周面と接触する本発明に係る転動体転動面としてのホイール下方転動面14aが形成されている。ホイール上方転動面13aとホイール下方転動面14aは、側面視において対向配置されている。そして、取付面部12と上方壁部13と下方壁部14とによって囲まれた内部空間15(本発明に係る空間の内部)の中に、ホイール31が転動自在な状態で配置される。
【0016】
本実施形態の軌道レール11は、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させることで、上述した外郭形状を形成している。ただし、軌道レール11の形成方法は引き抜き加工に限られるものではない。例えば、金属材料に対して研削加工や切削加工などを行うことで外観形状を形成してもよいし、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させた後、熱処理加工を行うことで表面硬さや内部品質を制御した上で、研削加工などを行って外郭形状を形成してもよい。つまり、本発明の軌道部材である軌道レール11については、あらゆる加工方法を用いて外郭形状を形成することができる。
【0017】
また、本実施形態の軌道レール11は、転動案内装置10の取付基準となる部材である。そのため、本実施形態では、軌道レール11を構成する取付面部12に対してボルト孔などの取付孔12aを形成することで、この取付孔12aを利用してベースや扉枠などの取付基準面に対する軌道レール11の固定設置を行うことができる。
【0018】
移動スライダ21は、図1および図2において示されるように、概略矩形形状をしたブロック状の部材であり、軌道レール11の長手方向に沿って往復移動可能に設置されるものである。本実施形態の移動スライダ21には、後面側に3つのホイール31が転動自在な状態で配置されている。また、移動スライダ21の前面側には、転動案内装置10によって案内移動される可動部材を設置することができる。なお、本実施形態に係る転動案内装置10では、軌道レール11をベースや扉枠などの取付基準面に対して固定設置し、移動スライダ21が軌道レール11に対して往復移動可能に設置される実施形態例を示しているが、本発明の範囲はこれに限られず、例えば、移動スライダ21を取付基準面に固定し、軌道レール11が移動スライダ21に対して往復移動可能としてもよい。
【0019】
ホイール31は、軌道レール11と移動スライダ21の間であって軌道レール11を構成する略C字形の内部空間15に転動自在に配置されることで、軌道レール11に対する移動スライダ21の相対的な往復移動を案内する部材である。
【0020】
より具体的には、本実施形態のホイール31は、移動スライダ21の後面側に3つのホイール31が転動自在な状態で配置されている。そして、図3および図4を対比参照して明らかなように、3つのホイール31のうち、中央に位置する1つのホイール31については、ホイール上方転動面13aに接するとともにホイール下方転動面14aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。一方、3つのホイール31のうち、左右に位置する2つのホイール31は、ホイール下方転動面14aに接するとともにホイール上方転動面13aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。このように、3つのホイール31の位置が正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、例えば、図3において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面右側に移動したときには、中央に位置する1つのホイール31は、図3の紙面に対して反時計回りに回転し、左右に位置する2つのホイール31は、図3の紙面に対して時計回りに回転することとなる。また逆に、図3において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面左側に移動したときには、中央に位置する1つのホイール31は、図3の紙面に対して時計回りに回転し、左右に位置する2つのホイール31は、図3の紙面に対して反時計回りに回転することとなる。このように、3つのホイール31を正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、軌道レール11の長手方向に沿って相対的な直線移動を行う移動スライダ21は、モーメント荷重を適切に受けながら好適な往復直線移動を行うことが可能となる。
【0021】
なお、図1図4で示す本実施形態では、中央に位置する1つのホイール31がホイール上方転動面13aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2つのホイール31がホイール下方転動面14aに接するように配置される構成例を示した。しかし、本発明の範囲はこれに限られず、例えば、本実施形態とは逆の配置構成である、中央に位置する1つのホイール31がホイール下方転動面14aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2つのホイール31がホイール上方転動面13aに接するように配置される構成を採用してもよい。
【0022】
また、本発明では、ホイール31が移動スライダ21の後面側に対して4つ以上配置される構成例を採用することも可能であるが、この構成例の場合には、隣り合うホイール31がホイール上方転動面13aとホイール下方転動面14aに互い違いに接触するように配置することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明におけるホイールとは、回転軸に対して回転自在な状態で取り付けられた車輪部材であって、相手部材との転動接触面が、水平面、凸状の曲面、凹状の曲面のいずれかで構成されるものを含むものである。ちなみに、本実施形態において、ホイール31の転動接触面は、凸状の曲面として形成された場合が例示されている(図4参照)。
【0024】
なお、本実施形態に係る転動案内装置10では、ホイール31の回転軸を偏芯軸とすることで、この偏芯軸を回転させてホイール31の位置調整を行うことができるように構成することが好ましい。例えば、図3に示されるように、本実施形態では、3つのホイール31が左右方向に並んで配置されているが、左右に配置された2つのホイール31の回転軸を固定軸とし、中央に配置された1つのホイール31の回転軸を偏芯軸とすることで、中央に配置されたホイール31の位置を上方に向けて移動させることで、軌道レール11に対する3つのホイール31の予圧調整などを実施することができる。
【0025】
ここで、図5を参照して、ホイール31と、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aとの関係を説明する。なお、図5は模式図であるため図示が簡略化されているが、本実施形態では、上述したように3つのホイール31のうち、中央に位置する1つのホイール31については、ホイール上方転動面13aに接するとともにホイール下方転動面14aとは接触せずに隙間を有するように配置されており、一方、3つのホイール31のうち、左右に位置する2つのホイール31については、ホイール下方転動面14aに接するとともにホイール上方転動面13aとは接触せずに隙間を有するように配置されている、といった構成を前提としている。すなわち、以下の図5に関する説明において、ホイール上方転動面13aと接触するのは中央に位置する1つのホイール31であり、ホイール下方転動面14aと接触するのは左右に位置する2つのホイール31であることを示している。
【0026】
本実施形態において、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されている。すなわち、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aの曲率半径は、ホイール31の転動表面の曲率半径よりも僅かに大きく形成されている。したがって、本実施形態に係るホイール31は、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aのそれぞれに対して各一点で接触することとなる。
【0027】
そして、図5中の分図(a)で示すように、移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態の場合には、ホイール31の回転中心線に直交する転動方向を示す線Lは、上下方向で垂直に配置された線となり、ホイール31と、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aとの接点Pは、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aを構成するサーキュラーアーク溝の溝底中心に位置にすることとなる。
【0028】
図5中の分図(a)で示す状態から移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わると、図5中の分図(b)で示すように、ホイール31は、Mcモーメントが加わる方向(図5(b)では、紙面に対して時計回りの方向)に傾くことになる。つまり、ホイール31の回転中心線に直交する転動方向を示す線Lは、線Lの位置に傾くことになる。このとき、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aの断面形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝として形成されているので、ホイール31の時計回り方向での傾きに従って接点が接点Pの位置から接点Pの位置に移動することになる。つまり、本実施形態に係る転動案内装置10では、たとえ移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わったとしても、Mcモーメントに応じて接点が転移して、ホイール31と、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aのそれぞれが常に1点接触を行うので、差動すべり量が少なく常に良好な転がり運動が実現するように構成されている。
【0029】
以上、本実施形態に係る転動案内装置10の基本構成についての説明を行った。次に、図6および図7を参照図面に加えて、本実施形態に係る転動案内装置10の具体的な構成についての説明を行う。ここで、図6は、本実施形態に係る転動案内装置が備えるスクレーパを説明するための左側面図であり、図中の分図(a)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わっていない状態を示しており、分図(b)は移動スライダ21にローリング方向のMcモーメントが加わった状態を示している。なお、図6では、説明の便宜のために、スクレーパ41の左右方向の外方側に設置されるエンドプレート51(図2等参照)が外された状態が示されている。また、図7は、本実施形態に係る転動案内装置が備えるスクレーパの取付状態を説明するための要部透視図である。
【0030】
本実施形態に係る転動案内装置10では、移動スライダ21の左右方向の端部それぞれには、図2に示されるように、最外方に設置されるエンドプレート51と、ホイール31の外方側を保護するグリース供給部材55と、エンドプレート51とグリース供給部材55との間の挟まれた位置で回動自在に設置されるスクレーパ41とが設置されている。
【0031】
エンドプレート51は、スクレーパ41とグリース供給部材55を固定して移動スライダ21に取り付けるための板状の部材である。図2および図7等に示されるように、エンドプレート51の中央位置には給脂ニップル52が設置されており、この給脂ニップル52を使用することで、外部からホイール31に対してグリース等の潤滑剤を注入することが可能となっている。また、図7にて示されるように、給脂ニップル52の内方側は軸状をした取付軸53となっている。この取付軸53には、後述するスクレーパ41の取付部41aが回動自在な状態で設置される。
【0032】
グリース供給部材55は、図7に示されるように、内方側がホイール31の外周面と略同一の曲率を持った曲面形状55aを有している。この曲面形状55aの中央には給脂孔55bが形成されており、給脂孔55bは、エンドプレート51に設置された給脂ニップル52から供給されるグリース等の潤滑剤をホイール31に対して供給するための給脂通路として機能する。
【0033】
スクレーパ41は、エンドプレート51とグリース供給部材55とに挟まれた位置に配置されている。そして、本実施形態に係るスクレーパ41は、移動スライダ21に対して回動自在な状態で設置されている。
【0034】
本実施形態に係るスクレーパ41の具体的な構成を説明すると、このスクレーパ41は、図7に示されるように、移動スライダ21に固定されたグリース供給部材55に形成された取付軸53に対して回動自在に取り付けられる取付部41aと、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aを押圧する押圧部41cと、取付部41aと押圧部41cとの間で弾性力を及ぼしながら取付部41aと押圧部41cとを接続する接続部41bと、を備えて構成されている。さらに、本実施形態に係るスクレーパ41は、全体の外観形状が略M字形となるように形成されているとともに、取付部41aの外観形状が略C字形となるように形成されている。さらに、本実施形態のスクレーパ41は、押圧部41cのホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対する摩擦力が、取付部41aの移動スライダ21に形成された取付軸53に対する摩擦力よりも小さくなるように形成されている。またさらに、本実施形態のスクレーパ41は、弾性力を有する弾性体である樹脂により形成されている。なお、本実施形態では、取付部41aが回動自在な状態で取り付けられる取付軸53について、当該取付軸53がグリース供給部材55に形成された場合の実施形態例が示されている。しかしながら、本発明の取付軸の形成位置については、グリース供給部材55に限られるものではなく、エンドプレート51などの移動スライダ21の端部を構成する部材に形成することができる。
【0035】
ここで、図5等を用いて上述したように、本実施形態に係る転動案内装置10では、たとえ移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わったとしても、Mcモーメントに応じて接点が転移して、ホイール31と、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aのそれぞれが常に1点接触を行う構成を有していた。この場合、移動スライダ21の傾動動作に応じてスクレーパ41も一緒に傾動してしまうと、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aを押圧する押圧部41cの接触箇所に隙間が生じてしまい、外部の塵芥等の侵入を防いだり、内部のグリース等の漏れを防止したりするためのスクレーパ41としての機能が十分に発揮できないこととなる。しかしながら、本実施形態のスクレーパ41では、取付部41aがエンドプレート51に形成された取付軸53に対して回動自在に取り付けられているので、たとえ移動スライダ21に対してローリング方向のMcモーメントが加わって移動スライダ21が軌道レール11に対して傾動したとしても、スクレーパ41は移動スライダ21に対して回動自在に構成されているので、スクレーパ41は軌道レール11に対しての位置および姿勢を常に同一の状態に保つことが可能となっている。
【0036】
また、本実施形態のスクレーパ41は、押圧部41cのホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対する摩擦力が、取付部41aの移動スライダ21に形成された取付軸53に対する摩擦力よりも小さくなるように形成されている。したがって、軌道レール11に対して移動スライダ21が傾いた場合には、取付軸53に対して設置された取付部41aよりも先にホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに接触する押圧部41cが回動するものの、押圧部41cはホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aの溝底に当たり続けることになるので、移動スライダ21に対してどのような外力が加わったとしても、常に好適な押圧力をホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対して及ぼすことができる。
【0037】
さらに、本実施形態に係るスクレーパ41は、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aの形状と、押圧部41cにおけるホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aとの接触部位の形状とが、略同一の曲率を持った曲面形状で構成されている。またさらに、図6で示されるように、スクレーパ41を構成する接続部41bの形状が、常に押圧部41cがホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aを押圧する方向に及ぼされる弾性力を作用するように形成されている。したがって、本実施形態に係るスクレーパ41は、移動スライダ21に対してどのような外力が加わったとしても、常に好適な押圧力をホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対して及ぼすことができるので、外部の塵芥等の侵入を防いだり、内部のグリース等の漏れを防止したりするといったスクレーパ41としての機能を常時発揮することが可能となっている。
【0038】
またさらに、本実施形態に係るスクレーパ41は、図6に示すように、移動スライダ21に回動自在に設置されるスクレーパ41の回動中心が、当該回動中心を軸方向で見たときに、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに挟まれた内部空間15(本発明に係る空間の内部)に位置するように構成されている。つまり、軌道レール11に対する移動スライダ21の傾動中心と、移動スライダ21に対するスクレーパ41の回動中心の位置は、同一又は近接した位置にあるので、スクレーパ41の回動動作はスムーズな動作が実現されている。
【0039】
なお、本実施形態のスクレーパ41は、取付部41aと押圧部41cを接続するアーム状の接続部41bを有しているので、容易に弾性変形することが可能となっており、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aやスクレーパ41が磨耗した場合であっても、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aと押圧部41cとの間に隙間が生じることがなく、常に、スクレーパ41としての機能を果たすことができる。また、本実施形態のスクレーパ41は、アーム状の接続部41bを有することで、適切な力でホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対して押圧部41cを接触させることができる。さらに、本実施形態のスクレーパ41が有するアーム状の接続部41bにおいて、屈曲している部分は他の箇所に比べて細く形成されている。このように、屈曲部分を細く形成することで、接続部41bは弾性変形し易いという作用効果を得られる。なお、アーム状の接続部41bについては、アーム状の形状部位を長くすることで押し付け力が弱くなるため、例えば、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aへの押し付け力を小さくしたい場合には、アーム状の形状部位を長めに設定すればよい。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0041】
例えば、上述した実施形態のスクレーパ41は、弾性力を有する弾性体である樹脂によって構成される場合を想定していたが、本発明に係る弾性体の範囲は樹脂には限定されない。本発明のスクレーパは、例えば、板バネにより構成することができる。すなわち、本発明のスクレーパについては、ホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aに対して押圧部41cを押し付ける弾性力を発揮する材料であれば、どのような材料を使用してもよい。
【0042】
また、例えば、上述した実施形態のスクレーパ41は、取付部41aの外観形状が略C字形であって、スクレーパ全体の外観形状が略M字形となるように形成されているものであった。しかし、本発明のスクレーパは、上述した実施形態で示した形状に限られるものではない。本発明のスクレーパは、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮できる範囲において、あらゆる形状を採用することができる。例えば、本発明のスクレーパが取り得る形状の変形例として、図8を示す。ここで、図8は、本発明のスクレーパが取り得る多様な形状の変形例を示す図である。図8において、図中の分図(a)は、上述した実施形態のスクレーパ41を示している。これに対して、図中の分図(b)および分図(c)で示すように、スクレーパの取付部については、外観形状が略O字形となるように形成することができる。また、本発明のスクレーパ全体の外観形状については、図中の分図(a)および分図(b)で示すような外観形状が略M字形となるように形成されるもののほか、図中の分図(c)で示すように略8の字形となるように形成されるものや、図中の分図(d)で示すように略T字形となるように形成されるものを採用することができる。
【0043】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0044】
10 転動案内装置、11 軌道レール(軌道部材)、12 取付面部、12a 取付孔、13 上方壁部(壁部)、13a ホイール上方転動面(転動体転動面)、14 下方壁部(壁部)、14a ホイール下方転動面(転動体転動面)、15 内部空間(空間の内部)、21 移動スライダ(移動部材)、31 ホイール(転動体)、41 スクレーパ(弾性体)、41a 取付部、41b 接続部、41c 押圧部、51 エンドプレート、52 給脂ニップル、53 取付軸、55 グリース供給部材、55a 曲面形状、55b 給脂孔。
【要約】
【課題】軌道部材に対して移動部材がローリング方向に傾いても、軌道部材に対する移動部材の往復直線運動を阻害することなくスクレーパの機能を発揮させる。
【解決手段】転動案内装置10は、軌道部材11と移動部材21と複数の転動体31とを備えており、軌道部材11が備える一対の壁部13,14の対向した壁面のそれぞれには、転動体31の転動体外周面と接触する転動体転動面13a,14aが形成され、移動部材21には、転動体転動面13a,14aを押圧する押圧部41cを備えたスクレーパ41が回動自在に設置され、スクレーパ41は、取付部41aと押圧部41cを少なくとも備え、押圧部41cの転動体転動面13a,14aに対する摩擦力が、取付部41aの移動部材21に形成された取付軸53に対する摩擦力よりも小さくなるように形成されている。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8