IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7172033繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維状セルロースの製造方法
<>
  • 特許-繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維状セルロースの製造方法 図1
  • 特許-繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維状セルロースの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維状セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/00 20060101AFI20221109BHJP
   C08L 1/16 20060101ALI20221109BHJP
   D06M 13/432 20060101ALI20221109BHJP
   D06M 11/71 20060101ALI20221109BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221109BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221109BHJP
   D06M 101/08 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C08B5/00
C08L1/16
D06M13/432
D06M11/71
B82Y30/00
B82Y40/00
D06M101:08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017244757
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2018145398
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2017038708
(32)【優先日】2017-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】趙 孟晨
(72)【発明者】
【氏名】轟 雄右
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 郁絵
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-021081(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185505(WO,A1)
【文献】特開2011-047084(JP,A)
【文献】特表平09-509694(JP,A)
【文献】特開2010-186124(JP,A)
【文献】特開2011-001559(JP,A)
【文献】特開2018-141249(JP,A)
【文献】Biomacromolecules,2014年04月21日,Vol. 15, No. 5,pp. 1904-1909
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C08L
D06M
B82Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースであって、
前記リン酸基又はリン酸基由来の置換基の含有量は、0.5mmol/g以上であり、
炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、前記リン酸基又はリン酸基由来の置換基の対イオンとして含み、
下記測定方法(a)で測定される上澄み収率が70%以下である繊維状セルロース;
測定方法(a):
固形分濃度が0.5質量%の前記繊維状セルロースの水分散液Aを調製し、解繊処理装置を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、水分散液Bを得る;次いで、前記水分散液Bを、固形分濃度が0.2質量%の水分散液Cとし、12000G、15℃の条件で10分間遠心分離処理を行い、上澄み液を回収する;回収した上澄み液の固形分濃度を測定し、下記式に基づいて上澄み収率を算出する。
上澄み収率(%)=上澄み液の固形分濃度(質量%)/0.2(質量%)×100
【請求項2】
前記有機オニウムイオンが有機アンモニウムである請求項に記載の繊維状セルロース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維状セルロースを85質量%以上含む繊維状セルロース含有組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の繊維状セルロースと、有機溶媒と、を含む繊維状セルロース含有分散液。
【請求項5】
前記有機溶媒の25℃における比誘電率は、60以下である請求項に記載の繊維状セルロース含有分散液。
【請求項6】
0.5mmol/g以上のリン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを水系溶媒中で解繊処理し、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む水分散液を得る工程と、
炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、前記水分散液に添加する工程と、を含む繊維状セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維状セルロースの製造方法に関する。具体的には、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース、繊維状セルロース含有組成物、繊維状セルロース分散液及び繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体、増粘剤の開発が進められている。
【0003】
一般的に、微細繊維状セルロースは水系溶媒中に安定して分散するため、水分散液の状態で提供され、各種用途に使用されることが多い。一方で、微細繊維状セルロースを樹脂成分と混合して複合体等を製造する際には、微細繊維状セルロースを有機溶媒と混合して使用したいという要望もある。このような要望に応える技術として、有機溶媒を含む分散媒に微細繊維状セルロースを分散させた微細繊維状セルロース含有分散液を製造する技術が検討されている(特許文献1~3)。
【0004】
例えば、特許文献1には、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースに界面活性剤を吸着させた微細繊維状セルロース複合体が開示されている。ここでは、水系溶媒中でセルロース繊維を微細化した後に、微細繊維状セルロースを凝集させ有機溶媒に分散させる方法や、有機溶媒中でセルロース繊維を微細化することで微細繊維状セルロースを得る方法が開示されている。また、特許文献2には、カルボキシル基が導入された微細繊維状セルロースと有機溶媒を含み、対イオンとして有機オニウムイオンを含む分散体が開示されている。特許文献3には、カルボン酸塩型の基を有する微細繊維状セルロースの水分散液を調製する工程と、カルボン酸塩型の基を、有機基を有するアミンのカルボン酸アミン塩型の基に置換する工程と、カルボン酸アミン塩型の基を有する微細繊維状セルロースを有機溶媒に分散させる工程を有する微細繊維状セルロース分散液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-140738号公報
【文献】特開2015-101694号公報
【文献】特開2012-021081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、有機溶媒の比誘電率は水と比較して低いため、微細繊維状セルロースを分散させる際に必要な静電的な反発力が得られにくいことが知られている。このため、有機溶媒中においては、微細繊維状セルロースの分散性が不十分となる傾向が見られていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、有機溶媒中においても良好な分散性を発揮し得る微細繊維状セルロースを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する微細繊維状セルロースにおいて、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の含有量を、0.5mmol/g以上とし、さらに、微細繊維状セルロースの水分散液の上澄み収率を所定の範囲内とすることにより、有機溶媒中においても良好な分散性を発揮し得る微細繊維状セルロースが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースであって、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の含有量は、0.5mmol/g以上であり、下記測定方法(a)で測定される上澄み収率が70%以下である繊維状セルロース;
測定方法(a):
固形分濃度が0.5質量%の繊維状セルロースの水分散液Aを調製し、解繊処理装置を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、水分散液Bを得る;次いで、水分散液Bを、固形分濃度が0.2質量%の水分散液Cとし、12000G、15℃の条件で10分間遠心分離処理を行い、上澄み液を回収する;回収した上澄み液の固形分濃度を測定し、下記式に基づいて上澄み収率を算出する。
上澄み収率(%)=上澄み液の固形分濃度(質量%)/0.2(質量%)×100
[2] 炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の対イオンとして含む[1]に記載の繊維状セルロース。
[3] 有機オニウムイオンが有機アンモニウムである[2]に記載の繊維状セルロース。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の繊維状セルロースを85質量%以上含む繊維状セルロース含有組成物。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の繊維状セルロースと、有機溶媒と、を含む繊維状セルロース含有分散液。
[6] 有機溶媒の25℃における比誘電率は、60以下である[5]に記載の繊維状セルロース含有分散液。
[7] 0.5mmol/g以上のリン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを水系溶媒中で解繊処理し、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む水分散液を得る工程と、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程と、を含む繊維状セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機溶媒中においても良好な分散性を発揮し得る微細繊維状セルロースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(繊維状セルロース)
本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースに関する。ここで、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の含有量は、0.5mmol/g以上である。また、下記測定方法(a)で測定される上澄み収率は70%以下である。
測定方法(a):
固形分濃度が0.5質量%の繊維状セルロースの水分散液Aを調製し、解繊処理装置を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、水分散液Bを得る。次いで、水分散液Bを、固形分濃度が0.2質量%の水分散液Cとし、12000G、15℃の条件で10分間遠心分離処理を行い、上澄み液を回収する。回収した上澄み液の固形分濃度を測定し、下記式に基づいて上澄み収率を算出する。
上澄み収率(%)=上澄み液の固形分濃度(質量%)/0.2(質量%)×100
【0014】
本発明の繊維状セルロースは、上記構成を有するものであるため、有機溶媒中においても良好な分散性を発揮し得る。具体的には、本発明の繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の粘度が高い。本明細書においては、繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の分散性は、分散液の粘度から判定することができる。
なお、本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを、微細繊維状セルロースともいう。
【0015】
上記測定方法(a)で測定される上澄み収率が70%以下であることは、本発明の微細繊維状セルロースがある程度の疎水性を有することを意味する。本発明においては、繊維状セルロースが疎水性を有することにより、有機溶媒中において良好な分散性を発揮できるものと考えられる。上記測定方法(a)で測定される上澄み収率は、70%以下であればよく、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
測定方法(a)においては、まず、固形分濃度が0.5質量%の微細繊維状セルロースの水分散液Aを調製する。ここで、固形分濃度とは、微細繊維状セルロースの濃度であり、水分散液Aには、微細繊維状セルロースが0.5質量%含まれる。そして、解繊処理装置を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、水分散液Bを得る。この際、解繊処理装置としては、例えば、高速回転解繊処理装置を用いることが好ましい。具体的にはエムテクニック社製、クレアミックスー2.2Sを用いることができる。次いで、水分散液Bにイオン交換水を添加して、固形分濃度が0.2質量%の水分散液Cとし、12000G、15℃の条件で10分間遠心分離処理を行い、上澄み液を回収する。なお、遠心分離処理工程では、冷却高速遠心分離機を用いることが好ましい。具体的にはコクサン社、H-2000Bを用いることができる。そして、回収した上澄み液の固形分濃度を測定し、上記式に基づいて上澄み収率を算出する。
【0017】
本発明の微細繊維状セルロースは、有機溶媒中での分散性が十分であり、このような分散性は、比誘電率の低い有機溶媒においても発揮される。分散媒として用いられる有機溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール(比誘電率32.6)、エタノール(比誘電率24.3)、n-プロピルアルコール(比誘電率20.1)、イソプロピルアルコール(IPA)(比誘電率18.62)、1-ブタノール(比誘電率18)、m-クレゾール(比誘電率11.8)、グリセリン(比誘電率42.5)、酢酸(比誘電率6.15)、ピリジン(比誘電率12.3)、テトラヒドロフラン(THF)(比誘電率7.5)、アセトン(比誘電率20.7)、メチルエチルケトン(MEK)(比誘電率15.45)、酢酸エチル(比誘電率6.4)、アニリン(比誘電率6.89)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(比誘電率32.2)、ジメチルスルホキシド(DMSO)(比誘電率45)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(比誘電率38)、ヘキサン(比誘電率1.8)、シクロヘキサン(比誘電率2.0)、ベンゼン(比誘電率2.3)、トルエン(比誘電率2.4)、p-キシレン(比誘電率2.3)、ジエチルエーテル(比誘電率4.3)、クロロホルム(比誘電率4.8)、2-ピロリジノン(比誘電率28.2)等を挙げることができる。中でも、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、p-キシレン、メタノール、2-ピロリジノンは好ましく用いられる。
【0018】
微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の粘度は、分散媒である有機溶媒の種類と分散液中の微細繊維状セルロースの濃度に依存する。例えば、分散液中の微細繊維状セルロースの濃度が2.0質量%のとき、有機溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)である場合、分散液の粘度は、8000mPa・s以上であることが好ましく、10000mPa・s以上であることがより好ましく、30000mPa・s以上であることがさらに好ましく、50000mPa・s以上であることが一層好ましい。また、有機溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の場合は、分散液の粘度は、500mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましい。有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の場合は、分散液の粘度は、1500mPa・s以上であることが好ましく、2000mPa・s以上であることがより好ましい。有機溶媒がトルエンの場合は、分散液の粘度は、50mPa・s以上であることが好ましく、53mPa・s以上であることがより好ましい。さらに、有機溶媒がp-キシレンである場合は、分散液の粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、200mPa・s以上であることがより好ましい。有機溶媒がメタノールである場合は、分散液の粘度は、8000mPa・s以上であることが好ましく、10000mPa・s以上であることがより好ましく、20000mPa・s以上であることがさらに好ましい。有機溶媒が2-ピロリジノンである場合は、分散液の粘度は、10000mPa・s以上であることが好ましく、30000mPa・s以上であることがより好ましく、50000mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0019】
微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の粘度を測定する際は、固形分濃度が2.0質量%となるように微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散して得られる微細繊維状セルロース含有スラリーを、25℃で、24時間静置した後、B型粘度計を用いて測定する。B型粘度計としては、例えば、BLOOKFIELD社製のアナログ粘度計T-LVTを用いることができる。測定条件は、25℃の条件とし、6rpmで3分間回転させた際の粘度を測定する。
【0020】
本発明の微細繊維状セルロースは、有機溶媒中での分散性が良好であるため、分散液中で沈降物を生成しない点に特徴がある。このため、微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の粘度を、上記範囲内とすることができる。また、本発明の微細繊維状セルロースは、有機溶媒への分散性が良好であるため、微細繊維状セルロースを有機溶媒に分散させる際にかかるエネルギーを減らすことができる。
【0021】
微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の全光線透過率は、分散液中の微細繊維状セルロースの濃度が2.0質量%のとき、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが一層好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0022】
微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散させて得られる分散液の全光線透過率を測定する際は、固形分濃度が2.0質量%となるように微細繊維状セルロースを有機溶媒中に分散して得られる微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率を測定する。全光線透過率の測定は、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)と、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して行う。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0023】
本発明の微細繊維状セルロースを有機溶媒へ分散させる前の固形分濃度は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。本発明の微細繊維状セルロースは、水分の含有量が低い点に特徴があり、本発明の微細繊維状セルロースを有機溶媒に分散させて得られる分散液中に持ち込まれる水分量が抑えられる。
【0024】
本発明の微細繊維状セルロースは、例えば、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、リン酸基又はリン酸基由来の置換基の対イオンとして含む。
【0025】
炭素数が5以上の炭化水素基は、炭素数が5以上のアルキル基又は炭素数が5以上のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が7以上のアルキル基又は炭素数が7以上のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数が10以上のアルキル基又は炭素数が10以上のアルキレン基であることがさらに好ましい。中でも、有機オニウムイオンは炭素数が5以上のアルキル基を有するものであることが好ましく、炭素数が5以上のアルキル基を含み、かつ総炭素数が17以上の有機オニウムイオンであることがより好ましい。
【0026】
炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンは、下記一般式(A)で表される有機オニウムイオンであることが好ましい。
【0027】
【化1】
【0028】
上記一般式(A)中、Mは窒素原子又はリン原子であり、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。但し、R1~R4の少なくとも1つは、炭素数が5以上の有機基であるか、R1~R4の炭素数の合計が17以上である。
中でも、Mは、窒素原子であることが好ましい。すなわち、有機オニウムイオンは有機アンモニウムであることが好ましい。また、R1~R4の少なくとも1つは、炭素数が5以上のアルキル基であり、かつR1~R4の炭素数の合計が17以上であることが好ましい。なお、炭素数が5以上のアルキル基は置換基を有していてもよい。
【0029】
このような有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクチルジメチルエチルアンモニウム、ラウリルジメチルエチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、トリブチルベンジルアンモニウム、メチルトリ-n-オクチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、n-オクチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、ヘキサデシルアンモニウム、ステアリルアンモニウム、N,N-ジメチルドデシルアンモニウム、N,N-ジメチルテトラデシルアンモニウム、N,N-ジメチルヘキサデシルアンモニウム、N,N-ジメチル-n-オクタデシルアンモニウム、ジヘキシルアンモニウム、ジ(2-エチルヘキシル)アンモニウム、ジーn-オクチルアンモニウム、ジデシルアンモニウム、ジドデシルアンモニウム、ジデシルメチルアンモニウム、N,N-ジドデシルメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンドデシルアンモニウム、アルキルジメチルベンジルアンモニウム、ジ-n-アルキルジメチルアンモニウム、ベヘニルトリメチルアンモニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、アセトニルトリフェニルホスホニウム、アリルトリフェニルホスホニウム、アミルトリフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム等を挙げることができる。
【0030】
なお、一般式(A)に示した通り、有機オニウムイオンの中心元素は合計4つの基または水素と結合している。上述した有機オニウムイオンの名称で、結合している基が4つ未満である場合、残りは水素原子が結合して有機オニウムイオンを形成している。例えば、N,N-ジドデシルメチルアンモニウムであれば、名称からドデシル基が2つ、メチル基が1つ結合していると判断できる。この場合、残りの1つには水素が結合し、有機オニウムイオンを形成している。
【0031】
有機オニウムイオンの分子量は2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましい。有機オニウムイオンの分子量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのハンドリング性を高めることができる。また、全体として、セルロースの含有率が低下してしまうことを抑制できる。
【0032】
本発明の微細繊維状セルロースにおける有機オニウムイオンの含有量は、微細繊維状セルロース中に含まれるリン酸基量に対して、等モル量から2倍モル量であることが好ましいが、特に限定されない。有機オニウムイオンの含有量は、有機オニウムイオンに典型的に含まれる原子を追跡することで測定することが出来る。具体的には、有機オニウムイオンがアンモニウムイオンの場合は窒素原子を、有機オニウムイオンがホスホニウムイオンの場合はリン原子の量を測定する。なお、微細繊維状セルロースが有機オニウムイオン以外に、窒素原子やリン原子を含む場合は、有機オニウムイオンのみを抽出する方法、例えば、酸による抽出操作などを行ってから、目的の原子の量を測定すれば良い。
【0033】
本発明の微細繊維状セルロースは、対イオンとして、金属イオンを含んでいてもよい。また、本発明の微細繊維状セルロースは、対イオンとして、金属イオンを含まないものであってもよい。微細繊維状セルロースが対イオンとして、金属イオンを含む場合、金属イオンとしては、たとえばナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンが挙げられる。
下記式(a)で表されるリン酸基の総電荷量をEaとし、下記式(b)で表されるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの総電荷量をEbとした場合、Eb<Ea×0.1の条件を満たすことが好ましい場合がある。一方で、Eb≧Ea×0.1であってもよい。
式(a):
Ea=リン酸基の量(mmol/g)×リン酸基の価数
式(b):
Eb=(ナトリウムイオンの含有量(mmol/g)×ナトリウムイオンの価数(1価))+(カリウムイオンの含有量(mmol/g)×カリウムイオンの価数(1価))+(カルシウムイオンの含有量(mmol/g)×カルシウムイオンの価数(2価))+(マグネシウムイオンの含有量(mmol/g)×マグネシウムイオンの価数(2価))+(アルミニウムイオンの含有量(mmol/g)×アルミニウムイオンの価数(3価))
【0034】
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。
【0035】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0036】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0037】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0038】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0039】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0040】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0041】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基由来の置換基(単にリン酸基ということもある)を有する。すなわち、本発明の微細繊維状セルロースはリン酸化セルロースである。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0042】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化2】
【0043】
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αn及びα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。
【0044】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0045】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0046】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0047】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0048】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0049】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0050】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0051】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0052】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0053】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0054】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。
【0055】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0056】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0057】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、150℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0058】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0059】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0060】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0061】
リン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.50mmol/g以上であればよく、0.70mmol/g以上であることが好ましく、0.90mmol/g以上であることがより好ましい。また、リン酸基の含有量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり4.00mmol/g以下であればよく、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リン酸基の含有量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の含有量を上記範囲内とすることにより、リン酸基の対イオンとなる上述した有機オニウムイオンの含有量を高めることができるため、有機溶媒に対する微細繊維状セルロースの分散性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書において、微細繊維状セルロースが有するリン酸基の含有量(リン酸基の導入量)は、後述するように微細繊維状セルロースが有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0062】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0063】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0064】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0065】
<解繊処理工程>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0066】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0067】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0068】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0069】
<凝集工程>
凝集工程では、解繊処理工程で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーに、上述した有機オニウムイオンまたは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物を添加する。この際、有機オニウムイオンは、有機オニウムイオンを含有した水溶液として添加することが好ましい。
有機オニウムイオンを含有した水溶液は、通常、有機オニウムイオンと、対イオン(アニオン)を含んでいる。有機オニウムイオンの水溶液を調製する際、有機オニウムイオンと、対応する対イオンが既に塩を形成している場合は、そのまま水に溶解させればよい。また、有機オニウムイオンは、例えば、ドデシルアミンなどのように、酸によって中和されて始めて生成する場合もある。すなわち、有機オニウムイオンは、中和により有機オニウムイオンを形成する化合物と酸との反応で得ても良い。この場合、中和に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や乳酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられる。凝集工程では、中和により有機オニウムを形成する化合物を微細繊維状セルロース含有スラリーに直接加え、微細繊維状セルロースが含むリン酸基を対イオンとして、有機オニウムイオン化させても良い。
【0070】
有機オニウムイオンの添加量は、微細繊維状セルロースの全質量に対し、2質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%以上であることが特に好ましい。なお、有機オニウムイオンの添加量は、微細繊維状セルロースの全質量に対し、1000質量%以下であることが好ましい。
また、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む置換基の量(モル数)と価数を乗じた値の0.2倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることがさらに好ましい。なお、添加する有機オニウムイオンのモル数は、微細繊維状セルロースが含む置換基の量(モル数)と価数を乗じた値の10倍以下であることが好ましい。
【0071】
有機オニウムイオンを添加し、攪拌を行うと、微細繊維状セルロース含有スラリー中に凝集物が生じる。この凝集物は、対イオンとして有機オニウムイオンを有する微細繊維状セルロースが凝集したものである。凝集物が生じた微細繊維状セルロース含有スラリーを減圧濾過することで、微細繊維状セルロース凝集物を回収することができる。
【0072】
得られた微細繊維状セルロース凝集物は、イオン交換水で洗浄してもよい。微細繊維状セルロース凝集物をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰な有機オニウムイオン等を除去することができる。
【0073】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0074】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0076】
(繊維状セルロース含有組成物)
本発明は、上述した微細繊維状セルロースを85質量%以上含む繊維状セルロース含有組成物に関するものでもある。ここで、繊維状セルロース含有組成物中における微細繊維状セルロースの含有量は、下記式で算出される。
微細繊維状セルロースの含有量(質量%)=微細繊維状セルロースの絶乾質量/(微細繊維状セルロースの質量+溶媒の質量)×100
【0077】
本発明の繊維状セルロース含有組成物の形態は特に限定されるものではなく、例えば、固形状やゲル状であってもよい。但し、繊維状セルロース含有組成物は、水を含まなくてもよいが、含んでいてもよい。繊維状セルロース含有組成物が水を嫌う用途に使用される場合は、水を含まないことが好ましい。繊維状セルロース含有組成物が水を含む場合には、水分含有量は特に限定されないが、水分含有量は微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して、たとえば15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。また、水分含有量は0.1質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。
【0078】
(繊維状セルロース含有分散液)
本発明は、上述した微細繊維状セルロースと、有機溶媒と、を含む繊維状セルロース含有分散液に関するものであってもよい。本発明の繊維状セルロース含有分散液は、上述した微細繊維状セルロースもしくは微細繊維状セルロース含有組成物が、有機溶媒を含む分散媒中に分散した繊維状セルロース含有分散液である。なお、本発明の繊維状セルロース含有分散液は、分散媒として有機溶媒の他に水をさらに含有していてもよい。
【0079】
本発明の繊維状セルロース含有組成物が有機溶媒を含むものである場合、有機溶媒の25℃における比誘電率は、60以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。本発明の微細繊維状セルロースは、比誘電率の低い有機溶媒中においても優れた分散性を発揮することができるため、有機溶媒の25℃における比誘電率は、45以下であってもよく、40以下であってもよく、35以下であってもよい。
【0080】
有機溶媒のハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter,HSP)のδpは、5MPa1/2以上20MPa1/2以下であることが好ましく、10MPa1/2以上19MPa1/2以下であることがより好ましく、12MPa1/2以上18MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、δhは、5MPa1/2以上40MPa1/2以下であることが好ましく、5MPa1/2以上30MPa1/2以下であることがより好ましく、5MPa1/2以上20MPa1/2以下であることがさらに好ましい。また、δpが0MPa1/2以上4MPa1/2以下の範囲であり、δhが0MPa1/2以上6MPa1/2以下の範囲であることを同時に満たすことも好ましい。
【0081】
本発明の繊維状セルロース含有分散液においては、水の含有量は少ない方が好ましい。繊維状セルロース含有分散液における水の含有量は、繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。なお、繊維状セルロース含有分散液における水の含有量は0質量%であることも好ましい。
【0082】
繊維状セルロース含有分散液における微細繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
本発明の繊維状セルロース含有分散液を得る方法としては、例えば、(1)水系溶媒中で解繊処理をした後に、有機溶媒中に再分散させる方法と、(2)有機溶媒中で解繊処理を行う方法が挙げられる。
(1)の方法では、まず、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを水系溶媒中で解繊処理して微細繊維状セルロース含有スラリーを得る。次いで、この微細繊維状セルロース含有スラリーに上述した有機オニウムイオンを添加し、微細繊維状セルロースの凝集物もしくは微細繊維状セルロース含有組成物を得る。そして、得られた微細繊維状セルロースの凝集物もしくは微細繊維状セルロース含有組成物を有機溶媒中に分散させ、攪拌を行うことで繊維状セルロース含有分散液を得ることができる。
(2)の方法では、まず、微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料を水系溶媒中に分散させ、得られた分散液に上述した有機オニウムイオンを添加し、繊維状セルロース原料の凝集物を得る。この凝集物を有機溶媒に分散させて解繊処理(微細化処理)を行うことで繊維状セルロース含有分散液を得ることができる。
なお、本発明においては、より分散性に優れた繊維状セルロース含有分散液を得る方法として(1)の方法を採用することが好ましい。
【0084】
上記の(1)の方法において、微細繊維状セルロースもしくは微細繊維状セルロース含有組成物を、有機溶媒中に分散する際には、十分な攪拌を行うことが好ましい。攪拌方法としては、特に限定されないが、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、マグネティックスターラー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等による攪拌を挙げることができる。
【0085】
微細繊維状セルロースもしくは微細繊維状セルロース含有組成物を有機溶媒に分散させる条件としては、特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロース濃度を適宜調節してもよい。この際、有機溶媒の添加を段階的に行い、微細繊維状セルロース濃度を所望の分散濃度に調整してもよい。また、分散させる溶媒の温度を調節してもよく、分散させる溶媒に微細繊維状セルロースと有機溶媒以外の任意の成分を添加してもよい。
【0086】
(繊維状セルロース含有水分散液)
本発明の微細繊維状セルロースを水に分散又は懸濁させることにより、繊維状セルロース含有水分散液(繊維状セルロース含有水懸濁液)としてもよい。なお、本明細書において、繊維状セルロース含有水分散液は、溶媒として有機溶媒を含まない分散液であるため、上述した繊維状セルロース含有分散液とは区別される。
【0087】
(繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、繊維状セルロースの製造方法に関するものでもある。具体的には、本発明の繊維状セルロースの製造方法は、0.5mmol/g以上のリン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを水系溶媒中で解繊処理し、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む水分散液を得る工程と、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程と、を含むことが好ましい。
【0088】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む水分散液を得る工程では、上述した<リン酸基導入工程>と<解繊処理工程>を行うことが好ましい。また、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程では、上述した<凝集工程>を行うことが好ましい。
【0089】
炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程では、微細繊維状セルロースの全質量に対し、有機オニウムイオンを2質量%以上となるように添加することが好ましく、10質量%以上となるように添加することがより好ましく、50質量%以上となるように添加することがさらに好ましく、100質量%以上となるように添加することが特に好ましい。また、この際、添加する有機オニウムイオンのモル数が、微細繊維状セルロースが含む置換基の量(モル数)と価数を乗じた値の0.2倍以上となるように有機オニウムイオンを添加することが好ましく、1.0倍以上となるように有機オニウムイオンを添加することがより好ましく、2.0倍以上となるように有機オニウムイオンを添加することがさらに好ましい。
【0090】
炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程では、微細繊維状セルロースの凝集物が得られる。本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、炭素数が5以上の炭化水素基を含む有機オニウムイオン、及び総炭素数が17以上の有機オニウムイオンから選択される少なくとも一方を、水分散液に添加する工程の後に、さらに凝集物を分離する工程と、凝集物を洗浄する工程を設けてもよい。このようにして得られる微細繊維状セルロースは、有機溶媒への分散性に優れている。
【0091】
(用途)
本発明の微細繊維状セルロースは、樹脂混合用や有機溶媒混合用として好ましく用いられる。樹脂混合用組成物は、樹脂の補強材として使用することができる。樹脂混合用組成物において、本発明の微細繊維状セルロースと、樹脂を直接混合することで、微細繊維状セルロースが均一に分散した樹脂複合体を形成することができる。また、有機溶媒混合用組成物は、有機溶媒を含む系の増粘剤や粒子分散安定剤として使用することができる。特に樹脂成分を含む有機溶媒との混合に好ましく用いることができる。本発明の微細繊維状セルロースと、樹脂成分を含む有機溶媒を混合することで、微細繊維状セルロースが均一に分散した樹脂複合体を形成することができる。同様に微細繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。
【実施例
【0092】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0093】
(実施例1)
<リン酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2のシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を加え、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、イオン交換水150質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0094】
<脱水洗浄工程>
得られたリン酸化パルプに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流して、リン酸化パルプの脱水シートAを得た。
【0095】
<複数回リン酸化>
得られたリン酸化パルプの脱水シートAを原料にし、上記リン酸化反応工程、脱水洗浄工程をさらに1回繰り返して(リン酸化の合計回数は2回)、リン酸化パルプの脱水シートBを得た。
【0096】
<解繊処理>
得られたリン酸化パルプの脱水シートBにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で200MPaの圧力にて6回処理し、2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロース含有スラリー中における微細繊維状セルロースのリン酸基の導入量は1.8mmol/gであった。なお、得られた微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
【0097】
<凝集工程>
得られた2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加し、十分均一になるように撹拌し、固形分濃度が0.5質量%となるよう希釈した。1.7質量%のN,N-ジドデシルメチルアミン水溶液100gに4.63mLの1N塩酸を添加して中和した後、得られた0.5質量%の微細繊維状セルロース含有スラリー100gに添加し、ディスパーザーで5分間撹拌処理を行ったところ、微細繊維状セルロース含有スラリー中に凝集物が生じた。凝集物が生じた微細繊維状セルロース含有スラリーを減圧濾過し、微細繊維状セルロース凝集物(洗浄前)を回収した。なお、微細繊維状セルロース含有スラリーに加えるN,N-ジドデシルメチルアミンのモル数は、スラリー中の微細繊維状セルロースが含む置換基の量(モル数)と価数を乗じた値の2.5倍量に設定した。
【0098】
<凝集物の洗浄工程>
得られた微細繊維状セルロース凝集物(洗浄前)をイオン交換水で繰り返し洗うことで、微細繊維状セルロース凝集物に含まれる余剰なN,N-ジドデシルメチルアミン、塩酸、及び溶出したイオン等を除去し、微細繊維状セルロースを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。得られた微細繊維状セルロースの水分散液を遠心分離処理した際の上澄み収率を後述の方法により測定した。
【0099】
<再分散工程>
得られた微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を49g添加した。その後、超音波処理装置(ヒールシャー製、UP400S)を用いて超音波処理を5分間行い、微細繊維状セルロース再分散スラリー(繊維状セルロース含有分散液)を得た。得られた微細繊維状セルロース再分散スラリーの粘度、全光線透過率を後述の方法により測定した。
【0100】
(実施例2)
実施例1の<凝集工程>において、1.3質量%のポリオキシエチレンドデシルアミン(オキシエチレン残基の個数は2)水溶液100gに4.63mLの1N塩酸を添加して中和した後、スラリーに添加し、撹拌処理を行った以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。
【0101】
(実施例3)
実施例1の<凝集工程>において、1.6質量%のアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド水溶液100gをスラリーに添加し、撹拌処理を行った以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は86質量%であった。
【0102】
(実施例4)
実施例1の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を49g添加し、超音波処理を行った以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0103】
(実施例5)
実施例1の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を49g添加し、超音波処理を行った以外は、実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0104】
(実施例6)
実施例1の<凝集工程>において、1.2質量%のステアリルアミン水溶液100gに4.63mLの1N塩酸を添加して中和した後、スラリーに添加し、撹拌処理を行い、<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にトルエンを49g添加して超音波処理を行った以外は実施例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は90質量%であった。
【0105】
(実施例7)
実施例6の<凝集工程>において、2.6質量%のジ-n-アルキルジメチルアンモニウムクロリド水溶液100gをスラリーに添加し、撹拌処理を行った以外は、実施例6と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は90質量%であった。
【0106】
(実施例8)
実施例5において<複数回リン酸化>の工程を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られたリン酸化パルプのリン酸基の導入量は1.1mmol/gであった。
【0107】
(実施例9)
実施例8の<リン酸化反応工程>において、薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で150秒間乾燥・加熱処理した以外は、実施例8と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られたリン酸化パルプのリン酸基の導入量は0.9mmol/gであった。
【0108】
(実施例10)
実施例7の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にp-キシレンを49g添加し、超音波処理を行った以外は、実施例7と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0109】
(実施例11)
実施例3の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にメタノールを49g添加し、超音波処理を行った以外は、実施例3と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0110】
(実施例12)
実施例2の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)に2-ピロリジノンを49g添加し、超音波処理を行った以外は、実施例2と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0111】
(比較例1)
<TEMPO酸化反応>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が10.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0112】
<TEMPO酸化パルプの洗浄>
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
【0113】
得られたTEMPO酸化パルプに、実施例1と同様にして<解繊処理>、<凝集工程>、<凝集物の洗浄工程>、及び<再分散工程>を行い、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。解繊処理工程で得られた微細繊維状セルロース含有スラリー中における微細繊維状セルロースのカルボキシル基の導入量は1.8mmol/gであった。また、凝集物の洗浄工程後に得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。なお、得られた微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
【0114】
(比較例2)
比較例1の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を49g添加し、超音波処理を行った以外は、比較例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0115】
(比較例3)
比較例1の<凝集工程>において、2.6質量%のジ-n-アルキルジメチルアンモニウムクロリド水溶液100gを添加して撹拌処理を行い、比較例1の<再分散工程>において、微細繊維状セルロース1.0g(絶乾質量)にトルエンを49g添加して超音波処理を行った以外は比較例1と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は90質量%であった。
【0116】
(比較例4)
比較例1の<TEMPO酸化反応>において、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が3.8mmolになるように加えた以外は、比較例1と同様にして、TEMPO酸化パルプ(TEMPO酸化セルロース繊維)、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られたTEMPO酸化パルプ(TEMPO酸化セルロース繊維)のカルボキシル基の導入量は1.3mmol/gであった。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。
【0117】
(比較例5)
実施例1の<リン酸化反応工程>、<脱水洗浄工程>、及び<複数回リン酸化>と同様にして、リン酸化パルプの脱水シートBを得た。
【0118】
<アルカリ処理>
次いで、得られたリン酸化パルプの脱水シートBを、固形分濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化パルプの脱水シートCを得た。
【0119】
<解繊処理>
得られたリン酸化パルプの脱水シートCに、実施例1の<解繊処理>と同様にして解繊処理を行い、2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。なお、得られた微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
【0120】
<凝集・洗浄工程>
得られた2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリー20質量部にイソプロパノール(IPA)を80質量部添加し、ディスパーザーで5分間撹拌処理を行った後、スラリー中に生じた凝集物を濾過により回収した。凝集物をIPAで繰り返し洗うことで、凝集物中に残存する水分を取り除き、微細繊維状セルロースを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は91質量%であった。
【0121】
<再分散工程>
得られた微細繊維状セルロースを実施例6の<再分散工程>と同様にして、微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。
【0122】
(比較例6)
比較例5において、<アルカリ処理>を行わなかった以外は比較例5と同様にして、微細繊維状セルロース及び微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は91質量%であった。
【0123】
(比較例7)
比較例5の<アルカリ処理>において、1N水酸化ナトリウム水溶液の代わりに55質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を使った以外は、比較例5と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。
【0124】
(比較例8)
比較例5の<アルカリ処理>において、1N水酸化ナトリウム水溶液の代わりに55質量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を使い、<凝集・洗浄工程>でイソプロパノール(IPA)の代わりにメチルエチルケトン(MEK)を使った以外は、比較例5と同様にして、微細繊維状セルロースおよび微細繊維状セルロース再分散スラリーを得た。得られた微細繊維状セルロースの固形分濃度は89質量%であった。
【0125】
(参考例1)
実施例1の<リン酸化反応工程>、<脱水洗浄工程>、<複数回リン酸化>、及び<解繊処理>と同様にして、2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加し、十分均一になるように撹拌し、固形分濃度が0.5質量%となるよう希釈した。55質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液0.31gを1.85mLの1N塩酸で中和した後、得られた0.5質量%の微細繊維状セルロース含有スラリー100gに添加し、ディスパーザーで5分間撹拌処理を行ったが、微細繊維状セルロース含有スラリー中に凝集物は生成しなかった。
【0126】
(参考例2)
参考例1において、55質量%のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液0.31gを1.85mLの1N塩酸で中和した後、スラリーに添加した以外は、参考例1と同様にしてディスパーザーで撹拌処理を行ったが、微細繊維状セルロース含有スラリー中に凝集物は生成しなかった。
【0127】
(分析及び評価)
<リン酸基量の測定>
微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、固形分濃度を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図1に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0128】
<カルボキシル基量の測定>
微細繊維状セルロースのカルボキシル基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。カルボキシル基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
【0129】
<遠心分離処理後の上澄み収率の測定>
微細繊維状セルロースにイオン交換水を添加して、固形分濃度が0.5質量%の繊維状セルロースの水分散液Aを調製した後、解繊処理装置(高速回転解繊処理装置)を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、水分散液Bを得た。次いで、水分散液Bにイオン交換水を添加して、固形分濃度が0.2質量%の水分散液Cとし、12000G、15℃の条件で10分間遠心分離処理を行い、上澄み液を回収した;回収した上澄み液の固形分濃度を測定し、下記式に基づいて上澄み収率を算出した。なお、遠心分離処理工程では、冷却高速遠心分離機を用いた。
上澄み収率(%)=上澄み液の固形分濃度(質量%)/0.2(質量%)×100
【0130】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率測定方法>
全光線透過率の測定では、再分散工程で得られる2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率を測定した。全光線透過率の測定は、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM-150)と、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して行った。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、全光線透過率の測定は、各実施例、比較例の再分散工程後、直ちに行った。
【0131】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度測定方法>
微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は、再分散工程後で得られる2.0質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーを25℃で、24時間静置した後、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T-LVT)を用いて測定した。測定条件は、25℃の条件とし、6rpmで3分間回転させた際の粘度を測定した。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
【表6】
【0138】
【表7】
【0139】
実施例では、有機溶媒への分散性に優れる微細繊維状セルロースが得られていることがわかる。具体的には、有機溶媒へ分散性させた後に、高粘度を発揮し得る微細繊維状セルロースが得られていた。
また、実施例8及び9の結果から明らかなように、本発明の微細繊維状セルロースにおいては、リン酸基の導入量が少ない場合であっても有機溶媒への分散性に優れていた。
【0140】
なお、実施例1~12及び比較例1~4において、<再分散工程>後に得られた微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、分散液に含まれる微細繊維状セルロースの繊維幅は3~100nmの範囲であった。
図1
図2