(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シート空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/34 20060101AFI20221109BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20221109BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20221109BHJP
B60N 2/20 20060101ALI20221109BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60H1/34 651A
B60H1/34 671A
B60H1/34 671B
B60N2/06
B60N2/56
B60N2/20
A47C7/74 C
A47C7/74 A
A47C7/74 D
(21)【出願番号】P 2018036870
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正善
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-005117(JP,A)
【文献】特開2007-069646(JP,A)
【文献】特開2013-116662(JP,A)
【文献】特開平07-246131(JP,A)
【文献】特開平01-257620(JP,A)
【文献】米国特許第05385382(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/34
B60N 2/06
B60N 2/56
B60N 2/20
A47C 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送用移動体において前後に並ぶ前方シート及び後方シートのうちの少なくとも前方シートに設けられ、
前記前方シートの後面に設けられる吹出口から、前記後方シート側に空調風を吹き出させる個別空調部(102)と、
前記個別空調部で吹き出せる空調風を調節する空調調節部(105)とを備え、
前記前方シート及び前記後方シートは、シート位置として少なくともリクライニング位置を変化可能であって、
前記空調調節部は、前記シート位置としての前記前方シート及び前記後方シートのうちの少なくとも前記前方シートのリクライニング位置の変化に応じて、前記シート位置としてのこのリクライニング位置の変化による前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の変化を低減するように、前記
リクライニング位置の変化による前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の前記吹出口からの到達距離の変化に応じて、前記空調風の風量及び/又は温度を自動で調節するシート空調装置。
【請求項2】
前記前方シート及び前記後方シートは、前記シート位置として前記輸送用移動体の前後方向にスライド位置も変化可能であって、
前記空調調節部は、前記シート位置としての前記前方シート及び/又は前記後方シートの前記スライド位置の変化にも応じて、前記シート位置としてのこのスライド位置の変化による前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の変化も低減するように前記空調風を自動で調節する請求項1に記載のシート空調装置。
【請求項3】
前記空調調節部は、前記シート位置の変化に応じて、前記シート位置の変化による前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の風向の変化分を補正するように前記空調風の風向を自動で調節する請求項1又は2に記載のシート空調装置。
【請求項4】
前記空調調節部は、前記シート位置の変化によって前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の前記吹出口からの到達距離が遠くなる場合であって、且つ、前記空調風が冷房時の空調風の場合には、到達距離が遠くなるのに応じて前記空調風の風量を上げるとともに前記空調風の温度を下げる請求項
1~3のいずれか1項に記載のシート空調装置。
【請求項5】
前記空調調節部は、前記シート位置の変化によって前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の前記吹出口からの到達距離が遠くなる場合であって、且つ、前記空調風が暖房時の空調風の場合には、到達距離が遠くなるのに応じて前記空調風の風量を上げるとともに前記空調風の温度を上げる請求項
1~4のいずれか1項に記載のシート空調装置。
【請求項6】
前記空調調節部は、前記シート位置の変化によって前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の前記吹出口からの到達距離が近くなる場合であって、且つ、前記空調風が冷房時の空調風の場合には、到達距離が近くなるのに応じて前記空調風の風量を下げるとともに前記空調風の温度を上げる請求項
1~
5のいずれか1項に記載のシート空調装置。
【請求項7】
前記空調調節部は、前記シート位置の変化によって前記後方シートに着座する乗員に対する前記空調風の前記吹出口からの到達距離が近くなる場合であって、且つ、前記空調風が暖房時の空調風の場合には、到達距離が近くなるのに応じて前記空調風の風量を下げるとともに前記空調風の温度を下げる請求項
1~
6のいずれか1項に記載のシート空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、輸送用移動体のシートに着座する乗員に対する個別の空調である個別空調を行うシート空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、輸送用移動体のシートに着座する乗員に対する個別の空調である個別空調を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、車室床面上に前後に並んで配置されるシートにおいて、前方のシートの後面上部に送風装置を設けて後方のシートに向けて送風可能とする技術が開示されている。また、特許文献1には、この前方のシート又は後方のシートを前後にスライド移動させて両シートを相対的に近接させた場合に自動で送風装置の風量を減少させる一方、両シートを相対的に離間させた場合には自動で送風装置の風量を増加させることで、比較的一定の風量を乗員に送風できるようにすることを試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、前方のシート及び/又は後方のシートのリクライニング位置が変化した場合には、送風装置から送風される空調風の調節は行われない。よって、前方のシート及び/又は後方のシートのリクライニング位置を変更した場合に、前方のシートに設けられる送風装置から送風される空調風の、後方のシートの乗員にあたる箇所が著しく変化してしまい、乗員の快適性を低下させてしまう。また、この空調風の吹出口と後方のシートの乗員との距離も変化してしまうことで、乗員にあたる風量も変化してしまい、乗員の快適性を低下させてしまう。
【0005】
この開示のひとつの目的は、前後に並んで配置されるシートにおいて、前方のシートから後方のシートに向けて空調風を送風することで個別空調を行う場合の、後方のシートの乗員の快適性の低下を抑えることを可能にするシート空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、開示の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本開示のシート空調装置は、輸送用移動体において前後に並ぶ前方シート及び後方シートのうちの少なくとも前方シートに設けられ、前方シートの後面に設けられる吹出口から、後方シート側に空調風を吹き出させる個別空調部(102)と、個別空調部で吹き出せる空調風を調節する空調調節部(105)とを備え、前方シート及び後方シートは、シート位置として少なくともリクライニング位置を変化可能であって、空調調節部は、シート位置としての前方シート及び後方シートのうちの少なくとも前方シートのリクライニング位置の変化に応じて、シート位置としてのこのリクライニング位置の変化による後方シートに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように、リクライニング位置の変化による後方シートに着座する乗員に対する空調風の吹出口からの到達距離の変化に応じて、空調風の風量及び/又は温度を自動で調節する。
【0008】
これによれば、輸送用移動体において前後に並ぶ前方シート及び後方シートのうちの前方シートの後面に設けられる吹出口から、後方シート側に個別空調部で吹き出させる空調風を、少なくとも前方シートのリクライニング位置の変化に応じて、空調調節部が自動で調節する。よって、前方シートから後方シートに向けて空調風を送風することで個別空調を行う場合の、後方シートの乗員に対する空調風を、少なくとも前方シートのリクライニング位置の変化に応じて自動で調節できる。また、この調節は、リクライニング位置の変化による後方シートに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように行うため、前方シートのリクライニング位置が変化した場合であっても、この変化による空調風の変化を低減することが可能になる。その結果、前後に並んで配置されるシートにおいて、前方のシートから後方のシートに向けて空調風を送風することで個別空調を行う場合の、後方のシートの乗員の快適性の低下を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】シート環境制御装置1の設け方及びシート環境制御装置1による空調風の吹出口の一例を示す図である。
【
図2】シート環境制御装置1の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図3】空調ユニット30の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図4】初期状態における狙い距離及び狙い角度の算出の一例について説明するための図である。
【
図5】狙い距離及び狙い角度の補正の一例について説明するための図である。
【
図6】シートECU10での空調補正関連処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、開示のための複数の実施形態を説明する。なお、説明の便宜上、複数の実施形態の間において、それまでの説明に用いた図に示した部分と同一の機能を有する部分については、同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。同一の符号を付した部分については、他の実施形態における説明を参照することができる。
【0011】
(実施形態1)
<シート環境制御装置1について>
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。シート環境制御装置1は、乗用車,バス,鉄道車両,船舶,航空機といった輸送用移動体で用いられる。シート環境制御装置1は、輸送用移動体の座席(つまり、シート)ごとに設けられる構成とすればよい。なお、本実施形態では、輸送用移動体のシートは、輸送用移動体の前後方向のスライド位置と、シートの背もたれの角度であるリクライニング位置とが電動で変化可能である場合を例に挙げて説明を続ける。
【0012】
輸送用移動体には、輸送用移動体の前後方向にシートが複数並ぶものとし、
図1に示すように、前後方向に並ぶシートの後方シートRSeについてのシート環境制御装置1は、前方シートFSeに設けられるものとする。なお、最前席のシートについては、前方の車両構造体にシート環境制御装置1が設けられる構成とすればよい。
【0013】
シート環境制御装置1は、空調風を吹き出す吹出口ADが前方シートFSeの後面に設けられており、吹出口ADから後方シートRSe側に空調風を吹き出させる。これにより、シート環境制御装置1は、後方シートRSeに着座する乗員に対する個別の空調(以下、個別空調)を行う。また、シート環境制御装置1は、後方シートRSeのスライド位置,リクライニング位置といったシート位置を変化させるためのアクチュエータであるシートアクチュエータ2を駆動させ、後方シートRSeのスライド位置,リクライニング位置といったシート位置を調節する。シート環境制御装置1の詳細については後述する。
【0014】
<シート環境制御装置1の概略構成>
続いて、
図2及び
図3を用いてシート環境制御装置1の概略構成について説明を行う。シート環境制御装置1は、
図2に示すように、シートECU10、シートHMI20、及び空調ユニット30を備えている。
【0015】
シートHMI20は、自装置としてのシート環境制御装置1によって個別空調を行う乗員の着座するシートの前方のシートの例えば後面に設けられている。ここでは、便宜上、自装置としてのシート環境制御装置1が設けられるシートを前方シートFSe,このシート環境制御装置1によって個別空調を行う乗員の着座するシートを後方シートRSeとして説明を行う。なお、前方シートFSe及び後方シートRSeは相対的な関係であって、同じシートであっても、前方のシートに対しては後方シートRSeとなるし、後方のシートに対しては前方シートFSeとなる。
【0016】
シートHMI20は、後方シートRSeに着座している乗員からの個別空調等の設定の操作入力を受け付けたり、後方シートRSeに着座している乗員に対する個別空調等の作動状態を表示したりする。シートHMI20は、後方シートRSeに着座する乗員からの個別空調のオンオフの設定,個別空調の温度設定,個別空調の風量設定,個別空調の風向設定,後方シートRSeのスライド位置の設定,後方シートRSeのリクライニング位置の設定等を、操作入力部を介して受け付ける。操作入力部の一例としては、メカニカルなスイッチであってもよいし、ディスプレイと一体となったタッチスイッチであってもよい。
【0017】
シートHMI20は、操作入力部を介して受け付けた設定の情報をシートECU10に出力する。なお、個別空調等の設定は、例えばシートごとに設けられた通信モジュールを介した近距離無線通信によって、ユーザの携帯する多機能携帯電話機等の携帯端末を介して入力された設定を、シートHMI20が受け付ける構成としてもよい。
【0018】
空調ユニット30は、空気を冷却及び加温する機械的構成である。空調ユニット30は、
図3に示すように、冷凍サイクル装置300、加熱装置310、第1送風機320、第2送風機330、エアミックスダンパ340、及びスイングレジスタ350を備える。空調ユニット30は、前方シートFSeに内蔵される構成とすればよく、前方シートFSeの座面の下部に内蔵されてもよいし、前方シートFSeの背もたれの部分(つまり、シートバック)に内蔵されてもよい。
【0019】
冷凍サイクル装置300は、冷媒の蒸気圧縮冷凍サイクルを利用して空気を冷却するものであり、圧縮機301、凝縮器302、減圧部303、及び蒸発器304を備える。圧縮機301、凝縮器302、減圧部303、及び蒸発器304は、冷媒が流れる閉回路であるバイパス管路に設けられる。冷媒としては、R134a,R152a等の地球温暖化係数の小さいフロンガス又はプロパン等のHCガスを用いる構成とすればよい。
【0020】
圧縮機301は、輸送用移動体のバッテリから供給される直流電圧で駆動される電動圧縮機であり、バイパス管路を流れる冷媒を圧縮して冷媒温度を上昇させる。圧縮機301は、低圧冷媒を吸引し、この低圧冷媒を加圧して高圧冷媒を吐出する。圧縮機301は、圧縮した高圧冷媒を凝縮器302に供給する。
【0021】
凝縮器302は、第1送風機320により送風される空気と冷媒との間の熱交換を提供することによって、冷媒の熱を放熱させる。凝縮器302は放熱器とも呼ばれる。凝縮器302で放熱された冷媒は、減圧部303に供給される。減圧部303は、凝縮器302から供給される冷媒を減圧することにより低温低圧の冷媒を生成し、蒸発器304に供給する。
【0022】
蒸発器304は、第2送風機330により送風される空気と低温冷媒との間の熱交換を提供することによって、第2送風機330により送風される空気を冷却する。これにより、第2送風機330により送風される空気が冷風となって吹出用ダクトに供給される。また、蒸発器304で冷却された冷媒は、圧縮機301に供給される。なお、蒸発器304は、吸熱器とも呼ばれる。このように冷媒が冷凍サイクル装置300を循環しつつ、第2送風機330により送風された空気が冷却されて冷風が吹出用ダクトに供給される。
【0023】
加熱装置310は、PTCヒータ、熱線式ヒータ等からなる電気ヒータであり、凝縮器302を通過した暖気を加熱し、暖気の温度をさらに昇温させる。加熱装置310により加熱された温風も吹出用ダクトに供給される。空調ユニット30では、第1送風機320,第2送風機330の送風量を調整することで個別空調の空調風の風量を調節する。
【0024】
エアミックスダンパ340は、蒸発器304で冷却される冷風の吹出口及び加熱装置310で加熱される温風の吹出口と吹出用ダクトとを接続する接続流路に設けられる。エアミックスダンパ340は、冷風の吹出口から排出される冷風を吹出用ダクトに流通させる量と、温風の吹出口から排出される温風を吹出用ダクトに流通させる量とをシートECU10の指示に従って調整することで、吹出用ダクトに供給される空調風の温度を調節する。吹出用ダクトは、吹出口ADが
図1に示したように前方シートFSeの後面に設けられており、吹出口ADから後方シートRSe側に空調風が吹き出されるようになっている(
図1の矢印参照)。
【0025】
スイングレジスタ350は、吹出口ADの上流に設けられ、シートECU10の指示に従って吹出口ADから吹き出される空調風の風向を調節する。例えば、スイングレジスタ350は、輸送用移動体の幅方向に延びる細長い板状の駆動フィンを輸送用移動体の高さ方向に傾けることにより、吹出口ADから吹き出される空調風の風向を少なくとも輸送用移動体の高さ方向に変化できるようになっている構成とすればよい。
【0026】
シートECU10は、プロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータを主体として構成され、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで後方シートRSeの乗員に対する個別空調,後方シートRSeのシート位置の調節といったシート環境についての制御に関する各種の処理を実行する。このシートECU10がシート空調装置に相当する。プロセッサがこの制御プログラムを実行することは、制御プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。シートECU10の詳細については以下で述べる。
【0027】
<シートECU10の概略構成>
ここで、
図2を用いて、シートECU10の概略構成について説明を行う。シートECU10は、シート位置調節部101、シート空調部102、取得部103、算出部104、及び空調調節部105を機能ブロックとして備えている。なお、シートECU10が実行する機能の一部又は全部を、1つ或いは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、シートECU10が備える機能ブロックの一部又は全部は、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェア部材の組み合わせによって実現されてもよい。
【0028】
シート位置調節部101は、後方シートRSeのスライド位置,リクライニング位置といったシート位置を変化させるためのアクチュエータであるシートアクチュエータ2を駆動させ、後方シートRSeのスライド位置,リクライニング位置といったシート位置を調節する。シートアクチュエータ2は例えばモータであるものとし、以降では、スライド位置を変化させるためのシートアクチュエータ2をスライドモータ,リクライニング位置を変化させるためのシートアクチュエータ2をリクライニングモータと呼ぶ。シート位置調節部101は、シートHMI20で受け付ける後方シートRSeのスライド位置の設定,後方シートRSeのリクライニング位置の設定に応じて、後方シートRSeのスライド位置,リクライニング位置を調節すればよい。
【0029】
シート空調部102は、冷凍サイクル装置300、第1送風機320、及び第2送風機330の動作を開始させることで個別空調を行わせる。このシート空調部102が個別空調部に相当する。シート空調部102は、シートHMI20で受け付ける個別空調のオンオフの設定に応じて、個別空調をオンオフすればよい。
【0030】
取得部103は、後述する算出部104での算出に用いる値を取得する。取得部103は、機能ブロックとして距離取得部131、前席角度取得部132、及び後席角度取得部133を備える。
【0031】
距離取得部131は、前方シートFSeと後方シートRSeとのシート間距離を取得する。本実施形態では、シート間距離は、前方シートFSeと後方シートRSeとのリクライニング位置を変化させる場合の回転軸(以下、シート回転軸)同士の距離である場合を例に挙げて説明を行う。
【0032】
一例として、距離取得部131は、前方シートFSe及び後方シートRSeのスライド位置とシート間距離との対応関係を予めシートECU10の不揮発性メモリに格納しておくことで、この対応関係を参照し、前方シートFSe及び後方シートRSeのスライド位置から、シート間距離を取得する構成とすればよい。後方シートRSeのスライド位置は、後方シートRSeのスライド位置を調節する、自装置としてのシート環境制御装置1のシート位置調節部101から取得すればよい。前方シートFSeのスライド位置は、前方シートFSeのスライド位置を調節する、前方シートFSeの前方のシートに設けられるシート環境制御装置1のシート位置調節部101から取得すればよい。
【0033】
なお、本実施形態では、シートのスライド位置を電動で変化可能な構成を例に挙げて説明したが、シートのスライド位置を手動で変化させることしかできない構成を採用する場合には、前方シートFSeと後方シートRSeとにスライド位置を検出するためのセンサを設けることで、このセンサの検出結果から、距離取得部131がシート間距離を取得する構成とすればよい。
【0034】
前席角度取得部132は、前方シートFSeのリクライニング位置を取得する。前方シートFSeのリクライニング位置は、前方シートFSeのリクライニング位置を調節する、前方シートFSeの前方のシートに設けられるシート環境制御装置1のシート位置調節部101から取得すればよい。後席角度取得部133は、後方シートRSeのリクライニング位置を取得する。後方シートRSeのリクライニング位置は、後方シートRSeのリクライニング位置を調節する、自装置としてのシート環境制御装置1のシート位置調節部101から取得すればよい。一例としては、基準となる状態からのリクライニングモータの回転角度をリクライニング位置として取得すればよい。
【0035】
なお、本実施形態では、シートのリクライニング位置を電動で変化可能な構成を例に挙げて説明したが、シートのリクライニング位置を手動で変化させることしかできない構成を採用する場合には、前方シートFSeと後方シートRSeとにリクライニング位置を検出するためのジャイロセンサ等のセンサを設けることで、このセンサの検出結果から、前席角度取得部132及び後席角度取得部133がリクライニング位置を取得する構成とすればよい。
【0036】
算出部104は、後方シートRSeに着座する乗員に対する個別空調を行う際の狙い位置を対象とする狙い距離及び狙い角度を算出する。狙い距離とは、前方シートFSeの後面に設けられる吹出口ADの位置から狙い位置までの距離とする。この狙い距離が、後方シートに着座する乗員に対する空調風の吹出口からの到達距離に相当する。狙い角度とは、前方シートFSeの後面に設けられる吹出口ADからの基準となる吹出方向に対する狙い位置の角度とする。算出部104は、機能ブロックとして狙い距離算出部141及び狙い角度算出部142を備える。
【0037】
狙い位置については、後方シートRSeの所定位置を狙い位置とすればよい。以下では、後方シートRSeのヘッドレストの所定位置を狙い位置とする場合を例に挙げて説明を行う。なお、狙い位置については、後方シートRSeに着座する乗員を撮像するカメラで撮像した撮像画像をもとに乗員の頭部といった所定部位の位置を検出し、この所定部位の位置を狙い位置とする構成としてもよい。
【0038】
狙い距離算出部141は、前述した狙い距離を算出する。狙い距離算出部141は、個別空調をオンにする設定が行われた場合、又は個別空調の温度設定,風量設定,風向設定といった設定が変更された場合に、その時点での前方シートFSe及び後方シートRSeの状態(以下、初期状態)における狙い距離を算出する。
【0039】
ここで、狙い距離算出部141での初期状態における狙い距離の算出の一例について
図4を用いて説明を行う。
図4は、輸送用移動体の前後方向に並ぶ前方シートFSe及び後方シートRSeを輸送用移動体の左右方向から見た模式図である。以下では、輸送用移動体の前後方向の軸をX軸,高さ方向の軸をY軸,前方シートFSeのシート回転軸の位置をXY座標の原点(0,0)として説明を行う。
【0040】
図4のFAxは前方シートFSeのシート回転軸,RAxは後方シートRSeのシート回転軸を示している。
図4のAはシート回転軸FAxから前方シートFSeの後面に設けられる吹出口ADまでの距離,B
iは初期状態におけるシート間距離,C
iは初期状態における狙い距離を示している。
図4のθ1
iは初期状態における前方シートFSeのリクライニング位置,θ2
iは初期状態における後方シートRSeのリクライニング位置,θ3
iは初期状態における狙い角度,θ4
iは初期状態における補正角度を示している。
図4のα
iは初期状態における前方シートFSeの後面に設けられる吹出口ADの位置(以下、吹出位置),β
iは初期状態における狙い位置を示している。吹出位置α
iの座標は(Xf
i,Yf
i)として、狙い位置β
iの座標は(Xr
i,Yr
i)とする。
図4のL1は吹出位置α
i(Xf
i,Yf
i)と狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)とを通過する直線,L2はシート回転軸RAxと狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)とを通過する直線を示している。
【0041】
距離Aは固定値であって、シートECU10の不揮発性メモリに値を予め記憶しておく構成とすればよい。シート間距離Biは、初期状態において距離取得部131で取得する値を用いる。前方シートFSeのリクライニング位置θ1iは、初期状態において前席角度取得部132で取得する値を用い、後方シートRSeのリクライニング位置θ2iは、初期状態において後席角度取得部133で取得する値を用いる。狙い角度θ3iは、初期状態におけるスイングレジスタ350の駆動フィンの傾きとすればよく、初期状態において後述の風向調節部151で調節している値を用いる構成とすればよい。
【0042】
狙い距離算出部141は、狙い距離Ciの算出のために、吹出位置αi,補正角度θ4i,狙い位置βiを算出する。狙い距離算出部141は、吹出位置αiの座標(Xfi,Yfi)のうち、XfiはA・cosθ1iの計算式の演算で算出し、YfiはA・sinθ1iの計算式の演算で算出する。また、狙い距離算出部141は、θ4i=θ3i-(90°-θ1i)の計算式の演算で補正角度θ4iを算出する。補正角度θ4iは、狙い角度θ3iを、Y軸を基準にした値に補正したものである。
【0043】
さらに、狙い距離算出部141は、算出した吹出位置α
i(Xf
i,Yf
i)と、補正角度θ4
iとを用いて、狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)を算出する。まず、狙い距離算出部141は、吹出位置α
i(Xf
i,Yf
i)と狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)とを通過する直線L1の式を求める。直線L1は、傾きがtanθ4
i,切片がA・sinθ1
i-(tanθ4
i×A・cosθ1
i)であるので、直線L1の式は、Y=tanθ4
i・X+{A・sinθ1
i-(tanθ4
i×A・cosθ1
i)}となる。また、狙い距離算出部141は、シート回転軸RAxと狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)とを通過する直線L2の式を求める。直線L2は、傾きがtanθ2
i,切片が-B
i・tanθ2
iであるので、直線L2の式は、Y=tanθ2
i・X-B
i・tanθ2
iとなる。そして、狙い距離算出部141は、直線L1と直線L2との交点を、狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)として算出する。続いて、狙い距離算出部141は、算出した吹出位置α
i(Xf
i,Yf
i)と狙い位置β
i(Xr
i,Yr
i)とから、以下の式1の演算で狙い距離C
iを算出する。
【数1】
【0044】
また、狙い距離算出部141は、初期状態における狙い距離を算出した後は、取得部103で逐次取得する値をもとに、狙い距離を逐次補正する。ここで、狙い距離算出部141での狙い距離の補正の一例について
図5を用いて説明を行う。
図5は、輸送用移動体の前後方向に並ぶ前方シートFSe及び後方シートRSeを輸送用移動体の左右方向から見た模式図であって、前方シートFSeのリクライニング位置が初期状態から変化した場合の例を示している。
【0045】
図5のB
cは変化後のシート間距離,C
cは変化後の狙い距離を示している。
図5の例ではB
cは初期状態のシート間距離B
iから変化していない。
図5のθ1
cは変化後の前方シートFSeのリクライニング位置,θ2
cは変化後の後方シートRSeのリクライニング位置,θ3
cは変化後の狙い角度,θ4
cは変化後の補正角度を示している。
図5のα
cは変化後の吹出位置,β
cは変化後の狙い位置を示している。吹出位置α
cの座標は(Xf
c,Yf
c)として、狙い位置β
cの座標は(Xr
c,Yr
c)とする。
図5の例では、狙い位置β
cは初期状態の狙い位置β
iから変化しておらず、狙い位置β
iの座標は(Xr
i,Yr
i)と同じ値を用いる。前方シートFSeのリクライニング位置θ1
cは、変化後の前席角度取得部132で取得する値を用い、後方シートRSeのリクライニング位置θ2
cは、変化後の後席角度取得部133で取得する値を用いる。
【0046】
図5の例では、狙い距離算出部141は、狙い距離C
cの算出のために、吹出位置α
cを算出する。狙い距離算出部141は、吹出位置α
cの座標(Xf
c,Yf
c)のうち、Xf
cはA・cosθ1
cの計算式の演算で算出し、Yf
cはA・sinθ1
cの計算式の演算で算出する。そして、狙い距離算出部141は、算出した吹出位置α
c(Xf
c,Yf
c)と狙い位置β
c(Xr
c,Yr
c)とから、以下の式2の演算で狙い距離C
cを算出する。
【数2】
【0047】
なお、
図5の例では、前方シートFSe,後方シートRSeのスライド位置が変化しない場合の例を示したが、前方シートFSe,後方シートRSeのスライド位置が変化する場合には、変化後のシート間距離B
cと初期状態におけるシート間距離B
iとから、変化後のシート間距離の変化分を算出し、この変化分に応じてXrcの値を増減させて式2の演算で狙い距離C
cを算出すればよい。シート間距離B
cとしては、変化後に距離取得部131で取得する値を用いればよい。
【0048】
また、後方シートRSeのリクライニング位置が変化する場合には、変化後の狙い位置βc(Xrc,Yrc)を算出して式2の演算で狙い距離Ccを算出すればよい。一例として、狙い位置βc(Xrc,Yrc)は、後方シートRSeのシート回転軸RAxから狙い位置βc(Xrc,Yrc)までの距離Dを用いて、XfcはD・cosθ1cの計算式の演算で算出し、YfcはD・sinθ1cの計算式の演算で算出すればよい。
【0049】
距離Dの算出の方法としては、以下のようにすればよい。例えば、狙い位置βc(Xrc,Yrc)が、後方シートRSeのヘッドレストの所定位置といったように後方シートRSeに対して予め定まった位置である場合には、予め計測した距離DをシートECU10の不揮発性メモリに予め記憶しておき、算出に用いる構成とすればよい。また、狙い位置βc(Xrc,Yrc)が、カメラで撮像した撮像画像をもとに検出される構成であった場合にも、初期状態において算出した狙い位置βi(Xri,Yri)と、初期状態において算出したシート間距離Biとから算出する構成とすればよい。詳しくは、シート間距離Biから後方シートRSeのシート回転軸RAxの位置座標を算出する。この位置座標は、原点(0,0)からX軸の座標をシート間距離Biだけずらすことで算出できる。そして、算出したシート回転軸RAxの位置座標と初期状態において算出した狙い位置βi(Xri,Yri)との距離を算出することで距離Dを算出する。
【0050】
続いて、狙い角度算出部142は、前述した狙い角度を算出する。狙い角度算出部142は、前述した初期状態における狙い角度を算出する。ここで、狙い角度算出部142での初期状態における狙い角度θ3
i(
図4参照)の算出の一例について
図4を用いて説明を行う。狙い角度θ3
iは、初期状態におけるスイングレジスタ350の駆動フィンの傾きとすればよく、初期状態において後述の風向調節部151で調節している値を狙い角度θ3
iとして算出する構成とすればよい。
【0051】
また、狙い角度算出部142は、初期状態における狙い角度を算出した後は、取得部103で逐次取得する値をもとに、狙い角度を逐次補正する。ここで、狙い角度算出部142での狙い角度の補正の一例について
図5を用いて説明を行う。
【0052】
図5の例では、狙い角度算出部142は、狙い角度θ3
cの算出のために、吹出位置α
c,補正角度θ4
cを算出する。吹出位置α
c(Xf
c,Yf
c)は、狙い距離算出部141での狙い距離の補正の一例の説明において述べたようにして算出する。また、狙い角度算出部142は、θ4
c=tan
-1{(Yr
c-Yf
c)/(Xr
c-Xf
c)}の計算式の演算で補正角度θ4
cを算出する。補正角度θ4
cは、狙い角度θ3
cを、Y軸を基準にした値に補正したものである。そして、狙い角度算出部142は、算出した補正角度θ4
cと変化後の前方シートFSeのリクライニング位置θ1
cとから、θ3
c=θ4
c+(90°-θ1
c)の計算式の演算で狙い角度θ3
cを算出する。
【0053】
なお、
図5の例では、前方シートFSe,後方シートRSeのスライド位置が変化しない場合の例を示したが、前方シートFSe,後方シートRSeのスライド位置が変化する場合には、変化後のシート間距離B
cと初期状態におけるシート間距離B
iとから、変化後のシート間距離の変化分を算出し、この変化分に応じてXrcの値を増減させて、θ4
c=tan
-1{(Yr
c-Yf
c)/(Xr
c-Xf
c)}の計算式の演算で補正角度θ4
cを算出すればよい。そして、算出した補正角度θ4
cを用いて、θ3
c=θ4
c+(90°-θ1
c)の計算式の演算で狙い角度θ3
cを算出すればよい。シート間距離B
cとしては、変化後に距離取得部131で取得する値を用いればよい。
【0054】
また、後方シートRSeのリクライニング位置が変化する場合には、変化後の狙い位置βc(Xrc,Yrc)を算出して、θ4c=tan-1{(Yrc-Yfc)/(Xrc-Xfc)}の計算式の演算で補正角度θ4cを算出すればよい。そして、算出した補正角度θ4cを用いて、θ3c=θ4c+(90°-θ1c)の計算式の演算で狙い角度θ3cを算出すればよい。変化後の狙い位置βc(Xrc,Yrc)の算出については、前述した距離Dを用いて、XfcはD・cosθ1cの計算式の演算で算出し、YfcはD・sinθ1cの計算式の演算で算出すればよい。
【0055】
空調調節部105は、シート空調部102で吹き出せる個別空調の空調風を調節する。空調調節部105は、機能ブロックとして風向調節部151、風量調節部152、及び温度調節部153を備える。
【0056】
空調調節部105は、シートHMI20で受け付ける個別空調の設定に従って、個別空調の空調風を調節する。風向調節部151は、シートHMI20で受け付ける個別空調の風向設定に従った風向となるように空調風を調節する。風向調節部151は、スイングレジスタ350の駆動フィンの傾きを調整することで、空調風の風向を調節する。風量調節部152は、シートHMI20で受け付ける個別空調の風量設定に従った風量となるように空調風を調節する。風量調節部152は、第1送風機320,第2送風機330の送風量を調整することで、空調風の風量を調節する。温度調節部153は、シートHMI20で受け付ける個別空調の温度設定に従った温度となるように空調風を調節する。温度調節部153は、エアミックスダンパ340での冷風を吹出用ダクトに流通させる量と温風を吹出用ダクトに流通させる量とを調整することで、空調風の温度を調節する。
【0057】
また、空調調節部105は、前方シートFSe及び後方シートRSeのリクライニング位置,スライド位置といったシート位置の変化に応じて、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように空調風を自動で調節する。
【0058】
例えば、前方シートFSe及び後方シートRSeの少なくともいずれかのリクライニング位置若しくはスライド位置が変化する場合、その変化が大きくなるほど、前述した初期状態における狙い角度θ3i及び狙い距離Ciが対象としていた初期状態における狙い位置βiから変化後の狙い位置βcがずれる。このずれが生じた場合でも初期状態においてユーザの設定した風向設定,風量設定,温度設定のままだと、乗員に対して空調風のあたる箇所がずれたり、乗員の感じる風量,温度が変化したりして、乗員の快適性を低下させてしまう。そこで、空調調節部105は、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように空調風を自動で調節する。以下では、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減する空調風の調節の一例について説明を行う。
【0059】
風向調節部151は、狙い角度算出部142で変化後の狙い角度θ3cが算出された場合には、スイングレジスタ350の駆動フィンの傾きがこの狙い角度θ3cとなるように調整する。この狙い角度θ3cは、変化後の狙い位置βcを対象としているので、シート位置の変化に応じて、シート位置の変化による後方シートに着座する乗員に対する空調風の風向の変化分を補正するように空調風の風向が自動で調節される。
【0060】
風量調節部152は、狙い距離算出部141で変化後の狙い距離Ccが算出された場合には、初期状態における狙い距離Ciから変化後の狙い距離Ccへの変化による狙い距離の増減に応じて、第1送風機320,第2送風機330の送風量を調整し、空調風の風量を調節する。具体例として、狙い距離が増加するのに応じて風量を上げる一方、狙い距離が減少するのに応じて風量を下げる調節を行う。なお、狙い距離の増減の量と調節する風量との関係としては、狙い距離の増減による後方シートに着座する乗員に対する空調風の風量の変化を低減できるように、予め例えば実験,シミュレーション等で求めたものをシートECU10の不揮発性メモリに格納しておいて用いる構成とすればよい。
【0061】
温度調節部153は、狙い距離算出部141で変化後の狙い距離Ccが算出された場合には、初期状態における狙い距離Ciから変化後の狙い距離Ccへの変化による狙い距離の増減に応じて、空調風の温度を調節する。一例として、冷房時の空調風の場合には、狙い距離が増加するのに応じて温度を下げる一方、狙い距離が減少するのに応じて温度を上げる。一方、暖房時の空調風の場合には、狙い距離が増加するのに応じて温度を上げる一方、狙い距離が減少するのに応じて温度を下げる。ここで言うところの冷房と暖房とは、輸送用移動体の室温よりも低い温度の空調風の吹き出しと、この室温よりも高い温度の空調風の吹き出しとを指している。温度調節部153は、狙い距離が増加するのに応じて室温との差が大きくなるように温度を調節する一方、狙い距離が減少するのに応じて室温との差が小さくなるように温度を調節すると言い換えることもできる。
【0062】
なお、狙い距離の増減の量と調節する空調風の温度との関係としては、狙い距離の増減による後方シートに着座する乗員に対する空調風の温度の変化を低減できるように、予め例えば実験,シミュレーション等で求めたものをシートECU10の不揮発性メモリに格納しておいて用いる構成とすればよい。
【0063】
<シートECU10での空調補正関連処理>
続いて、
図6のフローチャートを用いて、シートECU10でのシート位置に応じた個別空調の空調風の調節に関連する処理(以下、空調補正関連処理)の流れの一例について説明を行う。
図6のフローチャートは、個別空調をオンにする設定が行われた場合、又は個別空調の温度設定,風量設定,風向設定といった設定が変更された場合に開始する構成とすればよい。
【0064】
まず、ステップS1では、狙い距離算出部141が初期状態における狙い距離を算出し、狙い角度算出部142が初期状態における狙い角度を算出する。ステップS2では、前方シートFSe及び/又は後方シートRSeのリクライニング位置,スライド位置といったシート位置が変化した場合(S2でYES)には、ステップS3に移る。一方、シート位置が変化していない場合(S2でNO)には、ステップS12に移る。
【0065】
ステップS3では、狙い距離算出部141がシート位置の変化後の狙い距離を算出して狙い距離を補正し、狙い角度算出部142がシート位置の変化後の狙い角度を算出して狙い角度を補正する。ステップS4では、風向調節部151が、スイングレジスタ350の駆動フィンの傾きを、S3で補正した狙い角度に調整することで、補正した狙い角度に応じて空調風の風向を調節する。
【0066】
ステップS5では、S1で算出した初期状態における狙い距離よりもS3で補正したシート位置の変化後の狙い距離が短い場合、つまり、補正により狙い距離が減少した場合(S5でYES)には、ステップS6に移る。一方、S1で算出した初期状態における狙い距離よりもS3で補正したシート位置の変化後の狙い距離が長い場合、つまり、補正により狙い距離が増加した場合(S5でNO)には、ステップS9に移る。
【0067】
ステップS6では、個別空調の空調風による冷房時(S6でYES)には、ステップS7に移る。一方、個別空調の空調風による暖房時(S6でNO)には、ステップS8に移る。ステップS7では、補正により狙い距離が減少するのに応じて、風量調節部152が空調風の風量を下げる調節を行うとともに、温度調節部153が空調風の温度を上げる調節を行い、ステップS12に移る。一方、ステップS8では、補正により狙い距離が減少するのに応じて、風量調節部152が空調風の風量を下げる調節を行うとともに、温度調節部153が空調風の温度を下げる調節を行い、ステップS12に移る。
【0068】
ステップS9では、個別空調の空調風による冷房時(S9でYES)には、ステップS10に移る。一方、個別空調の空調風による暖房時(S9でNO)には、ステップS11に移る。ステップS10では、補正により狙い距離が増加するのに応じて、風量調節部152が空調風の風量を上げる調節を行うとともに、温度調節部153が空調風の温度を下げる調節を行い、ステップS12に移る。一方、ステップS11では、補正により狙い距離が増加するのに応じて、風量調節部152が空調風の風量を上げる調節を行うとともに、温度調節部153が空調風の温度を上げる調節を行い、ステップS12に移る。
【0069】
ステップS12では、空調補正関連処理の終了タイミングであった場合(S12でYES)には、空調補正関連処理を終了する。一方、空調補正関連処理の終了タイミングでなかった場合(S12でNO)には、S2に戻って処理を繰り返す。空調補正関連処理の終了タイミングの一例としては、個別空調をオフにする設定が行われたこと,個別空調の温度設定,風量設定,風向設定といった設定が変更されたこと等がある。
【0070】
<実施形態1のまとめ>
実施形態1の構成によれば、輸送用移動体において前後に並ぶ前方シートFSe及び後方シートRSeのうちの前方シートFSeの後面に設けられる吹出口ADから、後方シートRSe側にシート空調部102で吹き出させる空調風を、前方シートFSe及び後方シートRSeのリクライニング位置及びスライド位置の変化に応じて、空調調節部が自動で調節する。よって、後方シートRSeの乗員に対する空調風を、前方シートFSe及び後方シートRSeのリクライニング位置及びスライド位置の変化に応じて自動で調節できる。また、この調節は、リクライニング位置及びスライド位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように行うため、前方シートFSe及び後方シートRSeのリクライニング位置及びスライド位置が変化した場合であっても、この変化による空調風の変化を低減することが可能になる。その結果、前後に並んで配置されるシートにおいて、前方のシートから後方のシートに向けて空調風を送風することで個別空調を行う場合の、後方のシートの乗員の快適性の低下を抑えることが可能になる。
【0071】
より詳しくは、風向調節部151が、リクライニング位置,スライド位置といったシート位置の変化後の狙い位置を対象とする狙い角度となるようにスイングレジスタ350の駆動フィンの傾きを調整するので、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の風向の変化分を補正するように空調風の風向が自動で調節される。よって、この乗員の感じる風向の変化を低減させる。
【0072】
また、風量調節部152が、初期状態における狙い距離からシート位置の変化後の狙い距離への変化による、吹出口ADから狙い位置までの狙い距離が増加するのに応じて風量を上げる一方、狙い距離が減少するのに応じて風量を下げる調節を行う。よって、シート位置の変化によって狙い距離が増加して後方シートRSeに着座する乗員の感じる風量が下がる場合には風量を上げることでこの乗員の感じる風量の変化を低減させる一方、シート位置の変化によって狙い距離が減少してこの乗員の感じる風量が上がる場合には風量を下げることでこの乗員の感じる風量の変化を低減させる。
【0073】
さらに、温度調節部153が、初期状態における狙い距離からシート位置の変化後の狙い距離への変化による、吹出口ADから狙い位置までの狙い距離が増加するのに応じて室温との差が大きくなるように温度を調節する一方、狙い距離が減少するのに応じて室温との差が小さくなるように温度を調節する。よって、シート位置の変化によって狙い距離が増加して後方シートRSeに着座する乗員の感じる空調風の温度と室温との差が小さくなる場合には室温との差が大きくなるように温度を調節することでこの乗員の感じる空調風の温度の変化を低減させる一方、シート位置の変化によって狙い距離が減少してこの乗員の感じる空調風の温度と室温との差が大きくなる場合には室温との差が小さくなるように温度を調節することでこの乗員の感じる空調風の温度の変化を低減させる。
【0074】
また、実施形態1の構成によれば、シート位置の変化による狙い距離の増減に応じて、風量と空調風の温度との両方を上述したように調節するので、後方シートRSeに着座する乗員の感じる風量と空調風の温度との両方の変化を低減することができ、シート位置の変化によるこの乗員に対する空調風の変化をより小さく抑えることが可能になる。よって、この乗員の快適性の低下をより抑えることができる。さらに、実施形態1の構成によれば、シート位置の変化による狙い距離の増減に応じて、風量と空調風の温度との両方を調節するだけでなく、シート位置の変化による風向の変化分を補正するように風向も調節するので、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化をさらに小さく抑えることが可能になる。よって、この乗員の快適性の低下をさらに抑えることができる。
【0075】
(実施形態2)
実施形態1では、前方シートFSe及び後方シートRSeのリクライニング位置及びスライド位置が変化した場合に、これらの変化に応じて、これらの変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように空調風を自動で調節する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、少なくとも前方シートFSeのリクライニング位置が変化した場合に、前方シートFSeのリクライニング位置に応じて、前方シートFSeのリクライニング位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように空調風を自動で調節する構成としてもよい。この場合であっても、前方シートFSeのリクライニング位置の変化による狙い距離及び狙い角度の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の変化を低減するように空調風を自動で調節するので、前方シートFSeのリクライニング位置の変化によるこの乗員に対する空調風の変化を抑えることが可能になる。その結果、この乗員の快適性を抑えることが可能になる。
【0076】
(実施形態3)
前述の実施形態では、シート位置の変化に応じて、空調風の風向、風量、及び温度を調節する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、空調風の風向、風量、及び温度のうちの一部のみを調節する構成としてもよい。この場合であっても、シート位置の変化による後方シートRSeに着座する乗員に対する空調風の風向、風量、及び温度のうちの少なくとも一部の変化を低減するように空調風を自動で調節することが可能になるので、この乗員に対する空調風の変化を抑えることが可能になる。その結果、この乗員の快適性を抑えることが可能になる。
【0077】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1 シート環境制御装置、2 シートアクチュエータ、10 シートECU(シート空調装置)、20 シートHMI、30 空調ユニット、101 シート位置調節部、102 シート空調部(個別空調部)、103 取得部、104 算出部、105 空調調節部、131 距離取得部、132 前席角度取得部、133 後席角度取得部、141 狙い距離算出部、142 狙い角度算出部、151 風向調節部、152 風量調節部、153 温度調節部