(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20221109BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20221109BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20221109BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20221109BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08L21/00
C08L45/00
B60C1/00 Z
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018037595
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017071271
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 顕哉
(72)【発明者】
【氏名】河地 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】池田 啓二
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/104955(WO,A1)
【文献】特開2013-053296(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021002(WO,A1)
【文献】特開2015-013974(JP,A)
【文献】特開2013-091758(JP,A)
【文献】特開2017-171707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、
軟化点が100~120℃、重量平均分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、
重量平均分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、
前記液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5であり、
前記液状ゴムまたは液状樹脂と、前記テルペン系樹脂との合計含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、20質量部以上であり、
前記芳香族系オレフィンゴムは、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴムまたはスチレンイソプレンブタジエンゴムのうち少なくともいずれかであり、
前記ジエン系オレフィンゴムは、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムまたはブチルゴムのうち少なくともいずれかを含む、ゴム組成物
(ただし、下記式で表され、かつ平均粒子径1.5μm以下、窒素吸着比表面積3~120m
2
/gの無機補強剤を含む場合を除く)
kM
1
・xSiO
y
・zH
2
O
(式中、M
1
はAl、Mg、Ti、Ca及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属、該金属の酸化物又は水酸化物であり、kは1~5の整数、xは0~10の整数、yは2~5の整数、zは0~10の整数である。)。
【請求項2】
72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、
軟化点が100~120℃、重量平均分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、
重量平均分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、
前記液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5であり、
前記液状ゴムまたは液状樹脂と、前記テルペン系樹脂との合計含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、20質量部以上であり、
前記テルペン系樹脂は、ポリテルペン樹脂であり、
前記芳香族系オレフィンゴムは、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴムまたはスチレンイソプレンブタジエンゴムのうち少なくともいずれかであり、
前記ジエン系オレフィンゴムは、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムまたはブチルゴムのうち少なくともいずれかを含む、ゴム組成物。
【請求項3】
72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、
軟化点が100~120℃、重量平均分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、
重量平均分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、
前記液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5であり、
前記液状ゴムまたは液状樹脂と、前記テルペン系樹脂との合計含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、30質量部以上であり、
前記テルペン系樹脂は、ポリテルペン樹脂であり、
前記芳香族系オレフィンゴムは、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴムまたはスチレンイソプレンブタジエンゴムのうち少なくともいずれかであり、
前記ジエン系オレフィンゴムは、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムまたはブチルゴムのうち少なくともいずれかを含む、ゴム組成物。
【請求項4】
前記液状ゴムまたは液状樹脂が、炭素数が5~9の炭化水素を主成分とする液状樹脂である請求項
1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記芳香族系オレフィンゴムがスチレンブタジエンゴムであり、
前記ジエン系オレフィンゴムがブタジエンゴムである請求項
1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物および当該ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに求められる重要な性能として、ウェットグリップ性能や耐摩耗性能がある。また近年、省資源の観点から、タイヤの転がり抵抗改善による低燃費性能の向上が求められている。低燃費性能向上にはヒステリシスロスが小さいこと、ウェットグリップ性能向上にはウェットスキッド抵抗性が高いことが要求される。しかしながら、低ヒステリシスロスと高いウェットスキッド抵抗性とは相反するものであり、低燃費性およびウェットグリップ性能をバランス良く改善することは困難である。
【0003】
耐摩耗性能の改善にはゴム組成物にカーボンブラックを添加する手法が知られているが、低燃費性能とウェットグリップ性能とのバランスが悪化する傾向がある。また、耐摩耗性に有利なブタジエンゴムはヒステリシスロスが小さく低燃費性能は良好であるが、ウェットグリップ性能には不利となる。
【0004】
そこで、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および低燃費性能をバランス良く改善する手法が求められている。特許文献1には、特定の液状樹脂およびシリカを配合することで、低燃費性、耐摩耗性およびウェットグリップ性能を改善したタイヤ用ゴム組成物が開示されているが改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および低燃費性能がバランスよく優れたゴム組成物、および当該ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、軟化点が100~120℃、分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、前記液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5であるゴム組成物に関する。
【0008】
前記液状ゴムまたは液状樹脂が、炭素数が5~9の炭化水素を主成分とする液状ゴムであることが好ましい。
【0009】
前記芳香族系オレフィンゴムがスチレンブタジエンゴムであり、前記ジエン系オレフィンゴムがブタジエンゴムであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は前記ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0011】
72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、軟化点が100~120℃、分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5である本発明のゴム組成物、ならびに当該ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤは、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および低燃費性能がバランスよく優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態は、72~95質量%の芳香族系オレフィンゴムおよび5~28質量%のジエン系オレフィンゴムを含むゴム成分100質量部に対し、軟化点が100~120℃、分子量が500~10000のテルペン系樹脂を5~30質量部、分子量が100~3500の液状ゴムまたは液状樹脂を2~10質量部含有し、液状ゴムまたは液状樹脂の含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムまたは液状樹脂の含有量)が、0.5~5のゴム組成物である。なお、本明細書の以下の説明において、上記「液状ゴムまたは液状樹脂」は、単に「液状ゴム」ともいう。
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物は、芳香族系オレフィンゴムと相溶性の高い所定のテルペン系樹脂を配合し、ゴム組成物中にテルペン系樹脂を微分散させることで、ウェットグリップ領域のような高周波数帯の刺激応答下では高いロス性能を発揮し、一方、タイヤ転動時のような低周波数帯の刺激応答下ではヒステリシスロスが抑えられていると考えられる。また、テルペン系樹脂がゴム組成物中に微分散することで、耐摩耗性能の悪化が抑制されていると考えられる。さらに、テルペン系樹脂と液状ゴムとを同時にかつバランスよく配合することで、上記の樹脂分散性を制御し、低燃費性や耐摩耗性の低下を抑え、高いウェットグリップ性能が発揮されるため、高い次元で耐摩耗性能、ウェットグリップ性能および低燃費性能がバランス良く向上していると考えられる。
【0014】
芳香族系オレフィンゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより発揮できるという理由からSBRが好ましい。
【0015】
SBRとしては特に限定されず、未変性の溶液重合SBR(S-SBR)、未変性の乳化重合SBR(E-SBR)、およびこれらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)などが挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性された変性SBR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するものなど)などが挙げられる。
【0016】
ゴム成分中の芳香族系オレフィンゴムの含有量は、72質量%以上であり、75質量%以上が好ましく、78質量%以上がより好ましい。芳香族系オレフィンゴムの含有量が72質量%未満の場合は、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。また、芳香族系オレフィンゴムの含有量は、95質量%以下であり、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。芳香族系オレフィンゴムの含有量が95質量%を超える場合は、耐摩耗性能および低燃費性能が低下する傾向がある。
【0017】
ジエン系オレフィンゴムとしては、天然ゴム(NR)およびイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。なかでも、耐摩耗性に優れるという理由からBRが好ましい。
【0018】
前記BRとしては、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。
【0019】
前記ハイシスBRとは、シス1,4結合含有率が90質量%以上のブタジエンゴムである。このようなハイシスBRとして、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150Lなどが挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0020】
前記SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617などが挙げられる。
【0021】
前記変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)などが挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)などが挙げられる。
【0022】
ゴム成分中のジエン系オレフィンゴムの含有量は、5質量%以上であり、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。ジエン系オレフィンゴムの含有量が5質量%未満の場合は、耐摩耗性能が低下する傾向がある。また、ジエン系オレフィンゴムの含有量は、28質量%以下であり、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましい。ジエン系オレフィンゴムの含有量が28質量%を超える場合は、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。
【0023】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペン原料から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂などのテルペン系樹脂(水素添加されていないテルペン系樹脂)、ならびにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。ここで、芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエンなどが挙げられ、また、テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
【0024】
テルペン系樹脂の軟化点は100℃以上であり、105℃以上が好ましい。100℃未満の場合は、充分なウェットグリップ性能が得られない傾向がある。また、テルペン系樹脂の軟化点は120℃以下であり、115℃以下が好ましい。120℃を超える場合は、低燃費性が悪化する傾向、混練り工程で樹脂の溶け残りが発生して分散不良を起こし、耐摩耗性能が悪化する傾向がある。
【0025】
テルペン系樹脂の分子量は500以上であり、600以上が好ましい。500未満の場合は、耐摩耗性能が低下する傾向がある。また、テルペン系樹脂の分子量は10000以下であり、8000以下が好ましい。10000を超える場合は、混練り工程での加工性が悪化する傾向がある。なお、本明細書におけるテルペン系樹脂の分子量は重量平均分子量(Mw)であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計)を用い、標準ポリスチレンにより換算して測定される値である。
【0026】
テルペン系樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は5質量部以上であり、7質量部以上が好ましく、9質量部以上がより好ましい。5質量部未満の場合は、充分なウェットグリップ性能が得られない傾向がある。また、テルペン系樹脂の含有量は30質量部以下であり、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。30質量部を超える場合は、低燃費性が悪化する傾向、混練り工程で樹脂の溶け残りが発生して分散不良を起こし、耐摩耗性能が悪化する傾向がある。
【0027】
液状ゴムとしては、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)などが挙げられる。液状樹脂としては、例えば、液状テルペン樹脂や液状C5-C9樹脂などが挙げられる。これらの液状ゴム(液状樹脂を含む)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低燃費性能とグリップ性能の両立の理由から、液状SBRもしくは液状C5-C9樹脂が好ましい。具体的な液状樹脂および液状ゴムとしては、CRAY VALLEY社製のライコンシリーズなどが好適に用いられる。
【0028】
液状ゴムの分子量は100以上であり、200以上が好ましい。100未満の場合は、耐摩耗性能が低下する傾向がある。また、液状ゴムの分子量は3500以下であり、2500以下が好ましい。3500を超える場合は、混練り工程での加工性が悪化する傾向がある。なお、本明細書における液状ゴムの分子量は重量平均分子量(Mw)であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計)を用い、標準ポリスチレンにより換算して測定される値である。
【0029】
液状ゴムのゴム成分100質量部に対する含有量は2質量部以上であり、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。2質量部未満の場合は、充分なウェットグリップ性能が得られない傾向がある。また、液状ゴムの含有量は10質量部以下であり、9質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。10質量部を超える場合は、耐摩耗性能が悪化する傾向がある。
【0030】
液状ゴムの含有量に対するテルペン系樹脂の含有量(テルペン系樹脂の含有量/液状ゴムの含有量)は、0.5以上であり、0.7以上がより好ましい。液状ゴムの含有量に対するテルペン系樹脂の含有量が0.5未満の場合は、グリップ性能が十分に得られない傾向がある。また、液状ゴムの含有量に対するテルペン系樹脂の含有量は、5以下であり、4以下がより好ましい。液状ゴムの含有量に対するテルペン系樹脂の含有量が5を超える場合は、低燃費性能や耐摩耗性能が悪化する傾向がある。
【0031】
本実施形態に係るゴム組成物は、前記のゴム成分、テルペン系樹脂および液状ゴム以外にも、従来からタイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなどの補強用充填剤、カップリング剤、酸化亜鉛、前記のテルペン系樹脂および液状ゴム以外の軟化剤、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0032】
補強用充填剤としては、従来、タイヤ用ゴム組成物において慣用されるもののなかから任意に選択して用いることができるが、主としてカーボンブラックやシリカが好ましい。
【0033】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、低温特性と摩耗性能をバランスよく向上させることができるという理由から、ファーネスブラックが好ましい。
【0034】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAとは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0035】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。5質量部未満の場合は、十分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。200質量部を超える場合は、加工性が悪化する傾向、発熱しやすくなる傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0036】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0037】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、ウェットグリップ性能の観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAとは、ASTM D3037-93に準じて測定された値である。
【0038】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、シリカの含有量は、混練時の分散性向上の観点、圧延時の加熱や圧延後の保管中にシリカが再凝集して加工性が低下することを抑制するという観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0039】
シリカを含有する場合はシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、エボニックデグッサ社製のSi75、Si266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)、同社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低発熱性において優れるという点から好ましい。
【0040】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が2質量部未満の場合は、シリカ分散性の改善効果が十分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が25質量部を超える場合は、コストに見合った効果が得られない傾向がある。
【0041】
テルペン系樹脂および液状ゴム以外の軟化剤としては、従来、ゴム工業において一般的なものであれば特に限定されず、例えば、テルペン系樹脂および液状ゴム以外の液状ポリマーや、アロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイルなどの鉱物油を含むオイルなどが挙げられ、適宜選択することができる。
【0042】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能の悪化を防ぐという観点から、100質量部以下が好ましくて、80質量部以下がより好ましい。また、加工性の観点からは20質量部以上が好ましい。
【0043】
前記ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの劣化を抑制するという観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、ワックスのタイヤ表面へのブルームによるタイヤの白色化を防ぐという観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0044】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの劣化を抑制するという観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤のタイヤ表面へのブルームによるタイヤの変色を防ぐという観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0045】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの加硫速度を上げ、タイヤの生産性を上げるという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性の悪化を防ぐという観点からは、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0046】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの加硫速度を上げ、タイヤの生産性を上げるという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性の悪化を防ぐという観点からは、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0047】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましい。また、ブルーミングによる、グリップ性能および耐摩耗性の低下を抑制するという理由から、3質量部以下が好ましい。
【0048】
前記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後のゴムの物性において、低燃費性に優れるという理由からスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等が挙げられる。
【0049】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。0.1質量部未満の場合は、ゴム組成物が十分に加硫されず、必要とするゴム特性が得られないおそれがある。加硫促進剤の配合量は、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。5質量部を超える場合は、ゴム焼けの原因となるおそれがある。
【0050】
本実施形態に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0051】
本発明の他の実施形態は、前記ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を有するタイヤである。前記ゴム組成物により構成されるタイヤ部材としては、トレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード等の各タイヤ部材が挙げられる。なかでも、ウェットグリップ性能、耐摩耗性能および低燃費性能に優れることからトレッドが好ましい。
【0052】
本発明の他の実施形態に係るタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、前記の各成分を混練して得られた未加硫ゴム組成物をトレッドなどのタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工した部材をタイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例】
【0053】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR:Trinseo社製のSLR6430(S-SBR)
BR:宇部興産(株)製のBR150L(ハイシスBR)
テルペン系樹脂1:アリゾナケミカル社製のSYLVATRAXX4150(軟化点118℃、重量平均分子量:2500、水添なし)
テルペン系樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のTO125(軟化点125℃、重量平均分子量:800、水添なし)
液状樹脂1:CRAY VALLEY社製のRICON340(液状C5-C9樹脂、重量平均分子量:2400)
液状ゴム2:CRAY VALLEY社製のRICON100(液状SBR、重量平均分子量:4500)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(チッ素吸着比表面積(N2SA):125m2/g)
シリカ:テグッサ社製のウルトラシルVN3(チッ素吸着比表面積(N2SA):175m2/g)
シランカップリング剤:テグッサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
オイル:出光興産(株)製のミネラルオイルPW-380
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックスN
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’-ジフェニルグアニジン)
【0055】
実施例および比較例
表1および2に示す配合処方にしたがい、神戸製鋼所(株)製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤を除く配合成分を充填率が58%になるように充填し、回転数80rpmで140℃に到達するまで3分間混練りした。ついで、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を加えた後、オープンロールを用いて、80℃で5分間混練りし、各実施例および各比較例に係る配合の未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、各試験用ゴム組成物を得た。
【0056】
得られた未加硫ゴム組成物および試験用ゴム組成物について下記の評価を行った。評価結果を表1および2に示す。
【0057】
ムーニー粘度指数
各未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300-1の「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法に従い、130℃の温度条件にて、ムーニー粘度(ML1+4)を測定した。結果は比較例1のムーニー粘度指数を100とし、下記計算式による指数で示す。ムーニー粘度指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のML1+4)/(各配合のML1+4)×100
【0058】
低燃費性指数
(株)上島製作所製スペクトロメーターを用いて、各試験用ゴム組成物の動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度50℃でtanδを測定した。そして、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れる。なお、80以上を性能目標値とする。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0059】
ウェットグリップ性能指数
(株)上島製作所製フラットベルト式摩擦試験機(FR5010型)を用いて、各試験用ゴム組成物のウェットグリップ性能を評価した。各試験用ゴム組成物からなる幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片をサンプルとして用い、速度20km/時間、荷重4kgf、路面温度20℃の条件で、路面に対するサンプルのスリップ率を0~70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の最大値を読みとった。そして、下記計算式により測定結果を指数表示した。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れる。なお、120以上を性能目標値とする。
(ウェットグリップ性能指数)=(各配合の摩擦係数の最大値)/(比較例1の摩擦係数の最大値)×100
【0060】
耐摩耗性指数
ランボーン型摩耗試験機を用いて、各試験用ゴム組成物の室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件における摩耗量を測定した。摩耗量の逆数を、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほど耐摩耗性が高い。なお、80以上を性能目標値とする。
(耐摩耗性指数)=(各配合の摩耗量の逆数)/(比較例1の摩耗量の逆数)×100
【0061】
【0062】
【0063】
表1および2の結果より、本発明のゴム組成物がウェットグリップ性能、耐摩耗性能および低燃費性能がバランスよく優れることがわかる。