(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電動ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20221109BHJP
B60T 13/13 20060101ALI20221109BHJP
B60T 13/14 20060101ALI20221109BHJP
B60T 17/06 20060101ALI20221109BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20221109BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20221109BHJP
B60T 8/34 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60T13/74 D
B60T13/13
B60T13/14
B60T17/06
B60T17/18
B60T8/17 B
B60T8/34
(21)【出願番号】P 2018037607
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 祐二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰明
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-216869(JP,A)
【文献】特開平05-065060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0061933(US,A1)
【文献】米国特許第05975250(US,A)
【文献】特開平05-060157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪に対して一対一の関係で設けられた複数の電動ブレーキ装置と、
ブレーキの操作に応じた駆動信号を前記電動ブレーキ装置のそれぞれに出力する制御装置と、を有し、
複数の前記電動ブレーキ装置は、それぞれ、
モータと、
内部に作動液を有し、前記車輪を制動する液圧を発生する第1マスタシリンダと、
前記モータの回転駆動を直線運動に変換して前記第1マスタシリンダに伝達するボールねじ装置と、を有し、
前記ボールねじ装置は、ねじ軸と、前記ねじ軸が挿通される貫通孔が設けられたナットと、を有し、
前記ねじ軸又は前記ナットのいずれか一方が前記ねじ軸の軸方向に移動して、前記第1マスタシリンダのピストンを移動させ、
前記モータ及び前記ボールねじ装置が内部に組み込まれるハウジングを有し、
前記車輪のブレーキディスクを挟むキャリパ及び前記第1マスタシリンダは、前記ハウジングと一体に設けられ、
前記キャリパは、
前記ハウジングと一体に形成された第1本体部と、
前記ハウジングと一体に形成され、前記車輪のブレーキディスクを挟んで前記第1本体部と対向する第2本体部と、
前記第1本体部の前記車輪のブレーキディスクと対向する面に形成された凹部に配置されたキャリパのピストンと、を有し、
前記第1本体部の前記凹部と前記第1マスタシリンダとは、前記ハウジングに形成された孔部を介して連通する
電動ブレーキシステム。
【請求項2】
複数の前記電動ブレーキ装置は、それぞれ、前記作動液を前記第1マスタシリンダに供給するリザーバを有する、
請求項1に記載の電動ブレーキシステム。
【請求項3】
前記ブレーキの操作に応じた液圧を発生する第2マスタシリンダと、
前記第2マスタシリンダと複数の前記車輪との間に設けられた切替弁と、を有し、
前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置に異常が発生した場合に、前記切替弁の動作により前記第2マスタシリンダの液圧を複数の前記車輪のキャリパに伝達させる、
請求項1又は請求項2に記載の電動ブレーキシステム。
【請求項4】
前記キャリパの前記第1本体部は、前記第1マスタシリンダの底部と兼用され、
前記第1マスタシリンダのピストンと前記キャリパのピストンとは、前記第1マスタシリンダの底部を挟んで前記第1マスタシリンダの軸方向に配置され、
前記第1本体部の前記凹部と前記第1マスタシリンダとは、前記第1マスタシリンダの底部に形成された前記孔部を介して連通する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキシステム。
【請求項5】
前記キャリパの前記第1本体部及び前記第2本体部は、
前記第1マスタシリンダの筒部の径方向である筒部径方向において、前記第1マスタシリンダの筒部
から前記筒部径方向の外側に延出し
、かつ、前記第1マスタシリンダの筒部に対して前記筒部径方向において前記車輪のブレーキディスクと同じ側に設けられ、
前記第1マスタシリンダのピストンと前記キャリパのピストンとは、前記第1マスタシリンダの筒部を挟んで配置され、
前記第1本体部の前記凹部と前記第1マスタシリンダとは、前記第1マスタシリンダの筒部に形成された前記孔部を介して連通する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車では、ブレーキ・バイ・ワイヤ方式の電動ブレーキ装置が採用されている。特許文献1には、電動ブレーキ装置を複数設けた電動ブレーキシステムが記載されている。特許文献1の電動ブレーキ装置は、ブレーキの踏み込み操作に基づいて電動モータを動作させる。そして、電動モータの回転運動は、直動機構により直線運動に変換される。直動機構の直動部に摩擦部材が設けられ、直動機構の動作により摩擦部材がブレーキディスクに接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電動ブレーキ装置は、直動機構の直動部の直線運動が摩擦部材に直接伝達される。このため、摩擦部材やブレーキディスクが摩耗した場合、摩擦部材とブレーキディスクとの間隔が大きくなり、制動力が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、複数の電動ブレーキ装置のそれぞれにおいて、良好に制動力を発生させることが可能な電動ブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る電動ブレーキシステムは、複数の車輪に対して一対一の関係で設けられた複数の電動ブレーキ装置と、ブレーキの操作に応じた駆動信号を前記電動ブレーキ装置のそれぞれに出力する制御装置と、を有し、複数の前記電動ブレーキ装置は、それぞれ、モータと、内部に作動液を有し、前記車輪を制動する液圧を発生する第1マスタシリンダと、前記モータの回転駆動を直線運動に変換して前記第1マスタシリンダに伝達するボールねじ装置と、を有する。
【0007】
これにより、モータの回転駆動は、ボールねじ装置により直線運動に変換される。そして、ボールねじ装置により第1マスタシリンダが押圧される。第1マスタシリンダの作動液が押圧されることで、車輪に対する制動力が発生する。このように、ボールねじ装置の直線運動は、第1マスタシリンダを介して車輪に伝達される。このため、電動ブレーキシステムは、摩擦部材やブレーキディスクが摩耗した場合であっても、制動力の変動を抑制できる。また、複数の車輪のそれぞれにモータ、ボールねじ装置及び第1マスタシリンダが設けられているため、電動ブレーキシステムは、車輪ごとに独立して良好に制動力を発生させることができる。
【0008】
電動ブレーキシステムの望ましい態様として、複数の前記電動ブレーキ装置は、それぞれ、前記作動液を前記第1マスタシリンダに供給するリザーバを有する。これによれば、車輪ごとに第1マスタシリンダ及びリザーバが設けられているため、作動液を供給するための配管を短くすることができる。このため、電動ブレーキシステムは、配管を車両の内部に引き回す必要がなくなり、車両の内部空間を有効に利用できる。
【0009】
電動ブレーキシステムの望ましい態様として、前記ボールねじ装置は、ねじ軸と、前記ねじ軸が挿通される貫通孔が設けられたナットと、を有し、前記ねじ軸又は前記ナットのいずれか一方が前記ねじ軸の軸方向に移動して、前記第1マスタシリンダのピストンを移動させる。これによれば、ねじ軸又はナットの移動によりピストンが押圧されて、第1マスタシリンダの作動液に液圧が発生する。このため、摩擦部材やブレーキディスクが摩耗した場合であっても、車輪に作用する制動力の変動を抑制できる。
【0010】
電動ブレーキシステムの望ましい態様として、前記ブレーキの操作に応じた液圧を発生する第2マスタシリンダと、前記第2マスタシリンダと複数の前記車輪との間に設けられた切替弁と、を有し、前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置に異常が発生した場合に、前記切替弁の動作により前記第2マスタシリンダの液圧を複数の前記車輪のキャリパに伝達させる。これによれば、制御装置は、通常動作時には、電動ブレーキ装置を動作させ、異常発生時には、第2マスタシリンダによる油圧式の制動を行うことができる。
【0011】
電動ブレーキシステムの望ましい態様として、前記モータ及び前記ボールねじ装置が内部に組み込まれるハウジングを有し、前記第1マスタシリンダは、前記ハウジングと一体に設けられて、前記車輪のブレーキディスクを挟むキャリパと対向して配置される。これによれば、複数の電動ブレーキ装置は、それぞれ車輪の近傍に配置できる。このため、電動ブレーキシステムは、車両の内部空間を有効に利用できる。
【0012】
電動ブレーキシステムの望ましい態様として、前記モータ及び前記ボールねじ装置が内部に組み込まれるハウジングを有し、前記車輪のブレーキディスクを挟むキャリパ及び前記第1マスタシリンダは、前記ハウジングと一体に設けられる。これによれば、複数の電動ブレーキ装置は、それぞれ車輪の近傍に配置できる。このため、電動ブレーキシステムは、車両の内部空間を有効に利用できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の電動ブレーキ装置のそれぞれにおいて、良好に制動力を発生させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電動ブレーキシステムが有する電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの動作の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第1変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第3変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第4変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。
【
図9】
図9は、第5変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。
【
図10】
図10は、第6変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
図1は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの構成例を示すブロック図である。
図2は、実施形態に係る電動ブレーキシステムが有する電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、電動ブレーキシステム1は、複数の電動ブレーキ装置2FL、2FR、2RL、2RRと、制御装置(ECU:Engine Control Unit)96と、第1センサ81と、第2センサ82とを有する。電動ブレーキシステム1は、さらに、第2マスタシリンダ92と、第2リザーバ93と、切替弁94と、ストロークシミュレータ95とを有する。
【0018】
複数の電動ブレーキ装置2FL、2FR、2RL、2RRは、それぞれ、車両の車輪100FL、100FR、100RL、100RRに対して一対一の関係で設けられている。車輪100FLと車輪100FRは前輪であり、車輪100RLと車輪100RRは後輪である。
【0019】
なお、以下の説明において、電動ブレーキ装置2FL、2FR、2RL、2RRを区別して説明する必要がない場合には、単に電動ブレーキ装置2と表す。車輪100FL、100FR、100RL、100RRも、区別して説明する必要がない場合には、車輪100と表す。
【0020】
第2センサ82は、ブレーキペダル91に設けられており、ブレーキペダル91の操作量を検出する。例えば、第2センサ82は、ブレーキペダル91の踏み込み量を検出するストロークセンサまたは角度センサである。第2センサ82は、ブレーキペダル91の操作量に応じた検出信号Sbを制御装置96に出力する。
【0021】
制御装置96は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を含む制御回路である。制御装置96は、第2センサ82からの検出信号Sbに基づいて、制動指令が発生したと判断する。制御装置96は、検出信号Sbに基づいて、モータ3を駆動させる駆動信号Sdを算出する。制御装置96は、配線L1を介して、各電動ブレーキ装置2に駆動信号Sdを出力する。これにより、制御装置96は、電気信号である検出信号Sbに基づいて電動ブレーキ装置2の制動制御を行う。つまり、電動ブレーキシステム1は、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤにより構成される。
【0022】
図1及び
図2に示すように、電動ブレーキ装置2は、それぞれ、モータ3、減速機4、ボールねじ装置5、第1マスタシリンダ6及び第1リザーバ7を有する。なお、
図2では、1つの電動ブレーキ装置2を示している。複数の電動ブレーキ装置2は、同じ構成としてもよい。あるいは、複数の電動ブレーキ装置2は、車輪100FL、100FR、100RL、100RRの近傍のスペースに応じて、異なる構成としてもよい。
【0023】
図2に示すように、モータ3、減速機4及びボールねじ装置5は、ハウジング120の内部空間120aに組み込まれる。ハウジング120は、例えば、第1部分120bと、第2部分120cとが、ねじなどの固定部材(図示しない)によって固定される。
【0024】
モータ3は、第1部分120bの下部に固定される。モータ3は、例えばサーボモータである。モータ3は、制御装置96からの駆動信号Sd(
図1参照)に基づいて、出力軸31を回転駆動する。モータ3の回転駆動は減速機4に伝達される。
【0025】
減速機4は、第1部分120bの内部空間120aに配置される。減速機4は、駆動歯車41と従動歯車42とを有する。駆動歯車41は、出力軸31と連結されている。これにより、駆動歯車41は、モータ3の回転駆動により、回転軸Ax2を中心に回転する。従動歯車42は、駆動歯車41と噛み合っており、回転軸Ax1を中心に回転する。従動歯車42は、駆動歯車41よりも大きい径を有しており、ボールねじ装置5のナット52と連結される。これにより、従動歯車42は、駆動歯車41の回転を減速してナット52に伝達できる。
【0026】
なお、減速機4は、
図2に示す構成に限定されない。例えば、減速機4は、アイドラ歯車などを含み3つ以上の歯車を有していてもよく、遊星歯車機構を有していてもよい。
【0027】
ボールねじ装置5は、減速機4を介して伝達されたモータ3の回転駆動を、直線運動に変換して第1マスタシリンダ6に伝達する。具体的には、ボールねじ装置5は、ねじ軸51と、ナット52とを有する。ナット52は、ねじ軸51が挿通される貫通孔53が設けられている。ねじ軸51の外周面と、貫通孔53の内周面には、それぞれねじ溝が設けられている。ねじ軸51のねじ溝と、貫通孔53のねじ溝との間にボール(図示しない)が配置される。
【0028】
ナット52は、軸受55及び軸受56により、ハウジング120の内壁121に回転可能に支持される。軸受55及び軸受56は、それぞれ、内輪、外輪及び転動体を有する、転がり軸受である。軸受55及び軸受56の内輪は、ナット52の外周面に固定される。軸受55及び軸受56の外輪は、ハウジング120の内壁121に固定される。軸受55及び軸受56の転動体は、内輪と外輪との間に配置される。軸受55は、第1部分120bの内部に配置される。また、軸受56は、第2部分120cの内部に配置される。軸方向(回転軸Ax1に沿った方向)において、軸受55と軸受56との間に従動歯車42が配置される。
【0029】
ナット52は、従動歯車42と連結されており、回転軸Ax1を中心に、従動歯車42とともに回転する。ねじ軸51の一方の端部は、第1マスタシリンダ6のピストン62と連結されている。これにより、ねじ軸51の回転が規制され、ねじ軸51は、ナット52の回転により、軸方向に移動する。
【0030】
第1マスタシリンダ6は、シリンダ部61と、ピストン62とを有する。シリンダ部61は、筒部61aと底部61bとを有する。シリンダ部61は、ハウジング120の第1部分120bと一体に設けられる。シリンダ部61は、第1部分120bとは異なる部材で形成され、第1部分120bと連結されてもよいし、同一の素材から第1部分120bとシリンダ部61を一体に成形してもよい。シリンダ部61は、軸方向から見たときに、ねじ軸51と重なる位置に設けられる。
【0031】
シリンダ部61とピストン62とで囲まれた空間に作動液63が設けられる。第1リザーバ7は、配管PCを介して第1マスタシリンダ6と接続される。第1リザーバ7は、作動液63を貯留している。筒部61aには、作動液供給通路71が設けられており、配管PCは作動液供給通路71と連通する。これにより、第1リザーバ7は、配管PC及び作動液供給通路71を介して、作動液63を第1マスタシリンダ6に供給できる。
【0032】
シリンダ部61の底部61bは、キャリパ101の第1本体部101aと対向する。底部61bには、孔部61dが設けられている。孔部61dは、シリンダ部61の内部と外部とを貫通して設けられる。シリンダ部61は、配管PBを介してキャリパ101と接続されている。配管PBは、底部61bの孔部61dと連通し、第1本体部101aの孔部101eと連通する。
【0033】
ボールねじ装置5の動作によりピストン62が押圧されると、第1マスタシリンダ6の内部の容積が変化する。これにより、第1マスタシリンダ6の作動液63の液圧が発生する。作動液63の液圧は、ブレーキ制動力Hd(
図1参照)として、孔部61d、配管PB及び孔部101eを介してキャリパ101に伝達される。
【0034】
キャリパ101は、第1本体部101aと、第2本体部101bと、連結部101cとを有する。第1本体部101aと第2本体部101bとは、ブレーキディスク110の一部を間に挟んで対向する。連結部101cは、ブレーキディスク110の径方向の外側に配置され、第1本体部101aと第2本体部101bとを連結する。
【0035】
第1本体部101aのブレーキディスク110と対向する面には、凹部101dが形成されている。凹部101dの内部にはピストン102が設けられる。凹部101dの内部は、孔部101e、配管PB及び孔部61dを介して、第1マスタシリンダ6と連通しており、作動液63が充填される。
【0036】
ピストン102には、ディスクパッド111が設けられる。また、第1本体部101aのブレーキディスク110と対向する面には、ディスクパッド112が設けられる。ブレーキディスク110は、車輪100(
図1参照)とともに回転する円板状の部材である。ディスクパッド111及びディスクパッド112は、摩擦部材である。作動液63の液圧により、ピストン102がブレーキディスク110に向かって移動すると、ブレーキディスク110は、ディスクパッド111とディスクパッド112とで挟まれる。これにより、ディスクパッド111及びディスクパッド112と、ブレーキディスク110との間に摩擦力が発生し、車輪100の回転が制動される。
【0037】
このような構成により、モータ3の回転駆動は、ボールねじ装置5により直線運動に変換される。そして、ボールねじ装置5により第1マスタシリンダ6のピストン62が押圧される。第1マスタシリンダ6の作動液63が押圧されることで、第1マスタシリンダ6の作動液63の液圧が発生する。作動液63の液圧は、ブレーキ制動力Hdとして車輪100に伝達される。このため、電動ブレーキシステム1は、ディスクパッド111及びディスクパッド112やブレーキディスク110が摩耗した場合であっても、ブレーキ制動力Hdの変動を抑制できる。
【0038】
また、
図1に示すように、複数の車輪100のそれぞれにモータ3、ボールねじ装置5及び第1マスタシリンダ6が設けられる。複数の第1マスタシリンダ6は、それぞれ配管PBを介して各車輪100のキャリパ101と連結される。制御装置96は、第2センサ82からの検出信号Sbに基づいて、電動ブレーキ装置2ごとに個別に駆動信号Sdを算出できる。つまり、制御装置96は、電動ブレーキ装置2ごとに異なる駆動信号Sdを出力することが可能である。これにより、電動ブレーキシステム1は、車輪100ごとに独立して良好にブレーキ制動力Hdを発生させることができる。
【0039】
また、各電動ブレーキ装置2には、第1センサ81が設けられている。第1センサ81は、例えばモータ3の回転や第1マスタシリンダ6の液圧を検出する。制御装置96は、配線L2を介して、第1センサ81からの検出信号Saを取得する。制御装置96は、検出信号Saに基づいて、それぞれの電動ブレーキ装置2の状態に応じて、電動ブレーキ装置2ごとに個別に駆動信号Sdを算出できる。また、制御装置96は、車輪100の回転速度や、ハンドル(図示しない)の操舵に関する情報を取得してもよい。制御装置96は、これらの各種情報に基づいて、電動ブレーキ装置2ごとに個別に駆動信号Sdを算出できる。
【0040】
また、複数の電動ブレーキ装置2は、複数の車輪100に対して一対一の関係で設けられる。すなわち、車輪100ごとに第1マスタシリンダ6及び第1リザーバ7が設けられている。このため、1つの第1マスタシリンダ6が2つ以上の車輪100に接続されている構成に比べて、作動液63を供給するための配管PB、PCを短くすることができる。このため、電動ブレーキシステム1は、配管PB、PCを車両の内部に引き回す必要がなくなり、車両の内部空間を有効に利用できる。
【0041】
図1に示すように、第2マスタシリンダ92は、ブレーキペダル91と接続されている。ブレーキペダル91の踏み込み量に応じた機械的な変動量Haが第2マスタシリンダ92に伝達される。これにより、第2マスタシリンダ92の作動液に液圧が発生する。第2リザーバ93は、第2マスタシリンダ92の作動液を貯留する。第2マスタシリンダ92及び第2リザーバ93は、電動ブレーキ装置2の通常動作時において、ブレーキペダル91の踏み込み量に応じた反力を発生させるために設けられている。また、第2マスタシリンダ92及び第2リザーバ93は、電動ブレーキ装置2の異常発生時において、車輪100FL、100FRへのブレーキ制動力を発生させるために設けられている。
【0042】
切替弁94は、第1切替弁94aと第2切替弁94bとを有する。第1切替弁94aは、第2マスタシリンダ92とストロークシミュレータ95との間に設けられる。第2切替弁94bは、第2マスタシリンダ92と、車輪100FL、100FRとの間に設けられる。第1切替弁94a及び第2切替弁94bは、制御装置96からの制御信号Scに基づいて、開閉動作を行う。
【0043】
電動ブレーキ装置2の通常動作時には、第1切替弁94aが開き、第2切替弁94bが閉じる。これにより、第2マスタシリンダ92は、ストロークシミュレータ95と接続される。また、第2マスタシリンダ92は、車輪100FL、100FRのキャリパ101と遮断され、ブレーキ制動力を発生しない。
【0044】
ストロークシミュレータ95は、ブレーキペダル91の変動量Haに応じた反力を発生させる装置である。ストロークシミュレータ95は、例えば、ピストン、シリンダ及びばね部材を有する。第2マスタシリンダ92からの液圧Hbがストロークシミュレータ95に加えられると、ピストン及びばね部材により、液圧Hbに応じた反力がブレーキペダル91に伝達される。これにより、電動ブレーキシステム1は、電動ブレーキ装置2の通常動作時において、従来の第2マスタシリンダ92による油圧ブレーキと同様の操作反力をブレーキペダル91に与えることができる。
【0045】
電動ブレーキ装置2の異常発生時には、第1切替弁94aが閉じて、第2切替弁94bが開く。これにより、第2マスタシリンダ92は、ストロークシミュレータ95と遮断される。また、第2マスタシリンダ92は、配管PAを介して、車輪100FL、100FRのキャリパ101と接続される。第2マスタシリンダ92からの液圧Hcがキャリパ101に伝達されて、ブレーキ制動力が発生する。これにより、電動ブレーキシステム1は、電動ブレーキ装置2の異常発生時にも、車輪100FL、100FRの制動を行うことができる。
【0046】
次に、
図1から
図4を参照して、電動ブレーキシステム1の動作例について説明する。
図3は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの動作の一例を示すブロック図である。
図4は、実施形態に係る電動ブレーキシステムの動作の一例を示すフローチャートである。なお、
図1は電動ブレーキ装置2の通常動作時を示し、
図3は電動ブレーキ装置2の異常発生時を示している。
図1及び
図3では、駆動信号等の電気信号が送信されない各種配線を点線で示し、また、液圧が伝達されない配管を点線で示している。
【0047】
図4に示すように、電動ブレーキ装置2の通常動作時には、制御装置96は第2切替弁94bを閉じる(ステップST11)。これにより、第2マスタシリンダ92の液圧Hcはキャリパ101に伝達されない。つまり、第2マスタシリンダ92によるブレーキ制動力が発生しない。これにより、電動ブレーキシステム1は、電動ブレーキ装置2によるブレーキ制動力Hdと、第2マスタシリンダ92によるブレーキ制動力が、同時に車輪100FL、100FRに作用することを抑制できる。このため、電動ブレーキシステム1は、良好に車輪100の制動を行うことができる。
【0048】
次に、第2センサ82は、ブレーキペダル91の踏み込み量を検出する(ステップST12)。第2センサ82は、ブレーキペダル91の踏み込み量に応じた検出信号Sbを制御装置96に出力する。制御装置96は、検出信号Sbに基づいて、モータ3の回転量を算出する(ステップST13)。制御装置96は、モータ3の回転量に応じた駆動信号Sdを生成し、駆動信号Sdを各電動ブレーキ装置2に出力する(ステップST14)。駆動信号Sdに基づいて、各電動ブレーキ装置2のモータ3が回転駆動する。上述したように、モータ3、減速機4、ボールねじ装置5及び第1マスタシリンダ6の動作により、第1マスタシリンダ6の液圧がブレーキ制動力Hdとして、各キャリパ101に伝達される。
【0049】
制御装置96は、第1センサ81からの検出信号Saに基づいて、各電動ブレーキ装置2の動作に異常が発生しているかどうかを検出する(ステップST15)。電動ブレーキ装置2の動作に異常が発生していない場合(ステップST15、NO)、制御装置96は、電動ブレーキ装置2による制動を継続して実行する(ステップST19)。
【0050】
電動ブレーキ装置2の動作に異常が発生した場合(ステップST15、YES)、制御装置96は、電動ブレーキ装置2による制動を停止する(ステップST16)。
図3に示すように、制御装置96は、全ての電動ブレーキ装置2による制動を停止する。これにより、第1マスタシリンダ6からのブレーキ制動力Hdが各キャリパ101に伝達されない。制御装置96は、第1センサ81からの検出信号Saに基づいて電動ブレーキ装置2が停止したことを検出する。
【0051】
制御装置96は第2切替弁94bを開く(ステップST17)。これにより、電動ブレーキシステム1は、油圧ブレーキによる制動を実行する(ステップST18)。具体的には、第2マスタシリンダ92からの液圧Hcが車輪100FL、100FRのキャリパ101に伝達される。これにより、車輪100FL、100FRにブレーキ制動力が発生する。
図3に示すように、車輪100FL、100FRは、共通の第2マスタシリンダ92から、配管PAを介して液圧Hcが伝達される。以上のような動作により、電動ブレーキシステム1は、電動ブレーキ装置2の異常発生時にも、車輪100FL、100FRの制動を行うことができる。
【0052】
(第1変形例)
図5は、第1変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。なお、以下の説明においては、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0053】
図5に示すように、電動ブレーキ装置2Aは、軸方向において、第1マスタシリンダ6の一部がキャリパ101と重なる位置に配置される。具体的には、第1マスタシリンダ6の筒部61aは、キャリパ101の連結部101cと対向して配置される。筒部61aと連結部101cとは、配管PBを介して接続される。筒部61aには、孔部61dが設けられている。連結部101cには、孔部101fが設けられている。配管PBは、筒部61aの孔部61dと連通し、連結部101cの孔部101fと連通する。これにより、凹部101dの内部は、孔部101f、配管PB及び孔部61dを介して、第1マスタシリンダ6と連通する。
【0054】
本変形例では、
図2に示す構成に比べて、キャリパ101と電動ブレーキ装置2Aとを含めた全体の軸方向の長さを小さくできる。電動ブレーキシステム1を搭載した車両は、車輪100の間のスペースを有効に活用できる。
【0055】
(第2変形例)
図6は、第2変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
図6に示すように、本変形例の電動ブレーキ装置2Bは、キャリパ101が、第1マスタシリンダ6及びハウジング120と一体に設けられている。言い換えると、ハウジング120の一部が、第1マスタシリンダ6及びキャリパ101として形成される。
【0056】
図6に示すように、第1マスタシリンダ6の筒部61aは、ハウジング120の第1部分120bと連結される。キャリパ101の連結部101cは、筒部61aの上部と連結され、軸方向に延出する。底部61bは、連結部101cと筒部61aとの間に設けられ、第1マスタシリンダ6とキャリパ101とを区分けしている。底部61bは、キャリパ101の第2本体部101bと軸方向に対向して配置される。底部61bと第2本体部101bとの間にブレーキディスク110の一部が配置される。すなわち、底部61bは、キャリパ101の第1本体部101a(
図2参照)の機能も兼用する。
【0057】
底部61bには、突出部101gが設けられる。突出部101gは、筒状の部材であり、底部61bの外縁から第2本体部101bに向かって突出する。突出部101gと底部61bとで形成される凹部101dには、ピストン102が設けられる。筒部61aの内部空間と、凹部101dの内部空間とは、底部61bに設けられた孔部61dにより連通される。
【0058】
第1マスタシリンダ6の作動液63に発生した液圧は、孔部61dを介してピストン102に伝達される。これにより、ブレーキディスク110がディスクパッド111、112に挟まれることで、車輪100が制動される。
【0059】
本変形例の電動ブレーキ装置2Bは、キャリパ101と接続するための配管PB(
図2参照)が不要である。このため、電動ブレーキ装置2Bは、キャリパ101を含めた車輪100回りの構成を小型化できる。
【0060】
(第3変形例)
図7は、第3変形例に係る電動ブレーキ装置の概略断面構成を示す断面図である。
図7に示すように、本変形例の電動ブレーキ装置2Cにおいて、キャリパ101は、第1マスタシリンダ6及びハウジング120Aと一体に設けられている。キャリパ101は、第1部分120Abの下部と一体に設けられ、かつ、筒部61aの下部と一体に設けられる。
【0061】
キャリパ101の第2本体部101bは、筒部61aの下部に設けられ、筒部61aに対して径方向の外側に延出する。第2本体部101bは、軸方向において、第1部分120Abの下部と対向する。なお、ハウジング120Aの第2部分120Ac及び内部空間120Aaの構成は、
図2と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0062】
第1部分120Abの下部には、第2本体部101bに向かって突出する突出部120Adが設けられている。突出部120Adと、第1部分120Abの側面と、筒部61aとで、凹部101dが形成される。凹部101dにはピストン102が設けられている。凹部101dとピストン102とで囲まれた空間は、筒部61aに設けられた孔部61dを介して、シリンダ部61の内部空間と連通する。本変形例では、第1部分120Abの下部は、キャリパ101の第1本体部101a(
図2参照)の機能も兼用する。また、筒部61aは、キャリパ101の連結部101c(
図2参照)の機能も兼用する。
【0063】
このような構成であっても、第1マスタシリンダ6の作動液63に発生した液圧は、孔部61dを介してピストン102に伝達される。これにより、ブレーキディスク110がディスクパッド111、112に挟まれることで、車輪100が制動される。
【0064】
本変形例の電動ブレーキ装置2Cは、キャリパ101と接続するための配管が不要である。また、キャリパ101は、ハウジング120Aと一体に設けられ、キャリパ101の軸方向の位置は、第1マスタシリンダ6の軸方向の位置と重なる。キャリパ101の径方向の位置は、ハウジング120Aの下部の径方向の位置と重なる。このため、電動ブレーキ装置2Cは、キャリパ101を含めた車輪100回りの構成を小型化できる。
【0065】
なお、
図1及び
図5から
図7に示す電動ブレーキ装置2、2A、2B、2Cの構成、配置はあくまで一例であり、車輪100の近傍の空間に応じて、電動ブレーキ装置2、2A、2B、2Cの配置は適宜変更できる。例えば
図1に示す車輪100FL、FRに設けられた電動ブレーキ装置2FL、2FRと、車輪100RL、RRに設けられた電動ブレーキ装置2RL、2RRとは、キャリパ101に対する配置が異なっていてもよい。
【0066】
(第4変形例)
図8は、第4変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。本変形例のボールねじ装置5Aは、ねじ軸51Aと、ナット52Aとを有する。ボールねじ装置5Aは、ねじ軸51Aが回転し、ナット52Aが軸方向に移動する。具体的には、ねじ軸51Aは、軸受55A及び軸受56Aにより、ハウジング120の内壁121(
図2参照)等の固定部に回転可能に支持される。ねじ軸51Aは、従動歯車42と連結されており、回転軸Ax1を中心に、例えば矢印A2に示す方向に回転できる。
【0067】
ナット52Aは、図示しない連結部材を介して、ピストン62(
図2参照)と連結される。これにより、ナット52Aの回転が規制され、ナット52Aは、ねじ軸51Aの回転により、軸方向(矢印A1に示す方向)に移動する。このような構成であっても、ボールねじ装置5Aは、モータ3の回転駆動を直線運動に変換してピストン62に伝達できる。
【0068】
(第5変形例)
図9は、第5変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。本変形例のボールねじ装置5Bは、ねじ軸51Bが回転するとともに、軸方向に移動する。具体的には、ねじ軸51Bは、従動歯車42Aと連結されており、回転軸Ax1を中心に、例えば矢印A2に示す方向に回転できる。ナット52Bは、ハウジング120の内壁121(
図2参照)等の固定部に固定される。ナット52Bは、軸方向の位置が固定され、かつ回転しないように固定される。これにより、ねじ軸51Bは、ねじ軸51Bの回転に伴って、軸方向に移動する。ねじ軸51Bの直線運動は、図示しない連結部材を介して、ピストン62(
図2参照)に伝達される。
【0069】
本変形例において、減速機4Aの駆動歯車41Aの外周には、軸方向に沿ったスプライン溝41Aaが設けられている。従動歯車42Aは、スプライン溝41Aaと噛み合っており、スプライン溝41Aaに沿って軸方向に移動可能になっている。このため、従動歯車42Aは、モータ3の回転駆動をねじ軸51Bに伝達するとともに、ねじ軸51Bの軸方向の移動に伴って移動できる。
【0070】
(第6変形例)
図10は、第6変形例に係るボールねじ装置を説明するための説明図である。本変形例のボールねじ装置5Cは、ナット52Cが回転するとともに、軸方向に移動する。具体的には、ねじ軸51Cは、ハウジング120の内壁121(
図2参照)等の固定部に固定される。ねじ軸51Cは、軸方向の位置が固定され、かつ回転しないように固定される。ナット52Cは、従動歯車42Bと連結されており、回転軸Ax1を中心に、例えば矢印A2に示す方向に回転できる。これにより、ナット52Cは、ナット52Cの回転に伴って、軸方向に移動する。ナット52Cの直線運動は、図示しない連結部材を介して、ピストン62(
図2参照)と連結される。
【0071】
減速機4Bの駆動歯車41Bの外周には、軸方向に沿ったスプライン溝41Baが設けられている。従動歯車42Bは、スプライン溝41Baと噛み合っており、スプライン溝41Baに沿って軸方向に移動可能である。このため、従動歯車42Bは、モータ3の回転駆動をナット52Cに伝達するとともに、ナット52Cの軸方向の移動に伴って移動できる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態の電動ブレーキシステム1は、複数の電動ブレーキ装置2と、制御装置96と、を有する。複数の電動ブレーキ装置2は、複数の車輪100に対して一対一の関係で設けられる。制御装置96はブレーキ(ブレーキペダル91)の操作に応じた駆動信号Sdを電動ブレーキ装置2のそれぞれに出力する。複数の電動ブレーキ装置2は、それぞれ、モータ3と、第1マスタシリンダ6と、ボールねじ装置5とを有する。第1マスタシリンダ6は、内部に作動液63を有し、車輪100を制動する液圧を発生する。ボールねじ装置5は、モータ3の回転駆動を直線運動に変換して第1マスタシリンダ6に伝達する。
【0073】
これによれば、モータ3の回転駆動は、ボールねじ装置5により直線運動に変換される。そして、ボールねじ装置5により第1マスタシリンダ6のピストン62が押圧される。第1マスタシリンダ6の作動液63が押圧されることで、車輪100に対するブレーキ制動力Hdが発生する。このように、ボールねじ装置5の直線運動は、第1マスタシリンダ6を介して車輪100に伝達される。このため、電動ブレーキシステム1は、摩擦部材やブレーキディスク110が摩耗した場合であっても、ブレーキ制動力Hdの変動を抑制できる。また、複数の車輪100のそれぞれにモータ3、ボールねじ装置5及び第1マスタシリンダ6が設けられているため、電動ブレーキシステム1は、車輪100ごとに独立して良好にブレーキ制動力Hdを発生させることができる。
【0074】
本実施形態の電動ブレーキシステム1において、複数の電動ブレーキ装置2は、それぞれ、作動液63を第1マスタシリンダ6に供給するリザーバ(第1リザーバ7)を有する。これによれば、車輪100ごとに第1マスタシリンダ6及び第1リザーバ7が設けられているため、作動液63を供給するための配管PBや配管PCを短くすることができる。このため、電動ブレーキシステム1は、配管PBや配管PCを車両の内部に引き回す必要がなくなり、車両の内部空間を有効に利用できる。
【0075】
本実施形態の電動ブレーキシステム1において、ボールねじ装置5は、ねじ軸51と、ねじ軸51が挿通される貫通孔53が設けられたナット52と、を有する。ねじ軸51又はナット52のいずれか一方がねじ軸51の軸方向に移動して、第1マスタシリンダ6のピストン62を移動させる。これによれば、ねじ軸51又はナット52の移動によりピストン62が押圧されて、第1マスタシリンダ6の作動液63に液圧が発生する。このように、ボールねじ装置5の直線運動は、作動液63に液圧に変換されてキャリパ101に伝達される。このため、摩擦部材(ディスクパッド111、112)やブレーキディスク110が摩耗した場合であっても、車輪100に作用するブレーキ制動力Hdの変動を抑制できる。
【0076】
本実施形態の電動ブレーキシステム1は、第2マスタシリンダ92と、切替弁94と、を有する。第2マスタシリンダ92は、ブレーキ(ブレーキペダル91)の操作に応じた液圧を発生する。切替弁94は、第2マスタシリンダ92と複数の車輪100との間に設けられる。制御装置96は、電動ブレーキ装置2に異常が発生した場合に、切替弁94の動作により第2マスタシリンダ92の液圧を複数の車輪100のキャリパ101に伝達させる。これによれば、制御装置96は、通常動作時には、電動ブレーキ装置2を動作させ、異常発生時には、第2マスタシリンダ92による油圧式の制動を行うことができる。
【0077】
本実施形態の電動ブレーキシステム1において、モータ3及びボールねじ装置5が内部に組み込まれるハウジング120を有し、第1マスタシリンダ6は、ハウジング120と一体に設けられて、車輪100のブレーキディスク110を挟むキャリパ101と対向して配置される。これによれば、複数の電動ブレーキ装置2は、それぞれ車輪100の近傍に配置できる。このため、電動ブレーキシステム1は、車両の内部空間を有効に利用できる。
【0078】
本実施形態の電動ブレーキシステム1において、モータ3及びボールねじ装置5が内部に組み込まれるハウジング120を有し、車輪100のブレーキディスク110を挟むキャリパ101及び第1マスタシリンダ6は、ハウジング120と一体に設けられる。これによれば、複数の電動ブレーキ装置2は、それぞれ車輪100の近傍に配置できる。このため、電動ブレーキシステム1は、車両の内部空間を有効に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 電動ブレーキシステム
2、2A、2B、2C、2FL、2FR、2RL、2RR 電動ブレーキ装置
3 モータ
4、4A、4B 減速機
5、5A、5B、5C ボールねじ装置
6 第1マスタシリンダ
7 第1リザーバ
31 出力軸
41、41A、41B 駆動歯車
42、42A、42B 従動歯車
51、51A、51B、51C ねじ軸
52、52A、52B、52C ナット
53 貫通孔
61 シリンダ部
62 ピストン
63 作動液
81 第1センサ
82 第2センサ
91 ブレーキペダル
92 第2マスタシリンダ
93 第2リザーバ
94 切替弁
95 ストロークシミュレータ
96 制御装置
100、100FL、100FR、100RL、100RR 車輪
101 キャリパ
102 ピストン
110 ブレーキディスク
111、112 ディスクパッド
120 ハウジング
121 内壁