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特許7172082モータコアの焼鈍装置及びモータコアの焼鈍方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】モータコアの焼鈍装置及びモータコアの焼鈍方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20221109BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20221109BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20221109BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H02K15/02 F
C21D9/00 S
C21D1/26 S
C21D1/42 J
C21D1/42 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018056602
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019170086
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】平 将人
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-040102(JP,A)
【文献】特開2017-110243(JP,A)
【文献】特開2003-342637(JP,A)
【文献】特開2011-127159(JP,A)
【文献】特開2003-319618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
C21D 9/00
C21D 1/26
C21D 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち抜き後の電磁鋼板を積層して形成されるモータコアを1個または複数個積層して焼鈍する装置であって、
前記1個または複数個積層したモータコア(以下、複数個の場合も含め単に被焼鈍モータコアという。)の外方に当該被焼鈍モータコアと同心円状に配置される環状の外側誘導コイル、及び、前記被焼鈍モータコアの内方に当該被焼鈍モータコアと同心円状に配置される環状の内側誘導コイルのうちのいずれか一方または双方を有し、さらに、
前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源と、
前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルにより加熱された前記被焼鈍モータコアのスロット形成面に冷却媒体を噴き付け、当該被焼鈍モータコアの加熱された部分を所定温度まで冷却する冷却装置と、
前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルと前記被焼鈍モータコアとの相対位置及び前記冷却装置と前記被焼鈍モータコアとの相対位置を変化させる移動機構と、を有することを特徴とする、モータコアの焼鈍装置。
【請求項2】
前記冷却装置は、前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルと、前記被焼鈍モータコアの軸方向に沿って並べられて配置されることを特徴とする、請求項1に記載のモータコアの焼鈍装置。
【請求項3】
前記交流電源により印加される交流電流の周波数は、10kHz以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のモータコアの焼鈍装置。
【請求項4】
前記被焼鈍モータコアを内部に収容する焼鈍雰囲気調整用の隔壁と、
前記隔壁の外方または内方を覆う断熱材と、をさらに有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータコアの焼鈍装置。
【請求項5】
前記被焼鈍モータコアと前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルとを相対的に回転させる回転駆動機構を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のモータコアの焼鈍装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のモータコアの焼鈍装置を用いて、前記被焼鈍モータコアの外周面及び/または内周面に導入されているひずみを除去する、モータコアの焼鈍方法であって、
前記ひずみの導入深さと下記式(1)における浸透深さδとを対応づけ、下記式(1)から求まる交流電源の周波数fの交流電流により、前記モータコアを誘導加熱し、前記モータコアの内部の温度を500℃以下に抑えながら前記モータコアのスロット形成面を750~850℃になるまで昇温させることを特徴とする、モータコアの焼鈍方法。
δ=503×(ρ/(μ・f))1/2 …(1)
ここで、
δ:誘導加熱を生じさせる渦電流の浸透深さ
ρ:前記モータコアの体積抵抗率
μ:前記モータコアの透磁率
f:前記交流電源により印加される交流電流の周波数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板を素材とするモータコアの打ち抜きやかしめ、溶接等によるひずみを除去するための焼鈍を行う焼鈍装置及び焼鈍方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータコア(motor core)には、モータ回転軸(出力軸、出力シャフト)回りに固定されて回転する回転子(rotor;ロータ)コアと、回転子コアと同軸でモータケースに固定され、モータ使用時には回転子の外周と自身の内周との電磁力の相互作用で回転子に回転力を生じさせる固定子(stator;ステータ)コアとがあるが、両者を総称してモータコアという場合もある。
無方向性電磁鋼板から所定形状に打ち抜かれた素材を多数枚積層し、かしめやビス止め、溶接等により固着して製作されるモータコア(鉄心)は、当該鋼板の打ち抜きの際や、かしめやビス止め、溶接等による固着の際に生じるひずみにより鉄損が悪化することから、通常、このひずみを除去するために、連続式またはバッチ式の焼鈍炉により所定の時間加熱される。焼鈍炉においては、例えば電熱ヒータなどからの輻射熱及び雰囲気ガスによる伝導熱により加熱される(特許文献1の背景技術を参照)。
【0003】
また近年、電熱ヒータなど輻射加熱とは異なる焼鈍方法として、例えば特許文献1~5等に開示されるような、誘導加熱を用いた方法が知られている。なお、特許文献1~4に開示の方法では、モータコアの全体の焼鈍だけでなく、例えば特許文献1の「固定子コアの内周部のスロット(slot;鉄心溝)周辺の部分焼鈍」においても、当該モータコアの外側に設けられた誘導コイルにより加熱している。また、特許文献5に開示の方法では、モータコアの内周部にスロットが設けられている場合において、モータコアの外側に設けられた誘導コイルとモータコアの内側に設けられた誘導コイルとの両方を用いて当該被焼鈍モータコアの内周部及び外周部を加熱している。
【0004】
さらにまた、特許文献4には、誘導加熱用コイルが装備された加熱炉内にてモータコアを800℃以上に加熱後、加熱炉内に当該加熱炉の一端から雰囲気ガスを送り込んで他端から排出しモータコアを冷却することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-272843号公報
【文献】特開2003-342637号公報
【文献】特開昭58-104125号公報
【文献】特開昭58-222761号公報
【文献】特開2017-110243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、高い生産性が求められるハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)等の駆動モータや発電機のモータコアの生産においては、生産性の向上のために焼鈍時間を短縮することが求められている。しかしながら、電熱ヒータなどを用いた輻射加熱では、加熱時間の短縮には限界がある。また、輻射加熱による短時間焼鈍では、モータコアの高さ方向や、打ち抜き時のひずみが特に大きなティース(teeth;歯)部の奥と手前とで、温度分布が一様にならないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1~4に開示の誘導加熱によるモータコアの焼鈍装置は、焼鈍すべきひずみが主に内周側に形成された固定子コアの焼鈍の場合でも、モータコアの外側に誘導コイルを配設していること等により、加熱に時間を要するため、焼鈍の短時間化には限界があった。
さらに、特許文献5に開示の誘導加熱によるモータコアの焼鈍装置は、誘導加熱後のモータコアの冷却を、例えばモータコアの焼鈍装置の外部で行う必要があること等から、焼鈍の短時間化の面で改善の余地がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、モータコアを構成する電磁鋼板の打ち抜きの際や、かしめやビス止め、溶接等による固着の際に生じたひずみを短時間で除去するモータコアの焼鈍装置及び焼鈍方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するための本発明は、打ち抜き後の電磁鋼板を積層して形成されるモータコアを1個または複数個積層して焼鈍する装置であって、前記1個または複数個積層したモータコア(以下、複数個の場合も含め単に被焼鈍モータコアという。)の外方に当該被焼鈍モータコアと同心円状に配置される環状の外側誘導コイル、及び、前記被焼鈍モータコアの内方に当該被焼鈍モータコアと同心円状に配置される環状の内側誘導コイルのうちのいずれか一方または双方を有し、さらに、前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源と、前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルにより加熱された前記被焼鈍モータコアのスロット形成面に冷却媒体を噴き付け当該被焼鈍モータコアの加熱された部分を所定温度まで冷却する冷却装置と、前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルと前記被焼鈍モータコアとの相対位置及び前記冷却装置と前記被焼鈍モータコアとの相対位置を変化させる移動機構と、を有することを特徴としている。

【0010】
本発明によれば、積層され、かしめやビス止め、溶接等により固着されてモータコア状となった打ち抜き後の電磁鋼板を、その用途に応じて、誘導加熱により加熱し、モータコア用電磁鋼板の打ち抜きの際や、かしめやビス止め、溶接等による固着の際に生じたひずみを除去するための焼鈍を、短時間で行うことができる。また、冷却装置を備えるため、冷却時間を含む焼鈍に要する時間を短縮することができる。なお、本発明が対象とするモータコアは、固定子コア(ステータ)、回転子コア(ロータ)のいずれも含むものである。
【0011】
前記冷却装置は、前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルと、前記被焼鈍モータコアの軸方向に沿って並べられて配置されていてもよい。
【0012】
前記交流電源により印加される交流電流の周波数は、10kHz以上であってもよい。
【0013】
前記被焼鈍モータコアを内部に収容する焼鈍雰囲気調整用の隔壁と、前記隔壁の外方または内方を覆う断熱材と、をさらに有していてもよい。
【0014】
前記被焼鈍モータコアと前記外側誘導コイル及び/または前記内側誘導コイルとを相対的に回転させる回転駆動機構を有していてもよい。
【0015】
別な観点による本発明は、前記のいずれかのモータコアの焼鈍装置を用いて、前記被焼鈍モータコアの外周面及び/または内周面に導入されているひずみを除去する、モータコアの焼鈍方法であって、前記ひずみの導入深さと下記式(1)における浸透深さδとを対応づけ、下記式(1)から求まる交流電源の周波数fの交流電流により、前記モータコアを誘導加熱し、前記モータコアの内部の温度を500℃以下に抑えながら前記モータコアのスロット形成面を750~850℃になるまで昇温させることを特徴とする、モータコアの焼鈍方法。
δ=503×(ρ/(μ・f))1/2 …(1)
ここで、
δ:誘導加熱を生じさせる渦電流の浸透深さ
ρ:前記モータコアの体積抵抗率
μ:前記モータコアの透磁率
f:前記交流電源により印加される交流電流の周波数
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モータコアを構成する電磁鋼板の打ち抜きの際や、かしめやビス止め、溶接等による固着の際に生じたひずみを除去するためのモータコアの焼鈍を、短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
図2】内側誘導コイルに対し被焼鈍モータコアを配置した状態を示す斜視図である。
図3】モータコアを貫通孔方向から見た上面図で、周方向の一部を切り出した部分上面図である。
図4】本発明の第1実施形態にかかる焼鈍装置を用いた焼鈍方法の一例を示す説明図である。
図5】本発明の第1実施形態にかかる焼鈍装置により焼鈍された被焼鈍モータコアの部位による温度履歴の差異を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
図7】本発明の第2実施形態にかかる焼鈍装置が備える回転駆動部の説明図である。
図8】本発明の第3実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
図9】本発明の第4実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
図10】交流電流の周波数と発熱密度及び表面からの深さの関係を示すグラフである。
図11】被焼鈍モータコアの部位による昇温態様の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。図2は、焼鈍装置の内側誘導コイルに対し被焼鈍モータコア(焼鈍対象のモータコアを1個または複数個軸方向にならべたモータコアの集合体をいう場合と、被焼鈍モータコアが占める領域であり、装置の説明の便宜上、その領域にあたかも被焼鈍モータコアが存在するものとして扱う場合とがある。)を配置した状態を示す概略斜視図である。図3は一般的なモータコア(固定子コア)の一部を部分上面図で模式的に示す図である。なお、モータコアには、モータ回転軸側の回転子コアとその外側の固定子コアがあり、以下の説明では主に固定子コアの焼鈍を例にして説明するが、本発明は回転子コアの焼鈍にも適用できることから両者を区別する必要はなく、両者を総称するモータコアの用語を用いている。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
図1の焼鈍装置1は、無方向性電磁鋼板から所定形状に打ち抜かれた素材を複数枚積層し、かしめやビス止め、溶接等により固着して製作された被焼鈍モータコアCの焼鈍を行い、打ち抜きの際や、かしめやビス止め、溶接等による固着の際に生じたひずみ(以下、「打ち抜き等によるひずみ」という場合がある。)のうち主に被焼鈍モータコアCの内周面に生じたひずみを除去するものである。この焼鈍装置1は、焼鈍用誘導コイルとしての内側誘導コイル10と、冷却装置11と、隔壁12と、断熱材13を有している。
【0020】
隔壁12は、被焼鈍モータコアCを内部に収容する焼鈍雰囲気調整のためのものであり、例えば下面が開口した略円筒形状の蓋部12aと、上面が開口した有底の容器部12bを有しており、例えば水封により隔壁12の内部を気密に維持することができる。蓋部12aには、隔壁12の内部に例えば窒素などの雰囲気ガスを供給するガス供給管12cが接続されている。
【0021】
容器部12bには、内側誘導コイル10と被焼鈍モータコアCとの相対位置及び冷却装置11と被焼鈍モータコアCとの相対位置を変化させる移動機構を変化させる移動機構の一例として、後述のコイル載置台14及びコア載置台15が設けられている。これら載置台14、15の詳細については後述するが、これら載置台14、15のうち、被焼鈍モータコアCが載置されるコア載置台15は被焼鈍モータコアCの軸方向(図1のZ方向。内側誘導コイル10、冷却装置11の軸方向も一致する。)に沿って被焼鈍モータコアCを移動可能に構成されている。
【0022】
断熱材13は、隔壁12の外方を覆うものである。この断熱材13は、配設すれば被焼鈍モータコアCの焼鈍装置1の熱効率を高めることができ好ましい。なお、断熱材13の材質や形態等は特に限定されるものではなく、例えば公知の珪酸カルシウムやアルミナ等の無機系材料等の素材を綿状、布状、板状、発泡体状等の様々な形態に加工したものを用いることができる。また、図1では、断熱材13の設置位置として隔壁12の外方を囲うように配設されている例を示しているが、これに限らず、被焼鈍モータコアC及び隔壁12等と干渉しない位置であれば、隔壁12の内方を覆うように配設されていてもよい。
【0023】
内側誘導コイル10は、例えば図2に示すように、被焼鈍モータコアCの内方に、当該被焼鈍モータコアCと同心円状に配置された環状の部材である。ところで、ここでの被焼鈍モータコアCは、固定子コアであり円筒状に形成され、図3に示すように、該被焼鈍モータコアCの内周部に等間隔で形成されたスロットCc(slot;鉄心溝)を有している。したがって、内側誘導コイル10は、被焼鈍モータコアCの外周側と内周側のうち、スロットCcが形成された側と対向する内周側に設けられている、と説明することができる。
【0024】
なお、被焼鈍モータコアCは、スロットCc間に設けられた隔壁であるティース(teeth;歯)部Caと、ティース部Caの外周端を連結するバックヨーク(back
yoke;後ヨーク、後継鉄)部Cbとを有する。また、スロットCcは、モータコアCにおける軸方向(図2のZ方向。電磁鋼板の積層方向に一致。)の全長にわたって形成されている。
【0025】
内側誘導コイル10の説明に戻る。
内側誘導コイル10は、図1及び図2に示すように、被焼鈍モータコアCより軸方向の厚さが大きく形成されている。
また、内側誘導コイル10には、交流電流を印加する交流電源20が接続されている。さらに、内側誘導コイル10は、交流電流を印加することで、被焼鈍モータコアCの軸方向(図2のZ方向)に沿って磁束が発生するように構成されている。
交流電源20は、例えば周波数可変に構成されており、本実施の形態では、例えば周波数10kHzの交流電流を印加するように設定されている。なお、電源周波数可変の作用効果については後述する。
【0026】
上述のように、内側誘導コイル10及び交流電源20により被焼鈍モータコアCの軸方向(図2のZ方向)に沿って磁束が発生するため、被焼鈍モータコアCに誘導電流が生じ、該誘導電流により被焼鈍モータコアCを加熱することができる。特に、本実施の形態によれば、上述の磁束を打ち消すべく、被焼鈍モータコアCの内周部の外表面の全域に、すなわち、固定子コアのティース部Caの表面(バックヨーク部Cbの内周面を含む)の全域に、誘導電流が流れるため、被焼鈍モータコアの内周部における、誘導電流の浸透深さ(後述の式(1)、図10等、参照)に応じた表層域を、誘導加熱することができる。したがって、モータコアの鉄損の要因となる、被焼鈍モータコアCの内周部の表層に局在しているひずみ、より具体的には、固定子コアのティース部Caの表層及びバックヨーク部Cbの内周面の表層に局在しているひずみを、所定の温度で焼鈍することができる。
【0027】
冷却装置11は、内側誘導コイル10により加熱された被焼鈍モータコアCの内周面すなわちスロット形成面に冷却媒体を噴き付け、当該被焼鈍モータコアCを冷却するものであり、隔壁12内に設けられている。本例では、冷却装置11は、被焼鈍モータコアCの軸方向に沿って内側誘導コイル10と並べられており、具体的には内側誘導コイル10より鉛直方向下方に位置する。
なお、冷却装置11の冷却媒体は、被焼鈍モータコアCに錆が生じるのを防ぐため、窒素ガス等の不活性ガスや水素ガス等の還元性ガスが用いられる。
【0028】
また、本実施形態の焼鈍装置1では、隔壁12内を低酸素雰囲気とするために、ガス供給管12cを介して、前述のように窒素ガス等の雰囲気ガスが当該隔壁12内に供給されている。そして、図示は省略するが、隔壁12の蓋部12aには、隔壁12内の圧力が所定の範囲内に収まるように排気管が接続されている。
【0029】
続いて、内側誘導コイル10と被焼鈍モータコアCとの相対位置及び冷却装置11と被焼鈍モータコアCとの相対位置を変化させる移動機構の一例であるコイル載置台14及びコア載置台15について説明する。
【0030】
コイル載置台14は、内側誘導コイル10が載置される載置板14aと、該載置板14aを支持する脚部14bとを有する。脚部14bには、載置板14aの下方に冷却装置11が固定される。
コア載置台15は、被焼鈍モータコアCが載置される載置板15aと、該載置板15aを支持する脚部15bとを有する。なお、コイル載置台14の脚部14bの被焼鈍モータコアCの軸方向の長さは固定であるのに対し、コア載置台15の脚部15bは、例えば伸縮自在に構成され、その被焼鈍モータコアCの軸方向の長さは可変である。
【0031】
次に、焼鈍装置1を用いた焼鈍方法について、図4を用いて説明する。図4(A)は、加熱中の隔壁12内の様子を示し、図4(B)は冷却中の隔壁12内の様子を示す。
被焼鈍モータコアCの焼鈍の際は、まず、例えば、図4(A)に示すように、内側誘導コイル10における被焼鈍モータコアCの軸方向の中央部分に被焼鈍モータコアCが対向するように、コア載置台15の載置板15aを移動させる。そして、上述のように対向した状態で、交流電源20から内側誘導コイル10への電力供給を開始し、被焼鈍モータコアCの加熱を開始する。
【0032】
加熱の際に交流電源20が内側誘導コイル10に印加する交流電流の大きさ及び印加時間は、被焼鈍モータコアCの焼鈍すべきひずみが生じている部分(以下、ひずみ導入部)すなわち内周部の表層の最高到達温度が750~850℃となり、より具体的には、上記内周部の表層の最高到達温度が750~850℃で被焼鈍モータコアCの内部の最高到達温度が500℃以下となるものが選択される。
【0033】
なお、前述のように、交流電源20の周波数が可変であるため、該周波数を調整することで、表皮効果により、被焼鈍モータコアCの誘導加熱を生じさせる渦電流すなわち誘導電流の浸透深さを調整できる。したがって、例えば被焼鈍モータコアCのひずみの態様に応じて交流電源20の周波数を調整して、最適な領域を誘導加熱することができる。そこで、本実施形態にかかる焼鈍方法において、交流電源20の周波数fは、焼鈍により除去すべきひずみの導入深さと下記式(1)の渦電流の浸透深さδとを対応付け、例えば同等の深さとなるような下記式(1)から求まる周波数が選択される。
δ=503×(ρ/(μ・f))1/2 …(1)
ここで、
δ:誘導加熱を生じさせる渦電流の浸透深さ
ρ:被焼鈍モータコアCの体積抵抗率
μ:被焼鈍モータコアCの透磁率
f:交流電源20により印加される交流電流の周波数、である。
【0034】
上述のような加熱の終了後、交流電源20からの電力供給を停止する。
【0035】
その後、冷却装置11からの冷却媒体の噴出、具体的には、冷却装置11から外側へ向けた冷却媒体の噴出を開始させる。それと共に、図4(B)に示すように、冷却装置11における被焼鈍モータコアCの軸方向の中央部分に被焼鈍モータコアCが対向するように、コア載置台15の脚部15bを縮めさせて、被焼鈍モータコアCが載置された載置板15aを上記軸方向に沿って移動させる。これにより、内側誘導コイル10で加熱された被焼鈍モータコアCの加熱部が冷却装置11により冷却されるようにする。そして、被焼鈍モータコアCが所定温度まで冷却されたところで、冷却装置11からの冷却媒体の噴出を停止し、被焼鈍モータコアCの焼鈍が完了する。
【0036】
本実施形態では、被焼鈍モータコアCのスロット形成部分すなわち内周部のみを焼鈍すればよい場合において、上述のように被焼鈍モータコアCの内方に配置される内側誘導コイル10により焼鈍する。そのため、特許文献1~3のように被焼鈍モータコアの外側に設けられた誘導コイルにより当該被焼鈍モータコアの内周部のひずみを焼鈍する場合に比べて、少ない電力で且つ短時間で焼鈍を行うことができる。なぜならば、特許文献1~3の誘導加熱装置では、誘導コイルを被焼鈍モータコアの外側に設けているため、内周部のひずみ導入部を加熱するには誘導電流の浸透深さを大きくする必要があり、その結果、バックヨーク部等のひずみ導入部以外も加熱されるのに対して、本実施形態では、被焼鈍モータコアの内側に内側誘導コイル10を設置し、誘導電流の浸透深さを非常に小さくすることで、スロット形成部分のひずみ導入部のみを狙って加熱できるからである。
【0037】
それに加えて、本実施形態では、上述のように、加熱用誘導コイルとしての内側誘導コイル10に加えて冷却装置11が設けられているため、被焼鈍モータコアCの加熱された部分の所定温度までの冷却を含めた、被焼鈍モータコアCの焼鈍に要する時間を、大幅に短縮することができる。さらに、本実施形態では、上述のように、冷却装置11から被焼鈍モータコアCのスロット形成面に冷却媒体を噴き付けているため、特許文献4のように加熱炉内に送り込んだ雰囲気ガスにより冷却する場合に比べて、上記スロット形成面を急速に冷却することができる。
【0038】
また、本実施形態では、被焼鈍モータコアCにおけるひずみ導入部である内周部の表層の最高到達温度が750~850℃で、被焼鈍モータコアCの内部の最高到達温度が500℃以下となるように誘導加熱を行う。つまり、本実施形態では、被焼鈍モータコアCにおけるひずみ導入部を局所的に誘導加熱している。したがって、少ない投入熱量で上記ひずみ導入部を焼鈍することができる。言い換えれば、所望の領域のみを効率的に加熱し、焼鈍のための誘導加熱にかかる消費電力を低減することができる。
【0039】
図5は、本実施形態にかかる焼鈍装置1により被焼鈍モータコアCを加熱したときの温度履歴、具体的には、交流電源20から交流電流を3分間内側誘導コイル10に供給して被焼鈍モータコアCを加熱し、その後、冷却装置11による冷却は行わずに被焼鈍モータコアCを自然冷却させたときの温度履歴を示す図である。図5の横軸は時間、縦軸は温度を示す。
本実施形態にかかる焼鈍装置1によれば、被焼鈍モータコアCのひずみ導入部である内周部を3分という非常に短い時間で750~850℃まで昇温できる。また、昇温の際、被焼鈍モータコアCのコア内部は500℃以下に維持されているので、すなわち、焼鈍の際に被焼鈍モータコアC全体に与えられる熱量が抑えられているため、冷却装置11による冷却を行わずとも、約8分という非常に短い時間で500℃まで冷却することができ、冷却装置11を用いればより短時間で冷却することができる。
【0040】
さらに、本実施形態では、上記式(1)における内側誘導コイル10による誘導電流の浸透深さδが、焼鈍により除去すべきひずみの導入深さ相当であるため、ひずみ導入部分を高効率で局所的に加熱することができる。
【0041】
また、本実施形態では、冷却装置11が、被焼鈍モータコアCの軸方向すなわち被焼鈍モータコアCの移動方向に沿って内側誘導コイル10と並べられて配置されているため、冷却装置11による冷却を、内側誘導コイル10による加熱に続けて行うことができる。したがって、内側誘導コイル10と冷却装置11との間の距離、及び、内側誘導コイル10と冷却装置11との間での被焼鈍モータコアCの移動距離を小さくできるので、焼鈍装置1のサイズを大型化させずに短時間で焼鈍を完了させることができる。
【0042】
なお、冷却装置11は、所定の位置、例えば、内側誘導コイル10による加熱が冷却装置11による冷却により阻害されるのを防ぐことができる所定の位置に設けられるのが好ましい。
【0043】
上述のコイル載置台14及びコア載置台15は、内側誘導コイル10と被焼鈍モータコアCとの相対位置及び冷却装置11と被焼鈍モータコアCとの相対位置を変化させる移動機構を構成するが、本発明の移動機構はこれに限定されるものではない。例えば、コア載置台15の脚部15bにおける被焼鈍モータコアCの軸方向の長さを固定とし、コイル載置台14の脚部14bの上記軸方向の長さを可変とし、被焼鈍モータコアCを上記軸方向に移動させるようにしてもよい。また、両脚部14b、15bの双方を、上記軸方向の長さを可変とするものにしてもよい。
【0044】
なお、以上の例では、冷却媒体の噴出開始タイミングは、交流電源20からの電力供給の停止時であったが、この例に限られず、上記電力供給の停止前から冷却媒体の噴出を開始していてもよい。
また、以上の例では、交流電源20からの電力供給の開始タイミングは、内側誘導コイル10における被焼鈍モータコアCの軸方向の中央部分に被焼鈍モータコアCが対向する状態になってからであったが、この例に限られず、その前から上記電力供給を開始してもよい。
【0045】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。図7は、図6の焼鈍装置が備える後述の回転駆動部の説明図である。
図6の焼鈍装置1は、第1実施形態の焼鈍装置と同様の構成部材に加えて、回転駆動部30が設けられている。
【0046】
回転駆動部30は、コア載置台15を回転するものであり、例えば、モータ等から構成され、コア載置台15の載置板15aを支持する脚部15bの根元に設けられる。コア載置台15の回転軸を被焼鈍モータコアCの中心軸と一致させておき、回転駆動部30でコア載置台15を回転させることにより、被焼鈍モータコアCをその中心軸を中心として回転させることができる。すなわち、回転駆動部30は、被焼鈍モータコアCを回転するものでもある。また、コア載置台15の回転軸を被焼鈍モータコアCの中心軸だけでなく、内側誘導コイル10の中心軸と一致させておき、回転駆動部30でコア載置台15を回転させることにより、図7に示すように、被焼鈍モータコアCを内側誘導コイル10に対して回転させることができる。すなわち、回転駆動部30は、内側誘導コイル10と被焼鈍モータコアCとを相対的に回転させることができる。
【0047】
ところで、回転駆動部を有しない第1実施形態では、内側誘導コイル10の巻き方によっては、該コイル10が発生させる磁束が、内側誘導コイル10の周方向すなわち被焼鈍モータコアCの周方向で不均一となる場合がある。その場合、上記磁束により被焼鈍モータコアC内に生じる誘導電流が当該被焼鈍モータコアCの周方向で不均一となり、その結果、上記誘導電流により加熱された被焼鈍モータコアCには周方向に温度差が発生する。
本実施形態のように回転駆動部30を設け、内側誘導コイル10と被焼鈍モータコアCとを相対的に回転させることにより、上述の周方向の温度差が生じるのを防ぐことができる。
【0048】
なお、回転駆動部30による回転速度は、内側誘導コイル10による加熱時間の間に少なくとも1回転するような速度であり、好ましくは上記加熱時間の間に10回転するような速度である。
【0049】
(第3実施形態)
図8は、本発明の第3実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
以上の第1及び第2実施形態の焼鈍装置では、被焼鈍モータコアCの内方に当該被焼鈍モータコアCと同心円状に配置される環状の部材である内側誘導コイル10を有していた。そして、これらの実施形態では、焼鈍対象である被焼鈍モータコアCは、固定子コアであり、その内周部にスロットやティースが形成されていた。
それに対し、図8に示すように、本実施形態にかかる焼鈍装置1は、加熱用誘導コイルとして被焼鈍モータコアCの外方に当該被焼鈍モータコアCと同心円状に配置される環状の部材である外側誘導コイル40を有する。そして、焼鈍対象である被焼鈍モータコアCは、回転子コアであり、図示は省略するが、その外周部にスロットやティースが形成されている。なお、外側誘導コイル40は、被焼鈍モータコアCの外周側と内周側のうち、スロットが形成された側と対向する側である外周側に設けられている、と説明することができる。
【0050】
なお、本実施形態において、第1及び第2実施形態におけるコイル載置台14の代わりに設けられるコイル載置台41は、コア載置台15の外方を覆うように設けられていることを除き、コイル載置台14と同様の構成を有すると共に同様に機能する。
【0051】
また、本実施形態において、冷却装置11の代わりに設けられる冷却装置42は、外側誘導コイル40により加熱された被焼鈍モータコアCの外周面すなわちスロット形成面に冷却媒体を噴き付け、当該被焼鈍モータコアCを冷却するものである。
【0052】
本実施形態では、回転子コアである被焼鈍モータコアCのスロット形成部分すなわち外周部のみを焼鈍すればよい場合において、上述のように被焼鈍モータコアCの外方に配置される外側誘導コイル40により焼鈍する。そのため、少ない電力で且つ短時間で焼鈍を行うことができる。
【0053】
それに加えて、本実施形態でも、上述のように、加熱用誘導コイルとしての外側誘導コイル40に加えて冷却装置42が設けられているため、被焼鈍モータコアCの加熱された部分の所定温度までの冷却を含めた、被焼鈍モータコアCの焼鈍に要する時間を、大幅に短縮することができる。
【0054】
また、本実施形態においても、被焼鈍モータコアCにおけるひずみ導入部である外周部の表層の最高到達温度が750~850℃で、被焼鈍モータコアCの内部の最高到達温度が500℃以下となるように誘導加熱を行うことで、少ない投入熱量で上記ひずみ導入部を焼鈍することができる。さらに、本実施形態においても、例えば、前述の式(1)における外側誘導コイル40による誘導電流の浸透深さδが焼鈍により除去すべきひずみの導入深さ相当となるように交流電源の周波数を選択することで、ひずみを確実に除去することができる。
【0055】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態にかかる焼鈍装置の構成の概略を示す縦断面図である。
第1~第3実施形態の焼鈍装置は、内側誘導コイル10と外側誘導コイル40のうちのいずれか一方を有していた。それに対し、本実施形態の焼鈍装置1は、図9に示すように、内側誘導コイル10と外側誘導コイル40の双方を有している。
【0056】
そして、本実施形態の焼鈍装置1及び焼鈍方法では、焼鈍対象である被焼鈍モータコアCが、その内周部にスロットが形成された固定子コアである場合、内側誘導コイル10と外側誘導コイル40のうち、内側誘導コイル10を用いて、被焼鈍モータコアCのスロット形成部分である内周部のみを焼鈍する。
また、本実施形態の焼鈍装置1及び焼鈍方法では、焼鈍対象である被焼鈍モータコアCが、その外周部にスロットが形成された回転子コアである場合、内側誘導コイル10と外側誘導コイル40のうち、外側誘導コイル40を用いて、被焼鈍モータコアCのスロット形成部分である外周部のみを焼鈍する。
したがって、本実施形態の焼鈍装置1及び焼鈍方法でも、第1実施形態及び第3実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
(試験例1)
本発明の試験例1として、本発明の第1実施形態に係る焼鈍装置1を用いて、固定子コアである被焼鈍モータコアCを誘導加熱した場合の発熱密度についてシミュレーションを行った。被焼鈍モータコアCの外径は134mm、内径は67mm、その軸方向の厚さは10mmとした。なお、被焼鈍モータコアCの体積抵抗率は面内で5.2e-7Ω・m、軸方向は無限大とした。内側誘導コイル10は、外形58mm、直径方向の厚み8mm、上記軸方向の厚みを17mmとした。また、内側誘導コイル10の上記軸方向の中心位置と、被焼鈍モータコアCの上記軸方向の中心位置とを一致させた。さらに、内側誘導コイル10には水冷用の配管が設けられ、また、内側誘導コイル10は磁性体コアに巻かれているものとした。
【0059】
そして、内側誘導コイル10に交流電流を印加する交流電源20の周波数を1kHz、10kHz、50kHzに変化させて、被焼鈍モータコアCのティース部先端における上記軸方向の中心位置について、図10に示すデータを得た。図10の横軸は、表面からの深さであり、縦軸は発熱密度である。
【0060】
図10に示すように、交流電源20の周波数を高くするほど、表皮効果により表面から深い領域における発熱密度が低下していることが確認できる。したがってこの結果から、交流電源20の周波数を適宜調整することで、誘導加熱により加熱する深さを設定できることが分かる。なお、電磁鋼板の打ち抜き加工により発生するひずみの深さは、一般に電磁鋼板の板厚の半分程度であるので、例えば電磁鋼板の板厚が0.35mm程度である場合、図10の結果によれば、交流電源20の周波数は、概ね10kHz以上に設定すれば、ほぼ板厚分の深さすなわちひずみの深さに発熱を集中させることができる。
【0061】
(試験例2)
本発明の試験例2として、本発明の第1実施形態に係る焼鈍装置1を用い、交流電源20の周波数を50kHz、内側誘導コイル10のアンペア巻数(アンペアターン)を2000ATとして、固定子コアである被焼鈍モータコアCを誘導加熱した場合の温度履歴についてシミュレーションを行った。交流電源20の周波数及び内側誘導コイル10のアンペア巻以外の条件は試験例1のシミュレーションと同じとした。
【0062】
図11は、試験例2における、被焼鈍モータコアCのティース部先端面における中心部分と、ティース部根元におけるコア内部の中心部分の温度履歴を示す図である。
図11に示すように、焼鈍装置1を用い交流電源の周波数を50kHzとして誘導加熱すると、ひずみ導入部である被焼鈍モータコアCのティース部先端面を選択的に加熱することができる。
【0063】
(試験例3)
本発明の試験例3として、本発明の第1実施形態に係る焼鈍装置1を用い、試験例2と同様な条件で、被焼鈍モータコアCのティース部が850℃に到達するまで実際に誘導加熱する試験を行い、その後、冷却装置11を用いて窒素ガス吹付によって200℃まで冷却を行った。なお、試験例3の試験条件は、内側誘導コイル10のアンペア巻数のみが試験例2と異なり、該アンペア巻数は1100ATとした。
表1は、試験例3の結果を示すものである。
【0064】
【表1】
【0065】
なお、表1の比較例1は、特許文献1~4と同様に、内周部にスロットが形成された固定子コアである被焼鈍モータコアの外側に設けられた誘導コイルにより当該被焼鈍モータコアを加熱し、その後自然放冷した例である。また、比較例2は試験例3と同じ加熱条件で冷却装置11による積極的な冷却を行なわず、放冷した例である。
【0066】
表1に示すように、比較例1では、被焼鈍モータコアCのティース部を室温から850℃まで昇温させるのに要した時間は、誘導加熱のための交流電源の電源出力1kWで1400秒であり、850℃までの昇温に対する投入熱量すなわち消費電力は1400kJであった。それに対し、試験例3では被焼鈍モータコアCのティース部を室温から850℃まで昇温させるのに要した時間は、交流電源20の電源出力5kWで100秒であり、850℃までの昇温に対する投入熱量は500kJであり、比較例1の約1/3である。
【0067】
また、被焼鈍モータコアのティース部を室温から850℃まで昇温させる方法として、誘導加熱方式により被焼鈍モータコア全体を均一に加熱する方法が考えられる。しかし、この方法では、被焼鈍モータコアの熱容量のみを考慮しても、言い換えれば、損失なく理想的に加熱できたとしても、室温から850℃まで昇温させるのに必要な消費電力は600kJである。試験例3における消費電力500kJは、この600kJよりも小さい。つまり、焼鈍装置1を用いた誘導加熱では、非常に少ない消費電力で被焼鈍モータコアのティース部を室温から850℃まで昇温させることができる。
さらに、表1の冷却時間に着目すると、冷却を行った試験例3の冷却時間は、積極的な冷却を行わなかった比較例2の1/3程度とすることができる。比較例1と比較例2の冷却はともに自然放冷であり、これらの冷却時間の差はそれぞれへの投入熱量の差に基づくものと考えられる。以上のとおり、本発明によれば、焼鈍装置1を用いた誘導加熱と、冷却装置11を用いた冷却を組み合わせることで処理時間を短くし、生産性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、モータコアを構成する電磁鋼板の打ち抜きの際に生じたひずみや、打ち抜かれた複数の電磁鋼板を積層した状態でかしめやビス止め、溶接等により固着してモータコアを形成する際に生じたひずみを除去するために、モータコアを焼鈍する際に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 焼鈍装置
10 内側誘導コイル
11 冷却装置
12 焼鈍雰囲気調整用の隔壁
12a 蓋部
12b 有底の容器部
12c ガス供給管
13 断熱材
14 コイル載置台
14a 載置板
14b 脚部
15 コア載置台
15a 載置板
15b 脚部
20 交流電源
30 回転駆動部
40 外側誘導コイル
41 コイル載置台
42 冷却装置
C モータコア(被焼鈍モータコア)
Ca ティース部
Cb バックヨーク部
Cc スロット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11