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特許7172121電気化学反応セル及びそれを用いた人工光合成セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電気化学反応セル及びそれを用いた人工光合成セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20221109BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20221109BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20221109BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20221109BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20221109BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B1/04
C25B1/23
C25B3/26
C25B9/00 A
C25B9/60
C25B15/08 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018087074
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189929
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 知三夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-292370(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145707(WO,A1)
【文献】特開2013-213231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応用電極と酸化反応用電極とを離間させて対向させ、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間の流路に電解液を流通させることで、前記電解液に含有される化学物質を電気化学反応させる電気化学反応セルであって、
前記流路に前記電解液を導入するための導入口と、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間から前記電解液と共に電気化学反応によって生成された化学物質を排出するための排出口とを有し、
前記流路における前記排出口に繋がる接続領域は、前記電解液の流れ方向に垂直なラインに対して傾斜角が3°以上で前記排出口側に傾斜して繋がる傾斜部を備え、
前記導入口から前記還元反応用電極及び前記酸化反応用電極までの流路に配置され、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間に前記電解液を供給するための複数の導入穴を有するマニホールドを備えることを特徴とする電気化学反応セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応セルであって、
前記導入口から最も遠くに設けられた前記導入穴から流出する前記電解液の流量が前記導入口に最も近く設けられた前記導入穴から流出する前記電解液の流量の90%以上となるように前記マニホールドの管径と前記導入穴の径と関係が設定されていることを特徴とする電気化学反応セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気化学反応セルであって、
前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間に前記導入口から前記排出口に向かって前記電解液の流れの方向を制限するフィンを備えることを特徴とする電気化学反応セル。
【請求項4】
還元反応用電極と酸化反応用電極とを離間させて対向させ、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間の流路に電解液を流通させることで、前記電解液に含有される化学物質を電気化学反応させる電気化学反応セルであって、
前記流路に前記電解液を導入するための導入口と、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間から前記電解液と共に電気化学反応によって生成された化学物質を排出するための排出口とを有し、
前記流路における前記排出口に繋がる接続領域は、前記電解液の流れ方向に垂直なラインに対して傾斜角が3°以上で前記排出口側に傾斜して繋がる傾斜部を備え、
前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間に前記導入口から前記排出口に向かって前記電解液の流れの方向を制限するフィンを備えることを特徴とする電気化学反応セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学反応セルと、
前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極とに供給される電力を生成する太陽電池モジュールと、
を備え、
前記太陽電池モジュールにおける光電変換によって生じた電力を用いて水(HO)から水素(H)、又は、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CHOH)の少なくとも1つを生成することを特徴とする人工光合成セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応セル及びそれを用いた人工光合成セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを用いて水(HO)から水素(H)、水(HO)と二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO),ギ酸(HCOOH),メタノール(CHOH)などを合成する人工光合成の技術が開示されている。人工光合成を実現するために、酸化反応用電極-還元反応用電極間に2~3Vの電位差を印加することが必要である。これを実現するために、アモルファスシリコン系3接合太陽電池(a-Si 3J-SC)の両面に酸化/還元触媒が担持された光電極が用いられている(非特許文献1,2)。また、アモルファスシリコン系3接合太陽電池を用い、裏面(光入射面の反対側)に還元触媒を担持して還元反応用電極を形成し、これと対向するように酸化触媒機能を持つ部材を含んだ酸化反応用電極を配置して太陽電池の表面電極と接続した、いわば太陽電池と電気化学セルを一体化した人工光合成セルが用いられている(非特許文献3)。また、より高い効率を狙って、III-V族化合物2接合太陽電池(III-V 2J-SC)を用いて対向型セルを構成した例もある(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.Y.Reece, et al., Science 334, 645 (2011)
【文献】T.Arai, et al., Energy Environ. Sci. 8, 1998 (2015)
【文献】J.-P. Becker, et al., J. Mater. Chem. A5, 4818 (2017)
【文献】G.Peharz, et al., Int. J. Hydrogen Energy 32, 3248 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気化学反応セルにおいて、還元反応用電極と酸化反応用電極との間に供給される電解液の流れが滞ると化学反応の効率が低下する。例えば、電気化学反応セルにおいて発生するガスが電解液の流路に溜まると電解液の流れが滞り、化学反応の効率が低下するおそれがある。特に、セルのサイズを大型化した場合、電解液の流れを考慮した構成を採用する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、還元反応用電極と酸化反応用電極とを離間させて対向させ、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間に電解液を流通させることで、前記電解液に含有される化学物質を電気化学反応させる電気化学反応セルであって、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極の間に前記電解液を導入するための導入口と、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極の間から前記電解液と共に電気化学反応によって生成された化学物質を排出するための排出口とを有し、前記還元反応用電極及び前記酸化反応用電極の端部から前記排出口に繋がる接続領域において傾斜角度が3°以上の傾斜部を備えることを特徴とする電気化学反応セルである。
【0006】
ここで、前記導入口から前記還元反応用電極及び前記酸化反応用電極までの経路に配置され、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極の間に前記電解液を供給するための複数の導入穴を有するマニホールドを備え、前記導入口から最も遠くに設けられた前記導入穴から流出する前記電解液の流量が前記導入口に最も近く設けられた前記導入穴から流出する前記電解液の流量の90%以上となるように前記マニホールドの管径と前記導入穴の径と関係が設定されていることが好適である。
【0007】
また、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極との間に前記導入口から前記排出口に向かって前記電解液の流れの方向を制限するフィンを備えることが好適である。
【0008】
また、前記還元反応用電極と前記酸化反応用電極とに供給される電力を生成する太陽電池モジュールと、を備えることを特徴とする人工光合成セルとすることが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大型化した場合であっても電解液の滞留を抑制した電気化学反応セル及びそれを用いた人工光合成セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における還元反応用電極の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における酸化反応用電極の構成を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における第1枠材の構成を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における第2枠材の構成を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における第1枠材に傾斜部を設けることによる電解液の流れを説明する図である。
図8】本発明の実施の形態における第1枠材の傾斜部の傾斜角度θによる効果を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における流路構成部材の構成を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における流路構成部材の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態における化学反応装置100は、図1の断面図及び図の平面図に示すように、酸化反応用電極102、還元反応用電極104、電解液106、太陽電池セル108及び枠材110を含んで構成される。図1は、図2におけるラインA-Aに沿った断面図である。
【0012】
本実施の形態では、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104は、それぞれX方向及びY方向に拡がる板状の部材であり、Z方向に互いに対向するように配置される。還元反応用電極104と酸化反応用電極102とを接続することで、還元反応用電極104と酸化反応用電極102とが電気的に接続された構成となる。
【0013】
還元反応用電極104は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極104は、図3の断面図に示すように、基板114上に形成される。還元反応用電極104は、導電層10及び導電体層12を含んで構成される。
【0014】
基板114は、還元反応用電極104を構造的に支持する部材である。基板114は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板114は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板114として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板114として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)等とすることが好適である。基板114を金属又は半導体を含むものとした場合、還元反応用電極104と基板114との間には絶縁層を形成する。絶縁層は、特に限定されるものではないが、半導体の酸化物、窒化物や樹脂等とすることができる。金属基板と還元反応用電極104とが電気的に直接接続されている構成としてもよい。
【0015】
導電層10は、還元反応用電極104における集電を効果的にするために設けられる。導電層10は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0016】
導電体層12は、還元触媒機能を有する材料を含む導電体から構成される。導電体は、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料の構造体の単体のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0017】
錯体触媒は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CHCN)Cl]等とすることができる。
【0018】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体層12の導電体の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電体層12の導電体の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電体層12の導電体上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0019】
このように形成された導電体層12は、還元反応用電極104を構成する導電層10上に担持、塗布又は貼付される。これにより、導電層10及び導電体層12を含む還元反応用電極104が形成される。
【0020】
酸化反応用電極102は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。酸化反応用電極102は、図4の断面図に示すように、基板114上に形成される。酸化反応用電極102は、導電層14及び酸化触媒層16を含んで構成される。
【0021】
基板114は、還元反応用電極104を構造的に支持する部材である。基板114は、還元反応用電極104に用いられる基板114と同様の材料とすることができる。
【0022】
導電層14は、酸化反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層14は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0023】
酸化触媒層16は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層14の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015))。
【0024】
例えば、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成する。次に、2mMの塩化イリジウム酸(IV)カリウム(KIrCl)水溶液50mlに10wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH13に調整した黄色溶液を、ホットスターラーを用いて90℃で20分加熱する。これによって得られた青色溶液を氷水で1時間冷却する。そして、冷やした溶液(20ml)に3M硝酸(HNO)を滴下してpH1に調整し、80分攪拌し、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を得る。さらに、この溶液に1.5wt%NaOH水溶液(1-2ml)を滴下してpH12に調整する。このようにして得られた酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液を、導電層14上にpH12に塗布し、乾燥炉内にいて60℃で40分間保持して乾燥させる。乾燥後、析出した塩を超純水で洗浄し、酸化反応用電極102を形成することができる。なお、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイド水溶液の塗布及び乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0025】
化学反応装置100は、還元反応用電極104と酸化反応用電極102の間に電解液106を導入することで機能する。例えば、図1に示すように、還元反応用電極104と酸化反応用電極102を囲むように枠材110を配置し、還元反応用電極104と酸化反応用電極102の表面に反応物が溶解された電解液106を供給する。反応物は、炭化化合物とすることができ、例えば、二酸化炭素(CO)とすることができる。また、電解液106は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、二酸化炭素(CO)飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによって当該液を還元反応用電極104と酸化反応用電極102との表面に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)や酸素(O)を外部の燃料タンクに回収する。
【0026】
また、還元反応用電極104と酸化反応用電極102との間を電気的に接続し、適切なバイアス電圧を印加した状態とする。バイアス電圧を印加する手段は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池等が挙げられる。このとき、酸化反応用電極102に正極が接続され、還元反応用電極104に負極が接続される。
【0027】
本実施の形態では、太陽電池セル108を採用している。太陽電池セル108は、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104に隣接して配置することができる。図1の例では、還元反応用電極104の背面に太陽電池セル108を配置し、太陽電池セル108の正極を酸化反応用電極102に接続し、負極を還元反応用電極104に接続している。
【0028】
二酸化炭素(CO)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(HO)は酸化されて二酸化炭素(CO)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(HO)の酸化電位は0.82V、還元電位は-0.41V(何れもNHE)である。また、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CHOH)への還元電位はそれぞれ-0.53V,-0.61V,-0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20~1.43Vである。
【0029】
枠材110は、酸化反応用電極102及び還元反応用電極104を支持すると共に、電解液106が流れる流路を構成する部材である。枠材110は、化学反応装置100をセルとして構成するために必要な機械的な強度を備える材料で構成される。例えば、枠材110は、金属、プラスチック等によって構成することができる。
【0030】
枠材110は、第1枠材110a、第2枠材110b及び流路構成部材110cを組み合わせて構成される。第1枠材110a及び第2枠材110bは、それぞれ酸化反応用電極102及び還元反応用電極104を嵌め込むための溝が設けられた平板状の部材である。
【0031】
第2枠材110bは、図5の一部斜視図に示すように、平板状の部材である。第2枠材110bには、矩形状の第1溝24が設けられる。第1溝24は、第2枠材110bに支持される還元反応用電極104と第1枠材110aに支持される酸化反応用電極102との間に形成される電解液106の流路となる空間を構成する溝である。すなわち、第1溝24の深さは、還元反応用電極104と酸化反応用電極102との距離が電解液106の流路として適した距離になるように設定することが好適である。例えば、還元反応用電極104と酸化反応用電極102との距離が20mm程度になるように第1溝24の深さとすればよい。また、第1溝24は、後述する流路構成部材110cを収納するための空間も構成する。
【0032】
第1溝24の底面には、矩形状の第2溝22が設けられる。第2溝22は、還元反応用電極104を嵌め込むための溝であり、酸化反応用電極102の外形よりも僅かに大きな形状及び大きさにされる。第2溝22の深さは、還元反応用電極104の厚さと同程度とされる。還元反応用電極104は、基板114が第2溝22の奥側に位置するように第2溝22に嵌め込まれる。
【0033】
第1枠材110aは、図6の一部斜視図に示すように、平板状の部材である。第1枠材110aには、矩形状の第3溝28が設けられる。第3溝28は、酸化反応用電極102を嵌め込むための溝であり、酸化反応用電極102の外形よりも僅かに大きな形状及び大きさにされる。第3溝28の深さは、酸化反応用電極102の厚さと同程度とされる。酸化反応用電極102は、基板114が第3溝28の奥側に位置するように第3溝28に嵌め込まれる。
【0034】
酸化反応用電極102を嵌め込んだ第1枠材110aと還元反応用電極104を嵌め込んだ第2枠材110bとを向かい合わせて組み合わせることで、第1溝24が酸化反応用電極102と還元反応用電極104との間の電解液106の流路となる。そこで、図1及び図5に示すように、第1枠材110aの第1溝24には、電解液106及び電気化学反応によって生成された化学物質を流出させるための排出口20が設けられる。
【0035】
本実施の形態では、図5の斜視図及び図7の平面模式図に示すように、電解液106の流路を構成する第1溝24の辺における排出口20に繋がる接続領域26に傾斜角度θが0より大きい傾斜を設けることが好適である。傾斜角度θを0にして、排出口20に繋がる接続領域26に傾斜をもたせない場合、電気化学反応によって電解液106内に発生したガス(酸素、水素等)の泡が排出口20付近における接続領域26に滞留し、電解液106の流れが滞る原因となる。これに対して、接続領域26に傾斜角度θを付けることによって、電解液106に混在するガスの泡が接続領域26の傾斜に沿って流れ易くなり、電解液106の滞留を抑制することができる。
【0036】
図8は、接続領域26の傾斜角度θに対する電解液106に混在するガスの泡を十分に排出させるために必要な電解液106の流量の関係を示す。図8に示すように、傾斜角度θを大きくすれば必要な流量は小さくなり、より容易に電解液106と共にガスの泡を排出させることができる。特に、傾斜角度θを3°以上とすることでその効果は顕著となった。
【0037】
ただし、接続領域26の傾斜角度θを大きくするほど、第1枠材110a及び第2枠材110bを長くする必要があり、化学反応装置100の小型化の必要性に応じて傾斜角度θを適切に設定することが好ましい。
【0038】
また、還元反応用電極104と酸化反応用電極102との間の流路に流路構成部材110cが配置される。流路構成部材110cは、図9に示すように、枠板30、フィン32及びマニホールド34を含んで構成される。流路構成部材110cは、図10に示すように、第2枠材110bの第1溝24からなる凹部に嵌め込まれるように配置される。なお、図9及び図10において電解液106の流れを太矢印で示している。
【0039】
枠板30は、中空の板状部材であり、例えば、金属や樹脂等の機械的な強度を有する部材から構成される。枠板30を中空にする貫通穴は第2枠材110bに嵌め込まれた酸化反応用電極102と第2枠材110bに嵌め込まれた還元反応用電極104との間でイオンの移動を可能にするために設けられる。枠板30は、第2枠材110bの第1溝24の凹部に嵌め込むことができるように第1溝24の凹部の形状に合わせた形状とすることが好適である。
【0040】
フィン32は、略角柱形状を有する部材であり、枠板30の一辺からそれに対向する辺に向かう方向(図中、Y方向)に枠板30の両縁に跨がるように複数並べて配置される。例えば、流路構成部材110cのフィン32の間隔W1は10mmとする。
【0041】
マニホールド34は、電解液106を噴出させるための噴出孔36を有する管状部材である。マニホールド34は、フィン32を並べた方向(図中、X方向)に沿って配置される。マニホールド34に設けられる噴出孔36は、隣り合うフィン32の間に少なくとも1つ設けることが好適である。本実施の形態では、隣り合うフィン32の間に2つずつ噴出孔36を設けた構成を例示している。
【0042】
上記のように、流路構成部材110cは、図10に示すように、第2枠材110bの第1溝24からなる凹部に嵌め込まれるように配置される。そのうえで、第1枠材110aと第2枠材110bとを組み合わせることによって、酸化反応用電極102を嵌め込んだ第1枠材110a、還元反応用電極104を嵌め込んだ第2枠材110bと流路構成部材110cのフィン32とによって区切られる空間が電解液106の流路になる。すなわち、電解液106の流入側となるマニホールド34から流出側となる排出口20に向けた方向に沿った電解液106の流路が形成される。
【0043】
例えば、マニホールド34の内径は9mm、噴出孔36の径は0.5mm、ピッチは10mm、孔数は40とする。これにより、マニホールド34の管内面積は63.6mm2となり、噴出孔36の総面積は7.85mm2となり、その比は1/8となる。このとき、電解液106の流量を110mL/minとすると、ベルヌーイの定理よりマニホールド34内の流速は0.0288m/secとなり、噴出孔36内の流速は0.233m/secとなる。すなわち、噴出孔36における流速はマニホールド34内の流速の約8倍となる。
【0044】
このように、マニホールド34を設けることによって、マニホールド34における電解液106の流入口側から反対側の端部に亘って電解液106を噴出孔36から略均一に噴出させることができる。また、フィン32を設けることによって、還元反応用電極104の導電体層12及び酸化反応用電極102の酸化触媒層16に電解液106を行き渡らせることができる。また、フィン32を設けることによって、電解液106や反応によって生成された化学物質のガスが化学反応装置100内において渦を巻くことを抑制することができる。
【0045】
なお、本実施の形態では流路構成部材110cを設けた構成としたが、流路構成部材110cを設けない構成としてもよい。また、流路構成部材110cにおいて、フィン32を設けず、マニホールド34のみを設ける構成としてもよい。この場合、フィン32による効果のみを得ることができる。
【0046】
以上のように、本実施の形態における化学反応装置100によれば、大型化した場合であっても電解液の滞留を抑制した電気化学反応セル及びそれを用いた人工光合成セルを提供できる。
【符号の説明】
【0047】
10 導電層、12 導電体層、14 導電層、16 酸化触媒層、20 排出口、22 第2溝、24 第1溝、26 接続領域、28 第3溝、30 枠板、32 フィン、34 マニホールド、36 噴出孔、100 化学反応装置、102 酸化反応用電極、104 還元反応用電極、106 電解液、108 太陽電池セル、110 枠材、110a 枠材、110b 枠材、110c 流路構成部材、114 基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10