(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】塗装金属基体の製造方法、塗装金属板及び塗装金属缶
(51)【国際特許分類】
B05D 7/14 20060101AFI20221109BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221109BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221109BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20221109BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20221109BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20221109BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B05D7/14 J
B05D7/24 302V
C09D5/02
C09D167/00
C09D5/08
B32B15/09 A
B65D25/14 A
(21)【出願番号】P 2018092500
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2017094780
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017150490
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018040711
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 新
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514370(JP,A)
【文献】特開2003-321646(JP,A)
【文献】特開2005-194494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
B65D 23/00- 25/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価
17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂
が有するカルボキシル基と
架橋反応可能な官能基を有する硬化剤とが
含有されて成り、
前記官能基が、β-ヒドロキシアルキルアミド基であり、
前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有されて成る水性塗料組成物を、金属基体上に塗布する塗装工程と、該塗装工程で金属基体上に塗布された前記水性塗料組成物を200℃より高く320℃以下の温度で加熱する焼付け工程とを有することを特徴とする塗装金属基体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化剤の官能基当量が、30~500g/eqである請求項1記載の塗装金属基体の製造方法。
【請求項3】
前記硬化剤の分子量が1000以下である請求項1又は2記載の塗装金属基体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物である請求項1~
3の何れかに記載の塗装金属基体の製造方法。
【請求項5】
前記金属基体が、金属板又は金属缶である請求項1~
4の何れかに記載の塗装金属基体の製造方法。
【請求項6】
酸価
17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂の硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物とを
、前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有し、膜厚が20μm未満である塗膜を、少なくとも一方の面に有することを特徴とする塗装金属板。
【請求項7】
酸価
17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂の硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物とを
、前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有し、膜厚が20μm未満である塗膜を、少なくとも片面に有することを特徴とする塗装金属缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属基体の製造方法に関するものであり、より詳細には、加工性に優れると共に、硬化性や耐食性にも優れた塗膜が形成された金属基体の製造方法、及び優れた加工性及び硬化性、耐食性を備えた塗膜を有する塗装金属板及び塗装金属容器に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶等の金属容器或いは金属蓋に用いられる塗料組成物には、金属容器或いは金属蓋を成形する際の過酷な加工(例えばネックイン加工、ビード加工、スコア加工、リベット加工)にも耐え得る加工性が要求される。その他、用途によっては、良好な硬化性を有していることや内容物等による金属基体の腐食を防止し得る耐食性を有していること、内容物のフレーバーを損なうことがないこと、塗料成分の溶出がなく衛生性に優れること、耐レトルト性に優れること等の様々な特性が要求される。さらに、塗装時や焼付時の有機溶剤の揮散による環境汚染や作業環境などへの影響を考慮する必要もある。
【0003】
従来より、金属容器或いは金属蓋等に用いられる塗料組成物はエポキシーフェノール系塗料、エポキシーアミノ系塗料、エポキシーアクリル系塗料等のエポキシ系塗料が広く使用されているが、エポキシ系塗料はビスフェノールAを原料として製造されるものが多いため、ビスフェノールAを含有しない塗料が望まれている。
【0004】
このような観点から、金属容器或いは金属蓋用の塗料組成物として、ビスフェノールAを使用せず、さらには環境汚染や作業環境への影響をも考慮したポリエステル系水性塗料組成物が提案されている。
このようなポリエステル系水性塗料組成物としては、例えば、カルボキシル基を有する芳香族ポリエステル樹脂を主体とするものであって、10~30mgKOH/gの酸価(AV)と、3000~10000の数平均分子量(Mn)とを有するものを用い、これを硬化剤、前記ポリエステル樹脂に対する中和剤、及び共溶剤と組み合わせたことを特徴とする硬化性、耐レトルト性に優れた金属包装体用塗料が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また水性塗料組成物として、例えば、エチレン性二重結合を樹脂端部に持つ数平均分子量2,000~50,000のポリエステル樹脂(A)に、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分(B)をグラフト重合してなるアクリル変性ポリエステル樹脂(C)と、β-ヒドロキシアルキルアミド架橋剤(D)とが水性媒体中に安定に分散されてなる水性塗料組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4228585号
【文献】特開2003-26992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、硬化剤として自己縮合体を形成するレゾール型のフェノール樹脂を用いた場合には、塗膜内においてフェノール樹脂の自己縮合体に由来する硬く脆いドメインが形成されることから、塗膜の加工性の点で充分満足するものではなかった。また特許文献2のように、酸価が高いポリエステル樹脂を用いた場合には、硬化剤との反応点(架橋点)が多くなることで硬化性には優れるものの、架橋密度が高くなり過ぎることで成形時に塗膜が割れやすくなり、過酷な加工に耐えることができず、充分な加工性を得ることができなかった。
【0008】
従って本発明の目的は、特定のポリエステル系水性塗料組成物を用い、優れた加工性、硬化性、及び耐食性を備えた塗膜を有する塗装金属基体の製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、優れた加工性及び耐食性を備えた塗膜を有する塗装金属板及び塗装金属容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、酸価17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂が有するカルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する硬化剤とが含有されて成り、前記官能基が、β-ヒドロキシアルキルアミド基であり、前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有されて成る水性塗料組成物を、金属基体上に塗布する塗装工程と、該塗装工程で金属基体上に塗布された前記水性塗料組成物を200℃より高く320℃以下の温度で加熱する焼付け工程とを有することを特徴とする塗装金属基体の製造方法が提供される。
本発明の塗装金属基体の製造方法においては、
1.前記硬化剤の官能基当量が、30~500g/eqであること、
2.前記硬化剤の分子量が1000以下であること、
3.前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物であること、
4.前記金属基体が、金属板又は金属缶であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、酸価17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂の硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物とを、前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有し、膜厚が20μm未満である塗膜を、少なくとも一方の面に有することを特徴とする塗装金属板が提供される。
本発明によれば更に、酸価17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂と、該ポリエステル樹脂の硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物とを、前記ポリエステル樹脂(固形分)100質量に対し、前記硬化剤(固形分)が2~8質量部の量で含有し、膜厚が20μm未満である塗膜を、少なくとも片面に有することを特徴とする塗装金属缶が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明者等は、ポリエステル系水性塗料組成物から形成される塗膜の加工性向上について鋭意検討した結果、酸価5mgKOH/g以上30mgKOH/g未満のポリエステル樹脂から成る主剤と特定の硬化剤の組み合わせから成る水性塗料組成物を用い、これを金属基体上に塗布し、200℃より高く320℃以下の温度で加熱することで、短時間で充分硬化させることができると共に、適度な架橋密度を有し、優れた加工性及び耐食性を実現可能な塗膜を形成することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(水性塗料組成物)
本発明の塗装金属基体の製造方法に用いられる水性塗料組成物は、前述した特定の酸価を有するポリエステル樹脂及び特定の硬化剤を用いることが重要な特徴であり、これらが水性媒体中に含有されて成る塗料組成物である。
【0013】
(ポリエステル樹脂)
本発明の塗料組成物において、主剤となるポリエステル樹脂は、酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g未満、特に10~29mgKOH/gの範囲にあることが重要である。
すなわち本発明においては、主剤となるポリエステル樹脂が適度なカルボキシル基量(酸価)を有することが、硬化性及び加工性、更に塗膜の密着性を兼ね備える上で重要になる。上記範囲よりも酸価が小さい場合には、硬化剤との架橋点となるカルボキシル基が少なく充分な硬化性を得ることができないと共に、塗膜と金属基体間の密着性に寄与する遊離のカルボキシル基が少ないため、塗膜の密着性が劣るようになる。一方上記範囲よりも酸価が大きい場合には、硬化剤との架橋点が多くなることで硬化性には優れるものの、架橋密度が過度に高くなりやすく、塗膜が硬くなり、加工性が劣るようになる。なお、上記範囲よりも酸価が大きい場合においても、硬化剤の配合量を少なくするなど調整すれば架橋密度を低く抑えることは可能であるが、その場合においては、架橋に用いられない遊離のカルボキシル基が塗膜に残存することになるため、塗膜の耐水性に劣るようになり、結果として充分な耐食性が得られない。
【0014】
また、本発明においては酸価の異なる2種以上のポリエステル樹脂をブレンドして用いても良く、その場合においては各々のポリエステル樹脂の酸価と配合比(質量比)を乗じて得られた値の総和をブレンド体の平均酸価とし、その平均酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の範囲内であれば良い。(単独の酸価が上記範囲外のポリエステル樹脂を用いても、酸価の異なる別のポリエステル樹脂とのブレンド体の平均酸価が上記範囲内に入れば良い。)
【0015】
本発明で用いるポリエステル樹脂は、上述した酸価を有する以外は、塗料組成物に用いられる公知の水分散性ポリエステル樹脂及び/又は水溶性ポリエステル樹脂を使用することができる。
水分散性ポリエステル樹脂及び水溶性ポリエステル樹脂は、親水基を成分として含むポリエステル樹脂であり、これらの成分は、ポリエステル分散体表面に物理吸着されていてもよいが、ポリエステル樹脂骨格中に共重合されていていることが特に好ましい。
親水基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの誘導体や金属塩、エーテル等であり、これらを分子内に含むことにより水に分散可能な状態で存在することができる。
親水性基を含む成分としては、具体的には無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等の水酸基含有ポリエーテルモノマー、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸含有モノマーの金属塩、又はアンモニウム塩等を挙げることができる。
また親水性基を有するビニル系モノマーをポリエステル樹脂にグラフト重合させたアクリル樹脂変性ポリエステル樹脂でもよく、親水性基を有するビニル系モノマーとしては、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミド基等を含むもの、親水性基に変化させることができる基としては酸無水物基、グリシジル基、クロル基等を含むものを挙げることができる。しかしながら、アクリル樹脂で変性されたポリエステル樹脂は、その変性のために製造工程数が増え、製造コストが高くなる場合があるため、本発明に用いるポリエステル樹脂としては、アクリル樹脂で変性していないポリエステル樹脂であることが好ましい。
本発明においては、ポリエステル樹脂としては、親水基としてカルボキシル基を有するカルボキシル基含有水分散性ポリエステル樹脂及び/又はカルボキシル基含有水溶性ポリエステル樹脂を好適に用いることができる。
【0016】
また、前記親水性基を含むモノマーと組み合わせて、ポリエステル樹脂を形成するモノマー成分としては、ポリエステル樹脂の重合に通常用いられるモノマーであれば特に限定されるものではない。
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上の多価カルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。
本発明においては、耐食性や耐レトルト性、フレーバー性等の観点からポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)の割合が60モル%以上であることが好ましく、特に80%以上であることが好ましい。
【0017】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、特に限定はなく、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコール等から1種、または2種以上の組合せで使用することができる。
本発明においては、衛生性等の観点から上記の多価アルコール成分の中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールを、ポリエステル樹脂を構成する成分として好適に用いることできる。
【0018】
ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分の1種類以上と多価アルコール成分の1種類以上とを重縮合させることや、重縮合後に多価カルボン酸成分、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等で解重合する方法、また、重縮合後に酸無水物、例えば 無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等を開環付加させること等、公知の方法によって製造することができる。
【0019】
また、これらポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、これに限定されるものではないが、-30℃~120℃、特に15℃~100℃の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりもTgが高い場合には、形成される塗膜が硬くなるため、加工性が劣るおそれがある。一方上記範囲よりもTgが低い場合には、塗膜のバリアー性が低下し耐食性や耐レトルト性が劣るおそれがある。
【0020】
また、本発明においては、Tgの異なる2種以上のポリエステル樹脂をブレンドして用いることが好ましい。Tgの異なるポリエステル樹脂をブレンドすることで、ポリエステル樹脂1種のみを使用した場合に比べ、耐衝撃性に優れ、外部から衝撃を受けても塗膜欠陥のできにくい塗膜を形成できる場合がある。
その場合においても、下記式(1)により算出されるポリエステル樹脂ブレンドのTg
mixが上記のTg範囲にあれば良い。
1/Tgmix=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm)
・・・(1)
W1+W2+…+Wm=1
式中、Tgmixはポリエステル樹脂ブレンドのガラス転移温度(K)を表わし、Tg1,Tg2,…,Tgmは使用する各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)単体のガラス転移温度(K)を表わす。また、W1,W2,…,Wmは各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)の重量分率を表わす。
【0021】
本発明の水性塗料組成物においては特に、ポリエステル樹脂として、Tgが35℃~100℃のポリエステル樹脂(A)と、Tgが-30℃~25℃のポリエステル樹脂(B)を混合して用いることが、塗膜の耐衝撃性の観点から特に好ましい。その場合の配合比率は質量比で(A):(B)=98:2~10:90、特に95:5~30:70であることが好ましい。また、前記式(1)で算出されるガラス転移温度(Tgmix)が30℃以上であることが、耐食性や耐レトルト性の観点から好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)はこれに限定されるものではないが、1,000~100,000、特に3,000~50,000の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも小さいと塗膜が脆くなり、加工性に劣る場合があり、上記範囲よりも大きいと塗料安定性が低下するおそれがある。
【0023】
水分散性ポリエステル樹脂におけるポリエステル樹脂の平均分散粒子径は10~1,000nm、特に20~500nmの範囲にあることが好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂の水酸基価については、これに限定されるものではないが、20mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下であることが好ましい。硬化剤として、ポリエステル樹脂のカルボキシル基とは反応するが、水酸基とは反応しにくい、或いは反応しないと考えられるもの、例えばβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物等を使用する場合は、ポリエステル樹脂の水酸基の大部分は未反応のまま塗膜に残存することとなる。そのため、上記範囲よりも水酸基価が大きい場合は、残存する水酸基が多くなり、耐食性が低下するおそれがある。
【0025】
(硬化剤)
本発明においては、主剤であるポリエステル樹脂が有するカルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する特定の硬化剤を用いることが重要な特徴である。
本発明に用いる硬化剤の官能基当量としては、30~500g/eqであることが好ましく、特に40~200g/eqの範囲にあることが好ましい。なお、本発明における官能基当量とは、分子量を硬化剤1分子当たりの官能基数(ここで言う官能基は主剤ポリエステル樹脂のカルボキシル基と架橋反応可能な官能基を指す)で除した値であり、硬化剤の官能基1個当たりの分子量を意味し、例えばエポキシ当量などで表される。官能基当量が上記範囲よりも小さいと架橋点間距離を長くとることができないため、塗膜の柔軟性が低下し、加工性が劣る。一方で上記範囲よりも大きすぎると、硬化性が不足し、加工性、耐レトルト性が劣る。
また、硬化剤の平均分子量が1000以下であることが好ましい。上記範囲よりも大きいと、主剤のポリエステル樹脂との相溶性が低下するおそれがあり、反応性が低下する場合がある。
さらに、硬化剤1分子当たりの平均官能基数が3以上であることが、良好な硬化性を得る上で好ましい。
【0026】
また、前記硬化剤としては、硬化剤同士で自己縮合反応しにくいもの、特に自己縮合反応しないものが好ましい。一般にポリエステル系塗料組成物の硬化剤として使用されているレゾール型フェノール樹脂やアミノ樹脂等は硬化剤同士の自己縮合反応を起こしやすく、塗膜形成時に硬く脆いドメインである自己縮合体が形成され、それにより塗膜が硬くなり加工性を低下させる場合がある。また自己縮合反応に硬化剤の反応点(官能基)が消費されてしまうため、充分な硬化性を得るために必要となる硬化剤の量は当然多くなり非効率であると共に、塗膜に含まれる多量の硬化剤の存在が、加工性及び耐食性などの塗膜特性に悪影響を与えるおそれがある。これに対して、自己縮合反応しにくい、或いは自己縮合反応しない硬化剤を使用した場合は、硬く脆い自己縮合体の形成を抑制できると共に、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対応した最低限の量を配合すれば良いため効率的であると共に、塗膜中の硬化剤量も少なくでき、結果として加工性及び耐食性に優れた塗膜を形成することができる。
したがって硬化剤としては、ポリエステル樹脂のカルボキシル基との反応性を有する官能基として、上述した理由により、硬化剤同士の自己縮合反応を誘発しにくい官能基を有する硬化剤が好ましく、そのような官能基としては、例えばエポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アミノ基、水酸基(ただし、レゾール型フェノール樹脂やアミノ樹脂等に含まれる自己縮合性メチロール基由来の水酸基やシランカップリング剤等に含まれる自己縮合性シラノール基由来の水酸基は除く)、β-ヒドロキシアルキルアミド基等が挙げられる。それらの中でもエポキシ基、オキサゾリン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基を有する硬化剤が好ましく、特にβ-ヒドロキシアルキルアミド基を有する硬化剤を好適に使用することができる。
【0027】
(β-ヒドロキシアルキルアミド基含有硬化剤)
β-ヒドロキシアルキルアミド基を有する硬化剤としては、β―ヒドロキシアルキルアミド化合物が挙げられ、例えば下記一般式〔I〕で示されるものが挙げられる。
一般式〔I〕;
[HO―CH(R1)―CH2―N(R2)―CO―]m―A―[―CO―N(R2’)
―CH2―CH(R1’)―OH]n
[式中、R1およびR1’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基、R2およびR2’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基又は一般式〔II〕で示されるもの、Aは多価の有機基、mは1又は2、nは0から2(mとnの合計は少なくとも2である。)を表わす。]
【0028】
一般式〔II〕;HO―CH(R3)―CH2―
[式中、R3は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基を表わす。]
【0029】
前記一般式〔I〕中のAは、脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素であることが好ましく、炭素数2から20の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素がより好ましく、炭素数4から10の脂肪族炭化水素が更に好ましい。
また、前記一般式〔I〕におけるmとnの合計は、2又は3又は4であることが好ましい。
上記一般式〔I〕で示されるもの中でも、硬化剤として用いるβ-ヒドロキシアルキルアミド基含有硬化剤(β-ヒドロキシアルキルアミド化合物)としては、特にN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド[CAS:6334-25-4、分子量:約320、官能基当量:約80g/eq、1分子当たりの官能基数:4、製品例:EMS社製Primid XL552]やN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド[CAS:57843-53-5、分子量:約376、官能基当量:約95g/eq、1分子当たりの官能基数:4、製品例:EMS社製Primid QM1260]が好ましい。これらの中でも、硬化性や耐レトルト性の観点からN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドを用いることがより好ましい。N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミドに比べて、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドの方が、ポリエステル樹脂との反応性が高く、硬化性に優れると共に、より緻密な架橋構造を形成することで、レトルト時にも塗膜が白化しにくく、耐レトルト性に優れた塗膜を形成することができる。
【0030】
[エポキシ基含有硬化剤]
エポキシ基を有する硬化剤としては、例えばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等の水に溶解するポリエポキシ化合物が好ましく、具体的には、ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX-314[分子量:約320、官能基(エポキシ)当量:144g/eq]、EX-421[分子量:約440、官能基(エポキシ)当量:約159g/eq]、EX-611[分子量:約630、官能基(エポキシ)当量:167g/eq]が挙げられる。
【0031】
[オキサゾリン基含有硬化剤]
オキサゾリン基を有する硬化剤としては、例えばオキサゾリン誘導体を含むモノマー組成物を重合させた水溶性重合体が挙げられ、そのようなオキサゾリン誘導体としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。また、オキサゾリン誘導体を含むモノマー組成物に含まれるオキサゾリン誘導体以外のモノマーとしては、オキサゾリン誘導体と共重合し、かつ、オキサゾリン基に対して不活性な化合物であればよく、特に限定されるものではない。オキサゾリン基含有重合体中において、オキサゾリン誘導体に由来する構造単位が占める割合としては、5質量%以上であることが好ましい。具体的には、株式会社日本触媒製エポクロスWS-300[官能基(オキサゾリン)当量:約130g/eq]、エポクロスWS-700[官能基(オキサゾリン)当量:約220g/eq]が挙げられる。
【0032】
硬化剤は、ポリエステル樹脂(固形分)100質量部に対して、1~10質量部で配合することが好ましく、2~8質量部がより好ましく、3~7質量部が更に好ましい。上記範囲よりも硬化剤の配合量が少ない場合には、充分な硬化性を得ることができず、一方上記範囲よりも硬化剤の配合量が多い場合には、経済性に劣るだけでなく、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対して、硬化剤の官能基が大過剰になると、硬化剤1分子が2分子以上のポリエステル樹脂と反応することが困難になり、結果として架橋形成に不備が生じ、かえって硬化性が低下する場合がある。また長期保存の安定性に劣るおそれがある。
また、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対する硬化剤の官能基量(β-ヒドロキシアルキルアミド基等)としては、0.2~3.0当量の範囲が好ましく、0.5~2.5当量の範囲が更に好ましい。
【0033】
(水性媒体)
本発明の水性塗料組成物は上述したポリエステル樹脂及び硬化剤、並びに水性媒体を含有する。水性媒体としては、公知の水性塗料組成物と同様に、水、或いは水とアルコールや多価アルコール、その誘導体等の有機溶剤を混合したものを水性媒体として用いることができる。有機溶剤を用いる場合には、水性塗料組成物中の水性媒体全体に対して、1~45質量%の量で含有することが好ましく、特に5~30質量%の量で含有することが好ましい。上記範囲で溶剤を含有することにより、製膜性能が向上する。
このような有機溶媒としては、両親媒性を有するものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n―ブタノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールエチレングリコールモノブルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メチル3-メトキシブタノールなどが挙げられる。
【0034】
(塩基性化合物)
本発明の水性塗料組成物において、ポリエステル樹脂に水分散性又は水溶性を付与するために、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和可能な塩基性化合物が含有されていることが好ましい。塩基性化合物としては塗膜形成時の焼付で揮散する化合物、すなわち、アンモニア及び/又は沸点が250℃以下の有機アミン化合物などが好ましい。
具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミン類、2-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類等が使用される。またエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の多価アミンも使用できる。更に、分岐鎖アルキル基を有するアミンや複素環アミンも好適に使用される。分岐鎖アルキル基を有するアミンとしては、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソアミルアミン等の炭素数3~6、特に炭素数3~4の分岐鎖アルキルアミンが使用される。複素環アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等の1個の窒素原子を含む飽和複素環アミンが使用される。
本発明においては、上記の中でもトリエチルアミン、又は2-ジメチルアミノエタノールを好適に使用することができ、その使用量は、カルボキシル基に対して0.5~1.5当量で用いるのがよい。
【0035】
(硬化触媒)
本発明の水性塗料組成物には、必要に応じてポリエステル樹脂と硬化剤の架橋反応を促進する目的で硬化触媒を配合しても良い。硬化触媒としては、従来公知の硬化触媒を用いることができ、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、またはこれらのアミンブロック化物等の酸触媒、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機亜鉛化合物、有機コバルト化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム等の金属酸化物、アルカリ金属次亜リン酸塩、アルカリ金属亜リン酸塩、次亜リン酸、アルキルホスフィン酸等のリン系化合物などを使用することができる。 硬化触媒は、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲で配合することが好ましい。上記範囲よりも硬化触媒の配合量が少ない場合には、硬化触媒を配合することにより得られる硬化反応促進効果を充分に得ることができない。一方上記範囲よりも硬化触媒の配合量が多い場合には、それ以上の効果が望めず、経済性に劣る。
【0036】
(潤滑剤)
本発明の水性塗料組成物には、必要に応じ潤滑剤を含有することができる。ポリエステル樹脂100質量部に対し、潤滑剤0.1質量部~10質量部を加えることが好ましい。
潤滑剤を加えることにより、缶蓋等の成形加工時の塗膜の傷付きを抑制でき、また成形加工時の塗膜の滑り性を向上させることができる。
【0037】
本発明の水性塗料組成物に加えることのできる潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、およびシリコン系化合物、などを挙げることができる。これらの潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。
【0038】
(その他)
本発明の水性塗料組成物には、上記成分の他、従来より塗料組成物に配合されている、レベリング剤、顔料、消泡剤等を従来公知の処方に従って添加することもできる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂と併せてその他の樹脂成分が含まれていても良く、例えばポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、アクリルアミド系化合物、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の水分散或いは水溶性樹脂が含まれていても良い。
本発明の水性塗料組成物においては、ポリエステル樹脂が固形分として5~55質量%の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも樹脂固形分が少ない場合には、適正な塗膜量を確保することができず、被覆性が劣るようになる。一方、上記範囲よりも樹脂固形分が多い場合には、作業性・塗工性に劣る場合がある。
【0039】
(塗装金属基体の製造方法)
本発明の塗装金属基体の製造方法は、上述した水性塗料組成物を金属基体上に塗布する塗装工程と、該塗装工程で金属基体上に塗布された水性塗料組成物を200℃より高く320℃以下の温度で加熱する焼き付け工程とからなっている。
【0040】
(塗装工程)
塗装工程においては、上述した水性塗料組成物をロールコーター塗装、スプレー塗装などの公知の塗装方法によって金属基体に塗装することによって行う。
なお、乾燥膜厚が20μm未満、特に0.5~15μmの膜厚となるように塗工することが望ましい。
【0041】
(焼き付け工程)
焼き付け方法は、金属基体の形状等に応じて、従来公知の加熱手段によって行うことができる。
焼き付け工程においては、金属基体に塗布された水性塗料組成物を200℃より高く320℃以下の温度で加熱することが好ましい。なお、ここで言う温度は焼き付け時の雰囲気温度(オーブンの炉内温度)を指す。
上記範囲の温度で加熱することで、酸価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の比較的酸価の低いポリエステル樹脂及び特定の硬化剤から成る水性塗料組成物を用いた場合にも、短時間で充分な硬化性を得ることが可能になる。上記範囲よりも焼き付け温度が低い場合には、焼き付け時間が短い場合に充分な硬化度が得られない場合がある。一方で、上記範囲よりも焼き付け温度が高い場合には、過度な加熱によりポリエステル樹脂が熱分解するおそれがある。なお、焼付け時間としては、5秒以上、好ましくは5~180秒、特に10~120秒加熱することが好ましい。上記範囲よりも焼付け時間が短い場合には、充分な硬化度を得られないおそれがあり、上記範囲よりも焼付け時間が長い場合には経済性や生産性に劣る。
焼き付け方法は、金属基体の形状等に応じて、従来公知の加熱手段によって行うことができる。
【0042】
(塗装金属基体)
本発明においては、前述した水性塗料組成物から成る塗膜が形成された塗装金属基体を形成することができる。このような塗膜を形成する金属基体としては、金属板の他、金属缶、金属蓋等を挙げることができる。
【0043】
(塗装金属板)
本発明の塗装金属板は、金属板の少なくとも一方の表面に、前述した水性塗料組成物から成る塗膜が形成されて成るものである。
金属板としては、これに限定されないが、例えば、熱延伸鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、ティンフリースチール、ニッケルメッキ鋼板、極薄スズメッキ鋼板、クロム処理鋼板などが挙げられ、必要に応じてこれらに各種表面処理、例えばリン酸クロメート処理やジルコニウム系の化成処理等を行ったものが使用できる。
塗装金属板において塗膜の厚みは、20μm未満、特に0.5~15μmの範囲にあることが好適である。
また、上記塗装金属板の塗膜上に更に、有機樹脂被覆層としてポリエステル樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし、有機樹脂被覆塗装金属板を形成することもできる。
【0044】
(塗装金属缶)
本発明の塗装金属缶は、予め成形された金属缶の少なくとも片面に前述した水性塗料組成物を直接塗装することによって得られるものであってもよいし、或いは上記塗装金属板の塗膜形成面を内面として成形された3ピース缶(溶接缶)であってもよく、また前述の塗装金属板上に有機樹脂被覆層を形成した有機樹脂被覆塗装金属板からシームレス缶等の金属缶に成形することもできる。このようなシームレス缶は、有機樹脂被覆塗装金属板を、絞りしごき加工、絞り加工、絞りストレッチ加工、絞りストレッチしごき加工等により成形することができる。
塗装金属缶においても、塗膜の厚みは、20μm未満、特に0.5~15μmの範囲にあることが好適である。
【実施例】
【0045】
以下実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において単に部とあるものは質量部を示す。
【0046】
ポリエステル樹脂の各種測定項目は以下の方法に従った。なお、測定にはカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の水分散液から、エバポレーターを用いて水性媒体を除去した後、真空乾燥により得られた固形物を用いた。
(数平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。
(酸価の測定)
ポリエステル樹脂0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂酸価(mgKOH/g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。ポリエステル樹脂が溶解しない場合には、溶媒にテトラヒドロフラン等の溶媒を用いた。
(モノマー組成の測定)
ポリエステル樹脂のモノマー組成は、真空乾燥した樹脂30mgを重クロロホルム0.6mlに溶解させ、1H-NMR測定し、ピーク強度から組成比を求めた。なおごく微量な成分(全モノマー成分に対して1モル%未満)は除き、組成比を決定した。
【0047】
(塗装金属板の作成)
実施例、比較例、参考例の各水性塗料組成物を、リン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.28mm、表面処理皮膜中のクロム重量:20mg/m2)にバーコーターで焼き付け後の塗膜厚みが所定の膜厚となるように塗装し、所定の焼付け温度及び時間で、オーブン焼付けし、塗装金属板を作製した。なお塗装条件としては、表1に示す通りであり、実施例1においては焼き付け温度(オーブン炉内温度)を260℃、焼き付け時間を60秒、焼き付け塗膜厚みを1.5μmとした。得られた塗装金属板は下記の評価方法に基づいて各種評価を行った。
【0048】
(硬化性)
塗装金属板の硬化性はMEK抽出率で評価した。塗装金属板から5cm×5cmサイズの試験片を切り出し、サンプルの質量測定後(W1)、200mlのMEK(メチルエチルケトン)を用い、室温で1時間の抽出を行った。抽出後の塗装板を130℃×1時間の条件で乾燥し、抽出後のサンプルの質量(W2)を測定した。さらに塗膜を濃硫酸による分解法で剥離し、サンプルの質量(W3)を測定した。塗装板のMEK抽出率は下記式(3)で求められる。結果を表1に示す。
MEK抽出率%=100×(W1-W2)/(W1-W3)・・・(3)
評価基準は次の通りである。
◎:10%未満
○:10%以上30%未満
△:30%以上50%未満
×:50%以上
【0049】
(加工性)
塗装金属板をアルミニウム板の圧延方向が長辺となるように3.5×4cmの大きさに切り出し、この試験片の塗装面が外になるように短辺に平行に折り曲げた。25℃の雰囲気下で折り曲げ部の内側に0.28mmのアルミニウム板を2枚挟み、ハゼ折タイプデュポン衝撃試験器を用い衝撃屈曲させた。衝撃屈曲させる接触面が平らな鉄の錘の重さは3kgで、これを高さは40cmから落下させ、この折り曲げられた先端部分の2cm幅の電流値(mA)を1%塩化ナトリウム水溶液に浸漬したスポンジに接触させ、電圧6.3Vをかけ4秒後に測定した。結果を表1に示す。
◎:5mA未満
○:5mA以上20mA未満
△:20mA以上30mA未満
×:30mA以上
【0050】
(耐食性)
塗装金属板から5cm×5cmサイズの試験片を切り出した後、デュポン衝撃試験器を用い、撃芯の尖端直径1/4インチ、錘荷重120g、落錘高さ30cmの条件で試験塗板の塗面に衝撃張り出し加工を施した試験片を、缶内容物擬似液であるモデル液に浸漬し、腐食の程度を下記基準により目視で評価した。浸漬条件は、37℃で14日間とした。
試験に用いたモデル液は、食塩を0.2%とし、これにクエン酸を加えてpHが2.5となるよう調製したものを用いた。結果を表1に示す。
◎:腐食なし
○:僅かに腐食
△:部分的に腐食
X:大部分で腐食
【0051】
(耐レトルト性)
塗装金属板をオートクレーブに入れ、125℃30分のレトルト処理を施し、塗膜の白化状態(白化性)を目視で評価した。結果を表2に示す。
◎:白化なし
○:僅かに白化
△:少し白化
×:著しく白化
【0052】
[水性塗料組成物の調製]
(実施例1)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂A(酸価:23mgKOH/g、Tg:80℃、Mn=7,500、モノマー組成:テレフタル酸成分/エチレングリコール成分/プロピレングリコール成分=50/10/40mol%)、β-ヒドロキシアルキルアミド基含有硬化剤としてN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド[東京化成工業社製;表中「β-ヒドロキシアルキルアミドA」と表記]を用いた。ポリエステル樹脂Aの水分散液(固形分濃度:30wt%)を333部(固形分100部)、予めイオン交換水を用いて調整しておいたβ-ヒドロキシアルキルアミド基含有硬化剤の水溶液(固形分濃度:10wt%)を50部(固形分5部)、2-プロパノール150部、イオン交換水517部をガラス容器内に入れて10分間攪拌し、固形分濃度10質量%、固形分配合比がポリエステル樹脂/硬化剤=100/5(質量比)の水性塗料組成物を得た。
【0053】
(実施例2~23)
表1、表2に示す各種ポリエステル樹脂、硬化剤、固形分配合比(質量比)となるようにした以外は、実施例1と同様に水性塗料組成物を調製した。ポリエステル樹脂としてはポリエステル樹脂B(Tg:67℃、Mn=9,000、酸価:18mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=36/14/24/26mol%)、ポリエステル樹脂C(Tg:40℃、Mn=8,500、酸価:17mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/アジピン酸/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=28/15/7/25/25mol%)、ポリエステル樹脂D(Tg:20℃、Mn=11,000、酸価:11mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=31/7/12/30/20mol%)、ポリエステル樹脂E(Tg:8℃、Mn=19,000、酸価:12mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=30/5/15/22/28mol%)、ポリエステル樹脂F(Tg:-25℃、Mn=17,000、酸価:12mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/1,4-ブタンジオール成分=14/17/19/50mol%)、ポリエステル樹脂G(Tg:40℃、Mn=5,000、酸価:29mgKOH/g)、ポリエステル樹脂H(Tg:52℃、Mn=17,000、酸価:5mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/アジピン酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=23/23/4/24/26mol%)を用いた。
実施例20,21,23においてはβ-ヒドロキシアルキルアミド基含有硬化剤としてN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド[EMS社製Primid QM1260;表中「β-ヒドロキシアルキルアミドB」と表記]を用いた。
【0054】
(比較例1~6)
表1に示す各種ポリエステル樹脂、固形分配合比(質量比となるようにした以外は、実施例1と同様に水性塗料組成物を調製し、塗装金属板を作製した。
【0055】
(参考例1)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂A(酸価:23mgKOH/g、Tg:80℃、Mn=7,500)、硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂を用いた。レゾール型フェノール樹脂としては、メチロール基をブチルエーテル化したメタクレゾール系フェノール樹脂(エーテル化されたメチロール基の割合:90モル%、Mn=1,600)を用いた。ポリエステル樹脂Aの水分散液333部(固形分100部)、上記レゾール型フェノール樹脂のn-ブタノール溶液40部(固形分20部)、ドデシルベンゼンスルホン酸1部(硬化触媒)、トリエチルアミン0.3部、2-プロパノール200部、イオン交換水635部を用いて水性塗料組成物(固形分濃度:10質量%、固形分配合比:ポリエステル樹脂/硬化剤=100/15)を調製した。なお、ドデシルベンゼンスルホン酸としては、東京化成工業社製「ドデシルベンゼンスルホン酸(ソフト型)(混合物)」を用いた。得られた水性塗料組成物を用いて実施例1と同様に塗装金属板を作製した。
【0056】
(参考例2)
水性塗料組成物中の固形分配合比がポリエステル樹脂/硬化剤=100/5(質量比)となるように硬化剤のn―ブタノール溶液及びイオン交換水の配合量を調整した以外は、参考例1と同様に水性塗料組成物を調製し、塗装金属板を作製した。
【0057】
表1に、表2に各水性塗料組成物の組成(ポリエステル樹脂の種類、硬化剤の種類、固形分配合比)及び塗装条件(焼き付け温度、焼き付け時間、塗膜厚み)と共に評価結果を示す。
【0058】
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の塗装金属基体の製造方法は、優れた加工性及び硬化性、耐食性を有する塗装金属基体を製造可能である。また本発明の塗装金属板、及び塗装金属缶は、優れた加工性、及び硬化性、耐食性を兼ね備えており、高い加工性、耐食性が要求される飲料缶用途に好適に使用できる。