(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
H01G9/00 290A
(21)【出願番号】P 2018095322
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】榎 修平
(72)【発明者】
【氏名】白井 麻美
(72)【発明者】
【氏名】片野 雅彦
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-364019(JP,A)
【文献】特開昭53-135452(JP,A)
【文献】特開昭54-102251(JP,A)
【文献】特開2000-003835(JP,A)
【文献】特開平09-246108(JP,A)
【文献】特開平05-074663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性のアルミニウム電極を70℃以上の純水に浸漬して当該アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、
前記アルミニウム電極を、温度が300℃以上、かつ600℃以下の雰囲気中で加熱する熱処理工程と、
前記アルミニウム電極を、純水に第1水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第2水和処理工程と、
前記アルミニウム電極を化成処理する化成処理工程と、
を有し、
前記第1水和処理工程と前記化成処理工程との間において、前記熱処理工程と前記第2水和処理工程とをこの順番で複数回繰り返すことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であることを特徴とする請求項
1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、
前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、ホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理することを特徴とする請求項
2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項4】
前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩であることを特徴とする請求項
2または3に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項5】
前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有することを特徴とする請求項
1から4のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項6】
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であることを特徴とする請求項
5に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項7】
前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、
前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、ホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理することを特徴とする請求項
6に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項8】
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩であることを特徴とする請求項
6または7に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項9】
多孔性のアルミニウム電極を70℃以上の純水に浸漬して当該アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、
前記アルミニウム電極を、温度が300℃以上、かつ600℃以下の雰囲気中で加熱する熱処理工程と、
前記アルミニウム電極を、純水に第1水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第2水和処理工程と、
前記アルミニウム電極を化成処理する化成処理工程と、
を有
し、
前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項10】
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であることを特徴とする請求項
9に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項11】
前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、
前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、ホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理することを特徴とする請求項
10に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項12】
前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩であることを特徴とする請求項
10または11に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項13】
前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、600V以上の化成電圧で化成処理を行うことを特徴とする請求項
1から12のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【請求項14】
前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、200V以上、かつ600V未満の
化成電圧で化成処理を行うことを特徴とする請求項
1から12のうちのいずれか一項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電極を化成するアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法では、化成処理工程の前に、アルミニウム電極を70℃から100℃の純水に浸漬して水和皮膜を形成する水和処理工程を行うことが知られている。このようにすれば、化成処理工程において、水和皮膜中の擬ベーマイト等が脱水して化成皮膜に変換される場合に、結晶性の高い化成皮膜が得られるからである。結晶性が高い化成皮膜は、静電容量が高い。また、水和皮膜中の擬ベーマイトの量が多い場合、その後の化成処理工程において高い皮膜耐電圧を得られる。
【0003】
係る製造方法において、化成電圧を変更せずに皮膜耐電圧をさらに高くしようとする場合、擬ベーマイトの量を増加させる必要がある。擬ベーマイトの量を増加させるためには、アルミニウム電極を純水に浸漬する浸漬時間を長くして、水和皮膜の厚みを増大させる。しかし、水和皮膜の厚みを増大させると、アルミニウム電極の多孔質層に水和皮膜による目詰まりが発生する。目詰まりが発生すると、目詰まり部分では表面積が低下するので、静電容量が低下するという問題がある。また、目詰まりが発生すると、目詰まり部分に電解液が浸透しないので、化成皮膜が適正に形成されず、化成皮膜の耐水和性が低下するという問題がある。従って、純水への浸漬時間を長くして擬ベーマイトの量を増加させるのには、限界がある。
【0004】
ここで、特許文献1には、水和処理工程と化成処理工程との間において、熱処理工程と水和処理工程とをこの順番で複数回繰り返すアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法が開示されている。熱処理工程では、アルミニウム電極を100℃から600℃の雰囲気中で加熱して脱水する。加熱処理工程の後の水和処理工程では、アルミニウム電極を90℃の純水中に10分間浸漬させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法によれば、漏れ電流を低減することができるので皮膜耐電圧が高くなる。しかし、係る製造方法において、300℃から600℃の雰囲気中で加熱する熱処理工程と水和処理工程とを複数回繰り返した場合には、化成後のアルミニウム電極の静電容量が低下し、600V未満では静電容量の低下が顕著である。また、600V以上であっても、静電容量の低下が無視できない程度に大きい。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、水和皮膜中の擬ベーマイトの量を増加させることができ、それによって皮膜耐電圧を高くしながら静電容量の低下も抑制できるアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水和処理工程と化成処理工程との間に熱処理工程と水和処理工程とを行
った場合に静電容量が低下する理由は、熱処理工程によりアルミニウム電極の表面が非常に活性となるので、その後に水和処理工程を行うと水和反応が爆発的に進行し、水和皮膜で多孔質層のピットが埋まってしまうのに起因するという知見を得た。本発明は、係る知見に基づく。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、多孔性のアルミニウム電極を70℃以上の純水に浸漬して当該アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、前記アルミニウム電極を、温度が300℃以上、かつ600℃以下の雰囲気中で加熱する熱処理工程と、前記アルミニウム電極を、純水に第1水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第2水和処理工程と、前記アルミニウム電極を化成処理する化成処理工程と、を有し、前記第1水和処理工程と前記化成処理工程との間において、前記熱処理工程と前記第2水和処理工程とをこの順番で複数回繰り返すことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、熱処理工程の後に行われる第2水和処理工程では、水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。これにより、第2水和処理工程で水和反応の爆発的な進行を抑制できるので、水和皮膜により多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止あるいは抑制できる。従って、多孔性のアルミニウム電極において、ピットの目詰まりにより表面積が低下することを防止或いは抑制できる。また、第2水和処理工程では、水和処理溶液に水和抑制剤が配合されているので、アルミニウム電極上に形成される水和皮膜の厚みはほとんど増加せず、その密度が増加して、擬ベーマイトの量が増加する。よって、化成処理後の静電容量の低下を防止或いは抑制できる。さらに、第2水和処理工程では、水和皮膜の厚みの増加を抑制しつつ、密度の増加によって水和皮膜が緻密になるので、化成処理後の皮膜耐電圧が高くなる。
【0011】
本発明において、前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であるものとすることができる。
【0012】
この場合において、前記アルミニウム電極を、前記化成処理工程においてホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理する場合においては、前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であることが望ましい。このようにすれば、化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。アルミニウム電極を、化成処理工程においてホウ酸またはその塩を含まない化成液中で化成処理する場合においては、この限りではない。また、本発明において、前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩とすることができる。
【0013】
本発明において、前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有することが望ましい。第3水和処理工程を有すれば、水和皮膜が緻密となるので、多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止する効果が高くなる。よって、静電容量の低下を防止する効果が高まり、さらに皮膜耐電圧を高くしやすい。本発明において、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン
酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であるものとすることができる。
【0014】
この場合において、前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、ホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理する場合においては、前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であることが望ましい。このようにすれば、化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。アルミニウム電極を、化成処理工程においてホウ酸またはその塩を含まない化成液中で化成処理する場合においては、この限りではない。また、本発明において、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩とすることができる。
【0015】
次に、本発明の第2の形態に係る発明は、多孔性のアルミニウム電極を70℃以上の純水に浸漬して当該アルミニウム電極に水和皮膜を形成する第1水和処理工程と、前記アルミニウム電極を、温度が300℃以上、かつ600℃以下の雰囲気中で加熱する熱処理工程と、前記アルミニウム電極を、純水に第1水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第2水和処理工程と、前記アルミニウム電極を化成処理する化成処理工程と、を有し、前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、熱処理工程の後に行われる第2水和処理工程では、水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。これにより、第2水和処理工程で水和反応の爆発的な進行を抑制できるので、水和皮膜により多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止あるいは抑制できる。従って、多孔性のアルミニウム電極において、ピットの目詰まりにより表面積が低下することを防止或いは抑制できる。また、第2水和処理工程では、水和処理溶液に水和抑制剤が配合されているので、アルミニウム電極上に形成される水和皮膜の厚みはほとんど増加せず、その密度が増加して、擬ベーマイトの量が増加する。よって、化成処理後の静電容量の低下を防止或いは抑制できる。さらに、第2水和処理工程では、水和皮膜の厚みの増加を抑制しつつ、密度の増加によって水和皮膜が緻密になるので、化成処理後の皮膜耐電圧が高くなる。また、本発明によれば、前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有する。第3水和処理工程を有すれば、水和皮膜が緻密となるので、多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止する効果が高くなる。よって、静電容量の低下を防止する効果が高まり、さらに皮膜耐電
圧を高くしやすい。
【0017】
本発明において、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、であるものとすることができる。
【0018】
この場合において、前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、ホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理する場合においては、前記第1水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であり、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、若しくは、アルミン酸塩であることが望ましい。このようにすれば、化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。アルミニウム電極を、化成処理工程においてホウ酸またはその塩を含まない化成液中で化成処理する場合においては、この限りではない。また、本発明において、前記第2水和抑制剤は、リン酸またはその塩とすることができる。
【0019】
本発明の第1の形態および第2の形態において、前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を600V以上の化成電圧で化成処理を行うものとすることができる。本発明によれば、係る化成電圧により化成処理を行う場合において、高い静電容量を発現できる。
【0020】
本発明の第1の形態および第2の形態において、前記化成処理工程では、前記アルミニウム電極を、200V以上、かつ600V未満の化成電圧で化成処理を行うものとすることができる。本発明によれば、係る化成電圧により化成処理を行う場合においても、高い静電容量を発現できる。また、このようにすれば、皮膜耐電圧を高くしやすい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱処理工程の後に行われる第2水和処理工程では、水和処理溶液に水
和抑制剤が配合されているので、水和反応の爆発的な進行を抑制できる。これにより、水和皮膜により多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止あるいは抑制できる。よって、多孔性のアルミニウム電極の表面積が低下することを防止或いは抑制できる。また、第2水和処理工程では、アルミニウム電解に形成される水和皮膜の厚みはほとんど増加せず、その密度が増加して、擬ベーマイトの量が増加する。よって、化成処理後の静電容量の低下を防止或いは抑制できる。さらに、第2水和処理工程では、水和皮膜の厚みの増加を抑制でき、密度の増加によって水和皮膜が緻密になるので、化成処理後の皮膜耐電圧が高くなる。また、前記第1水和処理工程と前記熱処理工程との間に、前記アルミニウム電極を、純水に第2水和抑制剤を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬する第3水和処理工程を有する形態では、水和皮膜が緻密となるので、多孔性のアルミニウム電極のピットが埋まることを防止する効果が高くなる。よって、静電容量の低下を防止する効果が高まり、さらに皮膜耐電圧を高くしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】アルミニウム電解コンデンサ用電極の第1の製造方法のフローチャートである。
【
図2】アルミニウム電解コンデンサ用電極の第2の製造方法のフローチャートである。
【
図4】実施例1~5、比較例1、2において化成処理工程よりも前に行われる前処理工程の説明図である。
【
図5】実施例1~5、比較例1、2について、化成処理後のアルミニウム電極の静電容量および皮膜耐電圧を示す説明図である。
【
図6】実施例1~5、比較例1、2の製造方法において、化成処理工程の直前におけるアルミニウム電極の水和皮膜の断面を電子顕微鏡で観察した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、アルミニウム電解コンデンサ用電極を製造するにあたって、多孔性のアルミニウム電極の表面に化成処理を行ってアルミニウム電解コンデンサ用電極を製造する。本例では、多孔性のアルミニウム電極として、アルミニウム箔をエッチングしたエッチド箔に化成処理を行いてアルミニウム電解コンデンサ用電極を製造する。以下、アルミニウム電解コンデンサを説明した後に、アルミニウム電極の製造方法を説明する。
【0024】
(アルミニウム電解コンデンサ)
本形態の化成処理済みのアルミニウム電極1(アルミニウム電解コンデンサ用電極)を用いてアルミニウム電解コンデンサを製造するには、例えば、化成処理済みのアルミニウム電極1(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層してコンデンサ素子を形成する。次に、コンデンサ素子を電解液(ペースト)に含浸する。しかる後には、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体でケースを封口する。
【0025】
また、電解液に代えて固体電解質を用いる場合、化成処理済みのアルミニウム電極1(アルミニウム電解コンデンサ用電極)からなる陽極箔の表面に固体電解質層を形成した後、固体電解質層の表面に陰極層を形成し、しかる後に、樹脂等により外装する。その際、陽極に電気的接続する陽極端子と陰極層に電気的接続する陰極端子とを設ける。この場合、陽極箔が複数枚積層されることがある。
【0026】
(アルミニウム電極の製造方法)
図1は本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の第1の製造方法を示すフローチャートである。
図2は本発明を適用したアルミニウム電解コンデンサ用電極の第2の製造方法を示すフローチャートである。
図3は化成処理工程の説明図である。
【0027】
本例発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用陽極箔の第1の製造方法は、
図1に示すように、水和処理工程ST11(第1水和処理工程)、熱処理工程ST12、熱処理後水和処理工程ST13(第2水和処理工程)、および、化成処理工程ST14を有する。熱処理工程ST12および熱処理後水和処理工程ST13は、水和処理工程ST11と化成処理工程ST14との間において、この順番で、1回、または複数回、繰り返される。
【0028】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用陽極箔の第2の製造方法は、
図2に示すように、水和処理工程ST21(第1水和処理工程)、熱処理前水和処理工程ST22(第3水和処理工程)、熱処理工程ST23、熱処理後水和処理工程ST24(第2水和処理工程)、および、化成処理工程ST25を有する。熱処理工程ST23および熱処理後水和処理工程ST24は、熱処理前水和処理工程ST22と化成処理工程ST25との間において、この順番で、1回、または複数回、繰り返される。
【0029】
第1の製造方法の水和処理工程ST11および第2の製造方法の水和処理工程ST21では、アルミニウム電極1を70℃以上の純水に浸漬させ、アルミニウム電極1に水和皮膜を形成する。本例では、90℃に加熱した純水にアルミニウム電極1を浸漬させる。アルミニウム電極1の純水への浸漬時間は、本例では10分である。
【0030】
第1の製造方法の熱処理工程ST12および第2の製造方法の熱処理工程ST23では、アルミニウム電極1を、温度が300℃以上、600℃以下の雰囲気中で加熱して脱水する。アルミニウム電極1は、例えば、熱処理炉内に配置して加熱する。熱処理炉内の雰囲気は、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、水蒸気雰囲気のいずれでもよい。本例では、アルミニウム電極1を500℃の雰囲気中で、5分間、加熱する。
【0031】
第1の製造方法の熱処理後水和処理工程ST13および第2の製造方法の熱処理後水和処理工程ST24では、アルミニウム電極1を、純水に水和抑制剤(第1水和抑制剤)を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬させて、水和皮膜を形成する。本例では、95℃に加熱した水和処理溶液に、5分間、アルミニウム電極1を浸漬させる。水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、である。
【0032】
ここで、第2の製造方法の熱処理前水和処理工程ST22では、アルミニウム電極1を、純水に水和抑制剤(第2水和抑制剤)を配合した70℃以上の水和処理溶液に浸漬させて、水和皮膜を形成する。本例では、95℃に加熱した水和処理溶液にアルミニウム電極1を浸漬させる。アルミニウム電極1の水和処理溶液への浸漬時間は、本例では5分である。水和抑制剤は、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩、アルミン酸塩、炭素数が3以上の糖または炭素数が3以上の糖アルコール、若しくは、炭素数が3以上の有機酸またはその塩、である。
【0033】
第1の製造方法の化成処理工程ST14および第2の製造方法の化成処理工程ST25では、アルミニウム電極1を化成液中で化成処理を行う。化成液としては、ホウ酸あるいはその塩を含むホウ酸系化成液や、アジピン酸アンモニウム等を配合した有機酸系化成液を用いる。また、化成処理工程ST14および化成処理工程ST25では、
図3に示すように、電源電圧が化成電圧Vfまで到達する定電流化成処理工程ST31を行った後、電源電圧を化成電圧Vfに保持した定電圧化成処理工程ST32を行う。さらに、定電圧化成処理工程ST32では、複数回の化成処理ST33を行い、化成処理ST33と化成処理ST33との間に熱処理ST34(熱デポラリゼーション処理)を行う。熱処理ST34の温度は、例えば、350℃以上、かつ600℃以下であり、加熱時間は2分以上、かつ10分以下である。
【0034】
本例では、化成液としてホウ酸系化成液を用いる。また、化成電圧を600V以上とする。定電圧化成処理工程ST32では2回の化成処理ST33の間に1回の熱処理ST34を含む。熱処理ST34では、アルミニウム電極1を500℃の雰囲気中で5分間加熱する。
【0035】
なお、第1の製造方法の化成処理工程ST14および第2の製造方法の化成処理工程ST25では、他の公知の方法によってアルミニウム電極1の化成処理を行っても良い。
【0036】
(実施例)
図4は、本発明を適用した実施例1~5において、化成処理工程の前に行われる前処理工程の説明図である。
図5には、アルミニウム電解コンデンサ用電極の従来の製造方法における前処理工程を比較例1、2として示してある。
【0037】
図5に示すように、実施例1のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、第1の製造方法である。第1の製造方法は、前処理工程として、水和処理工程ST11、熱処理工程ST12、および、熱処理後水和処理工程ST13を有する。熱処理工程ST12と熱処理後水和処理工程ST13とは、それぞれ1回行われる。熱処理後水和処理工程ST13において、純水に配合された水和抑制剤は、リン酸またはその塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。
【0038】
実施例2のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、第2の製造方法である。第2の製造方法は、前処理工程として、水和処理工程ST21、熱処理前水和処理工程ST22、熱処理工程ST23、および、熱処理後水和処理工程ST24を有する。熱処理工程ST23と熱処理後水和処理工程ST24とは、この順番で4回繰り返される。熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24のそれぞれにおいて、純水に配合された水和抑制剤はリン酸塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。
【0039】
実施例3のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、第1の製造方法である。第1の製造方法は、前処理工程として、水和処理工程ST11、熱処理工程ST12、熱処理後水和処理工程ST13を有する。熱処理工程ST12と熱処理後水和処理工程ST
13とは、この順番で4回繰り返される。熱処理後水和処理工程ST13において、純水に配合された水和抑制剤はケイ酸塩であり、水和処理溶液はケイ酸ナトリウムを含む。
【0040】
実施例4のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、第2の製造方法である。第2の製造方法は、前処理工程として、水和処理工程ST21、熱処理前水和処理工程ST22、熱処理工程ST23、熱処理後水和処理工程ST24を有する。熱処理工程ST23と熱処理後水和処理工程ST24とは、この順番で4回繰り返される。熱処理前水和処理工程ST22において、純水に配合された水和抑制剤はリン酸塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。4回繰り返される熱処理後水和処理工程ST24において、前半に繰り返される2回の熱処理後水和処理工程ST24では、純水に配合された水和抑制剤はケイ酸塩であり、水和処理溶液はケイ酸ナトリウムを含む。後半に繰り返される2回の熱処理後水和処理工程ST24では、純水に配合された水和抑制剤はリン酸塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。
【0041】
実施例5のアルミニウム電解コンデンサ用電極の製造方法は、第2の製造方法である。第2の製造方法は、前処理工程として、水和処理工程ST21、熱処理前水和処理工程ST22、熱処理工程ST23、熱処理後水和処理工程ST24を有する。熱処理工程ST23と熱処理後水和処理工程ST24とは、この順番で4回繰り返される。熱処理前水和処理工程ST22において、純水に配合された水和抑制剤はリン酸塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。4回繰り返される熱処理後水和処理工程ST24において、最初から3回目まで繰り返される熱処理後水和処理工程ST24では、純水に配合された水和抑制剤はリン酸塩であり、水和処理溶液はリン酸二水素アンモニウムを含む。4回目の熱処理後水和処理工程ST24では、純水に配合された水和抑制剤はリン酸である。
【0042】
第1の製造方法の熱処理後水和処理工程ST13、第2の製造方法の熱処理前水和処理工程ST22および処理後水和処理工程ST24において、水和処理溶液がリン酸二水素アンモニウムを含む実施例1、2、4、5では、リン酸二水素アンモニウムは1g/L配合されている。水和処理溶液がケイ酸ナトリウムを含む実施例2では、ケイ酸ナトリウムは5g/L配合されている。水和処理溶液がリン酸を含む実施例5では、リン酸は0.1g/L配合されている。
【0043】
なお、第1の製造方法の化成処理工程ST14および第2の製造方法の化成処理工程SR25では、それぞれ、ホウ酸80g/L、五ホウ酸アンモニウム八水和物0.5g/Lを配合した化成液を用いる。また、化成電圧Vfを660Vとして、定電流化成処理工程ST31および定電圧化成処理工程ST32を行う。定電圧化成処理工程ST32においては、化成液中にアルミニウム電極1を20分間保持して化成処理を行った後、アルミニウム電極1を500℃の雰囲気中で5分間加熱する熱処理ST34を行い、しかる後に、化成液中にアルミニウム電極1を10分間保持して化成処理を行う。
【0044】
次に、比較例1は、化成処理工程の前に、前処理工程として水和処理工程のみを行う。比較例1では、水和処理工程において、95℃に加熱した純水にアルミニウム電極1を20分間浸漬させている。比較例1において、アルミニウム電極1を純水に浸漬される浸漬時間は、実施例1~5の2倍である。
【0045】
比較例2は、化成処理工程の前に、前処理工程として水和処理工程、熱処理工程、および、熱処理後水和処理工程を行う。比較例2では、水和処理工程において、95℃に加熱した純水にアルミニウム電極1を10分間浸漬させる。熱処理工程では、アルミニウム電極1を500℃の雰囲気中で5分間加熱する。熱処理後水和処理工程では、95℃に加熱した純水にアルミニウム電極1を10分間浸漬させる。比較例2では、熱処理後水和処理
工程においてアルミニウム電極1を浸漬させる水和処理溶液は、純水であり、純水に水和抑制剤を調合したものではない。
【0046】
図5は、実施例1~5、比較例1、2について、化成処理後のアルミニウム電極1の静電容量および皮膜耐電圧を示す説明図である。静電容量は、比較例1における化成処理後のアルミニウム電極1の静電容量を100とした場合の相対値を示す。
【0047】
実施例1~5によれば、比較例2と比較して、化成処理後のアルミニウム電極1の静電容量が低下することを抑制できる。すなわち、熱処理後水和処理工程においてアルミニウム電極1を純水に浸漬させる比較例2では、静電容量が比較例1の60%まで低下するのに対して、実施例1~5では、静電容量は比較例1の96%~99%であり、その低下が抑制される。
【0048】
さらに、実施例1~5によれば、比較例1と比較して、アルミニウム電極1の皮膜耐電圧が向上する。
【0049】
ここで、第1の製造方法を採用した実施例1、3では、化成処理工程ST14においてアルミニウム電極1をホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理するのに際し、熱処理後水和処理工程ST13で用いる水和抑制剤として、リン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩を採用している。これにより、実施例1、3では、化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。また、第2の製造方法を採用した実施例2、4、5では、化成処理工程ST25においてアルミニウム電極1をホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理するのに際し、熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24で用いる水和抑制剤としてリン酸またはその塩、ケイ酸またはその塩を採用している。これにより、実施例2、4、5では、化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。実施例1~5では、化成皮膜中のホウ素濃度を100質量ppm~6000質量ppmとすることができる。
【0050】
なお、第1の製造方法の化成処理工程ST14においてアルミニウム電極1をホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理するのに際し、熱処理後水和処理工程ST13で用いる水和抑制剤としてアルミン酸塩を採用した場合でも化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。また、第2の製造方法の化成処理工程ST25においてアルミニウム電極1をホウ酸またはその塩を含む化成液中で化成処理するのに際して、熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24で用いる水和抑制剤としてアルミン酸塩を採用した場合でも化成皮膜中に取り込まれるホウ素量を減らすことができる。
【0051】
ここで、
図6(a)は、実施例1~5の製造方法において化成処理工程の直前におけるアルミニウム電極1の水和皮膜の断面を電子顕微鏡により拡大して撮影した画像である。
図6(b)は、比較例1の製造方法において化成処理工程の直前におけるアルミニウム電極の水和皮膜の断面を電子顕微鏡により拡大して撮影した画像である。
図6(c)は、比較例2の製造方法において化成処理工程の直前におけるアルミニウム電極の水和皮膜の断面を電子顕微鏡により拡大して撮影した画像である。
【0052】
図6(a)に示すように、実施例1~5では、比較例1、2と比較して、水和皮膜3が密であることが判る。また、実施例1~5では、比較例2と比較して、多孔性のアルミニウム電極1のピット5が埋まっていないことが判る。
【0053】
すなわち、実施例1、3では、熱処理工程ST12の後に行われる熱処理後水和処理工程ST13において水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。これにより、熱処理後
水和処理工程ST13で水和反応の爆発的な進行を抑制できるので、水和皮膜3によりアルミニウム電極1のピット5が埋まることを防止あるいは抑制できる。従って、ピット5の目詰まりによりアルミニウム電極1の表面積が低下することを防止或いは抑制できる。また、実施例1、3では、熱処理後水和処理工程ST13において水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。この結果、熱処理後水和処理工程ST13においてアルミニウム電極1に水和皮膜3が形成される際に、水和皮膜3の厚みはほとんど増加せず、その密度が増加して、擬ベーマイトの量が増加する。よって、実施例1、3では、静電容量の低下が抑制される。
【0054】
さらに、熱処理後水和処理工程ST13では、水和皮膜3の厚みの増加を抑制でき、密度の増加によって水和皮膜3が緻密になる。よって、実施例1、3では、皮膜耐電圧を高くできる。
【0055】
また、実施例2、4、5では、熱処理工程ST23の後に行われる熱処理後水和処理工程ST24において水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。さらに、実施例2、4、5では、熱処理工程ST23の前に、純水に水和抑制剤を配合した水和処理溶液にアルミニウム電極1を浸漬する熱処理前水和処理工程ST22を備える。これにより、熱処理後水和処理工程ST24で水和反応の爆発的な進行を抑制できるので、水和皮膜3によりアルミニウム電極1のピット5が埋まることが防止あるいは抑制できる。従って、ピット5の目詰まりによりアルミニウム電極1の表面積が低下することを防止或いは抑制できる。また、実施例2、4、5では、熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24において水和処理溶液に水和抑制剤が配合されている。この結果、熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24においてアルミニウム電極1に水和皮膜3が形成される際に、水和皮膜3の厚みはほとんど増加せず、その密度が増加して、擬ベーマイトの量が増加する。よって、実施例2、4、5では、静電容量の低下が抑制される。
【0056】
さらに、熱処理前水和処理工程ST22および熱処理後水和処理工程ST24では、水和皮膜3の厚みの増加を抑制でき、密度の増加によって水和皮膜3が緻密になる。よって、実施例2、4、5では、皮膜耐電圧を高くできる。
【0057】
一方、比較例1では、
図6(b)に示すように、水和皮膜3が粗い。従って、皮膜耐電圧が低い。
【0058】
比較例2では、
図6(c)に示すように、比較例1と比較して水和皮膜3は密となる。従って、擬ベーマイトの量は増加する。しかし、アルミニウム電極1のピット5は埋まっている。すなわち、比較例2では、熱処理工程によりアルミニウム電極1の表面が非常に活性となった状態で純水にアルミニウム電極1を浸漬させるので、水和反応が爆発的に進行して、水和皮膜3によりピット5が埋まる。従って、化成処理後のアルミニウム電極1の静電容量は低下する。
【0059】
(その他の実施の形態)
なお、水和抑制剤としては、以下のものを用いることができる。すなわち、水和抑制剤として、リン酸の塩を用いる場合には、第2水和処理液は、オルトリン酸、次亜リン酸、亜リン酸、二リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸三アンモニウムのうちの1種または2種以上を含むものとすることができる。
【0060】
また、水和抑制剤はケイ酸またはその塩とすることができる。この場合には、上記のとおり、第2水和処理液は、ケイ酸ナトリウムを含むものとすることができる。
【0061】
さらに、水和抑制剤は、アルミン酸塩とすることができる。この場合には、第2水和処理液は、アルミン酸ナトリウムを含むものとすることができる。
【0062】
また、水和抑制剤は、炭素数が3以上の糖、または炭素数が3以上の糖アルコールとすることができる。この場合には、水和抑制剤は、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース、セドヘプツロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、ラクチトール、マルチトール、ニゲロース、ラフィノース、マルトトリオース、メレジトース、スタキオース、アカルボース、およびアミロースのうちのいずれか、とすることができる。
【0063】
さらに、水和抑制剤は、炭素数が3以上の有機酸またはその塩とすることができる。この場合には、有機酸は、ドデカン酸、安息香酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(E)-2-ブテン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、および(E)-1-プロペン-1,2,3-トリカルボン酸のうちのいずれか、とすることができる。
【0064】
なお、第2の製造方法では、熱処理前水和処理工程ST22と熱処理後水和処理工程ST24とにおいて、純水に配合する水和抑制剤は、同一でもよく、相違していてもよい。
【0065】
また、第1の製造方法では、熱処理工程ST12および熱処理後水和処理工程ST13を何回繰り返してもよい。第2の製造方法では、熱処理工程ST23および熱処理後水和処理工程ST24を何回繰り返してもよい。
【0066】
さらに、上記の例では、化成処理工程ST14、ST25における化成電圧を600V以上としているが、化成電圧を200V以上、かつ600V未満とした場合でも、比較例2などと比較して、高い静電容量を発現できることが認められる。すなわち、本発明では、水和皮膜の厚みが増加することを抑制しながら、擬ベーマイトの量を増加させることができるので、化成電圧を比較的低く設定した場合でも、高い静電容量を発現できる。
【符号の説明】
【0067】
1…アルミニウム電極、3…水和皮膜、5…ピット、ST11…第1の製造方法の水和処理工程(第1水和処理工程)、ST12…第1の製造方法の熱処理工程、ST13…第1の製造方法の熱処理後水和処理工程(第2水和処理工程)、ST14…第1の製造方法の化成処理工程、ST21…第2の製造方法の水和処理工程(第1水和処理工程)、ST22…第2の製造方法の熱処理前水和処理工程(第3水和処理工程)、ST23…第2の製造方法の熱処理工程、ST24…第2の製造方法の熱処理後水和処理工程(第2水和処理工程)、ST25…第2の製造方法の化成処理工程、ST31…定電流化成処理工程、ST32…定電圧化成処理工程、ST33…化成処理、ST34…熱処理